【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述の非特許文献1で示される落石防止方法は,石に対して水平方向に這わせたワイヤロープの張力とワイヤロープの両端に結合させたアンカーの固定力によって石を固定するものであり、アンカーの設置本数はワイヤロープの設置本数によって決まるため、石の固定に必要なアンカー耐力を確保するために市場性の低い太径のアンカーを使用しなければならず、場合によっては必要な耐力を確保できないこともあった。
【0008】
また、石が横長の形状の場合、水平方向に這わせるワイヤロープの本数が限られてしまうため、石の固定に必要な耐荷重を確保できないという課題があった。さらに、被覆対象の石にワイヤロープを巻回する作業中に石が滑動する可能性もあるため、石の下側においてアンカーの埋設や固定を行なうことには危険が伴っていた。
【0009】
特許文献1の落石防止装置および落石防止工法の場合、ワイヤロープをリング状に加工した複数のロープリングの集合体からなるロープユニットにより、斜面に散在する石を固定するものであるが、縦横に敷設した格子状のワイヤロープに画一的な大きさに形成されたリングロープのロープユニットを取付けるものであるため、この格子状のワイヤロープが格子内の石の荷重を受け持つこととなり、格子を形成するワイヤロープ1本にかかる荷重の比率が大きくなるという問題がある。つまり、落石防止を行なうエリア内に大きな石がある場合、大きな石を対象とする落石防止を行なう場合に十分な強度で把持させる施工を行えないという問題がある。
【0010】
特許文献2の落石防止工法の場合、複数の石を包み込んだ状態とするために、石にアンカーを打ち込み固定する必要があるが、このアンカー打設の際に石が滑動することや、アンカー打設の際に石が割れるという危険性もあり、作業環境が良くなかった。
【0011】
本発明は上述の事柄を考慮に入れてなされたものであり、安全な施工によって斜面に位置する石をワイヤロープにより固定し、落石を防止することができる落石防止具および落石防止工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1発明は、複数のリングロープを縦方向に一直線状に並べた状態で、隣接するリングロープ同士を互いに交差するように連結させてなるワイヤリング列、および、被覆対象の石の幅に合わせた数のワイヤリング列を幅方向に並べて配置した状態で隣接する各リングロープを連結する結合金具からなるロープユニットと、このロープユニットの上部および両側部において地盤に埋設させた、被覆対象の石の荷重に合わせた複数のアンカーと、これらのアンカーをロープユニットのリングロープに引っ張り力をかけながら連結する複数の連結具とを備え、さらに、被覆対象の石が横長の形状であ
り、前記連結具は、前記リングロープを抜け止め保持するとともに前記アンカーが固定されるものであり、前記アンカーの固定のために、前記アンカーの頭部が挿通する長穴が形成された厚板形状の基体と、前記頭部に設けた雄ねじ部に締付け保持されるナットとを有することを特徴とする落石防止具(請求項1)を提供する。
また、別の観点から、第2発明は、複数のリングロープを縦方向に一直線状に並べた状態で、隣接するリングロープ同士を互いに交差するように連結させてなるワイヤリング列、および、被覆対象の石の幅に合わせた数のワイヤリング列を幅方向に並べて配置した状態で隣接する各リングロープを連結する結合金具からなるロープユニットと、このロープユニットの上部および両側部においてのみ地盤に埋設させた、被覆対象の石の荷重に合わせた複数のアンカーと、これらのアンカーをロープユニットのリングロープに引っ張り力をかけながら連結する複数の連結具とを備え、さらに、被覆対象の石が横長の形状であ
り、前記連結具は、前記リングロープを抜け止め保持するとともに前記アンカーが固定されるものであり、前記アンカーの固定のために、前記アンカーの頭部が挿通する長穴が形成された厚板形状の基体と、前記頭部に設けた雄ねじ部に締付け保持されるナットとを有することを特徴とする落石防止具(請求項2)を提供する。
【0013】
