【文献】
J. Biol. Chem., 1994, Vol.269, No.9, p.6491-6497
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記物質が、生物兵器物質、アレルゲン、寄生虫抗原、真菌抗原、ウイルス抗原、細菌抗原、細胞性抗原及び抗体からなる群から選択される、生物学的物質である、請求項1に記載の方法。
前記バイオセンサー細胞が、キメラ融合タンパク質を安定的に発現する、B細胞、T細胞、単球、マクロファージ、HEK293細胞、CHO細胞、P815、K562又はCos−1細胞である、請求項1に記載の方法。
前記キメラ融合タンパク質を安定的に発現する、B細胞、T細胞、単球、マクロファージ、HEK293細胞、CHO細胞、P815、K562、又はCos−1細胞である、請求項8に記載のバイオセンサー細胞。
配列番号10に示されるFcγRIII/Igα融合タンパク質である、又は配列番号10の全長に対して少なくとも95%の配列同一性を有する配列変異体である、請求項10に記載のキメラ融合タンパク質。
配列番号23に示されるFcγRIII/膜Ig融合タンパク質である、又は配列番号23の全長に対して少なくとも95%の配列同一性を有する配列変異体である、請求項10に記載のキメラ融合タンパク質。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、広範囲の環境物質及び病原物質に対する複数の検査プラットフォームにおける使用に適合され得るユニバーサルバイオセンサーの開発が必要とされている。本発明は、この及び他の重要な目標に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
試料において標的物質を検出し定量するために使用することができるユニバーサル抗体媒介バイオセンサー、及び選択された標的物質から試料をスクリーニングするのにバイオセンサーを使用する方法が本明細書において提供される。
【0008】
本発明のバイオセンサーは、概して新規なキメラ融合タンパク質を安定的に発現する細胞株を含む。該融合タンパク質は、シグナル伝達ドメイン(免疫グロブリンアルファ(Igα)の細胞内活性化ドメイン等)に融合された抗体結合ドメイン(Fcγ受容体(FcγR)の細胞外ドメイン等)を含む。N末端細胞外抗体結合ドメインが抗体のFc領域に結合する能力を有するのに対し、C末端細胞内シグナル伝達ドメインはCa
2+放出等の細胞プロセスを活性化する能力を有する。抗体結合ドメインに結合された抗体がそれらの同族の抗原によって架橋されると、かかる活性化が起こる。
【0009】
キメラ融合タンパク質の抗体結合ドメインが抗体のFc領域を結合することから、融合タンパク質によって結合され得る抗体は、抗体の抗原特異性によって制限されない。したがって、キメラ融合タンパク質は、選択された標的(例えば抗原又は病原物質)を認識し結合する任意の利用可能な抗体を結合する能力を有する。
【0010】
本発明のバイオセンサーは、各選択された標的物質に対して個別のキメラ融合タンパク質の産生を必要とせずに、同じプラットフォームを使用して、広範囲の異なる標的物質の存在について試験する迅速かつ経済的な手段を提供する。このユニバーサルバイオセンサーは、商業的に入手可能な抗体、及びバイオセンサーと共に使用されるように特異的に産生された抗体とあわせて使用可能である。
【0011】
融合タンパク質
第1の実施の形態では、本発明は、Fcγ受容体(FcγR)抗体結合ドメインと、膜貫通ドメインと、シグナル伝達ドメインとを含むキメラ融合タンパク質に関する。融合タンパク質は、それらの抗体結合ドメインを介して抗体のFc領域を認識し結合する能力を有する。また、融合タンパク質は、該融合タンパク質を発現する細胞の細胞内シグナル伝達カスケードを活性化する能力を有する。或る特定の態様では、細胞内シグナル伝達カスケードは、結果的に細胞内のCa
2+の放出をもたらす。
【0012】
本実施の形態の或る特定の態様では、FcγR抗体結合ドメインは、配列番号1若しくは配列番号3に示されるFcγRI抗体結合ドメインである、又は配列番号1若しくは配列番号3の全長に対して少なくとも95%の配列同一性を有するその配列変異体である。本実施の形態の他の或る特定の態様では、FcγR抗体結合ドメインは、配列番号2若しくは配列番号4に示されるFcγRIII抗体結合ドメインである、又は配列番号2若しくは配列番号4の全長に対して少なくとも95%の配列同一性を有するその配列変異体である。配列変異体は、元の抗体結合ドメインの抗体結合活性を保持する。
【0013】
本実施の形態の或る特定の態様では、シグナル伝達ドメインは、配列番号5に示される免疫グロブリンアルファ(Igα)シグナル伝達ドメインである、又は配列番号5の全長に対して少なくとも95%の配列同一性を有するその配列変異体である。本実施の形態の他の或る特定の態様では、シグナル伝達ドメインは、配列番号6に示される部分的な膜Igである、又は配列番号6の全長に対して少なくとも95%の配列同一性を有するその配列変異体である。配列変異体は、元のシグナル伝達ドメインのシグナル伝達活性を保持する。
【0014】
選択された態様では、融合タンパク質は、配列番号8に示されるFcγRI/Igα融合タンパク質、配列番号10に示されるFcγRIII/Igα融合タンパク質、配列番号22に示されるFcγRI/膜Ig融合タンパク質、又は配列番号23に示されるFcγRIII/膜Ig融合タンパク質、又は配列番号8、配列番号10、配列番号22、若しくは配列番号23の全長に対して少なくとも95%の配列同一性を有する配列変異体である。
【0015】
本発明は、本明細書に定義される様々な実施の形態及び態様において提供される融合タンパク質の各々をコードするヌクレオチド配列、また同様にそれらの相補鎖を含む、ポリヌクレオチドを含む。また、本発明はポリヌクレオチドを含むクローニングベクター、及びポリヌクレオチド又は発現ベクターのいずれかを含む宿主細胞を含む。かかる宿主細胞は、哺乳動物又は非哺乳類の細胞であってもよい。本発明は、ポリヌクレオチド及び発現ベクターによってコードされる融合タンパク質の発現を促進する条件下で宿主細胞を培養することと、細胞又は細胞培養物から融合タンパク質を回収することとを含む、本明細書に定義される融合タンパク質を産生する方法を更に含む。
【0016】
バイオセンサー細胞
第2の実施の形態では、本発明は、Fcγ受容体(FcγR)抗体結合ドメインと、膜貫通ドメインと、シグナル伝達ドメインとを含むキメラ融合タンパク質を安定的に発現するバイオセンサー細胞に関する。上記融合タンパク質は、それらの抗体結合ドメインを介して抗体のFc領域を認識し結合する能力を有する。融合タンパク質は、該融合タンパク質を発現する細胞の細胞内シグナル伝達カスケードを活性化する能力を有する。或る特定の態様では、細胞内シグナル伝達カスケードは、結果的に細胞内のCa
2+の放出をもたらす。キメラ融合タンパク質は、膜内在性タンパク質として細胞の表面に安定的に発現される。
【0017】
本実施の形態の或る特定の態様では、バイオセンサー細胞は、各々がキメラ融合タンパク質を安定的に発現する、B細胞、T細胞、単球、マクロファージ、HEK293細胞、CHO細胞、P815、K562、又はCos−1細胞である。
【0018】
本実施の形態の或る特定の態様では、FcγR抗体結合ドメインは、配列番号1若しくは配列番号3に示されるFcγRI抗体結合ドメインである、又は配列番号1若しくは配列番号3の全長に対して少なくとも95%の配列同一性を有するその配列変異体である。本実施の形態の他の或る特定の態様では、FcγR抗体結合ドメインは、配列番号2若しくは配列番号4に示されるFcγRIII抗体結合ドメインである、又は配列番号2若しくは配列番号4の全長に対して少なくとも95%の配列同一性を有するその配列変異体である。配列変異体は、元の抗体結合ドメインの抗体結合活性を保持する。
