特許第6824728号(P6824728)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ カヤバ工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6824728-液切り装置 図000002
  • 特許6824728-液切り装置 図000003
  • 特許6824728-液切り装置 図000004
  • 特許6824728-液切り装置 図000005
  • 特許6824728-液切り装置 図000006
  • 特許6824728-液切り装置 図000007
  • 特許6824728-液切り装置 図000008
  • 特許6824728-液切り装置 図000009
  • 特許6824728-液切り装置 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6824728
(24)【登録日】2021年1月15日
(45)【発行日】2021年2月3日
(54)【発明の名称】液切り装置
(51)【国際特許分類】
   B08B 9/055 20060101AFI20210121BHJP
【FI】
   B08B9/055 551
   B08B9/055 553
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-250488(P2016-250488)
(22)【出願日】2016年12月26日
(65)【公開番号】特開2018-103086(P2018-103086A)
(43)【公開日】2018年7月5日
【審査請求日】2019年8月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】特許業務法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中林 忠男
(72)【発明者】
【氏名】花田 祥浩
【審査官】 芝井 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−015203(JP,A)
【文献】 実開昭51−043060(JP,U)
【文献】 特開2003−039035(JP,A)
【文献】 実開昭61−132092(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B08B 9/00〜 9/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空のワーク内の液体を掻き出して液切りする液切り装置であって、
前記ワークの両端を気密性を保って保持するとともに、前記ワークを保持したときに一端が前記ワーク内と連通して前記ワーク内から掻き出した液体を排出する液排出路が少なくとも一方に形成された一対の保持ユニットと、
前記ワークに挿通されて前記ワークの内面に当接しつつ前記液排出路に向けて移動することにより前記ワーク内の液体を掻き出す掻き出しユニットと、
前記掻出しユニットの一端側と他端側の空間に差圧を発生させて前記掻き出しユニットを移動させる差圧発生ユニットと、
を備え
前記掻き出しユニットは、前記ワーク内を中心軸に沿って摺動自在に設けられたピストンと、前記ピストンの軸方向の両端部に設けられて前記ワークの内壁に周方向で密着するシール部材とを有し、
前記一対の保持ユニットは、少なくとも一方の前記液排出路に前記掻き出しユニットを収容する収容部を設けており、
前記掻き出しユニットは、前記ピストンの軸方向の中間に設けられて前記ワークの内壁又は前記収容部の内壁に周方向で当接して前記ピストンの姿勢を維持する姿勢維持部材を有しており、
前記掻き出しユニットが前記収容部の内壁と前記ワークの内壁との間で移動して一方の前記シール部材が前記収容部の内壁又は前記ワークの内壁から離間したときには、他方の前記シール部材及び前記姿勢維持部材が前記収容部の内壁又は前記ワークの内壁に同時に当接していることを特徴とする液切り装置。
【請求項2】
中空のワーク内の液体を掻き出して液切りする液切り装置であって、
前記ワークの両端を気密性を保って保持するとともに、前記ワークを保持したときに一端が前記ワーク内と連通して前記ワーク内から掻き出した液体を排出する液排出路が少なくとも一方に形成された一対の保持ユニットと、
