特許第6824062号(P6824062)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6824062
(24)【登録日】2021年1月14日
(45)【発行日】2021年2月3日
(54)【発明の名称】イオン化法選択支援装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20210121BHJP
【FI】
   G01N27/62 B
【請求項の数】13
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-24640(P2017-24640)
(22)【出願日】2017年2月14日
(65)【公開番号】特開2018-132347(P2018-132347A)
(43)【公開日】2018年8月23日
【審査請求日】2019年10月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡 和子
(72)【発明者】
【氏名】岩渕 晴男
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 貴弥
【審査官】 伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−073848(JP,A)
【文献】 特開平09−005300(JP,A)
【文献】 特表2005−528746(JP,A)
【文献】 特表2013−541022(JP,A)
【文献】 特開2005−172825(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0153341(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/62
H01J 49/00−49/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量分析の対象となった化合物である試料について水溶性の程度を示す係数を試料の係数として特定する手段であって、前記試料になり得る複数の化合物に対応する複数のレコードを含むデータベースを検索し、検索により特定されたレコードに含まれる情報に基づいて前記試料の係数を特定する特定手段と、
前記水溶性の程度を示す係数の大小を表す係数軸と、複数のイオン化法に対応した複数の方法インジケータと、前記試料の係数を表す表示要素としての試料マーカーと、を含むイオン化法選択支援像を生成する生成手段と、
を含み、
前記イオン化法選択支援像において、
前記係数軸上における前記試料の係数に対応する座標に前記試料マーカーが表示され、
前記各方法インジケータが前記係数軸上の座標又は座標範囲に対応付けられ、
前記試料マーカーと前記各方法インジケータの位置的関係が前記試料と前記各イオン化法の適合関係を表す、
ことを特徴とするイオン化法選択支援装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置において、
前記水溶性の程度を示す係数は分配係数である、
ことを特徴とするイオン化法選択支援装置。
【請求項3】
請求項1記載の装置において、
前記特定手段は、入力された化合物特定情報に基づいて前記試料に対応するレコードを特定する、
ことを特徴とするイオン化法選択支援装置。
【請求項4】
請求項1記載の装置において、
前記特定手段は、前記試料が誘導体化されていない場合に前記試料の係数を特定する機能、及び、前記試料が誘導体化されている場合に前記試料の係数を特定する機能を有する、
ことを特徴とするイオン化法選択支援装置。
【請求項5】
請求項記載の装置において、
前記特定手段は、
前記データベースと、
前記試料の係数を特定するために前記データベースを検索する検索手段と、
を含み、
前記誘導体化が可能な化合物のレコードには誘導体化前の係数及び誘導体化後の係数を特定するための情報が含まれる、
ことを特徴とするイオン化法選択支援装置。
【請求項6】
請求項5記載の装置において、
前記誘導体化が可能な化合物のレコードには、前記誘導体化前の係数と、前記誘導体化前の係数から前記誘導体化後の係数を求めるための補正値と、が含まれ、
前記特定手段は、前記誘導体化前の係数を前記補正値で補正することにより前記誘導体化後の係数を前記試料の係数として演算する補正手段を含む、
ことを特徴とするイオン化法選択支援装置。
【請求項7】
請求項5記載の装置において、
前記誘導体化が可能な化合物のレコードには、前記誘導体化前の係数と、前記誘導体化後の係数と、が含まれる、
ことを特徴とするイオン化法選択支援装置。
【請求項8】
請求項5記載の装置において、
前記誘導体化が可能な化合物のレコードには、前記誘導体化前の係数と、官能基情報と、が含まれ、
前記特定手段は、前記誘導体化前の係数を前記官能基情報に基づく補正値で補正することにより前記誘導体化後の係数を前記試料の係数として演算する補正手段を含む、
ことを特徴とするイオン化法選択支援装置。
【請求項9】
請求項5記載の装置において、
前記各レコードには、化合物名、組成式、構造及び精密質量の内の少なくとも1つが含まれる、
ことを特徴とするイオン化法選択支援装置。
【請求項10】
請求項1記載の装置において、
前記イオン化法選択支援像は、前記係数軸としての第1軸と、前記第1軸に直交する軸であって他の物性を表す第2軸と、を有し、
前記試料マーカーは前記第1軸における前記試料の係数に対応する座標及び前記第2軸における前記試料についての他の物性に対応する座標に従った位置に表示される、
ことを特徴とするイオン化法選択支援装置。
【請求項11】
請求項1記載のイオン化法選択支援装置を含む質量分析装置。
【請求項12】
質量分析の対象となった化合物である試料について分配係数を特定する工程であって、前記試料になり得る複数の化合物に対応する複数のレコードを有するデータベースを検索し、検索により特定されたレコードに含まれる情報に基づいて前記試料の分配係数を特定する工程と、
前記試料の分配係数に基づいて、前記試料に適する1又は複数のイオン化法をユーザーに認識させるためのイオン化法選択支援情報を生成する工程と、
前記イオン化法選択支援情報を表示する工程と、
を含み、
前記イオン化法選択支援情報は、分配係数の大小を表す係数軸と、複数のイオン化法に対応した複数の方法インジケータと、前記試料の分配係数を表す表示要素としての試料マーカーと、を含み、
