特許第6823961号(P6823961)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6823961ダイス、押出成形機及び成形品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6823961
(24)【登録日】2021年1月14日
(45)【発行日】2021年2月3日
(54)【発明の名称】ダイス、押出成形機及び成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 48/305 20190101AFI20210121BHJP
   A23P 30/20 20160101ALI20210121BHJP
【FI】
   B29C48/305
   A23P30/20
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-146666(P2016-146666)
(22)【出願日】2016年7月26日
(65)【公開番号】特開2018-15952(P2018-15952A)
(43)【公開日】2018年2月1日
【審査請求日】2019年6月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大川 雅之
【審査官】 田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】 特開平7−1545(JP,A)
【文献】 特開平6−190903(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 48/305
A23P 30/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクリュを内蔵したシリンダバレルを具備する押出成形機の該シリンダバレルの軸方向の一端に配され、該スクリュによって押し出される成形材料の流路及び押出口を有するダイスであって、
前記流路は、その断面積が成形材料の押出方向の下流側に向かって漸次縮小する流路縮小部と、該流路縮小部から前記押出口に向かって成形材料を通過させながら該成形材料を所定形状に賦形する賦形部とを具備し、
前記流路縮小部の流路を画成する内壁面は、前記軸方向に沿う断面視において、該流路縮小部の内側に向かって凸の曲線である流れ制御部を有し、
前記流路縮小部の内壁面の前記押出方向の上流側端部は、前記軸方向に沿う断面視において、外側に向かって凸の曲線であり、
前記軸方向に沿う断面視において、前記流路縮小部の内壁面について該流路縮小部の押出方向の上流側端と下流側端とを結ぶ仮想直線を引いた場合に、前記流れ制御部における凸の曲線は該仮想直線よりも内側に位置し、且つ前記上流側端部における凸の曲線は該仮想直線よりも外側に位置しており、
植物由来素材の粉砕固形物を含有する前記成形材料を成形するために用いられる、ダイス。
【請求項2】
前記賦形部はその流路の断面積が前記軸方向に一様である請求項1に記載のダイス。
【請求項3】
前記流れ制御部は、前記流路縮小部の内壁面において前記賦形部寄りに位置している請求項1又は2に記載のダイス。
【請求項4】
前記押出口の平面視形状が非円形である請求項1〜3の何れか1項に記載のダイス。
【請求項5】
互いに平行に配された複数の前記シリンダバレルの共通の前記軸方向の一端として利用され、平面視において複数の前記流路縮小部が間欠配置された流路縮小部配置部を具備し、該流路縮小部配置部の該シリンダバレルとの対向面側とは反対側に、複数の前記賦形部が該流路縮小部配置部の複数の流路縮小部と1対1で対応するように配されている請求項1〜4の何れか1項に記載のダイス。
【請求項6】
スクリュを内蔵したシリンダバレルを具備する押出成形機であって、
前記シリンダバレルの軸方向の一端側に、前記スクリュによって押し出される成形材料の流路及び押出口を有し、
前記流路は、その断面積が成形材料の押出方向の下流側に向かって漸次縮小する流路縮小部と、該流路縮小部から前記押出口に向かって成形材料を通過させながら該成形材料を所定形状に賦形する賦形部とを具備し、
前記流路縮小部の流路を画成する内壁面は、前記軸方向に沿う断面視において、該流路縮小部の内側に向かって凸の曲線である流れ制御部を有し、
前記流路縮小部の内壁面の前記押出方向の上流側の端部は、前記軸方向に沿う断面視において、外側に向かって凸の曲線であり、
