(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1タイヤ力推定部は、車体のバンク角の時間変化と関連する値に基づいて、前記鉛直方向運動状態の時間変化、前記横方向運動状態の時間変化、および前記前後軸周り運動状態の時間変化を取得する、請求項2に記載のタイヤ力推定装置。
車体を前後軸周りに傾斜させた状態であるバンク状態で旋回する車両の車輪に働く力であるタイヤ力を推定するタイヤ力推定装置であって、前記車両は前記車輪として前輪および後輪を有し、前記装置は、
路面から前記前輪に鉛直方向上向きに働く前輪鉛直力、路面から前記後輪に鉛直方向上向きに働く後輪鉛直力を推定する第1タイヤ力推定部を備え、
前記第1タイヤ力推定部は、
前記前輪鉛直力と前記後輪鉛直力との総和である総和鉛直力を、前記前輪および前記後輪を代表または統合した1輪の仮想車輪に路面から働く力として推定し、
車体の前後方向運動状態の時間変化とバンク角とに応じて、前記総和鉛直力を前記前輪鉛直力と前記後輪鉛直力とに分配することで、前記前輪鉛直力および前記後輪鉛直力を推定する、タイヤ力推定装置。
車体を前後軸周りに傾斜させた状態であるバンク状態で旋回する車両の車輪に路面から働く力であるタイヤ力を推定する方法であって、前記車両は前記車輪として前輪および後輪を有し、前記方法は、
路面から前記前輪に鉛直方向上向きに働く前輪鉛直力と路面から前記後輪に鉛直方向上向きに働く後輪鉛直力との総和である総和鉛直力を、前記前輪および前記後輪を代表または統合した1輪の仮想車輪に路面から仮想車輪に働く力として推定し、
車体の前後方向運動状態の時間変化とバンク角とに応じて、前記総和鉛直力を前記前輪鉛直力と前記後輪鉛直力とに分配することで、前記前輪鉛直力および前記後輪鉛直力を推定する、タイヤ力推定方法。
車体を前後軸周りに傾斜させた状態であるバンク状態で旋回する車両の車輪に働く力であるタイヤ力を推定するタイヤ力推定装置であって、前記車両は前記車輪として前輪および後輪を有し、前記装置は、
路面から前記前輪に横方向に働く前輪横力、路面から前記後輪に横方向に働く後輪横力を推定する第1タイヤ力推定部を備え、
前記第1タイヤ力推定部は、
前記前輪横力と前記後輪横力との総和である総和横力を、前記前輪および前記後輪を代表または統合した1輪の仮想車輪に路面から働く力として推定し、
車体の前後方向運動状態の時間変化とバンク角とに応じて、前記総和横力を前記前輪横力と前記後輪横力とに分配することで、前記前輪横力および前記後輪横力を推定する、タイヤ力推定装置。
車体を前後軸周りに傾斜させた状態であるバンク状態で旋回する車両の車輪に路面から働く力であるタイヤ力を推定する方法であって、前記車両は前記車輪として前輪および後輪を有し、前記方法は、
路面から前記前輪に横方向に働く前輪横力と路面から前記後輪に横方向に働く後輪横力との総和である総和横力を、前記前輪および前記後輪を代表または統合した1輪の仮想車輪に路面から仮想車輪に働く力として推定し、
車体の前後方向運動状態の時間変化とバンク角とに応じて、前記総和横力を前記前輪横力と前記後輪横力とに分配することで、前記前輪横力および前記後輪横力を推定する、タイヤ力推定方法。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら実施形態について説明する。本書では、ニュートンの記法に従うドット符合を、変数を表すアルファベットの右に記載する場合がある。特段断らなければ、用語「車輪」は、ハブ、リムおよびスポークを有する狭義のホイールと、リムに装着されて路面と接するタイヤとを含んだ組立体を指す。用語「前後軸」は、仮想的な軸線であって、前輪の接地点と後輪の接地点とを通過し、車両前後方向に延び、かつ車幅方向に直交する軸線である。「バンク角」は、車体の傾斜角であって、前後軸周りの傾斜角である。別の言い方では、「バンク角」は、正面視で表される車体の車幅方向中心線の延在方向の、路面と垂直な方向に対する傾き[deg]である。車幅方向中心線の延在方向が路面と垂直な方向に延在しているとき、車体は直立状態、バンク角はゼロ値[deg]をとる。
【0020】
図1に示すタイヤ力推定装置1は、本実施例では車両に搭載される。タイヤ力推定装置1は、車体を前後軸周りに傾斜させた状態であるバンク状態で旋回する車両の車輪に路面から働く力である「タイヤ力」を推定する。また、直進走行する場合、車両は、車高方向を路面と垂直な方向(概して鉛直方向)とほぼ一致させた直立状態で走行する。
【0021】
(自動二輪車)
