特許第6824614号(P6824614)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6824614
(24)【登録日】2021年1月15日
(45)【発行日】2021年2月3日
(54)【発明の名称】劣化判定装置及び劣化判定方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/392 20190101AFI20210121BHJP
   G01R 31/378 20190101ALI20210121BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20210121BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20210121BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20210121BHJP
【FI】
   G01R31/392
   G01R31/378
   H01M10/48 P
   H01M10/48 301
   H01M4/58
   H02J7/00 Y
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-53798(P2016-53798)
(22)【出願日】2016年3月17日
(65)【公開番号】特開2017-167034(P2017-167034A)
(43)【公開日】2017年9月21日
【審査請求日】2019年3月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000110778
【氏名又は名称】ニシム電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099634
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 安雄
(72)【発明者】
【氏名】倉山 功治
(72)【発明者】
【氏名】田島 新治
【審査官】 青木 洋平
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/053075(WO,A1)
【文献】 特開平11−052033(JP,A)
【文献】 特開2007−195312(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0252600(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/36−31/396
H01M 4/58
H01M 10/48
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オリビン系リチウムイオン二次電池における各セルごとの充電特性の電圧値が平坦となる平坦領域以外の変化領域における前記充電特性が示す任意の前記電圧値を基準電圧値として記憶する基準電圧値記憶手段と、
各セルの電圧値が前記基準電圧値に到達したことをトリガーとして、予め設定された所定の時間に対する前記電圧値の変化量を演算する変化演算手段と、
演算された前記変化量が予め設定された所定の閾値を超えている場合に前記セルが劣化していると判定する劣化判定手段と、
充電時における充電電流が一定ではない場合に、前記電圧値の変化量を補正する補正手段とを備え、
当該補正手段が、測定時の電流値(I)と初期動作時の電流値(I)との比率(I/I)を前記所定の時間に掛けて得られる当該所定の時間に基づいて、前記電圧値の変化量を補正することを特徴とする劣化判定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の劣化判定装置において、
充電時における温度情報を測定する温度測定手段と、
複数の温度環境下で使用された場合の所定の時間に対する前記電圧値の変化量であり、劣化の目安となる基準情報を各温度環境下ごとに記憶するメモリ部とを備え、
前記劣化判定手段が、測定された前記温度情報を取得し、当該温度情報に最も合致する温度帯の前記基準情報を選択し、前記電圧値の変化量と前記基準情報とを比較して劣化判定を行うことを特徴とする劣化判定装置。
【請求項3】
