(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6823910
(24)【登録日】2021年1月14日
(45)【発行日】2021年2月3日
(54)【発明の名称】サーボプレス、制御方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
B30B 15/14 20060101AFI20210121BHJP
B30B 15/00 20060101ALI20210121BHJP
B30B 1/18 20060101ALN20210121BHJP
【FI】
B30B15/14 A
B30B15/00 B
!B30B1/18 B
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-34058(P2015-34058)
(22)【出願日】2015年2月24日
(65)【公開番号】特開2016-155144(P2016-155144A)
(43)【公開日】2016年9月1日
【審査請求日】2018年2月21日
【審判番号】不服2019-15803(P2019-15803/J1)
【審判請求日】2019年11月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002244
【氏名又は名称】蛇の目ミシン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122426
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 清志
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 伸司
【合議体】
【審判長】
刈間 宏信
【審判官】
見目 省二
【審判官】
青木 良憲
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−264808(JP,A)
【文献】
特開平10−277800(JP,A)
【文献】
特開平5−285544(JP,A)
【文献】
特開2005−181171(JP,A)
【文献】
特公昭62−47143(JP,B2)
【文献】
実開昭54−111592(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B30B 15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下動するスライドと、
前記スライドを上下駆動するサーボモータと、
前記サーボモータに設けられたエンコーダと、
前記エンコーダからの出力信号により、前記スライドの位置を検出する第1のスライド位置検出手段と、
前記スライドの制御条件を設定する設定手段と、
前記スライドの停止位置近傍であって、機械的変化の影響を受ける可能性のある領域に設けられたZ相信号を出力するリニアエンコーダと、
前記リニアエンコーダの出力信号により、前記スライドの位置を検出する第2のスライド位置検出手段と、
前記リニアエンコーダからの前記Z相信号を検出する信号検出手段と、
前記第1のスライド位置検出手段または第2のスライド位置検出手段が検出したスライド位置と、設定された前記スライドの制御条件と、に基づいてサーボモータを制御するサーボモータ制御手段と、
を備え、
前記サーボモータ制御手段は、前記信号検出手段が前記リニアエンコーダからの前記Z相信号を検出する前には、前記スライドの制御条件と前記サーボモータに設けられた前記第1のスライド位置検出手段により検出された位置情報とからセミクローズ制御による駆動を行い、前記信号検出手段が前記リニアエンコーダからの前記Z相信号を受信することをトリガとして、前記第1のスライド位置検出手段により検出された位置情報から前記第2のスライド位置検出手段により検出された位置情報に切り替えるとともに、セミクローズ制御のサーボループを切り離し、フルクローズ制御のサーボループを閉じて、制御方式をセミクローズ制御からフルクローズ制御に切り替えて、前記第2のスライド位置検出手段が検出する位置情報と前記スライドの制御条件とにより制御することを特徴とするサーボプレス。
【請求項2】
前記信号検出手段が前記リニアエンコーダのZ相信号を検出すると、前記サーボモータ制御手段が前記リニアエンコーダのZ相信号を検出した前記スライドの位置から目標停止位置まで、前記リニアエンコーダの値をフィードバックしてフルクローズ制御を行うことを特徴とする請求項1に記載のサーボプレス。
【請求項3】
前記リニアエンコーダの前記スライドの移動方向に対する取り付け位置を前記スライドの停止基準位置に基づいて設定することを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載のサーボプレス。
