特許第6824229号(P6824229)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6824229
(24)【登録日】2021年1月14日
(45)【発行日】2021年2月3日
(54)【発明の名称】軸受装置及びこれを用いた回転動機
(51)【国際特許分類】
   F16C 17/06 20060101AFI20210121BHJP
【FI】
   F16C17/06
【請求項の数】11
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-141326(P2018-141326)
(22)【出願日】2018年7月27日
(65)【公開番号】特開2020-16315(P2020-16315A)
(43)【公開日】2020年1月30日
【審査請求日】2019年5月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】591001282
【氏名又は名称】大同メタル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】特許業務法人 サトー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河合 裕司
【審査官】 中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】 特表2017−525917(JP,A)
【文献】 特表2012−529611(JP,A)
【文献】 特表2018−519487(JP,A)
【文献】 特開平05−296236(JP,A)
【文献】 特開2017−160966(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 17/00− 17/26
F16C 33/00− 33/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転する回転軸部材を支持する軸受装置であって、
ベースプレートと、
前記ベースプレートに設けられ、前記回転軸部材の周方向において、前記ベースプレートと相対的に移動可能な複数の摺動パッドと、
前記ベースプレートと前記摺動パッドとの間に設けられ、前記摺動パッドから受ける荷重を支持する点となる荷重支持点の位置を、前記ベースプレートの周方向でずらす支持部材と、を備え、
前記回転軸部材に垂直な仮想的な任意の平面を基準面とし、
前記回転軸部材の軸と平行であって前記荷重支持点を通る仮想的な直線上において、前記基準面から、前記摺動パッドにおいて前記ベースプレートとは反対側に位置する端部までの距離を設定距離としたとき、
前記回転軸部材の正方向又は逆方向への回転にしたがって、前記荷重支持点の位置記ベースプレートの周方向へずれることにより、
前記回転軸部材が正方向に回転するときの前記摺動パッドの傾きと、前記回転軸部材が逆方向へ回転するときの前記摺動パッドの傾きとが、対称な状態で反転し、
前記回転軸部材が正方向又は逆方向のいずれかの方向へ回転しているとき、正方向の回転時における前記設定距離と逆方向の回転時における前記設定距離とを同一に維持する軸受装置。
【請求項2】
前記支持部材は、前記回転軸部材の周方向において前記摺動パッドの中央よりも端部側にそれぞれ設けられている一対で構成されている請求項1記載の軸受装置。
【請求項3】
前記ベースプレートは、前記摺動パッド側の面に、前記ベースプレートに対する前記摺動パッドの相対的な移動によって一対の前記支持部材のうちいずれか一方が進入可能な凹部を有する請求項2記載の軸受装置。
【請求項4】
前記ベースプレートと前記摺動パッドとの間の相対的な移動方向において、前記摺動パッドの中心が前記凹部の中心と一致する位置から前記支持部材のいずれか一方が前記凹部に進入するまでの前記摺動パッドの移動距離の1/2に相当する距離をオフセット量Eとしたとき、
前記回転軸部材の周方向における前記支持部材の間隔A、及び前記回転軸部材の周方向における前記凹部の幅Cは、
0<(A−2E)<C<A
を満たす請求項3記載の軸受装置。
【請求項5】
前記支持部材は、前記ベースプレートと前記摺動パッドとの間に設けられている一対のころ部材である請求項2から4のいずれか一項記載の軸受装置。
【請求項6】
前記回転軸部材の径方向において、一対の前記ころ部材の両端を回転可能に支持し、一対の前記ころ部材の相対的な位置を保持する保持部材を、さらに備える請求項5記載の軸受装置。
【請求項7】
前記支持部材は、前記摺動パッドの前記ベースプレート側に設けられている一対の滑り部材である請求項2から4のいずれか一項記載の軸受装置。
【請求項8】
