【文献】
RAJ Arjun et al.,Imaging individual mRNA molecules using multiple singly labeled probes,Nature Methods,2008年10月,Vol.5, No.10,pp.877-879
【文献】
LUBECK Eric, Cai Long,Single-cell systems biology by super-resolution imaging and combinatorial labeling,Nature Methods,2012年 7月,Vol.9, No.7,pp.743-748
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記被検物質の前記局在状況の判別は、前記細胞の解析対象部位における前記被検物質の局在量の、前記細胞全体における前記被検物質の量に対する割合の算出を含む、請求項9に記載の細胞情報取得方法。
前記被検物質の前記局在状況の判別は、強度が異なる複数の前記蛍光から得られた前記蛍光情報のうち、前記強度が所定の範囲に含まれる前記蛍光から得られた前記蛍光情報に基づいて行われる、請求項9または13に記載の細胞情報取得方法。
前記被検物質の前記局在状況の判別は、強度が異なる複数の前記蛍光から得られた前記蛍光情報のうち、前記細胞の解析対象部位における蛍光強度と、前記解析対象部位以外の前記細胞部分における蛍光強度との差が、所定の閾値より大きい前記蛍光情報に基づいて行われる、請求項9、13、または14の何れか一項に記載の細胞情報取得方法。
互いに蛍光波長が異なる複数の蛍光物質が結合した被検物質を含む細胞に、第1の光および前記第1の光より強度の弱い第2の光を照射して、前記複数の蛍光物質から波長および強度が互いに異なる複数の蛍光を生じさせる光照射部と、
前記複数の蛍光物質から生じた前記各蛍光を受光する受光部と、
強度が異なる前記蛍光に基づいて複数の蛍光情報を取得する取得部と、
前記複数の蛍光情報に基づいて、前記被検物質が核に局在しているか細胞質に局在しているかを判別する解析部と、を備える、細胞情報取得装置。
前記取得部は、第1の光が照射された前記細胞から生じた第1の蛍光波長の第1の蛍光画像と、前記第1の光より強度の弱い第2の光が照射された前記細胞から生じた第2の蛍光波長の第2の蛍光画像を取得する、請求項18ないし20の何れか一項に記載の細胞情報取得装置。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<実施形態1>
実施形態1は、細胞に含まれる被検物質に互いに蛍光波長が異なる複数の蛍光物質を結合させ、蛍光物質から生じる複数の蛍光に基づいて被検物質の局在状況を判別する細胞情報取得方法に、本発明を適用したものである。実施形態1では、被検物質はNF−κBである。転写因子であるNF−κBは、IκBと複合体を形成した状態で細胞質内に存在し、種々の刺激によるIκBの分解により核の内部に移行すると考えられている。実施形態1では、NF−κBを被検物質として蛍光物質で特異的に標識し、蛍光物質からの蛍光に基づいて、NF−κBが細胞質と核のいずれに存在するかを判定する解析が行われる。なお、被検物質は、NF−κB以外のタンパク質や分子であっても良い。たとえば、被検物質は、NF−κB以外の転写因子であっても良く、たとえば、STAT(Signal Transducer and Activator of Transcription)、NFAT(nuclear factor of activated T cells)、HIF(hypoxia-inducible factor)であっても良い。また、被検物質は、mRNAやmicroRNAであっても良い。また、「被検物質に複数の蛍光物質を結合させる」とは、必ずしも細胞に含まれる同種の被検物質の各分子の全てが複数の蛍光物質と結合していなくてもよく、少なくとも一部の同種の被検物質の分子に複数の蛍光物質が特異的に結合していればよい。また、局在状況の判別は、被検物質が核に局在しているか細胞質に局在しているかの判別に限らない。たとえば、神経細胞のように突起形状を有している場合に、被検物質が突起の先端に局在しているのか否かを判別してもよい。
【0024】
図1に示すように、細胞情報取得方法は、ステップS1〜S4のステップを含む。以下には、オペレータが、蛍光画像を撮像可能なフローサイトメータと、撮像された画像を解析可能な処理装置を用いて、
図1の細胞情報取得方法を実行する場合について説明する。
図1の各ステップが、細胞情報取得装置における処理により実行されてもよい。細胞情報取得装置が
図1の各ステップを行う場合の構成および処理については、追って、
図5以降を参照して説明する。
【0025】
ステップS1において、オペレータは、被検者から採取した細胞に含まれるNF−κBを、互いに蛍光波長が異なる蛍光物質11、12で標識する。たとえば、
図2に示すように、細胞に含まれるNF−κBに、一次抗体と二次抗体を介して蛍光物質11、12が結合される。蛍光物質11、12は、複数の一次抗体によってNF−κBに結合されても良く、抗体の一部または抗体の全部によってNF−κBに結合されても良い。また、ステップS1において、オペレータは、細胞に含まれる核を、蛍光物質11、12とは異なる蛍光波長の蛍光物質13で標識する。
【0026】
蛍光物質11、12、13は、蛍光色素である。蛍光物質11、12、13は、それぞれ、波長λ1、λ2、λ3の光が照射されると互いに異なる波長帯域の蛍光を励起するよう構成されている。すなわち、蛍光物質11〜13から蛍光を励起させるための光の波長は、互いに異なるよう設定されている。こうして、ステップS1により試料が調製される。なお、被検物質がmRNAやmicroRNAの場合、被検物質には、核酸プローブを介して蛍光物質が結合される。
【0027】
ステップS2において、オペレータは、フローサイトメータを駆動させて、蛍光物質11〜13で標識された細胞を含む試料をフローセルに流し、フローセルを流れる細胞に波長λ1〜λ3の光を照射して、蛍光物質11〜13から蛍光を生じさせる。
【0028】
図2に示すように、波長λ1〜λ3のレーザ光が細胞に照射されると、蛍光物質11〜13から、それぞれ異なる波長帯域の蛍光が生じる。フィルタ部材21は、蛍光物質11から生じた波長帯域B1の蛍光を通し、波長帯域B1以外の光を遮断する。フィルタ部材21によって、蛍光物質11から生じた波長帯域B1の蛍光が分離される。フィルタ部材22は、蛍光物質12から生じた波長帯域B2の蛍光を通し、波長帯域B2以外の光を遮断する。フィルタ部材22によって、蛍光物質12から生じた波長帯域B2の蛍光が分離される。フィルタ部材23は、蛍光物質13から生じた波長帯域B3の蛍光を通し、波長帯域B3以外の光を遮断する。フィルタ部材23によって、蛍光物質13から生じた波長帯域B3の蛍光が分離される。
【0029】
ここで、波長λ1のレーザ光は高パワーで細胞に照射され、波長λ2のレーザ光は低パワーで細胞に照射される。波長λ1のレーザ光が高パワーで細胞に照射されることにより、フィルタ部材21を通過した波長帯域B1の蛍光は高強度となる。波長λ2のレーザ光が低パワーで細胞に照射されることにより、フィルタ部材22を通過した波長帯域B2の蛍光は低強度となる。
【0030】
ステップS3において、処理装置は、蛍光物質11〜13から生じた蛍光に基づいて、細胞ごとに3つの蛍光情報を取得する。フローサイトメータは、フィルタ部材21〜23により分離された波長帯域B1〜B3の蛍光を、それぞれ、撮像素子により構成された受光部に結像させて、各蛍光に基づく画像を取得するための構成を備えている。処理装置は、フローサイトメータの受光部が出力する撮像信号に基づいて、蛍光情報として、波長帯域B1の高強度の蛍光に基づく画像と、波長帯域B2の低強度の蛍光に基づく画像と、波長帯域B3の蛍光に基づく画像とを取得する。
【0031】
波長帯域B1〜B3の蛍光は、3つの受光部により、それぞれ個別に撮像されても良く、1つの受光部により撮像されても良い。波長帯域B1〜B3の蛍光が1つの受光部により撮像される場合、波長帯域B1〜B3の蛍光が受光部の受光面上で異なる領域に結像するよう光学系が構成される。
【0032】
図3に示すように、NF−κBが核に局在する細胞の場合、ステップS3において、たとえば画像31、32が取得される。画像31は、波長帯域B1の高強度の蛍光に基づく画像であり、画像32は、波長帯域B2の低強度の蛍光に基づく画像である。画像31、32には、核が存在する領域33が設定される。領域33は、画像31、32と同時に生成された波長帯域B3の蛍光、すなわち、核から生じた蛍光に基づく画像から取得される。
