(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したような回転慣性質量ダンパ、粘性ダンパ及び摩擦ダンパは、その構成上、互いに異なる振動抑制特性を有しており、詳細は後述するが、それぞれの振動抑制特性が、構造物に入力される振動の特性や、構造物の振動度合、構造物の振動の状態などの様々なパラメータに応じて変化する傾向にある。このため、構造物の振動を適切に抑制する上では、これらの複数のダンパを使い分けるのが望ましい。これに対して、従来の振動抑制装置では、上述したように、単一の振動抑制特性を有するダンパを用いるにすぎないので、構造物の振動を適切に抑制できないおそれがある。
【0007】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、択一的に選択可能な複数の振動抑制特性を有する単一の装置を実現でき、それにより、構造物の振動を適切に抑制することができる振動抑制装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、構造物の振動を抑制するための構造物の振動抑制装置であって、構造物を含む系内の第1部位に連結されたシリンダと、シリンダ内に軸線方向に摺動自在に設けられ、シリンダ内を、第1流体室と第2流体室に区画するとともに、系内の第2部位に連結されたピストンと、第1及び第2流体室に充填された作動流体と、ピストンをバイパスし、第1及び第2流体室に連通する第1連通路と、第1連通路を開閉する第1開閉弁と、回転自在の回転マスと、第1連通路における作動流体の流動を回転運動に変換し、回転マスに伝達する動力変換機構と、ピストンをバイパスし、第1及び第2流体室に連通するとともに、第1連通路と並列に設けられた第2連通路と、第2連通路を開閉する第2開閉弁と、
構造物に入力された振動加速度を検出する振動加速度検出手段と、第1開閉弁が開弁状態にあり、かつ第2開閉弁が閉弁状態にあると仮定したときの構造物の振動に対する応答を表す第1応答パラメータを、検出された振動加速度に応じて算出する第1応答パラメータ算出手段と、第1開閉弁が閉弁状態にあり、かつ第2開閉弁が開弁状態にあると仮定したときの構造物の振動に対する応答を表す第2応答パラメータを、振動加速度に応じて算出する第2応答パラメータ算出手段と、算出された第1応答パラメータと第2応答パラメータとの比較結果に基づいて、第1及び第2開閉弁の開閉を制御する第1制御モードを実行する制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、シリンダ内に軸線方向に摺動自在に設けられたピストンが、シリンダ内を、第1流体室と第2流体室に区画しており、これらの第1及び第2流体室に、作動流体が充填されている。また、第1連通路が、ピストンをバイパスし、第1及び第2流体室に連通しており、第1開閉弁によって開閉される。さらに、第1連通路における作動流体の流動が、動力変換機構によって回転運動に変換され、回転マスに伝達される。また、第1連通路と並列に設けられた第2連通路が、ピストンをバイパスし、第1及び第2流体室に連通しており、第2開閉弁によって開閉される。
【0010】
さらに、シリンダ及びピストンが、構造物を含む系内の第1及び第2部位にそれぞれ連結されており、構造物の振動に伴う第1部位と第2部位の間の相対変位は、シリンダ及びピストンに伝達される。この場合、第1開閉弁が開弁し、かつ第2開閉弁が閉弁しているときには、上記のシリンダ及びピストンへの相対変位の伝達によって、ピストンがシリンダ内を軸線方向に摺動し、それに伴い、シリンダの第1及び第2流体室内の作動流体が、ピストンで押圧されることにより、第1連通路を介して、第1及び第2流体室の一方から他方に流動する。その際、第1連通路における作動流体の流動が、動力変換機構によって回転運動に変換された状態で回転マスに伝達される結果、回転マスが回転する。
【0011】
以上により、第1開閉弁が開弁し、かつ第2開閉弁が閉弁しているときには、振動抑制装置は、いわゆる回転慣性質量ダンパとして機能し、回転マスによる回転慣性質量効果が得られることによって、振動抑制装置が設けられた構造物の振動周期を伸長させることができる。また、この場合、例えば、振動抑制装置を、弾性を有する連結部材を介して第1及び第2部位に連結することにより、振動抑制装置及び連結部材から成る付加振動系を構成するとともに、付加振動系の固有振動数を構造物の固有振動数に同調させることによって、付加振動系の共振による制振効果を適切に得ることができる。
【0012】
一方、第1開閉弁が閉弁し、かつ第2開閉弁が開弁しているときには、上記のシリンダ及びピストンへの相対変位の伝達によって、ピストンがシリンダ内を軸線方向に摺動し、それに伴い、第1及び第2流体室内の作動流体が、ピストンで押圧されることにより、第2連通路を介して、第1及び第2流体室の一方から他方に流動する。以上により、第1開閉弁が閉弁し、かつ第2開閉弁が開弁しているときには、振動抑制装置は、いわゆる粘性ダンパとして機能し、作動流体が第2連通路を通過する際の抵抗力による粘性減衰効果が得られる。
【0013】
以上のように、本発明によれば、択一的に選択可能な回転慣性質量ダンパの振動抑制特性及び粘性ダンパの振動抑制特性を有する単一の装置を実現することができるので、振動抑制特性を適切に選択することによって、構造物の振動を適切に抑制することができる。以下、回転慣性質量ダンパの振動抑制特性及び粘性ダンパの振動抑制特性をそれぞれ、「回転慣性質量ダンパ特性」「粘性ダンパ特性」という。
【0015】
また、上記の構成によれば、構造物に入力された振動加速度が、振動加速度検出手段によって検出される。また、第1開閉弁が開弁状態にあり、かつ第2開閉弁が閉弁状態にあると仮定したときの構造物の振動に対する応答を表す第1応答パラメータが、すなわち、回転慣性質量ダンパ特性が選択されていると仮定したときの構造物の振動に対する応答を表す第1応答パラメータが、検出された振動加速度に応じ、第1応答パラメータ算出手段によって算出される。さらに、第1開閉弁が閉弁状態にあり、かつ第2開閉弁が開弁状態にあると仮定したときの構造物の振動に対する応答を表す第2応答パラメータが、すなわち、粘性ダンパ特性が選択されていると仮定したときの構造物の振動に対する応答を表す第2応答パラメータが、振動加速度に応じ、第2応答パラメータ算出手段によって算出される。
【0016】
また、算出された第1応答パラメータと第2応答パラメータとの比較結果に基づいて第1及び第2開閉弁の開閉を制御する第1制御モードが、制御手段によって実行される。これにより、例えば、第1応答パラメータで表される構造物の振動に対する応答が、第2応答パラメータのそれよりも小さいときには、第1及び第2開閉弁をそれぞれ開弁及び閉弁し、回転慣性質量ダンパ特性を選択するとともに、後者が前者よりも小さいときには、第1及び第2開閉弁をそれぞれ閉弁及び開弁し、粘性ダンパ特性を選択することにより、そのときどきの振動加速度に応じて、より高い振動抑制特性を適切に選択できるので、構造物の振動を適切に抑制することができる。
【0017】
請求項
2に係る発明は、請求項
1に記載の構造物の振動抑制装置において、ピストンに設けられ、第1流体室内の作動流体の圧力が第1所定値に達したときに第1及び第2流体室を互いに連通させる第1リリーフ機構と、ピストンに設けられ、第2流体室内の作動流体の圧力が第2所定値に達したときに第2及び第1流体室を互いに連通させる第2リリーフ機構と、をさらに備えることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、第1及び第2リリーフ機構がピストンに設けられており、第1流体室内の作動流体の圧力が第1所定値に達したときに、第1及び第2流体室が第1リリーフ機構で互いに連通させられ、第2流体室内の作動流体の圧力が第2所定値に達したときに、第2及び第1流体室が第2リリーフ機構で互いに連通させられる。このため、請求項1に係る発明で説明した第1及び第2開閉弁がいずれも閉弁しているときには、構造物の振動に伴って第1部位と第2部位の間の相対変位がシリンダ及びピストンに伝達されると、第1流体室内の作動流体の圧力が第1所定値に、又は、第2流体室内の作動流体の圧力が第2所定値に、それぞれ達しない限り、第1及び第2流体室が互いに連通せず、ピストンがシリンダに対して動かなくなり、達したときに、ピストンがシリンダ内を摺動する。
【0019】
以上により、第1及び第2開閉弁がいずれも閉弁しているときには、振動抑制装置は、いわゆる摩擦ダンパとして機能し、第1及び第2所定値に応じた比較的大きな摩擦減衰効果が得られる。なお、この場合、構造物の振動度合が比較的大きくないときには、第1及び第2流体室内の作動流体の圧力が第1及び第2所定値にそれぞれ達せず、ピストンがシリンダに対して動かないことによって、上記の摩擦減衰効果が得られなくなる。
【0020】
以上のように、本発明によれば、択一的に選択可能な回転慣性質量ダンパ特性、粘性ダンパ特性及び摩擦ダンパの振動抑制特性を有する単一の装置を実現することができるので、振動抑制特性を適切に選択することによって、構造物の振動をより適切に抑制することができる。以下、摩擦ダンパの振動抑制特性を「摩擦ダンパ特性」という。
【0021】
請求項
3に係る発明は、請求項
2に記載の構造物の振動抑制装置において、構造物の振動度合を表す振動度合パラメータを検出する振動度合パラメータ検出手段をさらに備え、制御手段は、検出された振動度合パラメータで表される構造物の振動度合が所定値以下のときに、第1制御モードを実行し、振動度合パラメータで表される構造物の振動度合が所定値よりも大きいときに、第1及び第2開閉弁を閉弁状態に制御する第2制御モードを実行することを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、構造物の振動度合を表す振動度合パラメータが振動度合パラメータ検出手段によって検出され、検出された振動度合パラメータで表される構造物の振動度合が所定値以下のときに、請求項
1に係る発明で説明した第1制御モードが実行される。これにより、構造物の振動度合が比較的大きくないときに、摩擦ダンパ特性ではなく、回転慣性質量ダンパ特性及び粘性ダンパ特性を前述したように適切に選択できるので、構造物の振動を適切に抑制することができる。
【0023】
また、振動度合パラメータで表される構造部の振動度合が所定値よりも大きいときに、第1及び第2開閉弁を閉弁状態に制御する第2制御モードが実行される。これにより、構造物の振動度合が比較的大きいときに、振動抑制装置の振動抑制特性として、請求項
2に係る発明で説明した摩擦ダンパ特性を選択できるので、その比較的大きな摩擦減衰効果が得られることで、回転慣性質量ダンパ特性及び粘性ダンパ特性を選択した場合よりも大きな振動エネルギを吸収でき、構造物の振動を適切に抑制することができる。
【0024】
前記目的を達成するため、請求項
4に係る発明は、構造物の振動を抑制するための構造物の振動抑制装置であって、構造物を含む系内の第1部位に連結されたシリンダと、シリンダ内に軸線方向に摺動自在に設けられ、シリンダ内を、第1流体室と第2流体室に区画するとともに、系内の第2部位に連結されたピストンと、第1及び第2流体室に充填された作動流体と、ピストンをバイパスし、第1及び第2流体室に連通する連通路と、連通路を開閉する開閉弁と、回転自在の回転マスと、連通路における作動流体の流動を回転運動に変換し、回転マスに伝達する動力変換機構と、ピストンに設けられ、第1流体室内の作動流体の圧力が第1所定値に達したときに第1及び第2流体室を互いに連通させる第1リリーフ機構と、ピストンに設けられ、第2流体室内の作動流体の圧力が第2所定値に達したときに第2及び第1流体室を互いに連通させる第2リリーフ機構と、構造物の振動度合を表す振動度合パラメータを検出する振動度合パラメータ検出手段と、検出された振動度合パラメータで表される構造物の振動度合が所定値以下のときに、開閉弁を開弁し、所定値よりも大きいときに、開閉弁を閉弁する制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0025】
この構成によれば、シリンダ内に軸線方向に摺動自在に設けられたピストンが、シリンダ内を、第1流体室と第2流体室に区画しており、これらの第1及び第2流体室に、作動流体が充填されている。また、連通路が、ピストンをバイパスし、第1及び第2流体室に連通しており、開閉弁によって開閉される。さらに、連通路における作動流体の流動が、動力変換機構によって回転運動に変換され、回転マスに伝達される。また、第1及び第2リリーフ機構がピストンに設けられており、第1流体室内の作動流体の圧力が第1所定値に達したときに、第1及び第2流体室が第1リリーフ機構で互いに連通させられ、第2流体室内の作動流体の圧力が第2所定値に達したときに、第2及び第1流体室が第2リリーフ機構で互いに連通させられる。
【0026】
さらに、シリンダ及びピストンが、構造物を含む系内の第1及び第2部位にそれぞれ連結されており、構造物の振動に伴う第1部位と第2部位の間の相対変位は、シリンダ及びピストンに伝達される。この場合、開閉弁が開弁しているときには、上記のシリンダ及びピストンへの相対変位の伝達によって、ピストンがシリンダ内を軸線方向に摺動し、それに伴い、シリンダの第1及び第2流体室内の作動流体は、ピストンで押圧されることにより、連通路を介して、第1及び第2流体室の一方から他方に流動する。その際、連通路における作動流体の流動が、動力変換機構によって回転運動に変換された状態で回転マスに伝達される結果、回転マスが回転する。
【0027】