前記軸方向に沿う断面視において、前記流路縮小部の内壁面について該流路縮小部の押出方向の上流側端と下流側端とを結ぶ仮想直線を引いた場合に、前記流れ制御部における凸の曲線は該仮想直線よりも内側に位置し、且つ前記上流側端部における凸の曲線は該仮想直線よりも外側に位置しており、
植物由来素材の粉砕固形物を含有する前記成形材料を用いる、押出成形機。
【請求項7】
請求項1〜5の何れか1項に記載のダイスを具備する押出成形機を用いた成形品の製造方法であって、
成形材料として、固形物を50質量%以上含有するものを用いる、成形品の製造方法。
【請求項8】
前記固形物が植物由来の粉砕固形物である、請求項7に記載の成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクリュを内蔵した押出成形機のシリンダバレルの軸方向の一端に配され、該シリンダバレル内の成形材料が成形品として排出される押出口を有するダイス、及び該ダイスに相当する部位を有する押出成形機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂材料、木質材料などの成形材料を成形品とするために、押出成形機が用いられている。斯かる成形品の用途は、スナック、ペットフード、生分解性緩衝材など多岐にわたる。図6には、従来一般に知られている押出成形機の押出口近傍の概略構成が示されている。図6に示す押出成形機100は、スクリュ12を2本内蔵した二軸型押出成形機であり、筒状のシリンダバレル10と、シリンダバレル10の軸方向Xの一端に配されたダイス90Aとを具備する。シリンダバレル10内の成形材料の流路11には、2本のスクリュ12が、それぞれ周方向に回転自在に挿通されている。ダイス90Aは、成形材料の流路91及び押出口92を具備する。シリンダバレル10の流路11に供給された成形材料は、シリンダバレル10の外部に配された図示しない加熱手段からの熱エネルギーとスクリュ12の回転に伴う機械的エネルギーとによって高温状態とされ、流動、混練され易くなり、スクリュ12の回転によってダイス90Aの流路91に送り込まれ、押出口92から押し出される。この押出口92から押し出されるものが成形品となる。
【0003】
一方、シリンダバレル内の成形材料をダイスの押出口に向けて徐々に絞り込むように、流路の形状等を改良したものが提案されている(例えば特許文献1及び2)。図7には、この改良された流路を持つ押出成形機101が示されている。押出成形機101におけるダイス90Bは、流路91の断面積Sが押出方向X1の下流側に向かって漸次縮小する流路縮小部93と、流路91の断面積Sが軸方向Xに一様な賦形部94とを軸方向Xに有する。流路縮小部93の流路91を画成する内壁面93aはテーパー状に加工されており、図7に示す如き軸方向Xに沿う断面視において直線である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−191948号公報
【特許文献2】特開2009−153508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図6に示す押出成形機100においては、シリンダバレル10の流路11とダイス90Aの流路91との境界に段差13が存在し、この段差13によって、シリンダバレル10内の成形材料がダイス90Aに送り込まれる際に急激に絞り込まれるようになされているため、段差13やその近傍の内壁面に成形材料が滞留しやすい。このようなシリンダバレル内での成形材料の滞留は、押出口の詰まりを誘発し、成形加工をしばしば中断させる。
【0006】
これに対して、図7に示す押出成形機101は、流路がテーパー状に加工された流路縮小部93を有するダイス90Bの採用によって、図6に示す流路内に段差13を有する押出成形機100に比べれば、成形材料の滞留は起こりにくいものの、成形材料の種類、あるいは成形品の断面形状に対応する押出口92の断面形状等によっては、成形材料の滞留が依然として問題となり得ることを本発明者は見出した。即ち、例えば図8に示すように、押出成形機101のシリンダバレル10の流路11に、植物由来の粉砕固形物を主成分とする流動性の低い成形材料Mを供給し、且つ押出口92の平面視形状を非円形として、断面が非円形の成形品Pを製造する場合には、賦形部94での成形材料の賦形のための圧力が比較的高いために、流路縮小部93の流路91を画成する内壁面93aが、押出方向X1に対して垂直になっておらずに傾斜しているにもかかわらず、その傾斜した内壁面93aに成形材料Mが滞留しやすくなる。内壁面93aに滞留した成形材料Mは、シリンダバレル10の外部に配された加熱手段によってその滞留時間中加熱され続けるため、焦げたり変質したりして流動性が失われて固形物M1となる。そして、この固形物M1から一部が剥がれてダイス90Bの流路91に入り込み、押出口92を詰まらせることが起こり得ることを本発明者は見出した。
