特許第6824780号(P6824780)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6824780
(24)【登録日】2021年1月15日
(45)【発行日】2021年2月3日
(54)【発明の名称】ハニカムフィルタ
(51)【国際特許分類】
   B01D 39/20 20060101AFI20210121BHJP
   B01D 46/00 20060101ALI20210121BHJP
   C04B 38/00 20060101ALI20210121BHJP
   C04B 41/85 20060101ALI20210121BHJP
   B01J 27/224 20060101ALI20210121BHJP
   B01J 35/04 20060101ALI20210121BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20210121BHJP
   F01N 3/022 20060101ALI20210121BHJP
   F01N 3/035 20060101ALI20210121BHJP
【FI】
   B01D39/20 D
   B01D46/00 302
   C04B38/00 303Z
   C04B41/85 D
   B01J27/224 A
   B01J35/04 301C
   B01J35/04 301E
   B01J35/04 301J
   B01D53/94 241
   F01N3/022 C
   F01N3/035 A
【請求項の数】8
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2017-38134(P2017-38134)
(22)【出願日】2017年3月1日
(65)【公開番号】特開2018-143906(P2018-143906A)
(43)【公開日】2018年9月20日
【審査請求日】2019年10月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(72)【発明者】
【氏名】九鬼 達行
【審査官】 宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−194320(JP,A)
【文献】 特開昭61−167798(JP,A)
【文献】 特開2016−107238(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2017/0197168(US,A1)
【文献】 特開2017−047372(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/117559(WO,A1)
【文献】 特開2011−167641(JP,A)
【文献】 特開2015−029939(JP,A)
【文献】 特開2013−227882(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/111287(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 39/20
B01D 46/00
F01N 3/022
B01D 53/86
B01D 53/94
B01J 35/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が流入する側の端面である入口端面から流体が流出する側の端面である出口端面まで延びる流体の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁を有するハニカム基材を備え、
複数の前記セルの内の少なくとも一部のセルが、前記入口端面側又は前記出口端面側において、端部が目封止部によって目封止された目封止セルであり、
前記目封止セルの内の一部のセルが、前記ハニカム基材の前記入口端面側において、端部が前記目封止部によって目封止された入口目封止セルであり、前記目封止セルの内の残りのセルが、前記ハニカム基材の前記出口端面側において、前記端部が目封止部によって目封止された出口目封止セルであり、
前記入口端面から前記出口端面に向かって、前記ハニカム基材の全長の30%の長さとなる位置と、前記ハニカム基材の全長の80%の長さとなる位置との間の領域において、少なくとも一部の出口目封止セルに、前記出口目封止セルを区画形成する前記隔壁から前記出口目封止セル内に突出する突起部が形成されており、前記突起部が形成された位置における前記出口目封止セルの開口幅が、前記突起部が形成されていない位置における前記出口目封止セルの開口幅の65〜90%であり、前記セルの延びる方向における前記突起部の長さが、3〜10mmであるハニカムフィルタ。
【請求項2】
20%以上の前記出口目封止セルに、前記突起部が形成されている請求項1に記載のハニカムフィルタ。
【請求項3】
前記ハニカム基材の長さ方向に直交する断面の重心を中心とする半径50mmの円の内側に存在する少なくとも一部の前記出口目封止セルに、前記突起部が形成されている請求項1又は2に記載のハニカムフィルタ。
【請求項4】
前記ハニカム基材の長さ方向に直交する断面の重心を中心とする半径50mmの円の外側に存在する少なくとも一部の前記出口目封止セルに、前記突起部が形成されている請求項1又は2に記載のハニカムフィルタ。
【請求項5】
前記ハニカム基材の構成材料が、コージェライト、炭化珪素、珪素−炭化珪素系複合材料、窒化珪素、ムライト、アルミナ、炭化珪素−コージェライト系複合材料、及びチタン酸アルミニウムからなる群から選択される少なくとも1種のセラミックスである請求項1〜の何れか一項に記載のハニカムフィルタ。
【請求項6】
前記突起部が形成されていない位置における前記出口目封止セルの開口幅と、前記入口目封止セルの開口幅とが異なっている請求項1〜の何れか一項に記載のハニカムフィルタ。
【請求項7】
前記ハニカム基材が、複数のハニカム構造のセグメントが一体的に接合されたものである請求項1〜の何れか一項に記載のハニカムフィルタ。
【請求項8】
前記隔壁に、酸化触媒が担持された請求項1〜の何れか一項に記載のハニカムフィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジン等の内燃機関から排出される排ガス中の粒子状物質(パティキュレートマター(以下、「PM」という場合がある。))等を除去するためのハニカムフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン等の内燃機関から排出される排ガスには、環境汚染の原因となるような炭素を主成分とするスス等のPMが多量に含まれている。そのため、ディーゼルエンジン等の排気系には、PMを除去(捕集)するためのフィルタが搭載されることが一般的である。
