(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6824045
(24)【登録日】2021年1月14日
(45)【発行日】2021年2月3日
(54)【発明の名称】ニオブ−ケイ素系合金製造物、該製造物の製造方法、および該製造物を用いた熱機関
(51)【国際特許分類】
C22C 27/02 20060101AFI20210121BHJP
C22C 1/04 20060101ALI20210121BHJP
B22F 9/08 20060101ALI20210121BHJP
B22F 1/00 20060101ALI20210121BHJP
B22F 3/24 20060101ALI20210121BHJP
F01D 25/00 20060101ALI20210121BHJP
F02C 7/00 20060101ALI20210121BHJP
F01D 5/28 20060101ALI20210121BHJP
F01D 9/02 20060101ALI20210121BHJP
【FI】
C22C27/02 102Z
C22C1/04 E
B22F9/08
B22F1/00 R
B22F3/24 C
F01D25/00 L
F02C7/00 C
F01D5/28
F01D9/02 101
F01D25/00 X
F02C7/00 D
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-2402(P2017-2402)
(22)【出願日】2017年1月11日
(65)【公開番号】特開2018-111853(P2018-111853A)
(43)【公開日】2018年7月19日
【審査請求日】2019年10月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱パワー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】王 玉艇
【審査官】
川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2016/189612(WO,A1)
【文献】
国際公開第2015/079558(WO,A1)
【文献】
特開2007−031837(JP,A)
【文献】
特開2013−028834(JP,A)
【文献】
特開2006−241484(JP,A)
【文献】
特開2001−226734(JP,A)
【文献】
特開2015−175026(JP,A)
【文献】
特開昭60−165338(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 27/02
B22F 1/00
B22F 3/24
B22F 9/08
C22C 1/04
F01D 5/28
F01D 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Nb-Si系合金からなる製造物であって、
前記Nb-Si系合金は、
13原子%以上23原子%以下のSiと、
2原子%以上10原子%以下のCrと、
2原子%以上23原子%以下のTiと、
1原子%以上7原子%以下のHfと、
3原子%以上8原子%以下のMoと、
0.5原子%以上3原子%以下のWと、
0.2原子%以上5原子%以下のBと、
0.1原子%以上15原子%以下のReと、
1原子%以下のCと、
1原子%以下のNとを含有し、
残部がNbと不可避不純物とからなり、
前記製造物の微細組織は、連続相がNb基固溶相で分散相がケイ化ニオブ相からなる二相組織を有し、前記Nb基固溶相および前記ケイ化ニオブ相は、等価面積円に換算したときに5μm以下の平均結晶粒径を有し、前記Nb基固溶相の占有率が55面積%以上で、前記ケイ化ニオブ相の占有率が40面積%以上であり、
前記製造物は、1200℃で180 MPaの応力を掛けたときのひずみ速度が1×10-7 s-1未満である機械的特性を有することを特徴とするNb-Si系合金製造物。
【請求項2】
