(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6824711
(24)【登録日】2021年1月15日
(45)【発行日】2021年2月3日
(54)【発明の名称】電子制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 41/22 20060101AFI20210121BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20210121BHJP
F02D 43/00 20060101ALI20210121BHJP
【FI】
F02D41/22
F02D45/00 362
F02D43/00 301B
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-230157(P2016-230157)
(22)【出願日】2016年11月28日
(65)【公開番号】特開2018-87499(P2018-87499A)
(43)【公開日】2018年6月7日
【審査請求日】2019年9月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003333
【氏名又は名称】ボッシュ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石川 成昭
【審査官】
菅野 京一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−092748(JP,A)
【文献】
特開2013−133767(JP,A)
【文献】
特開平03−267529(JP,A)
【文献】
特開2014−080951(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 1/00−45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の動作を制御する電子制御装置(100)において、
故障時の車両の動作を制御する主記憶装置(10)を備え、
前記主記憶装置(10)は、
機能ごとに区分けされた複数のレベルの領域を備え、
前記複数のレベルの領域における判断に基づいて、車両の故障を検出し、
前記主記憶装置(10)は、
車両の故障を検出した際に、エンジン回転速度が所定値以下であって、かつ、点火遅延継続時間が所定値以下である場合、スロットルを閉状態に制御するとともに、点火コイルに対する点火を遅延させるように制御する
ことを特徴とする電子制御装置。
【請求項2】
前記複数のレベルの領域は、
車両の動作を制御するレベル1の領域と、
前記レベル1の領域における動作の異常の有無を監視するレベル2の領域と、
前記レベル2の領域における動作の異常の有無を監視するレベル3の領域とから構成され、
前記主記憶装置(10)は、
前記レベル1の領域における動作の異常を前記レベル2により検出した場合、車両の故障を検出する
ことを特徴とする請求項1に記載の電子制御装置。
【請求項3】
前記主記憶装置(10)は、
車両の故障を検出した際に、エンジン回転速度が所定値よりも大きい場合、または、エンジン回転速度が所定値以下であって、かつ、点火遅延継続時間が所定値よりも大きい場合、スロットルを閉状態に制御する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の電子制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ECU(Engine Control Unit)の故障を検出する技術が開示されている。このECUは使用しているCPUの主記憶装置内をレベル1、レベル2及びレベル3の3つの領域に区切ることでECUの故障を検出する。なおそれぞれの領域にプログラム及びテーブルなどが含まれている。
【0003】
CPUの中央演算装置は、レベル1の領域のプログラム及びテーブルを読み出してECUの主な制御を行う。また中央演算装置は、レベル2の領域のプログラム及びテーブルを読み出してレベル1の領域の故障を検出する。同様に中央演算装置は、レベル3の領域のプログラム及びテーブルを読み出してレベル2の領域の故障を検出する。
【0004】
CPUの中央演算装置がレベル2の領域のプログラム及びテーブルを読み出してレベル1の領域の故障を検出すると、レベル1の領域の故障が特定され、CPUは絞り弁(以下、スロットルと呼ぶ)をバネなどで少しの隙間を残した状態で動かせなくする(以下、これをスロットル閉と呼ぶ)。CPUは、スロットル閉としたあと、内燃機関(以下、エンジンと呼ぶ)の回転速度(以下、エンジン回転速度と呼ぶ)が1500rpm程度になると、車両の走行状態を安全走行状態であるリンプホームモードとする。
【0005】
リンプホームモードでは、エンジン回転速度が1500rpm以上となると、燃料噴射装置への通電がなくなり、燃料噴射装置は動作を停止し、点火コイルは動作を停止する。リンプホームモードでは、エンジン回転速度が1500rpm未満となると、燃料噴射装置への通電が再開し、燃料噴射装置は動作を再開し、スロットルは可動となり、点火コイルは動作を再開する。
【0006】