【0003】
このような目的で使用されるフィルタとして、セラミック材料等からなるハニカムフィルタが広く使用されている。通常、ハニカムフィルタは、ハニカム基材と目封止部とから構成される。ハニカム基材は、流体が流入する側の端面である入口端面から流体が流出する側の端面である出口端面まで延びる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁を有する。このハニカム基材の何れかの端面において、各セルの一方の端部を目封止する目封止部を配設することにより、ハニカムフィルタが得られる(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
このようなハニカムフィルタを排ガスに含まれるPMの除去に用いると、排ガスは、ハニカムフィルタの入口端面から、出口端面において端部が目封止されたセル内に流入する。その後、排ガスは、多孔質の隔壁を透過して、入口端面において端部が目封止されたセル内に移動する。そして、排ガスが、多孔質の隔壁を透過する際に、この隔壁が濾過層となり、排ガス中のPMが隔壁に捕捉されて隔壁上に堆積する。こうして、PMが除去された排ガスは、その後、出口端面から外部に流出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭57−7215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ハニカムフィルタを長期間継続して使用するためには、定期的にフィルタに再生処理を施す必要がある。即ち、ハニカムフィルタの隔壁上に経時的に堆積したPMによって増大した圧力損失を低減させてフィルタ性能を初期状態に戻すため、隔壁上に堆積したPMを燃焼させて除去する必要がある。尚、PMの燃焼を促進させるために、隔壁には、酸化機能を有する触媒がコートされることが一般的である。
【0007】
このハニカムフィルタの再生時には、隔壁上に堆積したPMの層が、触媒機能により隔壁と接触している部分から燃焼する。このため、隔壁と接触している部分よりも表層(隔壁表面から離れた位置)に堆積しているPMと隔壁との間には、再生処理の途中で隙間ができ、その結果、一部のPMは、燃焼する前に隔壁から剥離する。
【0008】
従来のハニカムフィルタにおいては、このように燃焼する前に隔壁から剥離したPMが、ガス流によって出口端面側に移動し、出口端面において端部が目封止されたセルの当該端部付近(目封止部付近)に堆積する。このため、当該端部付近には、まだ燃焼していないPMが過剰に堆積した状態となる。そして、再生処理の継続により、この過剰に堆積したPMが燃焼すると、前記端部付近の温度が急激に上昇し、ハニカムフィルタの破損や溶損が生じる場合が有る。
【0009】
本発明は、このような従来の事情に鑑みてなされたものである。即ち、本発明は、再生処理の途中で隔壁から剥離した燃焼する前のPMが、出口端面において端部が目封止されたセルの当該端部付近に過剰に堆積することがなく、当該端部付近の急激な温度上昇による破損や溶損が生じ難いハニカムフィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明によれば、以下のハニカムフィルタが提供される。
【0011】
[1] 流体が流入する側の端面である入口端面から流体が流出する側の端面である出口端面まで延びる流体の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁を有するハニカム基材を備え、複数の前記セルの内の少なくとも一部のセルが、前記入口端面側又は前記出口端面側において、端部が目封止部によって目封止された目封止セルであり、前記目封止セルの内の一部のセルが、前記ハニカム基材の前記入口端面側において、端部が前記目封止部によって目封止された入口目封止セルであり、前記目封止セルの内の残りのセルが、前記ハニカム基材の前記出口端面側において、前記端部が目封止部によって目封止された出口目封止セルであり、前記入口端面から前記出口端面に向かって、前記ハニカム基材の全長の30%の長さとなる位置と、前記ハニカム基材の全長の80%の長さとなる位置との間の領域において、少なくとも一部の出口目封止セルに、前記出口目封止セルを区画形成する前記隔壁から前記出口目封止セル内に突出する突起部が形成されており、前記突起部が形成された位置における前記出口目封止セルの開口幅が、前記突起部が形成されていない位置における前記出口目封止セルの開口幅の65〜90%であり、前記セルの延びる方向における前記突起部の長さが、3〜10mmであるハニカムフィルタ。
【0013】
] 20%以上の前記出口目封止セルに、前記突起部が形成されている[1]に記載のハニカムフィルタ。
【0014】
] 前記ハニカム基材の長さ方向に直交する断面の重心を中心とする半径50mmの円の内側に存在する少なくとも一部の前記出口目封止セルに、前記突起部が形成されている[1]又は[2]に記載のハニカムフィルタ。
【0015】
] 前記ハニカム基材の長さ方向に直交する断面の重心を中心とする半径50mmの円の外側に存在する少なくとも一部の前記出口目封止セルに、前記突起部が形成されている[1]又は[2]に記載のハニカムフィルタ。
【0016】
] 前記ハニカム基材の構成材料が、コージェライト、炭化珪素、珪素−炭化珪素系複合材料、窒化珪素、ムライト、アルミナ、炭化珪素−コージェライト系複合材料、及びチタン酸アルミニウムからなる群から選択される少なくとも1種のセラミックスである[1]〜[]の何れかに記載のハニカムフィルタ。
【0017】
] 前記突起部が形成されていない位置における前記出口目封止セルの開口幅と、前記入口目封止セルの開口幅とが異なっている[1]〜[]の何れかに記載のハニカムフィルタ。
【0018】
] 前記ハニカム基材が、複数のハニカム構造のセグメントが一体的に接合されたものである[1]〜[]の何れかに記載のハニカムフィルタ。
【0019】
] 前記隔壁に、酸化触媒が担持された[1]〜[]の何れかに記載のハニカムフィルタ。
【発明の効果】
【0020】
本発明のハニカムフィルタによれば、再生処理の途中で、燃焼する前に隔壁から剥離したPMが、出口端面において端部が目封止されたセル内の当該端部付近に過剰に堆積するのを防止することができる。このため、本発明のハニカムフィルタは、当該端部付近の急激な温度上昇による破損や溶損が生じ難い。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明のハニカムフィルタの一の実施形態を模式的に示す斜視図である。
図2】本発明のハニカムフィルタの一の実施形態において、ハニカム基材の入口端面の一部を拡大して示す部分拡大断面図である。
図3】本発明のハニカムフィルタの一の実施形態において、ハニカム基材の出口端面の一部を拡大して示す部分拡大断面図である。