【0019】
本実施の形態の或る特定の態様では、シグナル伝達ドメインは、配列番号5に示される免疫グロブリンアルファ(Igα)シグナル伝達ドメインである、又は配列番号5の全長に対して少なくとも95%の配列同一性を有するその配列変異体である。本実施の形態の他の或る特定の態様では、シグナル伝達ドメインは、配列番号6に示される部分的な膜Igである、又は配列番号6の全長に対して少なくとも95%の配列同一性を有するその配列変異体である。配列変異体は、元のシグナル伝達ドメインのシグナル伝達活性を保持する。
【0020】
物質を検出する方法
第3の実施の形態では、本発明は、試料において標的物質を検出する方法に関する。本方法は、(a)試料と、標的物質に対して結合特異性を有する抗体、及びバイオセンサー細胞とを接触させることと、(b)細胞活性化についてバイオセンサー細胞をアッセイすることとを含み、バイオセンサー細胞が安定的にキメラ融合タンパク質を発現し、キメラ融合タンパク質がFcγ受容体(FcγR)抗体結合ドメインと、膜貫通ドメインと、シグナル伝達ドメインとを含む。
【0021】
上記融合タンパク質は、それらの抗体結合ドメインを介して抗体のFc領域を認識し結合する能力を有する。融合タンパク質は、該融合タンパク質を発現する細胞の細胞内シグナル伝達カスケードを活性化する能力を有する。或る特定の態様では、細胞内シグナル伝達カスケードは、結果的に細胞内のCa
2+の放出をもたらす。上記キメラ融合タンパク質は、膜内在性タンパク質として細胞の表面で安定的に発現される。
【0022】
この実施の形態の或る特定の態様では、試料は、空気試料、液体試料、乾燥試料、野菜試料又は生体試料である。好ましい態様では、試料が空気試料である場合、エアロゾル、大気試料、人工呼吸器排出物、及びエンジン排気からなる群から選択される。好ましい態様では、試料が液体試料である場合、食品、飲料、水試料、医薬製剤、及びパーソナルケア製品からなる群から選択される。好ましい態様では、試料が乾燥試料である場合、食物、土壌、医薬製剤、可溶化スワブ試料、及びパーソナルケア製品からなる群から選択される。好ましい態様では、試料が野菜試料である場合、葉、果実、ナッツ、種子、花及び植物組織からなる群から選択される。好ましい態様では、試料が生体試料である場合、血液、血清、汗、尿、脳脊髄液、粘液、精液、便、気管支肺胞洗浄液、及び組織からなる群から選択される。
【0023】
本実施の形態の或る特定の態様では、上記物質は環境毒素、汚染物質、薬物、又は生物学的物質である。好ましい態様では、物質が生物学的物質である場合、生物兵器物質、アレルゲン、寄生虫抗原、真菌抗原、ウイルス抗原、細菌抗原、細胞性抗原及び抗体からなる群から選択される。
【0024】
本実施の形態の或る特定の態様では、バイオセンサー細胞は、各々がキメラ融合タンパク質を安定的に発現する、B細胞、T細胞、単球、マクロファージ、HEK293細胞、CHO細胞、P815、K562又はCos−1細胞である。
【0025】
本実施の形態の或る特定の態様では、細胞活性化は、細胞内のCa
2+レベルの増加である。
【0026】
本実施の形態の或る特定の態様では、FcγR抗体結合ドメインは、配列番号1若しくは配列番号3に示されるFcγRI抗体結合ドメインである、又は配列番号1若しくは配列番号3の全長に対して少なくとも95%の配列同一性を有するその配列変異体である。本実施の形態の他の或る特定の態様では、FcγR抗体結合ドメインは、配列番号2若しくは配列番号4に示されるFcγRIII抗体結合ドメインである、又は配列番号2若しくは配列番号4の全長に対して少なくとも95%の配列同一性を有するその配列変異体である。配列変異体は、元の抗体結合ドメインの抗体結合活性を保持する。
【0027】
本実施の形態の或る特定の態様では、シグナル伝達ドメインは、配列番号5に示される免疫グロブリンアルファ(Igα)シグナル伝達ドメインである、又は配列番号5の全長に対して少なくとも95%の配列同一性を有するその配列変異体である。本実施の形態の他の或る特定の態様では、シグナル伝達ドメインは、配列番号6に示される部分的な膜Igである、又は配列番号6の全長に対して少なくとも95%の配列同一性を有するその配列変異体である。配列変異体は、元のシグナル伝達ドメインのシグナル伝達活性を保持する。
【0028】
上記は、以下の本発明の詳細な説明をよりよく理解することができるように本発明の特徴及び技術的な利点を幅広く概説した。本発明の追加の特徴及び利点が本明細書に記載され、本発明の特許請求の範囲の主題をなす。本明細書に開示される任意の概念及び具体的な実施形態は、本発明の同じ目的を実施するため他の構造を修飾又は設計するための基礎として容易に利用可能であることが当業者に理解される。また、かかる等価な構築物は、添付の特許請求の範囲に述べられる本発明の趣旨及び範囲から逸脱しないことが当業者によって明確に理解されなければならない。本発明の構成及び操作方法の両方について、本発明の特性と考えられる新規な特徴は、更なる目的及び利点と共に、添付の図面と組み合せて考慮される場合に以下の記載からより良く理解されるであろう。しかしながら、あらゆる記載、図面、実施例等が解説及び説明の目的に対してのみ提供され、本発明の限定を定義することは何ら意図されないことが明確に理解される。
【発明を実施するための形態】
【0030】
I.定義
特に指定のない限り、技術用語は従来の用法に従って使用される。分子生物学における一般用語の定義は例えば、Benjamin Lewin, Genes VII, Oxford University Press刊行, 2000(ISBN019879276X)、Kendrew et al.(編);The Encyclopedia of Molecular Biology, Blackwell Publishers刊行, 1994(ISBN0632021829)、及びRobert A. Meyers(編), Molecular Biology and Biotechnology: a Comprehensive Desk Reference, Wiley, John & Sons, Inc.刊行, 1995(ISBN0471186341)、並びに他の同様の技術的参照文献に見ることができる。
【0031】
本明細書中で使用される場合、「a」又は「an」は1つ以上を意味する場合がある。本明細書中で使用される場合、「a」又は「an」という単語は、「を含む(comprising)」という単語とともに使用される場合に1つ又は2つ以上を意味する場合がある。本明細書中で使用される場合、「別の」は少なくとも2つ目又はそれ以上を意味する場合がある。さらに、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、単数形の用語は複数のものを含み、複数形の用語は単数のものを含む。
【0032】
本明細書中で使用される場合、「約」は、明示されているか否かを問わず、例えば整数、分数及びパーセンテージを含む数値を指す。「約」という用語は一般に、当業者が列挙した値と同等である(例えば、同じ機能又は結果を有する)と考え得る数値の範囲(例えば、列挙した値の±5%〜10%)を指す。場合によっては、「約」という用語は、最も近い有効数字まで四捨五入した数値を含み得る。
【0033】
II.本発明
