特許第6825362号(P6825362)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6825362-ゴルフボール 図000007
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6825362
(24)【登録日】2021年1月18日
(45)【発行日】2021年2月3日
(54)【発明の名称】ゴルフボール
(51)【国際特許分類】
   A63B 37/00 20060101AFI20210121BHJP
   C08J 7/04 20200101ALI20210121BHJP
【FI】
   A63B37/00 214
   A63B37/00 212
   C08J7/04 B
【請求項の数】13
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2016-253564(P2016-253564)
(22)【出願日】2016年12月27日
(65)【公開番号】特開2018-102691(P2018-102691A)
(43)【公開日】2018年7月5日
【審査請求日】2019年10月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125184
【弁理士】
【氏名又は名称】二口 治
(74)【代理人】
【識別番号】100188488
【弁理士】
【氏名又は名称】原谷 英之
(72)【発明者】
【氏名】多羅尾 俊之
(72)【発明者】
【氏名】神野 一也
(72)【発明者】
【氏名】田中 真実
(72)【発明者】
【氏名】井上 英高
【審査官】 槙 俊秋
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−126772(JP,A)
【文献】 特開2015−195878(JP,A)
【文献】 特開2014−14386(JP,A)
【文献】 特開2013−176530(JP,A)
【文献】 米国特許第6210295(US,B1)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0256237(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 37/00
A63B 45/00
C08J 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴルフボール本体と前記ゴルフボール本体表面に設けられた塗膜とを有するゴルフボールであって、前記塗膜は、ゴルフボール本体表面に設けられた状態で下記測定条件1にて測定した損失正接tanδを縦軸とし、測定周波数(Hz)を横軸としてプロットしたときに、最小二乗法によって求めた線形一次近似曲線の傾きの絶対値が0.0001〜0.0020であり、ゴルフボール本体表面に設けられた状態で下記測定条件2にて測定した弾性率が0.040GPa〜0.600GPaであり、
前記塗膜を構成する基材樹脂が、ポリオール組成物とポリイソシアネート組成物とを反応させてなるポリウレタンであり、前記ポリオール組成物とポリイソシアネート組成物との反応において、ポリオール組成物が有する水酸基(OH基)と、ポリイソシアネート組成物が有するイソシアネート基(NCO基)のモル比(NCO/OH)は、0.15以上、0.50以下であり、
前記塗膜の10%モジュラスは、40kgf/cm2以上であることを特徴とするゴルフボール。
<測定条件1>
ゴルフボールを半球状に切断し安定に配置した後、半球上の塗膜表面に対して垂直方向から圧子を押し込み、下記測定条件にて、塗膜の損失正接tanδを測定した。なお、測定は5箇所について行い、これらの平均値をその塗膜の損失正接tanδとした。
測定装置:HYSITRON社製の「TI950 Tribo Indenter」
圧子仕様:Berkovich型
試験荷重(最大押し込み荷重):100μN
周波数:1Hz、10Hz、105Hz
測定環境:23℃、RH50%、大気中
<測定条件2>
ゴルフボールを半球状に切断し安定に配置した後、半球上の塗膜表面に対して垂直方向から圧子を押し込み、下記測定条件にて測定した荷重−変位曲線から塗膜の弾性率を求めた。測定は5箇所について行い、これらの平均値をその塗膜の弾性率とした。
測定装置:HYSITRON社製の「TI950 Tribo Indenter」
圧子仕様:Berkovich型
最大押し込み深さ:300nm
測定環境:23℃、RH50%、大気中
【請求項2】
前記線形一次近似曲線の傾きの絶対値が、0.0004〜0.0018である請求項1に記載のゴルフボール。
【請求項3】
前記塗膜の測定周波数1Hzにおける損失正接tanδが、0.200〜0.700である請求項1または2に記載のゴルフボール。
【請求項4】
前記塗膜の測定周波数10Hzにおける損失正接tanδが、0.150〜0.400である請求項1〜3のいずれか一項に記載のゴルフボール。
【請求項5】
