(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6824269
(24)【登録日】2021年1月14日
(45)【発行日】2021年2月3日
(54)【発明の名称】プロペンおよび過酸化水素から1,2−プロパンジオールを製造するための方法
(51)【国際特許分類】
C07C 29/08 20060101AFI20210121BHJP
C07C 31/20 20060101ALI20210121BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20210121BHJP
【FI】
C07C29/08
C07C31/20 Z
!C07B61/00 300
【請求項の数】22
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2018-526922(P2018-526922)
(86)(22)【出願日】2016年11月1日
(65)【公表番号】特表2018-536665(P2018-536665A)
(43)【公表日】2018年12月13日
(86)【国際出願番号】EP2016076270
(87)【国際公開番号】WO2017089075
(87)【国際公開日】20170601
【審査請求日】2019年5月23日
(31)【優先権主張番号】15196268.5
(32)【優先日】2015年11月25日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ホルガー ヴィーダーホルト
(72)【発明者】
【氏名】ダーフィト ボルツ
(72)【発明者】
【氏名】ベアント イエーガー
(72)【発明者】
【氏名】ハンス−ユルゲン ケーレ
(72)【発明者】
【氏名】ゼバスティアン イム
(72)【発明者】
【氏名】ゲオアク フリードリヒ ティーレ
【審査官】
高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】
特表2018−508506(JP,A)
【文献】
特表2018−513834(JP,A)
【文献】
特開昭56−018972(JP,A)
【文献】
特表2002−522402(JP,A)
【文献】
特開2011−025224(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0203015(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0025637(US,A1)
【文献】
米国特許第04308409(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 29/08
C07C 31/20
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロペンおよび過酸化水素から1,2−プロパンジオールを製造するための方法であって、以下の工程
a)プロペン(1)と過酸化水素(2)を、相間移動触媒およびヘテロポリタングステン酸塩を含む触媒混合物(3)の存在下に反応させ、ここで、反応を、最大6のpHを有する水性相と有機相とを含む液体の混合物(6)中で実施する工程、
b)工程a)の2相の混合物(6)を、水性相P1(8)とプロペンオキシドを含む有機相P2(9)とに分離する工程、
c)分離された有機相P2(9)中に含まれるプロペンオキシドを工程a)の反応に返送する工程、ならびに
d)工程b)で分離された水性相P1(8)から1,2−プロパンジオール(20)を分離させる工程
を含む方法。
【請求項2】
工程c)において、分離された有機相P2(9)中に含まれるヘテロポリタングステン酸塩を、工程a)の反応に返送することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
工程a)において、前記水性相のpHを、1.0から3.5までの範囲に保つことを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
工程d)において、水性相P1(8)を、ナノろ過(10)により、ヘテロポリタングステン酸塩が濃縮された保持液(11)と、ヘテロポリタングステン酸塩が減少した透過液(12)とに分離し、保持液(11)を工程a)の反応に返送し、かつ透過液(12)から1,2−プロパンジオール(20)を分離することを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
工程a)において、前記反応を、100℃超の沸点および250mg/kg未満の20℃での水溶解度を有する少なくとも1種の溶媒の存在下に実施することを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記溶媒は、エポキシ化脂肪酸メチルエステルを含むことを特徴とする、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記溶媒は、8個から12個までの炭素原子を有するアルキル化芳香族炭化水素を含むことを特徴とする、請求項5記載の方法。
【請求項8】
工程b)で分離された有機相P2(9)を、すべてまたは部分的に工程a)の反応に返送することを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
工程c)において、有機相P2(9)を、すべてまたは部分的に、ナノろ過(24)により、ヘテロポリタングステン酸塩が濃縮された保持液(25)と、ヘテロポリタングステン酸塩が減少した透過液(26)とに分離し、かつ保持液(25)を工程a)の反応に返送することを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
有機相P2(9)を、ナノろ過(24)により、ヘテロポリタングステン酸塩が濃縮された保持液(25)と、ヘテロポリタングステン酸塩が減少した透過液(26)とに分離し、透過液(26)から、蒸留(27)により、未反応のプロペンおよび中間生成物として形成されたプロペンオキシドを含む流S1(28)を分離し、かつこの流S1(28)を工程a)の反応に返送することを特徴とする、請求項9記載の方法。
【請求項11】
有機相P2(9)を、蒸留(27)により、未反応のプロペンおよび中間生成物として形成されたプロペンオキシドを含む流S1(28)と、プロペンおよびプロペンオキシドが減少した流S2(29)とに分離し、流S2(29)を、ナノろ過(24)により、ヘテロポリタングステン酸塩が濃縮された保持液(25)と、ヘテロポリタングステン酸塩が減少した透過液(26)とに分離し、かつ流S1(28)を工程a)の反応に返送することを特徴とする、請求項9記載の方法。
【請求項12】
工程d)において、1,2−プロパンジオールの分離の前に、過酸化物を接触水素化(14)により除去することを特徴とする、請求項1から11までのいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
工程d)において、工程b)で分離された水性相P1(8)と液体のプロペン(1)とを接触させて水性相P3(32)および有機相P4(33)を得て、有機相P4(33)を工程a)の反応に返送し、かつ水性相P3(32)から1,2−プロパンジオールを分離することを特徴とする、請求項1から12までのいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
プロペン(1)を工程d)においてのみ前記方法に供給することを特徴とする、請求項13記載の方法。
【請求項15】
プロペンをプロパンとの混合物として使用することを特徴とする、請求項1から14までのいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
工程a)を連続的に実施し、かつ前記水性相中の過酸化水素の濃度は、0.1質量%から5質量%までの範囲にあることを特徴とする、請求項1から15までのいずれか1項記載の方法。
【請求項17】