請求項1に記載のNb-Si系合金製造物において、
前記ケイ化ニオブ相は、Nb5Si3相を主相とすることを特徴とするNb-Si系合金製造物。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のNb-Si系合金製造物において、
前記製造物は、タービン用高温部材であることを特徴とするNb-Si系合金製造物。
【請求項4】
請求項3に記載のNb-Si系合金製造物において、
前記タービン用高温部材は、タービン翼であることを特徴とするNb-Si系合金製造物。
【請求項5】
請求項3又は請求項4に記載のNb-Si系合金製造物の製造方法であって、
前記Nb-Si系合金の原料を混合・溶解して溶湯を形成する原料混合溶解工程と、
前記溶湯から急冷凝固合金粉末を形成する溶湯−粉末化工程と、
前記急冷凝固合金粉末を用いて所望形状の合金成形体を造形する合金成形体造形工程と、
前記合金成形体に対して1200℃以上1600℃以下の熱処理を施して微細組織の制御を行う時効処理工程と、
を有することを特徴とするNb-Si系合金製造物の製造方法。
【請求項6】
タービンを有する熱機関であって、
前記タービンの高温部材が、請求項3又は請求項4に記載のNb-Si系合金製造物であることを特徴とする熱機関。
【請求項7】
請求項6に記載の熱機関において、
前記タービンは、ガスタービンであることを特徴とする熱機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タービン用高温部材などの高耐熱部材の技術に関し、特に、ニオブ−ケイ素(Nb-Si)系合金製造物、該製造物の製造方法、および該製造物を用いた熱機関に関するものである。
【背景技術】
【0002】
省エネルギー(例えば、化石燃料の節約)および地球環境保護(例えば、CO
2ガスの発生量抑制)の観点から、火力発電プラントの効率向上(例えば、タービン(蒸気タービン、ガスタービン)における熱効率向上)が強く望まれている。タービンの熱効率を向上させる有効な手段の一つとして、主流体温度の高温化がある。
【0003】
現在、ガスタービン用の高温部材には、高耐熱性のニッケル(Ni)基超合金が主に用いられている。ただし、ガスタービンの運転温度が既存のNi基超合金の耐用温度(約1100℃)にほぼ到達しており、主流体温度を更に高温化するためには、より高い耐熱性を有する超合金が必要とされている。
【0004】
言い換えると、ガスタービンの運転温度の設計自体が使用される部材の耐熱性に依存している。しかしながら、Ni基超合金における耐熱性向上の改良は限界に近づいているとも言われている。
【0005】
一方、近年、Ni基超合金の代替え材料の候補の一つとして、Nb-Si系合金が期待されている。例えば、特許文献1(特開2007-31837)には、
金属Nb基相と少なくとも1つの金属ケイ化物相とを含む微細構造を有する耐熱組成物であって、該耐熱組成物は、約9原子%〜約25原子%のケイ素(Si)、約5原子%〜約25原子%のチタン(Ti)、約1原子%〜約30原子%のレニウム(Re)、約1原子%〜約25原子%のクロム(Cr)、約1原子%〜約20原子%のアルミニウム(Al)、最大約20原子%までのハフニウム(Hf)、最大約30原子%までのルテニウム(Ru)、最大約30原子%までのタングステン(W)、タンタル(Ta)及びモリブデン(Mo)から選択された少なくとも1つの金属、並びに残部のニオブ(Nb)、を含むことを特徴とする耐熱組成物が、開示されている。
【0006】
特許文献2(特開2013-28834)には、
Siを9.0〜17.5原子%、Au,Pd,Re,Os,Ir,及びPtからなる群から選ばれる1又は複数種の元素を1原子%以上固溶限度以下含有し残部が不可避不純物及びNbからなり、Nb母材相中に球状化したNb
5Si
3粒子を分散したNb/Nb
5Si
3共晶組織を有することを特徴とするニオブ基耐熱合金が、開示されている。
【0007】
また、特許文献3(WO 2015/079558)には、