前記ワークに挿通されて前記ワークの内面に当接しつつ前記液排出路に向けて移動することにより前記ワーク内の液体を掻き出す掻き出しユニットと、
前記掻き出しユニットの一端側と他端側の空間に差圧を発生させて前記掻き出しユニットを移動させる差圧発生ユニットと、
を備え、
前記一対の保持ユニットは、前記液排出路が夫々形成されており、
前記差圧発生ユニットは、少なくとも一方の前記液排出路に設けられて前記液排出路と外部空間とを開閉自在に仕切る開閉弁、及び前記液排出路に開口して前記液排出路内への圧縮エアの供給又は前記液排出路内から空気の排出を行う開口部を有することを特徴とする液切り装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液切り装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、機械加工後の被加工物から切削液を除去することが行われている。例えば、特許文献1に示す切削装置は、エアー噴出機構を備えており、平板状の被加工物の上面からエアーを吹き付けることによって切削液を除去する。しかし、被加工物が中空円筒部材等の筒状部材であり、内周面に付着した切削液を除去する場合には、その長さによってはエアーが十分に届かず、切削液を十分に除去できないおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−116518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
円筒状部材の内周面の切削液を除去する他の方法としては、例えば、ゴム片を竿先に取り付けた簡易な掻き出し作業具を用いて、作業者の手により、ワークの内壁に付着した切削液を掻き出すことが行われている。このような掻き出し作業具を用いる場合、手作業であるため、作業にムラが生じてしまうことがあった。また、ワークの長さに合った竿の長さが必要であるとともに、竿の長さに合わせた作業スペースも必要であった。そして、竿の長さに応じて作業の困難性も増大する。なお、この作業を機械化することも考えられるが、この場合もワークに合わせた竿の長さとそれに応じた作業スペースは必要である。
【0005】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、コンパクトであり、良好な液切りを実現できる液切り装置を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1及び第2の液切り装置は、中空のワーク内の液体を掻き出して液切りする装置である。液切り装置は、保持ユニット、掻き出しユニット及び差圧発生ユニットを備えている。保持ユニットは一対設けられており、ワークの両端を気密性を保って保持する。一対の保持ユニットの少なくとも一方には、ワークを保持したときに一端がワーク内と連通してワーク内から掻き出した液体を排出する液排出路が形成されている。掻き出しユニットは、ワークに挿通されてワークの内面に当接しつつ液排出路に向けて移動することによりワーク内の液体を掻き出す。差圧発生ユニットは、掻き出しユニットの一端側と他端側の空間に差圧を発生させて掻き出しユニットを移動させる。
【0007】
このような構成により、本発明の第1及び第2の液切り装置は、手作業で液切りを行う場合と比較して、確実な液切りを安定して行うことができる。また、差圧を発生させて掻き出しユニットを移動させるので、どのような長さのワークにも対応可能であり、ワーク長さに応じた長大な竿も不要である。
【0008】
したがって、本発明の第1及び第2の液切り装置は、コンパクトであり、良好な液切りを実現できる。
【0009】
本発明の第2の液切り装置において、一対の保持ユニットは、液排出路が夫々形成されており、差圧発生ユニットは、少なくとも一方の液排出路に設けられて液排出路と外部空間とを開閉自在に仕切る開閉弁、及び液排出路に開口して液排出路内への圧縮エアの供給又は液排出路内から空気の排出を行う開口部を有している。このため、簡易な構成の差圧発生ユニットを実現できる。
【0010】
本発明の第1の液切り装置において、掻き出しユニットは、ワーク内を中心軸に沿って摺動自在に設けられたピストンと、ピストンの軸方向の両端部に設けられてワークの内壁に周方向で密着するシール部材とを有している。このため、ピストンは、シール部材が両端でワーク内壁に密着することにより、ワーク内を安定した姿勢で移動することができるので、ばらつきの少ない安定した液切りを実現できる。