このような車両の一例として、自動二輪車を挙げられる。自動二輪車は、車輪として、1つの前輪および1つの後輪を有する。自動二輪車では、少なくとも一方の車輪が駆動輪であり、本実施例では、後輪が駆動輪であり、前輪が従動輪かつ操舵輪である。駆動輪には、エンジンや電気モータなどの動力源で発生されたトルクが伝達される。駆動輪には、いわゆるエンジンブレーキ力や回生制動力など、駆動源の慣性を利用する制動力も作用する。自動二輪車は、前輪を制動する前輪ブレーキ装置、および後輪を制動する後輪ブレーキ装置を備えている。どちらのブレーキ装置も油圧式であり、対象とする車輪にブレーキ圧と概ね比例した制動力を付与する。
【0022】
(タイヤ力)
まず、路面の勾配およびカントは考慮しないものとする。タイヤ力推定装置1は、タイヤ力として、路面から車輪に鉛直方向上向きに働く「鉛直力N」、路面から車輪に横方向に働く「横力F
y」、路面から車輪に前後方向に働く「前後力F
x」を推定できる。なお、鉛直方向、前後方向、および横方向は、互いに直交する。前後方向は、前述した前後軸に沿って延びる方向である。横方向は、直進走行状態において車軸が延びる方向である。車体の上下軸周りの向きの変化に応じて、前後方向および横方向は変化する。
【0023】
タイヤ力推定装置1は、タイヤ力として、路面から前輪に働く「前輪力」、路面から後輪に働く「後輪力」を推定できる。
【0024】
タイヤ力推定装置1は、タイヤ力として、路面から前輪に鉛直方向上向きに働く「前輪鉛直力N
f」、および路面から後輪に鉛直方向上向きに働く「後輪鉛直力N
r」を推定できる。タイヤ力推定装置1は、タイヤ力として、路面から前輪に横方向に働く「前輪横力F
yf」、および路面から後輪に横方向に働く「後輪横力F
yr」を推定できる。タイヤ力推定装置1は、タイヤ力として、路面から前輪に前後方向に働く「前輪前後力F
xf」、および路面から後輪に前後方向に働く「後輪前後力F
xr」を推定できる。
【0025】
以降、「前輪鉛直力N
f」と「後輪鉛直力N
r」との和を「総和鉛直力N」と称する場合がある。「前輪横力F
yf」と「後輪横力F
yr」との和を「総和横力F
y」と称する場合がある。「前輪前後力F
xf」と「後輪前後力F
xr」との和を「総和前後力F
x」と称する場合がある。前述した「鉛直力」は、「前輪鉛直力N
f」、「後輪鉛直力N
r」および「総和鉛直力N」を含意する。前述した「横力」および「前後力」についても、これと同様とする。
【0026】
前述した「前輪力」は、「前輪鉛直力N
f」、「前輪横力F
yf」および「前輪前後力F
xf」を含意し、更には、これら3力のうち2以上の力の合力(例えば、前輪鉛直力N
fと前輪横力F
yfとの合力)も含意できる。「後輪力」は、「後輪鉛直力N
r」、「後輪横力F
yr」および「後輪前後力F
xr」を含意し、更には、これら3力のうち2以上の力の合力(例えば、後輪鉛直力N
rと後輪横力F
yrとの合力)も含意できる。
【0027】
(タイヤ力推定装置)
タイヤ力推定装置1は、タイヤ力を推定する方法の手順に関した推定プログラムを格納する記憶部と、車体のバンク角(車体の前後軸周りの傾斜角)や前後方向加速度といった車両状態を示す入力値が与えられる入力部1aと、入力部1aに与えられる入力値および記憶部に記憶されるプログラムを参照してタイヤ力の推定を実行する演算部1bと、演算部1bの演算結果(タイヤ力)を外部に出力する出力部1cとを有する制御器によって実現される。なお、記憶部は、入力値、および入力値に基づいてプログラム実行中に取得される中間値を一時的に記憶してもよい。このような制御器の一例として、車載ECU(Electric Control Unit)を挙げられる。記憶部は、車両、搭乗者および積載物の質量を統合した乗車質量の推定値である推定質量、車体重心から路面までの距離、ホイールベース等の車体の幾何学的情報などの情報を予め記憶してもよい。ただし、このような情報は、タイヤ力推定装置1の外部から入力部1aに与えられてもよいし、推定プログラムの実行中に演算部1bによって中間値として取得されてもよい。
【0028】
タイヤ力推定装置1は、演算部1bの機能ブロックとして、第1タイヤ力推定部11、第2タイヤ力推定部12、および微分演算部13を備える。
【0029】
本実施形態では、タイヤ力推定装置1は、入力値として、バンク角β、車速(車体の前後速度)x
・、および油圧式前輪ブレーキ装置における前輪ブレーキ圧P
fが与えられる。車両は、タイヤ力推定装置1と併せて、バンク角βを検出するバンク角センサ2、車速を検出する車速センサ3、前輪ブレーキ圧P
fを検出する前輪ブレーキ圧センサ4を備える。バンク角センサ2は、バンク角βの時間変化を把握可能に、時間経過に応じて車体のバンク角βを逐次出力する。車速センサ3は、車速の時間変化を把握可能に、時間経過に応じて車速を逐次出力する。微分演算部13は、入力されたバンク角βに基づいて、バンク角βの時間変化であるバンク角速度(バンク角βの一階時間微分値)β
