【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「植物等の生物を用いた高機能品生産技術の開発/植物の生産性制御に係る共通基盤技術開発/遺伝子発現制御および栽培環境制御の融合による代謝化合物高生産基盤技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
Journal of Medicinal Chemistry,2008年,Vol.51, No.8, p.2372-2386
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第1ルシフェラーゼ、第1発光物質である第1ルシフェリン、及び第2発光物質を含む測定対象物の、前記第1ルシフェラーゼと前記第1ルシフェリンとを反応させ、前記測定対象物から発せられた光の発光量L1を測定する第1測定工程、
請求項1に記載の阻害剤と前記測定対象物とを接触させて、前記第1ルシフェラーゼと前記第1ルシフェリンとの反応によって生じる発光量を低下させ、前記測定対象物から発せられた発光量L2を測定する第2測定工程、並びに
前記発光量L1の値と、前記発光量L2の値とに基づいて、前記第1ルシフェラーゼと前記第1ルシフェリンの反応により生じた光A、及び前記第2発光物質により生じた光Bを識別する識別工程、
を含む光識別方法。
第1ルシフェラーゼ、第1発光物質である第1ルシフェリン、及び第2発光物質を含む前記測定対象物が、遺伝子調節領域の下流に前記第1ルシフェラーゼ遺伝子が連結された融合遺伝子が導入され、前記第1ルシフェラーゼを発現している組み換え細胞又はその抽出物を含む請求項14に記載のレポーターアッセイ方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
≪阻害剤≫
以下、本発明のルシフェリン−ルシフェラーゼ反応の阻害剤について説明する。
下記一般式(A)、下記一般式(B)、下記一般式(C)、及び下記一般式(D)で表される化合物、並びにそれらの塩は、ルシフェラーゼとルシフェリンとの反応を阻害することができ、本発明の光識別方法における、ルシフェラーゼとルシフェリンとの反応を阻害する阻害剤として、好適に用いることができる。
本発明の第1実施形態の阻害剤は、下記一般式(A)、下記一般式(B)、及び下記一般式(C)で表される化合物、並びにそれらの塩からなる群より選択される少なくとも一種の化合物を含む、ルシフェリン−ルシフェラーゼ反応の阻害剤(以下、当該阻害剤のことを「第1阻害剤」ということがある。)である。
【0015】
阻害剤の上記ルシフェラーゼに対する活性阻害率は、「(阻害剤を含む反応溶液におけるルシフェリン−ルシフェラーゼ反応により生じた発光量)/(阻害剤を含まない反応溶液におけるルシフェリン−ルシフェラーゼ反応により生じた発光量)」の値として求められる。反応溶液に含まれる阻害剤の濃度は、非特異的な発光活性の低下が観察できない程度の濃度で行うこととする。阻害剤による発光量の低下が生じない場合、活性阻害率は1(100%)となる。
阻害剤のルシフェラーゼに対する活性阻害率は、0.8未満であることが好ましく、0.4未満であることがより好ましく、0.2未満であることがさらに好ましく、0.1未満であることが特に好ましい。
【0016】
下記一般式(A)、下記一般式(B)、及び下記一般式(C)で表される化合物並びにそれらの塩は、ルシフェリンのうち、Luc2、Fluc又はCBR(Click Beetle Red)に対して特異的に反応を阻害するという点において、共通の特徴を有する。
ここでいう特異的とは、Luc2、Fluc又はCBR以外のルシフェラーゼ(例えばCBG)に対しての活性阻害率が0.9以上であってもよく、0.95以上であってもよく、且つ、Luc2、Fluc又はCBRに対しての活性阻害率が0.3以下であってもよく、0.2以下であってもよい。
【0017】
本発明の第2実施形態の阻害剤は、下記一般式(D)で表される化合物、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも一種の化合物を含む、ルシフェリン−ルシフェラーゼ反応の阻害剤(以下、当該阻害剤のことを「第2阻害剤」ということがある。)である。
【0018】
化合物(D)及びその塩は、ルシフェリンのうち、CBRに対して特異的に反応を阻害するという点において、共通の特徴を有する。
ここでいう特異的とは、CBR以外のルシフェラーゼ(例えばLuc2、Fluc又はCBG)に対しての活性阻害率が0.9以上であってもよく、0.95以上であってもよく、CBRに対しての活性阻害率が0.3以下であってもよく、0.2以下であってもよく、0.1以下であってもよい。
【0019】
<化合物(A)>
化合物(A)は、下記一般式(A)で表される化合物である。以下、化合物(A)について説明する。
【0020】
【化5】
[式(A)中、
R
1及びR
3は、それぞれ独立して、炭素数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を表し、
R
2、R
4及びR
5は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を表し、
n
1はR
1の数を表し、0〜4のいずれかの整数であり、n
1が2以上である場合、複数個のR
1同士は互いに同一でも異なっていてもよく、
n
3はR
3の数を表し、0〜4のいずれかの整数であり、n
3が2以上である場合、複数個のR
3同士は互いに同一でも異なっていてもよく、
波線で示した結合は、化合物(A)が、E、Z又はそれらの混合体であることを表す。]
【0021】
n
1及びn
3は、それぞれ独立して、例えば、0〜2のいずれかの整数であってもよく、0又は1であってもよく、0であってもよい。
n
1が1〜4の場合、R
1のベンゼン環骨格への結合位置は特に限定されない。
n
3が1〜4の場合、R
3のベンゼン環骨格への結合位置は特に限定されない。
【0022】
R
1、R
2、R
3、R
4又はR
5の炭素数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等を例示できる。
R
1、R
2、R
3、R
4又はR
5のアルキル基は、炭素数が1〜3であることが好ましく、炭素数が1〜2であることがより好ましく、炭素数1がさらに好ましく、すなわち炭素数1のメチル基がさらに好ましい。
【0023】
第1実施形態の阻害剤は、化合物(A)の光学異性体のうちの一種のみを含んでもよく、二種以上を含んでもよい。
【0024】
上記一般式(A)において、波線で示した結合は、化合物(A)が、E、Z又はそれらの混合体であることを表す。化合物(A)のE,Z異性体としては、例えば、下記一般式(A−a)で表される化合物、及び下記一般式(A−b)で表される化合物が挙げられる。
【0025】
【化6】
[式(A−a)及び式(A−b)中、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、n
1及びn
3は、前記一般式(A)におけるものと同じである。]
【0026】
一般式(A)で表される化合物において、n
1及びn
3が0であり、R
2が水素原子である場合、下記一般式(A−1)で表される化合物が挙げられる。
【0027】
【化7】
[式(A−1)中、R
4及びR
5は、前記一般式(A)におけるものと同じである。]
【0028】
一般式(A−1)で表される化合物において、R
4及びR
5は、それぞれ独立して、炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基であることが好ましい。
【0029】
前記一般式(A−1)で表される化合物又はその塩のより具体的な例として、前記式(A−1)において、R
4及びR
5がメチル基である場合、下記式(A−1−1)で表される化合物3−(4−ジメチルアミノベンジリデニル)−2−インドリノン(SU 4312)又はその塩を挙げることができる。
【0031】
<化合物(B)>
化合物(B)は、下記一般式(B)で表される化合物である。以下、化合物(B)について説明する。
【0032】
【化9】
[式(B)中、
R
6及びR
8は、それぞれ独立して、炭素数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を表し、
R
7、R
9及びR
10は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を表し、
n
6はR
6の数を表し、0〜4のいずれかの整数であり、n
6が2以上である場合、複数個のR
6同士は互いに同一でも異なっていてもよく、
n
8はR
8の数を表し、0〜3のいずれかの整数であり、n
8が2以上である場合、複数個のR
8同士は互いに同一でも異なっていてもよく、
波線で示した結合は、化合物(B)が、E、Z又はそれらの混合体であることを表す。]
【0033】
n
6及びn
8は、それぞれ独立して、例えば、0〜2のいずれかの整数であってもよく、0又は1であってもよく、0であってもよい。
n
6が1〜4の場合、R
6のベンゼン環骨格への結合位置は特に限定されない。
n
8が1〜3の場合、R
8のベンゼン環骨格への結合位置は特に限定されない。
【0034】
R
6、R
7、R
8、R
9又はR
10の炭素数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等を例示できる。
R
6、R
7、R
8、R
9又はR
10のアルキル基は、炭素数が1〜3であることが好ましく、炭素数が1〜2であることがより好ましく、炭素数1がさらに好ましく、すなわち炭素数1のメチル基がさらに好ましい。
【0035】
第1実施形態の阻害剤は、化合物(B)の光学異性体のうちの一種のみを含んでもよく、二種以上を含んでもよい。
【0036】
前記一般式(B)において、波線で示した結合は、化合物(B)が、E、Z又はそれらの混合体であることを表す。化合物(B)のE,Z異性体としては、例えば、下記一般式(B−a)で表される化合物、下記一般式(B−b)で表される化合物、下記一般式(B−c)で表される化合物、及び下記一般式(B−d)で表される化合物、が挙げられる。
【0037】
【化10】
[式(B−a)、式(B−b)、式(B−c)及び式(B−d)中、R
6、R
7、R
8、R
9R
10、n
6及びn
8は、前記一般式(B)におけるものと同じである。]
【0038】
一般式(B)で表される化合物において、n
6及びn
8が0であり、R
7水素原子である場合、下記一般式(B−1)で表される化合物が挙げられる。
【0039】
【化11】
[式(B−1)中、R
9及びR
10は、前記一般式(B)におけるものと同じである。]
【0040】
一般式(B−1)で表される化合物において、R
9及びR