前記ベースプレート、前記摺動パッド及び前記保持部材の位置関係を保持する位置決め部材をさらに備える請求項6記載の軸受装置。
【請求項9】
前記ベースプレートに設けられ、前記摺動パッドの過剰な移動を制限する制限部をさらに備える請求項1から8のいずれか一項記載の軸受装置。
【請求項10】
前記回転軸部材の軸方向において、前記回転軸部材を支持するスラスト軸受である請求項1から9のいずれか一項記載の軸受装置。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項記載の軸受装置と、
前記回転軸部材と一体に回転するロータと、
を備える回転動機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、軸受装置及びこれを用いた回転動機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばモータや発電機などの回転動機は、ロータと一体の回転軸部材を支持する軸受装置を備えている。この軸受装置は、回転軸部材を軸方向で軸受するスラスト軸受、及び回転軸部材を径方向で支持するジャーナル軸受などで構成されている。このような軸受装置は、回転軸部材に設けられたカラーと接する摺動パッドを備えている。特許文献1の場合、摺動パッドの背面にピボットと称される部材を配置している。これにより、特許文献1は、正方向及び逆方向への回転に対応している。
【0003】
しかし、特許文献1の場合、ピボットが移動すると、摺動パッドの高さ、つまり回転軸部材に設けられたカラーまでの距離が変化する。そのため、周方向へ複数の摺動パッドが配置される軸受装置の場合、摺動パッドごとにカラーまでの距離が異なってしまう。このように摺動パッドごとにカラーまでの距離が異なると、摺動パッドに加わる荷重が不均一となり、焼付を招くおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−296236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明の目的は、摺動パッドの高さが変化することなく、かつ正方向及び逆方向への回転に対応し、摺動パッドに加わる荷重の均一化が図られる軸受装置及びこれを用いた回転動機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために本実施形態の軸受装置は、ベースプレートと、複数の摺動パッドと、支持部材とを備える。摺動パッドは、前記ベースプレートに設けられ、前記回転軸部材の周方向において、前記ベースプレートと相対的に移動可能である。支持部材は、前記ベースプレートと前記摺動パッドとの間に設けられ、前記摺動パッドから受ける荷重を支持する点となる荷重支持点の位置を、前記ベースプレートの周方向でずらす。
ここで、前記回転軸部材に垂直な仮想的な任意の平面を基準面とし、前記基準面から、前記荷重支持点を通り前記摺動パッドにおいて前記ベースプレートとは反対側の端部までの距離を設定距離としたとき、前記荷重支持点の位置は、前記設定距離が変化することなく前記ベースプレートの周方向へずれる。
【0007】
これにより、本実施形態の軸受装置は、荷重支持点の位置が周方向へずれることによって、正方向の回転における摺動パッドの荷重支持点と、逆方向の回転における摺動パッドの荷重支持点との位置が異なる。つまり、摺動パッドは、回転方向によって、荷重支持点の位置が変化する。そのため、摺動パッドは、回転方向に応じた適正な傾斜を生じることとなり、相手となる回転軸部材との間に安定した潤滑油の油膜が形成される。そして、本実施形態の軸受装置は、支持部材による荷重支持点の位置が変化しても、設定距離つまり相手部材までの距離が変化しない。したがって、正方向及び逆方向への回転に対応しつつ、摺動パッドに加わる荷重の均一化を図ることができる。
【0008】
また、本実施形態の軸受装置では、前記支持部材は、前記回転軸部材の周方向において前記摺動パッドの中央よりも端部側にそれぞれ設けられている一対で構成されている。
これにより、一対の支持部材のうち一方が正方向への回転における荷重支持点となり、他方が逆方向への回転における荷重支持点となる。したがって、簡単な構成で正方向及び逆方向の回転に対応して安定した油膜を形成することができる。
【0009】
本実施形態の軸受装置では、前記ベースプレートは、前記摺動パッド側の面に、前記ベースプレートに対する前記摺動パッドの相対的な移動によって一対の前記支持部材のうちいずれか一方が進入可能な凹部を有する。