・、およびバンク角速度β
・の時間変化であるバンク角加速度(バンク角βの二階時間微分値)β
・・を求める。微分演算部13は、入力された車速x
・に基づいて、車速x
・の時間変化である前後加速度(車速x
・の一階時間微分値)x
・・を求める。
【0030】
ただし、これは一例である。車両がバンク角速度β
・を検出するバンク角速度センサを備え、タイヤ力推定装置1が、バンク角速度センサから与えられたバンク角速度β
・に基づいてバンク角βを求める積分演算部を有していてもよい。車両が前後加速度x
・・を検出する加速度センサを備え、タイヤ力推定装置1が加速度センサからの前後加速度x
・・を与えられてもよい。直進走行状態を判定可能であれば、直進走行状態でのバンク角をゼロと判断することで、バンク角速度センサを用いて、バンク角およびバンク角加速度を求めることができる。
【0031】
(前後力F
x,第2タイヤ力推定部)
説明の便宜上、第2タイヤ力推定部12から説明する。
図1および2に示すように、第2タイヤ力推定部12は、路面から車輪に前後方向に働く前後力を推定する。第2タイヤ力推定部12によって推定される「前後力」には、総和前後力F
x、前輪前後力F
xf、後輪前後力F
xrが含まれる。第2タイヤ力推定部12は、式(1)に従って総和前後力F
xを推定する。
【0032】
【数1】
ここで、mは、乗車質量である。式(1)に示すとおり、本例では、車体の前後方向運動量の時間変化が総和前後力F
xと等しいものとしている。乗車質量mは定数として取り扱うことができ、タイヤ力推定装置1の記憶部に予め記憶されていてもよい。その場合、結局、第2タイヤ力推定部12は、車体の前後方向運動状態の時間変化、すなわち、車体の前後加速度x
・・に基づき、総和前後力F
xを推定する。
【0033】
第2タイヤ力推定部12は、推定された総和前後力F
xを前輪前後力F
xfと後輪前後力F
xrとに分配することで、前輪前後力F
xfと後輪前後力F
xrとを推定する。第2タイヤ力推定部12は、前輪前後力F
xfは前輪制動力と同等であり、前輪制動力は前輪ブレーキ圧P
fと比例関係にあるとの想定の下、式(2)に従って前輪前後力F
xfを推定する。
【0034】
【数2】
ここで、Kは比例定数であり、その数値は事前に(タイヤ力推定装置1の設計段階で)求めることができ、タイヤ力推定装置1の記憶部に予め記憶されている。このように、第2タイヤ力推定部12は、タイヤ力推定装置1に入力される前輪ブレーキ圧P
fに基づき、前輪前後力F
xfを推定する。
【0035】
次に、第2タイヤ力推定部12は、総和前後力F
xが前輪前後力F
xfと後輪前後力F
xrとの和であるとの想定の下、式(3)に従って後輪前後力F
xrを推定する。
【0036】
【数3】
このように、第2タイヤ力推定部12は、総和前後力F
xから前輪前後力F
xfを減算することによって、後輪前後力F
xrを推定する。前輪前後力F
xfが前輪制動力とみなされる一方、後輪前後力F
xrは、駆動源から伝達される前進方向駆動力、駆動源の慣性に基づく制動力、および後輪ブレーキ装置により発生される後輪制動力などの複合である。
【0037】
本例のタイヤ力推定装置1においては、前後方向加速度x
・・および前輪ブレーキ圧P
fを監視することで、総和前後力F
x、前輪前後力F
xfおよび後輪前後力F
xrの3力を推定できる。総和前後力F
xおよび前輪前後力F
xfを求めてから後輪前後力F
xrを受動的に推定するという手法を採るので、3力の推定値を簡便に得ることができる。
【0038】
(鉛直力N,横力F
y,第1タイヤ力推定部)
次に、第1タイヤ力推定部11について説明する。
図1および3に示すように、第1タイヤ力推定部11は、車体の前後軸に垂直な平面内での車体の運動状態の時間変化に応じて、路面から車輪に働く力を推定する。ここでの「前後軸」は、前輪接地点および後輪接地点を通過して前後方向に延びる仮想的な軸線である。単に「運動状態」という場合、並進運動での運動状態も、回転運動での運動状態も含意する。また、「運転状態」は、慣性質量と速度との積と同等の「運動量」を含意できる。「運動状態の時間変化」は、並進運動においては、慣性質量と運動方向における加速度との積と同等であり、回転運動では、慣性モーメントと運動方向における角加速度との積と同等である。用語「運動状態の時間変化に応じて」は、並進運動では「運動方向における加速度に応じて」と同等であり、回転運動では「運動方向における角加速度に応じて」と同等である。よって、第1タイヤ力推定部11は、車体の前後軸に垂直な平面内での車体の加速度および/または角加速度に応じて、路面から車輪に働く力を推定する、とも言える。