【0033】
NF−κBが細胞質に局在する細胞の場合、ステップS3において、たとえば画像41、42が取得される。画像41は、波長帯域B1の高強度の蛍光に基づく画像であり、画像42は、波長帯域B2の低強度の蛍光に基づく画像である。画像41、42にも、核が存在する領域43が設定される。領域43は、画像41、42と同時に生成された波長帯域B3の蛍光に基づく画像から取得される。
【0034】
NF−κBの発現量が少ない細胞の場合、画像31によれば、蛍光の強度が適正であり核と細胞質の間で蛍光強度に差がでているため、NF−κBが核の領域33に局在することを判別できる。他方、画像32によれば、蛍光の強度が低すぎるため、NF−κBが核の領域33に局在することを判別できない。一方、NF−κBの発現量が多い細胞の場合、画像41によれば、蛍光の強度が高すぎるため、核と細胞質の間で蛍光強度に差のでない状態となっている。このため、NF−κBが、核の領域43と、核の領域43よりも広い細胞質の領域のどちらに局在するかを判別できない。他方、画像42によれば、蛍光の強度が適正であり核と細胞質の間で強度に差が生じているため、NF−κBが核の領域43よりも広い細胞質の領域に局在することを判別できる。
【0035】
NF−κBが細胞質に局在する場合、NF−κBは、核を取り囲むように細胞内に分布する。すなわち、撮像方向に細胞を見たとき、核の手前にもNF−κBが分布する。このため、高強度の蛍光に基づく画像41では、核の手前に分布するNF−κBにより核の領域にも強い蛍光が生じている。このため、画像41では、NF−κBが核に局在しているか細胞質に局在しているかを適正に判別できなくなる傾向がある。これに対し、低強度の蛍光に基づく画像42では、核の手前に分布するNF−κBにより核の領域にも蛍光が生じるものの、この蛍光の強度は低い。このため、画像41では、NF−κBが細胞質に局在している場合であっても、局在状況を適正に判別できる。
【0036】
また、NF−κBが核に局在する場合、NF−κBは、一部が細胞質に分布するものの大半は核内に分布する。このため、高強度の蛍光に基づく画像31では、核内に分布するNF−κBから強い蛍光が生じ、NF−κBが核に局在することを適正に判別できる。他方、低強度の蛍光に基づく画像32では、核内に分布するNF−κBからの蛍光が弱すぎるため、NF−κBが核に局在しているか細胞質に局在しているかを適正に判別できない傾向がある。
【0037】
このように、細胞内における被検物質であるNF−κBの量と分布によって、NF−κBの局在を判別するための適正強度が異なる。
【0038】
したがって、波長λ1のレーザ光のパワーは、NF−κBが核に局在する細胞において、画像31に示すようにNF−κBが核に局在することを適正に判別できるよう設定される。波長λ2のレーザ光のパワーは、NF−κBが細胞質に局在する細胞において、画像42に示すようにNF−κBが細胞質に局在することを適正に判別できるよう設定される。これにより、判別対象となる細胞において、NF−κBが核と細胞質のどちらに局在していたとしても、2つの画像の少なくとも何れか一方を用いてNF−κBの局在を判別できるようになる。
【0039】
図1に戻り、ステップS4において、オペレータは、波長帯域B1の高強度の蛍光に基づく画像と、波長帯域B2の低強度の蛍光に基づく画像を参照して、被検物質であるNF−κBの分布状況を判別する。具体的には、オペレータは、波長帯域B1の高強度の蛍光に基づく画像と、波長帯域B2の低強度の蛍光に基づく画像のうち、NF−κBの局在位置が判別可能な画像を選択し、その画像に基づいて、当該細胞においてNF−κBが核と細胞質の何れに局在しているか、すなわち局在状況を判別する。局在状況に代えて、NF−κBがどの位置に分布するか、たとえば細胞内における分布範囲等が判別されても良い。
【0040】
上記のように、実施形態1では、NF−κBを標識した蛍光物質11、12から生じる2つの蛍光を調整することにより、高強度の蛍光に基づく画像と低強度の蛍光に基づく画像のうち、いずれか一方が適正にNF−κBの局在を判定できる状態となっている。よって、オペレータは、2つの画像に基づいて、細胞における分布が多様なNF−κBを精度良く解析できる。具体的には、細胞におけるNF−κBの局在状況、すなわちNF−κBが核と細胞質のいずれに局在しているかを精度良く判別できる。
【0041】
また、実施形態1において、NF−κBが核に局在する場合でも、NF−κBの量が多いために、画像31の蛍光の強度が高すぎる状態となり、画像32の蛍光の強度が適正な状態となることも考えられる。この場合でも、蛍光の強度が適正な画像32を用いることにより、NF−κBが核に局在することを判別できる。また、NF−κBが細胞質に局在する場合でも、NF−κBの量が少ないために、画像41の蛍光の強度が適正な状態となり、画像42の蛍光の強度が低すぎる状態となることも考えられる。この場合でも、蛍光の強度が適正な画像41を用いることにより、NF−κBが細胞質に局在することを判別できる。このように実施形態1によれば、2つの画像に基づいて、NF−κBの量にかかわらず、細胞におけるNF−κBの局在状況を精度良く判別できる。
【0042】
ここで、血管内皮細胞は、血管の内壁から剥離して血液中に流れ込む。血管内皮細胞の剥離は、炎症による刺激の他、圧迫等による圧力の変化によっても生じる。炎症による刺激によって剥離した血管内皮細胞では、NF−κBが核に局在する傾向にあり、炎症による刺激以外の刺激によって剥離した血管内皮細胞では、NF−κBが核に局在しない傾向にある。実施形態1によれば、上記のようにNF−κBの局在を精度良く判別できるため、これらの剥離原因のうち炎症による刺激によって生じた剥離を、シグナル分子であるNF−κBが核に局在しているか否かによって判定でき、血管内皮細胞の活性化の有無を判定できる。これにより、たとえば、血管内皮細胞の剥離が採血時の圧迫により生じたものか、疾病等を要因として生じたものか判断することができ臨床的意義がある。
【0043】
波長λ1、λ2とは異なる波長の中パワーのレーザ光により、中強度の蛍光の画像が取得されても良い。すなわち、NF−κBを互いに蛍光波長が異なる3つの蛍光物質で標識し、細胞に3つのレーザ光を照射して3つの蛍光物質から強度が異なる蛍光を生じさせて、各蛍光に基づく画像を取得しても良い。こうすると、蛍光の強度が異なる3つの画像から最も適正な画像を用いることにより、さらに精度良くNF−κBの局在を判別できる。被検物資から生じさせる蛍光の強度は、4段階以上であってもよく、1つの細胞について4つ以上の強度の蛍光に基づく4つ以上の画像を取得してもよい。
【0044】
さらに、ステップS4において、オペレータは、上記のように判別した細胞ごとの局在状況に基づいて、試料に含まれる細胞のうち、NF−κBが特定部位に局在する細胞の割合を取得する。具体的には、NF−κBが核に局在すると判別した細胞の数をN1とし、NF−κBが細胞質に局在すると判別した細胞の数をN2とすると、オペレータは、以下の式によって、核局在率と細胞質局在率を取得する。なお、ステップS4において、オペレータは、核局在率と細胞質局在率に代えて、核局在数と細胞質局在数を取得しても良い。
【0045】
核局在率={N1/(N1+N2)}×100
細胞質局在率={N2/(N1+N2)}×100
【0046】
ステップS2では、上述したようにフローサイトメータを用いて各蛍光の画像が取得されたが、これに限らず、顕微鏡を用いて、各蛍光の画像が蛍光情報として取得されてもよい。すなわち、顕微鏡により、蛍光物質11から生じた高強度の蛍光画像と、蛍光物質12から生じた低強度の蛍光画像と、蛍光物質13から生じた核に対応する画像とが、取得されても良い。
【0047】
<実施形態1の検証>
次に、発明者が行った実施形態1の検証について説明する。
【0048】
1.準備