10はそれぞれ独立して、炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基であることが好ましい。
【0041】
前記一般式(B−1)で表される化合物又はその塩のより具体的な例として、前記式(B−1)において、R
9及びR
10がメチル基である場合、下記式(B−1−1)で表される化合物(トラニラスト)又はその塩を挙げることができる。
【0043】
<化合物(C)>
化合物(C)は、下記一般式(C)で表される化合物である。以下、化合物(C)について説明する。
【0044】
【化13】
[式(C)中、
R
11及びR
13は、それぞれ独立して、炭素数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を表し、
R
12は、水素原子又は炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を表し、
n
11はR
11の数を表し、0〜8のいずれかの整数であり、n
11が2以上である場合、複数個のR
11同士は互いに同一でも異なっていてもよく、
n
13はR
13の数を表し、0〜5のいずれかの整数であり、n
13が2以上である場合、複数個のR
13同士は互いに同一でも異なっていてもよく、
波線で示した結合は、化合物(C)が、E、Z又はそれらの混合体であることを表す。]
【0045】
n
11は、例えば、0〜2のいずれかの整数であってもよく、0又は1であってもよく、0であってもよい。
n
11が1〜8の場合、R
11のシクロヘキサン環骨格への結合位置は特に限定されない。
【0046】
n
13は、例えば、0〜3のいずれかの整数であってもよく、1又は2であってもよく、1であってもよい。
n
13が1〜5の場合、R
13のベンゼン環骨格への結合位置は特に限定されない。
【0047】
R
11、R
12又はR
13の炭素数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等を例示できる。
R
11、R
12又はR
13のアルキル基は、炭素数が1〜3であることが好ましく、炭素数が1〜2であることがより好ましく、炭素数1がさらに好ましく、すなわち炭素数1のメチル基がさらに好ましい。
【0048】
実施形態の阻害剤は、化合物(C)の光学異性体のうちの一種のみを含んでもよく、二種以上を含んでもよい。
【0049】
前記一般式(C)において、波線で示した結合は、E、Z又はそれらの混合体であることを表す。化合物(C)のE,Z異性体としては、例えば、下記一般式(C−a)で表される化合物、及び下記一般式(C−b)で表される化合物が挙げられる。
【0050】
【化14】
[式(C−a)及び式(B−b)中、R
11、R
12、R
13、n
11及びn
13は、前記一般式(C)におけるものと同じである。]
【0051】
化合物(C)の塩は、例えば溶媒中で化合物(C)のイオンとなり得る。化合物(C)のイオンとしては、化合物(C)がカチオンとなったものでもよく、化合物(C)がアニオンとなったものでもよい。
化合物(C)がカチオンとなったものとしては、例えば下記一般式(C−i)で表される化合物が挙げられる。
【0052】
【化15】
[式(C−i)中、R
11、R
12、R
13、n
11及びn
13は、前記一般式(C)におけるものと同じである。]
【0053】
一般式(C)で表される化合物は、下記一般式(C−1)で表される化合物を包含する。
【0054】
【化16】
[式(C−1)中、R
11、R
12、R
13及びn
11は、前記一般式(C)におけるものと同じである。]
【0055】
一般式(C−1)で表される化合物において、n
11が0であり、R
12が水素原子である場合、下記一般式(C−1−1)で表される化合物が挙げられる。
【0056】
【化17】
[式(C−1−1)中、R
13は、前記一般式(C)におけるものと同じである。]
【0057】
一般式(C−1−1)で表される化合物において、R
13は、炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基であることが好ましい。
【0058】
前記一般式(C−1−1)で表される化合物又はその塩のより具体的な例として、前記式(C−1−1)において、R
13がメチル基である場合、下記式(C−1−2)で表される化合物が挙げられ、下記式(C−1−2)で表される化合物の臭化水素酸塩(ピフィスリンα)を挙げることができる。
【0060】
<化合物(D)>
化合物(D)は、下記一般式(D)で表される化合物である。以下、化合物(D)について説明する。
【0061】
【化19】
[式(D)中、
R
14及びR
17は、それぞれ独立して、炭素数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を表し、
R
15は、水素原子又は炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を表し、
R
16は、2価の連結基を表す。
n
14はR
14の数を表し、0〜3のいずれかの整数であり、n
14が2以上である場合、複数個のR
14同士は互いに同一でも異なっていてもよい。
n
17はR
17の数を表し、0〜5のいずれかの整数であり、n
17が2以上である場合、複数個のR
17同士は互いに同一でも異なっていてもよい。]
【0062】
n
14及びn
17は、それぞれ独立して、例えば、0〜2のいずれかの整数であってもよく、0又は1であってもよく、0であってもよい。
n
14が1〜3の場合、R
14のベンゼン環骨格への結合位置は特に限定されない。
n
17が1〜5の場合、R
17のベンゼン環骨格への結合位置は特に限定されない。
【0063】
R
14、R
15、又はR
17の炭素数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等を例示できる。
R
14、R
15、又はR
17のアルキル基は、炭素数が1〜3であることが好ましく、炭素数が1〜2であることがより好ましく、炭素数1がさらに好ましく、すなわち炭素数1のメチル基がさらに好ましい。
【0064】
R
16の2価の連結基としては、炭素数1〜4の直鎖状のアルキレン基であってよく、−CH
2−、−CH
2CH
2−、−CH
2CH
2CH
2−、−CH
2CH
2CH
2CH
2−で表される基が挙げられる。
【0065】
第2実施形態の阻害剤は、化合物(D)の光学異性体のうちの一種のみを含んでもよく、二種以上を含んでもよい。
【0066】
一般式(D)において、n
14及びn
17が0であり、R
15水素原子である場合、下記一般式(D−1)で表される化合物が挙げられる。
【0067】
【化20】
[式(D−1)中、R
16は、前記一般式(D)におけるものと同じである。]
【0068】
前記一般式(D−1)で表される化合物又はその塩のより具体的な例として、前記式(D−1)において、R
16が−CH
2CH
2CH
2−で表される基である場合、下記式(D−1−1)で表される化合物 NPPB(5−ニトロ−2−(3−フェニルプロピルアミノ)安息香酸)が挙げられる。
【0070】
化合物(A)、化合物(B)、化合物(C)、及び化合物(D)は、これらに由来する分子とそれ以外の分子とで塩を形成していてもよい。化合物(A)、化合物(B)、化合物(C)、及び化合物(D)がカチオンとなったものとともに塩を形成するアニオンは、特に限定されない。具体的には、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン等の無機アニオンや、カルボン酸のアニオン、スルホン酸のアニオン等の有機アニオン等が例示できる。化合物(A)、化合物(B)、化合物(C)、及び化合物(D)がアニオンとなったものとともに塩を形成するカチオンは、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、アルミニウムイオン等の無機カチオンや、アミンのカチオン等の有機カチオン等が例示できる。
【0071】
化合物(A)、化合物(B)、化合物(C)、及び化合物(D)は、それらの塩の各種の水和物や溶媒和物、及び結晶多形の形態であってもよい。また、化合物(A)、化合物(B)、化合物(C)、及び化合物(D)は、種々の放射性又は非放射性同位体でラベルされていてもよい。
【0072】
本発明において、化合物(A)、化合物(B)、化合物(C)、及び化合物(D)、並びにそれらの塩は、市販された化合物及びその塩を使用することができる。また、化合物(A)、化合物(B)、化合物(C)、及び化合物(D)、並びにそれらの塩は、その基本構造あるいは置換基の種類に基づく特徴を利用し、種々の公知の化合物に対し、公知の合成法を適用して製造することができる。その際、官能基の種類によっては、当該官能基を原料から中間体へ至る段階で、当業者によく知られた適切な保護基に置き換えておくことが製造技術上効果的な場合がある。
【0073】
化合物(A)、化合物(B)、化合物(C)、及び化合物(D)、並びにそれらの塩の反応液における濃度は、反応液に含まれるルシフェラーゼ及びルシフェリンの濃度に応じて適宜定めればよいが、0.01μM〜1000μM程度としてもよく、0.1〜100μM程度としてもよく、広い濃度範囲で使用可能である。化合物(A)については0.1μM以下でも阻害剤として使用可能であり、化合物(B)、化合物(C)、及び化合物(D)では、100μM以上で使用してもCBR特異的阻害活性を示すことがある。
【0074】
前記式(A−1−1)で表される化合物は、チロシンキナーゼの阻害剤として知られている。よって、化合物(A)、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも一種の化合物を含むルシフェリン−ルシフェラーゼ反応の阻害剤は、チロシンキナーゼの反応阻害剤として用いられる場合を除き、使用されることが好ましい。
前記式(B−1−1)で表される化合物は、アレルギー性疾患の治療薬として知られている。よって、化合物(B)、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも一種の化合物を含むルシフェリン−ルシフェラーゼ反応の阻害剤は、アレルギー反応の反応阻害剤として用いられる場合を除き、使用されることが好ましい。
前記式(C−1−2)で表される化合物は、p53の阻害剤として知られている。よって、化合物(C)、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも一種の化合物を含むルシフェリン−ルシフェラーゼ反応の阻害剤は、p53の阻害剤として用いられる場合を除き、使用されることが好ましい。
前記式(D−1−1)で表される化合物は、クロライドチャネルのブロッカーとして知られている。よって、化合物(D)、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも一種の化合物を含むルシフェリン−ルシフェラーゼ反応の阻害剤は、クロライドチャネルのブロッカーとして用いられる場合を除き、使用されることが好ましい。
