(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は「〜」前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0013】
[水処理装置]
本発明の水処理装置は、原水に高分子凝集剤を添加する第1の凝集剤添加装置と、
第1の凝集剤添加装置を通過した水を通す分離シートを備える第1のろ過装置と、
第1のろ過装置を通過した水に無機凝集剤を添加する第2の凝集剤添加装置と、
第2の凝集剤添加装置を通過した水を通す限外ろ過膜を備える第2のろ過装置と、
を有する。
本発明によれば、このような構成により、低コストで、透水性に優れた限外ろ過膜処理をできる水処理装置を提供することができる。
従来の一般的な凝集剤添加処理は、無機凝集剤で凝結して基礎フロックを形成させた後に、高分子凝集剤で基礎フロックを粗大フロック化して、凝集させていた。
これに対し、本発明では、高分子凝集剤を添加した後に分離シートを通過させ、その後に無機凝集剤を添加した後に限外ろ過膜を通過させる順番とする。すなわち従来の一般的な凝集剤添加処理とは全く異なる順番の装置構成とすることにより、低コストで、透水性に優れた限外ろ過膜処理をできる。
以下、本発明の水処理装置の好ましい態様について説明する。なお、水処理装置の各構成としては、本明細書中に記載の内容に加えて、特開平5−169097号公報の[0012]〜[0023]および特開2000−5566号公報の[0007]〜[0031]の内容を本発明の趣旨に反しない範囲で用いることができる。これらの公報の内容は参照して本明細書に組み入れられる。
【0014】
<第1の凝集剤添加装置>
第1の凝集剤添加装置では、原水に高分子凝集剤を添加する。
第1の凝集剤添加装置は、凝集剤添加部の他に、撹拌部を有することが好ましい。第1の凝集剤添加装置では、凝集剤を添加した水に、撹拌部で0.5〜3分間撹拌することが好ましい。撹拌部は、スターラーを備えることが好ましい。
【0015】
(原水)
原水としては、特に制限はない。
本発明では限外ろ過膜を通過した処理水が得られるため、屎尿処理場や下水処理場のような生物処理法を利用する場合に適した汚水などを原水としては用いることができる。その他、原水としては、有機物、無機物、重金属類を含む各種産業排水などを用いることができる。
原水の全有機炭素(Total Organic Carbon;TOC)の下限値は、10mg/L以上であることが好ましく、20mg/L以上であることがより好ましく、50mg/L以上であることが特に好ましい。
原水の全有機炭素(Total Organic Carbon;TOC)の上限値は、500mg/L以下であることが好ましく、400mg/L以下であることがより好ましく、300mg/L以下であることが特に好ましい。
【0016】
(高分子凝集剤)
高分子凝集剤としては、特に制限はない。
高分子凝集剤としては、両性高分子凝集剤、ノニオン性高分子凝集剤、アニオン性高分子凝集剤、カチオン性高分子凝集剤などを挙げることができる。これらの中でも、両性高分子凝集剤またはアニオン性高分子凝集剤が好ましい。本発明では、高分子凝集剤が、両性高分子凝集剤であることが、透水性を高める観点から、より好ましい。
【0017】
両性高分子凝集剤としては、アニオン性基を有する構造単位と、カチオン性基を有する構造単位を含む、高分子凝集剤を挙げることができる。
両性高分子凝集剤の第1の例としては、一端にラジカル重合性基を有し他端にアニオン性基を有する分子量が90〜10000の反応性単量体と、カチオン性単量体とを必須単量体として共重合させることにより得られる共重合体を挙げることができる。
両性高分子凝集剤の第2の例としては、分子内にアニオン性基としてカルボキシル基、スルホン酸基を有し、カチオン性基として第三級アミン、その中和塩、四級塩等を有する高分子凝集剤を挙げることができ、これらのイオン成分の他にノニオン性の構造単位が含まれていてもよい。両性高分子凝集剤に用いられるカチオン性基を有する構造単位を形成するためのカチオン性モノマー単位としては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、アリルジメチルアミンもしくはこれらの中和塩、四級塩等が挙げられる。ノニオン性の構造単位を形成するためのノニオン性のモノマー単位としては(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド等を挙げることができる。
