特許第6823675号(P6823675)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6823675改善された特性を有するポリ(アリーレンエーテルケトン)に基づく組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6823675
(24)【登録日】2021年1月13日
(45)【発行日】2021年2月3日
(54)【発明の名称】改善された特性を有するポリ(アリーレンエーテルケトン)に基づく組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 71/00 20060101AFI20210121BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20210121BHJP
   B29C 45/00 20060101ALI20210121BHJP
【FI】
   C08L71/00 Z
   C08K3/013
   B29C45/00
【請求項の数】4
【外国語出願】
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-22785(P2019-22785)
(22)【出願日】2019年2月12日
(62)【分割の表示】特願2017-521508(P2017-521508)の分割
【原出願日】2015年10月9日
(65)【公開番号】特開2019-112640(P2019-112640A)
(43)【公開日】2019年7月11日
【審査請求日】2019年3月14日
(31)【優先権主張番号】1460158
(32)【優先日】2014年10月22日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ブリュレ, ブノワ
(72)【発明者】
【氏名】オードリ, リシャール
(72)【発明者】
【氏名】パスカル, ジェローム
【審査官】 松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】 特表昭61−500021(JP,A)
【文献】 特許第6505219(JP,B2)
【文献】 特開2010−006057(JP,A)
【文献】 特表平04−502635(JP,A)
【文献】 特表平05−506058(JP,A)
【文献】 特開2010−095615(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 − 101/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)ポリ(エーテルエーテルケトン)(PEEK)、ポリ(エーテルケトン)(PEK)又はポリ(エーテルケトンエーテルケトンケトン)(PEKEKK)から選択されるポリマー、及びb)ポリ(エーテルケトンケトン)(PEKK)を含む組成物であって、ポリ(エーテルケトンケトン)(PEKK)がテレフタル酸単位とイソフタル酸単位の混合物を含み、テレフタル酸単位の重量%が、テレフタル酸単位とイソフタル酸単位との合計に対して55から60%の間(境界値を含む)であることを特徴とし、組成物の総重量に対して1から40%の間(境界値を含む)の重量%のPEKKを含み、組成物中のPEEKの重量割合が、組成物の総重量に対して60から99%の間(境界値を含む)であることを特徴とする、組成物。
【請求項2】
組成物複数のPEKKからなるブレンドを含むことを特徴とし、各PEKKが、テレフタル酸単位とイソフタル酸単位との合計に対して55から60%の間(境界値を含む)の重量%のテレフタル酸単位を示す、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
なくとも一の添加剤を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
リ(エーテルエーテルケトン)(PEEK)、ポリ(エーテルケトン)(PEK)又はポリ(エーテルケトンエーテルケトンケトン)(PEKEKK)から選択されるポリマーを含む組成物の降伏点及び/又は破断点伸びを改善するための方法であって、前記組成物中にポリ(エーテルケトンケトン)(PEKK混合することから成る方法であり、PEKKがテレフタル酸単位とイソフタル酸単位の混合物を含み、テレフタル酸単位の重量%が、テレフタル酸単位とイソフタル酸単位との合計に対して55から60%の間(境界値を含む)であることと、PEKKが組成物の総重量に対して1から40%の間の重量%(境界値を含む)の割合で組成物中に混合され、組成物中のPEEKの重量割合が、組成物の総重量に対して60から99%の間(境界値を含む)であることとを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ(アリーレンエーテルケトン)の分野、より具体的には、ポリ(エーテルエーテルケトン)(続く明細書中でPEEKと示される)に基づく組成物の分野に関する。
