特許第6824601号(P6824601)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ コバレントマテリアル株式会社の特許一覧

特許6824601強化用繊維材料及びその製造方法、並びに繊維強化セラミックス複合材料
<>
  • 特許6824601-強化用繊維材料及びその製造方法、並びに繊維強化セラミックス複合材料 図000003
  • 特許6824601-強化用繊維材料及びその製造方法、並びに繊維強化セラミックス複合材料 図000004
  • 特許6824601-強化用繊維材料及びその製造方法、並びに繊維強化セラミックス複合材料 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6824601
(24)【登録日】2021年1月15日
(45)【発行日】2021年2月3日
(54)【発明の名称】強化用繊維材料及びその製造方法、並びに繊維強化セラミックス複合材料
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/80 20060101AFI20210121BHJP
【FI】
   C04B35/80
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-129633(P2015-129633)
(22)【出願日】2015年6月29日
(65)【公開番号】特開2017-14033(P2017-14033A)
(43)【公開日】2017年1月19日
【審査請求日】2017年6月19日
【審判番号】不服2019-11155(P2019-11155/J1)
【審判請求日】2019年8月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】507182807
【氏名又は名称】クアーズテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(72)【発明者】
【氏名】青沼伸一朗
【合議体】
【審判長】 日比野 隆治
【審判官】 菊地 則義
【審判官】 金 公彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開平4−21566(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/71-35/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の炭化ケイ素繊維からなる繊維集合体の繊維間が酸化イットリウム(III)(Y23)粒子、スピネル(MgAl24)粒子またはBN粒子からなる多孔構造体で満たされており、かつ、前記繊維集合体を形成する繊維表面の全部又は一部が前記多孔構造体で覆われており、前記多孔構造体が形成する多孔質層にカーボン材料が含浸されていることを特徴とする強化用繊維材料。
【請求項2】
請求項1に記載の強化用繊維材料と炭化ケイ素粒子からなる成形体にシリコンを含浸することにより、強化用繊維材料の多孔質層のカーボン材料がシリコンと反応した炭化ケイ素マトリックスとなり、前記炭化ケイ素粒子とともに炭化ケイ素マトリックスを形成する繊維強化セラミックス複合材料。
【請求項3】
複数本の炭化ケイ素繊維からなる繊維集合体に、酸化イットリウム(III)(Y23)粒子、スピネル(MgAl24)粒子またはBN粒子からなる多孔構造体を含む多孔質層形成材料を接触させて、前記繊維集合体の繊維間の空間部に前記多孔構造体を充填し、前記繊維集合体の繊維表面の全部又は一部を前記多孔構造体で被覆し、熱処理し、多孔質層を形成する工程と、
得られた多孔構造体からなる前記多孔質層にカーボン材料を含浸する工程と、
