(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6823902
(24)【登録日】2021年1月14日
(45)【発行日】2021年2月3日
(54)【発明の名称】滑り軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 25/04 20060101AFI20210121BHJP
B62D 3/12 20060101ALI20210121BHJP
F16C 27/06 20060101ALI20210121BHJP
F16C 17/02 20060101ALI20210121BHJP
【FI】
F16C25/04 A
B62D3/12 503A
F16C27/06 A
F16C17/02 Z
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-74068(P2017-74068)
(22)【出願日】2017年4月3日
(65)【公開番号】特開2018-179024(P2018-179024A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2020年1月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000103644
【氏名又は名称】オイレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104570
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 光弘
(72)【発明者】
【氏名】中川 昇
(72)【発明者】
【氏名】菊池 宏之
【審査官】
中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第06485180(US,B2)
【文献】
特開2009−103206(JP,A)
【文献】
特開2008−151289(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 17/00−17/26
F16C 21/00−27/08
F16C 33/00−33/28
B62D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のハウジング内に収容され、軸部材の軸方向の移動および回転の少なくとも一方を許容しつつ、前記軸部材に加わる荷重を支持する滑り軸受であって、
径方向に伸縮可能な筒状の軸受本体と、
前記軸受本体に装着され、前記軸受本体の径方向に対して傾斜しながら前記軸受本体の外周面から外方に突出する突出部を有する弾性部材と、を備え、
前記軸受本体は、
一方の端部において外周面から外方に突出して、前記ハウジングの内周面に周方向に形成された環状溝に挿入される係合部を有し、
前記弾性部材は、
前記軸受本体の前記係合部とともに前記ハウジングの前記環状溝に挿入され、当該環状溝の側面と当接する係合用弾性部をさらに有し、
前記滑り軸受を前記ハウジング内に収容した場合に、前記突出部が前記ハウジングの内周面と当接して、前記軸受本体を径方向内方に付勢する
ことを特徴とする滑り軸受。
【請求項2】
請求項1に記載の滑り軸受であって
前記軸受本体は、
一方の端面から他方の端面に向けて軸方向に沿って形成されたスリットをさらに有する
ことを特徴とする滑り軸受。
【請求項3】
請求項1または2に記載の滑り軸受であって、
前記軸受本体は、
外周面に形成され、底部の溝幅が開口部の溝幅より広い保持溝をさらに有し、
前記弾性部材は、
前記軸受本体の前記保持溝に収容され、当該保持溝と同形状の被保持部をさらに有する
ことを特徴とする滑り軸受。
【請求項4】
径方向に伸縮可能な筒状の軸受本体と、
前記軸受本体に装着され、前記軸受本体の径方向に対して傾斜しながら前記軸受本体の外周面から外方に突出する突出部を有する弾性部材と、を備え、
前記軸受本体は、
外周面に形成され、底部の溝幅が開口部の溝幅より広い保持溝を有し、
前記弾性部材は、
前記軸受本体の前記保持溝に収容され、当該保持溝と同形状の被保持部をさらに有する
ことを特徴とする滑り軸受。
【請求項5】
請求項4に記載の滑り軸受であって
前記軸受本体は、
