(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6823761
(24)【登録日】2021年1月14日
(45)【発行日】2021年2月3日
(54)【発明の名称】バスレフダクト及びスピーカーシステム
(51)【国際特許分類】
H04R 1/02 20060101AFI20210121BHJP
H04R 1/28 20060101ALI20210121BHJP
【FI】
H04R1/02 101B
H04R1/28 310B
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2019-164944(P2019-164944)
(22)【出願日】2019年8月23日
【審査請求日】2019年9月19日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519327962
【氏名又は名称】大泉 賢太
(72)【発明者】
【氏名】大泉 賢太
【審査官】
堀 洋介
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭52−096631(JP,U)
【文献】
特開平04−271698(JP,A)
【文献】
実開昭54−151235(JP,U)
【文献】
実開昭61−026390(JP,U)
【文献】
特開平01−243800(JP,A)
【文献】
国際公開第90/011668(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/02
H04R 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外側管と、その内部に前記外側管の断面積を減少させる挿入物を有したバスレフダクトにおいて、前記挿入物は、前記外側管に対して非接触であり、前記バスレフダクトを閉じる事がなく、端部と固定部を除いて一定の断面であり、前記バスレフダクトを備えたエンクロージャーのいずれかの面、又は前記バスレフダクトを備えたエンクロージャーのいずれかの面及び前記外側管に支持される事を特徴とするバスレフダクト。
【請求項2】
請求項1に記載のバスレフダクトを搭載したスピーカーシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は任意の断面積を作り出す事ができるバスレフダクトに関する。
【背景技術】
【0002】
スピーカーシステムの形式としては、エンクロージャーが密閉された密閉型と、エンクロージャーに穴を空けて管を取り付けて低音を増強するバスレフ型が一般的である。従来型のバスレフダクトを有したスピーカーシステムの斜視図を
図1に、縦断面図を
図2に示す。バスレフダクトが円管の場合、その長さは直径の1〜5倍程度が多く、エンクロージャー前面又は後面に配置される場合が多い。ダクトの断面積や長さや容積は音質を決定する重要な要素である。
特許文献1は、外側管はあるが挿入物がなく、バスレフダクトの長さを電動で連続可変調整させる発明である。
特許文献2は、外側管と挿入物が存在する。しかしこれらで構成するのはバックローデッドホーン形式の音道である。
特許文献3は、スピーカーキャビネット前面に可動するルーバーを設置し開閉機構としたものである。この発明にはバスレフダクトが存在しないのでバスレフダクトの断面積や長さや容積を可変するものではない。
特許文献4は、穴のみの開閉であり、バスレフダクトは存在しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−159898号公報
【特許文献2】特開平10−262296号公報
【特許文献3】実開昭53−128426号公報
