特許第6823862号(P6823862)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6823862
(24)【登録日】2021年1月14日
(45)【発行日】2021年2月3日
(54)【発明の名称】ビールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12C 11/00 20060101AFI20210121BHJP
   C12C 5/02 20060101ALI20210121BHJP
   C12C 7/04 20060101ALI20210121BHJP
   C12N 9/26 20060101ALN20210121BHJP
   C12N 9/34 20060101ALN20210121BHJP
   C12N 9/44 20060101ALN20210121BHJP
【FI】
   C12C11/00 A
   C12C5/02
   C12C7/04
   !C12N9/26 A
   !C12N9/34
   !C12N9/44
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-196924(P2016-196924)
(22)【出願日】2016年10月5日
(65)【公開番号】特開2018-57316(P2018-57316A)
(43)【公開日】2018年4月12日
【審査請求日】2019年7月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000188227
【氏名又は名称】松谷化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 一
(72)【発明者】
【氏名】松原 幸子
【審査官】 福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−252064(JP,A)
【文献】 特開2011−223987(JP,A)
【文献】 特開2012−147780(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/051127(WO,A1)
【文献】 特開平08−000249(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/196265(WO,A1)
【文献】 特開平08−009953(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12C
C12N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性食物繊維含有低糖質ビールの製造方法であって、次の工程:
A)水溶性食物繊維源を、単独又は澱粉及び/又はその分解物と組み合わせて、β−アミラーゼと枝切り酵素の組み合わせを含む第1の糖質分解酵素で消化して、ビール用糖類を得る工程;
B)麦芽を第2の糖質分解酵素の存在下で糖化した後、煮沸して麦汁を得る工程;及び
C)工程A)で得たビール用糖類を、工程B)の煮沸工程で添加して、麦汁とビール用糖類の混合物とし、これを酵母で発酵させる工程;
を含む、前記水溶性食物繊維含有低糖質ビールの製造方法。
【請求項2】
工程B)における第2の糖質分解酵素が、枝切り酵素及び/またはグルコアミラーゼである、請求項1記載の水溶性食物繊維含有低糖質ビールの製造方法。
【請求項3】
工程B)における枝切り酵素が、プルラナーゼである、請求項に記載の水溶性食物繊維含有低糖質ビールの製造方法。
【請求項4】
工程A)における水溶性食物繊維源が、焙焼デキストリン、難消化性デキストリン、難消化性グルカン、イソマルトオリゴ糖、ポリデキストロースからなる群から選択される1種以上である、請求項1〜のいずれか一項に記載の水溶性食物繊維含有低糖質ビールの製造方法。
【請求項5】
工程A)における水溶性食物繊維源が焙焼デキストリン又は難消化性デキストリンである、請求項に記載の水溶性食物繊維含有低糖質ビールの製造方法。
【請求項6】