【0002】
特に、本発明は、改善された特性を有するポリ(エーテルエーテルケトン(PEEK)に基づく組成物及びPEEKベースの組成物の少なくとも一の特性を改善するための方法に関する。本発明による組成物は、特に、速度の遅い結晶化、また、よりよい機械的特性を示す。
【背景技術】
【0003】
ポリ(アリーレンエーテルケトン)(PAEK)は、向上した熱機械的特性を有する高性能材料である。それらは、酸素原子(エーテル)及び/又はカルボニル基(ケトン)を介して結合された芳香核から構成される。それらの特性は、主にエーテル/ケトン比によって決まる。前述の略語において、Eはエーテル官能基を示し、Kはケトン官能基を示す。続く本明細書において、これらの略語は通常の名称の代わりに使用され、それらが関係する化合物を示す。
【0004】
ポリ(アリーレンエーテルケトン)は、温度及び/又は機械的応力、更には化学的応力を制限する用途において使用される。これらのポリマーは、航空機、海洋掘削操作又は医療用インプラント等の様々な分野において見られる。それらは、成形、押出、圧縮、スピニング又はレーザー焼結により用いられ得る。
【0005】
PAEK類において、ポリ(エーテルエーテルケトン)(PEEK)は、上記の用途の関連で特に使用される。しかしながら、PEEKは非常に速く結晶化することの欠点を示し、この材料に基づく製造された部品が冷却される間に大きな内部応力を生み出し得る。いくつかの場合、例えば金属部品のPEEKコーティング又はバルクPEEK部品の場合において、これらの内部応力は材料の分裂をもたらし得る。続くアニーリング段階(徐冷が後に続く)は、一般的にこれらの内部応力を除去するか又は少なくとも低下させるために必要である。実際には、このような段階は長期にわたることが分かっており、したがって、このように製造された部品に関して、少なくない追加の費用を伴う。
【0006】
更に、レーザー焼結の特定の場合において、部品の変形に迅速な結晶化の反応速度をもたらし得る。そのような変形は「カーリング」としても知られる。この場合、結果として、部品の形状は最適なものではない。
【0007】
そして、PEEKがすでに良好な機械的特性を有するとしても、いくつかの用途に対しては、それは成形、射出成形、押出又はレーザー焼結等の異なる種類の方法により得られる物体の機械的特性を更に改善するのに有利であり得る。したがって、PEEKベースの材料を不可逆的に変形させることなく、しかしながら例えば破断点伸び等のその他の機械的特性を低下させることなく、より高い応力下でPEEKベースの材料を機能させることができるように、降伏点応力を増加させることは有利であり得る。これは、降伏点応力の増加が、材料の破断点伸びの値を低下させることを従来意味するからである。実際、いくつかの用途において、高い破断点伸びを有する延性材料を保持することが重要であり得る。したがって、専用の用途に適した機械的特性を示すプラスチック材料を有するために、破断点伸びと降伏点との間の妥協を見つけることが一般的には望ましい。
【0008】
60から98の間の重量%の半結晶性PAEK及び40から2の間の重量%の非晶質PAEKを含むポリマーアロイが米国特許第5342664号より知られている。そのようなアロイは、半結晶性PAEK単独の場合と比較して、より高い破断点伸び及び低下した粘度を示す。しかしながら、この文献は、部品の変形の問題を生じさせる結晶化の速度に関して言及しておらず、過度に急速な結晶化の反応速度の結果として部品に現われる内部応力を除外するために、長期的且つ費用のかかるアニーリング後の段階を必要とする。アロイの降伏点についての言及はない。
【0009】
総説POLYMER, 1988, Vol. 29, June, pp. 1017−1020に見られる「Blends of two PAEK」と題する論文は、共に素早く結晶化するという際立った特徴を有するPAEK類の二つのポリマーであるPEEKとPEKとに基づくアロイの調製を記載している。この論文は、アロイの二つの化合物の結晶化及びそれらの性質について研究している。一方で、この論文は、結晶化の速度及び内部応力の出現と得られた部品の変形への影響、並びにアロイの機械的特性を研究していない。
【0010】