細胞として、ヒト心臓微小血管内皮細胞(HMVEC-C)(Lonza CatNo.CC-7030, Lot No.0000296500 (P4))を用意した。一次抗体として、NF−κB p65 (D14E12) XP Rabbit mAb(Cell Signaling Technologies #8242S)を用意した。二次抗体として、Goat anti-Rabbit IgG (H+L) Secondary Antibody, Alexa Fluor 647 conjugate(Life technologies A-21245)、Goat anti-Rabbit IgG (H+L) Secondary Antibody, Alexa Fluor 488 conjugate(Life technologies A-11008)を用意した。二次抗体には、蛍光色素として、Alexa Fluor 647、Alexa Fluor 488が結合している。核染色色素として、Cellstain Hoechst 33342 solution(DOjinDO H342)を用意した。この他、EGM-2MV Medium(Lonza Cat No.CC-3202)、EGM-2MV SingleQuots Kit(Lonza Cat No. CC-3202)、PBS pH7.4(GIBCO Cat No.10010-023)、BSA(LAMPIRE Cat No. 7500805)、PFA(WAKO Cat No.160-16061)、TritonX100(ナカライテスク CatNo.35501-15)を用意した。
【0049】
2.試薬調製
500mLのEGM-2MV MediumにEGM-2MV SingleQuots KitのFBS以外の試薬を添加し、100mLを滅菌ボトルへ移し、無血清培地を作製した。無血清培地作製の残量(400mL)に、SingleQuots KitのFBSを20mL添加して、培養培地を作製した。パラホルムアルデヒドを終濃度8% w/vとなるようにpH12のPBSにて溶解した後に、pH7.4に調整した。PBSに1.5gのBSAを加えて溶解させ50mLにメスアップし、3% BSA/PBSを調製した。PBSに0.5gのBSAを加えて溶解させ50mLにメスアップし、1% BSA/PBSを調製した。TritonX100を終濃度0.1% w/vとなるようにPBSにて調製した。
【0050】
3.手順
HMVEC-Cは、メーカー推奨プロトコルに準じてEGM-2MV培地にて培養した。購入後から継代回数6回以内の細胞を本検証に用いた。培養培地は開封後の使用期限を3週間とした。TNF-α刺激培養は、約70%コンフルエントのHMVEC-C細胞の培養上清を除き、終濃度25ng/mLとなるようRecombinant Human TNF-alphaを添加したEGM-2MV培地を加え、37℃ CO
2インキュベーター内で1時間静置した。3mL程度残して電動ピペッターで培地を除去し、スクレーパーにて細胞を剥離した。回収した懸濁液と等量の8% PFA/PBSを加え、室温で15分反応させた。室温下、1000rpmで3分間遠心分離した。細胞ペレットを1mLのPBSで2回洗浄した。上清を除去し、0.1% Triton X-100/PBSを1mL加えて、室温15分反応させた。室温下、1000rpmで3分間遠心分離した。1mLの1% BSA/PBSで2回洗浄した。上清を除去し、3% BSA/PBSを1mL加えて、室温で30分静置した。3% BSA/PBSで1/1600とした400μLの一次抗体を添加した。室温で1時間反応させた。室温下、1000rpmで3分間遠心分離した。1mLの1% BSA/PBSで洗浄した。3% BSA/PBSで1/1000とした400μLの二次抗体を添加した。室温で30分反応させた。1mLの1% BSA/PBSで2回洗浄した。上清を除去し、1% BSA/PBSを50μL添加した。
【0051】
4.フローサイトメータによる検出
蛍光画像を取得可能なフローサイトメータとして、ImageStreamX Mark II Imaging Flow Cytometer(Merck Millipore)を用いた。このフローサイトメータのフローセルに上記3に沿って調製した試料を流し、フローセルを流れる試料に、波長488nm、647nm、405nmのレーザ光を照射した。波長488nm、647nm、405nmのレーザ光は、上記波長λ1、λ2、λ3のレーザ光に対応する。波長488nm、647nm、405nmのレーザ光の出射パワーは、それぞれ、55mW、10mW、120mWとした。波長488nm、647nmのレーザ光がNF−κBを標識する2種類の蛍光色素に照射されることにより、それぞれ、高強度の蛍光と低強度の蛍光が生じた。波長405nmのレーザ光が核染色色素に照射されることにより蛍光が生じた。
【0052】
上記フローサイトメータにおいて、波長488nmのレーザ光により生じた蛍光は、透過波長帯域505nm〜560nmのフィルタ部材を介して撮像され、高強度の蛍光画像が取得された。波長647nmのレーザ光により生じた蛍光は、透過波長帯域642nm〜740nmのフィルタ部材を介して撮像され、低強度の蛍光画像が取得された。波長405nmのレーザ光により生じた蛍光は、透過波長帯域430nm〜505nmのフィルタ部材を介して撮像され、核に対応する蛍光画像が取得された。また、フローセルを流れる試料に、波長が430nm〜480nmの間に設定されたレーザ光を照射した。このレーザ光が細胞を透過した光は、透過波長帯域430nm〜480nmのフィルタ部材を介して撮像され、明視野画像が取得された。なお、上記フローサイトメータでは、対象となる波長帯域の光が適正に受光部に入射するよう、フィルタ部材等により不要な波長帯域の光が除去されている。なお、本検証においては明視野画像を取得したがこれに限られず、暗視野画像を取得してもよい。
【0053】
図4(a)を参照して、上記検出により取得された画像について説明する。
【0054】
「明視野」は、細胞の明視野画像を示す。「高強度の蛍光」と「低強度の蛍光」は、それぞれ、NF−κBを標識した蛍光色素から生じた高強度の蛍光に基づく画像と、NF−κBを標識した蛍光色素から生じた低強度の蛍光に基づく画像である。「核からの蛍光」は、核を染色した核染色用色素から生じた蛍光に基づく画像である。「合成」は、左側の4つの画像を合成した画像である。横に並ぶ5つの画像は、1つの細胞から取得された画像である。「高強度の蛍光」、「核からの蛍光」、「低強度の蛍光」、および「合成」が示す画像は、便宜上、取得されたカラー画像をグレースケール化したものである。「高強度の蛍光」、「核からの蛍光」、および「低強度の蛍光」が示す画像において、白い部分は蛍光の強度が強いことを示す。
【0055】
上段に示す細胞の場合、低強度の蛍光に基づく画像は強度が低すぎるため、NF−κBの局在を判別するのは困難である。他方、高強度の蛍光に基づく画像は強度が適正であるため、NF−κBが核に局在していると判別できる。下段に示す細胞の場合、高強度の蛍光に基づく画像は強度が高すぎるため、NF−κBの局在を判別するのは困難である。他方、低強度の蛍光に基づく画像は強度が適正であるため、NF−κBが細胞質に局在していると判別できる。
【0056】
5.核局在率の算出
取得された画像を目視することにより、細胞ごとにNF−κBの局在を判別した。この判別は、上記ステップS4と同様に行われた。すなわち、核からの蛍光画像に基づいて核の領域を設定し、核の領域以外の領域を細胞質の領域とした。そして、核の蛍光強度が細胞質の蛍光強度の約2倍以上と考えられる場合、この細胞においてNF−κBが核に局在していると判別し、核の蛍光強度が細胞質の蛍光強度の約2倍未満と考えられる場合、この細胞においてNF−κBが細胞質に局在していると判別した。
【0057】
図4(b)を参照して、上記フローサイトメータで識別された131個の細胞について、NF−κBの局在を判別した結果について説明する。
【0058】
核に局在していると判別できた細胞の数は44であり、細胞質に局在していると判別できた細胞の数は87であった。局在を判別できなかった細胞の数は0であった。このときの核局在率は、44/131=34%であった。
【0059】
ここで、高強度の蛍光画像のみに基づいて局在を判別した比較例1と、低強度の蛍光画像のみに基づいて局在を判別した比較例2について説明する。比較例1の場合、核に局在していると判別できた細胞の数は42であり、細胞質に局在していると判別できた細胞の数は10であった。蛍光の強度が高すぎたために局在を判別できなかった細胞の数は79であった。比較例1の核局在率は81%であった。比較例2の場合、核に局在していると判別できた細胞の数は16であり、細胞質に局在していると判別できた細胞の数は84であった。蛍光強度が低すぎたために局在を判別できなかった細胞の数は31であった。比較例2の核局在率は16%であった。
【0060】
以上のように、本検証によれば、実施形態1のように強度の異なる2つの蛍光画像に基づいて局在を判別する場合、比較例1、2の場合に判別不可となった細胞についてもNF−κBの局在を判別できることが分かる。また、実施形態1のように局在を判別する場合、判別不可の細胞が少ないことから、細胞におけるNF−κBの局在を精度良く判別できることが分かる。したがって、実施形態1によれば、判別不可の細胞の数を低く抑えて、NF−κBの局在を精度良く判別できる。これにより、たとえば、被検者から採取した細胞が少ない場合でも、判別できる細胞を確保しながら、精度良くNF−κBの局在を判別できる。
