(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複数の柱状部材が組み合わされて形成された支持構造体と、前記支持構造体の上部から吊り下げられたボイラ本体との間に配置され、前記支持構造体及び前記ボイラ本体の水平方向の振れを抑えるためのリンク式サイスミックタイであって、
前記水平方向に沿って延伸する一対のリンク部材と、
前記水平方向に交差する方向に軸方向を有し、前記一対のリンク部材の延伸方向における一端部同士及び他端部同士をピン結合する一対の緩衝部材と、
を備え、
前記一対の緩衝部材は、それぞれ、
前記軸方向の中央から両端に向かうにつれて縮径する軸本体と、
前記軸本体の両端に設けられ、前記一対のリンク部材と摺動自在に結合する一対のリンク接続体と、を有し、
前記一対のリンク接続体は、それぞれ、
前記軸本体の端部から前記軸方向の先端側に延在する連結部と、
前記連結部の端部から連続して前記軸方向に延在すると共に、前記連結部から拡径するテーパ部を有するピン結合部と、を有し、
前記連結部の中央部における外径は、前記軸本体と前記連結部との境界における外径以下であり、かつ、前記連結部と前記テーパ部との境界における外径以下であり、
前記軸本体と前記連結部との境界では、前記軸本体の外面と前記連結部の外面とが曲面でつながっており、前記連結部と前記テーパ部との境界では、前記テーパ部の外面と前記連結部の外面とが曲面でつながっている
ことを特徴とするリンク式サイスミックタイ。
【背景技術】
【0002】
節炭器、蒸発器、及び過熱器等の熱交換器が内部に搭載されたボイラ本体を、複数の鉄骨部材で形成された支持構造体の上部から吊り下げて用いるボイラ装置が知られている。このボイラ装置では、例えば地震や強風等の外力が加わった場合、支持構造体は地中に埋設された部分を基点として水平方向に撓み、支持構造体に支持されたボイラ本体も水平方向に振れてしまう。そこで、ボイラ本体と支持構造体との間に水平方向に架け渡されて振れを抑制するリンク式のサイスミックタイ(振れ止め構造体)が、ボイラ装置に設けられている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載されたリンク式サイスミックタイは、軸方向の中央部がボイラ本体側又は支持鉄骨側に取り付けられた2本の緩衝部材(ピン)と、これら2本の緩衝部材の上端同士及び下端同士をそれぞれ連結した平行な2本のリンク部材(連結部材)と、を備えている。2本の緩衝部材はそれぞれ、外径が軸方向の中央部から両端側に向かって漸次小さくなるように形成された紡錘形状部と、紡錘形状部の端部から軸方向の先端側に延在し、各リンク部材に摺動自在に接合されるリンク接合部と、を有している。
【0004】
このリンク式サイスミックタイでは、連結部材の座屈強度が緩衝部材の最大曲げ強度よりも大きく設定されているため、緩衝部材がボイラ本体と支持構造体との間の相対変位を吸収して、ボイラ本体の水平方向の振れを抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態に係るリンク式サイスミックタイ10(以下、単にサイスミックタイ10とする)について、
図1〜
図5を参照して説明する。
【0012】
<ボイラ装置1の構成>
まず、ボイラ装置1の全体構成について、
図1を参照して説明する。
【0013】
図1は、実施形態に係るサイスミックタイ10を備えたボイラ装置1の一例を示す全体構成図である。なお、以下の説明において、ボイラ装置1が設置された地面に対して平行な方向を「水平方向」とし、この水平方向に直交する方向を「鉛直方向」とする。
【0014】
ボイラ装置1は、例えば火力発電プラント内に設置される大型のボイラ装置である。このボイラ装置1は、ボイラ本体11と、ボイラ本体11を支持する支持構造体12と、ボイラ本体11及び支持構造体12の間に配置された複数のサイスミックタイ10と、を備えている。
