(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6823914
(24)【登録日】2021年1月14日
(45)【発行日】2021年2月3日
(54)【発明の名称】渦流れ形ポンプ装置
(51)【国際特許分類】
F04D 5/00 20060101AFI20210121BHJP
F04D 9/02 20060101ALI20210121BHJP
【FI】
F04D5/00 H
F04D5/00 G
F04D9/02 101E
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-130559(P2015-130559)
(22)【出願日】2015年6月30日
(65)【公開番号】特開2016-27262(P2016-27262A)
(43)【公開日】2016年2月18日
【審査請求日】2017年8月28日
【審判番号】不服2019-4604(P2019-4604/J1)
【審判請求日】2019年4月8日
(31)【優先権主張番号】特願2014-133503(P2014-133503)
(32)【優先日】2014年6月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】399048917
【氏名又は名称】日立グローバルライフソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098660
【弁理士】
【氏名又は名称】戸田 裕二
(72)【発明者】
【氏名】小林 孝弘
(72)【発明者】
【氏名】田辺 正敏
(72)【発明者】
【氏名】野村 哲也
【合議体】
【審判長】
窪田 治彦
【審判官】
長馬 望
【審判官】
鶴江 陽介
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭63−51190(JP,U)
【文献】
特開平10−77982(JP,A)
【文献】
特開平5−332528(JP,A)
【文献】
実公昭38−17570(JP,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 5/00
F04D 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機と、
水通路が形成されるケーシングと、
前記電動機によって回転する羽根車と、
前記羽根車と対向するインナーリングと、を備え、
前記インナーリングのうち、少なくとも、前記羽根車と前記羽根車の回転軸方向に対向するライナー面が、弾力性を有する熱可塑性エラストマーで構成されていることを特徴とする渦流れポンプ装置。
【請求項2】
電動機と、
水通路が形成されるケーシングと、
前記電動機によって回転する羽根車と、
前記羽根車と対向するライナー面を有するインナーリングと、を備え、
前記水通路の一部を吸い込み側と吐き出し側とに分ける隔壁部、及び、前記ライナー面が、弾力性を有する熱可塑性エラストマーで構成されていることを特徴とする渦流れポンプ装置。
【請求項3】
前記ケーシングは、合成樹脂製であり、
前記インナーリングは、弾力性を有する熱可塑性エラストマーによって構成されることを特徴とする、請求項2に記載の渦流れポンプ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポンプ装置に係り、特に渦流れ形ポンプ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の渦流れ形ポンプ装置として特許文献1に示すものがある。特許文献1の段落(0016)では、「水通路13の一部を吸い込み側14と吐き出し側15に分ける隔壁部52と、水通路13より小径のライナー面51とを有する、耐食性材料である青銅製のインナーリング50が複数個のタッピングねじ16で合成樹脂製ケーシング70に固着されている。」と説明されており、また段落(0019)では、「隔壁部52の両側では大きな圧力差が生じるため、ライナー面51を設けて摩擦力を得て損失を防いでいる。つまり、羽根車5とライナー面51の隙間が大きければ効率が大幅に落ちることになるし、摩擦力を得るためにそれなりの面積も必要となることから、樹脂面そのままでは、樹脂特有のひけ等によって、効率が大幅に落ちるからである。本発明の実施例では、固定物である合成樹脂製ケーシング70と回転物である羽根車5との間に、青銅製のインナーリング50を設けることによって、これらを防止している。」という効果を得ることができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−87657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、渦流れ形ポンプ装置は、円周上に多数の短い扇形の溝をもった円板状の羽根車を回すと、羽根車の溝と合成樹脂ケーシングの水通路で渦が発生し、運動エネルギーを増しながらほぼ一回転して高圧となる。
【0005】
特許文献1では、インナーリングを高剛性材料である青銅製としているため、上述の運動エネルギーが青銅製のインナーリングの隔壁部やライナー面に衝突することで振動が発生し、騒音原因となる恐れがある。
【0006】
運動エネルギーは圧力に比例して増すため、さらに圧力がポンプ停止の圧力付近まで高くなると、金属性の耳障りな音がより顕著となり、市場クレームとなる恐れがある。
【0007】