以上により、開閉弁が開弁しているときには、振動抑制装置は、いわゆる回転慣性質量ダンパとして機能し、回転マスによる回転慣性質量効果が得られることによって、振動抑制装置が設けられた構造物の振動周期を伸長させることができる。また、この場合、例えば、振動抑制装置を、弾性を有する連結部材を介して第1及び第2部位に連結することにより、振動抑制装置及び連結部材から成る付加振動系を構成するとともに、その固有振動数を構造物の固有振動数に同調させることによって、付加振動系の共振による制振効果を適切に得ることができる。
【0028】
一方、開閉弁が閉弁しているときには、構造物の振動に伴って第1部位と第2部位の間の相対変位がシリンダ及びピストンに伝達されると、第1流体室内の作動流体の圧力が第1所定値に、又は、第2流体室内の作動流体の圧力が第2所定値に、それぞれ達しない限り、第1及び第2流体室が互いに連通せず、ピストンがシリンダに対して動かなくなり、達したときに、ピストンがシリンダ内を摺動する。以上により、開閉弁が閉弁しているときには、振動抑制装置は、いわゆる摩擦ダンパとして機能し、第1及び第2所定値に応じた比較的大きな摩擦減衰効果が得られる。なお、この場合、構造物の振動度合が比較的大きくないときには、第1及び第2流体室内の作動流体の圧力が第1及び第2所定値にそれぞれ達せず、ピストンがシリンダに対して動かないことによって、上記の摩擦減衰効果が得られなくなる。
【0029】
以上のように、本発明によれば、択一的に選択可能な回転慣性質量ダンパ特性及び摩擦ダンパ特性を有する単一の装置を実現することができる。
【0030】
また、前述した構成によれば、構造物の振動度合を表す振動度合パラメータが振動度合パラメータ検出手段によって検出されるとともに、制御手段によって開閉弁は、検出された振動度合パラメータで表される構造物の振動度合が所定値以下のときに開弁され、所定値よりも大きいときに閉弁される。これにより、振動抑制装置の振動抑制特性として、構造物の振動度合が比較的大きくないときに、摩擦ダンパではなく、回転慣性質量ダンパ特性を選択できるので、その回転慣性質量効果によって構造物の振動を適切に抑制することができる。また、構造物の振動度合が比較的大きいときに、摩擦ダンパ特性を選択できるので、その比較的大きな摩擦減衰効果が得られることで、回転慣性質量ダンパ特性を選択した場合よりも大きな振動エネルギを吸収でき、構造物の振動を適切に抑制することができる。
【0031】
前記目的を達成するため、請求項
5に係る発明は、構造物の振動を抑制するための構造物の振動抑制装置であって、構造物を含む系内の第1部位に連結されたシリンダと、シリンダ内に軸線方向に摺動自在に設けられ、シリンダ内を、第1流体室と第2流体室に区画するとともに、系内の第2部位に連結されたピストンと、弾性を有し、シリンダ及びピストンの少なくとも一方を、少なくとも一方に対応する第1及び第2部位の少なくとも一方に連結するための連結部材と、第1及び第2流体室に充填された作動流体と、ピストンをバイパスし、第1及び第2流体室に連通する連通路と、連通路を開閉する開閉弁と、回転自在の回転マスと、連通路における作動流体の流動を回転運動に変換し、回転マスに伝達する動力変換機構と、ピストンに設けられ、第1流体室内の作動流体の圧力が第1所定値に達したときに第1及び第2流体室を互いに連通させる第1リリーフ機構と、ピストンに設けられ、第2流体室内の作動流体の圧力が第2所定値に達したときに第2及び第1流体室を互いに連通させる第2リリーフ機構と、構造物の振動に伴う第1部位と第2部位の間の水平方向の相対変位が水平方向の一方の側の最大変位に達した時から、シリンダに対するピストンの変位の方向が反転する時までの期間、及び、構造物の振動に伴う第1部位と第2部位の間の水平方向の相対変位が水平方向の他方の側の最大変位に達した時から、シリンダに対するピストンの変位の方向が反転する時までの期間である特性切替期間を検出する特性切替期間検出手段と、構造物の振動中、特性切替期間が検出されていないときには、開閉弁を閉弁し、特性切替期間が検出されているときには、開閉弁を開弁する制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0032】
この構成によれば、シリンダ内に軸線方向に摺動自在に設けられたピストンが、シリンダ内を、第1流体室と第2流体室に区画しており、これらの第1及び第2流体室に、作動流体が充填されている。また、連通路が、ピストンをバイパスし、第1及び第2流体室に連通しており、開閉弁によって開閉される。さらに、連通路における作動流体の流動が、動力変換機構によって回転運動に変換され、回転マスに伝達される。また、第1及び第2リリーフ機構がピストンに設けられており、第1流体室内の作動流体の圧力が第1所定値に達したときに、第1及び第2流体室が第1リリーフ機構で互いに連通させられ、第2流体室内の作動流体の圧力が第2所定値に達したときに、第2及び第1流体室が第2リリーフ機構で互いに連通させられる。
【0033】
さらに、シリンダ及びピストンが、構造物を含む系内の第1及び第2部位にそれぞれ連結されており、構造物の振動に伴う第1部位と第2部位の間の相対変位は、シリンダ及びピストンに伝達される。この場合、開閉弁が開弁しているときには、上記のシリンダ及びピストンへの相対変位の伝達によって、ピストンがシリンダ内を軸線方向に摺動し、それに伴い、シリンダの第1及び第2流体室内の作動流体は、ピストンで押圧されることにより、連通路を介して、第1及び第2流体室の一方から他方に流動する。その際、連通路における作動流体の流動が、動力変換機構によって回転運動に変換された状態で回転マスに伝達される結果、回転マスが回転する。以上により、開閉弁が開弁しているときには、振動抑制装置は、いわゆる回転慣性質量ダンパとして機能し、回転マスによる回転慣性質量効果が得られることによって、振動抑制装置が設けられた構造物の振動周期を伸長させることができる。
【0034】
一方、開閉弁が閉弁しているときには、構造物の振動に伴って第1部位と第2部位の間の相対変位がシリンダ及びピストンに伝達されると、第1流体室内の作動流体の圧力が第1所定値に、又は、第2流体室内の作動流体の圧力が第2所定値に、それぞれ達しない限り、第1及び第2流体室が互いに連通せず、ピストンがシリンダに対して動かなくなり、達したときに、ピストンがシリンダ内を摺動する。以上により、開閉弁が閉弁しているときには、振動抑制装置は、いわゆる摩擦ダンパとして機能し、第1及び第2所定値に応じた比較的大きな摩擦減衰効果が得られる。
【0035】
以上のように、本発明によれば、択一的に選択可能な回転慣性質量ダンパ特性及び摩擦ダンパ特性を有する単一の装置を実現することができる。
【0036】
また、前述した構成によれば、構造物の振動に伴う第1部位と第2部位の間の水平方向の相対変位が水平方向の一方の側の最大変位に達した時から、シリンダに対するピストンの変位の方向が反転する時までの期間、及び、構造物の振動に伴う第1部位と第2部位の間の水平方向の相対変位が水平方向の他方の側の最大変位に達した時から、シリンダに対するピストンの変位の方向が反転する時までの期間である特性切替期間が、特性切替期間検出手段によって検出される。さらに、構造物の振動中、制御手段によって開閉弁が、特性切替期間が検出されていないときには閉弁され、特性切替期間が検出されているときには開弁される。なお、本発明において、最大変位とは、構造物の振動の1周期における相対変位の最大値のことであり、換言すれば、相対変位の方向が反転する直前での相対変位のことである。
【0037】
図14(a)は、例えば、本発明による振動抑制装置ADのシリンダC及びピストンが構造物の下梁bd及び上梁buにそれぞれ連結された場合において、構造物が振動していないときの振動抑制装置ADなどを概略的に示しており、
図14(b)は、この場合において、構造物の振動に伴う上下の梁bu、bdの間の水平方向の相対変位(以下、「梁間相対変位」という)が水平方向の一方の側の最大変位に達する直前における振動抑制装置ADなどを概略的に示している。
図14において、Eは連結部材であり、中抜きの矢印は、梁間相対変位の方向(下梁bdに対する上梁buの相対変位の方向)を表している。なお、
図14では便宜上、連通路や、開閉弁、回転マス、動力変換機構の図示を省略している。
【0038】
図14(a)と
図14(b)の比較から明らかなように、梁間相対変位が水平方向の一方の側の最大変位に達する直前では、上下の梁bu、bdからの力が連結部材Eに作用することによって、連結部材Eが弾性変形し、その弾性エネルギが蓄積される。この場合には、特性切替期間が検出されていないため、開閉弁が閉弁されており、摩擦ダンパ特性が振動抑制装置ADの振動抑制特性として選択されている。
【0039】
そして、梁間相対変位が水平方向の一方の側の最大変位に達し、特性切替期間が検出されると、開閉弁が開弁され、回転慣性質量ダンパ特性が選択される。これに伴い、上述した連結部材Eの弾性エネルギでピストンがシリンダCに対して摺動することによって、前述したように作動流体が連通路を流動する結果、回転マスが回転する。このように、梁間相対変位が水平方向の一方の側の最大変位に達したときには、それまでに蓄積された連結部材Eの弾性エネルギが、シリンダCに対するピストンの摺動により消費されることによって、
図14(c)に示すように、連結部材Eの弾性変形が0になる。
【0040】
その後、上述したように回転する回転マスの運動エネルギで作動流体が流動し続け、作動流体がピストンを介して連結部材Eを押圧し、それにより、
図14(d)に示すように、連結部材Eが弾性変形する。
図14(d)から明らかなように、この弾性変形による連結部材Eの弾性エネルギは、梁間相対変位を水平方向の一方の側に変化させる方向に作用し、すなわち、水平方向の他方の側への梁間相対変位を減少させ、上下の梁bu、bdに抵抗力として作用する。そして、シリンダCに対するピストンの変位の方向が反転した時点で、すなわち、作動流体の流動が反転することで回転マスの運動エネルギが0になる時点で、特性切替期間が検出されなくなり、開閉弁が閉弁され、摩擦ダンパ特性が選択される。
【0041】
また、梁間相対変位が水平方向の他方の側の最大変位に達する直前と、梁間相対変位が水平方向の他方の側の最大変位に達した時から、シリンダCに対するピストンの変位の方向が反転するまでの特性切替期間においても、
図15(a)〜(c)に示すように、上述した動作と逆の動作が行われる。それにより、摩擦ダンパ特性又は回転慣性質量ダンパ特性が選択されることによって、回転マスの運動エネルギに起因する連結部材Eの弾性エネルギが、水平方向の一方の側への梁間相対変位を減少させるように作用し、上下の梁bu、bdに抵抗力として作用する。
【0042】
以上より、振動抑制装置ADの抵抗力と、梁間相対変位との関係は、例えば、
図16のように表される。
図16(a)は、構造物の振動が比較的大きくない場合における振動抑制装置ADの抵抗力と梁間相対変位との関係を、
図16(b)は、構造物の振動が比較的大きい場合における振動抑制装置ADの抵抗力と梁間相対変位との関係を、それぞれ示している。
図16において、Kは、連結部材Eの弾性係数を表している。また、点P1〜点P2は、構造物の振動後、梁間相対変位が一方の側の最大変位に初めて達した時から、連結部材Eの弾性変形が前述したように0になるまでの間における振動抑制装置ADの抵抗力と梁間相対変位との関係を示し、点P2〜点P3は、連結部材Eの弾性変形が0になった時から梁間相対変位が他方の側の変位に変化するまでの間における振動抑制装置ADの抵抗力と梁間相対変位との関係を示している。
【0043】
さらに、点P4〜点P5は、梁間相対変位が他方の側の最大変位に達した時から、連結部材Eの弾性変形が0になるまでの間における振動抑制装置ADの抵抗力と梁間相対変位との関係を示し、点P5〜点P6は、連結部材Eの弾性変形が0になった時から梁間相対変位が一方の側の変位に変化するまでの間における振動抑制装置ADの抵抗力と梁間相対変位との関係を示している。また、+Frは、第1リリーフ機構により第1及び第2流体室が互いに連通させられたときに得られる振動抑制装置ADの抵抗力であり、−Frは、第2リリーフ機構により第2及び第1流体室が互いに連通させられたときに得られる振動抑制装置ADの抵抗力である。
【0044】
図16の点P2〜点P3及び点P5〜点P6に示すように、上述した回転マスの運動エネルギに起因する連結部材Eの弾性エネルギによる減衰力が作用する分、振動抑制装置ADの振動エネルギ吸収効果は大きくなっている。
【0045】
一方、
図17は、本発明と異なり、開閉弁を常に閉弁した場合、すなわち摩擦ダンパ特性を常に選択した場合における振動抑制装置の抵抗力と、梁間相対変位との関係を、(a)構造物の振動が比較的大きくないときについて、(b)構造物の振動が比較的大きいときについて、それぞれ示している。この場合において、構造物の振動が比較的大きくないときには、上述した場合と異なり、開閉弁が常に閉弁されることで回転マスが回転しないため、
図17(a)に示すように、抵抗力は、連結部材Eの弾性係数Kを傾きとして、梁間相対変位の増大に伴ってリニアに増大する。また、上述した
図16(a)の場合と異なり、回転マスの運動エネルギに起因する連結部材Eの弾性エネルギが上下の梁bu、bdに作用しないため、その分、振動抑制装置の抵抗力は小さくなり、±Frに達しなくなり、摩擦減衰効果(振動エネルギ吸収効果)が得られなくなる。
【0046】
また、構造物の振動が比較的大きいときにも、
図17(b)に示すように、回転マスの運動エネルギに起因する連結部材Eの弾性エネルギが上下の梁bu、bdに作用しないため、その分、振動抑制装置の振動エネルギ吸収効果は小さくなる。さらに、