【0015】
ボイラ本体11は、化石燃料等の燃料を燃焼させる火炉や、節炭器、蒸発器、及び過熱器等の熱交換器が内部に搭載され、その周囲を伝熱性の壁で囲んだ筐体構造を有している。ボイラ本体11は、支持構造体12の上部から地面側に向かって鉛直方向に吊り下げられた状態で支持構造体12に支持されている。
【0016】
支持構造体12は、複数の柱状部材120が組み合わされて形成されている。複数の柱状部材120には、それぞれ、例えば鉄骨部材等を用いることができる。
【0017】
複数のサイスミックタイ10は、例えば地震発生時等におけるボイラ本体11及び支持構造体12の水平方向の振れを抑制するためのものである。複数のサイスミックタイ10は、それぞれ、ボイラ本体11と柱状部材120との間を水平方向に接続するリンク式のサイスミックタイである。このリンク式のサイスミックタイ10では、ボイラ本体11と支持構造体12との間に振動による水平方向の相対変位が生じたとき、その変位量に応じた振動エネルギーを吸収することができる。
【0018】
<サイスミックタイ10の構成>
次に、サイスミックタイ10の具体的な構成について、
図2〜
図5を参照して説明する。
【0019】
図2は、実施形態に係るサイスミックタイ10の一例を示す概略構成図である。
図3Aは、実施形態に係るサイスミックタイ10の緩衝部材3a,3bの一構成例を示す概略平面図であり、
図3Bは、比較例に係るサイスミックタイの緩衝部材9を示す概略平面図である。
図4は、L2/L1の値と従来構造(比較例)に対するエネルギー吸収量の比との関係を概念的に示すグラフである。
図5は、L2/L1の値と従来構造(比較例)に対する寿命の比との関係を概念的に示すグラフである。
【0020】
図2に示すように、サイスミックタイ10は、水平方向に沿って延伸する一対のリンク部材2a,2bと、水平方向に直交する方向に沿って自身の軸方向が向くように配置された一対の緩衝部材3a,3bと、を備えている。なお、
図2では、一対の緩衝部材3a,3bの軸方向が、水平方向に対して直交する方向(鉛直方向)に沿って配置されているが、これに限らず、少なくとも水平方向に交差する方向に沿って配置されていればよい。
【0021】
一対のリンク部材2a,2bは、それぞれ、例えば鋼板等の鋼材を2枚1組として一体化して形成されたものである。具体的には、2枚の鋼材の長手方向(延伸方向)の一端部同士及び他端部同士を、これら2枚の鋼材の間に挿入された連結板を介して溶接し、一体化する。なお、一対のリンク部材2a,2bの形成方法については、必ずしもこれに限られない。
【0022】
一対のリンク部材2a,2bは、
図2に示すように、鉛直方向に間を空けて並べて配置されている。そして、一対のリンク部材2a,2bの延伸方向の一端部201a,201b同士は連結ピン4aによって一方の緩衝部材3aとピン結合し、一対のリンク部材2a,2bの他端部202a,202b同士は連結ピン4bによって他方の緩衝部材3bとピン結合している。したがって、一対の緩衝部材3a,3bは、それぞれ、一対のリンク部材2a,2bの間を連結している。なお、
図2において、水平方向の左側を「一方側」とし、水平方向の右側を「他方側」としている。
【0023】
以下の説明において、必要に応じて適宜、鉛直方向の上側に位置するリンク部材を上側リンク部材2aとし、鉛直方向の下側に位置するリンク部材を下側リンク部材2bとする。
【0024】
一方の緩衝部材3aは、軸方向の中央部分に、軸方向に直交する方向(
図2では水平方向)に延びる挿通孔31aが形成されている。そして、柱状部材120の側面から水平方向の他方側に向かって突出したブラケット121が挿通孔31aに挿通されることにより、一方の緩衝部材3aは柱状部材120(支持構造体12)と接続している。
【0025】
同様に、他方の緩衝部材3bは、軸方向の中央部分に、軸方向に直交する方向(