【0007】
図7に示す押出成形機101において、ダイス90Bの流路縮小部93による成形材料の滞留防止効果を高めるためには、流路縮小部93の流路91を画成する内壁面93aの軸方向Xの長さをなるべく長くし、内壁面93aの軸方向Xに対する傾斜角度をなるべく小さくして、内壁面93aに緩やかなテーパーを付与する方法が有効である。しかしながら、斯かる方法は押出成形機の大型化を招くため、一般には採用し難い。押出口に成形材料が詰まり難く、成形加工を安定的に実施し得る技術は未だ提供されていない。
【0008】
本発明の課題は、押出口に成形材料が詰まり難く、成形加工を安定的に実施し得るダイス及び押出成形機を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、図7に示すダイス90B、即ち、「流路91の断面積Sが成形材料の押出方向X1の下流側に向かって漸次縮小する流路縮小部93を具備し、且つ流路縮小部93の流路91を画成する内壁面93aが、軸方向Xに沿う断面視において直線であるダイス90B」の改良技術について種々検討した結果、内壁面93aの軸方向Xに対する傾斜角度を過度に小さくせずとも、軸方向Xに沿う断面視における内壁面93aの形状(輪郭線)を、流路縮小部93の内側に向かって凸形状となる曲線部分を有する形状とすることによって、前述した、流動性の低い成形材料を使用して断面が非円形の成形品を製造するような場合でも、成形材料の滞留が低減され、ダイスの押出口に成形材料が詰まり難くなることを知見した。
【0010】
本発明は、前記知見に基づきなされたもので、スクリュを内蔵したシリンダバレルを具備する押出成形機の該シリンダバレルの軸方向の一端に配され、該スクリュによって押し出される成形材料の流路及び押出口を有するダイスであって、前記流路は、その断面積が成形材料の押出方向の下流側に向かって漸次縮小する流路縮小部と、該流路縮小部から前記押出口に向かって成形材料を通過させながら該成形材料を所定形状に賦形する賦形部とを具備し、前記流路縮小部の流路を画成する内壁面は、前記軸方向に沿う断面視において、該流路縮小部の内側に向かって凸の曲線である流れ制御部を有するダイスである。
【0011】
また本発明は、前記知見に基づきなされたもので、スクリュを内蔵したシリンダバレルを具備する押出成形機であって、前記シリンダバレルの軸方向の一端側に、前記スクリュによって押し出される成形材料の流路及び押出口を有し、前記流路は、その断面積が成形材料の押出方向の下流側に向かって漸次縮小する流路縮小部と、該流路縮小部から前記押出口に向かって成形材料を通過させながら該成形材料を所定形状に賦形する賦形部とを具備し、前記流路縮小部の流路を画成する内壁面は、前記軸方向に沿う断面視において、該流路縮小部の内側に向かって凸の曲線である流れ制御部を有する押出成形機である。この本発明の押出成形機には、スクリュを内蔵したシリンダバレルを具備し、該シリンダバレルの軸方向の一端に前記の本発明のダイスが配された形態が含まれる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、押出口に成形材料が詰まり難く、成形加工を安定的に実施し得るダイス及び押出成形機が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明のダイス及び押出成形機の一実施形態における押出成形機の軸方向に沿う断面を模式的に示す断面図である。
図2図2は、図1に示すダイス及び押出成形機におけるダイス及びその近傍の使用状態の模式的な拡大断面図である。
図3図3は、図1に示すダイス及び押出成形機における流路縮小部の各部の寸法等の説明図である。
図4図4は、本発明のダイス及び押出成形機の他の実施形態の模式的な斜視図である。
図5図5は、実施例及び比較例のダイス及び押出成形機を用いた押出成形におけるバレル先端圧力の経時変化を示すグラフである。
図6図6は、従来のダイス及び押出成形機におけるダイス及びその近傍の軸方向に沿う断面を模式的に示す断面図である。
図7図7は、従来の他のダイス及び押出成形機におけるダイス及びその近傍の軸方向に沿う断面を模式的に示す断面図である。
