特許第6824085号(P6824085)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6824085-廃ガラスのリサイクル方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6824085
(24)【登録日】2021年1月14日
(45)【発行日】2021年2月3日
(54)【発明の名称】廃ガラスのリサイクル方法
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/00 20060101AFI20210121BHJP
【FI】
   B09B3/00 303A
   B09B3/00 304J
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-58465(P2017-58465)
(22)【出願日】2017年3月24日
(65)【公開番号】特開2018-158324(P2018-158324A)
(43)【公開日】2018年10月11日
【審査請求日】2019年9月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106563
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 潤
(72)【発明者】
【氏名】岡村 聰一郎
(72)【発明者】
【氏名】花田 隆
(72)【発明者】
【氏名】竹本 智典
(72)【発明者】
【氏名】生田 考
(72)【発明者】
【氏名】石田 泰之
【審査官】 三須 大樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−059754(JP,A)
【文献】 特開2003−247710(JP,A)
【文献】 特開2000−061426(JP,A)
【文献】 特開2003−039038(JP,A)
【文献】 特開2018−118888(JP,A)
【文献】 特開2004−345908(JP,A)
【文献】 特開2014−094877(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 1/00−5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉状の廃ガラスに、Ca源及びSO42-として廃石膏ボードを添加して600℃以上1300℃以下の温度で10分以上焼成し、
焼成物からN2SO4を回収し、
2SO4を回収した後の焼成物を土木資材用の珪石代替原料として利用することを特徴とする廃ガラスのリサイクル方法。
【請求項2】
前記焼成物を水洗してN2SO4を回収することを特徴とする請求項1に記載の廃ガラスのリサイクル方法。
【請求項3】
前記廃ガラスに含まれるSiに対して、Caがモル比で1.5以上となるように前記廃石膏ボードを添加すると共に、前記廃ガラスに含まれるNaに対してS42-がモル比で0.5以上となるように前記廃石膏ボードを添加することを特徴とする請求項1又は2に記載の廃ガラスのリサイクル方法。
【請求項4】
前記廃石膏ボードを直径5mm以上に造粒した後、前記廃ガラスに添加して焼成することを特徴とする請求項1乃至のいずれかに記載の廃ガラスのリサイクル方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃ガラスのリサイクル方法に関し、特に、廃ガラスからナトリウムを除去して土木資材用原料としてリサイクルする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、廃ガラスのリサイクルが行われ、高質の廃ガラスはガラス原料としてリサイクルされている。一方、例えば、自動車の破砕、選別工程で出てきた篩下に含まれるガラス(土砂ガラス)等、ガラス原料となり得ない低質の廃ガラスは、ガラスに含まれる珪素がセメント原料等の土木資材用原料として有用であるため、セメント原料をはじめとした土木資材用原料としてリサイクルされている。
【0003】
さらに、近年液晶パネルや太陽光電池パネルの普及に伴い、これらの廃棄物も増加しているが、これらの廃棄物の破砕物から回収されるガラスも低質であるため、土木資材用原料としてのリサイクルが期待されている。
【0004】
