(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第一の表層パターン及び前記第二の表層パターンは、前記貫通ビアホールのうち、渦巻きの外周側の前記端部に設けられる前記貫通ビアホールを介して前記内層パターンに接続される、請求項4に記載の磁気部品。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本開示が解決しようとする課題]
多層のパターンコイルを備えるコイル部と、磁性コアとの間の電気絶縁性を高めることが望まれている。
【0008】
特許文献1は、絶縁基板の表面に設けられるパターンコイルの表面を絶縁膜で覆って保護することを開示する。この絶縁膜は、レジスト層と呼ばれるものである。レジスト層は、一般に、パターンコイル等の印刷配線箇所を保護するための層である。レジスト層は、樹脂で構成されるものの、パターンコイルと磁性コアとの間の電気的な絶縁を保証しない。そのため、高圧用途、例えば使用電圧が200V以上といった用途では、特に絶縁基板の表面に設けられるパターンコイルにおいて磁性コアに近接して配置される箇所と、磁性コアとの間で短絡が生じることが懸念される。
【0009】
そこで、本開示は、パターンコイルと磁性コアとの間の電気絶縁性に優れる磁気部品を提供することを目的の一つとする。また、本開示は、パターンコイルと磁性コアとの間の電気絶縁性に優れる回路構成体を提供することを別の目的の一つとする。
【0010】
[本開示の効果]
本開示の磁気部品、及び本開示の回路構成体は、パターンコイルと磁性コアとの間の電気絶縁性に優れる。
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
(1)本開示の一形態に係る磁気部品は、
ターンを有するコイル部と、
磁性コアと、
絶縁構造と、を備え、
前記磁性コアは、前記ターンの内側及び前記ターンの外側に配置され、
前記コイル部は、絶縁基板に設けられた多層のパターンコイルを備え、
前記パターンコイルは、第一の表層パターンと第二の表層パターンとを備え、
前記第一の表層パターンは、前記絶縁基板の第一面に設けられ、
前記第二の表層パターンは、前記絶縁基板において前記第一面に向かい合う第二面に設けられ、
前記第一の表層パターンの前記ターンは、前記磁性コアに重複して配置されず、前記磁性コアの外側に配置され、
前記第二の表層パターンの前記ターンの一部は、前記磁性コアに重複して配置され、
前記絶縁構造は、前記磁性コアにおいて前記第二の表層パターンの前記ターンが重複して配置される箇所と前記絶縁基板との間に設けられる。
【0012】
第一の表層パターンが磁性コアに重複して配置される箇所を有すると共に第一の表層パターンの表面及び第二の表層パターンの表面がレジスト層に覆われるのみである磁気部品に比較して、本開示の磁気部品は、パターンコイルと磁性コアとの間の電気絶縁性に優れる。この理由として、以下の(A),(B)が挙げられる。
【0013】
(A)第一の表層パターンは、磁性コアに重複して配置される箇所を有さない。
【0014】
(B)第二の表層パターンのうち、磁性コアに重複して配置される箇所と、磁性コアとの間において、絶縁基板の厚さ方向に沿った電気絶縁距離が絶縁構造によって確保される。以下、絶縁基板の厚さ方向に沿った電気絶縁距離を垂直方向の絶縁距離と呼ぶことがある。なお、絶縁基板の厚さ方向は、パターンコイルの積層方向に等しい。
【0015】
このような本開示の磁気部品は、第一の表層パターンの表面及び第二の表層パターンの表面がレジスト層で覆われるのみであっても、上述の高圧用途において、第一の表層パターンと磁性コアとの間及び第二の表層パターンと磁性コアとの間で短絡が生じ難い。また、本開示の磁気部品は、第二の表層パターンに対する絶縁構造を有すればよく、第一の表層パターンに対する絶縁構造を省略できる。その結果、パターンコイルの積層方向に沿った大きさを小さくできる点で、本開示の磁気部品は小型である。部品点数又は組立工程数を少なくできる点で、本開示の磁気部品は製造性にも優れる。
【0016】
(2)本開示の磁気部品の一例として、
前記第一の表層パターンのターン数は、0.2ターン以上0.8ターン以下である形態が挙げられる。
【0017】
上記形態は、電気絶縁性に優れつつ、一つのコイル部における総ターン数が多い。
【0018】
(3)本開示の磁気部品の一例として、
前記パターンコイルは、一層以上の内層パターンを備え、
前記一層以上の内層パターンは、前記第一の表層パターン及び前記第二の表層パターンより前記絶縁基板の厚さ方向の内側に設けられる形態が挙げられる。
【0019】
上記形態では、内層パターンと磁性コアとの間において、絶縁基板の表面方向に沿った電気絶縁距離が絶縁基板によって確保される。また、上記形態は、一つのコイル部における総ターン数をより多く有することができる。以下、絶縁基板の表面方向に沿った距離及び電気絶縁距離をそれぞれ、水平方向の距離、水平方向の絶縁距離と呼ぶことがある。
【0020】
(4)上記(3)の磁気部品の一例として、
前記一層以上の内層パターンは、渦巻き状の前記ターンと、この渦巻き状の前記ターンにおける二つの端部のそれぞれに設けられる貫通ビアホールとを備え、
前記貫通ビアホールのうち、渦巻きの内周側の前記端部に設けられる前記貫通ビアホールは、この端部の周縁のうち、前記磁性コアから離れる側の箇所に偏って設けられている形態が挙げられる。
【0021】
上記形態では、内周側の貫通ビアホールが磁性コアに近づいて設けられている場合に比較して、貫通ビアホールと磁性コアとの間における水平方向の距離が長く確保される。この点で、上記形態は、パターンコイルと磁性コアとの間の電気絶縁性により優れる。
【0022】
(5)上記(4)の磁気部品の一例として、
前記第一の表層パターン及び前記第二の表層パターンは、前記貫通ビアホールのうち、渦巻きの外周側の前記端部に設けられる前記貫通ビアホールを介して前記内層パターンに接続される形態が挙げられる。
【0023】
上記形態は、第一の表層パターン及び第二の表層パターンに設けられる貫通ビアホールが磁性コアから離れて配置されるといえる。この点で、上記形態は、パターンコイルと磁性コアとの間の電気絶縁性により優れる。
【0024】
(6)本開示の一形態に係る回路構成体は、
上記(1)から(5)のいずれか一つの磁気部品と、
前記絶縁基板及び前記磁性コアが載置される台座部とを備える。
【0025】
本開示の回路構成体は、本開示の磁気部品を備えるため、上述の理由によって、パターンコイルと磁性コアとの間の電気絶縁性に優れる。台座部の構成材料が金属等の熱伝導性に優れる材料であれば、本開示の回路構成体は、放熱性にも優れる。
【0026】
(7)本開示の回路構成体の一例として、
前記台座部は、前記磁性コアの一部が収納される凹部を備え、
前記絶縁構造の一部は、前記台座部において前記第二の表層パターンの前記ターンが重複して配置される箇所と前記絶縁基板との間に設けられる形態が挙げられる。