Journal of the American Chemical Society, 1997, 30, pp.4544−4550の「Dynamic study of crystallization and melting−induced phase separation in PEEK/PEKK blends」と題する論文は、PEEKとPEKKとのアロイを記載しており、イソフタル酸単位(I)に対するテレフタル酸単位(T)のT/I比率は30/70である。この論文は、50/50に等しい重量割合でPEEK中30/70PEKKの取り入れを明示し、アロイの二つの化合物の相互拡散の結果として、PEEKの結晶化を遅らせることを可能にする。この書類は、そのようなアロイの機械的特性を研究していない。
【0011】
技術的課題
したがって、本発明の目的は、少なくとも一の先行技術の欠点を克服することである。特に、本発明の目的は、少なくとも一つの特性が改善されたPEEKベースの組成物と、追加のアニーリング後の段階を省略することを可能にできるように内部応力において著しい低下を示すような組成物からの部品の調製を可能にするような、変形しておらず且つ強化された機械的特性を示す、PEEKベースの組成物の少なくとも一の特性を改善するための方法とを提供することである。
【発明の概要】
【0012】
驚くべきことに、ポリ(エーテルケトンケトン)(PEKK)を含むポリ(エーテルエーテルケトン)(PEEK)に基づく組成物であって、ポリ(エーテルケトンケトン)(PEKK)がテレフタル酸単位とイソフタル酸単位の混合物を含み、テレフタル酸単位とイソフタル酸単位との合計に対してテレフタル酸単位の重量パーセントが55から85%の間(境界値を含む)、好ましくは55から70%の間であることを特徴とし、組成物の総重量に対して1から40の間の重量%(境界値を含む)、好ましくは5から40の間の重量%、より好ましくは10から30の間の重量%のPEKKを含む組成物は、純粋なPEEKと比較して、降伏点応力及び破断点伸びがどちらも増加するため、純粋なPEEKの結晶化の反応速度と比較して結晶化の反応速度を遅らせることだけでなく、一般的に拮抗する二つの機械的特性に関する増加を示すということが発見された。
【0013】
組成物のその他の任意の特性に従い:
− PEEKはPEK又はPEKEKKで置換され得、
− PEKKはPEKKブレンドであり得、各PEKKがテレフタル酸単位とイソフタル酸単位との合計に対して55から85%の間(境界値を含む)、好ましくは55から70%の間の重量パーセントのテレフタル酸単位を示し、
− 組成物が少なくとも一の充填剤及び/又は少なくとも一の添加剤を追加で含み、
− 組成物中のPEEKの重量割合が、組成物の総重量に対して60から99%(境界値を含む)、好ましくは60から95%の間、より好ましくは70から90%の間である。
【0014】
別の発明の要旨は、PEEKベースの組成物の少なくとも一の特性を改善するための方法であって、PEEKベースの組成物中にPEKKを取り入れることにあり、テレフタル酸単位とイソフタル酸単位の混合物を含み、テレフタル酸単位とイソフタル酸単位との合計に対してテレフタル酸単位の重量パーセントが55から85%の間(境界値を含む)、好ましくは55から70%の間であることと、PEKKが組成物の総重量に対して1から40%の間(境界値を含む)、好ましくは5から40%の間(境界値を含む)、より好ましくは10から30%の間の重量割合で組成物中に取り入れられることとを特徴とする方法である。
【0015】
そして、本発明は、レーザー焼結、成形、射出成形又は押出より選択される技術により、上記の組成物から生産される物体に関する。
【0016】
本発明のその他の利点及び特性は、添付の図面に関して、例示的且つ非制限的な例を前提として、以下の説明を読むことで明らかとなり、それらの図面は:
図1は、温度関数としての七つのPEEKベース組成物の熱流量における変化、
図2は、時間に対する四つのPEEKベース組成物の結晶化度
を表す。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】温度関数としての七つのPEEKベース組成物の熱流量における変化を示す。
図2】時間に対する四つのPEEKベース組成物の結晶化度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の要旨である組成物はPEEKに基づく。組成物の構成PEEKマトリックスもまた、PEK又はPEKEKKで置換され得る。使用される略語において、Eはエーテル官能基を示し、Kはケトン官能基を示す。
【0019】
PEEKベースの組成物中のテレフタル酸単位及びイソフタル酸単位を有するPEKKの存在は、PEEKの結晶化の反応速度を遅らせ、したがって、材料の冷却中の分裂をもたらし得る内部応力を制限し、期待に沿う形状の変形していない部品を得ることを可能にする。テレフタル酸単位及びイソフタル酸単位は、それぞれテレフタル酸及びイソフタル酸の式を意味するものと理解される。
【0020】