リンプホームモードによれば、レベル1の領域の故障が検出されていても、車両を移動することが可能となり、車両の調整及び修理などが可能な事業所への移動が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013―133767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし特許文献1に記載の発明においては、CPUの中央演算装置がレベル2の領域のプログラム及びテーブルを読み出してレベル1の領域の故障を検出し、CPUがスロットル閉としたあとも、エンジン回転速度が1500rpm以上になるまで車両の加速は止まらず、故障がある状態での加速となり、車両が暴走するなどの危険が考えられる。
【0009】
そこで本発明の課題は、故障を検出してから安全走行状態へ移行するまでの移行時間を短くし得る電子制御装置を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は、車両の動作を制御する電子制御装置(100)において、故障時の車両の動作を制御する主記憶装置(10)を備え、主記憶装置(10)は、機能ごとに区分けされた複数のレベルの領域を備え、複数のレベルの領域における判断に基づいて、車両の故障を検出し、
主記憶装置(10)は、車両の故障を検出した際に、エンジン回転速度が所定値以下であって、かつ、点火遅延継続時間が所定値以下である場合、スロットルを閉状態に制御するとともに、点火コイルに対する点火を遅延させるように制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、故障を検出してから安全走行状態へ移行するまでの移行時間を短くできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図3】一時的な故障の際のトルク値の時間による遷移図である。
【
図4】故障の際のトルク値の時間による遷移図である。
【
図5】加速度及び加速度の継続時間から走行状態を判断する図である。
【
図6】故障の際のトルク値に関係する値の時間による遷移図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施の形態を、図面を参照して説明する。なお以下の説明は、本発明を限定するものではなく、本発明の範囲内で適宜変更することができる。
【0014】
(1)電子制御装置の構成
図1は、電子制御装置100の全体のブロック図である。電子制御装置100はアクセル量及びCAN(Controller Area Network)からの入力信号が入力され、主記憶装置10、ASIC20、燃料噴射装置を制御するECUパワーステージ部並びにスロットル及び点火コイルを制御するスロットルパワーステージ部を備える。なお、アクセル量は車両のドライバーがアクセルを踏んだ量であり、CANからの入力信号には加速度センサからの加速度の値、車速センサからの速度の値及びエンジン回転速度などが含まれる。
【0015】
主記憶装置10は、レベル1、レベル2及びレベル3の3つの領域に区切られており、レベル1の領域の機能部11、レベル2の領域の機能モニタリング部12及びレベル3の領域のコントローラモニタリング部13を備える。
【0016】
機能部11は、ECUパワーステージ部へトルク値を送信することで燃料噴射装置を制御し、最小値選択部11A及び制限トルク論理部110を備える。最小値選択部11Aは、機能モニタリング部12からのトルク値及び制限トルク論理部110からのトルク値を比較し、小さい値をトルク値として出力する。
【0017】
図2に示すように制限トルク論理部110は、制限された小さい値であるトルク値の制限トルク値を出力し、点火遅延継続時間設定部111、故障フラグ受信部112及び適合データテーブル113を備える。
【0018】
点火遅延継続時間設定部111は、制限トルク値を出力する点火遅延継続時間を設定する。点火遅延継続時間とは、点火コイルへの点火のタイミングを通常よりも遅らせる分の時間を指す。故障フラグ受信部112は、CPUの中央演算装置が、レベル2の領域のプログラム及びテーブルを読み出して、レベル1の領域の故障を検出するとその情報を故障フラグとしてレベル2の領域のプログラムから受信する。適合データテーブル113は、エンジン回転速度の設定値及び点火遅延継続時間の設定値から制限トルク値を過去の測定データに基づいて算出する。
【0019】
レベル2の領域の機能モニタリング部12は、レベル1の領域の動作を保障するため、その時点の車両に対して許容されるトルク値をアクセル量から計算する許容トルク計算部12Aを備える。許容トルク計算部12Aは、アクセル量を取得し、トルク値を最小値選択部11Aへ出力する。
【0020】
制限トルク論理部110は、点火遅延継続時間に応じた時間のみ制限トルク値を出力し、それ以外には許容トルク計算部で計算されたトルク値より大きい値を出力する。
【0021】
なお機能部11は、制限トルク論理部110が出力する制限されたトルク値から許容トルク計算部12Aが出力する通常のトルク値に出力を切り替える際に、徐々に通常のトルク値に近づけてくダンプ制御をしてもよい。
【0022】
図3に示すグラフ30は一時的な故障の際のトルク値の時間による遷移を示す。レベル1の領域内で故障を検出し、レベル1の領域内での処理により通常の動作となる。
【0023】
グラフ31は、故障が検出できない場合のトルク値の時間による遷移を示す。グラフ32は、異常なトルク値が入力されていない場合に機能部が出力するトルク値の時間による遷移を示す。グラフ33は、機能部11の一時故障検出部がトルク値を出力している際のトルク値の時間による遷移を示している。期間35は、機能部11の一時故障検出部がトルク値を出力している期間、言い換えると、一時的な故障の期間を示している。