このように、ベースプレートに凹部を設けることにより、一対の支持部材のうちのいずれか一方が凹部に進入する。そして、凹部に進入していない支持部材は、摺動パッドの荷重支持点となる。回転方向の変化によって摺動パッドが移動すると、一対の支持部材のうちの一方が凹部に進入し、他方が凹部の外に位置する。荷重支持点とならない支持部材が凹部に進入することにより、設定距離は回転方向の変化にともなう荷重支持点の移動にかかわらず一定になる。したがって、正方向及び逆方向への回転に対応しつつ、摺動パッドに加わる荷重の均一化を図ることができる。
【0010】
本実施形態の軸受装置では、前記ベースプレートと前記摺動パッドとの間の相対的な移動方向において、前記摺動パッドの中心が前記凹部の中心と一致する位置から前記支持部材のいずれか一方が前記凹部に進入するまでの前記摺動パッドの移動距離の1/2に相当する距離をオフセット量Eとしたとき、
前記回転軸部材の周方向における前記支持部材の間隔A、及び前記回転軸部材の周方向における前記凹部の幅Cは、
0<(A−2E)<C<A
を満たすことが好ましい。
これにより、支持部材の荷重支持点を回転方向に応じて適正に確保することができる。
【0011】
本実施形態の軸受装置では、前記支持部材は、前記ベースプレートと前記摺動パッドとの間に設けられている一対のころ部材である。
ころ部材で構成されている支持部材は、回転方向の変化によって摺動パッドに加わる摩擦力の方向が変化すると、円滑に摺動パッドを案内する。したがって、回転方向に対応して荷重支持点を容易に変更することができる。
【0012】
本実施形態の軸受装置では、前記回転軸部材の径方向において、一対の前記ころ部材の両端を回転可能に支持し、一対の前記ころ部材の相対的な位置を保持する保持部材を、さらに備える。
これにより、支持部材を構成する一対のころ部材の位置関係は一定に保持することができる。
【0013】
本実施形態の軸受装置では、前記支持部材は、前記摺動パッドの前記ベースプレート側に設けられている一対の滑り部材である。
滑り部材で構成されている支持部材は、回転方向の変化によって摺動パッドに加わる摩擦力の方向が変化すると、円滑に摺動パッドを案内し、荷重支持点を変更する。したがって、回転方向に対応して摺動パッドの傾斜を容易に変更することができる。
【0014】
本実施形態の軸受装置は、前記ベースプレート、前記摺動パッド及び前記支持部材の位置関係を保持する位置決め部材をさらに備える。
これにより、ベースプレート、摺動パッド及び支持部材は、位置関係が適切に維持される。したがって、回転方向の変化により摺動パッドが周方向へ移動しても、摺動パッドの荷重支持点の位置を適切に維持することができる。
【0015】
本実施形態の軸受装置では、前記ベースプレートに設けられ、前記摺動パッドの過剰な移動を制限する制限部をさらに備えることが好ましい。
これにより、支持部材と凹部との間の位置関係を適切に維持することができる。
【0016】
本実施形態の軸受装置は、前記回転軸部材の軸方向において、前記回転軸部材を支持するスラスト軸受である。
本実施形態の回転動機は、請求項1から9のいずれか一項記載の軸受装置と、前記回転軸部材と一体に回転するロータと、を備える。
これにより、回転方向が変化する回転動機であっても、荷重の不均一化にともなう焼付を低減しつつ支持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1実施形態による軸受装置の要部をベースプレートの外周側から見た模式図
図2】第1実施形態による軸受装置を適用した回転動機を示す模式的な断面図
図3図1の矢印III方向から見た模式図
図4】第1実施形態による軸受装置の要部を示す模式的な斜視図
図5】第1実施形態による軸受装置の要部をベースプレートの外周側から見た模式図
図6】第1実施形態による軸受装置の要部をベースプレートの外周側から見た模式図
図7】第1実施形態による軸受装置の要部をベースプレートの外周側から見た模式図
図8】第2実施形態による軸受装置の要部をベースプレートの外周側から見た模式図
図9】その他の実施形態による軸受装置の摺動パッドを示す模式的な斜視図
図10】その他の実施形態による軸受装置の摺動パッドを示す模式的な斜視図
図11】その他の実施形態による軸受装置の摺動パッドをベースプレート側から見た模式図
図12】その他の実施形態による軸受装置のベースプレートに設けられた凹部を示す模式図
図13】その他の実施形態による軸受装置の要部をベースプレートの外周側から見た模式図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、軸受装置の複数の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、複数の実施形態において実質的に共通する部位には同一の符号を付し、説明を省略する。
(第1実施形態)