【0027】
上記形態は、台座部の構成材料が金属である場合でも、パターンコイルと台座部との間の電気絶縁性に優れる。
【0028】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、図面を参照しつつ、本開示の実施形態を具体的に説明する。図中の同一符号は同一名称物を示す。
【0029】
[実施形態1]
図1から
図6を参照して、実施形態1の磁気部品1、及び実施形態1の回路構成体10を説明する。
図1は、実施形態1の磁気部品1及び実施形態1の回路構成体10をパターンコイル20の積層方向に平行な平面で切断した断面図である。
図2から
図5は、磁気部品1に備えられる各パターンコイル20を示し、その他の構成部材を省略している。また、
図2から
図5は、磁性コア3の一部を二点鎖線で仮想的に示す。
なお、各図面は、説明の便宜上、構成部材を簡略化して示す。
【0030】
(概要)
実施形態1の磁気部品1は、
図1に示すようにコイル部2と磁性コア3とを備える。コイル部2は、多層のパターンコイル20を備える。各パターンコイル20は、回路基板6を構成する絶縁基板60に設けられた箔状の導電路である。コイル部2は、少なくとも一つの環状のターン200を有する。磁性コア3の一部、ここでは磁脚311,312は環状のターン200を挿通する(
図3から
図5参照)。このような磁性コア3は、コイル部2の磁路として機能する。実施形態1の回路構成体10は、磁気部品1を備える。
【0031】
パターンコイル20は、第一の表層パターン21と第二の表層パターン22とを備える。絶縁基板60は、第一面601及び第二面602を備える。第一面601と第二面602とは、互いに向かい合う。第一の表層パターン21は、第一面601に設けられる。第二の表層パターン22は、第二面602に設けられる。以下、第一の表層パターン21と第二の表層パターン22とをまとめて、表層パターン21,22と呼ぶことがある。
【0032】
特に、実施形態1の磁気部品1では、二つの表層パターン21,22のうち、
図1では上方に位置する第一の表層パターン21のターン200は、磁性コア3に重複して配置されない。第一の表層パターン21のターン200は、磁性コア3の外側に配置される(
図2も参照)。
図1では下方に位置する第二の表層パターン22のターン200の一部は、磁性コア3に重複して配置される(
図5も参照)。実施形態1の磁気部品1は、更に、絶縁構造4を備える。絶縁構造4は、磁性コア3において、第二の表層パターン22のターン200が重複して配置される箇所と、絶縁基板60との間に設けられる。このような磁気部品1では、第一の表層パターン21は、磁性コア3に対して、絶縁基板60の厚さ方向に沿った電気的な絶縁距離を確保しなくてよい。第二の表層パターン22は、絶縁構造4によって、磁性コア3に対して、絶縁基板60の厚さ方向に沿った電気的な絶縁距離を確保できる。なお、上記厚さ方向は、
図1では上下方向である。また、上記厚さ方向は、パターンコイル20の積層方向に相当する。
以下、より詳細に説明する。
【0033】
(磁気部品)
まず、磁気部品1に関して、コイル部2及び絶縁基板60を備える回路基板6の概要、コイル部2の概要、磁性コア3の概要を説明する。次に、コイル部2の詳細、コイル部2と磁性コア3との位置関係、絶縁構造4を順に説明する。
その後、回路構成体10を説明する。
【0034】
〈回路基板〉
回路基板6は、代表的には、多層の箔状の導電路と、絶縁基板60とを備える印刷回路基板(PCB)である。
【0035】
《導電路》
導電路は、例えば銅等の金属で構成される。導電路は、公知の印刷配線技術によって形成することが挙げられる。導電路の表面には、図示しないめっき層が設けられてもよい。本例では、表層パターン21,22の表面にめっき層が設けられている。めっき層は、例えば、表層パターン21,22の厚さを増すこと、後述する貫通ビアホール27自体の導電経路や貫通ビアホール27への導電経路等を形成すること等を目的として設けられる。導電路及びめっき層の構成材料、厚さ、導電路の層数等は適宜選択できる。めっき層は省略できる。
【0036】
《絶縁基板》
絶縁基板60は、複数の基板を備える。各基板における向かい合う二つの面のうち、少なくとも一面に、導電路が形成される。一面又は両面に導電路を備える各基板が積層されることで絶縁基板60が構成される。また、各基板は、導電路の積層方向に隣り合う導電路同士における垂直方向の絶縁距離、磁性コア3に対する水平方向の絶縁距離を確保するように構成される。各基板の構成材料は、代表的には、樹脂を含むことが挙げられる。樹脂を含む構成材料として、樹脂とガラス繊維等の強化剤とを含む複合材料が挙げられる。複合材料は、例えば、ガラスエポキシ樹脂、プリプレグ等が挙げられる。本例の構成材料は、ガラスエポキシ樹脂の一つであるFR4である。FR4からなる基板を含む絶縁基板60は、電気絶縁性に優れる。絶縁基板60の構成材料、各基板の厚さ及び絶縁基板60の厚さ等は適宜選択できる。基板の積層数は、導電路の積層数に応じて選択するとよい。ここでの導電路の積層数は、表層パターン21,22の合計二層以上である。
【0037】
本例の回路基板6は、回路基板6の表面から裏面に貫通する二つの孔63を備える(
図6も参照)。孔63は、回路基板6における磁性コア3が配置される箇所に、コイル部2の環状のターン200内を挿通するように設けられる。各孔63には、磁性コア3の磁脚311,312が嵌め込まれる。そのため、孔63の形状及び大きさは、磁脚311,312の形状及び大きさに対応している。本例の孔63の形状は長方形状である。回路基板6に磁性コア3が配置された状態では、孔63に嵌め込まれた磁脚311,312の周囲にコイル部2のターン200が配置される。
【0038】
《その他の構成》
回路基板6は、代表的には、レジスト層62を備える。レジスト層62は、絶縁基板60の第一面601及び第二面602に設けられる導電路の表面を覆う。そのため、レジスト層62は、回路基板6の表層の少なくとも一部を構成する(
図6)。レジスト層62は、上記導電路を機械的に保護したり、耐食性を高めたりする保護層である。レジスト層62の構成材料は、例えば、樹脂等が挙げられる。本例の回路基板6は、表層パターン21,22のそれぞれを覆うレジスト層62を備える。
【0039】
その他、回路基板6は、図示しないダミーパターン等を備えてもよい。ダミーパターンは、通電されないパターンである。即ち、ダミーパターンは、コイル部2を含む導電路とは電気的に接続されない。ダミーパターンの構成材料は、例えば、銅等といった熱伝導性に優れる金属が挙げられる。銅等からなるダミーパターンは、熱を外部に拡散する放熱層として機能する。ダミーパターンは、回路基板6の任意の位置に設けられるが、コイル部2の近くに設けられると、コイル部2の熱を回路基板6の外部に伝え易い。ダミーパターンの表面は、レジスト層62によって覆われてもよいし、レジスト層62に覆われず露出されていてもよい。