【0039】
「前後軸に垂直な平面内での車体の運動状態」には、鉛直方向の運動状態、横方向の運動状態、前後軸周りの運動状態が含まれる(式(4)〜(6)も参照)。横滑りなく上下凹凸のない路面に接地した状態を保って走行している車両において、車体重心の鉛直方向または横方向における運動(換言すれば、車体重心の鉛直方向または横方向における移動)は、バンク角(車体の前後軸周りの傾斜角)の時間変化によって生じる。前後軸周りの回転運動は、バンク角の時間変化そのものである。本例の車両は、前述のとおり前後軸周りに傾斜した状態で旋回し、バンク角の時間変化は、典型的には、旋回走行の開始期および終了期に生じる。
【0040】
第1タイヤ力推定部11は、バンク角の変化によって生じる車体の運動状態の時間変化(バンク角の時間変化に起因して車輪、ひいては車体に働く外力)を考慮して、タイヤ力を推定する。そのため、バンク角が時間経過に伴って変化していく過渡走行中(例えば、旋回走行の開始期および終了期)でのタイヤ力の推定精度が高い。
【0041】
第1タイヤ力推定部11によって推定される力には、総和鉛直力N、総和横力F
y、前輪鉛直力N
f、前輪横力F
yf、後輪鉛直力N
r、後輪横力F
yrが含まれる。本例では、第1タイヤ力推定部11が、鉛直力N,N
f,N
rおよび横力F
y,F
yf,F
yrの両方を推定するが、鉛直力N,N
f,N
rと横力F
y,F
yf,F
yrの少なくともいずれか一方を推定してもよい。
【0042】
図3は、第1タイヤ力推定部11によるタイヤ力推定原理を示す図である。
図3に示すように、第1タイヤ力推定部11の推定では、前後軸に垂直な平面(YZ平面)内で、車体を簡易的な剛体と質点とで表現したモデルが想定される。車両は一般に前後方向に離れた複数の車輪を有するのに対し、
図3に示すモデルでは、前後方向の次元が省略されている。そこで、当該モデルでは、車両内の複数の車輪を代表あるいは統合した「仮想車輪」が想定される。本例では、タイヤ力推定装置1が前輪および後輪を1つずつ設けた自動二輪車に搭載されるものと想定されており、仮想車輪は1輪である。なお、質点位置は車体重心位置として用いる。
【0043】
第1タイヤ力推定部11は、当該モデルに従って表される第1運動方程式(下式(4))、第2運動方程式(下式(5))、および第3運動方程式(下式(6))を用いて、仮想車輪に働く鉛直力および横力を推定する。仮想車輪に働く鉛直力は、総和鉛直力Nに相当し、仮想車輪に働く横力は、総和横力F
yに相当する。
【0046】
【数6】
ここで、Nは、路面から車両に働く鉛直荷重であり、「総和鉛直力」に相当する。gは、重力加速度である。I
Gxは、車体の前後軸周りの慣性モーメント(ロール慣性モーメント)である。βはバンク角である。y
G、z
Gはそれぞれ、車両重心の横方向位置と鉛直方向位置(車両重心位置のy座標とz座標)である。なお、YZ平面の原点はタイヤ接地点に設定されている。
【0047】
第1運動方程式(4)は、車体の鉛直方向運動状態の時間変化(左辺参照)と、鉛直方向に対して重心に与えられる外力の総和(右辺参照)との釣合いの関係を表す方程式であり、外力として鉛直力と重力とが考慮されている。第1運動方程式(4)において、mgは、車体重心に作用する重力を指す。z
G・・は、車体重心の鉛直方向位置z
Gの二階時間微分値であって、車体重心の鉛直方向加速度である。第1運動方程式(4)に示されるとおり、鉛直方向加速度に応じて総和鉛直力Nは変わる。
【0048】
第2運動方程式(5)は、車体の横方向運動状態の時間変化(左辺参照)と、横方向に対して重心に与えられる外力の総和(右辺参照)との釣合いの関係を表す方程式であり、外力として横力(総和横力F
y)が考慮されている。y
G・・は、車体重心の横方向位置y
Gの二階時間微分値であって、車体重心の横方向加速度である。第2運動方程式(5)に示されるとおり、横方向加速度に応じて総和横力Fyは変わる。
【0049】
第3運動方程式(6)は、車体の前後軸周りの運動状態の時間変化(左辺参照)と、前後軸周りに車体重心に与えられる外力のモーメントの総和(右辺参照)との釣合いの関係を表す方程式である。外力のモーメントとして、鉛直力に基づくモーメントと、横力に基づくモーメントとが考慮されている。鉛直力に基づくモーメントは、鉛直力と、タイヤ接地点から車体重心位置までの横方向における距離(以下、「横方向重心距離」という)との積である。横力に基づくモーメントは、横力と、タイヤ接地点から車体重心位置までの鉛直方向における距離(以下、「鉛直方向重心距離」という)との積である。本例では、タイヤ接地点に原点をおいたyz座標系が考慮されており、車体重心の横方向位置(y座標)が、横方向重心距離に相当し、車体重心の鉛直方向位置(z座標)が、鉛直方向重心距離に相当している。