【請求項4】
上下動するスライドと、前記スライドを上下駆動するサーボモータと、前記サーボモータに設けられたエンコーダと、前記エンコーダからの出力信号により、前記スライドの位置を検出する第1のスライド位置検出手段と、前記スライドの制御条件を設定する設定手段と、前記スライドの停止位置近傍であって、機械的変化の影響を受ける可能性のある領域に設けられたZ相信号を出力するリニアエンコーダと、前記リニアエンコーダの前記Z相出力信号により、前記スライドの位置を検出する第2のスライド位置検出手段と、前記リニアエンコーダからの前記Z相信号を検出する信号検出手段と、前記第1のスライド位置検出手段または第2のスライド位置検出手段が検出したスライド位置と、設定された前記スライドの制御条件と、に基づいてサーボモータを制御するサーボモータ制御手段と、を備えたサーボプレスにおける制御方法であって、
前記サーボモータ制御手段が、前記サーボモータに設けられた前記第1のスライド位置検出手段により検出された情報に基づいて、サーボモータの制御を行う第1のステップと、
前記信号検出手段が、前記リニアエンコーダからの前記Z相信号を検出する第2のステップと、
前記サーボモータ制御手段は、前記信号検出手段が前記リニアエンコーダからの前記Z相信号を検出する前には、前記スライドの制御条件と前記サーボモータに設けられた前記第1のスライド位置検出手段により検出された位置情報とからセミクローズ制御による駆動を行い、前記信号検出手段が前記リニアエンコーダからの前記Z相信号を受信することをトリガとして、前記第1のスライド位置検出手段により検出された位置情報から前記第2のスライド位置検出手段により検出された位置情報に切り替えるとともに、セミクローズ制御のサーボループを切り離し、フルクローズ制御のサーボループを閉じて、制御方式をセミクローズ制御からフルクローズ制御に切り替えて、前記第2のスライド位置検出手段が検出する位置情報と前記スライドの制御条件とにより制御する第3のステップと、
を備えたことを特徴とする制御方法。
【請求項5】
上下動するスライドと、前記スライドを上下駆動するサーボモータと、前記サーボモータに設けられたエンコーダと、前記エンコーダからの出力信号により、前記スライドの位置を検出する第1のスライド位置検出手段と、前記スライドの制御条件を設定する設定手段と、前記スライドの停止位置近傍であって、機械的変化の影響を受ける可能性のある領域に設けられたZ相信号を出力するリニアエンコーダと、前記リニアエンコーダの前記Z相出力信号により、前記スライドの位置を検出する第2のスライド位置検出手段と、前記リニアエンコーダからの前記Z相信号を検出する信号検出手段と、前記第1のスライド位置検出手段または第2のスライド位置検出手段が検出したスライド位置と、設定された前記スライドの制御条件と、に基づいてサーボモータを制御するサーボモータ制御手段と、を備えたサーボプレスにおける制御方法をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、
前記サーボモータ制御手段が、前記サーボモータに設けられた前記第1のスライド位置検出手段により検出された情報に基づいて、サーボモータの制御を行う第1のステップと、
前記信号検出手段が、前記リニアエンコーダからの前記Z相信号を検出する第2のステップと、
前記サーボモータ制御手段は、前記信号検出手段が前記リニアエンコーダからの前記Z相信号を検出する前には、前記スライドの制御条件と前記サーボモータに設けられた前記第1のスライド位置検出手段により検出された位置情報とからセミクローズ制御による駆動を行い、前記信号検出手段が前記リニアエンコーダからの前記Z相信号を受信することをトリガとして、前記第1のスライド位置検出手段により検出された位置情報から前記第2のスライド位置検出手段により検出された位置情報に切り替えるとともに、セミクローズ制御のサーボループを切り離し、フルクローズ制御のサーボループを閉じて、制御方式をセミクローズ制御からフルクローズ制御に切り替えて、前記第2のスライド位置検出手段が検出する位置情報と前記スライドの制御条件とにより制御する第3のステップと、
をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外乱による偏差が生じても高精度のプレス加工を行うサーボプレス、制御方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトロニクス関連製品に代表されるように、近年のハイテク化は目ざましく、それに伴ってその構成部品に対して高精度の品質が要求されている。プレス加工においても、このような要求に対応するために、様々な技術的な改善がなされており、例えば従来の油圧プレスではできないような高精度の加工が、サーボモータによって駆動されるサーボプレスによって行なわれている。
【0003】