工程A)における澱粉分解物がデキストリン及び/又は水飴である、請求項1〜のいずれか一項に記載の水溶性食物繊維含有低糖質ビールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性食物繊維を含む低糖質ビールの製造方法に関し、特に、低糖質でありながらコク味、味質に優れたビールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、健康に対する意識の高まりから、日常生活における糖質の摂取量を制限する購買層が増加している。ビール業界では、これらの購買層を意識した、糖質オフあるいは糖質ゼロの商品を、酒税法の分類上の発泡酒やリキュールとして多数上市しており、一定の市場を形成しつつある。これらの商品には、糖質をゼロ、すなわち0.5g/100ml未満にしているものや、規定値以下に低減しているものがあるが、これらは、発酵後に残留する糖質を基準以下にするように設計するか、糖質ゼロに設計したものに、水溶性食物繊維を添加して、コク味付与と酒税法上必要なエキス分を確保するように設計し、製造されているものが多い。これらの商品は、いずれも糖質含量を下げることを意識しており、コク味やキレ、甘味、苦味、香味と言った味質に問題がある。
一方で、ビール類の市場においては、贅沢志向から、酒税法の分類上のビールへの注力も進んでいる。ビールジャンルでは、いわゆるプレミアム品と呼ばれるものが好調であるが、一方で低糖質商品の上市も行われており、複数のメーカーより、糖質オフの低糖質ビールが発売されている。こうした低糖質ビールは、発泡酒やいわゆる第3のビールに分類される低糖質商品よりは味質が優れているが、一方でやはりコク味やキレ、甘味、苦味、香味と言った味質が物足りないという問題がある。
酒税法におけるビールの副原料は、「でんぷん」「糖類」「穀物」などに限定され、発泡酒やリキュールのように、水溶性食物繊維を直接添加することによるコク味付与を含めた味質の改善はできない。特許文献1には、難消化性デキストリン(パインファイバー)をグルコアミラーゼによって加水分解して、糖類として添加する方法が開示されているが、当該製法では、糖類の大部分がグルコースとなって浸透圧を上げるため、その浸透圧が酵母に対するストレスとなり、得られるビールは本来の風味に乏しくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3304201号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、コク味、香味と言った味質が改善された低糖質ビールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題の低糖質のビールを製造するにあたり、水溶性食物繊維源を単独又は澱粉及び/又はでんぷん分解物と組み合わせて特定の糖質分解酵素で加水分解して得られるビール用糖類を副原料として使用し、麦芽を糖質分解酵素存在下で糖化、煮沸する工程において、前記ビール用糖類を加えて混合し、その後発酵させることを特徴とする、水溶性食物繊維含有低糖質ビールの製造方法を提供するものである。
本発明は以下の態様を含む。
(1)水溶性食物繊維含有低糖質ビールの製造方法であって、次の工程:
A)水溶性食物繊維源を、単独又は澱粉及び/又はその分解物と組み合わせて第1の糖質分解酵素で消化して、ビール用糖類を得る工程;
B)麦芽を第2の糖質分解酵素の存在下で糖化した後、煮沸して麦汁を得る工程;及び
C)工程A)で得たビール用糖類を、工程B)に添加して、麦汁とビール用糖類の混合物とし、これを酵母で発酵させる工程;
を含む、前記水溶性食物繊維含有低糖質ビールの製造方法。
(2)工程C)におけるビール用糖類を添加する工程が工程B)の煮沸段階である、(1)に記載の水溶性食物繊維含有低糖質ビールの製造方法。
(3)工程A)における第1の糖質分解酵素が、α−アミラーゼ、枝切り酵素及びβ−アミラーゼからなる群から選択される1種以上である、(1)又は2に記載の水溶性食物繊維含有低糖質ビールの製造方法
