特許第6824989号(P6824989)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6824989超音波装置、およびホログラフィック超音波場を生成する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6824989
(24)【登録日】2021年1月15日
(45)【発行日】2021年2月3日
(54)【発明の名称】超音波装置、およびホログラフィック超音波場を生成する方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/00 20060101AFI20210121BHJP
   G03H 3/00 20060101ALI20210121BHJP
【FI】
   A61B8/00
   G03H3/00
【請求項の数】17
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-530507(P2018-530507)
(86)(22)【出願日】2016年12月7日
(65)【公表番号】特表2018-538071(P2018-538071A)
(43)【公表日】2018年12月27日
(86)【国際出願番号】EP2016002062
(87)【国際公開番号】WO2017097417
(87)【国際公開日】20170615
【審査請求日】2019年8月6日
(31)【優先権主張番号】15003540.0
(32)【優先日】2015年12月11日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】512247223
【氏名又は名称】マツクス−プランク−ゲゼルシヤフト ツール フエルデルング デル ヴイツセンシヤフテン エー フアウ
【氏名又は名称原語表記】MAX−PLANCK−GESELLSCHAFT ZUR FOeRDERUNG DER WISSENSCHAFTEN E.V.
(73)【特許権者】
【識別番号】594102418
【氏名又は名称】フラウンホーファー−ゲゼルシャフト ツル フェルデルング デル アンゲヴァンテン フォルシュング エー ファウ
【氏名又は名称原語表記】Fraunhofer−Gesellschaft zur Foerderung der angewandten Forschung e.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100105360
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 光治
(74)【代理人】
【識別番号】100145023
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 学
(72)【発明者】
【氏名】メルデ,カイ
(72)【発明者】
【氏名】フィッシャー,ペール
(72)【発明者】
【氏名】ウェーバー,ペーター−カール
【審査官】 佐々木 龍
(56)【参考文献】
【文献】 特表昭63−503206(JP,A)
【文献】 特開昭62−277971(JP,A)
【文献】 特開平06−194348(JP,A)
【文献】 Y. Hertzberg, G.Navon,Bypassing absorbing objects in focused ultrasound using computer generated holographic technique,Med. Phys.,2011年12月,vol. 38, No. 12,第6408−6409頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00− 8/15
A61N 7/00− 7/02
G01N 29/00−29/52
G03H 1/00− 5/00
H04R 17/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホログラフィック超音波場(1)を生成するよう構成された超音波装置(100)であって、
− 超音波(2)を生成するよう適合化された超音波源装置(10)と、
− 透過ホログラム(21)および露出した音響放射体面(22)を有する透過ホログラム装置(20)と、
を含み、
前記透過ホログラム装置(2)は、前記超音波源装置(10)に結合され、および、前記音響放射体面(22)を通して前記超音波(2)を伝達し周囲空間に前記ホログラフィック超音波場(1)を生成するよう配置され、
− 前記透過ホログラム(21)は、前記音響放射体面(22)の方を向くホログラフィック表面(23)を有し、
− 前記ホログラフィック表面(23)は、前記透過ホログラム(21)の音響インピーダンスと異なる音響インピーダンスを有する流動性の埋め込み材料(25)を含む音響結合層(24)によって覆われており、
− 前記音響結合層(24)は、さらに、前記埋込み材料(25)を被覆し前記音響放射体面(22)を形成する柔軟なカバー・シート(26)を含み、
− 前記透過ホログラム(21)は、その前記ホログラフィック表面(23)の形状によって決定され前記超音波(2)の伝播方向に対して垂直に伸びるホログラム位相構造を有する構造化された部品であって、前記超音波(2)の波面を横切る位相および/または振幅が前記透過ホログラム(21)の前記ホログラム位相構造によって特異的に変化するように、前記波面と相互作用することができる構造化された部品であり、前記相互作用後に前記超音波(2)の回折および自己干渉によって前記ホログラフィック超音波場(1)が生成され、
− 前記音響放射体面(22)は、前記超音波(2)の半径方向の位相および/または振幅分布を変化させることなく前記超音波(2)を伝達することができるような滑らかな表面である、
超音波装置。
【請求項2】
前記超音波源装置(10)は、単一の超音波源素子(11)と複数の超音波源素子のアレイのうちの少なくとも一方を含むものである、請求項1に記載の超音波装置。
【請求項3】
前記超音波源装置(10)は、平面状のまたは曲面状の超音波(2)生成するよう適合化されるものである、請求項1または2に記載の超音波装置。