このことは、本発明の阻害剤が、後述の阻害方法、光識別方法、物質の検出方法、レポーターアッセイ方法、スクリーニング方法、及びキットに用いられる場合にも同様に適用されてよい。
【0075】
第1阻害剤は、化合物(A)、化合物(B)、及び化合物(C)、並びにそれらの塩からなる群より選択される少なくとも一種の化合物を溶解可能な溶媒を含んでいてもよい。また、第2阻害剤は、化合物(D)、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも一種の化合物を溶解可能な溶媒を含んでいてもよい。第1阻害剤及び第2阻害剤のいずれにおいても、溶媒の種類は特に制限されず、化合物の種類に応じて適宜選択すればよいが、ジメチルスルホキシド(DMSO)等のスルホキシド化合物;N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチルピロリドン(NMP)等のアミド化合物等、親水性溶媒が好ましいものとして例示できる。
【0076】
≪阻害方法≫
本発明の阻害方法は、本発明のルシフェリン−ルシフェラーゼ反応の阻害剤を用いて、ルシフェリン−ルシフェラーゼ反応を阻害する方法である。
例えば、第1ルシフェラーゼ、及び第1発光物質である第1ルシフェリンを含む反応系に、本発明の阻害剤を添加することで、第1ルシフェラーゼと第1ルシフェリンとの反応を阻害することができる。
【0077】
阻害剤が、前記第1阻害剤である場合、ここでいう第1ルシフェラーゼは、ホタルルシフェラーゼ(firefly luciferase: Fluc)、Luc2、赤色発光タンパク質(Click Beetle Red:CBR)が好ましい。
【0078】
阻害剤が、前記第2阻害剤である場合、ここでいう第1ルシフェラーゼは、CBRが好ましい。
【0079】
第1ルシフェラーゼ、第1発光物質である第1ルシフェリン、及び第2発光物質を含む反応系に、本発明の阻害剤を添加することで、第1ルシフェラーゼと第1発光物質である第1ルシフェリンとの反応を阻害することができる。
【0080】
なお、前記第1ルシフェラーゼと前記第1ルシフェリンの反応により生じた光Aと、前記第2発光物質により生じた光Bの発光波長が異なっている場合、本発明の阻害剤を添加することで、反応系から発せられた光の色調を、阻害剤存在下と阻害剤非存在下とで変化させることができる。
本発明のルシフェリン−ルシフェラーゼ反応阻害剤を用いた色調制御方法としては、例えば、第1ルシフェラーゼ、第1発光物質である第1ルシフェリン、及び第2発光物質を含み、前記第1ルシフェラーゼと前記第1ルシフェリンの反応により生じた光Aと、前記第2発光物質により生じた光Bの発光波長が異なる反応液に、前記第1ルシフェラーゼと前記第1ルシフェリンとの反応を阻害する阻害剤を接触させて、前記反応液から発せられる光の色調を変化させる色調制御方法とすることができる。
本発明の阻害剤は、該色調制御方法に使用される色調変化剤として提供可能である。
【0081】
≪光識別方法≫
本発明の光識別方法は、第1測定工程、第2測定工程、及び識別工程を含む。
第1測定工程は、第1ルシフェラーゼ、第1発光物質である第1ルシフェリン、及び第2発光物質を含む測定対象物の、前記第1ルシフェラーゼと前記第1ルシフェリンとを反応させ、前記測定対象物から発せられた光の発光量L1を測定する工程である。
第2測定工程は、前記第1阻害剤又は前記第2阻害剤と、前記測定対象物とを接触させて、前記第1ルシフェラーゼと前記第1ルシフェリンとの反応によって生じる発光量を低下させ、測定対象物から発せられた発光量L2を測定する工程である。
識別工程は、前記発光量L1の値と、前記発光量L2の値とに基づいて、前記第1ルシフェラーゼと前記第1ルシフェリンの反応により生じた光A、及び前記第2発光物質により生じた光Bを識別する工程である。
【0082】
以下、本発明の光識別方法を、第2発光物質が第2ルシフェリンである場合について、説明する。
【0083】
<第1実施形態>
(第1測定工程)
本実施形態の光識別方法は、前記測定対象物が、第1ルシフェリン、第1ルシフェラーゼ、第2ルシフェリン、及び第2ルシフェリンと反応させる第2ルシフェラーゼを含み、
測定対象物の、第1ルシフェラーゼと第1ルシフェリンとを反応させ、第2ルシフェラーゼと第2ルシフェリンとを反応させ、前記測定対象物から発せられた光の発光量L1を測定する第1測定工程を含む。
【0084】
図1は、本実施形態における光識別方法の手順を模式的に示した図である。
図1に示す例では、測定対象物は、第1ルシフェラーゼとしてFlucを、第1ルシフェリンとしてD−ルシフェリンを、第2ルシフェラーゼとしてCBG(Click Beetle Green)を含む。また、本実施形態の1例においては、第2ルシフェリンと第1ルシフェリンとは同じ種類のルシフェリンであり、Fluc(第1ルシフェラーゼ)及びCBG(第2ルシフェラーゼ)ともにD−ルシフェリンと反応して、ルシフェリン−ルシフェラーゼ反応による発光が生じる。この場合、Flucと反応したD−ルシフェリンが第1ルシフェリン(第1発光物質)であり、CBGと反応したD−ルシフェリンが第2ルシフェリン(第2発光物質)である。
本実施形態の1例において、測定対象物は細胞抽出物の調整物である。例えば、細胞抽出物の由来となる細胞には、細胞内で発現させたFluc及びCBGが含まれている。例えば、当該細胞抽出物、D−ルシフェリン、及びバッファーを混合し、Fluc、CBG及びD−ルシフェリンを含む液である第1測定工程の測定対象物を得ることができる。第1測定工程の測定対象物は、上述した阻害剤を含まない液であり、発光量L1の測定は、阻害剤非存在下における測定となる。
【0085】
次いで、第1測定工程の測定対象物から発せられた光の発光量L1を測定する。発光量の測定は、公知のルミノメーターを用いて行うことができる。上記例示した第1測定工程の測定対象物中では、FlucとD−ルシフェリンの反応により光Aが生じ、CBGとD−ルシフェリンの反応により光Bが生じている。阻害剤非存在下における、前記第1ルシフェラーゼと前記第1ルシフェリンの反応により生じた光Aの発光量を発光量A1とし、阻害剤非存在下における、前記第2ルシフェラーゼと前記第2ルシフェリンの反応により生じた光Bの発光量を発光量B1とすると、第1測定工程の測定対象物から発せられた光の発光量L1の値は、発光量L1 = 発光量A1 + 発光量B1である。
【0086】
(第2測定工程)
本実施形態の光識別方法は、前記第1阻害剤又は前記第2阻害剤と前記測定対象物とを接触させて、前記第1ルシフェラーゼと前記第1ルシフェリンとの反応によって生じる発光量を低下させ、前記測定対象物から発せられた発光量L2を測定する第2測定工程を含む。
【0087】
図1に示すように、本実施形態の第2測定工程では、第1測定工程の測定対象物に、前記第1ルシフェラーゼと前記第1ルシフェリンとの反応を阻害する阻害剤を添加し、第2測定工程の測定対象物を得る。第2測定工程の測定対象物は、阻害剤を含む液であり、発光量L2の測定は、阻害剤存在下における測定となる。
【0088】
次いで、第2測定工程の測定対象物から発せられた光の発光量L2を測定する。発光量の測定は、公知のルミノメーターを用いて行うことができる。
阻害剤存在下における、第1ルシフェラーゼと第1ルシフェリンの反応により生じた光Aの発光量を発光量A2とし、阻害剤存在下における、前記第2ルシフェラーゼと前記第2ルシフェリンの反応により生じた光Bの発光量を発光量B2とすると、第2測定工程の測定対象物から発せられた光の発光量L2の値は、発光量L2 = 発光量A2+ 発光量B2である。
阻害剤は、前記第1ルシフェラーゼと前記第1ルシフェリンとの反応を阻害するので、第2測定工程の測定対象物から発せられた光の発光量L2は、第1測定工程の測定対象物から発せられた光の発光量L1よりも低下している。
図1では、阻害剤として、FlucとD−ルシフェリンの反応を阻害する阻害剤を用い、該阻害剤は発光量A2の値をA1の1/10にする作用がある場合を例示する。
【0089】
なお、上記の例では、第1測定工程に用いられた第1測定工程の測定対象物に阻害剤を添加して第2測定工程の測定対象物を得たが、第2測定工程の測定対象物に含まれる第1測定工程の測定対象物の要素は、必ずしも第1測定工程を経たものでなくともよい。
例えば、第1測定工程で測定する第1測定工程の測定対象物の液と、第1測定工程の測定対象物と同一の組成であって第1測定工程で測定しない液との、2つの液を予め用意しておき、第1測定工程で測定しない液に阻害剤を添加して、これを第2測定工程の測定対象物としてもよい。
【0090】
なお、上記の例においては、第1測定工程に用いられた第1測定工程の測定対象物に阻害剤を添加して第2測定工程の測定対象物を得たために、第1測定工程の後に、第2測定工程を行った。しかし、必ずしも、第1測定工程の後に、第2測定工程を行う必要は無く、第1測定工程の前に、第2測定工程を行なってもよく、第1測定工程と同時に第2測定工程を行なってもよい。
【0091】
(識別工程)
本実施形態の光識別方法は、前記発光量L1の値と、前記発光量L2の値とに基づいて、前記第1ルシフェラーゼと前記第1ルシフェリンの反応により生じた光A、及び前記第2ルシフェラーゼと第2ルシフェリンの反応により生じた光Bを識別する識別工程を含む。
【0092】
ここで、光を識別するとは、測定対象物から光Aと光Bとを区別せずに検出した場合であっても、前記発光量L1の値と、前記発光量L2の値とに基づいて、検出された発光量のうち、光A由来の発光量と光B由来の発光量とを算出することにより、光Aと光Bを識別することである。
【0093】
光A由来の発光量と光B由来の発光量との算出には、阻害剤による光Aの発光量の低下率(A2/A1)が予め既知である必要がある。
阻害剤による光Aの発光量の低下率を求めるには、第2発光物質を含まないこと以外は同様の条件で、前記第1測定工程及び前記第2測定工程を行えばよい。この場合、測定対象物から発せられる光は光Aのみに由来するものであるので、阻害剤非存在下での発光量A1及び阻害剤存在下での発光量A2を測定し、発光量の低下率(A2/A1)を求めればよい。
【0094】
なお、上記の例では、阻害剤が第1ルシフェラーゼと第1ルシフェリンとの反応のみを阻害し、第2ルシフェラーゼと第2ルシフェリンとの反応は阻害しない場合を示している。しかし、本発明に用いられる阻害剤としては、第1ルシフェラーゼと第1ルシフェリンとの反応のみならず、第2発光物質の発光量を変化させるものであってもよい。例えば、第1ルシフェラーゼと第1ルシフェリンとの反応のみならず、第2ルシフェラーゼと第2ルシフェリンとの反応を阻害するものであってもよい。