好ましくは、PEEKベースの組成物中に取り入れられるPEKKは、テレフタル酸単位とイソフタル酸単位との合計に対して55から85%の間(境界値を含む)、より好ましくは55から70%の間、より好ましくは60%程度の重量パーセントのテレフタル酸単位を含む。およそ60%のテレフタル酸を有するそのようなPEKKは、典型的には240から260℃の間の温度での等温結晶化中20分間の、非常に遅い結晶化を有し、160℃程度のガラス転移点Tg及び305℃程度の融点を呈する。
【0021】
特に、上記の割合の範囲内のPEKK中のテレフタル酸単位及びイソフタル酸単位の割合における変化は、PEEKのかかる結晶化の反応速度を調整することを可能にする。結晶化の反応速度は、非等温条件下、つまり温度勾配を介しての冷却中か、又は等温条件下、つまり結晶化度が所定の温度でモニターされる中のいずれかで研究される。非等温条件下での結晶化の研究の場合、結晶化温度が低くなればなるほど結晶化の反応速度は遅くなる。その結果として、PEEKに基づく組成物及びPEKKに基づく組成物の範囲(結晶化速度が、各組成物に対して知られており、且つかかる組成物のその後の用途に従って適合される)を得ることが可能である。
【0022】
好ましくは、組成物は、組成物の総重量に対して60から99の間の重量%(境界値を含む)、好ましくは60から95の間の重量%、より好ましくは70から90の間の重量%のPEEKと、組成物の総重量に対して1から40の間の重量%(境界値を含む)、好ましくは5から40の間の重量%、より好ましくは10から30の間の重量%のPEKKとを含む。
【0023】
そのような組成物は、PEEKの二つの、一般的に拮抗する、機械的特性を改善することを有利に可能にする。これは、組成物の総重量に対して1から40%の間、好ましくは5から40%の間、より好ましくは10から30%の間の重量パーセントを有し、上記の割合でテレフタル酸単位及びイソフタル酸単位を有するPEKKの添加が、降伏点において5から15%の増加及び3まで変化し得る関数により改善される破断点伸びを得ることを可能にするためである。
【0024】
組成物は、更に、一又は複数の添加剤を含むか、又は、異なる化合物、例えば充填剤、特に無機充填剤、例えばカーボンブラック、ナノチューブ、短(ガラス若しくは炭素)繊維、長繊維、研磨若しくは非研磨繊維、安定化剤(光、特にUV、及び熱安定化剤)、シリカ等の流動促進剤、或いは光学的光沢剤、染料、顔料又はこれらの充填剤及び/若しくは添加剤の組合せを含み得る。
【0025】
上記で説明した組成物は、PEEKベースのマトリックスから成る。別の形態では、PEEKマトリックスはPEK又はPEKEKKマトリックスで置換され得る。
【0026】
加えて、PEEKベース、又はPEKベース若しくはPEKEKKベースの組成物中に取り入れられるPEKKは、各PEKKがテレフタル酸単位とイソフタル酸単位との合計に対して55から85%の間、好ましくは55から70%の間、より好ましくは60%程度の重量パーセントのテレフタル酸単位を呈するという条件で、PEKKブレンドであり得る。
【0027】
加えて、本発明は、PEEKベース組成物の少なくとも一の特性を改善するための方法であって、PEEKベースの組成物中にPEKKを取り入れることから成る方法に関する。取り入れられたPEKKは、テレフタル酸単位とイソフタル酸単位の混合物を含み、テレフタル酸単位の重量パーセントは、テレフタル酸単位とイソフタル酸単位との合計に対して55から85%の間、好ましくは55から70%の間、より好ましくは60%程度である。有利には、PEKKは、組成物の総重量に対して1から40の間の重量%、好ましくは5から40の間の重量%、より好ましくは10から30の間の重量%の割合でかかる組成物中に取り入れられる。
【0028】
PEEKベースの組成物中へのPEKKの取り入れは、PEEKの結晶化の反応速度を調整するだけでなく、PEEKの一般的に拮抗する二つの機械的特性、即ち降伏点及び破断点伸びを改善することも可能にする。
【0029】
上に定義されるPEEKに基づく組成物及びPEKKに基づく組成物は、本発明による組成物及び任意選択的にその他の添加剤、充填剤若しくはその他のポリマーを含む均質ブレンドを得ることを可能にする知られる方法で調製され得る。そのような方法は、溶融押出、例えばロール圧延を使用した圧縮又は混合技術より選択され得る。
【0030】
より詳細には、本発明による組成物は、全ての成分を、特に「直接」法で溶融混合することにより調製される。
【0031】
レーザー焼結の場合、組成物は粉末の乾燥混合によっても得ることができる。
【0032】
有利には、組成物は、二軸押出機、共混練機又は内部ミキサー等の当業者により知られる装置上で調合することにより顆粒の形態で得ることができる。
【0033】
そのように調製された組成物は、射出成形機、押出機等の装置を使用した当業者に知られる変換又は使途に関して、その後変換され得る。
【0034】