【特許文献4】実開昭54−113534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図1のような従来型のバスレフダクト3を有したスピーカーシステムにおいてバスレフダクト3の最適な断面積はスピーカーユニット2の特性やエンクロージャー1の容積や設計意図により異なる。従って最高音質を実現するには大き過ぎず小さ過ぎない最適な任意の断面積のバスレフダクトが必要である。しかしバスレフダクトとして一般的に用いられる塩ビ管や金属管などは汎用の規格品なので段階的にしか選択できず、ある太さの管では断面積が小さ過ぎ、もう1段階太い管では断面積が大きすぎ、希望の断面積の規格品が無い場合が殆どである。かと言って任意の断面積を持った専用のダクト部品を樹脂の射出成型や金属の押し出し管や引き抜き管で製作する事は、大量生産を行う大手メーカー以外には不可能である。細いダクトを複数本用いる事で断面積の足し算や掛け算が実現され、ある程度は希望の断面積に近づける事が可能である。ただしダクトの本数を増やすとダクト内壁とダクト内部の空気との摩擦による音質の劣化や、工数や費用の増加などの問題がある。また何らかの理由でスピーカーシステム製作後にダクト断面積を変更する必要が生じてもダクト断面積の変更は困難である。ダクトに開閉弁等の可変調整機構を設置した場合でもダクト長さのごく一部の限られた範囲でしか断面積を調整できなかったり、断面積と長さを独立して調整できなかったり、閉状態付近では断面積が小さ過ぎ風切り音が発生して実用に耐えなかったり、可動部分が雑音を発生させる等の問題があり、オンオフ的なダクトの開閉にしか適さなかった。
本発明は汎用の規格品の管や棒を用いて簡便安価に最適な任意の断面積のバスレフダクトを作り出し、ダクト長さを変えずに、外側管の外径を変えずに、スピーカーシステム製作でもダクト断面積を独立微調整可能とし、高音質を実現する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
外側管と、その内部に前記外側管の断面積を減少させる挿入物を有したバスレフダクトにおいて、前記挿入物は、前記外側管に対して非接触であり、前記バスレフダクトを閉じる事がなく、端部と固定部を除いて一定の断面であり、前記バスレフダクトを備えたエンクロージャーのいずれかの面
、又は前記バスレフダクトを備えたエンクロージャーのいずれかの面及び前記外側管に支持されている事を特徴とするバスレフダクトを用いる事で課題を解決できる。また、スピーカーシステムにこのバスレフダクトを搭載する事で同様に課題をできる。
【発明の効果】
【0006】
本発明のバスレフダクト及びスピーカーシステムは、汎用の規格品の外側管を用いても、内部に挿入物を挿入する事で最適な任意のバスレフダクト断面積を作り出せる。ダクト断面積の引き算を実現できる。ダクトの長さを変えずに断面積を独立して微調整できる。外側管の外径を変えずにダクト断面積を独立微調整できる。スピーカーシステム製作もダクト断面積を独立微調整できる。従って高音質バスレフダクト及びスピーカーシステムを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】 従来型のバスレフダクトを有したスピーカーシステムの斜視図
【
図2】 従来型のバスレフダクトを有したスピーカーシステムの縦断面図
【
図3】 本発明のバスレフダクト及びスピーカーシステムの実施例1及び実施例2の斜視図
【
図4】 本発明のバスレフダクト及びスピーカーシステムの実施例1の縦断面図
【
図5】 本発明のバスレフダクト及びスピーカーシステムの実施例2の縦断面図
【
図6】 本発明のバスレフダクト及びスピーカーシステムの実施例3及び実施例4の斜視図
【
図7】 本発明のバスレフダクト及びスピーカーシステムの実施例3の縦断面図
【
図8】 本発明のバスレフダクト及びスピーカーシステムの実施例4の縦断面図
【
図9】 本発明のバスレフダクト及びスピーカーシステムの実施例5の縦断面図
【
図10】 本発明のバスレフダクト及びスピーカーシステムの実施例6の斜視図
【
図11】 本発明のバスレフダクト及びスピーカーシステムの実施例6の
図10のA−A断面図
【
図12】 本発明のバスレフダクト及びスピーカーシステムの実施例6の縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の実施例を図面とともに説明する。なお、以下に述べる実施例は本発明を具体化した一例に過ぎず、本発明の実施範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0009】
図3及び