上に簡潔に要約されるように、本発明は、表面に新規なキメラ融合タンパク質を安定的に発現する細胞株を含む、ユニバーサル抗体媒介バイオセンサーに関する。融合タンパク質はそれらの抗原結合特異性に関わらずに抗体を結合することができ、表面に融合タンパク質を発現する細胞は、同族の抗原によって結合される抗体の架橋により活性化され得る。融合タンパク質が任意の抗体のFc領域に結合することから、それらは細胞外シグナル伝達と細胞内活性化との間の普遍的な経路としてはたらくことができる。このバイオセンサーを使用して、試料と(i)バイオセンサー細胞、及び(ii)抗原に対する結合特異性を有する抗体とを接触させることによって、試料中の選択された抗原の存在を検出することができる。一旦添加されれば、抗体は、融合タンパク質の抗体結合ドメインによる抗体のFc領域の結合を介して、キメラ融合タンパク質によって結合される。抗体による抗原の認識及び結合は抗体架橋をもたらし、それが融合タンパク質によるシグナルとしてバイオセンサー細胞中へと広がり、該細胞にて融合タンパク質の細胞内シグナル伝達ドメインが細胞活性化を引き起こす。その後、かかる活性化をアッセイし、所望に応じて、定量することができる。細胞活性化のレベルに基づき、試料中の抗原の存在に関して結論を引き出すことができる。非常におおまかに言えば、本発明のバイオセンサー細胞を使用して、細胞活性化が起こる場合、抗原が試料中に存在すると考えられる。
【0034】
本発明のユニバーサル抗体媒介バイオセンサーは、膜内在性タンパク質として新規なキメラ融合タンパク質を安定的に発現する細胞株を含み、バイオセンサー細胞の個々の構成要素は、(i)融合タンパク質の細胞外抗体結合ドメインと、(ii)融合タンパク質の膜貫通ドメインと、(iii)融合タンパク質の細胞内シグナル伝達ドメインと、(iv)膜内在性タンパク質として表面に安定的に融合タンパク質を発現する細胞株とを含む。これらの要素を以下の段落で検討する。
【0035】
抗体結合ドメイン
本発明のキメラ融合タンパク質は、それらのアミノ末端において、細胞外抗体結合ドメインを含む。例示的な抗体結合ドメインとして、限定されないが、FcγRI又はFcγRIII等のFcγ受容体(FcγR)の抗体結合ドメインが挙げられる。異なるFcγRサブタイプは、異なる抗体アイソタイプ(定常領域)に対して親和性が変化することから、本発明のバイオセンサーは、融合タンパク質中の抗体結合ドメインのアイデンティティーに基づき変化し得る。例えば、齧歯類FcγRI抗体結合ドメインは、齧歯類IgG2aだけでなく、ヒトIgG1、IgG3及びIgG4の免疫グロブリンの定常領域に対しても高親和性を有する。齧歯類FcγRIの抗体結合ドメインは、非常に高い親和性(10
8M
−1超)で齧歯類IgG2aアイソタイプを結合する[2]。交差種結合研究は、IgG4よりもIgG1及びIgG3のより強い結合によって、ヒトFcγRIが商業的に入手可能なヒトmAbに結合することができることを実証した[3]。齧歯類FcγRIII抗体結合ドメインは、齧歯類IgG1、IgG2a、IgG2bの定常領域に対して、並びにヒトIgG1、IgG2、及びIgG4免疫グロブリンに対してより低い親和性(3×10
4M
−1〜6×10
5M
−1)を有する[3]が、本発明の融合タンパク質においても使用可能である。FcγRIとFcγRIIIとの間で、全てのマウス及びヒトのIg(齧歯類IgG3を除く)は、これらの2つのFc受容体のうちの1つに結合することができる。さらに、ポリクローナル抗体も、これらのFcγRに結合することができる[4]。
【0036】
したがって、当業者は、アッセイされる特定の物質及び特定の実験条件に応じて、異なるFcγ受容体の抗体結合ドメインが、異なる条件に好ましいものとなることを理解する。このように、本発明は、概して、本明細書に定義されるFcγ受容体の抗体結合ドメインを含む新規なキメラ融合タンパク質、及びこれらの融合タンパク質を安定的に発現する細胞株に関する。
【0037】
第1の態様では、キメラ融合タンパク質に使用されるFcγ受容体の抗体結合ドメインは、Fcγ受容体の抗体結合ドメイン及び膜貫通ドメインの両方を含む。好適なFcγ受容体の抗体結合ドメイン/膜貫通ドメインとして、限定されないが、配列番号1に示されるマウスFcγRIの抗体結合ドメイン/膜貫通ドメイン(アミノ酸287〜319は予測される膜貫通ドメインに相当する)、及び配列番号2に示されるマウスFcγRIIIの抗体結合ドメイン/膜貫通ドメイン(アミノ酸208〜233は予測される膜貫通ドメインに相当する)が挙げられる。
【0038】
第2の態様では、キメラ融合タンパク質に使用されるFcγ受容体の抗体結合ドメインは、膜貫通ドメインを欠き、例えば、融合タンパク質の膜貫通ドメインは代替的な起源に由来する。キメラ融合タンパク質に使用され得る膜貫通ドメインを欠く好適なFcγ受容体の抗体結合ドメインとして、限定されないが、配列番号3に示されるマウスFcγRIの抗体結合ドメイン、及び配列番号4に示されるマウスFcγRIIIの抗体結合ドメインが挙げられる。
【0039】
シグナル伝達ドメイン
本発明のキメラ融合タンパク質は、それらのカルボキシ末端において、細胞内シグナル伝達ドメインを含む。好適なシグナル伝達ドメインは、他の状況において細胞の活性化を誘導することが知られているものを含む。例えば、B細胞は、生得的に、膜貫通型タンパク質CD79との複合体の形成によって抗原のB細胞受容体(BCR)結合を変換する。CD79は、B細胞の表面でヘテロダイマーを形成する2つの異なる鎖、すなわち免疫グロブリン−アルファ(Igα)及び免疫グロブリン−ベータ(Igβ)で構成される。Igα及びIgβは、細胞外ドメイン、単一の膜貫通ドメイン及び細胞質シグナル伝達ドメインを有する。Igα又はIgβの細胞内シグナル伝達領域のいずれかに融合されたCD8タンパク質の細胞外領域及び膜貫通領域を有する融合タンパク質は、シグナル伝達能力を有することが実証されている[5]。他の研究によって、プロテインキナーゼがCD8/Igα融合タンパク質のより強力な活性化因子であることが実証されている。同じ研究から、CD8架橋後にCD8/Igα融合タンパク質によるCa
2+シグナル伝達を観察することができたことが更に実証された。これらの研究に基づき、一態様では、本発明の融合タンパク質は、Igαの細胞質シグナル伝達ドメインに融合された抗体結合ドメインを含む[6]。
【0040】
したがって、第1の態様では、本発明のキメラ融合タンパク質に使用され得るシグナル伝達ドメインとして、限定されないが、配列番号5に示されるマウスIgαのシグナル伝達ドメインが挙げられる。
【0041】
融合タンパク質と抗体との間の結合親和性が相当変動的となり得ることから、融合タンパク質及び抗体に使用される抗体結合ドメイン及び抗体のアイデンティティー(identity)に応じて、抗体に対する融合タンパク質の結合力(avidity)に更に微妙な差異を提供することができる代替的なシグナル伝達ドメインを有することが重要である。例えば、シグナル伝達ドメインは、架橋及び二量体化を補助し得る。2つの抗体結合ドメインを接近して置くことは、最大の架橋可能性を増加させると考えられる。抗体結合ドメインがシグナル伝達ドメインとして修飾された膜関連IgG分子に連結される場合、2つの抗体結合ドメインの接近を達成することができる。したがって、第2の態様では、シグナル伝達ドメインは、ヒンジ領域に続いてCH
2、CH
3、IgG抗体の膜貫通領域及び細胞内領域を含む部分的な膜Igペプチドである(