前記塗膜の測定周波数105Hzにおける損失正接tanδが、0.140〜0.300である請求項1〜4のいずれか一項に記載のゴルフボール。
【請求項6】
前記塗膜は、ゴルフボール本体表面に設けられた状態で前記測定条件2にて測定した硬度が、0.001GPa〜0.020GPaである請求項1〜5のいずれか一項に記載のゴルフボール。
【請求項7】
前記塗膜の膜厚が、5μm〜50μmである請求項1〜6のいずれか一項に記載のゴルフボール。
【請求項8】
前記ポリイソシアネート組成物は、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体、ヘキサメチレンジイソシアネートのビュレット変性体、および、イソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体とを含有する請求項1〜7のいずれか一項に記載のゴルフボール。
【請求項9】
前記ポリオール組成物は、水酸基価が20mgKOH/g以上、100mgKOH/g以下であるウレタンポリオールを含有する請求項1〜8のいずれか一項に記載のゴルフボール。
【請求項10】
前記塗膜の10%モジュラスは、75kgf/cm2以下である請求項1〜9のいずれか一項に記載のゴルフボール。
【請求項11】
前記ゴルフボール本体は、コアとカバーと、前記コアとカバーとの間に1層以上の中間層を有する請求項1〜10のいずれか一項に記載のゴルフボール。
【請求項12】
前記中間層とカバーとの硬度差(中間層-カバー)は、ショアD硬度で10以上、60以下である請求項11に記載のゴルフボール。
【請求項13】
前記コアは、表面硬度Hsと中心硬度Hoとの硬度差(Hs−Ho)が、ショアC硬度で10以上、50以下である請求項11または12に記載のゴルフボール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフボールに関し、特に、アプローチショットのスピン性能および打球感が良く、且つ、耐汚染性にも優れたゴルフボールに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフボール本体表面には、塗膜が設けられている。従来より、塗膜を改良することにより、ゴルフボールの性能を改良することが提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ゴルフボール本体とゴルフボール本体表面に設けられた塗膜とを有するゴルフボールであって、前記塗膜は、マルテンス硬度が2.0mgf/μm以下であり、10%モジュラスに対する50%モジュラスの比(50%モジュラス/10%モジュラス)が1.6以上であるゴルフボールが開示されている。この特許文献1の技術では、前記塗膜によって、ウエット条件およびラフ条件でアプローチショットをしたときにスピン量が高いゴルフボールを提供しようとしている。なお、前記マルテンス硬度を測定するための塗膜サンプルとしては、主剤および硬化剤を配合した塗料から作製した厚み100μmの塗膜シートを用いた(特許文献1(請求項1、段落0009、0057)参照)。
【0004】
特許文献2〜4には、ゴルフボールであって、前記ゴルフボールの中心に位置するコアと、前記コアの外側を包囲し、表面に複数のディンプルを有するカバーと、前記カバーの外側を更に包囲する塗装層とを含み、前記塗装層は、ヤング率が70MPa以下でゴム弾性を有する材料によって形成されているゴルフボールが開示されている。これらの特許文献2〜4の技術では、前記塗装層によって、ゴルフクラブとの摩擦力が大きく、スピン性能が向上されたゴルフボールを提供しようとしている。なお、前記ヤング率を測定するための塗装層サンプルとしては、配合材料をスプレーにより厚さ2mmのシート状に成形した後、JIS K6251に準拠してダンベル状3号形試験片に加工したものを用いた。また、前記塗装層の損失正接(tanδ)も測定されており、この損失正接(tanδ)を測定するための塗装層サンプルとしては、厚さ1mmの試験片を用いた(特許文献2(請求項1、4、段落0014、0036、0037、0058)、特許文献3(請求項1、6、段落0015、0037、0038、0059)、特許文献4(請求項1、5、段落0015、0037、0038、0059)参照)。
【0005】
特許文献5には、ゴルフボール本体と前記ゴルフボール本体表面に設けられた塗膜とを有するゴルフボールであって、前記塗膜は、動的粘弾性装置により測定した120℃〜150℃の温度範囲における貯蔵弾性率(E’)が、1.00×10dyn/cm以上、1.00×10dyn/cm以下であり、且つ、10℃における損失正接(tanδ)が、0.050以上であるゴルフボールが開示されている。この特許文献5の技術では、40ヤード未満のアプローチショット、特にグリーン周り(10ヤード〜20ヤード程度)からのアプローチショットにおけるコントロール性が高く、打球感に優れたゴルフボールを提供しようとしている。なお、これらの貯蔵弾性率(E’)および損失正接(tanδ)を測定するための塗膜サンプルとしては、主剤および硬化剤を配合した塗料から作製した厚み0.11mm〜0.14mmの試料片を用いた(特許文献5(請求項1、段落0013、0092)参照)。
