(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は本発明の一実施形態である基板処理装置の構造を示す側面断面図である。より具体的には、
図1(a)は基板処理装置1の天板12が閉じられた状態、
図1(b)は天板12が開かれた状態を示している。
【0014】
この基板処理装置1は、表面に例えばフォトレジスト液などの塗布液が塗布された、例えば半導体基板やガラス基板等の各種基板を受け入れて常圧下で加熱することにより、塗布液中の溶媒成分を揮発させる目的に用いられるものである。例えば基板表面にフォトレジスト膜を形成する目的に、この基板処理装置1を用いることができる。なお、基板および塗布液の種類についてはこれに限定されるものではない。以下の各図における方向を統一的に示すために、
図1(a)に示すようにXYZ直交座標軸を設定する。ここでXY平面が水平面を表す。また、Z軸が鉛直軸を表し、より詳しくは(−Z)方向が鉛直下向き方向を表している。
【0015】
基板処理装置1は、処理チャンバ10と、その内部に収容されたホットプレート15とを備えている。ホットプレート15は、その上面15aが図示しない制御部により所定の温度(例えば150℃)に昇温された平坦面を有している。被処理物である基板Sは、外部から処理チャンバ10内に搬入されホットプレート15の上面15aに載置されることにより加熱される。これにより基板Sの上面に塗布された塗布液が加熱され溶媒成分が揮発することで、基板Sの上面に被膜が形成される。基板Sから揮発する溶媒成分の飛散や基板Sへのゴミ等の付着を防止するため、加熱処理は処理チャンバ10内で実施される。
【0016】
処理チャンバ10は、上部に開口111が設けられた略箱型のチャンバ本体11と、開口111に対し開閉自在に設けられた天板12とを備えている。より具体的には、天板12は、Y方向両端部を支持機構13,13によって昇降自在に支持された板状の構造体である。支持機構13は、制御部からの制御指令に応じて天板12を昇降させて、
図1(a)に示す閉状態と、
図1(b)に示す開状態とを切り替える。
図1(a)に示すように、閉状態では天板12が支持機構13により下方位置に位置決めされ、このときチャンバ本体11の開口111はシール部14を介して天板12により閉塞される。一方、
図1(b)に示す開状態では、天板12が支持機構13によりチャンバ本体11から上方に離間した上方位置に位置決めされる。
【0017】
1対の支持機構13,13は、エアシリンダ131、チャネル部材133、およびガイドレール134を備えている。エアシリンダ131は、基板処理装置1の設置場所の天井や図示しないガントリ等の固定物に取り付けられており、下向きに延びる可動ロッド132を制御部からの制御指令に応じて昇降させる。可動ロッド132の下端には、X方向に延びるチャネル部材133が取り付けられている。チャネル部材133には、X方向に延設されたガイドレール134が取り付けられている。可動ロッド132の上下動により、チャネル部材133およびガイドレール134が一体的に上下動する。
【0018】
天板12のY方向両端部には、天板12の側部から延びる回転軸128に回転自在のローラ部材129が装着されており、ローラ部材129はガイドレール134に係合している。したがって、ローラ部材129がガイドレール134に沿って転動することにより、天板12はX方向に水平移動可能となっている。必要に応じて天板12をチャンバ本体11の上部から(+X)方向または(−X)方向に退避させることにより、天板チャンバ本体11の開口111を介してチャンバ内部が露出した状態とすることができる。この状態では、オペレータが上部から処理チャンバ11内にアクセスして部品の着脱や清掃などのメンテナンス作業を行うことができる。
【0019】
このように天板12を支持して昇降させ、また水平移動させるための支持機構13は天板12の側面に取り付けられている。後述するように、天板12はチャンバ11本体よりも大きな平面サイズを有しており、支持機構13がその側面に取り付けられることで、昇降および水平移動に起因して支持機構13から発生し得る粉塵がチャンバ内に落下することが抑制される。