オリビン系リチウムイオン二次電池における各セルごとの充電特性の電圧値が平坦となる平坦領域以外の変化領域における前記充電特性が示す任意の前記電圧値が基準電圧値として基準電圧値記憶手段に記憶されており、
CPUが、各セルの電圧値が前記基準電圧値に到達したことをトリガーとして、予め設定された所定の時間に対する前記電圧値の変化量を演算する変化演算ステップと、充電時における充電電流が一定ではない場合に、前記電圧値の変化量を補正する補正ステップと、補正された前記変化量が予め設定された所定の閾値を超えている場合に前記セルが劣化していると判定する劣化判定ステップとを実行し、
前記補正ステップが、測定時の電流値(I)と初期動作時の電流値(I)との比率(I/I)を前記所定の時間に掛けて得られる当該所定の時間に基づいて、前記電圧値の変化量を補正することを特徴とする劣化判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オリビン系(リン酸鉄)リチウムイオン二次電池の劣化状態を判定する劣化判定装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、一般的に保存寿命とサイクル寿命で管理され、約10年使用した場合、初期の容量から約2〜3割程度減少する。この状態で更に利用継続した場合、初期値の6割以下では電池劣化(デンドライド)が加速し、電池システムが危険な状態になってしまう。
【0003】
特に、オリビン系リチウムイオン二次電池の場合は、一般的に広く普及しているマンガン系リチウムイオン二次電池と異なる充電特性を有しており、図6に示すように、電池残量(SOC;State Of Charge)が20%〜80%の領域ではSOCの変化に対して電池電圧がほぼ一定となっており、充電時の二次電池の状態を把握するのが困難であるという問題がある。
【0004】
リチウムイオン二次電池の劣化を判定する技術として、例えば特許文献1ないし3に示す技術が開示されている。特許文献1に示す技術は、充電装置1にリチウムイオン電池、ニッケルカドミウム電池およびニッケル水素電池などの二次電池12が接続されると、識別素子20によってその種類が検出され、制御部18は、その電池電圧に応じて定電流充電処理を開始し、この充電処理中に電池電圧が電池の種類に応じた基準電圧値になると、制御部18に備えられたタイマによって定電流充電時間の計時が開始され、電池の種類に応じた充電制御方式により、定電圧充電に切り替わったかもしくは−ΔVが検出されると計時が終了し、制御部18ではこの計時によって得られた定電流充電時間に基づいて、この電池の充電容量が新品当初の電池に対する定電流充電時間と較べてどの程度であるのかを電池の種類に応じて判定し、電池のサイクル劣化の度合いが判定されると、通知部26よりアラームを出力させてサイクル寿命等のサイクル劣化の度合いを使用者に知らせるものである。
【0005】
特許文献2に示す技術は、マイコン50が、基準となる二次電池について、定電圧充電開始前の電池電圧判別値V2と、該電池電圧値V2に対応して充電に必要な定電流充電時間の判別値t2との関係を予め記憶装置(ROM)55に記憶しておき、マイコン50は、充電を行う二次電池について、定電流充電を行った実測時間(t)と、定電圧充電開始前の電池実測電圧(Vo)とを検出し、前記実測電池電圧(Vo)に対応する前記実測時間(t)が予め記憶装置55に記憶された前記判別値(V2、t2)以下であると判別した場合、充電を行った二次電池2は寿命が間近い「寿命間近」であることを表示回路120の表示手段121に表示させるものである。
【0006】
特許文献3に示す技術は、蓄電素子200の劣化状態を検出する劣化状態検出装置100であって、蓄電素子200を充電または放電した場合の蓄電素子200の電圧に対する通電容量の変化の大きさを第一容量変化量とし、第一容量変化量に対する通電容量の変化の大きさである第二容量変化量を取得する取得部110と、取得された第二容量変化量と所定の閾値とを比較することにより、蓄電素子200の劣化状態を検出する検出部120とを備えるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−329512号公報
【特許文献2】特開2008−193797号公報
