(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6824325
(24)【登録日】2021年1月14日
(45)【発行日】2021年2月3日
(54)【発明の名称】C8芳香族混合物のための分離方法
(51)【国際特許分類】
C07C 7/08 20060101AFI20210121BHJP
C07C 15/073 20060101ALI20210121BHJP
【FI】
C07C7/08
C07C15/073
【請求項の数】10
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2019-82785(P2019-82785)
(22)【出願日】2019年4月24日
(62)【分割の表示】特願2017-533156(P2017-533156)の分割
【原出願日】2014年9月5日
(65)【公開番号】特開2019-142929(P2019-142929A)
(43)【公開日】2019年8月29日
【審査請求日】2019年5月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】514163756
【氏名又は名称】エスシージー ケミカルズ カンパニー,リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】517076178
【氏名又は名称】ジーティーシー テクノロジー ユーエス,エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100128484
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 司
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】ティラサク,アッタポン
(72)【発明者】
【氏名】カマフー,アリサ
(72)【発明者】
【氏名】タンタパニチャクーン,ウィルーン
(72)【発明者】
【氏名】ディン,ゾンギー
(72)【発明者】
【氏名】ジョシ,サチン
(72)【発明者】
【氏名】プロムバングラム,アーナット
(72)【発明者】
【氏名】タムタイソン,ウォラワット
(72)【発明者】
【氏名】ピチプエチ,プラチェット
【審査官】
池上 佳菜子
(56)【参考文献】
【文献】
特表平11−509868(JP,A)
【文献】
米国特許第03105017(US,A)
【文献】
米国特許第02532031(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 7/00
C07C 15/073
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチルベンゼンと、少なくとも1つの他のC8芳香族化合物とを含む混合物からエチルベンゼンを蒸留分離する方法であって、
水及び/又は蒸気と、クロロホルム、四塩化炭素、ジメチルアミン、ジエチルアミン、アセトニトリル、アセトアルデヒド、1−プロパナール、メチルイソプロピルケトン、3−メチル−2−ペンタノン、3,3−ジメチル−2−ブタノン、2−ペンタノン、2−メチルプロパナール、1−ブタナール、シクロペンタノン、アセトン、エタノール及びこれらの混合物からなる群から選択される1種以上とを含む溶媒を蒸留塔に加える工程、及び
150℃を超える沸点を有する抽出溶媒の存在下、前記蒸留塔内で前記混合物を蒸留する工程を含み、
前記混合物に対する前記抽出溶媒の質量比が3:1〜7:1であり、
前記蒸留塔が、50〜500mbarの範囲である準大気圧で、70〜180℃の範囲の温度で運転されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記抽出溶媒が、Cl含有化合物、S含有化合物、N含有化合物、O含有化合物及びこれらの混合物から選択される有機化合物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記Cl含有化合物が、2,4−ジクロロベンゼン、1,2,3−トリクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン、1,2,4,5−テトラクロロベンゼン、ポリクロロベンゼン、ベンゼンヘキサクロリド、2,3,4,6−テトラクロロフェノール、1,2,3−トリクロロプロパン及びこれらの混合物から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記S含有化合物が、ジメチルスルホキシド、スルホラン、メチルスルホラン及びこれらの混合物から選択される、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記N含有化合物が、N−ホルミルモルホリン、アニリン、2−ピロリジノン、キノロン、n−メチル−2−ピロリドン、n−メチルアニリン、ベンゾニトリル、ニトロベンゼン及びこれらの混合物から選択される、請求項2から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記O含有化合物が、メチルサリシレート、メチルベンゾエート、n−メチル−2−ピロリドン、1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、ベンズアルデヒド、フェノール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ジエチルマレエート、エチルアセトアセテート、4−メトキシアセトフェノン、イソホロン、5−メチル−2−ヘキサノン、2−ヘプタノン、シクロヘキサノン、2−オクタノン、2−ノナノン、3−ヘプタノン、ジイソブチルケトン、5−ノナノン、ベンジルアルコール及びこれらの混合物から選択される、請求項2から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記準大気圧が100〜300mbarの範囲にある、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも1つの他のC8芳香族化合物が、p−キシレン、m−キシレン、o−キシレン又はこれらの混合物から選択される化合物を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記水及び/又は蒸気が、使用される前記抽出溶媒の全体の流れに基づいて、0.1〜25重量%の量で加えられる、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記抽出溶媒が、2,4−ジクロロベンゼン、1,2,3−トリクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン、1,2,4,5−テトラクロロベンゼン、ポリクロロベンゼン、ベンゼンヘキサクロリド、2,3,4,6−テトラクロロフェノール、及び1,2,3−トリクロロプロパンから選択されるCl含有化合物、S含有化合物、N含有化合物、O含有化合物、並びにこれらの混合物から選択される有機化合物を含む、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチルベンゼンと、少なくとも1つの他のC8芳香族化合物とを含む混合物
からのエチルベンゼンの抽出蒸留による分離のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エチルベンゼンは、商業的に広く利用される、価値の高い炭化水素化合物である。エチ
ルベンゼンは主に、ポリスチレン生産の中間体であるスチレンの生産に使用される。エチ
ルベンゼンは、エチレンによるベンゼンのアルキル化から商業的に生産される。しかし、
エチレン及びベンゼンのコスト及び競争的な需要は、エチルベンゼンを既に含む様々なC
8芳香族供給流からエチルベンゼンを回収する新たな努力を促した。このような供給流は
一般に、いくつかの石油化学プロセスからの副生成物流として生成され、これらの供給流
は通常、エチルベンゼン、並びにエチルベンゼン、特にC8芳香族異性体の沸点に近い沸
点を持つ1つ又はそれ以上の炭化水素化合物を含む。
【0003】
他の近沸点C8芳香族化合物、特にキシレン異性体からエチルベンゼンを分離するため
の方法は公知である。
【0004】
例えば、米国特許第3917734号には、エチルベンゼン及び少なくとも1つのキシ
レン異性体を含む供給混合物からエチルベンゼンを分離するための吸着分離プロセスが開
示されており、このプロセスは、供給混合物を結晶性アルミノシリケート吸着剤と接触さ
せ、エチルベンゼンを大幅に除いてキシレン異性体を選択的に吸着する工程と、その後に
生成物として精製されたエチルベンゼンを回収する工程とを含む。このプロセスの分離効
率は、吸着剤の吸着容量を非常に頼りにしており、したがって向流移動床システムの複合
運転(complexed operation)が好ましい。また、選択的な吸着プロセスとの干渉を防ぐ
ために、供給流中の不純物含有量が注意深く制御される必要がある。
【0005】
もちろんエチルベンゼンは、分留によりキシレン異性体から分離することができるが、
それらの沸点が互いに非常に近いため、分留は、さらに複雑でエネルギー集約的なシステ
ムでのみ実現される。
【0006】
英国特許第1198592号には、単一の多機能蒸留塔を使用してC8芳香族異性体を
分離するためのプロセスが開示されている。この蒸留は、商業的に許容されるエチルベン
ゼンの純度を得るために、少なくとも250、好ましくは365の棚段及び100〜25
0:1の還流比を有する多段塔において行われる。
【0007】