工程a)を、固定式の内部構造物を有するループ反応器内で連続的に実施して、液体の混合物(6)を内部構造物上で乱流を発生させる流量でループ反応器に通すことを特徴とする、請求項1から16までのいずれか1項記載の方法。
【請求項18】
前記ヘテロポリタングステン酸塩は、ポリタングストリン酸塩であることを特徴とする、請求項1から17までのいずれか1項記載の方法。
【請求項19】
前記ポリタングストリン酸塩は、工程a)においてin situでリン酸およびタングステン酸ナトリウムから生成されることを特徴とする、請求項18記載の方法。
【請求項20】
リン酸およびタングステン酸ナトリウムを、1:2から10:1までのモル比で使用することを特徴とする、請求項19記載の方法。
【請求項21】
前記相間移動触媒は、構造R1R2R3R4N+の第三級アンモニウムイオンまたは第四級アンモニウムイオンを有する少なくとも1種の塩を含み、ここで、
R1は、基Y−O(C=O)R5であり、ここで、Yは、基CH2CH2、CH(CH3)CH2およびCH2CH(CH3)の1つを表し、R5は、11個から21個までの炭素原子を有するアルキル基またはアルケニル基であり、
R2は、水素または1個から4個までの炭素原子を有するアルキル基であり、ならびに
R3およびR4は、互いに無関係にR1、1個から4個まで炭素原子を有するアルキル基またはY−OHであることを特徴とする、請求項1から20までのいずれか1項記載の方法。
【請求項22】
工程b)を気相の存在下に実施し、かつ不活性ガス(22)の供給および気流(23)の取り出しにより、この気相の酸素含有率を7体積%未満に保つことを特徴とする、請求項1から21までのいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロペンおよび過酸化水素から1,2−プロパンジオールを製造するための方法であって、プロペンオキシドの単離および精製を必要としない方法に関する。
【0002】
1,2−プロパンジオールは、工業的にプロペンオキシドと水との反応により製造される。プロペンオキシドは、工業的にプロペンのエポキシ化により製造される。確立された方法では、プロペンオキシドは、1,2−プロパンジオールに変換される前に、エポキシ化の反応混合物から単離および精製される。
【0003】
プロペンと過酸化水素を、溶媒であるメタノール中のチタンシリカライトの存在下で反応させるHPPO法によるプロペンオキシドの製造では、副生成物として1,2−プロパンジオールおよび1,2−プロパンジオールモノメチルエーテルが得られる。国際公開第04/009568号(WO04/009568)では、HPPO法の反応混合物から蒸留により粗プロペンオキシドを95%から99%までの含有率で製造し、これをさらに精製せずに水と反応させて1,2−プロパンジオールに変換させて、蒸留の底部生成物から分離された副生成物と共に1,2−プロパンジオールを精製することが提案される。この方法でも、プロペンオキシドは単離されて、別個の反応器内で1,2−プロパンジオールに変換される。
【0004】
J. Guojie等は、Chinese Journal of Catalysis 26(2005)1005〜1010において、触媒である第四級アンモニウムヘテロポリリンタングステン酸塩の存在下での、溶媒であるCHCl
3を含む2相の反応混合物またはトルエンおよびリン酸トリブチルの混合物における、プロペンの過酸化水素によるエポキシ化を記載している。プロペンオキシドの選択性の改善のために、K
2HPO
4またはNa
2HPO
4が添加物として添加される。添加物の添加なしでは、1,2−プロパンジオールは、プロペンオキシドよりも多く得られ、1,2−プロパンジオールの選択性は、41.2%および56.3%である。
【0005】
J. Kaur等は、Catal. Commun. 5(2004)709〜713において、プロペンの過酸化水素による、メチルトリオクチルアンモニウムペルオキソポリタングステン酸塩の存在下でのエポキシ化を記載している。エポキシ化は、界面活性剤Brij(登録商標)30の添加により製造されたマイクロエマルション中か、または1,2−ジクロロエタンを溶媒として含む2相系中で実施される。2相系の場合は、触媒の再利用のために相が分離され、有機相は、水で抽出されて、プロペンオキシドおよび未反応のプロペンは、窒素による60℃でのパージにより除去される。マイクロエマルションの場合は、触媒の再利用のために、触媒および水の分離のために膜限外ろ過が提案される。
【0006】
S. R. Chowdhury等(Chem. Eur. J. 12(2006)3061〜3066)は、触媒である[CH
3N(C
8H
17)
3]
12[WZn
3(ZnW
9O
34)
2]および溶媒であるトルエンの存在下でのシクロオクテンの過酸化水素によるエポキシ化、ならびに2.3nmおよび4.3nmの平均細孔半径を有する酸化アルミニウム膜によるろ過による触媒の分離を記載している。2.3nmの平均細孔半径を有する酸化アルミニウム膜によってNa
12[WZn
3(ZnW
9O
34)
2]も水溶液から分離された。
【0007】
S. S. Luthra等(J. Membr. Sci. 201(2002)65〜75)は、相間移動触媒であるテトラ−n−ブチルアンモニウムブロミドおよびテトラ−n−オクチルアンモニウムブロミドのトルエンからのナノろ過による分離を記載している。
【0008】
ここで、プロペンと過酸化水素は、相間移動触媒およびヘテロポリタングステン酸塩からの組み合わせとの反応が2種の液相を有する反応混合物中で実施され、水性相のpHが6以下に保たれ、反応混合物の有機相中に含まれるプロペンオキシドが反応器に返送されて、1,2−プロパンジオールが水性相から分離される場合に、高い収率および選択性で1つの段階において1,2−プロパンジオールに変換できることが判明した。
【0009】
したがって、本発明の対象は、プロペンおよび過酸化水素から1,2−プロパンジオールを製造するための方法であって、以下の工程
a)プロペンと過酸化水素を、相間移動触媒およびヘテロポリタングステン酸塩を含む触媒混合物の存在下で反応させ、ここで、反応を、最大6のpHを有する水性相と有機相とを含む液体の混合物中で実施する工程、
b)工程a)の2相の混合物を水性相P1と有機相P2に分離する工程、
c)分離された有機相P2中に含まれるプロペンオキシドを工程a)の反応に返送する工程、ならびに
d)工程b)で分離された水性相P1から1,2−プロパンジオールを分離する工程
を含む方法である。
【0010】
本発明による方法では、工程a)において、プロペンと過酸化水素は、相間移動触媒およびヘテロポリタングステン酸塩を含む触媒混合物の存在下に反応される。反応は、水性相および有機相の2種の液相を含む液体の混合物中で実施される。
【0011】
プロペンは、純粋な形態として使用されるか、またはプロパンとの混合物として使用されてよく、ここで、プロパンの割合は、最大20mol%であってよい。好ましくは、使用されるプロペン中のプロパンの割合は、5mol%未満である。
【0012】
過酸化水素は、好ましくは10質量%から80質量%までの過酸化水素の含有率を有する、特に好ましくは30質量%から70質量%までの過酸化水素の含有率を有する水溶液の形態として使用される。本発明による方法では、過酸化水素の製造のためのアントラキノン法で抽出段階において得られる過酸化水素−粗生成物が使用されてよい。
【0013】
水性相は、水、未反応の過酸化水素および形成された1,2−プロパンジオールを含む。有機相は、プロペンおよび中間生成物として形成されたプロペンオキシドを含み、さらに、使用されたプロペンに由来するプロパンを含むことがある。さらに、有機相は、少なくとも1種の、水と混合不可能な溶媒を含むことがある。
【0014】