【0006】
特許文献6には、ゴルフボール本体と前記ゴルフボール本体表面に設けられた塗膜とを有するゴルフボールであって、前記塗膜を構成する基材樹脂が、ポリオール組成物と、ポリイソシアネート組成物とを反応させてなるポリウレタンであり、前記ポリオール組成物が有する水酸基(OH基)と、ポリイソシアネート組成物が有するイソシアネート基(NCO基)のモル比(NCO/OH)が、0.6以上であり、前記塗膜の弾性率が300MPa以下であるゴルフボールが開示されている。この特許文献6の技術では、前記塗膜によって、打球感および耐汚染性に優れたゴルフボールを提供しようとしている。なお、前記塗膜の弾性率は、走査型プローブ顕微鏡を用いて、原子間力顕微鏡モードにより、ゴルフボール表面に形成された塗膜に対して直接測定されものである(特許文献6(請求項1、段落0009、0060)参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−217820号公報
【特許文献2】特開2013−126541号公報
【特許文献3】特開2013−126542号公報
【特許文献4】特開2013−126543号公報
【特許文献5】特開2014−014383号公報
【特許文献6】特開2016−123632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記した特許文献1〜6の技術で提供したゴルフボールは、必ずしもアプローチショットのスピン性能、打球感および耐汚染性などの諸性能が満足できるものではなく、さらなる改善の余地がある。
【0009】
特許文献1〜5では、ゴルフボール本体表面に設けられている実際の塗膜ではなく、塗膜の構成材料から形成された測定用サンプルを用いて塗膜の諸物性を測定している。測定用サンプルの塗膜厚は、ゴルフボール本体表面に実際に設けられている塗膜厚よりもかなり厚い。そのため、測定用サンプルの物性に基づいて塗膜の性能を制御しても、ゴルフボール本体表面に実際に塗布した塗膜では、所望の特性を発現しないという問題があった。また、特許文献6の技術では、走査型プローブ顕微鏡を用いて、原子間力顕微鏡モードにより、ゴルフボール表面に形成された塗膜の弾性率を直接測定しているが、測定される弾性率は、少なからず塗膜の下地であるカバーの影響を受けており、塗膜そのものの弾性率ではないと考えられる。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、ゴルフボール本体表面に実際に塗布された塗膜の物性を的確に制御することで、アプローチショットのスピン性能および打球感が良く、且つ、耐汚染性にも優れたゴルフボールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決することができた本発明のゴルフボールは、ゴルフボール本体と前記ゴルフボール本体表面に設けられた塗膜とを有し、前記塗膜が、ゴルフボール本体表面に設けられた状態で下記測定条件1にて測定した損失正接tanδを縦軸とし、測定周波数(Hz)を横軸としてプロットしたときに、最小二乗法によって求めた線形一次近似曲線の傾きの絶対値が0.0001〜0.0020であり、ゴルフボール本体表面に設けられた状態で下記測定条件2にて測定した弾性率が0.040GPa〜0.600GPaであることを特徴とする。
<測定条件1>
測定装置:HYSITRON社製の「TI950 Tribo Indenter」
圧子仕様:Berkovich型
試験荷重:100μN(最大押し込み荷重)
周波数:1Hz、10Hz、105Hz
測定環境:23℃、RH50%、大気中
<測定条件2>
測定装置:HYSITRON社製の「TI950 Tribo Indenter」
圧子仕様:Berkovich型
最大押し込み深さ:300nm
測定環境:23℃、RH50%、大気中
【0012】
前記線形一次近似曲線の傾きの絶対値は、0.0004〜0.0018であることが好ましい。
【0013】
前記塗膜の測定周波数1Hz、10Hz、105Hzにおける各損失正接tanδは、それぞれ、0.200〜0.700、0.150〜0.400、0.140〜0.300であることが好ましい。
【0014】
前記塗膜は、ゴルフボール本体表面に設けられた状態で前記測定条件2にて測定した硬度が、0.001GPa〜0.020GPaであることが好ましい。前記塗膜の膜厚は、5μm〜50μmであることが好ましい。
【0015】