図2に示す軸受装置10は、回転動機11の軸受として用いられる。本実施形態の軸受装置10は、回転動機11を軸方向で支持するスラスト軸受である。回転動機11は、例えば発電機、ポンプ及びタービンなど、回転軸部材12を中心に回転する機器である。回転動機11は、これらの例に限らず、回転軸部材12を中心に回転する機器であれば適用することができる。回転動機11は、回転の中心となる回転軸部材12及びロータ13を備えている。ロータ13は、回転軸部材12と一体となって回転する。また、回転軸部材12は、カラー部材14を有している。カラー部材14は、回転軸部材12と一体に回転するとともに、回転軸部材12の径方向外側に位置している。カラー部材14は、軸方向の端部に軸受装置10と対向して軸受装置10と摺動する摺動面15を有している。本実施形態の場合、この回転軸部材12は、重力方向でほぼ上下へ延びている。
【0019】
本実施形態の軸受装置10は、設備16の床17に固定され、回転動機11を吊り下げた状態で支持している。なお、軸受装置10は、回転軸部材12の下端側から支持する構成としてもよい。また、回転軸部材12の軸方向が重力方向とは異なる方向、例えば水平方向へ延びる回転動機11を支持する構成としてもよい。
【0020】
軸受装置10は、図1図3及び図4に示すようにベースプレート21、摺動パッド22及び支持部材23を備えている。ベースプレート21は、図2に示すように設備16の床17に固定されている。すなわち、ベースプレート21は、軸受装置10の土台を構成する。ベースプレート21は、回転軸部材12の径方向外側において、回転軸部材12の周方向へ円環状に設けられている。つまり、ベースプレート21は、回転軸部材12と同心の円上に設けられている。
【0021】
本実施形態の場合、摺動パッド22は、図1図3及び図4に示すように重力方向においてこのベースプレート21の上方に設けられている。摺動パッド22は、このベースプレート21の上方において回転軸部材12の周方向へ複数設けられている。摺動パッド22は、ベースプレート21に対して周方向へ相対的な移動が可能である。摺動パッド22は、ベースプレート21と反対側の上端面24が回転軸部材12と一体に回転するカラー部材14の摺動面15と摺動する。摺動パッド22は、カラー部材14の摺動面15と摺動することにより、回転動機11を軸方向において回転可能に支持する。摺動パッド22は、ベースプレート21に形成されている収容室25に収容されている。収容室25は、ベースプレート21の周方向へ摺動パッド22の数に応じて複数設けられている。収容室25は、ベースプレート21のカラー部材14側の端部から反対側へ窪んで形成されている。軸受装置10は、カラー部材14と摺動パッド22との間を含め、粘性を有する潤滑剤によって潤滑されている。摺動パッド22は、例えば鋼等で形成されており、摺動面15側にホワイトメタル等の合金の層、あるいは樹脂等のコーティング層を有していてもよい。なお、例えば回転軸部材12が水平方向へ延びる場合、摺動パッド22は、ベースプレート21と隣り合って設けられる。
【0022】
支持部材23は、ベースプレート21と摺動パッド22との間に設けられている。本実施形態の支持部材23は、設定距離を変更することなく摺動パッド22から受ける荷重を支持する点となる荷重支持点の位置を、ベースプレート21の周方向でずらすことができる。ここで、荷重支持点とは、摺動パッドが回転軸部材12と一体に回転するカラーから受ける荷重を支持する点である。図5及び図6に示すように、摺動パッド22は、回転軸部材12の回転方向に応じて、その姿勢が変化する。図5に示す場合、摺動パッド22は、荷重支持点P1において荷重を支持する。図6に示す場合、摺動パッド22は、荷重支持点P2において荷重を支持する。また、設定距離とは、基準面から荷重支持点P1又は荷重支持点P2を通り、摺動パッド22においてベースプレート21と反対側の端部までの距離に相当する。基準面は、回転軸部材21に垂直な仮想的な任意の平面である。つまり、基準面は、例えばカラー部材14の摺動面15やベースプレート21の端面などのように回転軸部材21に垂直な面として任意に設定することができる。支持部材23は、摺動パッド22の姿勢にかかわらず、この設定距離を一定に維持する。つまり、図5及び図6に示すように摺動パッド22の姿勢が変化しても、任意の基準面から荷重支持点P1又は荷重支持点P2を通り摺動パッド22の端部までの距離は一定に維持される。なお、設定距離は、摺動パッド22の高さと言い換えてもよい。つまり、回転軸部材12の回転方向の変化にともなって摺動パッド22の姿勢が変化しても、摺動パッド22の高さ、すなわち荷重支持点P1又荷重支持点P2から摺動パッド22において最も摺動面15に近い端部までの距離は変化しない。
【0023】
