(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
添付の図と関連して後述する詳細な記載は、現在の望ましい本発明の実施形態の記載として意図し、本発明が構成およびまたは利用されうる唯一の形態を示すことを意図しない。
【0013】
本発明は、術後のIOL位置(EAPD)の術前の推定値のより正確な決定を可能にし、それによってより正確な屈折結果のためにIOL
EP推定度数のより正確な決定または選択を容易にするシステムおよび方法を提供する。
【0014】
図1Aは、眼球のさまざまな構造(生来の水晶体もなお所定の位置にある)の横断面の形状、および本発明の1つまたは複数の実施形態により測定されるさまざまな距離の非限定の例示的な概略図である。眼球全体の解剖学的構造は非常によく知られ、
図1Aの有水晶体眼100の種々の眼の構造は、測定される距離の観点で記載する。
【0015】
図1Aに示されるように、一般に、(前面110aおよび後面110bを有する)生来の水晶体110は、(前面116aおよび後面116bを有する)水晶体嚢116内に包含された(前面114aおよび後面114bを有する)水晶体皮質114に囲まれた(前面112aおよび後面112bを有する)水晶体核112からなり、生来の水晶体110を形成する。言い換えれば、生来の水晶体110の水晶体核112は皮質物質(水晶体皮質114を構成または形成する柔軟な物質)内に完全に囲まれ、水晶体核112およびそれを囲む水晶体皮質114の両方は、水晶体嚢116内に固定される(または包含される)。白内障のようないくつもの眼の問題が次に水晶体嚢116の形状および多少水晶体核112の形状に影響するので、ほとんどの場合、かなりの変形または形状の変化に関して最も影響されるのは、水晶体皮質114(水晶体皮質114の前面114a)である。これは次に、眼球の屈折結果に影響する。
【0016】
前方皮質の変形は特に、従来のEAPD測定、およびとりわけ前房深度(ACD)の距離によるEAPD測定にかなりの誤差をもたらす。ACDは、角膜104の前面104aから光軸に沿って生来の水晶体110の前面110aへ測定された距離として定義され、前面110aはその後方(または中)の水晶体嚢116の前面116aであり、変形した水晶体皮質114(前方部分114a)でありえる。この水晶体皮質114の変形は、より正確なEAPDを計算するのにACDパラメータを信頼できないものにする。
【0017】
また、特に、置換するIOLが生来の水晶体110のLTと異なる大きさを有し、さらに水晶体嚢116内の異なる焦点位置に位置決められるかもしれないことを考慮するとき、(白内障の眼球を含む)多くの例で、水晶体皮質114および水晶体核112が水晶体嚢116から除去され(水晶体超音波吸引として知られる)、それが嚢116がつぶれるのに起因し、生来の水晶体厚さ(LT)に関する測定を役に立たなくする。本発明は生来の水晶体の厚さLTを、生来の水晶体110の水晶体嚢前面116aから水晶体嚢後面116bへ光軸に沿って測定された距離として定義し、それは水晶体皮質114および水晶体核112を含む。従って、ACDおよびLT測定値の両方は最良で非常に大ざっぱな近似であり、EAPD全体の計算にかなりの誤差をもたらし、よって結局は水晶体皮質114の変形によりIOL度数にかなりの誤差をもたらす。
【0018】
図2は、偽水晶体の(生来の水晶体がIOLに置換された)眼球の前方部分の横断面の形状の非限定の例示的な概略図である。示されおよびさらに後述するように、本発明の1つまたは複数の実施形態は、偽水晶体前方距離(APD)の優れた予測とIOL
EP推定度数の(
図2に示された)より正確な結果を提供する新しい測定値を含む。前述のように、およびここで
図2に関して、APDを、角膜104の前面104aからIOL202の前面202aへの術後の実際の距離として定義してもよい。APDを術後さまざまな異なる方法で測定してもよく、その非限定の例は公知のスイスのHAAG−STREIT DIAGNOSTICSによるLENSTAR LS 900(登録商標)の使用を含んでもよい。
【0019】
図1Aに戻ると、前述のように、予め定められた屈折結果を提供することが可能なIOL202(
