【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明は下記実施例により制限されるものではない。
【0036】
[実施例1]
酸化イットリウム(III)(Y
2O
3)粉末(粒度分布D50%:0.5〜2μm)(日本イットリウム(株)製、高BET品)に、エタノール、2−ブタノール及びアセトンの中から選ばれる1種又は2種以上の有機溶媒(以下単に「有機溶媒」と記す。)とポリイミド樹脂を添加してなる有機溶媒系スラリー(固形分:アルコール:ポリイミド樹脂=5:100:10)に、SiC繊維束(宇部興産(株)製、チラノSA)を浸漬・乾燥させて、SiC繊維束内及びその表面に酸化物(Y
2O
3)粉体
からなる多孔構造体を固定した。
得られた被覆繊維束を用いて朱子織のシートを作製した。次に、SiC粉末(粒度分布D50%:2.3μm)(太平洋ランダム(株)製、GMF−S)に有機溶媒とバインダー(フェノール樹脂)を添加してなる有機溶媒系スラリー(固形分:アルコール:バインダー=30:100:20)に、被覆繊維束のシートを浸漬・乾燥してプリプレグを作製した。このプリプレグを積層させ、120℃に加熱した金型にセットし、一軸プレスにより硬化体(120□×5t)を作製した。
次に、得られた硬化体を不活性雰囲気下に600℃で熱処理し、バインダー成分を飛散させて焼成体とした。得られた焼成体にポリイミド樹脂(宇部興産(株)製)をSiC繊維束内まで含浸させた。含浸後、300℃以下で60分間熱処理することにより、ポリイミド樹脂を硬化させた。
得られた焼成体に金属Si粉末((株)高純度化学研究所製、4N)を載置し、1500℃以上の熱処理により含浸させて緻密体とし、SiC繊維強化SiCセラミックス複合材料を得た。
得られた複合材料を3×4×40の棒状に加工し、日本セラミックス協会規格(JCRS201−1994)に準拠した破壊エネルギー及びそのときの見掛け強度について測定評価を行った。
結果を表1に示す。測定後の破断面観察から繊維束外表面に形成されたY
2O
3の厚みは10μm程度であった。また、繊維束内部にもY
2O
3は充填されていた。
更に加工した試料を空気雰囲気中1350℃の高温化で1hr暴露した。暴露後室温まで温度を下げ同様に破壊エネルギー及びその時の見掛け強度を測定した。
【0037】
[実施例2]
Y
2O
3粉末(粒度分布D50%:0.5〜2μm)(日本イットリウム(株)製、高BET品に有機溶媒とポリイミド樹脂を添加してなる有機溶媒系スラリー(固形分:アルコール:ポリイミド樹脂=5:100:10)に、SiC繊維束(宇部興産(株)製、チラノSA)を浸漬・乾燥させて、SiC繊維束内及びその表面に酸化物(Y
2O
3)粉体
からなる多孔構造体を固定した。
得られた被覆繊維束を用いて朱子織のシートを作製した。次に、SiC粉末(粒度分布D50%:2.3μm)(太平洋ランダム(株)製、GMF−S)に有機溶媒とバインダー(フェノール樹脂)を添加してなる有機溶媒系スラリー(固形分:アルコール:バインダー=10:100:20)に、被覆繊維束のシートを浸漬・乾燥してプリプレグを作製した。このプリプレグを積層させ、120℃に加熱した金型にセットし、一軸プレスにより硬化体(120□×5t)を作製した。
次に、得られた硬化体を不活性雰囲気下に600℃で熱処理し、バインダー成分を飛散させ焼成体とした。得られた焼成体にピッチ(JFEケミカル(株)製)を繊維束内まで含浸させた。含浸後、酸素雰囲気により熱処理をすることによって樹脂を不融化・固定化した。
得られた硬化体に金属Si粉末((株)高純度化学研究所製、4N)を載置し、1500℃以上の熱処理により含浸させて緻密体とし、SiC繊維強化SiCセラミックス複合材料を得た。
得られた複合材料を3×4×40の棒状に加工し、日本セラミックス協会規格(JCRS201−1994)に準拠した破壊エネルギー及びそのときの見掛け強度について測定評価を行った。
結果を表1に示す。測定後の破断面観察から繊維束外表面に形成されたY
2O
3の厚みは10μm程度であった。また、繊維束内部にもY
2O
3は充填されていた。
【0038】
[実施例3]
Y
2O