図4に示したスピーカーシステムのエンクロージャー1の前面に内径51mm、外径60mm、長さ150mmの円管を外側管4として取り付け、エンクロージャー1の内部後面に直径20mm、長さ200mmの丸棒を挿入物5として前記外側管4と同軸上に取り付け、円環状のバスレフダクトを構成する。外側管4と挿入物5は接触していない。外側管4や挿入物5の先端や根元は空気の整流の為に丸める。特に挿入物5の根元はエンクロージャー1への取り付け強度及び剛性を確保する為にも大きめの丸い補強部材6を取り付ける。製作後に挿入物5を交換する必要があればねじ7で固定し、交換の必要が無ければ接着する。挿入物5の外径を変える事で任意のダクト断面積を作り出せ、高音質を実現できる。
【実施例2】
【0010】
図3及び
図5に示した実施例2は実施例1のバスレフダクトが短い場合であり、外観は実施例1と同様で内部構造が異なる。バスレフダクトが短くエンクロージャー1の後面まで距離がある場合は、挿入物5をエンクロージャー1の後面に取り付けるのではなく、支持部材8を介してエンクロージャー1の底面に固定する事で挿入物5の取り付け強度及び剛性を向上させる事ができる。
まず
図5に示したスピーカーシステムのエンクロージャー1の内部底面に幅20mm、奥行20mm、高さ100mmの四角柱を支持部材8として垂直に取り付ける。エンクロージャー1の前面に内径51mm、外径60mm、長さ40mmの円管を外側管4として取り付け、直径20mm、長さ80mmの丸棒を前記支持部材8に取り付け、円環状のバスレフダクトを構成する。外側管4と挿入物5は接触しておらず、外側管4と支持部材8も接触していない。外側管4や挿入物5の端は空気の整流の為に丸める。製作後に挿入物5や支持部材8を交換する必要があればねじ7で固定し、交換の必要が無ければ接着する。挿入物5の外径を変える事で任意のダクト断面積を作り出せ、高音質を実現できる。
【実施例3】
【0011】
図6及び
図7に示したように、直径20mm、長さ150mmの丸棒状の挿入物5の円筒部表面の前後に放射状にそれぞれ3方向に合計6か所に、厚さ2mm、高さ15mm、奥行き10mmの板状の支持部材8を接着する。この挿入物5を内径51mm、外径60mm、長さ150mmの円管状の外側管4の内部に挿入し接着し円環状のバスレフダクトを構成する。挿入物5は支持部材8を介して外側管4に支持されている。外側管4や挿入物5の端は整流の為に丸める。組み立てたバスレフダクトをエンクロージャー1の前面に取り付け完成である。任意の寸法の外側管4や挿入物5を用いる事で希望の任意のダクト断面積を作り出す事ができ、高音質を実現できる。
【実施例4】
【0012】
図6及び
図8に示した実施例4は実施例3のバスレフダクトが短い場合であり、外観は実施例3と同様で内部構造が異なる。直径20mm、長さ40mmの丸棒状の挿入物5の円筒部表面の長手方向中央に放射状に3方向に、厚さ2mm、高さ15mm、奥行き10mmの板状の支持部材8を接着する。この挿入物5を内径51mm、外径60mm、長さ40mmの円管状の外側管4の内部に挿入し接着し円環状のバスレフダクトを構成する。挿入物5は支持部材8を介して外側管4に支持されている。外側管4や挿入物5の端は整流のために丸める。組み立てたバスレフダクトをエンクロージャー1の前面に取り付け完成である。本例のように外側管4が短い場合は挿入物5も短くする事で挿入物5を軽量にでき、支持部材8の数を削減できる。
【実施例5】
【0013】
図9は挿入物5がエンクロージャー1及び外側管4の両方に支持されている場合である。まず内径51mm、外径60mm、長さ150mmの円管を外側管4としてエンクロージャー1の前面に取り付ける。次に直径20mm、長さ200mmの丸棒状の挿入物5の円筒部表面の出口付近に、放射状に3方向に厚さ2mm、高さ15mm、奥行き10mmの板状の支持部材8を接着する。そしてこの挿入物5を前記外側管4と同軸上に取り付け、円環状のバスレフダクトを構成する。挿入物5は支持部材8を介して外側管4に支持され、同時にエンクロージャー1からも支持されている。外側管4や挿入物5の先端や根元は空気の整流の為に丸める。特に挿入物5の根元はエンクロージャー1への取り付け強度及び剛性を確保する為にも大きめの丸い補強部材6を取り付ける。製作後に挿入物5を交換する必要があればねじ7で固定し、交換の必要が無ければ接着する。挿入物5の外径を変える事で任意のダクト断面積を作り出せ、高音質を実現できる。
【実施例6】
【0014】