図1の融合タンパク質C及びタンパク質Dを参照されたい)。具体的な例では、かかるシグナル伝達ドメインは、配列番号6に示される。このシグナル伝達ドメインが膜貫通領域を含むことから、配列番号3に示されるFcγRIの抗体結合ドメイン、又は配列番号4に示されるFcγRIIIの抗体結合ドメイン等の膜貫通ドメインを欠く抗体結合ドメインとあわせて使用され得る。
【0042】
キメラ融合タンパク質
抗体結合ドメインとシグナル伝達ドメインとの異なる組み合わせの使用により、特定の抗体に対する融合タンパク質の親和性を調整することができ、また細胞活性化のレベルを制御することができることは明らかであろう。本発明の範囲に含まれるキメラ融合タンパク質の具体例として、表1に提供されるものが挙げられる。6個の各融合タンパク質が
図1に表される。
【0044】
したがって本発明は、配列番号8に示されるFcγRI/Igα融合タンパク質、配列番号10に示されるFcγRIII/Igα融合タンパク質、配列番号22に示されるFcγRI/膜Ig融合タンパク質、及び配列番号23に示されるFcγRIII/膜Ig融合タンパク質を含む。
【0045】
異なる抗体結合ドメインは異なるシグナル伝達ドメインと一対となり得ることから、本発明はまた、配列番号1又は配列番号3に示されるFcγRIの抗体結合ドメインを含む融合タンパク質、及び配列番号2又は配列番号4に示されるFcγRIIIの抗体結合ドメインを含む融合タンパク質を含むことが理解される。同様に、本発明は、配列番号5に示されるIgαのシグナル伝達ドメインを含む融合タンパク質、及び配列番号6に示される膜Igのシグナル伝達ドメインを含む融合タンパク質を含む。
【0046】
タンパク質の結合又はシグナル伝達の活性に影響を及ぼすことなく、小さな変更を本発明の融合タンパク質のアミノ酸配列に行うことができることが当業者に容易に理解される。例えば、融合タンパク質の結合活性を維持しながら、小さな変更を融合タンパク質の抗体結合ドメインに行うことができる。同様に、融合タンパク質のシグナル伝達活性を維持しながら、小さな変更を融合タンパク質のシグナル伝達ドメインに行うことができる。さらに、融合タンパク質の結合及びシグナル伝達の活性を維持しながら、小さな変更を融合タンパク質の抗体結合ドメイン及びシグナル伝達ドメインの両方に行うことができる。幾つかの例では、特定の結合親和性(例えば低、中、又は高)が好ましい場合があることから、かかる小さな変更を抗体に対する抗体結合ドメインの親和性を変更するために使用することができる。同様に、幾つかの例では、細胞の活性化の特定のタイプ又はレベル(例えば低、中、又は高)が好ましい場合があることから、かかる小さな変更を細胞のシグナル伝達ドメインのシグナル伝達活性を変更するために使用することができる。
【0047】
したがって、本発明は、1以上のアミノ酸の挿入、欠失、及び/又は置換を有し、また元の融合タンパク質の結合及びシグナル伝達の活性を保持する、本明細書に開示される融合タンパク質の配列変異体を含む。特に、本発明は、配列番号8、配列番号10、配列番号22、又は配列番号23に示されるアミノ酸配列の全長に対して少なくとも約80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の配列同一性を有する配列変異体を含む。
【0048】
また、本発明は、FcγRIの抗体結合ドメインを含む配列変異体を含み、ここで、該ドメインは、アミノ酸配列の全長に対して、配列番号1又は配列番号3と少なくとも約80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の配列同一性を有する。
【0049】
また、本発明は、FcγRIIIの抗体結合ドメインを含む配列変異体を含み、ここで、該ドメインは、アミノ酸配列の全長に対して、配列番号2又は配列番号4と少なくとも約80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の配列同一性を有する。
【0050】
さらに、本発明は、Igαのシグナル伝達ドメインを含む配列変異体を含み、ここで、該ドメインは、アミノ酸配列の全長に対して、配列番号5と少なくとも約80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の配列同一性を有する。
【0051】
さらに、本発明は、膜Igのシグナル伝達ドメインを含む配列変異体を含み、ここで、該ドメインは、アミノ酸配列の全長に対して、配列番号6と少なくとも約80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の配列同一性を有する。
【0052】
ポリヌクレオチド
本発明は、本明細書において提供される融合タンパク質の各々をコードするヌクレオチド配列、また同様にそれらの相補鎖を含むポリヌクレオチドを含む。また、本発明は、ポリヌクレオチドを含むクローニングベクター、及びポリヌクレオチド又は発現ベクターのいずれかを含む宿主細胞を含む。かかる宿主細胞は、哺乳動物の細胞、又は限定されないがE.コリ(E. coli)及び昆虫細胞を含む非哺乳動物の細胞であってもよい。本発明は、ポリヌクレオチド及び発現ベクターによってコードされる融合タンパク質の発現を促進する条件下で宿主細胞を培養することと、細胞又は細胞培養物から融合タンパク質を回収することとを含む、本明細書に定義される融合タンパク質を産生する方法を更に含む。
【0053】
融合タンパク質をコードするコンストラクト
齧歯類のFcγRI(配列番号15)及びFcγRIII(配列番号16)に対する配列は、クローニングされ、確認されている。抗体結合ドメイン、膜貫通ドメイン、及びシグナル伝達ドメインをコードする配列を発現ベクターへと操作することによって融合タンパク質の発現に対してキメラ融合タンパク質をコードする核酸コンストラクトを作製してもよい。例えば、FcγR受容体の抗体結合ドメイン及び膜貫通ドメインを、例えば、PCRを使用する「SOEing」によって、シグナル伝達ドメインをコードする配列とインフレームで融合してもよい[15]。FcR−γ鎖が必要な場合に(以下で検討される)コンストラクトを完成させるため、シグナル伝達ドメインのC末端及びFcR−γ鎖のN末端は、PCRによって2Aペプチドをコードする配列に付着される。FcγR−膜Igコンストラクトの構築のため、FcγR配列のC末端の制限酵素部位を、N末端において適合する制限酵素部位を含むIg定常領域に連結させるため使用してもよい。
【0054】
本発明の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドコンストラクトは、選択された細胞株において一過性に又は安定的に発現されてもよい。該コンストラクトを、限定されないが、標準的なトランスフェクションキット(例えば、Fugene(商標)又はNeon(商標)システムエレクトロポレーション)又はレトロウイルス形質導入法を含む、当業者によく知られている技術を使用して選択された細胞株へとトランスフェクトすることができる。
【0055】
また、FcγRI又はFcγRIIIのいずれかに対する蛍光標識抗体による染色、及びフローサイトメトリーを使用する分析を含む、当業者によく知られている標準的な技術を使用して、細胞表面での融合タンパク質の発現を確認することができる。
【0056】
好適な発現ベクターとして、限定されないが、プラスミドpcDNA 3.1+又は−(hygro)、pcDNA3.1+又は−(ネオマイシン)、pdisplay(Puro)、pIRES(ネオマイシン)、pIRES Puro2、pQCXIP(puro)、pQCXIN(ネオマイシン)、及びpQCXIH(hygro)が挙げられる。
【0057】
