(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本願の開示するレーダ装置および路面検出方法の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態により、この発明が限定されるものではない。
【0011】
まず、
図1Aおよび
図1Bを用いて実施形態に係るレーダ装置による路面検出方法の概要について説明する。
図1Aは、レーダ装置1の搭載例を示す図であり、
図1Bは、路面検出方法の概要を示す図である。
【0012】
かかる路面検出方法は、
図1Aに示すレーダ装置1によって実行される。ここでは、レーダ装置1が自車両MCのフロントグリルの中央に設けられる場合について説明する。
【0013】
なお、レーダ装置1が設けられる位置は、これに限定されるものではなく、自車両MCの後部、側面、ルームミラー等、任意の位置であってもよい。
【0014】
レーダ装置1は、路面Gを走行する自車両MCの進行方向に略平行な送信軸RAを中心とする送信波SWを送信する。かかる送信波SWの送信範囲に物標が存在した場合、かかる物標から送信波SWによる反射波が到来する。レーダ装置1は、かかる反射波を受信し、その受信信号に基づいて物標の存在する角度や距離、相対速度などの観測データを導出する。
【0015】
図1Aに示すように、レーダ装置1が送信する送信波SWの送信範囲には、路面Gが含まれる。このため、レーダ装置1が検出する物標に路面Gが含まれる。
【0016】
しかしながら、従来のレーダ装置では、路面Gと、路面G上に存在する障害物(以下、「下方物」という)とを判別する精度が十分ではなく、路面Gを下方物として誤検出してしまう場合があった。
【0017】
そこで、実施形態に係るレーダ装置1は、路面Gと、下方物との認識精度を向上させることで、路面Gの検出精度を向上させることとした。なお、以下では、説明を簡単にするため自車両MCが一定の走行速度で直進しているものとして説明する。
【0018】
まず、レーダ装置1は、前回のスキャンで得られた観測データと今回のスキャンで得られた観測データが時間的に連続する同一物標の観測データであるか否かを判定する。
【0019】
レーダ装置1は、過去のスキャンから予測される予測データから最も近い今回の観測データを前回導出された観測データと時間的な連続性を有する同じ物標であると判定する。
【0020】
ここで、送信波SWは、レーダ装置1から略一定の距離に存在する路面Gに反射し、レーダ装置1は、かかる路面Gによる反射波を受信する。つまり、レーダ装置1が検出する路面Gまでの距離は、略一定となる。
【0021】
そして、自車両MCが走行する場合に、レーダ装置1は、レーダ装置1から略一定距離にある異なる位置の路面Gを検出するものの、路面Gに対応する前回の観測データの距離と、今回の観測データの距離とは略一定距離となる。
【0022】
このため、路面Gに対応する前回の観測データから予測される予測データと今回の観測データとが近い値となり、レーダ装置1は、双方の観測データについて時間的に連続性を有する同じ物標であると判定する。
【0023】
続いて、レーダ装置1は、時間的に連続性を有する観測データに基づき、俯角を示す物標、すなわち、送信波SWの送信軸RAよりも下方を示す物標を抽出する。ここで、レーダ装置1が抽出する物標は、路面Gまたは下方物である。
【0024】
続いて、レーダ装置1は、自車両MCの走行時における路面Gおよび下方物の距離の経時変化に基づき、路面Gおよび下方物を判定する。具体的には、
図1Bに示すように、自車両MCの走行時に距離が一定となる物標について路面Gと判定する。
【0025】
ここで、「距離が一定」とは、厳密に値が一致していることを要しない。すなわち、時系列的な観測データが連続性を有する範囲であれば、所定の誤差(例えば、50センチ)を許容し、「距離が一定」と、「距離が略一定」とは、同義であるものとする。
【0026】
一方、
図1Bに示すように、下方物であれば、自車両MCが走行すると走行距離に応じて距離が徐々に減少する。このため、レーダ装置1は、送信軸RAよりも下方を示す物標のうち距離が変化する物標を下方物と判定する。そして、レーダ装置1は、送信軸RAよりも下方を示す物標のうち距離が一定である物標を路面Gと判定する。
【0027】
このように、レーダ装置1は、観測データの経時変化に基づき、路面Gと下方物を適切に判定することができる。したがって、実施形態に係るレーダ装置1によれば、路面Gの検出精度を向上させることができる。
【0028】