(4)工程A)における第1の糖質分解酵素が、β−アミラーゼと枝切り酵素の組み合わせを含む、(3)に記載の水溶性食物繊維含有低糖質ビールの製造方法。
(5)工程B)における第2の糖質分解酵素が、枝切り酵素及び/またはグルコアミラーゼである、(1)−(8)のいずれか一に記載の水溶性食物繊維含有低糖質ビールの製造方法。
(6)工程B)における枝切り酵素が、プルラナーゼである、(5)に記載の水溶性食物繊維含有低糖質ビールの製造方法。
(7)工程A)における水溶性食物繊維源が、焙焼デキストリン、難消化性デキストリン、難消化性グルカン、イソマルトオリゴ糖、ポリデキストロースからなる群から選択される1種以上である、(1)-(6)のいずれか一に記載の水溶性食物繊維含有低糖質ビールの製造方法。
(8)工程A)における水溶性食物繊維源が焙焼デキストリン又は難消化性デキストリンである、(7)に記載の水溶性食物繊維含有低糖質ビールの製造方法。
(9)工程A)における澱粉分解物がデキストリン及び/又は水飴である、(1)−(8)のいずれか一に記載の水溶性食物繊維含有低糖質ビールの製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、低糖質でありながら、コク味やキレ、甘味、苦味、香味と言った味質が改善されたビールを提供することができ、従来の低糖質ビールにはない香味のすぐれたタイプの低糖質ビールを製造することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明において、「低糖質ビール」は、ビール中の糖質濃度が2.5g/100ml以下のビールを指す。本発明では、2.0g/100mlより低い糖質濃度を達成することができる。本発明において、「糖質」は、炭水化物から食物繊維を除いたものと定義する。糖質の測定方法は当該分野において公知の方法で測定することができ、特に限定されないが、例えばフェノール硫酸法により測定することができる。
【0008】
本発明の水溶性食物繊維含有低糖質ビールの製造方法は、次の工程A)〜C):
A)水溶性食物繊維源を、単独又は澱粉及び/又はその分解物と組み合わせて第1の糖質分解酵素で消化して、ビール用糖類を得る工程;
B)麦芽を第2の糖質分解酵素の存在下で糖化した後、煮沸して麦汁を得る工程;及び
C)工程A)で得たビール用糖類を、工程B)に添加して麦汁とビール用糖類の混合物とし、これを酵母で発酵させる工程、
を含むことを特徴とする。
【0009】
以下、工程A)について説明する。
工程A)における水溶性食物繊維源は、種類も非常に多く、製造方法等により細分されるが、本発明に用いる水溶性食物繊維源は、酵素−HPLC法を代表とする水溶性食物繊維の分析法によって定量される食物繊維であれば、種類を問わずに使用できる。水溶性食物繊維源の多くは市販されており、本発明ではこれら市販品を使用することができる。市販の水溶性食物繊維源としては、焙焼デキストリン、難消化性デキストリン(例えば、ファイバーソル2)、難消化性グルカン、イソマルトオリゴ糖、ポリデキストロース等が例示されるが、本発明では焙焼デキストリン又は難消化性デキストリンを用いるのが好ましい。一般に水溶性食物繊維は、酵母によってほとんど資化されず、発酵液中に発酵後も残留する。
【0010】
本発明における難消化性デキストリンとは、衛新第13号(栄養表示基準における栄養成分等の分析方法等について)に記載の食物繊維の分析方法である高速液体クロマトグラフ法(酵素−HPLC法)で測定される難消化性成分を含むデキストリンのことをいう。難消化性成分の量は85〜95質量%含まれることが好ましく、90〜95質量%含まれることがより好ましい。難消化性デキストリンの難消化性成分の数平均分子量は好ましくは1000〜3000、より好ましくは1300〜2500、最も好ましくは2000である。
【0011】
難消化性デキストリンのより詳細な製造方法は次のとおりである。