図2)の度数を計算、決定または推定するため、外科的処置前に眼球100の種々の大きさまたは測定がなされる。本発明による種々の眼の測定を、いくつもの公知の従来の(光学または超音波)機械を用いて実行してもよい。種々の眼の測定値の決定に使用しうる光学生体測定機械の非限定の例は、前述のスイスのHAAG−STREIT DIAGNOSTICSによるLENSTAR LS 900(登録商標)を含んでもよい。本発明による種々の眼の測定を、(
図1Bに最もよく示される光軸に沿って直線的に、LENSTAR LS 900(登録商標)を用いて得られた)1次元計算または2次元計算(平面イメージ)を用いて実行および取得してもよいことに注目すべきである。
【0020】
図1Aから
図3Cに示されるように、本発明は、線形回帰から得られる以下の数学的関係のうち1つまたは両方による術後のIOL位置(またはEAPD)の術前の推定値を決定するシステムおよび方法を提供する。
【0021】
EAPD=S
1+(S
2×AND)+(S
3×NT)+(S
4×AL) (1a)
【0022】
EAPD=W
1+(W
2×AND)+(W
3×RND)+(W
4×AL) (1b)
【0023】
方程式(1a)のS
1、S
2、S
3、およびS
4、および方程式(1b)のW
1、W
2、W
3、およびW
4は、線形回帰定係数(詳細を後述)から統計的に得られる。方程式(1a)を用いたEAPDの計算は、軸方向の長さ(またはAL)、核前方距離(またはAND、詳細を後述)、および生来の水晶体核の厚さ(またはNT、詳細を後述)の測定値に基き、方程式(1b)を用いた計算は、およびAL、ANDおよび核後方距離(またはRND、詳細を後述)の測定値に基く。
【0024】
詳細を後述するように、EAPD方程式(1a)および(1b)の両方は統計的に等しく、後述するように推定IOL
EP度数の決定に同等に(少なくとも統計的に同等に)使用してもよい。しかし、どちらのEAPD方程式((1a)およびまたは(1b))を使用するかは、使用される光学生体測定機械のタイプ、および光学生体測定機械が方程式(1a)または(1b)内の変数の値を決定可能かどうかによる。例えば、ある光学生体測定機械はNTの値を直接計算可能であり、そのケースで方程式(1a)を使用してもよく、他のNTの直接測定機能がないかもしれないケースで方程式(1b)を使用してもよい。従って、使用されるEAPD方程式(1a)およびまたは(1b)のタイプは、光学生体測定機械の機能限定により決定される。
【0025】
方程式(1a)および(1b)を参照すると、方程式(1a)および(1b)内のALは、角膜104の前面104aから眼球100の光軸に沿って眼球の中心窩領域内の網膜118の前面への距離として定義される。光軸は、それに沿って光が眼球を通り伝搬する基準線である。方程式(1a)および(1b)内のANDは、角膜104の前面104aから眼球100の光軸に沿って生来の水晶体核112の前面112aへの距離であり、よって好都合なことに生来の水晶体皮質114の前方部分114aに関連する凹凸を回避する。AND内の接頭辞「前方」は、生来の水晶体核112の前または生来の水晶体核112に先行する空間または距離をいう。AND測定の別の利点は、EAPD全体が、水晶体嚢116の前面116aのもっと遠い距離からの近似値ではなく、生来の水晶体110の核112の前面112aである、IOLが生来の水晶体112を置換するであろう位置により近い距離またはより近接した位置から決定されることである。すなわち、IOLの術後の位置が位置決められるであろう場所より近いIOLの術前の位置の推定は、変形した水晶体皮質114をまた含むかもしれない生来の水晶体110全体が占有するより広範囲の空間ではなく、生来の水晶体核112が占有するより限定された空間内である(より精度の高い近似をもたらす)。
【0026】
方程式(1a)および(1b)内のANDを、以下のように決定してもよい。
【0028】