ケイ化ニオブ基複合材であって、10原子%以上25原子%以下のSiと、5原子%以上10原子%以下のCrと、1原子%以上4.9原子%以下のTiと、1原子%以上5原子%以下のHfと、0.5原子%以上6原子%以下のAlと、0.5原子%以上10原子%以下のTaと、0.5原子%以上5原子%以下のZrと、0.5原子%以上5原子%以下のWと、0.5原子%以上5原子%以下のMoとを含有し、残部がNbと不可避不純物とからなることを特徴とするケイ化ニオブ基複合材が、開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−31837号公報
【特許文献2】特開2013−28834号公報
【特許文献3】国際公開第2015/079558号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1〜3によると、耐熱性の他に常温靭性及び延性に優れたNb基耐熱合金を提供できるとされており、該Nb基耐熱合金(Nb-Si系合金)は、Ni基超合金の代替え材料の大変有望な候補の一つと考えられる。ただし、Nb-Si系合金は、比較的新しい材料群であることから、より望ましい特性(例えば、より高い高温強度)のための化学組成や微細組織や製造プロセスに関しては、現在も試行錯誤の段階である。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑み、従来以上に優れた特性を有するNb-Si系合金製造物、該製造物の製造方法、および該製造物を用いた熱機関を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(I)本発明の一態様は、Nb-Si(ニオブ−ケイ素)系合金からなる製造物であって、
前記Nb-Si系合金は、
13原子%以上23原子%以下のSiと、
2原子%以上10原子%以下のCr(クロム)と、
2原子%以上23原子%以下のTi(チタン)と、
1原子%以上7原子%以下のHf(ハフニウム)と、
3原子%以上8原子%以下のMo(モリブデン)と、
0.5原子%以上3原子%以下のW(タングステン)と、
0.2原子%以上5原子%以下のB(ホウ素)と、
0.1原子%以上15原子%以下のRe(レニウム)と、
1原子%以下のC(炭素)と、
1原子%以下のN(窒素)とを含有し、
残部がNbと不可避不純物とからなり、
前記製造物の微細組織は
、連続相
がNb基固溶相で分散
相がケイ化ニオブ相からなる二相組織を有し、
前記Nb基固溶相および前記ケイ化ニオブ相は、等価面積円に換算したときに5μm以下の平均結晶粒径を有し、前記Nb基固溶相の占有率が55
面積%以上で、前記ケイ化ニオブ相の占有率が40
面積%以上であり、
前記製造物は、1200℃で180 MPaの応力を掛けたときのひずみ速度が1×10
-7 s
-1未満である機械的特性を有することを特徴とするNb-Si系合金製造物を提供するものである。
【0012】
本発明は、上記の本発明に係るNb-Si系合金製造物(I)において、以下のような改良や変更を加えることができる。
(i)前記ケイ化ニオブ相は、Nb
5Si
3相を主相とする。
(ii)前記製造物は、タービン用高温部材である。
(iii)前記タービン用高温部材は、タービン翼である
。
【0013】
(II)本発明の他の一態様は、上記の本発明に係るNb-Si系合金製造物の製造方法であって、
前記Nb-Si系合金の原料を混合・溶解して溶湯を形成する原料混合溶解工程と、
前記溶湯から急冷凝固合金粉末を形成する溶湯−粉末化工程と、
前記急冷凝固合金粉末を用いて所望形状の合金成形体を造形する合金成形体造形工程と、
前記合金成形体に対して1200℃以上1600℃以下の熱処理を施して微細組織の制御を行う時効処理工程と、
を有することを特徴とするNb-Si系合金製造物の製造方法を提供するものである。
【0014】
(III)本発明のさらに他の一態様は、タービンを有する熱機関であって、
前記タービンの高温部材が、上記の本発明に係るNb-Si系合金製造物であることを特徴とする熱機関を提供するものである。
【0015】