【0040】
回路基板6には、回路基板6の用途に応じて、図示しない電子部品等が載置されることで、所定の回路が構成される。回路は、例えば、信号回路、パワー回路、電流や電圧の検知回路等が挙げられる。電子部品は、例えば、半導体素子、コンデンサ、変流器等が挙げられる。半導体素子は、例えば、半導体リレー、スイッチング素子等が挙げられる。スイッチング素子は、例えば、電界効果トランジスタ(FET)、トランジスタ等が挙げられる。
【0041】
〈コイル部の概要〉
コイル部2は、絶縁基板60に設けられる導電路である。
【0042】
本例の回路基板6は、二つのコイル部2を備える。二つのコイル部2は、電気的に独立し、かつ磁性コア3によって磁気的に結合される。各コイル部2は、多層のパターンコイル20を備える。本例では、各コイル部2は、パターンコイル20として、表層パターン21,22に加えて、一層以上の内層パターン23を備える。一層以上の内層パターン23は、表層パターン21,22より絶縁基板60の厚さ方向の内側に設けられる。つまり、全ての内層パターン23は、パターンコイル20の積層方向において、二つの表層パターン21,22に挟まれる。本例の内層パターン23は、第一の内層パターン231と、第二の内層パターン232とを備える。以下、第一の内層パターン231と第二の内層パターン232とをまとめて、内層パターン231,232と呼ぶことがある。
【0043】
各パターンコイル20は、ターン200を備える。ターン200は、コイル部2の主体であり、所定の特性を確保する。ターン200は、環状のターン(
図3から
図5)と、環状ではないターン(
図2)とが挙げられる。環状のターンとは、ターン数が1ターン以上であるターンである。環状ではないターンとは、ターン数が1ターン未満であるターンである。各パターンコイル20の端部251〜258(
図2から
図5)は、電気的な接続に利用される。なお、一つのコイル部2における1ターンとは、磁性コア3に備えられる一つの磁脚の周囲を完全に1周する長さを有する導電路である。上記一つの磁脚は、例えば磁脚311である。
【0044】
本例では、各コイル部2は、巻方向が逆である点を除いて、基本的に同じ構成である。各コイル部2において、積層方向に隣り合うパターンコイル20同士は、端部252〜257に設けられた貫通ビアホール27(
図2から
図5)によって電気的に接続される。その結果、各コイル部2は、各コイル部2に備えられる各層のターン200がらせん状に接続されることで、一つの直列コイルを構成する。各コイル部2において、第一の表層パターン21の端部251及び第二の表層パターン22の端部258のうち、一方の端部は電力の入力に利用される。他方の端部は電力の出力に利用される。本例では、各コイル部2がつくる磁束の方向が同じ方向となるように、各コイル部2に電力が供給される。このような二つのコイル部2を備える磁気部品1は、例えば、コモンモードチョークコイル等に利用される。
【0045】
〈磁性コアの概要〉
磁性コア3は、コイル部2のターン200の内側及びターン200の外側に配置される。本例の磁性コア3は、二つのコア片31,32を備えるUI型コアである。一方のコア片31はU字状である。他方のコア片32はI字状である。
【0046】
U字状のコア片31は、
図6に示すように、二つの直方体状の磁脚311,312と、一つの長方形の板状の連結部310とを備える。各磁脚311,312は、連結部310の一面に、所定の間隔をあけて配置されると共に、各磁脚311,312の軸方向が平行するように配置される。即ち、両磁脚311,312は、連結部310によって一体化される。I字状のコア片32は、連結部310と同様な長方形の板状の部材である。両コア片31,32は、コア片31の両磁脚311,312の端面と、コア片32における連結部310に向かい合う面とが接するように組付けられる。
【0047】
磁脚311,312はそれぞれ、上述の回路基板6の孔63に嵌め込まれる。コア片31の連結部310とコア片32とは、回路基板6を挟むように配置される。この組付け状態では、磁性コア3は、コイル部2の閉磁路として機能する。また、この組付け状態では、コイル部2のターン200のうち、上述の環状のターン200の一部は、磁性コア3の内側、ここでは連結部310とコア片32との間に配置される。即ち、環状のターン200の一部は、磁性コア3に重複して配置される。ここでは、環状のターン200の一部は、コア片32の上に配置される(
図3から
図5)。環状のターン200の残部、及び環状ではないターン200(
図2)は、磁性コア3の外側、ここでは磁脚311,312の外側に配置される。即ち、環状のターン200の残部、及び環状ではないターン200は、磁性コア3に重複しない。
【0048】
コア片31,32は、軟磁性材料を主体とする成形体が挙げられる。軟磁性材料は、金属でも非金属でもよい。金属は、例えば鉄、鉄基合金が挙げられる。鉄基合金は、例えばFe−Si合金、Fe−Ni合金等が挙げられる。非金属は、例えばフェライト等が挙げられる。上記成形体は、フェライトコア等の焼結体、軟磁性材料の粉末と樹脂とを含む複合材料の成形体、軟磁性材料の粉末が集合された圧粉成形体、電磁鋼板等の軟磁性材料からなる板材の積層体等が挙げられる。本例のコア片31,32は、フェライトコアである。その他、磁性コア3は、必要に応じて、図示しない磁気ギャップを備えてもよい。
【0049】
〈コイル部の詳細〉
本例では、各コイル部2は、二つの表層パターン21,22と、二つの内層パターン231,232との合計四層のパターンコイル20を備える。絶縁基板60の第一面601、
図1では上面から順に、第一の表層パターン21、第一の内層パターン231、第二の内層パターン232、第二の表層パターン22が積層される。両コイル部2に備えられる各パターンコイル20は、磁脚311,312間の二等分線を中心として、線対称に設けられている(
図2から
図5)。
【0050】
また、本例では、各コイル部2において、表層パターン21,22のターン200が内層パターン23のターン200に比較して、磁性コア3から離れている。具体的には、内層パターン23と磁性コア3との最短距離L
3<表層パターン21,22と磁性コア3との最短距離L
2である。そのため、各コイル部2において、表層パターン21,22は、磁性コア3に対して、絶縁基板60の表面方向に沿った電気的な絶縁を確保できる。なお、上記表面方向は、絶縁基板60の厚さ方向に直交する方向であり、
図1では左右方向である。
【0051】
以下、まず、主に
図2から
図5を参照して、一つのコイル部2に備えられる各パターンコイル20の概要を順に説明する。次に、一つのコイル部2に備えられる各パターンコイル20の大きさ、ターン数を説明する。
【0052】
《第一の表層パターン》
第一の表層パターン21は、絶縁基板60の第一面601に設けられる。
本例の表層パターン21は、