本発明は、安価で耐久性に優れ、かつ低騒音の渦流れ形ポンプ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明では、電動機と、水通路が形成されるケーシングと、前記電動機によって回転する羽根車と、前記羽根車と対向するインナーリングと、を備え、前記インナーリングのうち、少なくとも、前記羽根車と前記羽根車の回転軸方向に対向するライナー面が、
弾力性を有する熱可塑性エラストマーで構成されていることを特徴とする。
【0009】
また、本発明では、電動機の回転軸が合成樹脂製ケーシングを貫通し、軸封装置、羽根車の順で固着され、羽根車を覆うようにケーシングカバーがOリングを介して水密に固着されて、回転軸の回転により渦流れポンプ作用を行う渦流れ形ポンプ装置において、前記合成樹脂製ケーシングの吸い込み側と吐き出し側を分離する隔壁体と、ライナー面を備えるライナー体と、少なくとも1つを有するインナーリングを有し、該インナーリングは、弾力性を有する材料からなり、前記インナーリングを、前記合成樹脂製ケーシングに固着したことを特徴とする。
【0010】
また、本発明では、電動機の回転軸が合成樹脂製ケーシングを貫通し、軸封装置、周辺に多数の溝を持つ羽根車の順で固着され、羽根車を覆うようにケーシングカバーがOリングを介して水密に固着されて、回転軸の回転により渦流れポンプ作用を行う渦流れ形ポンプ装置において、前記合成樹脂製ケーシングの吸い込み側と吐き出し側を分離する隔壁体と、ライナー面を備えるライナー体と、を一体に有するインナーリングを有し、前記羽根車、前記溝、前記ケーシングカバー、前記ライナー面のうち少なくとも1つは、弾力性を有する材料からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、インナーリングを弾力性を有する材料で形成し、合成樹脂製ケーシングに固着することで、安価で耐久性に優れかつ、低騒音の渦流れ形ポンプ装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係わる渦流れ形ポンプ装置の縦断面図である。
【
図2】本発明に係わるポンプヘッド部の斜視図である。
【
図3】本発明に係わる合成樹脂製ケーシングに合成ゴム製インナーリングを固着した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施例は、合成樹脂製ケーシング70にインナーリング50を弾力性を有する材料で形成し、合成樹脂製ケーシング70にインナーリング50を固着したことを特徴とする。
【0014】
以下、本発明の一実施例について、図面に沿って説明する。
【0015】
図1は、本発明に係わる渦流れ形ポンプ装置の縦断面図である。
図2は、本発明に係わるポンプヘッド部の斜視分解図である。
図3は、本発明に係わる合成樹脂製ケーシングに合成ゴム製インナーリングを固着した斜視図である。
【0016】
本発明の一実施例の渦流れ形ポンプ装置100は、電動機1と、ケーシングカバー3と、羽根車5と、逆止弁9と、分離室10と、パッキング11と、溝12と、タッピングねじ17、18と、隔離部53と、ケーシング70と、を有する。
【0017】
本発明の渦流れ形ポンプ装置100では、電動機1の回転軸2が、合成樹脂製ケーシング70を貫通し軸封装置4を介して、周辺に多数の溝12(羽根)を持つ円板状の羽根車5が固着される。軸封装置4は円筒形状を有し、回転軸2の外周と合成樹脂製ケーシング70の貫通孔の間に挿入され、軸封装置4は回転軸2に対しても合成樹脂製ケーシング70の貫通孔に対しても相対的に摺動可能である。多数の溝12と同心円になるように合成
樹脂製ケーシング70の内側には円環状の水通路13が形成される。インナーリング50は、水通路13の一部を吸い込み側14と吐き出し側15に分ける隔壁体53と、水通路13より小径のライナー面52を備えるライナー体と一体に有する。インナーリング50は、弾力性を有する合成ゴム製である。インナーリング50は、合成樹脂製ケーシング70に固着されている。
【0018】
図3に本発明の合成樹脂製ケーシング70にインナーリング50を固着した図を示す。ケーシングカバー3は、羽根車5を覆う。羽根車5に対しほぼ対称となるように水通路13、隔壁体53、ライナー面52を有したインナーリング50が設けられる。インナーリング50は、ケーシングカバー3とケーシング70の間で、ケーシングカバー3にOリング7を付けてタッピングねじ17でケーシングカバー3を締め付けることでケーシング70に固着される。これによって、ポンプヘッド部が構成されている。Oリング7は、ケーシング70の水通路13の外周とケーシングカバー3の水通路の外周との間に挿入される。
【0019】
インナーリング50の合成樹脂製ケーシング70への固着は、インサート成形または、2重成形により形成するとよい。インサート成形とすることで、加工レスで高精度のライナー面52を形成可能という効果を奏する。2重成形とすることで、合成樹脂に対する高い融着性、加工レスで高精度のライナー面52を形成可能という効果を奏する、
隔壁体53で分けられた吸い込み側14、つまり羽根車5の上流側には逆流を防止する逆止弁9が設けられている。隔壁体53で分けられた吐き出し側15、つまり、羽根車5の下流側には、自給作用を促進する分離室10を兼ねた水通路が構成されて、パッキング11を介して合成樹脂製ケーシング70にタッピングねじ18で固着され、蛇口等へとつながるものである。
【0020】
揚水される水は、電動機1の回転軸2の回転により、羽根車5が回転すると、羽根車5の溝12と合成樹脂製ケーシング70の水通路13で渦が発生し、運動エネルギーを増しながらほぼ一回転して高圧となり、隔壁体53にて切り分けられて、分離室10へと誘導されていくものである。隔壁体53の両側では大きな圧力差が生じるため、ライナー面52を設けて摩擦力を得ることで損失を防いでいる。