本発明による組成物の調製のための方法は、中間造粒をせずに、当業者に知られる処理配置による射出成形機又は押出機を供給する二軸押出機を使用することもできる。
【0035】
顆粒又は粉末のいずれかである得られた組成物から開始して、例えばレーザー焼結又は射出成形又は押出技術により異なる物体を生産することが可能である。
【0036】
以下の実施例は、言外の限定なく、本発明の範囲を説明する。
【実施例】
【0037】
実施例1:異なる組成を示す複数の組成物の調合
配合は、融解によりプラスチック及び/又は添加剤及び/又は充填剤をブレンドすることを可能にする方法である。
【0038】
各組成物を生産するために、顆粒の形態で提供される出発物質を共回転二軸押出機中に置く。押出機の供給部を300℃程度の温度に加熱する。
【0039】
材料のブレンドは、300回転/分の回転速度及び2.5kg/時のスループットで、360℃程度の温度での溶融条件下で生じる。
【0040】
比較するために調合により製造された異なる組成物は、異なる重量割合でPEEK及びPEKKを全て含む。組成物中に取り入れられるPEKKは、テレフタル酸(T)単位とイソフタル酸(I)単位を含むPEKKであり、そのT/I比率は60/40に等しい。二つの異なる階級のPEKKを使用した。これらの二つの階級は、同じ割合のテレフタル酸単位を含む。それらは粘度において本質的に異なる。したがって、下の表I及び表II中でK1と参照され、アルケマによりKepstan(登録商標)6001の商用参照名で販売される第一のPEKKは、0.95dl/gの粘度数を示し、一方、下の表でK3と参照され、アルケマによりKepstan(登録商標)6003の商用参照名で販売される第二のPEKKは、0.82dl/gの粘度数を示す。粘度数を、96%硫酸中25℃の溶液中で、ISO標準307により測定する。
【0041】
これらの比較例において、組成物中のPEKKの重量割合は、表Iに関しては組成物の総重量の10から30%の間で、表IIに関しては5から50%の間で変化する。PEEKに基づく組成物及びPEKKに基づく組成物は、純粋なPEEKのみを含み、VictrexによりVictrex 450Gの商用参照名で販売される、CCと参照されるコントロール組成物(表I)と比較するよう意図される。
【0042】
製造された異なる組成物を下の表I及び表IIで組み合わせる。組成物の異なる構成物質、つまりPEEK及びPEKKの量を、組成物の総重量に対して重量パーセントで表現する。
【0043】
実施例2:実施例1の調合方法の結果として得られた組成物の結晶化の反応速度の研究
上の表IでCCと参照されるPEEKのコントロール試料上及び上の表IでC1からC6と参照される組成物の六つの試料の結晶化の研究を実施した。
【0044】
DSCと示される示差走査熱量測定により結晶化の研究を実施する。DSCは、分析される試料と参照との間の熱交換における相違点を測定することを可能にする熱分析技術である。
【0045】
この結晶化研究を実行するため、TA InstrumentsによるQ 2000装置を使用した。研究は、非等温結晶化条件下及び等温結晶化条件下で実施した。
【0046】
非等温結晶化
実施例1により生じる異なる試料CC及びC1からC6上、非等温条件下のDSCに関するプロトコールは、第一の工程において、温度を20℃に安定させることにある。温度は、続いて、一分当たり20℃の勾配で400℃まで次第に上昇し、次いで再び一分当たり20℃の勾配で低下する。
【0047】
結晶化は、冷却段階中に研究される。熱流量を温度関数として測定し、研究される各組成物に関して、温度関数としての熱流量における変化を表す曲線を得る。これらの曲線を、図1に表す。続いて、Tcと示され、摂氏で表現される結晶化温度を、対応曲線の最大値を横軸上に射影することにより、各組成物に関して決定する。この決定は、使用されるDSC装置により直接実施される。
【0048】
分析される各試料の結晶化温度Tcを、下の表IIで組み合わせる。
【0049】
PEKKを含まない、コントロール組成物CC(純粋なPEEK)の曲線は、図1のグラフ中右端に位置する曲線である。このコントロール組成物は、291.3℃に等しく、最も高温の結晶化温度TcCCを呈する。
【0050】
これらの曲線は、組成物中のPEKKの重量分率が高くなればなるほど、結晶化温度は低下し、したがって結晶化が遅れることを明示する。本発明によるPEEKへのPEKKの添加は、したがって、PEEKの結晶化を遅らせることを可能にする。
【0051】
等温結晶化
コントロール組成物CCの試料並びにそれぞれ10%、20%及び30%の重量%のPEKKを含むC1、C2及びC3の試料に関して、等温条件下のDSCを実行した。等温DSCのプロトコールは、以下の三つの段階を含む:第一の段階は、第一の工程において、温度を20℃に安定させることにあり、続いて第二の段階は、温度を一分当たり20℃の勾配で400℃まで次第に上昇させることにある。そして、温度を、一分当たり20℃の勾配で、400℃から315℃まで低下させ、次いで、一時間かけて温度を315℃に安定させる。