この場合の第2測定工程としては、阻害剤と測定対象物とを接触させて、第1ルシフェラーゼと第1ルシフェリンとの反応によって生じる発光量、及び前記第2ルシフェラーゼと前記第2ルシフェリンとの反応によって生じる発光量を低下させ、測定対象物から発せられた発光量L2を測定する工程が例示できる。
この場合、阻害剤による第1発光物質の発光量の変化率が予め既知であることに加えて、阻害剤による第2発光物質の発光量の変化率が予め既知である必要があり、光A由来の発光量と光B由来の発光量との算出には、阻害剤による光Bの発光量の低下率(A2/A1)及び阻害剤による光Bの発光量の低下率(B2/B1)が予め既知である必要がある。
光Bの発光量の低下率を求めるには、第1発光物質及び第1ルシフェリンを含まないこと以外は同様の条件で、前記第1測定工程及び前記第2測定工程を行えばよい。この場合、測定対象物から発せられる光は光Bのみに由来するものであるので、阻害剤非存在下での発光量B1及び阻害剤存在下での発光量B2を測定し、発光量の低下率(B2/B1)を求めればよい。
【0095】
光Aの発光量の低下率(A2/A1)がx%であり、光Bの発光量の低下率(B2/B1)がy%であるとすると、下記式(I)で示されるように、L1 = A1 + B1、L2 = x/100A1+y/100B1となり、A1及びB1を計算できる。
【0097】
阻害剤による光Aの発光量の低下率(A2/A1)や光Bの発光量の低下率(B2/B1)の差は、阻害剤の特異性を反映している。発光量の低下率は、同様の反応条件下においてほぼ一定であるので、これらの低下率についての情報が既知であれば、本発明の光識別方法を行う際に、これらの低下率を改めて求める必要はない。
【0098】
本実施形態において、光Aの発光量の低下率(A2/A1)と、光Bの発光量の低下率(B2/B1)は異なることが好ましい。これは阻害剤がルシフェラーゼによって反応の阻害に特異性を有することを意味する。
光Aの発光量の低下率(A2/A1)と、光Bの発光量の低下率(B2/B1)との比の値は、大きいほうが好ましい。当該比の値が大きいと、阻害剤の効果が誤差範囲内となるおそれが低減され、光分離の精度をより向上させることができる。光Aの発光量の低下率(A2/A1)と、光Bの発光量の低下率(B2/B1)との比は、1.1倍以上、1.5倍以上、2倍以上、2.5倍以上、3倍以上、3.5倍以上、4倍以上、4.5倍以上、5倍以上、5.5倍以上、6倍以上、又は6.5倍以上が好ましく、7倍以上、7.5倍以上、8倍以上、又は8.5倍以上がより好ましく、9倍以上、9.5倍以上、10倍以上、15倍以上、又は20倍以上がさらに好ましい。
【0099】
なお、上記発光量を発光強度として、本発明の光識別方法を行ってもよい。発光量はRLU(relative light unit)として測定されたものであってもよい。
【0100】
(発光物質)
ルシフェラーゼは生物発光を触媒する酵素の総称であり、ルシフェリンは、ルシフェラーゼと反応して光を生み出す化合物の総称である。
これまでに様々な種類のルシフェラーゼ及びルシフェリンが発見されており、代表的なルシフェラーゼとしては、ウミシイタケルシフェラーゼ(Rluc)、ホタルルシフェラーゼ(Fluc)、ヒカリコメツキ(Click beetle)由来の緑色発光タンパク質(CBG:Click Beetle Green)及び赤色発光タンパク質(CBR:Click Beetle Red)が挙げられる。代表的なルシフェリンとしては、ウミシイタケルシフェリン、ホタルルシフェリン、セレンテラジン等が挙げられる。
ルシフェラーゼには、基質特異性がある。特定のルシフェラーゼと反応して光を生み出すルシフェリンは、当業者によって適宜選択することができる。
ルシフェラーゼは、天然に存在する天然型のタンパク質であっても、天然型とは異なるアミノ酸配列、修飾、付加等を有する突然変異型又は人為的改変型のタンパク質であってもよい。ルシフェリンは、ルシフェラーゼと反応して光を生み出すものであれば、天然に存在する天然型の化合物であっても、天然型とは異なる構造を有する化合物であってもよい。
【0101】
前記阻害剤が前記第1阻害剤である場合、前記第1ルシフェラーゼがFluc、Luc2又はCBRであり、前記第2ルシフェラーゼがCBGであることが好ましい。
前記阻害剤が前記第2阻害剤である場合、第1ルシフェラーゼがCBRであり、前記第2ルシフェラーゼがCBG、Fluc又はLuc2であることが好ましい。
【0102】
本明細書中において前記第1ルシフェラーゼとは、ルシフェラーゼのうち、阻害剤によってルシフェラーゼとルシフェリンとの反応が阻害されるルシフェラーゼである。本明細書中において、第1発光物質である第1ルシフェリンとは、前記第1ルシフェラーゼと反応して光を生み出す化合物である。第1ルシフェリンは、D−ルシフェリン又はその類縁体であることが好ましい。D−ルシフェリンの類縁体は、D−ルシフェリンを基質とするルシフェラーゼが反応して光を生み出す化合物が好ましく、D−ルシフェリンの類縁体としては、例えば、アカルミネ(登録商標)が挙げられる。第1ルシフェラーゼは、D−ルシフェリン又はその類縁体を基質とするルシフェラーゼであることが好ましい。
【0103】
前記第1ルシフェラーゼと前記第1ルシフェリンの反応により生じた光Aは、第1ルシフェリンから発せられた光そのものに限定されない。同じく、第2発光物質により生じた光Bは、第2発光物質から発せられた光そのものに限定されない。例えば、光Aとしては、生物発光共鳴エネルギー移動(Bioluminescence resonance energy transfer:BRET)により生じたものであってもよく、前記第1ルシフェラーゼと前記第1ルシフェリンの反応により生じた光がエネルギー転移して生じた光も包含される。
【0104】
なお、上記実施形態では、第2発光物質が、第2ルシフェラーゼと反応する第2ルシフェリンである例について説明したが、第2発光物質は、光を発する物質であれば特に制限されない。第2発光物質として用いられる物質としては、フルオロセイン、ローダミン、シアニン等の蛍光色素、緑色蛍光タンパク質(GFP)等の蛍光タンパク質、イクオリン等の発光タンパク質、ルシフェリン等を挙げることができる。
【0105】
第2発光物質は、発せられる光が検出対象である場合に限られない。例えば、第2発光物質は、検出対象でないノイズの発光であってもよい。本実施形態の光識別方法によれば、第1ルシフェラーゼと第1ルシフェリンの反応により生じた光Aと、第2発光物質により生じたノイズの光Bを識別でき、信頼度の高い光の検出が可能となる。
【0106】
上記実施形態で説明したように、第2ルシフェリンは、第1ルシフェリンと同じ種類のルシフェリンであることが好ましい。
従来用いられてきたDLRAでは、例えば、ホタルルシフェラーゼ(firefly luciferase:Fluc)とウミシイタケルシフェラーゼ(Renilla luciferase: Rluc)を用い、基質特異性と反応条件の差異を利用するので、異なる2種類の発光基質と、それらに対応する緩衝液を準備する必要がある。
一方、本実施形態の光識別方法では、適切なルシフェラーゼ及びルシフェリンを選択することにより、第1ルシフェラーゼ及び第2ルシフェラーゼをともに同じ種類のルシフェリンと反応させることが可能であるので、ルシフェラーゼの反応条件を変更することなく、第1ルシフェラーゼと第1ルシフェリン及び第2ルシフェラーゼと第2ルシフェリンの両方の反応を同一反応系で行うことができる。そのため、緩衝液を変更する必要もなく、より簡便にルシフェラーゼアッセイを行うことができる。
共通のルシフェリンと反応する第1ルシフェラーゼ、第2ルシフェラーゼ及びルシフェリンの組合せとしては、種々の組み合わせが例示できる。D−ルシフェリンと反応するルシフェラーゼとしては、例えば、Fluc、CBR、CBG、SLG(緑色発光ルシフェラーゼ)、SLO(橙色発光ルシフェラーゼ)、及びSLR(赤色発光ルシフェラーゼ)からなる群から、それぞれ異なるものをそれぞれ第1ルシフェラーゼ及び第2ルシフェラーゼとして選択すればよい。
【0107】
(測定対象物)
本発明の光識別方法に係る測定対象物は、第1ルシフェラーゼ、第1発光物質である第1ルシフェリン、及び第2発光物質を含むものであれば特に制限されないが、好ましい測定対象物として、細胞又は、細胞由来の物質が挙げられる。細胞を測定対象とすることは、細胞の集合である細胞集団、組織、器官、又は生物個体を測定対象とすることを包含する。細胞としては、例えば、植物細胞、植物体、動物細胞、昆虫細胞、酵母、真菌などの真核細胞であり、単細胞生物、微生物等も含む。細胞由来の物質としては、細胞抽出物、細胞培養上清、それらの調整物等が挙げられる。
測定対象物中には、第1ルシフェラーゼ、第1発光物質である第1ルシフェリン、及び第2発光物質が均一に含まれていなくともよい。例えば、測定対象物が個体である場合、個体を構成する一部の細胞にのみ第1ルシフェラーゼ、第1発光物質である第1ルシフェリン、及び第2発光物質が含まれていてもよい。他の例としては、個体を構成する一部の細胞にのみ第1ルシフェラーゼ及び第1発光物質である第1ルシフェリンが含まれており、さらに前記部分とは異なる部分に第2発光物質が含まれていてもよい。
【0108】
本発明の光識別方法は、測定対象物が細胞であって、測定対象物の細胞から発せられた光を、細胞非破壊的に測定してもよい。
上記に挙げたDLRAでは、例えば、ホタルルシフェラーゼ(firefly luciferase:Fluc)とウミシイタケルシフェラーゼ(Renilla luciferase: Rluc)を用い、Flucに対する基質としてホタルルシフェリンを用い、Rlucに対する基質としてはセレンテラジンを用いる場合がある。しかし、セレンテラジンは比較的高分子なため、細胞への浸透が起こり難い。そのため、細胞内で発現させたRlucとセレンテラジンとを反応させるため、測定対象物としては細胞を破壊して得た細胞抽出物としなければならない。
一方、本発明の光識別方法では、上述のように第1ルシフェラーゼ及び第2ルシフェラーゼは、同一種のルシフェリンを用いて反応系を構築することも可能であるため、細胞浸透性に劣るルシフェリンを選択しなければならない必要性を低くすることができる。
例えば、上記実施形態では、細胞抽出物の調整物を測定対象物としていたが、上記第1実施形態では、細胞浸透性に優れるホタルルシフェリンのみを発光基質として用いているため、測定対象物を細胞とし、測定対象物の細胞から発せられた光を細胞非破壊的に測定することも可能である。
【0109】
なお、本実施形態の光識別方法は、他のルシフェラーゼアッセイ方法と組み合わせて用いることができる。例えば、本実施形態の光識別方法に加えて、DLRAを行うことを例示できる。例えば、本発明の光識別方法において反応させる第1ルシフェラーゼとは異なるルシフェリンを基質とする第3ルシフェラーゼが測定対象物に含有されており、本発明の光識別方法を行った測定対象物に、第3ルシフェラーゼ用の反応溶液及び第3ルシフェラーゼと反応させるルシフェリンを添加し、第3ルシフェラーゼとルシフェリンとを反応させる。