例えば、特許文献1には、サーボモータにより駆動されるスライドが設定された制御パターンでストローク制御されるプレス機械に係わる技術が開示されている。この制御は、
図5に示すように、サーボモータのエンコーダを監視して制御を行う方式であって、セミクローズ制御と呼ばれる制御方式である。
【0004】
また、
図6に示すように、外部に配置したエンコーダを用いて、制御対象である機械の位置を検出し、これをフィードバックして、位置制御を行うフルクローズ制御と呼ばれる制御方式がある。この制御方式を用いることによって、例えば、ボールネジの誤差や温度による位置変動の影響を受けない制御が可能であり、サブミクロンオーダの高精度の位置決めを行うことができる。
【0005】
さらに、
図7に示すように、セミクローズ制御とフルクローズ制御とを融合したハイブリッド制御も知られている(例えば、特許文献2参照)。このハイブリッド制御は、セミクローズ制御を常時行いながら、一定周期ごとにサーボモータのエンコーダと外部エンコーダとの偏差をもとに位置指令を補正することにより、セミクローズ制御の応答性とフルクローズ制御の精度を求める制御方式である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2−224898号公報
【特許文献2】特開2006−82102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、セミクローズ制御については、熱膨張などの機械的変化に対応できないという問題がある。
【0008】
また、フルクローズ制御やハイブリッド制御では、機械的な剛性が低い場合には、発振を起こし、高速駆動ができないという問題がある。こうした問題に対応するためには、駆動範囲すべてにスケール(例えば、エンコーダ)を設ける必要がある。しかしながら、かなり長いスケール(例えば、エンコーダ)が必要となることから、取り付けに制限があるとともに、コストが高くなるという問題があった。
【0009】
そこで、本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、外乱による偏差が生じる系においても、特殊なリニアエンコーダ等の部材を追加する等のコスト高を伴わず、高精度のプレス加工を行うサーボプレス、制御方法およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下の事項を提案している。
【0011】
(1)本発明は、上下動するスライドと、前記スライドを上下駆動するサーボモータと、
前記サーボモータに設けられたエンコーダと、前記エンコーダからの出力信号により、前記スライドの位置を検出する第1のスライド位置検出手段と、前記スライドの位置条件を設定する設定手段と、前記スライドの停止位置近傍に設けられたセンシング素子と、前記センシング素子の出力信号により、前記スライドの位置を検出する第2のスライド位置検出手段と、前記センシング素子からの信号を検出する信号検出手段と、前記第1のスライド位置検出手段または第2のスライド位置検出手段が検出したスライド位置、前記設定されたスライド位置と、に基づいてサーボモータを制御するサーボモータ制御手段と、を備え、前記サーボモータ制御手段は、前記信号検出手段が前記センシング素子からの信号を検出する前は、前記サーボモータに設けられた前記第1のスライド位置検出手段により検出された情報に基づくセミクローズ制御を行い、前記信号検出手段が前記センシング素子からの信号を検出した後は、前記第2のスライド位置検出手段が検出する情報に基づくフルクローズ制御を行うことを特徴とするサーボプレスを提案している。
【0012】
この発明によれば、サーボモータ制御手段は、信号検出手段がスライド(ラム)の停止位置近傍に設けられたセンシング素子からの信号を検出する前は、第1のスライド位置検出手段により検出された情報に基づくセミクローズ制御を行い、信号検出手段がスライド(ラム)の停止位置近傍に設けられたセンシング素子からの信号を検出した後は、第2のスライド位置検出手段が検出する情報に基づくフルクローズ制御を行う。すなわち、スライド(ラム)の停止位置近傍で、セミクローズ制御とフルクローズ制御とを切り替えることから、熱膨張などの機械的変化に対応できないというセミクローズ制御の問題を解消することができる。また、スライド(ラム)の停止位置近傍からスライド(ラム)の停止位置までの間でフルクローズ制御を行うことにより、仮に、機械的な剛性が低く、発振を起こす可能性がある系であっても、特殊なリニアエンコーダ等の部材を用いることなく、安定した制御を行うことができる。
【0013】
(2)本発明は、(1)について、前記センシング素子がインクリメント型リニアエンコーダであり、前記信号検出手段が前記インクリメント型リニアエンコーダのZ相信号を検出することを特徴とするサーボプレスを提案している。