【請求項4】
前記透過ホログラム(21)は、平面状のまたは湾曲した形状有するものである、請求項1乃至3のいずれかに記載の超音波装置。
【請求項5】
前記透過ホログラム(21)は、生成される前記ホログラフィック超音波場(1)に応じて、逆回折問題を解くことによって形成されるものである、請求項1乃至4のいずれかに記載の超音波装置。
【請求項6】
前記透過ホログラム(21)は、生成される前記ホログラフィック超音波場(1)に応じ誤差低減アルゴリズムを用いて、数値近似によって形成された位相ホログラムである、請求項1乃至5のいずれかに記載の超音波装置。
【請求項7】
前記誤差低減アルゴリズムはゲルヒベルク−サクストン(Gerchberg-Saxton)誤差低減アルゴリズムを含むものである、請求項6に記載の超音波装置。
【請求項8】
前記透過ホログラム装置(20)は、前記超音波源装置(10)に着脱可能に結合されるものである、請求項1乃至のいずれかに記載の超音波装置。
【請求項9】
前記透過ホログラム装置(20)には、少なくとも1つの識別装置(28)設けられるものである、請求項1乃至のいずれかに記載の超音波装置。
【請求項10】
前記透過ホログラム装置(20)には、前記少なくとも1つの識別装置(28)として、光学的に読取り可能なマーカおよび電子識別装置のうちの少なくとも一方設けられるものである、請求項に記載の超音波装置。
【請求項11】
前記超音波源装置(10)および前記透過ホログラム装置(20)の少なくとも一方に、少なくとも1つの位置合せ要素(27)が設けられている、請求項1乃至10のいずれかに記載の超音波装置。
【請求項12】
− 前記超音波源装置(10)に駆動電流を供給するよう配置された電源装置(31)と、
− 前記電源装置(31)に接続され、前記駆動電流の振幅波形を制御するよう配置された波形発生器(32)と、
をさらに含む、請求項1乃至11のいずれかに記載の超音波装置。
【請求項13】
前記波形発生器(32)および前記電源装置(31)は、前記超音波()が連続波またはパルス波である形態で、前記超音波源装置(0)を駆動するよう適合化されるものである、請求項12に記載の超音波装置。
【請求項14】
前記超音波源装置(10)を支持し、把持部(41)、プローブ・ヘッドおよび内視鏡装置の中の少なくとも1つを含む支持装置(40)、をさらに含む、請求項1乃至13のいずれかに記載の超音波装置。
【請求項15】
前記透過ホログラム(21)が静的部品である、請求項1乃至14のいずれかに記載の超音波装置。
【請求項16】
請求項1乃至15のいずれかに記載の超音波装置(10)が使用される、物体(3)にホログラフィック超音波場(1)を生成する方法であって、
− 前記物体(3)と音響的に接触するように前記超音波装置(100)を配置する工程と、
− 前記ホログラフィック超音波場(1)が前記物体(3)に生成されるように、前記超音波装置(100)を動作させる工程と、
を含む方法。
【請求項17】
前記ホログラフィック超音波場(1)は、
− 前記物体(3)における超音波焦点の形成、
− 前記物体(3)における超音波画像の生成、
− 前記超音波による前記物体内の或る範囲のバイパス、
− 前記物体(3)の超音波画像化および
− 超音波によるエネルギ伝達
という用途の中の少なくとも1つの用途のために整形されるものである、請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体にホログラフィック超音波場を生成するよう構成された超音波装置に関する。さらに、本発明は、物体にホログラフィック超音波場を生成する方法に関する。
【0002】
本発明の適用例は、超音波、超音波に基づくエネルギ伝達および/または超音波イメージング(画像化)を用いて、特に医療工学において、物体または対象物を処理する(treat:を処置する、に医療を施す)分野で利用可能である。
【背景技術】
【0003】
本発明の背景を説明するために、特に以下の引用を参照する。
[1]A. Meyer et al., "Journal of Applied Physics" 96(10): 5886-5891 (2004)、
[2]米国特許第8696164号、
[3]M. Moleron et al., "Applied Physics Letters" 105(11): 114109 (2014)、
[4]Y. Hertzberg et al., "Medical Physics" 38(12): 6407-6415 (2011)、
[5]国際公開第2013/108152号、
[6]米国特許出願公開第2003/145864号、
[7]G. Fleury et al., "Ultrasonics symposium (IUS)", 2010 IEEE, 11 October 2010, pages 876-885、
[8]米国特許出願公開第2005/277824号、および
[9]欧州特許出願第14004333.2 (本願の優先日において未公開)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第8696164号
【特許文献2】国際公開第2013/108152号
【特許文献3】米国特許出願公開第2003/145864号
【特許文献4】米国特許出願公開第2005/277824号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】A. Meyer et al., "Journal of Applied Physics" 96(10): 5886-5891 (2004)
【非特許文献2】M. Moleron et al., "Applied Physics Letters" 105(11): 114109 (2014)
【非特許文献3】Y. Hertzberg et al., "Medical Physics" 38(12): 6407-6415 (2011)
【非特許文献4】G. Fleury et al., "Ultrasonics symposium (IUS)", 2010 IEEE, 11 October 2010, pages 876-885