ところで、レーダ装置1は、観測データとして物標との相対速度や、水平角度を導出することもでき、かかる相対速度、水平角度に基づいて路面Gを検出することもできる。この点の詳細については、
図3A、3Bを用いて後述する。
【0029】
また、路面Gは、下方物よりも広範囲にわたって検出される。このため、レーダ装置1は、上記の条件を満たす物標のうち、広範囲にわたって検出された物標について路面Gと判定することもできる。この点の詳細については、
図4を用いて後述する。
【0030】
なお、以下では、レーダ装置1がFM−CW(Frequency Modulated−Continuous Wave)方式である場合について説明するが、FCM(Fast Chirp Modulation)方式であってもよい。
【0031】
次に、
図2を用いて本実施形態に係るレーダ装置1の構成について説明する。
図2は、レーダ装置1のブロック図である。なお、
図2には、車両制御装置2を併せて示す。
【0032】
車両制御装置2は、レーダ装置1による物標の検出結果に基づいて、PCS(Pre-crash Safety System)やAEB(Advanced Emergency Braking System)などの車両制御を行う。
【0033】
送信部10は、信号生成部11と、発振器12と、水平送信アンテナ13aと、垂直送信アンテナ13bと、スイッチ14とを備える。信号生成部11は三角波状に電圧が変化する変調信号を生成し、発振器12に供給する。
【0034】
発振器12は、信号生成部11で生成された変調信号に基づいて、時間の経過に従って周波数が変化する送信信号STを生成して、水平送信アンテナ13aまたは垂直送信アンテナ13bへ出力する。
【0035】
水平送信アンテナ13aおよび垂直送信アンテナ13bは、発振器12からの送信信号STを送信波TWへ変換し、かかる送信波SWを自車両MCの外部に出力する。
【0036】
水平送信アンテナ13aおよび垂直送信アンテナ13bが出力する送信波SWは、所定の周期で周波数が上下するFM−CWとなる。水平送信アンテナ13aおよび垂直送信アンテナ13bから自車両MCの前方に送信された送信波SWは、他の車両や路面Gなどの物標で反射されて反射波RWとなる。
【0037】
また、水平送信アンテナ13aは、水平方向に等間隔で配置され、水平方向に向けて送信波SWを出力し、垂直送信アンテナ13bは、垂直方向に等間隔で配置され、垂直方向に向けて送信波SWを出力する。
【0038】
スイッチ14は、水平送信アンテナ13aおよび垂直送信アンテナ13bのいずれかと、発振器12とを接続する。スイッチ14は、後述する送信制御部31の制御により、所定のタイミングで動作し、水平送信アンテナ13aおよび垂直送信アンテナ13bのいずれかと、発振器12との接続を切り替える。
【0039】
受信部20は、アレーアンテナを形成する複数の水平受信アンテナ21aと、複数の垂直受信アンテナ21bと、これら複数の水平受信アンテナ21aおよび垂直受信アンテナ21bに接続された複数の個別受信部22とを備える。
【0040】
各水平受信アンテナ21aおよび各垂直受信アンテナ21bは物標からの反射波を受信し、かかる反射波を受信信号へ変換する。各個別受信部22は対応する受信アンテナ21で得られた受信信号を処理する。
【0041】
なお、
図2に示す水平受信アンテナ21aおよび垂直受信アンテナ21bは、それぞれ4つであるが、3つ以下または5つ以上であってもよい。
【0042】
各個別受信部22は、増幅器23と、ミキサ24と、A/D(Analog/Digital)変換器25とを備える。水平受信アンテナ21aおよび垂直受信アンテナ21bで受信された反射波から得られた受信信号は、増幅器23(例えば、ローノイズアンプ)で増幅された後にミキサ24に送られる。ミキサ24は、送信信号STと受信信号との一部をミキシングし不要な信号成分を除去してビート信号を生成する。
【0043】
これにより送信信号STの周波数と、受信信号の周波数との差となるビート周波数を示すビート信号が生成される。ミキサ24で生成されたビート信号は、A/D変換器25でデジタルの信号に変換された後に信号処理部30へ出力される。
【0044】
なお、以下では、水平受信アンテナ21aで受信された反射波から得られるビート信号を水平ビート信号といい、垂直受信アンテナ21bで受信された反射波から得られるビート信号を垂直ビート信号という。
【0045】
信号処理部30は、送信制御部31、フーリエ変換部32およびデータ処理部33を備える。かかる信号処理部30は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、入出力ポート等を含むマイクロコンピュータであり、レーダ装置1全体を制御する。