両性高分子凝集剤の第3の例としては、重量平均分子量Mwが1000〜100万のポリ(メタ)アクリル酸及び/又はその塩のみから成る高分子化合物Aと、
ジメチルアミノエチルアクリレートの塩化メチル第4級塩及びジメチルアミノエチルメタクリレートの塩化メチル第4級塩から選択されるカチオン性単量体単位と、5〜95モル%のアクリルアミド単量体単位とを有する、粉末状高分子化合物又はエマルション型高分子化合物である高分子化合物Bと、
を含んでなり、高分子化合物Aが高分子化合物B100質量部に対して、0.5〜8質量部含んでなるとともに高分子化合物Aと高分子化合物Bとの一部が化学的に結合していることを特徴とする両性高分子凝集剤を挙げることができる。
これらの両性高分子凝集剤としては、特許第4156441号の[0010]〜[0016]、特許第4178687号の[0014]〜[0058]および[0065]〜[0079]、ならびに、特許第5940881号の[0025]〜[0085]および[0097]〜[0125]の内容を本発明の趣旨に反しない範囲で用いることができる。これらの公報の内容は参照して本明細書に組み入れられる。
本発明ではこれらの両性高分子凝集剤の中でも、ポリアクリル酸エステル系を用いることが好ましい。
【0018】
ノニオン性高分子凝集剤またはアニオン性高分子凝集剤としては、アクリルアミド系組成物を用いられる。アクリルアミド系組成物は、アクリルアミドモノマーあるいはアクリルアミドの同時加水分解物と、アクリルアミドモノマーと共重合し得る重合性モノマーとの混合物を重合させて重合体を得ることにより製造できる。
ノニオン性高分子凝集剤とはアニオン構成単位が2モル%以下のもののことを言う。
アニオン性高分子凝集剤としては、特許第4156441号の[0009]、[0015]および[0016]の内容を本発明の趣旨に反しない範囲で用いることができる。この公報の内容は参照して本明細書に組み入れられる。
本発明ではこれらのアニオン性高分子凝集剤の中でも、ポリアクリルアミド系を用いることが好ましい。
【0019】
カチオン性高分子凝集剤としては、ジアルキルアミン類とエピハロヒドリン重縮合物、アルキレンジアミン類とジアルキルアミン及びエピハロヒドリン重縮合物、ポリジアリルジメチルアンモニウム塩化物塩、ジシアンジアミドとホルムアルデヒド重縮合物、ジシアンジアミドとホルムアルデヒドと塩化アンモニウム重縮合物、ポリアルキレンイミン、(メタ)アクリレート系カチオン性基を含む水溶性高分子、及びカチオン性界面活性剤が例示される。
【0020】
本発明では、高分子凝集剤の添加量(固形分)が、原水に対して0.5ppm以上であることが好ましく、1ppm以上であることがより好ましく、3ppm以上であることが特に好ましい。
高分子凝集剤の添加量の上限値は特に制限はなく、原水に対して30ppm以下であることが好ましく、20ppm以下であることがより好ましく、10ppm以下であることが特に好ましい。
【0021】
<第1のろ過装置>
第1のろ過装置は、第1の凝集剤添加装置を通過した水を通す分離シートを備える。
第1のろ過装置におけるろ過圧力は特に制限はなく、加圧なしで、第1の凝集剤添加装置を通過した水を重力によって分離シートを通過させることが好ましい。
第1の凝集剤添加装置を通過した水の第1のろ過装置への供給口は、分離シートよりも上方に位置することが好ましい。第1の凝集剤添加装置を通過した水の第1のろ過装置への供給口から、第1の凝集剤添加装置を通過した水が重力により分離シートの面に滴下されることが好ましい。
第1のろ過装置を通過した水の第2の凝集剤添加装置への排出口は、分離シートよりも下方に位置することが好ましい。分離シートを通過した水が重力により第1のろ過装置の排出口に移動することが好ましい。