図4】本発明のハニカムフィルタの一の実施形態において、ハニカム基材のセルの延びる方向に平行な断面を示す断面図である。
図5】突起部の形成領域を示す説明図である。
図6】突起部の形成領域を示す説明図である。
図7】突起部の形成領域を示す説明図である。
図8】突起部の形成領域を示す説明図である。
図9】突起部が形成されていない位置における出口目封止セルであって、セルの延びる方向に直交する断面における形状が八角形であるものを模式的に示す部分断面図である。
図10】突起部が形成された位置における出口目封止セルであって、セルの延びる方向に直交する断面における形状が八角形であるものを模式的に示す部分断面図である。
図11】突起部が形成された位置における出口目封止セルであって、セルの延びる方向に直交する断面における形状が八角形であるものを模式的に示す部分断面図である。
図12】突起部が形成された位置における出口目封止セルであって、セルの延びる方向に直交する断面における形状が八角形であるものを模式的に示す部分断面図である。
図13】突起部が形成された位置における出口目封止セルであって、セルの延びる方向に直交する断面における形状が八角形であるものを模式的に示す部分断面図である。
図14】突起部が形成された位置における出口目封止セルであって、セルの延びる方向に直交する断面における形状が八角形であるものを模式的に示す部分断面図である。
図15】突起部が形成されていない位置における出口目封止セルであって、セルの延びる方向に直交する断面における形状が四角形であるものを模式的に示す部分断面図である。
図16】突起部が形成された位置における出口目封止セルであって、セルの延びる方向に直交する断面における形状が四角形であるものを模式的に示す部分断面図である。
図17】突起部が形成された位置における出口目封止セルであって、セルの延びる方向に直交する断面における形状が四角形であるものを模式的に示す部分断面図である。
図18】突起部が形成された位置における出口目封止セルであって、セルの延びる方向に直交する断面における形状が四角形であるものを模式的に示す部分断面図である。
図19】突起部が形成された位置における出口目封止セルであって、セルの延びる方向に直交する断面における形状が四角形であるものを模式的に示す部分断面図である。
図20】突起部が形成された位置における出口目封止セルであって、セルの延びる方向に直交する断面における形状が四角形であるものを模式的に示す部分断面図である。
図21】突起部が形成されていない位置における出口目封止セルと入口目封止セルとを示す部分断面図である。
図22】本発明のハニカムフィルタの他の実施形態を模式的に示す斜視図である。
図23】再生時のフィルタ内の最高温度を測定する際のエンジン、DOC及びハニカムフィルタの配列を示す模式図である。
図24】ハニカムフィルタの一方の端面側から見た温度の測定位置を模式的に示す平面図である。
図25図24のA−A’断面を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を具体的な実施形態に基づき説明するが、本発明は、それらの実施形態に限定されて解釈されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等を加え得るものである。
【0023】
(1)ハニカムフィルタ:
図1は、本発明のハニカムフィルタの一の実施形態を模式的に示す斜視図である。図2は、本発明のハニカムフィルタの一の実施形態において、ハニカム基材の入口端面の一部を拡大して示す部分拡大断面図である。図3は、本発明のハニカムフィルタの一の実施形態において、ハニカム基材の出口端面の一部を拡大して示す部分拡大断面図である。図4は、本発明のハニカムフィルタの一の実施形態において、ハニカム基材のセルの延びる方向に平行な断面を示す断面図である。
【0024】
これらの図に示すように、ハニカムフィルタ100は、ハニカム基材10を備える。ハニカム基材10は、排ガス等の流体が流入する側の端面である入口端面11から流体が流出する側の端面である出口端面12まで延びる流体の流路となる複数のセル2を区画形成する多孔質の隔壁1を有する。ハニカム基材10の隔壁1によって区画形成されている複数のセル2の内の少なくとも一部のセルは、入口端面11側又は出口端面12側において、端部が目封止部3によって目封止された目封止セルである。目封止セルの内の一部のセルは、ハニカム基材10の入口端面11側において、端部が目封止部3によって目封止された入口目封止セル2bである。また、目封止セルの内の残りのセルは、ハニカム基材10の出口端面12側において、端部が目封止部3によって目封止された出口目封止セル2aである。出口目封止セル2aと入口目封止セル2bとは、セル2の延びる方向に直交する断面上の直交する2方向(d1方向とd2方向)において、隔壁1を隔てて隣接するように交互に配置されていることが好ましい。但し、ハニカム基材10の隔壁1によって区画形成されている複数のセル2の内の一部のセルは、入口端面11側及び出口端面12側の何れの端部においても目封止されていない貫通セルであっても良い。
【0025】
このような構造のハニカムフィルタ100を、排ガスに含まれるPMの除去に用いると、排ガスGは、入口端面11から、出口目封止セル2a内に流入した後、多孔質の隔壁1を透過して、入口目封止セル2b内に移動する。そして、排ガスGが、多孔質の隔壁1を透過する際に、この隔壁1が濾過層となり、排ガスG中のPMが隔壁1に捕捉され隔壁1上に堆積する。こうして、PMが除去された排ガスGは、その後、出口端面12から外部に流出する。
【0026】
ハニカムフィルタ100は、その特徴的な構造として、少なくとも一部の出口目封止セル2aに、その出口目封止セル2aを区画形成する隔壁1から出口目封止セル2a内に突出する突起部5が形成されている。
【0027】
既述のとおり、ハニカムフィルタ100の再生時には、隔壁1上に堆積したPMの層が、隔壁1と接触している部分から燃焼する。このため、隔壁1と接触している部分よりも表層(隔壁1の表面から離れた位置)に堆積しているPMと隔壁1との間には、再生処理の途中で隙間ができ、その結果、一部のPMは、燃焼する前に隔壁1から剥離する。
【0028】
突起部5は、このように隔壁1から剥離した燃焼する前のPMが、出口目封止セル2aの端部付近(目封止部3付近)に移動して、当該端部付近に過剰に堆積するのを防止するために形成されたものである。即ち、突起部5の形成位置よりも入口端面11に近い位置において隔壁1から剥離したPMの一部は、突起部5によって、出口端面12側への移動が遮られ、突起部5上に堆積することになる。このため、出口目封止セル2aの端部付近にまで移動するPMの量が減少し、PMが当該端部付近に過剰に堆積するのを防止できる。その結果、再生処理時における出口目封止セル2aの端部付近の急激な温度上昇を回避して、ハニカムフィルタ100の破損や溶損を防ぐことができる。