【0014】
この発明によれば、センシング素子がインクリメント型リニアエンコーダであり、信号検出手段がインクリメント型リニアエンコーダのZ相信号を検出する。ここで、インクリメント型リニアエンコーダは、軸の回転変位量に応じてパルス列を出力する。そして、出力されたパルス数をカウンタで計数し、このカウント数により回転量を検出することによって、スライド(ラム)の位置を検出する。また、インクリメント型リニアエンコーダは、回転板の1回転につき1回だけ出力するZ相信号を生成する。しかも、このZ相信号は、回転板の1回転内の原点として使用できる。したがって、このZ相信号の検出をトリガに、フルクローズ制御に切替て、停止位置までスライド(ラム)を制御することによって、高精度の加工を行うことができる。
【0015】
(3)本発明は、(2)について、前記信号検出手段が前記インクリメント型リニアエンコーダのZ相信号を検出すると、前記サーボモータ制御手段が前記インクリメント型リニアエンコーダのZ相信号を検出した前記スライドの位置から目標停止位置まで、前記インクリメント型リニアエンコーダの値をフィードバックしてフルクローズ制御を行うことを特徴とするサーボプレスを提案している。
【0016】
この発明によれば、信号検出手段がインクリメント型リニアエンコーダのZ相信号を検出すると、サーボモータ制御手段がインクリメント型リニアエンコーダのZ相信号を検出したスライド(ラム)の位置から目標停止位置まで、インクリメント型リニアエンコーダの値をフィードバックしてフルクローズ制御を行う。つまり、信号検出手段がインクリメント型リニアエンコーダのZ相信号を検出する前は、サーボモータ制御手段が、第1のスライド位置検出手段により検出された情報によりセミクローズ制御を行う。そして、信号検出手段がインクリメント型リニアエンコーダのZ相信号を検出すると、サーボモータ制御手段がインクリメント型リニアエンコーダのZ相信号を検出したスライド(ラム)の位置から目標停止位置まで、インクリメント型リニアエンコーダの値をフィードバックして、第2のスライド位置検出手段からの情報に基づいてフルクローズ制御を行う。これにより、熱膨張などの機械的変化に対応できないというセミクローズ制御の問題を解消することができ、また、サーボモータ制御手段が信号検出手段によりインクリメント型リニアエンコーダのZ相信号を検出したスライド(ラム)の位置から目標停止位置まで、インクリメント型リニアエンコーダの値をフィードバックして、第2のスライド位置検出手段からの情報に基づいてフルクローズ制御を行うことにより、仮に、機械的な剛性が低く、発振を起こす可能性がある系であっても、特殊な部材を用いることなく、安定した制御を行うことができる。さらに、サーボモータ制御手段がインクリメント型リニアエンコーダのZ相信号を検出したスライド(ラム)の位置から目標停止位置まで、インクリメント型リニアエンコーダの値をフィードバックして、第2のスライド位置検出手段からの情報に基づいてフルクローズ制御を行うことにより、加工精度が向上する。
【0017】
(4)本発明は、(2)または(3)について、前記インクリメント型リニアエンコーダの前記スライドの移動方向に対する取り付け位置を前記スライドの停止基準位置に基づいて設定することを特徴とするサーボプレスを提案している。
【0018】
この発明によれば、インクリメント型リニアエンコーダのスライド(ラム)の移動方向に対する取り付け位置をスライド(ラム)の停止基準位置に基づいて設定する。したがって、ワークの基準位置からインクリメント型リニアエンコーダのスライド(ラム)移動方向に対する取り付け位置を設定するため、ワークに対する加工位置精度が向上し、ワークの加工精度が向上する。
【0019】
(5)本発明は、上下動するスライドと、前記スライドを上下駆動するサーボモータと、前記サーボモータに設けられたエンコーダと、前記エンコーダからの出力信号により、前記スライドの位置を検出する第1のスライド位置検出手段と、前記スライドの位置条件を設定する設定手段と、前記スライドの停止位置近傍に設けられたセンシング素子と、前記センシング素子の出力信号により、前記スライドの位置を検出する第2のスライド位置検出手段と、前記センシング素子からの信号を検出する信号検出手段と、前記第1のスライド位置検出手段または第2のスライド位置検出手段が検出したスライド位置、前記設定されたスライド位置と、に基づいてサーボモータを制御するサーボモータ制御手段と、を備えたサーボプレスにおける制御方法であって、前記サーボモータ制御手段が、前記サーボモータに設けられた前記第1のスライド位置検出手段により検出された情報に基づいて、サーボモータの制御を行う第1のステップと、前記信号検出手段が、前記スライドの停止位置近傍に設けられた前記センシング素子からの信号を検出する第2のステップと、前記サーボモータ制御手段が、前記信号検出手段が、前記スライドの停止位置近傍に設けられた前記センシング素子からの信号を検出したときに、前記第2のスライド位置検出手段により検出された情報に基づいて、サーボモータの制御を行う第3のステップと、を備えたことを特徴とする制御方法を提案している。