【0046】
かかるマイクロコンピュータのCPUがROMに記憶されたプログラムを読み出して実行することによって、送信制御部31、フーリエ変換部32およびデータ処理部33として機能する。なお、送信制御部31、フーリエ変換部32およびデータ処理部33は全部をASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアで構成することもできる。
【0047】
送信制御部31は、送信部10の信号生成部11を制御し、信号生成部11から三角波状に電圧が変化する変調信号を発振器12へ出力させる。これにより、時間の経過に従って周波数が変化する送信信号STが発振器12から送信アンテナ13へ出力される。また、送信制御部31は、スイッチ14のスイッチングを制御する。
【0048】
フーリエ変換部32は、複数の個別受信部22のそれぞれから出力される水平ビート信号および垂直ビート信号に対してそれぞれ高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)処理を行う。
【0049】
これにより、フーリエ変換部32は、複数の個別受信部22のそれぞれから出力される水平ビート信号および垂直ビート信号を周波数スペクトルのデータへそれぞれ変換する。
【0050】
フーリエ変換部32で変換された周波数スペクトルは、データ処理部33へ出力される。なお、かかる周波数スペクトルのデータには、フーリエ変換部32の周波数分解能に応じた周波数間隔で設定された周波数ビン(BIN)ごとの信号レベルの情報が含まれる。
【0051】
以下では、水平ビート信号に基づく周波数スペクトルを水平周波数スペクトルといい、垂直ビート信号に基づく周波数スペクトルを垂直周波数スペクトルという場合がある。
【0052】
データ処理部33は、導出部41と、連続性判定部42と、路面判定部43と、フィルタ処理部44と、物標分類部45と、不要物標判定部46と、結合処理部47および出力物標選択部48を備える。かかるデータ処理部33は、フーリエ変換部32で変換された周波数スペクトルのデータに基づいて、物標との距離、速度および角度の観測データを導出し、かかる観測データに応じたターゲット情報を車両制御装置2へ出力する。車両制御装置2は、レーダ装置1から取得したターゲット情報に基づき、自車両MCの挙動を制御する。
【0053】
導出部41は、フーリエ変換部32で変換された周波数スペクトルのデータに基づき、物標との距離、速度および角度のデータを含む観測データを導出する観測データ導出処理を行う。かかる観測データ導出処理は、導出部41により所定周期(例えば、1/20秒)毎に繰り返し実行され、導出された観測データが所定周期毎に導出部41から連続性判定部42へ出力される。
【0054】
導出部41は、ピーク検出部41aと、角度推定部41bと、ペアリング部41cとを備える。導出部41は、水平周波数スペクトルと、垂直周波数スペクトルについて基本的に同一の処理を行うため、導出部41が、水平周波数スペクトルから観測データを導出する場合を例にとって説明する。
【0055】
ピーク検出部41aは、フーリエ変換部32で変換された水平周波数スペクトルにおいて、所定の信号レベルを超えるピークを、送信信号STの周波数が上昇するアップ区間と、送信信号STの周波数が下降するダウン区間とのそれぞれの区間で抽出する。以下、このように抽出される周波数を「ピーク周波数」という。
【0056】
同一の物標からの反射波は4つの水平受信アンテナ21aで受信されるため、4つのビート信号の周波数スペクトルの相互間において、抽出されるピーク周波数は同一となる。また、同一周波数ビンの異なる角度に複数の物標が存在する場合は、周波数スペクトルにおける1つのピーク周波数の信号に、それら複数の物標についての情報が含まれる。
【0057】
なお、4つの受信アンテナ21の位置は互いに異なるため、4つの水平受信アンテナ21aで受信される反射波の位相は互いに異なる。このため、同一周波数ビンとなる受信信号の位相情報は、水平受信アンテナ21a毎に異なる。
【0058】
角度推定部41bは、アップ区間およびダウン区間それぞれについて、所定の角度演算処理により、1つのピーク周波数の信号から、同一周波数ビンに存在する複数の物標についての情報を分離し、それら複数の物標それぞれの角度を推定する。
【0059】