このように、低質の廃ガラスの増加に伴い、セメント原料等の土木資材用原料としてのリサイクルの需要が高まっているが、廃ガラスをセメント原料としてリサイクルする場合には、ガラスに含まれるナトリウムが問題となる。
【0005】
セメント中のナトリウムの量には制限があり、ナトリウムの濃度が所定の値を超えると、アルカリ骨材反応が発生し、コンクリートのひび割れを生じてしまう。そのため、セメント原料として利用できる廃ガラスの量は、廃ガラス中のナトリウムの量による制約を受け、廃ガラスをセメント原料として十分に活用できない虞がある。
【0006】
こうしたナトリウムによる問題を解決すべく、廃ガラスからナトリウムを除去する技術が提案されている。例えば、特許文献1には、ポリ塩化ビニル等の燃焼ガスに含まれる塩化水素等のハロゲン化水素と、廃ガラス粉末に含まれるナトリウムとを反応させ、生じた水溶性のハロゲン化ナトリウムを水洗除去する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−50224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に記載の方法では、気体状のハロゲン化水素等は、ガラス粉末の表面付近には到達するものの、ガラス粉末の内部まで到達することは難しく、ガラス粉末全体が十分に反応することができない虞があった。
【0009】
また、反応を促進すべくガラス粉末を高温焼成しても、ガラスが溶融して水飴状となるためハロゲン化水素等は内部に浸透することはできず、ハンドリングトラブルによって安定処理もできなくなる。そのため、廃ガラス中のナトリウムをより効果的に除去することができる技術の開発が望まれていた。
【0010】
そこで、本発明は、上記解決課題に鑑みてなされたものであって、廃ガラス中のナトリウムを効果的に除去し、廃ガラスを土木資材用原料として有効利用することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明は、廃ガラスのリサイクル方法であって、粉状の廃ガラスに、Ca源及びSO42-源として廃石膏ボードを添加して600℃以上1300℃以下の温度で10分以上焼成し、焼成物からN2SO4を回収し、N2SO4を回収した後の焼成物を土木資材用の珪石代替原料として利用することを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、粉状の廃ガラスにCa源を加えることにより、高温焼成時においても廃ガラスを溶融させることなく粉状に保つことができる。そして、S42-源が粉状の廃ガラスの全体に行き渡っている状態で600℃以上1300℃以下の温度で10分以上焼成することにより、廃ガラス全体においてNaとS42-とが反応し、固体状のN2SO4が生成する。生成したN2SO4を回収した後の焼成物をセメント原料等の土木資材用の珪石代替原料として利用することで、廃ガラスをリサイクルすることができる。また、廃石膏ボードを有効活用することができる。
【0013】
上記廃ガラスのリサイクル方法において、焼成物を水洗してN2SO4を回収することができる。
【0014】
上記廃ガラスのリサイクル方法において、前記廃ガラスに含まれるSiに対して、Caがモル比で1.5以上となるように前記廃石膏ボードを添加すると共に、前記廃ガラスに含まれるNaに対してS42-がモル比で0.5以上となるように前記廃石膏ボードを添加することができる。廃ガラスに含まれるSiに対して、Caがモル比で1.5以上となるように廃石膏ボードを添加することにより、焼成装置による焼成時に廃ガラスが水飴状になることを防止することができる。また、廃ガラスに含まれるNaに対してS42-がモル比で0.5以上となるようにS42-源を調合することにより、理論上、廃ガラスに含まれる全てのNaを反応させることができる。
【0017】
上記廃ガラスのリサイクル方法において、前記廃石膏ボードを直径5mm以上に造粒した後、前記廃ガラスに添加して焼成することができる。これにより、事前の調合が不十分で、Caの量が局部的に不足した状態で高温に曝されて溶融した場合でも、粒の内部での融着に留まり、粒同士もしくは粒と壁面とが融着してトラブルへ発展することを効果的に防止することができる。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明によれば、廃ガラス中のナトリウムを効率的に除去し、廃ガラスを土木資材用原料として好適にリサイクルすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明に係る廃ガラスのリサイクル方法を実施するための装置の一を示す全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0025】