前記塗膜を構成する基材樹脂は、ポリオール組成物とポリイソシアネート組成物とを反応させてなるポリウレタンであることが好ましく、より好ましくは、前記ポリイソシアネート組成物は、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体、ヘキサメチレンジイソシアネートのビュレット変性体、および、イソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体を含有し、前記ポリオール組成物は、ウレタンポリオールを含有する。また、前記ポリオール組成物とポリイソシアネート組成物との反応において、ポリオール組成物が有する水酸基(OH基)と、ポリイソシアネート組成物が有するイソシアネート基(NCO基)のモル比(NCO/OH)は、0.15以上、1.20以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ゴルフボールに実際に塗布された塗膜の物性が的確にコントロールされ、アプローチショットのスピン性能および打球感が良く、且つ、耐汚染性にも優れたゴルフボールが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係るゴルフボールが示された一部切り欠き断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のゴルフボールは、ゴルフボール本体と前記ゴルフボール本体表面に設けられた塗膜とを有し、前記塗膜が、ゴルフボール本体表面に設けられた状態で下記測定条件1にて測定した損失正接tanδを縦軸とし、測定周波数(Hz)を横軸としてプロットしたときに、最小二乗法によって求めた線形一次近似曲線の傾きの絶対値が0.0001〜0.0020であり、ゴルフボール本体表面に設けられた状態で下記測定条件2にて測定した弾性率が0.040GPa〜0.600GPaであることを特徴とする。
<測定条件1>
測定装置:HYSITRON社製の「TI950 Tribo Indenter」
圧子仕様:Berkovich型
試験荷重(最大押し込み荷重):100μN
周波数:1Hz、10Hz、105Hz
測定環境:23℃、RH50%、大気中
<測定条件2>
測定装置:HYSITRON社製の「TI950 Tribo Indenter」
圧子仕様:Berkovich型
最大押し込み深さ:300nm
測定環境:23℃、RH50%、大気中
【0019】
本発明では、ゴルフボール本体表面に設けられた塗膜を直接測定対象として、前記測定条件1、2により、実際の塗膜物性を高精度で測定することができる。
【0020】
具体的に、前記測定条件1は、測定装置として、HYSITRON社製の「TI950 Tribo Indenter」を用いて、動的粘弾性モードで、測定対象である塗膜にBerkovich型圧子(ダイアモンド製、三角錐型)の先端をサブミリニュートンオーダーの超微小荷重(測定条件1では、最大押し込み荷重を100μNとする)で押し込んで微小な歪みを付与し、得られる応答から塗膜の動的粘弾性を求めるナノインデンテーション法によるものである。
【0021】
また、前記測定条件2は、測定装置として、HYSITRON社製の「TI950 Tribo Indenter」を用いて、押し込みモードで、測定対象である塗膜にBerkovich型圧子(ダイアモンド製、三角錐型)の先端をサブミリニュートンオーダーの超微小荷重で押し込んで、圧子の押し込み荷重(負荷荷重)と押し込み深さ(変位量)(測定条件2では、最大押し込み深さを300nmとする)を連続的に測定し、圧子の押し込み深さに対する押し込み荷重の関係をプロットした荷重−変位曲線から塗膜の硬度や弾性率を求めるナノインデンテーション法によるものである。
【0022】
前記ナノインデンテーション法による測定条件1、2は、押し込み深さが,塗膜厚の数十分の1から数百分の1の程度なので、塗膜の下地であるゴルフボール本体の影響を受けることなく、塗膜の諸物性を正確に計測することができる。よって、前記測定条件1、2にて測定された諸物性は、塗膜そのものの物性であると考えられる。そして、前記測定条件1、2にて実際の塗膜物性を測定できるため、所望の塗膜性能が発揮されるゴルフボールが得られる。
【0023】
本発明では、前記塗膜は、ゴルフボール本体表面に設けられた状態で前記測定条件1にて測定した損失正接tanδを縦軸とし、測定周波数(Hz)を横軸としてプロットしたときに、最小二乗法によって求めた線形一次近似曲線の傾きの絶対値が0.0001〜0.0020である。塗膜の線形一次近似曲線の傾きの絶対値が0.0001〜0.0020であれば、耐汚染性が格別に向上したゴルフボールが得られる。
【0024】
前記塗膜の線形一次近似曲線の傾きの絶対値は、ゴルフボールの耐汚染性を一層向上させる点から、0.0004以上であることが好ましく、より好ましくは0.0005以上、さらに好ましくは0.0008以上であり、0.0018以下であることが好ましく、より好ましくは0.0017以下、さらに好ましくは0.0015以下である。
【0025】
具体的には、測定周波数1Hz、10Hz、105Hzにおける損失正接tanδを測定(試験荷重:最大押し込み荷重を100μNとする)する。測定周波数(Hz)を横軸とし、損失正接tanδを縦軸として、測定周波数1Hz、10Hz、105Hzにおける損失正接をプロットする。得られた3点のプロットに基づいて、線形一次近似曲線の傾きを算出する。前記損失正接tanδは、貯蔵弾性率と損失弾性率との比(損失弾性率/貯蔵弾性率)であり、前記条件1にて測定された損失弾性率と貯蔵弾性率から算出される。