【0020】
この発明によれば、サーボモータ制御手段は、信号検出手段がスライド(ラム)の停止位置近傍に設けられたセンシング素子からの信号を検出する前は、第1のスライド位置検出手段により検出された情報に基づくセミクローズ制御を行い、信号検出手段がスライド(ラム)の停止位置近傍に設けられたセンシング素子からの信号を検出した後は、第2のスライド位置検出手段が検出する情報に基づくフルクローズ制御を行う。すなわち、スライド(ラム)の停止位置近傍で、セミクローズ制御とフルクローズ制御とを切り替えることから、熱膨張などの機械的変化に対応できないというセミクローズ制御の問題を解消することができる。また、スライド(ラム)の停止位置近傍からスライド(ラム)の停止位置までの間でフルクローズ制御を行うことにより、仮に、機械的な剛性が低く、発振を起こす可能性がある系であっても、特殊なリニアエンコーダ等の部材を用いることなく、安定した制御を行うことができる。
【0021】
(6)本発明は、上下動するスライドと、前記スライドを上下駆動するサーボモータと、前記サーボモータに設けられたエンコーダと、前記エンコーダからの出力信号により、前記スライドの位置を検出する第1のスライド位置検出手段と、前記スライドの位置条件を設定する設定手段と、前記スライドの停止位置近傍に設けられたセンシング素子と、前記センシング素子の出力信号により、前記スライドの位置を検出する第2のスライド位置検出手段と、前記センシング素子からの信号を検出する信号検出手段と、前記第1のスライド位置検出手段または第2のスライド位置検出手段が検出したスライド位置、前記設定されたスライド位置と、に基づいてサーボモータを制御するサーボモータ制御手段と、を備えたサーボプレスにおける制御方法をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、前記サーボモータ制御手段が、前記サーボモータに設けられた前記第1のスライド位置検出手段により検出された情報に基づいて、サーボモータの制御を行う第1のステップと、前記信号検出手段が、前記スライドの停止位置近傍に設けられた前記センシング素子からの信号を検出する第2のステップと、前記サーボモータ制御手段が、前記信号検出手段が、前記スライドの停止位置近傍に設けられた前記センシング素子からの信号を検出したときに、前記第2のスライド位置検出手段により検出された情報に基づいて、サーボモータの制御を行う第3のステップと、をコンピュータに実行させるためのプログラムを提案している。
【0022】
この発明によれば、サーボモータ制御手段は、信号検出手段がスライド(ラム)の停止位置近傍に設けられたセンシング素子からの信号を検出する前は、第1のスライド位置検出手段により検出された情報に基づくセミクローズ制御を行い、信号検出手段がスライド(ラム)の停止位置近傍に設けられたセンシング素子からの信号を検出した後は、第2のスライド位置検出手段が検出する情報に基づくフルクローズ制御を行う。すなわち、スライド(ラム)の停止位置近傍で、セミクローズ制御とフルクローズ制御とを切り替えることから、熱膨張などの機械的変化に対応できないというセミクローズ制御の問題を解消することができる。また、スライド(ラム)の停止位置近傍からスライド(ラム)の停止位置までの間でフルクローズ制御を行うことにより、仮に、機械的な剛性が低く、発振を起こす可能性がある系であっても、特殊なリニアエンコーダ等の部材を用いることなく、安定した制御を行うことができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、スライド(ラム)の停止位置近傍で、セミクローズ制御とフルクローズ制御とを切り替えることから、熱膨張などの機械的変化に対応できないというセミクローズ制御の問題を解消することができる。また、スライド(ラム)の停止位置近傍からスライド(ラム)の停止位置までの間でフルクローズ制御を行うことにより、仮に、機械的な剛性が低く、発振を起こす可能性がある系であっても、特殊なリニアエンコーダ等の部材を用いることなく、安定した制御を行うことができるという効果がある。
【0024】
本発明によれば、サーボモータ制御手段がインクリメント型リニアエンコーダのZ相信号の検出をトリガに、フルクローズ制御に切替えて、停止位置までスライド(ラム)を制御することによって、高精度の加工を行うことができるという効果がある。
【0025】
本発明によれば、サーボモータ制御手段がインクリメント型リニアエンコーダのZ相信号を検出したスライド(ラム)の位置から目標停止位置まで、インクリメント型リニアエンコーダの値をフィードバックしてフルクローズ制御を行うことにより、加工精度が向上するという効果がある。
【0026】
本発明によれば、ワークの基準位置からインクリメント型リニアエンコーダのスライド(ラム)移動方向に対する取り付け位置を設定するため、ワークに対する加工位置精度が向上し、ワークの加工精度が向上するという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図2】本発明に係るサーボプレスの構成および制御の概要を示す図である。
【
図3】本発明に係るサーボプレスの機能ブロック図である。
【
図4】本発明に係るサーボプレスの制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて、詳細に説明する。
なお、本実施形態における構成要素は適宜、既存の構成要素等との置き換えが可能であり、また、他の既存の構成要素との組合せを含む様々なバリエーションが可能である。したがって、本実施形態の記載をもって、特許請求の範囲に記載された発明の内容を限定するものではない。
【0029】
<実施形態>
以下、
図1から
図4を用いて、本発明の実施形態について説明する。
【0030】
図1に示すように、本実施形態に係るサーボプレス1は、プレス本体20と、サーボモータ30と、プレス本体20を据え付けるための架台40と、プレス本体20に対して上下動するラム50と、シャンク60と、ワーク70と、インクリメント型リニアエンコーダ80と、ワークを取り付けるためのワーク取付台90とから構成されている。
【0031】
サーボプレス1には、図示しないフレームが装備され、フレームの下部には、架台40が設けられ、架台40の中には、ワーク取付台90が水平に配設され、ワーク取付台90の上面にはワーク70が取付られている。また、ラム50およびラム50の先端部に備えられたシャンク60がプレス本体20から架台40内に貫通して上下に移動する。
【0032】
ラム50は、図示しない動力変換部材、回転伝達部材を介してサーボモータ30と接続され、このサーボモータ30によって駆動される。また、サーボモータ30は、後述する制御装置に接続されている。サーボモータ30により駆動されるラム50は、制御装置に入力された制御パターン又は入力された加工条件に基づいて自動設定された制御パターンに基づいて制御される。この制御において、ラム50は、上昇端(始動位置)から下降端(停止位置)まで駆動されてプレス加工が行なわれるが、この上昇端(始動位置)と下降端(停止位置)との間に中間点を定め、この中間点より下降端(停止位置)までは別の速度を設定することによって、より精密な加工を行なう。
【0033】
<構成および制御の概要>
図2および
図3を用いて、本実施形態に係るサーボプレスの構成および制御の概要について説明する。
【0034】
図2に示すように、本実施形態に係るサーボプレス1は、制御装置10と、制御装置10を構成するコントローラ11、ドライバー12、設定部13、表示部16、プーリー21と、ベルト22と、ボールネジ23と、サーボモータ30と、エンコーダ31と、ラム50と、ワーク70と、インクリメント型リニアエンコーダ80と、ワーク取付台90とから構成されている。
【0035】
フレームの上部には、このサーボプレス1の動力源であるサーボモータ30、及びこのサーボモータ30の回転力を往復運動に変換する回転伝達部材としてのプーリー21が装着されている。このサーボモータ30には、回転速度を検出するためのエンコーダ31が設けられており、サーボモータ30の回転速度は、制御装置10により電流が制御することによって制御される。そして、このサーボモータ30の回転力は、回転伝達部材であるベルト22によってボールネジ23に伝達される。なお、サーボモータ30は、交流モータ、直流モータのいずれでもよい。
【0036】
また、回転伝達部材としてプーリー21を例示したが、これに限らず、チェーンや歯車でもよい。また、サーボモータ30の出力軸に直接結合してもよい。また、動力変換装置としてボールネジ23を例示したが、ねじ機構やウォームギヤとウォームホイールとの組合せ、あるいはピニオンギヤとラックとの組合せ等であってもよい。ボールネジ23の下端にはワーク取付台90に対向する位置で上下動するラム50が装着されており、このラム50が上限位置(始動位置)から下限位置(停止位置)まで下降することによって被加工物に対して、プレス加工を行う。そして、ラム50は、下限位置(停止位置)に到達して被加工物の加工を終えると上限位置(始動位置)まで上昇する。
【0037】
エンコーダ31は、サーボモータ30の所定の位置に取付けられている。インクリメント型リニアエンコーダ80は、ラム50の停止位置近傍に設けられている。詳しくは、インクリメント型リニアエンコーダ80は、ラム50の移動方向に対する取り付け位置がラム50の停止基準位置に基づいて設定されている。そのため、ワークの基準位置からインクリメント型リニアエンコーダ80のラム移動方向に対する取り付け位置を設定するため、ワークに対する加工位置精度が向上し、ワークの加工精度が向上する。