本発明による方法で使用される触媒混合物は、ヘテロポリタングステン酸塩を含み、ここで、ヘテロ原子は、好ましくはリンまたはヒ素であり、特に好ましくはリンであり、すなわち、特に好ましくは、ヘテロポリタングステン酸塩は、ポリタングストリン酸塩である。ヘテロポリタングステン酸塩は、当該技術分野の当業者に公知である。最も好ましいのは、1:2から1:12までの範囲のリン対タングステンのモル比を有するポリタングストリン酸塩である。好ましくは、ポリタングストリン酸塩は、工程a)における液体の混合物中で、in situでリン酸およびタングステン酸ナトリウムから生成され、ここで、リン酸およびタングステン酸ナトリウムは、好ましくは1:2から10:1まで、特に好ましくは4:1から8:1までの範囲のリン対タングステンのモル比で使用される。ポリタングストリン酸塩からは、過酸化水素を含む水性相中で、ペルオキソタングテン酸塩およびペルオキソタングストリン酸塩、例えばPO
4[WO(O
2)
2]
43-およびHPO
4[WO(O
2)
2]
22-ならびにそれらの部分的にプロトン化された形態が形成される。
【0015】
本発明による方法で使用される触媒混合物は、さらに相間移動触媒を含む。相間移動触媒は、カチオンまたは水性相中でカチオンを形成する化合物を含み、ここで、カチオンは、ペルオキソタングステン酸塩またはヘテロポリペルオキソタングステン酸塩と、有機相に可溶性の塩を形成することができる。好ましくは、相間移動触媒は、単一荷電カチオンまたは水性相中で単一荷電カチオンを形成する化合物を含む。相間移動触媒としては、第四級アンモニウム塩、第三級アミンまたは第四級ホスホニウム塩が好適である。好適な第四級アンモニウム塩は、アルキル基中に合計少なくとも12個の炭素原子を有するテトラアルキルアンモニウム塩、例えばドデシルトリメチルアンモニウム塩、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム塩、オクタデシルトリメチルアンモニウム塩、メチルトリブチルアンモニウム塩およびメチルトリオクチルアンモニウム塩である。好適であるのは、一価アニオンまたは二価アニオン、例えば塩化物、臭化物、硝酸塩、硫酸塩、リン酸水素塩、リン酸二水素塩、メチルスルホン酸塩、硫酸メチルおよび硫酸エチルを有する第四級アンモニウム塩である。好適な第三級アミンは、ドデシルジメチルアミン、ヘキサデシルジメチルアミン、オクタデシルジメチルアミン、トリブチルアミンおよびトリオクチルアミンである。相間移動触媒は、好ましくは、液体の混合物中で0.2:1から3:1まで、特に好ましくは0.4:1から1:1までの範囲の相間移動触媒対タングステンのモル比になるような量で使用され、ここで、モル比は、使用される相間移動触媒中に含まれるカチオンまたはカチオン形成化合物、およびタングステンの使用量を基準とする。
【0016】
好ましい実施形態では、相間移動触媒は、構造R
1R
2R
3R
4N
+の第三級アンモニウムイオンまたは第四級アンモニウムイオンを有する少なくとも1種の塩を含み、ここで、R
1は、Y−O(C=O)R
5であり、ここで、Yは、基CH
2CH
2、CH(CH
3)CH
2およびCH
2CH(CH
3)を表し、R
5は、11個から21個までの炭素原子を有するアルキル基またはアルケニル基であり、R
2は、水素または1個から4個までの炭素原子を有するアルキル基であり、ならびにR
3およびR
4は、互いに無関係にR
1、1個から4個までの炭素原子を有するアルキル基またはY−OHである。好ましいのは、R
2がメチル基であり、R
5が直鎖のアルキル基またはアルケニル基である、硫酸メチルをアニオンとして有する第四級アンモニウム塩である。特に好ましいのは、塩(CH
3)
3N
+CH
2CH
2O(C=O)R
5CH
3OSO
3-、(CH
3)
2N
+(CH
2CH
2OH)(CH
2CH
2O(C=O)R
5)CH
3OSO
3-、(CH
3)
2N
+(CH
2CH
2O(C=O)R
5)
2CH
3OSO
3-、CH
3N
+(CH
2CH
2OH)
2(CH
2CH
2O(C=O)R
5)CH
3OSO
3-、CH
3N
+(CH
2CH
2OH)(CH
2CH
2O(C=O)R
5)
2CH
3OSO
3-、CH
3N
+(CH
2CH
2O(C=O)R
5)
3CH
3OSO
3-、(CH
3)
3N
+CH
2CH(CH
3)O(C=O)R
5CH
3OSO
3-、(CH
3)
2N
+(CH
2CH(CH
3)OH)(CH
2CH(CH
3)O(C=O)R
5)CH
3OSO
3-および(CH
3)
2N
+(CH
2CH(CH
3)O(C=O)R
5)
2CH
3OSO
3-であり、ここで、それぞれR
5は、11個から21個までの炭素原子を有する直鎖のアルキル基またはアルケニル基である。最も好ましいのは、塩(CH
3)
2N
+(CH
2CH(CH
3)O(C=O)R
5)
2CH
3OSO
3-であり、ここで、R
5は、11個から17個までの炭素原子を有するアルキル基またはアルケニル基である。この実施形態の相間移動触媒は、エタノールアミン、イソプロパノールアミン、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリエタノールアミンまたはトリイソプロパノールアミンの脂肪酸でのエステル化、およびそれに続く、硫酸ジメチルによる第四級化により製造することができ、テトラアルキルアンモニウム塩と比べて、相間移動触媒は、良好に生物分解可能であり、かつ本発明による方法で生じる廃水は、さらなる前処理なしに生物浄化装置に供給できるという利点がある。アニオンとして硫酸メチルを有する好ましい塩を使用して、さらに、反応混合物の腐食性を、テトラアルキルアンモニウムハロゲン化物と比べて低下させることができる。相間移動触媒は、この実施形態では、好ましくは、エタノールおよび2プロパノールから選択される少なくとも1種の溶媒と混合されて、反応の液体の混合物に添加される。これらの溶媒の使用により、相間移動触媒は、より良く供給され、かつ液体の混合物中に分散されうる。
【0017】
相間移動触媒およびヘテロポリタングステン酸塩は、反応に、混合物としてか、または互いに別個に供給されてよい。好ましくは、相間移動触媒およびヘテロポリタングステン酸塩は、工程a)において別個に供給される。
【0018】
プロペンと過酸化水素との反応は、最大6の水性相のpHで実施される。好ましくは、水性相のpHは、1.0から3.5までの範囲、特に好ましくは2.0から3.0までの範囲に保たれる。ここで、pHは、酸、好ましくは硫酸もしくはリン酸の添加によるか、または塩基、好ましくは苛性ソーダ液の添加により、この範囲に保つことができる。ここで、pHという用語は、ガラス電極で測定された見掛けpH値を指しており、ここで、ガラス電極は、水性緩衝溶液で較正される。pH値の好ましい範囲内での調節により、1,2−プロパンジオールの高い選択性を達成することができ、プロペンオキシドの水性相中での濃縮を防ぐことができ、このことにより、その後の1,2−プロパンジオールの水性相からの分離が簡素化される。
【0019】
プロペンと過酸化水素との反応は、好ましくはモル過剰のプロペンで実施され、ここで、プロパンは、好ましくは、1.1:1から10:1までのプロペン対過酸化水素のモル比で使用される。
【0020】
反応は、好ましくは、30℃から100℃まで、特に好ましくは70℃から90℃までの範囲の温度で実施される。反応は、好ましくは、反応の温度でのプロペンの飽和蒸気圧よりも高い圧力で行われるため、プロペンの大部分は、液体の混合物の有機相として存在している。
【0021】
プロペンと過酸化水素との反応は、溶媒を添加して実施されるか、または溶媒を添加せずに実施されてよい。好ましくは、反応は、100℃超、好ましくは120℃超の沸点、ならびに250mg/kg未満の20℃での水溶解度を有する、少なくとも1種の溶媒の存在下に実施される。溶媒としては、1個または複数個のヒドロキシ基を有するアルコール、エーテル、エステル、ケトンまたはアルキル化芳香族炭化水素が使用されてよい。溶媒の使用により、有機相中のヘテロポリタングステン酸塩の割合を増加させることができる。好ましくは、溶媒の割合は、有機相中の溶媒の割合が、反応の間、10質量%から90質量%までの範囲にあるように選択される。
【0022】