支持部材23は、ベースプレート21と摺動パッド22との間に位置する一対のころ部材26及びころ部材27を有している。このころ部材26及びころ部材27は、ベースプレート21の周方向において摺動パッド22の中央よりも各端部側にそれぞれ設けられている。一対のころ部材26及びころ部材27は、保持部材28によって保持されている。保持部材28は、ベースプレート21の径方向においてころ部材26及びころ部材27の両端を回転可能に支持している。つまり、保持部材28は、ころ部材26及びころ部材27の軸方向の端部を支持している。保持部材28は、ころ部材26ところ部材27との相対的な位置を保持している。保持部材28を構成するころ部材26及びころ部材27は、いわゆるピボットに相当する。
【0024】
回転軸部材12が回転すると、摺動面15を有するカラー部材14は回転軸部材12とともに一体となって回転する。本実施形態の回転動機11の場合、回転軸部材12は任意の正方向と、正方向とは逆の逆方向との双方へ回転可能である。説明の簡単のために、摺動面15を有するカラー部材14の図1で示す矢印R1方向への回転は正方向とし、矢印R2方向への回転は逆方向とする。
【0025】
ベースプレート21は、摺動パッド22と対向する位置に凹部29を有している。凹部29は、ベースプレート21の収容室25において、摺動パッド22側の面から反対側へ窪んで形成されている。この凹部29は、ベースプレート21に対して摺動パッド22が周方向へ移動したとき、支持部材23であるころ部材26又はころ部材27のうちのいずれか一方が進入する。例えば回転軸部材12とともにカラー部材14が図5の矢印R1で示す正方向へ回転すると、カラー部材14と摺動パッド22との間には摩擦力が加わる。そのため、摺動パッド22は、このカラー部材14の回転にともなう摩擦力によってカラー部材14とともに図5の矢印R1方向へ移動する。その結果、回転軸部材12が正方向へ回転するとき、摺動パッド22の移動方向において後方に位置するころ部材27は凹部29に進入する。一方、摺動パッド22が図6の矢印R2で示す逆方向へ回転すると、摺動パッド22はカラー部材14とともに図5の矢印R2方向へ移動する。そのため、回転軸部材12が逆方向へ回転するとき、摺動パッド22の移動方向において後方に位置するころ部材26は凹部29に進入する。
【0026】
このように、摺動パッド22の移動方向によって、ころ部材26又はころ部材27のいずれか一方が凹部29に進入する。凹部29は、凹部29に進入したころ部材26又はころ部材27が摺動パッド22を支持しない程度の深さに設定されている。つまり、図5に示すように正方向への回転によってころ部材27が凹部29に進入しているとき、摺動パッド22はころ部材26との接点を荷重支持点P1として支持される。このとき、回転方向において後方側に位置するころ部材27は、凹部29に進入することによって摺動パッド22を支持しない。その結果、ころ部材27は、傾斜する摺動パッド22の荷重を支持しない。一方、図6に示すように逆方向への回転によってころ部材26が凹部29に進入しているとき、摺動パッド22はころ部材27との接点を荷重支持点P2として支持される。このとき、回転方向において後方側に位置するころ部材26は、凹部29に進入することよって摺動パッド22を支持しない。その結果、ころ部材26は、傾斜する摺動パッド22の荷重を支持しない。
【0027】
摺動パッド22が潤滑剤の油膜を形成するために傾斜する角度は、適用する機器などの条件によるものの0.01°程度と極めて微小である。そのため、凹部29は、この摺動パッド22の傾斜によってころ部材26又はころ部材27が摺動パッド22の支持から解放される程度の深さであればよい。したがって、凹部29は、概ね0.1mm以上の深さを有していれば機能する。
【0028】
収容室25は、ベースプレート21に窪んで形成されている。そのため、収容室25に収容されている摺動パッド22は、ベースプレート21の壁部31又は壁部32と接することにより、ベースプレート21の周方向における移動が制限される。例えば摺動パッド22が正方向へ回転によって図5の矢印R1方向へ移動したとき、摺動パッド22は壁部31に接することによってさらなる移動が制限される。同様に摺動パッド22が逆方向への回転によって図6の矢印R2方向へ移動したとき、摺動パッド22は壁部32に接することによってさらなる移動が制限される。このように壁部31及び壁部32は、摺動パッド22の過剰な移動を制限する制限部に相当する。
【0029】
次に、上記の構成による軸受装置10の作用について詳細に説明する。