図17(a)及び(b)のいずれの場合にも、梁間相対変位が水平方向の一方又は他方の最大変位に達した後、それまでに蓄積された弾性部材Eの弾性エネルギは、梁間相対変位を水平方向の他方又は一方の側に復元させるように作用するのに対し、この弾性エネルギが回転マスで消費されず、上下の梁bu、bdに作用する。以上により、摩擦ダンパ特性を常に選択した場合には、振動抑制装置で吸収される構造物の振動エネルギが、小さくなる。
【0047】
以上のように、特性切替期間が検出されていないときに、開閉弁を閉弁し、摩擦ダンパ特性を選択するとともに、特性切替期間が検出されているときに、開閉弁を開弁し、回転慣性質量ダンパ特性を選択することによって、構造物のより大きな振動エネルギを吸収し、構造物の振動を適切に抑制することができる。なお、この効果は、シリンダC及びピストンを、上記とは逆に、上梁bu及び下梁bdにそれぞれ連結した場合にも同様に得られ、また、第1及び第2部位として他の適当な部位を採用した場合にも同様に得られることは、もちろんである。
【0048】
前記目的を達成するために、請求項
6に係る発明は、構造物の振動を抑制するための構造物の振動抑制装置であって、構造物を含む系内の第1部位に連結されたシリンダと、シリンダ内に軸線方向に摺動自在に設けられ、シリンダ内を、第1流体室と第2流体室に区画するとともに、系内の第2部位に連結されたピストンと、第1及び第2流体室に充填された作動流体と、ピストンをバイパスするとともに、第1及び第2流体室に連通する第1連通路と、第1連通路を開閉可能な開閉弁と、開閉弁の開閉を制御する制御手段と、回転自在の回転マスと、第1連通路における作動流体の流動を回転運動に変換し、回転マスに伝達する動力変換機構と、第1及び第2流体室に連通するとともに、第1連通路と並列に設けられた第2連通路と、
構造物に入力された振動加速度を検出する振動加速度検出手段と、開閉弁が第1連通路を開放していると仮定したときの構造物の振動に対する応答を表す第1応答パラメータを、検出された振動加速度に応じて算出する第1応答パラメータ算出手段と、開閉弁が第1連通路を閉鎖していると仮定したときの構造物の振動に対する応答を表す第2応答パラメータを、振動加速度に応じて算出する第2応答パラメータ算出手段と、を備え、制御手段は、算出された第1応答パラメータと第2応答パラメータとの比較結果に基づいて、開閉弁の開閉を制御する第1制御モードを実行することを特徴とする。
【0049】
この構成によれば、シリンダ内に軸線方向に摺動自在に設けられたピストンが、シリンダ内を、第1流体室と第2流体室に区画しており、これらの第1及び第2流体室に、作動流体が充填されている。また、第1連通路が、ピストンをバイパスするとともに、第1及び第2流体室に連通しており、開閉弁で開閉される。開閉弁の開閉は制御手段で制御される。さらに、第1連通路における作動流体の流動が、動力変換機構によって回転運動に変換され、回転マスに伝達される。また、第1連通路と並列に設けられた第2連通路が、第1及び第2流体室に連通している。
【0050】
さらに、シリンダ及びピストンが、構造物を含む系内の第1及び第2部位にそれぞれ連結されており、構造物の振動に伴う第1部位と第2部位の間の相対変位は、シリンダ及びピストンに伝達される。この場合、開閉弁で第1連通路が開放されているときには、上記のシリンダ及びピストンへの相対変位の伝達によって、ピストンがシリンダ内を軸線方向に摺動し、それに伴い、シリンダの第1及び第2流体室内の作動流体が、ピストンで押圧されることにより、少なくとも第1連通路を介して、第1及び第2流体室の一方から他方に流動する。その際、第1連通路における作動流体の流動が、動力変換機構により回転運動に変換された状態で回転マスに伝達される結果、回転マスが回転する。
【0051】
以上により、第1連通路が開放されているときには、振動抑制装置は、いわゆる回転慣性質量ダンパとして機能し、回転マスによる回転慣性質量効果が得られることによって、振動抑制装置が設けられた構造物の振動周期を伸長させることができる。また、この場合、例えば、振動抑制装置を、弾性を有する連結部材を介して第1及び第2部位に連結することにより、振動抑制装置及び連結部材から成る付加振動系を構成するとともに、付加振動系の固有振動数を構造物の固有振動数に同調させることによって、付加振動系の共振による制振効果を適切に得ることができる。
【0052】
一方、開閉弁で第1連通路が閉鎖されているときには、上述したようにピストンがシリンダ内を軸線方向に摺動するのに伴い、第1及び第2流体室内の作動流体が、ピストンで押圧されることにより、第2連通路を介して、第1及び第2流体室の一方から他方に流動する。以上により、第1連通路が閉鎖されているときには、振動抑制装置は、いわゆる粘性ダンパとして機能し、作動流体が第2連通路を通過する際の抵抗力による粘性減衰効果が得られる。
【0053】
以上のように、本発明によれば、択一的に選択可能な回転慣性質量ダンパ特性(回転慣性質量ダンパの振動抑制特性)及び粘性ダンパ特性(粘性ダンパの振動抑制特性)を有する単一の装置を実現することができるので、振動抑制特性を適切に選択することによって、構造物の振動を適切に抑制することができる。
また、上記の構成によれば、構造物に入力された振動加速度が、振動加速度検出手段によって検出される。また、開閉弁が第1連通路を開放していると仮定したときの構造物の振動に対する応答を表す第1応答パラメータが、すなわち、回転慣性質量ダンパ特性が選択されていると仮定したときの構造物の振動に対する応答を表す第1応答パラメータが、検出された振動加速度に応じ、第1応答パラメータ算出手段によって算出される。さらに、開閉弁が第1連通路を閉鎖していると仮定したときの構造物の振動に対する応答を表す第2応答パラメータが、すなわち、粘性ダンパ特性が選択されていると仮定したときの構造物の振動に対する応答を表す第2応答パラメータが、振動加速度に応じ、第2応答パラメータ算出手段によって算出される。
また、算出された第1応答パラメータと第2応答パラメータとの比較結果に基づいて開閉弁の開閉を制御する第1制御モードが、制御手段によって実行される。これにより、例えば、第1応答パラメータで表される構造物の振動に対する応答が、第2応答パラメータのそれよりも小さいときには、第1連通路を開放し、回転慣性質量ダンパ特性を選択するとともに、後者が前者よりも小さいときには、第1連通路を閉鎖し、粘性ダンパ特性を選択することにより、そのときどきの振動加速度に応じて、より高い振動抑制特性を適切に選択できるので、構造物の振動を適切に抑制することができる。
【0054】
請求項
7に係る発明は、請求項
6に記載の構造物の振動抑制装置において、第1及び第2連通路は第1及び第2流体室の一方に、開閉弁、及び、互いに共通の集合通路を介して連通しており、開閉弁は、第1連通路を開放すると同時に第2連通路を閉鎖するとともに、第1連通路を閉鎖すると同時に第2連通路を開放するように構成されていることを特徴とする。
【0055】
この構成によれば、第1及び第2連通路が第1及び第2流体室の一方に、開閉弁、及び、互いに共通の集合通路を介して連通している。さらに、開閉弁により、第1連通路が開放されると同時に第2連通路が閉鎖されるとともに、第1連通路が閉鎖されると同時に第2連通路が開放されるので、上述した請求項
6に係る発明による効果を適切に得ることができる。
【0059】
請求項
8に係る発明は、請求項
7に記載の構造物の振動抑制装置において、ピストンに設けられ、第1流体室内の作動流体の圧力が第1所定値に達したときに第1及び第2流体室を互いに連通させる第1リリーフ機構と、ピストンに設けられ、第2流体室内の作動流体の圧力が第2所定値に達したときに第2及び第1流体室を互いに連通させる第2リリーフ機構と、をさらに備え、開閉弁は、第1及び第2連通路を同時に閉鎖可能に構成されていることを特徴とする。
【0060】
この構成によれば、第1及び第2流体室内の作動流体の圧力が第1及び第2所定値にそれぞれ達したときに、第1及び第2リリーフ機構によって、第1及び第2流体室が互いに連通させられる。また、開閉弁で第1及び第2連通路が同時に閉鎖されているときには、構造物の振動に伴って第1及び第2部位の間の相対変位がシリンダ及びピストンに伝達されても、第1及び第2流体室内の作動流体の圧力の一方が対応する第1及び第2所定値の一方に達しない限り、第1及び第2流体室が互いに連通せず、ピストンがシリンダに対して動かなくなり、達したときに、ピストンがシリンダ内を摺動する。
【0061】
以上により、開閉弁で第1及び第2連通路が同時に閉鎖されているときには、振動抑制装置は、いわゆる摩擦ダンパとして機能し、第1及び第2所定値に応じた比較的大きな摩擦減衰効果が得られる。なお、この場合、構造物の振動度合が比較的大きくないときには、第1及び第2流体室内の作動流体の圧力が第1及び第2所定値にそれぞれ達せず、ピストンがシリンダに対して動かないことによって、上記の摩擦減衰効果が得られなくなる。
【0062】
以上のように、本発明によれば、択一的に選択可能な回転慣性質量ダンパ特性、粘性ダンパ特性及び摩擦ダンパ特性(摩擦ダンパの振動抑制特性)を有する単一の装置を実現することができるので、振動抑制特性を適切に選択することによって、構造物の振動をより適切に抑制することができる。
【0063】
請求項
9に係る発明は、請求項
8に記載の構造物の振動抑制装置において、構造物の振動度合を表す振動度合パラメータを検出する振動度合パラメータ検出手段をさらに備え、制御手段は、検出された振動度合パラメータで表される構造物の振動度合が所定値以下のときに、第1制御モードを実行し、振動度合パラメータで表される構造物の振動度合が所定値よりも大きいときに、第1及び第2連通路を同時に閉鎖させるように開閉弁を制御する第2制御モードを実行することを特徴とする。
【0064】
この構成によれば、構造物の振動度合を表す振動度合パラメータが振動度合パラメータ検出手段によって検出され、検出された振動度合パラメータで表される構造物の振動度合が所定値以下のときに、請求項
6に係る発明で説明した第1制御モードが実行される。これにより、構造物の振動度合が比較的大きくないときに、摩擦ダンパ特性ではなく、回転慣性質量ダンパ特性及び粘性ダンパ特性を前述したように適切に選択できるので、構造物の振動を適切に抑制することができる。
【0065】
また、振動度合パラメータで表される構造部の振動度合が所定値よりも大きいときに、第1及び第2連通路を同時に閉鎖させるように開閉弁を制御する第2制御モードが実行される。これにより、構造物の振動度合が比較的大きいときに、振動抑制装置の振動抑制特性として、請求項
8に係る発明で説明した摩擦ダンパ特性を選択できるので、その比較的大きな摩擦減衰効果が得られることで、回転慣性質量ダンパ特性及び粘性ダンパ特性を選択した場合よりも大きな振動エネルギを吸収でき、構造物の振動を適切に抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0067】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
図1に示す本発明の第1実施形態による振動抑制装置1は、高層の建物B(
図2参照)の振動を抑制するためのものであり、円筒状のシリンダ2と、シリンダ2内に軸線方向に摺動自在に設けられたピストン3と、ピストン3に一体に設けられ、シリンダ2内に軸線方向に移動自在に部分的に収容されたロッド4を備えている。以下、振動抑制装置1について、便宜上、
図1の左側及び右側をそれぞれ「左」及び「右」として説明する。
【0068】
シリンダ2は、互いに対向する左壁2a及び右壁2bと、両者2a、2bの間に一体に設けられた周壁2cで構成されている。これらの左右の壁2a、2b及び周壁2cによって画成された流体室は、ピストン3によって左側の第1流体室2dと右側の第2流体室2eに区画されており、両流体室2d、2eには、シリコンオイルで構成された作動流体HFが充填されている。また、右壁2bの径方向の中央には、左右方向(軸線方向)に貫通するロッド案内孔2fが形成されており、ロッド案内孔2fには、シールが設けられている。さらに、左壁2aには、左方に突出する凸部2gが一体に設けられており、凸部2gには、自在継手を介して、第1取付具FL1が設けられている。
【0069】
前記ロッド4は、上記のロッド案内孔2fに、シールを介して挿入され、軸線方向に延びるとともに、シリンダ2に対して軸線方向に移動自在であり、その左端部がピストン3に取り付けられている。また、ロッド4の右端部には、自在継手を介して、第2取付具FL2が設けられている。
【0070】
前記ピストン3は、円柱状に形成され、その周面には、シールが設けられている。また、ピストン3の径方向の外端部には、軸線方向に貫通する複数の孔が形成されており(2つのみ図示)、これらの孔には、第1リリーフ弁5及び第2リリーフ弁6が設けられている。
【0071】
第1リリーフ弁5は、弁体と、これを閉弁側に付勢するばねで構成されており、後述するようにピストン3がシリンダ2に対して移動することで第1流体室2d内の作動流体HFの圧力が所定の上限値に達したときに、開弁する。これにより、第1及び第2流体室2d、2eが互いに連通させられることによって、第1流体室2d内の作動流体HFの圧力の過大化が防止される。第2リリーフ弁6は、第1リリーフ弁5と同様、弁体と、これを閉弁側に付勢するばねで構成されており、ピストン3が移動することで第2流体室2e内の作動流体HFの圧力が上記の上限値に達したときに開弁する。これにより、第2及び第1流体室2e、2dが互いに連通させられることによって、第2流体室2e内の作動流体HFの圧力の過大化が防止される。