【0011】
本発明の第1及び第2の液切り装置において、シール部材は、ピストンの周方向に形成された外周面の溝に嵌め込まれたUリングであり得る。この場合、良好な掻き出しを実現できる。
【0012】
本発明の第1の液切り装置において、一対の保持ユニットは、少なくとも一方の液排出路に掻き出しユニットを収容する収容部を設けており、掻き出しユニットは、ピストンの軸方向の中間に設けられてワークの内壁又は収容部の内壁に周方向で当接してピストンの姿勢を維持する姿勢維持部材を有しており、掻き出しユニットが収容部の内壁とワークの内壁との間で移動して一方のシール部材が収容部の内壁又はワークの内壁から離間したときには、他方のシール部材及び姿勢維持部材が収容部の内壁又はワークの内壁に同時に当接している。このため、掻き出しユニットが収容部内からワーク内、又はワーク内から収容部内に移動する場合など、段差を通過する場合であっても、シール部材の他方及び姿勢維持部材がワーク内壁又は収容部内壁に当接する。このため、掻き出しユニットの姿勢を確実に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態1の液切り装置を示す図である。
図2】実施形態1の液切り装置の空圧回路を示す図である。
図3】実施形態1の第1保持ユニットを示す図である。
図4】実施形態1の第2保持ユニットを示す図である。
図5】実施形態1の掻き出しユニットを示す斜視図である。
図6】実施形態1の液切り装置において、掻き出しユニットの姿勢維持部材及び一方のシール部材が収容部の内壁に当接している状態を示す図である。
図7】実施形態1の液切り装置において、掻き出しユニットの一方のシール部材がワークの内壁に当接し、他方のシール部材が収容部の内壁に当接している状態を示す図である。
図8】実施形態1の液切り装置において、掻き出しユニットの一方のシール部材がワークの内壁に当接し、他方のシール部材が収容部の内壁に当接している状態を示す図である。
図9】実施形態1の液切り装置において、掻き出しユニットが第2保持ユニット側端に到達した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の液切り装置を具体化した実施形態1について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下の実施形態では、ワークとして、内径加工された油圧機器用のシリンダSを例示する。液切りされる液は、ワークの内径加工に用いられて切り粉などの切削屑を含む切削液である。また、以下の説明においては、ワークに向かう方向を前方(図3の左方、図4の右方)、ワークから遠ざかる方向を後方(図3の右方、図4の左方)と定義する。上下の方向については、図1図3及び図4に表われる上下の向きをそのまま上方、下方と定義する。
【0015】
<実施形態1>
実施形態1の液切り装置1は、内径加工後のシリンダS内の切削液を掻き出して液切りする装置である。シリンダSは両端が開口する筒状をなしている。シリンダSの一端の内壁にはめねじ部Fが形成されている。めねじ部FはシリンダSの端部の内壁を段差状に拡径した部位に設けられている。液切り装置1は、図1及び図2に示すように、一対の保持ユニット10,20と、掻き出しユニット30と、差圧発生ユニット40とを備えている。
【0016】
一対の保持ユニット10,20は、シリンダSの両端を気密性を保って保持する。各保持ユニット10,20は、切削液を排出するための液排出路11,21が夫々形成されている。各液排出路11,21は、保持ユニット10,20がシリンダSを保持したときに、シリンダS内と連通する。掻き出しユニット30は、シリンダSに挿通されてシリンダSの内面に当接しつつ、液排出路11,21に向けて移動することにより、シリンダS内の切削液を掻き出す。詳細には、掻き出しユニット30は、一対の保持ユニット10,20の一方からシリンダSに挿通されてシリンダSの内面に当接しつつ、一対の保持ユニット10,20の他方へ挿通されて、一対の保持ユニット10,20の他方に形成された液排出路11,21に向けて移動することにより、シリンダS内の切削液を掻き出す。差圧発生ユニット40は、掻き出しユニット30の一端側と他端側の空間に差圧を発生させて掻き出しユニット30を移動させる。
【0017】
