【実施例】
【0022】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明する。下記の実施例により、本発明が限定されるものではない。
以下の実施例において、特に示されない限り「%」は「質量%」を意味する。
【0023】
[実施例1]
水溶性食物繊維源としての難消化性デキストリン(ファイバーソル2、松谷化学工業)と、デキストリン(TK−16、松谷化学工業)を、質量比でそれぞれ40:60になるように混合した。混合物は、水に溶解させ、塩酸と水酸化ナトリウムを用いてpHを5.5に調整し、これを反応系1:β−アミラーゼ(ビオザイムM、アマノエンザイム)、反応系2:β−アミラーゼ(ビオザイムLC、アマノエンザイム)と枝切り酵素(デブランチングエンザイム「アマノ」8、アマノエンザイム)、反応系3:β−アミラーゼ(ビオザイムLC、アマノエンザイム)とプルラナーゼ(プルラナーゼ「アマノ」3、アマノエンザイム)にそれぞれ供した。反応系1では、β−アミラーゼを0.3%、反応系2では、β−アミラーゼを0.3%、デブランチングエンザイムを0.4%、反応系3ではβ−アミラーゼを0.3%、プルラナーゼを0.4%それぞれ対固形分で添加した。55℃で18時間加水分解反応を行い、反応終了後煮沸により酵素を失活させた。
【0024】
なお、反応系1のβ−アミラーゼ(ビオザイムM)は、麦芽より精製された酵素で、主成分はβ−アミラーゼであるが、麦芽の糖化酵素を各種含んでいることが知られており、麦芽による加水分解のモデル反応を観察することが可能である。
【0025】
加水分解後、後処理を行い、それぞれの反応系で生成した糖液を得た。得られた糖液は、単糖分析カラム(カルシウム型、CK08EC、三菱化学)を使用して、糖組成の分析を行った。また、それぞれの糖液に含まれる食物繊維含量を酵素−HPLC法により、ブドウ糖当量(DE)を、レインエイノン法によりそれぞれ分析した。また、それぞれのサンプル溶液をBx=10に調整し、浸透圧を浸透圧計(Model 3250 Osmometer,Advanced Instruments Inc.)により測定した。
【0026】
表1
【0027】
β−アミラーゼ(麦芽の糖化酵素)のみ(反応系1)では、DP1−3の合計が50%に満たず、十分な加水分解がなされていなかった。β−アミラーゼに加えて枝切り酵素(デブランチングエンザイム)を加えた場合は、DP1−3の合計は50%をわずかに超過した。一方で、β−アミラーゼにプルラナーゼを加えた場合、DP1−3の量は50%を十分に超過する結果が得られており、β−アミラーゼと枝切り酵素、特にプルラナーゼを組み合わせることにより、ビール用糖類に求められる基準を満たす糖類が得られることを確認した。
また、反応系1、2及び3で得られた糖液の浸透圧はそれぞれ193、212及び241mOsmolであった。
【0028】
[実施例2]
水溶性食物繊維源としての焙焼デキストリン(特許第4753588号に記載の方法で調製した白色デキストリン)を水に懸濁させ、スラリーを調整した後、塩酸と水酸化ナトリウムを用いて、pH6.0に調整した。その後、α−アミラーゼ(ターマミル120L、Novozyme)を対固形分で0.1%添加した。
酵素を添加したスラリーは、糖化缶を用いて95℃、30分間の加水分解反応を行い、反応終了後121℃、3分間、オートクレーブによる加圧・加熱処理により酵素を失活させ、冷却した。
【0029】
冷却液のpHを5.5に調整し、グルコアミラーゼ(グルクザイムNL4.2、アマノエンザイム)のみを対固形分で0.4%(反応系4)、又はβ−アミラーゼ(ビオザイムLC、アマノエンザイム)及びプルラナーゼ(プルラナーゼ「アマノ」3、アマノエンザイム)を対固形分でそれぞれ0.3%及び0.4%(反応系5)添加し、55℃で18時間加水分解反応を行い、反応終了後煮沸により酵素を失活させた。
【0030】