【0021】
しかしながら前述のとおり従来例では、インナーリング50を高剛性材料の青銅製で形成しているため、羽根車5の回転により多数の溝12から発生する渦の運動エネルギーが、ライナー面52や隔壁体53に衝突し、振動エネルギーへと変換され合成樹脂製ケーシング70やケーシングカバー3へ伝搬し、騒音原因となる恐れがある。
【0022】
さらに圧力がポンプ停止圧力付近まで高くなると、運動エネルギーが圧力に比例して増すため、金属性の耳障りな音がより顕著となり、市場クレームとなる恐れがあった。
【0023】
本発明の実施例では、インナーリング50を、弾力性を有する材料である合成ゴムで形成している。弾力性を有する材料で形成することにより、渦の運動エネルギーがインナーリング50のライナー面52や隔壁体53へ衝突することで生じる恐れのある振動エネルギーを減衰させることができる。振動エネルギーを減衰させ、ケーシング70への振動を低減することで耳障りな音を抑制し、低騒音とすることができる。
【0024】
さらに隔壁体53の吐き出し側側面53aを合成樹脂製ケーシング70の一部であるインナーリング用ガイド71で覆わずに露出させ、合成ゴム表面を接水面とすることで、矢印Xで示す渦流れの衝突により発生する振動エネルギーの減衰効果を更に向上させることができる。
【0025】
合成樹脂製ケーシング70の吸い込み側と吐き出し側を分離する隔壁体53とライナー面52を備えるライナー体との少なくとも1つを備え弾力性を有する材料からなるインナーリング50を、合成樹脂製ケーシング70に固着した。
【0026】
ポンプの性能低下の主要因であるポンプヘッド部の摩耗に対しても優位性がある。従来例の青銅製インナーリングでは、砂等の異物が混入した場合、ライナー面や隔壁体の表面が硬質であるため傷が付きやすく長期使用により摩耗が進み性能低下に至る恐れがある。
【0027】
一方、本発明の実施例では、インナーリング50の表面が弾力性を有しているため、ある程度の変形が許容され異物を噛み込んだ際にも傷付きが少なく摩耗による性能低下を抑制することができる。つまり、インナーリング50を、弾力性を有する材料である合成ゴムで形成しているため、耐久性に優れたものとすることができる。
【0028】
インナーリング50は材質、硬度ともにポンプ性能に大きな影響を与える。
【0029】
材質に関しては、弾力性を有さなければならない。但し、吸水性のスポンジ等ではライナー面52や隔壁体53からの内部漏水により高圧を保持することができないという恐れがある。
【0030】
硬度に関しては、軟質すぎると高圧時にライナー面52が変形し羽根車5との間隙が大きくなり摩擦力を保持できず、逆に硬質すぎると振動エネルギーの減衰が不十分となり騒音低減にならない。
【0031】
よって、インナーリング50は、吸水性が無くスキン層を有したものが望ましい。例えば、硬度を合成ゴム製においては50度〜70度、熱可塑性エラストマー製においては50度〜90度の範囲で弾力性を有する材料を用いることで性能、低騒音化共に確保することができる。
【0032】
上記のように、インナーリング50は、隔壁体53とライナー面52を備えるライナー体とを一体とし弾力性を有する材料で形成した構成が望ましいが、より簡易に構成するため、隔壁体53とライナー面52を備えるライナー体とを別体として、そのいずれかを弾力性を有する材料で形成した場合においても青銅製のインナーリングよりも騒音低減の効果を得られる。
【0033】
本発明の実施例においては、インナーリング50の材質は上記を満足するため合成ゴムを選択しているが、同様の性質を有する熱可塑性エラストマーを用いてもよい。各々以下の点に優れる。
【0034】
インナーリング50を合成ゴム製としたものであれば、耐加水分解性能に優れ、圧縮永久歪が少ないインナーリングとなる。
【0035】
インナーリング50を熱可塑性エラストマー製としたものであれば、2重成形とすることで、合成樹脂に対する高い融着性、加工レスで高精度のライナー面52を形成可能なインナーリングとなる。
【0036】
さらに本発明によるとポンプヘッドの材料に機械加工金属部品を用いないため、原材料費や加工費を抑制することができるため、より安価に製造することができ、廃棄する場合にも分別が不要となる。つまり、つまり、インナーリング50を、弾力性を有する材料である合成ゴムで形成しているため、青銅製のインナーリングに比べ、安価に製造することができる。
【0037】
尚、ケーシングカバー70を同様に弾力性を有する材料で構成することにより、更に、安価、耐久性、低騒音の効果は向上する。
【0038】
尚、本実施例においては、インナーリング50を弾力性を有する材料としているが、摩耗が進行することにより、性能低下や騒音増加に影響を及ぼす部位、即ち水通路13、羽根車5、溝12、ケーシングカバー3のライナー面についても、弾力性を有する材料で形成することにより、安価で耐久性に優れかつ、低騒音の効果を奏する。
【符号の説明】
【0039】
1 電動機
2 回転軸
3 ケーシングカバー
4 軸封装置
5 羽根車
7 Oリング
9 逆止弁
10 分離室
11 パッキング
12 溝
13 水通路
14 吸い込み側
15 吐き出し側
17、18 タッピングねじ
50 インナーリング
52 ライナー面
53 隔壁体
53a 吐き出し側側面
70 合成樹脂製ケーシング
71 インナーリング用ガイド
100 渦流れ形ポンプ装置