【発明の開示】
【0006】
物体(対象物)内の標的部分へ非接触でエネルギを伝達するために超音波を使用することは、医療工学(例えば、超音波に基づく温熱療法または手術)および産業技術における種々のプロセスにおいて一般的に知られている。通常、局所的に限定されまたは変化し得る標的部分を効率的に(超音波)照射するために、空間的構造を有する超音波場が必要である。実際的な手法では、固定点またはライン形状の焦点を有する可動音響(音波)送信機(sound transmitters:送波器、伝達器)または制御可能な焦点を有するフェーズド・アレイ(音)源が使用される。可動音響送信機は、物体に対する正確かつ再現可能な調整に関して欠点を有する。フェーズド・アレイ(音)源では、各ピクセルは、特定の電子制御手段を必要とする別個の音響送信機である。その結果、ピクセル(画素)の数(典型的には、例えば128または256個)が増大するにつれて、複雑さ(特に、コスト、サイズ、ソフトウェア要求)が大幅に増大する。
【0007】
空間的に構造化された超音波場は、メイヤー氏(Meyer)他の文献[1]に記載されているような光−音響ホログラフィによって得ることができ、そこでは、強力なレーザ源が光吸収面の複数の単一スポットを励起するのに使用される。力学的波のレーザ光生成用の別の装置が、文献[2]に記載されている。これらの方法は、高い局所的分解能および動的音場を形成する一方、複雑な光学的設定で得られる複雑さおよび効率の限界に関して欠点を有する。さらに、文献[1]の方法は、連続動作には適さず、単一スポット当り8kPaに制限された低い超音波圧力を生成するのにも高いレーザ強度が必要とされる。
【0008】
M.モレロン氏(M. Moleron)他の文献[3]には、波長より小さい寸法の特徴を用いた異常な音響伝達を有する音響フレネル・レンズについて記載されている。音響フレネル・レンズの適用例は、音波を単一の焦点に集束させることに限定される。Y.ヘルツベルク氏(Y. Hertzberg)他の文献[4]、[5]には、医療用途用の集束された超音波において吸収性の物体をバイパス(迂回)するために音響ホログラムを使用することが、示唆されている。音響ホログラムは、986個のピクセルを有するフェーズド・アレイ源を用いて生成される。この多数のピクセルによって、電子制御の高度の複雑さが生じ、ピクセル当りの位相の調整能力がπ/4ステップ(刻み)に制限される。
【0009】
文献[6]には、複数の超音波変換器(振動子)の組合せを用いて、ホログラフィック超音波場を生成する超音波装置が開示されている。この技術は、各画素(ピクセル)当り1つの放射体(エミッタ)が必要であり、アレイ内の全ての放射体を個々に制御しなければならないので、複雑さに関して欠点を有する。超音波場を生成する別の背景技術は、文献[7]および[8]において見出すことができる。
【0010】
空間的に構造化された超音波場の別の適用例は、3D(3次元)ラピッド・プロトタイピング(高速試作)の分野で利用可能である[文献9]。透過ホログラムで生成されたホログラフィック超音波場は、液体槽における前駆体物質に音響力を加えるのに使用される。結果的に得られた材料分布には、固定化プロセス(過程)が実行される。文献[9]の技術は、液体槽内でのホログラフィック超音波場の生成に適合化されている。
【0011】
本発明の目的は、空間的に構造化された超音波場を生成するための改良された超音波装置および改良された方法を実現することであり、通常の技術の欠点および制限(限界)が解消される。特に、超音波装置および方法は、空間的に構造化された超音波場の他の実際的な適用を実現することができ、装置(デバイス)および制御の複雑さが低減されたホログラフィック超音波場を生成することができるものである。
【0012】
発明の概要
本発明の第1の態様(特徴)によれば、上述の目的は、少なくとも1つのホログラフィック超音波場を生成するよう構成された超音波装置によって達成(解決)され、その超音波装置は、一次(主要な)超音波を生成するための超音波源装置(デバイス)と、透過ホログラム装置とを含み、その透過ホログラム装置は、一次超音波が透過ホログラム装置を通って伝播(伝搬)することができるように、超音波源装置と音響的に接触するよう配置されており、従って、周囲空間に、例えば隣接の物体(内)に、少なくとも1つのホログラフィック超音波場を形成する二次超音波を生成する。超音波源装置は、駆動信号(駆動電流)に応答して一次超音波を放出できる少なくとも1つの超音波源素子(変換器素子)を含んでいる。透過ホログラム装置は、透過ホログラムと、周囲に面した露出した音響放射体面とを含んでいる。好ましくは、透過ホログラムは、一次超音波の受動的な静的な変更(調整、修正)を形成する、構造化された安定的な部品(構成要素)である。利点として、これによって、一次超音波源装置によって完全な音響強度が形成できる。さらに、それによって、フェーズド・アレイ源の複雑さを伴わずに、高度に輪郭の明確な(はっきりした)超音波場が可能になる。透過ホログラムの複雑さは、製造方法によってだけ制限を受ける。それがいったん製造されると、100×100ピクセルのホログラムに必要な制御は、500×500ピクセルを測定するホログラムより多くも少なくもない。
【0013】
本発明によれば、超音波装置の音響放射体面は滑らかな表面である。二次(副次的)超音波の波面(wave-front)の形状および/または処理(処置)される物体の表面の幾何学的形状に応じて、音響放射体面は平面または曲面である。“滑らかな表面”という用語は、外側の非構造化表面(無段差表面)、特に、超音波の径方向(放射状)の位相および/または振幅分布を変化させることなく超音波を伝達できる表面を指す。換言すれば、“滑らかな表面”という用語は、必ずしも理想的に段差のない表面ではないが、超音波の径方向(放射状)場分布に影響を与えない(または無視できる程度にのみ影響を及ぼす)トポグラフィ的特徴(地勢)を含んでもよい。これは、滑らかな表面ではないホログラフィック表面とは、対照的である。一般的に、音響放射体面の表面粗さは、ボイド(例えば、空気または不純物ポケット)が超音波装置と隣接の物体の間の界面で最小化されまたは排除されるように低減される。