を含むことを特徴とする強化用繊維材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス又は金属材料からなる強化用繊維材料及びその製造方法、並びに該強化用繊維材料を用いた繊維強化セラミックス複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックス材料は、一般的に金属材料に比べて軽量、高剛性及び高耐熱性という優れた特性を有する一方で、脆性材料であるという弱点を有する。この弱点を克服するため、例えば、セラミックスの繊維とセラミックスのマトリックス部からなる機械的強度が強化された繊維強化セラミックス複合材料が広く知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、炭化ケイ素短繊維に、ホウ素、アルミニウム又は炭素の酸化物や窒化物等をコーティングし、これを炭化ケイ素のマトリックス中に分散させた後、所定の形状に成形し、その後成形体を緻密化してなる繊維強化炭化ケイ素セラミックスが開示されている。特許文献1では、炭化ケイ素短繊維を窒化ホウ素等で充填及び被覆することで、焼結時のマトリックスとの反応を抑制してSiC繊維が劣化・破壊されるのを防止している。
【0004】
特許文献2には、強化用繊維集合体の繊維間が、黒鉛質の炭素材料等の層状構造材料で充填され、かつ、その繊維表面が層状構造材料で覆われた強化用繊維材料が開示されている。特許文献2では、強化用繊維集合体の繊維間を層状構造材料で充填され、繊維表面の全体を層状構造材料で被覆することにより、層状構造材料自体が高いすべり機能を有し、この強化用繊維材料を用いた複合材料の破壊エネルギーが向上することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63−277563号公報
【特許文献2】特開2011−157251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、例えば、1400℃以上の酸素・水蒸気雰囲気において繊維強化セラミックス複合材を使用する場合、特許文献1に開示された技術では、表面に形成された耐環境コーティングが損傷すると、例えば、窒化ホウ素が酸化ホウ素に変質してガラス化してしまう問題があった。特許文献2に開示される技術でも、製品表面の耐環境コーティングが損傷すると、繊維間の層状炭素材料が消耗して破壊エネルギーが著しく低下してしまうという問題があった。また、繊維単体の表面をコーティングしてすべり層を形成することにより、破壊エネルギーを向上させるという技術に対しては、実用上未だ充分に達成できているとはいえない。
【0007】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、従来品と比べてさらに破壊エネルギーが向上した強化用繊維材料及びこれを用いた繊維強化セラミックス複合材料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の強化用繊維材料は、複数本の炭化ケイ素繊維からなる繊維集合体の繊維間が酸化イットリウム(III)(Y23)粒子、スピネル(MgAl24)粒子またはBN粒子からなる多孔構造体で満たされており、かつ、前記繊維集合体を形成する繊維表面の全部又は一部が前記多孔構造体で覆われており、前記多孔構造体が形成する多孔質層にカーボン材料が含浸されていることを特徴とする。
本発明の繊維強化セラミックス複合材料は、前記強化用繊維材料と炭化ケイ素粒子からなる成形体にシリコンを含浸することにより、強化用繊維材料の多孔質層のカーボン材料がシリコンと反応した炭化ケイ素マトリックスとなり、前記炭化ケイ素粒子とともに炭化ケイ素マトリックスを形成することを特徴とする。
本発明の強化用繊維材料の製造方法は、複数本の炭化ケイ素繊維からなる繊維集合体に、酸化イットリウム(III)(Y23)粒子、スピネル(MgAl24)粒子またはBN粒子からなる多孔構造体を含む多孔質層形成材料を接触させて、前記繊維集合体の繊維間の空間部に前記多孔構造体を充填し、前記繊維集合体の繊維表面の全部又は一部を前記多孔構造体で被覆し、熱処理し、多孔質層を形成する工程と、得られた多孔構造体からなる前記多孔質層にカーボン材料を含浸する工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、繊維集合体の繊維間及び繊維表面に多孔構造体を充填及び被覆した多孔質層に、カーボン材料を浸透させ、硬化させることにより、得られる強化用繊維材料は、従来品に比べて高い破壊強度を有する。
よって、本発明の強化用繊維材料は、繊維強化セラミックス複合材料に好適に用いられ、該繊維強化セラミックス複合材料からなる製品の表面に施された耐環境コーティング層にクラックや剥離などが生じた場合であっても、繊維表面の多孔質層に含まれるカーボン層が消耗するだけで多孔質層は保持されるため、高い破壊エネルギーを維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の繊維強化セラミックス複合材料20の概略を示す図である。