【0072】
また、振動抑制装置1は、シリンダ2に接続された、断面円形の第1連通管7と、第1連通管7に設けられた第1開閉弁8及び歯車モータ9と、歯車モータ9に連結された回転マス15をさらに備えている。第1連通管7の断面積(軸線方向に直交する面の面積)は、シリンダ2の断面積(軸線方向に直交する面の面積)よりも小さな値に設定されている。第1連通管7は、その一端部及び他端部が周壁2cの左端部及び右端部にそれぞれ接続され、ピストン3をバイパスしており、第1及び第2流体室2d、2eに連通している。
【0073】
上記の第1開閉弁8は、全開及び全閉に択一的に制御可能な常閉式の電磁弁で構成され、第1連通管7を開閉可能に設けられており、後述する制御装置21に接続されている(
図3参照)。第1開閉弁8の開閉は、制御装置21からの第1制御信号によって制御され、この第1制御信号が入力されていないときには、第1開閉弁8は、その復帰ばね(図示せず)の付勢により全閉状態になる。
【0074】
前記歯車モータ9及び回転マス15は、本出願人による特許第5191579号の
図13などに記載されたものと同様に構成されている。具体的には、歯車モータ9は、外接歯車型のものであり、ケーシング10と、ケーシング10に収容された第1ギヤ11及び第2ギヤ12などで構成されている。ケーシング10は、第1連通管7の中央部に一体に設けられており、その内部が互いに対向する2つの出入口10a、10aを介して、第1連通管7に連通している。
【0075】
また、第1ギヤ11は、スパーギヤで構成され、第1回転軸13に一体に設けられている。第1回転軸13は、第1連通管7に直交する方向に水平に延び、ケーシング10に回転自在に支持されており、ケーシング10の外部に若干、突出している。第2ギヤ12は、第1ギヤ11と同様、スパーギヤで構成され、第2回転軸14に一体に設けられており、第1ギヤ11と噛み合っている。第2回転軸14は、第1回転軸13と平行に延び、ケーシング10に回転自在に支持されている。また、第1及び第2ギヤ11、12の互いの噛合い部分は、ケーシング10の出入口10a、10aに臨んでいる。
【0076】
回転マス15は、比重の比較的大きな材料、例えば鉄から成る円板で構成されている。また、回転マス15は、第1回転軸13に同軸状に固定されており、第1ギヤ11及び第1回転軸13と一体に回転自在である。
【0077】
また、振動抑制装置1は、シリンダ2に第1連通管7と並列に接続された、断面円形の第2連通管16と、第2連通管16に設けられた第2開閉弁17をさらに備えている。第2連通管16の断面積(軸線方向に直交する面の面積)は、第1連通管7と同様、シリンダ2の断面積(軸線方向に直交する面の面積)よりも小さな値に設定されている。第2連通管16は、その一端部及び他端部が周壁2cの左端部及び右端部にそれぞれ接続され、ピストン3をバイパスしており、第1及び第2流体室2d、2eに連通している。
【0078】
上記の第2開閉弁17は、全開及び全閉に択一的に制御可能な常開式の電磁弁で構成され、第2連通管16を開閉可能に設けられており、制御装置21に接続されている(
図3参照)。第2開閉弁16の開閉は、制御装置21からの第2制御信号によって制御され、この第2制御信号が入力されていないときには、第2開閉弁17は、その復帰ばね(図示せず)の付勢により全開状態になる。
【0079】
また、
図2に示すように、振動抑制装置1の前述した第1及び第2取付具FL1、FL2は、高層の建物Bの上梁BU及び下梁BDにそれぞれ連結されている。具体的には、第1及び第2取付具FL1、FL2は、鉛直に延びる第1及び第2連結部材EN1、EN2の下端部及び上端部に、それぞれ取り付けられており、第1連結部材EN1の上端部は上梁BUの底面に、第2連結部材EN2の下端部は下梁BDの上面に、それぞれ取り付けられている。上下の梁BU、BDは、互いに平行に水平方向に延びている。第1及び第2連結部材EN1、EN2は、比較的高い剛性を有する鋼材、例えばH型鋼で構成されている。
【0080】
以上により、振動抑制装置1は、そのシリンダ2が上梁BUに連結され、ピストン3がロッド4とともに下梁BDに連結されており、水平方向(上下の梁BU、BDの長さ方向)に延びている。また、建物Bが振動していないときには、ピストン3は、
図1に示すように、シリンダ2内の軸線方向の中央の中立位置に位置している。なお、
図2では便宜上、第1及び第2連通管7、16、第1及び第2開閉弁8、17、歯車モータ9、ならびに回転マス15の図示を省略している。
【0081】
さらに、
図3に示すように、振動抑制装置1は、制御装置21及び第1〜第3加速度センサ22、23、24をさらに備えている。制御装置21は、バッテリや、電気回路、CPU、RAM、ROM、I/Oインターフェースなどの組み合わせで構成されており、建物B内に設けられている。第1〜第3加速度センサ22〜24は、例えば半導体式のものであり、第1及び第2加速度センサ22、23は、地震などに伴って発生した上下の梁BU、BDの振動による水平方向の加速度(以下、それぞれ「上梁振動加速度」及び「下梁振動加速度」という)を検出し、その検出信号を制御装置21に入力する。また、第3加速度センサ24は、建物Bが立設された基礎(図示せず)に設けられており、地震などにより建物Bに入力される振動加速度ACVを検出し、その検出信号を制御装置21に入力する。
【0082】
以上の構成の振動抑制装置1では、建物Bの振動中、それに伴う上下の梁BU、BDの間の水平方向(上下の梁BU、BDの長さ方向)の相対変位(以下「梁間相対変位」という)が、シリンダ2及びピストン3に伝達される。この場合、制御装置21により第1開閉弁8を開弁するとともに、第2開閉弁17を閉弁しているときには、上記のシリンダ2及びピストン3への梁間相対変位の伝達によって、ピストン3がシリンダ2内を軸線方向に摺動し、それに伴い、シリンダ2の第1及び第2流体室2d、2e内の作動流体HFが、ピストン3で押圧されることにより、第1連通管7を介して、第1及び第2流体室2d、2eの一方から他方に流動する。その際、第1連通管7における作動流体HFの流動が、歯車モータ9によって回転運動に変換された状態で回転マス15に伝達される結果、回転マス15が回転する。
【0083】
以上により、第1開閉弁8が開弁し、かつ第2開閉弁17が閉弁しているときには、振動抑制装置1は、いわゆる回転慣性質量ダンパとして機能し、回転マス15による回転慣性質量効果が得られる。
【0084】
また、第1開閉弁8が閉弁し、かつ第2開閉弁17が開弁しているときには、シリンダ2及びピストン3への梁間相対変位の伝達によって、ピストン3がシリンダ2内を軸線方向に摺動し、それに伴い、第1及び第2流体室2d、2e内の作動流体HFが、ピストン3で押圧されることにより、第2連通管16を介して、第1及び第2流体室2d、2eの一方から他方に流動する。以上により、第1開閉弁8が閉弁し、かつ第2開閉弁17が開弁しているときには、振動抑制装置1は、いわゆる粘性ダンパとして機能し、作動流体HFが第2連通管16を通過する際の抵抗力による粘性減衰効果が得られる。
【0085】
さらに、第1及び第2開閉弁8、17がいずれも閉弁しているときには、梁間相対変位がシリンダ2及びピストン3に伝達されると、第1流体室2d内の作動流体HFの圧力が前記上限値に、又は、第2流体室2e内の作動流体HFの圧力が上限値に、それぞれ達しない限り、第1及び第2流体室2d、2eが互いに連通せず、ピストン3がシリンダ2に対して動かなくなり、達したときに、ピストン3がシリンダ2内を摺動する。以上により、第1及び第2開閉弁8、17がいずれも閉弁しているときには、振動抑制装置1は、いわゆる摩擦ダンパとして機能し、上限値に応じた比較的大きな摩擦減衰効果が得られる。
【0086】
また、前記第1及び第2連結部材EN1、EN2の剛性は、シリンダ2に対するピストン3の移動により第1又は第2流体室2d、2e内の作動流体の圧力が上限値に達したときにおける振動抑制装置1の抵抗力で変形しないような大きさに、設定されている。
【0087】
以上のように、振動抑制装置1は、回転慣性質量ダンパの振動抑制特性、粘性ダンパの振動抑制特性及び摩擦ダンパの振動抑制特性を有しており、これらの3つの振動抑制特性を択一的に選択可能に構成されている。以下、回転慣性質量ダンパの振動抑制特性、粘性ダンパの振動抑制特性及び摩擦ダンパの振動抑制特性をそれぞれ、「回転慣性質量ダンパ特性」「粘性ダンパ特性」「摩擦ダンパ特性」という。また、
図4は、シリンダ2に対するピストン3の変位(以下「ピストン変位」という)と振動抑制装置1の抵抗力との関係を、(a)回転慣性質量ダンパ特性が選択されている場合について、(b)粘性ダンパ特性が選択されている場合について、(c)摩擦ダンパ特性が選択されている場合について、それぞれ示している。
図4において、+FRは、第1リリーフ弁5により第1及び第2流体室2d、2eが互いに連通させられたときに得られる振動抑制装置1の抵抗力であり、−FRは、第2リリーフ弁6により第2及び第1流体室2e、2dが互いに連通されたときに得られる振動抑制装置1の抵抗力である。
【0088】
また、制御装置21は、
図5に示す処理を所定周期(例えば10msec)で繰り返し実行することによって、第1及び第2開閉弁8、17を制御する。以下、この処理について説明する。
【0089】
まず、
図5のステップ1(「S1」と図示。以下同じ)では、建物Bの振動度合を表す振動度合パラメータDVを算出する。具体的には、検出された上梁加速度を2回積分することなどによって、上梁BUの絶対変位(絶対座標系の変位)を算出し、検出された下梁加速度を2回積分することなどによって、下梁BDの絶対変位(絶対座標系の変位)を算出するとともに、算出された上梁BUの絶対変位と下梁BDの絶対変位との偏差の絶対値を、振動度合パラメータDVとして算出する。
【0090】
次いで、建物Bが振動中であるか否かを判別する(ステップ2)。このステップ2では、上記ステップ1で算出された振動度合パラメータDVが所定の下限値DVMINよりも大きい状態が比較的短い所定時間、継続したときに、建物Bが振動中であると判別される。また、建物Bが振動中であると一旦、判別されると、建物Bが振動中であるとの判別は、その後、DV≦DVMINの状態が上記の所定時間、継続しない限り、保持される。
【0091】
上記ステップ2の答がNOで、建物Bが振動中でないときには、第1及び第2開閉弁8、17への第1及び第2制御信号の入力をそれぞれ停止し、それにより第1及び第2開閉弁8、17をそれぞれ閉弁及び開弁し(ステップ3)、そのまま本処理を終了する。
【0092】
一方、上記ステップ2の答がYESで、建物Bが振動中であるときには、振動度合パラメータDVが、下限値DVMINよりも大きな所定値DVREF以下であるか否かを判別する(ステップ4)。この答がYES(DV≦DVREF)で、建物Bの振動度合が比較的大きくないときには、次のステップ5以降を実行し、第1及び第2開閉弁8、17を第1制御モードで制御する。
【0093】
まず、ステップ5では、検出された振動加速度ACVに基づき、次式(1)によって、第1応答パラメータRES1を算出し、更新する。更新されたRES1は、RAMに記憶される。この第1応答パラメータRES1は、第1及び第2開閉弁8、17がそれぞれ開弁及び閉弁されることで回転慣性質量ダンパ特性が選択されていると仮定した場合における建物Bの最大絶対加速度応答である。
【数1】
【0094】
式(1)において、ω1は、回転慣性質量ダンパ特性が選択されていると仮定した場合における建物Bの固有円振動数であり、h1は、この場合における建物Bの減衰定数である。また、ω1dは、この場合における建物Bの減衰固有円振動数であり、ω1d=ω1・sqrt(1−h12)である。さらに、maxは、maxよりも左側の式で今回から所定の複数のn回前までに算出されたn+1個の算出値(以下「第1暫定値」という)のうちの最大値を、第1応答パラメータRES1として算出し、更新することを、表している。
【0095】
また、第1応答パラメータRES1は、一旦、更新されると、その時点から、ステップ4の答がYESの状態がnに対応する所定の更新時間にわたって継続するまで、更新されずに保持され、その間、上記のRES1の第1暫定値の算出が行われる。これにより、第1応答パラメータRES1は、上記の更新時間が経過するごとに、更新される。さらに、建物Bの振動が一旦、終了した後に、再度、建物Bの振動が開始され、ステップ4の答がYES(DV≦DVREF)になったときには、その時点から、ステップ4の答がYESの状態が更新時間にわたって継続しない限り、RES1は更新されない。
【0096】
なお、上記の式(1)の導出については、「新・地震動のスペクトル解析入門 著者:大崎順彦 発行所:鹿島出版会」の第7章「応答スペクトル」を参照されたい。
【0097】
上記ステップ5に続くステップ6では、振動加速度ACVに基づき、次式(2)によって、第2応答パラメータRES2を算出し、更新する。更新されたRES2は、RAMに記憶される。この第2応答パラメータRES2は、第1及び第2開閉弁8、17がそれぞれ閉弁及び開弁されることで粘性ダンパ特性が選択されていると仮定した場合における建物Bの最大絶対加速度応答である。
【数2】
【0098】
式(2)において、ω2は、粘性ダンパ特性が選択されていると仮定した場合における建物Bの固有円振動数であり、h2は、この場合における建物Bの減衰定数である。また、ω2dは、この場合における建物Bの減衰固有円振動数であり、ω2d=ω2・sqrt(1−h22)である。さらに、maxは、上記の式(1)と同様、maxよりも左側の式で今回からn回前までに算出されたn+1個の算出値(以下「第2暫定値」という)のうちの最大値を、第2応答パラメータRES2として算出し、更新することを、表している。