その後、後処理を行い、各糖液を得た。得られた糖液は、単糖分析カラム(カルシウム型、CK08EC、三菱化学)を使用して、糖組成の分析を行った。また、それぞれの糖液に含まれる食物繊維含量を酵素−HPLC法により、ブドウ糖当量(DE)を、レインエイノン法により、平均分子量はゲルろ過クロマトグラフィ(GPC)により、それぞれ分析した。また、浸透圧を実施例1に示した方法で測定した。
結果を表2に示す。
【0031】
表2
【0032】
いずれの反応系においても、DEから算出した平均重合度は3以下となっており、またDP1−3の合計値も50%以上であった。食物繊維含量は、ほぼ同等であった。
一方で、反応系4では浸透圧が411となり、反応系5と比較すると2倍近い数値になっており、平均分子量は、反応系4が小さかった。この結果から、加水分解に使用する酵素は、β−アミラーゼとプルラナーゼの組み合わせが良いと思われた。
【0033】
[実施例3]
水溶性食物繊維源としての焙焼デキストリン(王子コーンスターチ製、アミレッツC−7099M)と、コーンスターチ(日本食品化工)を、質量比でそれぞれ75:25(反応系6)、80:20(反応系7)、85:15(反応系8)になるように混合した。混合物は、水に懸濁させ、スラリーを調整した後、塩酸と水酸化ナトリウムを用いて、pH6.0に調整した。その後、α−アミラーゼ(ターマミル120L、Novozyme)を対固形分で0.1%添加した。
酵素を添加したスラリーは、糖化缶を用いて95℃、30分の加水分解反応を行い、反応終了後121℃、3分間、オートクレーブによる加圧・加熱処理により酵素を失活させ、冷却した。
【0034】
冷却液のpHを5.5に調整し、β−アミラーゼ(ビオザイムLC、アマノエンザイム)を対固形分で0.3%と、プルラナーゼ(プルラナーゼ「アマノ」3、アマノエンザイム)を対固形分で0.4%添加し、55℃で18時間加水分解反応を行い、反応終了後煮沸により酵素を失活させた。
【0035】
その後、後処理を行い、各糖液を得た。得られた糖液は、単糖分析カラム(カルシウム型、CK08EC、三菱化学)を使用して、糖組成の分析を行った。また、それぞれの糖液に含まれる食物繊維含量を酵素−HPLC法により、ブドウ糖当量(DE)を、レインエイノン法により、平均分子量はゲルろ過クロマトグラフィ(GPC)により、それぞれ分析した。
結果を表3に示す。また、浸透圧を実施例1に示した方法で測定した。
【0036】
表3
【0037】
いずれの反応系においても、DEから算出した平均重合度は3以下になっていたが、DP1−3の合計量については、混合比3で50%に満たなかった。一方で、反応系6と7では、DP1−3の合計量は50%以上になることが明らかになった。
この結果から、反応系8では三糖類以下の量が50%に達しないため、原材料の混合比としては向かないが、反応系6と7のように、焙焼デキストリンの配合比を低くすることで、三糖類以下の量を50%以上に維持することが可能であった。
【0038】
[実施例4]
難消化性デキストリン(ファイバーソル2(FS−2)、松谷化学工業)と、デキストリン(TK−16、松谷化学工業)を、質量比でそれぞれ40:60(反応系9)、45:55(反応系10)、50:50(反応系11)になるように混合した。混合物は、水に溶解させ、塩酸と水酸化ナトリウムを用いてpHを5.5に調整し、β−アミラーゼ(ビオザイムLC、アマノエンザイム)を対固形分で0.3%と、プルラナーゼ(プルラナーゼ「アマノ」3、アマノエンザイム)を対固形分で0.4%それぞれ添加し、55℃で18時間加水分解反応を行い、反応終了後煮沸により酵素を失活させた。
実施例3と同様の後処理および分析を行った結果を、結果を表4に示す。
【0039】
表4
【0040】
いずれの反応系においても、DEから算出した平均重合度は3以下になっていたが、DP1−3の合計量については、反応系11で50%に満たなかった。一方で、反応系9と10では、DP1−3の合計量は50%以上になることが明らかになった。