なお、本明細書中、上とは重力の反対方向を意味し、下とは重力の方向を意味する。
【0022】
(分離シート)
分離シートは、特に制限はない。
分離シートの孔径は、特に制限はなく、限外ろ過膜の孔径よりも大きいことが好ましい。
分離シートの形状は特に制限は無く、精密ろ過膜、不織布などを用いることができる。本発明では、分離シートが不織布であることが特に好ましい。不織布が、乾式法、湿式法、又は、スパンボンド法のいずれかの方法で製造されたことが好ましく、乾式法で製造されたことがより好ましい。
分離シートは、坪量が10〜300g/m
2であることが特に好ましい。
【0023】
分離シートの材料は、特に制限はない。分離シートの材料が、セルロース系繊維、化学修飾セルロース系繊維、熱可塑性繊維、強化繊維からなる群より選択される1種以上であることが好ましく、セルロース系繊維、化学修飾セルロース系繊維、強化繊維からなる群より選択される1種以上であることがより好ましく、セルロース系繊維であることが特に好ましい。
セルロース系繊維としては、クラフトパルプ、溶解パルプ、メカニカルパルプなどを挙げることができ、クラフトパルプが好ましい。本発明では、分離シートが、セルロース系繊維を50質量%以上含むことが好ましく、60質量%以上含むことがより好ましく、90質量%以上含むことが特に好ましい。分離シート中のセルロース系繊維の上限値は特に制限はなく、99質量%以下であることが好ましく、98質量%以下であることがより好ましく、97質量%以下であることが特に好ましい。
強化繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、バサルト繊維、アルミナ繊維、又は、チラノ繊維であることが好ましい。
分離シートは、その他に、親水化剤を含むことが好ましい。
分離シートとしては市販のものを用いてもよい。例えば、王子キノクロス株式会社製、商品名キノクロスなどを好ましく用いることができる。
【0024】
分離シートは、平膜であっても、ロール状の膜であってもよい。ロール状の膜は、原反ロールから巻きだして平膜の分離シートとして用いてもよい。
分離シートは、固定されていても、移動可能であってもよい。
【0025】
(原反ロール)
本発明では、第1のろ過装置が、分離シートを巻回した原反ロールと、原反ロールから分離シートを巻取る巻取ロールとを備えることが好ましい。
分離シートを巻き取っていくことで常に新鮮な分離シートでろ過処理が可能となる。分離シートを巻き取ることで脱水を兼ねることができる。
【0026】
(巻取ロール)
巻取ロールは、原反ロールよりも上方に位置し、原水が透過する分離シートの面と水平面とがなす角度が15〜75度であることが好ましい。
また、原水を滴下する領域が巻取ロールの近傍であることが好ましい。
巻取ロールにおける巻取り速度は1m/分〜60m/分の範囲内であることが好ましい。原反ロールの幅(従って、分離シートの幅)は100mm〜2000mmであることが好ましい。同様に、巻取ロールの幅は100mm〜2000mmであることが好ましい。原反ロールと巻取ロールとの間に位置する分離シートの下方に、支えとなる構造物を設けることが好ましい。この構造物は、使用する分離シートより水の透過性が良いものであることが好ましい。
【0027】
(滑落防止用バー)
水処理装置において、原反ロールと巻取ロールとの間に、分離シートが下方へ滑落するのを防ぐための構造物(例えば、棒状の構造物)を設けることが好ましい。棒状の構造物(バー)は、巻取ロールと原水滴下位置の間で、かつ、巻取ロールで分離シートが巻き取られる位置と同じ高さあるいはそれよりも高い位置に、巻取ロールに平行に設けることが好ましい。これにより、バーの上を分離シートが通過することで、巻取直前の除去対象物(使用済みの分離シート)が下方へ滑落するのを防ぐことができる。
【0028】
(原水の供給口)
分離シートに滴下する原水の供給口は、原反ロールに対して平行な向きに横長であることが好ましい。また、滴下する原水の供給口の幅は、分離シートの幅と同等であることが望ましい。分離シート全体に水が滴下するようにできる。原水供給口の幅は、分離シート(原反ロール)の幅を100%としたとき、50%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましく、95%以上であることが最も好ましい。