一方の端面から他方の端面に向けて軸方向に沿って形成されたスリットをさらに有する
ことを特徴とする滑り軸受。
【請求項6】
請求項3ないし5のいずれか一項に記載の滑り軸受であって、
前記軸受本体の前記保持溝および前記弾性部材の前記被保持部は、
前記軸受本体の一方の端面から他方の端面に向けて軸方向に沿って形成され、両端部の溝幅が当該両端部に挟まれた中間部の溝幅より広く、かつ一方の端面側の溝幅が当該一方の端面に近づくにつれて狭くなる
ことを特徴とする滑り軸受。
【請求項7】
請求項3ないし6のいずれか一項に記載の滑り軸受であって、
前記軸受本体の前記保持溝は、
前記弾性部材の曲げ変形した前記突出部を収容する収容領域を有する
ことを特徴とする滑り軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸部材の軸方向の移動を許容しつつ、軸部材に加わる荷重を支持する滑り軸受に関し、特に、車両のステアリング機構に用いられるラックブッシュに好適な滑り軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両のステアリング機構に用いられるラックブッシュに好適な滑り軸受として、円筒状のハウジング内に軸方向の移動が規制された状態で収容され、ラック軸の軸方向の移動を許容しつつ、ラック軸に加わる荷重を支持する滑り軸受が記載されている。
【0003】
この滑り軸受は、ラック軸が挿入される円筒状の軸受本体と、軸受本体に装着され、ゴム、エラストマー等の弾性体からなり、軸受本体を径方向内方に付勢する弾性リングと、を備えている。軸受本体は、合成樹脂製であり、一方の端面から他方の端面に向けて軸方向に沿って形成された第一のスリットと、他方の端面から一方の端面に向けて軸方向に沿って形成された第二のスリットと、軸受本体の外周面に形成され、弾性リングが装着される装着溝と、を有している。
【0004】
この滑り軸受によれば、弾性リングによって軸受本体が縮径し、軸受本体に挿入されたラック軸を締め付けるので、軸受本体の内周面とラック軸の外周面との間のクリアランスをゼロにして、軸受本体の内周面とラック軸の外周面との衝突による不快音の発生を防止することができるとともに、ラック軸の外径寸法誤差による摩擦トルクの変動を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−151289号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に記載の滑り軸受は、軸受本体に挿入されたラック軸と滑り軸受が収容されたハウジングとの間に挟まれて、軸受本体に装着された弾性リングが圧縮変形した状態で使用される。このため、弾性リングに用いられるゴム、エラストマー等の弾性体の劣化が進行して、滑り軸受の寿命が短くなるという問題がある。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、弾性体の耐久性を向上させて長寿命化を図ることができる滑り軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の滑り軸受では、軸部材が挿入される、径方向に伸縮可能な筒状の軸受本体に、軸受本体の外周面から外方に突出する弾性部材を装着している。そして、弾性部材に、軸受本体の径方向に対して傾斜しながら外方に突出して、例えば筒状のハウジング内に収容した場合に、このハウジングの内周面と当接する突出部を設けている。
【0009】
例えば、本発明の滑り軸受
の第一の態様は、
筒状のハウジング内に収容され、軸部材の軸方向の移動および回転の少なくとも一方を許容しつつ、前記軸部材に加わる荷重を支持する滑り軸受であって、
径方向に伸縮可能な筒状の軸受本体と、
前記軸受本体に装着され、前記軸受本体の径方向に対して傾斜しながら前記軸受本体の外周面から外方に突出する突出部を有する弾性部材と、を備え
、
前記軸受本体は、
一方の端部において外周面から外方に突出して、前記ハウジングの内周面に周方向に形成された環状溝に挿入される係合部を有し、
前記弾性部材は、
前記軸受本体の前記係合部とともに前記ハウジングの前記環状溝に挿入され、当該環状溝の側面と当接する係合用弾性部をさらに有し、
前記滑り軸受を前記ハウジング内に収容した場合に、前記突出部が前記ハウジングの内周面と当接して、前記軸受本体を径方向内方に付勢する。