本実施形態の軸受装置10は、回転軸部材12の回転にともなってカラー部材14が回転すると、カラー部材14と摺動パッド22との間に摩擦力が加わる。ベースプレート21の収容室25に収容されている摺動パッド22は、この摩擦力によって回転軸部材12の回転方向に応じてベースプレート21の周方向へ移動する。例えば回転軸部材12が図5に示す矢印R1の正方向へ回転すると、これにつれて摺動パッド22も矢印R1方向へ移動する。摺動パッド22が移動すると、回転方向において後方側に位置するころ部材27はベースプレート21の凹部29に入り込む。このように後方側のころ部材27が凹部29に入り込むと、ベースプレート21と摺動パッド22との間は前方側のころ部材26によって支持される。つまり、後方側のころ部材27は、凹部29に入り込むことによって摺動パッド22の支持から解放される。その結果、摺動パッド22は、前方側のころ部材27との接点を荷重支持点P1として傾斜する。
【0030】
一方、回転軸部材12が図6に示す矢印R2の逆方向へ回転すると、これにつれて摺動パッド22も矢印R2方向へ移動する。摺動パッド22が移動すると、回転方向において後方側に位置するころ部材26はベースプレート21の凹部29に入り込む。このように後方側のころ部材26が凹部29に入り込むと、ベースプレート21と摺動パッド22との間は前方側のころ部材27によって支持される。つまり、後方側のころ部材26は、凹部29に入り込むことによって摺動パッド22の支持から解放される。その結果、摺動パッド22は、前方側のころ部材26との接点を荷重支持点P2として傾斜する。
【0031】
このように、摺動パッド22は、回転軸部材12の回転にともなって周方向へ移動することによって、ころ部材26との接点である荷重支持点P1又はころ部材27との接点である荷重支持点P2のいずれか一方を支点として傾斜しつつ荷重を受ける。つまり、摺動パッド22が荷重を受ける荷重支持点P1又はP2の位置は、回転軸部材12の正方向又は逆方向への回転にしたがってベースプレート21の周方向へずれる。これとともに、ころ部材26又はころ部材27の他方は、凹部29に入り込むことによって摺動パッド22の支持から解放される。その結果、摺動パッド22は、回転方向の変化にともなって荷重支持点P1又はP2へ荷重を受ける点の位置が変化しても、正方向の回転時と逆方向の回転時とで対称な傾斜姿勢となる。これにより、摺動パッド22は、荷重支持点P1又は荷重支持点P2へ位置が変化しても、設定距離に変化が生じない。これにより、カラー部材14の摺動面15に対する上端面24の位置は変化が生じない。つまり、摺動パッド22の支持から解放された側のころ部材26又はころ部材27は、凹部29に進入することにより、設定距離つまり摺動パッド22の上端面24の位置に影響を与えない。
【0032】
回転軸部材12の回転方向が変化しても設定距離が変化しないため、摺動パッド22は回転方向に応じた適正な傾斜を生じる。これにより、カラー部材14の摺動面15と摺動パッド22との間の距離は、回転軸部材12の回転方向にかかわらず一定に維持される。そのため、摺動パッド22は、相手となるカラー部材14との間に安定した潤滑油の油膜が形成される。これとともに、回転軸部材12の回転方向にかかわらず摺動パッド22の上端面24の位置つまりカラー部材14の摺動面15までの位置が変化しないことから、摺動パッド22に加わる荷重は均一化される。
【0033】
上記のような姿勢の安定を図るために、本実施形態では、摺動パッド22のオフセット量Eは、次の関係を満たしている。
図7に示すようにベースプレート21と摺動パッド22との間の相対的な移動方向におけるオフセット量は、任意の設計値であるオフセット量Eとして設定される。このオフセット量Eは、ベースプレート21と摺動パッド22との間の相対的な移動方向において、摺動パッド22の中心Pcが凹部29の中心と一致する位置からころ部材26又はころ部材27のいずれか一方が凹部29に進入するまでの摺動パッド22の移動距離に相当する。そして、オフセット量Eを設定したとき、回転軸部材12つまりベースプレート21の周方向において、一対のころ部材26ところ部材27との間隔はAとする。また、同様に、ベースプレート21の周方向において凹部29の幅はCとする。
このとき、これらの間には、
0<(A−2E)<C<A
が成立する。
【0034】
つまり、このオフセット量Eを設定したとき、間隔A及び幅Cは、摺動パッド22の移動にともなってころ部材26及びころ部材27の双方が同時に凹部29へ進入しないように上記の式を満たす範囲で設定される。例えば相対的な移動方向における摺動パッド22の全長をBとすると、オフセット量Eは、0<E≦0.2B、特にE=0.1B程度に設定することが好ましい。
【0035】