【0029】
図5に示すように、突起部5は、入口端面11から出口端面12に向かって、ハニカム基材10の全長H1の30%の長さH2となる位置P1と、ハニカム基材10の全長H1の80%の長さH3となる位置P2との間の領域R1に形成される。尚、位置P1と位置P2は、領域R1に含まれるものとする。
【0030】
突起部5を、このような領域R1に形成することにより、出口目封止セル2aの端部付近にまで移動するPMの量を効果的に減少させることができる。突起部5が、領域R1よりも入口端面11に近い位置に形成されていると、突起部5によって出口端面12側への移動を遮ることができるPMの量が少なすぎて、PMが出口目封止セル2aの端部付近に過剰に堆積するのを防止することが困難となる。また、突起部5が、領域R1よりも出口端面12に近い位置に形成されていると、PMが突起部5上に過剰に堆積して、突起部5付近に急激な温度上昇による破損や溶損が生じるおそれがある。
【0031】
図6に示すように、突起部5は、入口端面11から出口端面12に向かって、ハニカム基材10の全長H1の40%の長さH4となる位置P3と、ハニカム基材10の全長H1の75%の長さH5となる位置P4との間の領域R2に形成されることが好ましい。また、図7に示すように、突起部5は、入口端面11から出口端面12に向かって、ハニカム基材10の全長H1の45%の長さH6となる位置P5と、ハニカム基材10の全長H1の70%の長さH7となる位置P6との間の領域R3に形成されることが更に好ましい。また、図8に示すように、突起部5は、入口端面11から出口端面12に向かって、ハニカム基材10の全長H1の50%の長さH8となる位置P7と、ハニカム基材10の全長H1の65%の長さH9となる位置P8との間の領域R4に形成されることが特に好ましい。尚、位置P3と位置P4は、領域R2に含まれ、位置P5と位置P6は、領域R3に含まれ、位置P7と位置P8は、領域R4に含まれるものとする。
【0032】
図9は、突起部5が形成されていない位置における出口目封止セル2aであって、セルの延びる方向に直交する断面における形状が八角形であるものを模式的に示す部分断面図である。また、図10図14は、突起部5が形成された位置における出口目封止セル2aであって、セルの延びる方向に直交する断面における形状が八角形であるものを模式的に示す部分断面図である。
【0033】
図10には、出口目封止セル2aを区画形成する隔壁1の内周全体に渡って連続的に形成された、中央部に孔を有する環状の突起部5が示されている。また、図11及び図12には、出口目封止セル2aを区画形成する隔壁1の内周方向に沿って、複数個に分けて部分的に形成された突起部5が示されている。また、図13及び図14には、出口目封止セル2aを区画形成する隔壁1の一部に部分的に形成された単一の突起部5が示されている。これらの図に例示されるように、本発明における突起部5は、出口目封止セル2aを区画形成する隔壁1から出口目封止セル2a内に突出するように形成されたものであればよく、その形状や個数は制限されない。
【0034】
本発明において、突起部5が形成された位置における出口目封止セル2aの開口幅W2は、突起部5が形成されていない位置における出口目封止セル2aの開口幅W1の65〜90%である。ここで、突起部5が形成されていない位置における出口目封止セル2aの開口幅W1とは、セルの配列方向における出口目封止セル2aの幅を意味する。また、突起部5が形成された位置における出口目封止セル2aの開口幅W2とは、図10のように、環状の突起部5が形成されている場合には、その突起部5の中央部の孔のセルの配列方向における孔径を意味する。また、図11図14のように、突起部5が、出口目封止セル2aを区画形成する隔壁1の内周に部分的に形成されている場合には、セルの配列方向における突起部5同士の間又は突起部5と隔壁1との間の最短の距離を意味する。
【0035】
開口幅W2を開口幅W1の65〜90%とすることにより、圧力損失の上昇を抑えつつ、出口目封止セル2aの端部付近にまで移動するPMの量を効果的に減少させることができる。開口幅W2が開口幅W1の65%未満だと、圧力損失が高くなりすぎて、ハニカムフィルタ100をディーゼルエンジン等の排気系に搭載した場合に、エンジンの出力低下を招くことがある。また、開口幅W2が開口幅W1の90%を超えると、突起部によって出口端面12側への移動を遮ることができるPMの量が少なすぎて、PMが出口目封止セル2aの端部付近に過剰に堆積するのを防止することが困難となる。
【0036】
開口幅W2は、開口幅W1の70〜90%であることが好ましく、開口幅W1の75〜90%であることが更に好ましく、開口幅W1の80〜90%であることが特に好ましい。
【0037】
尚、図9図14は、出口目封止セル2aのセルの延びる方向に直交する断面における形状(セル形状)が八角形である場合の例を示しているが、出口目封止セル2aの形状は、八角形に限られるものではない。例えば、図15は、突起部5が形成されていない位置における出口目封止セル2aであって、セルの延びる方向に直交する断面における形状が四角形であるものを模式的に示す部分断面図である。また、図16図20は、突起部5が形成された位置における出口目封止セル2aであって、セルの延びる方向に直交する断面における形状が四角形であるものを模式的に示す部分断面図である。
【0038】
本発明おいて、セルの延びる方向における突起部5の長さLは、3〜10mmである。セルの延びる方向における突起部5の長さLを、このような範囲とすることにより、突起部5と隔壁1との接合強度を十分に高くすることができ、突起部5が隔壁1から脱落し難くなる。セルの延びる方向における突起部5の長さLが3mm未満だと、突起部5と隔壁1との接合強度が不足して、突起部5が隔壁1から脱落し易くなる場合が有る。また、セルの延びる方向における突起部5の長さLが10mmを超えると、圧力損失が高くなりすぎて、ハニカムフィルタ100をディーゼルエンジン等の排気系に搭載した場合に、エンジンの出力低下を招くことがある。
【0039】
セルの延びる方向における突起部5の長さLは、3〜8mmであることがより好ましく、3〜6mmであることが更に好ましく、4〜6mmであることが特に好ましい。
【0040】
本発明においては、20%以上の出口目封止セル2aに、突起部5が形成されていることが好ましい。20%以上の出口目封止セル2aに、突起部5が形成されていることにより、PMが出口目封止セル2aの端部付近に過剰に堆積するのを、効果的に防止することができる。
【0041】
本発明においては、30%以上の出口目封止セル2aに、突起部5が形成されていることがより好ましく、40%以上の出口目封止セル2aに、突起部5が形成されていることが更に好まし。また、50%以上の出口目封止セル2aに、突起部5が形成されていることが特に好ましく、全ての出口目封止セル2aに、突起部5が形成されていることが最も好ましい。