前記係数軸上における前記試料の分配係数に対応する座標に前記試料マーカーが表示され、
前記各方法インジケータが前記係数軸上の座標又は座標範囲に対応付けられ、
前記試料マーカーと前記各方法インジケータの位置的関係が前記試料と前記各イオン化法の適合関係を表す、
ことを特徴とするイオン化法選択支援方法。
【請求項13】
情報処理装置においてイオン化法選択支援方法を実行するためのプログラムであって、
前記イオン化法選択支援方法が、
質量分析の対象となった化合物である試料について分配係数を特定する工程であって、前記試料になり得る複数の化合物に対応する複数のレコードを有するデータベースを検索し、検索により特定されたレコードに含まれる情報に基づいて前記分配係数を特定する工程と、
前記試料の分配係数に基づいて、前記試料に適する1又は複数のイオン化法をユーザーに認識させるためのイオン化法選択支援情報を生成する工程と、
前記イオン化法選択支援情報を表示する工程と、
を含み、
前記イオン化法選択支援情報は、分配係数の大小を表す係数軸と、複数のイオン化法に対応した複数の方法インジケータと、前記試料の分配係数を表す表示要素としての試料マーカーと、を含み、
前記係数軸上における前記試料の分配係数に対応する座標に前記試料マーカーが表示され、
前記各方法インジケータが前記係数軸上の座標又は座標範囲に対応付けられ、
前記試料マーカーと前記各方法インジケータの位置的関係が前記試料と前記各イオン化法の適合関係を表す、
ことを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はイオン化法選択支援装置及び方法に関し、特に、質量分析においてイオン化法の選択を支援する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機化合物等の試料の質量分析に際して質量分析装置が利用される。質量分析装置は、一般に、イオン源、質量分析部、データ処理部等により構成される。その内で、質量分析部は、電場や磁場を利用し、個々のイオンが有するm/z(mはイオンの質量、zは電荷量)に応じて、個々のイオンを分離又は抽出するものである。データ処理部は、質量分析部での検出結果に基づいて、マススペクトルを生成するものである。質量分析の方式として、飛行時間型、四重極型、二重収束型、イオントラップ型、イオンサイクロトロン型等が知られている。
【0003】
上記のイオン源は試料をイオン化するものである。イオン化法として、電子イオン化法(Electron Ionization:EI)、化学イオン化法(Chemical Ionization:CI)、大気圧化学イオン化法(Atmospheric Pressure Chemical Ionization:APCI)、エレクトロスプレーイオン化法(Electro Spray Ionization:ESI)、等が知られている。
【0004】
近時、リアルタイム直接分析法(Direct Analysis in Real Time:DART)が広く活用されている。DARTは、例えば、コロナ放電によりヘリウムガス等からプラズマを生成し、その中から励起状態にある中性気体分子を取り出し、それを試料に照射して試料の正イオン又は負イオンを生成するものである(例えば特許文献1参照)。DARTは大気圧イオン化法の一種であり、身近な周辺環境にある様々な物質を前処理なしに簡便に分析できることから、アンビエント(ambient)分析法の一種と位置付けられる。
【0005】
なお、上述したEI、ESI、APCI等のイオン化法は、ガスクロマトグラフィー装置又は液体クロマトグラフィー装置等を質量分析計に接続する場合に、そのインターフェイスとしても利用される。
【0006】
すべての物質に適合するイオン化法は存在せず、ユーザーにおいて、試料に応じてイオン化法を選択する必要がある。すなわち、高感度で質量分析を行うためには、試料たる物質に適合する適切なイオン化法を選択しなければならない。例えば、ESIは、一般に、低極性(low polarity)をもつ物質には適しないことが知られており、EIやAPCIは、一般に、高極性(high polarity)をもつ物質や熱的に不安定な物質には適しないことが知られている。DARTは、比較的に広い極性範囲に適することが知られているが、その上限下限について明確に特定することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014−215078号公報
【特許文献2】特開平9−5300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
イオン化法の選択に際して参考になる図として、複数のイオン化法を二次元座標上にマッピングした図が知られている。具体的に説明すると、その図は、極性の大小を示す横軸と、分子量の大小を示す縦軸とを有する。それらの軸によって定義される平面上にイオン化法ごとにそれが適合する大まかな範囲が図形として描かれている。一般に、分子等において電荷が偏ることが極性と表現されているが、それについての正確な定義は確立されていない。
【0009】
極性というものは、一般に、曖昧な物性あるいは数値化困難な物性である。何らかの方法でその数値化が可能であっても、多くの物質について客観性ある数値を取得することは困難である。特に、質量分析に関する知識や経験の乏しいユーザーにとって、上記の図だけから、現在分析対象となっている試料に適するイオン化法を判断することは難しい。
【0010】
特許文献2には、化合物カテゴリーごとに制御条件を対応付けたデータベースを有する液体クロマトグラフ質量分析装置が開示されている。ユーザーが化合物カテゴリーを指定すると、それに適合する制御条件が自動的に特定及び設定されている。その制御条件にはイオン化法も含まれている。しかし、特許文献2に記載された装置は、指定された化合物と個々のイオン化法との相性又は適合関係を直感的に認識できる情報を提供するものではない。
【0011】