【0010】
また、本発明の滑り軸受の第二の態様は、
径方向に伸縮可能な筒状の軸受本体と、
前記軸受本体に装着され、前記軸受本体の径方向に対して傾斜しながら前記軸受本体の外周面から外方に突出する突出部を有する弾性部材と、を備え、
前記軸受本体は、
外周面に形成され、底部の溝幅が開口部の溝幅より広い保持溝を有し、
前記弾性部材は、
前記軸受本体の前記保持溝に収容され、当該保持溝と同形状の被保持部をさらに有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、滑り軸受を例えば筒状のハウジング内に収容した場合に、弾性部材の径方向外方の端部がハウジングの内周面と当接して、軸受本体を径方向内方に付勢する。これにより、軸受本体が縮径して、軸受本体に挿入された軸部材を締め付ける。この際、弾性部材の突出部がハウジングの内周面と当接して曲げ変形する。弾性部材に用いられるゴム、エラストマー等の弾性体の劣化は、一般に、曲げ変形よりも圧縮変形の影響の方が大きい。本発明によれば、弾性部材に加わる圧縮応力の一部を曲げ変形により逃がすことができるので、その分だけ圧縮変形量を小さくでき、これにより弾性部材の耐久性を向上させて、滑り軸受の長寿命化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の第一実施の形態に係るラックブッシュ1が用いられた車両のステアリング機構の一部の部分断面図である。
【
図2】
図2(A)、
図2(B)および
図2(C)は、ラックブッシュ1の正面図、側面図および背面図である。
【
図3】
図3(A)、
図3(B)および
図3(C)は、ブッシュ本体2の正面図、側面図および背面図であり、
図3(D)および
図3(E)は、
図3(A)に示すブッシュ本体2のA−A断面図およびB−B断面図であり、
図3(F)は、
図3(A)に示すブッシュ本体2のC部拡大図である。
【
図4】
図4(A)、
図4(B)および
図4(C)は、弾性部材3の正面図、上面図および側面図であり、
図4(D)は、
図2(A)のD部拡大図である。
【
図5】
図5(A)、
図5(B)および
図5(C)は、本発明の第二実施の形態に係るラックブッシュ1’の正面図、側面図および背面図である。
【
図6】
図6(A)、
図6(B)および
図6(C)は、弾性部材3aの正面図、上面図および側面図であり、
図6(D)は、
図5(B)に示すE部の
図5(C)に示すF方向矢視拡大図である。
【
図7】
図7(A)、
図7(B)および
図7(C)は、弾性部材3bの正面図、上面図および側面図であり、
図7(D)は、
図7(C)のG部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0014】
[第一実施の形態]
図1は、本実施の形態に係るラックブッシュ1が用いられた車両のステアリング機構の一部の部分断面図である。
【0015】
図示するように、本実施の形態に係るラックブッシュ1は、円筒状のハウジング4内に軸O方向の移動が規制された状態で収容され、ラック軸5の軸O方向の移動を許容しつつ、ラック軸5に加わる荷重を支持する。
【0016】
図2(A)、
図2(B)および
図2(C)は、ラックブッシュ1の正面図、側面図および背面図である。
【0017】
図示するように、ラックブッシュ1は、ラック軸5が挿入される円筒状のブッシュ本体2と、ブッシュ本体2に装着された複数の弾性部材3と、を備えている。
【0018】
図3(A)、
図3(B)および
図3(C)は、ブッシュ本体2の正面図、側面図および背面図であり、
図3(D)および
図3(E)は、
図3(A)に示すブッシュ本体2のA−A断面図およびB−B断面図であり、
図3(F)は、
図3(A)に示すブッシュ本体2のC部拡大図である。
【0019】
ブッシュ本体2は、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂等の摺動特性のよい合成樹脂で形成され、図示するように、内周面20に形成され、挿入されたラック軸5の外周面50と摺接する摺動面21と、周方向に等間隔で交互に配置された複数の第一スリット25および第二スリット26と、外周面22に形成された係合部27と、弾性部材3を保持する複数の保持溝28と、を備えている。