【0042】
また、本発明おいては、特定の部位(例えば、排ガスの流量が多い部位)に存在する出口目封止セル2aに対して、限定的に突起部5が形成されていてもよい。例えば、ハニカム基材10の長さ方向に直交する断面の重心を中心とする半径50mmの円の内側に存在する少なくとも一部の出口目封止セル2aに、突起部が形成されていてもよい。また、逆に、ハニカム基材10の長さ方向に直交する断面の重心を中心とする半径50mmの円の外側に存在する少なくとも一部の出口目封止セル2aに、突起部が形成されていてもよい。尚、ここで言う「重心」とは、ハニカム基材10のセル2の延びる方向に直行する断面において、ハニカム基材10の外周縁により描かれる図形の重心のことである。
【0043】
本発明の上記実施形態においては、出口目封止セル2aの開口幅と、入口目封止セル2bの開口幅とが異なっている。具体的には、図21に示すように、突起部5が形成されていない位置における出口目封止セル2aの開口幅W1が、入口目封止セル2bの開口幅W3よりも広くなっている。このようにすることにより、出口目封止セル2aが、隔壁1上に堆積したPMにより閉塞するのを抑制することができる。但し、本発明においては、突起部5が形成されていない位置における出口目封止セル2aの開口幅W1と、入口目封止セル2bの開口幅W3とが、同一であってもよい。また、突起部5が形成されていない位置における出口目封止セル2aの開口幅W1が、入口目封止セル2bの開口幅W3よりも狭くなっていてもよい。また、本発明の上記実施形態においては、出口目封止セル2aが八角形で、入口目封止セル2bが四角形となっているが、出口目封止セル2aの形状と、入口目封止セル2bの形状とは、同一であってもよい。例えば、出口目封止セル2aの形状と、入口目封止セル2bの形状とが、両方とも四角形であってもよい。
【0044】
ハニカム基材10の隔壁1の厚さは、120〜500μmであることが好ましく、200〜450μmであることが更に好ましく、250〜400μmであることが特に好ましい。隔壁1の厚さが120μm未満であると、十分な強度が得られない場合がある。また、隔壁1の厚さが500μmを超えると、圧力損失が高くなり過ぎて、ハニカムフィルタ100をディーゼルエンジン等の排気系に搭載した場合に、エンジンの出力低下を招くことがある。
【0045】
ハニカム基材10の隔壁1の気孔率は、30〜75%であることが好ましく、35〜70%であることが更に好ましく、40〜65%であることが特に好ましい。隔壁1の気孔率が30%未満であると、圧力損失が高くなり過ぎて、ハニカムフィルタ100をディーゼルエンジン等の排気系に搭載した場合に、エンジンの出力低下を招くことがある。また、隔壁1の気孔率が75%を超えると、十分な強度が得られない場合がある。尚、ここで言う「気孔率」は、水銀ポロシメータによって測定した値である。
【0046】
ハニカム基材10の隔壁1の平均細孔径は、5〜35μmであることが好ましく、8〜30μmであることが更に好ましく、10〜25μmであることが特に好ましい。隔壁1の平均細孔径が5μm未満であると、圧力損失が高くなり過ぎて、ハニカムフィルタ100をディーゼルエンジン等の排気系に搭載した場合に、エンジンの出力低下を招くことがある。また、隔壁1の平均細孔径が35μmを超えると、PMの捕集効率が不十分となることがある。尚、ここで言う「平均細孔径」は、水銀ポロシメータによって測定した値である。
【0047】
ハニカム基材10のセル密度は、15〜70セル/cmであることが好ましく、30〜65セル/cmであることが更に好ましく、38〜55セル/cmであることが特に好ましい。ハニカム基材10のセル密度が15セル/cm未満であると、ハニカムフィルタ100の強度や有効濾過面積が不十分となることがある。また、ハニカム基材10のセル密度が70セル/cm超えるとであると、圧力損失が高くなり過ぎて、ハニカムフィルタ100をディーゼルエンジン等の排気系に搭載した場合に、エンジンの出力低下を招くことがある。
【0048】
ハニカム基材10を構成する材料としては、セラミックスが好ましい。特に、コージェライト、炭化珪素、珪素−炭化珪素系複合材料、窒化珪素、ムライト、アルミナ、炭化珪素−コージェライト系複合材料、及びチタン酸アルミニウムからなる群から選択される少なくとも1種のセラミックスが、強度及び耐熱性に優れる点で好ましい。
【0049】
目封止部3を構成する材料としては、目封止部3とハニカム基材10との熱膨張差を小さくするため、ハニカム基材10を構成する材料と同じ材料を用いることが好ましい。セル2の延びる方向における目封止部3の長さ(目封止部3の深さ)は、特に限定されず、ハニカムフィルタ100の使用環境等に応じて適宜決定することができる。
【0050】
ハニカム基材10の全体形状(外形)は、特に限定されず、例えば、円柱状、セルの延びる方向に直交する断面が楕円形、レーストラック形状、三角形、四角形、五角形、六角形、八角形等の多角形の柱状等を挙げることができる。
【0051】
また、セルの延びる方向に直交する断面における、出口目封止セル2aと入口目封止セル2bの断面形状も、特に限定されない。例えば、好適な態様の1つとして、図1に示すように、出口目封止セル2aの断面形状を八角形とし、入口目封止セル2bの断面形状を四角形としたものが挙げられる。
【0052】
また、図22に示す実施形態のように、ハニカムフィルタ100を構成するハニカム基材10は、複数のハニカム構造のセグメント(ハニカムセグメント)20が一体的に接合されたセグメント構造のハニカム基材であってもよい。ハニカムセグメント20は、入口端面11から出口端面12まで延びる流体の流路となる複数のセル2を区画形成する多孔質の隔壁1を有するものである。複数のハニカムセグメント20を、長さ方向に直交する方向において、互いの側面同士が対向するように組み合わせ、接合材21にて一体的に接合することにより、セグメント構造のハニカム基材10を得ることができる。尚、複数のハニカムセグメント20を接合一体化した後、その外周を研削して、ハニカム基材10を円柱状等の所定の形状に加工してもよい。また、この場合、研削が施された面(加工面)にコート材を塗布して、外周コート層22を形成するようにしてもよい。
【0053】
接合材としては、無機繊維、コロイダルシリカ、粘土、SiC粒子等の無機原料に、有機バインダ、発泡樹脂、分散剤等の添加材を加えたものに水を加えて混練したスラリー等を挙げることができる。コート材には、ハニカム基材を構成する材料と同じ材料を用いることが好ましい。
【0054】