【0020】
チャンバ本体11の(+Y)側端面には開口112が設けられており、開口112を塞ぐようにシャッタ部材113が取り付けられている。
図1(a)に点線で示すように、シャッタ部材113は開口112に対して開閉自在となっている。制御部からの制御指令に応じてシャッタ部材113が開くことにより、外部からの被処理基板の受け入れや、処理済みの基板の搬出を行うことができる。基板の搬入、搬出には図示しない外部の搬送ロボットを利用可能である。また、シャッタ部材113の閉状態では、シャッタ部材113とチャンバ側壁面との間に設けられたゴム製のパッキン114,114により気密状態が保たれる。
【0021】
一方、天板12とチャンバ本体11との間の気密はシール部14が担保する。シール部14は、チャンバ本体11の上面に取り付けられた本体側パッキン141と、天板12の下面に取り付けられた天板側パッキン142とを備えている。本体側パッキン141は、チャンバ本体11の上面に、開口111の周囲に沿って開口111をぐるりと環状に取り囲むように設けられている。天板側パッキン142は、天板12の下面のうち本体側パッキン141と対向する位置に設けられている。
【0022】
したがって、
図1(a)に示すように、天板12の閉状態では本体側パッキン141と天板側パッキン142とが当接する。本体側パッキン141および天板側パッキン142は、例えばエチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)など比較的耐熱性の高い弾性材料により形成されており、当接状態で互いに押圧されることによって少なくとも一方が弾性変形する。弾性変形により本体側パッキン141と天板側パッキン142とが密着した状態を維持することにより、チャンバ本体11と天板12との間の気密が保たれる。本体側パッキン141および天板側パッキン142のより詳細な構造については後述する。なお、
図1(b)に示す天板12の開状態では、本体側パッキン141と天板側パッキン142とは互いに上下方向に離間している。
【0023】
この他に、処理チャンバ11には、チャンバ内の上部で(+Y)方向側端部付近に、天板12の下面に沿って加熱気体を吐出するガスノズル16が設けられている。また、チャンバ本体11(−Y)方向側側面の上部には、X方向を長手方向としてスリット状に形成された排気口115が設けられている。ガスノズル16は、高温のガスを吐出して天板12の下面近傍を流通させることにより天板12下面を温める。こうすることで、基板S上の塗布液から揮発した成分が冷たい天板12により冷やされて液化または再結晶化して天板12に付着することが回避される。
【0024】
排気口115には図示しない排気機構が接続されており、ガスノズル16からチャンバ内に供給される量とほぼ同量の気体が排気口115を介してチャンバから排気される。このため、チャンバ内の気圧はほぼ大気圧に維持されている。また、基板S上の塗布膜から気化した成分もこれにより排気される。
【0025】
図2は天板のより詳細な構造を示す分解組立図である。天板12は全体としては1枚の板状の構造物である。ただしその内部構造は、
図2に示すように、強度および厚みを確保するためのフレームを上下のパネルで挟み込んだ、いわゆるフラッシュパネル構造となっている。このような構造とする理由は、主として軽量化および断熱性確保のためである。すなわち、上記したように、天板12はメンテナンス作業のために退避させることが必要になる。このため、天板12は、必要な強度を確保した上でできるだけ軽くする必要がある。また、処理チャンバ10は内部に熱源としてのホットプレート15が収容されており、熱効率の観点からチャンバ内とチャンバ外の周囲雰囲気との間での断熱性が求められる。天板12を中空のフラッシュパネル構造とすることで、これらの要求に応えることができる。
【0026】