特に好ましい実施形態では、溶媒は、エポキシ化脂肪酸メチルエステルを含む。さらに、エポキシ化脂肪酸メチルエステルの代わりに、不飽和脂肪酸基を有する相応の脂肪酸メチルエステルが使用されてもよく、不飽和脂肪酸基を有する相応の脂肪酸メチルエステルは、工程a)の液体の混合物中でエポキシ化脂肪酸メチルエステルに変換される。最も好ましいのは、脂肪酸基が植物油、とりわけ大豆油に由来するエポキシ化脂肪酸メチルエステルである。エポキシ化脂肪酸メチルエステルは、それらが水性相にほとんど溶けないこと、および反応の水性相からの溶媒の分離が必要ではないことが利点である。
【0023】
さらなる好ましい実施形態では、溶媒は、8個から12個までの炭素原子を有するアルキル化芳香族炭化水素を含む。好適なアルキル化芳香族炭化水素は、例えば1,2−ジメチルベンゼン(o−キシレン)、1,3−ジメチルベンゼン(m−キシレン)、1,4−ジメチルベンゼン(p−キシレン)、エチルベンゼン、1,2,3−トリメチルベンゼン、1,2,4−トリメチルベンゼン、1,3,5−トリメチルベンゼン(メシチレン)、1−エチル−2−メチルベンゼン、1−エチル−3−メチルベンゼンおよび1−エチル−4−メチルベンゼンおよびn−プロピルベンゼンである。好ましくは、溶媒として、50質量%超、特に好ましく80質量%超の、8個から12個までの炭素原子を有するアルキル化芳香族炭化水素を含む炭化水素混合物が使用される。8個から12個までの炭素原子を有するアルキル化芳香族炭化水素を含む溶媒の使用により、ヘテロポリタングステン酸塩の、反応混合物の有機相への充分な抽出を達成することができるため、有機相に含まれるヘテロポリタングステン酸塩の改善された返送、およびヘテロポリタングステン酸塩の、プロペンと過酸化水素との反応の有機相からの簡素化された回収を達成することができる。
【0024】
相間移動触媒、相間移動触媒のヘテロポリタングステン酸塩に対するモル比、ヘテロポリタングステン酸塩のヘテロ原子のタングステンに対するモル比、プロペンの過酸化水素に対するモル比、ならびに任意に使用される溶媒の種類および量は、好ましくは、液体の混合物中に存在しているタングステンの可能な限り多くの部分が、相間移動触媒により液体の混合物の有機相に移されるように選択される。好ましくは、そのためには、アルカノールアミン脂肪酸エステルをベースとする上述の相間移動触媒の1種が、溶媒としてエポキシ化脂肪酸メチルエステルまたは50質量%超の、8個から12個までの炭素原子を有するアルキル化芳香族炭化水素を有する炭化水素混合物との組み合わせで使用される。
【0025】
プロペンと過酸化水素との反応は、回分式または連続的に実施されてよく、ここで、連続的な反応が好ましい。連続的な反応の場合、水性相中の過酸化水素の濃度は、好ましくは0.1質量%から5質量%まで、特に好ましくは0.5質量%から3質量%までの範囲にある。過酸化水素のそのような濃度は、反応温度、プロペンの過酸化水素に対するモル比、および反応が行われる反応器内での液体の混合物の滞留時間の選択により調節することができる。
【0026】
反応の間、液体の混合物は、好ましくは混合されて、水性相と有機相の間に高い界面が作られる。そのために、好ましくは、反応は、固定式の内部構造物を有するループ反応器内で連続的に実施されて、液体の混合物は、内部構造物上で乱流を発生させる流量でループ反応器を通される。そのために、内部構造物として、邪魔板(Blenden)、静止型混合要素、規則充填物または不規則充填物床が使用されてよい。その代替としてか、またはそれに組み合わせて、内部構造物として、熱交換器、例えばプレート式熱交換器または管束熱交換器が使用されてよく、それらにおいては、複数のプレート間または管束の複数の管内で乱流が発生する。
【0027】
本発明による方法の工程b)において、工程a)の2相の混合物は、水性相P1と有機相P2とに分離される。分離は、好ましくは分離容器内で実施され、ここで、分離の補助のために、2相の混合物に、2相の混合物中に分散して存在している相によって湿潤される表面を有する充填物または床を含む凝集要素を通過させることができる。
【0028】
液相の分離は、工程b)において好ましくは気相の存在下に実施される。工程a)における反応では、過酸化水素の分解は、酸素の形成下に起こり、気相は、その後、工程b)において酸素を含む可能性がある。したがって、発火性の気相の形成を回避するために、工程b)において、好ましくは不活性ガスの供給および気流の取り出しにより、この気相の酸素含有率は、7体積%未満に保たれる。不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、二酸化炭素またはメタンが使用されてよく、ここで、窒素が好ましい。
【0029】
本発明による方法の工程c)においては、プロペンの1,2−プロパンジオールへの可能な限り完全な変換を達成するために、有機相P2中に含まれるプロペンオキシドは、工程a)の反応に返送される。好ましくは、さらに、有機相P2中に含まれるヘテロポリタングステン酸塩は、工程a)の反応に返送され、ここで、特に好ましくは、有機相中に含まれる触媒混合物の部分は、実質的にすべて工程a)に返送される。同様に好ましくは、有機相P2中に含まれるプロペンは、工程a)の反応に返送される。プロペンがプロパンとの混合物として使用される場合、工程a)への返送では、好ましくは、有機相P2から、工程a)にプロペンとプロパンとの混合物によって供給されるのと同じ量のプロパンが分離される。したがって、工程a)における反応の連続的な実施の場合、工程a)における有機相中でのプロパンの濃縮を回避することができる。
【0030】
本発明による方法の好ましい実施形態では、工程b)で分離された有機相P2(9)は、すべてまたは部分的に工程a)の反応に返送される。
【0031】
本発明による方法のさらなる好ましい実施形態では、工程c)においては、有機相P2は、すべてまたは部分的に、ナノろ過により、ヘテロポリタングステン酸塩が濃縮された保持液と、ヘテロポリタングステン酸塩が減少した透過液とに分離され、かつ保持液が工程a)の反応に返送される。好ましくは、有機相P2全体が、ナノろ過により保持液と透過液とに分離される。ここで、ナノろ過という用語は、IUPACの命名法勧告に相応して、2nm未満の直径を有する粒子および溶解した分子を保持する膜上での圧力駆動型分離を表す。工程c)におけるナノろ過の場合、ペルオキソタングステン酸塩またはヘテロポリペルオキソタングステン酸塩および相間移動触媒のカチオンからの塩を保持液中に保持し、プロペンを透過液と共に通過させるナノろ過膜が使用される。ここで、ナノろ過は、好ましくは、保持液中で、ペルオキソタングステン酸塩またはヘテロポリペルオキソタングステン酸塩および相間移動触媒のカチオンからの塩の濃度が、飽和濃度を超えて増加しないように操作される。ナノろ過の場合、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリアミドおよびポリジメチルシロキサンのポリマーをベースとする膜が使用されてよい。好適なナノろ過膜は、例えばEvonik Membrane Extraction Technology METからPuraMem(登録商標)S600の名称で、GMT MembrantechnikからONF−2の名称で、SolSepから010306、030306、030705および030306Fの名称で、ならびにAMS TechnologiesからNanoPro(登録商標)SXの名称で商業的に入手できる。好ましくは、独国特許出願公開第19507584号明細書(DE19507584)、欧州特許出願公開第1741481号明細書(EP1741481)および国際公開第2011/067054号(WO2011/067054)から公知の複合膜が使用される。
【0032】
ナノろ過は、好ましくはクロスフローろ過として、好ましくは20℃から90℃まで、特に好ましくは40℃から80℃までの範囲の温度で行われる。膜差圧は、好ましくは2MPaから5MPaまでである。保持液側での圧力は、最大10MPaであってよい。透過液側での圧力は、好ましくは、本方法の工程a)およびb)における最小圧力より高い圧力が選択されて、透過液側での溶解された成分の脱ガス(Ausgasen)が回避される。