本発明の目的は、質量分析において、ユーザーによるイオン化法の選択を支援することにある。あるいは、本発明の目的は、数値化容易な客観的物性に基づいてイオン化法を選択できるようにすることにある。あるいは、試料と複数のイオン化法の相関関係、特に適合関係を直感的に認識できる視覚的情報をユーザーに提供できるようにすることにある。あるいは、本発明の目的は、誘導体化の要否、最適な誘導体化の種別等を判断するための情報をユーザーに提供することにある。あるいは、化合物を具体的に特定できないような場合においてもイオン化法の選択を支援することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るイオン化法選択支援装置は、質量分析の対象となった試料について水溶性の程度を示す係数を特定する特定手段と、複数のイオン化方法が対応付けられた係数軸と前記係数を表す試料マーカーとを含むイオン化法選択支援像を生成する生成手段と、を含むことを特徴とするものである。
【0013】
上記構成によれば、質量分析の対象となった試料についての物性として、水溶性(換言すれば親水性、疎水性又は脂溶性)の程度を示す係数が特定され、その係数に基づいてイオン化法選択支援像が生成される。イオン化法選択支援像は、係数の大小を示す係数軸と、試料について特定された係数を表す試料マーカーと、を有する。係数軸には複数のイオン化法が対応付けられている。すなわち、係数軸上において、各イオン化法が対応する係数(座標)又は係数範囲(座標範囲)を視覚的に認識できるように、イオン化法選択支援像が構成されている。よって、係数軸上における試料マーカーの表示位置(表示座標)を参照することにより、試料と個々のイオン化法との適合関係を直感的に認識することが可能となる。イオン化法選択支援像が、厳密な適合関係ではなく、大まかな適合関係を表すものであったとしても、何らの支援情報を得られない場合に比べて、ユーザーの便宜を図れる。例えば、選択可能な複数のイオン化法を順次試行してみる場合において、その優先順位がイオン化法選択支援像の内容から決定されてもよい。
【0014】
上記の係数は、水溶性の程度を示すものであり、代表的にはLogP(又はLogD)として表現される分配係数である。水溶性の程度又は脂溶性の程度を示す他の係数が利用されてもよい。分配係数は客観的に測定できる係数であり、代表的な物質についての係数は既に特定されている。分配係数は物質の組成や構造から計算によって求めることも可能とされている。一般に、ESIについては水溶性の低い(脂溶性の高い)化合物には適しない傾向が認められ、EIについては水溶性の高い化合物には適しない傾向が認められる。DARTについては水溶性の低い化合物から水溶性の高い化合物まで適する傾向が認められる。よって、イオン化法を選択する基準として分配係数又はそれと同等の係数を用いることには一定の合理性がある。
【0015】
実施形態において、前記イオン化法選択支援像は、前記複数のイオン化法に対応した複数の方法インジケータを有し、前記各方法インジケータは前記係数軸上の座標又は座標範囲に対応付けられ、前記試料マーカーと前記各方法インジケータの位置的関係が前記試料と前記各イオン化法の適合関係を表す。個々の方法インジケータは、文字、文字列、記号、図形、その他の表示要素によって構成され得る。試料マーカーも同様である。試料マーカーは、係数軸上における特定の座標(又は特定の座標範囲)を示す表示要素として機能するものである。
【0016】
実施形態において、前記特定手段は、前記試料が誘導体化されていない場合に前記係数を特定する機能、及び、前記試料が誘導体化されている場合に前記係数を特定する機能を有する。この構成によれば、誘導体化を行わない場合(行えない場合も含む)及び誘導体化を行う場合のいずれの場合でも、試料について正しい係数を特定することが可能となる。試料としての化合物について、複数種類の誘導体化が可能である場合、個々の種類(あるいは個々の誘導体化試薬)ごとに正しい係数を求められるように、特定手段が構成される。
【0017】
実施形態において、前記特定手段は、前記試料になり得る複数の化合物に対応する複数のレコードを有するデータベースと、前記係数を特定するために前記データベースを検索する検索手段と、を含み、前記誘導体化が可能な化合物のレコードには誘導化前の係数及び誘導化後の係数を特定するための情報が含まれる。
【0018】
特定手段に際しては幾つかの構成例が考えられる。第1構成例においては、前記誘導体化が可能な化合物のレコードには、前記誘導体化前の係数と、前記誘導体化前の係数から前記誘導体化後の係数を求めるための補正値と、が含まれ、前記特定手段は、前記誘導体化前の係数を前記補正値で補正することにより前記誘導体化後の係数を演算する補正手段を含む。第2の構成例においては、前記誘導体化が可能な化合物のレコードには、前記誘導体化前の係数と、前記誘導体化後の係数と、が含まれる。第3構成例においては、前記誘導体化が可能な化合物のレコードには、前記誘導体化前の係数と、官能基情報と、が含まれ、前記特定手段は、前記誘導体化前の係数を前記官能基情報に基づく補正値で補正することにより前記誘導体化後の係数を演算する補正手段を含む。データベースにおける各レコードには、化合物名、組成式、構造及び精密質量の内の少なくとも1つが含まれる。
【0019】
実施形態において、前記イオン化法選択支援像は、前記係数軸としての第1軸と、前記第1軸に直交する軸であって他の物性を表す第2軸と、を有し、前記試料マーカーは前記第1軸における前記係数に対応する座標及び前記第2軸における前記試料についての他の物性に対応する座標に従った位置に表示される。
【0020】
本発明に係るイオン化法選択支援方法は、質量分析の対象となった試料について分配係数を特定する工程と、前記分配係数に基づいて、前記試料に適する1又は複数のイオン化法をユーザーに認識させるためのイオン化法選択支援情報を生成する工程と、前記イオン化法選択支援情報を表示する工程と、を含む、ことを特徴とするものである。
【0021】
様々なイオン化法が利用されており、例えば、水溶性の試料が適するイオン化法、脂溶性の試料が適するイオン化、水溶性の試料及び脂溶性の試料のいずれにも適するイオン化法、が利用されている。分配係数は水溶性(又は脂溶性)の程度を示す客観的物性であるから、分配係数に着目し、試料と各イオン化法との適合関係を評価することには一定の合理性が認められる。上記構成は、そのような理解の下で、試料の分配係数を特定し、その分配係数に基づいてイオン化法選択支援情報を生成し、それをユーザーに提供するものである。イオン化法選択支援情報としてイオン化法選択支援像を提供するのが望ましい。そのような像に代えて、試料に適合する可能性のある1又は複数のイオン化法をテキスト情報として表示してもよい。個々のイオン化法ごとに試料に対する適合度を数値で表現し、その数値を表示するようにしてもよい。