本発明のハニカムフィルタ100においては、隔壁1に酸化触媒が担持されていることが好ましい。隔壁1に酸化触媒が担持されていることにより、フィルタの再生時において、隔壁1上に堆積したPMの燃焼を促進することができる。酸化触媒としては、例えば、Pt、Pd、Rh等の貴金属を耐熱性無機酸化物からなる粒子に担持させたものを用いることができる。
【0055】
酸化触媒の担持量については、特に制限はない。例えば、ハニカム基材10の単位体積当りの担持量として、5〜150g/Lであることが好ましく、5〜100g/Lであることが更に好ましく、5〜50g/Lであることが特に好ましい。酸化触媒の担持量が5g/L未満では、PMの燃焼が十分に促進されないことがある。また、酸化触媒の担持量が150g/Lを超えると、圧力損失が大きくなりすぎる場合がある。
【0056】
(2)ハニカムフィルタの製造方法:
以下、本発明のハニカムフィルタの製造方法の一例を説明する。まず、セラミック原料を含有する成形原料を調製する。セラミック原料としては、コージェライト化原料、炭化珪素、珪素−炭化珪素系複合材料、窒化珪素、ムライト、アルミナ、炭化珪素−コージェライト系複合材料、及びチタン酸アルミニウムからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。なお、コージェライト化原料とは、焼成されることによりコージェライトになる原料のことであり、具体的には、シリカが42〜56質量%、アルミナが30〜45質量%、マグネシアが12〜16質量%の範囲に入る化学組成となるように配合された原料である。
【0057】
成形原料は、前記セラミック原料に、分散媒、焼結助剤、有機バインダ、界面活性剤、造孔材等を混合して調製することが好ましい。
【0058】
分散媒としては、水を用いることが好ましい。分散媒の含有量は、成形原料を混練して得られる坏土が成形しやすい硬度となるように適宜調整する。具体的な分散媒の含有量としては、成形原料全体に対して20〜80質量%であることが好ましい。
【0059】
焼結助剤としては、例えば、イットリア、マグネシア、酸化ストロンチウム等を用いることができる。焼結助剤の含有量は、成形原料全体に対して0.1〜0.3質量%であることが好ましい。
【0060】
有機バインダとしては、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシプロポキシルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等を挙げることができる。これらの中でも、メチルセルロースとヒドロキシプロポキシルセルロースとを併用することが好ましい。バインダの含有量は、成形原料全体に対して2〜10質量%であることが好ましい。
【0061】
界面活性剤としては、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸石鹸、ポリアルコール等を用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。界面活性剤の含有量は、成形原料全体に対して2質量%以下であることが好ましい。
【0062】
造孔材としては、焼成後に気孔となるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、グラファイト、澱粉、発泡樹脂、中空樹脂、吸水性樹脂、シリカゲル等を挙げることができる。造孔材の含有量は、成形原料全体に対して10質量%以下であることが好ましい。
【0063】
次に、成形原料を混練して坏土を形成する。成形原料を混練して坏土を形成する方法には特に制限はない。例えば、ニーダー、真空土練機等を用いる方法を挙げることができる。
【0064】
次いで、得られた坏土を成形して、ハニカム成形体を形成する。ハニカム成形体は、流体の流路となる複数のセルを区画形成する隔壁を有する成形体である。坏土を成形してハニカム成形体を形成する方法には特に制限はなく、押出成形法、射出成形法等の公知の成形方法を用いることができる。例えば、所望のセル形状、隔壁厚さ等に対応した口金を用いて押出成形する方法等を好適例として挙げることができる。口金の材質としては、摩耗し難い超硬合金が好ましい。
【0065】
こうして得られたハニカム成形体を乾燥させた後、焼成する。乾燥方法は、例えば、熱風乾燥、マイクロ波乾燥、誘電乾燥、減圧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等を挙げることができる。中でも、誘電乾燥、マイクロ波乾燥又は熱風乾燥を単独で又は組み合わせて行うことが好ましい。
【0066】
続いて、乾燥後のハニカム成形体(ハニカム乾燥体)を焼成して、ハニカム基材を作製する。なお、この焼成(本焼成)の前に、ハニカム成形体中に含まれているバインダ等を除去するため、仮焼(脱脂)を行うことが好ましい。仮焼の条件は、特に限定されるものではなく、ハニカム成形体中に含まれている有機物(有機バインダ、界面活性剤、造孔材等)を除去することができるような条件あればよい。一般に、有機バインダの燃焼温度は100〜300℃程度、造孔材の燃焼温度は200〜800℃程度である。そのため、仮焼の条件としては、酸化雰囲気において、200〜1000℃程度で、3〜100時間程度加熱することが好ましい。
【0067】
ハニカム成形体の焼成(本焼成)は、仮焼したハニカム成形体を構成する成形原料を焼結させて緻密化し、所定の強度を確保するために行われるものである。焼成の条件(温度、時間、雰囲気等)は、成形原料の種類により異なるため、その種類に応じて適当な条件を選択すればよい。例えば、コージェライト化原料を使用している場合には、焼成温度は、1350〜1440℃が好ましい。また、焼成時間は、最高温度でのキープ時間として、3〜10時間が好ましい。仮焼、本焼成を行う装置としては、電気炉、ガス炉等を挙げることができる。
【0068】
次に、ハニカム基材に目封止部と突起部とを形成する。目封止部は、出口目封止セルについては、ハニカム基材の出口端面側において、端部が目封止されるように形成し、入口目封止セルについては、ハニカム基材の入口端面側において、端部が目封止されるように形成する。この目封止部の形成には、従来公知の方法を用いることができる。具体的な方法の一例としては、まず、前記のような方法で作製したハニカム基材の端面にシートを貼り付ける。次いで、このシートの、目封止部を形成しようとするセルに対応した位置に穴を開ける。次に、このシートを貼り付けたままの状態で、目封止部の形成材料をスラリー化した目封止用スラリーに、ハニカム基材の端面を浸漬し、シートに開けた孔を通じて、目封止しようとするセルの開口端部内に目封止用スラリーを充填する。
【0069】
また、突起部の形成は、まず、突起部の形成材料をスラリー化した突起部用スラリーを調製し、それをスポイトで吸引する。次いで、このスポイトの先端を、突起部を形成しようとする出口目封止セル内の所定位置まで差し込んで、スポイトから吐出させた突起部用スラリーを、出口目封止セルを区画形成している隔壁の表面に付着させる。
