(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。各図面を通じて同一もしくは同等の部位や構成要素には、同一もしくは同等の符号を付している。
【0017】
以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置等を例示するものであって、この発明の技術的思想は、各構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の技術的思想は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0018】
図1は、本発明の実施の形態に係るインクジェット印刷装置の構成を示すブロック図である。
図2は、
図1に示すインクジェット印刷装置の搬送部および印刷部の概略構成図である。
【0019】
図1に示すように、本実施の形態に係るインクジェット印刷装置1は、搬送部2と、印刷部3と、操作パネル部4と、記憶部5と、制御部6とを備える。
【0020】
搬送部2は、図示しない給紙部から給紙された印刷媒体である用紙Pを搬送する。
図2の左から右に向かう方向が、用紙Pの搬送方向である。搬送部2は、搬送ベルト11と、駆動ローラ12と、従動ローラ13,14,15とを備える。
【0021】
搬送ベルト11は、用紙Pを吸着保持して搬送する。搬送ベルト11は、駆動ローラ12および従動ローラ13〜15に掛け渡される環状のベルトである。搬送ベルト11には、用紙Pを吸着保持するためのベルト穴が多数形成されている。搬送ベルト11は、ファン(図示せず)の駆動によりベルト穴に発生する吸着力により、上面に用紙Pを吸着保持する。搬送ベルト11は、
図2における時計回り方向に回転することで、吸着保持した用紙Pを
図1の左から右に向かう方向に搬送する。
【0022】
駆動ローラ12は、搬送ベルト11を回転させる。駆動ローラ12は、図示しないモータにより駆動される。
【0023】
従動ローラ13〜15は、駆動ローラ12とともに搬送ベルト11を支持する。従動ローラ13〜15は、搬送ベルト11を介して駆動ローラ12に従動する。従動ローラ13は、駆動ローラ12と同じ高さで、駆動ローラ12の左方に配置されている。従動ローラ14,15は、駆動ローラ12および従動ローラ13の下方において、互いに左右方向に離間して、同じ高さに配置されている。
【0024】
印刷部3は、搬送部2により搬送される用紙Pにインクを吐出して画像を印刷する。印刷部3は、インクジェットヘッド21C,21K,21M,21Yを備える。なお、以下の説明において、インクジェットヘッド21C,21K,21M,21Yの符号におけるアルファベットの添え字(C,K,M,Y)を省略して総括的に表記することがある。
【0025】
インクジェットヘッド21は、搬送部2により搬送される用紙Pにインクを吐出する。インクジェットヘッド21は、用紙Pの搬送方向に直交する主走査方向に沿って配置された複数のノズル(図示せず)を有し、ノズルからインクを吐出する。インクジェットヘッド21は、1つのノズルから1つの画素に対して複数のインク滴を吐出可能なマルチドロップ方式のものであり、インク滴の数(ドロップ数)により濃度を表現する階調印刷を行う。インクジェットヘッド21C,21K,21M,21Yは、それぞれシアン(C)、ブラック(K)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)のインクを吐出する。
【0026】
操作パネル部4は、各種の入力画面等を表示するとともに、ユーザによる入力操作を受け付ける。操作パネル部4は、表示部26と、入力部27とを備える。
【0027】
表示部26は、各種の入力画面等を表示する。表示部26は、液晶表示パネル等を有する。
【0028】
入力部27は、ユーザによる入力操作を受け付け、操作に応じた操作信号を出力する。入力部27は、各種の操作キー、タッチパネル等を有する。
【0029】
記憶部5は、各種のプログラム等を記憶している。また、記憶部5は、
図3に示す最大ドロップ数テーブル31と、
図4に示すドロップ数削減量テーブル32とを記憶している。記憶部5は、HDD等の記憶装置により構成される。
【0030】