抽出蒸留は、加えた溶媒、又はいわゆる抽出剤の存在下で蒸留を行うことにより、近沸
点化合物を互いに分離する方法である。蒸留システム内に前記抽出剤が存在すると、比揮
発度が変わり、したがって近沸点化合物の分離度をさらに大きくすることができる。
【0008】
米国特許第3105017号には、エチルベンゼンに富む留分を分離する条件下、環上
、少なくとも2つの位置でクロロ基で置換された単一のベンゼン環を含む化合物の存在下
でキシレン異性体からエチルベンゼンを抽出蒸留により分離するためのプロセスが開示さ
れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第3917734号
【特許文献2】英国特許第1198592号
【特許文献3】米国特許第3105017号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、炭化水素混合物の流れからエチルベンゼンを回収することによる、エチルベ
ンゼンの生産のための代替の改善された方法に関する。本方法は、抽出溶媒の存在下、準
大気圧で運転する蒸留塔内でエチルベンゼン及びC8芳香族化合物を含む混合物を蒸留す
る工程を含む。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、抽出溶媒の存在下、準大気圧で運転する蒸留塔内でエチルベンゼン及びC8
芳香族化合物を含む混合物を蒸留する工程を含むエチルベンゼン分離のための抽出蒸留方
法に関する。
【0012】
エチルベンゼンは通常、C8炭化水素化合物を主に含む炭化水素流に含まれている。本
発明による方法は、エチルベンゼンを、その近沸点化合物、特にC8芳香族化合物から効
果的に分離することができる。本発明のある実施形態では、少なくとも1つの他のC8芳
香族化合物は、p−キシレン、m−キシレン、o−キシレン及びこれらの混合物から選択
される化合物を含む。混合物は、特に、芳香族及び非芳香族の両方のタイプのC5〜C1
0炭化水素の範囲の他の成分をさらに含んでもよい。例えば、混合物は、少量のベンゼン
、トルエン、スチレン、及びC5〜C10パラフィン、オレフィン又はナフテンを含んで
もよい。混合物中のこれらの他の成分の合計は、好ましくは20重量%未満、より好まし
くは15重量%未満、さらにより好ましくは10重量%未満、最も好ましくは5重量%未
満である。
【0013】
抽出溶媒として使用することができる溶媒は、関心のあるシステム内の成分の比揮発度
を変更できなければならない。さらに、この溶媒は、好都合に回収及び再循環されるため
に、供給流中の成分との適切な沸点差を有するべきである。本発明に適した抽出溶媒は、
150℃を超え、好ましくは151〜290℃の沸点を有する。多くの有機化合物が本発
明の抽出溶媒と見なされ、1つの実施形態において、抽出溶媒は、Cl含有化合物、S含
有化合物、N含有化合物、O含有化合物及びこれらの混合物から選択される有機化合物を
含む。
【0014】
Cl含有化合物は、2,4−ジクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン、1
,2,4,5−テトラクロロベンゼン、ポリクロロベンゼン、ベンゼンヘキサクロリド、
2,3,4,6−テトラクロロフェノール、1,2,3−トリクロロプロパン及びこれら
の混合物、好ましくは1,2,3−トリクロロベンゼン及び1,2,4−トリクロロベン
ゼンから選択することができる。
【0015】
S含有化合物は、ジメチルスルホキシド、スルホラン、メチルスルホラン及びこれらの
混合物から選択することができる。
【0016】
N含有化合物は、N−ホルミルモルホリン、アニリン、2−ピロリジノン、キノロン、
N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルアニリン、ベンゾニトリル、ニトロベンゼン及
びこれらの混合物から選択することができる。
【0017】
O含有化合物は、メチルサリシレート、メチルベンゾエート、N−メチル−2−ピロリ
ドン、1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、
ベンズアルデヒド、フェノール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ジエチルマレエー
ト、エチルアセトアセテート、4−メトキシアセトフェノン、イソホロン、5−メチル−
2−ヘキサノン、2−ヘプタノン、シクロヘキサノン、2−オクタノン、2−ノナノン、
3−ヘプタノン、ジイソブチルケトン、5−ノナノン、ベンジルアルコール及びこれらの
混合物から選択することができる。
【0018】
抽出溶媒がCl含有化合物を含むことが好ましい。より好ましくは、抽出溶媒は、1,
2,3−トリクロロベンゼン及び1,2,4−トリクロロベンゼン、最も好ましくは1,