図2には、第3ルシフェラーゼとしてRlucを用いる場合を例示する。このようにして、識別して検出可能な光の種類を増やすことができる。
【0110】
<第2実施形態>
本実施形態の光識別方法は、上記第1実施形態の光識別方法が、前記測定対象物が更に第3発光物質を含み、上記第1測定工程及び第2測定工程に加えて更に第三測定工程を有し、識別工程において、前記光A及び光Bに加えて前記第3発光物質により生じた光Cを更に識別するものである。
上記第1実施形態の光識別方法と共通する事柄について、説明を省略する。
【0111】
以下、第2実施形態の光識別方法を、第3発光物質が第3ルシフェリンである場合について、説明する。
【0112】
本実施形態の各工程において使用される阻害剤は、本方法を実施可能なものであれば特に制限されない。一例として、第2測定工程では上記第2阻害剤を用い、第3測定工程では、上記第1阻害剤を用いることができ、これらを用いる場合について説明する。
【0113】
すなわち、本実施形態の光識別方法は、
前記測定対象物の、第1ルシフェラーゼと第1ルシフェリンとを反応させ、第2ルシフェラーゼと第2ルシフェリンとを反応させ、第3ルシフェラーゼと第3ルシフェリンとを反応させ前記測定対象物から発せられた光の発光量L1を測定する第1測定工程、
第2阻害剤と前記測定対象物とを接触させて、前記第1ルシフェラーゼと前記第1ルシフェリンとの反応によって生じる発光量を低下させ、測定対象物から発せられた発光量L2を測定する第2測定工程、
第1阻害剤と前記測定対象物とを接触させて、前記第2ルシフェラーゼと前記第2ルシフェリンとの反応によって生じる発光量を低下させ、測定対象物から発せられた発光量L3を測定する第3測定工程、並びに
前記発光量L1の値と、前記発光量L2の値と、前記発光量L3の値とに基づいて、前記第1ルシフェラーゼと前記第1ルシフェリンとの反応により生じた光A、前記第2ルシフェラーゼと前記第2ルシフェリンとの反応により生じた光B、及び前記第3ルシフェラーゼと前記第3ルシフェリンとの反応により生じた光Cを識別する識別工程、を含む。
【0114】
図3は、本実施形態における光識別方法の手順を模式的に示した図である。
図3の例では、測定対象物は、第1ルシフェラーゼとしてCBRを、第1ルシフェリンとしてD−ルシフェリンを、第2ルシフェラーゼとしてFlucを、第3ルシフェラーゼとしてCBGを含む。また、本実施形態の1例においては、第1ルシフェリンと、第2ルシフェリンと、第3ルシフェリンとは同じ種類のルシフェリンであり、CBR(第1ルシフェラーゼ)、Fluc(第2ルシフェラーゼ)、及びCBG(第3ルシフェラーゼ)ともにD−ルシフェリンと反応して、ルシフェリン−ルシフェラーゼ反応による発光が生じる。この場合、CBRと反応したD−ルシフェリンが第1ルシフェリン(第1発光物質)であり、Flucと反応したD−ルシフェリンが第2ルシフェリン(第2発光物質)であり、CBGと反応したD−ルシフェリンが第3ルシフェリン(第3発光物質)である。
なお、前記第2ルシフェラーゼは、Fluc又はLuc2であってもよい。
【0115】
(第1測定工程)
図3に示すように、第1測定工程の測定対象物中では、CBRとD−ルシフェリンの反応により光Aが生じ、FlucとD−ルシフェリンの反応により光Bが生じ、CBGとD−ルシフェリンの反応により光Cが生じている。阻害剤非存在下における、第1ルシフェラーゼと第1ルシフェリンの反応により生じた光Aの発光量を発光量A1とし、第2ルシフェラーゼと第2ルシフェリンの反応により生じた光Bの発光量を発光量B1とし、第3ルシフェラーゼと第3ルシフェリンの反応により生じた光Cの発光量を発光量C1とすると、第1測定工程の測定対象物から発せられた光の発光量L1の値は、発光量L1=発光量A1+発光量B1+発光量C1である。
【0116】
(第2測定工程)
図3に示すように、第1測定工程の測定対象物である液に、第1ルシフェラーゼと第1ルシフェリンとの反応を阻害する第2の阻害剤を添加し、第2測定工程の測定対象物を得る。第2測定工程の測定対象物は、第2の阻害剤を含む液であり、発光量L2の測定は、第2の阻害剤存在下における測定となる。
【0117】
次いで、第2測定工程の測定対象物から発せられた光の発光量L2を測定する。
阻害剤存在下における、第1ルシフェラーゼと第1ルシフェリンの反応により生じた光Aの発光量を発光量A2とし、前記第2ルシフェラーゼと前記第2ルシフェリンの反応により生じた光Bの発光量を発光量B2とし、第3ルシフェラーゼと第3ルシフェリンの反応により生じた光Cの発光量を発光量C2とすると、、第2測定工程の測定対象物から発せられた光の発光量L2の値は、発光量L2=発光量A2+発光量B2+発光量C2である。
阻害剤は、前記第1ルシフェラーゼと前記第1ルシフェリンとの反応を阻害するので、第2測定工程の測定対象物から発せられた光の発光量L2は、第1測定工程の測定対象物から発せられた光の発光量L1よりも低下している。
図3では、阻害剤として、CBRとD−ルシフェリンの反応を阻害する阻害剤を用い、該阻害剤は発光量A2の値をA1の1/10にする作用がある場合を例示する。
【0118】
(第3測定工程)
図3に示すように、第1測定工程の測定対象物である液に、第2ルシフェラーゼと第2ルシフェリンとの反応を阻害する第1の阻害剤を添加し、第3測定工程の測定対象物を得る。第3測定工程の測定対象物は、第1の阻害剤を含む液であり、発光量L3の測定は、第1の阻害剤存在下における測定となる。
【0119】
次いで、第3測定工程の測定対象物から発せられた光の発光量L3を測定する。
阻害剤存在下における、第1ルシフェラーゼと第1ルシフェリンの反応により生じた光Aの発光量を発光量A3とし、阻害剤存在下における、第2ルシフェラーゼと第2ルシフェリンの反応により生じた光Bの発光量を発光量B3とし、第3ルシフェラーゼと第3ルシフェリンの反応により生じた光Cの発光量を発光量C3とすると、第2測定工程の測定対象物から発せられた光の発光量L3の値は、発光量L3=発光量A3+発光量B3+発光量C3である。
阻害剤は、第2ルシフェラーゼと第2ルシフェリンとの反応を阻害するので、第3測定工程の測定対象物から発せられた光の発光量L3は、第3測定工程の測定対象物から発せられた光の発光量L2よりも低下している。
図3では、阻害剤として、FlucとD−ルシフェリンの反応を阻害する阻害剤を用い、該阻害剤は発光量B3の値をB2の1/10にする作用がある場合を例示する。
【0120】
なお、上記の例では、第1測定工程に用いられた第1測定工程の測定対象物に阻害剤を添加して第2測定工程の測定対象物を得たが、第2測定工程の測定対象物に含まれる第1測定工程の測定対象物の要素は、必ずしも第1測定工程を経たものでなくともよい。
例えば、第1測定工程で測定する第1測定工程の測定対象物の液と、第1測定工程の測定対象物と同一の組成であって第1測定工程で測定しない液との、2つの液を予め用意しておき、第1測定工程で測定しない液に阻害剤を添加して、これを第2測定工程の測定対象物としてもよい。
【0121】
同様に、第3測定工程の測定対象物に含まれる第2測定工程の測定対象物の要素は、必ずしも第2測定工程を経たものでなくともよい。
例えば、第1測定工程で測定する第1測定工程の測定対象物の液と、第1測定工程の測定対象物と同一の組成であって第1測定工程で測定しない液との、2つの液を予め用意しておき、第1測定工程で測定しない液に阻害剤を添加して、これを第3測定工程の測定対象物としてもよい。
【0122】
なお、上記の例においては、第1測定工程に用いられた第1測定工程の測定対象物に阻害剤を添加して第2測定工程の測定対象物を得たために、第1測定工程の後に、第2測定工程を行った。また、第2測定工程に用いられた第2測定工程の測定対象物に阻害剤を添加して第3測定工程の測定対象物を得たために、第2測定工程の後に、第3測定工程を行った。
しかし、必ずしも、第1測定工程の後に第2測定工程を行う必要は無く、第2測定工程の後に第3測定工程を行う必要は無い。第1〜第3測定工程はそれぞれ独立に行うことができる。例えば、第1測定工程の前に、第2測定工程を行なってもよく、第1測定工程と同時に第2測定工程を行なってもよい。
【0123】
本実施形態に示すように、同じ測定対象物に阻害剤を添加していく方法は、用意する測定液を少なくできることと、試料間での差が生じ難いことから好ましい。一方、当該方法では、第3測定工程で第2ルシフェラーゼと第2ルシフェリンとの反応の阻害を生じさせるため、第3測定工程よりも前の第2測定工程で、第2ルシフェラーゼと第2ルシフェリンの反応が既に阻害されていないことが好ましい。
したがって、第2の阻害剤及び第1の阻害剤非存在下における、前記第2ルシフェラーゼと前記第2ルシフェリンの反応により生じた光Bの発光量を発光量B1とし、
第2の阻害剤が存在し、第1の阻害剤非存在下における、前記第2ルシフェラーゼと前記第2ルシフェリンの反応により生じた光Bの発光量を発光量B2とし、
第1の阻害剤が存在し、第2の阻害剤非存在下における、前記第2ルシフェラーゼと前記第2ルシフェリンの反応により生じた光Bの発光量を発光量B3としたとき、
光Bの発光量の低下率(B2/B1)と、光Bの発光量の低下率(B3/B1)とで、
前記(B2/B1)の値が、前記(B3/B1)の値よりも小さいことが好ましい。
【0124】
(識別工程)
本実施形態の光識別方法は、前記発光量L1の値と、前記発光量L2の値と、前記発光量L3の値とに基づいて、前記第1ルシフェラーゼと前記第1ルシフェリンとの反応により生じた光A、前記第2ルシフェラーゼと前記第2ルシフェリンとの反応により生じた光B、及び前記第3ルシフェラーゼと前記第3ルシフェリンとの反応により生じた光Cを識別する工程を含む。
【0125】
第2実施形態の識別工程は、上記第1実施形態の識別工程において、発光量L2に代えて発光量L3の値を用いた式を追加してさらに算出を行うことで、上記第1実施形態の識別工程と同様に実施でき、詳細な説明を省略する。
算出に用いる発光量の低下率としては、(A2/A1)、(B2/B1)、(C2/C1)、
(A3/A1)、(A3/A2)、(B3/B1)、(B3/B2)、(C3/C1)及び(C3/C2)が挙げられる。実際の測定対象に応じて適宜選択できる。活性阻害率が1であって発光量の低下が生じないことが値については、算出に使用しなくともよい。これらの値は、上記第1実施形態の識別工程と同様に、測定対象以外のルシフェリンを含まない条件において、予め求めることができる。
【0126】
光Bの発光量の低下率(B3/B2)と、光Cの発光量の低下率(C3/C2)は異なることが好ましい。これは第1の阻害剤がルシフェラーゼによって反応の阻害に特異性を有することを意味する。