発現ベクターは1つの連続配列に融合タンパク質及びFcRγ鎖を共にコードすることができるため、コーディング配列は単一のプロモーターの制御下にあってもよい。代替的には、発現ベクターは、別々のプロモーターの制御下で、融合タンパク質及びFcRγ鎖をコードしてもよい。
【0058】
細胞
本発明の融合タンパク質を発現するため使用され、したがって本発明のバイオセンサー細胞として役立つ可能性のある細胞株は、膜内在性タンパク質として細胞表面に該融合タンパク質を安定的に発現することができるという点、及びシグナル伝達ドメインの活性化を検出することができるという点でのみ制限される。好適な細胞株として、限定されないが、リンパ細胞及び非リンパ細胞が挙げられる。
【0059】
したがって、本発明は、表面に本明細書に定義される1以上の融合タンパク質を安定的に発現する細胞を含む。幾つかの例では、これらの細胞は、本明細書において「バイオセンサー細胞」と名付けられる。特定の実施形態では、本発明は、配列番号8に示されるFcγRI/Igα融合タンパク質、配列番号10に示されるFcγRIII/Igα融合タンパク質、配列番号22に示されるFcγRI/膜Ig融合タンパク質、配列番号23に示されるFcγRIII/膜Ig融合タンパク質、及び配列番号8、配列番号10、配列番号22、又は配列番号23の全長に対して少なくとも95%の配列同一性を有する配列変異体の1以上(正:one or more)を表面に安定的に発現するバイオセンサー細胞を含む。上記バイオセンサー細胞を作製するために使用される細胞は、本明細書に定義される細胞のいずれであってもよい。
【0060】
リンパ細胞
CD8/Igα融合タンパク質を発現するリンパ細胞は、抗CD8抗体との架橋が、B細胞及びT細胞の両方における細胞内Ca
2+の放出、及びIgαのリン酸化を刺激することを実証するため使用されてきた[5、6、10]。通常、内因性Igα/Igβ経路を使用してシグナル伝達を行う、マウス及びヒトのB細胞株は、本明細書に記載される融合タンパク質の発現に特に有用である。バイオセンサー細胞の産生に使用され得る好適なB細胞株として、限定されないが、Ramos細胞株、Raji細胞株、IIAI.6細胞株、及びC604細胞株が挙げられる。他の好適なB細胞株としてA20及びLK35.2が挙げられる。
【0061】
本発明の融合タンパク質のいずれかをコードするコンストラクトの適切な発現は、蛍光標識抗体及びフローサイトメトリーを使用して確認され得る。後の研究のため、限界希釈を使用して細胞をクローニングし、それらのフローサイトメトリー発現プロファイルに基づいて選択してもよい。
【0062】
B細胞株にはFcγIIb抑制性受容体を発現するものもあれば、Ramos、及びIIA1.6のB細胞のように、それらの細胞表面に該タンパク質を発現しないものもある[11、12]。FcγIIb受容体の抑制活性が特定の細胞株において問題である場合、siRNAコンストラクトを使用して、細胞においてFcγRIIbの発現を安定的に阻害すること[13]、又はCRISPR/Cas9技術を使用して、これらの細胞株においてFcγRIIb遺伝子をノックアウトすることができる[14]。
【0063】
抗CD8抗体との架橋の後、Igαシグナル伝達ドメインに融合されたCD8発現T細胞は、Ca
2+を放出し[5]、これは、T細胞におけるシグナル伝達機構もまたIgαによって作動可能であることを示す。したがって、本発明の融合タンパク質は、マウス又はヒトのT細胞においても発現され得る。バイオセンサー細胞の産生に使用され得る好適なT細胞株として、限定されないが、Jurkat細胞株、DO−11.10細胞株、及びBW5147細胞株が挙げられる。また、融合タンパク質を発現する、単球(例えばU937細胞株)、マクロファージ、筋芽細胞(例えばKG!細胞株)、及び赤芽球(例えばK562細胞株)を、バイオセンサー細胞として使用してもよい。これらの細胞が本来FcγRを発現しないことから、抑制性FcγRIIbによって引き起こされる阻害はないであろう。また、フローサイトメトリーを使用し、FcγRに対して蛍光標識されたmAbを使用して、適切な発現を判定することができる。
【0064】
非リンパ細胞
HEK293細胞、CHO細胞、P815細胞、K562細胞及びCos−1細胞等の選択されたタンパク質の細胞表面発現に関するアッセイで一般に使用される、樹立されて十分に特性評価された多数の非リンパ細胞株が存在する。これらの細胞株は、これらの細胞において安定した発現を確立するのが容易であり、明確な成長特性を有することから、外来タンパク質を発現するために慣例的に使用される。しかしながら、非リンパ細胞は、Fcγ受容体発現細胞で発現される二次タンパク質であるFcRガンマ鎖(FcRγ鎖)を発現することができない。FcRγ鎖は、Fcγ受容体シグナル伝達に必要である[7]。非リンパ細胞は、FcR−γ鎖を発現しないが、かかる細胞はなおも融合タンパク質発現に対する優れた候補としてはたらき、FcR−γ鎖を共発現するように操作される場合、本発明のバイオセンサー細胞として使用することができる。
【0065】
非リンパ細胞を、当業者によく知られている技術によってFcR−γ鎖を発現するように操作することができる。簡便な1つの技術は、本発明の融合タンパク質をコードするコンストラクト上にFcR−γ鎖をコードする遺伝子を含むことであり、ここでは2つのコーディング配列が同じ又は別々のプロモーターの制御下にある。別の簡便な技術は、融合タンパク質及びFcR−γ鎖の発現を同じプロモーターの制御下に置くことである。特に、2つの追加要素が、融合タンパク質をコードするコンストラクトに付加され得る。第1の要素は、FcR−γ鎖それ自体(配列番号25)である。FcR−γ鎖は、細胞膜中の正確な確認を採用できることが必要であるため、融合タンパク質の一部とはなり得ない。第2の要素は、口蹄疫ウイルスにおいて最初に記載された容易に切断可能なペプチドである操作された2Aペプチドであることから、この問題に対処する[8]。試験した種々様々な細胞においてより効率的に切断するブタのテッショウウイルス(Teschovirus)で発見された本来の2Aペプチドの変異体[9]を本明細書で使用する(配列番号24)。したがって、FcR−γ鎖は、本発明の融合タンパク質をコードするコンストラクトを、シグナル伝達ドメインのC末端に2Aペプチド配列、続いてFcR−γ鎖を含むように操作することによって非リンパ細胞に対して提供され得る(
図1のコンストラクトE及びコンストラクトFを参照されたい)。
【0066】
本発明のバイオセンサー細胞の産生に使用され得る非リンパ細胞株として、限定されないが、HEK293細胞株、CHO細胞株、P815細胞株、K562細胞株、及びCos−1細胞株が挙げられる。
【0067】
抗体
本明細書における考察から明らかなように、標的物質の検出において本発明のバイオセンサー細胞と共に使用され得る抗体のアイデンティティーは、(i)抗体が本発明の融合タンパク質によって結合され得る点、及び(ii)抗体が標的物質に結合可能である点においてのみ制限される。一旦特定の標的物質が検出のため選択されれば、該物質に対して結合特異性を有する抗体が商業的に入手可能かどうかを容易に判断することができる。入手可能でない場合は、必要とされる結合特異性を有する抗体を日常的な方法を使用して作製することができる。
【0068】
明らかなように、抗体はモノクローナルであってもよくポリクローナルであってもよい。抗体は組み換え体であってもよい。また、好適な抗体として、限定されないが、Fabフラグメント、F(ab’)
2フラグメント、及び一本鎖Fv(scFv)抗体等の元となる抗体の結合特異性を保持するフラグメントが挙げられる。
【0069】