【0061】
実施形態1では、被検物質の分布状況の判別として、NF−κBの局在状況を判別する例を示したが、被検物質の分子の量が変化する場合には、この分子の量を判別しても良い。この場合、オペレータは、分子を蛍光物質11、12で標識し、処理装置は、蛍光物質11、12から生じた強度の異なる2つの蛍光に基づいて画像を取得する。オペレータは、分子の量が多い場合、低強度の蛍光画像を用いて量を判別し、分子の量が少ない場合、高強度の蛍光画像を用いて量を判別する。これにより、精度良く分子の量を判別できる。
【0062】
<実施形態1の装置構成>
実施形態1の細胞情報取得方法に基づいて、細胞画像を撮像し、細胞における被検物質の局在を判別するための細胞情報取得装置の構成について説明する。
【0063】
図5に示すように、細胞情報取得装置100は、処理部110と、試料調製部120と、光学検出部130と、駆動部140と、表示部150と、入力部160と、記憶部170と、を備える。
【0064】
処理部110は、マイクロコンピュータおよびCPU等により構成される。記憶部170は、RAM、ROM、ハードディスク等により構成される。記憶部170は、処理部110によって実行される処理プログラムや、画像などの各種データを記憶する。処理部110は、細胞情報取得装置100の各部との間で信号の送受信を行い、各部を制御する。処理部110には、記憶部170に記憶されたプログラムにより、取得部111と解析部112の機能が付与される。
【0065】
試料調製部120は、
図1のステップS1に従って、細胞と試薬を混合することにより、試料を調製する。試料の調製はオペレータによって行われても良い。この場合、試料調製部120は細胞情報取得装置100から省略される。光学検出部130は、フローサイトメータである。光学検出部130は、試料に含まれる細胞に光を照射して、生じた蛍光を撮像する。光学検出部130の構成については、追って
図6を参照して説明する。駆動部140は、後述する光学検出部130の光源301〜304を駆動する。
【0066】
表示部150は、ディスプレイにより構成される。表示部150は、細胞ごとに取得された画像と、細胞ごとに判別されたNF−κBの局在と、NF−κBが核に局在する細胞数と、NF−κBが細胞質に局在する細胞数と、核局在率と、細胞質局在率などを表示する。入力部160は、マウスおよびキーボードにより構成される。オペレータは、入力部160を介して細胞情報取得装置100に対して指示を入力する。
【0067】
図6に示すように、光学検出部130は、フローセル200と、光照射部300と、集光部400と、受光部501〜504と、を備える。フローセル200には流路210が形成されており、流路210には、試料調製部120により調製された試料が流される。
図6には、便宜上、互いに直交するXYZ軸が図示されている。
【0068】
光照射部300は、フローセル200を流れる試料に含まれる細胞に光を照射して、
図2に示す蛍光物質11、12から強度が異なる蛍光を生じさせる。また、光照射部300は、細胞に光を照射して
図2に示す蛍光物質13から蛍光を生じさせ、さらに、明視野用の光を細胞に照射する。光照射部300は、光源301〜304と、集光レンズ311〜314と、ダイクロイックミラー321、322と、を備える。
【0069】
光源301〜304は、半導体レーザ光源により構成される。光源301〜304から出射される光は、それぞれ、波長λ1〜λ4のレーザ光である。波長λ1〜λ4は、それぞれ、たとえば488nm、647nm、405nm、785nmである。波長λ1〜λ3は、
図2に示したように、蛍光物質11〜13から蛍光を励起させるための光である。集光レンズ311〜314は、それぞれ、光源301〜304から出射された光を集光する。ダイクロイックミラー321は、波長λ1の光を透過し、波長λ2の光を反射する。ダイクロイックミラー322は、波長λ1、λ2の光を透過し、波長λ3の光を反射する。
【0070】
こうして、光照射部300は、光源301〜303から出射された波長λ1〜λ3の光を互いに重ねた状態で、流路210を流れる試料に含まれる細胞に照射する。また、光照射部300は、波長λ1〜λ3が照射される流路210の位置に、波長λ4の光を照射する。フローセル200を流れる試料に波長λ1〜λ3の光が照射されると、
図2を参照して説明したように、蛍光物質11〜13から異なる波長帯域の蛍光が生じる。フローセル200を流れる試料に波長λ4の光が照射されると、この光は細胞を透過する。細胞を透過した波長λ4の光は、明視野画像の取得に用いられる。
【0071】
ここで、光源301は、波長λ1の光を高パワーで出射し、光源302は、波長λ2の光を低パワーで出射する。光源301、302の出射パワーは、
図5に示す駆動部140により制御される。これにより、
図2を参照して説明したように、蛍光物質11から生じる蛍光は高強度となり、蛍光物質12から生じる蛍光は低強度となる。なお、この実施形態1および後述する実施形態2、3では、光源301および302の出射パワーを調整しなくても良い。同一出射パワーであっても得られる蛍光強度に差がある蛍光標識を選択することにより、蛍光物質11から生じる蛍光は高強度となり、蛍光物質12から生じる蛍光は低強度となる。
【0072】
集光部400は、波長λ1〜λ3の光の照射によりフローセル200から生じた蛍光を集光する。集光部400は、蛍光物質11〜13から生じた蛍光を、それぞれ、受光部501〜503に集光させる。また、集光部400は、フローセル200から生じた波長λ4の光を受光部504に集光させる。集光部400は、集光レンズ401と、フィルタ部材411〜413、421〜424と、集光レンズ431〜434と、を備える。
【0073】
集光レンズ401は、フローセル200を流れる試料から生じた蛍光と、フローセル200を流れる試料を透過した波長λ4の光とを集光する。フィルタ部材411〜413は、ダイクロイックミラーにより構成される。
【0074】
フィルタ部材411は、集光レンズ401によって集光された光のうち、波長帯域B1の光を反射し、波長帯域B1以外の光を透過する。フィルタ部材421は、フィルタ部材411によって反射された光のうち、波長帯域B1の光のみを透過して、波長帯域B1以外の光を遮断する。このように、フィルタ部材411、421は、フローセル200から生じた光のうち、波長帯域B1の蛍光のみを分離可能に構成される。同様に、フィルタ部材412、422は、フローセル200から生じた光のうち、波長帯域B2の蛍光のみを分離可能に構成され、フィルタ部材413、423は、フローセル200から生じた光のうち、波長帯域B3の蛍光のみを分離可能に構成される。フィルタ部材424は、フィルタ部材411〜413を透過した光のうち、波長λ4の光を透過し、波長λ4以外の光を遮断する。
【0075】
受光部501は、集光レンズ431によって集光された波長帯域B1の光を受光して、受光した光に基づく画像情報を撮像信号として出力する。受光部502は、集光レンズ432によって集光された波長帯域B2の光を受光して、受光した光に基づく画像情報を撮像信号として出力する。受光部503は、集光レンズ433によって集光された波長帯域B3の光を受光して、受光した光に基づく画像情報を撮像信号として出力する。受光部504は、集光レンズ434によって集光された波長λ4の光を受光して、受光した光に基づく画像情報を撮像信号として出力する。受光部501〜504は、たとえばカラーCCDなどの撮像素子により構成される。
【0076】
集光部400は、波長帯域B1〜B3の光と波長λ4の光を、それぞれ受光部501〜504に集光させたが、1つの受光部に結像しても良い。この場合、波長帯域B1〜B3の光と波長λ4の光が、受光部の受光面上で異なる領域に結像するよう光学検出部130が構成される。
【0077】
図6に示す構成では、波長帯域B1の光を分離するために複数のフィルタ部材が用いられたが、
図7に示すように、フローセル200から生じた光が、1つのフィルタ部材によって分離されても良い。
図7に示すように、集光部400は、集光レンズ441〜444と、フィルタ部材451〜454と、集光レンズ461〜464と、を備える。波長帯域B1〜B3の光は、それぞれ、フィルタ部材451〜453により分離され、波長λ4の光はフィルタ部材454により分離される。
【0078】
次に、
図8のフローチャートを参照して、
図1のステップS4の処理が細胞情報取得装置100により行われる場合について説明する。
【0079】