図2に示すように環状ではないターン200を備える。具体的には、このターン200は、L字状であり、長辺部と短辺部とを備える。長辺部は、磁脚311,312の並び方向及び磁脚311,312の軸方向の双方に直交する方向に沿って延びる。長辺部は、
図2では上下方向に沿って延びる。短辺部は、上記並び方向に沿って延びる。短辺部は、
図2では左右方向に延びる。
【0053】
表層パターン21の一方の端部251は、電力の入力端又は電力の出力端である。本例では、端部251は長辺部の端部である。表層パターン21の他方の端部252は、第一の内層パターン231との接続端である。端部252には、複数の貫通ビアホール271が設けられている。本例では、端部252は上述のターン200の短辺部より磁性コア3から離れる側、
図2では上側に設けられている。
【0054】
《内層パターン》
内層パターン231,232は、表層パターン21,22間に設けられる。本例では、第一の内層パターン231は、
図1において第一の表層パターン21の下側に位置する。第二の内層パターン232は、
図1において第二の表層パターン22の上側に位置する。
【0055】
内層パターン231,232はいずれも、
図3,
図4に示すように環状のターン200を備える。本例の内層パターン231,232はいずれも、渦巻き状のターン200を備える。そのため、第一の内層パターン231を構成する渦巻き状のターン200における二つの端部253,254のうち、一方の端部253は、渦巻きの外周側に位置する。他方の端部254は、渦巻きの内周側に位置する。第二の内層パターン232を構成する渦巻き状のターン200における二つの端部255,256のうち、一方の端部256は、渦巻きの外周側に位置する。他方の端部255は、渦巻きの内周側に位置する。
【0056】
第一の内層パターン231の一方の端部253は、第一の表層パターン21との接続端である。内層パターン231の他方の端部254は、第二の内層パターン232との接続端である。
【0057】
第二の内層パターン232の一方の端部255は、第一の内層パターン231との接続端である。内層パターン232の他方の端部256は、第二の表層パターン22との接続端である。
【0058】
端部253,254にはそれぞれ、複数の貫通ビアホール271,273が設けられている。端部255,256にはそれぞれ、複数の貫通ビアホール273,272が設けられている。以下、貫通ビアホール271,272,273をまとめて貫通ビアホール27と呼ぶことがある。
【0059】
ここで、端部252〜257に設けられる貫通ビアホール27の仕様は、適宜選択できる。上記仕様は、例えば、数、大きさ、端部252等に対する形成位置等が挙げられる。本例では、渦巻きの外周側の端部252,253,256,257に設けられる貫通ビアホール271,272の仕様と、渦巻きの内周側の端部254,255に設けられる貫通ビアホール273の仕様とが異なる。
【0060】
具体的には、渦巻きの外周側の貫通ビアホール271,272では、渦巻きの内周側の貫通ビアホール273に比較して、数が多く、外径が小さい。また、貫通ビアホール271,272は、端部252等の領域内に均等に配置されている。これに対し、渦巻きの内周側の貫通ビアホール273は、端部254,255の周縁243のうち、磁性コア3から離れる側の箇所に偏って設けられている。具体的には、貫通ビアホール273は、端部254,255の周縁243のうち、
図3,
図4では上端縁に偏って配置されている。つまり、貫通ビアホール273は、端部254,255の幅方向の中心線より上端縁寄りに位置する。上記幅方向の中心線は、
図3,
図4では端部254,255の上下方向の中心線である。なお、端部254,255の周縁243のうち、
図3,
図4では下端縁は、上述の上端縁より磁性コア3の外周面33に近い。渦巻きの内周側の貫通ビアホール273が磁性コア3から離れて配置されることで、端部254,255の上記下端縁に偏って配置される場合に比較して、貫通ビアホール273と磁性コア3との間の距離L
27が大きく確保される。
【0061】
《第二の表層パターン》
第二の表層パターン22は、絶縁基板60の第二面602に設けられる。
本例の表層パターン22は、
図5に示すように環状のターン200を備える。
【0062】
表層パターン22の一方の端部257は、第二の内層パターン232との接続端である。端部257には、複数の貫通ビアホール272が設けられている。即ち、本例では、表層パターン21,22はそれぞれ、貫通ビアホール27のうち、渦巻きの外周側の貫通ビアホール271,272を介して、内層パターン231,232に接続される。そのため、本例の表層パターン21,22は、貫通ビアホール27を含めて、磁性コア3から離れて配置されるといえる(
図2,
図5)。表層パターン22の一方の端部258は、電力の出力端又は電力の入力端である。
【0063】
《大きさ》
各パターンコイル20の幅及び厚さは、所定の導体断面積を有するように調整すればよい。上記幅は、各パターンコイル20において、絶縁基板60の表面方向に沿った大きさである。上記厚さは、各パターンコイル20において、絶縁基板60の厚さ方向に沿った大きさである。
【0064】
本例の各コイル部2は、幅及び厚さが異なるパターンコイル20を含む。具体的には、絶縁基板60の第一面601に設けられた表層パターン21及び第二面602に設けられた表層パターン22のうち、少なくとも一方の表層パターン21,22の幅Woが少なくとも一層の内層パターン23の幅Wiより広い。ここでは、表層パターン21,22の幅Woが等しい。また、内層パターン231,232の幅Wiが等しい。そして、両表層パターン21,22の幅Woが両内層パターン231,232の幅Wiより広い(
図1)。表層パターン21,22が相対的に広幅であることで、表層パターン21,22は、各コイル部2の熱を回路基板6の外部に伝え易い。なお、本例では、各パターンコイル20の厚さは、各パターンコイル20の導体断面積、幅、ターン数等に応じて調整される。本例では、表層パターン21,22の厚さは、内層パターン231,232の厚さより薄い(
図1)が、内層パターン231,232の厚さと同じでもよい。
【0065】
表層パターン21,22の幅Woは、コイル外径、ターン数、内層パターン23の幅Wi等にもよるが、例えば、内層パターン23の幅Wiの1.2倍以上2.5倍以下が挙げられる。放熱性の向上の観点から、幅Woは幅Wiの1.3倍以上、1.5倍以上でもよい。コイル外径の大型化の防止の観点から、幅Woは幅Wiの2.3倍以下、2.0倍以下でもよい。本例の幅Woは、幅Wiの1.2倍以上2.5倍以下である。
【0066】
ここでのコイル外径は、各パターンコイル20に対して、以下の仮想の長方形をとり、この長方形の対角線の長さとする。仮想の長方形は、各パターンコイル20の周縁241〜243の外縁のうち、端部251〜258を除く箇所であって、ターン200を構成する箇所を内包する最大の長方形である。