【0014】
通常の技術と比較して、その超音波装置には次のような充分な利点がある。第1に、文献[4、5、6、8]に記載されているような複数の超音波源素子のフェーズド・アレイを制御する複雑さが解消される。さらに、文献[3]とは対照的に、集束用の音レンズの代わりに透過ホログラムを適用すると、超音波周波数範囲において適用される任意の特定の場分布で、例えば照射対象の物体(内)に、透過ホログラムがホログラフィック超音波場を形成することができるので、超音波装置の新しい適用例が、提示される。
【0015】
さらに、滑らかな音響放射体面によって、実際の環境において、例えば医師によってホログラフィック超音波場を患者に適用するための、超音波装置の適用が可能になる。利点として、音響放射体面によって、例えば文献[3]または[6]による、通常のデバイス(装置)を液体槽において動作させる必要性を、解消することができる。音響放射体面は、処理対象の物体の表面との、直接的な歪みのない接触を形成する。さらに、放射体面の滑らかなトポグラフィによって、ホログラフィック超音波場を劣化させ得るであろう汚染物の付着が回避され、任意の洗浄作業が容易になる。超音波装置が、付加的な音響結合層を用いて、例えば通常の超音波適用例で知られているゲル層を用いて、使用される場合、音響放射体面における意図しない気泡の生成が回避される。
【0016】
本発明によれば、透過ホログラムは、単純で費用効率の高い形態で音場を構成または構造化するのに使用される。そのようなホログラムによって、高分解能、例えば少なくとも512×512の“ピクセル”で、広い面積領域(最大で各数十cmまで)にわたる波面操作が提供される。単一の圧電変換器(トランスデューサ)を用いても、任意の圧力分布を生成することができる。そのホログラムは、複雑な変換器アレイと比較して、はるかに簡単で、安価で、操作が容易である。
【0017】
本発明の第2の一般的態様によれば、上述の目的は、物体に(物体内に)ホログラフィック超音波場を生成する方法によって達成(解決)され、そこでは、本発明の上述の第1の態様による超音波装置が使用される。その超音波装置は、物体と音響的に接触(音波接触)するよう配置されて、ホログラフィック超音波場が物体に生成されるように、操作される。ホログラフィック超音波場は、透過ホログラムの音響位相および/または振幅構造に従って生成される。
【0018】
利点として、超音波装置の超音波源装置(デバイス)は、通常の超音波適用例で知られているように、少なくとも1つの超音波源素子、例えば少なくとも1つの圧電素子、を含んでいてもよい。本発明の好ましい実施形態によれば、超音波源装置は、1つの単一の超音波源素子および複数の超音波源素子のアレイ(配列)、特に複数の超音波源素子のフェーズド・アレイ、のうちの少なくとも一方を含んでいる。第1の変形例によれば、単一の超音波源素子は、透過ホログラム(中)を通って伝播する一次(主要な)超音波を生成するのに使用することができる。単一の超音波源素子の使用は、超音波源装置のデバイス構造の単純さおよび制御の単純さに関して利点を有する。第2の変形例によれば、超音波源素子のアレイ(少なくとも2つの超音波源素子)が設けられる。これは、高分解能アレイの限界およびその制御が解消される一方で、生成される一次超音波および生成されるホログラフィック超音波場を追加的に整形するための利点を有することができる。第3の変形例によれば、単一の超音波源素子と、複数の超音波源素子のアレイとの双方を設けることができる。少なくとも1つの超音波源素子の既知の特徴およびその制御に起因して、一次超音波は既知の波面を有する。一次超音波は、非可聴周波数範囲、特に超音波周波数範囲、の周波数を有することが、好ましい。特に好ましくは、音響波は、少なくとも20kHz、特に少なくとも40kHzの、最高でGHz(ギガヘルツ)範囲までの、周波数を有する。
【0019】
超音波源装置は、平面超音波であるような一次超音波(平面波または平面波に近似する波を含む)を生成するよう適合化されていることが、好ましい。この実施形態では、超音波源装置によって最初に放出される一次超音波は、均一な径方向(放射状)の位相分布(ビーム伝播方向に垂直な位相分布)を有する。利点として、これによって、透過ホログラムの設計が容易になる。平面一次超音波は連続波であることが好ましい。
【0020】
代替形態として、超音波源装置は、曲面状のまたは湾曲した(curved)、特に放物面状または球面状の、超音波であるような超音波を生成するよう適合化することができる。この実施形態で、ホログラフィック超音波場を集束させる利点が得られる。放物面状または球面状の一次超音波は、例えば単一の音響振動(発振)または一群の音響振動からなる、パルス形状の波であることが、好ましい。
【0021】
しかし、本発明は、平面波、放物面波または球面波の使用に限定されない。超音波源装置によって最初に生成される波面の他の形状が使用される場合、透過ホログラムの構造はそれに応じて適合化させることができる。
【0022】
超音波装置の別の好ましい特徴によれば、透過ホログラム装置、特に好ましくはその透過ホログラムは、平面状の外部形状を有する。これによって、透過ホログラムの設計、および高い再現性および精度を有するホログラフィック超音波場の生成が容易になる。平面透過ホログラムは、例えば少なくとも1つの平面超音波源素子を含むような超音波源装置が平面超音波を生成するよう適合化される場合に、設けられることが、好ましい。平面透過ホログラムを有する透過ホログラム装置は、平面音響放射体面を有することが、好ましい。
【0023】
代替形態として、透過ホログラム装置、特に好ましくはその透過ホログラムは、湾曲した、特に放物面状または球面状の外部形状を有する。この実施形態は、超音波源装置が、湾曲した、特に放物面状または球面状の超音波を生成するよう適合化されている場合に、実現されることが、好ましい。この場合、超音波源装置は、湾曲した表面に沿って配置された、少なくとも1つの湾曲した超音波源素子または複数の平面超音波源素子を含んでいる。湾曲した透過ホログラムを有する透過ホログラム装置は、透過ホログラムの湾曲(曲率)と整合(マッチ)する湾曲(曲率)を有する湾曲した音響放射体面を有することが、好ましい。