【0022】
上記イオン化法選択支援方法は望ましくはプログラムの機能として実現される。そのプログラムは、記憶媒体を介して情報処理装置へインストールされ、あるいは、ネットワークを介して情報処理装置へインストールされる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、質量分析において、ユーザーによるイオン化法の選択を支援できる。あるいは、本発明によれば、数値化容易な客観的物性に基づいてイオン化法を選択できる。あるいは、本発明によれば、試料と複数のイオン化法の関係、特に適合関係を直感的に認識できる視覚的情報をユーザーに提供できる。あるいは、本発明によれば、誘導体化の要否、最適な誘導体化の種別、等を判断するための情報をユーザーに提供できる。あるいは、本発明によれば、化合物を具体的に特定できないような場合においてもイオン化法の選択を支援できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明に係る質量分析システムの構成例を示す図である。
図2図1に示した質量分析システムの動作例を示す図である。
図3】イオン化法選択支援用データベースの第1例を示す図である。
図4】誘導体化後の分配係数を求める方法の第1例を示す図である。
図5】イオン化法選択支援用データベースの第2例を示す図である。
図6】誘導体化後の分配係数を求める方法の第2例を示す図である。
図7】イオン化法選択支援用データベースの第3例を示す図である。
図8】誘導体化後の分配係数を求める方法の第3例を示す図である。
図9】イオン化法選択支援像を含む表示画像の第1例を示す図である。
図10】イオン化法選択支援像を含む表示画像の第2例を示す図である。
図11】イオン化法選択支援像を含む表示画像の第3例を示す図である。
図12】イオン化法選択支援像を含む表示画像の第4例を示す図である。
図13】イオン化法選択支援像の第2実施例を示す図である。
図14】イオン化法選択支援像の第3実施例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0026】
図1の上段にはイオン化法選択支援装置17の構成が例示されている。図1の中段には複数種類のイオン源12A,12B,12Cが例示されている。図1の下段には質量分析装置10の構成が例示されている。イオン化法選択支援装置17に表示されたイオン化法選択支援像に基づいて、ユーザーにより、複数のイオン源12A,12B,12Cの中から、質量分析の対象になった試料に適するイオン源が選択され、それが試料の質量分析において利用される。イオン化法選択支援装置17が質量分析装置10の一部として構成されてもよい。その場合、以下に説明するデータ処理部16及びPC18が一体化されてもよい。
【0027】
質量分析装置10は、図示の構成例において、イオン源12、質量分析部14及びデータ処理部16を有する。イオン源12は試料11をイオン化するものである。試料11はここでは化合物である。既知の化合物及び未知の化合物のいずれも試料になり得る。複数のイオン源12A,12B,12Cの中から、上記のように、ユーザーにより選択されたイオン源が質量分析装置10におけるイオン源12として利用される。複数のイオン源12A,12B,12Cがユーザーにより決定された順序で順番に利用されてもよい。
【0028】
本実施形態において、イオン源12Aは、電子イオン化法(EI)に基づくイオン源であり、イオン源12Bはリアルタイム直接分析法(DART)に基づくイオン源であり、イオン源12Cはエレクトロスプレーイオン化法(ESI)に基づくイオン源である。それらはいずれも例示である。他の種類のイオン源が選択対象とされてもよい。イオン源12の前段にガスクロマトグラフィー装置や液体クロマトグラフィー装置が接続されてもよい。
【0029】
質量分析部14は、電場及び磁場の一方又は両方を利用し、個々のイオンが有するm/zに応じて、個々のイオンを分離又は抽出するものである。質量分析方法として、飛行時間型、四重極型、二重収束型、イオントラップ型、イオンサイクロトロン型等が知られている。それら以外の方法が利用されてもよい。データ処理部16は、質量分析部14での検出データに基づいてマススペクトルを生成する。
【0030】
次に、イオン化法選択支援装置17について説明する。イオン化法選択支援装置17は、情報処理装置としてのPC18、入力器26及び表示器28を有する。PC18は、検索部20、イオン化法選択支援用DB(Data Base)(以下、単にDBという。)22及び画像生成部24を有する。DB22は、PC18が有する記憶部上に構築され、それは試料になり得る複数の化合物に対応する複数のレコードにより構成されている。個々のレコードには化合物の分配係数が含まれる。具体的には、後に説明するように、各レコードには、少なくとも、誘導体化前(誘導体化を行えない場合を含む)の分配係数が含まれる。誘導体化を行える化合物に対応するレコードには、誘導体化前の分配係数と誘導体化後の分配係数とを特定するための情報が含まれる。ネットワーク上のサーバーにDBを構築し、複数のクライアントとしての複数のイオン化法選択支援装置においてDBを共用してもよい。
【0031】
検索部20は検索手段、特定手段及び補正手段として機能する。検索部20の実体はCPU上で実行されるソフトウエアであり、検索部20は、ユーザーにより入力された、化合物を特定する1又は複数の情報(化合物特定情報)に基づいて、分析対象となった化合物を特定した上で、その化合物の分配係数を特定するものである。画像生成部24は生成手段として機能する。画像生成部24の実体もCPU上で実行されるソフトウエアであり、画像生成部24によってイオン化法選択支援像が生成される。
【0032】
後述するように、イオン化法選択支援像は、分配係数の大小(同時に正負)を表す係数軸と、複数のイオン化法を表す複数の方法インジケータと、試料について特定された分配係数を表す試料マーカーと、が含まれる。個々の方法インジケータは、係数軸上の座標又は座標範囲に対応付けられており、係数軸上における試料マーカーと各方法インジケータとの位置的関係から、試料と各イオン化方法との適合関係を視覚的に認識することが可能である。
【0033】