【0050】
ここで、タイヤは常に接地していると仮定し、タイヤ接地点の鉛直方向位置を0で一定と考える。仮想車輪のクラウン径rを考慮すると、車体重心の鉛直方向位置z
Gは、式(7)で表され、車体重心の横方向位置y
Gは、式(8)で表される。また、式(7)より、鉛直方向位置z
Gの二階時間微分値(車体重心の鉛直方向加速度)z
G・・は、式(9)で表される。なお、左右に車輪を有する車両(例えば、四輪自動車)のトレッド面は扁平であるのに対して、バンク状態で旋回する車両に装着されるタイヤにおいては、旋回走行時に車体を前後軸周りに傾斜させやすくするため、トレッド面が略半円形状の正面視断面を有する。「クラウン径」は、タイヤのトレッド面の曲率半径である。本例では、トレッド面の断面形状が真円弧であり、また、トレッドパターンおよびスパイクは無いものとしている。
【0053】
【数9】
ここで、h
0は、前後軸に垂直な平面内におけるクラウン中心から車体重心までの距離である。バンク角βによらず、クラウン中心と車体重心とを結ぶ線は、車高方向に延びることになるので、以下、説明便宜上、当該距離h
0を「重心高さ」と呼ぶ。車体が剛体として仮想されているので、重心高さh
0は一定である。
【0054】
なお、タイヤ力推定装置1を搭載する車両では、前輪のクラウン径と後輪のクラウン径とが異なる場合がある。そのような場合、仮想車輪のクラウン径rは、例えば、前輪クラウン径と後輪クラウン径との平均値を用いてもよい。あるいは、前輪クラウン径が代用されてもよいし、後輪クラウン径が代用されてもよい。
【0055】
式(4)、(9)より、総和鉛直力Nは、式(10)で表すことができる。式(5)、(6)、(9)より総和横力F
yは、式(11)で表すことができる。
【0057】
【数11】
このように、総和鉛直力Nおよび総和横力F
yは、乗車質量m、クラウン径rが考慮された重心高さh
0、ロール慣性モーメントI
Gx、バンク角β、およびその時間変化に関連する値から推定できる。そのうち、乗車質量m、クラウン径r、重心高さh
0、ロール慣性モーメントI
Gxについては、重力加速度gと共に、定数として取り扱うことができ、タイヤ力推定装置1の記憶部に予め記憶されていてもよい。なお、「バンク角βの時間変化に関連する値」には、バンク角βの時間微分値、例えば、一階時間微分値(バンク角速度)および二階時間微分値(バンク角加速度)が含まれる。
【0058】
第1タイヤ力推定部11は、タイヤ力推定装置1に与えられたバンク角βと、微分演算部13によって取得されたバンク角速度β
・およびバンク角加速度β
・・とに基づいて、式(10)に従って総和鉛直力Nを推定し、式(11)に従って総和横力F
yを推定する。このとおり、本例のタイヤ力推定装置1においては、バンク角βおよびその時間変化に関連する値を監視するだけで、総和鉛直力Nおよび総和横力F
yを推定できる。
【0059】
図1、4Aおよび4Bに示すように、第1タイヤ力推定部11は、推定された力の総和を路面から前輪に働く前輪力と路面から後輪に働く後輪力とに分配することで、前輪力および後輪力を推定する。本例では、総和鉛直力Nと総和横力F
yとが「力の総和」として推定されている。第1タイヤ力推定部11は、総和鉛直力Nを前輪鉛直力N
fと後輪鉛直力N
rとに分配し、総和横力F
yを前輪横力F
yfと後輪横力F
yrとに分配する。これにより、第1タイヤ力推定部11は、前輪力としての前輪鉛直力N
fおよび前輪横力F
yfを推定し、また、後輪力としての後輪鉛直力N
rおよび後輪横力F
yrを推定する。具体的には、第1タイヤ力推定部11は、式(12)に示すとおり、総和鉛直力Nが前輪鉛直力N
fと後輪鉛直力N
rとの和であるとして、総和鉛直力Nを前輪鉛直力N
fと後輪鉛直力N
rとに分配する。第1タイヤ力推定部11は、式(13)に示すとおり、総和横力F
yが前輪横力F
yfと後輪横力F
yrとの和であるとして、総和横力F
yを前輪横力F
yfと後輪横力F
yrとに分配する。
【0061】
【数13】
第1タイヤ力推定部11は、車体の前後方向運動状態の時間変化に応じて、力の総和を前輪力と後輪力とに分配する。また、前後方向運動状態の時間変化は、前述のとおり、総和前後力F
xに相当する。よって、第1タイヤ力推定部11は、総和前後力F
xに応じて、前後加速度x
・・に応じて、力の総和を前輪力と後輪力とに分配する、とも言える。更に、第1タイヤ力推定部11は、バンク角状態に応じて、力の総和を前輪力と後輪力とに分配する。
【0062】
本例では、第1タイヤ力推定部11は、前後方向運動状態の時間変化(総和前後力F