図8に示すように、ステップS11において、処理部110は、試料調製部120を駆動して、
図1のステップS1と同様、細胞に含まれるNF−κBを蛍光物質11、12で標識し、細胞に含まれる核を蛍光物質13で標識して、試料を調製する。ステップS12において、処理部110は、フローセル200に試料を流し、光源301〜304を駆動部140により駆動させ、フローセル200を流れる細胞に光を照射する。ステップS13において、処理部110は、受光部501〜503により波長帯域B1〜B3の蛍光を撮像し、受光部504により波長λ4の光を撮像する。そして、処理部110の取得部111は、受光部501〜504が出力する撮像信号に基づいて画像を取得する。
【0080】
ステップS14において、処理部110の解析部112は、高強度と低強度の蛍光画像から、局在の判別ができる画像を選択する。具体的には、解析部112は、高強度の蛍光画像と低強度の蛍光画像のうち、画像から取得される蛍光の強度、たとえば画像全体の輝度が、所定の範囲内にある画像を選択する。これにより、蛍光の強度が極端に大きい画像や、蛍光の強度が極端に小さい画像は、
図3の画像32や画像41と同様、NF−κBの局在を判別できないため、判別に用いる画像から除かれる。
【0081】
また、解析部112は、高強度と低強度の蛍光画像のうち、細胞の解析対象部位における蛍光強度と、解析対象部位以外の細胞における蛍光強度との差が、所定の閾値より大きい画像を選択する。実施形態1において、解析対象部位は核である。すなわち、核内の蛍光強度と核外の細胞の蛍光強度との差が、所定の閾値より大きい画像が選択される。これにより、核内と核外の蛍光強度の差が小さい画像は、
図3の画像32や画像41と同様、NF−κBの局在を判別できないため、判別に用いる画像から除かれる。
【0082】
次に、ステップS15において、解析部112は、ステップS14で選択した画像を用いて、細胞ごとに、細胞におけるNF−κBの局在を判別する。すなわち、解析部112は、細胞の解析対象部位におけるNF−κBの局在量の、細胞全体におけるNF−κB
の量に対する割合を算出する。たとえば、解析部112は、ステップS14で選択された画像において、核の領域における蛍光の強度を、細胞全体の領域における蛍光強度で除算する。解析部112は、除算結果が2以上である場合に、NF−κBが核に局在していると判別し、除算結果が2より小さい場合に、NF−κBが細胞質に局在していると判別する。除算結果を判定する値は2に限らず、他の値でも良い。
【0083】
なお、ステップS14で2つの画像が選択された場合、ステップS15では、両方の画像について、上記のように除算結果が取得され局在が判別される。また、ステップS14で画像が選択されなかった場合、ステップS15において、この細胞の局在は「判別不可能」とされる。
【0084】
ステップS16において、解析部112は、処理を行った全ての細胞の判別結果に基づいて、上述した核局在数、細胞質局在数、核局在率、および細胞質局在率を算出する。ステップS17において、処理部110は、ステップS16で算出した数値と、細胞ごとに取得した画像と、細胞ごとの判別結果などを表示部150に表示する。具体的には、処理部110は、上記内容を含む画面161を表示部150に表示する。
【0085】
図9に示すように、画面161は、領域161a、161bを備える。領域161aは、核局在数、細胞質局在数、核局在率、および細胞質局在率を表示する。領域161bは、画像と、NF−κBの局在の判別結果とを表示する。領域161bにおいて、ステップS15で局在の判別に用いられた画像は、局在判別に用いられたことが分かるように実線で囲まれている。
【0086】
ステップS13で取得される蛍光情報は、時間とともに変化する蛍光強度を示す波形信号であっても良い。この場合、光学検出部130において、受光部501〜503として、それぞれ、フォトマルチプライヤなどの光検出器が配置される。3つの光検出器は、波長帯域B1の高強度の蛍光と、波長帯域B2の低強度の蛍光と、波長帯域B3の蛍光を受光し、それぞれ、各蛍光の強度を示す波形信号を出力する。
【0087】
図10に示すように、解析部112は、光検出器が出力する波形信号に基づいて、NF−κBの発現量が少ない細胞の場合、たとえばグラフ51、52を取得し、NF−κBの発現量が多い細胞の場合、たとえばグラフ61、62を取得する。また、解析部112は、光検出器が出力する波形信号に基づいて、核に応じたグラフを取得する。解析部112は、グラフ51、52と同時に取得された核のグラフから、グラフ51、52において核に対応する波形の幅W1を設定し、グラフ61、62と同時に取得された核のグラフから、グラフ61、62において核に対応する波形の幅W2を設定する。
【0088】
グラフ51によれば、蛍光のピーク値が閾値Sh1、Sh2の間にあり、核に対応する幅W1に波形のピークが存在するため、解析部112は、NF−κBが核に局在すると判別できる。他方、グラフ52によれば、蛍光のピーク値が閾値Sh1より小さいため、解析部112は、NF−κBの局在を判別できない。グラフ61によれば、蛍光のピーク値が閾値Sh2より大きいため、解析部112は、NF−κBの局在を判別できない。他方、グラフ62によれば、蛍光のピーク値が閾値Sh1、Sh2の間にあり、核に対応する幅W2に波形の窪みが存在するため、解析部112は、NF−κBが細胞質に局在すると判別できる。したがって、この場合も、
図3に示すように画像を用いる場合と同様、強度の異なる2つの蛍光により、NF−κBの局在を精度良く判別できる。
【0089】
<実施形態2>
実施形態2では、2つの光を用いるのではなく、波長λ1の光のみを用いて互いに異なる強度の蛍光を取得する。実施形態2では、実施形態1と比較して、
図1に示す細胞情報取得方法のステップのうち、ステップS1、S2における一部の手順のみが異なる。以下、実施形態1とは異なる手順について説明する。
【0090】
ステップS1において、
図11に示すように、細胞に含まれるNF−κBが、互いに蛍光波長が異なる蛍光物質14、15で標識される。蛍光物質14、15は、蛍光色素である。蛍光物質14は、波長λ1の光が照射されると、実施形態1の蛍光物質11と同様の波長帯域の蛍光を励起する。蛍光物質15は、波長λ1の光が照射されると、
図2の蛍光物質12と同様の波長帯域の蛍光を励起する。すなわち、蛍光物質14、15は、励起用の光の波長が実質的に同じである。
【0091】
ステップS2において、蛍光物質14、15、13で標識された細胞を含む試料がフローセルに流され、フローセルを流れる細胞に波長λ1、λ3の光が照射され、蛍光物質14、15、13から蛍光が生じさせられる。蛍光物質14、15から生じた蛍光は、それぞれフィルタ部材21、22に通されることにより、波長帯域B1、B2の蛍光となる。このとき、波長帯域B1の蛍光が高強度となり、波長帯域B2の蛍光が低強度となるよう、蛍光物質14、15が構成されている。
【0092】
実施形態2の装置構成では、実施形態1と比較して、
図6に示す光学検出部130のうち、光源302と、集光レンズ312と、ダイクロイックミラー321が省略される。
【0093】
実施形態2においても、実施形態1と同様、波長帯域B1の高強度の蛍光と、波長帯域B2の低強度の蛍光とを生じさせ、高強度の蛍光画像と低強度の蛍光画像を取得できる。したがって、実施形態1と同様、高強度の蛍光画像と低強度の蛍光画像に基づいて、細胞における分布および量が多様なNF−κBを、精度良く解析できる。
【0094】
<実施形態3>
実施形態3では、2つの光と2つの蛍光物質を用いるのではなく、1つの波長λ1の光と1つの蛍光物質11を用いて、互いに異なる強度の蛍光を取得する。実施形態3では、実施形態1と比較して、
図1に示す細胞情報取得方法のステップのうち、ステップS1、S2における一部の手順のみが異なる。以下、実施形態1とは異なる手順について説明する。
【0095】
ステップS1において、
図12に示すように、細胞に含まれるNF−κBが、実施形態1と同様の蛍光物質11のみで標識される。このとき、蛍光物質11は、1つの抗体を介してNF−κBに結合されても良い。ステップS2において、蛍光物質11、13で標識された細胞を含む試料がフローセルに流され、フローセルを流れる細胞に波長λ1、λ3の光が照射され、蛍光物質11、13から蛍光が生じさせられる。
【0096】
図12に示すように、蛍光物質11から生じた蛍光を2つに分割し、一方を実施形態1と同様のフィルタ部材21に通し、他方を実施形態1と同様のフィルタ部材22に通す。フィルタ部材21は、波長帯域B1の光のみを透過させ、フィルタ部材21は、波長帯域B4の光のみを透過させる。