分配係数は、オクタノール/水の組み合わせを前提とする分配係数であり、LogP(又はLogD)として表記されるものである。分配係数は、水溶性(親水性、疎水性又は脂溶性)の程度を示す係数である。分配係数は客観的な係数であり、代表的な物質についての分配係数は公示されている。また、分配係数は物質の組成や構造から計算によって求めることが可能であるとされている。一般に、ESIについては水溶性の低い(脂溶性の高い)化合物には適しない傾向が認められ、EIについては水溶性の高い化合物には適しない傾向が認められる。DARTについては水溶性の低い化合物から水溶性の高い化合物まで適する傾向が認められる。よって、イオン化法を選択する基準として、水溶性の程度(同時に脂溶性の程度)を示す分配係数を用いることには一定の合理性がある。DB22による分配係数の特定に代えて、化合物の組成や構造から分配係数を計算するようにしてもよい。あるいは、試料となった化合物についての分配係数をネットワークシステム上で検索、特定するようにしてもよい。分配係数の温度依存性を無視し得ない場合、DBには、所定温度での分配係数を登録するのが望ましい。あるいは、DB上に登録された各分配係数に対して温度依存性を補償する補正を適用してもよい。
【0034】
画像生成部24によって生成されたイオン化法選択支援像は表示画像の一部として表示器28の画面上に表示される。表示器28は例えばLCDによって構成される。入力器26は例えばキーボード及びポインティングデバイスによって構成される。検索時においては、入力器26を利用して化合物特定情報が入力される。図示された符号30は、表示されたイオン化法選択支援像に基づくイオン源のユーザー選択を示している。上述したように、PC18とデータ処理部16とを一体化してもよい。PC18に対して、記憶媒体又はネットワークを介して、イオン化法選択支援方法を実行するためのプログラムがインストールされ得る。
【0035】
図2は質量分析過程を示す流れ図である。そこにはイオン化法選択支援方法に相当する複数の工程が含まれる。S10では、ユーザーにより、質量分析の対象となった試料(化合物)について、1又は複数の化合物特定情報が入力される。入力された情報は検索条件を構成する。S12では、検索条件に基づいてDBが検索され、試料の分配係数が特定される。S14では、特定された分配係数に基づいてイオン化法選択支援像が生成され、それが表示される。S10からS14までがイオン化法選択支援方法あるいはイオン化法選択支援装置の動作に相当する。
【0036】
S20では、イオン化法選択支援像に基づいて、ユーザーにより、イオン化法つまりイオン源が選択される。複数のイオン源が順番に選択されてもよい。S22では、選択されたイオン源を含んで構成される質量分析装置を用いて、試料についての質量分析が実行され、これによりマススペクトルが観測される。
【0037】
図3には、イオン化法選択支援用DBの第1例が示されている。DBは質量分析対象になり得る複数の化合物に対応する複数のレコード32からなる。各レコード32には、化合物特定情報として、化合物名、組成式、構造、精密質量等が含まれている。また、各レコード32には、誘導体化無しの場合の分配係数(誘導体化前の分配係数)(符号34参照)、及び、誘導体化を行った場合の分配係数(誘導体化後の分配係数)を求めるための補正値(符号36参照)、が含まれている。補正値はプラス又はマイナスの符号を有している。
【0038】
誘導体化の種別として、メチル化(メチル誘導体化)、TMS(トリメチルシリル)化(TMS誘導体化)、アセチル化(アセチル誘導体化)、等があげられる。誘導体化に際しては誘導体化試薬が用いられる。例えば、OH基やCOOH基を有する化合物の場合、メチル化により+0.1〜+0.7程度、分配係数(LogP)が増加し、TMS化により+1.0〜+1.5程度、分配係数が増加し、アセチル化により+0.2程度、分配係数が増加すると考えられる。また、NH基を有する化合物(例えばアニリン)の場合、メチル化では分配係数があまり変化せずあるいは−0.05程度減少し、TMS化により+1.1程度、分配係数が増加し、アセチル化により分配係数が−0.2程度、減少する、と考えられる。個々の数値は例示である。誘導体化による変化分が補正値となり、変化の方向により補正値の符号が定まる。各レコード32において、補正値は、誘導体化が予定されている場合又は誘導体化を行える場合において登録され、そうでない場合には登録されない。
【0039】
図4には、図3に示したDBに基づいて誘導体化後の分配係数を演算する方法の第1例が示されている。検索条件38として、1又は複数の化合物特定情報が入力される。検索条件38を満たす化合物(つまりレコード)が特定された場合、その化合物に対応付けられている、誘導体化無しの場合の分配係数(誘導体化前の分配係数)40が特定される。一方、検索条件に誘導体化の種別が含まれている場合、当該化合物に対応付けられている補正値42が参照される。誘導体無しの場合の分配係数40に対して補正値42を加算することにより(符号44参照)、つまり、基礎となった分配係数を増加又は減少させることにより、表示値としての分配係数(誘導体化後の分配係数)が求められる。誘導体化を行わない場合には補正値による補正は行われず、誘導体化前の分配係数が表示値とされる。表示値をそのまま数値として表示することも可能であるが、本実施形態では、係数軸上における試料マーカーの表示座標として表示値が表現される。具体的な表現態様については図9以降の各図に基づいて後に説明する。図4に示したDBにおいては個々の化合物ごとに補正値が管理されていたが、複数の化合物に共有の数値として、補正値を管理するようにしてもよい。
【0040】
図5には、イオン化法選択支援用DBの第2例が示されている。上記第1例と同様に、DBは複数の化合物に対応した複数のレコード48からなる。各レコード48には、化合物識別情報として、化合物名、組成式、構造、精密質量等が含まれる。また、各レコード48には、誘導体化無しの場合の分配係数(誘導体化前の分配係数)、及び、誘導体化を行った場合の分配係数(誘導体化後の分配係数)、が含まれる(符号50参照)。この第2例では、補正値ではなく、誘導体化後の分配係数それ自体が管理されている。
【0041】