図1は、本発明に係る廃ガラスのリサイクル方法を実施するための装置の一を示し、このリサイクル装置1は、廃ガラスをセメント原料としてリサイクルするための装置であり、粉状の廃ガラスGWに、カルシウム源(以下「Ca源」という。)と、塩素イオン源(以下「Cl−源」という。)又は硫酸イオン源(以下「SO42-源」という。)とを調合する調合装置2と、調合物Mを焼成する焼成装置3と、焼成物P1を冷却するクーラ4と、冷却した焼成物P2を水洗する水洗装置5と、水洗によって得られたスラリーSを固液分離する固液分離装置6と、焼成装置3の排ガスGを冷却し、調合物Mからの有害な揮発成分を固体状にして回収するための冷却装置7と、冷却装置7の排ガスG1から粗粉Cを回収するサイクロン8と、サイクロン8の排ガスG2から集塵する第1集塵装置9と、第1集塵装置9の排ガスG3に含まれる酸性ガス等を除去するための第2集塵装置10と、第2集塵装置10の排ガスG4から脱硝する脱硝装置11等で構成される。
【0026】
調合装置2は、粉状の廃ガラスGWに、廃ガラスGWの溶融防止剤としてのCa源と、廃ガラスGW中に含まれるナトリウムを除去するためのナトリウム除去剤としてのCl源又はSO2−源とを調合し、調合物Mとするために備えられる。
【0027】
焼成装置3は、調合装置2から供給される調合物Mを焼成するために備えられる。この焼成装置3としてロータリーキルンを用いることができ、ロータリーキルンを用いることにより、焼成中に調合物Mが常に撹拌され、転動し続けるため、仮に高温になった調合物Mが半溶融した場合でも、粒同士、もしくは粒と壁面とが固着することを防止することができ、Cl又はSO2−とNaの反応を効率的に行うことができる。尚、焼成装置3として、ロータリーキルン以外の焼成手段を用いてもよい。
【0028】
クーラ4は、焼成装置3により焼成された焼成物P1を冷却するために備えられ、冷却空気を用いて焼成物P1を冷却する。
【0029】
水洗装置5は、焼成物P2を工業用水(工水)に溶解させることで、焼成物P2中のNaCl又はNaSOを工業用水に溶出させるために備えられる。
【0030】
固液分離装置6は、水洗装置5から供給されたスラリーSを、脱塩ケーキCAと廃液WLとに固液分離するために備えられる。この固液分離装置6として、ベルトフィルタやフィルタープレス等を用いることができる。
【0031】
冷却装置7は、焼成装置3の排ガスGを冷却し、調合物Mからの有害な揮発成分を固体状にして回収するために備えられる。排ガスGの冷却は、冷却装置7の下端部に設置された散水装置から水を噴霧することにより行う。尚、散水装置は、揮発成分を固体状として排ガスGに含まれるダストに付着させて回収し得る程度の性能を備えていればよい。また、冷却装置7による冷却を、水ではなく、冷却空気により行ってもよく、水と冷却空気を併用してもよい。
【0032】
分級装置としてのサイクロン8は、シリカ分を主体とする粗粉Cを回収し、焼成装置3に戻すために設けられる。
【0033】
第1集塵装置9は、サイクロン8の排ガスG2からダストD1を集塵し、焼成装置3に戻すために備えられ、バグフィルタ等が用いられる。
【0034】
第2集塵装置10は、第1集塵装置9の排ガスG3に含まれる酸性ガス等を除去するために設けられ、カルシウム成分を含んでいる中和剤を中和剤添加装置(不図示)から添加し、酸性ガス等を付着したダストD2して焼成装置3に戻す。この第2集塵装置10にもバグフィルタ等が用いられる。
【0035】
脱硝装置11は、第2集塵装置10の排ガスG4にアンモニアガス(NH)を注入してNOxを窒素に還元して無害化するために設けられる。
【0036】
次に、上記構成を有する廃ガラスのリサイクル装置1の動作について、図1を参照しながら説明する。
【0037】
まず、調合装置2に、粉状の廃ガラスGWと、Ca源と、Cl源又はSO2−源とを投入し、調合物Mを得る。Ca源として、CaCl、CaO、Ca(OH)、Ca(OH)Cl、CaCO等を含むものを用いることができる。また、Cl源として、CaCl、MgCl、Ca(OH)Cl等を含むものを用いることができる。さらに、SO2−源として、CaSO、MgSO等を含むものを用いることができる。