図13に示すように、波長帯域B1は、たとえば、蛍光物質11から生じる蛍光の強度がピークとなる波長を含む。波長帯域B4は、たとえば、波長帯域B1よりも大きい波長帯域に設定され、かつ、波長帯域B1に重ならない波長帯域に設定される。これにより、
図12に示すように、フィルタ部材21を通過した波長帯域B1の蛍光は高強度となり、フィルタ部材22を通過した波長帯域B4の蛍光は低強度となる。
【0097】
なお、波長帯域B1は、必ずしも蛍光物質11から生じる蛍光の強度がピークとなる波長を含まなくても良い。波長帯域B4は、波長帯域B1よりも小さい波長帯域に設定されても良く、波長帯域B1と一部が重なっても良い。
【0098】
<実施形態3の検証>
次に、発明者が行った実施形態3の検証について説明する。
【0099】
1.準備
細胞として、ヒト心臓微小血管内皮細胞(HMVEC-C)(Lonza CatNo.CC-7030, Lot No.0000296500 (P4))を用意した。一次抗体として、NF−κB p65 (D14E12) XP Rabbit mAb(Cell Signaling Technologies #8242S)を用意した。二次抗体として、Goat anti-Rabbit IgG (H+L) Secondary Antibody, Alexa Fluor 647 conjugate(Life technologies A-21245)を用意した。二次抗体には、蛍光色素として、Alexa Fluor 647が結合している。この他、EGM-2MV Medium(Lonza Cat No.CC-3202)、EGM-2MV SingleQuots Kit(Lonza Cat No. CC-3202)、PBS pH7.4(GIBCO Cat No.10010-023)、BSA(LAMPIRE Cat No. 7500805)、PFA(WAKO Cat No.160-16061)、TritonX100(ナカライテスク CatNo.35501-15)を用意した。
【0100】
2.試薬調製
500mLのEGM-2MV MediumにEGM-2MV SingleQuots Kitを添加し、培養培地を作製した。パラホルムアルデヒドを終濃度8% w/vとなるようにpH12のPBSにて溶解した後に、pH7.4に調整した。PBSに1.5gのBSAを加えて溶解させ50mLにメスアップし、3% BSA/PBSを調製した。PBSに0.5gのBSAを加えて溶解させ50mLにメスアップし、1% BSA/PBSを調製した。TritonX100を終濃度0.1% w/vとなるようにPBSにて調製した。
【0101】
3.手順
HMVEC-Cは、メーカー推奨プロトコルに準じてEGM-2MV培地にて培養した。購入後から継代回数6回以内の細胞を本検証に用いた。培養培地は開封後の使用期限を3週間とした。TNF-α刺激培養は、約70%コンフルエントのHMVEC-C細胞の培養上清を除き、終濃度25ng/mLとなるようRecombinant Human TNF-alphaを添加したEGM-2MV培地を加え、37℃ CO
2インキュベーター内で1時間静置した。3mL程度残して電動ピペッターで培地を除去し、スクレーパーにて細胞を剥離した。回収した懸濁液と等量の8% PFA/PBSを加え、室温で15分反応させた。室温下、1000rpmで3分間遠心分離した。細胞ペレットを1mLのPBSで2回洗浄した。上清を除去し、0.1% Triton X-100/PBSを1mL加えて、室温15分反応させた。室温下、1000rpmで3分間遠心分離した。1mLの1% BSA/PBSで2回洗浄した。上清を除去し、3% BSA/PBSを1mL加えて、室温で30分静置した。3% BSA/PBSで1/1600とした400μLの一次抗体を添加した。室温で1時間反応させた。室温下、1000rpmで3分間遠心分離した。1mLの1% BSA/PBSで洗浄した。3% BSA/PBSで1/1000とした400μLの二次抗体を添加した。室温で30分反応させた。1mLの1% BSA/PBSで2回洗浄した。上清を除去し、1% BSA/PBSを50μL添加した。
【0102】
4.フローサイトメータによる検出
蛍光画像を取得可能なフローサイトメータとして、ImageStreamX Mark II Imaging Flow Cytometer(Merck Millipore)を用いた。このフローサイトメータのフローセルに上記3に沿って調製した試料を流し、フローセルを流れる試料に、波長647nmのレーザ光を照射した。波長647nmのレーザ光は、
図12に示す波長λ1のレーザ光に対応する。波長647nmのレーザ光の出射パワーは、10mWとした。波長647nmのレーザ光がNF−κBを標識する蛍光色素に照射されることにより蛍光が生じた。
【0103】
上記フローサイトメータにおいて、波長647nmのレーザ光により生じた蛍光は、透過波長帯域642nm〜740nmのフィルタ部材を介して撮像され、高強度の蛍光画像が取得された。また、波長647nmのレーザ光により生じた蛍光は、透過波長帯域740nm〜800nmのフィルタ部材を介して撮像され、低強度の蛍光画像が取得された。なお、上記フローサイトメータでは、対象となる波長帯域の光が適正に受光部に入射するよう、フィルタ部材等により不要な波長帯域の光が除去されている。
【0104】
図14(a)、(b)を参照して、上記検出により取得された画像について説明する。
【0105】
「高強度の蛍光」と「低強度の蛍光」は、それぞれ、NF−κBを標識した蛍光色素から生じた高強度の蛍光に基づく画像と、NF−κBを標識した蛍光色素から生じた低強度の蛍光に基づく画像である。
図14(a)、(b)において、横に並ぶ2つの画像は、1つの細胞から取得された画像である。各画像は、便宜上、取得されたカラー画像をグレースケール化したものである。各画像において、白い部分は蛍光の強度が強いことを示す。
【0106】
図14(a)に示す3つの細胞の場合、低強度の蛍光に基づく画像は強度が低すぎるため、NF−κBの局在を判別するのは困難である。他方、高強度の蛍光に基づく画像は強度が適正であるため、NF−κBが細胞質に局在していると判別できる。
図14(b)に示す3つの細胞の場合、高強度の蛍光に基づく画像は強度が高すぎるため、NF−κBの局在を判別するのは困難である。他方、低強度の蛍光に基づく画像は強度が適正であるため、NF−κBが細胞質に局在していると判別できる。
【0107】
以上のように、本検証によれば、実施形態3のように強度の異なる2つの蛍光画像に基づいて局在を判別する場合においても、NF−κBの局在を判別できることが分かる。このように、実施形態3によれば、1種類の蛍光色素から生じた蛍光を、異なる波長帯域の蛍光を通すフィルタ部材21、22に通して2つの蛍光画像を取得することにより、1つの細胞に対して一度の測定でNF−κBの局在を正しく取得できる。
【0108】
<実施形態3の装置構成>
図15に示すように、実施形態3の装置構成では、実施形態1と比較して、
図6に示す光学検出部130のうち、光源302と、集光レンズ312と、ダイクロイックミラー321が省略され、フィルタ部材412、422に代えて、それぞれフィルタ部材414、425が追加される。フィルタ部材414は、フィルタ部材411を透過した光のうち、波長帯域B4の光を反射し、波長帯域B4以外の光を透過する。フィルタ部材425は、フィルタ部材414によって反射された光のうち、波長帯域B4の光のみを透過し、波長帯域B4以外の光を遮断する。このように、フィルタ部材414、425は、フローセル200から生じた光のうち、波長帯域B4の蛍光のみを分離可能に構成される。受光部502は、波長帯域B4の低強度の蛍光を撮像する。
【0109】
実施形態3においても、実施形態1と同様、高強度の蛍光と低強度の蛍光とを別々に生じさせ、高強度の蛍光画像と低強度の蛍光画像を取得できる。したがって、実施形態1と同様、高強度の蛍光画像と低強度の蛍光画像に基づいて、細胞における分布および量が多様なNF−κBを、精度良く解析できる。
【0110】
<実施形態4>
実施形態4では、実施形態1と比較して、
図1に示す細胞情報取得方法のステップのうち、ステップS1、S2における一部の手順のみが異なる。以下、実施形態1とは異なる手順について説明する。
【0111】
ステップS1において、