図8図8は、図7に示す従来のダイス及び押出成形機におけるダイス及びその近傍の使用状態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。図1には、本発明のダイス及び押出成形機の一実施形態の概略構成が示され、また図2には、図1に示すダイス及び押出成形機におけるダイス及びその近傍の使用状態(成形材料が充填されている状態)が拡大して示されている。本実施形態の押出成形機20は、スクリュ12を2本内蔵した二軸型押出成形機であり、筒状のシリンダバレル10と、シリンダバレル10の軸方向Xの一端(成形材料の押出方向X1の先端)に配されたダイス1とを具備する。
【0015】
押出成形機20を構成するシリンダバレル10内の成形材料の流路11には、2本のスクリュ12が、それぞれ周方向に回転自在に挿通されている。スクリュ12におけるダイス1側とは反対側の一端には、図示しないギア装置が設けられており、該ギア装置によってスクリュ12は回転駆動される。押出成形機20は、シリンダバレル10内の流路11に成形材料を投入するためのホッパー14を具備する。成形材料は、ホッパー14からシリンダバレル10内の流路11に投入された後、シリンダバレル10の外部に配された図示しない加熱手段によって加熱されながら、スクリュ12の回転によって混練されつつダイス1に送り込まれる。押出成形機20におけるダイス1以外の構成は、従来の2軸型押出成形機と基本的に同じであり、該構成については前述した押出成形機100,101についての説明が適宜適用される。
【0016】
ダイス1は、スクリュ12によって押し出される成形材料の流路2及び押出口3を有する。流路2は、シリンダバレル10(流路11)の軸方向Xと直交する方向の中心を通って軸方向Xに延びる仮想的な中心軸線CL(図2参照)を通り、ダイス1の軸方向Xの全長にわたって連続している。押出口3は、流路2の押出方向X1の先端に位置し、シリンダバレル10の中心軸線CL上に存している。ダイス1は、シリンダバレル10の軸方向Xの一端に、ネジなどの固定手段によって取り外し可能に配されていても良く、あるいはシリンダバレル10と一体的に形成され、取り外し不可能に配されていても良い。
【0017】
ダイス1は、流路2の断面積Sが成形材料の押出方向X1の下流側に向かって漸次縮小する流路縮小部4と、流路縮小部4から押出口3に向かって成形材料を通過させながら該成形材料を所定形状に賦形する賦形部5とを具備する。ダイス1では、賦形部5の流路2は、流路縮小部4の流路2と異なり、その断面積Sはシリンダバレル10の軸方向Xに一様である。このようなダイス1の構成は、前述した従来のダイス90Bと基本的に同じである。
【0018】
本実施形態のダイス1の主たる特徴の1つとして、流路縮小部4の流路2を画成する内壁面4aが、図1及び図2に示す如き軸方向Xに沿う断面視において、流路縮小部4の内側に向かって、より具体的にはシリンダバレル10(流路11)の中心軸線CLに向かって、凸の曲線である流れ制御部41を有している点が挙げられる。流路縮小部4の内壁面4aの輪郭線が、このような内側に凸の曲線である流れ制御部41を有する形状であることにより、内壁面4aに成形材料が滞留し難くなるため、押出口3に成形材料が詰まり難く、成形加工を安定的に実施し得るようになる。
【0019】
ダイス1では、流れ制御部41は図1及び図2に示すように、流路縮小部4の内壁面4aにおいて賦形部5寄りに位置している。より具体的にはダイス1では、流路縮小部4の内壁面4aの一部が流れ制御部41であり、内壁面4a全体が流れ制御部41とはなっていない。そして、その内壁面4aの一部である流れ制御部41は、図2に拡大して示すように、流路縮小部4の始端(流路縮小部4の押出方向X1の上流側端)4Sと終端(流路縮小部4の押出方向X1の下流側端)4Eとの中間点よりも終端4E寄りに偏在している。流路縮小部4の始端4Sは、シリンダバレル10の流路11即ち流路断面積が軸方向Xにおいて均一の部位と流路縮小部4との連接部分(境界)に位置し、流路縮小部4の終端4Eは、流路縮小部4と賦形部5との連接部分(境界)に位置している。つまり、ダイス1においては、流路縮小部4の始端4Sよりも押出方向X1の下流側に位置する部位から賦形部5との連接部分までが流れ制御部41となっている。流れ制御部41がこのように配置形成されていることにより、流れ制御部41の存在によって流路縮小部4の内壁面4aが軸方向Xに沿う断面視において内側に向かって凸の曲線であっても、その内壁面4aはシリンダバレル10の内壁面10aと滑らかな曲線で連結されているため、押出口3のみならず、シリンダバレル10と流路縮小部4との境界付近にも成形材料が滞留し難い。
【0020】