後述する焙焼デキストリンを20〜45質量%程度の水溶液とし、焙焼デキストリン水溶液のpHを5.5〜6.5に調整し、α−アミラーゼを、例えばターマミル60L(商品名、ノボ・ノルディスク・バイオインダストリー社製造)の場合は、焙焼デキストリンに対し、0.05〜0.2質量%添加する。他のα−アミラーゼを使用する場合はその酵素の力価に応じて同等の量を添加すればよい。α−アミラーゼの添加後に溶液を加熱し、α−アミラーゼの作用温度である85〜100℃(α−アミラーゼの種類によって異なる)で30分〜2時間加水分解する。次いで温度を120℃程度(α−アミラーセの失活温度)に上昇してα−アミラーゼ作用を停止する。この際、塩酸やシュウ酸やなどの酸を加えてpHをα−アミラーゼが失活する程度、即ちpH4程度まで低下させてもよい。
【0012】
このようにして得られる焙焼デキストリンの加水分解物は、低分子画分の除去、脱塩、脱色等の後処理を行えば難消化性デキストリンとして本発明に使用できるが、好ましくはさらにグルコアミラーゼによる加水分解を行って難消化性成分の含量を高める。すなわち、液温を60℃まで下げ、pHを4〜5、好ましくは4.5に調整し、固形分質量に対し0.05〜0.4質量%のグルコアミラーゼを添加して55〜60℃で4〜48時間加水分解を行い、難消化性成分以外の成分をぶどう糖に分解した後、温度を80℃まで上げグルコアミラーゼの酵素作用を終了させる。このグルコアミラーゼとしては市販品がいずれも使用できるが、例えばグルクザイムNL4.2(商品名:アマノエンザイム社製)などがある。以後は通常の活性炭脱色、ろ過、イオン交換樹脂による脱塩、脱色を行い、50質量%程度の濃度まで濃縮する。
【0013】
この液を強酸性陽イオン交換樹脂塔に通液してクロマト分離の方式で難消化性デキストリンとぶどう糖部分に分離して、難消化性成分を固形分当たり少なくとも45質量%、好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは85〜95質量%含有する難消化性デキストリンを得ることができる。
【0014】
上記難消化性デキストリンは、ラネーニッケル等の金属触媒の存在下、80〜120kg/cm2、120〜140℃の条件で水素ガスを接触させて接触還元して用いてもよい。
市販の難消化性デキストリン製剤としては、パインファイバー、ファイバーソル2、ファイバーソル2H(以上、松谷化学工業株式会社製)を挙げることができる。
【0015】
難消化性デキストリン類を製造するために用いられる焙焼デキストリンとは、澱粉を、塩酸等の無機酸又はシュウ酸等の有機酸の存在下に、120〜200℃に加熱して得られる乾式澱粉分解物であり、少量の非消化性成分を含むデキストリンである。
【0016】
より詳細には、焙焼デキストリンは、澱粉に鉱酸(例えば、塩酸、硝酸、硫酸)、好ましくは塩酸を、澱粉100質量部に対して、例えば、1質量%の塩酸水溶液として3〜10質量部添加し、加熱処理して得られる。加熱処理の前に、澱粉と鉱酸の水溶液を均一に混合するために、適当なミキサー中で撹拌、熟成(数時間)させてから、好ましくは100〜120℃程度で予備乾燥して、混合物中の水分を5質量%程度まで減少させることが好ましい。加熱処理は、120〜200℃、好ましくは150〜200℃で10〜120分、好ましくは30分〜120分が適当である。加熱処理の温度は高くする方が目的生成物中の難消化性成分の含量を増加させるが、180℃から着色物質を生成する傾向があるので、より好ましくは150〜180℃である。焙焼デキストリンの酸による分解において用いられる酸は、有機酸(例えばシュウ酸、クエン酸)でも無機酸(例えば塩酸、硝酸、硫酸)でもよいが、塩酸、シュウ酸等が好ましく、更に塩酸が好ましい。
【0017】
工程A)のビール用糖類を得る方法としては、上述した水溶性食物繊維源を単独、又は澱粉及び/又は澱粉分解物と組み合わせて加水分解する方法が例示される。加水分解前の原材料の組み合わせとしては、例えば水溶性食物繊維源として、食物繊維含量の低い焙焼デキストリンを使用する方法、食物繊維含量の高い焙焼デキストリンを使用し、澱粉を混合する方法、市販の水溶性食物繊維とデキストリンを混合する方法、水溶性食物繊維と糖類を混合する方法等が挙げられるが、その組み合わせについては、特に限定するものではない。
【0018】