3粉末(粒度分布D50%:0.5〜2μm)(日本イットリウム(株)製、高BET品に有機溶媒とポリイミド樹脂を添加してなる有機溶媒系スラリー(固形分:アルコール:ポリイミド樹脂=5:100:10)に、SiC繊維束(宇部興産(株)製、チラノSAを浸漬・乾燥させて、SiC繊維束内及びその表面に酸化物(Y
2O
3)粉体
からなる多孔構造体を固定した。
この繊維束を裁断し短繊維化した。次に、SiC粉末(粒度分布D50%:2.3μm)(太平洋ランダム(株)製、GMF−S)に有機溶媒とバインダー(フェノール樹脂)を添加してなる有機溶媒系スラリー(固形分:アルコール:バインダー=30:100:20)に、裁断したSiC繊維束を混練・乾燥させ顆粒状の造粒体を得た。造粒体を120℃に加熱した金型に充填し一軸プレスにより硬化体(120□×6t)を作製した。
次に、得られた硬化体を不活性雰囲気下に600℃で熱処理し、バインダー成分を飛散させ焼成体とした。得られた焼成体にポリイミド樹脂(宇部興産(株)製)を繊維束内まで含浸させた。含浸後、300℃以下で熱処理することにより、ポリイミド樹脂を硬化させた。
得られた硬化体に金属Si粉末((株)高純度化学研究所製、4N)を載置し、1500℃以上の熱処理により含浸させて緻密体とし、SiC繊維強化SiCセラミックス複合材料を得た。
得られた複合材料を3×4×40の棒状に加工し、日本セラミックス協会規格(JCRS201−1994)に準拠した破壊エネルギー及びそのときの見掛け強度について測定評価を行った。
結果を表1に示す。測定後の破断面観察から繊維束外表面に形成されたY
2O
3の厚みは10μm程度であった。また、繊維束内部にもY
2O
3は充填されていた。
【0039】
[実施例4]
スピネル(MgAl
2O
4)粉末(粒度分布D50%:1μm)(バイコウスキージャパン(株)製)に、有機溶媒とポリイミド樹脂を添加してなる有機溶媒系スラリー(固形分:アルコール:ポリイミド樹脂=3:100:10)に、SiC繊維束を浸漬・乾燥して、SiC繊維束内及びその表面に酸化物(MgAl
2O
4)粉体
からなる多孔構造体を固定した。
この繊維束を裁断し短繊維化した。次に、SiC粉末(粒度分布D50%:2.3μm)(太平洋ランダム(株)製、GMF−S)に有機溶媒とバインダー(フェノール樹脂)を添加してなる有機溶媒系スラリー(固形分:アルコール:バインダー=30:100:20)に、裁断したSiC繊維束を混練・乾燥させ顆粒状の造粒体を得た。造粒体を120℃に加熱した金型に充填し一軸プレスにより硬化体(120□×6t)を作製した。
次に、得られた硬化体を不活性雰囲気下に600℃で熱処理し、バインダー成分を飛散させ焼成体とした。得られた焼成体にポリイミド樹脂を繊維束内まで含浸させた。含浸後、300℃以下で熱処理することにより、ポリイミド樹脂を硬化させた。
得られた硬化体に金属Si粉末((株)高純度化学研究所製、4N)を載置し、1500℃以上の熱処理により含浸させて緻密体とし、SiC繊維強化SiCセラミックス複合材料を得た。
得られた複合材料を3×4×40の棒状に加工し、日本セラミックス協会規格(JCRS201−1994)に準拠した破壊エネルギー及びそのときの見掛け強度について測定評価を行った。
結果を表1に示す。測定後の破断面観察から繊維束外表面に形成されたスピネルの厚みは5μm程度であった。また、繊維束内部にもスピネルは充填されていた。
【0040】
[実施例5]
BN粉末(FS−1、平均粒径:1μm↓)(水島合金鉄(株)製)に、有機溶媒とバインダー(ポリイミド樹脂)を添加してなる有機溶媒系スラリー(固形分:アルコール:ポリイミド樹脂=12:100:10)を、平織のシート状のSiC繊維に浸漬・乾燥して、SiC繊維束内及びその表面にBN粉体
からなる多孔構造体を固定した。
次に、SiC粉末(粒度分布D50%:2.3μm)(太平洋ランダム(株)製、GMF−S)に有機溶媒とバインダー(フェノール樹脂)を添加してなる有機溶媒系スラリー(固形分:アルコール:バインダー=30:100:20)に、BNが固定されたシート状のSiC繊維を浸漬・固定した。これらを複数枚作製し積層させた。積層体を120℃に加熱した金型に充填し一軸プレスにより硬化体(120□×5t)を作製した。
次に、得られた硬化体を不活性雰囲気下に600℃で熱処理し、バインダー成分を飛散させ焼成体とした。得られた焼成体にポリイミド樹脂を繊維束内まで含浸させた。含浸後、300℃以下で熱処理することにより、ポリイミド樹脂を硬化させた。