x)、およびバンク角に応じて、総和鉛直力Nを分配する。第1タイヤ力推定部11は、前後方向運動状態の時間変化(総和前後力F
x)、およびバンク角に応じて、総和横力F
yを分配する。
【0063】
具体的には、第1タイヤ力推定部11は、式(14)に従って総和鉛直力Nから前輪鉛直力N
fを求め、式(12)を変形した式(15)に従って総和鉛直力Nおよび前輪鉛直力N
fから後輪鉛直力N
rを求める。また、第1タイヤ力推定部11は、式(16)に従って総和横力F
yから前輪横力F
yfを求め、式(13)を変形した式(17)に従って総和横力F
yおよび前輪横力F
yfから後輪横力F
yrを求める。
【0067】
【数17】
ここで、pは、ホイールベース(後輪車軸から前輪車軸までの前後方向距離)、bは、後輪車軸から車体重心までの前後方向距離である。式(14)におけるG
N(x
・・,β)、および式(16)におけるG
Fy(x
・・,β)は、前後加速度x
・・およびバンク角βを変数とする関数によって求まる値である。G
N(x
・・,β)およびG
Fy(x
・・,β)は、互いに異なる関数によって定義されており、車両(その設計パラメータ)に応じて異なる値をとる。
【0068】
例えば、G
N(x
・・,β)およびG
Fy(x
・・,β)は、バンク角βが同一の条件下において、正の前後加速度x
・・(前進方向の加速度)が大きいほど、前輪鉛直力N
fの総和鉛直力Nに対する割合が低くなり、前輪横力F
yfの総和横力F
yに対する割合が低くなるように定義される。正の前後加速度x
・・が同一の条件下において、バンク角βが大きいほど、前輪鉛直力N
fの総和鉛直力Nに対する割合が高くなり、前輪横力F
yfの総和横力F
yに対する割合が高くなるように定義される。このように、バンク角βに応じて前輪力と後輪力とへの分配比率を異ならせることで、バンク状態における分配比率を実際の値に近づけることができ、過渡状況下での前輪力および後輪力の推定精度が向上する。
【0069】
(作用)
上記のとおり、タイヤ力推定装置1は、車体の前後軸に垂直な平面内での車体の運動状態の時間変化に応じて、路面から車輪に働く力を推定する第1タイヤ力推定部11を備えている。前後軸に垂直な平面内での車体重心の運動状態の時間変化は、例えば、バンク角(前後軸周りの車体の傾斜角)の変化に伴って生じる。そして、運動の第2法則より、車体の運動状態の時間変化は車体に働く外力と相関する(車体速度の時間変化と外力は比例し、車体の運動量の時間変化は外力と釣り合う)。この外力は、路面から車輪に働くタイヤ力が支配的である。このようなことから、前後軸に垂直な平面内での車体の運動状態の時間変化を考慮することにより、バンク角が時間経過と共に変化していくような過渡状況下でも、タイヤ力を精度よく推定できる。
【0070】
特に、第1タイヤ力推定部11は、第1運動方程式(式(4))、第2運動方程式(式(5))、第3運動方程式(式(6))の3つの運動方程式から、路面から車輪に働く鉛直力および横力を推定する。第1運動方程式(式(4))は、車体の鉛直方向運動状態の時間変化と、鉛直力との釣り合いの関係を表す方程式である。第2運動方程式(式(5))は、車体の横方向運動状態の時間変化と、横力との釣り合いの関係を表す方程式である。第3運動方程式(式(6))が、車体の前後軸周り運動状態の時間変化と、鉛直力および横力との釣り合いの関係を表す方程式である。3つの運動方程式を用いることで、2つの未知数である鉛直力および横力を推定できる。
【0071】
特に、第1タイヤ力推定部11は、車体のバンク角βの時間変化と関連する値(具体的には、バンク角速度β
・やバンク角加速度β
・・)に基づいて、鉛直方向運動状態の時間変化、横方向運動状態の時間変化、および前後軸周り運動状態の時間変化を取得する。換言すれば、第1運動方程式(式(4))、第2運動方程式(式(5))、第3運動方程式(式(6))が、車体のバンク角βの時間変化と関連する値を因子に持つ。バンク角βまたはその時間変化関連値の一つを取得できれば、微分演算(または積分演算)により、他に必要な値は容易に取得できる。よって、入力情報を一つ取得するだけで、2つの未知数である鉛直力および横力を推定できる。
【0072】
タイヤ力推定装置1は、車輪として前輪および後輪を有する車両に搭載される。その場合において、第1タイヤ力推定部11は、前後軸(前輪接地点と後輪接地点とを通過する前後方向に延びる仮想的な軸線)に垂直な平面内での車体の運動状態の時間変化に応じて、路面から前輪および後輪に働く力の総和を推定し、力の総和を路面から前輪に働く前輪力と路面から後輪に働く後輪力とに分配するようにして、前輪力および後輪力を推定している。このように、まず、車輪全体に働く力の総和を推定してから、その総和を前輪力と後輪力とに分配するという手法を採る。前輪力と後輪力とをそれぞれ別々に推定し、前輪力と後輪力とを加算して総和を推定する場合と比較して、推定演算負荷および推定精度低下を軽減できる。