【0099】
また、第2応答パラメータRES2は、RES1と同様、一旦、更新されると、その時点から、ステップ4の答がYESの状態がnに対応する更新時間にわたって継続するまで、更新されずに保持され、その間、上記のRES2の第2暫定値の算出が行われる。これにより、第2応答パラメータRES2は、更新時間が経過するごとに、更新される。さらに、建物Bの振動が一旦、終了した後に、再度、建物Bの振動が開始され、ステップ4の答がYES(DV≦DVREF)になったときには、その時点から、ステップ4の答がYESの状態が更新時間にわたって継続しない限り、RES2は更新されない。
【0100】
上記の式(2)の導出についても、「新・地震動のスペクトル解析入門 著者:大崎順彦 発行所:鹿島出版会」の第7章「応答スペクトル」を参照されたい。
【0101】
上記ステップ6に続くステップ7では、建物Bの振動が開始(ステップ2:YES)されてから、第1及び第2応答パラメータRES1、RES2の算出(更新)が少なくとも1回、完了しているか否かを判別する。なお、このステップ7では、建物Bの振動が一旦、終了した後に、再度、建物Bの振動が開始されたときには、この新たな建物Bの振動が開始されてから、RES1、RES2の更新が少なくとも1回、完了しているか否かについて判別される。
【0102】
上記ステップ7の答がNOで、建物Bの振動が開始されてから第1及び第2応答パラメータRES1、RES2の算出が1回も完了していないときには、前記ステップ3を実行し、第1及び第2開閉弁8、17をそれぞれ閉弁及び開弁し、本処理を終了する。これにより、この場合には、振動抑制装置1の振動抑制特性として、粘性ダンパ特性が選択され、振動抑制装置1が粘性ダンパとして機能する。
【0103】
一方、ステップ7の答がYESで、第1及び第2応答パラメータRES1、RES2の算出が少なくとも1回、完了しているときには、前者RES1が後者RES2よりも小さいか否かを判別する(ステップ8)。この答がYESで、第1応答パラメータRES1が第2応答パラメータRES2よりも小さいときには、第1開閉弁8に第1制御信号を入力するとともに、第2開閉弁17への第2制御信号の入力を停止することによって、第1及び第2開閉弁8、17をそれぞれ開弁及び閉弁し(ステップ9)、本処理を終了する。これにより、この場合には、振動抑制装置1の振動抑制特性として、回転慣性質量ダンパ特性が選択され、振動抑制装置1が回転慣性質量ダンパとして機能する。
【0104】
一方、上記ステップ8の答がNOで、第2応答パラメータRES2が第1応答パラメータRES1以下のときには、前記ステップ3を実行し、それにより第1及び第2開閉弁8、17をそれぞれ閉弁及び開弁し、本処理を終了する。これにより、この場合には、振動抑制装置1の振動抑制特性として、粘性ダンパ特性が選択され、振動抑制装置1が粘性ダンパとして機能する。
【0105】
一方、前記ステップ4の答がNO(DV>DVREF)で、建物Bの振動度合が比較的大きいときには、第1及び第2開閉弁8、17を第2制御モードにより制御する。具体的には、第1開閉弁8への第1制御信号の入力を停止するとともに、第2開閉弁17に第2制御信号を入力することによって、第1及び第2開閉弁8、17をいずれも閉弁し(ステップ10)、本処理を終了する。これにより、この場合には、振動抑制装置1の振動抑制特性として、摩擦ダンパ特性が選択され、振動抑制装置1が摩擦ダンパとして機能する。
【0106】
なお、ステップ4では、建物Bの振動が開始されてから(ステップ2:YES)、振動度合パラメータDVが所定値DVREFよりも大きい状態が前記所定時間、継続したときに、その答がNO(DV>DVREF)になり、それにより上記ステップ10が実行されることによって、摩擦ダンパ特性が選択される。これは、建物Bの振動度合が確実に大きいときに、振動抑制装置1の振動抑制特性として摩擦ダンパ特性を選択するためである。
【0107】
また、建物Bの振動中(ステップ2:YES)、ステップ4の答がNO(DV>DVREF)になった後には、建物Bの振動が収まってくることで一時的にDV≦DVREFとなっても、ステップ4の答はYESにならず、その状態が所定時間、継続しない限り、ステップ4の答がNOに保持され、それにより摩擦ダンパ特性が保持される。そして、DV≦DVREFの状態が所定時間、継続したときに、ステップ4の答がYESになり、ステップ5以降の第1制御モードによる第1及び第2開閉弁8、17の制御が実行される。これは、建物Bの振動度合が確実に大きくなくなってから(確実に小さくなってから)、振動抑制装置1の振動抑制特性を、摩擦ダンパ特性から回転慣性質量ダンパ特性又は粘性ダンパ特性に切り替えるためである。
【0108】
さらに、建物Bの振動中、一旦、第1及び第2応答パラメータRES1、RES2の算出が完了(ステップ7:YES)してから、建物Bの振動が大きくなることでステップ4の答がNO(DV>DVREF)になり、その後、建物Bの振動が収まってくることでステップ4の答がYES(DV≦DVREF)になったときには、RES1、RES2の算出が少なくとも1回、完了しているので、ステップ7の答がYESになり、前記ステップ8及び9が実行される。この場合において、ステップ4の答がNOからYESに切り替わってから、RES1、RES2が更新されていないときには、そのときに得られているRES1、RES2、すなわち、ステップ4の答がYESからNOに切り替わる前に更新され、記憶されたRES1、RES2が、ステップ8の判別に用いられ、それにより、回転慣性質量ダンパ及び粘性ダンパのうち、ステップ4の答がYESからNOに切り替わる直前に選択されていた一方が再度、選択される。
【0109】
以上のように、
図5に示す処理では、建物Bの振動度合が比較的大きくないとき(ステップ4:YES)に、第1及び第2開閉弁8、17が第1制御モードで制御される。この第1制御モード中、回転慣性質量ダンパ特性が選択されていると仮定した場合における建物Bの最大絶対加速度応答である第1応答パラメータRES1と、粘性ダンパ特性が選択されていると仮定した場合における建物Bの最大絶対加速度応答である第2応答パラメータRES2が算出される(ステップ5、6)。また、振動抑制装置1の振動抑制特性として、RES1がRES2よりも小さいときには、回転慣性質量ダンパ特性が選択され(ステップ9)、RES2がRES1以下のときには、粘性ダンパ特性が選択される(ステップ3)。このようにして振動抑制装置1の振動抑制特性を選択するのは、次の理由による。
【0110】
すなわち、
図6は、所定の構造物の固有周期Tと加速度応答スペクトルSRAとの関係を示しており、二点鎖線は、振動抑制装置1が構造物に設けられていない場合のTとSRAの関係を、実線は、回転慣性質量ダンパとして機能する振動抑制装置1が構造物に設けられた場合のTとSRAの関係を、破線は、粘性ダンパとして機能する振動抑制装置1が構造物に設けられた場合のTとSRAの関係を、それぞれ示している。また、
図6(a)は、エルセントロNS波の地震波が構造物に入力されたときのTとSRAとの関係を、
図6(b)は、八戸NS波の地震波が構造物に入力されたときのTとSRAとの関係を、それぞれ示している。
【0111】
図6(a)に示すように、エルセントロNS波の地震波が構造物に入力された場合において、固有周期Tが所定固有周期TREFであるときには、粘性ダンパとして機能する振動抑制装置1が構造物に設けられた場合の加速度応答スペクトルSRA(破線)は、回転慣性質量ダンパとして機能する振動抑制装置1が構造物に設けられた場合の加速度応答スペクトルSRA(実線)よりも小さくなっている。また、回転慣性質量ダンパとして機能する振動抑制装置1が構造物に設けられた場合の加速度応答スペクトルSRAは、振動抑制装置1が構造物に設けられていない場合の加速度応答スペクトルSRA(二点鎖線)よりも大きくなっている。以上のように、この場合には、回転慣性質量ダンパ特性よりも粘性ダンパ特性を選択した方が、構造物の振動を適切に抑制できることが分かる。
【0112】
また、
図6(b)に示すように、八戸NS波の地震波が構造物に入力された場合において、固有周期Tが所定固有周期TREFであるときには、回転慣性質量ダンパとして機能する振動抑制装置1が構造物に設けられた場合の加速度応答スペクトルSRA(実線)は、粘性ダンパとして機能する振動抑制装置1が構造物に設けられた場合の加速度応答スペクトルSRA(破線)よりも小さくなっている。このように、この場合(八戸NS波)には、上記の場合(エルセントロNS波)とは逆に、粘性ダンパ特性よりも回転慣性質量ダンパ特性を選択した方が、構造物の振動を適切に抑制できることが分かる。
【0113】
以上のように、回転慣性質量ダンパ特性及び粘性ダンパ特性は、構造物に入力される振動の特性に応じて変化する傾向にあり、いずれの振動抑制特性を選択することで構造物の振動をより適切に抑制できるのかについては、それぞれの場合における構造物の振動に対する応答を比較しなければ、分からないためである。
【0114】
また、
図5に示す処理では、建物Bの振動度合が比較的大きいとき(ステップ4:NO)に、第1及び第2開閉弁8、17が、第2制御モードで制御されることによって、いずれも閉弁される(ステップ10)。これにより、振動抑制装置1の振動抑制特性として、摩擦ダンパ特性が選択される。これは次の理由による。すなわち、摩擦ダンパ特性が選択されているときには、前述したように、第1及び第2流体室2d、2e内の作動流体HFの圧力が上限値に達しない限り、ピストン3がシリンダ2に対して摺動しない。これにより、振動抑制装置1の摩擦減衰効果が、建物Bの振動度合が比較的大きくないときには得られず、比較的大きいときに得られるためである。
【0115】
以上のように、第1実施形態によれば、シリンダ2内に軸線方向に摺動自在に設けられたピストン3が、シリンダ2内を、第1流体室2dと第2流体室2eに区画しており、これらの第1及び第2流体室2d、2eに、作動流体HFが充填されている。また、第1連通管7が、ピストン3をバイパスし、第1及び第2流体室2d、2eに連通しており、第1開閉弁8によって開閉される。さらに、第1連通管7における作動流体HFの流動が、歯車モータ9によって回転運動に変換され、回転マス15に伝達される。また、第1連通管7と並列に設けられた第2連通管16が、ピストン3をバイパスし、第1及び第2流体室2d、2eに連通しており、第2開閉弁17によって開閉される。また、第1及び第2リリーフ弁5、6がピストン3に設けられており、第1流体室2d内の作動流体HFの圧力が上限値に達したときに、第1及び第2流体室2d、2eが第1リリーフ弁5で互いに連通させられ、第2流体室2e内の作動流体HFの圧力が上限値に達したときに、第2及び第1流体室2e、2dが第2リリーフ弁6で互いに連通させられる。
【0116】
以上の構成により、択一的に選択可能な回転慣性質量ダンパ特性、粘性ダンパ特性及び摩擦ダンパ特性から成る3つの振動抑制特性を有する単一の装置を実現することができる。
【0117】
さらに、シリンダ2及びピストン3が、建物Bの上下の梁BU、BDにそれぞれ連結されており、梁間相対変位(建物Bの振動に伴う上下の梁BU、BDの間の相対変位)は、シリンダ2及びピストン3に伝達される。また、建物Bの振動度合を表す振動度合パラメータDVが算出され、算出された振動度合パラメータDVが所定値DVREF以下で、建物Bの振動度合が比較的大きくないときには、第1及び第2開閉弁8、17が第1制御モードで制御され、それにより、振動抑制装置1の振動抑制特性として、回転慣性質量ダンパ特性又は粘性ダンパ特性が選択される。さらに、振動度合パラメータDVが所定値DVREFよりも大きく、建物Bの振動度合が比較的大きいときには、第1及び第2開閉弁8、17が第2制御モードで制御され、それにより、振動抑制装置1の振動抑制特性として、摩擦ダンパ特性が選択される。
【0118】
また、第1制御モード中、第1及び第2開閉弁8、17がそれぞれ開弁及び閉弁されることにより回転慣性質量ダンパ特性が選択されていると仮定した場合における建物Bの最大絶対加速度応答である第1応答パラメータRES1が算出されるとともに、第1及び第2開閉弁8、17がそれぞれ閉弁及び開弁されることで粘性ダンパ特性が選択されていると仮定した場合における建物Bの最大絶対加速度応答である第2応答パラメータRES2が算出される。そして、RES1<RES2のときには、回転慣性質量ダンパ特性が選択され、RES2≦RES1のときには、粘性ダンパ特性が選択される。以上により、振動抑制装置1の振動抑制特性を適切に選択でき、ひいては、建物Bの振動を適切に抑制することができる。
【0119】
次に、
図7〜
図10を参照しながら、本発明の第2実施形態による振動抑制装置31について説明する。
図7〜
図9において、第1実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を付している。以下、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0120】
図1と
図7の比較から明らかなように、振動抑制装置31は、第1実施形態と比較して、第2連通管16及び第2開閉弁17が省略されている点のみが異なっている。また、
図8に示すように、振動抑制装置31は、第1実施形態の振動抑制装置1と同様、その第1及び第2取付具FL1、FL2が第1及び第2連結部材EN1、EN2にそれぞれ取り付けられており、シリンダ2及びピストン3が、建物Bの上下の梁BU、BDにそれぞれ連結されている。なお、