図3に示すように、一対の保持ユニットの一方である第1保持ユニット10は、第1ハウジング12、液排出管13及び第1クランプ部材14を有している。第1保持ユニット10は、クランプシリンダ15によりその全体を前後に移動自在に設けられている。本実施形態1において、第1保持ユニット10は、シリンダSのめねじ部F側の端部を保持する。
【0018】
第1ハウジング12は筒状に形成されている。第1ハウジング12はその内部に空間12Aを形成している。第1ハウジング12の後端部には液排出管13の一端13Aが接続されている。液排出管13は、その一端13Aよりも他端13Bのほうが下方に配置されるクランク形状に形成されている。液排出管13の他端13Bは外部空間に連通する。液排出管13内の空間13Cは、連通路12Bを介して第1ハウジング12内の空間12Aに連通している。本実施形態1において、液排出路11は、これら第1ハウジング12内の空間12A、連通路12B及び液排出管13内の空間13Cにより形成されている。
【0019】
第1クランプ部材14は、前部がフランジ状に拡径された筒状に形成されている。第1クランプ部材14は、保持部14A及び収容部14Bを具備している。第1クランプ部材14は、保持部14Aを第1ハウジング12の端面に当接させるとともに収容部14Bを第1ハウジング12内の空間12Aに挿入した形態で、第1ハウジング12に着脱自在に取り付けられている。保持部14AはシリンダSの一端を保持する。保持部14Aは、テーパ状に形成された保持面部14CをシリンダSの端面に当接させてシリンダSを保持する。収容部14Bは、第1ハウジング12内の空間12Aに挿入されている。すなわち、収容部14Bは液排出路11の一部である空間12Aに設けられている。収容部14Bは、その内側空間に掻き出しユニット30を収容する。収容部14Bの内径はワークであるシリンダSの内径と略同一とされている。収容部14Bの後端部には、収容した掻き出しユニット30の後端面が当接する当接部14Dが設けられている。
【0020】
図4に示すように、一対の保持ユニットの他方である第2保持ユニット20は、第2ハウジング22、液排出管23及び第2クランプ部材24を有している。第2保持ユニット20は、クランプシリンダ25によりその全体を前後に移動自在に設けられており、シリンダSの保持及び保持解除を行う。クランプシリンダ25は、第1保持ユニット10を前後移動させるクランプシリンダ15のストロークよりも大きいストロークを有している。第2ハウジング22は筒状に形成されている。第2ハウジング22の内部には、第1ハウジング12の空間12Aに比して前後方向に小さい空間22Aを形成している。第2ハウジング22の後端部には液排出管23の一端23Aが接続されている。液排出管23は、第1保持ユニット10の液排出管13と同様に、その一端23Aよりも他端23Bのほうが下方に配置されるクランク形状に形成されているとともに、他端23Bが外部空間に連通する。液排出管23内の空間23Cは、連通路22Bを介して第2ハウジング22内の空間22Aに連通している。本実施形態1において、液排出路21は、これら第2ハウジング22内の空間22A、連通路22B及び液排出管23内の空間23Cにより形成されている。
【0021】
第2クランプ部材24は、第1クランプ部材14よりも前後方向に短く形成されており、全体として環状をなしている。第2クランプ部材24は、第1クランプ部材14と同様のフランジ状に形成されてシリンダSの他端を保持する保持部24Aと、第2ハウジング22の空間22Aに嵌め込まれる嵌合部24Bとを具備している。第2クランプ部材24は、保持部24Aを第2ハウジング22の端面に当接させるとともに、嵌合部24Bを第2ハウジング22内の空間22Aに嵌合した形態で、第2ハウジング22に着脱自在に取り付けられている。保持部24Aは、テーパ状に形成された保持面部24CをシリンダSの端面に当接させてシリンダSを保持する。
【0022】
図5に示すように、掻き出しユニット30は、ピストン31、一対のシール部材32,33及び姿勢維持部材34を有している。ピストン31は、シリンダSの内径よりも僅かに小さい外径を有する円柱状に形成されている。ピストン31は、シリンダS内を中心軸に沿って摺動自在に設けられている。ピストン31の両端部及び中央部には、周方向に溝が形成されている。一対のシール部材32,33及び姿勢維持部材34はこれらの溝に各々嵌め込まれている。