この結果から、反応系11では三糖類以下の量が50%に達しないため、原材料の混合比としては向かないが、反応系9および10のように、食物繊維素材を少なく配合することで、三糖類以下の量を50%以上に維持することが可能であった。
【0041】
[実施例5]
水溶性食物繊維源として、市販の水溶性食物繊維素材(製品名:ファイバーソル2(FS−2)、製造者:松谷化学工業、製品名:フィットファイバー、製造者:日本食品化工、製品名:ファイバリクサ、製造者:林原、製品名ライテスII、製造者:ダニスコ、製品名:ニュートリオース、製造者:ロケット・フルーレ、プロミター85、製造者:テイト&ライル)と、デキストリン(TK−16、松谷化学工業)を、質量比でそれぞれ40:60になるように混合した。混合物は、水に溶解させ、塩酸と水酸化ナトリウムを用いてpHを5.5に調整し、β−アミラーゼ(ビオザイムLC、アマノエンザイム)を対固形分で0.3%と、プルラナーゼ(プルラナーゼ「アマノ」3、アマノエンザイム)を対固形分で0.4%添加し、55℃で18時間加水分解反応を行い、反応終了後煮沸により酵素を失活させた。
実施例3と同様の後処理および分析を行った結果を表5に示す。
【0042】
表5
【0043】
この結果から、いずれの食物繊維素材を用いた場合においても、ファイバーソル2と同様に、平均重合度が3以下で、DP1−3の合計量が50%以上になる糖類を製造することができた。
【0044】
[実施例6]
実施例2の試作品を使用した、低糖質ビールを試作した。麦芽は1リットルあたり151.3gを使用した。また、ビール番号2−5には、それぞれ表6に示すビール用の糖類を、表記のタイミングで、1リットル当たり固形分換算で25g添加した。ビール番号1は、対照として、ビール用糖類の代わりに、スクロースを固形分換算で10g添加した。麦芽は、固形分当たり0.5%のグルコアミラーゼと、0.1%のプルラナーゼの存在下で糖化反応を60℃で1時間行った。その後、煮沸工程を95℃、1時間実施し、ろ過、冷却後に酵母を1リットル当たり1g加え、1次発酵を5日間、2次発酵を21日間実施した。発酵後の分析結果も表6に示す。食物繊維含量は、推定通りの含量が含まれていた。糖質量は、市販の低糖質ビール(1.5g程度)と、ほぼ同等であった。
【0045】
表6
【0046】
次いで、ビールの官能評価を、よく訓練されたパネラー6名で実施した。ビール番号1を基準とし、1:非常に劣っている、2:劣っている、3:同等である、4:優れている、5:非常に優れている、の5段階評価とした。パネラー6名の平均点を示した。
【0047】
表7
【0048】
表7の結果から、ビール番号2、3、4をビール番号1と比較した場合に、コク味やキレと言った、水溶性食物繊維由来の味質は、参考例よりも優れているが、一方で甘味は劣り、その他の項目については大きな差が見られていない。一方で、ビール番号5の評価は、水溶性食物繊維由来の味質だけでなく、甘味や苦味と言った成分にも及び、わずかではあるがフルーティーな香りの指標と言われるエステル香や、ホップ香の改善効果も見られた。
【0049】
本発明で得られるビールは、食物繊維量、残糖量、アルコール度数が比較例とほぼ同じであるにも関わらず、官能評価に相違が出ている。ビール番号2や4のように、グルコアミラーゼを用いて加水分解を実施したビール用糖類や、ビール番号3のように、糖化工程の前(仕込み工程)にビール用糖類を添加したビールでは、資化性糖がすべてグルコースになる。ビール番号5のように、糖化後の煮沸工程で糖類を添加すると、資化性糖はマルトースが中心となる。前者では糖類の浸透圧が高くなっているので、酵母がストレスを受けて、好ましくない代謝産物が生成していることが推定できる。
【0050】
したがって、ビール番号5のように、β−アミラーゼとプルラナーゼによる加水分解を実施したビール用糖類を、煮沸工程で添加することにより、麦汁の浸透圧の上昇を抑えることができるため、発酵中の酵母のストレスを少なくさせ、好ましい代謝産物ができていると思われた。