最大ドロップ数テーブル31は、用紙種類と印刷解像度と標準最大ドロップ数とが関連付けられたテーブルである。標準最大ドロップ数は、用紙種類および印刷解像度に応じて決まる最大ドロップ数である。最大ドロップ数は、1画素あたりの1色分のインクのドロップ数の最大値である。インクの受容量が大きい用紙種類ほど標準最大ドロップ数が大きくなる。
図3の例では、インクの受容量が最も大きい光沢紙における標準最大ドロップ数が最も大きく、インクの受容量が最も小さい普通紙における標準最大ドロップ数が最も小さい。また、印刷解像度が高いほど、単位面積あたりの画素数が多くなるため、標準最大ドロップ数は小さくなる。
図3の例では、用紙種類が同じであれば、印刷解像度が600dpiの方が300dpiよりも標準最大ドロップ数が小さい。
【0031】
ドロップ数削減量テーブル32は、印刷速度モードと、印刷速度モードに応じて印刷時の最大ドロップ数を標準最大ドロップ数から変更するための削減ドロップ数とを関連付けたテーブルである。
【0032】
印刷速度モードは、印刷速度を設定するモードである。印刷速度は、単位時間あたりの印刷ページ数、具体的には1分間あたりの印刷ページ数(ppm)によって表されるものである。1分間あたりの印刷ページ数が多いほど、印刷速度が速い。印刷時における搬送部2による用紙Pの搬送速度を速くするほど、印刷速度を速くすることができる。
【0033】
図4に示すように、インクジェット印刷装置1では、印刷速度モードとして、標準モード、および、高速モードである第1〜第3高速モードが設けられている。標準モードは、搬送部2による用紙Pの搬送速度を標準最大ドロップ数に応じた搬送速度として印刷を行うモードである。第1〜第3高速モードは、搬送部2による用紙Pの搬送速度を、標準最大ドロップ数からドロップ数を削減した新たな最大ドロップ数に応じた搬送速度として印刷を行うモードである。
【0034】
印刷時の最大ドロップ数が小さいほど、1画素あたりの吐出開始から吐出終了までに要する時間が短くなるため、用紙Pの搬送速度を速くすることができる。このため、
図4に示すように、第1高速モード、第2高速モード、第3高速モードでは、それぞれ1ドロップ、2ドロップ、3ドロップを標準最大ドロップ数から削減したドロップ数を、印刷時の最大ドロップ数とする。これにより、第1〜第3高速モードでは、標準モードよりも、搬送部2による用紙Pの搬送速度を速くして、印刷速度を速くする。高速モードでは、第1高速モード、第2高速モード、第3高速モードの順で、印刷時の最大ドロップ数が小さくなるので、第3高速モードが最も印刷時の用紙Pの搬送速度が速く、印刷速度が速い。
【0035】
ここで、
図3に示すように、用紙種類および印刷解像度によって標準最大ドロップ数が変化するため、標準モードおよび第1〜第3高速モードにおける印刷時の最大ドロップ数は、用紙種類および印刷解像度によって変化する。このため、標準モードおよび第1〜第3高速モードにおける印刷時の用紙Pの搬送速度および印刷速度は、用紙種類および印刷解像度によって変化する。また、標準ドロップ数から削減できるドロップ数に限度があるため、用紙種類および印刷解像度によっては、第2および第3高速モードのうちの少なくともいずれかが選択不可能になっている。
【0036】
制御部6は、インクジェット印刷装置1全体の動作を制御する。制御部6は、CPU、RAM、ROM等を備えて構成される。制御部6は、搬送制御部41と、画像処理部42と、印刷制御部43と、表示制御部44とを備える。制御部6の各部は、CPUが記憶部5に格納されたプログラムにしたがって動作すること等により構成される。
【0037】
搬送制御部41は、搬送部2を制御して用紙Pを搬送させる。
【0038】
画像処理部42は、外部のパーソナルコンピュータ等から送信されたPDL(Page Description Language)形式の印刷ジョブデータに基づき、インク色であるCMYKの各色のドロップデータを生成する。各色のドロップデータは、各色の画素ごとのインクのドロップ数を示すデータである。画像処理部42は、RIP(Raster Image Processor)処理部51と、色変換部52と、ハーフトーン処理部53と、最大ドロップ数設定変更部54と、ドロップデータ補正部55とを備える。
【0039】