【0038】
ここで、インクリメント型リニアエンコーダ80を用いたラム50の位置検出は、軸方向がラム50の移動方向である上下方向と平行になるようにワーク取付台90において、ラム50の停止位置近傍に設けられたインクリメント型リニアエンコーダ80と、このインクリメント型リニアエンコーダ80と対向した位置に設けられた図示しないラム50に固着されている検出ヘッドとを用いて行なわれる。つまり、ラム50の上下動に伴って、検出ヘッドが、固定されているインクリメント型リニアエンコーダ80に対して上下動することによって、検出ヘッドの内部に組込まれたセンサから、ラム50の位置がラム50の停止基準位置に基づく高さとして検出される。
【0039】
プレス加工に当たっては、予め制御条件であるラム50の作動速度、この速度の切替位置、下限位置(停止位置)及び加圧時間などのデータを設定部13を介して設定する。設定されたデータは、表示部16に表示される。表示部16は、例えば、設定スイッチ、液晶表示画面やCRTなどの手段によって構成される。また、表示部16には、運転や条件設定などの作動モードの選択や、自動運転あるいは手動運転などの操作指示を行なうスイッチなどが設けられている。
【0040】
そして、表示部16から入力された制御データは、後述する記憶部に取込まれて記憶され、予め組込まれた処理手順に従ってラム50の制御を行なう。制御装置10は、データの記憶、演算処理、データの表示及びデータ入出力などの機能を有する一般的なコンピュータなどからなる構成となっている。
【0041】
そして、制御装置10は、サーボモータ30の第1の位置検出部、第2のラム位置検出部により検出したラム50の位置データに基づいて、設定条件によりサーボプレス1が運転されるようにサーボモータ30の速度又はトルク指令を演算して出力する。そして、この制御指令によりサーボモータ30が制御されることによって、ラム50は当初設定された所定の作動を行ない、被加工物に対して、所定の条件で加工を行う。
【0042】
なお、本実施形態に係るサーボプレス1は、後述する信号検出部がラム50の停止位置近傍に設けられたインクリメント型リニアエンコーダ80からの信号を検出する前は、サーボモータ30に設けられた後述する第1の位置検出部により検出された情報に基づくセミクローズ制御を行い、信号検出部がラム50の停止位置近傍に設けられたインクリメント型リニアエンコーダ80からの信号を検出した後は、第2の位置検出部により検出された情報に基づくフルクローズ制御を行うことを特徴としている。以下、
図3の機能ブロック図を用いて、その詳細を説明する。
【0043】
<サーボプレスの機能ブロック>
図3に示すように、本実施形態に係るサーボプレス1は、制御装置10と、制御装置10を構成する設定部13、制御コントローラ14、記憶部15、表示部16、信号検出部17と、サーボモータ30と、エンコーダ31と、第1の位置検出部33と、ラム50と、インクリメント型リニアエンコーダ80と、第2の位置検出部82とから構成されている。本実施形態に係るサーボプレス1は、信号検出部17がインクリメント型リニアエンコーダ80からのZ相信号を受信することをトリガに制御方式をセミクローズ制御からフルクローズ制御に切り替えることを特徴としている。
【0044】
すなわち、信号検出部17がインクリメント型リニアエンコーダ80からのZ相信号を受信する前は、セミクローズ制御のサーボループを閉じて、第1の位置検出部33からの位置情報と予め設定されている運転条件とによりラム50の下降運動が制御される。つまり、記憶部15に予め設定格納された運転条件と第1の位置検出部33から得られる位置情報とから偏差を算出し、算出した偏差に基づいて制御コントローラ14が求める制御量に対応する印加電圧をサーボモータ30に印加することにより、ラム50の下降運動が制御される。
【0045】
このとき、ラム50の下降運動は、モーション制御される。つまり、予め設定された下降位置までは、高速なアプローチ制御がなされ、予め設定された下降位置からは、低速な探り制御が行なわれる。具体的には、サーボモータ30を制御しているサーボモータ指令の電流から出力トルクを検出し、ラム50のモーション変化をサーボモータ30のトルクの変化として検出する。そして、このときのトルク変化の検出信号から予め設定された下降位置を特定する。
【0046】
そして、制御コントローラ14は、第1の位置検出部33により検出されるラム50の位置が記憶部15に記憶されたモーション設定データとなるように、サーボモータ30の速度指令値を演算すると共に、演算した速度指令値と第1の位置検出部33により検出された値から求められる速度情報に基づく速度フィードバック信号との偏差が小さくなるようにモータ駆動電流を制御することによって、ラム50を所定のモーションに制御する。