【0023】
一対のシール部材32,33は、ピストン31の両端部に形成された溝に夫々嵌め込まれている。各シール部材32,33は、シリンダSの内壁に周方向で密着する。具体的には、各シール部材32,33は、ピストン31がシリンダS内を摺動する時に、シリンダSの内周面に当接している。したがって、ピストン31は、シール部材32,33を介してシリンダSの内壁を摺動する。また、シール部材32,33は、掻き出しユニット30が収容部14B内に収容されているときには、収容部14Bの内壁に当接する。本実施形態1において、シール部材32,33は、Uリング(Uパッキン)を採用している。図6図8に示すように、各シール部材32,33は、U字状の断面における開口を夫々外側(ピストン31の端面側)に向けて取り付けられている。
【0024】
姿勢維持部材34は、ピストン31の中央に形成された溝に嵌め込まれている。姿勢維持部材34はOリングであり、シール部材32,33と同様に、掻き出しユニット30がシリンダS内を摺動する時にシリンダSの内周面に当接するとともに、掻き出しユニット30が収容部14B内に収容されているときには、収容部14Bの内壁に当接している。
【0025】
図6に示すように、一対のシール部材32,33の夫々と姿勢維持部材34とは、距離L1の間隔を空けてピストン31に取り付けられている。この距離L1は、シリンダSの一端に形成されためねじ部Fの長さL2よりも大きく設定されている。
また、図6に示すように、一対のシール部材32,33は、ピストン31の端面に対して距離L3の間隔を空けてピストン31に取り付けられている。この距離L3は、シリンダSを保持した時のシリンダSの端面と第2ハウジング22の底面22Cとの距離L4よりも大きく設定されている(図9参照)。
【0026】
図1及び図2に示すように、差圧発生ユニット40は、第1開閉弁41、第1開口部42、第2開閉弁43及び第2開口部44を有している。第1開閉弁41は、液排出管13の他端13B側(液排出路11の他端側)に設けられている。第1開閉弁41は、液排出路11と外部空間とを開閉自在に仕切る。第1開閉弁41は空圧により開閉される空圧弁である。第1開閉弁41は、通常時には開放されており、電磁弁41Aの制御によって圧縮空気が供給されると閉塞される。第1開口部42は、第1開閉弁41よりも内側の液排出路11内に圧縮エアを供給する。図3に示すように、第1開口部42は、第1ハウジング12の連通路12Bの内壁に開口しており、図2に示す電磁弁42Aの制御によって液排出路11内に圧縮エアを噴出する。開口部42は、連通路12Bの内壁のうち、上方寄りの位置に開口されている。
【0027】
図1及び図2に示すように、第2開閉弁43及び第2開口部44は、第1保持ユニット10側に設けられた第1開閉弁41及び第1開口部42と略同様の構成で、第2保持ユニット20側に設けられている。すなわち、第2開閉弁43は、液排出管23の他端23B側(液排出路21の他端側)に設けられて液排出路21と外部空間とを開閉自在に仕切る。第2開閉弁43は空圧により開閉される空圧弁であり、通常時には開放されており、電磁弁43Aの制御によって圧縮空気が供給されると閉塞される。第2開口部44は、第2開閉弁43よりも内側の液排出路21内に圧縮エアを供給する。図4に示すように、第2開口部44は、第2ハウジング22の連通路22Bの内壁に開口しており、図2に示す電磁弁44Aの制御によって液排出路21内に圧縮エアを噴出する。開口部44は、連通路22Bの内壁のうち、上方寄りの位置に開口されている。
【0028】
このような構成を有する液切り装置1は、次に示すようにしてシリンダS内の切削液を液切りする。なお、本実施形態1において、液切り装置1は、一対の保持ユニット10,20の保持軸が、内径加工を施す加工機の加工軸に対して平行に配置されている。内径加工機により加工されたシリンダSは、一対の保持ユニット10,20の保持軸に平行に搬送されて液切りされる。
【0029】