【0067】
《ターン数》
一つのコイル部2におけるターン数は適宜選択できる。一つのコイル部2に備えられる各パターンコイル20のターン数が多いほど、このコイル部2の総ターン数が多くなる。本例では、第二の表層パターン22のターン数、及び内層パターン231,232のターン数はいずれも、1ターン以上である。環状ではないターン200を備える第一の表層パターン21のターン数は、1ターン未満である。
【0068】
一つのコイル部2において、第一の表層パターン21のターン数は、0ターンを超え、1ターン未満の範囲で選択できる。例えば、上記ターン数は、0.2ターン以上0.8ターン以下が挙げられる。上記ターン数が0.2ターン以上であれば、このコイル部2の総ターン数が多くなり易い。磁性コア3の形状にもよるが、上記ターン数が0.8ターン以下であれば、表層パターン21が磁性コア3に重複しないように設けられる。総ターン数の増大の観点から、上記ターン数は0.30ターン以上、0.35ターン以上、0.40ターン以上でもよい。磁性コア3との重複防止の観点から、上記ターン数は0.75ターン以下、0.70ターン以下でもよい。本例では、上記ターン数が0.5ターンである。各コイル部2の第一の表層パターン21は、磁性コア3に重複せず、磁脚311,312の外側にそれぞれ配置される。
【0069】
本例では、一つのコイル部2において、第二の表層パターン22のターン数は、1ターンであるが、適宜変更できる。例えば、上記ターン数は、複数ターンでもよい。
【0070】
本例では、一つのコイル部2において、少なくとも一層の内層パターン23のターン数が少なくとも一層の表層パターン21,22のターン数より多い。ここでは、内層パターン231,232のターン数はいずれも、2ターン、即ち複数ターンである。内層パターン231,232のターン数はいずれも、各表層パターン21,22のターン数より多い。そのため、本例の磁気部品1は、各コイル部2の総ターン数を多くできつつ、パターンコイル20の積層数を少なくできる。
【0071】
更に、本例では、表層パターン21,22の幅Woが内層パターン231,232の幅Wiより広い。換言すれば、内層パターン231,232の幅Wiが表層パターン21,22の幅Woより狭い。そのため、一つのコイル部2において、内層パターン231,232のターン数が表層パターン21,22のターン数より多くても、コイル外径が小さくなり易い。
【0072】
〈コイル部と磁性コアとの位置関係〉
以下、二つのコイル部2のうち、磁脚312の周囲に配置されるコイル部2を例に、コイル部2と磁性コア3との位置関係を説明する。磁脚311の周囲に配置されるコイル部2については、以下の説明において、磁脚312を「磁脚311」に読み替えるとよい。なお、本例の磁気部品1のように複数のコイル部2を備える場合には、各コイル部2に対して、以下の最短距離等を求める。
【0073】
コイル部2と磁性コア3とが組付けられた状態において、表層パターン21,22の周縁241,242と磁性コア3の外周面33との距離のうち、最短距離を求める。ここでは、磁脚312の外周面33の全周に対して、外周面33から表層パターン21,22のターン200の周縁241,242までの距離を求める。本例では、上記ターン200のうち、磁脚311,312の並び方向及び磁脚312の軸方向の双方に直交する方向に沿って延びる箇所の周縁241と磁脚312の外周面33との距離をL
21,L
22と呼ぶ(
図2,
図5)。上記ターン200のうち、上記並び方向に沿って延びる箇所であって、貫通ビアホール27に近い側の箇所の周縁241と、コア片31の連結部310又はコア片32の外周面33との距離をL
11,L
12と呼ぶ(
図2,
図5)。第二の表層パターン22において、上記並び方向に沿って延びる箇所のうち、貫通ビアホール27から遠い側の箇所の周縁242と、連結部310又はコア片32の外周面33との距離をL
13と呼ぶ(
図5)。
【0074】
本例では、L
21=L
22=L
13、L
11=L
12である。即ち、第二の表層パターン22と磁性コア3の磁脚312との間の距離は、上述の貫通ビアホール27に近い箇所を除いて、実質的に同じ大きさである。また、本例では、L
21,L
22,L
13<L
27<L
11,L
12である。従って、距離L
21,L
22,L
13は、表層パターン21,22の周縁241,242と磁性コア3の外周面33との間の最短距離である。ここでは、
図1に示すように、上記最短距離をL
2と呼ぶ。なお、ここでの距離は、絶縁基板60の表面方向に沿った長さである。
【0075】
コイル部2と磁性コア3とが組付けられた状態において、内層パターン23の周縁243と磁性コア3の外周面33との距離のうち、最短距離を求める。ここでは、磁脚312の外周面33の全周に対して、外周面33から内層パターン231,232のターン200の周縁243までの距離を求める。本例では内層パターン231,232の周縁243と磁性コア3の外周面33との距離をL
31,L
32と呼ぶ。本例では、距離L
31,L
32はいずれも、磁脚312の周方向の全周にわたって実質的に同じ大きさである。また、L
31=L
32である。更に、L
31,L
32<L
27である。従って、距離L
31,L
32は、内層パターン231,232の周縁243と磁性コア3の外周面33との間の最短距離である。ここでは、
図1に示すように、上記最短距離をL
3と呼ぶ。
【0076】
本例では、表層パターン21,22と磁性コア3との最短距離L
2が内層パターン231,232と磁性コア3との最短距離L
3より大きい。ここでは、更に、L
3<L
2<L
27<L
11,L
12である。従って、磁脚312の周方向の全周にわたって、磁性コア3から表層パターン21,22の周縁241,242の内縁までの距離が、磁性コア3から内層パターン231,232の周縁243の内縁までの距離より大きく確保されている。最短距離L
2は、表層パターン21,22と磁性コア3との間における絶縁基板60の表面方向に沿った電気絶縁距離を確保するように調整される。そのため、表層パターン21,22は、絶縁基板60によって覆われていないものの、磁性コア3に対して電気的に絶縁される。
【0077】
最短距離L
2は、所定の電気絶縁距離、ここでは水平方向の絶縁距離を有するように調整すればよい。使用電圧等にもよるが、例えば、最短距離L
2は、最短距離L
3の1.5倍以上4.0倍以下が挙げられる。絶縁性の向上の観点から、最短距離L
2は最短距離L
3の1.8倍以上、2.0倍以上でもよい。コイル外径の大型化の防止の観点から、最短距離L
2は最短距離L
3の3.8倍以下、3.5倍以下でもよい。本例の最短距離L
2は、最短距離L
3の1.5倍以上3.5倍以下である。
【0078】
本例では、表層パターン21,22のコイル外径と、内層パターン23のコイル外径とが等しくなるように、最短距離L
2,L