本発明は、上記の本発明に係る熱機関(III)において、以下のような改良や変更を加えることができる。
(v)前記タービンは、ガスタービンである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、従来以上に優れた特性を有するNb-Si系合金製造物、該製造物の製造方法、および該製造物を用いた熱機関を提供することができる。また、該熱機関は、本発明に係るNb-Si系合金製造物を用いることで主流体温度の高温化が可能になるため、更なる高効率化に貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係るNb-Si系合金製造物の製造方法の一例を示す工程図である。
【
図2】本発明に係るNb-Si系合金製造物の表面の微細組織例を示す電子顕微鏡観察像である。
【
図3】本発明に係るタービン用高温部材としてのタービン動翼の一例を示す斜視模式図である。
【
図4】本発明に係る熱機関としてのガスタービンの一例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(本発明の基本思想)
本発明者は、主流体温度1200℃級(1200〜1300℃)のタービンにおいても無冷却で耐えられる高温部材(例えば、タービン翼)を目指して、従来以上に優れた特性を有するNb-Si系合金製造物、および該製造物の製造方法について鋭意研究を行った。その結果、主成分(Nb、Si)以外の添加成分の組成調整と微細組織制御とを行うことにより、従来よりも良好な高温クリープ特性を達成できることを見出した。
【0019】
また、製造物の製造方法としては、溶湯から合金粉末を形成する溶湯−粉末化工程と、該合金粉末を用いて所望形状の合金成形体を造形する合金成形体造形工程と、該合金成形体に対して所定の熱処理を施して微細組織の制御を行う時効処理工程との組み合わせが好ましいことを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものである。
【0020】
以下、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明は、ここで取り挙げた実施形態に限定されるものではなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で、公知技術と適宜組み合わせたり公知技術に基づいて改良したりすることが可能である。
【0021】
[本発明のNb-Si系合金の化学組成]
本発明で用いるNb-Si系合金は、靱性・延性の高いNb基固溶相が連続相を構成し、高い高温強度に寄与するケイ化ニオブ相が分散相を構成する二相組織となるような化学組成を有する。以下、当該Nb-Si系合金の組成(各成分)について説明する。
【0022】
(Si成分:13原子%以上23原子%以下)
Si成分は、本発明のNb-Si系合金においてケイ化ニオブ相を形成する主要成分である。Nb-Si二元合金は、Si含有率17.5原子%付近に共晶点がある。相平衡状態図から、Si含有率18.7原子%付近まではNb基固溶相が連続相になり易いと考えられ、それを超えるとケイ化ニオブ相が連続相になり易いと考えられる。
【0023】
本発明の合金製造物は、高い靱性と高い高温強度との両立を目指すものであることから、Nb基固溶相が連続相となり、かつケイ化ニオブ相ができるだけ多く分散晶出していることが好ましいと考えられる。この観点から、本発明のNb-Si系合金は、共晶点近傍の組成が好ましい。ただし、本発明のNb-Si系合金は多元系合金であることから、他成分とのバランスにより共晶点の組成が変化する。
【0024】
本発明者による熱力学計算の結果、本発明のNb-Si系合金におけるSi含有率は、13原子%以上23原子%以下が好ましい。Si含有率が13原子%未満であると、ケイ化ニオブ相(高温強化相)の晶出量が不十分になり、高温強度が不十分になる。一方、Si含有率が23原子%超になると、ケイ化ニオブ相が連続相になり、靭性が不十分になる(脆性を示すようになる)。Si含有率は、14原子%以上20原子%以下がより好ましく、15原子%以上18原子%以下が更に好ましい。