【0033】
同じく好ましい実施形態では、有機相P2は、ナノろ過により、ヘテロポリタングステン酸塩が濃縮された保持液と、ヘテロポリタングステン酸塩が減少した透過液とに分離され、透過液から、蒸留により、未反応のプロペンおよび中間生成物として形成されたプロペンオキシドとを含む流S1が分離されて、この流S1は、工程a)の反応に返送される。蒸留は、好ましくは、水による冷却によりプロペンを蒸留液とともに凝縮できる圧力で実施される。代替的に、蒸留は、比較的低い圧力で実施されてもよく、蒸留液と共にプロペンオキシドおよびプロペンの一部のみが凝縮されて、残留する蒸気は、プロペンの凝縮のために圧縮されてよい。この実施形態では、蒸留の底部生成物と共に、高沸点の副生成物および相間移動触媒の分解生成物を排出することができ、かつ工程a)における反応の連続的な実施の場合、水難溶性の副生成物および不純物の工程a)の有機相中での濃縮を回避することができる。ナノろ過後の流S1の蒸留分離により、中間生成物として形成されたプロペンオキシドと触媒系とのさらなる反応が加熱により行われて、副生成物がもたらされることを回避することができる。本方法の工程a)において、反応が溶媒の存在下で行われる場合、好ましくは、流S1の分離のための蒸留に続いて、この蒸留の底部生成物がさらなる蒸留に供給され、そこで、溶媒が、蒸留により分離される。分離された溶媒は、工程a)に返送されてよい。プロペンがプロパンとの混合物として使用される場合、蒸留は、好ましくは、流S1の他に、実質的にプロペンおよびプロパンからなるさらなる流が得られて、さらなる流からプロペンオキシドが分離されるように実施される。このさらなる流から、プロパンがすべてまたは部分的に分離され、ここで得られた、プロパンが分離されたか、またはプロパンが減少したプロペンは、好ましくは工程a)に返送される。ここで、好ましくは、工程a)にプロペンとプロパンとの混合物によって供給されるのと同じ量のプロパンが分離される。そのために、透過液の蒸留は2段階で実施されてよく、ここで、第一の蒸留段階では、実質的にプロペンおよびプロパンからなるさらなる流が分離され、続いて第二の蒸留段階では、流S1が分離される。しかし、好ましくは、蒸留は、側方排出部を備える1つの塔内でのみ実施され、流S1は、側方排出分として取り出され、実質的にプロペンおよびプロパンからなるさらなる流は、塔の塔頂生成物として取り出される。
【0034】
さらなる好ましい実施形態では、有機相P2は、蒸留により、未反応のプロペンおよび中間生成物として形成されたプロペンオキシドを含む流S1と、プロペンおよびプロペンオキシドが減少した流S2とに分離され、流S2は、ナノろ過により、ヘテロポリタングステン酸塩が濃縮された保持液と、ヘテロポリタングステン酸塩が減少した透過液とに分離されて、流S1は、工程a)の反応に返送される。この実施形態は、好ましくは、本方法の工程a)において反応が溶媒の存在下に行われ、その後、溶媒が流S2中に残留するように蒸留が実施される場合に用いられる。溶媒は、その後、ナノろ過の透過液から、好ましくは蒸留により分離されて、工程a)の反応に返送されてよい。前述の実施形態と比べて、ナノろ過前に流S1の分離を含む実施形態は、はるかに小さい流がナノろ過により分離されるという利点があり、このことは、ナノろ過の装置の大きさおよびエネルギー消費を小さくする。プロペンが、プロパンとの混合物として使用される場合、この実施形態では、好ましくは流S1から、さらなる蒸留により、実質的にプロペンおよびプロパンからなるさらなる流が分離されて、流S1が工程a)に返送される前に、さらなる流からプロペンオキシドが分離される。このさらなる流から、プロパンがすべてまたは部分的に分離され、ここで得られた、プロパンが分離されたか、またはプロパンが減少したプロペンが、好ましくは工程a)に返送される。好ましくは、ここで、工程a)にプロペンとプロパンとの混合物によって供給されるのと同じ量のプロパンが分離される。
【0035】
本発明による方法の工程d)では、1,2−プロパンジオールが、工程b)で分離された水性相P1から分離される。1,2−プロパンジオールの水性相からの分離は、蒸留により、好ましくは、第一段階では、水が留去され、第二段階では、第一段階の底部生成物から1,2−プロパンジオールが留去される二段階の蒸留により行われてよい。
【0036】
好ましくは、1,2−プロパンジオールの分離の前に、過酸化物が接触水素化により除去される。水素化は、好ましくは、Ru、Rh、Pd、Pt、Ag、Ir、Fe、Cu、NiおよびCoの群からの1種または複数の金属を担体上に含む、担持された水素化触媒によって行われ、ここで、担体としては、活性炭、SiO
2、TiO
2、ZrO
2、Al
2O
3およびケイ酸アルミニウムが好ましい。好ましいのは、活性金属としてルテニウムを含む水素化触媒である。接触水素化は、好ましくは、5barから300barまでの水素分圧および80℃から180℃まで、好ましくは90℃から150℃までの温度で実施される。水素化触媒は、懸濁液としてか、または固定床として使用されてよく、ここで、固定床触媒によるトリクルベッド水素化が好ましい。水素化により、1,2−プロパンジオールの蒸留分離における過酸化水素の分解による問題を回避し、かつ工程a)で形成された副生成物である1−ヒドロペルオキシ−2−プロパノール、2−ヒドロペルオキシ−1−プロパノールおよびヒドロキシアセトンを1,2−プロパンジオールに還元し、そのようにして1,2−プロパンジオールの収率を改善することができる。
【0037】
好ましくは、本発明による方法の工程d)では、水性相P1は、ナノろ過により、ヘテロポリタングステン酸塩が濃縮された保持液と、ヘテロポリタングステン酸塩が減少した透過液とに分離され、保持液は工程a)の反応に返送され、かつ透過液から1,2−プロパンジオールが分離される。工程d)のナノろ過の場合、ペルオキソタングステン酸塩およびヘテロポリペルオキソタングステン酸塩を保持液中に保持し、かつ水および1,2−プロパンジオールを透過液と共に通過させるナノろ過膜が使用される。ここで、ナノろ過は、保持液中で、ヘテロポリタングステン酸塩の溶解度限界を超過しないように行われる。工程a)における連続的な反応の場合、好ましくは、保持液と共に大量の水が工程a)に返送されるため、水性相P1中で、1,2−プロパンジオールの濃度は、10質量%から30質量%までの範囲に調節される。水の相応の返送により、一方では、工程a)におけるジプロピレングリコールおよびトリプロピレングリコールの形成が回避され、他方では、1,2−プロパンジオールと蒸留分離されなければならない水の量を低く保つことができる。ナノろ過の場合、ポリアミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホンおよびポリアミドイミドのポリマーをベースとする膜が使用されてよい。好適なナノろ過膜は、例えばGE Water & Process TechnologiesからDKシリーズの名称で、Dow Water & Process SolutionsからDOW FILMTEC(登録商標)NFの名称で、HydranauticsからESNA、ESPおよびSWCの名称で、Toray IndustriesからTM700およびTM800の名称で、SolSepからNF 010206Wの名称で、ならびにAMS TechnologiesからNanoPro(登録商標)A、NanoPro(登録商標)SおよびNanoPro(登録商標)Bの名称で商業的に入手できる。
【0038】