最初に、シリンダSを一対の保持ユニット10,20により保持する。内径加工の完了したシリンダSは、一対の保持ユニット10,20が各クランプシリンダ15,25により後退端に位置した状態で搬送される。液切り装置1は、搬送されたシリンダSを一対の保持ユニット10,20により両端から挟み込んで保持する。これにより、シリンダSは、一対の保持ユニット10,20に気密に保持される。また、この時、第1クランプ部材14の保持面部14C及び第2クランプ部材24の保持面部24Cがテーパ状に形成されていることにより、保持する前の芯ずれを許容するとともに、保持した後の芯出しが行われる。なお、本実施形態1では、シリンダSを保持する際には、第2保持ユニット20のみを前進させる。すなわち、一対の保持ユニット10,20が各クランプシリンダ15,25により後退端に位置した状態からクランプシリンダ25のみを駆動させ、第2保持ユニット20を前進させる。
【0030】
次に、差圧発生ユニット40により液排出路11,21間における差圧を発生させ、掻き出しユニット30を移動させる。具体的には、第1開閉弁41を閉じ、この状態で第1開口部42から圧縮エアを噴出させる。これにより、液排出路11内の圧力が上昇するので掻き出しユニット30を挟んだ両側の空間である液排出路11,21の間で差圧が生じ、掻き出しユニット30が第1保持ユニット10から第2保持ユニット20側へ移動する。この時、掻き出しユニット30は、シール部材32,33がシリンダSの内壁に当接しており、シリンダSの内壁に付着した切削液を掻き取りながら移動する。本実施形態1では、シール部材32,33としてUリングを採用しており、切削液の掻き取り性能が良好である。
【0031】
また、掻き出しユニット30が、一対のシール部材32,33と姿勢維持部材34とを有していることにより、2つの保持ユニット10,20間を移動する時の掻き出しユニット30の姿勢を安定させている。特に、図6図8に示すように、掻き出しユニット30がシリンダSのめねじ部Fを通過する時、掻き出しユニット30の各シール部材32,33と姿勢維持部材34との距離L1をシリンダSのめねじ部Fの長さL2よりも大きく設定していること、すなわち、L1>L2としたことにより、シール部材32,33及び姿勢維持部材34のうちの少なくとも2つがシリンダSの内壁又は収容部14Bの内壁に当接する。このため、掻き出しユニット30がめねじ部Fを通過する時のピストン31の傾きが発生せず、掻き出しユニット30の姿勢が維持される。その結果、掻き出しユニット30がめねじ部Fを通過する時のめねじ部Fとの接触によるシール部材32,33の破損が防止されている。
【0032】
掻き出しユニット30が第2保持ユニット20側に到達すると、掻き取られた切削液は液排出路21へ掻き出される。液排出路21は、シリンダS側の一端23Aよりも、外部空間に連通する液排出管23の他端23B側のほうが下方に配置されるクランク形状に形成されているので、掻き出された切削液が好適に排出される。また、これにより切削液の逆流も防止されている。なお、切削液は回収して再利用される。
【0033】
また、掻き出しユニット30が第2保持ユニット20側端に到達した時、ピストン31の端面は底面22Cに当接する。掻き出しユニット30は、シール部材32,33がピストン31の端面からL3の距離に設けられており、この距離L3は、シリンダSを保持した時のシリンダSの第2保持ユニット20側の端面と第2ハウジング22の底面22Cとの距離L4よりも大きく設定されている。このため、図9に示すように、掻き出しユニット30が第2保持ユニット20側に移動して底面22Cに当接したとき、シール部材32はシリンダS外に抜け出てしまうことなくシリンダS内に留まっている。
【0034】
仮に、シール部材32がシリンダS外に抜け出てしまう場合、掻き出しユニット30を第1保持ユニット10側に戻すために再度シリンダS内に進入させる時に、シール部材32がシリンダSの端面に引っかかってしまい破損してしまうおそれがある。しかし、本実施形態1では、シール部材32,33のピストン31の端面からの距離L3を、シリンダSの第2保持ユニット20側の端面と第2ハウジング22の底面22Cとの距離L4よりも大きく設定したこと、すなわち、L3>L4としたことにより、シール部材32がシリンダSの第2保持ユニット20側の端面を通過しないようにして引っかかりが生じないようにしている。
【0035】
なお、掻き出しユニット30が第2保持ユニット20側に到達したら、第1開閉弁41を開放し、第1保持ユニット10側の液排出路11から圧縮エアを排気し、液排出路11,21間の差圧が生じた状態を解除しておく。
【0036】