得られた焼成体に金属Si粉末((株)高純度化学研究所製、4N)を載置し、1500℃以上の熱処理により含浸させて緻密体とし、SiC繊維強化SiCセラミックス複合材料を得た。
得られた複合材料を3×4×40の棒状に加工し、日本セラミックス協会規格(JCRS201−1994)に準拠した破壊エネルギー及びそのときの見掛け強度について測定評価を行った。
結果を表1に示す。測定後の破断面観察から繊維束外表面に形成されたBNの厚みは20μm程度であった。この時、繊維束内部にもBNは残存しその深さは30μm程度であり、他の部分はカーボンが充填されていた。
【0042】
[比較例1]
Y
2O
3粉末(粒度分布D50%:0.5〜2μm)(日本イットリウム(株)製、高BET品)に有機溶媒とポリイミド樹脂を添加してなる有機溶媒系スラリー(固形分:アルコール:バインダー=1.5:100:20)に、SiC繊維束を浸漬・乾燥させて、SiC繊維束内及びその表面に酸化物(Y
2O
3)粉体を固定した。
この繊維束を用いて朱子織のシートを作製した。次に、SiC粉末(粒度分布D50%:2.3μm)(太平洋ランダム(株)製、GMF−S)に有機溶媒とバインダー(フェノール樹脂)を添加してなる有機溶媒系スラリー(固形分:アルコール:バインダー=30:100:20)に、朱子織のシートを浸漬・乾燥してプリプレグを作製した。このプリプレグを積層させ、120℃に加熱した金型にセットし、一軸プレスにより硬化体を作製した。
次に、得られた硬化体を不活性雰囲気下に600℃で熱処理し、バインダー成分を飛散させ焼成体とした。得られた焼成体に金属Si粉末を載置し1500℃以上の熱処理により含浸させて緻密体とし、SiC繊維強化SiCセラミックス複合材料を得た。
得られた複合材料を(3×4×40の棒)状に加工し、日本セラミックス協会規格(JCRS201−1994)に準拠した破壊エネルギー及びそのときの見掛け強度について測定評価を行った。
結果を表1に示す。評価後の破断面をSEMにより観察した。
【0043】
[比較例2]
MgAl
2O
4粉末(粒度分布D50%:1μm)(バイコウスキージャパン(株)製)に有機溶媒とバインダー(ポリイミド樹脂)を添加してなる有機溶媒系スラリー(固形分:アルコール:バインダー=1.5:100:20)に、SiC繊維束(宇部興産(株)製、チラノSA)を、浸漬・乾燥させて、SiC繊維束内及びその表面に酸化物(MgAl
2O
4)粉体を固定した。
この繊維束を裁断し短繊維化した。次に、SiC粉末(粒度分布D50%:2.3μm)(太平洋ランダム(株)製、GMF−S)に有機溶媒とバインダー(フェノール樹脂)を添加してなる有機溶媒系スラリー(固形分:アルコール:バインダー=30:100:20)に、裁断したSiC繊維束を混練・乾燥させ顆粒状の造粒体を得た。造粒体を120℃に加熱した金型に充填し一軸プレスにより硬化体(120□×6t)を作製した。
次に、得られた硬化体を不活性雰囲気下に600℃で熱処理し、バインダー成分を飛散させ焼成体とした。得られた焼成体に金属Si粉末を載置し、1500℃以上の熱処理により含浸させて緻密体とし、SiC繊維強化SiCセラミックス複合材料を得た。
得られた複合材料を(3×4×40の棒)状に加工し、日本セラミックス協会規格(JCRS201−1994)に準拠した破壊エネルギー及びそのときの見掛けの強度について測定評価を行った。
結果を表1に示す。評価後の破断面をSEMにより観察した。
【0044】
【表1】
表1より、実施例1〜
5では、比較例1及び2に比べて、多孔質層内に層状カーボンを形成しているため、溶融した金属SiとSiC繊維との固着を抑制することができる。この結果、SiC繊維強化SiCセラミックス複合材料は大きな破壊エネルギーを得ることができ、セラミックス特有の脆さを克服できることがわかる。比較例1及び2の破断面観察ではカーボン層がないため多孔質層内にSiが浸透し、SiC繊維表面にSiが固着していた。その結果、クラックが直進的に進行し割れにくさの指標である破壊エネルギー値が低位であったことがわかる。
また、実施例1において高温暴露後の特性は大幅に低下することなく充分な破壊エネルギーと強度を有していた。高温暴露により内部のカーボン層は酸化し飛散していたがクラックの進展は多孔質層で吸収されて直進的には進まないため、充分な特性を得ることができた。