ナノろ過に加えて、またはその代替として、水性相P1からタングステン酸塩およびヘテロポリタングステン酸塩は、担体材料上での吸着により除去することができる。好ましくは、そのような吸着の場合、国際公開第2009/133053号(WO2009/133053)において7ページ1行目から8ページ29行目までに記載のカチオン化された無機担体材料の1種が使用される。担体材料上での吸着および担体材料上で吸着されたタングステン酸塩およびヘテロポリタングステン酸塩の回収は、好ましくは、国際公開第2009/133053号(WO2009/133053)および国際公開第2013/110419号(WO2013/110419)に記載の方法で実施される。吸着が、ナノろ過に加えて工程d)で用いられる場合、吸着は、好ましくは、担体材料の必要量を低く保つためにナノろ過の後に実施される。
【0039】
ナノろ過および担体材料上での吸着は、好ましくは、タングステン酸塩またはヘテロポリタングステン酸塩による水素化触媒の非活性化を回避するために、上述の水素化の前に実施される。
【0040】
本発明による方法の好ましい実施形態では、工程d)では、工程b)で分離された水性相P1と液体のプロペンが接触されて、水性相P3および有機相P4が得られ、有機相P4は、工程a)の反応に返送され、かつ水性相P3からは、1,2−プロパンジオールが分離される。好ましくは、この実施形態では、タングステンの水性相P1からの分離は実施されず、タングステンは、水性相P3から、好ましくは、水性相P1に関する前述のナノろ過および/または吸着により分離される。水性相P1とプロペンの接触は、好ましくは、さらなる混合反応器内で、少なくとも50%、好ましくは少なくとも80%の水性相中に含まれる過酸化水素の転換率をもたらす反応器内での滞留時間で行われる。さらなる反応器内での接触は、好ましくは、60℃から100℃までの温度および、選択された温度でプロペンの飽和蒸気圧を上回る圧力で行われる。好ましくは、水性相P1とプロペンとの接触は、連続的に運転される反応器、特に好ましくはループ反応器内で行われる。さらなる連続的に運転される反応器により、過酸化水素の高い転化率が、総じて比較的低い反応器容積で達成することができる。
【0041】
ここで、好ましくは、この実施形態では、プロペンは、工程d)においてのみ本方法に供給されて、有機相P4と共に工程a)の反応に到達する。本方法で、タングステンの半分を上回る過酸化水素の存在下に、水性相から液体のプロペンに移る相間移動触媒が使用される場合、水性相P1と液体のプロペンとの接触は、向流抽出において、好ましくは向流抽出塔内で行われてもよく、その後、水性相P1中に含まれるタングステンは、有機相P4と共に工程a)に返送される。
【0042】
図1は、ループ反応器内での工程a)における連続的な反応および工程d)における水性相のナノろ過を含む本発明による方法の1つの実施形態を示す。プロペン(1)、過酸化水素(2)および触媒混合物(3)は、反応ループに供給され、反応ループ内で、循環ポンプ(4)によって、最大6のpHを有する水性相と有機相とを含む液体の2相の混合物(6)は、冷却式管束反応器(5)を循環される。反応ループから、2相の混合物(6)の、供給された量のプロペン(1)、過酸化水素(2)および触媒混合物(3)に相当する一部が取り出され、この一部は、相分離容器(7)内で水性相P1(8)と有機相P2(9)とに分離される。有機相P2(9)は、反応ループに返送される。水性相P1(8)は、ナノろ過(10)により、ヘテロポリタングステン酸塩が濃縮された保持液(11)と、ヘテロポリタングステン酸塩が減少した透過液(12)とに分離される。保持液(11)は、反応ループに返送される。透過液(12)は、水素(13)と接触水素化(14)において反応されて、水素化された透過液(15)が得られる。水素化は、未反応の過酸化水素を水に還元し、かつ副生成物のヒドロキシアセトンを1,2−プロパンジオールに還元する。水素化された透過液(15)からは、第一の蒸留(16)において水(17)が留去されて、第一の蒸留の底部生成物(18)から、第二の蒸留(19)において1,2−プロパンジオール(20)が留去される。第二の蒸留の底部には、水溶性の高沸点物(21)、例えばジプロピレングリコールが生じる。相分離容器(7)のガス空間に不活性ガス(22)を供給して酸素含有ガス流(23)を取り出し、過酸化水素の分解により形成された酸素を排出して、ガス空間における発火性の気相の形成を回避する。
【0043】
図2は、工程c)における有機相のナノろ過およびそれに続く蒸留をさらに含む本発明による方法の1つの実施形態を示す。有機相P2(9)は、ナノろ過(24)により、ヘテロポリタングステン酸塩が濃縮された保持液(25)と、ヘテロポリタングステン酸塩が減少した透過液(26)とに分離される。保持液(25)は、工程a)の反応に返送される。透過液(26)は、第三の蒸留(27)に供給され、そこで、頂部生成物として、未反応のプロペンおよび中間生成物として形成されたプロペンオキシドを含む流S1(28)が得られる。流S1(28)は、反応ループに返送される。第三の蒸留の底部生成物(29)と共に、水難溶性の高沸点物、例えば相間移動触媒の分解生成物が排出される。
【0044】
図3は、
図2の方法と比べて、工程c)においてナノろ過および蒸留の順序が交換されている実施形態を示す。この実施形態では、有機相P2(9)は、第三の蒸留(27)に供給される。蒸留の頂部生成物として得られた、未反応のプロペンおよび中間生成物として形成されたプロペンオキシドを含む流S1(28)は、反応ループに返送される。第三の蒸留の底部生成物(29)は、ナノろ過(24)により、ヘテロポリタングステン酸塩が濃縮した保持液(25)と、ヘテロポリタングステン酸塩が減少した透過液(26)とに分離される。保持液(25)は、工程a)の反応に返送される。
【0045】
図4は、工程d)において水性相P1が再度反応器内でプロペンと接触されて、1,2−プロパンジオールが、ここで結果として生じた水性相P3から分離される実施形態を示す。この実施形態では、水性相P1(8)は、第二の反応ループに供給され、その第二の反応ループに、使用されたプロパン(1)が液体で供給されて、第二の反応ループ内で結果として生じた液体の2相の混合物が、循環ポンプによってさらなる反応器(30)を循環される。反応ループから、2相の混合物の、供給された量のプロペン(1)および水性相P1(8)に相当する一部が取り出され、この一部は、相分離容器(31)内で水性相P3(32)と有機相P4(33)とに分離される。有機相P4(33)は、工程a)の反応の反応ループに返送される。水性相P3(32)からは、ナノろ過(10)、接触水素化(14)、第一の蒸留(16)および第二の蒸留(19)により、
図1の水性相P1に関する記載の通り、1,2−プロパンジオール(20)が分離される。保持液(11)は、第一の反応ループに返送される。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【
図1】ループ反応器内での工程a)における連続的な反応および工程d)における水性相のナノろ過を含む本発明による方法の1つの実施形態を示す図
【
図2】工程c)において有機相のナノろ過およびそれに続く蒸留をさらに含む本発明による方法の1つの実施形態を示す図
【
図3】
図2の方法と比べて、工程c)においてナノろ過および蒸留の順序が交換されている実施形態を示す図
【
図4】工程d)において水性相P1が再度、反応器内でプロペンと接触されて、1,2−プロパンジオールが、ここで生じた水性相P3から分離される実施形態を示す図
【0047】
実施例
例1 エポキシ化大豆脂肪酸メチルエステルの製造
2.5lの容積を有する撹拌容器に、750gの大豆脂肪酸メチルエステル、115gの脱塩水、13.8gのREWOQUAT(登録商標)3099(ビス−(2−ヒドロキシプロピル)−ジメチルアンモニウムメチルスルフェート−植物脂肪酸ジエステル)、3.6gのタングステン酸ナトリウム二水和物および1.2gのリン酸を装入した。70℃で、540gの28質量%の過酸化水素水溶液を、1時間以内に撹拌下に供給した。混合物をさらに1.5時間の間、70℃で撹拌し、20℃に冷却して、エポキシ化大豆脂肪酸メチルエステルを相分離により軽量相として分離した。
【0048】
例2 溶媒としてエポキシ化大豆脂肪酸メチルエステルを使用する、プロペンおよび過酸化水素からの1,2−プロパンジオールの製造