角度推定部41bは、4つのビート信号の全ての周波数スペクトルにおいて各ピーク周波数に対応する同一周波数ビンの信号(以下、ピーク信号と記載する)に注目し、それらピーク信号の位相情報に基づいて物標の角度を推定する。なお、以下において、導出部41によって推定された物標の角度を「ピーク角度」と記載し、かかるピーク角度の信号パワーを「角度パワー」と記載する。
【0060】
角度推定部41bは、このようなピーク角度の導出を、アップ区間およびダウン区間の水平周波数スペクトルおよび垂直周波数スペクトルにおける全てのピーク周波数に関して行う。なお、角度推定部41bにおける角度の推定は、例えば、ESPRIT(Estimation of Signal Parameters via Rotational Invariance Techniques)、DBF(Digital Beam Forming)、または、MUSIC(Multiple Signal Classification)などの所定の角度推定方式を用いて行われる。
【0061】
これにより、角度推定部41bは、1つの周波数の信号から、複数のピーク角度、および、これらピーク角度それぞれの信号のパワーを推定することができる。
【0062】
以上の処理により、ピーク検出部41aおよび角度推定部41bは、アップ区間およびダウン区間それぞれにおける、自車両MCの前方に存在する複数の物標それぞれに対応するピークデータを導出する。
【0063】
ピークデータは、上述したピーク周波数、ピーク角度、ピーク角度の信号のパワー(以下、角度パワーと記載する)等のデータを含む。
【0064】
ペアリング部41cは、角度推定部41bにより算出されたアップ区間のピーク角度および角度パワーと、ダウン区間のピーク角度および角度パワーとの一致度合い等に基づき、アップ区間のピークおよびダウン区間のピークを対応づけるペアリングを行う。
【0065】
例えば、ペアリング部41cは、アップ区間およびダウン期間それぞれのピークの角度推定結果のうち、ピーク角度および角度パワーが所定範囲内で近いピークをペアリングする。例えば、ペアリング部41cは、アップ区間およびダウン区間それぞれの周波数ピークのピーク角度および角度パワーを用いて、マハラノビス距離を算出し、マハラノビス距離が最小値となるアップ区間のピークとダウン区間のピークとを対応付ける。なお、マハラノビス距離の算出は、周知技術を用いることができる。
【0066】
このように、ペアリング部41cは、同一の物標に関するピーク同士を対応付ける。これにより、ペアリング部41cは、自車両MCの前方に存在する複数の物標それぞれに対する観測データを導出する。かかる観測データは、2つのピークを対応付けて得られるため、「ペアデータ」とも呼ばれる。
【0067】
ペアリング部41cは、ペアリングしたアップ区間およびダウン区間のピークから、自車両MC(レーダ装置1)に対する各物標の速度および距離の瞬時値を示すデータを観測データとして導出する。例えば、ペアリング部41cは、観測データ(ペアデータ)の元となるアップ区間およびダウン区間の2つのピークデータのピーク周波数の差から速度を導出し、これら2つのピークデータのピーク周波数の和から距離を導出することができる。また、ペアリング部41cは、観測データ(ペアデータ)の元となるアップ区間およびダウン区間の2つのピークデータのピーク角度の平均値から自車両MC(レーダ装置1)に対する各物標の角度の瞬時値を示すデータを観測データとして導出する。
【0068】
導出部41は、以上の処理を垂直周波数スペクトルについて同様に行う。導出部41が水平周波数スペクトルから導出した観測データは、水平方向における物標の位置を示すデータであり、垂直周波数スペクトルから導出した観測データは、垂直方向における物標の位置を示すデータとなる。
【0069】
そして、導出部41は、水平周波数スペクトルおよび垂直周波数スペクトルからそれぞれ導出した角度パワー等に基づき、同一の物標に対応する観測データの組み合わせを特定する。これにより、各物標が存在する方位(以下、水平角度という)および垂直方向の角度(以下、仰俯角という)を対応付けることができる。
【0070】
ここで、仰俯角のうち、仰角は、
図1Aに示した送信軸RAに対して上方側の角度を示し、俯角は、送信軸RAに対して下方側の角度を示す。物標が路面Gや下方物であれば、俯角を示すこととなる。
【0071】
連続性判定部42は、今回のスキャンにより判定中の物標の瞬時値に、前回のスキャンまでに検出していた物標と連続性があるか否かを判定する。連続性判定部42は、前回のスキャンまでの物標の位置から今回の予測位置を算出し、今回のスキャンにおいて予測位置に近い瞬時値があれば、かかる瞬時値に連続性があると判定する。
【0072】