方程式(2)内のACDは、角膜104の前面104aから眼球100の光軸に沿って生来の水晶体110の前面110a(水晶体嚢116の前面116a)への距離として定義される前房深度である。方程式(2)内のACXは、生来の水晶体110の前面110a(水晶体嚢116の前面116a)から眼球100の光軸に沿って水晶体核112の前面112aへの距離として定義された前方皮質空間である。一般に、AND値が浅い(光軸に沿って角膜104に近い)場合、おそらくIOLのおおよその前方位置は角膜104により近く断定的に位置決められ、AND値がより長い(より大きい深さを有する)場合、おそらくIOLの近似前方位置は角膜104からより遠く断定的に位置決められる。
【0029】
方程式(1a)内のNTは、水晶体核112の前面112aから光軸に沿って水晶体核112の後面112bへ測定された距離として定義される。一般に、NTが低い値を有する(光軸に沿って角膜104に近い)場合、おそらくIOLは角膜104へより近く断定的に位置決められ、NTが高い値を有する場合、おそらくIOLのおおよその位置は角膜104からより遠く断定的に位置決められる。
【0030】
方程式(1b)内のRNDは、生来の水晶体核112の前面112aから生来の水晶体嚢116の後面116bへの距離である。RNDの接頭辞「後方」は、核112(その前面112a)の後ろに位置する距離をいう。一般に、RNDが低い値を有する(光軸に沿って角膜104に近い)場合、おそらくIOLは角膜104へより近く断定的に位置決められ、RNDが高い値を有する場合、おそらくIOLのおおよその位置は角膜104からより遠く断定的に位置決められる。
【0031】
方程式(1b)内のRNDを、以下のように決定してもよい。
【0032】
RND=(NT+PCX)=(LT−ACX) (3)
【0033】
方程式(3)内のNTは水晶体核の厚さであり、それは水晶体核112の前面112aから光軸に沿って水晶体核112の後面112bへ測定された距離として定義される。方程式(3)内のPCXは、生来の水晶体核112の後面112bから眼球100の光軸に沿って水晶体110の後面110b(水晶体嚢116の後面116b)への距離により定義される後方皮質空間である。LTは、水晶体嚢前面116aから光軸に沿って生来の水晶体110の水晶体嚢後面116bへ測定された距離であり、それは水晶体皮質114および水晶体核112を含む。ACXは、生来の水晶体110の前面110a(水晶体嚢116の前面116a)から眼球100の光軸に沿って水晶体核112の前面112aへの距離により定義される前方皮質空間である。
【0034】
IOL202が生来の水晶体110全体を置換するのではなく生来の水晶体嚢116内の生来の水晶体核112を置換するので、IOL202が位置決めおよび置換されるはずである水晶体核112の位置または箇所の決定は、生来の水晶体110全体の位置よりも正確な測定であることに注目すべきである。従って、前述のAND、NT、およびRND測定値がIOLの術後の位置が位置するであろうIOLの術前の位置を推定し、それは変形した水晶体皮質114を含みうる生来の水晶体110全体が占有するより広範囲の(またはより体積が多い)空間ではなく、生来の水晶体核112が占有するより限定された空間であり、実質的に向上された推定IOL
EP度数を提供する。
【0035】
図1Bは、前述のLENSTAR LS 900(登録商標)バイオメータを用いたさまざまな眼球区域の生体測定値の代表的な表示である。後述の急上昇がグラフ上に示され、左から右に角膜前面104a、角膜後面104b、生来の水晶体の前面110aまたは水晶体嚢の前面116a、生来の水晶体核の前面112a、生来の水晶体核の後面112b、生来の水晶体の後面110bまたは水晶体嚢の後面116b、網膜表面118および色素上皮層120が確認される。
【0036】
2つの角膜の急上昇(104aおよび104b)、2つの生来の水晶体または水晶体嚢の急上昇(110a/116aおよび110b/116b)、網膜の急上昇(118)および色素上皮層120の急上昇(120)の先端において表示された標識122は、眼球(AL)、前房深度ACD、および水晶体の厚さ(LT)の軸方向の長さを自動的に生成するようさまざまな標識122間の距離を測定するのに使用される。
【0037】