RIP処理部51は、印刷ジョブデータをRIP処理して、RGB形式の画像データを生成する。RIP処理は、印刷ジョブデータの構文解析を行った後、印刷ジョブデータをラスタライズして画像データを生成する処理である。
【0040】
色変換部52は、RIP処理部51で生成されたRGB形式の画像データを、CMYK形式の画像データに変換する。この色変換は、あらかじめRGB値とCMYK値との対応関係が記録されたテーブルを用いて行うことができる。
【0041】
ハーフトーン処理部53は、CMYKの各色の画像データをハーフトーン処理して、各色のドロップデータを生成する。ハーフトーン処理としては、誤差拡散処理やディザマスク処理を適用できる。ハーフトーン処理部53は、用紙種類および印刷解像度に応じた標準最大ドロップ数を最大ドロップ数とするドロップデータを生成する。すなわち、ハーフトーン処理部53が生成するのは、標準最大ドロップ数を画素ごとのドロップ数の上限とするドロップデータである。
【0042】
最大ドロップ数設定変更部54は、印刷速度モードとして第1〜第3高速モードのいずれかが指定された場合に、印刷時の最大ドロップ数として、印刷条件に応じた最大ドロップ数より小さい新たな最大ドロップ数を設定する。具体的には、最大ドロップ数設定変更部54は、第1〜第3高速モードにおける印刷時の最大ドロップ数として、用紙種類および印刷解像度に応じた標準最大ドロップ数より小さい新たな最大ドロップ数を設定する。第1〜第3高速モードにおける新たな最大ドロップ数は、標準最大ドロップ数からドロップ数削減量テーブル32における各モードの削減ドロップ数の分だけ削減したドロップ数である。
【0043】
ドロップデータ補正部55は、印刷速度モードが第1〜第3高速モードのいずれかである場合において、ドロップデータ補正処理を行う。ドロップデータ補正処理は、ハーフトーン処理部53で生成された各色のドロップデータを、画素ごとのインクのドロップ数の上限が新たな最大ドロップ数となるよう補正する処理である。
【0044】
具体的には、ドロップデータ補正部55は、ハーフトーン処理部53が生成した各色のドロップデータにおける各画素のドロップ数のうち、新たな最大ドロップ数より大きいものを新たな最大ドロップ数に変更する。また、ドロップデータ補正部55は、ブラックのドロップデータにおいてドロップ数を新たな最大ドロップ数に変更した画素におけるブラックのドロップ数の減少分を、ブラックのドロップデータにおける当該画素の周辺画素に分配するか、他色のドロップデータにおける当該画素のドロップに置き換える。
【0045】
印刷制御部43は、各色のドロップデータに基づき、各色のインクを吐出するよう印刷部3のインクジェットヘッド21C,21K,21M,21Yを制御する。印刷制御部43は、標準モードの場合、ハーフトーン処理部53で生成された各色のドロップデータに基づき、インクジェットヘッド21C,21K,21M,21Yを制御する。第1〜第3高速モードのいずれかの場合、印刷制御部43は、ドロップデータ補正部55による補正後の各色のドロップデータに基づき、インクジェットヘッド21C,21K,21M,21Yを制御する。
【0046】
表示制御部44は、操作パネル部4の表示部26の表示制御を行う。
【0047】
次に、インクジェット印刷装置1の動作について説明する。
【0048】
図5は、インクジェット印刷装置1の動作を説明するためのフローチャートである。
図5のフローチャートの処理は、インクジェット印刷装置1にPDL形式の印刷ジョブデータが入力されることにより開始となる。
【0049】
図5のステップS1において、画像処理部42のRIP処理部51は、印刷ジョブデータをRIP処理して、RGB形式の画像データを生成する。ここで、RIP処理部51は、RIP処理により、印刷ジョブデータから、印刷に使用する用紙種類および印刷解像度を示す情報を取得する。そして、RIP処理部51は、印刷解像度の画像データを生成する。
【0050】
次いで、ステップS2において、色変換部52は、RIP処理部51で生成されたRGB形式の画像データを、CMYK形式の画像データに変換する。
【0051】