光Bの発光量の低下率(B3/B2)と、光Cの発光量の低下率(C3/C2)との比の値は、大きいほうが好ましい。当該比の値が大きいと、阻害剤の効果が誤差範囲内となるおそれが低減され、光分離の精度をより向上させることができる。光Bの発光量の低下率(B3/B2)と、光Cの発光量の低下率(C3/C2)との比は、1.1倍以上、1.5倍以上、2倍以上、2.5倍以上、3倍以上、3.5倍以上、4倍以上、4.5倍以上、5倍以上、5.5倍以上、6倍以上、又は6.5倍以上が好ましく、7倍以上、7.5倍以上、8倍以上、又は8.5倍以上がより好ましく、9倍以上、9.5倍以上、10倍以上、15倍以上、又は20倍以上がさらに好ましい。
【0127】
≪物質の検出方法≫
本発明の物質の検出方法は、本発明の光識別方法を用いるものである。
検出とは、測定及び定量を含む。本発明の光識別方法は、従来ルシフェリン−ルシフェラーゼ反応により生じた光の検出を利用して行われてきた、物質の検出方法に幅広く用いることができる。
例えば、ホタルルシフェラーゼとホタルルシフェリンの発光反応は、ATP存在下でのみ生じる反応であるので、本発明の光識別方法を用いれば、測定対象物中のATPの存在を検出することができる。検出対象をATPとする場合、本発明の物質の検出方法の一実施形態としては、
以下の工程;
検出対象であるATPを含み得る被験試料、第1ルシフェラーゼ、第1発光物質である第1ルシフェリン、及び第2発光物質を含む測定対象物の、第1ルシフェラーゼと第1ルシフェリンとを反応させ、測定対象物から発せられた光の発光量L1を測定する第1測定工程、
前記第1ルシフェラーゼと前記第1ルシフェリンとの反応を阻害する前記第1阻害剤又は前記第2阻害剤と、測定対象物とを接触させて、第1ルシフェラーゼとルシフェリンとの反応によって生じる発光量を低下させ、測定対象物から発せられた発光量L2を測定する第2測定工程、
発光量L1の値と、発光量L2の値とに基づいて、第1ルシフェラーゼと第1ルシフェリンの反応により生じた光A、及び第2発光物質により生じた光Bを識別する識別工程、
を含むものとすることができる。
また、ATPと同様に、ATPase等の酵素活性の測定、ATPを生産する細胞の測定、微生物の測定等を行うことができる。
【0128】
第2発光物質は、発せられる光が検出対象である場合に限られない。例えば、第2発光物質は、検出対象でないノイズの発光であってもよい。本実施形態の光識別方法によれば、第1ルシフェラーゼと第1ルシフェリンの反応により生じた光Aと、第2発光物質により生じたノイズの光Bを識別でき、信頼度の高い光の検出が可能となる。
【0129】
本発明の物質の検出方法では、例えば、第1発光物質又は第2発光物質を標準物質(コントロール)としてもよいため、簡便で高精度に物質を検出することが可能となる。
【0130】
上記に挙げたATP以外にも、ルシフェリン−ルシフェラーゼ反応に必須な要素が反応系に存在することを検出対象とすることができる。ルシフェリン−ルシフェラーゼ反応に必須な要素としては、ATPの他、ルシフェリン、ルシフェラーゼ、Mg
2+、酸素が挙げられる。
【0131】
測定対象の物質がルシフェリン−ルシフェラーゼ反応に必須な上記要素を反応系に生じさせることを利用して、物質の検出を行ってもよい。例えば、検出対象の酵素が触媒する反応によってルシフェラーゼの基質となるルシフェリンが産生されるような反応系を測定対象物中に構築すれば、該酵素の存在を検出することが可能である。
【0132】
第1ルシフェラーゼが付加された検出対象物質、第1ルシフェリン、及び第2発光物質を含む測定対象物に対して本発明の光識別方法を行い、当該検出対象物質を検出する物質の検出方法を実施してもよい。
第1ルシフェラーゼが付加された検出対象物質としては、第1ルシフェラーゼとタンパク質との融合タンパク質が挙げられる。融合タンパク質は、第1ルシフェラーゼ遺伝子に任意のタンパク質の遺伝子が連結された融合遺伝子から合成されてもよい。タンパク質は、任意のタンパク質を用いてよく、例えばプロテインA、抗体等が挙げられる。
【0133】
検出対象物は第3発光物質を含んでもよい。第3発光物質としては、上記<光識別方法>において説明したものが挙げられる。
【0134】
≪レポーターアッセイ方法≫
本発明のレポーターアッセイ方法は、本発明の光識別方法を用いるものである。レポーターアッセイは、レポーターからのシグナルを介して、遺伝子の発現、遺伝子調節、細胞応答等を検出する手法である。本発明の光識別方法は、従来ルシフェリン−ルシフェラーゼ反応により生じた光の検出を利用して行われてきた、レポーターアッセイに幅広く用いることができる。
例えば、本発明の光識別方法における前記測定対象物が、遺伝子調節領域の下流に前記第1ルシフェラーゼ遺伝子が連結された融合遺伝子が導入され、前記第1ルシフェラーゼを発現している組み換え細胞又はその抽出物を含むものであってもよい。ここで、遺伝子調節領域とは、下流に連結された遺伝子の転写を制御可能な配列であればよく、例えば、プロモーター、エンハンサー、ホルモン応答配列等である。
ルシフェラーゼ遺伝子は、天然に存在する天然型の塩基配列を有するものであっても、天然型とは異なる塩基配列、修飾、付加等を有する突然変異型又は人為的改変型の塩基配列を有するものであってもよい。例えば、Luc2は、ホタルルシフェラーゼの哺乳類細胞での発現効率化を目的としてコドンが最適化されている。ルシフェリンについても、天然に存在する天然型の化合物であっても、ルシフェラーゼと反応して光を生み出すものであれば、天然型とは異なる構造を有する化合物であってもよい。
【0135】
組み換え細胞となる細胞としては、特に制限されず、植物細胞、動物細胞、昆虫細胞、酵母、真菌などの真核細胞が好ましく、植物細胞であることがより好ましい。植物細胞の形質転換体を得る場合、融合遺伝子が導入される細胞としては、植物体に再生可能なあらゆる種類の形態の植物細胞を含めることができる。例えば、培養細胞、プロトプラスト、苗条原基、多芽体、毛状根、カルス等が挙げられる。また、形質転換される植物種としては、特に限定されるものではなく、単子葉植物でも双子葉植物でもよいが、農作物あるいは園芸用作物であることが好ましい。たとえば、イネ、オオムギ、コムギ、ライムギ、トウモロコシ、サトウキビなどの穀類、じゃがいも、さつまいもなどの根茎又は塊根を形成する作物、インゲンマメ、ソラマメ、エンドウなどのマメ科植物、ピーナッツ、ごま、ナタネ、綿実、ヒマワリ、サフラワーなどの種子作物、リンゴ、メロン、ブドウなどの果実を有する作物、トマト、ナスなどの作物、各種花卉植物であることが好ましい。植物の形質転換体は、所定の再生工程を実施することで細胞を植物体に変換することができる。再生の方法は、植物の種類によって異なるが、各種公知の方法を使用できる。
【0136】
また、組み換え細胞としては、特に限定しないで全ての種類、形態の細胞を包含し、各種細胞の他、動植物個体、その動植物個体を構成しうる真核細胞、およびその一部である組織や器官ならびに生殖細胞を含む。また、ウイルス粒子も包含する。さらに、また植物個体の一部であるその繁殖媒体(種子、根茎、果実、切穂等)も包含する。
【0137】
検出対象物は第2発光物質を含む。第2発光物質としては、光を発する物質であれば特に制限されず、上記<光識別方法>において説明したものを同様に用いることができる。
【0138】
本発明のレポーターアッセイ方法において、前記測定対象物は、例えば、遺伝子調節領域の下流に前記第1ルシフェラーゼ遺伝子が連結された融合遺伝子が導入され、さらに、遺伝子調節領域の下流にレポーター遺伝子が連結された融合遺伝子が導入され、前記第1ルシフェラーゼ及び前記レポーター遺伝子を発現している組み換え細胞又はその抽出物を含むものであってもよい。
レポーター遺伝子としては、GFP等の蛍光タンパク質、ルシフェラーゼが挙げられ、ルシフェラーゼまたはそれらの融合タンパク質であることが好ましい。ルシフェラーゼとしては、上記と同様のものが挙げられる。
よって、前記検出対象物は、遺伝子調節領域の下流に前記第1ルシフェラーゼ遺伝子が連結された融合遺伝子が導入され、さらに、遺伝子調節領域の下流に前記第2ルシフェラーゼ遺伝子が連結された融合遺伝子が導入され、前記第1ルシフェラーゼ及び前記第2ルシフェラーゼを発現している組み換え細胞又はその抽出物を含むものであってもよい。遺伝子調整領域としては、上記と同様のものが挙げられる。以下に本発明のレポーターアッセイ方法の実施態様の一例を示す。
【0139】
まず、遺伝子発現量を測定したい目的遺伝子の遺伝子調節領域を第1ルシフェラーゼ遺伝子の上流に連結し、第1ルシフェラーゼ融合遺伝子を得る。第1ルシフェラーゼ融合遺伝子は、該遺伝子を測定対象物の細胞内で発現可能な発現ベクターとして構築されていてもよい。同様に、内部コントロールとしたい遺伝子の遺伝子調節領域を第2ルシフェラーゼ遺伝子の上流に連結し、第2ルシフェラーゼ融合遺伝子を得る。第2ルシフェラーゼ融合遺伝子は、該遺伝子を測定対象物の細胞内で発現可能な発現ベクターとして構築されていてもよい。
前記発現ベクターは、染色体外で自律複製できるものの他、染色体組込み型ベクターとして構築されていてもよい。また、形態としては、線状の断片、プラスミド、コスミド、ファージ、ウイルス、トランスポゾン、酵母人工染色体(YAC)や植物人工染色体(PAC)、哺乳類人工染色体(MAC)等を採ることができる。これらの中でも、プラスミドベクターが好ましい。
【0140】
第1ルシフェラーゼ融合遺伝子及び第2ルシフェラーゼ融合遺伝子を細胞に導入する。
当該融合遺伝子の細胞への導入方法は、常法により行えばよく、エレクトロポレーション、遺伝子銃等の物理的手段、アグロバクテリウム法等による生物的手段を用いることが挙げられる。必要により細胞をインキュベートし、第1ルシフェラーゼ及び第2ルシフェラーゼを発現させる。
次いで、該細胞を前記第1ルシフェラーゼ及び第2ルシフェラーゼと反応するルシフェリンを含む溶液に浸し、細胞内にルシフェリンを導入する。このようにして、第1ルシフェラーゼ、第1発光物質である第1ルシフェリン、及び第2発光物質であるルシフェリン、前記ルシフェリンと反応させる第2ルシフェラーゼを含む測定対象物である細胞を得ればよい。
次いで、本発明の光識別方法に係る第1測定工程、第2測定工程及び識別工程を行い、第1ルシフェリンの反応により生じた光Aと第2ルシフェリンにより生じた光Bを識別する。例えば、光Aは目的遺伝子の遺伝子発現を表し、光Bは内部コントロールの遺伝子の遺伝子発現を表す。
【0141】
検出対象物は第3発光物質を含んでもよい。第3発光物質としては、上記<光識別方法>において説明したものが挙げられる。
【0142】
検出対象物が、さらに遺伝子調節領域の下流に前記第3ルシフェラーゼ遺伝子が連結された融合遺伝子が導入され、前記第1ルシフェラーゼ、前記第2ルシフェラーゼ、及び前記第3ルシフェラーゼを発現している組み換え細胞又はその抽出物を含むものであってもよい。
この場合、上記第2実施形態の光識別方法に係る第1測定工程、第2測定工程、第3測定工程及び識別工程を行い、第1ルシフェリンの反応により生じた光Aと第2ルシフェリンにより生じた光Bと、第3ルシフェリンにより生じた光Cを識別する。例えば、光Aと光Bは目的遺伝子の遺伝子発現を表し、光Cは内部コントロールの遺伝子の遺伝子発現を表すものであってもよい。