【0026】
前記塗膜の測定周波数1Hzにおける損失正接tanδは、0.200以上であることが好ましく、より好ましくは0.250以上、さらに好ましくは0.300以上、特に好ましくは0.350以上であり、0.700以下であることが好ましく、より好ましくは0.650以下、さらに好ましくは0.600以下、特に好ましくは0.550以下である。測定周波数1Hzにおける損失正接tanδが前記範囲にある塗膜を用いることにより、耐汚染性が維持されながら、アプローチショットにおけるスピン性能および打球感が一層向上したゴルフボールが得られる。
【0027】
前記塗膜の測定周波数10Hzにおける損失正接tanδは、0.150以上であることが好ましく、より好ましくは0.160以上、さらに好ましくは0.200以上、特に好ましくは0.250以上であり、0.400以下であることが好ましく、より好ましくは0.380以下、さらに好ましくは0.360以下、特に好ましくは0.340以下である。測定周波数10Hzにおける損失正接tanδが前記範囲にある塗膜を用いることにより、耐汚染性が維持されながら、アプローチショットにおけるスピン性能および打球感が一層向上したゴルフボールが得られる。
【0028】
前記塗膜の測定周波数105Hzにおける損失正接tanδは、0.140以上であることが好ましく、より好ましくは0.180以上、さらに好ましくは0.200以上、特に好ましくは0.220以上であり、0.300以下であることが好ましく、より好ましくは0.280以下、さらに好ましくは0.270以下、特に好ましくは0.260以下である。測定周波数105Hzにおける損失正接tanδが前記範囲にある塗膜を用いることにより、耐汚染性が維持されながら、アプローチショットにおけるスピン性能および打球感が一層向上したゴルフボールが得られる。
【0029】
本発明では、前記塗膜は、ゴルフボール本体表面に設けられた状態で前記測定条件2にて測定した弾性率が0.040GPa〜0.600GPaである。塗膜の弾性率が0.040GPa〜0.600GPaであれば、耐汚染性が維持されながら、アプローチショットのスピン性能および打球感が格別に向上したゴルフボールが得られる。
【0030】
前記塗膜の弾性率は、アプローチショットのスピン性能および打球感を一層向上させる点から、0.060GPa以上であることが好ましく、より好ましくは0.100GPa以上、さらに好ましくは0.150GPa以上であり、0.500GPa以下であることが好ましく、より好ましくは0.400GPa以下、さらに好ましくは0.300GPa以下である。
【0031】
前記塗膜の上記測定条件2にて測定した硬度は、0.001GPa以上であることが好ましく、より好ましくは0.002GPa以上、さらに好ましくは0.003GPa以上であり、0.020GPa以下であることが好ましく、より好ましくは0.015GPa以下、さらに好ましくは0.010GPa以下、特に好ましくは0.005GPa以下である。上記測定条件2にて測定した硬度が前記範囲にある塗膜を用いることにより、耐汚染性が維持されながら、アプローチショットのスピン性能および打球感が一層向上したゴルフボールが得られる。また、塗膜耐久性もより良好となる。なお、前記塗膜硬度とは、上記測定条件2にて、塗膜に圧子を深さ300nmに押し込んだときの押し込み荷重F(即ち、最大変位量300nmであるときの負荷荷重)を用いて計算した硬度である。
【0032】
前記塗膜の10%モジュラスは、20kgf/cm2(2.0MPa)以上が好ましく、より好ましくは30kgf/cm2(2.9MPa)以上、さらに好ましくは40kgf/cm2(3.9MPa)以上であり、180kgf/cm2(17.6MPa)以下が好ましく、より好ましくは150kgf/cm2(14.7MPa)以下、さらに好ましくは100kgf/cm2(9.8MPa)以下である。前記塗膜の10%モジュラスが20kgf/cm2以上であれば塗膜の耐汚染性が良好となり、180kgf/cm2以下であればアプローチショットにおけるスピン性能がより向上する。なお、10%モジュラスは、後述する方法で測定される。
【0033】
前記塗膜は、単層構造(同じ塗料を複数回重ね塗る場合を含む)であってもよく、2層以上の多層構造(互いに隣接する2つの層が異なる塗料から形成される場合)であってもよいが、前記測定条件1、2により塗膜の物性をより的確に測定するために、単層構造(同じ塗料を複数回重ね塗る場合を含む)の塗膜が好ましい。
【0034】
前記塗膜の膜厚は、5μm以上が好ましく、より好ましくは10μm以上、さらに好ましくは15μm以上である。膜厚が5μm未満では、継続的な使用により塗膜が摩耗消失しやすくなる傾向がある。また、膜厚を厚くすることによりアプローチショットのスピン量が増大するからである。また、塗膜の膜厚は、50μm以下が好ましく、45μm以下がより好ましく、40μm以下がさらに好ましい。膜厚が50μmよりも大きいとディンプルの効果が低下してゴルフボールの飛行性能が低下するおそれがある。塗膜の膜厚は、例えば、ゴルフボールの断面をマイクロスコープ(キーエンス社製VHX−1000)を用いて測定することができる。なお、前記塗膜の膜厚は、形成された塗膜全体の厚みである。