【0024】
さらに、音響放射体面の形状は、処理対象の物体の表面の幾何学的形状に整合または一致させることができる。特に、平面透過ホログラムは、湾曲した音響放射体面と組み合わせることができ、または、湾曲した透過ホログラムは、平面音響放射体面と組み合わせることができる。
【0025】
透過ホログラムは、波面を横切る(にわたる)複数の位相および/または複数の振幅が透過ホログラムの構造によって特異的にまたは具体的に変化するように、一次超音波の予め既知の波面と相互作用することができる、構造化された部品(構成要素)である。この目的のために、透過ホログラムは、一次超音波の伝播方向(軸方向)に対して垂直(放射状、半径方向)に伸びるホログラム位相構造を有する。変えられた各位相および/または各振幅は、二次超音波のその後の回折のための部分(サブ)波寄与分を形成する。相互に干渉する音響部分波は、透過ホログラムによって生成される。従って、透過ホログラムは、光ホログラフィのホログラフィック・プレートまたは投射光学系の回折光素子のように、使用される。一次超音波の波面と透過ホログラムとの相互作用の後、得られるホログラフィック超音波場は、二次超音波の回折および自己干渉によって、即ち隣接の物体における少なくとも1つの焦点面(平面)における各部分波の干渉によって、生成される。自己干渉によって、得られるホログラフィック超音波場の強度分布が生成される。
【0026】
透過ホログラムは、包囲する(周囲の)材料の音響インピーダンスとは異なる音響インピーダンスを有する材料で形成される。従って、透過ホログラムのホログラム位相構造によって、位相および/または振幅のシフトが、一次超音波に対してその径方向分布に沿って与えられる。透過ホログラムは、プラスチック材料によって形成され、例えば、ポリメチルメタクリラート(PMMA)、ポリスチレン(PS)、より高い延性のある(ductile)ポリマー、例えばポリメチルペンテン(PMP)、エポキシ樹脂、またはシリコーンゴムによって、形成することが、好ましい。PS、PMMAは減衰性が小さく、一方、PMPの音響インピーダンスは生体組織に対してより良好に整合する。エポキシとシリコーンの音響インピーダンスは、フィラー(充填材)粒子を使用する広い範囲にわたって調整することができる。
【0027】
透過ホログラムは、一次超音波の波面形状および得られるホログラフィック超音波場に整合(マッチ)するように、形成される(構造化されおよび/または整形される)。利点として、本発明の種々の実施形態は、透過ホログラムを形成するのに、特にホログラム位相構造を形成するための構造データを得るのに、利用可能である。第1の変形例によれば、構造データは、生成されるホログラフィック超音波場および一次超音波の径方向位相および振幅分布に依存する逆回折(inverse diffraction)問題を解決することによって、形成することができる。第2の変形例によれば、透過ホログラムは、生成されるホログラフィック超音波場および一次超音波の径方向位相および振幅分布に依存して(応じて)、例えばゲルヒベルク−サクストン(Gerchberg-Saxton)アルゴリズムまたは反復角スペクトル手法(iterative angular spectrum approach)のような、誤差(エラー)低減アルゴリズムを使用する数値近似によって形成される位相ホログラムとして、形成することができる。誤差低減アルゴリズムは、光学系で知られているように適用することができ、その計算をすぐに容易に音響系に適合化することができる。
【0028】
利点として、透過ホログラムは、ラピッド・プロトタイピング法、例えば3Dプリント(印刷)法、を用いることによって、その計算されたホログラム位相構造を用いて、形成することができる。これは、高分解能(例えば、50μm)、高速かつ安価な製造、およびディジタル材料(素材)の各組合せの性能または可能性に関して、利点を有する。
【0029】
透過ホログラムのホログラム位相構造は、好ましくは、そのホログラフィック表面の形状によって決定され、例えば、透過ホログラム材料と埋込み材料の間の界面の形状によって決定される。例えば、ホログラム位相構造は、透過ホログラムの可変厚さΔΦ(r)=2πf(1/c−1/c)ΔT(r)から得られ、ここで、ΔΦは半径方向の位相シフトであり、ΔTは相対的な厚さの差であり、fは周波数であり、rは半径方向の座標であり、c、cは、それぞれ埋込み材料および透過ホログラムにおける音の速さである。本発明の好ましい実施形態によれば、透過ホログラムは、ホログラフィック表面が音響放射体面の方を向くまたはその面に面するように、配置される。この実施形態では、透過ホログラム装置(デバイス)は、透過ホログラムのホログラフィック表面上に配置されて音響放射体面を形成する音響(音波)結合層を含んでいる。音響結合層は、ホログラフィック表面に固定的に結合されて、ホログラフィック表面のホログラム位相構造が、環境による影響から保護されるようになっている。さらに、音響結合層は、照射対象の物体との滑らかで隙間のない接触を形成する。
【0030】
音響(音波)結合層は、ホログラフィック表面を覆う埋込み材料を含んでいることが、特に好ましい。埋込み材料は、透過ホログラムの音響インピーダンスとは異なる音響インピーダンスを有する。埋込み材料は、ホログラム位相構造を取ってそのインピーダンスを被処理(処理対象の)物体に整合させる利点を有する。音響放射体面は、透過ホログラムの可変表面とは対照的に、滑らかな表面である。
【0031】
透過ホログラムは固体の部品(component:成分、構成要素)であることがさらに好ましく、一方、音響結合層の埋込み材料は、ゲル状の物質を含む固体または液体からなるものであってもよい。好ましい例では、埋込み材料は、不揮発性の非毒性の溶媒、例えばグリセリン、または、例えばグリセリンとプロピレングリコールの混合物を含む超音波ゲル、を含んでいる。埋込み材料の音響インピーダンスは、処理対象の物体の音響インピーダンスに整合させることが、好ましい。
【0032】