【0020】
第一スリット25は、一方の端面23から他方の端面24に向けて軸O方向に沿って形成され、第二スリット26は、他方の端面24から一方の端面23に向けて軸O方向に沿って形成されている。ブッシュ本体2は、周方向に等間隔で交互に配置された複数の第一スリット25および第二スリット26により、縮径方向に変形しやすくなっている。
【0021】
係合部27は、一方の端面23側において外周面22から外方に突出し、ハウジング4の内周面40に周方向に形成された環状溝41に挿入される。これにより、ハウジング4内に収容されたラックブッシュ1の軸O方向の移動が規制される。
【0022】
保持溝28は、両端面23、24を貫くように軸O方向に沿って外周面22に形成されている。また、保持溝28は、底部280の溝幅W1が開口部281の溝幅W2より広くなるように形成されている。
【0023】
図4(A)、
図4(B)および
図4(C)は、弾性部材3の正面図、上面図および側面図であり、
図4(D)は、
図2(A)のD部拡大図である。
【0024】
弾性部材3は、ゴム、エラストマー等の弾性体で形成され、図示するように、被保持部31と、被保持部31の上面310に形成された一対の突出部30a、30bと、を備えている。
【0025】
突出部30a、30bは、ラックブッシュ1において、ブッシュ本体2の外周面22から外方に突出し、突出部30a、30bの頂点を結ぶ円Cの直径D1(
図2(A)参照)が、ハウジング4の内径D2(
図1参照)に対してシメシロとなるように、被保持部31の上面310からの突出量が設定されている。これにより、弾性部材3は、ラックブッシュ1をハウジング4内に収容した場合に、突出部30a、30bがハウジング4の内周面40と当接して、ブッシュ本体2を径方向内方に付勢する。
【0026】
また、
図4(D)に示すように、弾性部材3の突出部30a、30bは、軸O方向に垂直な断面において、ブッシュ本体2の中心を通って径方向Rに延びる直線に対して周方向Sに傾斜している。このため、突出部30a、30bは、ラックブッシュ1をハウジング4内に収容した場合に、ハウジング4の内周面40と当接して周方向Sに曲げ変形する。また、ブッシュ本体2の保持溝28の開口部281は、弾性部材3の突出部30a、30bの周方向Sの両側に収容領域282a、282bを形成することのできる溝幅W2を有するように形成されている。ハウジング4の内周面40と当接して曲げ変形した突出部30a、30bは、収容領域282a、282bに収容される。
【0027】
被保持部31は、ブッシュ本体2の保持溝28の底部280と同形状であり、弾性部材3を軸O方向にスライドさせて、被保持部31をブッシュ本体2の保持溝28の底部280に挿入することにより、弾性部材3がブッシュ本体2の保持溝28に保持される。ブッシュ本体2の保持溝28は、底部280の溝幅W1が開口部281の溝幅W2より広くなるように形成されているため、この保持溝28に保持された弾性部材3が径方向に抜け落ちるのを防止することができる。
【0028】
以上、本発明の第一実施の形態について説明した。
【0029】
本実施の形態では、ラックブッシュ1を円筒状のハウジング4内に収容した場合に、弾性部材3の突出部30a、30bがハウジング4の内周面40と当接して、ブッシュ本体2を径方向内方に付勢する。これにより、ブッシュ本体2が縮径して、ブッシュ本体2に挿入されたラック軸5を締め付ける。ここで、弾性部材3の突出部30a、30bは、軸O方向に垂直な断面において、径方向Rに対して周方向Sに傾斜しているので、この際、ハウジング4の内周面40と当接して周方向Sに曲げ変形し、突出部30a、30bの周方向Sの両側に形成されたブッシュ本体2の保持溝28の収容領域282a、282bに収容される。弾性部材3に用いられるゴム、エラストマー等の弾性体の劣化は、一般に、曲げ変形よりも圧縮変形の影響の方が大きい。本実施の形態によれば、ラックブッシュ1をハウジング4内に収容したときに弾性部材3に加わる圧縮応力の一部を突出部30a、30bの曲げ変形により逃がすことができるので、その分だけ圧縮変形量を小さくでき、これにより弾性部材3の耐久性を向上させて、ラックブッシュ1の長寿命化を図ることができる。
【0030】