【0052】
315℃での温度の安定化の間、時間関数tとして結晶化したPEEKの重量分率を測定する。コントロール組成物CCと比較して、組成物C1、C2及びC3の測定を実施する。得られた四つの曲線を図2のグラフ中に表す。
【0053】
コントロール試料CCに対応する曲線により、半結晶化時間がおよそ6分であるという結果になる。ポリマーの半結晶化時間は、このポリマーの50%の結晶化に必要な時間である。図2の曲線については、縦軸(結晶化したPEEKの%)上に50%の値で置くことにより、及び、この値を横軸(時間)上に射影することにより、決定する。
【0054】
コントロール組成物CCの曲線に対して、組成物C3に対応する曲線をおよそ4分で右側へオフセットする。この曲線の半結晶化時間は、およそ10分である。コントロール組成物CCの曲線に対して、組成物C1及びC2に対応する曲線をおよそ3分で右側へオフセットし、組成物C1の半結晶化時間はおよそ9分であり、組成物C2の半結晶化時間は実質的に10分である。
【0055】
驚くことに、これらの曲線により、結晶化における遅延が組成物に取り入れられるPEKKの含有量に比例しないという結果になる。予想されたかもしれないことに反して、結晶化の反応速度における変化は、取り入れられるPEKKの含有量の関数として直線状ではない。結果として、組成物中の相分離の現象の出現を妨げるために、組成物の総重量に対して40重量%以下の含有量のPEKKを取り入れることが望ましい。
【0056】
本発明によるPEEKベースの組成物の総重量に対して1から40重量%、好ましくは5から40の間の重量%、より好ましくは10から30の間の重量%の割合でのPEKKの添加は、したがって、相分離の現象を避ける一方、PEEKの結晶化を遅らせることを可能にする。
【0057】
実施例3:実施例1の調合方法の結果得られた組成物に基づく射出成形部品の降伏点応力の測定及び破断点伸びの測定
降伏点応力の測定及び破断点伸びの測定を実施できるように、試料の試験片を第一の工程で産生した。これに関し、射出成形機を使用する。本実施例において、使用される射出成形機はBattenfeld 80T成形機である。成形機のフィード温度を350℃に調節し、射出ノズルの温度を390℃に調節し、且つ型の温度を230℃に設定する。
【0058】
次いでISO標準527に基づく1Baタイプの引張試験に適した試験片を得る。
【0059】
降伏点応力の測定及び破断点伸びの測定の比較試験に関し、ISO標準527 1BAに基づいて、二つの試験片を産生した。コントロール組成物CCの第一の試験片を、30重量%のPEKKを含む実施例1の組成物C3の第二の試験片と比較し、試験片C10からC5aと比較するコントロール組成物CTについて同じ手順を繰り返した。
【0060】
引張応力を受けた試験片のひずみの関数として応力の曲線を記録することを可能にする光学式ひずみ計と結合した引張試験装置を使用して、各試験片の応力の測定を実施した。これらの試験に使用される引張試験装置は、特に、Zwick 1455の参照下Zwickにより販売される引張試験装置である。
【0061】
測定は23℃、50% RHの相対湿度及び25mm/分の引張速度で実施する。
【0062】
次いで、伸びの関数として必要な張力を測定し、降伏点応力及び破断点伸びを決定する。得られた結果を下の表III及びIVで組み合わせる。
【0063】
PEEKへの30重量%のPEKKの添加は、降伏点応力を92.5MPaから101MPaへ変化させること、即ち表IIIの結果7.5%の増加を可能にする。更に、この添加は、破断点伸びを40%から100%に増加させること、即ち2.5倍の増加を可能にする。
表IVより、いくつかの結果を破断点伸びに関して定式化し得る。加えて、特許請求の範囲外の組成物である50%組成物(C5a)は、PEEKと有利に混合されるPEKKの最大値は40%であり、それ以上ではないことを示す。
【0064】
したがって、PEEKベースの組成物中のPEKKの取り入れは、降伏点応力の増加及び破断点伸びの増加、したがって一般的に拮抗する二つの機械的特性における増加をもたらす。
【0065】
本発明の組成物は、PEEKの結晶化の反応速度を遅らせることの利点、それにより材料の内部応力を低下させる利点、したがって長期的且つ費用のかかるアニーリング後の段階を省くことの利点、及び望ましい最適形状を有する変形していない部品を得ることの利点を呈するだけでなく、また、これまでに拮抗する機械的特性であると知られている降伏点及び破断点伸びにおける増加を含む並外れた機械的特性を有する利点を呈する。
図1
図2