3、幅Wo,Wi及びターン数が調整されている。そのため、絶縁基板60の厚さ方向から平面視すれば、表層パターン21,22の外縁と、内層パターン23の外縁とは、実質的に一致する。また、磁性コア3の外周面33から表層パターン21,22の外縁までの距離であって絶縁基板60の表面方向に沿った距離と、磁性コア3の外周面33から内層パターン23の外縁までの距離であって上記表面方向に沿った距離とが等しい(
図1)。更に、L
3<L
2により、内層パターン23の内縁は、表層パターン21,22の内縁より、絶縁基板60の表面方向に沿って磁性コア3の磁脚311,312側に突出する(
図1)。
【0079】
〈絶縁構造〉
絶縁構造4は、コイル部2と磁性コア3との間において、主として、絶縁基板60の厚さ方向に沿った電気的な絶縁を確保する。詳しくは、絶縁構造4は、第二の表層パターン22のターン200の一部と、磁性コア3における上記ターン200の一部が重複して配置される箇所との間に配置される。上記箇所は、コア片32において、一方のコア片31の連結部310に向かい合う面である。上記向かい合う面は、
図1では上面の一部である。上記上面の一部は、コア片32の上面のうち、磁脚311,312に挟まれる領域である。第二の表層パターン22のターン200の一部は、コア片32の上面において、磁脚311,312より内側の領域に配置される。つまり、第二の表層パターン22のターン200の一部は、磁脚311,312に挟まれるように配置される。
【0080】
絶縁構造4は、電気絶縁材料から構成される部材を利用できる。絶縁構造4は、中実体でも、中空体でもよい。中実体の具体例として、シート材、ボビン等の樹脂成形体、絶縁紙が挙げられる。また、中実体の別の具体例として、グリス層といった流体物からなる塗布層等が挙げられる。中空体は、空気が挙げられる。磁性コア3に対して、隙間をあけて回路基板6を配置すれば、空気からなる絶縁構造4を設けることができる。
【0081】
本例の絶縁構造4は、シート材40である。シート材40の構成材料は、樹脂等が挙げられる。上記構成材料は、樹脂に加えて、熱伝導性に優れる電気絶縁材料、例えばアルミナ、シリカ等のセラミックスからなる粉末等を含んでもよい。このような絶縁構造4は、熱伝導性に優れる。本例のシート材40は、上述の熱伝導性に優れる粉末を含む。なお、
図6は、回路基板6とシート材40とを重ね合わせて示すが、回路基板6と絶縁構造4とは一体化されている必要はない。回路基板6と絶縁構造4とは分離されていてもよい。
【0082】
更に、本例では、絶縁構造4を構成するシート材40の一部が磁脚311,312より外側の領域にも配置される。このシート材40の一部は、第二の表層パターン22のうち、磁脚311,312の外側に配置される箇所と後述する台座部8とに挟まれる。即ち、シート材40における磁脚311,312の内側の領域は、表層パターン22における磁脚311,312の内側の領域と、磁性コア3との間を電気的に絶縁する。シート材40における磁脚311,312の外側の領域は、表層パターン22における磁脚311,312の外側の領域と、台座部8との間を電気的に絶縁する。
【0083】
シート材40は、シート材40の表面から裏面に貫通する二つの孔43を備える(
図6も参照)。孔43は、シート材40において、磁性コア3の磁脚311,312が挿通される箇所に設けられる。各孔43には、磁脚311,312が嵌め込まれる。そのため、孔43の形状及び大きさは、磁脚311,312の形状及び大きさに対応している。本例の孔43の形状は長方形状である。
【0084】
絶縁構造4の厚さは、絶縁構造4の構成材料に応じて調整するとよい。特に、絶縁構造4の厚さは、第二の表層パターン22と磁性コア3との間、表層パターン22と台座部8との間に、所定の電気絶縁距離が確保されるように調整される。本例では、絶縁構造4の厚さは、表層パターン22とコア片32における上述の上面との間、表層パターン22と台座部8における後述の載置面との間に、所定の電気絶縁距離が確保されるように調整される。
【0085】
〈放熱構造〉
本例では、上述のように絶縁基板60の第一面601において、磁性コア3に重複して配置される箇所は、パターンコイル20を備えていない。上記箇所に上述のダミーパターンが設けられると、放熱性を高めることができる。また、上記箇所にダミーパターンが設けられても、磁気部品1における絶縁基板60の厚さ方向の大きさが増大することを低減し易い。
【0086】
(回路構成体)
実施形態1の回路構成体10は、実施形態1の磁気部品1と、台座部8とを備える。磁気部品1の説明は上述の通りである。以下、台座部8を説明する。
【0087】
〈台座部〉
台座部8には、コイル部2及び絶縁基板60を備える回路基板6と、磁性コア3とが載置される。代表的には、台座部8は、熱伝導性に優れる材料から構成されることで、放熱部材として機能する。この場合、台座部8は、コイル部2の熱、回路基板6に実装される電子部品の熱等を外部に放出することで、これらの温度上昇を抑制する。
【0088】
台座部8の一面は、代表的には回路基板6及び磁性コア3の載置面である。
図1では、台座部8の上面が上記載置面である。
図1は、上記載置面が平坦な平面からなる場合を例示する。
【0089】
本例の台座部8は、磁性コア3の一部が収納される凹部80を備える。ここではコア片32が凹部80に収納される。凹部80は、上述の載置面に開口する。また、凹部80は、載置面とは向かい合う側、
図1では下側に向かって設けられている。凹部80の形状は、磁性コア3において凹部80に収納される箇所の形状に対応している。ここでは凹部80の形状は、コア片32の形状に対応して直方体状である。凹部80の形状と磁性コア3における上述の収納箇所の形状とが対応していることで、凹部80の内周面と上記収納箇所の外周面33との隙間が小さくなり易い。そのため、回路基板6のコイル部2の熱が磁性コア3を介して台座部8に伝わり易い。
【0090】
凹部80の内寸は、磁性コア3における上述の収納箇所の大きさに応じて調整するとよい。上記内寸が磁性コア3の上記収納箇所の外寸より若干大きければ、磁性コア3を凹部80に嵌め込み易い。凹部80の深さが深いほど、磁性コア3において、台座部8の上述の載置面から突出する高さが小さくなり易い。また、磁性コア3において、台座部8に近接する箇所が多くなる。そのため、コイル部2の熱が磁性コア3を介して台座部8に伝わり易い。
【0091】
本例では、凹部80の深さは、コア片32の厚さに実質的に等しい。ここでのコア片32の厚さは、磁脚311,312の軸方向に沿った長さである。コア片32が凹部80に収納された状態では、コア片32におけるコア片31の連結部310に向かい合う面と、台座部8の上述の載置面とは実質的に面一に配置される(