より具体的には、天板12は、内側フレーム121、外側フレーム122および補強材123を有するフレーム部120と、フレーム部120を上下から挟む上側パネル124および下側パネル125とを備えている。内側フレーム121は、中空の角パイプにより形成された矩形環状のフレームである。同様に、外側フレーム122も中空の角パイプにより矩形環状に形成されており、内側フレーム121の外側を取り囲むように配置されている。補強材123は、内側フレーム121で囲まれた環状の領域に、格子状に組まれて配置されている。上側パネル124は、このように構成されたフレーム部120の上部、つまり(+Z)側端部を覆うように設けられる。一方、下側パネル125は、フレーム部120の下部、つまり(−Z)側端部を覆うように設けられる。上側パネル124および下側パネル125は、フレーム部120に対し適宜の結合手段、例えば接着、溶接、ねじ等の固結部材等を用いて機械的に結合されている。
【0027】
こうして構成される板状構造物の4つの側面に、平板状の補強板126がそれぞれ取り付けられる。補強板126は、外側フレーム122とともに、天板12の曲げ剛性を高めることを目的として設けられる。この目的のため、補強板126は、断面における鉛直方向サイズが水平方向サイズよりも大きい、つまり縦長断面を有する形状とされる。これにより、周縁部が反り上がる方向への天板12の変形に抗する剛性を高めることができる。
【0028】
上記した天板12を構成する各部材はいずれも、例えば鋼鉄またはステンレス製とすることができるが、用途に応じて材料は適宜変更されてよい。また、各部材の材料が全て同じである必要はない。また、
図2では図示を省略しているが、
図1(a)に示すように、天板12のY方向側両端部にはローラ部材129が回転自在に取り付けられる。
【0029】
図3はシール部の構造を示す図である。前記したように、シール部14は、本体側パッキン141と天板側パッキン142とを備えている。
図3(a)に示すように、本体側パッキン141の断面形状は、平坦部141aと、平坦部141aの(−Y)方向側端部から略上向きに生え出し(延び出て)、かつ先端部ほど(+Y)方向側に湾曲した可動片141bとを有する片持ち型となっている。平坦部141aは、押さえ金具143を介してねじ等の固結部材144によりチャンバ本体11の上端部に固定されている。可動片141bは、上方からの押圧力に対し弾性変形する。
【0030】
一方、天板側パッキン142は、ゴム製の薄いシート体がその長手方向と平行な軸回りに折り返されてその断面がループ状となった中空体であり、シート端は(+Y)方向側で互いに重ねられて押さえ金具145を介して固結部材146により天板12に固定されている。したがって、下方からの押圧によってループ部分が弾性変形し、ループ部分に囲まれた中空部分が潰れてその断面形状およびその面積が変化する。天板側パッキン142の材料およびその厚みは、本体側パッキン141よりも柔らかく、つまり同じ押圧力に対する弾性変形量がより大きくなるように選ばれる。このように柔らかいゴムシート製の天板側パッキン142を天板12に密着させて取り付けるために、押さえ金具145は、変形しにくい断面L字形状のアングル部材が使用される。
【0031】
図3(a)に示すように、天板12とチャンバ本体11との間隔D1が十分に大きく、本体側パッキン141と天板側パッキン142とが離間した状態では、天板側パッキン142は大きなループを形成しており、また自重により下方へ垂れ下がった形状となっている。このとき、チャンバ内部空間と外部空間とは互いに連通している。
【0032】
図3(b)に示すように、天板12とチャンバ本体11との間隔D2(<D1)のときに本体側パッキン141と天板側パッキン142とが接触するものとすると、この接触によりチャンバ内空間と外部空間とが隔絶され、シール効果が発生する。シール部14により外部から隔絶されたチャンバ内空間が最も外側まで延びた位置を「シール位置Ps」と表すこととする。天板12とチャンバ本体11との間隔がこの値D2より小さいとき、柔らかい方の天板側パッキン142が主として弾性変形することにより、本体側パッキン141と天板側パッキン142とが互いに当接することでシールされた状態が維持される。
【0033】