【0035】
前記塗膜の諸物性は、塗膜を構成する基材樹脂の種類、配合する成分の種類や含有量などを適宜選択することにより制御することができる。
【0036】
前記塗膜を構成する基材樹脂としては、ポリウレタン、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリエステルなどが挙げられ、これらの中でもポリウレタンが好ましい。塗膜を構成する基材樹脂がポリウレタンの場合、塗膜の諸物性は、ポリオール組成物やポリイソシアネート組成物の配合や、これらの混合比によって容易に調整できるからである。
【0037】
(ポリウレタン塗料)
前記塗膜を構成する基材樹脂は、ポリオール組成物とポリイソシアネート組成物とを含有する塗料から形成されるポリウレタンであることが好ましい。ポリオール組成物とポリイソシアネート組成物とが反応してポリウレタンを形成する。前記塗料としては、ポリオールを主剤とし、ポリイソシアネートを硬化剤とするいわゆる硬化型ウレタン塗料を例示することができる。
【0038】
(ポリオール組成物)
前記ポリオール組成物は、ポリオール化合物を含有する。前記ポリオール化合物としては、分子中に水酸基を2つ以上有する化合物が挙げられる。前記ポリオール化合物は、単独でまたは2種以上を混合して使用しても良い。
【0039】
前記ポリオール化合物としては、分子量が500未満の低分子量ポリオールや数平均分子量が500以上の高分子量ポリオールを挙げることができる。前記低分子量ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオールなどのジオール;グリセリン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールなどのトリオールが挙げられる。前記高分子量のポリオールとしては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリカーボネートポリオール、ウレタンポリオール、アクリルポリオールなどが挙げられる。
【0040】
前記ポリエーテルポリオールとしては、ポリオキシエチレングリコール(PEG)、ポリオキシプロピレングリコール(PPG)、ポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG)などが挙げられる。前記ポリエステルポリオールとしては、ポリエチレンアジペート(PEA)、ポリブチレンアジペート(PBA)、ポリヘキサメチレンアジペート(PHMA)などが挙げられる。前記ポリカプロラクトンポリオールとしては、ポリ−ε−カプロラクトン(PCL)などが挙げられる。前記ポリカーボネートポリオールとしては、ポリヘキサメチレンカーボネートなどが挙げられる。
【0041】
前記ウレタンポリオールとは、分子内にウレタン結合を複数有し、一分子中に水酸基を2以上有する化合物である。ウレタンポリオールとしては、例えば、ポリオール成分とポリイソシアネート成分とを、ポリオール成分の水酸基がポリイソシアネート成分のイソシアネート基に対して過剰になるような条件で反応させて得られるウレタンプレポリマーを挙げることができる。
【0042】
前記ウレタンポリオールのポリオール成分としては、ポリエーテルジオール、ポリエステルジオール、ポリカプロラクトンジオール、ポリカーボネートジオールなどのジオール成分が挙げられ、ポリエーテルジオールが好ましい。前記ポリエーテルジオールとしては、例えば、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコールなどが挙げられ、これらの中でもポリオキシテトラメチレングリコールが好ましい。
【0043】
前記ポリエーテルジオールの数平均分子量は、550以上が好ましく、より好ましくは600以上、さらに好ましくは650以上であり、3000以下が好ましく、より好ましくは2500以下、さらに好ましくは2000以下である。ポリエーテルジオールの数平均分子量が550以上であれば、塗膜における架橋点間の距離が長くなり、塗膜が柔らかくなるため、ゴルフボールのアプローチショットにおけるスピン性能および打球感が向上する。ポリエーテルジオールの数平均分子量が3000以下であれば、塗膜における架橋点間の距離が長くなりすぎず、塗膜の耐汚染性が良好となる。なお、ポリオール成分の数平均分子量は、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により、標準物質としてポリスチレン、溶離液としてテトラヒドロフラン、カラムとして有機溶媒系GPC用カラム(例えば、昭和電工社製「Shodex(登録商標) KFシリーズ」など)を用いて測定すればよい。
【0044】