図2図2A図1のI−I断面図であり、図2B図1のII−II断面図である。
図3図3は、本発明の強化用繊維材料と、該強化用繊維材料を用いた繊維強化セラミックス複合材料の製造工程フローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図1〜3を参照しながら詳細に説明する。
[強化用繊維材料]
本発明の強化用繊維材料10は、複数本の炭化ケイ素繊維1からなる繊維集合体の繊維間が多孔構造体2で満たされており、かつ、前記繊維集合体を形成する繊維1の表面の全部又は一部が前記多孔構造体2で覆われており、前記多孔構造体2が形成する多孔質層にカーボン材料が含浸されていることを特徴とする。
【0012】
すなわち、強化用繊維材料10の原料は、具体的には、炭化ケイ素(SiC)セラミックスが挙げられる。耐熱性、耐酸化性の点から、SiCセラミックスが特に好ましい。
【0013】
ここで、本発明において、繊維集合体とは、繊維1が集合した繊維束であり、繊維が複数本集合し、かつ、繊維同士によって空間が形成された状態であるものを指す。繊維集合体の形状は、設計する繊維強化セラミックス複合材料20に応じて適宜選択すればよく、例えば、長繊維を編んだシート状、フェルト状又は不織布状でも良いが、長さが通常2mm〜50mmであり、径が通常1μm〜30μm、好ましくは5μm〜20μmである繊維が数本から数千本束ねられ、全体として針状、棒状、小片状、板状又は塊状の形態をなした、いわゆる短繊維束が好適である。また、長繊維束と称される、長手方向に連続して一体化された構造であって、断面方向から見た形状が短繊維束と同じような様相を呈する繊維束も、本発明における繊維集合体として好適である。
繊維の径が1μm未満では、繊維間の空間が狭くなりすぎて、多孔構造体2を充分に充填できないことがある。一方、繊維の径が30μmを超えると、繊維間の空間が相対的に広くなるため、単位断面積当たりの繊維1と多孔構造体2との面積比において多孔構造体2の割合が増加し、繊維集合体自体に欠陥が増加することで靱性が担保出来なくなり、強化用繊維材料10の機械特性の低下を招くことがある。
本発明では、SiC繊維集合体が特に好適に用いられる。
【0014】
繊維同士によって形成される空間部は、粒子からなる多孔構造体2で満たされて多孔質になる。すなわち、多孔構造体2は、繊維集合体の繊維間及び繊維表面に多孔質層を形成する。図1に、繊維集合体の繊維間及び繊維表面に多孔質層を形成した強化用繊維材料10を示す。
多孔構造体2としては、繊維同士によって形成される空間部に充填できる径を有する粒子で、例えば、酸化イットリウム(III)(Y23)、スピネル(MgAl24)、BNが挙げられる。これらのうち、耐酸化性の点から、酸化イットリウム(III)(Y23)及びスピネル(MgAl24)が好適である。
繊維集合体の内部空間に多孔構造体2を充填することで、繊維集合体の内部に多数の欠陥が形成され、結果として繊維集合体は高い靱性を有する。そして、多数の欠陥を含む繊維集合体中の多孔質構造と、該多孔質構造の脆弱性を補う材料として、組織構造の異なる層状のカーボン材料とを組み合わせることで、これらの構成をもたない従来技術と比べて、より効果的に破壊エネルギーを向上させることができる。
【0015】
また、本発明の強化用繊維材料10は、図2A及び図2Bに示すように、繊維集合体の繊維間だけでなく、その表面も多孔構造体2で覆われた構造を有する。ここで、強化用繊維材料10の表面とは、多孔構造体2によって繊維間の空間部が充填された繊維集合体をひとつの塊とみなし、繊維集合体の表面の全部又は一部が多孔構造体2の露出により被覆された面を指す。繊維集合体の繊維表面の少なくとも30%は、多孔構造体2で被覆されている。
【0016】
繊維集合体を覆う多孔質層の厚さは、通常0.1μm以上200μm以下、好ましくは2μm以上20μm以下である。多孔質層の厚さが0.1μm未満であると、多孔質層のもつ耐衝撃性が充分に維持できないことがある。一方、多孔質層の厚さが200μmを超えると、多孔質層自体の容積が過大になり、多孔質層自身の剥離や破損のおそれから、最終製品である繊維強化セラミックス複合材料20全体の強度に影響を及ぼすことがある。
繊維表面に形成される多孔質層の厚さは、繊維集合体を構成する繊維単体の径に対して、通常0.25〜1.5倍である。