その後、掻き出しユニット30を第1保持ユニット10側に戻す。具体的には、第2開閉弁43を閉じて第2開口部44から圧縮エアを噴出させ、液排出路11,21の間に差圧を発生させる。これにより、掻き出しユニット30が第2保持ユニット20から第1保持ユニット10側へ移動する。この時、掻き出しユニット30は、シリンダSの内壁の切削液を更に掻き取りながら移動する。そして、掻き出しユニット30が第1保持ユニット10側端に到達して収容部14B内に収容されたら、第2開閉弁43を開放する。これにより、第2保持ユニット20側の液排出路21から圧縮エアが排気され、液排出路11,21間に差圧が生じた状態が解除される。
【0037】
掻き出しユニット30が第1保持ユニット10側端に到達して収容部14B内に収容されると、この行程において掻き取った切削液は、液排出路11へ掻き出される。液排出路11は、シリンダS側の一端13Aよりも、外部空間に連通する液排出管13の他端13B側のほうが下方に配置されるクランク形状に形成されているので、掻き出された切削液が好適に排出されるとともに、逆流も防止されている。
【0038】
最後に、一対の保持ユニット10,20によるシリンダSの保持を解除する。この時、最初に第2保持ユニット20を後退させるとともに、後退端に位置していた第1保持ユニット10を前進させる。その後、第1保持ユニット10を後退させることにより、クランプ部材14,24と干渉することなく、シリンダSを平行移動により搬出することができるようになる。また、掻き出しユニット30は第1保持ユニット10内の収容部14Bに収容されるので、掻き出しユニット30をシリンダS内から別途取り出したりすることなく、次のワークの液切り作業に臨むことができる。
【0039】
以上説明したように、液切り装置1は、シリンダS内の切削液を掻き出して液切りする装置である。液切り装置1は、第1保持ユニット10、第2保持ユニット20、掻き出しユニット30及び差圧発生ユニット40を備えている。保持ユニット10,20は、シリンダSの両端を気密性を保って保持する。各保持ユニット10,20は、シリンダSを保持したときに一端がシリンダS内の空間と連通してシリンダS内から掻き出した切削液を排出する液排出路11,21が夫々形成されている。掻き出しユニット30は、シリンダSの内面に当接しつつ一対の保持ユニット10,20の一方から他方へ挿通されてシリンダS内の切削液を掻き出す。差圧発生ユニット40は、シリンダSを挟んだ両端の液排出路11,21の間で差圧を発生させて掻き出しユニット30を移動させる。
【0040】
このような構成により、液切り装置1は、手作業で液切りを行う場合と比較して、確実な液切りを安定して行うことができる。また、差圧を発生させて掻き出しユニット30を移動させるので、どのような長さのシリンダSにも対応可能であり、シリンダSの長さに応じた長大な竿も不要である。
【0041】
したがって、液切り装置1は、コンパクトであり、良好な液切りを実現できる。
【0042】
また、差圧発生ユニット40は、液排出路11,21の他端側(外部空間に連通する側)に設けられて液排出路11,21と外部空間とを開閉自在に仕切る開閉弁41,43、及び開閉弁41,43よりも内側の液排出路11,21内に圧縮エアを供給する開口部42,44を有している。このため、簡易な構成の差圧発生ユニットを実現できる。
【0043】
また、掻き出しユニット30は、シリンダS内を中心軸に沿って摺動自在に設けられたピストン31と、ピストン31の両端部に設けられてシリンダSの内壁に周方向で密着するシール部材32,33とを有している。このため、ピストン31は、シール部材32,33が両端でシリンダSの内壁に密着することにより、シリンダS内を安定した姿勢で移動することができる。その結果、ばらつきの少ない安定した液切りを実現できる。
【0044】
また、シール部材32,33は、ピストン31の外周面の周方向に形成された溝に嵌め込まれたUリングである。このため、良好な掻き出しを実現できる。
【0045】
また、一対の保持ユニット10,20は、液排出路11,21に掻き出しユニット30を収容する収容部14Bを設けており、掻き出しユニット30は、ピストン31の軸方向の中間に設けられてシリンダの内壁又は収容部14Bの内壁に周方向で当接してピストン31の姿勢を維持する姿勢維持部材34を有しており、掻き出しユニット30が収容部14Bの内壁とシリンダSの内壁との間で移動するときには、シール部材32,33と姿勢維持部材34のうちの少なくとも2つが収容部14Bの内壁又はシリンダSの内壁に同時に当接している。特に、シール部材32,33の一方が収容部14Bの内壁から離間したときには、シール部材32,33の他方及び姿勢維持部材34が収容部14Bの内壁又はシリンダSの内壁に同時に当接している。このため、ピストン31が、段差状に拡径して形成されているシリンダSのめねじ部Fを通過する時も、掻き出しユニット30の姿勢を確実に維持することができる。