このように、ころ部材26ところ部材27との間隔A、凹部29の幅C、及びオフセット量Eを設定することにより、摺動パッド22が正方向又は逆方向のいずれかに移動したとき、一対のころ部材26又はころ部材27のうちの一方が凹部29に進入する。つまり、上記の条件を満たすことにより、ころ部材27が凹部29に進入しているときころ部材26が摺動パッド22から荷重を受けるのに対し、ころ部材26が凹部29に進入しているときころ部材27が摺動パッド22から荷重を受ける。このように、ころ部材26及びころ部材27は、同時に凹部29に進入することがない。
【0036】
以上説明した第1実施形態では、回転軸部材12の正方向の回転における摺動パッド22の荷重支持点P1と、逆方向の回転における摺動パッド22の荷重支持点P2とは、位置が異なる。つまり、荷重支持点P1又は荷重支持点P2の位置は、回転軸部材12の回転方向によって変化する。そのため、摺動パッド22は、回転軸部材12の回転方向に応じた適正な傾斜を生じることとなり、相手となる回転軸部材12のカラー部材14との間に安定した潤滑油の油膜が形成される。そして、摺動パッド22は、荷重支持点P1又は荷重支持点P2の位置が変化しても、摺動パッド22の支持から解放されたころ部材26又はころ部材27が凹部29へ進入することにより、設定距離が変化しない。つまり、摺動パッド22の上端面24とカラー部材14の摺動面15との間の距離が変化しない。したがって、回転軸部材12の正方向及び逆方向への回転に対応しつつ、摺動パッド22に加わる荷重の均一化を図ることができる。
【0037】
また、第1実施形態では、支持部材23を構成するころ部材26及びころ部材27は、回転軸部材12つまりベースプレート21の周方向において摺動パッド22の各端部にそれぞれ設けられている。これにより、一対のころ部材26又はころ部材27のうち一方が正方向への回転における傾斜支持点P1となり、他方のころ部材27が逆方向への回転における傾斜支持点P2となる。したがって、簡単な構成で回転軸部材12の正方向及び逆方向の回転に対応して安定した油膜を形成することができる。
【0038】
第1実施形態では、ベースプレート21は、摺動パッド22側の面に凹部29を有している。このように、ベースプレート21に凹部29を設けることにより、回転軸部材12の回転方向に応じて一対のころ部材26又はころ部材27のうちのいずれか一方が凹部29に進入する。そして、凹部29に進入していないころ部材26又はころ部材27は、摺動パッド22の荷重支持点P1又は荷重支持点P2となる。さらに、荷重支持点P1又は荷重支持点P2とならないころ部材26又はころ部材27が凹部29に進入することにより、設定距離は回転軸部材12の回転方向の変化によって荷重支持点P1又は荷重支持点P2に変化しても一定になる。したがって、回転軸部材12の正方向及び逆方向への回転に対応しつつ、摺動パッド22に加わる荷重の均一化を図ることができる。
【0039】
第1実施形態の軸受装置10では、一対のころ部材26ところ部材27との間隔A、凹部の幅C、及びオフセット量Eを設定している。これにより、回転軸部材12の回転方向の変化にともなって荷重支持点P1又は荷重支持点P2の位置が変化しても、一対のころ部材26又はころ部材27のうち荷重支持点P1又は荷重支持点P2とならない方は凹部29に進入して摺動パッド22の傾斜を妨げない。したがって、摺動パッド22の適正な姿勢を確保することができる。
【0040】
第1実施形態では、支持部材23は、一対のころ部材26及びころ部材27で構成している。ころ部材26及びころ部材27は、回転軸部材12の回転方向の変化によって摺動パッド22に加わる力が変化すると、円滑に摺動パッド22を案内し、荷重支持点P1又は荷重支持点P2を変更する。したがって、回転軸部材12の回転方向の変化に対応して摺動パッド22の傾斜を容易に変更することができる。
【0041】
第1実施形態では、一対のころ部材26及びころ部材27は、保持部材28によって相対的な位置が保持されている。これにより、一対のころ部材26及びころ部材27の位置関係は一定に保持することができる。
【0042】
(第2実施形態)
第2実施形態による軸受装置を図8に示す。
第2実施形態では、図8に示すように軸受装置10は、位置決め部材41を備えている。
位置決め部材41は、ベースプレート21、摺動パッド22及び支持部材23の相互間における位置関係を保持する。具体的には、位置決め部材41は、図8(A)に示すようにガイド部42、ガイド部43及びガイド部44を有している。ガイド部42は、ベースプレート21に設けられている突部45と噛み合う。また、ガイド部43は、摺動パッド22に設けられている突部46と噛み合う。さらに、ガイド部43は、一対のころ部材26及びころ部材27を保持する保持部材28に設けられている突部47と噛み合う。ガイド部42と突部45、ガイド部43と突部46、及びガイド部44と突部47とは、いずれも相対的に回転可能に噛み合っている。これにより、摺動パッド22、並びに支持部材23を構成するころ部材26及びころ部材27は、ベースプレート21に対する位置関係が位置決め部材41によって保持される。