このときも、重力の作用による天板用パッキン142の垂れ下がりは本体側パッキン141側に向かう変位となるため、シール状態を維持するように作用する。一方、本体側パッキン141については、重力による変形が天板側パッキン141よりも小さいため、重力がシール状態を破る方向に作用することはない。
【0034】
天板側パッキン142は本体側パッキン141よりも柔らかく変形しやすい。このように同じ押圧力に対する弾性変形量に差があると、互いに当接した際に一方が他方の表面形状に追従するように変形することになる。この場合は天板側パッキン142が本体側パッキン141に追従して変形する。これにより、天板側パッキン142と本体側パッキン141との間に隙間が空くことが防止される。天板側パッキン142の断面におけるループを大きくするほど、弾性変形におけるストロークを大きく取ることができる。こうすることで、チャンバ本体11と天板12との間隔の変化に対する追従性を高めることができる。
【0035】
なお、この処理チャンバ10は内部圧力がほぼ常圧で使用されるものであり、チャンバ内外の気圧差は小さい。このため、シール部14は高い圧力差に耐えるものである必要はなく、上記のようにパッキン同士が接触する際にこれらが密着していれば、十分に気密性を保つことが可能である。
【0036】
図3(c)に示すように、天板12とチャンバ本体11との間隔がさらに小さい値D3(<D2)において天板側パッキン142が完全に潰れるものとすると、天板12とチャンバ本体11との間隔がD2以上D3以下のとき、シール部14によるシール効果が得られる。この範囲内で間隔に変化があった場合でも、主に天板12とチャンバ本体11との間隔がこれに追従して弾性変形量を変化させることにより、シール状態が保たれることになる。
【0037】
図3(a)に示すように、本体側パッキン141の上面は、断面が上に凸となる曲面となっている。一方、天板側パッキン142の下面は、断面が下に凸の曲面となっている。また、天板側パッキン142の最下端部は、本体側パッキン141の最上端部よりもチャンバ内部側に位置している。このため、両パッキンが当接した状態では、
図3(b)に示すように、本体側パッキン141が天板側パッキン142をチャンバ内部空間側に押し込むように変形させることになり、最終的には
図3(c)に示すように、本体側パッキン141は、天板12の下面との間で天板側パッキン142を挟みつけた状態となる。これにより、本体側パッキン141と天板側パッキン142とが広い面積で密着することとなり、安定的に気密性を保つことが可能となる。
【0038】
図4は天板とチャンバ本体との寸法関係を示す図である。より具体的には、
図4(a)は処理チャンバ10の分解組立斜視図であり、
図4(b)は処理チャンバ10の上面図である。天板12とチャンバ本体11との上記した各部材からなる天板12は平面視においてチャンバ本体11よりも大きい。
図4(a)および
図4(b)に示すように、天板12を、本体側パッキン141と天板側パッキン142とが当接するようにチャンバ本体11に乗せたとき、天板12の周縁部は、4辺とも、パッキン同士が当接してチャンバ内と外部とを隔絶するシール位置Psよりも外側まで大きく延びている。
【0039】
図5は天板の部分断面図である。より具体的には、
図5(a)は
図4(b)のA−A線断面図である。また、
図5(b)は従来の一般的な処理チャンバにおける天板の構造の例を示す断面図である。
図5(a)に示すように、天板12はフラッシュパネル構造となっており、上側パネル124と下側パネル125との間には二重構造の角パイプフレーム121,122が挟み込まれている。このうち内側の角パイプフレーム121は、内部の補強材123を固定する枠体として機能するものである。一方、外側の角パイプフレーム122は、天板12の曲げ剛性をさらに高めるために設けられたものである。ここで、Y方向において外側角パイプフレーム122が占める位置がシール位置Psよりも外側となるように、各部の形状が設定されている。このような構造とすることにより得られる効果について次に説明する。
【0040】