【0070】
こうしてセル内に充填した目封止用スラリーと、隔壁の表面に付着させた突起部用スラリーとを乾燥した後、焼成して硬化させることにより、目封止部と突起部とが形成される。目封止部の形成材料及び突起部の形成材料には、ハニカム基材の形成材料と同じ材料を用いることが好ましい。なお、目封止部及び突起部の形成は、ハニカム成形体の乾燥後、仮焼後あるいは焼成(本焼成)後のいずれの段階で行ってもよい。以上のような製造方法により、本発明のハニカムフィルタを得ることができる。
【0071】
(3)触媒の担持方法:
次に、前記のようにして製造されたハニカムフィルタの隔壁に、酸化触媒を担持する方法の一例を説明する。まず、担持させようとする酸化触媒を含む触媒スラリーを調製する。この触媒スラリーを、ハニカム基材の隔壁にコートする。コートの方法は、特に限定されない。例えば、ハニカム基材の一方の端面を触媒スラリー中に漬けた状態で、ハニカム基材の他方の端面から吸引する方法(吸引法)が好適なコート方法として挙げられる。こうして、ハニカム基材の隔壁に触媒スラリーをコートした後、触媒スラリーを乾燥させる。更に、乾燥した触媒スラリーを焼成してもよい。このようにして、隔壁に酸化触媒が担持されたハニカムフィルタを得ることができる。
【実施例】
【0072】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0073】
(実施例1)
炭化珪素(SiC)粉末と金属珪素(Si)粉末とを80:20の質量割合で混合してセラミック原料を得た。得られたセラミック原料に、バインダとしてヒドロキシプロピルメチルセルロース、造孔材として吸水性樹脂を添加するとともに、水を添加して成形原料とし、この成形原料を真空土練機により混練して坏土を作製した。バインダの添加量は、セラミック原料100質量部に対し、7質量部とした。造孔材の添加量は、セラミック原料100質量部に対し、3質量部とした。水の添加量は、セラミック原料100質量部に対し、42質量部とした。
【0074】
得られた坏土を、所定形状の口金を用いて押出成形し、全体形状が四角柱状のハニカム成形体を得た。こうして得られたハニカム成形体を、マイクロ波乾燥機で乾燥した後、更に熱風乾燥機で乾燥させて、ハニカム乾燥体を得た。
【0075】
次いで、ハニカム乾燥体の所定のセル(最終的に出口目封止セルとなるセル)の一方の端部と、残余のセル(最終的に入口目封止セルとなるセル)の他方の端部とに目封止部を形成した。目封止部の形成は、ハニカム乾燥体の両端面(最終的に入口端面となる端面と出口端面になる端面)が、端部に目封止部が形成されたセルと、端部に目封止部が形成されていないセルとによって、市松模様を呈するように行った。目封止部の形成方法としては、まず、ハニカム乾燥体の端面にシートを貼り付け、このシートの、目封止部を形成しようとするセルに対応した位置に穴を開けた。続いて、このシートを貼り付けたままの状態で、目封止部の形成材料をスラリー化した目封止用スラリーに、ハニカム乾燥体の端面を浸漬し、シートに開けた孔を通じて、目封止しようとするセルの端部内に目封止用スラリーを充填した。尚、目封止部の形成材料には、前記成形原料と同じものを用いた。
【0076】
次に、ハニカム乾燥体の所定のセル(最終的に出口目封止セルとなるセル)に、突起部を形成した。突起部の形成方法としては、まず、突起部の形成材料をスラリー化した突起部用スラリーを、スポイトで吸引した。次いで、このスポイトの先端を、突起部を形成しようとするセル内の所定位置まで差し込んで、スポイトから吐出させた突起部用スラリーを、当該セルを区画形成している隔壁の表面に付着させた。尚、突起部の形成材料には、前記成形原料と同じものを用いた。
【0077】
こうして、セルの端部内に充填した目封止用スラリーと、隔壁の表面に付着させた突起部用スラリーとを乾燥させた後、ハニカム乾燥体を、大気雰囲気にて約400℃で仮焼(脱脂)した。その後、Ar不活性雰囲気にて約1450℃で焼成することにより、ハニカムセグメントを得た。このようにして16個のハニカムセグメントを得た。得られたハニカムセグメントは、セルの延びる方向に直交する断面が一辺36mmの正方形であり、セルの延びる方向における長さが152mmであった。
【0078】
続いて、アルミナ粉に、シリカファイバー、有機バインダ及び水を添加してスラリー状の接合材を得た。この接合材を、各ハニカムセグメントの側面に厚さ約1mmとなるように塗布した後、16個のハニカムセグメントを、縦4個×横4個となるように、側面同士を対向させて組み合わせ、ハニカムセグメント積層体を作製した。このハニカムセグメント積層体を、120℃で2時間乾燥させて、全体形状が四角柱状のハニカムセグメント接合体を得た。
【0079】
次いで、このハニカムセグメント接合体の全体形状が円柱状となるように、その外周を研削加工した。研削加工後、その加工面に接合材と同じ組成の外周コート材を1mmの厚さで塗布し、700℃で2時間乾燥硬化させて外周コート層を形成した。
【0080】
次に、白金(Pt)とアルミナ(Al)とを含有する触媒スラリーを調製した。そして、吸引法により、ハニカムセグメント接合体の隔壁の表面に、触媒スラリーのコート層を形成した後、加熱乾燥することによって、実施例1のハニカムフィルタを作製した。尚、ハニカムフィルタの体積1リットル当たりの触媒スラリーのコート量は15gとした。
【0081】
こうして作製された実施例1のハニカムフィルタは、直径が144mmで、長さが152mmであった。隔壁の厚さは305μmで、隔壁の気孔率は52%であった。セル密度は46.5セル/cmであった。目封止部の深さ(セルの延びる方向における目封止部の長さ)は、6mmであった。セルの延びる方向に直交する断面における出口目封止セルの形状は八角形で、入口目封止セルの形状は正方形であった。突起部が形成されていない位置における出口目封止セルの開口幅は1.35mmで、突起部が形成された位置における出口目封止セルの開口幅は1.00mmであった。入口目封止セルの開口幅は1.01mmであった。突起部の形成位置は、入口端面からの距離が45mmとなる位置(入口端面から出口端面に向かって、ハニカムフィルタの全長の30%の長さとなる位置)であった。セルの延びる方向における突起部の長さは5mmであった。突起部は、全ての出口目封止セルに形成した。
【0082】
(実施例2〜6及び比較例1〜3)
突起部の形成位置を、表2に示す位置に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜6及び比較例1〜3のハニカムフィルタを作製した。
【0083】
(実施例7〜9及び比較例4〜6)
突起部が形成された位置における出口目封止セルの開口幅を、表2に示す値に変更した以外は、実施例3と同様にして、実施例7〜9及び比較例4〜6のハニカムフィルタを作製した。