従来測定された(AL、ACD、およびLTの)眼のパラメータに加え、本発明の1つまたは複数の実施形態によるさらなる測定値がさらに得られる。本発明の1つまたは複数の実施形態はさらに、眼のパラメータACX、NT、およびPCXの測定値を決定し、さらにANDおよびRNDを計算し、それら全ては前述の方程式(1a)および(1b)で使用される。
【0038】
方程式(1a)または(1b)から結果として計算されるEAPDは、詳細を後述するが、多数のレンズ度数(または屈折)計算に使用してもよい。以下は2レンズシステム(角膜およびIOL)に適用された公知の薄いレンズの方法論を用いたIOL度数計算の非限定の1つの例(詳解目的)である。もちろん、方程式(1a)または(1b)から結果として生じるEAPDを同等に適用してもよく、レイトレーシングを使用するもののような他の公知のIOL度数計算式内で使用してもよい。
【0040】
方程式(4)で、IOL
EPはIOLの推定度数であり、n
AHは眼房水の屈折率(およそ1.336)、Kは角膜の度数、ALは眼球の軸方向の長さ、R
Cは角膜面での屈折異常である。
【0041】
角膜の屈折度数は、角膜の曲率半径(CR)の測定、および屈折率を用いた角膜半径の角膜屈折度数Kへの変換により決定される。角膜度数は、多数の公知の方法により決定してもよい。本発明は角膜度数をより正確に決定するようScheimpflugの原理を用い、これは他によって使用される1.3375の標準屈折率ではなく1.329の屈折率である(例えば、H.John Shammas,MD et.al.,“Scheimpflug photography keratometry readings for routing intraocular lens power calculation”J Cataract Refract Surg 2009;35:330−334,を見られたい。これはその全体が本明細書に参照により組み込まれる)。角膜面R
Cにおける屈折誤差は、コンタクトレンズを使用するような眼鏡の処方である。R
Cを用いる利点は、この誤差を全体的な角膜度数に加えてIOL
EPの全体的な度数を推定できることである。R
C=0が正視のIOL
EPの計算に使用され、非正視のIOL
EPは眼鏡屈折Rs=Rc/(1+0.012Rc)を用いて計算される。R
C、その計算、使用、および目的は公知である。
非限定の例
【0042】
以下の記述は方程式(1a)および(1b)の特定の定数の決定または導出に関連し、限定された数の特定のケーススタディに基く。当業者に明らかなように、方程式(1a)および(1b)の定数は後述の例示的な計算から変化し、多くの因子に依存する。その非限定の全てを網羅しない例の列挙は、使用されるIOLのモデル/タイプ、眼の手術が実行されるタイプおよび方法、手術を実行する内科医の経験、水晶体超音波吸引が問題なかったかまたは合併症を有するかどうかなどを含んでもよい。
【0043】
前述のように、本発明は、前述の方程式(1a)または(1b)による術後のIOL位置(またはEAPD)の術前の推定値を決定するシステムおよび方法を提供する。方程式(1a)または(1b)内の眼のパラメータAL、AND、RND、およびNTの測定値を、公知のLENSTAR LS 900(登録商標)バイオメータを用いて取得してもよい。しかし、方程式(1a)の定係数S
1、S
2、S
3、およびS
4、および方程式(1b)の定係数W
1、W
2、W
3、およびW
4はそれぞれ統計的に得られる。方程式(1a)および(1b)の定係数の値の統計的取得に使用されうる非限定の、例示的な統計分析は、一般に線形回帰の使用と単回帰および順次回帰の両方を用いたさらなる評価を含んでもよい。この非限定の例示的な例で、本発明は白内障手術を受けた患者の評価により得られたデータ(
図3Aから
図3Cに示す)に線形回帰を適用する。
【0044】
本発明は、問題なく水晶体超音波吸引白内障手術をした他の眼の病状がない90人の連続した患者の90の眼球を評価した。両方の眼球に白内障手術をした場合、データ重複を避けるため最初に手術された眼球のみを研究に含めた。本発明の発明者が、全ての手術を実行した。全てのケースで、アクリルIOL(SN60WF,ALCON SURGICAL,INC.