プロペンと過酸化水素との反応を、78℃の温度および4.2MPaの圧力で、0.45lの容積を有するループ反応器内で行い、ループ反応器は、90kg/hの循環速度で運転した。ループ反応器に、140g/hのプロペン、140g/hの、過酸化水素の20.0質量%水溶液、120g/hの、10.0質量%のタングステン酸ナトリウム二水和物と24.0質量%のリン酸とを含む水溶液、ならびに240g/hの8.3質量%のREWOQUAT(登録商標)3099および91.7質量%の例1のエポキシ化大豆脂肪酸メチルエステルの混合物を供給した。ループ反応器から、供給された量に相当する量の2相の反応混合物を取り出し、混合物が大気圧になるまで放圧し、ここで、溶解したプロペンを脱ガスし、続いて相を分離した。5時間の運転の後、30分以内に301gの反応混合物を取り出して、相分離の後、138gの水性相および163gの有機相が得られた。有機相中で、
1H−NMRにより1,2−プロパンジオールの含有率を測定した。水性相中で、過酸化水素の含有率をセリウム滴定により測定した。水性相の試料中で、過酸化水素を亜硫酸ナトリウムの添加により還元し、続いて1,2−プロパンジオール、ヒドロキシアセトン、ヒドロキシアセトン−亜硫酸水素塩付加物、アセトアルデヒド−亜硫酸水素塩付加物、ギ酸および酢酸の含有率を、
1H−NMRおよび
13C−NMRによりマレイン酸を外部標準として使用して測定した。
【0049】
水性相は、60mmol/hの過酸化水素を含み、そこから、93%の過酸化水素の転化率であることが判明する。有機相では、26mmol/hの1,2−プロパンジオール(3%)が得られ、水性相では、377mmol/h(46%)の1,2−プロパンジオール、5mmol/hのヒドロキシアセトン(0.6%)、5mmol/hのアセトアルデヒド、2mmol/hの酢酸および4mmolのギ酸が得られた(カッコ内の数値は、使用された過酸化水素を基準とする収率である)。
【0050】
例3 溶媒としてエポキシ化大豆脂肪酸メチルエステルを使用する、プロペンおよび過酸化水素からの1,2−プロパンジオールの製造
例2を繰り返し、ここで、ループ反応器に、60g/hのプロペン、140g/hの過酸化水素の25.2質量%水溶液、220g/hの、1.7質量%のタングステン酸ナトリウム二水和物と4.0質量%のリン酸とを含む水溶液、ならびに160g/hの、12.3質量%のREWOQUAT(登録商標)3099および87.7質量%のエポキシ化大豆脂肪酸メチルエステルの混合物を供給した。5時間の運転の後、30分以内に292gの反応混合物を取り出して、相分離の後、204gの水性相および88gの有機相が得られた。
【0051】
水性相は、534mmol/hの過酸化水素を含み、そこから、49%の過酸化水素の転化率であることが判明する。有機相では、14mmol/hの1,2−プロパンジオール(1%)が得られ、水性相では、263mmol/h(25%)の1,2−プロパンジオール、5mmol/hのヒドロキシアセトン(0.4%)、5mmol/hのアセトアルデヒド、2mmol/hの酢酸および4mmol/hのギ酸が得られた。
【0052】
例4 溶媒としてエポキシ化大豆脂肪酸メチルエステルを使用する、プロペンおよび過酸化水素からの1,2−プロパンジオールの製造
例2を繰り返し、ここで、ループ反応器に、120g/hのプロペン、140g/hの、過酸化水素の25.1質量%水溶液、120g/hの、10.1質量%のタングステン酸ナトリウム二水和物と24.0質量%のリン酸とを含む水溶液、ならびに160g/hの、8.3質量%のREWOQUAT(登録商標)3099および91.7質量%のエポキシ化大豆脂肪酸メチルエステルの混合物を供給した。5時間の運転の後、30分以内に305gの反応混合物を取り出して、相分離の後、134gの水性相および172gの有機相が得られた。
【0053】
水性相は、74mmol/hの過酸化水素を含み、そこから、93%の過酸化水素の転化率であることが判明する。有機相では、27mmol/hの1,2−プロパンジオール(3%)が得られ、水性相では、457mmol/h(44%)の1,2−プロパンジオール、8mmol/hのヒドロキシアセトン(0.8%)、8mmol/hのアセトアルデヒド、2mmol/hの酢酸および5mmol/hのギ酸が得られた。
【0054】
例5 有機相の返送を伴う、プロペンおよび過酸化水素からの1,2−プロパンジオールの製造
例2を繰り返したが、ここで、エポキシ化大豆脂肪酸メチルエステルの代わりに、例2から例4までの合された有機相の一部を使用し、ここで、30g/hのプロペン、93g/hの、過酸化水素の29.9質量%水溶液、40g/hの、3.4質量%のタングステン酸ナトリウム二水和物と6.9質量%のリン酸とを含む水溶液、ならびに160g/hの、1.5質量%のREWOQUAT(登録商標)3099および98.5質量%の、例2から例4までの合された有機相の混合物を供給した。5時間の運転の後、180分以内に919gの反応混合物を取り出して、相分離の後、421gの水性相および498gの有機相が得られた。
【0055】
水性相は、59mmol/hの過酸化水素を含み、そこから、93%の過酸化水素の転化率であることが判明する。有機相では、13mmol/hの1,2−プロパンジオール(2%)が得られ、水性相では、290mmol/h(35%)の1,2−プロパンジオール、16mmol/hのヒドロキシアセトン(2%)、7mmol/hのアセトアルデヒド、6mmol/hの酢酸および9mmolのギ酸が得られた。
【0056】
例6 有機相の返送を伴う、プロペンおよび過酸化水素からの1,2−プロパンジオールの製造
例5を繰り返し、ここで、過酸化水素の30.4質量%水溶液を使用した。5時間の運転の後、210分以内に1095gの反応混合物を取り出して、相分離の後、488gの水性相および607gの有機相が得られた。
【0057】
水性相は、62mmol/hの過酸化水素を含み、そこから、93%の過酸化水素の転化率であることが判明する。有機相では、14mmol/hの1,2−プロパンジオール(2%)が得られ、水性相では、288mmol/h(35%)の1,2−プロパンジオール、17mmol/hのヒドロキシアセトン(2%)、8mmol/hのアセトアルデヒド、6mmol/hの酢酸および9mmol/hのギ酸が得られた。
【0058】
例7 タングステン酸塩の、エポキシ化の反応混合物の水性相および有機相からの分離
例5および例6の合された水性相、ならびに例5および例6の合された有機相に関して、それぞれナノろ過によるタングステン酸塩の分離を試験した。
【0059】
ナノろ過は、デッド−エンドろ過としてEvonik MET社の撹拌式ろ過セル(METcell)内で行った。タングステン酸塩の水性相からの分離は、GE Water & Process Technologiesの膜GE DKまたはAMS Technologiesの膜NanoPro(登録商標)B−4022を用いて行った。タングステン酸塩の有機相からの分離は、Evonik METの膜PuraMem(登録商標)S 600またはGMT Membrantechnikの膜ONF−2を用いて行った。保持力および透過性の測定の前に、水性相のろ過のための膜は、水および水性相を用いて、有機相のろ過のための膜は、有機相を用いて、500min
-1の撹拌器回転数で第1表に記載の条件下に条件調整した。
【0060】
【表1】
【0061】
保持力および透過性の測定のためのろ過条件は、第2表から第5表までに記載されており、ろ過試験は、500min
-1の撹拌器回転数で行った。使用された相(供給物)中、保持液中、および透過液中のタングステンおよび窒素の濃度、ならびにそこから計算されるタングステン酸および相間移動触媒の保持力は、第6表および第7表に記載されている。保持力は、それぞれ記載された時点で1−(透過液の濃度)/(保持液の濃度)として計算した。
【0062】
【表2】
【0063】
【表3】
【0064】
【表4】
【0065】
【表5】
【0066】
【表6】
【0067】
【表7】
【0068】
例8 溶媒としてC
10−芳香族化合物混合物を使用する、プロペンおよび過酸化水素からの1,2−プロパンジオールの製造