そして、連続性判定部42は、連続性を有すると判定した観測データを路面判定部43へ出力する。なお、連続性判定部42によって連続性を有さないと判定された観測データは、今回新たに観測された新規データとなる。
【0073】
かかる新規データは、基本的に車両制御装置2へ出力されない。このため、かかる新規データに基づく車両制御装置2の誤制御(緊急ブレーキ等)は、基本的に起こらない。このため、路面判定部43は、新規データについて路面判定処理を省略することができる。
【0074】
路面判定部43は、連続性判定部42から入力される観測データに基づき、路面Gを判定する。また、路面判定部43は、抽出部43aおよび決定部37bを備える。
【0075】
抽出部43aは、連続性判定部42が連続性を有すると判定した観測データの中から、後述の判定条件を満たす物標の観測データを候補物標として抽出し、抽出した観測データを決定部43bへ出力する。また、抽出部43aは、抽出した候補物標以外の観測データについても決定部43bへ出力する。
【0076】
決定部43bは、抽出部43aによって抽出された観測データに基づき、路面Gを判定する。決定部43bは、路面Gとして決定した物標に関する観測データの路面フラグをONにしてフィルタ処理部44へ出力する。なお、抽出部43aおよび決定部43bによる処理の詳細については、
図3A以降の図面を用いて後述する。
【0077】
フィルタ処理部44は、各物標について、時系列に処理される複数回分の瞬時値を平均化するフィルタ処理によって、瞬時値のばらつきを補正する処理部である。フィルタ処理部44は、フィルタ処理後の物標に関する情報を物標分類部45へ出力する。
【0078】
物標分類部45は、フィルタ処理部44のフィルタ処理結果に基づき、各物標を移動物および静止物に分類する。物標分類部45は、移動物と判定した物標について移動物フラグをONにする。また、物標分類部45は、分類した分類結果を不要物標判定部46へ出力する。
【0079】
物標分類部45は、移動物に分類した物標の中から、先行車や、隣の走行レーンの前方を走行する隣接車など、さらに細分化して分類することもできる。例えば、物標分類部45は、自車両MCの走行する走行レーンの前方で自車両MCと同一方向に過去に一度でも移動した物標について先行車フラグをONにする。
【0080】
また、物標分類部45は、自車両MCが走行する走行レーンに隣接したレーンの前方で自車両MCと同一方向に過去に一度でも移動した物標について隣接車フラグをONにする。かかる先行車フラグ、隣接車フラグは、レーダ装置1が物標を見失うまで保持される。
【0081】
そして、物標分類部45は、かかる先行車フラグまたは隣接車フラグをONにした場合、先行車または隣接車に関する情報(相対速度、距離、水平角度等)を路面判定部43へ出力する。
【0082】
また、物標分類部45は、物標分類処理の処理結果を不要物標判定部46へ出力する。物標分類処理の処理結果は、各物標の移動物フラグおよび先行車フラグの状態を示す情報、物標の推定角度(水平角度および垂直角度を含む)、物標までの距離、および自車両MC(レーダ装置1)に対する相対速度を示す情報等を含む。
【0083】
不要物標判定部46は、システム制御上、不要となる物標であるか否かを判定し、結合処理部47へ制御を移す。不要となる物標は、路面Gや構造物、壁反射などである。なお、不要とされた物標は、基本的に車両制御装置2への出力対象としないが、内部的には保持されていてよい。
【0084】
結合処理部47は、複数の物標のうち、同一物からの反射点であると推定されるものについて、1つの物標にまとめるグルーピングを行う。出力物標選択部48は、システム制御上、車両制御装置2へ出力することが必要となる物標を選択する。また、出力物標選択部48は、選択した物標のターゲット情報(距離、相対速度等を含む)を車両制御装置2へ出力する。
【0085】
次に、
図3A、3B、
図4を用いて路面判定部43による路面判定処理の詳細について説明する。まず、
図3A、3Bを用いて抽出部43aによる抽出処理について説明する。
【0086】
図3Aは、路面Gの相対速度を示す模式図である。
図3Bは、路面Gの水平角度の経時変化を示す図である。なお、路面判定部43は、以下に示す処理を送信軸RA(
図1A参照)よりも下方を示す観測データを対象にして行うものとする。
【0087】
図3Aに示すように、自車両MCが一定の速度Vで直進する場合、自車両MCと、路面Gとの相対速度は、速度Vの逆の値となる速度―Vとなる。ここで、相対速度が速度―Vとなる物標には、路面Gの他、静止している下方物が含まれる。
【0088】