【0038】
ここで、廃ガラスGWに含まれる珪素(Si)に対して、カルシウムがモル比で1.5以上となるようにCa源を調合すると共に、廃ガラスGWに含まれるナトリウムに対して塩素がモル比で1.0以上又はSO2−がモル比で0.5以上となるようにCl源又はSO2−源を調合する。
【0039】
廃ガラスGWに含まれるSiに対して、Caがモル比で1.5以上となるようにCa源を調合することにより、焼成装置3による焼成時に、廃ガラスGW中のSiがビーライト(CS:2CaO・SiO)等となり、廃ガラスGWが水飴状にならず、粉末状を保つことができる。
【0040】
また、廃ガラスGWに含まれるNaに対して、Clがモル比で1.0以上又はSO2−がモル比で0.5以上となるようにCl源又はSO2−源を調合することにより、理論上、廃ガラスGWに含まれる全てのNaが反応することができる。
【0041】
上記Ca源及びCl源として、CaClやCa(OH)Clを含む都市ごみ焼却飛灰を用いることができ、都市ごみ焼却飛灰を有効活用することができる。
【0042】
また、Ca源及びSO2−源として、CaSOを含む廃石膏ボードを用いることができ廃石膏ボードを有効活用することができる。
【0043】
次に、調合物Mを焼成装置3に投入し、焼成を行う。Cl源又はSO2−源が廃ガラスGWの全体に行き渡っている状態で600℃以上1300℃以下、好ましくは800℃以上1200℃以下の温度で10分以上、好ましくは30分以上焼成することにより、廃ガラスGW全体においてNaとCl又はSO2−との反応が生じ、固体状のNaCl又はNaSOが生成する。尚、焼成温度が1300℃を超えると、反応したKClが揮散して排ガス工程に不具合を生じさせたり、CaSOが分解して酸性ガスであるSOガスが発生する原因となるので好ましくない。
【0044】
尚、この焼成に先立ち、図示しない造粒装置を用いて調合物Mを直径5mm以上に造粒してもよい。これにより、高温により調合物Mが半溶融した場合でも粒同士が融着することを効果的に防止することができる。
【0045】
次に、焼成物P1をクーラ4に投入して冷却すると共に、排ガスGを冷却装置7に導入する。
【0046】
クーラ4で冷却した焼成物P2中に含まれる固体状のNaCl又はNaSOを水洗装置5及び固液分離装置6により水洗除去し、廃液WLとして系外に排出する。そして、NaCl又はNaSOが除去された脱塩ケーキCAは、セメント原料として有用なSiやCaを多量に含むことから、セメント原料として利用する。
【0047】
一方、排ガスGを冷却装置7で冷却し、排ガスG中の揮発成分をダストと共に析出させる。これによって、揮発成分は固体状となる。この固体状になった揮発成分中の粗粉Cをサイクロン8で回収する。そして、サイクロン8からの排ガス中に含まれる微粉を、第1集塵装置9でダストD1として回収する。また、第1集塵装置9からの排ガスG3に含まれる酸性ガス等を第2集塵装置10でダストD2として回収する。そして、第2集塵装置10からの排ガスG4は、脱硝装置11でNOxを窒素に還元して無害化し、無害化された排ガスG5を煙突12から排出する。
【0048】
以上のように、本実施の形態によれば、粉状の廃ガラスGWにCa源を加えることにより、焼成時においても廃ガラスGWが粉状に保たれる。そして、Cl源又はSO2−源が粉末状の廃ガラスGW全体に偏りなく混合された状態が保たれることで、ガラス集合体の全体においてNaとCl又はSO2−とが反応し、NaCl又はNaSOが生成する。生成したNaCl又はNaSOは水洗により除去される。これにより、廃ガラスGW中のNaを効率よく除去することができ、廃ガラスGWを好適にセメント原料としてリサイクルすることができる。
【0049】
尚、上記実施の形態では、廃ガラスGWをセメント原料としてリサイクルする場合について説明したが、セメント以外の土木資材用の珪石代替原料としてリサイクルすることもできる。
【符号の説明】
【0050】
1 廃ガラスのリサイクル装置
2 調合装置
3 焼成装置
4 クーラ
5 水洗装置
6 固液分離装置
7 冷却装置
8 サイクロン
9 第1集塵装置
10 第2集塵装置
11 脱硝装置
12 煙突
C 粗粉
CA 脱塩ケーキ
D1、D2 ダスト
G、G1〜G5 排ガス
GW 廃ガラス
M 調合物
P1、P2 焼成物
S スラリー
WL 廃液
図1