チャンバ内空間には、発熱源となるホットプレート15が存在する。このため、天板12の下面12aはホットプレート15からの輻射熱およびホットプレート15により温められたチャンバ内雰囲気により加熱される。また、天板12下面に沿って加熱気体の気流が生成されている。これらにより、チャンバ内部空間に臨む天板12の下面12a、より具体的には下側パネル125は高温となっている。その一方で、上側パネル124は外気に触れており、その温度はより常温に近い。下側パネル125の熱はフレーム部120、より具体的には補強材123、フレーム121,122等を介して上側パネル124にも伝導されるが、上側パネル124と下側パネル125との間で大きな温度差が生じることは避けられない。
【0041】
このような温度差に起因して天板12が反るという問題が生じ得る。より具体的には、上側パネル124に比べより高温の下側パネル125の方が大きな熱膨張を生じることにより、特に天板12の周縁部が上向きに反りやすい。天板12が反ることでチャンバ本体11との間隔が広がり気密が破れると、冷たい外気の侵入により天板12下面の温度低下が生じ、揮発した成分の液化、再結晶化の原因となる。
【0042】
このような反りを防ぐために、フレーム121,122および補強板126が配置されているのである。しかしながら、これらの構造物自体が下側パネル125の熱を奪う熱伝導体として作用し、結果として天板12下面の温度を低下させてしまうことがあり得る。
【0043】
特に、
図5(b)に示す比較例の構造ではその問題が顕著である。
図5(b)に示すように、一般的な処理チャンバ20では、設置スペースの増大を避ける目的から、チャンバ本体21と天板22との平面サイズがほぼ同等とされる。このため、天板22の周縁部を補強するとともに補強材223を固定するためのフレーム221は、シール位置Psよりも内側に設けざるを得ない。また、天板22の側面を補強する補強板226も、シール位置Psに比較的近い位置に設けられることになる。
【0044】
このような構造では、チャンバ内の発熱源から下側パネル225に与えられた熱はフレーム221や補強板226を介して上側パネル224や外気へ伝達され、特に下側パネル225の周縁部に近い位置において温度低下が顕著になる。
【0045】
これに対し、
図5(a)に示す本実施形態では、天板12がシール位置Psより外側まで大きく延ばされ、その補強を担う外側フレーム122や補強板126はシール位置Psより外側に設けられている。その一方、内側フレーム121は、補強材123を固定する枠として機能すれば足り、高い曲げ剛性は必要とされない。このため、比較的断面積の小さい角パイプを用いることが可能である。このように断面積が小さく、したがって熱容量の小さいフレーム121をシール位置Psより内側に配置する一方、剛性は高いが熱容量も大きいフレーム122や補強板126をシール位置Psより外側に配置する。こうすることで、少なくともシール位置Psよりも内側の領域においては、天板12下面の温度低下を小さく抑えることが可能になる。
【0046】
また、シール位置Psよりも外側については、温度低下の問題を考慮する必要がないため、機械的強度の見地から必要かつ十分な補強を施すことが可能になる。これにより、天板12の反りをより強力に抑え込むことが可能となり、反りによる気密の破れに起因する温度低下をさらに効果的に抑制することができる。
【0047】
なお、気密性を維持するという観点からは、天板12の反りが最も問題となるのはシール位置Psにおいてである。言い換えれば、シール位置Psにおいて天板12の変形が抑えられていれば、その他の部分が変形していたとしても気密状態は維持される。このため、外側フレーム122等の補強部材による補強はシール位置Psにおいて有効に機能していることが望ましい。その意味では、角パイプフレームのような補強部材はシール位置Psをまたいで配置されることが好ましいと言える。しかしながら、チャンバ内での天板下面12aの温度低下を防止するという観点からは、補強部材はシール位置Psよりも外側に設けられることが好ましい。
【0048】
このように、補強部材の配置については、補強という観点と温度維持という観点との間で好ましい形態が相反している。これらを共に満足させる1つの方法が、