図16に示すように、細胞に含まれるNF−κBが、実施形態1と同様の蛍光物質11のみで標識される。ステップS2において、蛍光物質11、13で標識された細胞を含む試料がフローセルに流され、フローセルを流れる細胞に波長λ1、λ3の光が照射され、蛍光物質11、13から蛍光が生じさせられる。このとき、波長λ1の光は、細胞に対して高パワーで照射されるため、フィルタ部材21を透過する波長帯域B1の蛍光は、実施形態1と同様に高強度となる。さらに、この細胞をフローセル内で移動させ、移動した細胞に波長λ1の光を照射して、蛍光物質11から蛍光を生じさせる。このとき、波長λ1の光は、細胞に対して低パワーで照射される。したがって、フィルタ部材21を透過する波長帯域B1の蛍光は、低強度となる。
【0112】
実施形態4の装置構成では、実施形態1と比較して、
図6に示す光学検出部130のうち、光源302と、集光レンズ312と、ダイクロイックミラー321と、フィルタ部材412、422と、集光レンズ432と、受光部502が省略される。また、
図17に示すように、実施形態3の装置構成では、実施形態1と比較して、光照射部300に、光源305と集光レンズ315が追加され、集光部400に、集光レンズ471と、フィルタ部材472と、集光レンズ473が追加される。また、実施形態3の装置構成では、実施形態1と比較して、受光部505が追加される。
【0113】
なお、
図17は、光学検出部130をXY平面に平行な方向に見た図となっている。
図17では、便宜上、光照射部300は、Y軸正方向に見た状態が図示されており、集光部400と受光部505は、X軸負方向に見た状態が図示されている。
【0114】
光源301から出射された波長λ1の光は、フローセル200の流路210において、位置211に照射される。光源305は、光源301と同様に構成され、光源301よりも低パワーで光を出射する。集光レンズ315は、光源305から出射された光を、流路210において位置211のZ軸正側に位置する位置212に集光する。集光レンズ471は、位置212から生じた蛍光を集光する。フィルタ部材472は、集光レンズ471によって集光された光のうち、波長帯域B1の光のみを透過する。受光部505は、集光レンズ473によって集光された波長帯域B1の低強度の光を受光して、受光した光に基づく画像情報を撮像信号として出力する。
【0115】
細胞が位置211から位置212に位置付けられるまでの時間Tは、あらかじめ取得される。これにより、ある細胞に基づく光が受光部501によって受光された後、時間Tが経過すると、同一の細胞に基づく光が受光部505によって受光されることになる。したがって、受光部501に基づいて取得される画像と、受光部505に基づいて取得される画像とを、同一の細胞から取得されたものとして対応付けることができる。
【0116】
実施形態4においても、実施形態1と同様、高強度の蛍光と低強度の蛍光とを別々に生じさせ、高強度の蛍光画像と低強度の蛍光画像を取得できる。したがって、実施形態1と同様、高強度の蛍光画像と低強度の蛍光画像に基づいて、細胞における分布および量が多様なNF−κBを、精度良く解析できる。
【0117】
<実施形態5>
実施形態5では、実施形態1と比較して、
図1に示す細胞情報取得方法のステップのうち、ステップS2における一部の手順のみが異なる。以下、実施形態1とは異なる手順について説明する。
【0118】
ステップS2において、
図18に示すように、蛍光物質11〜13で標識された細胞を含む試料がフローセルに流され、フローセルを流れる細胞に波長λ1〜λ3の光が照射され、蛍光物質11〜13から蛍光を生じさせられる。蛍光物質11、12から生じた蛍光は、合わせてフィルタ部材24に入射する。フィルタ部材24は、プリズムにより構成される。蛍光物質11、12から生じた蛍光は、波長帯域の違いからフィルタ部材24によって、波長帯域B1の蛍光と波長帯域B2の蛍光に分けられる。ここで、実施形態1と同様、波長λ1の光は、細胞に対して高パワーで照射され、波長λの光は、細胞に対して低パワーで照射される。これにより、実施形態1と同様、フィルタ部材21を透過する波長帯域B1の蛍光は、高強度となり、フィルタ部材22を透過する波長帯域B2の蛍光は、低強度となる。
【0119】
なお、蛍光物質11〜13から生じた蛍光が、合わせてフィルタ部材24に入射し、波長帯域の違いからフィルタ部材24によって、それぞれ波長帯域B1〜B3の蛍光に分けられても良い。ここでは、実施形態1の構成に対して用いる例を示したが、フィルタ部材24は、実施形態2〜4の構成において用いられても良い。
【0120】
図19に示すように、実施形態5の装置構成では、実施形態1と比較して、
図6に示す光学検出部130のうち、フィルタ部材411、412、421、422が省略され、集光部400に、フィルタ部材481が追加される。フィルタ部材481は、プリズムにより構成される。
【0121】
フローセル200を流れる試料から生じた蛍光は、フィルタ部材481に入射する。フィルタ部材481に入射した蛍光は、蛍光の波長に応じてフィルタ部材481から異なる角度で出射する。集光レンズ431と受光部501は、フィルタ部材481から出射する蛍光のうち、波長帯域B1の蛍光に対応した方向に配置されている。これにより、受光部501は、波長帯域B1の高強度の蛍光を撮像できる。集光レンズ432と受光部502は、フィルタ部材481から出射する蛍光のうち、波長帯域B2の蛍光に対応した方向に配置されている。これにより、受光部502は、波長帯域B2の低強度の蛍光を撮像できる。
【0122】
実施形態5においても、実施形態1と同様、高強度の蛍光と低強度の蛍光とを別々に生じさせ、高強度の蛍光画像と低強度の蛍光画像を取得できる。したがって、実施形態1と同様、高強度の蛍光画像と低強度の蛍光画像に基づいて、細胞における分布および量が多様なNF−κBを、精度良く解析できる。
【0123】
<実施形態6>
実施形態6では、細胞に含まれる被検物質に基質を接触させて蛍光物質を生じさせ、生じた蛍光物質に光を照射し、光の照射により蛍光物質から生じた蛍光に基づいて被検物質の局在状況を判別する。実施形態6では、被検物質は細胞質である。基質は、被検物質に触れると切断される切断部位を含み、切断部位が切断されると蛍光物質を生じる。より具体的には、基質は被検物質である細胞質に触れることで、細胞質中に存在する酵素により切断される。実施形態6では、細胞質を標識する蛍光物質からの蛍光に基づいて、細胞質の局在を判定する。なお、被検物質は、たとえば、細胞質中のタンパク質、細胞小器官、細胞膜等、細胞に含まれる細胞質以外の物質であってもよい。
【0124】
実施形態6では、実施形態3と比較して、
図1に示す細胞情報取得方法のステップのうち、ステップS1における一部の手順が異なる。以下、実施形態3とは異なる手順について説明する。
【0125】
ステップS1において、
図20に示すように、細胞と基質16aとが混合される。基質16aは、細胞質に含まれるエステラーゼで加水分解されると、蛍光物質16bを生じる物質である。細胞と基質16aとが混合されると、細胞膜を透過した基質16aは、細胞質と接触することにより、細胞質に含まれるエステラーゼで加水分解され、蛍光物質16bを生じる。こうして、細胞質が蛍光物質16bにより標識される。
【0126】
続いて、実施形態3と同様、ステップS2以降の処理が行われる。すなわち、ステップS2において、蛍光物質16bで標識された細胞を含む試料がフローセルに流され、
図20に示すように、フローセルを流れる細胞に波長λ1、λ3の光が照射され、それぞれ、蛍光物質16b、13から蛍光が生じさせられる。そして、
図20に示すように、蛍光物質16bから生じた蛍光を2つに分割し、一方をフィルタ部材21に通し、他方をフィルタ部材22に通す。これにより、実施形態3と同様、フィルタ部材21を透過した波長帯域B1の蛍光は高強度となり、フィルタ部材22を透過した波長帯域B4の蛍光は低強度となる。なお、実施形態6に基づく装置は、実施形態3と同様に構成される。
【0127】
実施形態6においても、実施形態3と同様、強度の異なる2つの蛍光を生じさせ、高強度の蛍光画像と低強度の蛍光画像を取得できる。したがって、高強度の蛍光画像と低強度の蛍光画像に基づいて、細胞質の局在を精度良く判別できる。このように、細胞質の局在を精度良く判別できると、細胞質の範囲を高精度に定義できるようになる。これにより、たとえば、細胞質の範囲を他の解析と組み合わせて、さらに詳細な解析を行うことができるようになる。また、たとえば、細胞質の範囲を、細胞等の研究に役立てることができるようになる。
【0128】
<実施形態6の検証>
次に、発明者が行った実施形態6の検証について説明する。
【0129】
1.準備
細胞として、ヒト心臓微小血管内皮細胞(HMVEC-C)(Lonza CatNo.CC-7030, Lot No.0000296500 (P4))を用意した。細胞質標識試薬として、Cell Explorer Fixable Live Cell Tracking Kit *Green Fluorescence*(コスモバイオ 22621)を用意した。細胞質標識試薬は、