【0143】
なお、上述の例では、レポーターアッセイの検出の対象は目的遺伝子の発現量であり、目的遺伝子調節領域の下流に前記第1ルシフェラーゼ遺伝子が連結される場合を例示したが、例えば、上述の目的遺伝子の調節領域に代えて、各種細胞応答又はシグナル伝達に係る因子の遺伝子調節領域とすることで、細胞応答、シグナル伝達等の細胞情報を取得することができる。細胞情報の例としては、免疫応答、アポトーシス、細胞毒性、細胞増殖、細胞分化、細胞周期等が挙げられる。
【0144】
実施形態のレポーターアッセイ方法によれば、例えば、第1発光物質を検出対象、第2発光物質を標準物質(コントロール)、第3発光物質をノイズの発光物質とすることも可能であり、簡便で高精度に物質を検出することが可能となる。
【0145】
本発明のレポーターアッセイ方法は、他のルシフェラーゼアッセイ方法と組み合わせて用いることができる。例えば、本発明の光識別方法を用いた本発明のレポーターアッセイ方法に加えて、DLRAを行うことを例示できる。例えば、本発明の光識別方法において反応させる第1ルシフェラーゼとは異なるルシフェリンを基質とする第3ルシフェラーゼが測定対象物に含有されており、本発明の光識別方法を行った測定対象物に、第3ルシフェラーゼ用の反応溶液及び第3ルシフェラーゼと反応させるルシフェリンを添加し、第3ルシフェラーゼとルシフェリンとを反応させる。
図2には、第3ルシフェラーゼとしてRlucを用いる場合を例示する。このようにして、識別して検出可能な光の種類を増やすことができる。
【0146】
≪スクリーニング方法≫
更には、本発明のレポーターアッセイ方法を用いることで、化合物の細胞に与える影響を評価することや、生理活性物質、薬物等のスクリーニングを行うことも可能である。
以下に、免疫応答に係る生理活性物質のスクリーニングを行う場合について説明する。
【0147】
例えば、まず、細胞に免疫応答関連因子の遺伝子調節領域の下流に前記第1ルシフェラーゼ遺伝子が連結された融合遺伝子を導入し、さらに、内部コントロールとする遺伝子の遺伝子調節領域の下流に前記第2ルシフェラーゼ遺伝子が連結された融合遺伝子を導入し、前記第1ルシフェラーゼ及び前記第2ルシフェラーゼを発現している組み換え細胞を用意する。続いて、生理活性物質であることが疑われる被験物質と当該組み換え細胞とを接触させ、ルシフェリンと当該組み換え細胞とを接触させる。被験物質としては特に制限はなく、例えば、ペプチド、タンパク質、非ペプチド性化合物、低分子化合物、合成化合物、等が挙げられる。被験物質と細胞との接触は、被験物質を含む被験試料と細胞との接触であってもよい。被験試料としては特に制限はなく、例えば、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液等である。被験物質が免疫応答に係る生理活性物質である場合には、第1ルシフェラーゼが細胞内に発現が誘導され、ルシフェリンは第1ルシフェラーゼ及び第2ルシフェラーゼと反応する。
次いで、本発明の光識別方法に係る第1測定工程、第2測定工程及び識別工程を行い、第1ルシフェリンの反応により生じた光Aと第2ルシフェリンにより生じた光Bを識別する。光Aは免疫応答関連因子の遺伝子発現を表し、光Bは内部コントロールの遺伝子の遺伝子発現を表す。そして、例えば、予め被験物質の非存在下で同様のアッセイを行って光A及び光Bの発光量を取得しておき、被験物質の存在下と非存在下での光A及び光Bの発光量の変化に基づいて、被験物質が免疫応答に係る生理活性物質であるかを判別して被験物質を選択すればよい。例えば、被験物質を組み換え細胞と接触させない場合の光Bの発光量により補正した後の光Aの発光量と比較して、光Bの発光量により補正した後の光Aの発光量を増加させる被験物質を、免疫応答に係る生理活性物質の候補として選択すればよい。
【0148】
検出対象物は第3発光物質を含んでもよい。第3発光物質としては、上記<光識別方法>において説明したものが挙げられる。
この場合、上記第2実施形態の光識別方法に係る第1測定工程、第2測定工程、第3測定工程及び識別工程を行い、第1ルシフェリンの反応により生じた光Aと第2ルシフェリンにより生じた光Bと、第3発光物質により生じた光Cを識別する。例えば、光Aは免疫応答関連因子の遺伝子発現を表し、光Bは内部コントロールの遺伝子の遺伝子発現を表し、光Cはノイズ発光物質由来の光を表すものであってもよい。
【0149】
本発明のスクリーニング方法によれば、例えば、第1発光物質を検出対象、第2発光物質を標準物質(コントロール)、第3発光物質をノイズの発光物質とすることも可能であり、簡便で高精度に物質を検出することが可能となる。
【0150】
≪キット≫
本発明のキットは、本発明の光識別方法、本発明の物質の検出方法、又は、本発明のレポーターアッセイ方法を行うためのキットであって、前記第1ルシフェラーゼと前記第1ルシフェリンとの反応を阻害する阻害剤を備えるものである。キットは、前記第2ルシフェラーゼと前記第2ルシフェリンとの反応を阻害する阻害剤を更に備えてもよい。
当該阻害剤は、上述の≪阻害剤≫及び≪光識別方法≫で説明した阻害剤を好適なものとして例示できる。
本発明のキットは、上記阻害剤の他に、ルシフェリン−ルシフェラーゼ反応のためのバッファー及び試薬類、反応容器および取扱い説明書を備えていてもよい。
バッファーは、ルシフェリン−ルシフェラーゼ反応の反応系となる液のpHを、ルシフェリン−ルシフェラーゼ反応に適したpHに保つ役割を有する。バッファーの種類は、反応させるルシフェリン、ルシフェラーゼの種類及び測定対象物の種類にあわせて当業者が適宜選択することができる。バッファーにはルシフェリン等の試薬が予め含まれていてもよい。
【0151】
本発明のキットは、遺伝子調節領域の下流に前記第1ルシフェラーゼ遺伝子が連結された融合遺伝子を備えていてもよく、さらに、遺伝子調節領域の下流に前記第2ルシフェラーゼ遺伝子が連結された融合遺伝子を備えていてもよく、さらに遺伝子調節領域の下流に前記第3ルシフェラーゼ遺伝子が連結された融合遺伝子を備えていてもよい。上記融合遺伝子は、該遺伝子を測定対象物の細胞内で発現可能な発現ベクターとして構築されていてもよい。
或いは、本発明のキットは、検出対象の遺伝子の遺伝子調節領域の下流に前記第1ルシフェラーゼ遺伝子が連結された融合遺伝子を構築するためのベクターを備えていてもよく、検出対象の遺伝子の遺伝子調節領域の下流に前記第1ルシフェラーゼ遺伝子が連結された融合遺伝子を構築するためのベクター、及び検出対象の遺伝子の遺伝子調節領域の下流に前記第2ルシフェラーゼ遺伝子が連結された融合遺伝子を構築するためのベクターを備えていてもよい。遺伝子調節領域の下流に前記第1ルシフェラーゼ遺伝子が連結された融合遺伝子を構築するためのベクターの一例としては、第1ルシフェラーゼタンパク質をコードする第1ルシフェラーゼ遺伝子を含むものであり、第1ルシフェラーゼ遺伝子の上流に検出対象の遺伝子の遺伝子調節領域を挿入することにより、融合遺伝子を構築することができる。
また、本発明のキットは、免疫応答、アポトーシス、細胞毒性、細胞増殖、細胞分化、細胞周期等の細胞情報を取得するために用いられる試薬類をさらに備えていてもよい。
【実施例】
【0152】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
各反応液中のルシフェラーゼに対する各阻害剤の量は、非特異的な発光活性の低下が観察できない程度の濃度で行った。
【0153】
<各種ルシフェラーゼに対する、化合物A〜Cの反応阻害効力の比較>
ルシフェラーゼは、Luc2、Fluc、CBR、CBGの計4種を用意した。これらのうち、Luc2とFlucはcDNAの塩基配列は異なるが、アミノ酸配列は同一である。
各ルシフェラーゼは、TnT(登録商標) Coupled Reticulocyte Lysate Systems(プロメガ社製)によって、添付の説明書に沿って合成し、ルシフェラーゼ含有溶液(RLL extract)を得た。RLL extractのルシフェラーゼ活性を測定し、各ルシフェラーゼが合成されたことを確認した。また、大腸菌を用いた組換えタンパク質を用いる場合は、大腸菌BL21(DE3)株にプラスミドDNA(pET30-CBG,pET30-CBR,pET30-luc2,pET30-Fluc)を導入した形質転換大腸菌を用いた。新しく画線培養したプレートから単一コロニーを採取し、カナマイシンを含むLB培地2 mlに植菌して、37℃,170 rpmで16時間振とう培養した。 培養液1 mlを、カナマイシンを含む新しい培地50 mlに植菌し、OD600が0.6〜0.8に達するまで、37℃,200 rpmで振とう培養した。100 mM IPTG(イソプロピル-β-チオガラクトピラノシド)を最終濃度が1 mMとなるように加え、28℃,200 rpmでさらに3時間培養を続けた。5分間氷中で静置した後、遠心分離(6,000rpm,5min,4℃)によって集菌し、上清を除去した。1 mlの1×Passive Lysis Buffer(Promega社)を加え、測定時は適宜希釈して用いた。
測定バッファーは、Dual luciferase Assay kit(プロメガ社製)に添付のLARIIバッファーを用いた。LARIIバッファーには、D−ルシフェリンが含有されている。
反応容器に、上記で得た各ルシフェラーゼ含有溶液(RLL extract)2.5μL、測定バッファー50μLを加えて混合し、反応溶液(阻害剤(−))を調製した。上記で得た各ルシフェラーゼ含有溶液(RLL extract)2.5μL、測定バッファー50μL、化合物A,B,又はCのDMSO溶液3μLを加えて混合し、反応溶液(阻害剤(+))を調製した。このようにして、計24種(化合物3種×ルシフェラーゼ4種×阻害剤有無)の反応溶液を用意した。
化合物Aは、上記式(A−1−1)で表される化合物である。化合物Bは、上記式(B−1−1)で表される化合物である。化合物Cは、上記式(C−1−2)で表される化合物である。
各反応溶液中の各化合物の終濃度は、いずれも2μMとなるように調整した。反応溶液中でのルシフェリン−ルシフェラーゼ反応により生じた発光をルミノメーター(AB−2270、アトー社製)により測定した。
【0154】
測定結果を
図4に示す。
図4(a)、(b)、(c)、(d)のグラフはそれぞれ、Luc2、Fluc、CBR、CBGの、阻害剤(−)の反応溶液から得られた発光量を1としたときの、相対発光活性を示す。
化合物A〜Cは、緑色発光型ルシフェラーゼであるCBGの発光活性にはあまり影響しなかった。
化合物A及び化合物Cは、Luc2、Fluc、及びCBRの相対発光活性を0.3未満に低下させた。化合物Bは、Luc2及びFlucの相対発光活性を0.4未満に低下させ、CBRの相対発光活性を0.8未満に低下させた。
【0155】
<デュアルアッセイでの発光活性分離精度の検証>