TM)を水晶体嚢116内に取り付けた。最後の屈折を、白内障手術の4から5週後に得た。すなわち、およそ手術の1か月後、光学生体測定機械でAPDを測定した。それから術後のAPDを、回帰方程式(詳細を後述)を通してAL、ACD、LT、K、NT、RND、およびAND(全て手術前に測定)と比較した。
【0045】
図3A−1は術後APDと術前AND値の差をNTと比較した非限定の例示的な散布図であり、Y軸がAPD−ANDの測定値の差(ミリメートル)を示し、X軸がNT(mm)の測定値を示す。
図3A−2は術後APDと術前ANDの値の差をRNDと比較した非限定の例示的な散布図であり、Y軸がAPD−ANDの測定値の差(ミリメートル)を示し、X軸がRND(mm)の測定値を示す。
図3BはEAPDとAPDの値の間の差をALに対し比較した非限定の例示的な散布図であり、Y軸がEAPD−APDの差の値(ミリメートル)を示し、X軸がAL(mm)の測定値を示す。
図3Cは計算されたEAPDを術後測定されたAPDと比較した非限定の例示的な散布図であり、Y軸がAPDの測定値(ミリメートル)を示し、X軸が計算されたEAPD(mm)を示す。
【0046】
図3A−1から
図3Cの散布図からのデータがPearson−Moment相関係数Rを得るため評価され、それらは後述の表1および表2に一覧にされ、後述のEAPD式をもたらし、その導出はさらに詳細を後述する。
【0047】
EAPD=AND+0.386NT−0.749+0.015(AL−23.50)(5)
【0048】
EAPD=AND+0.315RND−0.677+0.015(AL−23.50)(6)
【0049】
予測された屈折誤差は予測された(術前の)屈折と実際の測定された(術後の)屈折の間の差として計算される。正の値はIOL
EPが眼球を予測されたより遠視のままにしたであろうことを示し、負の値はIOL
EPが眼球を予測されたより近視のままにしたであろうことを示す。
【0050】
表1および表2に一覧にしたように、回帰方程式は術後偽水晶体前方距離(APD)をさまざまな手術前測定値と比較した。表1は、これらのさまざまな個別の関連の相関係数(R)を示す。表1の下部は、術後APD測定値と手術前AND測定値の間の最高の相関を達成する(R=0.81)。
【0051】
表2に示されるように、最良の適合(R=0.85)はAPDがAND、NTおよびAL(方程式1a)またはAND、RNDおよびAL(方程式1b)と相関性があるときに得られた。言い換えれば、方程式1aおよび1bは統計的に等しい。
【0054】
外科的に埋め込まれたIOLは、核に占有された空間内に位置する。言い換えれば、術後APD値はAND値および水晶体核の厚さ(NT)の一部の合計である。この関係を評価するため、術後APDおよび術前AND値の間の差が核の厚さ(NT)と比較される。前述のように、
図3A−1はAPDと術前ANDの値の差をNTと比較した非限定の例示的な散布図であり、Y軸がAPD−ANDの差の値(ミリメートル)の測定値を示し、X軸がNT(mm)の測定値を示す。線形回帰方程式が以下で表わされうることは公知である。
【0056】
式中、“a”および“b”は定数である。
図3A−1では、示された傾向線302の線方程式を、線形回帰方程式として表わしうる(および実際に計算しうる)。
【0057】
Y=0.386X−0.749 (8)
【0058】
それは、描画されたデータのデータ値を用いて決定される。本発明は、線形回帰方程式(8)の変数Yを
図3A−1のグラフのY軸の差(APD−AND)に置き換え、線形回帰方程式(8)の変数Xと“a”および“b”を
図3A−1のグラフのX軸のNTに置き換え、2つの定数は以下のようである。
【0059】
APD−AND=0.386NT−0.749 (9)
【0060】
APDの前述の方程式(9)の解は以下の方程式(10)になる。
【0061】
APD=AND+0.386NT−0.749 (10)
【0062】
それから方程式(10)を、方程式(1a)でAPD値を術前に推定する(EAPD)方法として使用可能である。
【0063】
同様に方程式(1b)に関して、外科的に埋め込まれたIOLは、核および後方皮質に占有された空間内に位置し、その空間に核後方距離(RND)と名前を付ける。言い換えれば、術後APD値はAND値および核後方距離(RND)の一部の合計である。この関係を評価するため、術後APDおよび術前ANDの値の間の差がRNDと比較される。前述のように、
図3A−2は術後APDと術前ANDの値の差をRNDと比較した非限定の例示的な散布図であり、Y軸がAPD−ANDの差の値(ミリメートル)の測定値を示し、X軸がRND(mm)の測定値を示す。