図20に示す基質16aに対応する物質を含む。細胞質標識試薬は、疎水性を有している。細胞質標識試薬は、細胞膜を通過し、細胞内エステラーゼで加水分解されることで蛍光物質を生じる。ここで生じる蛍光物質は、
図20に示す蛍光物質16bに対応する。核染色色素として、Cellstain Hoechst 33342 solution(DOjinDO H342)を用意した。この他、EGM-2MV Medium(Lonza Cat No.CC-3202)、EGM-2MV SingleQuots Kit(Lonza Cat No. CC-3202)、PBS pH7.4(GIBCO Cat No.10010-023)、BSA(LAMPIRE Cat No. 7500805)、PFA(WAKO Cat No.160-16061)、TritonX100(ナカライテスク CatNo.35501-15)を用意した。
【0130】
2.試薬調製
500mLのEGM-2MV MediumにEGM-2MV SingleQuots Kitを添加し、培養培地を作製した。パラホルムアルデヒドを終濃度8% w/vとなるようにpH12のPBSにて溶解した後に、pH7.4に調整した。PBSに1.5gのBSAを加えて溶解させ50mLにメスアップし、3% BSA/PBSを調製した。PBSに0.5gのBSAを加えて溶解させ50mLにメスアップし、1% BSA/PBSを調製した。TritonX100を終濃度0.1% w/vとなるようにPBSにて調製した。Track kit Greenのバイアルに100μLのDMSOを添加し、1000× Track kit Green stock solutionを作製し、Kit付属のAssay bufferに1/1000量添加することで、Track kit working solutionを調整した。
【0131】
3.手順
HMVEC-Cは、メーカー推奨プロトコルに準じてEGM-2MV培地にて培養した。購入後から継代回数6回以内の細胞を本検証に用いた。培養培地は開封後の使用期限を3週間とした。細胞が70%コンフルエントに培養された後に、3mL程度の培地を残して電動ピペッターで培地を除去し、スクレーパーにて細胞を剥離した。回収した3mLの懸濁液に3μLのTrack kit working solutionを加え、37℃ CO
2インキュベーター内で30分静置した。30分静置後、室温下、1000rpmで3分間遠心分離した。細胞ペレットを5mLのPBSで3回洗浄した。上清を除去し、1% BSA/PBSを50μL添加した。
【0132】
4.フローサイトメータによる検出
蛍光画像を取得可能なフローサイトメータとして、ImageStreamX Mark II Imaging Flow Cytometer(Merck Millipore)を用いた。このフローサイトメータのフローセルに上記3に沿って調製した試料を流し、フローセルを流れる試料に、波長488nm、405nmのレーザ光を照射した。波長488nm、405nmのレーザ光は、
図20に示す波長λ1、λ3のレーザ光に対応する。波長488nm、405nmのレーザ光の出射パワーは、それぞれ、50mW、20mWとした。波長488nmのレーザ光が細胞質を標識する蛍光色素に照射されることにより蛍光が生じた。波長405nmのレーザ光が核染色色素に照射されることにより蛍光が生じた。
【0133】
上記フローサイトメータにおいて、波長488nmのレーザ光により生じた蛍光は、透過波長帯域480nm〜560nmのフィルタ部材を介して撮像され、高強度の蛍光画像が取得された。また、波長488nmのレーザ光により生じた蛍光は、透過波長帯域560nm〜595nmのフィルタ部材を介して撮像され、低強度の蛍光画像が取得された。波長405nmのレーザ光により生じた蛍光は、透過波長帯域420nm〜505nmのフィルタ部材を介して撮像され、核に対応する蛍光画像が取得された。また、フローセルを流れる試料に、波長が420nm〜480nmの間に設定されたレーザ光を照射した。このレーザ光が細胞を透過した光は、透過波長帯域420nm〜480nmのフィルタ部材を介して撮像され、明視野画像が取得された。なお、上記フローサイトメータでは、対象となる波長帯域の光が適正に受光部に入射するよう、フィルタ部材等により不要な波長帯域の光が除去されている。
【0134】
図21を参照して、上記検出により取得された画像について説明する。
【0135】
「明視野」は、細胞の明視野画像を示す。「高強度の蛍光」と「低強度の蛍光」は、それぞれ、細胞質を標識した蛍光色素から生じた高強度の蛍光に基づく画像と、細胞質を標識した蛍光色素から生じた低強度の蛍光に基づく画像である。「核からの蛍光」は、核を染色した核染色用色素から生じた蛍光に基づく画像である。横に並ぶ4つの画像は、1つの細胞から取得された画像である。明視野画像以外の画像は、便宜上、取得されたカラー画像をグレースケール化したものである。明視野画像以外の画像において、白い部分は蛍光の強度が強いことを示す。
【0136】
最上段に示す細胞および最上段から1つ下に示す細胞の場合、低強度の蛍光に基づく画像は強度が低すぎるため、細胞質の局在は不明瞭である。他方、高強度の蛍光に基づく画像は強度が適正であるため、細胞質の局在を精度よく判別できる。最下段に示す細胞および最下段から1つ上に示す細胞の場合、高強度の蛍光に基づく画像は強度が高すぎるため、細胞質の局在を判別するのは困難である。他方、低強度の蛍光に基づく画像は強度が適正であるため、細胞質の局在を精度よく判別できる。
【0137】
以上のように、本検証によれば、実施形態6のように強度の異なる2つの蛍光画像に基づけば、細胞質の局在を判別できることが分かる。このように、実施形態6によれば、細胞質を標識する1種類の蛍光色素から生じた蛍光を、異なる波長帯域の蛍光を通すフィルタ部材21、22に通して2つの蛍光画像を取得することにより、1つの細胞に対して一度の測定で細胞質の局在を正しく取得できることが分かる。
【0138】
<実施形態7>
実施形態7では、細胞に含まれる被検物質に2種類の基質を接触させて2種類の蛍光物質を生じさせ、生じた2種類の蛍光物質に光を照射し、光の照射により2種類の蛍光物質から生じた蛍光に基づいて被検物質の局在状況を判別する。すなわち、実施形態7では、実施形態6のように1つの光を用いるのではなく、互いに異なる波長の光を用いて互いに異なる強度の蛍光を取得する。なお、被検物質に1種類の基質を接触させて2種類の蛍光物質を生じさせてもよい。
【0139】
実施形態7では、実施形態6と比較して、
図1に示す細胞情報取得方法のステップのうち、ステップS1、S2における一部の手順のみが異なる。以下、実施形態6とは異なる手順について説明する。
【0140】
ステップS1において、
図22に示すように、細胞と基質17a、18aとが混合される。基質17a、18aは、細胞質に含まれるエステラーゼで加水分解されると、それぞれ蛍光物質17b、18bを生じる物質である。蛍光物質17b、18bは、それぞれ、波長λ1、λ2の光が照射されると互いに異なる波長帯域の蛍光を励起するよう構成されている。細胞と基質17a、18aとが混合されると、細胞膜を透過した基質17a、18aは、細胞質と接触することにより、細胞質に含まれるエステラーゼで加水分解され、蛍光物質17b、18bを生じる。こうして、細胞質が蛍光物質17b、18bにより標識される。
【0141】
ステップS2において、蛍光物質17b、18bで標識された細胞を含む試料がフローセルに流され、
図22に示すように、フローセルを流れる細胞に波長λ1、λ2、λ3の光が照射され、それぞれ、蛍光物質17b、18b、13から蛍光が生じさせられる。このとき、波長λ1のレーザ光は高パワーで細胞に照射され、波長λ2のレーザ光は低パワーで細胞に照射される。蛍光物質17bから生じた蛍光は、フィルタ部材21に通されることにより、波長帯域B1の蛍光となる。蛍光物質18bから生じた蛍光は、フィルタ部材22に通されることにより、波長帯域B2の蛍光となる。こうして、フィルタ部材21を通過した波長帯域B1の蛍光は高強度となり、フィルタ部材22を通過した波長帯域B2の蛍光は低強度となる。なお、実施形態7に基づく装置は、実施形態1と同様に構成される。
【0142】
実施形態7においても、実施形態6と同様、強度の異なる2つの蛍光を生じさせ、高強度の蛍光画像と低強度の蛍光画像を取得できる。したがって、実施形態6と同様、高強度の蛍光画像と低強度の蛍光画像に基づいて、細胞質の局在を精度良く判別できる。