また、本実施の形態では、ブッシュ本体2の保持溝28の底部280の溝幅W1を開口部281の溝幅W2より広くするとともに、弾性部材3の被保持部31を、ブッシュ本体2の保持溝28の底部280と同形状にして、この保持溝28の底部280に挿入することにより、弾性部材3をブッシュ本体2の保持溝28に保持させている。このため、ブッシュ本体2の保持溝28に保持された弾性部材3が径方向に抜け落ちるのを防止することができる。
【0031】
また、上記特許文献1に記載の滑り軸受は、ハウジング4に挿入された場合、軸O方向において点でハウジング4に支持されることとなり(弾性リングが1本なら1点支持、2本なら2点支持)、このため、軸受本体の外周面がハウジング4内で軸O方向に傾く可能性がある。この点、本実施の形態では、弾性部材3が軸O方向に延びているので、ハウジング4に挿入された場合に、軸O方向において線でハウジング4に支持されることとなり、したがって、ブッシュ本体2の外周面22がハウジング4内で軸O方向に傾く可能性を低くすることができる。
【0032】
さらに、本実施の形態では、弾性部材3が曲げ変形を利用した形状であるため、形状の自由度が高く、剛性のコントロールがしやすいという利点がある。
【0033】
[第二実施の形態]
本実施の形態に係るラックブッシュ1’も、
図1に示す第一実施の形態に係るラックブッシュ1と同様、円筒状のハウジング4内に軸O方向の移動が規制された状態で収容され、ラック軸5の軸O方向の移動を許容しつつ、ラック軸5に加わる荷重を支持する。
【0034】
図5(A)、
図5(B)および
図5(C)は、本発明の第二実施の形態に係るラックブッシュ1’の正面図、側面図および背面図である。
【0035】
本実施の形態に係るラックブッシュ1’が第一実施の形態に係るラックブッシュ1と異なる点は、弾性部材3に代えて弾性部材3aを用いたことである。その他の構成は、第一実施の形態に係るラックブッシュ1と同様である。
【0036】
図6(A)、
図6(B)および
図6(C)は、弾性部材3aの正面図、上面図および側面図であり、
図6(D)は、
図5(B)に示すE部の
図5(C)に示すF方向矢視拡大図である。
【0037】
弾性部材3aが第一実施の形態に係るラックブッシュ1の弾性部材3と異なる点は、一対の係合用弾性部32a、32bを有することである。その他の構成は、第一実施の形態に係るラックブッシュ1の弾性部材3と同様である。
【0038】
係合用弾性部32a、32bは、ブッシュ本体2の係合部27側において、被保持部31の上面310に突出部30a、30bを挟んで形成され、ブッシュ本体2の外周面22から外方に突出する。そして、ブッシュ本体2の係合部27とともに、ハウジング4の環状溝41に挿入される。
【0039】
係合用弾性部32a、32bの軸O方向の長さL1は、ブッシュ本体2の係合部27の軸O方向の長さL2より長く、かつ、ハウジング4の環状溝41の軸O方向の長さL3(
図1参照)に対してシメシロとなるように設定されている。ただし、係合用弾性部32a、32bは、軸O方向において、少なくとも一方の端面がブッシュ本体2の係合部27の端面から環状溝41とシメシロとなるように突出する形状であれば、係合用弾性部32a、32bの軸O方向の長さL1が、ブッシュ本体2の係合部27の軸O方向の長さL2より短くてもかまわない。
【0040】
以上、本発明の第二実施の形態について説明した。
【0041】
本実施の形態では、係合用弾性部32a、32bを、軸O方向において、少なくとも一方の端面がブッシュ本体2の係合部27の端面から突出する形状とし、かつ係合用弾性部32a、32bの軸O方向の長さL1を、ハウジング4の環状溝41の軸O方向の長さL3に対してシメシロとなるように設定している。このため、ラックブッシュ1をハウジング4内に収容した場合に、ブッシュ本体2の係合部27がハウジング4の環状溝41の側面と接触・非接触を繰り返して異音を発生させるのを防止できる。その他の効果は、ハウジング4に挿入されたラックブッシュ1’のブッシュ本体2の外周面がハウジング4内で軸O方向に傾く可能性を低くできる効果を除き、本発明の第一実施の形態と同様である。
【0042】
なお、本発明は、上記の各実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で数々の変形は可能である。
【0043】