本発明の別の好ましい特徴によれば、音響結合層は、埋込み材料を覆い音響放射体面を形成するカバー・シートを含むことができる。利点として、カバー・シートは、特に、流動性の、例えばゲル状の、埋込み材料用、の包囲部または筐体である。利点として、カバー・シートは、処理対象の物体の輪郭(contours:外形)に適合するように柔軟または可撓性とすることができる。
【0033】
透過ホログラム装置は、超音波源装置と固定的に結合させることができる。この実施形態では、超音波源装置に対する透過ホログラムの固定された軸方向配向、および透過ホログラムと超音波源装置との音響結合に関して、利点が得られる。
【0034】
代替形態として、本発明の特に好ましい変形によれば、透過ホログラム装置は、超音波源装置に着脱可能に結合されて、超音波装置を特定の適用作業に適合化させる利点を得ることができるようになる。透過ホログラム装置は、交換可能な部品として設けられる。特に、透過ホログラム装置は、特定の照射機能および/または照射対象の特定の物体、に適合化させることができる。特に好ましい例では、透過ホログラム装置は個人向けに変更を施すことができ、即ち、透過ホログラムのホログラム位相構造は、例えば患者のような特定の個人を照射するための要求に応じて、構成することができる。
【0035】
透過ホログラム装置には、少なくとも1つの識別装置が設けられて、特に着脱可能に結合された透過ホログラム装置を使用する利点が得られることが、好ましい。少なくとも1つの識別装置は、例えばテキスト情報または光学的に読取り可能なコードのような光学的に読取り可能なマーカ(標識)、および、例えばRFID変換器のような電子識別装置(ユニット)、の中の少なくとも1つを含んでいることが、好ましい。利点として、適切な透過ホログラム装置を使用する際の過誤(誤り)が、少なくとも1つの識別装置によって回避される。
【0036】
透過ホログラムは、特定の超音波入力に、例えば超音波源装置で生成された一次超音波の特徴的な波面に、基づいて形成される。従って、透過ホログラムは、適切な配向を有し、特にビーム軸の周りの適切な回転を有し、即ち一次超音波の伝播方向に対する軸方向の配向を有することが、望ましい。さらに、超音波装置が、特定のホログラフィック画像またはビーム軌道を物体に投影または投射する機能を有する場合、透過ホログラムの配向(ビーム軸の周りの回転)も同様に重要となる。さらに、音響放射体面、特に音響結合層が、光学的に透明である場合、透過ホログラムのホログラム表面は、人間の使用者にはランダム(無秩序)に見える。これによって、透過ホログラムを考慮することによって適切な配向を見出だすことが困難になる。従って、本発明のさらに別の有利な実施形態によれば、超音波源装置および透過ホログラム装置のうちの少なくとも一方に、少なくとも1つの位置合せ要素(素子)(整列要素)が設けられる。位置合せ要素は、超音波源装置に対する透過ホログラム装置の適切な幾何学的な配向を可能にする可視マークおよび幾何学的構造のうちの少なくとも一方、を含んでいる。利点として、位置合せ要素によって、ホログラフィック超音波場を生成する精度および再現性が改善される。さらに、少なくとも1つの位置合せ要素によって、超音波源装置および/または照射対象の物体に対する透過ホログラム装置の正しい配向を支援することが、可能になる。
【0037】
少なくとも1つの位置合せ要素は、透過ホログラム装置を超音波源装置に正しく取り付けることができるようにのみ、構成されることが、好ましい。好ましい例では、少なくとも1つの位置合せ要素は、透過ホログラムの外側の透過ホログラム装置の端縁部に好ましくは配置される、例えばピンのような突出または突起構造体を含んでいる。
【0038】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、超音波装置には、電源装置および波形発生器が設けられる。電源装置は、超音波源装置に駆動電流を供給するよう適合化される。電源装置は、駆動電流の振幅波形を制御するよう適合化された波形発生器によって制御される。本発明の有利な実施形態によれば、波形発生器および電源装置は、一次超音波が連続波またはパルス波である形態で、超音波源装置を駆動するよう適合化される。
【0039】
通常の技術とは対照的に、本発明の超音波装置は、液体槽外での、例えばガス状の、特に大気の環境における、適用に適合化されることが、好ましい。従って、本発明の別の実施形態によれば、超音波装置には、超音波源装置に結合された支持装置が設けられることが、好ましい。本発明の好ましい適用例によれば、支持装置は、把持部(ハンドル)、プローブ(探査)ヘッドおよび内視鏡装置の中の少なくとも1つを含んでいる。
【0040】
本発明の別の利点は、照射対象の物体に生成されるホログラフィック超音波場の複数の適用例によって得られる。第1の例によれば、ホログラフィック超音波場は、物体において少なくとも1つの超音波焦点を形成するよう適合化される。代替的な例によれば、例えば、物体内の異物に照射しまたはその異物を移動させるために、少なくとも1つの超音波画像をその物体内に生成することができる。ホログラフィック超音波場が超音波装置から或る距離の位置に生成されるので、透過ホログラムは、物体内の所定の範囲が、超音波によって、特に生成されるホログラフィック超音波場によって、バイパス(迂回)され得るように、構成することができる。
【0041】
さらに、ホログラフィック超音波場は、物体を超音波画像化(結像)するおよび/または物体中へ超音波に基づくエネルギ伝達を行うのに使用することができる。
【0042】
本発明の好ましい医療上の適用例は、疼痛治療(pain treatment)、高強度集束超音波療法、生体組織の処置(治療)および/または腎臓または膀胱結石の破壊、の分野で利用可能である。
【0043】
本発明の他の詳細および利点を、図面を参照して以下で説明する。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1図1は、本発明による超音波装置の実施形態の概略的な図である。
図2図2は、超音波装置およびホログラフィック超音波場の生成の他の詳細を示す図である。
図3図3および4は、本発明の他の実施形態による超音波装置の断面図である。
図4】.