流路縮小部4の内壁面4aの輪郭線である曲線の種類は特に限定されず、例えば、楕円、放物線、双曲線が挙げられる。図3には、内壁面4aの軸方向Xに沿う断面視における輪郭線が楕円の一部、具体的には楕円のほぼ1/4の弧である場合が示されている。尚、図3では、説明の便宜のため、中心軸線CLに対して上方に位置する流路縮小部4の内壁面4aの描写を省略しているが、特に断らない限り、この図示を省略した部分については以下の説明が適宜適用される。
【0021】
図3に示す如きダイス1の軸方向Xに沿う断面視において、流路縮小部4の内壁面4aを図3に示す如く仮想的に延長して仮想楕円を形成した場合、この仮想楕円は、軸方向Xと平行な径2aと、軸方向Xと直交する方向に平行な径2bとを有する。仮想楕円の径2aが長いほど、成形材料の滞留防止には有効であるが、径2aが長すぎると、押出成形機の大型化を招くことになる。斯かる観点から、仮想楕円の径2aは、シリンダバレルの内径Dに対して、好ましくは0.3倍以上、さらに好ましくは0.5倍以上、そして、好ましくは3倍以下、さらに好ましくは2倍以下である。また仮想楕円の径2bは、シリンダバレルの内径Dに対して、好ましくは0.8倍以上、さらに好ましくは1.2倍以上、そして、好ましくは3倍以下、さらに好ましくは2倍以下である。
【0022】
また図2を参照して、シリンダバレル10の軸方向Xに沿う内壁面10aと流路縮小部4の内壁面4aとの境界及びその近傍を押出方向X1に沿って見たときに、平坦な内壁面10aから内側に凸形状の内壁面4aへの変化はなるべく緩やかであることが、成形材料の滞留防止の観点から好ましい。この点、ダイス1においては前述したように、図2に示す如き軸方向Xに沿う断面視において、内側に向かって凸の曲線である流れ制御部41が、流路縮小部4の内壁面4aにおいて賦形部5寄りに位置し、流路縮小部4の始端4S即ちシリンダバレル10との境界から押出方向X1に所定距離離間した位置にわたっては存在していないため、シリンダバレル10の内壁面10aから流路縮小部4の内壁面4aへの変化は比較的緩やかになっており、成形材料の滞留が起こりにくい。
【0023】
また同様の観点から、流路縮小部4の内壁面4aの押出方向X1の上流側の端部40、即ち内壁面4aにおける始端4S及びその近傍は、図3に示す如きダイス1の軸方向Xに沿う断面視において、外側に向かって凸の曲線であることが望ましい。この内壁面4aの端部40の軸方向Xに沿う断面視における輪郭線たる、曲線の種類は特に限定されず、楕円(円形含む)、放物線、双曲線が挙げられる。斯かる曲線が円形の場合、その円形の曲線の直径は、シリンダバレル10の内径Dに対して、好ましくは0.1倍以上、さらに好ましくは0.2倍以上、そして好ましくは0.5倍以下、さらに好ましくは0.3倍以下である。内壁面4aの輪郭線たる曲線の種類を問わず、滑らかな曲線でシリンダバレル10の内壁面10aと流路縮小部4の内壁面4aとが滑らかに連結されることが、成形材料の滞留防止の観点から望ましい。
【0024】
前記仮想楕円の中心Cは、流路縮小部4とは重複せずに、シリンダバレル10の外側に位置していることが好ましい。より具体的には、図3に示す如きダイス1の軸方向Xに沿う断面視において、流路縮小部4の内壁面4aの輪郭線が、楕円の弧であるとした場合のその楕円の中心Cと、ダイス1の流路縮小部4の終端4Eとの、軸方向X(楕円の長径方向)のずれpは、シリンダバレルの内径Dに対して、好ましくは0.01倍以上、さらに好ましくは0.05倍以上、そして、好ましくは0.3倍以下、さらに好ましくは0.2倍以下である。また、ダイス1の流路縮小部4の終端4Eと前記楕円の中心Cとの、軸方向Xと直交する方向(仮想楕円の短径方向)のずれqは、シリンダバレルの内径Dに対して、好ましくは0.01倍以上、さらに好ましくは0.05倍以上、そして、好ましくは0.8倍以下、さらに好ましくは0.5倍以下である。
【0025】
シリンダバレル10の内径D(図3参照)、即ち流路縮小部4における成形材料の流入口径は、好ましくは20mm以上、さらに好ましくは30mm以上、そして、好ましくは200mm以下、さらに好ましくは160mm以下である。
押出口3の内径d(図3参照)、即ち流路縮小部4における成形材料の流出口径は、好ましくは2mm以上、さらに好ましくは3mm以上、そして、好ましくは10mm以下、さらに好ましくは8mm以下である。
シリンダバレル10の内径Dと押出口3の内径dとの比率は、前者/後者として、好ましくは2以上、さらに好ましくは8以上、そして、好ましくは100以下、さらに好ましくは50以下である。