【0029】
<第2の凝集剤添加装置>
第2の凝集剤添加装置では、第1のろ過装置を通過した水に無機凝集剤を添加する。
第2の凝集剤添加装置は、凝集剤添加部の他に、撹拌部を有することが好ましい。第2の凝集剤添加装置では、凝集剤を添加した水に、撹拌部で0.5〜3分間撹拌することが好ましい。撹拌部は、スターラーを備えることが好ましい。
【0030】
(無機凝集剤)
無機凝集剤としては、硫酸アルミニウム(硫酸バンド)、ポリ塩化アルミニウム(PAC)、塩化第二鉄、硫酸第一鉄、ポリ硫酸鉄、ポリシリカ鉄が例示される。これらの中でも、硫酸バンドおよびPACが好ましく、pH調整せずに用いられる観点からPACがより好ましい。
【0031】
第2の凝集剤添加装置で添加する無機凝集剤の添加量(酸化アルミニウム換算)が、原水に対して5ppm以上であることが好ましく、10ppm以上であることがより好ましく、20ppm以上であることが特に好ましい。
第2の凝集剤添加装置で添加する無機凝集剤の添加量の上限値は特に制限はなく、本発明では原水に対して50ppm未満であることが好ましく、45ppm以下であることがより好ましく、40ppm以下であることが特に好ましい。
【0032】
<第2のろ過装置>
第2のろ過装置は、第2の凝集剤添加装置を通過した水を通す限外ろ過膜を備える。
第2のろ過装置におけるろ過圧力は特に制限はなく、下限値が0.01MPa以上であることが好ましく、0.02MPa以上であることがより好ましく、0.03MPa以上であることが特に好ましい。第2のろ過装置におけるろ過圧力の上限値が1.0MPa以下であることが好ましく、0.8MPa以下であることがより好ましく、0.6MPa以下であることが特に好ましい。なお、公知のポンプなどを用いて、ろ過圧力を水に加えることができる。
第2のろ過装置を通過させるフラックスは特に制限は無く、下限値が0.3m
3/(m
2・hr)以上であることが好ましく、0.4m
3/(m
2・hr)以上であることがより好ましく、0.5m
3/(m
2・hr)以上であることが特に好ましい。
第2のろ過装置は、限外ろ過膜を逆洗浄できる逆洗浄装置を備えることが好ましい。
第2のろ過装置を通過した処理水の特性は、特に制限はない。一般に限外ろ過膜を用いれば、耐塩素性病原微生物を含めた菌を分離除去することが可能であるため、感染症のリスクが極めて少なくなる。
【0033】
(限外ろ過膜)
一般に、懸濁物質を多く含む未処理の原水をそのまま限外ろ過膜処理しようとすると膜が直ちに閉塞してしまう。これに対し、本発明では、原水に適切な前処理を施した後に、限外ろ過膜を通過させることにより、透水性に優れた限外ろ過膜処理ができる。
限外ろ過膜としては特に制限は無く、公知の限外ろ過膜を用いることができる。限外ろ過膜としては市販のものを用いてもよい。例えば、王子エンジニアリング株式会社製、OJI−CLEAR(登録商標)などを好ましく用いることができる。
限外ろ過膜は、孔径の下限値が0.001μm以上であることが好ましく、0.05μm以上であることがより好ましく、0.01μm以上であることが特に好ましい。孔径の上限値が0.05μm以下であることが好ましく、0.04μm以下であることがより好ましく、0.03μm以下であることが特に好ましい。
【0034】
(逆洗浄装置)
逆洗浄装置としては特に制限は無く、公知の逆洗浄装置を用いることができる。
本発明では、例えば、ろ過量50L/m
2毎に逆洗浄を実施することが好ましい。ただし、逆洗浄を実施するタイミングは特に制限は無く、限外ろ過膜が閉塞しないで長期間の安定運転ができるように定めることができる。
【0035】
<第3の凝集剤添加装置>
本発明では、第1の凝集剤添加装置の上流に、さらに無機凝集剤を添加する第3の凝集剤添加装置を有することが好ましい。
第3の凝集剤添加装置は、凝集剤添加部の他に、撹拌部を有することが好ましい。第3の凝集剤添加装置では、凝集剤を添加した水に、撹拌部で0.5〜3分間撹拌することが好ましい。撹拌部は、スターラーを備えることが好ましい。