【0025】
(Cr成分:2原子%以上10原子%以下)
Cr成分は、主としてNb基固溶相を構成する成分であり、Nb基固溶相の連続相化に寄与する成分(すなわち、靱性に寄与する成分)である。該作用効果を得るためには、2原子%以上が必要である。一方、Cr含有率が10原子%超になると、脆化相であるラーベス相が析出し易くなって靱性が低下する。Cr含有率は、5原子%以上9.5原子%以下がより好ましく、6原子%以上9原子%以下が更に好ましい。
【0026】
なお、本発明において、「主としてNb基固溶相を構成する成分」という表現は、該成分がケイ化ニオブ相中に固溶することを否定するものではない。
【0027】
(Ti成分:2原子%以上23原子%以下)
Ti成分は、主としてNb基固溶相を構成する成分であり、Nb基固溶相の靱性向上に寄与する成分である。該作用効果を得るためには、2原子%以上が必要である。一方、Ti含有率が23原子%超になると、Si成分と化合して望ましくないシリサイド相(例えば、TiSi
3、Ti
5Si
3)が析出し易くなって靱性および高温強度が低下する。Ti含有率は、2.5原子%以上22原子%以下がより好ましく、3原子%以上20原子%以下が更に好ましい。
【0028】
(Hf成分:1原子%以上7原子%以下)
Hf成分は、Nb基固溶相へのTi成分の固溶を安定化する成分である。該作用効果を得るためには、1原子%以上が必要である。一方、Hf含有率が7原子%超になると、Si成分と化合して望ましくないシリサイド相(例えば、HfSi
2)が析出し易くなって靱性および高温強度が低下する。Hf含有率は、2原子%以上5.5原子%以下がより好ましく、2.5原子%以上5原子%以下が更に好ましい。
【0029】
(Mo成分:3原子%以上8原子%以下)
Mo成分は、主としてNb基固溶相を構成する成分であり、Nb基固溶相の高温強度向上に寄与する(固溶強化する)成分である。該作用効果を得るためには、3原子%以上が必要である。一方、Mo含有率が8原子%超になると、Si成分と化合して望ましくないシリサイド相が析出し易くなって靱性が低下する。Mo含有率は、3.2原子%以上7.5原子%以下がより好ましく、3.5原子%以上7原子%以下が更に好ましい。
【0030】
(W成分:0.5原子%以上3原子%以下)
W成分は、上記のMo成分と同様に、主としてNb基固溶相を構成する成分であり、Nb基固溶相の高温強度向上に寄与する(固溶強化する)成分である。該作用効果を得るためには、0.5原子%以上が必要である。一方、W含有率が3原子%超になると、Si成分と化合して望ましくないシリサイド相が析出し易くなって靱性が低下する。W含有率は、0.6原子%以上2.5原子%以下がより好ましく、0.8原子%以上2原子%以下が更に好ましい。
【0031】
(B成分:0.2原子%以上5原子%以下)
B成分は、本発明のNb-Si系合金の靱性向上や耐酸化性向上に寄与する成分である。そのメカニズムについては、現段階で解明できていないが、B成分がNb基固溶相結晶とケイ化ニオブ相結晶との粒界面強度(粒界面の結合性)を向上させている可能性や、酸素原子の浸入を抑制している可能性が考えられる。該作用効果を得るためには、0.2原子%以上が必要である。一方、B含有率が5原子%超になると、靱性が低下する。B含有率は、0.25原子%以上4原子%以下がより好ましく、0.3原子%以上3原子%以下が更に好ましい。
【0032】
(Re:0.1質量%以上15質量%以下)
Re成分は、主としてNb基固溶相を構成する成分であり、Nb基固溶相の固溶強化や耐食酸化性向上に寄与する成分である。該作用効果を得るためには、0.1原子%以上が必要である。一方、Reは高価な金属であるため、Re含有率が15原子%超になると、作用効果に比してコスト増大が著しい(商業的に許容困難になる)。Re含有率は、0.2原子%以上10原子%以下がより好ましく、0.3原子%以上5原子%以下が更に好ましい。
【0033】
(その他の微量成分)