【特許文献3】特開2014−109477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記各特許文献に係る技術は、二次電池の劣化を判定するものの、上記に示したオリビン系リチウムイオン二次電池に特有の問題を十分に解決することができるものではない。
【0009】
本発明は、オリビン系リチウムイオン二次電池に特有の充電特性を考慮して、二次電池の劣化度合いを適正に判定する劣化判定装置等を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る劣化判定装置は、オリビン系リチウムイオン二次電池における各セルごとの充電特性の電圧値が平坦となる平坦領域以外の変化領域における前記充電特性が示す任意の前記電圧値を基準電圧値として記憶する基準電圧値記憶手段と、各セルの電圧値が前記基準電圧値に到達したことをトリガーとして、予め設定された所定の時間に対する前記電圧値の変化を演算する変化演算手段と、演算された前記変化量が予め設定された所定の閾値を超えている場合に前記セルが劣化していると判定する劣化判定手段とを備えるものである。
【0011】
このように、本発明に係る劣化判定装置においては、オリビン系リチウムイオン二次電池における各セルごとの充電特性の電圧値が平坦となる平坦領域以外の変化領域における前記充電特性が示す任意の前記電圧値を基準電圧値として記憶し、各セルの電圧値が前記基準電圧値に到達したことをトリガーとして、予め設定された所定の時間に対する前記電圧値の変化を演算し、演算された前記変化量が予め設定された所定の閾値を超えている場合に前記セルが劣化していると判定するため、オリビン系リチウムイオン二次電池に特有な充電特性における平坦領域を考慮した適正な劣化判定を行うことができるという効果を奏する。
【0012】
本発明に係る劣化判定装置は、充電時における充電電流が一定ではない場合に、予め設定されている基準電流値に補正して前記電圧値の変化量を変換する補正手段を備えるものである。
【0013】
このように、本発明に係る劣化判定装置においては、充電時における充電電流が一定ではない場合に、予め設定されている基準電流値に補正して前記電圧値の変化量を変換するため、充電電流が常時一定とならないような場合であっても二次電池の状態を正確に把握することが可能となり、適正に劣化判定を行うことができるという効果を奏する。
【0014】
本発明に係る劣化判定装置は、充電時における温度情報を測定する温度測定手段と、測定された前記温度情報を予め設定されている基準温度に補正して前記電圧値の変化量を変換する補正手段とを備えるものである。
【0015】
このように、本発明に係る劣化判定装置においては、充電時における温度情報を測定する温度測定手段と、測定された前記温度情報を予め設定されている基準温度に補正して前記電圧値の変化量を変換するため、判定時における温度環境に影響を受けることなく正確な劣化判定を行うことが可能になるという効果を奏する。
【0016】
本発明に係る劣化判定装置は、前記温度測定手段が、オリビン系リチウムイオン二次電池がおかれている環境下での温度情報をサンプリングし、前記劣化判定手段が、サンプリングされた前記温度情報をパラメータとして前記セルの劣化判定を行うものである。
【0017】
このように、本発明に係る劣化判定装置においては、オリビン系リチウムイオン二次電池がおかれている環境下での温度情報をサンプリングし、サンプリングされた前記温度情報をパラメータとして前記セルの劣化判定を行うため、二次電池が普段どのような温度環境下で利用されていたかを考慮した正確な劣化判定を行うことが可能になるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】第1の実施形態に係るオリビン系リチウムイオン二次電池のシステム構成図である。
図2】第1の実施形態に係る劣化判定装置におけるBMS(Battery Management System)の構成を示す機能ブロック図である。
図3】二次電池の劣化状態を示す図である。
図4】第1の実施形態に係る劣化判定装置の動作を示すフローチャートである。
図5】第2の実施形態に係る劣化判定装置の構成を示す機能ブロック図である。
図6】オリビン系リチウムイオン二次電池の充放電特性を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を説明する。また、本実施形態の全体を通して同じ要素には同じ符号を付けている。
【0020】