【0073】
第1タイヤ力推定部11は、車体の前後方向運動状態の時間変化に応じて、力の総和を前輪力と後輪力とに分配する。前後方向運動状態の時間変化は、慣性質量と前後加速度の積と同等であるから、前輪力と後輪力との分配比率が前後加速度に応じて変わることになる。加減速しているような過渡状況下にあっても、前後加速度を考慮して総和が分配されるので、前輪力および後輪力の推定精度が向上する。特に、旋回走行の開始期には、減速を伴ってバンク角が大きくなる。旋回走行の終了期には、加速を伴ってバンク角が小さくなる。本例では、バンク角および前後加速度の両方を考慮するので、旋回走行の開始期および終了期におけるタイヤ力の推定精度が高くなる。
【0074】
このタイヤ力推定装置1において用いられている推定方法は、(1)車体情報取得工程、(2)走行情報取得工程、(3)総和力推定行程、および(4)前後分配行程を有する。工程(1)は、ホイールベース、重心位置、車体質量など、演算に必要なパラメータであって走行状態以外のパラメータを取得する工程であり、装置外のセンサから取得され、あるいは装置内の記憶部から取得され、あるいは装置内の演算部によって中間値として取得される。例えば、車体質量は、定数として記憶部に予め記憶されていてもよいし、重量センサその他のセンサ入力値に基づいて演算部により推定されてもよい。工程(2)は、走行状態を示すパラメータを取得する工程であり、装置外のセンサ(上記例では、センサ2〜4)から入力値として、あるいは、装置内の演算部1bによって中間値(上記例では、バンク角速度β
・など)として取得される。工程(3)は、工程(1)および(2)で取得された情報に基づいて、総和力(総和鉛直力、総和横力、総和前後力)を推定する工程である。工程(4)は、工程(3)で推定された総和力に基づき、工程(1)および/または(2)で取得された情報を考慮に入れて、総和力を前輪力と後輪力とに分配することによって、前輪力および後輪力を推定する工程である。工程(1)と工程(2)の順序は問わない。
【0075】
第1タイヤ力推定部11で用いている推定方法によれば、車体の前後軸周りの角度(バンク角β)、角速度(バンク角速度β
・)、角加速度(バンク角加速度β
・・)に応じて、鉛直力および横力が推定されている。前後軸に垂直な平面においては、車体の前後軸周りの角度およびその時間変化関連値に三角関数を適用することで、車体が前後軸周りに傾斜または回転しているときに発生する鉛直方向成分の加速度および横方向成分の加速度を取得できる。加速度を取得できれば、慣性質量を比例係数として、車体に鉛直方向に働く外力としての鉛直力、および車体の横方向に働く外力としての横力を簡便に推定できる。
【0076】
また、第1タイヤ力推定部11で用いられている推定方法によれば、前輪および後輪を代表または統合した仮想車輪が想定されており、まず、路面から仮想車輪に働く力の総和を推定する。それから、バンク角と前後加速度とに応じて、力の総和を前輪力と後輪力とに分配している。また、路面から車輪に働く力を推定するに際し、クラウン径を考慮している。このため、推定精度は一層向上している。
【0077】
このように推定されたタイヤ力は、車両制御、車両の開発設計支援など、種々目的で利用可能である。
【0078】
これまで本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の趣旨の範囲内で適宜変更、追加、または削除可能である。
【0079】
タイヤ力推定装置は、車体に搭載されるエンジン制御用の制御装置によって実現されてもよい。エンジン制御用以外、例えばABS(Anti-lock Braking System)などに用いられる制動用の制御装置や、メータ表示制御に用いられる制御装置によって実現されてもよい。このように車体に搭載される演算処理可能な装置によって実現されてもよい。
【0080】
計算式は、一例であり、他の影響を考慮して計算式が異なっていてもよい。上記では、タイヤ力の推定に影響を及ぼす外力として重力を考慮したが、その他の外力が考慮されてもよい。その際、計算式に、このような外力の影響を考慮した外力項を追加したり、また、現実の測定結果に近付くような補正係数が追加されてもよい。なお、他の外力として、走行時に発生する空気抵抗や、追い風による進行方向への前進力を考慮してもよく、このような外力とタイヤ力との総和が、車体の運動状態の時間変化となって現れる。
【0081】