次いで、ステップS3において、ハーフトーン処理部53は、CMYKの各色の画像データをハーフトーン処理して、各色のドロップデータを生成する。具体的には、ハーフトーン処理部53は、RIP処理部51から印刷に使用する用紙種類および印刷解像度を示す情報を取得し、用紙種類および印刷解像度に応じた標準最大ドロップ数を最大ドロップ数テーブル31から取得する。そして、ハーフトーン処理部53は、CMYKの各色の画像データに対して、用紙種類および印刷解像度に応じた標準最大ドロップ数を最大ドロップ数とするハーフトーン処理を行い、各色のドロップデータを生成する。
【0052】
次いで、ステップS4において、最大ドロップ数設定変更部54は、指定された印刷速度モードが標準モードであるか否かを判断する。ここで、印刷速度モードは、事前に指定されている。印刷速度モードの指定は、例えば、ユーザが操作パネル部4の表示部26に表示された印刷速度設定画面(図示せず)を見ながら入力部27に対して入力操作することにより行われる。
【0053】
指定された印刷速度モードが標準モードであると最大ドロップ数設定変更部54が判断した場合(ステップS4:YES)、ステップS5において、制御部6は、標準モードでの印刷を行う。
【0054】
具体的には、最大ドロップ数設定変更部54は、RIP処理部51から印刷に使用する用紙種類および印刷解像度を示す情報を取得し、用紙種類および印刷解像度に応じた標準最大ドロップ数を最大ドロップ数テーブル31から取得する。最大ドロップ数設定変更部54は、印刷時の最大ドロップ数を標準最大ドロップ数から変更せず、用紙種類および印刷解像度に応じた標準最大ドロップ数を、今回の印刷における最大ドロップ数として搬送制御部41および印刷制御部43に通知する。ハーフトーン処理部53は、生成した各色のドロップデータを印刷制御部43へ送る。
【0055】
搬送制御部41は、用紙Pの搬送速度が、今回の印刷における最大ドロップ数である、用紙種類および印刷解像度に応じた標準最大ドロップ数に対応する搬送速度となるよう搬送部2を駆動させる。
【0056】
搬送部2には、標準最大ドロップ数に対応する用紙Pの搬送速度に応じた印刷速度を実現するための時間間隔で、図示しない給紙部から用紙Pが順次給紙される。搬送部2に給紙された用紙Pは、搬送部2の搬送ベルト11により搬送される。
【0057】
印刷制御部43は、ハーフトーン処理部53で生成された各色のドロップデータに基づきインクジェットヘッド21C,21K,21M,21Yを制御して、搬送部2により搬送される用紙Pにインクを吐出させる。これにより、用紙Pに画像が印刷される。ここで、印刷制御部43は、画像の各ラインへの吐出動作を、今回の印刷における最大ドロップ数に対応する用紙Pの搬送速度に応じたタイミングで行うようインクジェットヘッド21C,21K,21M,21Yを制御する。
【0058】
印刷枚数分の印刷が終了すると、搬送制御部41により搬送部2が停止され、一連の動作が終了となる。
【0059】
ステップS4において、指定された印刷速度モードが第1〜第3高速モードのいずれかであると判断した場合(ステップS4:NO)、ステップS6において、最大ドロップ数設定変更部54は、新たな最大ドロップ数を設定する。
【0060】
具体的には、最大ドロップ数設定変更部54は、RIP処理部51から印刷に使用する用紙種類および印刷解像度を示す情報を取得し、用紙種類および印刷解像度に応じた標準最大ドロップ数を最大ドロップ数テーブル31から取得する。次いで、最大ドロップ数設定変更部54は、第1〜第3高速モードのうちの指定されたモードに対応する削減ドロップ数を、ドロップ数削減量テーブル32から選択して取得する。そして、最大ドロップ数設定変更部54は、用紙種類および印刷解像度に応じた標準最大ドロップ数から、指定されたモードに対応する削減ドロップ数を差し引いたドロップ数を、新たな最大ドロップ数とする。
【0061】
次いで、ステップS7において、ドロップデータ補正部55は、ドロップデータ補正処理を行う。ドロップデータ補正処理の内容は後述する。
【0062】
次いで、ステップS8において、制御部6は、高速モード(第1〜第3高速モード)のうちの指定されたモードでの印刷を行う。
【0063】