図5図5〜7は、透過ホログラムおよびホログラフィック超音波場の実際的な生成の図である。
図6】.
図7】.
【発明を実施するための形態】
【0045】
本発明の好ましい実施形態を、医療用途に適合化された超音波装置を例示的に参照して以下で説明する。強調すべきこととして、本発明の適用は、医療用途に限定されることなく、むしろ材料加工(処理)または材料の非破壊検査の分野におけるような他の適用例にも同様に使用できる。さらに、超音波源装置が単一平面超音波源素子(要素)を含み、透過ホログラムが平面形状を有するような、超音波装置の実施形態が参照される。本発明は、湾曲した超音波源素子(要素)、複数の超音波源素子(要素)の平面状のまたは湾曲したアレイ、および/またはそれに対応する形態の湾曲した形状を有する透過ホログラムを用いて、実装することができる。
【0046】
図面は概略的な図を示しているに過ぎない。実際的な実装では、超音波源装置を動作させるための電源および制御ユニット(制御部、制御装置)が設けられる。特に、音響源の発振器に動作電圧を印加するための、従って超音波源装置によって放射される一次音響波の振幅、周波数および位相を規定するための、制御ユニットが設けられる。
【0047】
図1によれば、本発明の超音波装置100の第1の実施形態は、超音波源装置10と、透過ホログラム装置20と、制御装置30とを含んでいる。図1Aは、これらの部品を概略的な断面図として示しており、一方、図1Bは、透過ホログラム装置20の露出した放射体(放射器)側の平面図を示している。
【0048】
超音波源装置10は、筐体(ケース)12内に支持(キャリア)プレート13上に配置された単一の超音波源素子(要素)11を含んでいる。図1の実施形態では、支持プレート13は筐体12の側壁である。単一の超音波素子11は、例えば接着剤接続層を介して、支持プレート13と音響的に接触している。超音波源装置10には、制御装置30を単一の超音波源素子11に結合する接続ケーブル14が設けられている。単一の超音波源素子11は、例えば圧電板であり、例えば直径50mmおよび厚さ1mmを有する、特にPZT−8で形成された市販のトランスデューサ・プレートである。
【0049】
透過ホログラム装置20は透過ホログラム21を含んでおり、透過ホログラム21の第1の連続的な基板側(側面)は支持プレート13と音響的に接触し、透過ホログラム21の第2の反対側(側面)は、構造化されたホログラフィック表面23を有し、超音波源装置10から離れる方向(とは反対方向)を向いている(図3および4における他の詳細を参照)。透過ホログラム21は、例えばPMMAで形成される。支持プレート13と透過ホログラム21の間の音響的接触を改善するために、例えばゲルで形成された、別の音響結合層を両者間に設けることができる。
【0050】
本発明によれば、ホログラフィック表面23は、周囲に露出されてはいないが、透過ホログラム装置20の露出した音響放射体面22を備える音波結合層24によって覆われている。音響結合層24は、ホログラフィック表面23を完全に覆いホログラフィック表面23とは反対側に滑らかな音響放射体面22を有する単一層の埋込み材料(または充填材料)25によって形成される。埋込み材料25は、透過ホログラム21と比較して異なる音響インピーダンスを有する物質、例えばグリセリンまたはシリコーン、で形成されている。
【0051】
透過音響結合層24を用いた場合において、音響放射体面22(図1B)の平面図は、端縁29によって取り囲まれたホログラフィック表面23を示している。複数の位置合せ要素27および識別装置28が端縁29に設けられている。位置合せ要素27は、音響放射体側とは反対側の背面上で突出し超音波源装置10の筐体12における3つの容器(レセプタクル)に整合する3つのピンを含んでいる。同時に、それらのピンは、透過ホログラム装置20と超音波源装置10の間の着脱可能な接続のためのコネクタを形成する。
【0052】
制御装置30は、接続ケーブル14を介して単一の超音波源素子11に供給される駆動電流を生成するよう適合化された電源装置31を含んでいる。さらに、制御装置30に含まれている波形発生器32は、単一の超音波源素子11で生成される一次超音波2(図2参照)が、例えば連続的またはパルス状の時間的特性を有するように、駆動電流の振幅波形を制御する。
【0053】
超音波装置100、特に部品10および20、の形状およびサイズは、その特定の適用例に応じて選択される。医療における好ましい適用例では、部品10、20は、例えば1cm乃至10cmのような直径を有する、例えば、円形の音響放射体面22を有する円筒形状を有する。
【0054】
図2は、ハンドヘルド(手持ち式)装置(デバイス)として構成された超音波装置100の別の実施形態を概略的に示している。超音波装置100には、超音波源装置10に接続され把持部またはハンドル41を含む支持装置40が設けられている。本発明のこの実施形態は、例えば照射対象の患者の身体のような物体3においてホログラフィック音場(音響場)1を生成するために、手動での使用に適合化されている。
【0055】
超音波源装置10は、超音波源素子11を収容し接続ケーブル14を介して制御装置(図示せず)に接続された円錐形状の筐体(ケース)12を有する。透過ホログラム装置20は、超音波源装置10と着脱可能に連結される。概略的に示されたホログラフィック表面23を有する透過ホログラム21は、音響結合層24で覆われている。音響結合層24は、例えば患者の外側の皮膚のような物体の外面3.1と直接接触する音響放射体面22を備えている。超音波装置100は、物体3の大気環境における使用、例えば空気中における使用、に適合化されている。
【0056】