前記ポリオール成分には分子量が500未満の低分子量ポリオールを含有してもよい。前記低分子量ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオールなどのジオール;グリセリン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールなどのトリオールが挙げられる。前記低分子量ポリオールは、単独でまたは2種以上を混合して使用しても良い。
【0045】
前記ウレタンポリオールは、ポリオール成分として、トリオール成分とジオール成分とを含有するものが好ましい。前記トリオール成分としては、トリメチロールプロパンが好ましい。前記トリオール成分とジオール成分の混合比率(トリオール成分/ジオール成分)は、モル比で、0.2以上が好ましく、0.3以上がより好ましく、0.5以上がさらに好ましく、6.0以下が好ましく、4.0以下がより好ましく、2.0以下がさらに好ましく、1.0以下が最も好ましい。混合比率が前記範囲にあるトリオール成分とジオール成分をポリオール成分とするウレタンポリオールを使用することにより、ゴルフボールのアプローチショットにおけるスピン性能が一層向上すると共に、耐汚染性や耐久性もより良好となる。
【0046】
前記ウレタンポリオールを構成し得るポリイソシアネート成分としては、イソシアネート基を2以上有するものであれば特に限定されず、例えば、2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、2,4−トルエンジイソシアネートと2,6−トルエンジイソシアネートの混合物(TDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5−ナフチレンジイソシアネート(NDI)、3,3’−ビトリレン−4,4’−ジイソシアネート(TODI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、パラフェニレンジイソシアネート(PPDI)などの芳香族ポリイソシアネート;4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)、水素添加キシリレンジイソシアネート(H6XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ノルボルネンジイソシアネート(NBDI)などの脂環式ポリイソシアネートまたは脂肪族ポリイソシアネートが挙げられる。これらのポリイソシアネートは、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0047】
前記ウレタンポリオールは、前記ポリエーテルジオールの含有率が、50質量%以上が好ましく、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは65質量%以上である。前記ポリエーテルジオールは、塗膜においてソフトセグメントを形成する。よって、前記ポリエーテルジオールの含有率が、50質量%以上であれば、得られるゴルフボールのスピン性能および打球感がより向上する。
【0048】
前記ウレタンポリオールの重量平均分子量は、3000以上が好ましく、より好ましくは4000以上、さらに好ましくは4500以上であり、10000以下が好ましく、より好ましくは8000以下、さらに好ましくは6000以下である。ウレタンポリオールの重量平均分子量が3000以上であれば、塗膜における架橋点間の距離が長くなり、塗膜が柔らかくなるため、ゴルフボールのアプローチショットにおけるスピン性能および打球感が向上する。ウレタンポリオールの重量平均分子量が10000以下であれば、塗膜における架橋点間の距離が長くなりすぎず、塗膜の耐汚染性が良好となる。
【0049】
前記ウレタンポリオールの水酸基価は、20mgKOH/g以上が好ましく、より好ましくは30mgKOH/g以上、さらに好ましくは50mgKOH/g以上であり、100mgKOH/g以下が好ましく、より好ましくは90mgKOH/g以下、さらに好ましくは80mgKOH/g以下である。水酸基価は、JIS K 1557−1に準じて、例えば、アセチル化法によって測定することができる。
【0050】
前記ポリオール組成物は、ポリオール化合物として、前記ウレタンポリオールを含有することが好ましい。前記ポリオール組成物のポリオール化合物中における前記ウレタンポリオールの含有率は、60質量%以上が好ましく、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上である。また、前記ポリオール組成物は、ポリオール化合物として、前記ウレタンポリオールのみを含有することが最も好ましい。
【0051】
(ポリイソシアネート組成物)
次に、ポリイソシアネート組成物について説明する。前記ポリイソシアネート組成物は、ポリイソシアネート化合物を含有する。前記ポリイソシアネート化合物としては、例えば、イソシアネート基を2つ以上有する化合物が挙げられる。
【0052】