【0047】
一方、信号検出部17がインクリメント型リニアエンコーダ80からのZ相信号を受信した後は、セミクローズ制御のサーボループを切り離し、フルクローズ制御のサーボループを閉じて、第2の位置検出部82からの信号に基づく位置情報と予め設定されている運転条件とによりラム50の下降運動が制御される。つまり、記憶部15に予め設定格納された運転条件と第2の位置検出部82から得られる位置情報とから偏差を算出し、算出した偏差に基づいて制御コントローラ14が求める制御量に対応する印加電圧をサーボモータ30に印加することにより、ラム50の下降運動が制御される。
【0048】
<サーボプレスの制御処理>
図4を用いて、本実施形態に係るサーボプレスの制御処理について説明する。
【0049】
制御コントローラ14は、セミクローズ制御のサーボループを閉じて、ラム50を高速移動するアプローチ駆動を行なう(ステップS110)。制御コントローラ14は、第1の位置検出部33からの信号により、ラム50が予め定めた特定の位置まで下降したと判断すると、ラム50を低速移動する探り制御へモーション制御を行なう(ステップS120)。
【0050】
次に、信号検出部17がインクリメント型リニアエンコーダ80からのZ相信号を検出すると(ステップS130の「Yes」)、制御コントローラ14は、信号検出部17から出力される検出信号により、セミクローズ制御のサーボループを切り離し、フルクローズ制御のサーボループを閉じて、第2の位置検出部82からの信号に基づく位置情報に基づくフルクローズ制御に移行する(ステップS160)。
【0051】
フルクローズ制御に移行すると、記憶部15を構成するメモリから駆動条件、駆動データを読み込み(ステップS170)、この情報と第2の位置検出部82からの信号に基づく位置情報に基づいて、ラム50の停止位置までラム50の下降運動を制御する(ステップS180)。
【0052】
そして、ラム50が停止位置まで到達すると、フルクローズ制御のサーボループを切り離し、セミクローズ制御のサーボループを閉じて、第1の位置検出部33からの信号に基づく位置情報に基づくセミクローズ制御に移行し、ラム50をスタート位置まで移動させ(ステップS190)、ステップS110に戻る。
【0053】
一方、ステップS130で、信号検出部17がインクリメント型リニアエンコーダ80からのZ相信号を検出できなかったときは(ステップS130の「No」)、ラム50の位置が限界距離に到達する位置であるか否かを判断し、限界距離に到達していると判断したときは(ステップS140の「Yes」)、エラー停止し、限界距離に到達していないと判断したときは(ステップS140の「No」)、ステップS120の処理に戻る。
【0054】
以上、説明したように、本実施形態によれば、ラムの停止位置近傍で、セミクローズ制御とフルクローズ制御とを切り替えることから、熱膨張などの機械的変化に対応できないというセミクローズ制御の問題を解消することができる。また、ラムの停止位置近傍からラムの停止位置までの間でフルクローズ制御を行うことにより、仮に、機械的な剛性が低く、発振を起こす可能性がある系であっても、特殊なリニアエンコーダ等の部材を用いることなく、安定した制御を行うことができる。
【0055】
なお、サーボプレスの上記処理をコンピュータシステムが読み取り可能な記録媒体に記録し、この記録媒体に記録されたプログラムをサーボプレスに読み込ませ、実行することによって本発明のサーボプレスを実現することができる。ここでいうコンピュータシステムとは、OSや周辺装置等のハードウェアを含む。
【0056】
また、「コンピュータシステム」は、WWW(World Wide Web)システムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。
【0057】
また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組合せで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【0058】
以上、この発明の実施形態につき、図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【符号の説明】
【0059】
1;サーボプレス
10;制御装置
11;コントローラ
12;ドライバー
13;設定部
14;制御コントローラ
15;記憶部
16;表示部
17;信号検出部
20;プレス本体
21;プーリー
22;ベルト
23;ボールネジ
30;サーボモータ
31;エンコーダ
33;第1の位置検出部
40;架台
50;ラム
60;シャンク
70;ワーク
80;インクリメント型リニアエンコーダ
82;第2の位置検出部