尚、ここでいう「内径」とは、対象が円形の場合は直径、対象が非円形の場合は、当該対象の中心を通る線のうち最長のものの長さを意味する。
【0026】
流路縮小部4の軸方向Xの長さ4L(図3参照)は、シリンダバレルの内径Dに対して、好ましくは0.4倍以上、さらに好ましくは0.6倍以上、そして、好ましくは1.5倍以下、さらに好ましくは1.2倍以下である。
賦形部5の軸方向Xの長さ5L(図3参照)は、好ましくは10mm以上、さらに好ましくは20mm以上、そして、好ましくは40mm以下、さらに好ましくは30mm以下である。
【0027】
流路縮小部4が図1図3に示す特徴を具備している場合、即ち、図1及び図2に示すように、流れ制御部41が流路縮小部4の内壁面4aにおいて賦形部5寄りに位置し、且つ図3に示すように、内壁面4aの押出方向X1の上流側の端部40が、軸方向Xに沿う断面視において外側に向かって凸の曲線である場合、軸方向Xに沿う各部の長さに関して以下の関係が成立することが、成型材料のダイス内でのよりスムーズな流れを実現し、長時間詰りを抑制する上で好ましい。即ち、端部40の軸方向Xに沿う長さは、流路縮小部4の同方向に沿う全長に対して、好ましくは0%以上30%以下、さらに好ましくは2%以上20%以下である。また、流れ制御部41の軸方向Xに沿う長さは、流路縮小部4の同方向に沿う全長に対して、好ましくは70%以上100%以下、さらに好ましくは80%以上98%以下である。そして、流れ制御部41は賦形部5と連接している、即ち図1に示す如き軸方向に沿う断面視において、流れ制御部41の輪郭線たる凸の曲線と賦形部5の内壁面の輪郭線たる直線とが滑らかに連結していることが好ましい。
【0028】
図2に示す如き軸方向Xに沿う断面視において、中心軸線CLを挟んで上下両側それぞれにおける流路縮小部4の内壁面4aについてその始端4Sと終端4Eとを結ぶ仮想直線を引いた場合に、その2本の仮想直線のなす角度θ(以下、内壁面傾斜角度ともいう。)は、好ましくは45度以上、さらに好ましくは55度以上、そして、好ましくは120度以下、さらに好ましくは90度以下である。
【0029】
流路縮小部4及び賦形部5は、動摩擦係数の小さい材料で形成されていることが好ましい。これにより、ダイス1内での成形材料の滞留がより一層発生し難くなる。流路縮小部4の動摩擦係数は、外観及び成形速度の向上の観点から、好ましくは0.4以上、さらに好ましくは0.5以上、そして、好ましくは0.7以下、さらに好ましくは0.6以下である。同様の観点から、賦形部5の動摩擦係数は、好ましくは0.08以上、さらに好ましくは0.1以上、そして、好ましくは0.4以下、さらに好ましくは0.3以下である。ダイス1の各部の動摩擦係数は、摩擦摩耗試験機(イワタニ エレクトロニクス社製)を用いて常法に従って測定することができる。
【0030】
流路縮小部4と賦形部5とは、互いに同じ材質であっても良く、異なる材質であっても良いが、ダイス強度、成形物外観、成形速度及びダイスの製造コストなどを考慮すると、流路縮小部4は、ステンレス等で形成されていることが好ましく、賦形部5は、テフロン(登録商標)樹脂等で形成されていることが好ましい。
【0031】
押出口3の平面視形状(賦形部5の軸方向Xと直交する方向の断面形状)は、所望の成形品Pの軸方向Xと直交する方向の断面形状に合わせて適宜設定すれば良く、円形の他、楕円形、三角形、四角形、五角形形状の多角形、星形、ハート形等の任意の形状を適宜選択できる。一般に、押出成形機の押出口の平面視形状が円形以外の形状(非円形)であると、押出口の平面視形状が円形の場合に比して、成形加工の際に押出口にかかる圧力が高まるため、押出口の詰まりが発生しやすくなるが、ダイス1によれば、前述した流路縮小部4の内壁面4aの特徴的な形状により、押出口の平面視形状が非円形であっても、その非円形の押出口に成形材料が詰まり難く、成形加工を安定的に実施し得る。
【0032】
押出成形機20は、種々の成形品の製造に使用できる。成形品の製造に際しては、先ず、ホッパー14から成形材料Mを投入し、図2に示すようにシリンダバレル10内に供給する。シリンダバレル10内に供給する成形材料Mは、予め縦型混合機等の混合機で予備混合するなどして、混合物とすることが好ましい。そして、成形材料Mをシリンダバレル10内で加熱・加圧しながらスクリュ12によって混練し、ダイス1に送り込む。ダイス1に送り込まれた成形材料Mは、流路縮小部4にて徐々に絞り込まれてから賦形部5に送り込まれ、賦形部5では流路2を通過中に所定形状に賦形されて、押出口3から成形品Pとして押し出される。
【0033】