具体的には、最大ドロップ数設定変更部54は、新たな最大ドロップ数を、今回の印刷における最大ドロップ数として搬送制御部41および印刷制御部43に通知する。また、印刷制御部43は、ドロップデータ補正部55による補正後の各色のドロップデータを受け取る。ここで、ドロップデータ補正部55による補正後の各色のドロップデータは、ステップS6で設定された新たな最大ドロップ数を、画素ごとのインクのドロップ数の上限とするデータになっている。
【0064】
搬送制御部41は、用紙Pの搬送速度が、新たな最大ドロップ数に応じた搬送速度となるよう搬送部2を駆動させる。
【0065】
搬送部2には、新たな最大ドロップ数に対応する用紙Pの搬送速度に応じた印刷速度を実現するための時間間隔で、図示しない給紙部から用紙Pが順次給紙される。搬送部2に給紙された用紙Pは、搬送部2の搬送ベルト11により搬送される。
【0066】
印刷制御部43は、ドロップデータ補正部55による補正後の各色のドロップデータに基づきインクジェットヘッド21C,21K,21M,21Yを制御して、搬送部2により搬送される用紙Pにインクを吐出させる。これにより、用紙Pに画像が印刷される。ここで、印刷制御部43は、画像の各ラインへの吐出動作を、今回の印刷における最大ドロップ数に対応する用紙Pの搬送速度に応じたタイミングで行うようインクジェットヘッド21C,21K,21M,21Yを制御する。
【0067】
印刷枚数分の印刷が終了すると、搬送制御部41により搬送部2が停止され、一連の動作が終了となる。
【0068】
次に、上述した
図5のステップS7で行われるドロップデータ補正処理について、
図6のフローチャートを参照して説明する。
【0069】
図6のステップS11において、ドロップデータ補正部55は、ドロップデータにおけるライン番号を示す変数lに「1」を設定する。
【0070】
次いで、ステップS12において、ドロップデータ補正部55は、ライン上における画素番号を示す変数mに「1」を設定する。
【0071】
次いで、ステップS13において、ドロップデータ補正部55は、少なくともいずれかの色のドロップデータにおいて、lライン目のm番目の画素である注目画素のドロップ数が、新たな最大ドロップ数より大きいか否かを判断する。新たな最大ドロップ数は、前述した
図5のステップS6において、最大ドロップ数設定変更部54で設定されたものである。
【0072】
すべての色のドロップデータにおいて注目画素のドロップ数が新たな最大ドロップ数以下であると判断した場合(ステップS13:NO)、ドロップデータ補正部55は、ステップS19へ進む。
【0073】
少なくともいずれかの色のドロップデータにおいて注目画素のドロップ数が新たな最大ドロップ数より大きいと判断した場合(ステップS13:YES)、ステップS14において、ドロップデータ補正部55は、注目画素のドロップ数が新たな最大ドロップ数より大きい色のドロップデータにおける注目画素のドロップ数を、新たな最大ドロップ数に変更する。
【0074】
次いで、ステップS15において、ドロップデータ補正部55は、ステップS14の処理においてブラックのドロップデータにおける注目画素のドロップ数を新たな最大ドロップ数に変更したか否かを判断する。ブラックのドロップデータにおける注目画素のドロップ数を変更していないと判断した場合(ステップS15:NO)、ドロップデータ補正部55は、ステップS19へ進む。
【0075】
ブラックのドロップデータにおける注目画素のドロップ数を新たな最大ドロップ数に変更したと判断した場合(ステップS15:YES)、ステップS16において、ドロップデータ補正部55は、注目画素のブラックのドロップ数の減少分を周辺画素に分配可能であるか否かを判断する。
【0076】
具体的には、ドロップデータ補正部55は、注目画素の周辺画素のうち注目画素より後に走査される画素を、分配先の候補画素とする。分配先の候補画素は、具体的には、lライン目の(m+1)番目の画素、(l+1)ライン目の(m−1)番目の画素、(l+1)ライン目のm番目の画素、(l+1)ライン目の(m+1)番目の画素である。
【0077】
そして、ドロップデータ補正部55は、分配先の候補画素のうちブラックのドロップ数が0ではなく新たな最大ドロップ数よりも小さい各画素のブラックのドロップ数の、新たな最大ドロップ数との差分の合計が、注目画素のブラックのドロップ数の減少分以上であるという条件が満たされるか否かを判断する。この条件が満たされる場合、ドロップデータ補正部55は、注目画素のブラックのドロップ数の減少分を周辺画素に分配可能であると判断する。