(本発明の第1の実施形態)
本実施形態に係る劣化判定装置について、図1ないし図4を用いて説明する。本実施形態に係る劣化判定装置は、オリビン系リチウムイオン二次電池(以下、単に二次電池という)における各セルごとの充電特性の電圧値が平坦となる平坦領域以外の変化領域における所定の時間に対する電圧値の変化を確認することで、二次電池の電池劣化度合いを判定するものである。
【0021】
オリビン系リチウムイオン二次電池は、上述したように、一般的に広く普及しているマンガン系リチウムイオン二次電池と異なり、図6に示すような充電特性を有している。図6に示すように、オリビン系リチウムイオン二次電池の場合は、SOCが0%〜20%及び80%〜100%の領域においては、SOCの変化に応じて電池電圧が変化しているが、SOCが20%〜80%の領域ではSOCの変化に対して電池電圧がほぼ一定となっており、この20%〜80%の領域において二次電池の劣化度合いを測定するのは困難である。なお、SOCが0%〜20%及び80%〜100%であるSOCの変化に対して電池電圧が変化する領域を変化領域、SOCが20%〜80%であるSOCの変化に対して電池電圧が変化しない領域を平坦領域とする。
【0022】
本実施形態においては、オリビン系リチウムイオン二次電池に特有な充電特性を考慮し、変化領域における所定の時間に対する充電電圧値の変化を見ることで、二次電池の劣化度合いを判定する。また、二次電池の劣化は温度に大きく影響を受けることから、劣化判定時の温度、及び/又は、通常の使用状態における温度環境を考慮して劣化度合いを判定する。
【0023】
図1は、本実施形態に係るオリビン系リチウムイオン二次電池のシステム構成図である。二次電池システム1は、システム全体を監視、制御するBMS2と、複数のセル3が直列に接続されて形成される二次電池モジュール4と、各二次電池モジュール4の状態を監視するECU(Electronic Control Unit)5と、二次電池システム1の充電/放電を切り替える充放電切替スイッチ6と、放電時に負荷と接続される放電制御部7及び充電時に電源と接続される充電制御部8からなる充放電制御部9とを備える。
【0024】
充電時にはBMS2の制御により充放電切替スイッチ6が充電制御部8に接続され、二次電池モジュール4に充電がなされる。放電時には充放電切替スイッチ6が放電制御部7に接続され、二次電池モジュール4の電力が負荷に供給される。また、BMS2は、各二次電池モジュール4を監視しているECU5からの情報を受信して二次電池モジュール4の異常等を検知し、二次電池システム1全体の安全性を管理する。二次電池の劣化判定処理は、このBMS2で収集された情報に基づいて、BMS2のCPUが劣化判定プログラムを実行することで行われる。
【0025】
図2は、本実施形態に係る劣化判定装置におけるBMSの構成を示す機能ブロック図である。BMS2は、ECU5から送信される二次電池モジュール4の状態に関する情報を受信する受信部21と、受信した二次電池モジュール4の状態が平坦領域における状態か変化領域における状態かを判定する領域判定部22と、電圧値の変化を演算するための基準時間及び劣化判定を行うための電圧値の変化の閾値等を記憶するメモリ部23と、当該メモリ部23に記憶されている基準時間に基づいて、充電における電圧値の変化を演算する電圧変化演算部24と、演算された電圧値の変化及びメモリ部23に記憶されている閾値に基づいて、二次電池の劣化判定を行う劣化判定部25と、劣化判定の結果を出力情報27としてディスプレイや紙に出力する出力制御部26とを備える。
【0026】
ここで、劣化判定処理について図3を用いて説明する。図3は、二次電池の劣化状態を示す図である。図3のグラフに示すように、電池劣化がない初期状態では充電時間に対する電池容量が(1)のようなグラフとなるのに対して、電池劣化した状態では(2)のようなグラフとなる。つまり、電池が劣化すると短時間で最大容量に達してしまうため、電池の容量(グラフの面積に相当)としては非常に少なくなってしまう。図3のグラフに示されるように、電池の劣化が進むほどグラフの傾きが大きくなる。すなわち、グラフの傾き度合いから電池の劣化度合いを推定することが可能となる。
【0027】