図3A−2のデータを考慮して線形回帰方程式(7)を用いて、示された傾向線304の線方程式を、以下の線形回帰方程式として表わしうる(および実際に計算しうる)。
【0064】
Y=0.315X−0.677 (11)
【0065】
それは、描画されたデータのデータ値を用いて決定される。本発明は、線形回帰方程式(11)の変数Yを
図3A−2のグラフのY軸の差(APD−AND)に置き換え、線形回帰方程式(11)の変数Xと方程式(7)の“a”および“b”を
図3A−2のグラフのX軸のRNDに置き換え、2つの定数は以下のようである。
【0066】
APD−AND=0.315RND−0.677 (12)
【0067】
APDの前述の方程式(12)の解は以下の方程式(13)になる。
【0068】
APD=AND+0.315RND−0.677 (13)
【0069】
それから方程式(13)を、方程式(1b)でAPD値を術前に推定する(EAPD)方法として使用可能である。
【0070】
発明者はまた、特に非常に短いおよび非常に長い眼球で、軸方向の長さALがこれらの方程式にわずかな影響を有することを主張する。軸方向の長さがEAPD値にどのように影響するか評価するため、EAPDとAPDの間の差を軸方向の長さの測定値と比較する。
図3Bは、計算されたEAPDと測定されたAPDの値の間の差(EAPD−APD)を軸方向の長さ(AL)と比較する散布図である。
図3Bで、ALの全ての値についてEAPDがAPDに等しい場合、そのとき傾向線306を形成する全ての(X,Y)ポイントの全ての縦座標値(またはY値)はゼロ(または(X,0)または(AL,0))であることは容易に明らかである。これは、ALの値(横座標として示される)がEAPDとAPDが等しいケースで関連しないことを意味する。しかし、示されるように、傾向線306は水平ではないがいくぶんの角度で傾斜し、ゼロ交差(ZC)ポイント(AL
ZC,0)は1つのみである。従って、描画されたデータを考慮して、示された傾向線306のゼロ交差ポイントを1つのポイント(AL
ZC,0)として解釈してもよく、ここでEAPD値の平均とAPD値の平均は等しい。これは、傾向線306のゼロ交差においてゼロ交差ポイント(AL
ZC,Y=0)のY値または縦座標値は以下のように定義されることを意味する。
【0071】
0=EAPD
AVG−APD
AVG (14)
【0072】
この(90人の患者の)非限定の例示的な例で、傾向線306のゼロ交差ポイントはAL
ZC値が23.5mmであると計算され、ゼロ交差ポイントに(23.5,0)の完全な値を与える。
【0073】
図3Bによりさらに示されるように、ゼロ交差を上回る傾向線306の部分は、EAPD値が実際のAPD値より高いことを示し、これはEAPDが短い眼球(その距離は(横座標で示される)ALにより決定される)について過大に推定されたことを意味する。さらに、ゼロ交差を下回る傾向線306の部分は、EAPD値が実際のAPD値未満であることを示し、これはEAPDが長い眼球(その距離はALにより決定される)について過小に推定されたことを意味する。
【0074】
(EAPD=APDとなるように)推定値を是正するため、過大に推定されたEAPD値(ゼロ交差を上回るもの)を減少しなければならず、過小に推定されたEAPD値(ゼロ交差を下回るもの)を増加しなければならない。EAPDの推定値の過大または過小を補正するためEAPDを増加または減少する補正値は、以下のように決定される。
【0076】
式中、AL
ZCは傾向線306のそのゼロ交差でのAL値であり、Y
ZCは傾向線306のゼロ交差での縦座標のゼロ(EAPD=APD)値であり、ALは傾向線306上の他の横座標値であり、Yは傾向線306上の他の縦座標値であり、負の長さは不可能なので、方程式(15)の分母は傾向線306上の2つのポイント間の差の絶対値をとる。一般に、AL測定値を表す横座標は整数(または完全数)のミリメートル長で与えられるので、(EAPD=APDであるところで)AL
ZCは23.5、Y
ZCはゼロであるだろう。ポイント(23.5,0)のゼロ交差から開始して傾向線306をたどり、ゼロ交差を上回る横座標に沿って1ミリメートル移動すると、傾向線ポイントを特定する。
【0078】
従って、EAPDは0.015(正値)過大推定され、EAPD=APDを設定するため同等の補正の減少を必要とする。ポイント(23.5,0)のゼロ交差から開始して傾向線306をたどり、ゼロ交差を下回り1ミリメートル移動すると、傾向線ポイントを特定する。
【0080】