本発明のNb-Si系合金は、その他の微量成分として、C(炭素)成分およびN(窒素)成分をそれぞれ1原子%以下で含有してもよい。C成分は、高温での粒界移動を抑制する(結晶粒径の維持を補助する)成分である。N成分は、ケイ化ニオブ相の安定化を補助する成分である。これら成分の含有率が1原子%超になると、脆性の炭化物粒子や窒化物粒子が大きく析出し易くなって靱性が低下する要因になる。一方、これら成分を含まない場合、各成分による作用効果が得られないだけである。
【0034】
(残部成分)
本発明のNb-Si系合金は、残部成分がNbおよび不可避不純物からなる。Nb基固溶相が連続相となるためには、Nb成分が最大含有率の成分である必要がある。一方、不可避不純物とは、混入を避けることが極めて困難であるが含有率をできるだけ少なくしたい不純物を意味する成分であり、例えば、P(リン)、S(硫黄)、O(酸素)が挙げられる。
【0035】
[本発明のNb-Si系合金製造物の製造方法]
次に、本発明に係るNb-Si系合金製造物の製造方法について説明する。
図1は、本発明に係るNb-Si系合金製造物の製造方法の一例を示す工程図である。
【0036】
図1に示したように、まず、所望の組成となるようにNb-Si系合金の原料を混合・溶解して溶湯10を形成する原料混合溶解工程(ステップ1:S1)を行う。溶解方法に特段の限定はなく、高耐熱合金に対する従前の方法(例えば、誘導溶解法、電子ビーム溶解法、プラズマアーク溶解法)を好適に利用できる。
【0037】
なお、合金中の不純物成分(P、SおよびO)の含有率をより低減する(合金の清浄度を高める)ため、原料混合溶解工程S1において、溶湯10を形成した後に一旦凝固させて原料合金塊を形成し、その後、該原料合金塊を再溶解して清浄化溶湯を形成することは好ましい。合金の清浄度を高められる限り再溶解方法に特段の限定はないが、例えば、真空アーク再溶解(VAR)法を好ましく利用できる。
【0038】
次に、溶湯10(または清浄化溶湯)からNb-Si系合金の急冷凝固合金粉末20を形成する溶湯−粉末化工程(ステップ2:S2)を行う。高清浄・均質組成が得られる限り溶湯−粉末化方法に特段の限定はなく、従前の合金粉末製造方法(例えば、アトマイズ法、メルトスピニング法、回転電極法)を好ましく利用できる。
【0039】
なお、本工程で得られる急冷凝固合金粉末20は、次工程で合金成形体を造形するための原料素材となることに加えて、高耐熱性の溶接材料や被覆材料としても利用することができる
。
【0040】
溶湯−粉末化工程S2の後に、急冷凝固合金粉末20を用いて所望形状の合金成形体30を造形する合金成形体造形工程(ステップ3:S3)を行う。所望形状に造形できる限り合金成形体造形方法に特段の限定はなく、粉末を用いた従前の成形体造形方法(例えば、熱間静水圧プレス法、粉末積層造形法)を好ましく利用できる。なお、粉末積層造形法における局所溶融・急冷凝固方法にも特段の限定はなく、従前の方法(例えば、電子ビーム溶融法、選択的レーザ溶融法)を好ましく利用できる。
【0041】
次に、合金成形体30に対して1200℃以上1600℃以下の熱処理を施して微細組織の制御を行う時効処理工程(ステップ4:S4)を行う。時効処理工程S4は、非酸化性雰囲気(合金の酸化が実質的に生じない雰囲気、例えば、不活性ガスや真空)中で行うことが好ましい。
【0042】
急冷凝固合金粉末20を用いて造形した合金成形体30は、その微細組織が急冷凝固組織となるが、多元系合金における急冷凝固組織では、析出相の比率が組成本来の平衡比率からずれることがしばしば起こる。時効処理工程S4を行うことによって、析出相の比率を調整することができる。
【0043】
さらに、本時効処理の温度は、本Nb-Si系合金の融点(この場合、液相線温度)よりも十分に低いことから、過冷度が大きくなるため析出のための核生成頻度が高くなる。その結果、各相の結晶粒径が非常に小さく複雑に入り乱れたような微細組織が得られる。
【0044】