【0046】
また、クランプ部材14,24は着脱自在に設けられている。このため、異径品種用のクランプ部材14,24に交換するとともに、異径品種用の掻き出しユニット30を用意することで、異径品種のシリンダSの液切りを行うことができる。
【0047】
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態1に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)実施形態1では、差圧発生ユニットとして、第1保持ユニット側の第1開閉弁及び第1開口部と、第2保持ユニット側の第2開閉弁及び第2開口部とを設け、液排出路内へ圧縮エアを供給することにより差圧を発生させる形態を例示したが、差圧発生ユニットの構成はこれに限定されるものではない。例えば、差圧発生ユニットは、液排出路内の空気を排出することにより差圧を発生させる形態を採用してもよい。すなわち、真空ポンプ等により開口部から空気を排出して液排出路内に負圧を発生させる形態であってもよい。また、差圧発生ユニットは、いずれか一方の保持ユニット側にのみ設けられていてもよい。
(2)実施形態1では、掻き出しユニットとして、ピストン、シール部材及び姿勢維持部材を有する例を示したが、掻き出しユニットの構成はこれに限定されるものではない。また、実施形態1では、シール部材としてUリング(Uパッキン)を例示したが、VパッキンやLパッキンなどの他の種類のリップパッキンを採用してもよいし、OリングやXリングなどのスクイーズパッキンを採用してもよい。
(3)実施形態1では、一方の保持ユニットの液排出路に収容部を設ける形態を例示したが、この構成は必須ではない。また、収容部を設ける場合、一方の保持ユニットの液排出路のみならず、両方の液排出路に夫々設ける形態であってもよい。
(4)実施形態1では、掻き出しユニットが姿勢維持部材を有する例を示したが、これは必須の構成ではない。また、掻き出しユニットが姿勢維持部材を有する場合には、実施形態1で例示したOリングに限らず、他のシール部材を採用してもよい。
(5)実施形態1では、本発明に係るワークとして筒状をなすシリンダを例示したが、これに限定されず、例えば、パイプ、チューブ等の管状のワークや中空部材であってもよい。
(6)実施形態1では、液排出路を一対の保持ユニットの夫々に形成する形態を例示したが、これに限定されず、一方の保持ユニットにのみ形成されていてもよい。
(7)実施形態1では、シール部材をピストンの軸方向の両端部に1つずつ設ける形態を例示したが、少なくとも一方の端部に複数設けられていてもよい。
(8)実施形態1では、姿勢維持部材をピストンの軸方向の中間に1つ設ける形態を例示したが、複数設けてもよい。
【符号の説明】
【0048】
1…液切り装置、10…第1保持ユニット、11,21…液排出路、12…第1ハウジング、12A…第1ハウジング内の空間、12B…連通路、13…液排出管、13A…液排出管の一端、13B…液排出管の他端、13C…液排出管内の空間、14…第1クランプ部材、14A…保持部、14B…収容部、14C…保持面部、14D…当接部、15…第1保持ユニット側のクランプシリンダ、20…第2保持ユニット、21…液排出路、22…第2ハウジング、22A…第2ハウジング内の空間、22B…連通路、22C…底面、23…液排出管、23A…液排出管の一端、23B…液排出管の他端、23C…液排出管内の空間、24…第2クランプ部材、24A…保持部、24B…嵌合部、24C…保持面部、25…第2保持ユニット側のクランプシリンダ、30…掻き出しユニット、31…ピストン、32,33…シール部材、34…姿勢維持部材、40…差圧発生ユニット、41…第1開閉弁、41A…電磁弁、42…第1開口部、42A…電磁弁、43…第2開閉弁、43A…電磁弁、44…第2開口部、44A…電磁弁、F…めねじ部、S…シリンダ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9