第3の凝集剤添加装置で添加する無機凝集剤の好ましい態様は、第2の凝集剤添加装置で添加する無機凝集剤の好ましい態様と同様である。
【0036】
第3の凝集剤添加装置で添加する無機凝集剤の添加量が、原水に対して5ppm以上であることが好ましく、10ppm以上であることがより好ましく、20ppm以上であることが特に好ましい。
第3の凝集剤添加装置で添加する無機凝集剤の添加量の上限値は特に制限はなく、本発明では原水に対して50ppm未満であることが好ましく、45ppm以下であることがより好ましく、40ppm以下であることが特に好ましい。
【0037】
第2の凝集剤添加装置および第3の凝集剤添加装置で添加する無機凝集剤の合計添加量が、原水に対して5ppm以上であることが好ましく、10ppm以上であることがより好ましく、20ppm以上であることが特に好ましい。
第2の凝集剤添加装置および第3の凝集剤添加装置で添加する無機凝集剤の合計添加量の上限値は特に制限はなく、本発明では原水に対して50ppm未満であることが好ましく、45ppm以下であることがより好ましく、40ppm以下であることが特に好ましい。
【0038】
<その他の装置>
水処理装置は、その他の装置を有していてもよい。
例えば、第2のろ過装置の後段階(下流)として、逆浸透膜を備えるろ過装置を有していてもよい。なお、第2のろ過装置の後段階(下流)として、そのまま放流(例えば、災害時の緊急放流など)してもよい。
また、各凝集剤添加装置は、水のpHを調整可能なpH調整部を備えていてもよいが、pH調整部を備えないことが低コスト化の観点から好ましい。
また、水を各装置間で移動させる方法としては特に制限は無く、公知のポンプなどを用いてもよく、重力による移動を用いてもよい。災害時の利用の観点から、水を各装置間で移動させる方法は、重力による移動であることが好ましい。すなわち、上流側から順に上から下に水が移動するように各装置を配置することが好ましい。
本発明の水処理装置は、実質的に生物処理槽を有さないことが、低コスト化および災害時の省電力化の観点から好ましい。ここで、災害時などの停電時には、生物処理用の空気供給に必要な電力確保が困難であるため、下水処理場では応急処置として生物処理を省略する場合がある。従来、既設沈殿池あるいは素堀りなどの仮設沈殿池に塩素剤を投入し、除菌したうえで緊急放流することが応急復旧として行われている。このような緊急時においても、大腸菌群などの病原微生物を可能な限り除菌して放流することが求められる。本発明の水処理装置は、実質的に生物処理槽を有さない場合も、低コストで、透水性に優れた限外ろ過膜処理をできるため、災害時に好ましく用いることができる。
本発明の水処理装置は、第1の凝集剤添加装置、第2の凝集剤添加装置および第3の凝集剤添加装置の下流に、実質的に沈殿槽を有さないことが、低コスト化の観点から好ましい。
【0039】
[水処理方法]
本発明の水処理方法は、原水に高分子凝集剤を添加する第1の凝集剤添加工程と、
第1の凝集剤添加工程を通過した水を分離シートに通す第1のろ過工程と、
第1のろ過工程を通過した水に無機凝集剤を添加する第2の凝集剤添加工程と、
第2の凝集剤添加工程を通過した水を限外ろ過膜に通す第2のろ過工程と、を有する。
水処理方法の各工程の好ましい態様は、水処理装置の各装置の好ましい態様と同様である。
【0040】
<水処理方法の構成>
図1および2に、本発明の水処理方法の一例を示した。
図1に示した水処理方法の一例では、原水に、高分子凝集剤を添加し、分離シートでろ過した後にさらに無機凝集剤を添加し、その後に限外ろ過膜を通過させ、処理水を得る。
図2に示した水処理方法の他の一例は、原水に、無機凝集剤および高分子凝集剤をこの順で添加し、分離シートでろ過した後にさらに無機凝集剤を添加し、その後に限外ろ過膜を通過させ、処理水を得る。
【実施例】
【0041】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0042】
[実施例1]
下水原水(TOC=70mg/L程度)に、第1の凝集剤添加装置から両性高分子凝集剤を固形分として3ppm添加し、スターラーを用いて1分撹拌した。実施例1〜3、比較例2および3では、両性高分子凝集剤としてハイモ株式会社製、商品名ハイモロックMS−884(ポリアクリル酸エステル系)を用いた。