水溶性食物繊維源と、澱粉及び/又は澱粉分解物とを組み合わせて使用する場合、混合物中の水溶性食物繊維含量が好ましくは10〜45質量%となるように配合する。例えば、水溶性食物繊維源の使用量(A)と澱粉及び/又は澱粉分解物の使用量(B)の質量比は、10/90〜90/10程度の範囲で使用することが好ましい。水溶性食物繊維源が焙焼デキストリンの場合、A/B=20/80〜80/20程度の範囲で使用することが好ましく、A/B=60/40〜80/20程度の範囲で使用することがより好ましい。また、水溶性食物繊維源が難消化性デキストリン(ファイバーソル2)の場合は、A/B=11/89〜47/53が好ましく、33/67〜45/55がより好ましい。
水溶性食物繊維源と(使用する場合には)澱粉及び/又は澱粉分解物(以下、これらを纏めて「ビール用糖類の原材料」と呼ぶ場合もある)は、通常水などの溶媒に溶解させて、pHを適宜調整した後、糖質分解酵素により消化させる。
このときのビール用糖類の原材料の濃度は、加水分解後の1−3糖類(DP1−3)濃度が50質量%以上で、平均重合度が3以下となるように適宜調整することができる。
【0019】
次にビール用糖類の原材料である水溶性食物繊維源を、単独又は澱粉及び/又はその分解物の加水分解に使用する「第1の糖質分解酵素」について説明する。
「第1の糖質分解酵素」として、いずれの糖質分解酵素も使用することができるが、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、枝切り酵素のいずれかを単独又は組み合わせて用いることが好ましい。
ビール用糖類の原材料に澱粉質の含量が多い場合はα−アミラーゼの添加による加水分解を実施することが好ましい。水溶性食物繊維源と澱粉分解物を組み合わせた原材料、あるいは既にα−アミラーゼによる加水分解を実施してある原材料に対してはα−アミラーゼの使用を省略し、β−アミラーゼと枝切酵素による加水分解を実施することができる。
各糖質分解酵素の使用方法は、製造業者の指示書に従うが、所望の加水分解が十分に行われることを前提に、その使用量は特に制限されない。例えば、使用量は対固形分当たり0.05〜0.5%である。使用条件は例えば、pHは4〜7、温度は50〜95℃、反応時間は15分〜24時間である。このようにして工程A)により製造したビール用糖類は、水溶性食物繊維を含有すると共に、麦芽糖を中心とした成分構成となり、麦芽の浸透圧(290mOsmol程度)に近い値を維持することができ、従来のビールと同じような味質を得ることが可能となる。
【0020】
次に、工程B)について説明する。
工程B)は、麦芽を第2の糖質分解酵素の存在下で糖化した後、煮沸して麦汁を得る工程である。
より詳細には、第2の糖質分解酵素による麦芽の糖化段階、糖化液の煮沸段階を含み、さらに煮沸液の濾過段階を含んでいてもよい。
より詳細には、工程B)では低糖質ビールの製造に必要な麦汁を調製するために、麦芽を「第2の糖質分解酵素」、好ましくは「グルコアミラーゼと枝切り酵素」の存在下で糖化する。両酵素の存在により、麦芽に含まれる糖質の加水分解が促進され、発酵後のビールに残存する糖質含量を減少させることができる。枝切り酵素としてはプルラナーゼが例示されるが、これに限定されない。また、両酵素の使用量については、麦芽の糖質の加水分解を促進するのに十分な量であれば特に限定されない。なお、麦芽の糖化の条件としては通常の糖化条件が適用される。例えば、プルラナーゼ及びグルコアミラーゼは、それぞれ固形分当たり0.01〜1.0%の範囲で使用し、プルラナーゼとグルコアミラーゼの使用比率を1:3〜1:7とし、pHは4〜7、温度は60℃付近、反応時間は1〜3時間の条件で糖化を行う。
糖化を終了した麦芽は、例えば、95〜100℃、1〜2時間程度煮沸し、更に任意に煮沸液を濾過して麦汁とする。
【0021】
次に工程C)について説明する。
工程C)は、工程B)に工程A)で調製したビール用糖類を添加して酵母で発酵する工程である。