図6には、図5に示したDBに基づいて誘導体化後の分配係数を演算する方法(第2例)が示されている。検索条件52に基づいて質量分析の対象となった化合物が特定される。その化合物について図5に示したDBに基づいて分配係数54が特定される。その場合、誘導体化の有無及び種別に基づいて、誘導体化無しの場合の分配係数又は誘導体化後の分配係数のいずれかが特定される。誘導体化の有無及び種別も検索条件の内容をなすものである。
【0042】
図7には、イオン化法選択支援用DBの第3例が示されている。上記第1例及び第2例と同様に、DBは複数の化合物に対応した複数のレコード56からなる。各レコード56には、化合物識別情報として、化合物名、組成式、構造等が含まれる。また、各レコード56には、官能基情報が含まれている。更にレコード56には、誘導体化無しの場合の分配係数(誘導体化前の分配係数)が含まれる。官能基情報は、官能基の有無、官能基の種別、官能基の個数等を表す情報であり、後述するように補正値演算の基礎をなすものである。この第3例では、補正値及び誘導体化後の分配係数は管理されていない。もちろん、DB上において、補正値や誘導体化後の分配係数が管理されてもよい。
【0043】
図8には、図7に示したDBに基づいて誘導体化後の分配係数を演算する方法(第3例)が示されている。検索条件58に基づいて質量分析の対象となった化合物が特定される。その化合物について図7に示したDBに基づいて誘導体化無しの場合の分配係数60が特定される。一方、官能基情報62及び誘導体化の種別に基づいて補正値64が演算される。つまり、誘導体化を行った場合における分配係数の増加分又は減少分が補正値として演算される。補正値は、化合物が有する官能基の種類及びその数、誘導体化の種類等に基づいて演算される。補正演算66では、誘導体化無しの場合の分配係数に対して補正値64に基づく補正が実行され、これにより表示値としての分配係数(誘導体化後の分配係数)が求められる。
【0044】
以上説明した幾つかのDB構造及び幾つかの補正方法はいずれも例示である。様々な情報から分析対象となった化合物について分配係数が求められるようにDBを構成するのが望ましい。DB上に化合物ごとの精密質量を登録しておけば、今までの観測によって得られた質量(観測質量)から、化合物を特定することが可能となる。その場合に、複数の候補が特定されてもよい。
【0045】
次に、図9図14を用いて、イオン化法選択支援像及び表示画像について説明する。
【0046】
図9には、第1実施例に係るイオン化法選択支援像を含む表示画像の第1例が示されている。表示画像70はユーザーインタフェイスを構成し、それは検索条件欄70Aと検索結果欄70Bとを有する。検索条件欄70Aはユーザーにより検索条件を入力するための欄である。検索条件として、1又は複数の化合物特定情報が入力される。例えば、化合物名72が既知であれば、それが入力される。組成式74が既知であれば、それが入力される。それらの両方が入力されてもよい。検索ボタン76を操作(クリック)することにより、DBに対する検索が実行され、検索条件に該当する化合物及びその分配係数が自動的に特定される。
【0047】
検索結果欄70Bには、イオン化法選択支援像77と共に、必要に応じて、化合物情報が表示される。化合物情報は、DBにおけるレコードを構成する情報であり、具体的には、化合物名、組成式、構造、精密質量等である。
【0048】
イオン化法選択支援像77は、図示の第1例において、係数軸78、方法インジケータ部84、試料マーカー等が含まれる。イオン化法選択支援像77は、上段、中段及び下段からなり、係数軸78が中段に表示されており、方法インジケータ部84が上段に表示されており、インデックス部80が下段に表示されている。係数軸78は、分配係数の大小(及び正負)を表す座標軸として機能し、それは水平方向に伸長したグラフィック図形つまり表示要素である。図示の例では、係数軸78の両端に矢印が設けられているが、片端にのみ矢印が設けられてもよい。座標軸として機能する限りにおいて他の形態を採用してもよい。図示の例では、係数軸78の左側がプラス側であり、その右側がマイナス側である。それを表すために及び分配係数の目安を示すためにインデックス部が設けられている。それは図示の例において“+5”,“0”,“−5”といった数値を含んでいる。もちろん、それは例示である。インデックス部80は、その左端に“分配係数(LogP値)”というラベルとしての文字列が含まれる。
【0049】
方法インジケータ部84は、図示の例において、3つの表示要素としての3つの文字列により構成されている。具体的には、係数軸78の上に表示された、方法インジケータ84a(“EI”)、方法インジケータ84b(“DRAT”)、及び、方法インジケータ84c(“ESI”)により構成されている。それらはいずれもイオン化法を特定する識別子である。方法インジケータ84aは、図示の例において、係数軸78における左側つまりプラス側の端付近に表示されている。方法インジケータ84bは、図示の例において、係数軸78における中間位置に表示されている。方法インジケータ84cは、図示の例において、係数軸78における右側つまりマイナス側の端付近に表示されている。
【0050】
このような係数軸78上での複数の方法インジケータ84a,84b,84cの分散表示により、各イオン化法が適合する大凡の座標(分配係数)又はその範囲(分配係数範囲)をユーザーにおいて視覚的に認識することが可能である。すなわち、図示の表示形態によれば、おおまかな傾向として、“EI”は比較的大きな分配係数をもった試料に適すること、“ESI”はマイナス側に比較的大きな分配係数をもった試料に適するものであること、及び、“ DART”はプラス側からマイナス側までの広範な範囲内において様々な分配係数をもった試料に適すること、を認識できる。換言すれば、複数のイオン化法の相互関係を係数軸上において空間的に把握することが可能である。なお、係数軸78の左側には、係数軸の性質を表す“物性”という文字列が表示されており、係数軸78の右側には、物性の具体的内容を示すものとして“水溶性大”という文字列が表示されている。それは親水性大を意味する。係数軸78の左側に“脂溶性大”又は“疎水性大”といった文字列を表示するようにしてもよい。
【0051】