その後、第1の凝集剤添加装置を通過した水を、パルプを主原料とした分離シート(実施例1〜4および比較例1〜6で共通。王子キノクロス株式会社製、商品名キノクロス。乾式法で製造。パルプを90質量%含む)を固定された平膜として備える第1のろ過装置でろ過した。
第1のろ過装置を通過したろ過水に、第2の凝集剤添加装置からポリ塩化アルミニウム(表1にはPACと記載)を酸化アルミニウムとして30ppm添加し、スターラーを用いて1分間撹拌し、被処理水を得た。
そして、第2の凝集剤添加装置を通過した被処理水を限外ろ過膜(UF膜;王子エンジニアリング株式会社製、OJI−CLEAR(登録商標)、孔径0.02μm)にろ過圧力0.1MPaで供給し、処理水を得た。
図1に実施例1および2の水処理方法のフローチャートを示した。
【0043】
<限外ろ過膜試験>
ろ過量50L/m
2毎に逆洗浄を実施して、透水性の変化を観察した。
ろ過量100L/m
2(100L/m
2通水時)のフラックスに対する、ろ過量150L/m
2(150L/m
2通水時)のフラックスの割合を、逆洗浄後のフラックス回復率として評価した。実施例1では、ろ過量150L/m
2の時点で実施した逆洗浄後のフラックスは0.80m
3/(m
2・hr)であり、逆洗浄後のフラックスの回復率は89%であった。
逆洗浄後のフラックスの回復率をもとに、透水性を以下の基準で評価した。
◎:逆洗浄後のフラックスの回復率が80%以上。
○:逆洗浄後のフラックスの回復率が70%以上、80%未満。
△:逆洗浄後のフラックスの回復率が70%未満。
×:ろ過量が150L/m
2に達する前に、限外ろ過膜が閉塞。
透水性および逆洗浄後のフラックスの回復率の結果を、下記表1に記載した。
【0044】
[実施例2]
実施例1において添加した両性高分子凝集剤の添加量を1ppmとし、それ以外は実施例1と同じ条件で試験を実施した。
その結果、ろ過量150L/m
2の時点で実施した逆洗浄後のフラックスは0.57m
3/(m
2・hr)であり、実施例1と同様の方法で求めた逆洗浄後のフラックスの回復率は72%であった。
得られた結果を下記表1に記載した。
【0045】
[実施例3]
下水原水(TOC=70mg/L程度)に、第3の凝集剤添加装置からポリ塩化アルミニウムを酸化アルミニウムとして30ppm添加し、スターラーを用いて1分撹拌した。
その後、第3の凝集剤添加装置を通過した水に、第1の凝集剤添加装置から両性高分子凝集剤を固形分として1ppm添加し、再びスターラーを用いて1分撹拌した。
そして、パルプを主原料とした分離シートを備える第1のろ過装置でろ過した。
第1のろ過装置を通過したろ過水に、第2の凝集剤添加装置からポリ塩化アルミニウムを酸化アルミニウムとして14ppm添加し、スターラーを用いて1分間撹拌し、被処理水を得た。
第2の凝集剤添加装置を通過した被処理水を、実施例1と同様の条件で限外ろ過膜処理し、処理水を得た。
図2に実施例3および4の水処理方法のフローチャートを示した。
実施例1と同様にして、透水性の変化を確認した。その結果、ろ過量150L/m
2の時点で実施した逆洗浄後のフラックスは1.2m
3/(m
2・hr)であり、実施例1と同様の方法で求めた逆洗浄後のフラックスの回復率は85%であった。
得られた結果を下記表1に記載した。
【0046】
[実施例4]
実施例3において添加した両性高分子凝集剤をアニオン性高分子凝集剤とし、それ以外は実施例3と同じ条件で試験を実施した。実施例4および比較例4〜6では、アニオン性高分子凝集剤としてハイモ株式会社製、商品名ハイモロックAP−115(ポリアクリルアミド系)を用いた。
その結果、ろ過量150L/m
2の時点で実施した逆洗浄後のフラックスは1.0m
3/(m
2・hr)であり、実施例1と同様の方法で求めた逆洗浄後のフラックスの回復率は76%であった。
得られた結果を下記表1に記載した。
【0047】
[比較例1]
下水原水(TOC=70mg/L程度)に、第1の凝集剤添加装置からポリ塩化アルミニウムを酸化アルミニウムとして30ppm添加し、スターラーを用いて1分撹拌した。