ビール用糖類を工程B)に添加するタイミングは特に限定されないが、好ましくは煮沸段階である。煮沸前に添加すると、ビール用糖類に含まれる消化性糖質が、麦芽に含まれる糖化酵素及び麦芽に添加した酵素によってぶどう糖にまで加水分解される可能性がある。その場合、発酵前液の浸透圧が高くなるという問題点がある。ぶどう糖が多い条件では、酵母の発酵速度は速くなるが、同時に高浸透圧が酵母に対するストレスにもなる。酵母の浸透圧ストレスにより発酵産物の組成が変わり、香味を中心としたビールの味質成分に大きな影響があることが知られている。また、発酵が進みすぎるため、得られるビールは甘味に欠けたバランスの悪い味質となる。
ここで、糖類などの浸透圧は、浸透圧計によって測定することができる。
【実施例】
【0022】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明する。下記の実施例により、本発明が限定されるものではない。
以下の実施例において、特に示されない限り「%」は「質量%」を意味する。
【0023】
[実施例1]
水溶性食物繊維源としての難消化性デキストリン(ファイバーソル2、松谷化学工業)と、デキストリン(TK−16、松谷化学工業)を、質量比でそれぞれ40:60になるように混合した。混合物は、水に溶解させ、塩酸と水酸化ナトリウムを用いてpHを5.5に調整し、これを反応系1:β−アミラーゼ(ビオザイムM、アマノエンザイム)、反応系2:β−アミラーゼ(ビオザイムLC、アマノエンザイム)と枝切り酵素(デブランチングエンザイム「アマノ」8、アマノエンザイム)、反応系3:β−アミラーゼ(ビオザイムLC、アマノエンザイム)とプルラナーゼ(プルラナーゼ「アマノ」3、アマノエンザイム)にそれぞれ供した。反応系1では、β−アミラーゼを0.3%、反応系2では、β−アミラーゼを0.3%、デブランチングエンザイムを0.4%、反応系3ではβ−アミラーゼを0.3%、プルラナーゼを0.4%それぞれ対固形分で添加した。55℃で18時間加水分解反応を行い、反応終了後煮沸により酵素を失活させた。
【0024】
なお、反応系1のβ−アミラーゼ(ビオザイムM)は、麦芽より精製された酵素で、主成分はβ−アミラーゼであるが、麦芽の糖化酵素を各種含んでいることが知られており、麦芽による加水分解のモデル反応を観察することが可能である。
【0025】
加水分解後、後処理を行い、それぞれの反応系で生成した糖液を得た。得られた糖液は、単糖分析カラム(カルシウム型、CK08EC、三菱化学)を使用して、糖組成の分析を行った。また、それぞれの糖液に含まれる食物繊維含量を酵素−HPLC法により、ブドウ糖当量(DE)を、レインエイノン法によりそれぞれ分析した。また、それぞれのサンプル溶液をBx=10に調整し、浸透圧を浸透圧計(Model 3250 Osmometer,Advanced Instruments Inc.)により測定した。
【0026】
表1
【0027】
β−アミラーゼ(麦芽の糖化酵素)のみ(反応系1)では、DP1−3の合計が50%に満たず、十分な加水分解がなされていなかった。β−アミラーゼに加えて枝切り酵素(デブランチングエンザイム)を加えた場合は、DP1−3の合計は50%をわずかに超過した。一方で、β−アミラーゼにプルラナーゼを加えた場合、DP1−3の量は50%を十分に超過する結果が得られており、β−アミラーゼと枝切り酵素、特にプルラナーゼを組み合わせることにより、ビール用糖類に求められる基準を満たす糖類が得られることを確認した。
また、反応系1、2及び3で得られた糖液の浸透圧はそれぞれ193、212及び241mOsmolであった。
【0028】
[実施例2]
水溶性食物繊維源としての焙焼デキストリン(特許第4753588号に記載の方法で調製した白色デキストリン)を水に懸濁させ、スラリーを調整した後、塩酸と水酸化ナトリウムを用いて、pH6.0に調整した。その後、α−アミラーゼ(ターマミル120L、Novozyme)を対固形分で0.1%添加した。
酵素を添加したスラリーは、糖化缶を用いて95℃、30分間の加水分解反応を行い、反応終了後121℃、3分間、オートクレーブによる加圧・加熱処理により酵素を失活させ、冷却した。
【0029】