【0017】
繊維集合体に対する多孔構造体2の量が少ないと、多孔構造体2に、後述するカーボン材料を充分に浸透させることができず、金属ケイ素(Si)と繊維とが反応し、繊維同士、又は繊維及びSiが固着して破壊エネルギーを低下させることがある。一方、多孔質層形成材料の使用量が多いと破壊起点が多くなるため破壊エネルギーの低下や強度の低下が起きることがある。
【0018】
本発明の強化用繊維材料10は、繊維集合体の繊維間を満たし、かつ、繊維表面の全部又は一部を覆う多孔質層に、カーボン材料(図示せず)を浸透させた構造を有する。前記カーボン材料は、多孔質層に浸透するだけでなく、繊維にも一部浸透している。カーボン材料を多孔質層及び繊維に浸透させることで、強化用繊維材料10の破壊エネルギーをより向上させることができる。
【0019】
カーボン材料としては、ピッチ、ポリイミド、塩化ビニル、及びフェノールとポリビニルブチラールの混合樹脂等が挙げられる。これらのうち、残存炭素比率の点から、ピッチ及びポリイミドが好適に用いられる。さらに、カーボン材料は、異方性のものが好ましく、形状は層状構造を基本とし、より微細な組織は網目構造及びモザイク状のいずれの組織構造を有していてもよい。
【0020】
カーボン材料の量は、繊維集合体の形状(短繊維,長繊維)によって変える必要がある。
繊維集合体及び多孔構造体2に対する量が少ないと、多孔質層の内部にカーボン材料が充分に浸透できないため、結果としてカーボン組織がほとんど形成されず、強化用繊維材料10が耐衝撃性に劣ることがある。一方、カーボン材料の量が多いと、カーボンが繊維集合体表面に多量に付着し短繊維系繊維束同士の場合は塊状になることがある。
【0021】
本発明の強化用繊維材料10の製造方法は、図3の製造工程フローに示すように、複数本の炭化ケイ素セラミックスからなる繊維集合体に、多孔質層形成材料を接触させて、前記繊維集合体の繊維間の空間部に前記多孔質層形成材料を充填し、かつ、前記繊維集合体の繊維表面の全部又は一部を前記多孔質層形成材料で被覆する工程と、得られた被覆繊維集合体中の多孔質層にカーボン材料を含浸させる工程とを含むことを特徴とする。
【0022】
上記繊維集合体の繊維間及び繊維表面の全部又は一部に多孔構造体2を充填・被覆する方法には、例えば、浸漬や電気泳動が用いられる。電気泳動を用いることにより、例えば、CVD法やスパッタ法のような、一本一本の繊維を成膜し、製造コストもかかる方法に比べて、簡便かつ効率的に、繊維集合体の内部及び表面に多孔質層を均一に形成させることができる。電気泳動法を用いる場合、繊維表面に形成したい原料のスラリーを作製し、長繊維束を連続的にスラリー中に浸漬させると共に繊維束とスラリーもしくは金属製スラリー容器間に電圧を印加することで実施できる。スラリー中にバインダー成分を含有させ被膜が形成された長繊維は熱間もしくは風間で乾燥硬化後巻き取る。場合によっては酸、アルカリを用いてスラリーに極性を持たせることも必要である。長繊維の場合それを編むことによってシート状の繊維を作製し、プリプレグ化を行う。もしくはシート状の繊維に直接塗布や電気泳動で形成することも可能である。さらに巻き取った繊維を切断することで短繊維が得られ所望の成形により製品形状を得ることが可能になる。
【0023】
多孔質層の形成に用いる多孔質層形成材料は多孔構造体2及びバインダーからなる。バインダーとしては、多孔構造体2を繊維表面に固定できるものであれば特に限定されない。分散に用いる溶媒は、水の他に、例えば、エタノール、2−ブタノール及びアセトン等の有機溶媒も用いることができる。
【0024】
多孔質層形成材料を調製するに際して、多孔構造体2の濃度が10重量%以上70重量%以下になるように、多孔構造体2及びバインダーを混合する。なお、多孔構造体2としてセラミックス粒子を用いた場合、多孔質層形成材料がスラリー状となるため、多孔質構造を形成させるのに取り扱いが容易である。
多孔質層形成材料中の多孔構造体2の濃度が10重量%未満であると、多孔質層が繊維集合体の繊維間及び繊維表面に充分に形成できないことがある。
【0025】
短繊維系において繊維集合体と多孔質層形成材料とは、重量比で1:0.5から1:9の範囲で混合することが好ましい。繊維集合体と多孔質層形成材料との重量比が前記範囲内にあるとき、強化用繊維材料10は、破壊エネルギー向上の効果を充分に発揮することができる。
【0026】