図8では便宜上、第1連通管7、第1開閉弁8、歯車モータ9、及び回転マス15の図示を省略している。
【0121】
さらに、第1開閉弁8は、第1実施形態の場合と異なり常開式の電磁弁で構成されており、
図9に示すように、制御装置32に接続されている。制御装置32は、第1実施形態の制御装置21と同様に構成されている。第1開閉弁8の開閉は、制御装置32からの第1制御信号によって制御され、第1制御信号が入力されていないときには、第1開閉弁8は、その復帰ばね(図示せず)の付勢により全開状態になる。また、第2実施形態では、第3加速度センサ24が省略されている。
【0122】
以上の構成から明らかなように、振動抑制装置31は、択一的に選択可能な回転慣性質量ダンパ特性及び摩擦ダンパ特性から成る2つの振動抑制特性を有している。制御装置32は、
図10に示す処理を前記所定周期で繰り返し実行することによって、第1開閉弁8を制御する。
図10において、
図5と同じ実行内容については、同じステップ番号を付している。以下、
図10に示す処理について、
図5と異なる実行内容を中心に説明する。
【0123】
図10のステップ2の答がNOで、建物Bが振動中でないと判別されているときには、第1開閉弁8への第1制御信号の入力を停止し、第1開閉弁8を開弁し(ステップ21)、本処理を終了する。
【0124】
一方、ステップ2の答がYESで、建物Bが振動中であると判別されているときには、
図5の場合と同様、ステップ4において、前記ステップ1で算出された振動度合パラメータDVが所定値DVREF以下であるか否かを判別する。この答がYES(DV≦DVREF)で、建物Bの振動度合が比較的大きくないときには、上記ステップ21を実行し、第1開閉弁8を開弁し、本処理を終了する。これにより、この場合には、振動抑制装置1の振動抑制特性として、回転慣性質量ダンパ特性が選択され、振動抑制装置31が回転慣性質量ダンパとして機能する。
【0125】
一方、ステップ4の答がNO(DV>DVREF)で、建物Bの振動度合が比較的大きいときには、第1開閉弁8に第1制御信号を入力し、第1開閉弁8を閉弁し(ステップ22)、本処理を終了する。これにより、この場合には、振動抑制装置31の振動抑制特性として、摩擦ダンパ特性が選択され、振動抑制装置31が摩擦ダンパとして機能する。
【0126】
以上のようにして、振動度合パラメータDVに基づいて振動抑制装置31の振動抑制特性を選択するのは、第1実施形態と同じ理由による。
【0127】
以上のように、第2実施形態によれば、振動抑制装置31が、第1実施形態の振動抑制装置1の第2連通管16及び第2開閉弁17を省略した構成を備えており、それにより、択一的に選択可能な回転慣性質量ダンパ特性及び摩擦ダンパ特性から成る2つの振動抑制特性を有する単一の装置を実現することができる。
【0128】
また、シリンダ2及びピストン3が、建物Bの上下の梁BU、BDにそれぞれ連結されており、梁間相対変位は、シリンダ2及びピストン3に伝達される。さらに、建物Bの振動度合を表す振動度合パラメータDVが算出され(
図10のステップ1)、算出された振動度合パラメータDVが所定値DVREF以下(ステップ4:YES)で、建物Bの振動度合が比較的大きくないときには、第1開閉弁8が開弁され(ステップ21)、それにより、振動抑制装置31の振動抑制特性として、回転慣性質量ダンパ特性が選択される。さらに、振動度合パラメータDVが所定値DVREFよりも大きく(ステップ4:NO)、建物Bの振動度合が比較的大きいときには、第1開閉弁8が閉弁され(ステップ22)、それにより、振動抑制装置31の振動抑制特性として、摩擦ダンパ特性が選択される。以上により、振動抑制装置31の振動抑制特性を適切に選択でき、ひいては、建物Bの振動を適切に抑制することができる。
【0129】
次に、
図11〜
図13を参照しながら、本発明の第3実施形態による振動抑制装置41について説明する。第3実施形態は、第2実施形態と比較して、制御装置42で実行される処理の実行内容と、変位センサ43をさらに備える点のみが異なっており、シリンダ2や、ピストン3、第1連通管7、第1開閉弁8、歯車モータ9、回転マス15などのハード構成は、第1及び第2実施形態とまったく同じである。すなわち、第3実施形態による振動抑制装置41は、第1実施形態の振動抑制装置1の第2連通管16及び第2開閉弁17が省略された構成を有している。このため、振動抑制装置41について、そのハード構成の一部を図示せずに第2実施形態のハード構成に付した符号をそのまま用いて説明する。
【0130】
図11に示す第1及び第2連結部材EN1’、EN2’は、弾性を有する鋼材、例えばH型鋼で構成されており、その剛性が、第1及び第2実施形態の第1及び第2連結部材EN1、EN2の剛性よりも低く設定されている。より具体的には、第1及び第2連結部材EN1’、EN2’の剛性は、シリンダ2に対するピストン3の移動により第1又は第2流体室2d、2e内の作動流体の圧力が上限値に達したときにおける振動抑制装置41の抵抗力よりも小さい力で変形するような大きさに、設定されている。このため、振動抑制装置41では、建物Bの振動中、梁間相対変位(建物Bの振動に伴う上下の梁BU、BDの間の相対変位)の伝達によりピストン3がシリンダ2に対して移動する前に、第1及び第2連結部材EN1’、EN2’が梁間相対変位の伝達によって弾性変形する。
【0131】
また、第3実施形態では、第1及び第2連結部材EN1’、EN2’が振動抑制装置41に含まれる。なお、
図11では便宜上、
図8と同様、第1連通管7、第1開閉弁8、歯車モータ9、及び回転マス15の図示を省略している。
【0132】
図12に示す変位センサ43は、ピストン変位(シリンダ2に対するピストン3の変位)DPを検出し、その検出信号を制御装置42に入力する。この場合、ピストン変位DPは、例えば、ピストン3が、
図7に示すシリンダ2の中立位置から左壁2a側に変位しているときには正値になり、中立位置から右壁2b側に変位しているときには負値になる。
【0133】
また、制御装置42は、
図13に示す処理を前記所定周期で繰り返し実行することによって、第1開閉弁8を制御する。
図13において、
図10と同じ実行内容については、同じステップ番号を付している。以下、
図13に示す処理について、
図10と異なる実行内容を中心に説明する。
【0134】
図13のステップ2の答がYESで、建物Bが振動中であると判別されているときには、梁間相対速度VVを算出する(ステップ31)。この梁間相対速度VVは、上下の梁BU、BDの間の相対速度であり、
図13の前記ステップ1で算出された振動度合パラメータDVの今回値から前回値を減算した値の絶対値に、算出される。これは、前述したように、振動度合パラメータDVが、上梁BUの絶対変位と下梁BDの絶対変位との偏差の絶対値に、すなわち、上下の梁BU、BDの間の相対変位の絶対値として算出されるためである。
【0135】
次いで、検出されたピストン変位DPの今回値からその前回値を減算することによって、シリンダ2に対するピストン3の移動速度であるピストン速度VPを算出する(ステップ32)。次に、特性切替期間PRSPが検出されているか否かを判別する(ステップ33)。
【0136】
この特性切替期間PRSPは、梁間相対変位が水平方向の一方の側の最大変位に達した時から、ピストン変位DPの方向が反転する時までの期間、及び、梁間相対変位が水平方向の他方の側の最大変位に達した時から、ピストン変位DPの方向が反転する時までの期間である。すなわち、特性切替期間PRSPは、上梁BUが下梁BDに対して
図11の右側に変位し、その梁間相対変位が最大変位に達した時から、それまで左壁2a側に変位していたピストン3が右壁2b側に変位し始める時までの期間、及び、上梁BUが下梁BDに対して
図11の左側に変位し、その梁間相対変位が最大変位に達した時から、それまで右壁2b側に変位していたピストン3が左壁2a側に変位し始める時までの期間である。
【0137】
この場合、梁間相対変位の最大変位とは、建物Bの振動の1周期における梁間相対変位の最大値のことであり、換言すれば、梁間相対変位の方向が反転する直前での梁間相対変位のことである。また、特性切替期間PRSPの検出は、制御装置42により次のようにして行われる。
【0138】
すなわち、梁間相対変位が最大変位に達したときには、算出された梁間相対速度VVが0になる。また、ピストン変位DPの方向が反転するタイミングは、算出されたピストン速度VPが0になるタイミングと同じである。以上から、梁間相対速度VVが0又は0に近い非常に小さい値になったと判別された時から、ピストン速度VPが0又は0に近い非常に小さい値になったと判別された時までの期間が、特性切替期間PRSPとして検出される。
【0139】
上記ステップ33の答がNOで、特性切替期間PRSPが検出されていないと判別されているときには、第1開閉弁8に第1制御信号を入力し、第1開閉弁8を閉弁し(ステップ34)、本処理を終了する。これにより、この場合には、振動抑制装置41の振動抑制特性として、摩擦ダンパ特性が選択され、振動抑制装置41が摩擦ダンパとして機能する。
【0140】
一方、ステップ33の答がYESで、特性切替期間PRSPが検出されていると判別されているときには、前記ステップ21を実行し、それにより、第1開閉弁8への第1制御信号の入力を停止して、第1開閉弁8を開弁し、本処理を終了する。これにより、この場合には、振動抑制装置41の振動抑制特性として、回転慣性質量ダンパ特性が選択され、振動抑制装置41が回転慣性質量ダンパとして機能する。
【0141】
また、
図18は、建物Bの振動度合が比較的大きくない場合における振動抑制装置41の動作例を示すタイミングチャートである。
図18に示すように、建物Bの振動中、特性切替期間PRSPが検出されていないとき(時点t0〜時点t1直前)には、第1開閉弁8が閉弁され(
図13のステップ34)、摩擦ダンパ特性が選択される。この場合、建物Bの振動度合が大きくないため、建物Bの振動に伴って梁間相対変位が第1及び第2連結部材EN1’、EN2’を介してシリンダ2及びピストン3に伝達されても、第1及び第2流体室2d、2e内の作動流体HFの圧力が上限値に達せず、それにより第1及び第2リリーフ弁5、6で両流体室2d、2eが連通させられないことによって、ピストン3がシリンダ2に対して移動せず、その結果、ピストン速度VPが0の状態で推移する。
【0142】
また、前述した
図14〜
図16(a)を参照して説明したように、上下の梁BU、BDからの力が第1及び第2連結部材EN1’、EN2’に作用することによって、両連結部材EN1’、EN2’が弾性変形し、その弾性エネルギが蓄積される。さらに、梁間相対変位がその最大変位に近づくのに伴って、梁間相対速度VVが0に向かって減少する。
【0143】
そして、梁間相対変位が最大変位に達するのに伴って、梁間相対速度VVが0になると(時点t1)、特性切替期間PRSPが検出され(ステップ33:YES)、それに応じて、第1開閉弁8が開弁され(ステップ21)、回転慣性質量ダンパ特性が選択される。これに伴い、
図14〜
図16(a)を参照して説明したように、上述した第1及び第2連結部材EN1’EN2’の弾性エネルギでピストン3がシリンダ2に対して摺動することによって、前述したように作動流体HFが第1連通管7を流動する結果、回転マス15が回転する。その後、上述したように回転する回転マス15の運動エネルギで作動流体HFが流動し続け、作動流体HFがシリンダ2及びピストン3を介して第1及び第2連結部材EN1’、EN2’を押圧し、両者EN1’、EN2’が弾性変形する。
【0144】
そして、梁間相対変位の方向が反転し、梁間相対速度VVが0から上昇するのに伴い、梁間相対変位の伝達によりシリンダ2に対するピストン3の変位の方向が反転し、ピストン速度VPが0になったとき(時点t2)に、特性切替期間PRSPが検出されなくなり(ステップ33:NO)、第1開閉弁8が閉弁され(ステップ34)、摩擦ダンパ特性が再び選択される。
【0145】
なお、
図18に示すように、建物Bの振動度合が比較的大きくないときには、梁間相対速度VVが0又は0に近い非常に小さい値になり、特性切替期間PRSPの開始時又はその開始直後では、ピストン3の変位の方向がまだ反転していないのにもかかわらず、ピストン速度VPが0又は0に近い非常に小さい値になる。このため、この場合には、梁間相対速度VVが0又は0に近い非常に小さい値になったと判別された時から、ピストン速度VPが一旦、増大し、減少することで0又は0に近い非常に小さい値になったと判別された時までの期間が、特性切替期間PRSPとして検出される。
【0146】
また、
図18は、建物Bの振動度合が大きくない場合における振動抑制装置41の動作例を示しているが、建物Bの振動度合が大きい場合にも、特性切替期間PRSPが検出されているときには、第1開閉弁8の開弁により回転慣性質量ダンパ特性が選択され、検出されていないときには、第1開閉弁8の閉弁により摩擦ダンパ特性が選択され、上述した動作と同様の動作が行われる。
【0147】
以上のように、第3実施形態によれば、第2実施形態と同様、振動抑制装置41が、第1実施形態の振動抑制装置1の第2連通管16及び第2開閉弁17を省略した構成を備えており、それにより、択一的に選択可能な回転慣性質量ダンパ特性及び摩擦ダンパ特性から成る2つの振動抑制特性を有する単一の装置を実現することができる。
【0148】