図1)。そのため、回路基板6において、第二の表層パターン22が設けられた絶縁基板60の第二面602と台座部8の上記載置面との間隔は、絶縁構造4の厚さ、ここではシート材40の厚さ程度である。従って、回路基板6は、磁性コア3に起因して、台座部8の上記載置面から離れて配置されることが無い。このような回路基板6は、台座部8の上記載置面によって安定して支持される。
【0092】
凹部80の形成方法は、適宜選択できる。上記形成方法は、例えば、鋳造による成形、切削加工、パンチ等を用いた塑性加工等が挙げられる。
【0093】
その他、台座部8は、上記載置面以外の箇所、例えば上記載置面とは反対側の箇所に図示しないフィンを備えてもよい。フィンを備える台座部8は、表面積が増大されることで、放熱性に優れる。
【0094】
台座部8の構成材料は、例えば金属が挙げられる。特に、アルミニウム、又はアルミニウム基合金は、熱伝導性に優れる上に、軽量な台座部8を構築できて好ましい。台座部8の構成材料が金属である場合、凹部80の形成方法は、例えば、鋳造による成形、切削加工、パンチ等を用いた塑性加工等が挙げられる。
【0095】
台座部8には、絶縁基板60の第二面602に備えられる第二の表層パターン22が近接して配置される。そのため、台座部8の構成材料が金属等の導電性材料である場合、表層パターン22と台座部8との間を電気的に絶縁することが望まれる。本例では、上述のように絶縁構造4の一部によって、表層パターン22と台座部8との間が電気的に絶縁される。ここではシート材40の一部が、台座部8において表層パターン22のターン200が重複して配置される箇所と、絶縁基板60との間に設けられている。
【0096】
(製造方法)
実施形態1の磁気部品1は、例えば、コイル部2と孔63とを備える回路基板6と、磁性コア3とを用意し、回路基板6と磁性コア3とを組付けることで製造することが挙げられる。
実施形態1の回路構成体10は、例えば、台座部8に磁気部品1を載置することで製造することが挙げられる。本例では、凹部80を備える台座部8を用意し、磁性コア3の一部、ここではコア片32を凹部80に嵌め込んだ後、回路基板6を台座部8に載置し、更にコア片31を組付けることで製造することが挙げられる。
【0097】
(用途)
実施形態1の磁気部品1及び回路構成体10は、電源ユニット等の電気接続箱に備えられる回路部品、例えば各種の電圧変換装置の回路部品に利用することができる。より具体的には、DC/DCコンバータ、AC/DCコンバータ、DC/ACインバータ等を構成する回路部品が挙げられる。特に、磁気部品1及び回路構成体10は、小型であることが望まれる自動車用の回路部品等に好適に利用できる。
【0098】
(主な作用・効果)
実施形態1の磁気部品1及び実施形態1の回路構成体10は、以下の理由(A),(B)によって、以下の構造αに比較して、パターンコイル20と磁性コア3との間の電気絶縁性に優れる。上記の構造αは、両表層パターン21,22が磁性コア3に重複して配置される箇所を有し、かつ表層パターン21,22の表面がレジスト層62に覆われるのみである。このような実施形態1の磁気部品1及び実施形態1の回路構成体10は、高圧用途、例えば使用電圧が200V以上といった用途であっても、パターンコイル20と磁性コア3との間での短絡を防止し易い。
【0099】
(A)第一の表層パターン21が磁性コア3に重複して配置される箇所を有さない。
(B)絶縁構造4は、第二の表層パターン22において磁性コア3に重複して配置される箇所と、磁性コア3との間における垂直方向の絶縁距離を確保する。
【0100】
本例の磁気部品1及び本例の回路構成体10は、以下の理由(1)から(4)により、パターンコイル20と磁性コア3との間の電気絶縁性により優れる。そのため、磁気部品1及び回路構成体10は、上述の高圧用途であっても、パターンコイル20と磁性コア3との間での短絡をより防止し易い。
【0101】
(1)L
3<L
2であるため、表層パターン21,22と磁性コア3との間の水平方向の絶縁距離が内層パターン23と磁性コア3との間の水平方向の距離より長く確保される。特に、表層パターン21,22と磁性コア3との最短距離L
2と、内層パターン23と磁性コア3との最短距離L
3とが同じ場合に比較して、本例では磁性コア3に対する水平方向の絶縁距離が長く確保される。
【0102】
(2)絶縁基板60は、内層パターン23と磁性コア3との間における水平方向の絶縁距離を確保する。即ち、絶縁基板60の第一面601側に位置する第一の内層パターン231は、絶縁基板60によって、特に磁性コア3においてコア片31の連結部310の内面に対して電気的に絶縁される。なお、絶縁基板60は、積層方向に隣り合うパターンコイル20同士における垂直方向の絶縁距離も確保する。
【0103】
(3)渦巻きの内周側の貫通ビアホール273が磁性コア3から比較的離れて設けられている。そのため、貫通ビアホール273は、磁性コア3に近接している場合に比較して、磁性コア3に対する水平方向の絶縁距離を大きく確保できる。
【0104】
(4)表層パターン21,22と内層パターン23とが渦巻きの外周側の貫通ビアホール271,272によって接続される。そのため、貫通ビアホール271,272を含めて、表層パターン21,22は、磁性コア3から比較的離れて設けられている。
【0105】
本例の磁気部品1及び本例の回路構成体10は、更に以下の効果(a)〜(d)を奏する。
(a)以下の理由により、一つのコイル部2における総ターン数が多い。
(a1)第一の表層パターン21のターン数が0.2ターン以上である。第二の表層パターン22のターン数及び内層パターン231,232のターン数がいずれも1ターン以上である。
(a2)内層パターン231,232のターン数が表層パターン21,22のターン数より多い。なお、内層パターン23は絶縁基板60に覆われる。そのため、内層パターン23の周縁243は、表層パターン21,22の周縁241,242より磁性コア3に近づけて配置できる。このことから、内層パターン23のターン数は、表層パターン21,22のターン数より多くし易い。代表的には、本例のように内層パターン23のターン数は、複数ターンであることが挙げられる。更に、本例では、内層パターン23の幅Wiが表層パターン21,22の幅Woより狭い。そのため、一つのコイル部2において、コイル外径が大き過ぎないようにしつつ、内層パターン23のターン数を多くすることができる。
【0106】
(b)以下の理由により、磁気部品1及び回路構成体10は放熱性に優れる。
(b1)表層パターン21,22の幅Woが内層パターン23の幅Wiより広い。そのため、表層パターン21,22によって、コイル部2の熱が回路基板6の外部に放出され易い。
(b2)絶縁構造4が放熱性に優れるシート材40である。
(b3)台座部8の凹部80に磁性コア3の一部が収納されている。そのため、コイル部2の熱が磁性コア3を介して台座部8に伝わり易い。
【0107】
(c)以下の理由により、磁気部品1及び回路構成体10は小型である。