従って、EAPDは0.015(負値)過小推定され、EAPD=APDを設定するため同等の補正の増加を必要とする。従って、この非限定の例示で、過大推定されたEAPDを減少しなければならない量はおよそ0.015mmであることが見出され、過小推定されたEAPDを増加しなければならない量はおよそ0.015mmであることが見出される。従って、AND、NTおよびAL測定値に基いた第1のEAPD方程式(1a)は以下のようになる。
【0081】
EAPD=AND+0.386NT−0.749+0.015(AL−23.50) (18a)
【0082】
定数0.386および−0.749は、さまざまなIOLモデル、製造業者、外科的処置および多くの他の因子で変わりうることに留意すべきである。方程式(18)は過大または過小推定のための補正値“0.015(AL−23.50)”を含み、これは90人の患者の非限定の例についてEAPD=APDを設定する。
【0083】
算術計算を解くことにより、方程式18aを書き換えることができる。
【0084】
EAPD=−1.1015+AND+0.386NT+0.015AL (18b)
【0085】
方程式(18b)で、−1.1015、1、0.386および0.015が方程式(1a)を特徴付ける定数S
1、S
2、S
3およびS
4になる。
【0086】
AND、RNDおよびAL測定値に基いた第2のEAPDの方程式(1b)は、以下のようになる。
【0087】
EAPD=AND+0.315RND−0.677+0.015(AL−23.50) (19a)
【0088】
方程式(18a)と同様に、前述の方程式(19a)で、定数0.315および−0.677は、さまざまなIOLモデル、製造業者、外科的処置および多くの他の因子で変わりうる。方程式(19)は過大または過小推定のための補正値“0.015(AL−23.50)”を含み、これは90人の患者の非限定の例についてEAPD=APDを設定する。
【0089】
算術計算を解くことにより、方程式19aを書き換えることができる。
【0090】
EAPD=−1.0295+AND+0.315RND+0.015AL (19b)
【0091】
方程式(19b)で、−1.0295、1、0.315および0.015が方程式(1b)を特徴付ける定数W
1、W
2、W
3およびW
4になる。
【0092】
図3Cは、(方程式(18)およびまたは(19)のどちらかを用いて)計算されたEAPDを術後測定されたAPDの距離と比較した散布図である。
図3Cで示された傾向線を用いて、(ALを用いた)相関係数はR=0.850である(前述の表2に示す)と決定され、これは(前述の表2の一覧のALを使用しない)R=0.840からの改良である。この例で、方程式(18)および(19)の両方の定数は、1つの特定の製造業者の1つの特定のIOLの型/モデルから得られた。IOLの前方曲率半径、その後方曲率半径およびその厚さがIOLの度数を決定する。さまざまなIOL型/モデルは、前方または後方曲率、またはその厚さにばらつきがあり、それが方程式(1a)および(1b)の定数の値に影響する。この例で使用されたIOLの差の大きさによって、(方程式(1a)および(1b)それぞれの)定数S
2、S
3、S
4およびW
2 W
3 W
4は(定数あたり)およそ5%まで変わり、それが次におよそ10%(累積)までS
1およびW
1の計算に影響することが予想される。方程式(1a)および(1b)の定数は、多数の他の因子によってもまた変わりおよび影響されえて、その非限定の全てを網羅しない例の列挙は、(述べたような)使用されるIOLのタイプ、眼の手術が実行されるタイプおよび方法、手術を実行する内科医の経験、水晶体超音波吸引が問題なかったかまたは合併症を有するかどうかなどを含んでもよいことに留意すべきである。
【0093】
IOL度数計算の新しい式(方程式1aおよび1b)の正確性は、それらを4つの最も一般的に使用される眼内レンズ度数式と比較することにより評価され、それらはSRK/T,Holladay 1,Hoffer QおよびHaigisである。これらの式は多くの生体測定/角膜曲率測定ユニット内にプログラムされ、さまざまなコンピュータプログラム上にある。4つの式全ては幾何光学に基き、それぞれのレンズがその主面における度数に減少された薄いレンズの両眼転導方程式を使用する。それぞれの主面の位置は、レンズ度数およびその前方および後方曲率による。4つの式全ては同一の光学原理を使用するが、それらは外科的に埋め込まれたIOLの位置、しばしば推定レンズ位置(ELP)と呼ばれる値の推定方法でそれらは互いに異なる。
【0094】