繊維集合体の繊維間及び繊維表面に多孔構造体2を充填・被覆する方法及び時間については、任意に定めることができる。多孔質層の形成プロセスに、有機溶媒(バインダー)の揮発を目的に、乾燥工程、加熱工程又はその両方を定めてもよい。
繊維集合体に多孔質層形成材料を含浸させた後は、すぐに乾燥してもよいし、適当な時間放置してから乾燥してもよい。放置する時間は、繊維集合体の空間部に多孔質層形成材料が充分に浸透され、多孔質層形成材料中の有機溶媒が完全に気化するまでであり、例えば室温では0.25時間以上である。なお、有機溶媒が完全に気化するまでというのは、厳密な判断を必要とせず、作業者の目視による多孔質層形成材料の乾燥状態でも判断できる。
【0027】
繊維集合体への多孔質層形成材料の被覆は、一回だけ行ってもよいし、いちど形成した後、再び繊維集合体を上記有機溶媒等に分散させたスラリーに含浸させる操作を行ってもよい。
乾燥は、大気中又は不活性雰囲気下に加熱処理を行うことでなされる。加熱処理については、保持温度は40〜120℃、好ましくは60〜80℃であり、保持時間は5分〜0.5時間、好ましくは0.3〜0.6時間である。この加熱処理を行うことで、有機溶媒が揮発し、多孔構造体2を繊維間の空間部に固着・充填することができる。
【0028】
本発明の強化用繊維材料10の製造方法では、図3の製造工程フローに示すように、繊維集合体の繊維間及び繊維表面に多孔構造体2を充填・被覆した後、この被覆繊維集合体の多孔質層にカーボン材料を含浸させることにより製造される。具体的には、多孔構造体を充填・被覆した繊維集合体にカーボン材料を含浸させた後、120〜180℃の温度下に0.5〜1.0時間保持することで、多孔質層、及び繊維1の一部に浸透したカーボン材料が固化して強化用繊維材料10が形成される。
【0029】
[繊維強化セラミックス複合材料]
本発明の繊維強化セラミックス複合材料20は、上記のようにして得られた強化用繊維材料10とSiCマトリックス3とからなるものである。強化用繊維材料10をSiCマトリックス3で複合化することで、得られる複合材料の機械的強度が向上する。
【0030】
SiCマトリックス3の使用量は、強化用繊維材料100gに対して、通常30〜120g、好ましくは50〜80gである。
【0031】
短繊維系繊維強化セラミックス複合材料20は、図1に示すように、SiCマトリックス3中に多数の強化用繊維材料10の束が水平又は上下方向にわずかに傾いた状態でランダムに並び、かつ、重なった形態を有している。このような形態を有することで、機械的強度が向上した強固な複合材料が得られる。図1は、繊維強化セラミックス複合材料20中に、強化用繊維材料10がランダムに含まれることを示す。ただし、図1中の強化用繊維材料10では、両端の表面に付着している多孔構造体、及びカーボン材料は図示していない。
【0032】
強化用繊維材料10から繊維強化セラミックス複合材料20を製造する方法としては、公知の技術を適用することができ、例えば、強化用繊維材料10に金属Siを混合した後、1400〜1800℃で5〜120分間加熱して、強化用繊維材料10に金属Siを浸透させて緻密体とすることにより、強化用繊維材料10の内部及び表面に、等方性のSiCを主成分とした組織を生成できる。
【0033】
繊維強化セラミックス複合材料20中のSiCマトリックス3の含有率は、20〜80重量%である。炭化ケイ素マトリックスの含有率が80重量%以上であると、繊維強化セラミックス複合材料20に亀裂が発生することがあり、一方、20重量%未満では、SiCマトリックス3がもつ耐熱性、耐酸化性及び強度等の優れた特性を繊維強化セラミックス複合材料20に充分に付与できないことがある。
繊維強化セラミックス複合材料20中の繊維集合体1の含有率は、通常25〜70重量%、好ましくは30〜60重量%である。
【0034】
上記のようにして得られた繊維強化セラミックス複合材料20は、酸素雰囲気下で1400℃以上の高温下においても耐久性を有する。よって、本発明の繊維強化セラミックス複合材料20の表面に、例えば、Y23、ZrO2、Al23等の耐環境コーティングを施すことで、例えば、摺動磨耗材、回転体の軸受け、半導体製造装置及び研磨機等の制動装置の台座等の繊維強化セラミックス複合材料20として好適に用いられる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明は下記実施例により制限されるものではない。