リングロープは石の表面の凹凸に対応して変形する程度に湾曲し、引っ張り力を加えることにより、リングの各部に分散して力を作用させることができる。隣接するリングロープ同士を互いに交差するように連結させたワイヤリング列は縦方向に広い範囲において張力を分散させて作用させることができる。また、被覆対象の石の幅に合わせた数のワイヤリング列を連結させたロープユニットは石の全体を覆うことができる。
【0014】
したがって、上記ロープユニットを用いることにより、被覆対象の石の全体を覆うことができ、被覆対象の石の上部および両側部の地盤に埋設させた複数のアンカーと連結部によってロープユニットの上部および両側部において引っ張り力をかけて地盤に固定することができる。このとき、ロープユニットの両側部においてアンカーに固定した連結部によってかけられる引っ張り力が横方向の各リングロープに分散して作用することにより石をしっかりと保持でき、さらに、ロープユニットの上部においてアンカーで引っ張りながら固定することにより、石の滑動や落下を確実に防止することができる。
【0015】
とりわけ、ロープユニットの四隅においてロープユニットにかけられた引っ張り力は石の全体に分散して作用させて、石を地盤に安定して固定することが可能となる。施工時に石の下部において地盤にアンカーを打ち込む施工を施す必要がないため、施工中に万一石の滑動や落下が発生することがあったとしても、工事作業者の安全性を脅かすことがない。また、被覆対象の石に対してアンカーを打ち込む必要もないので、アンカー打設によって石が割れる心配もない。
【0016】
前記結合金具は並べて配置させた2本のリングロープを挟み込むように断面視略コ字状に湾曲させたプレートと、このプレートの間に2本のリングロープを挟んだ状態でプレート両端部に設けた穴を貫通させるボルトと、このボルトに締付けられることによりプレートの間に2本のリングロープを抜け止め保持するナットとを備える場合(請求項3)には、プレートによって挟まれた2本のリングロープを抜け止め保持することができる。
【0017】
前記結合金具によって連結された2本のリングロープは抜け止め保持されると共に、リングロープの長手方向に移動可能であるから、各リングロープは張力を伝えながら自在に変形可能であり、被覆対象の石の各部に分散させて作用させて、石を地盤に固定することができる。
【0018】
前記ロープユニットの下部の複数箇所に連結され、このロープユニットの幅よりも長いすり抜け防止ロープと、前記石の両側部の下部において地盤に埋設させた左右一対の補助アンカーと、前記すり抜け防止ロープの両端部を引っ張り力をかけながら補助アンカーに連結させる補助連結部とを備える場合(請求項4)には、すり抜け防止ロープによってロープユニットの下部の複数箇所において張力をかけて、このロープユニットの下部が石の下部の地盤に押さえつけられた状態で固定されるので、ロープユニットの下部から石がすり抜けて滑動したり、崩落したりすることを防止できる。
【0019】
補助アンカーは石の両側部の下部において地盤に埋設されるものであるから、石の下部における施工を避けることができ、それだけ、施工時の安全性を向上させることができる。
【0020】
なお、補助アンカーにはロープユニットの下部の複数箇所を引っ張って地盤に固定させるのに必要な引っ張り力がかけられるが、被覆対象の石の荷重がかからないため、石を地盤に固定させるための前記アンカーに比べて、細い補助アンカーを使用可能であるから、製造コストの引き上げを最小限に留めることができる。
【0021】
第3発明は、縦方向に一直線状に配置した状態で隣接するリングロープを互いに交差させて連結させたワイヤリング列を形成し、被覆対象の石の幅に合せた数のワイヤリング列を幅方向に並べ、隣接する各リングロープを結合金具によって連結してロープユニットを形成する一方、石を覆ったロープユニットの上部および左右両側部において、地盤に被覆対象である横長の形状の石の荷重に合わせた複数のアンカーを埋設させ、これらのアンカーにロープユニットのリングロープを連結具によって引っ張りながら固定することにより、被覆対象の石の落下を防止する
のであり、前記連結具は、前記リングロープを抜け止め保持するとともに前記アンカーが固定されるものであり、前記アンカーの固定のために、前記アンカーの頭部が挿通する長穴が形成された厚板形状の基体と、前記頭部に設けた雄ねじ部に締付け保持されるナットとを有することを特徴とする落石防止工法(請求項5)を提供する。