プロペンと過酸化水素との反応は、78℃の温度および4.2MPaの圧力で、0.5lの容積を有するループ反応器内で行い、ループ反応器は、90kg/hの循環速度で運転した。ループ反応器に、90g/hのプロペン、140g/hの、過酸化水素の20.1質量%水溶液、120g/hの、10.1質量%のタングステン酸ナトリウム二水和物と24.0質量%のリン酸と1.5質量%の過酸化水素とを含む、pH値が固体の水酸化ナトリウムで1.5に調節された水溶液、ならびに240g/hの、5.7質量%のトリオクチルアミンおよび94.3質量%のHydrosol A 200 ND(低ナフタレンのC
10−芳香族化合物混合物、DHC Solvent Chemie)の混合物を供給した。ループ反応器から、供給された量に相当する量の2相の反応混合物を取り出して、第一の相分離容器内で、1.6Mpaで、262g/hの水性相を有機相および気相と分離して、第二の相分離容器内で、同一の圧力で、301g/hの有機相を気相と分離した。第二の相分離容器に50Nl/hの窒素を供給し、圧力調整弁を通して気相を取り出して、この気相中で、酸素の含有率を常磁性酸素センサーを用いて測定した。有機相中では、減圧せずにGC−MSによりプロペンオキシドの含有率を測定した。水性相中では、pHおよび過酸化水素の含有率をセリウム滴定により測定した。水性相の試料中で、過酸化水素を亜硫酸ナトリウムの添加により還元し、続いて1,2−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、ヒドロキシアセトン、ヒドロキシアセトン−亜硫酸水素塩付加物、アセトアルデヒド−亜硫酸水素塩付加物、ギ酸および酢酸の含有率を、
1H−NMRおよび
13C−NMRによりマレイン酸を外部標準として使用して測定した。
【0069】
気相では、1mmol/hの酸素が得られた。水性相は、2.0のpHを有し、223mmol/hの過酸化水素を含み、そこから、75%の過酸化水素の転化率であることが判明する。有機相では、27mmol/hのプロペンオキシド(3%)が得られ、水性相では、310mmol/h(35%)の1,2−プロパンジオール、16mmol/h(2%)のジプロピレングリコール、13mmol/hのヒドロキシアセトン(1.5%)、11mmol/hのアセトアルデヒド、9mmol/hの酢酸および6mmol/hのギ酸が得られた(カッコ内の数値は、使用された過酸化水素を基準とする収率である)。
【0070】
例9 有機相の返送を伴う、プロペンおよび過酸化水素からの1,2−プロパンジオールの製造
例8を繰り返し、ここで、ループ反応器に、90g/hのプロペン、140g/hの、過酸化水素の20.3質量%水溶液、120g/hの、1.5質量%のタングステン酸ナトリウム二水和物と3.5質量%のリン酸と0.1質量%の過酸化水素とを含む、pH値が固体の水酸化ナトリウムで1.5に調節された水溶液、ならびに240g/hの、0.6質量%のトリオクチルアミンおよび99.4質量%の、大気圧に放圧された例8の有機相の混合物を供給した。
【0071】
気相では、8mmol/hの酸素が得られた。水性相は、1.7のpHを有し、124mmol/hの過酸化水素を含み、そこから、85%の過酸化水素の転化率であることが判明する。有機相では、25mmol/hのプロペンオキシド(3%)が得られ、水性相では、438mmol/h(52%)の1,2−プロパンジオール、21mmol/h(2.5%)のジプロピレングリコール、24mmol/hのヒドロキシアセトン(3%)、11mmol/hのアセトアルデヒド、9mmol/hの酢酸および12mmol/hのギ酸が得られた。
【0072】
例10 有機相の返送を伴う、プロペンおよび過酸化水素からの1,2−プロパンジオールの製造
例9を繰り返し、ここで、過酸化水素の20.0質量%水溶液および大気圧に放圧した例9の有機相を使用した。
【0073】
気相では、24mmol/hの酸素が得られた。水性相は、1.8のpHを有し、143mmol/hの過酸化水素を含み、そこから、83%の過酸化水素の転化率であることが判明する。有機相では、26mmol/hのプロペンオキシド(3%)が得られ、水性相では、394mmol/h(48%)の1,2−プロパンジオール、19mmol/h(2.3%)のジプロピレングリコール、21mmol/hのヒドロキシアセトン(2.5%)、12mmol/hのアセトアルデヒド、10mmol/hの酢酸および6mmol/hのギ酸が得られた。
【0074】
例11 溶媒としてC
10−芳香族化合物混合物を使用し、タングステン酸塩の水性相および有機相からの分離を伴う、プロペンおよび過酸化水素からの1,2−プロパンジオールの製造
例10を繰り返し、ここで、ループ反応器に、120g/hのプロペン、140g/hの過酸化水素の20.4質量%水溶液、120g/hの、16.1質量%のタングステン酸ナトリウム二水和物と25.6質量%のリン酸と1.5質量%の過酸化水素とを含む、pH値が固体の水酸化ナトリウムで1.5に調節された水溶液、ならびに320g/hの、2.0質量%のトリオクチルアミンおよび98.0質量%のHydrosol A 200 ND(低ナフタレンのC
10−芳香族化合物混合物、DHC Solvent Chemie)の混合物を供給した。
【0075】
気相では、0.1mmol/hの酸素が得られた。水性相は、2.0のpHを有し、58mmol/hの過酸化水素を含み、そこから、94%の過酸化水素の転化率であることが判明する。有機相では、17mmol/hのプロペンオキシド(2%)が得られ、水性相では、420mmol/h(50%)の1,2−プロパンジオール、20mmol/h(2.4%)のジプロピレングリコール、12mmol/hのヒドロキシアセトン(1%)、10mml/hのアセトアルデヒド、6mmol/hの酢酸および4mmol/hのギ酸が得られた。
【0076】
反応混合物の放圧および相分離の後、得られた水性相および有機相に関して、タングステン酸塩のナノろ過による分離を別個に試験した。ナノろ過は、デッド−エンドろ過としてEvonik MET社の撹拌式ろ過セル(METcell)内で行った。タングステン酸塩の水性相からの分離は、GE Water & Process Technologiesの膜GE DKを用いて行った。タングステン酸塩の有機相からの分離は、GMT Membrantechnikの膜ONF−2を用いて行った。保持力および透過性の測定の前に、水性相のろ過のための膜は、水および水性相で、有機相のろ過のための膜は、有機相で、500min
-1の撹拌器回転数で、第8表に記載の条件下に条件調整した。
【0077】
【表8】
【0078】
保持力および透過性の測定のためのろ過条件は、第9表から第10表までに記載されており、ろ過試験は、500min
-1の撹拌器回転数で行った。使用された相(供給物)中、保持液中、および透過液中のタングステンおよび窒素の濃度、ならびにそこから計算されるタングステン酸および相間移動触媒の保持力は、第11表および第12表に記載されている。保持力は、それぞれ記載された時点で1−(透過液の濃度)/(保持液の濃度)として計算した。
【0079】
【表9】
【0080】
【表10】
【0081】
【表11】
【0082】
【表12】
【符号の説明】
【0083】
1 プロペン
2 過酸化水素
3 触媒混合物
4 循環ポンプ
5 冷却式管束反応器
6 2相の混合物
7 相分離容器
8 水性相P1
9 有機相P2
10 水性相のナノろ過
11 ナノろ過10の保持液
12 ナノろ過10の透過液
13 水素
14 接触水素化
15 水素化された透過液12
16 第一の蒸留
17 水
18 第一の蒸留の底部生成物
19 第二の蒸留
20 1,2−プロパンジオール
21 高沸点物
22 不活性ガス
23 酸素含有ガス流
24 有機相のナノろ過
25 ナノろ過24の保持液
26 ナノろ過24の透過液
27 第三の蒸留
28 プロペンおよびプロペンオキシドを含む流
29 第三の蒸留の底部生成物
30 さらなる反応器
31 相分離容器
32 水性相P3
33 有機相P4