【0036】
[実施例1]
酸化イットリウム(III)(Y23)粉末(粒度分布D50%:0.5〜2μm)(日本イットリウム(株)製、高BET品)に、エタノール、2−ブタノール及びアセトンの中から選ばれる1種又は2種以上の有機溶媒(以下単に「有機溶媒」と記す。)とポリイミド樹脂を添加してなる有機溶媒系スラリー(固形分:アルコール:ポリイミド樹脂=5:100:10)に、SiC繊維束(宇部興産(株)製、チラノSA)を浸漬・乾燥させて、SiC繊維束内及びその表面に酸化物(Y23)粉体からなる多孔構造体を固定した。
得られた被覆繊維束を用いて朱子織のシートを作製した。次に、SiC粉末(粒度分布D50%:2.3μm)(太平洋ランダム(株)製、GMF−S)に有機溶媒とバインダー(フェノール樹脂)を添加してなる有機溶媒系スラリー(固形分:アルコール:バインダー=30:100:20)に、被覆繊維束のシートを浸漬・乾燥してプリプレグを作製した。このプリプレグを積層させ、120℃に加熱した金型にセットし、一軸プレスにより硬化体(120□×5t)を作製した。
次に、得られた硬化体を不活性雰囲気下に600℃で熱処理し、バインダー成分を飛散させて焼成体とした。得られた焼成体にポリイミド樹脂(宇部興産(株)製)をSiC繊維束内まで含浸させた。含浸後、300℃以下で60分間熱処理することにより、ポリイミド樹脂を硬化させた。
得られた焼成体に金属Si粉末((株)高純度化学研究所製、4N)を載置し、1500℃以上の熱処理により含浸させて緻密体とし、SiC繊維強化SiCセラミックス複合材料を得た。
得られた複合材料を3×4×40の棒状に加工し、日本セラミックス協会規格(JCRS201−1994)に準拠した破壊エネルギー及びそのときの見掛け強度について測定評価を行った。
結果を表1に示す。測定後の破断面観察から繊維束外表面に形成されたY23の厚みは10μm程度であった。また、繊維束内部にもY23は充填されていた。
更に加工した試料を空気雰囲気中1350℃の高温化で1hr暴露した。暴露後室温まで温度を下げ同様に破壊エネルギー及びその時の見掛け強度を測定した。
【0037】
[実施例2]
23粉末(粒度分布D50%:0.5〜2μm)(日本イットリウム(株)製、高BET品に有機溶媒とポリイミド樹脂を添加してなる有機溶媒系スラリー(固形分:アルコール:ポリイミド樹脂=5:100:10)に、SiC繊維束(宇部興産(株)製、チラノSA)を浸漬・乾燥させて、SiC繊維束内及びその表面に酸化物(Y23)粉体からなる多孔構造体を固定した。
得られた被覆繊維束を用いて朱子織のシートを作製した。次に、SiC粉末(粒度分布D50%:2.3μm)(太平洋ランダム(株)製、GMF−S)に有機溶媒とバインダー(フェノール樹脂)を添加してなる有機溶媒系スラリー(固形分:アルコール:バインダー=10:100:20)に、被覆繊維束のシートを浸漬・乾燥してプリプレグを作製した。このプリプレグを積層させ、120℃に加熱した金型にセットし、一軸プレスにより硬化体(120□×5t)を作製した。
次に、得られた硬化体を不活性雰囲気下に600℃で熱処理し、バインダー成分を飛散させ焼成体とした。得られた焼成体にピッチ(JFEケミカル(株)製)を繊維束内まで含浸させた。含浸後、酸素雰囲気により熱処理をすることによって樹脂を不融化・固定化した。
得られた硬化体に金属Si粉末((株)高純度化学研究所製、4N)を載置し、1500℃以上の熱処理により含浸させて緻密体とし、SiC繊維強化SiCセラミックス複合材料を得た。
得られた複合材料を3×4×40の棒状に加工し、日本セラミックス協会規格(JCRS201−1994)に準拠した破壊エネルギー及びそのときの見掛け強度について測定評価を行った。
結果を表1に示す。測定後の破断面観察から繊維束外表面に形成されたY23の厚みは10μm程度であった。また、繊維束内部にもY23は充填されていた。
【0038】
[実施例3]
23粉末(粒度分布D50%:0.5〜2μm)(日本イットリウム(株)製、高BET品に有機溶媒とポリイミド樹脂を添加してなる有機溶媒系スラリー(固形分:アルコール:ポリイミド樹脂=5:100:10)に、SiC繊維束(宇部興産(株)製、チラノSAを浸漬・乾燥させて、SiC繊維束内及びその表面に酸化物(Y23)粉体からなる多孔構造体を固定した。