図2では水平方向)に延びる挿通孔31bが形成されている。そして、ボイラ本体11の外面に取り付けられたバックステー110の一部が挿通孔31bに挿通されることにより、他方の緩衝部材3bはバックステー110(ボイラ本体11)と接続している。
【0026】
このようにして、サイスミックタイ10は、ボイラ本体11と支持構造体12の柱状部材120との間において、水平方向に架け渡されるようにボイラ本体11及び支持構造体12のそれぞれと接続している。
【0027】
一対のリンク部材2a,2bは、それぞれ、座屈強度(座屈耐力)が一対の緩衝部材3a,3bそれぞれの最大曲げ強度よりも大きく設定されている。したがって、地震等による振動が発生した場合には、ボイラ本体11及び支持構造体12から受ける外力によって、一対の緩衝部材3a,3bが曲げられて振動エネルギーを吸収する。なお、一対のリンク部材2a,2bは、それぞれ、引張強度が座屈強度よりも大きいため、一対の緩衝部材3a,3bとの間における強度比較においては、座屈強度で比較検討をすれば足りる。
【0028】
図2に示すように、一対の緩衝部材3a,3bは、それぞれ、軸本体31と、軸本体31の軸方向の両端に設けられた一対のリンク接続体32a,32bと、を有している。なお、一対の緩衝部材3a,3bは、いずれも同一の構成を有しているため、一方の緩衝部材3a側を例に挙げて、以下説明する。
【0029】
軸本体31は、弾塑性を有する部材で形成されている。
図3Aに示すように、軸本体31の外径は、軸方向の中央CL(
図3Aにおいて一点鎖線で示す)でもっとも大きくなっており、軸方向の両端に向かうにつれて漸次小さくなっている。すなわち、軸本体31は、軸方向の中央CLから両端に向かうにつれて縮径する紡錘形状である。
【0030】
一対のリンク接続体32a,32bは、それぞれ、軸本体31の端部から軸方向の先端側に延在する連結部321と、連結部321の端部から連続して軸方向に延在するピン結合部322と、を有している。連結部321は、軸本体31とピン結合部322との間において、いわゆるアジャスタの役割を担っている。
【0031】
なお、一対のリンク接続体32a,32bは、いずれも同一の構成を有しているため、
図2に示す一方の緩衝部材3aおいて、鉛直方向の下側に位置する下側リンク接続体32b側を例に挙げて、以下説明する。
【0032】
ピン結合部322は、弾性を有する部材で形成されており、連結ピン4aを介して下側リンク部材2bの一端部201bとピン結合している。これにより、一方の緩衝部材3aの下側リンク接続体32bと下側リンク部材2bとが、連結ピン4aの回りに摺動自在に結合される。
【0033】
ピン結合部322には、連結ピン4aを挿通させるためのピン孔325が形成されている。本実施形態では、ピン孔325は、軸方向に直交する方向(
図3Aにおける紙面の表裏方向)に貫通しており、軸方向に交差する方向に貫通する貫通孔の一態様である。
【0034】
ピン結合部322は、連結部321の端部から軸方向の先端側に向かうにつれて拡径するテーパ部323と、テーパ部323の端部から連続して先端まで延在する延在部324と、を有している。本実施形態では、延在部324は、その最外径が軸方向において一定に形成されている。
【0035】
また、本実施形態では、ピン結合部322には、ピン孔325の周囲がピン孔325の貫通方向に垂直な平面となる平滑面326が形成されている。なお、この平滑面326は任意であり、必ずしもピン結合部322に形成されている必要はない。
【0036】
図3Aにおいてその一部を拡大して示すように、軸本体31と連結部321との境界B1では、軸本体31の外面31sと連結部321の外面321sとが曲面でつながっている。同様に、連結部321とテーパ部323との境界B2では、連結部321の外面321sとテーパ部323の外面323sとが曲面でつながっている。
【0037】