その後、第1の凝集剤添加装置を通過した水を、パルプを主原料とした分離シートを備える第1のろ過装置でろ過し、被処理水を得た。
得られた被処理水を、実施例1と同様の条件で限外ろ過膜処理し、処理水を得た。
実施例1と同様にして、透水性の変化を確認した。その結果、ろ過量50L/m
2の時点のフラックスは0.1m
3/(m
2・hr)未満となり、逆洗浄を実施してもフラックスは回復せず、限外ろ過膜は閉塞した。
得られた結果を下記表1に記載した。
【0048】
[比較例2]
下水原水(TOC=70mg/L程度)に、第1の凝集剤添加装置から両性高分子凝集剤を固形分として3ppm添加し、スターラーを用いて1分撹拌した。
その後、第1の凝集剤添加装置を通過した水を、パルプを主原料とした分離シートを備える第1のろ過装置でろ過し、被処理水を得た。
得られた被処理水を、実施例1と同様の条件で限外ろ過膜処理し、処理水を得た。
実施例1と同様にして、透水性の変化を確認した。その結果、ろ過量10L/m
2の時点のフラックスは0.1m
3/(m
2・hr)未満となり、逆洗浄を実施してもフラックスは回復せず、限外ろ過膜は閉塞した。
得られた結果を下記表1に記載した。
【0049】
[比較例3]
比較例2において添加した両性高分子凝集剤の添加量を8ppmとし、それ以外は比較例2と同じ条件で試験を実施した。
その結果、ろ過量30L/m
2の時点のフラックスは0.1m
3/(m
2・hr)未満となり、逆洗浄を実施してもフラックスは回復せず、限外ろ過膜は閉塞した。
得られた結果を下記表1に記載した。
【0050】
[比較例4]
下水原水(TOC=70mg/L程度)に、第3の凝集剤添加装置からポリ塩化アルミニウムを酸化アルミニウムとして30ppm添加し、スターラーを用いて1分撹拌した。
その後、第3の凝集剤添加装置を通過した水に、第1の凝集剤添加装置からアニオン性高分子凝集剤を固形分として1ppm添加し、再びスターラーを用いて1分撹拌した。
そして、第1の凝集剤添加装置を通過した水を、パルプを主原料とした分離シートでろ過し、被処理水を得た。
図3に比較例4〜6の水処理方法のフローチャートを示した。
得られた被処理水を、実施例1と同様の条件で限外ろ過膜処理し、処理水を得た。
実施例1と同様にして、透水性の変化を確認した。その結果、ろ過量100L/m
2の時点でフラックスは0.1m
3/(m
2・hr)未満となり、逆洗浄を実施してもフラックスは回復せず、限外ろ過膜は閉塞した。
得られた結果を下記表1に記載した。
【0051】
[比較例5]
比較例4において添加したアニオン性高分子凝集剤の添加量を3ppmとし、それ以外は比較例4と同じ条件で試験を実施した。
その結果、ろ過量70L/m
2の時点でフラックスは0.1m
3/(m
2・hr)未満となり、逆洗浄を実施してもフラックスは回復せず、限外ろ過膜は閉塞した。
得られた結果を下記表1に記載した。
【0052】
[比較例6]
比較例4において添加したアニオン性高分子凝集剤の添加量を5ppmとし、それ以外は比較例4と同じ条件で試験を実施した。
その結果、ろ過量60L/m
2の時点でフラックスは0.1m
3/(m
2・hr)未満となり、逆洗浄を実施してもフラックスは回復せず、限外ろ過膜は閉塞した。
得られた結果を下記表1に記載した。
【0053】
【表1】
【0054】
以上より、本発明の水処理装置によれば、低コストで、透水性に優れた限外ろ過膜処理をできることがわかった。なお、第1のろ過装置として、分離シートを巻回した原反ロールと、原反ロールから分離シートを巻取る巻取ロールとを備える第1のろ過装置を用いた場合も、同様の結果が得られる。
比較例1によれば、分離シートよりも前段階(上流)に高分子凝集剤を添加せず、分離シートよりも後段階(下流)に無機凝集剤を添加しない場合は、限外ろ過膜が閉塞することがわかった。
比較例2〜6によれば、分離シートよりも後段階(下流)に無機凝集剤を添加しない場合は、限外ろ過膜が閉塞することがわかった。特に、分離シートよりも前段階(上流)に添加する高分子凝集剤の種類や添加量を変化させても、同様の結果であった。