【0022】
そして、縦方向に一直線状に連結したワイヤリング列によって石の縦方向の広い範囲に引っ張り力を分散させることができる。被覆対象の石の幅に合わせた数のワイヤリング列を幅方向に並べて連結することにより、石の全体を被うことができる大きさのロープユニットを形成することができ、ロープユニットの左右両側部において地面にアンカーを埋設させ、このアンカーと連結具によってロープユニットを引っ張りながら固定することにより、石を地盤に押し当てるように引っ張り力をほぼ均等に作用させることができる。
【0023】
なお、隣接するワイヤリング列を連結する作業は施工現場で行なうことにより、あらゆる大きさの石に対応して施工を行なう事が可能となり、石の凹凸に合わせて長さの異なるワイヤリング列を連結させることも可能となる。また、ワイヤリング列はリングロープを互いに交差させるように連結したものであるから、容易に重ねて省スペース化することができ、それだけ運搬しやすいという利点もある。しかしながら、幾つかのワイヤリング列を製造過程において予め連結させたリープユニットの原型を形成してもよい。この場合、現場にて更にワイヤリング列を連結するか、不要なリングロープを分離させることができる。
【0024】
ロープユニットを地盤に固定するときには、まず、ロープユニットの四隅を地盤に打設したアンカーによって引っ張りながら固定させ、その後、ロープユニットの四隅を除く左右両側部において石の荷重に合せた数のアンカーによって引っ張りながら地盤に固定させ、さらに、ロープユニットの上部を石の荷重に合せた数のアンカーによって引っ張りながら地盤に固定させることができる。
【0025】
これにより、ロープユニットの四隅の地盤に設けたアンカーによってロープユニットのリングロープを引っ張るように地盤に固定する事により、ロープユニットを構成する各リングロープに張力を分散させて作用させて地盤に固定する事ができ、四隅を除く左右両側部において石の荷重に合せて必要とする数のアンカーを打設し、これに引っ張りながらロープユニットのリングロープを連結することにより、ロープユニットを構成する各リングロープに更にそれぞれ分散させた引っ張り力を増し加えて作用させて十分な力で地盤に固定させることができる。
【0026】
さらに、ロープユニットの上部において地盤に埋設させたアンカーにリングロープを引っ張りながら固定することにより、ロープユニットに生じた石の荷重を直接アンカーに伝達させ、石が斜面を滑動することを効果的に防止できる。アンカーの本数を石の荷重に耐えられる本数にして打設することにより、大きな石であっても十分な力で吊り下げて落石をより確実に防止することができる。
【0027】
つまり、ロープユニットの許容耐力は、石に接触させた水平方向のリングロープ同士の交点(連結具を設けた点)の数と交点部分の許容耐力を乗じた値となるため、対象となる石が横長になる分だけ交点の数を増加させることによりロープユニットの許容耐力が向上する。
【0028】
加えて、上述の施工を施す時に石の下部における作業を行なう必要がないので、万一施工中に、石が滑動することがあったとしても、作業員に危険が迫ることなく安全に作業を行なうことができる。
【0029】
前記ロープユニットの下部の複数箇所に、このロープユニットの幅よりも長いすり抜け防止ロープを連結させた状態で、このロープユニットで石を覆う一方、石の両側部の下部において地盤に補助アンカーを埋設させ、前記すり抜け防止ロープを石の下部に配置させた状態で、その両端部を引っ張りながら前記補助アンカーに連結させる場合(請求項6)には、ロープユニットの下部が複数箇所においてすり抜け防止ロープによって閉じられているので、このロープユニットで石を覆うときに、石の両側部の下部に埋設させた補助アンカーにすり抜け防止ロープに幅方向に引っ張り力をかけるように連結させることにより、ロープユニットの下部からの石のすり抜けを確実に防止できる。
【0030】
なお、ロープユニットに対するすり抜け防止ロープの連結は、石へのロープユニットの設置を行なう前に行なうことにより、石の下方における作業をなくすことができ、より安全に施工を行うことができる。