試料マーカー86は、試料の分配係数を表す表示要素である。図示の例では、試料マーカー86は三角形の図形によって構成されている。係数軸78上において試料の分配係数に相当する位置(座標)に試料マーカー86が表示されている。逆に言えば、試料マーカー86の位置から試料の分配係数が大凡どのくらいであるのかを把握できる。注目すべきことは、試料マーカーと3つの方法インジケータ84a,84b,84cとの位置的関係が試料と3つのイオン化法の適合関係を示すということである。試料マーカー86に近いイオン化法ほど、試料のイオン化に適している可能性が高いことを認識でき、試料マーカーから遠いイオン化法ほど、試料のイオン化に適していない可能性が高いことを認識できる。
【0052】
図9に示す例では、現在測定対象となっている試料については、一般的に見て、DARTが適しており、次にESIが適していること、同時に、EIはあまり適していないこと、を直観的に認識できる。もっとも、図9に示したイオン化法選択支援像の第1例では、各方法インジケータ84a,84b,84cが各イオン化法の適用範囲の上限下限を明示してはいないので、イオン化法選択支援像77から認識できる適合関係はおおまかなものである。そうであっても、イオン化法の選択に際して一定の客観的な基準に従う選択支援情報を提供できるので、ユーザーの便宜を図れる。特に、質量分析の経験のない又はその経験の浅いユーザーに対して、知識及び経験の不足を補える有益な情報を提供できる。
【0053】
係数軸78の態様として、単純な線、グラデーション等の他の態様を採用することも可能である。個々の方法インジケータ84a,84b,84cについても、イオン化法を識別できる限りにおいて、文字列に代わる表示形態を採用することが可能である。試料マーカー86の形態としては、測定の座標又は位置を表示できる他の形態に代えてもよい。係数軸78と、1又は複数の他の軸と、により定義される多次元座標系を採用することも可能である。
【0054】
図10には、イオン化法選択支援像を含む表示画像の第2例が示されている。表示画像88は検索条件欄88Aと検索結果欄88Bとを有する。検索条件欄88Aにおいて、ユーザーにより、化合物特定情報が入力され、また、誘導体化の有無及び種別が指定される。すなわち、誘導体化の行90には、その要素として、“無し”、“メチル化”、“TMS化”、“Me‐TMS化”、“アセチル化”が含まれる。それらの内で、符号91で示すように、“メチル化”がユーザーにより指定されている。この第2例では、1又は複数の化合物特定情報に基づいて化合物が特定された上で、誘導体化後の分配係数(誘導体化された化合物の分配係数)が特定される。イオン化法選択支援像77には、係数軸78が含まれ、また、誘導体化後の分配係数を示す試料マーカー94が含まれる。誘導体化前の分配係数を示す試料マーカー92が表示された後、誘導体化後の分配係数を示す試料マーカー94が表示されてもよいし、それらの試料マーカー92,94が同時に表示されてもよい。そのような構成によれば、特定の誘導体化を行った場合に分配係数がどの方向にどの程度変化するのかを把握でき、同時に、個々のイオン化法との適合関係が誘導体化の有無によりどのように変化するのかを把握できる。よって、誘導体化を行うべきか否か、及び、行う場合にはどの誘導体化を行うべきか、を判断するための情報を得られる。
【0055】
図11には、イオン化法選択支援像を含む表示画像の第3例が示されている。表示画像96は検索条件欄96Aと検索結果欄96Bとを有する。検索条件欄96Aにおいて、ユーザーにより、化合物特定情報の一種として、質量98が入力され、また、トレランス100としての許容範囲が入力されている。入力される質量98は、例えば、予備的な事前の質量分析によって観測された質量(観測質量)である。化合物検索においては、入力された質量98がDB上に登録された複数の精密質量と比較される。その際において、入力された質量と精密質量との差が許容範囲内であれば一致とみなされ、一致が認められた1又は複数の化合物が検索結果として特定される。
【0056】
図11に示した例においては、誘導体化の行90において、誘導体化の有無及びその種別も指定されているが、これは必須ではない。誘導体化の指定を行った場合、検索で特定された化合物に対して誘導体化を行った場合に見込まれる分配係数が特定される。検索結果欄96Bにおいては、検索によって特定された化合物についての化合物情報102が表示されている。図示の例では、当該化合物についての化合物名、組成式、誘導体化後の組成式が表示されている。係数軸78上には、特定された化合物について誘導体化を行った後の分配係数が試料マーカー104として表示されている。この第3例によれば、未知の化合物について観測質量に基づいて化合物検索を行うことが可能である。
【0057】
図12には、イオン化法選択支援像を含む表示画像の第4例が示されている。表示画像106は検索条件欄106Aと検索結果欄106Bとを有する。検索条件欄106Aにおいて、ユーザーにより、質量とトレランス(許容範囲)とが入力されている。それらの情報に基づいて質量分析の対象となった試料としての化合物が検索されている。検索結果欄106Bにおいて、図示の例では、2つの化合物がヒットしており、2つの化合物についての2つの化合物情報108,110が表示されている。各化合物情報108,110は、図示の例において、化合物名と組成式とにより構成されている。更に精密質量等の情報が表示されてもよい。
【0058】
検索結果欄106Bにおいては、図9図11に示した第1実施形態に係るイオン化法選択支援像77が表示されている。但し、検索結果が2つの化合物であることに対応して2つの試料マーカー112,114が表示されている。2つの試料マーカー112,114は2つの化合物について特定された2つの分配係数を表すものである。個々の試料マーカー112,114の近傍には2つの化合物情報108,110との対応関係を示すラベル(X1,X2)が表示されている。3つ以上の試料マーカーが表示されてもよい。トレランスとして入力する数値の可変により、検索精度等を調整することが可能である。入力された質量と精密質量との差分、又は、その程度を示す信頼性評価値、を表示するようにしてもよい。
【0059】
図13には、イオン化法選択支援像の第2実施例が示されている。この第2実施例は、上記の第1実施例と同様に、一次元座標系を有する。
【0060】