上記抗体は、限定されないが、酵素(例えば、ペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、グルコースオキシダーゼ)、金属(例えば、電子顕微鏡用途に対する金)、蛍光マーカー(例えば、CYE色素、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、フィコエリトリン(正:phycoerythrin)、フィコシアニン、アロフィコシアニン、o−フタルアルデヒド(正:phthalaldehyde)及びフルオレサミンを含む免疫蛍光法及びフローサイトメトリーの用途に対する)、蛍光発光金属(例えば
152Eu)、放射性マーカー(例えば
3H、
131I、
35S、
14C及び
125Iを含む診断目的用放射性同位元素)、化学発光マーカー(例えばルミノール、ルシフェリン、イソルミノール、セロマティック(theromatic)アクリジニウムエステル、イミダゾール、アクリジニウム塩及びシュウ酸エステル)及び、タンパク質タグ(例えばビオチン、フィコビリタンパク質、c−Myc、HA、VSV−G、HSV、FLAG、V5又はHIS)を含む検出可能な標識に複合体化されてもよい。
【0070】
また、抗体は、標的物質に曝露された後に試料からの抗体の単離/分離に使用することができる部分に対して複合体化されてもよく、又はそれに被覆されてもよい。かかる部分として、限定されないが、様々な直径の磁気ビーズ、アガロースビーズ、及びポリスチレンビーズが挙げられる。
【0071】
試料
標的物質の存在についてスクリーニングされ得る試料は、抗体による試料中に存在する標的物質の結合を可能とするという点においてのみ同様に制限される。好適な試料として、限定されないが、空気試料、液体試料、乾燥試料、野菜試料、及び生体試料が挙げられる。好適な空気試料として、限定されないが、エアロゾル、大気試料、人工呼吸器排出物、及びエンジン排気が挙げられる。好適な液体試料として、限定されないが、食品、飲料、水試料、医薬製剤、及びパーソナルケア製品が挙げられる。好適な乾燥試料として、限定されないが、食物、土壌、医薬製剤、可溶化スワブ試料、及びパーソナルケア製品が挙げられる。好適な野菜試料として、限定されないが、葉、果実、ナッツ、種子、花及び植物組織が挙げられる。好適な生体試料として、限定されないが、血液、血清、汗、尿、脳脊髄液、粘液、精液、便、気管支肺胞洗浄液、及び組織が挙げられる。
【0072】
物質
本発明のバイオセンサーを使用して、多様な異なる標的物質を検出することができる。当業者に明らかなように、標的物質に対する唯一の制限は、抗体による該物質の結合が可能でなくてはならないことである。標的物質は、限定されないが、生物兵器物質、アレルゲン、寄生虫抗原、真菌抗原、ウイルス抗原、細菌抗原、細胞性抗原、及び抗体等の生物学的な起源のものが挙げられる。例示的な生物兵器物質として、限定されないが、リシン、炭疽菌芽胞、ボツリヌス毒素、クロストリジウム・パーフリンジェンス(Clostridium perfringens:ウェルシュ菌)毒素、サキシトキシン、及びトリコテシン・マイコトキシンが挙げられる。例示的なアレルゲンとして、限定されないが、ツリーナッツ(tree nuts)、ピーナッツ及び動物のフケが挙げられる。例示的な細胞性抗原として、限定されないが、ヒト、霊長動物、又は限定されないが、家畜又はイヌ若しくはネコ等のコンパニオン動物等の他の哺乳動物等の被験体における疾患又は病状に関連する抗原が挙げられる。また、標的物質は、植物及び作物の物質、水生病原体、又は、病因物質、薬物及び他の化学物質、並びに限定されないが毒素及び汚染物質等の環境に見られる分子を含む。
【0073】
細胞活性化の検出
本発明のバイオセンサー細胞を、試料中の標的物質を検出するため、場合によっては定量するためのアッセイにおいて使用することができる。上に記載されるように、抗体による該物質の結合により、またバイオセンサー細胞によって発現される融合タンパク質による抗体結合によって、細胞表面で架橋が生じ、融合タンパク質のシグナル伝達ドメインが細胞内の活性化シグナルとして結合を伝達する。例として、抗原を含む試料がバイオセンサーの細胞外表面の抗体と相互作用する場合、細胞内シグナル伝達カスケードが活性化される。
【0074】
in vivoにおいて、B細胞の抗原受容体(膜結合型Ig)は、Igα及びIgβのタンパク質のジスルフィド結合膜貫通ヘテロダイマーに非共有結合的に会合される[16]。抗原結合によるB細胞受容体の架橋の後、Igα及びIgβを含む幾つかのタンパク質は、プロテインキナーゼによってチロシン残基に対してリン酸化される[17、18]。リン酸化後の最初の下流の出来事のうちの1つは、細胞内貯蔵からのCa
2+放出に続く、細胞膜中のCa
2+チャネルを通る外因性Ca
2+の流入である[19]。細胞内のカルシウムレベルのかかる変化は、本明細書において意図される、アッセイ可能な細胞活性化の一種である。細胞内Ca
2+レベルの変化は、細胞内に効率的に充填することが可能な様々な化学的蛍光化合物によって、細胞において容易に検出され得る。
【0075】
生物学におけるCa
2+の重要性により、細胞のCa
2+活性を分析するために多数の技術が確立されており、本発明のバイオセンサー細胞における細胞活性化のアッセイに使用され得る。一般的な方法は、他のタイプの指標(indicator:指示薬)と比較して、それらのシグナルが細胞内Ca
2+濃度の所与の変化に対して非常に大きいことから、蛍光化学Ca
2+指標プローブの使用である[20]。例えば、細胞活性化は、生細胞内部のCa
2+濃度を測定するため使用される感受性非レシオメトリック(non-ratiometric)化合物である、Fluo−4のメチルエステルであるFluo−4AMでバイオセンサー細胞をロードすることにより、本発明のバイオセンサー細胞においてモニター及びアッセイされてもよい[21]。大半の化学的蛍光指標は、膜透過性ではない。しかしながら、Fluo−4のメチルエステル形態は、受動的に原形質膜を横切って拡散することができ、一旦細胞内に入ると、細胞内エステラーゼはプローブからメチルエステル基を切断して膜不透性プローブをもたらす。本発明の細胞との使用に対する別のプローブの選択肢は、レシオメトリックなCa
2+測定を可能とするUV励起Ca
2+指標である、Fura 2である。抗体による標的物質の結合によって、Ca
2+レベルの顕著な変化を引き起こすシグナルがバイオセンサー細胞のシグナル伝達ドメインへと伝達され、これを細胞蛍光の変化を測定するための分光計を使用してアッセイされ及び/又は定量することができる。
【0076】
また、Ca
2+結合発光タンパク質は、生物学的プロセスに由来する光の産生である生物発光を生成することができる。いくつかのCa
2+結合発光タンパク質(例えば、イクオリン、オベリン、マイトロコミン及びクライティン)が細胞内のCa
2+濃度を測定するために使用され[24]、細胞の活性化の変化をアッセイするためにそれらの各々を本発明のバイオセンサー細胞と共に使用してもよい。Ca
2+結合によるこれらの発光タンパク質の発光は可視スペクトルにあり、器具の使用又は検出の点から簡易であり、光退色によって影響されない。
【0077】
標的物質の結合(すなわち、細胞活性化)は細胞におけるCa
2+レベルの変化を測定することに基づいて本明細書に例示されるが、発光タンパク質を使用する発光を含む、他の手段を標的物質結合の変化をアッセイするために使用することができることに留意されたい。
【実施例】
【0078】
III.実施例
実施例1:融合タンパク質をコードするコンストラクトの産生及び発現