そして、連結部321の中央部における外径D1(以下、単に外径D1とする)は、軸本体31と連結部321との境界B1における外径D2(以下、単に外径D2とする)よりも小さく(D1<D2)、かつ、連結部321とテーパ部323との境界B2における外径D3(以下、単に外径D3とする)よりも小さい(D1<D3)。したがって、軸本体31の外面31s、連結部321の外面321s、及びテーパ部323の外面323sは、円弧を描くように滑らかに連続している。
【0038】
一方、
図3Bに示すように、従来構造の一例である比較例に係る緩衝部材9では、本実施形態に係る緩衝部材3aの構成と異なり、リンク接続体92は連結部を有していない。したがって、軸本体91の端部から軸方向の先端側に向かってテーパ部923が延在している。
【0039】
図3Bにおいてその一部を拡大して示すように、軸本体91とテーパ部923との間にはつなぎ目Jが形成されており、軸本体91の外面91sとテーパ部923の外面923sとは、つなぎ目Jを境として明確に分かれている。この場合において、緩衝部材9に振動による外力が加わると、つなぎ目Jに応力が集中し、例えば
図3Bに示すようにつなぎ目Jから亀裂等が生じる可能性がある。
【0040】
しかしながら、本実施形態に係る緩衝部材3aでは、軸本体31とテーパ部323との間に連結部321を設け、かつ、軸本体31の外面31s、連結部321の外面321s、及び連結部321の外面321sが滑らかに連続しているため、破損につながるつなぎ目が形成されていない。これにより、例えば繰り返し発生する地震等の振動によっても、緩衝部材3aは破損しにくくなり、使用寿命を延ばすことができる。
【0041】
なお、必ずしも、外径D1は、外径D2よりも小さく(D1<D2)、かつ、外径D3よりも小さい(D1<D3)必要はなく、例えば、外径D1、外径D2、及び外径D3が、すべて同じ大きさであってもよい(D1=D2=D3)。すなわち、少なくとも、外径D1は、外径D2以下であり(D1≦D2)、かつ、外径D3以下であればよい(D1≦D3)。
【0042】
また、
図3Aに示すように、ピン孔325の中心と軸本体31の中央CLとの間における軸方向の距離をL1とし(以下、単に距離L1とする)、連結部321の軸方向の長さをL2としたとき(以下、単に長さL2とする)、距離L1と長さL2との間には、L2/L1≦0.42の関係が成り立つことが望ましい。
【0043】
図4のグラフに示すように、L2/L1≦0.42となるように、距離L1及び長さL2を設定した緩衝部材3aでは、
図3Bに示す従来構造の緩衝部材9に対する振動エネルギーの吸収量の比が0.9〜1.0の間となっている。したがって、本実施形態に係る緩衝部材3aのように連結部321を備えた場合であっても、緩衝部材3aが吸収する振動エネルギーの吸収量が従来構造の緩衝部材9と比べて大きく低下することがない。
【0044】
また、この場合において、
図5のグラフに示すように、本実施形態に係る緩衝部材3aでは、従来構造の緩衝部材9に対する寿命の比が1.0以上となっている。したがって、本実施形態に係る緩衝部材3aの使用寿命は、従来構造の緩衝部材9の使用寿命の長さ以上となっている。
【0045】
なお、距離L1と長さL2との間には、0.03≦L2/L1≦0.46の関係が成り立つことがより望ましい。この場合において、本実施形態に係る緩衝部材3aでは、
図4のグラフに示す従来構造の緩衝部材9に対する振動エネルギーの吸収量の比が1.0に近い値となり、
図5のグラフに示す従来構造の緩衝部材9に対する寿命の比が2.0以上となっている。
【0046】
したがって、0.03≦L2/L1≦0.46となる一対の緩衝部材3a,3bを備えたサイスミックタイ10は、一対の緩衝部材3a,3bが吸収する振動エネルギーの吸収量を大きく低下させることなく、寿命を延ばすことが可能となる。
【0047】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。