図13において、横軸は分配係数の大小を表す係数軸である。係数軸の上側には複数の方法インジケータ118,120,122が上下方向に分散的に表示されている。それは相互の重複を避けるためのものであり、縦軸それ自体に特別な意味はない。複数の方法インジケータ118,120,122はそれぞれ横長の図形として示されている。それらはEI,DART,ESIを表すものである。具体的には、方法インジケータ118は、係数軸上において、EIが適する大凡の分配係数範囲を示している。方法インジケータ120は、係数軸上において、DARTが適する大凡の分配係数範囲を示している。方法インジケータ122は、係数軸上において、ESIが適する大凡の分配係数範囲を示している。但し、図示された割付けは発明を説明するための例示である。実際には、実験、計算等によって各イオン化法が適する分配係数範囲が画定される。
【0061】
各方法インジケータ118,120,122の縦方向の幅は一端又は両端に向かって徐々に小さくなっており、すなわち、一端又は両端が先細形状となっている。各位置における縦方向の幅が適合度又は推奨度を表している。それをインテンシティ又は感度と理解することも可能である。係数軸近傍に試料マーカー124が表示されている。それは測定対象となった化合物について特定された分配係数を表すものである。試料マーカー124と一緒に、当該分配係数を示す垂直なライン126も表示されている。そのライン126は複数の方法インジケータ118,120,122を横切っているが、その横切り長はそれぞれ異なっている。図示の例では、最も横切り長の大きい方法インジケータ120が表すDARTがイオン化法の第1選択肢であることを認識できる。
【0062】
上記第2実施例において、誘導体化の前後を示す2つの試料マーカーが表示されてもよい。また、誘導体化による分配係数の変化が試料マーカーのシフトとして表示されてもよい。すなわち、誘導体化前の分配係数に対応する座標から誘導体化後の分配係数に対応する座標へ試料マーカーがスライド変動するアニメーション表示が行われてもよい。係数軸を縦軸とし、複数の方法インジケータを縦長図形として表示してもよい。
【0063】
図14には、イオン化法選択支援像の第3実施例が示されている。第3実施例は2次元の座標系を有する。
【0064】
横軸は係数軸であり、それは分配係数の大小を示している。縦軸は化合物(試料)の分子量の大小を示している。横軸と縦軸とで定義される二次元座標系に複数の方法インジケータ130,132,134が図形として表現されている。個々の図形についての位置、形状及びサイズは例示である。各方法インジケータ130,132,134は各イオン化法A,B,Cが適する二次元座標範囲を示している。二次元座標は分配係数と分子量とで特定される。質量分析対象となった試料について分配係数と分子量が特定されている場合、それらによって特定される二次元座標にメイン試料マーカー136が表示される。また、第1サブ試料マーカー138によって試料の分配係数が表され、第2サブ試料マーカー140によって試料の分子量が表される。メイン試料マーカー136が属する1又は複数の方法インジケータを特定することにより、試料に適する1又は複数のイオン化法を認識できる。個々のイオン化法を示す図形についての座標、形状、サイズ等については実験、計算その他によって定めることが可能である。
【0065】
第3実施例において、ある試料について、分配係数が特定されているものの、分子量が未知である場合、第1サブ試料マーカー138だけが表示される。そのような場合でも、第3実施例に係るイオン化法選択支援像は十分に機能する。すなわち、分子量との関係を意識しつつ、適用可能性のあるイオン化法を認識することが可能となる。試料について大凡の分子量又はその傾向がわかっている場合には第3実施例に係るイオン化法選択支援像からイオン化法を絞り込むことも可能である。
【0066】
上記第3実施例において、誘導体化の前後の分配係数が2つのメイン試料マーカーによって表現されてもよい。あるいは、それがメイン試料マーカーの運動として表現されてもよい。誘導体化に伴って分配係数が増減し、同時に分子量が増大する。例えば、メチル化により分子量が14Da増加し、TMS化により分子量が72Da増加し、アセチル化により分子量が42Da増加する。縦軸として、分子量以外の物性を割り当てることも可能である。3次元以上の座標系を構成することも可能である。
【0067】
従来においては、試料に適合するイオン化法を選択するにあたり、極性という曖昧な又は数値化が容易でない物性が基準とされていたようであるが、上記実施形態によれば、分配係数という客観的な及び数値化容易な物性が基準とされており、試料の分配係数から試料と個々のイオン化法との適合関係を求めることが可能となっている。上記実施形態において、分配係数はLogPであるが、それがLogDであってもよい。分配係数に代えて分配係数と同等の他の係数(親水性又は疎水性の度合いを示す係数)を用いてもよい。
【0068】
変化例として、計数軸及び試料マーカーを有するイオン化法選択支援像以外のイオン化法選択支援情報をユーザーに提供することがあげられる。例えば、質量分析対象となった試料の分配係数に基づいて、その試料に適合する可能性がある1又は複数のイオン化法を表したテキスト情報や図形情報を生成し、それをユーザーに提供してもよい。その場合、イオン化法ごとにそれに適合する分配係数の範囲又はその中央値を管理してもよい。また、イオン化法ごとに適合度を評価してその良否を示すスコアを表示してもよい。
【0069】
実施形態として説明したイオン化法選択支援像の提供によれば、わかり易い座標系を基礎として、試料と各イオン化法との適合関係を空間的に表現でき、ユーザーにおいて、その適合関係を直観的に認識できるという利点を得られる。また、上記実施形態によれば、例えば、水溶性の高い試料(LogPの値が低い試料)について、DARTで高感度に質量分析を行いたい場合、その試料に対して脂溶性の誘導体化(メチル化、TMS化等)を行えばよいことがわかる、という利点を得られる。換言すれば、試料の性状を特定のイオン化法(特にDART)に適合させることにより、その特定のイオン化法の良さを活用することが可能となる。
【符号の説明】
【0070】
10 質量分析装置、12 イオン源、14 質量分析部、16 データ処理部、17 イオン化法選択支援装置、18 PC、20 検索部、22 イオン化法選択支援用DB、24 画像生成部、70 表示画像、77 イオン化法選択支援像、78 係数軸、80 インデックス部、84a,84b、84c 方法インジケータ、86 試料マーカー。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14