図2における物体3の断面図は、ホログラフィック音場1が障害物3.3の背後の標的領域3.2に形成されるような本発明の例を示している。超音波源素子11で生成された一次超音波は、透過ホログラム21によって位相および/または振幅の変化を生じる。透過ホログラム21中を伝播する超音波が、障害物3.3を覆う低強度領域を有するように、一方、超音波のエネルギが標的領域3.2に集束するように、透過ホログラム21は設計されている。従って、医療用途では、例えば標的領域3.2における前立腺組織を照射するために、障害物領域3.3における任意の器官を保護することができる。
【0057】
本発明の代替的な複数の実施形態では、支持装置40は、超音波装置100の適用に応じて選択される別の支持体(キャリア)によって形成することができる。好ましい例では、超音波装置は、内視鏡装置、特に内視鏡シャフトの遠位端に取り付けられた内視鏡装置に、一体化することができる。別の例では、超音波装置100は、例えば器官の超音波療法用の、プローブ・ヘッド上に配置することができる。
【0058】
図3および4は、超音波源装置10(部分的に示されている)および透過ホログラム装置20の概略的断面図を参照して、本発明の他の好ましい特徴を示している。
【0059】
超音波源装置10は、支持プレート13と音響的に結合される単一の超音波源素子11を含んでいる。透過ホログラム装置20は、ホログラフィック表面23を有する透過ホログラム21と、埋込み材料25およびカバー・シート26を含む音響結合層24と、を含んでいる。カバー・シート26の露出した表面は、滑らかな音響放射体面22を形成する。透過ホログラム装置20は、超音波源装置10と結合するための端縁29部分を有する。
【0060】
超音波源素子11への駆動電流4の供給に応答して、一次超音波が放射されて透過ホログラム21中を伝播する。一次超音波の位相および/または振幅の半径方向分布は、透過ホログラム21によって、特にホログラフィック表面23によって、即ち透過ホログラム21の材料と埋込み材料25の間の界面によって、変化する。ホログラフィック表面23は、周囲に、例えば照射対象の物体内に(図4参照)、所定のホログラフィック音場1が形成されるように、設計される。
【0061】
透過ホログラム21は、例えばPMMAのような固体材料で形成され、一方、埋込み材料25は、固体、例えばシリコーンゴムであり、または液体、例えばグリセリン、の物質であることが、好ましい。代替形態として、埋込み材料25は固体物質を含むことができ、透過ホログラム21は液体物質を含むことができる。
【0062】
カバー・シート26は、例えばシリコーンゴム製の、膜である。その膜は、柔軟な、柔らかい(ソフトな)部品(構成要素)であり、それ(部品)は、コンプライアントな(柔軟変形性の)表面を形成し、透過ホログラム21および埋込み材料25を封止する。さらに、カバー・シート26の音響放射体面22は、気泡がなく汚れのないアセンブリ(組立体)、および物体3との音響的接触、を形成する。
【0063】
物体3との音響的接触を改善するために、物体3の外面3.1と音響放射体面22の間に液体結合層50を設けることができる。液体結合層50は、例えば超音波ゲルを含んでいる。
【0064】
図5は、透過ホログラム装置20の透過ホログラム21を用いたホログラフィック音場1の形成を概略的に示している。透過ホログラム21のホログラフィック表面23は、透過ホログラム21の焦点面に所定の超音波画像1.1が生成または形成されるように、設計される。本発明の代替的な複数の実施形態では、透過ホログラム21は、複数の焦点面を有することができて、透過ホログラム21から軸方向の相異なる距離において、互いに等しいまたは異なる超音波画像を形成することができるようになっている。
【0065】
透過ホログラムを生成するために、生成されるホログラフィック超音波場、例えば焦点面における超音波画像1.1、および、一次超音波(例えば近似平面波)の径方向位相および振幅分布は、位相ホログラムを反復的に計算するための入力として、使用される。例えばゲルヒベルク−サクストン(Gerchberg-Saxton)アルゴリズムのような誤差低減アルゴリズムは、位相ホログラムを計算するために使用される。図6は、ゲルヒベルク−サクストン(Gerchberg-Saxton)アルゴリズムを20回反復して適用した後における、透過ホログラム21の位相分布を概略的に示している。各反復で、透過ホログラムの平面と焦点面の間の音響波の伝播がモデル化され、焦点平面における圧力分布が境界条件として使用される。その位相分布は、透過ホログラム21および埋込み材料25の材料パラメータに応じて(例えば、図4参照)ホログラフィック表面に変換される。計算されたホログラフィック表面によれば、ホログラム位相構造を有する透過ホログラムを、例えば3Dプリント(印刷)方法で、プリントすることができる。
【0066】
プリント(印刷)された透過ホログラムは、超音波画像1.1を生成するために、上述のような超音波音響装置上に配置される(図5)。一例として、図7は、透過ホログラムから1cmの距離を有する焦点平面における音響圧力の測定分布を示している。この分布は、ハイドロホン(水中聴音器)で測定された。超音波源素子の電力は約1.5Wであり、平均音響圧力は約25kPaである。
【0067】
本発明の別の適用例は、例えば患者の身体における、インプラント部品(構成要素)への非接触でのエネルギ伝達である。インプラント部品が身体中を移動することが知られており、体表面からの距離または体表面に対する配向の小さい変化によってでも、エネルギ伝達の効率が低下する。ホログラフィック超音波場を、例えば超音波画像化などによって測定されたインプラント部品の現在位置に適合化させることによって、エネルギ伝達の効率は、焦点をインプラント部品の現在の位置および配向に簡単に適合化させることによって、改善することができる。
【0068】
上述の説明、図面および特許請求の範囲に開示された本発明の諸特徴は、その異なる実施形態において、個々にまたは組合せでまたは部分的組合せで、本発明を実現するのに共に等しく重要であり得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7