冷却液のpHを5.5に調整し、グルコアミラーゼ(グルクザイムNL4.2、アマノエンザイム)のみを対固形分で0.4%(反応系4)、又はβ−アミラーゼ(ビオザイムLC、アマノエンザイム)及びプルラナーゼ(プルラナーゼ「アマノ」3、アマノエンザイム)を対固形分でそれぞれ0.3%及び0.4%(反応系5)添加し、55℃で18時間加水分解反応を行い、反応終了後煮沸により酵素を失活させた。
【0030】
その後、後処理を行い、各糖液を得た。得られた糖液は、単糖分析カラム(カルシウム型、CK08EC、三菱化学)を使用して、糖組成の分析を行った。また、それぞれの糖液に含まれる食物繊維含量を酵素−HPLC法により、ブドウ糖当量(DE)を、レインエイノン法により、平均分子量はゲルろ過クロマトグラフィ(GPC)により、それぞれ分析した。また、浸透圧を実施例1に示した方法で測定した。
結果を表2に示す。
【0031】
表2
【0032】
いずれの反応系においても、DEから算出した平均重合度は3以下となっており、またDP1−3の合計値も50%以上であった。食物繊維含量は、ほぼ同等であった。
一方で、反応系4では浸透圧が411となり、反応系5と比較すると2倍近い数値になっており、平均分子量は、反応系4が小さかった。この結果から、加水分解に使用する酵素は、β−アミラーゼとプルラナーゼの組み合わせが良いと思われた。
【0033】
[実施例3]
水溶性食物繊維源としての焙焼デキストリン(王子コーンスターチ製、アミレッツC−7099M)と、コーンスターチ(日本食品化工)を、質量比でそれぞれ75:25(反応系6)、80:20(反応系7)、85:15(反応系8)になるように混合した。混合物は、水に懸濁させ、スラリーを調整した後、塩酸と水酸化ナトリウムを用いて、pH6.0に調整した。その後、α−アミラーゼ(ターマミル120L、Novozyme)を対固形分で0.1%添加した。
酵素を添加したスラリーは、糖化缶を用いて95℃、30分の加水分解反応を行い、反応終了後121℃、3分間、オートクレーブによる加圧・加熱処理により酵素を失活させ、冷却した。
【0034】
冷却液のpHを5.5に調整し、β−アミラーゼ(ビオザイムLC、アマノエンザイム)を対固形分で0.3%と、プルラナーゼ(プルラナーゼ「アマノ」3、アマノエンザイム)を対固形分で0.4%添加し、55℃で18時間加水分解反応を行い、反応終了後煮沸により酵素を失活させた。
【0035】
その後、後処理を行い、各糖液を得た。得られた糖液は、単糖分析カラム(カルシウム型、CK08EC、三菱化学)を使用して、糖組成の分析を行った。また、それぞれの糖液に含まれる食物繊維含量を酵素−HPLC法により、ブドウ糖当量(DE)を、レインエイノン法により、平均分子量はゲルろ過クロマトグラフィ(GPC)により、それぞれ分析した。
結果を表3に示す。また、浸透圧を実施例1に示した方法で測定した。
【0036】
表3
【0037】
いずれの反応系においても、DEから算出した平均重合度は3以下になっていたが、DP1−3の合計量については、混合比3で50%に満たなかった。一方で、反応系6と7では、DP1−3の合計量は50%以上になることが明らかになった。
この結果から、反応系8では三糖類以下の量が50%に達しないため、原材料の混合比としては向かないが、反応系6と7のように、焙焼デキストリンの配合比を低くすることで、三糖類以下の量を50%以上に維持することが可能であった。
【0038】
[実施例4]
難消化性デキストリン(ファイバーソル2(FS−2)、松谷化学工業)と、デキストリン(TK−16、松谷化学工業)を、質量比でそれぞれ40:60(反応系9)、45:55(反応系10)、50:50(反応系11)になるように混合した。混合物は、水に溶解させ、塩酸と水酸化ナトリウムを用いてpHを5.5に調整し、β−アミラーゼ(ビオザイムLC、アマノエンザイム)を対固形分で0.3%と、プルラナーゼ(プルラナーゼ「アマノ」3、アマノエンザイム)を対固形分で0.4%それぞれ添加し、55℃で18時間加水分解反応を行い、反応終了後煮沸により酵素を失活させた。
実施例3と同様の後処理および分析を行った結果を、結果を表4に示す。
【0039】
表4
【0040】
いずれの反応系においても、DEから算出した平均重合度は3以下になっていたが、DP1−3の合計量については、反応系11で50%に満たなかった。一方で、反応系9と10では、DP1−3の合計量は50%以上になることが明らかになった。