また、シリンダ2及びピストン3がそれぞれ、弾性を有する第1及び第2連結部材EN1’、EN2’を介して、建物Bの上下の梁BU、BDに連結されており、梁間相対変位は、シリンダ2及びピストン3に伝達される。さらに、梁間相対変位が水平方向の一方の側の最大変位に達した時から、ピストン変位DPの方向が反転する時までの期間、及び、梁間相対変位が水平方向の他方の側の最大変位に達した時から、ピストン変位DPの方向が反転する時までの期間である特性切替期間PRSPが検出される(
図13のステップ33)。振動抑制装置41の振動抑制特性として、PRSPが検出されていないとき(ステップ33:NO)には、摩擦ダンパ特性が選択され(ステップ34)、PRSPが検出されているとき(ステップ33:YES)には、回転慣性質量ダンパ特性が選択される(ステップ21)。以上により、
図14〜
図16を参照して前述した本発明の説明から明らかなように、建物Bのより大きな振動エネルギを吸収し、建物Bの振動を適切に抑制することができる。
【0149】
次に、
図19〜
図21を参照しながら、本発明の第4実施形態による振動抑制装置51について説明する。
図19及び
図20において、第1実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を付している。以下、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0150】
図1と
図19の比較から明らかなように、振動抑制装置51は、第1実施形態と比較して、第2開閉弁17が省略されている点のみが、異なっている。また、図示しないものの、振動抑制装置51は、第1実施形態の振動抑制装置1と同様(
図2参照)、その第1及び第2取付具FL1、FL2が第1及び第2連結部材EN1、EN2にそれぞれ取り付けられており、シリンダ2及びピストン3が、建物Bの上下の梁BU、BDにそれぞれ連結されている。
【0151】
上述した振動抑制装置51の構成から明らかなように、第1開閉弁8が開弁し、それにより第1連通管7が開放されているときには、建物Bの振動に伴ってピストン3で押圧された第1及び第2流体室2d、2e内の作動流体HFは、第1及び第2連通管7、16の両方を介して、第1及び第2流体室2d、2eの一方から他方に流動する。その際、第1連通管7における作動流体HFの流動が、歯車モータ9によって回転運動に変換された状態で回転マス15に伝達される結果、回転マス15が回転する。以上により、この場合には、振動抑制装置51の振動抑制特性として、回転慣性質量ダンパ特性(回転慣性質量ダンパの振動抑制特性)が得られる。
【0152】
一方、第1開閉弁8が閉弁し、それにより第1連通管7が閉鎖されているときには、ピストン3で押圧された第1及び第2流体室2d、2e内の作動流体HFは、第1連通管7を介さずに、第2連通管16を介して、第1及び第2流体室2d、2eの一方から他方に流動する。以上により、この場合には、振動抑制装置51の振動抑制特性として、粘性ダンパ特性(粘性ダンパの振動抑制特性)が得られる。
【0153】
以上のように、振動抑制装置51は、択一的に選択可能な回転慣性質量ダンパ特性及び粘性ダンパ特性から成る2つの振動抑制特性を有している。
図20に示す制御装置52は、
図21に示す処理を前記所定周期で繰り返し実行することによって、第1開閉弁8の開閉を制御し、それにより振動抑制装置51の振動抑制特性として、回転慣性質量ダンパ特性又は粘性ダンパ特性が選択される。
【0154】
また、
図21では、
図5と同じ実行内容については、同じステップ番号を付しており、
図21と
図5の比較から明らかなように、
図21に示す処理では、前記ステップ4及び10が削除されており、前記ステップ3、5、6及び9に代えて、ステップ41〜44がそれぞれ実行される。以下、
図21に示す処理について、
図5と異なる実行内容を中心に説明する。
【0155】
前記ステップ2、7及び8の答のいずれかがNOのときには、第1開閉弁8を閉弁し(ステップ41)、本処理を終了する。このように、建物が振動していないとき(ステップ2:NO)、建物Bの振動が開始されてから第1及び第2応答パラメータRES1、RES2の算出が1回も完了していないとき(ステップ7:NO)、又は、第2応答パラメータRES2が第1応答パラメータRES1以下のとき(ステップ8:NO)には、第1開閉弁8が閉弁されることによって、振動抑制装置51の振動抑制特性として粘性ダンパ特性が選択される。
【0156】
また、ステップ2の答がYESで、建物の振動中であるときには、検出された振動加速度ACVに基づき、第1応答パラメータRES1を算出し、更新する(ステップ42)。更新されたRES1は、RAMに記憶される。この第1応答パラメータRES1は、第1開閉弁8が開弁されることで回転慣性質量ダンパ特性が選択されていると仮定した場合における建物Bの最大絶対加速度応答であり、その算出手法及び更新手法は、第1実施形態で説明した第1応答パラメータRES1のそれらと同様である。
【0157】
ステップ42に続くステップ43では、振動加速度ACVに基づき、第2応答パラメータRES2を算出するとともに、更新した後、前記ステップ7以降を実行する。更新されたRES2は、RAMに記憶される。この第2応答パラメータRES2は、第1開閉弁8が閉弁されることで粘性ダンパ特性が選択されていると仮定した場合における建物Bの最大絶対加速度応答であり、その算出手法及び更新手法は、第1実施形態で説明した第2応答パラメータRES2のそれらと同様である。
【0158】
また、ステップ8の答がYESで、第1応答パラメータRES1が第2応答パラメータRES2よりも小さいときには、第1開閉弁8を開弁し(ステップ44)、本処理を終了する。これにより、この場合(RES1<RES2)には、振動抑制装置51の振動抑制特性として回転慣性質量ダンパ特性が選択される。
【0159】
以上のように、第4実施形態によれば、振動抑制装置51が、第1実施形態の振動抑制装置1の第2開閉弁17を省略した構成を備えており、それにより、択一的に選択可能な回転慣性質量ダンパ特性及び粘性ダンパ特性から成る2つの振動抑制特性を有する単一の装置を実現することができる。
【0160】
さらに、シリンダ2及びピストン3が、建物Bの上下の梁BU、BDにそれぞれ連結されており、梁間相対変位は、シリンダ2及びピストン3に伝達される。また、第1開閉弁8が開弁されることにより回転慣性質量ダンパ特性が選択されていると仮定した場合における建物Bの最大絶対加速度応答である第1応答パラメータRES1が算出されるとともに、第1開閉弁8が閉弁されることで粘性ダンパ特性が選択されていると仮定した場合における建物Bの最大絶対加速度応答である第2応答パラメータRES2が算出される。そして、RES1<RES2のときには、回転慣性質量ダンパ特性が選択され、RES2≦RES1のときには、粘性ダンパ特性が選択される。以上により、振動抑制装置51の振動抑制特性を適切に選択でき、ひいては、建物Bの振動を適切に抑制することができる。
【0161】
次に、
図22〜
図25を参照しながら、本発明の第5実施形態による振動抑制装置61について説明する。この振動抑制装置61は、第1実施形態と比較して、第1及び第2連通管7、16の構成と、第1及び第2開閉弁8、17に代えて開閉弁64が設けられていることが、主に異なっている。
図22及び
図24において、第1実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を付している。以下、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0162】
図22及び
図23に示すように、第1及び第2連通管7、16の一端部は、互いに集合するとともに、開閉弁64、及び、互いに共通の第1集合管62を介して、第1流体室2dに連通している。また、第1及び第2連通管7、16の他端部は、互いに集合するとともに、互いに共通の第2集合管63を介して、第2流体室2eに連通している。
【0163】
また、
図23に示すように、開閉弁64は、いわゆる三方型のロータリーバルブであり、弁箱65と、弁箱65に収容された弁体66と、弁体66に連結された電気モータ(図示せず)を有している。弁箱65には、その内側に円柱状の収容穴65aが設けられるとともに、その壁部に、第1連通口65b、第2連通口65c、及び第3連通口65dが形成されており、第1〜第3連通口65b〜65dは収容穴65aに連通している。また、弁箱65は、第1及び第2連通管7、16の一端部ならびに第1集合管62の第1流体室2dと反対側の端部に接続されており、第1〜第3連通口65b〜65dは、第1及び第2連通管7、16ならびに第1集合管62にそれぞれ連通している。
【0164】
弁体66は、円柱状に形成されるとともに、径方向に貫通する連通孔66aが形成されており、シール(図示せず)を介して収容穴65aに嵌合している。また、弁体66は、
図23(a)に示す第1開放位置と、
図23(b)に示す第2開放位置と、
図23(c)に示す閉鎖位置との間で回動自在である。
【0165】
図23(a)に示すように、弁体66が第1開放位置にあるときには、弁体66の連通孔66aが、弁箱65の第1及び第3連通口65b、65dに連通し、それにより第1連通管7が開放されることによって、第1連通管7及び第1流体室2dが、連通孔66a、第1及び第3連通口65b、65dならびに第1集合管62を介して、互いに連通する。また、この場合には、第2連通口65cが弁体66で閉鎖されることによって、第2連通管16が閉鎖される。
【0166】
また、
図23(b)に示すように、弁体66が第2開放位置にあるときには、弁体66の連通孔66aが、第2及び第3連通口65c、65dに連通し、それにより第2連通管16が開放されることによって、第2連通管16及び第1流体室2dが、連通孔66a、第2及び第3連通口65c、65dならびに第1集合管62を介して、互いに連通する。また、この場合には、第1連通口65bが弁体66で閉鎖されることによって、第1連通管7が閉鎖される。さらに、
図23(c)に示すように、弁体66が閉鎖位置にあるときには、第1〜第3連通口65b〜65dが弁体66で閉鎖されることによって、第1及び第2連通管7、16ならびに第1集合管62が同時に閉鎖される。
【0167】
また、電気モータを含む開閉弁64は、制御装置71に接続されており(
図24参照)、その動作が制御装置71からの制御信号によって制御される。
【0168】
以上の構成の振動抑制装置61は、図示しないものの、第1実施形態の振動抑制装置1と同様(
図2参照)、その第1及び第2取付具FL1、FL2が第1及び第2連結部材EN1、EN2にそれぞれ取り付けられており、シリンダ2及びピストン3が、建物Bの上下の梁BU、BDにそれぞれ連結されている。
【0169】
これまでに述べた振動抑制装置61の構成から明らかなように、開閉弁64により第1連通管7が開放されると同時に第2連通管16が閉鎖されているとき(弁体66が第1開放位置に位置しているとき)には、建物Bの振動に伴ってピストン3で押圧された第1及び第2流体室2d、2e内の作動流体HFは、第1連通管7、第1及び第2集合管62、63を介して、第1及び第2流体室2d、2eの一方から他方に流動する。その際、第1連通管7における作動流体HFの流動が、歯車モータ9によって回転運動に変換された状態で回転マス15に伝達される結果、回転マス15が回転する。以上により、この場合には、振動抑制装置61の振動抑制特性として、回転慣性質量ダンパ特性(回転慣性質量ダンパの振動抑制特性)が得られる。
【0170】
また、開閉弁64により第1連通管7が閉鎖されると同時に第2連通管16が開放されているとき(弁体66が第2開放位置に位置しているとき)には、ピストン3で押圧された第1及び第2流体室2d、2e内の作動流体HFは、第1連通管7を介さずに、第2連通管16、第1及び第2集合管62、63を介して、第1及び第2流体室2d、2eの一方から他方に流動する。以上により、この場合には、振動抑制装置61の振動抑制特性として、粘性ダンパ特性(粘性ダンパの振動抑制特性)が得られる。
【0171】
さらに、開閉弁64により第1及び第2連通管7、16が同時に閉鎖されているとき(弁体66が閉鎖位置に位置しているとき)には、ピストン3で押圧された第1及び第2流体室2d、2e内の作動流体HFが押圧されても、第1又は第2流体室2d、2e内の作動流体HFの圧力が前記上限値に達しない限り、第1及び第2流体室2d、2eが互いに連通せず、ピストン3がシリンダ2に対して動かなくなり、達したときに、ピストン3がシリンダ2内を摺動する。以上により、この場合には、振動抑制装置61の振動抑制特性として、摩擦ダンパ特性(摩擦ダンパの振動抑制特性)が得られる。
【0172】
以上のように、振動抑制装置61は、択一的に選択可能な回転慣性質量ダンパ特性、粘性ダンパ特性及び摩擦ダンパ特性から成る3つの振動抑制特性を有している。制御装置71は、
図25に示す処理を前記所定周期で繰り返し実行することによって、開閉弁64の開閉を制御し、それにより振動抑制装置61の振動抑制特性として、回転慣性質量ダンパ特性、粘性ダンパ特性又は摩擦ダンパ特性が選択される。
【0173】
また、
図25では、
図5と同じ実行内容については、同じステップ番号を付しており、
図25と
図5の比較から明らかなように、
図25に示す処理では、前記ステップ3、9及び10に代えて、次に説明するステップ51、52及び53が実行される。以下、制御処理について、
図5と異なる実行内容を中心に説明するとともに、弁体66を第1開放位置に位置させるように制御することを「開閉弁64を第1開放状態に制御する」といい、弁体66を第2開放位置に位置させるように制御することを「開閉弁64を第2開放状態に制御する」というとともに、弁体66を閉鎖位置に位置させるように制御することを「開閉弁64を閉鎖状態に制御する」という。