静止した下方物であれば、自車両MCが走行すると、自車両MCとの距離が短くなる。このため、かかる挙動を示す物標を下方物と判定することができる。
【0089】
一方、上記したように、レーダ装置1は、自車両MCの走行に伴い、略一定距離離れた位置の路面Gを連続性を保持して検出する。その結果、レーダ装置1が検出する路面Gまでの距離Dは略一定となる。したがって、路面Gは、瞬時値として静止物として観測されるものの、自車両MCが走行しても距離が略一定となり、時系列的な距離の変化量が少ない。
【0090】
このため、抽出部43aは、例えば、車速センサ(図示略)から自車両MCの走行速度を示す信号を取得し、かかる信号に基づき、静止物に相当する物標を抽出する。
【0091】
続いて、抽出部43aは、静止物に相当する観測データについて距離の経時変化を測定する。そして、抽出部43aは、距離が略一定となる観測データを路面Gの候補となる候補物標として抽出し、かかる候補物標の観測データを決定部43bへ出力する。
【0092】
このように、抽出部43aは、距離に加えて相対速度の経時変化に基づき、候補物標を抽出するため、静止している下方物を確実に排除することができる。したがって、路面Gの検出精度を向上させることができる。
【0093】
なお、候補物標を抽出する判定条件は、これに限定されるものではない。例えば、
図3Bに示すように、抽出部43aは、上記の判定条件を満たす物標のうち、水平角度の経時変化においてバラつきが大きい物標を候補物標として抽出することもできる。
【0094】
これは、下方物であれば、送信波SWが反射し得る反射点の範囲が限られるのに対し、路面Gは、送信波SWが反射し得る反射点が広範囲にわたって無数に存在するためである。
【0095】
このため、
図3Bに示すように、路面Gは、連続性判定部42によって毎回のスキャンにおいて連続性を有する同じ物標であると判定されるものの、水平角度のバラつきが大きくなりやすい。
【0096】
抽出部43aは、例えば、上記した判定条件を満たす物標について複数回のスキャンにおける水平角度の標準偏差を求め、かかる標準偏差の値が所定値以上、すなわち、水平角度のバラつきが大きい物標を候補物標として抽出することもできる。
【0097】
これにより、抽出部43aは、候補物標の抽出精度を向上させることができ、レーダ装置1による路面Gの検出精度を向上させることができる。
【0098】
次に、
図4を用いて決定部43bによる路面Gの決定処理について説明する。
図4は、決定部43bによる路面Gの決定処理を示す図である。
図4に示す黒丸は、抽出部43aによって抽出された候補物標の位置を示す。
【0099】
決定部43bは、候補物標が存在する場合に、かかる複数の候補物標を路面Gとして決定する。これは、路面Gであれば、送信波SWの反射点が無数に存在し、候補物標も無数に存在するためである。
【0100】
換言すると、路面Gであれば広範囲にわたって検出されるため、路面Gに対応する物標が一点のみ検出されることは考えにくい。したがって、決定部43bは、水平角度、すなわち、同図における左右方向の位置が異なる複数の候補物標が存在することを条件として、かかる複数の候補物標を路面Gとして決定する。
【0101】
これにより、レーダ装置1は、路面Gの誤検出を抑制することができ、検出精度を向上させることができる。なお、
図4では、物標候補が4つである場合を示しているが、これは例示であって物標候補の個数を限定するものではない。
【0102】
ところで、レーダ装置1は、自車両MCと停止車両とが接近している状態において、停止車両に関する物標が比較的低い位置に検出された場合に、当該物標を路面Gに関する物標と誤って判定することがある。
【0103】
このため、レーダ装置1は、自車両MCと停止車両との距離が比較的遠い場合に、停止車両に関する物標が路面Gよりも高い位置に存在する物標として検出されたときに、車両に関する物標であることを示すフラグをONにする。
【0104】
これにより、自車両MCが停止車両に接近した場合でもフラグの状態を判定することで、停止車両に関する物標を路面と誤って判定することを防止できる。
【0105】
言い換えると、レーダ装置1は、上記した先行車両フラグや隣接車フラグの状態を確認することで、停止車両に関する物標を路面Gの判定対象から除外することができ、路面Gの誤検出を抑制することができる。
【0106】
次に、レーダ装置1が実行する処理手順について
図5および
図6を用いて説明する。
図5は、レーダ装置1が実行する処理手順を示すフローチャートである。また、
図6は、レーダ装置1が実行する路面判定処理の処理手順を示すフローチャートである。