最後に、時効処理を施した合金成形体に対して仕上げ加工を施して所望の高温部材を形成する仕上げ工程(ステップ5:S5)を行う。仕上げ加工に特段の限定はなく、従前の仕上げ加工(例えば、表面仕上げ)を行えばよい。
【0045】
前述したように、本発明は、従来よりも高い主流体温度で利用できる高温部材を目指すものである。そして、本発明で用いるNb-Si系合金は、融点が非常に高いことから(例えば1800℃以上)、複雑形状を有する高温部材(例えば、タービン翼)を従来技術のような鋳造法で製造しようとすると、鋳造欠陥の多発や形状制御性の低下(すなわち、製造歩留まりの低下)を招き易く、結果として高コスト化し易いという問題がある。
【0046】
このような問題に対し、本発明では、上述したように、溶湯−粉末化工程S2と合金成形体造形工程S3と時効処理工程S4とを組み合わせることによって、複雑形状を有する高温部材であっても高い製造歩留まりで製造することが可能になる。言い換えると、本発明の製造方法は、本発明のNb-Si系合金製造物を低コストで提供できる利点がある。
【0047】
[本発明のNb-Si系合金製造物]
(微細組織)
本発明に係るNb-Si系合金製造物の微細組織(金属組織)について説明する。
【0048】
図2は、本発明に係るNb-Si系合金製造物の表面の微細組織例を示す電子顕微鏡観察像である。
図2に示したように、本発明に係るNb-Si系合金製造物は、淡色のNb基固溶相と濃色のケイ化ニオブ相とが互いに分散混合した二相組織を有しており、Nb基固溶相が連続相(マトリックス)でケイ化ニオブ相が分散相になっていることが確認される。
【0049】
本発明のNb-Si系合金製造物の微細組織は、急冷凝固組織をベースとしており、各相の結晶粒径が非常に小さく(例えば、等価面積円に換算したときの平均結晶粒径が5μm以下)で、かつラメラ組織やデンドライト組織の名残のような組織が見られる。
【0050】
該試料に対して、後方散乱電子回折像(EBSP)解析を行ったところ、Nb基固溶相の占有率が55%以上であり、ケイ化ニオブ相の占有率が40%以上であることが確認された。また、ケイ化ニオブ相は、Nb
5Si
3相を主相としていることが確認された。一方、望ましくない副析出相(例えば、ラーベス相や、ケイ化ニオブ相以外のシリサイド相などの析出相)の占有率は、5%以下であることが確認された。
【0051】
本発明のNb-Si系合金製造物は、靱性・延性の高いNb基固溶相が連続相を構成し、高い高温強度に寄与するケイ化ニオブ相が分散相を構成する二相組織を有し、かつ急冷凝固組織をベースとすることから、各相の結晶粒径が小さく、各相のスペーシングも非常に小さい。その結果、本Nb-Si系合金製造物は、優れた靱性と高い高温強度とを同時に達成することができ、タービン用高温部材として好適に利用できる。
【0052】
(高温部材)
図3は、本発明に係るタービン用高温部材としてのタービン動翼の一例を示す斜視模式図である。
図3に示したように、タービン動翼100は、概略的に、翼部110とシャンク部120とルート部(ダブティル部とも言う)130とから構成される。シャンク部120は、プラットホーム121とラジアルフィン122とを備えている。ガスタービンの場合、通常、タービン動翼100の大きさ(図中縦方向の長さ)は10〜100 cm程度、重量は1〜10 kg程度である。
【0053】
ガスタービン動翼は、高温での回転遠心力および起動・停止に伴う熱応力が繰り返し加わる厳しい環境に曝されるため、材料特性として、優れた高温強度が要求される。従来のガスタービン動翼は、素材の高温強度(言い換えると、耐用温度)の観点から、内部に複雑な冷却構造を形成する必要があり、ガスタービン全体としての熱効率を損なっていた。
【0054】
これに対し、本発明のタービン用高温部材は、従来よりも高温特性に優れることから、主流体温度を高温化したり、内部の冷却構造を省略または簡略化したりすることができる。これらは、ガスタービン全体としての熱効率の向上に貢献する。
【0055】
[本発明の熱機関]
図4は、本発明に係る熱機関としてのガスタービンの一例を示す断面模式図である。