この繊維束を裁断し短繊維化した。次に、SiC粉末(粒度分布D50%:2.3μm)(太平洋ランダム(株)製、GMF−S)に有機溶媒とバインダー(フェノール樹脂)を添加してなる有機溶媒系スラリー(固形分:アルコール:バインダー=30:100:20)に、裁断したSiC繊維束を混練・乾燥させ顆粒状の造粒体を得た。造粒体を120℃に加熱した金型に充填し一軸プレスにより硬化体(120□×6t)を作製した。
次に、得られた硬化体を不活性雰囲気下に600℃で熱処理し、バインダー成分を飛散させ焼成体とした。得られた焼成体にポリイミド樹脂(宇部興産(株)製)を繊維束内まで含浸させた。含浸後、300℃以下で熱処理することにより、ポリイミド樹脂を硬化させた。
得られた硬化体に金属Si粉末((株)高純度化学研究所製、4N)を載置し、1500℃以上の熱処理により含浸させて緻密体とし、SiC繊維強化SiCセラミックス複合材料を得た。
得られた複合材料を3×4×40の棒状に加工し、日本セラミックス協会規格(JCRS201−1994)に準拠した破壊エネルギー及びそのときの見掛け強度について測定評価を行った。
結果を表1に示す。測定後の破断面観察から繊維束外表面に形成されたY23の厚みは10μm程度であった。また、繊維束内部にもY23は充填されていた。
【0039】
[実施例4]
スピネル(MgAl24)粉末(粒度分布D50%:1μm)(バイコウスキージャパン(株)製)に、有機溶媒とポリイミド樹脂を添加してなる有機溶媒系スラリー(固形分:アルコール:ポリイミド樹脂=3:100:10)に、SiC繊維束を浸漬・乾燥して、SiC繊維束内及びその表面に酸化物(MgAl24)粉体からなる多孔構造体を固定した。
この繊維束を裁断し短繊維化した。次に、SiC粉末(粒度分布D50%:2.3μm)(太平洋ランダム(株)製、GMF−S)に有機溶媒とバインダー(フェノール樹脂)を添加してなる有機溶媒系スラリー(固形分:アルコール:バインダー=30:100:20)に、裁断したSiC繊維束を混練・乾燥させ顆粒状の造粒体を得た。造粒体を120℃に加熱した金型に充填し一軸プレスにより硬化体(120□×6t)を作製した。
次に、得られた硬化体を不活性雰囲気下に600℃で熱処理し、バインダー成分を飛散させ焼成体とした。得られた焼成体にポリイミド樹脂を繊維束内まで含浸させた。含浸後、300℃以下で熱処理することにより、ポリイミド樹脂を硬化させた。
得られた硬化体に金属Si粉末((株)高純度化学研究所製、4N)を載置し、1500℃以上の熱処理により含浸させて緻密体とし、SiC繊維強化SiCセラミックス複合材料を得た。
得られた複合材料を3×4×40の棒状に加工し、日本セラミックス協会規格(JCRS201−1994)に準拠した破壊エネルギー及びそのときの見掛け強度について測定評価を行った。
結果を表1に示す。測定後の破断面観察から繊維束外表面に形成されたスピネルの厚みは5μm程度であった。また、繊維束内部にもスピネルは充填されていた。
【0040】
[実施例5]
BN粉末(FS−1、平均粒径:1μm↓)(水島合金鉄(株)製)に、有機溶媒とバインダー(ポリイミド樹脂)を添加してなる有機溶媒系スラリー(固形分:アルコール:ポリイミド樹脂=12:100:10)を、平織のシート状のSiC繊維に浸漬・乾燥して、SiC繊維束内及びその表面にBN粉体からなる多孔構造体を固定した。
次に、SiC粉末(粒度分布D50%:2.3μm)(太平洋ランダム(株)製、GMF−S)に有機溶媒とバインダー(フェノール樹脂)を添加してなる有機溶媒系スラリー(固形分:アルコール:バインダー=30:100:20)に、BNが固定されたシート状のSiC繊維を浸漬・固定した。これらを複数枚作製し積層させた。積層体を120℃に加熱した金型に充填し一軸プレスにより硬化体(120□×5t)を作製した。
次に、得られた硬化体を不活性雰囲気下に600℃で熱処理し、バインダー成分を飛散させ焼成体とした。得られた焼成体にポリイミド樹脂を繊維束内まで含浸させた。含浸後、300℃以下で熱処理することにより、ポリイミド樹脂を硬化させた。
得られた焼成体に金属Si粉末((株)高純度化学研究所製、4N)を載置し、1500℃以上の熱処理により含浸させて緻密体とし、SiC繊維強化SiCセラミックス複合材料を得た。
得られた複合材料を3×4×40の棒状に加工し、日本セラミックス協会規格(JCRS201−1994)に準拠した破壊エネルギー及びそのときの見掛け強度について測定評価を行った。