2,4−トリクロロベンゼンから選択されるCl含有化合物を含む。
【0019】
驚いたことに、本発明にしたがって蒸留塔の運転圧力を準大気レベルまで下げると、エ
チルベンゼンの分離の効率を大幅に改善することができることが明らかになった。特に、
驚いたことに、準大気圧で蒸留塔を運転すると、エチルベンゼンと、少なくとも1つの他
のC8芳香族化合物とを含む混合物からのエチルベンゼンの高い分離効率を実現できるこ
とが明らかになった。しかし、低すぎる真空圧は蒸気流量を極めて高くし、したがって塔
の充填効率又は段効率を低減させる可能性がある。ある実施形態では、準大気圧は、10
〜900mbar、好ましくは50〜500mbar、より好ましくは100〜300m
barの範囲である。
【0020】
より揮発性の高い留分、この場合はエチルベンゼンが塔の上方で蒸留され、より揮発性
の低い留分が塔の下方で蒸留されるようにし、所望の分離につながる、塔の最上部から最
下部まで分布した温度で蒸留塔は稼働する。好ましい実施形態において、蒸留塔は、50
〜250℃、好ましくは60〜200℃、さらにより好ましくは70〜180℃の範囲の
温度で運転される。
【0021】
蒸留塔において、エチルベンゼンと、少なくとも1つの他のC8芳香族化合物とを含む
混合物に対する抽出溶媒の質量比は、好ましくは1:1〜10:1、好ましくは2:1〜
8:1、最も好ましくは3:1〜7:1の範囲である。
【0022】
好ましくは、本発明の方法は水和環境中で運転することができる。水和環境を作り出す
ために、水及び/又は蒸気を、好ましくは使用される抽出溶媒の全体の流れに基づいて0
,1〜25重量%の量だけ蒸留塔に加えることができる。
【0023】
特定の実施形態において、追加の溶媒を使用して、蒸留塔に導入することにより、エチ
ルベンゼン及び分離されるその近沸点成分の比揮発度をさらに変更してもよい。追加の溶
媒は、Cl含有、S含有、N含有及びO含有化合物又はこれらの混合物から選択すること
ができる。好ましくは、追加の溶媒は、クロロホルム、四塩化炭素、ジメチルアミン、ジ
エチルアミン、アセトニトリル、アセトアルデヒド、1−プロパナール、メチルイソプロ
ピルケトン、3−メチル−2−ペンタノン、3,3−ジメチル−2−ブタノン、2−ペン
タノン、2−メチルプロパナール、1−ブタナール、シクロペンタノン、アセトン、エタ
ノール及びこれらの混合物からなる群から選択される。通常、追加の溶媒は、エチルベン
ゼンと、少なくとも1つの他のC8芳香族化合物とを含む混合物と共に同時に蒸留塔に導
入される。
【0024】
本発明の実施形態は、蒸留塔に入る混合物と比べてエチルベンゼンに富む塔頂流を蒸留
塔の上部から取り出す工程をさらに含むことができる。このエチルベンゼンリッチな流れ
は、エチルベンゼンを原料として必要とする下流のプロセスに直接送ることができる。さ
らに具体的な場合において、エチルベンゼンリッチな流れは、より精製されたエチルベン
ゼンを必要とする何らかの下流の工業プロセスに入る前に、別の処理、例えば別の精製が
施されてもよい。好ましい実施形態において、エチルベンゼンに富む塔頂流の少なくとも
一部は凝縮され、還流として蒸留塔に戻される。塔頂流中のエチルベンゼンの濃度は、使
用される運転条件にしたがって広く変化させることができる。
【0025】
本発明の方法はさらに、蒸留塔の下部から最下部流を取り出す工程も含むことができる
。この最下部流は、好ましくはエチルベンゼンリーンであり、主に、抽出溶媒、及びエチ
ルベンゼンより重質のC8芳香族化合物を含む。抽出溶媒を回収し、この流れからC8芳
香族生成物を生成するために、最下部流をサブシーケンス分離ユニットにかけることが好
ましい。次に、回収された抽出溶媒が蒸留塔に再循環される。最適化された運転条件が適
用されるときにC8芳香族化合物がp−キシレンのかなりの部分を含む特定の実施形態に
おいて、C8芳香族生成物は、20重量%未満のエチルベンゼンを含むことができて、混
合キシレン異性体グレードとしてさらに利用することができる。
【0026】
また本発明は、例えば還流比を小さくすることができるような、分離の効率を高めるた
めの、エチルベンゼンと、少なくとも1つの他のC
8芳香族化合物とを含む混合物からの
エチルベンゼンの蒸留分離のための方法における蒸留塔内での準大気圧の使用に関する。
【0027】
本発明の実施形態を、特許請求の範囲に記載されている本発明を限定することなく、以
下の実施例においてさらに説明する。
【実施例】
【0028】
実施例1
シミュレーションソフトウェア「Aspen HYSYS(登録商標)」を使用して、
64,93重量%エチルベンゼン、7,9重量%p−キシレン、18,14重量%m−キ
シレン及び9,02重量%o−キシレンを含む供給流が15000kg/hの供給量で1
30段を有する抽出蒸留塔に供給されることをシミュレートするコンピュータシミュレー