図5(a)に示すように、フレーム部120を内側フレーム121と外側フレーム122との二重構造とし、内側フレーム121と外側フレーム122との境界をほぼシール位置Psと一致させた構造とすることである。このようにすれば、シール位置Ps近傍における天板12の機械的強度を確保しつつ、チャンバ内における天板下面12aの温度低下を抑えることが可能である。
【0049】
外側フレーム122を介した熱の散逸をより効果的に抑制するためには、
図5(a)に示すように、内側フレーム121との間に空間を設けることが好ましい。このようにすると、内側フレーム121から外側フレーム122への直接的な熱伝導が生じないため、内側フレーム121から外側フレーム122を介した熱の散逸がより抑制される。これにより、チャンバ内における下側パネル125の温度低下がさらに抑えられる。
【0050】
また、上記のように複数の部材による強力な補強を行うことで天板12の反りが抑えられており、反りにより気密の破れが生じて外気が侵入し、これにより下側パネル125の温度低下が生じるのを防止することができる。また、仮に天板12内での温度差に起因して天板12の反りが生じてチャンバ本体11との間隔が広がったとしても、本実施形態のシール部14はこのような間隔の変動に追従して気密状態を維持する機能がある。そのため、小さな反りであれば十分に気密性を維持することができる。
【0051】
図5(b)に比較例として示すように、パッキン24が天板22、チャンバ本体21のいずれか一方のみに設けられる場合、パッキン24が天板22の反りに追従して変形するためには、パッキン24の変形可能量、つまり弾性変形におけるストロークを予め相当に大きく取っておく必要がある。しかしながら、パッキン24は押圧された状態で長時間高熱にさらされることで永久変形してしまうおそれがあり、変形可能量が大きいほど永久変形も起きやすい。このため、変形可能量を十分に大きくすることが困難である。
【0052】
図5(a)に示す本実施形態のシール部14は、自重で垂れ下がる天板側パッキン142が本体側パッキン141と当接することでシール作用を果たすので、仮に押圧による永久変形が天板側パッキン142に生じたとしても、シール機能の低下は限定的である。
【0053】
図6は本実施形態の効果を例示する図である。
図6(a)はチャンバ内での天板12下面の温度分布を模式的に示す図である。天板12の下面、より具体的には下側パネル125の下面の温度は、水平方向におけるチャンバ中心付近では概ね一定と考えられるが、シール位置Psの近傍で大きく低下し、シール位置Psより外側では最終的に室温に近い温度となる。
図5(a)に示す本実施形態における温度分布は、実線で示すようにシール位置Ps付近までほぼ一様な温度を保ち、シール位置Psの外側で大きく低下する。
【0054】
一方、
図5(b)に示す比較例における温度分布は、点線で示すようにシール位置Psよりも内側でより大きな温度低下が生じる。もし天板下面の温度がチャンバ内壁面よりも内側で塗布液からの揮発成分の液化または固化温度よりも低下していれば、この部分で液化または固化した揮発成分の付着が生じる。これがチャンバ内に落下して基板S等を汚染することがあり得る。本実施形態ではシール位置Ps付近まで温度低下を抑制することができるので、少なくともチャンバ内壁面よりも内側については付着物の発生を防止することが可能である。
【0055】
図6(b)はシール部14の作用を模式的に示す図である。下側プレート125が熱膨張すると、
図6(b)に示すように天板12の周縁部が上向きに変位するような反りが生じる。このため、チャンバ本体11の上端と天板下面12aとの間隔Dが位置により変化することになる。この間隔Dが前述した値D2からD3の範囲内にあれば、同図に示すように主として天板側パッキン142の変形によって気密状態が保たれ、外気の侵入に起因する温度低下は防止される。
【0056】
以上のように、この実施形態においては、天板12の周縁部に補強部材(外側フレーム122、補強板126)が設けられており、チャンバ内で下面12aが加熱されることに起因する天板12の反りが機械的に抑制されている。これにより、天板12の反りに起因する気密の破れを防止し、外気の侵入による天板下面12aの温度低下が抑制される。