【0078】
上記の条件が満たされることは、注目画素のブラックのドロップ数の減少分を、分配先の候補画素であってブラックのドロップ数が0ではない画素のうちの少なくとも1つに、ドロップ数が分配されることによって新たな最大ドロップ数を超えることになる画素がないように分配できることを意味する。
【0079】
注目画素のブラックのドロップ数の減少分を周辺画素に分配可能であると判断した場合(ステップS16:YES)、ステップS17において、ドロップデータ補正部55は、注目画素のブラックのドロップ数の減少分を周辺画素に分配する。具体的には、ドロップデータ補正部55は、分配先の候補画素であってブラックのドロップ数が0ではなく新たな最大ドロップ数よりも小さい画素のうちの少なくとも1つに、注目画素のブラックのドロップ数の減少分を分配する。この後、ドロップデータ補正部55は、ステップS19へ進む。
【0080】
ここで、分配先の候補画素であってブラックのドロップ数が0ではなく新たな最大ドロップ数よりも小さい画素が複数ある場合は、それらの画素のうちドロップ数が大きいほうの画素から優先的にドロップを分配する。これにより、画像の濃度変化を抑えることができる。
【0081】
ブラックのドロップ数が0の画素にドロップを分配しないのは、本来ブラックのインクが吐出されない画素にブラックのインクが吐出されることによる濃度変化を回避するためである。
【0082】
注目画素のブラックのドロップ数の減少分の周辺画素への分配の具体例について、
図7を参照して説明する。
【0083】
図7において、それぞれのマス目が画素を示す。マス目に記載された数字は、当該画素におけるインクのドロップ数を示す。
図7の例では、標準最大ドロップ数が5であり、新たな最大ドロップ数が4である。
【0084】
図7(a)は、ドロップ数が標準最大ドロップ数の5である注目画素61のドロップ数の変更前の状態を示す図である。新たな最大ドロップ数が4であるため、注目画素61は、ドロップ数の変更(削減)の対象である。注目画素61のドロップ数の変更によるドロップ数の減少分は、1ドロップである。
【0085】
図7(a)のドロップデータにおいて、ドロップデータ補正処理では、左上から右下へ向かって画素の走査が行われる。このため、
図7(a)において矢印で指し示された画素62〜65が、注目画素61におけるドロップ数の減少分の分配先の候補画素である。画素62がlライン目の(m+1)番目の画素、画素63が(l+1)ライン目の(m−1)番目の画素、画素64が(l+1)ライン目のm番目の画素、画素65が(l+1)ライン目の(m+1)番目の画素にそれぞれ相当する。
【0086】
分配先の候補画素である画素62〜65のうちブラックのドロップ数が0ではなく新たな最大ドロップ数である4よりも小さい画素は、ドロップ数が3である画素64のみである。画素64のドロップ数の新たな最大ドロップ数との差分は、1ドロップである。したがって、画素64のドロップ数(3)の新たな最大ドロップ数(4)との差分が、注目画素61のドロップ数の変更によるドロップ数の減少分(1)以上であることから、前述の条件が満たされる。したがって、この場合、注目画素のブラックのドロップ数の減少分を周辺画素に分配可能と判断される。
【0087】
そして、注目画素61のドロップ数の変更後、注目画素61におけるドロップ数の減少分である1ドロップが、画素64に分配(加算)され、
図7(b)に示す状態となる。
【0088】
なお、本実施の形態では、処理の容易さのため、注目画素におけるドロップ数の減少分の分配先の候補画素を、注目画素の周辺画素のうち注目画素より後に走査される画素としたが、他の周辺画素にも分配可能な処理としてもよい。
【0089】
図6に戻り、ステップS16において、注目画素のブラックのドロップ数の減少分を周辺画素に分配可能ではないと判断した場合(ステップS16:NO)、ステップS18において、ドロップデータ補正部55は、注目画素のブラックのドロップ数の減少分を他色の注目画素のドロップに置き換える。
【0090】