バンク角の時間変化の取得に関し、過渡状態であっても、演算に用いるバンク角の時間変化に対して相関があり、かつ、その相関関係が既知の情報、あるいはバンク角の時間変化の傾向を推定可能な情報であれば、その情報をバンク角関連情報として、バンク角の時間変化に代えて用いてもよい。例えば、上述した時間経過に応じて得られるバンク角のほか、バンク角速度でもよいし、車体重心から路面までの距離の時間変化を用いてもよい。
【0082】
車体の加速度の取得に関しても同様であり、車体の加速度を推定可能であれば、他の情報を用いてもよい。例えば、前輪の車輪速情報、駆動源により回転駆動される回転軸(エンジン動弁用カム軸、駆動輪車軸など)の回転情報を用いてもよい。
【0083】
上述した実施例では、総和前後力および前輪前後力に基づいて、後輪前後力を推定したが、後輪前後力の推定について他の方法を用いて推定してもよい。例えば、予め定められる性能曲線(トルクマップ)に基づいてエンジン回転数などの検出値から駆動力を求めたり、後輪ブレーキ圧および慣性を利用した制動力に関するマップから後輪制動力を求めたりして、総和前後力や前輪前後力を用いずに後輪前後力を推定してもよい。
【0084】
式(10)および(11)は、例示に過ぎず、他の値を用いることもできる。例えば、クラウン径の影響が小さい場合には、クラウン径を考慮せずに演算式を設定してもよい。また、タイヤ力以外の外力を考慮して演算式を設定してもよい。例えば、横風の影響を考慮してもよい。また、ラプラス関数や行列式によって表現してもよい。また、演算式を用いずに、ロール角、ロール角速度、ロール角加速度を変数とするマップを予め記憶しておき、そのマップに従って前後軸に垂直な平面でのタイヤ力を推定してもよい。また、ロール角、ロール角速度、ロール角加速度については、いずれか一方の影響が小さい場合には、いずれか一方を省略してもよい。また、上述した演算式とは異なっても、ロール角速度およびロール角加速度の少なくともいずれか一方に応じてタイヤ力を推定することで、過渡状態でのタイヤ力の変化の傾向を推定しやすいという作用効果を得られる。
【0085】
式(14)および(16)については、幾何学的な情報から理論的に演算式を求めることができる。また、実験に得られる計測結果に基づいて近似的に演算式を設定してもよい。また、演算式を用いずに、前後加速度およびバンク角を変数とするマップを予め記憶しておき、そのマップにしたがって前後輪のタイヤ力を分配してもよい。また、上述した総和タイヤ力に基づいて、前後輪のタイヤ力を分配することで、検出される値を小さくすることができるが、他の推定方法を用いて得られる総和タイヤ力を、式(14)、(16)または同様の傾向を示す演算式、マップを用いて前後輪のタイヤ力に分配してもよい。
【0086】
自動二輪車以外でも、バンク状態での旋回走行が可能な乗物のタイヤ力の推定に好適に用いられる。例えば、前輪または後輪のいずれかが複数の車輪の乗物、例えば、前輪が二輪の三輪車でも推定できる。また、運転者によって駆動力が与えられる自転車や一輪車におけるタイヤ力の推定にも本発明を適用可能である。
【0087】
鉛直力、横力、前後力をそれぞれ推定したが、それらのいずれか1つを推定する場合も本発明に含まれる。例えば、バンク角の時間変化に基づいて、前後力を除いて、鉛直力と横力とを求める場合も本発明に含まれる。また、鉛直力と横力とのいずれか一方のみを出力する場合も本発明に含まれる。また、前後に分配せずに、総和鉛直力および総和横力の少なくともいずれか一方を推定することについても本発明に含まれる。また、上述する方法以外、例えば実験によって総和鉛直力および総和横力を推定した状態で、車体加速度およびバンク角に基づいて前後輪に分配することも本発明に含まれる。
【0088】
タイヤ力推定装置1は、車両に搭載されるとしたが、車両外に搭載される場合も含む。すなわち、重心位置などの車両に関する固有の情報を取得または記憶しておき、車両から車速と対応する情報と、バンク角変化に対応する情報と、前輪ブレーキ圧に対応する情報とを走行中または走行後に取得して、走行時の車両のタイヤ力を推定してもよい。例えば、タイヤ力推定装置は、車載ECUと異なる専用の処理装置であってもよい。例えば、車体から送信される車両情報を取得可能な通信部を備え、車両外に搭載される処理装置であってもよい。
【0089】
上述した実施例では、推定されたタイヤ力は、車両制御に用いられるとしたが、本発明はこれに限られない。すなわち、本発明で推定されたタイヤ力の利用の目的については制限されず、車両制御以外の目的で推定されたタイヤ力を利用してもよい。
【0090】
手動による推定も本発明に含まれ、必ずしも処理装置による演算で自動的にタイヤ力が推定されなくてもよい。