本実施形態においては、図6に示すようなオリビン系リチウムイオン二次電池に特有な充電特性から、電流値及び電圧値に基づいて計算されるSOCの直線性が得られず、電池の劣化度を正確に演算するのが困難である。したがって、劣化判定処理において変化領域における時間変化に対する電圧変化の大きさから電池の劣化度を演算する。具体的には、平坦領域以外の変化領域における予め設定された任意の電位をトリガーとし、φ=tan(電圧変化ΔV/時間変化Δt)により傾きを求め、得られた傾きと初期状態における傾きとを比較することで電池の劣化度を判定する。
【0028】
次に、本実施形態に係る劣化判定装置の動作について説明する。図4は、本実施形態に係る劣化判定装置の動作を示すフローチャートである。まず、BMS2がECU6にて測定された電池電圧を受信部21で受信し(S1)、領域判定部22が、測定された電圧値が基準電圧値に到達しているかどうかを判定する(S2)。基準電圧値は予め設定されている電圧値であり、変化領域における任意の電圧値が設定されている。すなわち、基準電圧値に到達している場合は変化領域における状態、基準電圧値に到達していない場合は平坦領域における状態として判定することができる。基準電圧値に到達していない場合は、ステップS1に戻って電圧値の測定を継続する。基準電圧値に到達している場合は、電圧変化演算部24が、基準電圧値に到達してからの時間変化Δtと電圧変化ΔVからφ=tan(ΔV/Δt)を演算する(S3)。
【0029】
劣化判定部25が、予め運用の初期動作時において演算され、メモリ部23に記憶されていたφと、ステップS3で演算されたφとの比較を行う(S4)。比較した結果、φとφとの差が所定の閾値未満である場合は(S5)、二次電池は劣化していないと判断し、通常運用を継続してステップS1に戻る。φとφとの差が所定の閾値以上である場合は(S5)、二次電池は劣化していると判断し、出力制御部46が二次電池が劣化している旨の出力情報47を出力して(S6)、劣化判定処理を終了する。
【0030】
なお、劣化判定部25は、φとφとの差分から二次電池の劣化度合い(差分が大きい程、劣化度合いが大きい)を割り出し、二次電池が完全に劣化していない状態、すなわち多少劣化しているものの運用継続は可能な許容範囲の状態であっても必要に応じて二次電池の劣化度合いを出力するようにしてもよい。
【0031】
また、上記は充電電流が一定であることを前提としている。すなわち、例えば運用の初期動作時に10Aの定電流で充電されたとすると、劣化判定処理時も10Aの定電流で充電されていることを前提としている。しかしながら、例えば太陽光のような自然エネルギーで発電した電力を充電するような場合は、必ずしも充電電流が一定になるとは限らない。このような場合には、測定された電流値を初期動作時の電流値に補正した上でφの演算を行うようにしてもよい。具体的には、測定された時間変化Δtに対して、測定時の電流値Iと初期動作時の電流値Iとの比率(I/I)を掛けて得られる時間変化Δtsに基づいてφを求めることで、初期動作時と異なる電流値で充電した場合であっても劣化判定を適正に行うことができる。
【0032】
このように、本実施形態に係る劣化判定装置においては、オリビン系リチウムイオン二次電池における変化領域における電圧値を基準電圧値として記憶し、各セルの電圧値が前記基準電圧値に到達したことをトリガーとして、予め設定された所定の時間に対する電圧値の変化を演算し、演算された変化量が予め設定された所定の閾値を超えている場合にセルが劣化していると判定するため、オリビン系リチウムイオン二次電池に特有な充電特性における平坦領域を考慮した適正な劣化判定を行うことができる。
【0033】
また、充電時における充電電流が一定ではない場合に、予め設定されている基準電流値に補正して電圧値の変化量を変換するため、充電電流が常時一定とならない場合であっても二次電池の状態を正確に把握することが可能となり、適正に劣化判定を行うことができる。
【0034】
(本発明の第2の実施形態)
本実施形態に係る劣化判定装置について、図5を用いて説明する。本実施形態に係る劣化判定装置は、劣化判定処理の際に温度を考慮することでより正確に劣化判定を行うものである。なお、本実施形態において前記第1の実施形態と重複する説明は省略する。
【0035】