例えば、注目画素のブラックのドロップ数の減少分が1ドロップの場合、ドロップデータ補正部55は、シアン、マゼンタ、イエローの各色のドロップデータにおける注目画素のドロップ数にそれぞれ1ドロップを加算する。これにより、他色のインクにより濃度を補うことで、印刷画像におけるブラックに近い色の濃度の低下を抑えることができる。
【0091】
ステップS18の後、ドロップデータ補正部55は、ステップS19へ進む。ステップS19では、ドロップデータ補正部55は、変数mが1ラインにおける最終画素であることを示すMであるか否かを判断する。
【0092】
m=Mではないと判断した場合(ステップS19:NO)、ステップS20において、ドロップデータ補正部55は、変数mに「1」を加算する。この後、ドロップデータ補正部55は、ステップS13へ戻る。
【0093】
m=Mであると判断した場合(ステップS19:YES)、ステップS21において、ドロップデータ補正部55は、変数lが最終ラインであることを示すLであるか否かを判断する。
【0094】
l=Lではないと判断した場合(ステップS21:NO)、ステップS22において、ドロップデータ補正部55は、変数lに「1」を加算する。この後、ドロップデータ補正部55は、ステップS12へ戻る。
【0095】
l=Lであると判断した場合(ステップS21:YES)、ドロップデータ補正部55は、ドロップデータ補正処理を終了する。
【0096】
次に、上述したドロップデータ補正処理を行うことによる各色の使用インク量の変化について、
図8を参照して説明する。
【0097】
図8(a)は、ドロップデータ補正処理を行わない場合の、主要な各色を印刷で実現するための各インク色の使用インク量の一例を示す図である。
図8(b)は、
図8(a)の例におけるドロップデータに対してドロップデータ補正処理を行った場合の、主要な各色を印刷で実現するための各インク色の使用インク量の一例を示す図である。
【0098】
図8の例では、トータルインク量の上限値が160%に設定されている。また、
図8(a)の例では最大ドロップ数(標準最大ドロップ数)が5であり、
図8(b)の例では最大ドロップ数(新たな最大ドロップ数)が4である。
【0099】
トータルインク量は、画素ごとの各色の使用インク量の合計を示す値である。使用インク量は、用紙種類および印刷解像度に応じた最大ドロップ数(標準最大ドロップ数)の場合を100%とし、ドロップ数に応じて算出されるものである。
図8の例では、5ドロップが、100%の使用インク量に相当する。CMYKの4色をそれぞれ用紙種類および印刷解像度に応じた最大ドロップ数ずつ吐出する場合、トータルインク量は400%になる。
【0100】
一般に、用紙裏面へのインク抜けや、インク量過多による発色の濁りを抑える観点から、トータルインク量の上限値が設定されている。各色のドロップデータは、画素ごとのトータルインク量が上限値以下となるように生成される。
【0101】
図8(a),(b)に示すように、実現色がブラックの場合、ドロップデータ補正処理により、ブラックの使用インク量が削減されるとともに、その減少分が、他色(シアン、マゼンタ、イエロー)の使用インク量に置き換えられている。これにより、ブラックのインクの最大ドロップ数を減少させつつ、ブラックの印刷色の濃度の低下は抑えられる。
【0102】
また、
図8(a),(b)に示すように、実現色がシアンの場合、ドロップデータ補正処理により、シアンの最大ドロップ数が減少することで、シアンの使用インク量が減少している。マゼンタ、イエローについても同様である。ドロップデータ補正処理では、シアン、マゼンタ、イエローのような鮮やかな色については、色味のバランスを崩さないようにするため、他色のインクへの置き換えは行わない。
【0103】
なお、実現色がレッド、グリーン、ブルーの場合は、
図8(a)に示すように、ドロップデータ補正処理を行わない場合の、印刷に使用される各インクの使用インク量がそれぞれ80%である。使用インク量が80%に対応するドロップ数は4であり、ドロップデータ補正処理を行う場合の新たな最大ドロップ数(4)と同じである。このため、実現色がレッド、グリーン、ブルーの場合は、
図8(a),(b)に示すように、ドロップデータ補正処理による使用インク量の変化はない。
【0104】