これらの式のそれぞれは、特定の術前測定値に基き異なる演算法を使用する。SRK/T、Holladay 1およびHoffer Qは、眼球の軸方向の長さおよび角膜前面の曲率半径に関するそれらの演算法を基礎とする。これらのELP値は、IOLの真の位置を示さない。代わりにこれらの演算法は、これらのケースの臨床データの分析および計算された結果として生じる屈折異常の調整をして実際の術後屈折結果に合わせることにより得られる。計算されたELP値は式の定数として名前が付けられ、すなわちSRK/T式の定数”A”、Holladay 1式の定数”SF”、およびHoffer Q式の定数”pACD”である。多くの製造業者がそれぞれのIOLモデルに特定の定数”A”をつけるが、外科医は最低20のケースを検討し、計算された結果として生じる屈折異常と実際の術後屈折結果の間の平均差がゼロになるまで定数を調整することにより定数を「個人向けにする」よう助言される。
【0095】
IOL度数計算の厚いレンズの演算法を用いてHaigis 1が計算したIOL位置は、術前のデータに実行された重回帰分析によって推定する。最高の相関係数(0.68)は前房深度のものであり、我々のもの(0.66)と近似する結果であった。彼の式で、Haigisは術後のACDを術前のACDおよびALの関数として推定する。
【0096】
表3は本発明によるEAPDの評価(列1)であり、他の一般的に使用される式と比較されるIOL度数式(方程式1aおよびまたは1b)内で使用される。
【0098】
表3は、Haigis、Hoffer Q、Holladay、およびSKR/T式で得られた誤差と比較した本式(方程式1aおよびまたは1b)の予測誤差を示す。IOL度数計算の新しい式(方程式1aおよび1b)の正確性は、その絶対誤差中央値(MedAE)を他の式で得られたものと比較することにより評価される。中央値は、平均値の代わりに予測絶対誤差に関して報告される。これらの絶対値はガウス曲線分布に一致しないからである。MedAEは、他の式と比較して本式では低いことを指摘する。また、+/−0.50D以内と+/−1.00D以内の正確性で患者のパーセンテージは、他の式と比較して本式(方程式1aまたは1b)では高い。
【0099】
本発明を構造的機能およびまたは方法動作特有の言語でかなり詳細に記載したが、添付の請求項に定義された本発明は、記載された特有の機能または動作に必ずしも限定されないことを理解すべきである。そうではなく、特有の機能または動作は主張される発明を実行する例示的な望ましい形態として開示される。他に述べられていなければ、本明細書ならびに要約書で採用された表現および語句は説明の目的とみなされるべきであり、限定とみなされるべきではない。従って、本発明の実施形態の例示的な例を記載したが、多数の変形および代替的な実施形態が当業者にうかぶであろう。例えば、方程式1aおよび1bを確証するのに使用された新しい測定値は、HAAG−STREIT,INC.のLENSTAR LS−900バイオメータを使用した光学生体測定によりなされた。より具体的にいうと、これらの新しく記載された測定値は、皮質前方距離(ACX)、核の厚さ(NT)、皮質後方距離(PCX)、核前方距離(AND)および核後方距離(RND)を含む。そのような測定値をまた、他の光学バイオメータ、超音波ユニット、光干渉断層撮影(OCT)ユニットおよび他の1次元、2次元または3次元画像化ユニットでも得ることが可能である。さらに、眼内レンズ度数計算式は、薄い光学レンズを使用する。そのような計算はまた、IOL度数の計算に、厚い光学レンズ、レイトレーシングおよびさまざまな他のコンピューター化されたプログラムを使用可能である。そのような変形および別の実施形態が考えられ、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなくなすことが可能である。
【0100】
開示の全体にわたり、左、右、前、後、頂部、下部、前方、逆転、時計回り、反時計回り、上、下または上位、下位、後部、前部、垂直、水平、斜め、近位、遠位、平行、垂直、横断、長手方向などのような他の同様の語は、便宜上の目的のみで使用され、いずれの特定の固定した方向または位置決めを暗示することを意図しないことを、さらに留意すべきである。代わりにそれらは、物体の種々の部分間の相対的な位置および/または方向/位置決めを示すのに使用される。
【0101】
また、本開示(および特に請求項)を通した「第1の」、「第2の」、「第3の」などの要素の記述は、連続のまたは数字の限定を示すのに使用されず、代わりにグループの種々の要素を区別または識別するのに使用される。
【0102】
また、請求項内の特定の機能を実行する「手段」または特定の機能を実行する「ステップ」と明確に述べていないあらゆる構成要素は、35米国特許法112条第6段落に規定された「手段」または「ステップ」条項と解釈されるべきではない。特に、本明細書の請求項内の「のステップ」、「の動作」、「の操作」または「運用上の動作」の使用は、35米国特許法112条第6段落の規定を行使することを意図しない。