本発明のダイスを具備する押出成形機では、この種の押出成形機で通常使用し得る成形材料を特に制限なく使用することができるが、特に効果を発揮するのが、従来の押出成形機では流路での滞留がしばしば生じていた流動性の低い成形材料であり、具体的には例えば、固形物を含有する成形材料、特に植物由来素材の粉砕固形物を主体とする成形材料である。植物由来素材の粉砕物の具体例として、木粉が挙げられる。成形材料中の植物由来素材の粉砕固形物の含有量は、成形品の用途等に応じて適宜調整すれば良く特に制限されないが、通常50質量%以上である。
【0034】
植物由来素材の粉砕固形物を主体とする成形材料を用いた成形品の一例として、犬や猫などのペットの排泄物の処理に用いられるペット用排泄物処理材が挙げられる。以下、本発明のダイスを具備する押出成形機を用いた成形品の製造方法における製造目的物たる成形品としての、ペット用排泄物処理材について説明する。
【0035】
ペット用排泄物処理材を製造するための成形材料として用いる植物由来素材の粉砕物としては、木本及び草本の何れの粉砕物も用いることができ、例えば、木本の粉砕物(木質又は樹皮の粉砕物)、種子油残査、穀物外皮粉砕物、草本粉砕物などが挙げられる。特に、成形性及び消臭効果の点から、木本の粉砕物、特にスギ科、マツ科又はヒノキ科などの針葉樹の粉砕物を用いることが好ましい。粉砕物の大きさは、0.01〜1mm、特に0.05〜0.5mm程度であることが好ましい。植物由来素材の粉砕物の含有量は、成形材料の全量に対して、好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上、そして、好ましくは80質量%以下、さらに好ましくは70質量%以下である。
【0036】
ペット用排泄物処理材を製造するための成形材料としては、植物由来素材の粉砕物に加えてさらに合成樹脂を用いることが好ましい。合成樹脂は、排泄物処理材に保形性を付与すると共に、排泄物処理材の吸水性を調整する役割を担う。合成樹脂としては、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン類、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル類、ポリアミド類、ビニル系樹脂類などが挙げられる。合成樹脂の含有量は、成形材料の全量に対して、好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上、そして、好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下である。
【0037】
ペット用排泄物処理材を製造するための成形材料としては、前述の各成分に加えて必要に応じ、ワックス、抗菌剤、着色剤等の他の成分を含有させても良い。他の成分の含有量は、成形材料の全量に対して、好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは0.5質量%以上、そして、好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下である。
【0038】
本発明のダイスを具備する押出成形機を用いて、前述した成分を含む成形材料を成形加工してペット用排泄物処理材を製造する際の製造条件は、例えば次のように設定することができる。
・シリンダバレル内の流路の温度:80〜150℃
・スクリュの回転速度:10〜100rpm
・成形材料の押出速度:1〜10kg/hr
【0039】
図4には、本発明のダイスの他の実施形態が示されている。他の実施形態については、前述したダイス1と異なる構成部分を主として説明し、同様の構成部分は同一の符号を付して説明を省略する。特に説明しない構成部分は、ダイス1についての説明が適宜適用される。
【0040】
図4に示すダイス1Aは、互いに平行に配された複数のシリンダバレルで共用される1個のダイスとして使用可能なものである。ダイス1Aは、互いに平行に配された複数(図4では3本)のシリンダバレル10の共通の軸方向Xの一端として利用され、平面視において複数より具体的にはシリンダバレル10と同数の流路縮小部4が間欠配置された流路縮小部配置部6を具備する。流路縮小部配置部6のシリンダバレル10との対向面側とは反対側には、複数の賦形部5が流路縮小部配置部6の複数の流路縮小部4と1対1で対応するように配されている。流路縮小部配置部6は平面視円形状をなし、複数(図4では3個)の流路縮小部4が、平面視円形状の流路縮小部配置部6の周方向に沿って等間隔で配置され、各流路縮小部4に対して、円筒状の賦形部5が連接されている。ダイス1Aは、前述したダイス1と同じ構成のダイスを複数具備しているため、成形加工をより効率良く実施することができる。