二次電池の使用において温度環境は非常に重要な要素である。例えば、高温や低温の環境で長期間使用した場合は、常温で使用した場合に比べて劣化が早く進んでしまう。また、比較的高温下では電池が活性化しやすく出力が出やすいが、低温下においては電池が活性化しにくいため出力があまり出ない。このように、温度環境により二次電池の劣化や出力が異なる。そこで、本実施形態においては、高温、常温、低温における基準となるφを予め記憶し、普段の使用温度や劣化判定処理時の温度等を考慮して補正をすることで、より正確に劣化判定を行う。
【0036】
図5は、本実施形態に係る劣化判定装置の構成を示す機能ブロック図である。前記第1の実施形態における図2の構成と異なるのは、ECU6の温度センサにて測定された温度情報を取得する温度情報取得部51を備え、取得された温度情報は定期的にメモリ部23に記憶されると共に、劣化判定処理が実行される際にその時の温度情報が劣化判定部25に渡されることである。また、メモリ部23には、例えば60℃の高温状態における基準となるφ、25℃の常温状態における基準となるφ、−20℃の低温状態における基準となるφが予め記憶されている。さらに、メモリ部23には、例えば60℃、20℃及び−20℃の各温度環境下で使用された場合の劣化の目安となる基準情報(例えば、60℃の場合は7年で劣化、25℃の場合は10年で劣化、−20℃の場合は8年で劣化といった情報)が予め記憶されている。
【0037】
劣化判定部25は、温度情報取得部51で取得された温度情報及びメモリ部23に記憶されている情報に基づいて、総合的に二次電池の劣化判定を行う。具体的には、現在の温度情報を取得し、現在の温度に最も合致する適切な基準となるφをφ、φ、又はφから選択し、選択された基準φを用いて劣化判定を行う。そうすることで、温度パラメータを考慮したより正確な劣化判定を行うことが可能となる。
【0038】
また、劣化判定部25は、劣化判定の対象となる二次電池がどのような温度環境下で使用されてきたかをメモリ部23に蓄積された測定された温度情報から演算し、これまでの使用環境を考慮した劣化判定を行う。すなわち、例えば、通常(常温環境下)であれば10年は劣化しない二次電池について、7年ぐらいで劣化の傾向が生じたような場合には、この7年間の使用温度環境を演算し、高温や低温環境下での使用であると判断された場合には、劣化判定処理が正確であると判断することができる。逆に、通常10年は劣化しないとされる常温環境下での使用にも関わらず、7年程度で劣化が生じたような場合は、温度以外に使用環境において何か問題が生じている可能性があり、早期にメンテナンスを行うことができる。
【0039】
なお、上記のように温度情報を電池劣化判定のパラメータとして利用することで、正確な劣化判定を行うことができるが、現在の温度情報を加味した基準φの選択と、これまでの使用温度環境を加味した劣化判定とは、双方を考慮して劣化判定処理を行うようにしてもよいし、いずれか一方の温度情報のみをパラメータとして利用するようにしてもよい。
【0040】
(本発明のその他の実施形態)
本実施形態に係る劣化判定装置は、二次電池の温度上昇変化に基づいて、劣化度合いを判定するものである。すなわち、上記各実施形態においては、二次電池の劣化が進んだ場合のφの変化を見ることで劣化しているか否かを判定したが、本実施形態においては所定の時間Δtに対する温度変化ΔTを演算することで劣化判定を行う。
【0041】
二次電池は劣化が進むと電池内に析出される阻害物により抵抗値が大きくなる。つまり、抵抗値が大きくなることで温度上昇が発生する。これは二次電池の劣化が進むに連れて温度上昇が大きくなるものであるため、その温度上昇の変化を見ることで二次電池の劣化度合いを判定することが可能となる。具体的には、充電を開始してから二次電池が所定の基準温度Tに達するまでの時間Δtを測定し、予め記憶されている初期起動時のΔtと比較することで劣化判定を行うことができる。二次電池の劣化が進んでいる程、Δtの値が小さくなる(早く高温に達する)。
【0042】
このように、二次電池の劣化を判定するに当たって、電圧値の変化ではなく温度上昇を見ることで、充電特性に関係なくどのような二次電池であっても正確に劣化判定を行うことが可能になる。
【符号の説明】
【0043】
1 二次電池システム
2 BMS
3 セル
4 二次電池モジュール
5 ECU
6 充放電切替スイッチ
7 放電制御部
8 充電制御部
9 充放電制御部
21 受信部
22 領域判定部
23 メモリ部
24 電圧変化演算部
25 劣化判定部
26 出力制御部
27 出力情報
51 温度情報取得部
図1
図2
図3
図4
図5
図6