商業的に入手可能な齧歯類FcγRI及びIgαのcDNAを得た。2つの遺伝子の重複配列を提供するPCRプライマーを使用して2つの配列をつなぎ合わせて、配列分析によって確認されたフレーム融合のFcγRI/Igαを生じた。代替的には、FcγRIの抗体結合ドメイン及び/又は膜貫通ドメインを、受容体をコードするcDNAに由来するプライマーを用いて増幅し、またIgαの細胞内シグナル伝達ドメインを同様に増幅する。
【0079】
増幅フラグメントをゲル精製する。増幅産物(例えばFcγRI及びIgα)を混合し、5分間沸騰させることにより変性させ、増幅前に30分間室温において、全長融合タンパク質をコードする配列を作製した。これらの配列をゲル精製し、好適なプロモーターを含む発現ベクター(例えば、哺乳動物細胞においてcDNAを発現するためのプラスミド)へクローニングし、Lipofectamine LX又は他の好適なトランスフェクション試薬を使用して、選択された細胞株へとトランスフェクトし、好適な選択マーカーを使用して選択した。個々のクローンをシーケンシングして、適切な融合タンパク質が発現されていることを確認した。融合タンパク質の適切な表面発現は、標識化抗Fc受容体抗体(例えば抗CD64抗体染色)及びフローサイトメトリーを使用して判定される。FcγRI−Igα融合タンパク質をコードする例示的なコンストラクトは、5’から3’の方向にFcγRIの抗体結合ドメイン及び膜貫通ドメイン(配列番号19)をコードし、Igαシグナル伝達ドメインをコードする配列(配列番号21)をコードするものである。
【0080】
FcγRIII−Igα融合タンパク質をコードする別の例示的なコンストラクトは、5’から3’の方向にFcγRIIIの抗体結合ドメイン及び膜貫通ドメイン(配列番号20)をコードし、Igα細胞内シグナル伝達ドメインをコードする配列(配列番号21)をコードするものである。2つの遺伝子のオーバーラップを提供する、商業的に得られる齧歯類FcγRIII cDNA及びIgα cDNAのPCRプライマーを使用して、2つの配列をつなぎ合わせた。生成物は、配列分析によって確認されたフレーム融合のFcγRIII/Igαをもたらした。
【0081】
代替的なアプローチを使用して、
図1においてE及びFとして示されるコンストラクトを産生するため2Aペプチド及びFcR−γ鎖と共に、FcγR受容体を入れた。オーバーラップ伸長によるPCR増幅を使用して2A配列をFcR−γ鎖と融合させ、制限酵素部位を2A及びFcRγ鎖のcDNAの末端に配置した。PCRを使用し、FcγRを2A部位に連結するため、また後の発現ベクター中へのクローニングのために使用され得る、それらの末端に制限酵素部位を含むプライマーを用いて、FcγRI及びFcγRIIIの両方のcDNAを増幅した。DNAを制限エンドヌクレアーゼで消化し、ゲルから生成物を溶出させた。フラグメントを連結して発現ベクターへクローニングし、配列決定した。
【0082】
以下の実施例は、本発明のユニバーサルバイオセンサー細胞を実際に使用することができる幾つかの例を提供する。これらの実施例は、上記バイオセンサーを利用することができる可能性のある方法のごく一部に過ぎない。上記バイオセンサーを、単一ウェルの又は複数ウェルのアッセイフォーマットに容易に適合させることができる。細胞株、コンストラクト及びCa
2+指標の組み合わせは、調査されている物質、抗原又は病原体、及び抗体アイソタイプの有効性に応じて変化可能であり、経験的に決定されなければならない場合もあることに留意されたい。
【0083】
実施例2:葉及び根の試料に由来する植物ウイルスの検出
植物病原体は、感染、並びに結果的な食物及び飼料の収穫高の損失が経済及び食糧安全保障に影響を与えることから、ウイルス性であるか細菌性であるかにかかわらず、非常に重要である。したがって、作物の管理及び輸入作物のモニタリングを支援するために植物病原体を明らかにすることと同様に、定期的に検出することができるアッセイを整備することが重要である。農場における国内作物の試験を記載する。
【0084】
葉又は根の試料を疑わしい植物から収集する。試料に含まれる任意のウイルス粒子を放出するため、試料を完全に粉砕する。その後、ウイルス粒子(すなわち、標的物質)を捕捉するため、商業的に入手可能なウイルス特異抗体で被覆された磁気ビーズを、試料マトリクスと混合する。ビーズを植物試料から磁気的に分離し、十分に洗浄し、本発明のユニバーサルバイオセンサー細胞とインキュベートすることができる。
【0085】
また、例えば、FcR−γ鎖をコードするコンストラクトからFcγRI/Igα又はFcγRIII/Igαの融合タンパク質のいずれかを発現するRamos B細胞(すなわち、
図1のコンストラクトE及びコンストラクトF)を使用してもよい。選択されたバイオセンサー細胞を高密度(およそ10
6細胞/mL)まで生育させ、成長培地をフェノールレッド不含浸透圧平衡塩溶液(すなわち、HBSS、PBS)で置き換える。細胞をプロベネシド(およそ1mM〜2.5mM)の存在下でFluo−4 AM溶液(およそ2μM〜9μM)中、およそ30分間〜60分間に亘りロードする。細胞から漏出する指標を最小限にするためにプロベネシドを使用する。細胞を十分に洗浄して残留するCa
2+指標を除去する。プロベネシドを含む少量のHBSS中の約1×10
6〜5×10
6のFluo−4 AMをロードした細胞を、暗部の(with dark sides)96ウェルプレートの複数のウェルに移す。その後、該細胞を含むプレートを蛍光プレートリーダーに挿入する。
【0086】
ロードした細胞を含む幾つかのウェルを短時間535nmで光学的に測定して、ベースラインバックグラウンド蛍光レベルを確立する。細胞にFluo−4 AMがロードされることを確実にするため、それらのウェルに薬学的化合物(すなわち、およそ100μM〜200μMのATP、およそ30μM〜60μMのカルバコール、又はおよそ0.1μM〜2μMのイオノマイシン)を添加して、細胞内Ca
2+レベルの増加を促進する。架橋二次抗体とのFcγR抗体の使用等の他の対照を使用して、同様に指標ローディングを確認する。
【0087】
Fluo−4ローディングを確認した後、ロードした細胞を含むウェルを商業的に入手可能なウイルス特異抗体(使用するコンストラクトと適合し、理想的には捕捉ビーズに使用されるものとは異なるアイソタイプ)と共におよそ30分間〜60分間インキュベートする。その後、ウイルスで被覆された捕捉ビーズの希釈系列を細胞に添加し、数分間の間、蛍光変化を測定する。また、シグナルの特異性を確実にするため、陽性対照(規定のウイルス含有溶液の添加)及び陰性対照(ウイルスを含まない同様の溶液の添加、又は交差反応しない無関係の抗原の溶液の添加)の両方と共に細胞を試験する。細胞蛍光の増加は、選択されたウイルスが試料中に存在することを示す。幾つかの例では、細胞蛍光の変化量は試料中に存在する選択されたウイルス量と相関するため、試料中のウイルス量の定量を可能となる。
【0088】
実施例3:スワブ試料からのサルモネラの検出
サルモネラ属の一種は、最も一般的な食品媒介病原体のうちの1つであり、幼い子供、老人及びその他免疫系が弱った者において重篤で、時に致命的なサルモネラ症疾患を引き起こす場合がある。サルモネラ汚染が感染した動物又はヒトの糞便との接触から生じることから、幅広い食品が、生産される卵及び肉から、また水さえからも汚染される可能性がある。現在のサルモネラ検出法として、時間がかかり、専門知識を必要とするPCR又は細菌培養が挙げられる。したがって、単純で迅速な検出アッセイが、大発生及び製品回収を予防するための食品の品質モニタリングに望ましい。鶏卵加工施設におけるサルモネラに対する試験を記載する。