【0057】
また、平面視における天板12のサイズはチャンバ本体11よりも大きく、天板12の周縁部をシール位置Psよりも外側まで延びている。そして、補強部材を主としてシール位置Psよりも外側に設けることにより、補強部材を介した熱の放散を、シール位置Psよりも外側で起こるようにすることができる。これにより、シール位置Psよりも内側における天板下面12aの温度低下を抑制することができる。
【0058】
このように、本実施形態における天板12の構造は、機械的な補強により反りを抑えることで低温の外気が侵入するのを防止する作用とともに、補強部材を通じた直接的な熱の散逸を抑制する作用を有している。これらはいずれも、天板下面12aの温度低下に起因して、塗布液から揮発した成分が再び液化または固化し天板12に付着するのを抑える効果がある。そのため、このような付着物がチャンバ内に落下し、基板S等を汚染することが未然に防止される。
【0059】
一方、この実施形態におけるシール部14は、仮に天板12に反りが発生した場合でも気密状態を維持することのできる構造を有している。すなわち、チャンバ本体11および天板12のそれぞれに弾性材料によるパッキンを設け、チャンバ本体11に対し天板12が閉じられた状態では、それぞれのパッキン同士が当接するように構成されている。
【0060】
このうち一方のパッキンすなわち天板側パッキン142は、他方のパッキンすなわち本体側パッキン141に比べて同じ押圧力に対してより大きく弾性変形するように、それぞれの材料および形状が設定されている。そのため、両パッキンが当接する際において、本体側パッキン141は大きく変形しないのに対し、天板側パッキン142はより大きく変形することで本体側パッキン141の表面に密着することになる。
【0061】
つまり、天板12の反りによってチャンバ本体11と天板12との間隔に変動がある場合でも、シール部14はこれに追従して気密状態を維持することが可能である。このように、シール部14は、天板12の反りを抑制する効果はないが、仮に反りが発生したとしても、それにより気密性が破れ外気が侵入するのを防止する作用を有している。
【0062】
以上説明したように、上記実施形態においては、天板12が本発明の「蓋部」および「板状体」として機能している。そして、内側フレーム121および補強材123が一体として本発明の「枠体」に、上側パネル124および下側パネル125がそれぞれ本発明の「平板体」に、また外側フレーム122および補強板126がそれぞれ本発明の「補強部材」に相当している。また、本体側パッキン141および天板側パッキン142が本発明の「本体側シール材」および「蓋側シール材」としてそれぞれ機能している。また、上記実施形態では、ホットプレート15が本発明の「加熱部」として機能する一方、ガスノズル16が本発明の「気流形成部」として機能している。
【0063】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記実施形態の天板12は、反りを抑える補強部材としての外側フレーム122および補強板126を備えるものである。しかしながら、これらの両方を設ける必要は必ずしもなく、いずれか一方のみが装備されてもよい。また、天板12の側面に設けられる補強部材は、上記実施形態のような板状のものに限られず、例えば中空パイプであってもよい。
【0064】
また、上記実施形態の天板12は内部が空洞のフラッシュパネル構造を有するものであるが、例えばこの空洞部分に断熱材が充填されてもよい。
【0065】
また、上記実施形態では、天板12にループ型のパッキンを、チャンバ本体11側に片持ち型のパッキンを設けているが、これらは逆であってもよい。ただし、重力によるパッキンの垂れ下がりをシール機能の維持に役立てるためには、上記したように変形しやすい方のパッキンを天板側に用いることが好ましい。また、これらのパッキンの形状は、例えばチャンバ側面の開口をシールするためのパッキンに用いられてもよい。
【0066】
また、上記実施形態の天板側パッキン142は、ゴム製のシート体を折り返すことでループ形状を形成したものであるが、予めループ状に成型された部材が用いられてもよく、また中空チューブの一部を潰した状態で押さえ金具で固定したものとしてもよい。