(c1)第一の表層パターン21に対してレジスト層62があればよく、絶縁構造4が不要である。そのため、一つのコイル部2におけるパターンコイル20の積層方向に沿った大きさを小さくすることができる。本例では、製造性等を考慮して、絶縁基板60の第一面601と磁性コア3のうち、コア片31の連結部310の内面との間に若干の隙間を有するが、第一面601と連結部310の内面とが接してもよい。
(c2)内層パターン23のターン数が多いことで、一つのコイル部2における総ターン数が多くても、パターンコイル20の積層数が少なくてよい。そのため、一つのコイル部2におけるパターンコイル20の積層方向に沿った大きさを小さくすることができる。
(c3)内層パターン23の幅Wiが表層パターン21,22の幅Woより狭い。そのため、内層パターン23のターン数が多くても、一つのコイル部2におけるコイル外径を小さくすることができる。
(c4)台座部8の凹部80に磁性コア3の一部が収納されている。そのため、磁性コア3において、台座部8における上述の載置面からの突出高さを小さくすることができる。
(c5)上述の高圧用途であっても、パターンコイル20を主体とするコイル部2は、エナメル線等の線材からなるコイルに比較して、コイル部2の軸方向に沿った長さを小さくすることができる。
【0108】
(d)以下の理由により、磁気部品1及び回路構成体10は製造性に優れる。
(d1)第一の表層パターン21に対して絶縁構造4が不要である。そのため、部品点数又は組立工程数が少ない。
(d2)貫通ビアホール27による層間接続によって、パターンコイル20同士が電気的に接続される。そのため、ビルドアップによる層間接続に比較して、接続作業が行い易い。結果として、製造コストが低くなり易い。
(d3)回路基板6の孔63に磁性コア3の磁脚311,312が嵌め込まれる。また、台座部8の凹部80に磁性コア3の一部が嵌め込まれる。そのため、回路基板6のコイル部2に対する磁性コア3の位置決め、台座部8に対する磁性コア3の位置決めが行い易い。
(d4)第二の表層パターン22と磁性コア3及び台座部8との間の絶縁構造4が一体物である。そのため、部品点数又は組立工程数が少ない。
【0109】
本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
例えば、実施形態1の磁気部品1及び実施形態1の回路構成体10に対して、以下の少なくとも一つの変更が可能である。
【0110】
〈コイル部〉
(1)コイル部2の数が一つ、又は三つ以上である。
実施形態1を含めて、コイル部2の数が複数である場合、少なくとも一つのコイル部2は、磁気的に結合されなくてもよい。
(2)複数のコイル部2を備える場合、複数のコイル部2が直列接続される、又は並列接続される。
(3)複数のコイル部2を備える場合、コイル部2の磁束方向が異なる。
例えば、二つのコイル部2の磁束方向が異なる形態として、各コイル部2の巻方向が逆であり、電流の向きが同じである形態、コイル部2の巻方向が同じであり、電流の向きが逆である形態等が挙げられる。
【0111】
(4)一つのコイル部2において、パターンコイル20の層数が二層であり、内層パターン23を備えていない。又は、パターンコイル20の層数が三層であり、内層パターン23の層数が一層である。又は、パターンコイル20の層数が五層以上であり、内層パターン23の層数が三層以上である。
(5)一つのコイル部2において、パターンコイル20同士の層間接続がビルドアップによる接続箇所を含む。この場合、表層パターン21,22における内層パターン23との接続箇所が絶縁基板60の第一面601,第二面602に露出されない。そのため、上記接続箇所は、絶縁基板60によって、磁性コア3に対して電気的に絶縁される。
(6)一つのコイル部2に備えられる少なくとも二つのパターンコイル20において、導体断面積、幅、及び厚さが異なる。この場合、各パターンコイル20における導体断面積、幅、及び厚さが異なってもよい。又は、この場合、パターンコイル20の層数が四層以上であれば、導体断面積、幅、及び厚さからなる群より選択される少なくとも一つが等しいパターンコイル20を含んでもよい。又は、一つのコイル部2に備えられる全てのパターンコイル20において、導体断面積が等しく、幅及び厚さも等しくてもよい。
(7)渦巻きの内周側に位置する貫通ビアホール27の仕様と、渦巻きの外周側に位置する貫通ビアホール27の仕様が等しい。
【0112】
(8)L
21≠L
22である。
例えば、L
21<L
22であれば、第一の表層パターン21と磁性コア3との距離L
21が表層パターン21,22と磁性コア3との最短距離L
2である。即ち、L
3<L
21=L
2<L
22である。
【0113】
(9)表層パターン21,22の外縁と内層パターン23の外縁とがずれている。
例えば、少なくとも一層の内層パターン23の外縁は、少なくとも一層の表層パターン21,22の外縁から突出してもよい。この場合、表層パターン21,22の一部と内層パターン23の一部とが絶縁基板60の厚さ方向に重複して配置されると、コイル部2のコイル外径が小さくなり易い。
【0114】
〈磁性コア〉
(1) 磁性コア3がUI型コアではなく、UU型コア、EI型コア、EE型コア等である。
磁性コア3がEI型コア、EE型コアである場合、回路基板6は、三つの孔63を備えるとよい。
(2)磁脚311,312の形状が円柱状等である。
【0115】
〈絶縁構造〉
(1)絶縁構造4が異なる材料からなる複数の部材を備える。
例えば、絶縁構造4は、グリス層とシート材40とを備えてもよい。
(2)絶縁構造4において、磁脚311,312の内側に配置される箇所と、磁脚311,312の外側に配置される箇所とが一体物ではなく、独立している。
この場合、絶縁構造4における上記内側の箇所の構成材料と上記外側の箇所の構成材料とは、同じでもよいし、異なってもよい。
【0116】
〈台座部〉
台座部8が凹部80を備えておらず、回路基板6を支持する支持台を備える。支持台の図示は省略する。
例えば、台座部8の上述の載置面に二つの支持台が所定の間隔をあけて突設される。二つの支持台間には、磁性コア3の一部、ここではコア片32が嵌め込まれる。二つの支持台を橋渡しするように、回路基板6及びシート材40が配置される。
ターンを有するコイル部と、磁性コアと、絶縁構造と、を備え、前記磁性コアは、前記ターンの内側及び前記ターンの外側に配置され、前記コイル部は、絶縁基板に設けられた多層のパターンコイルを備え、前記パターンコイルは、第一の表層パターンと第二の表層パターンとを備え、前記第一の表層パターンは、前記絶縁基板の第一面に設けられ、前記第二の表層パターンは、前記絶縁基板において前記第一面に向かい合う第二面に設けられ、前記第一の表層パターンの前記ターンは、前記磁性コアに重複して配置されず、前記磁性コアの外側に配置され、前記第二の表層パターンの前記ターンの一部は、前記磁性コアに重複して配置され、前記絶縁構造は、前記磁性コアにおいて前記第二の表層パターンの前記ターンが重複して配置される箇所と前記絶縁基板との間に設けられる、磁気部品。