図10〜12に示したように、内幅80mm、内高さ20mm、厚さ5mm、長さ150mmの断面が長方形の外側管4と、幅及び高さ20mm、長さ150mmの直方体の挿入物5を4本製作する。外側管4をエンクロージャー1の前面に取り付け、その内部に挿入物5を挿入し外側管5上面からねじ7で固定する。外側管4と挿入物5は直接接触する。挿入物5が音でガタついて雑音を発生させないように外側管4と挿入物5の隙間や固定方法には注意を要する。外側管4の内部空間の内、挿入物が挿入されていない残りの空間がバスレフダクトとなる。ここでは例として左右両側のみ挿入物5を挿入し、中央2か所は未挿入である。挿入物5の本数を変える事でバスレフダクトの断面積を全開から全閉まで1/4ずつ5段階に調整可能であり、高音質を実現できる。
【0015】
これらの実施例における寸法及び数値は一例であり、スピーカーシステムの大きさや特性や設計意図により様々な値をとる。また外側管4や挿入物5の断面形状が円形や四角形である必要は無く、三角形や五角形など任意の多角形で製作する場合もある。同様に楕円やハート形など任意の曲線で製作する場合もある。また長さ方向についても一定の断面形状である必要は無く、長さ方向へテーパーを付けたり、楽器のラッパのような丸みを付けたりもする。また外側管4や挿入物5は必要に応じて曲げる場合や曲がり部材を用いる場合もある。外側管4と挿入物5は同軸である必要はなく、必要に応じて偏心させる場合もある。挿入物5の本数は必要に応じて複数本用いる場合もある。また外側管4が複数本ある場合は全てに挿入物5を取り付ける場合もあり、一部だけに取り付ける場合もある。挿入物5は外側管4と同じ長さの場合も、長い場合も、短い場合もある。同様に挿入物5の支持部材8の長さも外側管4や挿入物5と同じ場合も長い場合も短い場合もある。外側管4で挿入物5を支持する場合の支持部は1ヶ所だけでも良いが、確実な支持の為に実施例2のように複数設ける場合もある。円管状の外側管4の内部に外径が前記外側管4の内径と等しい第二の円管を挿入し、前記外側管より一回り細い円柱状のダクトを構成する場合もある。円管状の外側管4の内部に外径が前記外側管4の内径より小さい円管を取り付け、更にその内部に丸棒状の挿入物5を取り付けて2重円環状のダクトを構成する場合もあり、3重、4重と増やす場合もある。外側管4のエンクロージャー1に対する取り付け面が変われば、挿入物5のエンクロージャー1に対する支持面も変わる場合がある。例えば実施例1で外側管4をエンクロージャー1の後面に取り付けた場合は、挿入物5はエンクロージャー前面に取り付ける。外側管4と挿入物5をエンクロージャー1の同一の面で支持する場合もある。実施例5においてダクト分割数は4分割に限らず何分割でも良く、分割は複数列、複数段に及ぶ場合もある。分割割合も等分である必要はなく、不等分割とし断面積の偏りを持たせる事でより緻密な断面積の調整を行う場合もある。実施例では簡略化の為にスピーカーユニットが1個の例を示したが、スピーカーユニットが複数個や複数種類の場合も勿論ある。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明のバスレフダクト又は本発明のバスレフダクトを搭載したスピーカーシステムにより高音質を実現でき、音楽、映画、放送などの分野で需要が見込まれる。特に自由度の高さと少量生産に向いた点が少量多品種生産の分野や、実験研究開発の分野で需要が見込まれる。
【符号の説明】
【0017】
1 エンクロージャー
2 スピーカーユニット
3 バスレフダクト
4 外側管(バスレフダクトを構成する外側管)
5 挿入物(バスレフダクトを構成する挿入物)
6 整流及び補強用部材
7 ねじ
8 支持部材
【要約】
【課題】 希望の任意の断面積のバスレフダクトを簡便安価に少量生産する方法が求められていた。またスピーカーシステム製作後も断面積を独立微調整する方法が求められていた。
【解決手段】 外側管と、その内部に前記外側管の断面積を減少させる挿入物を有したバスレフダクトにおいて、前記挿入物は、前記バスレフダクトを備えたエンクロージャーのいずれかの面、前記外側管、又は前記バスレフダクトを備えたエンクロージャーのいずれかの面及び前記外側管に支持されている高音質バスレフダクトである。またこのバスレフダクトをスピーカーシステムに搭載できる。
【選択図】
図4