この結果から、反応系11では三糖類以下の量が50%に達しないため、原材料の混合比としては向かないが、反応系9および10のように、食物繊維素材を少なく配合することで、三糖類以下の量を50%以上に維持することが可能であった。
【0041】
[実施例5]
水溶性食物繊維源として、市販の水溶性食物繊維素材(製品名:ファイバーソル2(FS−2)、製造者:松谷化学工業、製品名:フィットファイバー、製造者:日本食品化工、製品名:ファイバリクサ、製造者:林原、製品名ライテスII、製造者:ダニスコ、製品名:ニュートリオース、製造者:ロケット・フルーレ、プロミター85、製造者:テイト&ライル)と、デキストリン(TK−16、松谷化学工業)を、質量比でそれぞれ40:60になるように混合した。混合物は、水に溶解させ、塩酸と水酸化ナトリウムを用いてpHを5.5に調整し、β−アミラーゼ(ビオザイムLC、アマノエンザイム)を対固形分で0.3%と、プルラナーゼ(プルラナーゼ「アマノ」3、アマノエンザイム)を対固形分で0.4%添加し、55℃で18時間加水分解反応を行い、反応終了後煮沸により酵素を失活させた。
実施例3と同様の後処理および分析を行った結果を表5に示す。
【0042】
表5
【0043】
この結果から、いずれの食物繊維素材を用いた場合においても、ファイバーソル2と同様に、平均重合度が3以下で、DP1−3の合計量が50%以上になる糖類を製造することができた。
【0044】
[実施例6]
実施例2の試作品を使用した、低糖質ビールを試作した。麦芽は1リットルあたり151.3gを使用した。また、ビール番号2−5には、それぞれ表6に示すビール用の糖類を、表記のタイミングで、1リットル当たり固形分換算で25g添加した。ビール番号1は、対照として、ビール用糖類の代わりに、スクロースを固形分換算で10g添加した。麦芽は、固形分当たり0.5%のグルコアミラーゼと、0.1%のプルラナーゼの存在下で糖化反応を60℃で1時間行った。その後、煮沸工程を95℃、1時間実施し、ろ過、冷却後に酵母を1リットル当たり1g加え、1次発酵を5日間、2次発酵を21日間実施した。発酵後の分析結果も表6に示す。食物繊維含量は、推定通りの含量が含まれていた。糖質量は、市販の低糖質ビール(1.5g程度)と、ほぼ同等であった。
【0045】
表6

【0046】
次いで、ビールの官能評価を、よく訓練されたパネラー6名で実施した。ビール番号1を基準とし、1:非常に劣っている、2:劣っている、3:同等である、4:優れている、5:非常に優れている、の5段階評価とした。パネラー6名の平均点を示した。
【0047】
表7
【0048】
表7の結果から、ビール番号2、3、4をビール番号1と比較した場合に、コク味やキレと言った、水溶性食物繊維由来の味質は、参考例よりも優れているが、一方で甘味は劣り、その他の項目については大きな差が見られていない。一方で、ビール番号5の評価は、水溶性食物繊維由来の味質だけでなく、甘味や苦味と言った成分にも及び、わずかではあるがフルーティーな香りの指標と言われるエステル香や、ホップ香の改善効果も見られた。
【0049】
本発明で得られるビールは、食物繊維量、残糖量、アルコール度数が比較例とほぼ同じであるにも関わらず、官能評価に相違が出ている。ビール番号2や4のように、グルコアミラーゼを用いて加水分解を実施したビール用糖類や、ビール番号3のように、糖化工程の前(仕込み工程)にビール用糖類を添加したビールでは、資化性糖がすべてグルコースになる。ビール番号5のように、糖化後の煮沸工程で糖類を添加すると、資化性糖はマルトースが中心となる。前者では糖類の浸透圧が高くなっているので、酵母がストレスを受けて、好ましくない代謝産物が生成していることが推定できる。
【0050】
したがって、ビール番号5のように、β−アミラーゼとプルラナーゼによる加水分解を実施したビール用糖類を、煮沸工程で添加することにより、麦汁の浸透圧の上昇を抑えることができるため、発酵中の酵母のストレスを少なくさせ、好ましい代謝産物ができていると思われた。