【0174】
前記ステップ2、7及び8の答のいずれかがNOのとき(建物Bが振動中でないとき、建物Bの振動が開始されてからRES1、RES2の算出が1回も完了していないとき、又は、RES2≦RES1のとき)には、開閉弁64を第2開放状態に制御し(ステップ51)、本処理を終了する。これにより、この場合には、開閉弁64で第1連通管7が閉鎖されるとともに第2連通管16が開放されることによって、振動抑制装置61の振動抑制特性として粘性ダンパ特性が選択される。
【0175】
一方、ステップ8の答がYESのとき(RES1<RES2)には、開閉弁64を第1開放状態に制御し(ステップ52)、本処理を終了する。これにより、この場合には、開閉弁64で第1連通管7が開放されるとともに第2連通管16が閉鎖されることによって、振動抑制装置61の振動抑制特性として回転慣性質量ダンパ特性が選択される。
【0176】
一方、前記ステップ4の答がNOのとき(DV>DVREF)には、開閉弁64を閉鎖状態に制御し(ステップ53)、本処理を終了する。これにより、この場合には、開閉弁64で第1及び第2連通管7、16が同時に閉鎖されることによって、振動抑制装置61の振動抑制特性として摩擦ダンパ特性が選択される。
【0177】
以上のように、第5実施形態の振動抑制装置61によれば、第1及び第2連通管7、16が第1流体室2dに、開閉弁64、及び、共通の第1集合管62を介して連通しており、その他の歯車モータ9や回転マス15などの構成は第1実施形態と同様である。また、開閉弁64によって、第1連通管7が開放されると同時に第2連通管16が閉鎖され、第1連通管7が閉鎖されると同時に第2連通管16が開放されるとともに、第1及び第2連通管7、16が同時に閉鎖される。以上により、第1実施形態と同様、択一的に選択可能な回転慣性質量ダンパ特性、粘性ダンパ特性及び摩擦ダンパ特性から成る3つの振動抑制特性を有する単一の装置を実現することができる。
【0178】
さらに、第1実施形態と同様、シリンダ2及びピストン3が、建物Bの上下の梁BU、BDにそれぞれ連結されており、梁間相対変位は、シリンダ2及びピストン3に伝達される。また、回転慣性質量ダンパ特性が選択されていると仮定した場合における建物Bの最大絶対加速度応答である第1応答パラメータRES1が算出される(前記ステップ5)とともに、粘性ダンパ特性が選択されていると仮定した場合における建物Bの最大絶対加速度応答である第2応答パラメータRES2が算出される(前記ステップ6)。
【0179】
そして、第1実施形態で説明した第1及び第2制御モードによる制御が開閉弁64について行われ、それにより、RES1<RES2のときには、回転慣性質量ダンパ特性が選択され、RES2≦RES1のときには、粘性ダンパ特性が選択される。さらに、振動度合パラメータDVが所定値DVREFよりも大きく、建物Bの振動度合が比較的大きいときには、第2制御モードによる制御が開閉弁64について行われ、それにより摩擦ダンパ特性が選択される。以上により、振動抑制装置61の振動抑制特性を適切に選択でき、ひいては、建物Bの振動を適切に抑制することができる。
【0180】
なお、本発明は、説明した第1〜第5実施形態(以下、総称する場合「実施形態」という)に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、作動流体HFをシリコンオイルで構成しているが、粘性を有する他の適当な流体で構成してもよい。また、実施形態では、シリンダ2、ピストン3及び第1連通管7の断面形状は、円形であるが、角形でもよい。このことは、第1実施形態の第2連通管16についても同様に当てはまる。
【0181】
さらに、実施形態では、本発明の第1連通路として、シリンダ2に接続された第1連通管7を用いているが、シリンダの周壁に形成された連通路を用いてもよい。この場合、連通路は、周壁の内部において軸線方向に延びるとともに、その両端で径方向に延びて第1及び第2流体室に連通する孔状の通路で構成される。このことは、第2連通管16についても同様に当てはまる。あるいは、第4実施形態に関しては、本発明の第2連通路として、ピストン3に形成された軸線方向に貫通する連通孔を用いてもよい。
【0182】
また、第5実施形態では、第1及び第2連通管7、16の各々の一端部及び他端部をそれぞれ、第1及び第2集合管62、63を介して第1及び第2流体室2d、2eに連通させているが、第2集合管63を削除するとともに、第1及び第2連通管7、16の他端部を別個に第2流体室2eに連通させてもよい。あるいは、開閉弁64を第2集合管63側に設け、第1集合管62を削除するとともに、第1及び第2連通管7、16の各々の一端部を別個に第1流体室2dに連通させてもよい。
【0183】
さらに、第1〜第4実施形態では、電磁弁で構成された第1開閉弁8を用いているが、油圧や空気圧で駆動されるタイプの開閉弁を用いてもよい。また、全開及び全閉に択一的に制御可能な第1開閉弁8を用いているが、開度をリニアに制御可能な開閉弁を用いてもよい。これらのことは、第1実施形態の第2開閉弁17についても同様に当てはまる。また、第1実施形態では、第1及び第2開閉弁8、17がそれぞれ、常閉式及び常開式であるが、これとは逆に、常開式及び常閉式でもよい。この第1開閉弁8に関するバリエーションは、第4実施形態についても同様に当てはまる。さらに、第2及び第3実施形態では、第1開閉弁8が常開式であるが、常閉式でもよい。また、第5実施形態では、開閉弁64を、ロータリーバルブで構成しているが、他の適当なバルブ、例えばスプールバルブで構成してもよい。
【0184】
さらに、実施形態では、本発明における動力変換機構として、外接歯車型の歯車モータ9を用いているが、作動流体の流動を回転運動に変換した状態で回転マスに伝達する他の適当な機構を用いてもよい。例えば、内接歯車型の歯車モータや、本出願人による特許第5191579号の
図5などに記載されたスクリュー機構、ベーンモータなどの圧力モータを用いてもよい。また、実施形態では、第1及び第2リリーフ弁5、6が開弁する作動流体HFの圧力を、互いに同じ上限値に設定しているが、互いに異なる値に設定してもよい。
【0185】
さらに、実施形態では、ロッド4がピストン3の軸線方向の一方の側(右側)に延びているが、両側に延びるように設けてもよく、その場合には、ロッドをシリンダの両外側に延びるように設けてもよい。また、実施形態では、第1及び第2連結部材EN1、EN2、EN1’、EN2’を、H型鋼で構成しているが、他の適当な材料、例えばロ型鋼や、ゴム、ケーブルなどで構成してもよい。第1及び第2連結部材をケーブルで構成する場合、ケーブルは、ピストンの軸線方向の両外側に延びるように設けられ、その一端部及び他端部が下梁に連結される。さらに、実施形態では、鉛直に延びる第1及び第2連結部材EN1、EN2、EN1’、EN2’を用いているが、V字又は逆V字のブレース状に延びる連結部材を用いてもよい。
【0186】
また、実施形態では、ロッド4をピストン3に直接、連結しているが、本出願人による特許第5191579号の
図2などに記載されているように、皿ばねを介して連結してもよい。この場合、シリンダの一端部に設けられた第1取付具及びロッドの一端部に設けられた第2取付具をそれぞれ、第1及び第2伝達部材を介さずに、上梁及び下梁に直接、ブレース状に連結してもよい。あるいは、本出願人による特開2016-070307号公報の
図2などに記載されているように、ロッドをピストンに、ケーブル、定滑車及び動滑車を介して連結してもよい。さらに、実施形態では、ピストン3を下梁BDに、ロッド4を介して連結しているが、本出願人による特開2016-056573号公報の
図2などに記載されているように、ケーブル、定滑車及び動滑車を介して連結してもよい。
【0187】
また、実施形態では、シリンダ2を、第1連結部材EN1、EN1’を介して上梁BUに連結するとともに、ピストン3を、第2連結部材EN2、EN2’を介して下梁BDに連結しているが、シリンダ及びピストンの一方を、当該一方が連結される上梁及び下梁の一方に連結部材を介さずに直接、連結するとともに、シリンダ及びピストンの他方を、当該他方が連結される上梁及び下梁の他方に連結部材を介して連結してもよい。
【0188】
さらに、第1、第4及び第5実施形態では、第1応答パラメータRES1は、回転慣性質量ダンパ特性が選択されていると仮定した場合における建物Bの最大絶対加速度応答であるが、回転慣性質量ダンパ特性が選択されていると仮定した場合における建物の振動に対する応答を表す他の適当なパラメータ、例えば、最大相対変位応答や、最大相対速度応答でもよい。これらのパラメータの算出手法については、「新・地震動のスペクトル解析入門 著者:大崎順彦 発行所:鹿島出版会」の第7章「応答スペクトル」を参照されたい。これらのことは、第2応答パラメータRES2についても同様に当てはまる。
【0189】
また、第1、第4及び第5実施形態では、第1応答パラメータRES1が第2応答パラメータRES2よりも小さいときに、回転慣性質量ダンパ特性を選択し、第2応答パラメータRES2が第1応答パラメータRES1以下のときに、粘性ダンパ特性を選択しているが、第1応答パラメータRES1が第2応答パラメータRES2以下のときに、回転慣性質量ダンパ特性を選択し、第2応答パラメータRES2が第1応答パラメータRES1よりも小さいときに、粘性ダンパ特性を選択してもよい。
【0190】
さらに、第1実施形態では、建物Bが振動中でないとき、また、第1及び第2応答パラメータの算出が1回も完了していないときに、第1及び第2開閉弁8、17をそれぞれ閉弁及び開弁し(
図5のステップ3)、粘性ダンパ特性を選択しているが、第1及び第2開閉弁をそれぞれ開弁及び閉弁し、回転慣性質量ダンパ特性を選択してもよく、あるいは、第1及び第2開閉弁8、17をいずれも閉弁し、摩擦ダンパ特性を選択してもよい。これらのことは適宜、第4及び第5実施形態についても同様に当てはまる。また、第2及び第3実施形態では、建物Bが振動中でないときに、第1開閉弁8を開弁し(
図10及び
図13のステップ21)、回転慣性質量ダンパ特性を選択しているが、第1開閉弁を閉弁し、摩擦ダンパ特性を選択してもよい。
【0191】
さらに、第1、第2及び第5実施形態では、振動度合パラメータDVは、上梁BUの絶対変位と下梁BDの絶対変位との偏差の絶対値であるが、建物Bの振動度合を表す他の適当なパラメータ、例えば、建物に入力される振動加速度や、上梁の振動加速度と下梁の振動加速度との差の絶対値などでもよい。
【0192】
また、第1、第2、第4及び第5実施形態では、第1及び第2連結部材EN1、EN2を比較的高い剛性を有する材料で構成し、回転慣性質量ダンパ特性を選択しているときに、回転慣性質量効果により建物Bの振動周期を伸長させて、建物Bの振動を抑制しているが、第1及び第2連結部材ならびに回転慣性質量ダンパとして機能する振動抑制装置で付加振動系を構成するとともに、付加振動系の固有振動数を建物の固有振動数に同調させることによって、建物の振動を抑制してもよい。この場合、第1及び第2連結部材の剛性及び回転マスの回転慣性質量を調整することによって、付加振動系の固有振動数が、建物の固有振動数に同調するように設定される。また、このように第1及び第2連結部材の剛性を調整した場合、粘性ダンパ特性が選択されているときには、第1及び第2連結部材ならびに振動抑制装置によってMaxwell型の付加系が構成され、振動抑制装置に入力される加振振動数が高いほど、また、第1及び第2連結部材の剛性が低いほど、振動抑制装置の粘性減衰効果が小さくなる傾向にある。
【0193】
さらに、第1実施形態では、第1及び第2開閉弁8、17をいずれも閉弁することで摩擦ダンパ特性が選択できるように、振動抑制装置1を構成しているが、
図5のステップ4及び10を削除し、それにより、第1及び第2開閉弁がいずれも閉弁されないように構成することによって、摩擦ダンパ特性を積極的に選択できずに、回転慣性質量ダンパ特性及び粘性ダンパ特性を択一的に選択できるように、振動抑制装置を構成してもよい。あるいは、第1及び第2リリーフ弁5、6を省略することによって、摩擦ダンパ特性を選択できずに、回転慣性質量ダンパ及び粘性ダンパ特性を選択できるように、振動抑制装置を構成してもよい。このことは、第5実施形態についても同様に当てはまる。また、実施形態で説明した振動抑制特性の選択手法は、あくまで例示であり、他の適当な選択手法を採用してもよいことは、もちろんである。
【0194】
さらに、実施形態では、シリンダ2を上梁BUに、ピストン3を下梁BDに、それぞれ連結しているが、これとは逆に、シリンダ2を下梁BDに、ピストン3を上梁BUに、それぞれ連結してもよい。また、実施形態では、本発明における第1及び第2部位はそれぞれ、上梁BU及び下梁BDであるが、建物Bが立設された基礎及び建物Bを含む系内の他の適当な所定の2つの部位、例えば基礎及び建物の上端部でもよい。特に、上述したように、摩擦ダンパ特性を積極的に選択できないように振動抑制装置を構成した場合には、振動抑制装置を、いわゆる免震装置として機能するように、構造物と基礎の間に設けてもよい。
【0195】
さらに、実施形態は、本発明による振動抑制装置1、31、41、51、61を、建物Bに適用した例であるが、他の適当な構造物、例えば、橋梁や、クレーン、ラック倉庫などに適用してもよい。以上の実施形態に関するバリエーションを適宜、組み合わせて採用してもよいことは、もちろんである。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。