【0067】
また、上記実施形態では昇温されたホットプレート12に載置されることによって基板Sが加熱されるが、基板の加熱方法はこれに限定されない。例えば、チャンバ内部空間の上方に配置された「加熱部」としてのヒータからの輻射熱により基板が加熱される構成であってもよい。また、チャンバ内に熱風を供給する加熱部が設けられたものであってもよい。
【0068】
なお、上記実施形態の加熱処理は、塗布液の膜が形成された、つまり表面に液膜が形成された状態の基板Sを受け入れ、その溶媒成分を加熱により揮発させることで塗布膜を乾燥硬化させるものである。しかしながら、例えば塗布膜が予め固化された固体膜から昇華性の成分を昇華させて除去するための加熱処理や、塗布膜の全成分を揮発させ基板を乾燥させるための加熱処理にも、上記構成の基板処理装置1を適用することが可能である。
【0069】
以上、具体的な実施形態を例示して説明してきたように、この発明に係る処理チャンバにおいて、例えば、板状体は枠体を1対の平板体で挟み込んだ中空構造物であり、平面視において枠体の外側に補強部材が設けられてよい。このような構成によれば、十分な強度を有する板状体を軽量に構成することが可能である。そして、補強部材が枠体の外側に設けられることで、熱による板状体の変形をより効果的に抑えることができる。
【0070】
また例えば、平面視において、前記枠体の外周縁は前記シール位置よりも内側に収まる構成としてよい。このような構成によれば、枠体を通じたシール位置より外側への熱の散逸を少なくすることができ、蓋部下面の温度低下を抑えることができる。
【0071】
また例えば、蓋部は、枠体としての内側フレームと、平面視において内側フレームの周囲を取り囲む、補強部材としての外側フレームとを有していてよい。このような構成によれば、板状体の構造を維持するための枠体と、その変形を抑えるための補強部材とをそれぞれの機能に応じた最適な設計とすることができる。
【0072】
また例えば、補強部材として、矩形断面を有する中空パイプを用いることができる。補強部材として中空の部材を用いることで、高強度と軽量化との両立を図ることができる。また、補強部材を介した熱の散逸を抑えることができる。
【0073】
また例えば、補強部材として、板状体の側面に取り付けられた、断面における鉛直方向のサイズが水平方向のサイズより大きい棒状または板状の部材を用いることができる。このような構成によれば、板状体の周縁部が反り上がる方向における曲げ剛性を高め、板状体の熱変形を抑えることができる。
【0074】
また例えば、シール部は、弾性材料により形成され、開口の周囲に沿って開口を取り囲むようにチャンバ本体に設けられた本体側シール材と、弾性材料により形成され、蓋部の下面のうち本体側シール材と対向する位置に設けられた蓋側シール材とを有し、閉状態では本体側シール材と蓋側シール材とが当接することで隙間をシールする構成とすることができる。このような構成によれば、弾性を有するシール材同士の当接により隙間をシールするため、蓋部の熱変形に起因する隙間の増大に対して、シール材がこれに追従してシール状態を維持することが可能である。
【0075】
また、本発明に係る基板処理装置においては、例えば、加熱部は、昇温された上面に被処理基板が載置されるホットプレートを有していてよい。このような構成では、ホットプレートからの熱輻射および温められたチャンバ内部雰囲気により蓋部下面が熱せられた状態となる。その一方で、蓋部を構成する構造物を通じた熱の散逸や気密性低下による外気の侵入に起因する局所的な温度低下は揮発成分の付着を招きやすい。このような構成に本発明を適用することで、蓋部の熱変形および外部への熱の散逸を抑えて、蓋部への揮発成分の付着を防止することができる。
【0076】
また例えば、本発明に係る基板処理装置は、処理チャンバ内で、蓋部の下面に沿って加熱気体を流通させる気流形成部を有する構成であってよい。このような構成においても、加熱気体により蓋部下面が熱せられており、上記と同様の問題が生じ得る。このような構成にも、本発明を適用することが有効である。