結果を表1に示す。測定後の破断面観察から繊維束外表面に形成されたBNの厚みは20μm程度であった。この時、繊維束内部にもBNは残存しその深さは30μm程度であり、他の部分はカーボンが充填されていた。
【0042】
[比較例1]
23粉末(粒度分布D50%:0.5〜2μm)(日本イットリウム(株)製、高BET品)に有機溶媒とポリイミド樹脂を添加してなる有機溶媒系スラリー(固形分:アルコール:バインダー=1.5:100:20)に、SiC繊維束を浸漬・乾燥させて、SiC繊維束内及びその表面に酸化物(Y23)粉体を固定した。
この繊維束を用いて朱子織のシートを作製した。次に、SiC粉末(粒度分布D50%:2.3μm)(太平洋ランダム(株)製、GMF−S)に有機溶媒とバインダー(フェノール樹脂)を添加してなる有機溶媒系スラリー(固形分:アルコール:バインダー=30:100:20)に、朱子織のシートを浸漬・乾燥してプリプレグを作製した。このプリプレグを積層させ、120℃に加熱した金型にセットし、一軸プレスにより硬化体を作製した。
次に、得られた硬化体を不活性雰囲気下に600℃で熱処理し、バインダー成分を飛散させ焼成体とした。得られた焼成体に金属Si粉末を載置し1500℃以上の熱処理により含浸させて緻密体とし、SiC繊維強化SiCセラミックス複合材料を得た。
得られた複合材料を(3×4×40の棒)状に加工し、日本セラミックス協会規格(JCRS201−1994)に準拠した破壊エネルギー及びそのときの見掛け強度について測定評価を行った。
結果を表1に示す。評価後の破断面をSEMにより観察した。
【0043】
[比較例2]
MgAl24粉末(粒度分布D50%:1μm)(バイコウスキージャパン(株)製)に有機溶媒とバインダー(ポリイミド樹脂)を添加してなる有機溶媒系スラリー(固形分:アルコール:バインダー=1.5:100:20)に、SiC繊維束(宇部興産(株)製、チラノSA)を、浸漬・乾燥させて、SiC繊維束内及びその表面に酸化物(MgAl24)粉体を固定した。
この繊維束を裁断し短繊維化した。次に、SiC粉末(粒度分布D50%:2.3μm)(太平洋ランダム(株)製、GMF−S)に有機溶媒とバインダー(フェノール樹脂)を添加してなる有機溶媒系スラリー(固形分:アルコール:バインダー=30:100:20)に、裁断したSiC繊維束を混練・乾燥させ顆粒状の造粒体を得た。造粒体を120℃に加熱した金型に充填し一軸プレスにより硬化体(120□×6t)を作製した。
次に、得られた硬化体を不活性雰囲気下に600℃で熱処理し、バインダー成分を飛散させ焼成体とした。得られた焼成体に金属Si粉末を載置し、1500℃以上の熱処理により含浸させて緻密体とし、SiC繊維強化SiCセラミックス複合材料を得た。
得られた複合材料を(3×4×40の棒)状に加工し、日本セラミックス協会規格(JCRS201−1994)に準拠した破壊エネルギー及びそのときの見掛けの強度について測定評価を行った。
結果を表1に示す。評価後の破断面をSEMにより観察した。
【0044】
【表1】
表1より、実施例1〜では、比較例1及び2に比べて、多孔質層内に層状カーボンを形成しているため、溶融した金属SiとSiC繊維との固着を抑制することができる。この結果、SiC繊維強化SiCセラミックス複合材料は大きな破壊エネルギーを得ることができ、セラミックス特有の脆さを克服できることがわかる。比較例1及び2の破断面観察ではカーボン層がないため多孔質層内にSiが浸透し、SiC繊維表面にSiが固着していた。その結果、クラックが直進的に進行し割れにくさの指標である破壊エネルギー値が低位であったことがわかる。
また、実施例1において高温暴露後の特性は大幅に低下することなく充分な破壊エネルギーと強度を有していた。高温暴露により内部のカーボン層は酸化し飛散していたがクラックの進展は多孔質層で吸収されて直進的には進まないため、充分な特性を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の強化用繊維材料及び繊維強化セラミックス複合材料は、軽量且つ高温化で使用される移動用システムに代表される各種部品に好適に用いられる。また、主成分のSiCは耐食性も高いため各種熱処理に使用される耐熱部材としても好適である。
【符号の説明】
【0046】
1 繊維集合体を形成する繊維
2 多孔構造体
3 SiCマトリックス
4 耐環境コーティング
10 強化用繊維材料
20 繊維強化セラミックス複合材料
図1
図2
図3