【0107】
図6に示すように、まず、ピーク検出部41aが、ピーク検出処理を行う(ステップS101)。そして、角度推定部41bが、ピーク検出処理の処理結果に基づき、角度推定処理を行う(ステップS102)。
【0108】
そして、ペアリング部41cが、角度推定処理までの処理結果に基づき、ペアリング処理を行う(ステップS103)。つづいて、連続性判定部42が、ペアリング処理までの処理結果に基づき、連続性判定処理を行う(ステップS104)。
【0109】
続いて、路面判定部43が、連続性判定処理までの処理結果に基づき、路面判定処理を行う(ステップS105)。なお、ステップS105の路面判定処理の処理手順については、
図6を用いて後述する。
【0110】
続いて、フィルタ処理部44が、路面判定処理までの処理結果に基づき、フィルタ処理を行う(ステップS106)。そして、不要物標判定部46が、フィルタ処理までの処理結果に基づき、不要物標判定処理を行う(ステップS107)。
【0111】
続いて、結合処理部47が、不要物標判定処理までの処理結果に基づき、結合処理を行う(ステップS108)。そして、出力物標選択部48が、結合処理までの処理結果に基づき、出力物標選択処理を行う(ステップS109)。
【0112】
次に、
図6を用いて
図5に示したステップS105の路面判定処理の処理手順について説明する。まず、抽出部43aが、観測データは連続性を有するか否かを判定する(ステップS201)。
【0113】
続いて、抽出部43aが、観測データが連続性を有する場合(ステップS201,Yes)、観測データが俯角を示すか否かを判定する(ステップS202)。
【0114】
続いて、抽出部43aが、俯角を示す観測データについて(ステップS202,Yes)、物標までの距離は略一定か否かを判定する(ステップS203)。
【0115】
続いて、抽出部43aが、物標までの距離がる略一定であった場合(ステップS203,Yes)、相対速度は静止物相当か否かを判定する(ステップS204)。
【0116】
そして、抽出部43aが、相対速度が静止物相当であった場合(ステップS204,Yes)、候補物標として抽出する(ステップS205)。続いて、決定部43bが、水平角度が異なる複数の候補物標が有るか否かを判定する(ステップS206)。
【0117】
そして、決定部43bが、水平角度が異なる複数の候補物標が有った場合に(ステップS206,Yes)、かかる複数の候補物標を路面Gと判定し(ステップS207)、処理を終了する。
【0118】
一方、ステップS201〜ステップS204およびステップS206の判定条件を満たさなかった場合(ステップS201,No/ステップS202,No/ステップS203,No/ステップS204,No/ステップS206,No)、路面判定部43が、路面Gと判定せず、処理を終了する。
【0119】
上述したように、実施形態に係るレーダ装置1は、導出部41と、連続性判定部42と、路面判定部43とを備える。導出部41は、自車両MCから送信した送信波SWが物標に反射した反射波に基づいて当該物標との距離と、俯角とを含む物標の観測データを導出する。
【0120】
連続性判定部42は、導出部41によって前回導出された観測データと今回導出された観測データとが時間的に連続する同一物標の観測データであるか否かを判定する。路面判定部43は、連続性判定部42によって同一物標と判定された観測データに基づき、俯角を示す物標のうち、自車両MCの走行時に距離が一定となる判定条件を満たす物標を路面Gと判定する。したがって、レーダ装置1によれば、路面Gの検出精度を向上させることができる。
【0121】
ところで、車両は、路面Gに比べて反射波の反射強度が強い強反射物となることが多い。このため、車両に対応する角度パワーは、路面Gに対応する角度パワーに比べて高い値をとりやすい。
【0122】
このため、路面判定部43は、車両の角度パワーに基づいて閾値を設定し、角度パワーがかかる閾値よりも低い物標を対象として路面Gの判定を行うようにしてもできる。換言すると、路面判定部43は、車両に基づく反射波を除外して路面Gの判定を行うこともできる。
【0123】
これにより、路面判定部43による処理負荷を抑えつつ、精度よく路面Gを検出することができる。なお、路面Gによる反射波の反射強度は、路面Gの路面条件(路面の種類、雨の有無)等によって異なる。このため、路面判定部43は、かかる閾値を路面条件によって変更することもできる。
【0124】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。