【0043】
また、位置決め部材41のガイド部42、ガイド部43、ガイド部44は、図8(B)及び図8(C)に示すように丸穴形状、長円形状、開口した長円形状など、位置関係を保持するという機能を発揮可能であれば任意の形状に変更してもよい。
【0044】
第2実施形態では、位置決め部材41を備えている。これにより、ベースプレート21、摺動パッド22、並びに支持部材23を構成するころ部材26及びころ部材27は、相互間における位置関係が一定に保持される。したがって、ベースプレート21に対する摺動パッド22の位置、及び回転軸部材12の回転方向の変化にともなう摺動パッド22の姿勢の変化を所望の範囲に収めることができる。
【0045】
(その他の実施形態)
上述した複数の実施形態の軸受装置10は、次のように変更することができる。
図9に示すように支持部材23は、摺動パッド22と一体に組み付けられた滑り部材51であってもよい。この場合、滑り部材51は、摺動パッド22からベースプレート21側に突出する半球状又は球状に形成されている。滑り部材51は、ベースプレート21の周方向において摺動パッド22の各端部にそれぞれ設けられている。このように、支持部材23は、回転しながら摺動パッド22を案内する構成に代えて、滑りながら摺動パッド22を案内する構成としてもよい。また、滑り部材51を摺動パッド22と一体に設けることにより、第1実施形態における保持部材28を省略することができる。
【0046】
また、図10に示すように支持部材23を構成する滑り部材52は、摺動パッド22からベースプレート21側に突出する円柱状に形成してもよい。これにより、摺動パッド22は、円柱状の滑り部材52によって滑りながら案内される。さらに、この滑り部材52は、図11に示すように回転軸部材12つまりベースプレート21の中心から放射状に形成してもよい。このように滑り部材52を放射状に形成する場合、滑り部材52の間隔はベースプレート21の径方向の中心における距離aに相当する。
【0047】
図12に示すようにベースプレート21に形成する凹部29の形状は、支持部材23の動きを阻害しないのであれば必ずしも平面に限らない。つまり、凹部29は、図1に示すように平坦な傾斜面を挟んだ平坦な底面に限らない。図12(A)に示すように凹部29は、窪んだ傾斜面だけで構成してもよい。また、凹部29の底部との間に設けられる傾斜面は、平坦な面に限らず、曲面であってもよい。図12(B)に示すように凹部29は、窪んだ傾斜面だけで構成してもよい。図12(C)に示すように凹部29は、窪んだ曲面だけで構成してもよい。さらに、図12(D)に示すように凹部29は、底面の両端に溝状の部分を有してもよい。
【0048】
図13に示すように制限部は、壁部31又は壁部32に代えて支持部材23の移動を制限する突出部61であってもよい。つまり、制限部は、第1実施形態のようにベースプレート21の周方向において収容室25の両端に設けられている壁部31又は壁部32に限らず、支持部材23の移動を制限可能な形状であれば任意に設定することができる。
【0049】
以上説明した本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態に適用可能である。
例えば上記の複数の実施形態では、軸受装置10の回転軸部材12を軸方向で支持するスラスト軸受として適用する例について説明した。しかし、各実施形態による軸受装置10は、回転軸部材12を径方向外側から支持するジャーナル軸受に適用してもよい。
なお、上記において、荷重支持点は、摺動パッド22を側面から見たときに点となることから、「点」として表現している。また、第1実施形態のように車輪形状のころ部材26、27を用いる場合も、荷重支持点は側面視において点となる。しかし、例えば棒状のころ部材などを用いる場合、荷重支持点は回転軸部材12の径方向へ延びる線状となることもある。このように、荷重支持点は、「点」という表現を用いているものの、支持部材23の形状によって線状となってもよい。
【符号の説明】
【0050】
図面中、10は軸受装置、11は回転動機、12は回転軸部材、13はロータ、21はベースプレート、22は摺動パッド、23は支持部材、24は上端面、26、27はころ部材、28は保持部材、29は凹部、31、32は壁部(制限部)、41は位置決め部材、51、52は滑り部材、61は突出部(制限部)を示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13