(CBRとCBGの混合溶液を用いたデュアルアッセイ)
上記と同様にして、CBR含有溶液及びCBG含有溶液を得た。次いで、2種類のルシフェラーゼCBRとCBGを、
図5に示す4パターンの比率(モル)で混合し、混合溶液を作製した。
混合溶液におけるCBR及びCBGの発光量の理論値を、それぞれ
図5に示す式から算出した。式中、CBRとCBGの混合比が、CBR:CBG=α:β(α+β=5)である。CBRの発光量は、CBR単独での反応での発光量の測定結果から予め求めた、混合比1単位あたりのCBRの発光量である。式中のCBGの発光量は、CBG単独での反応での発光量の測定結果から予め求めた、混合比1単位あたりのCBGの発光量である。
【0156】
反応容器に、上記で得た4パターンのCBRとCBGとの混合溶液2.5μL、測定バッファー50μLを加えて混合し、反応溶液を調製した。
各反応溶液から発せられた発光量(発光量L1)をルミノメーター(AB−2270、アトー社製)により測定した。次いで、各反応溶液に化合物A、B又はCを添加し、各反応溶液から発せられた発光量(発光量L2)を、ルミノメーターを用いて発光を測定した。各反応溶液中の化合物の終濃度は、いずれも2μMとなるように調整した。
【0157】
化合物Aによる、CBRとD−ルシフェリンとの反応による発光の発光量の低下率と、CBGとD−ルシフェリンとの反応による発光の発光量の低下率が100%(阻害なし)として、各反応液中の阻害剤非存在下におけるCBRとD−ルシフェリンとの反応による発光量、及びCBGとD−ルシフェリンとの反応による発光の発光量をそれぞれ求めた。これを化合物Aによる、CBR又はCBGの発光量の測定値とした。
【0158】
化合物Bによる、CBRとD−ルシフェリンとの反応による発光の発光量の低下率と、CBGとD−ルシフェリンとの反応による発光の発光量の低下率が100%(阻害なし)として、化合物Bによる、CBR及びCBGの発光量の測定値を求めた。これを化合物Bによる、CBR又はCBGの発光量の測定値とした。
【0159】
化合物Cによる、CBRとD−ルシフェリンとの反応による発光の発光量の低下率と、CBGとD−ルシフェリンとの反応による発光の発光量の低下率が100%(阻害なし)として、化合物Cによる、CBR及びCBGの発光量の測定値を求めた。これを化合物Cによる、CBR又はCBGの発光量の測定値とした。
【0160】
また、各反応溶液から発せられた発光量(発光量L1)をルミノメーターにより測定する代わりに、偏光フィルターを使用するDCLA法により、CBR由来の光の発光量と、CBG由来の光の発光量をそれぞれ測定した。
【0161】
結果を
図6に示す。
図6(a)〜(c)は、CBR及びCBGの発光量の理論値と、化合物A〜Cを用いて測定されたCBR及びCBGの発光量の測定値とを比較したグラフである。
図6(d)は、CBR及びCBGの発光量の理論値と、偏光フィルターを用いて測定されたCBR及びCBGの発光量の測定値とを比較したグラフである。
発光量の理論値との整合について比較すると、阻害剤を用いて測定されたCBG及びCBRの発光量の測定値は、偏光フィルターを使用するDCLA法により測定されたCBG及びCBRの発光量の測定値と同程度に、理論値との整合がみられた。
以上のことから、測定対象物からCBRとD−ルシフェリンとの反応による光とCBGとD−ルシフェリンとの反応による光とを区別せずに検出した場合であっても、発光量L1の値と、発光量L2の値とに基づいて両光を識別でき、2種類のルシフェラーゼを用いたデュアルアッセイを実施可能であることが実証された。
当該デュアルアッセイは、従来広く用いられているDCLA法と同等の測定精度を有することが示された。
【0162】
<デュアルアッセイでの発光活性分離精度の検証>
(FlucとCBGの混合溶液を用いたデュアルアッセイ)
上記の、CBRとCBGの混合溶液を用いたデュアルアッセイで行った方法において、CBRの代わりにFlucを用いたこと以外は同様にして、デュアルアッセイを行った。
【0163】
化合物Aによる、FlucとD−ルシフェリンとの反応による発光の発光量の低下率と、CBGとD−ルシフェリンとの反応による発光の発光量の低下率が100%(阻害なし)として、各反応液中の阻害剤非存在下におけるFlucとD−ルシフェリンとの反応による発光量、及びCBGとD−ルシフェリンとの反応による発光の発光量をそれぞれ求めた。これを化合物Aによる、Fluc又はCBGの発光量の測定値とした。
【0164】
化合物Bによる、FlucとD−ルシフェリンとの反応による発光の発光量の低下率と、CBGとD−ルシフェリンとの反応による発光の発光量の低下率が100%(阻害なし)として、化合物Bによる、Fluc及びCBGの発光量の測定値を求めた。これを化合物Bによる、Fluc又はCBGの発光量の測定値とした。
【0165】
化合物Cによる、FlucとD−ルシフェリンとの反応による発光の発光量の低下率と、CBGとD−ルシフェリンとの反応による発光の発光量の低下率が100%(阻害なし)として、化合物Cによる、Fluc及びCBGの発光量の測定値を求めた。これを化合物Cによる、Fluc又はCBGの発光量の測定値とした。
【0166】
なお、DCLA法では、Fluc由来の光とCBG由来の光とを分離するのは難しく、DCLA法は使用できなかった。
【0167】
結果を
図7に示す。
図7(a)〜(c)は、Fluc及びCBGの発光量の理論値と、化合物A〜Cを用いて測定されたFluc及びCBGの発光量の測定値とを比較したグラフである。阻害剤を用いて測定されたFluc及びCBGの発光量の測定値は、発光量の理論値に対して非常に優れた整合がみられた。
以上のことから、測定対象物からFlucとD−ルシフェリンとの反応による光と、CBGとD−ルシフェリンとの反応による光とを区別せずに検出した場合であっても、発光量L1の値と、発光量L2の値とに基づいて両光を識別でき、2種類のルシフェラーゼを用いたデュアルアッセイを実施可能であることが実証された。
FlucとCBGの組み合わせのデュアルアッセイは、従来の偏光フィルターを使用するDCLA法では実施が難しかった。一方、本発明に係る阻害剤を利用したアッセイ方法によれば、従来の偏光フィルターを使用するDCLA法では識別の難しい組み合わせのデュアルアッセイを、精度よく実施可能であることが実証された。
【0168】
<各種ルシフェラーゼに対する、化合物A,Dの反応阻害効力の比較>
ルシフェラーゼは、FlucとCBRとCBGの計3種を用意した。
各ルシフェラーゼは、TnT(登録商標) Coupled Reticulocyte Lysate Systems(プロメガ社製)によって、添付の説明書に沿って合成し、ルシフェラーゼ含有溶液(RLL extract)を得た。RLL extractのルシフェラーゼ活性を測定し、各ルシフェラーゼが合成されたことを確認した。
測定バッファーは、Dual luciferase Assay kit(プロメガ社製)に添付のLARIIバッファーを5倍希釈で用いた。LARIIバッファーには、D−ルシフェリンが含有されている。
【0169】
反応容器に、上記で得た各ルシフェラーゼ含有溶液(RLL extract)、測定バッファーを加えて混合し、反応溶液(阻害剤(−))を調製した。上記で得た各ルシフェラーゼ含有溶液(RLL extract)、測定バッファー、化合物A又は化合物DのDMSO溶液を加えて混合し、反応溶液(阻害剤(+))を調製した。反応溶液中の化合物Aの終濃度は1μMとなるように調整した。反応液中の化合物Dの終濃度は2μMとなるように調整した。このようにして、計12種(化合物2種×ルシフェラーゼ3種×阻害剤有無)の反応溶液を用意した。
化合物Aは、上記式(A−1−1)で表される化合物である。化合物Dは、上記式(D−1−1)で表される化合物である。
各反応溶液から発せられた発光量を、ルミノメーター(Luminescenser−Octa、アトー社製)により測定した。
【0170】
測定結果を
図8に示す。
図8のグラフはそれぞれ、Fluc、CBR、CBGの、阻害剤(−)の反応溶液から得られた発光量を1としたときの、相対発光活性を示す。
化合物Aは、緑色発光型ルシフェラーゼであるCBGの発光活性にはあまり影響しなかった。化合物Aは、Fluc及びCBRの相対発光活性を0.02未満に低下させた。
化合物Dは、Fluc及びCBGの発光活性にはあまり影響しなかった。化合物Dは、CBRの相対発光活性を0.4未満に低下させ、CBRの相対発光活性を0.01未満に低下させた。
【0171】
<FlucとCBRとCBGとの混合溶液を用いたトリプルアッセイ>
反応容器に、上記で得た各ルシフェラーゼ含有溶液(RLL extract)を用い、FlucとCBRとCBGの各ルシフェラーゼが下記表に示す13パターンの比率(モル)となるよう、測定バッファー50μLと混合し、13種の反応溶液(阻害剤(−))を用意した。
各反応溶液から発せられた発光量(L1)を、ルミノメーター(Luminescenser−Octa、アトー社製)により測定した。
【0172】
【表1】
【0173】
次いで、各反応溶液(阻害剤(−))に化合物DのDMSO溶液を加えて混合し、反応溶液(阻害剤(+))を調整した、化合物Dは、上記式(D−1−1)で表される化合物である。各反応溶液中の化合物Dの終濃度は、2μMとなるように調整した。
各反応溶液から発せられた発光量(L2)、ルミノメーター(Luminescenser−Octa、アトー社製)により測定した。
【0174】
次いで、各反応溶液(阻害剤(+))に化合物AのDMSO溶液を加えて混合し、反応溶液(阻害剤(++))を調整した、化合物Aは、上記式(A−1−1)で表される化合物である。各反応溶液中の化合物Aの終濃度は、1μMとなるように調整した。
各反応溶液から発せられた発光量(L3)、ルミノメーター(Luminescenser−Octa、アトー社製)により測定した。
【0175】
上記の「デュアルアッセイでの発光活性分離精度の検証」と同様にして、化合物A及び化合物Dによる、各ルシフェラーゼとD−ルシフェリンとの反応による発光の発光量の低下率から、FlucとCBRとCBGの発光量の測定値を求めた。実験は3反復行った。
【0176】
結果を
図9〜11に示す。FlucとCBRとCBGの反応溶液中の混合比と、化合物A及びDを用いて測定されたCBR及びCBGの発光量の測定値を示すグラフである。
上記混合比と、上記発光量の測定値に相関がみられた。このことから、測定対象物からFlucとD−ルシフェリンとの反応による光と、CBRとD−ルシフェリンとの反応による光と、CBGとD−ルシフェリンとの反応による光と、を区別せずに検出した場合であっても、発光量L1の値と、発光量L2の値と、発光量L3の値とに基づいて各光を識別でき、3種類のルシフェラーゼを用いたトリプルアッセイを実施可能であることが実証された。
【0177】
以上で説明した各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。