例えば、上記の各実施の形態では、弾性部材3、3aの突出部30a、30bを、軸O方向に垂直な断面において、径方向Rに対して周方向Sに傾斜させている(
図4(D)参照)。しかし、本発明はこれに限定されない。弾性部材3、3aの突出部30a、30bは、径方向Rに対して傾斜しながらブッシュ本体2の外周面22から外方に突出したものであればよい。例えば、
図7に示す弾性部材3bのように、軸O方向の断面において、径方向Rに対して軸O方向に傾斜した突出部30cを、軸O方向に沿って被保持部31の上面310に複数設けてもよい。この場合、ハウジング4の内周面40と当接して曲げ変形した突出部30cが収容される収容領域282cを有するように、所定の間隔を空けて突出部30cを設けることが好ましい。
【0044】
また、上記の各実施の形態において、ブッシュ本体2の保持溝28の底部280の両端部における溝幅を、その両端部に挟まれた中央部の溝幅よりも広く、かつ、いずれか一方の端面23、24側の端部の溝幅をその端面23、24に近づくにつれて狭くなるように傾斜させ、これに併せて、
図8に示す弾性部材3cのように、被保持部31の両端部311a、311bにおける幅を両端部311a、311bに挟まれた中央部312の幅より広く、かつ一方の端部311aの幅を端面313に近づくにつれて狭くなうように傾斜させてもよい。そして、端部311aを先頭にして、被保持部31をブッシュ本体2の保持溝28の底部280に挿入することにより、弾性部材3をブッシュ本体2の保持溝28に保持させてもよい。このようにすることで、弾性部材3cが軸O方向にスライドしてブッシュ本体2の保持溝28から軸O方向に抜け落ちるのを防止することができる。
【0045】
また、上記の各実施の形態では、ブッシュ本体2の保持溝28をブッシュ本体2の外周面22に軸O方向に沿って形成し、弾性部材3、3a〜3cを、直線状に形成して、この保持溝28に保持させている。しかし、本発明はこれに限定されない。例えば、保持溝をブッシュ本体2の外周面22に周方向に沿って環状に形成し、この保持溝に、軸O方向の断面あるいは軸O方向に垂直な断面において、ブッシュ本体2の径方向に対して傾斜しながら外周面22から外方に突出して、ハウジング4の内周面40と当接する突出部を有する環状の弾性部材を装着してもよい。
【0046】
また、上記の各実施の形態では、ブッシュ本体2に、一方の端面23から他方の端面24に向けて複数の第一スリット25を軸O方向に沿って形成するとともに、他方の端面24から一方の端面23に向けて複数の第二スリット26を軸O方向に沿って形成している。しかし、本発明はこれに限定されない。ブッシュ本体2は、径方向に伸縮可能な筒形状を有するものであればよい。例えば、いずれか一方の端面から他方の端面に向けて軸O方向に沿って形成されたスリットを備えることにより、径方向に伸縮可能としたものでもよし、あるいは、スリットの代わりに肉薄部を設けることにより、径方向に伸縮可能としたものでもよい。
【0047】
また、上記の各実施の形態では、ブッシュ本体2の形状を円筒状としているが、挿入されるラック軸5の形状に適合する筒形状であればよい。また、本実施の形態では、ブッシュ本体2と弾性部材3、3a〜3cとを別材質で形成しているが、両者を同じ材質で形成してもよい。
【0048】
また、本発明はラックブッシュに限定されない。本発明は軸部材の軸方向の移動および回転の少なくとも一方を許容しつつ、この軸部材に加わる荷重を支持する滑り軸受に広く適用可能である。例えば、本発明は、ステアリングコラムの回転を許容しつつ、ステアリングコラムに加わる荷重を支持するステアリングコラムブッシュに適用することができる。
【符号の説明】
【0049】
1、1’:ラックブッシュ、 2:ブッシュ本体、 3、3a〜3c:弾性部材、 4:ハウジング、 5:ラック軸、20:ブッシュ本体2の内周面、 21:ブッシュ本体2の摺動面、 22:ブッシュ本体2の外周面、 23、24:ブッシュ本体2の端面、 25:第一スリット、 26:第二スリット、 27:係合部、 28:保持溝、 30a〜30c:突出部、 31:被保持部、 32a、32b:係合用弾性部、 40:ハウジング4の内周面、 41:環状溝、 50:ラック軸5の外周面、 280:保持溝28の底部、 281:保持溝28の開口部、 282a〜282c:収容領域、 310:被保持部31の上面、 313:弾性部材3cの端面