ションを実施した。表1に示す様々な抽出溶媒を段7、すなわち段74における供給流の
導入点の上方の位置において抽出蒸留塔に導入した。比較例として、溶媒を導入しない場
合のシミュレーションを実施した。運転温度は、塔に沿って75℃〜175℃の範囲内で
シミュレートした。塔内の圧力は、それぞれ200mbar及び1000mbarになる
ようにシミュレートした(下表1参照)。供給流に対する溶媒の重量比は5:1に固定し
た。シミュレーションモデルにはさらに、エチルベンゼンリッチな流れが塔の最上部で取
り出され、エチルベンゼンリーンな流れが塔の最下部で取り出されるという特徴が含まれ
ていた。塔の最上部からのエチルベンゼンリッチな流れの一部は、還流として還流比8,
5で塔に戻されるようにシミュレートした。
【0029】
表1において、蒸留塔内の圧力の1000mbarから200mbarへの低下、すな
わち準大気圧への低下、プロセスの分離効率が改善されていることが分かる。特に、塔内
の圧力を低下させると、溶媒が使用されない場合でも、塔頂流中のエチルベンゼンの濃度
が大幅に高くなる。
【0030】
下表1において、TCBは1,2,4−トリクロロベンゼン、NMPはN−メチル−2−ピロリドン、NFMはN−ホルミルモルホリンである。
【表1】
本願発明には以下の態様が含まれる。
[1]
エチルベンゼンと、少なくとも1つの他のC8芳香族化合物とを含む混合物からエチルベンゼンを蒸留分離する方法であって、抽出溶媒の存在下、蒸留塔内で前記混合物を蒸留する工程を含み、前記蒸留塔が準大気圧で運転されることを特徴とする方法。
[2]
前記抽出溶媒が、150℃を超える沸点を有する、上記[1]に記載の方法。
[3]
前記抽出溶媒が、Cl含有化合物、S含有化合物、N含有化合物、O含有化合物及びこれらの混合物から選択される有機化合物を含む、上記[1]又は[2]に記載の方法。
[4]
前記Cl含有化合物が、2,4−ジクロロベンゼン、1,2,3−トリクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン、1,2,4,5−テトラクロロベンゼン、ポリクロロベンゼン、ベンゼンヘキサクロリド、2,3,4,6−テトラクロロフェノール、1,2,3−トリクロロプロパンから選択される、上記[3]に記載の方法。
[5]
前記S含有化合物が、ジメチルスルホキシド、スルホラン、メチルスルホラン及びこれらの混合物から選択される、上記[3]又は[4]に記載の方法。
[6]
前記N含有化合物が、N−ホルミルモルホリン、アニリン、2−ピロリジノン、キノロン、n−メチル−2−ピロリドン、n−メチルアニリン、ベンゾニトリル、ニトロベンゼン及びこれらの混合物から選択される、上記[3]から[5]のいずれか一項に記載の方法。
[7]
前記O含有化合物が、メチルサリシレート、メチルベンゾエート、n−メチル−2−ピロリドン、1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、ベンズアルデヒド、フェノール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ジエチルマレエート、エチルアセトアセテート、4−メトキシアセトフェノン、イソホロン、5−メチル−2−ヘキサノン、2−ヘプタノン、シクロヘキサノン、2−オクタノン、2−ノナノン、3−ヘプタノン、ジイソブチルケトン、5−ノナノン、ベンジルアルコール及びこれらの混合物から選択される、上記[3]から[6]のいずれか一項に記載の方法。
[8]
前記準大気圧が10〜900mbarの範囲にある、上記[1]から[7]のいずれか一項に記載の方法。
[9]
前記準大気圧が50〜600mbarの範囲にある、上記[8]に記載の方法。
[10]
前記蒸留塔が50〜250℃の範囲の温度で運転される、上記[1]から[9]のいずれか一項に記載の方法。
[11]
エチルベンゼンと、前記少なくとも1つの他のC8芳香族化合物とを含む前記混合物に対する前記抽出溶媒の質量比が1:1〜10:1の範囲である、上記[1]から[10]のいずれか一項に記載の方法。
[12]
前記少なくとも1つの他のC8芳香族化合物が、p−キシレン、m−キシレン、o−キシレン又はこれらの混合物から選択される化合物を含む、上記[1]から[11]のいずれか一項に記載の方法。
[13]
前記方法が、水及び/又は蒸気を前記蒸留塔に加える工程を含む、上記[1]から[12]のいずれか一項に記載の方法。
[14]
前記水及び/又は蒸気が、使用される前記抽出溶媒の全体の流れに基づいて、0,1〜25重量%の量で加えられる、上記[13]に記載の方法。
[15]
エチルベンゼンと、少なくとも1つの他のC8芳香族化合物とを含む混合物からのエチルベンゼンの前記蒸留分離のための方法における、前記分離の効率を高めるための、蒸留塔内における準大気圧の使用。