【0089】
施設内の作業面及び卵殻の外表面からスワブ試料を採取する。その後、ユニバーサルバイオセンサーによって直接試験が可能な試料マトリックスへとサルモネラを抽出するため、スワブを生体適合性の溶液に浸漬する。本実施例において、FcγRI/膜Ig又はFcγRIII/膜Igの融合タンパク質(
図1のコンストラクトC及びコンストラクトDを参照されたい)を発現するC604 B細胞が、本発明のバイオセンサー細胞として使用される。B細胞であるC604細胞は、シグナル伝達能力を提供するための内因性のIgα及びIgβを有する。
【0090】
C604細胞を高密度(およそ10
6細胞/mL)まで生育し、培地をフェノールレッド不含HBSSで置き換える。プロベネシド(およそ1mM〜2.5mM)の存在下、Fluo−4 AM溶液(およそ1μM〜5μM)において、およそ30分間〜60分間に亘り細胞をロードする。残留Ca
2+指標を除くため、細胞を十分に洗浄する。プロベネシドを含む少量のHBSS中の1×10
6〜5×10
6のFluo−4をロードした細胞を96ウェルプレートの複数のウェルに移す。プレートを蛍光プレートリーダーに挿入し、ベースラインバックグラウンド蛍光を確立する。陽性対照として、Ca
2+応答を刺激するため抗マウスIgM(およそ5ng/μL〜7ng/μL)を、細胞を含むウェルのサブセットに添加する。ローディングを確認するために他の対照を使用する(二次クロスリンカー抗体との抗FcγRI抗体の使用等)。
【0091】
商業的に入手可能な(FcγRI又はFcγRIIIと適合するアイソタイプの)抗サルモネラ抗体を30分間〜60分間に亘り細胞と共にインキュベートする。その後、サルモネラを含む試料の希釈系列を細胞に添加し、蛍光の変化を1分間〜2分間の間測定する。また、細胞をシグナルの特異性を確実にするために陽性対照及び陰性対照の両方で試験する。細胞蛍光の増加は、試料中のサルモネラの存在を示す。幾つかの例では、細胞蛍光の変化量は、試料の中に存在するサルモネラ量と相関するため、試料中のサルモネラ量の定量を可能にする。
【0092】
実施例4:食品サンプルからのリステリアの検出
リステリア(すなわち、L.モノサイトゲネス)は、およその20%の致死率を伴う重篤な細菌性疾患であるリステリア症の病因物質であり、妊婦、乳児及び免疫系の弱った者に最も危険な食品媒介病原体である。リステリアは生食肉製品(正:product)及び乳製品、並びに加工調理済み食品を汚染する場合がある。したがって、細菌を検出し、その存在をモニターする能力は、病原体の大発生及び製品回収を予防するために望ましい。すぐに食べられる食品(すなわち、デリ・ミート(deli meat)及びホットドッグ)を生産する食肉加工工場におけるリステリアの検出に対するユニバーサルバイオセンサー細胞の使用が記載される。
【0093】
実施例3に同様に記載されるように、製品の汚染可能性をモニターし、汚染除去手順の有効性を評価するため、工場の作業表面及び設備を食肉加工の前、その最中及びその後に拭き取る。追加的に、加工肉の試料を試験してもよい。試料をPBS中でホモジナイズし、商業的に入手可能なリステリア特異抗体で被覆された極小磁気ビーズと混合する。ビーズを試料中に存在する任意のリステリアに結合させ、磁気的に試料から分離し、十分に洗浄し、作製したユニバーサルバイオセンサーに添加する。
【0094】
FcR−γ鎖と共に、FcγRI/Igα又はFcγRIII/Igαの融合タンパク質のいずれかを安定的に発現するCOS−1細胞及び生物発光タンパク質(bioluminescent photoprotein)であるイクオリンをバイオセンサー細胞として使用し、高密度(およそ10
6細胞/mL)まで生育させる。5時間〜16時間に亘り、およそ2μM〜8μMのセレンテラジン(イクオリンに必要な基質)と共に細胞をインキュベートする。十分に洗浄して過剰なセレンテラジンを除去した後、細胞を96ウェルプレートの複数のウェルに蒔く。その後、30分間〜60分間に亘り、商業的に入手可能なリステリア特異抗体(使用されるコンストラクトと適合性のアイソタイプ、及び好ましくは捕捉ビーズに使用されるものとは異なる抗体)と共に細胞をインキュベートする。そのプレートを発光プレートリーダーに挿入し、ベースラインバックグラウンド発光レベルを測定する。セレンテラジンローディングの成功及びCa
2+応答性の確認を0.15μM〜100μMのATPの添加によって得る。その後、リステリアで被覆された捕捉ビーズを種々の希釈で細胞に添加し、発光シグナルの変化を1分間〜2分間の間記録する。発光の増加は、試料中のリステリアの存在を示す。幾つかの例では、発光の変化量は試料中に存在するリステリア量と相関するため、試料中のリステリア量の定量を可能とする。
【0095】
実施例5:空気試料からのB.アンスラシス(B. anthracis)芽胞の検出
炭疽菌は、細菌バシラス・アンスラシス(Bacillus anthracis)の芽胞によって引き起こされる急性で致死性の疾患である。自然の土壌細菌は、放牧で育成された動物、また加工処理されていない動物の皮及び毛に由来する感染した肉との接触を通して伝染され得る。最近では、B.アンスラシスは生物兵器、及びテロ攻撃で使用するために武器化されてきた。この点において、B.アンスラシス芽胞の確実で迅速な検出は極めて重要である。被検試料は、疑わしい区域をふき取ることにより、又は溶液中での分析のためPBSに疑わしい粉末を直接懸濁することにより得られてもよい。代替的には、エアロゾル試料を疑わしい区域で収集し、また微粒子を表面に濃縮して、ユニバーサルバイオセンサー細胞に曝露してもよい。好適なエアロゾルサンプリング装置(BioFlash E)をPathSensors, Inc.から購入する。
【0096】
本実施例では、FcγRI/Igα又はFcγRIII/Igαの融合タンパク質及びFcRγ鎖を発現するヒトT細胞株であるJurkat細胞をバイオセンサー細胞として使用する。30分間〜60分間に亘り、Indo−1 Ca
2+指標(およそ1μM〜5μM)で該細胞をロードする。十分に洗浄した後、細胞を商業的に入手可能なB.アンスラシス特異抗体(使用されるコンストラクトと適合するアイソタイプ)とインキュベートし、エアロゾルサンプリング機内部のチャンバーに充填した。405nmでベースラインバックグラウンド蛍光を確立した。Ca
2+指標のローディングの成功の確認は、およそ1μg/mL〜5μg/mLのイオノマイシンの添加によって得られる。その後、モニターした区域に由来する空気を上記機械に通過させ、粒子状の物体を内面に濃縮する。その後、バイオセンサーを試験面に解放し、存在する可能性のある任意のB.アンスラシス芽胞に結合させる。405nmの蛍光シグナルの変化を1分間〜2分間に亘り記録する。細胞蛍光の増加は、試料中の炭疽菌の存在を示す。幾つかの例では、細胞蛍光の変化量は、試料中に存在する炭疽菌量と相関するため、試料中の炭疽菌量の定量を可能とする。
【0097】
本発明はその或る特定の実施形態を参照して記載されているが、当業者は、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく様々な修飾を行い得ることを理解する。添付の特許請求の範囲は、記載される具体的な実施形態に限定されない。
【0098】
参考資料
本明細書で言及される全ての特許及び出版物は、本発明の属する技術分野の当業者の技術水準の指標である。各々の引用される特許及び出版物はその全体が引用することにより本明細書の一部をなす。以下の参考資料は、全て本出願で引用されている。
【表2】