【0084】
(評価)
上記のようにして作製された実施例1〜9及び比較例1〜6のハニカムフィルタについて、下記の方法で、「再生時のフィルタ内最高温度」及び「圧力損失比」を測定した。
【0085】
[再生時のフィルタ内最高温度]
図23に示すように、排気量2Lのディーゼルエンジン30の直下に、酸化触媒を担持させたフロースルーハニカム担体(DOC)31を配置し、更にその後方にハニカムフィルタ100を配置した。DOC31は、直径が144mmで、セルの延びる方向の長さが76mmの円柱状のものであった。また、このDOC31は、隔壁の厚さが100μmで、セル密度が62セル/cmであった。
【0086】
次に、ハニカムフィルタ100内に20gのススを堆積させた。ススを堆積させる条件は、エンジン回転数を2000rpm、エンジントルクを60Nmとした。次に、エンジン回転数2000rpm、エンジントルク50Nmにてポストインジェクションを行い、ハニカムフィルタ100の入口端面における排ガスの温度が、620℃になるように制御して、約50%のススが燃焼するまでフィルタの再生(1回目の再生)を行った。次に、エンジン回転数1000rpm、エンジントルクを無負荷とした状態から、エンジン回転数4000rpm、エンジントルクを全負荷とした状態に2分間かけて切り換えるサイクルを、3回続けて実施した。次いで、エンジン回転数1700rpm、エンジントルク80Nmにてポストインジェクションを90秒間行った。続いて、エンジン回転数1000rpm、トルクを無負荷とした状態を200秒間継続して、フィルタの再生(2回目の再生)を行い、残りススを燃焼させた。この2回目の再生時おけるハニカムフィルタ内の温度を測定し、その最高温度を表2に示した。
【0087】
この温度の測定は、セル内に挿入した熱電対により行った。図24は、ハニカムフィルタ100の入口端面11側から見た温度の測定位置を模式的に示す平面図であり、図25は、そのA−A’断面を模式的に示す断面図である。尚、これらの図では、隔壁や目封止部の描画を省略している。熱電対による温度測定位置は、TC01〜TC09の9箇所である。ハニカムフィルタ100の入口端面側から見たTC01〜TC09の位置は、ハニカムフィルタの中心軸を原点Oとして、X軸、Y軸を想定したとき、原点OからX軸方向に18mm、Y軸方向に18mm離れた位置である。また、ハニカムフィルタ100のセルの延びる方向におけるTC01〜TC09の位置は、ハニカムフィルタ100の入口端面11からの距離が、表1に示す値となる位置である。
【0088】
[圧力損失比]
ハニカムフィルタ100に、室温(25℃)の空気を10m/分の流量で流した際のハニカムフィルタ100の入口端面11側と出口端面12側との圧力を測定し、その圧力差を算出することにより、圧力損失を求めた。そして、突起部が形成されていない以外は実施例1と同様にして作製された従来構造のハニカムフィルタの圧力損失を100%とした時の、各ハニカムフィルタ100の相対的な圧力損失を、圧力損失比として表2に示した。
【0089】
【表1】
【0090】
【表2】
【0091】
(考察)
表2に示すとおり、本発明の実施例である実施例1〜9は、再生時のフィルタ内の最高温度が1200℃以下と低いため、破損や溶損は生じ難いと考えられる。また、実施例1〜9は、圧力損失比も比較的低いため、ディーゼルエンジン等の排気系に搭載しても、エンジン性能に及ぼす影響は少ないと考えられる。一方、突起部の形成位置が入口端面に近すぎる比較例1及び2と、突起部の形成位置が出口端面に近すぎる比較例3は、再生時のフィルタ内の最高温度が1200℃を大きく超えるため、破損や溶損が生じ易いと考えられる。また、突起部が形成された位置における出口目封止セルの開口幅が、突起部が形成されていない位置における出口目封止セルの開口幅の65%未満である比較例4及び5は、圧力損失比が高すぎるため、実用は困難だと考えられる。また、突起部が形成された位置における出口目封止セルの開口幅が、突起部が形成されていない位置における出口目封止セルの開口幅の90%を超える比較例6は、再生時のフィルタ内の最高温度が1200℃を大きく超えるため、破損や溶損が生じ易いと考えられる。
【0092】
(実施例11〜13、参考例1014)
セルの延びる方向における突起部の長さを、表3に示す長さに変更した以外は、実施例3と同様にして、実施例11〜13、参考例1014のハニカムフィルタを作製した。
【0093】
(評価)
上記のようにして作製された実施例11〜13、参考例1014及び実施例3のハニカムフィルタについて、上記の方法で「圧力損失比」を測定するとともに、下記の方法で「押し抜き強度」を調べた。
【0094】
[押し抜き強度]
直径0.8mmのピンを、入口端面側から出口目封止セル内に挿入し、1MPa(=0.5N)の力で突起部を押した時に、突起部が隔壁から脱落するかどうかを調べ、その結果を表3に示した。
【0095】
【表3】
【0096】
(考察)
表3に示すとおり、セルの延びる方向における突起部の長さが3〜10mmである実施例3及び実施例11〜13は、突起部が隔壁から脱落せず、圧力損失比も比較的低かった。セルの延びる方向における突起部の長さが2mmである参考例10は、突起部が隔壁から脱落したが、圧力損失は比較的低かった。セルの延びる方向における突起部の長さが11mmである参考例14は、突起部が隔壁から脱落しなかったが、圧力損失比は、やや高めであった。これらのことから、セルの延びる方向における突起部の長さは、3〜10mmとするのが好ましいと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明は、ディーゼルエンジン等の内燃機関から排出される排ガス中の粒子状物質等を除去するためのハニカムフィルタとして、好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0098】
1:隔壁、2:セル、2a:出口目封止セル、2b:入口目封止セル、3:目封止部、5:突起部、10:ハニカム基材、11:入口端面、12:出口端面、20:ハニカムセグメント、21:接合材、22:外周コート層、30:ディーゼルエンジン、31:DOC、100:ハニカムフィルタ、d1,d2:セルの配列方向、G:排ガス、H1:ハニカム基材の全長、H2,H3,H4,H5,H6,H7,H8,H9:突起部を形成する領域を特定するための長さ、L:突起部の長さ、R1,R2,R3,R4:突起部を形成する領域、TC01,TC02,TC03,TC04,TC05,TC06,TC07,TC08,TC09:温度測定位置、W1:突起部が形成されていない位置における出口目封止セルの開口幅、W2:突起部が形成された位置における出口目封止セルの開口幅、W3:入口目封止セルの開口幅。
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