【0024】
図4に示すグラフ40は故障の際のトルク値の時間による遷移を示す。レベル2の領域でレベル1の領域の故障を検出し、レベル2の領域での故障の検出結果を故障フラグ受信部112が受信し、制限トルク論理部110がエンジン回転速度及び点火遅延継続時間に応じて、スロットル閉及び点火コイルへの点火の遅延を指示する。
【0025】
グラフ41は、レベル2の領域のプログラムが出力するトルク値の時間による遷移を示す。期間45は、リンプホームモードの期間、言い換えると、故障中の期間を示している。
【0026】
レベル3の領域のコントローラモニタリング部13は、レベル2の領域の動作を保障するため、メモリチェック部13A、コマンドテスト部13B及びシーケンスチェック部を備える。
【0027】
メモリチェック部13Aは、レベル2の領域の機能モニタリング部12のメモリをチェックし、メモリに異常がないことを確認する。コマンドテスト部13Bは、レベル2の領域のコマンドをテストし、レベル2の領域のコマンドが正常に動作することを確認する。シーケンスチェック部13Cは、レベル2の領域の機能モニタリング部12のデータの順番が適切かどうかを確認する。
【0028】
ASIC20は、レベル3の領域に含まれるが、主記憶装置10とは別の特定用途向け周生期回路(Application Specific Integrated Circuit)などの装置で、主記憶装置10が暴走した際に外部からECUパワーステージ部及びスロットルパワーステージ部を介して、燃料噴射装置、スロットル及び点火コイルの動作を停止することができる。
【0029】
図5は、加速度及び加速度の継続時間から走行状態を判断する図であり、図中の各領域を機能安全の規格であるISO26262に基づきASIL(Automotive Safety Integrity Level)で分類している。図中の領域QM(Quality Management)は安全域を示し、領域Aが安全リスク域を示し、領域Bは危険域を示している。加速度の単位Gは1.0G=9.80665m/s
2とする。本発明では、領域Bとなることが無いようにエンジン回転速度の設定値及び点火遅延継続時間の設定値を設定する。
【0030】
図6に、故障の際のトルク値に関係する値の時間による遷移図を示す。タイミング61において、異常なトルク値が入力され、タイミング62においてエンジン回転速度がカウンタ開始点(例えば1200rpm)となる。エンジン回転速度が1200rpmを超えるとカウンタ値がカウントを設定値(例えば0.5秒)分カウントし、予め設定されたエンジン回転数の設定値(例えば1500rpm)となるタイミング63となり、スロットル閉となる。タイミング63のあとは、しばらくの間、エンジン回転速度、加速度及び速度の値が上昇する。期間64を経て、車両はリンプホームモードとなる。
【0031】
(2)トルク制限処理
図7に制限トルク論理部110が行うトルク制限処理を示す。レベル2の領域がレベル1の領域の故障を検出し、レベル2の領域は、レベル1の領域の故障フラグ受信部112へ故障検出情報を送信する。
【0032】
故障フラグ受信部112は、故障検出情報を受信したか否かを判断する(SP11)。故障フラグ受信部112は、この判断で否定結果を得ると、トルク制限処理を終了する。
【0033】
これに対して、ステップSP11で肯定結果を得ると、故障フラグ受信部112は、CANからのエンジン回転速度が予め設定された設定値(例えば1500rpm)より大きいか否かを判断する(SP12)。故障フラグ受信部112は、この判断で肯定結果を得ると、スロットル閉を、機能モニタリング部12及びスロットルパワーステージ部を介してスロットルへ指示し(SP15)、トルク制限処理を終了する。
【0034】
これに対して、ステップSP12で否定結果を得ると、故障フラグ受信部112は、故障フラグ受信部112が測定している故障検出からの時間が、点火継続時間設定部が設定した設定値(例えば2秒)より大きいか否かを判断する(SP13)。故障フラグ受信部112は、この判断で肯定結果を得ると、ステップSP15へと進む。
【0035】
これに対して、故障フラグ受信部112は、ステップSP13で否定結果を得ると、スロットル閉を、機能モニタリング部12及びスロットルパワーステージ部を介してスロットルへ指示し、かつ点火遅延を、機能モニタリング部12及びスロットルパワーステージ部を介して点火コイルへ指示する(SP14)。なおここでいう点火遅延は、例えば点火コイルへ対する無効化を指示する無効化命令とする。なお制限トルク値を出力している間は、点火遅延の指示を出力しているものとする。
【0036】
(3)本実施の形態による効果
以上のように本実施の形態における電子制御装置100では、点火遅延継続時間が設定値より小さい場合に、点火コイルへの点火のタイミングを遅らせることで、不要な車両の加速を抑えることができる。CPUの中央演算装置が、レベル2の領域のプログラムを読み出してレベル1の領域の故障を検出してから、安全走行状態へ移行するまでの期間64を、短くすることができる。
【符号の説明】
【0037】
10 主記憶装置、11 機能部、100 電子制御装置、110 制限トルク論理部、111 点火遅延継続時間設定部、112 故障フラグ受信部、113 適合データテーブル、12 機能モニタリング部、13 コントローラモニタリング部、20 ASIC。