図4に示したように、ガスタービン200は、概略的に、吸気を圧縮する圧縮機部210と燃料の燃焼ガスをタービン翼に吹き付けて回転動力を得るタービン部220とから構成される。本発明のタービン用高温部材は、タービン部220内のタービンノズル221やタービン動翼100として好適に用いることができる。当然のことながら、本発明に係る熱機関は、ガスタービンに限定されるものではなく、他の高温熱機関であってもよい。
【0056】
前述したように、本発明のタービン用高温部材は、従来よりも高温特性に優れることから、主流体温度を高温化したり、内部の冷却構造を省略/簡略化したりすることができ、ガスタービン全体としての熱効率の向上に貢献する。また、高温部材に対する冷却機構の省略・簡略化は、ガスタービンの出力を同じとした場合に、ガスタービンの小型化に貢献し、ガスタービンのサイズを同じとした場合に、ガスタービンの高出力化に貢献するという利点もある。
【0057】
なお、ガスタービンの運転温度(主流体温度)を同じとした場合は、当該高温部材の寿命を延ばすことができるという利点もある。
【実施例】
【0058】
以下、実施例および比較例を用いて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0059】
(実施例1および比較例1〜2の合金製造物の作製)
図1の製造方法に沿って、表1に示す名目化学組成を有する合金製造物(実施例1および比較例1〜2)を作製した。合金製造物の作製にあたり、急冷凝固合金粉末は、ガスアトマイズ法により用意し、合金成形体は、粉末積層造形法により造形した円柱体(直径10 mm×高さ20 mm)とした。また、時効処理の条件は、アルゴン雰囲気中、1200〜1600℃で2〜10時間保持とした。
【0060】
(比較例3の合金製造物の作製)
比較例3の合金製造物では、合金成形体造形工程S3の代わりに、急冷凝固合金粉末を再溶融させて従来の一方向凝固法により合金鋳造体を形成した。得られた合金鋳造体に対して、試料の高さ方向が凝固方向となるように円柱体を削り出して試料とした。時効処理工程S4は、行わなかった。
【0061】
【表1】
【0062】
(高温強度試験)
各試料の高温強度を評価するため、高温圧縮試験を行ってクリープひずみ速度を測定した。試験条件は、温度を1200℃とし、付加応力を70〜180 MPaとした。ひずみ速度が1×10
-7 s
-1未満(すなわち、10
-8 s
-1オーダ以下)を合格と判定し、1×10
-7 s
-1以上を不合格と判定した。結果を表2に示す。
【0063】
【表2】
【0064】
表2に示したように、比較例1〜2は、付加応力140〜180 MPaにおいて、ひずみ速度が1×10
-7 s
-1以上であり、不合格と判定された。一方向凝固法により作製した比較例3は、付加応力70 MPaにおいても、ひずみ速度が1×10
-7 s
-1以上であり、不合格と判定された。
【0065】
これらに対し、本発明の実施例1は、付加応力180 MPaにおいて、ひずみ速度が1×10
-7 s
-1未満(10
-8 s
-1オーダ)であり、合格と判定された。すなわち、本発明に係る合金製造物は、より望ましい機械的特性(少なくとも、より高い高温強度)を有していることが確認された。
【0066】
上述した実施形態や実施例は、本発明の理解を助けるために説明したものであり、本発明は、記載した具体的な構成のみに限定されるものではない。例えば、実施形態の構成の一部を当業者の技術常識の構成で置き換えることが可能であり、また、実施形態の構成に当業者の技術常識の構成を加えることも可能である。すなわち、本発明は、本明細書の実施形態や実施例の構成の一部について、削除・他の構成に置換・他の構成の追加をすることが可能である。
【符号の説明】
【0067】
10…溶湯、20…急冷凝固合金粉末、30…合金成形体、100…タービン動翼、110…翼部、120…シャンク部、121…プラットホーム、122…ラジアルフィン、130…ルート部、200…ガスタービン、210…圧縮機部、220…タービン部、221…タービンノズル。