以上説明したように、インクジェット印刷装置1では、高速モードにおいて、最大ドロップ数設定変更部54が、標準最大ドロップ数より小さい新たな最大ドロップ数を設定する。ドロップデータ補正部55は、各色のドロップデータを、画素ごとのインクのドロップ数の上限が新たな最大ドロップ数となるよう補正する。搬送制御部41は、用紙Pの搬送速度が、新たな最大ドロップ数に応じた搬送速度となるよう搬送部2を駆動させる。印刷制御部43は、ドロップデータ補正部55による補正後の各色のドロップデータに基づきインクジェットヘッド21C,21K,21M,21Yを制御して、搬送部2により搬送される用紙Pにインクを吐出させる。これにより、新たな最大ドロップ数に応じた搬送速度で用紙Pを搬送しつつ印刷するので、用紙Pの搬送速度を高速化して印刷できる。この結果、印刷物の生産性を向上させることができる。
【0105】
また、インクジェット印刷装置1では、ドロップデータ補正部55は、ブラックのドロップデータにおいてドロップ数を新たな最大ドロップ数に変更した画素におけるブラックのドロップ数の減少分を、ブラックのドロップデータにおける当該画素の周辺画素に分配するか、他色のドロップデータにおける当該画素のドロップに置き換える。これにより、印刷時の最大ドロップ数を減少させても、ブラックに近い色を実現するための使用インク量の低下が抑えられるので、印刷画像におけるブラックに近い色の濃度低下を抑えることができる。
【0106】
したがって、インクジェット印刷装置1によれば、印刷画質の低下を抑えつつ、印刷物の生産性を向上させることができる。
【0107】
また、インクジェット印刷装置1では、最大ドロップ数設定変更部54は、新たな最大ドロップ数を複数通りのドロップ数から選択して設定可能である。具体的には、最大ドロップ数設定変更部54は、第1〜第3高速モードのうちの指定されたモードに対応する削減ドロップ数を、ドロップ数削減量テーブル32から選択して取得し、削減ドロップ数を用いて新たな最大ドロップ数を設定する。これにより、ユーザ等が、複数通りの印刷速度(生産性)およびそれに応じた印刷画質からいずれかを選択して設定できるので、利便性が向上する。
【0108】
なお、上述した実施の形態では、ブラックのドロップデータにおいてドロップ数を新たな最大ドロップ数に変更した画素におけるブラックのドロップ数の減少分を、ブラックのドロップデータにおける当該画素の周辺画素に分配するか、他色のドロップデータにおける当該画素のドロップに置き換えた。しかし、ドロップ数を新たな最大ドロップ数に変更した画素におけるブラックのドロップ数の減少分を、ブラックのドロップデータにおける当該画素の周辺画素に分配する処理と、他色のドロップデータにおける当該画素のドロップに置き換える処理とを組み合わせてもよい。すなわち、ブラックのドロップ数を新たな最大ドロップ数に変更した画素について、画素ごとに、ブラックのドロップ数の減少分を、ブラックのドロップデータにおける当該画素の周辺画素に分配する処理、および他色のドロップデータにおける当該画素のドロップに置き換える処理の少なくともいずれか一方を行えばよい。
【0109】
また、インクジェット印刷装置1において、白黒印刷が設定されている場合は、自動的に第1〜第3高速モードのいずれかを選択するようにしてもよい。
【0110】
また、上述した実施の形態では、標準最大ドロップ数を決定する印刷条件の要素は用紙種類および印刷解像度であるものとしたが、標準最大ドロップ数を決定する印刷条件の要素はこの組み合わせに限らない。例えば、標準最大ドロップ数を決定する印刷条件の要素から印刷解像度が省略されていてもよい。
【0111】
また、上述した実施の形態では、シアン、ブラック、マゼンタ、イエローの4色のインクを吐出して印刷するインクジェット印刷装置1を示したが、インク色の数および組み合わせはこれに限らない。ブラックを含む複数色のインクを用いるものであれば、本発明を適用できる。
【0112】
本発明は上記実施の形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施の形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施の形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。