【0041】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば、シリンダバレル内に配されるスクリュの数は2本に制限されず、1本でも良く、3本以上でも良い。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は斯かる実施例に限定されるものではない。
【0043】
〔実施例1〕
図1及び図2に示す押出成形機20と同様の構成の押出成形機を用い、ペット用排泄物処理材を一定時間連続的に製造した。実施例1で使用した押出成形機の各部の寸法等は下記のとおり(図2及び図3参照)。
・流路縮小部の内壁面の輪郭線の種類:楕円
・前記仮想楕円の径2aの長さ:75mm
・前記仮想楕円の径2bの長さ:90mm
・前記仮想楕円の中心Cとダイスの流路縮小部の終端4Eとの軸方向Xにおけるずれp:4mm
・前記仮想楕円の中心Cとダイスの流路縮小部の終端4Eとの軸方向Xと直交する方向におけるずれq:10mm
・シリンダバレルの内径D:75mm
・押出口の内径d:6mm
・シリンダバレルの内径と押出口の内径dとの比率(D/d):12.5
・押出口の平面視形状:6角形
・流路縮小部の前記内壁面傾斜角度θ:80度
・流路縮小部の軸方向の長さ4L:47mm
・賦形部の軸方向Xの長さ5L:20mm
・流路縮小部の材質:ステンレス
・賦形部の材質:テフロン(登録商標)樹脂
・賦形部の流路縮小部に対する動摩擦係数の比率(前者/後者):5
・流路縮小部の軸方向Xに沿う長さ:47mm
・賦形部の軸方向Xに沿う長さ:20mm
尚、賦形部の内径は、その軸方向Xの全長にわたって6mmで一定であった。
【0044】
実施例1で使用した成形材料の組成は下記の通り。
・スプルース(針葉樹)の木粉:65質量%
・合成樹脂(ポリエチレン):30質量%
・ワックス:5質量%
【0045】
〔比較例1〕
図7に示す押出成形機101と同様の構成の押出成形機を用いた以外は、実施例1と同様にしてペット用排泄物処理材を製造した。尚、比較例1で用いた押出成形機が具備するダイスにおける流路縮小部の前記内壁面傾斜角度は90度であった。
【0046】
〔比較例2〕
図6に示す押出成形機100と同様の構成の押出成形機を用いた以外は、実施例1と同様にしてペット用排泄物処理材を製造した。
【0047】
〔性能評価〕
各実施例及び比較例において、成形加工中のバレル先端圧力を下記方法によって測定した。その結果を図5に示す。バレル先端圧力の成形加工開始時からの増加量が少ないほど、押出口に成形材料が詰まり難く、成形加工が安定的に実施され得ることを示す。
【0048】
<バレル先端圧力の測定方法>
理化工業株式会社製樹脂圧力センサ(CZ−100P)をシリンダバレル先端内壁に貫通させた取り付け孔に設置し、該圧力センサからの信号を出力変換器(PCT−300)で増幅し、表示装置に表示させた。
【0049】
図5中、(A)が実施例1、(B)が比較例1、(C)が比較例2である。図5から明らかなように、流路内に段差を有する押出成形機(図6参照)を用いた比較例2が最も成形材料の詰まりが起こりやすかった。比較例1は、使用したダイスが、流路の断面積が成形材料の押出方向の下流側に向かって漸次縮小する流路縮小部を具備しているものの、同様の流路縮小部を具備するダイスを使用した実施例1に比して劣る結果となった。この実施例1と比較例1との性能差は、流路縮小部の流路を画成する内壁面の形状の差に起因するものであり、安定的な成形加工の実施を実現するためには、流路縮小部の流路を画成する内壁面は、シリンダバレルの軸方向に沿う断面視において、実施例1のように、該流路縮小部の内側に向かって凸の曲線を有することが好ましいことがわかる。
【符号の説明】
【0050】
1,1A,90A,90B ダイス
2,91 ダイスの流路
3,92 押出口
4,93 流路縮小部
4a,93a 流路縮小部の内壁面
4S 流路縮小部の始端
4E 流路縮小部の終端
40 流路縮小部の内壁面の押出方向の上流側の端部
41 流れ制御部
5,94 賦形部
6 流路縮小部配置部
20,100,101 押出成形機
10 シリンダバレル
11 シリンダバレルの流路
12 スクリュ
13 段差
14 ホッパー
M 成形材料
X シリンダバレルの軸方向
X1 成形材料の押出方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8