前記ポリイソシアネート化合物としては、例えば、2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、2,4−トルエンジイソシアネートと2,6−トルエンジイソシアネートの混合物(TDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5−ナフチレンジイソシアネート(NDI)、3,3’−ビトリレン−4,4’−ジイソシアネート(TODI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、パラフェニレンジイソシアネート(PPDI)などの芳香族ジイソシアネート;4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)、水素添加キシリレンジイソシアネート(H6XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ノルボルネンジイソシアネート(NBDI)などの脂環式ジイソシアネートまたは脂肪族ジイソシアネート;およびこれらのジイソシアネートのアロハネート変性体、ビュレット変性体、イソシアヌレート変性体、アダクト変性体などのトリイソシアネート;が挙げられる。前記ポリイソシアネートは、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0053】
前記アロハネート変性体とは、例えば、ジイソシアネートと低分子量ジオールとを反応させて形成されるウレタン結合にさらにジイソシアネートが反応して得られるトリイソシアネートである。アダクト変性体とは、ジイソシアネートとトリメチロールプロパンあるいはグリセリンなどの低分子量トリオールとを反応させて得られるトリイソシアネートである。前記ビュレット変性体とは、例えば、下記式(1)で表わされるビュレット結合を有するトリイソシアネートである。ジイソシアネートのイソシアヌレート変性体とは、例えば、下記式(2)で表わされるトリイソシアネートである。
【化1】
式(1)、(2)中、Rは、ジイソシアネートからイソシアネート基を除いた残基を表わす。
【0054】
前記トリイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体、ヘキサメチレンジイソシアネートのビュレット変性体、および、イソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体よりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、より好ましくはこれらの変性体を併用することである。特に、ヘキサメチレンジイソシアネートのビュレット変性体とヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体とを併用する場合、これらの混合比率(ビュレット変性体/イソシアヌレート変性体)は、質量比で、0.5〜2.0が好ましく、0.8〜1.5がより好ましく、0.9〜1.4がさらに好ましい。また、ヘキサメチレンジイソシアネートの変性体(ビュレット変性体および/またはイソシアヌレート変性体)とイソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体とを併用する場合、これらの混合比率(ヘキサメチレンジイソシアネートの変性体/イソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体)は、質量比で、0.5〜3.0が好ましく、0.8〜2.5がより好ましく、1.0〜2.0がさらに好ましい。
【0055】
前記ポリイソシアネート組成物は、ポリイソシアネート化合物として、前記トリイソシアネート化合物を含有することが好ましい。前記ポリイソシアネート組成物のポリイソシアネート化合物中における前記トリイソシアネート化合物の含有率は、60質量%以上が好ましく、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上である。また、前記ポリイソシアネート組成物は、ポリイソシアネート化合物として、前記トリイソシアネート化合物のみを含有することが最も好ましい。
【0056】
前記ポリイソシアネート組成物が含有するポリイソシアネート化合物のイソシアネート基量(NCO%)は、0.5質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、2質量%以上がさらに好ましく、45質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、35質量%以下がさらに好ましい。なお、ポリイソシアネートのイソシアネート基量(NCO%)は、100×[ポリイソシアネート中のイソシアネート基のモル数×42(NCOの分子量)]/ポリイソシアネートの総質量(g)で表わすことができる。
【0057】
前記ポリイソシアネートの具体例としては、DIC社製バーノックD−800、バーノックDN−950、バーノックDN−955、住化バイエルウレタン社製デスモジュールZ4470、デスモジュールN75MPA/X、デスモジュールN3300、デスモジュールL75(C)、スミジュールE21−1、日本ポリウレタン工業社製コロネートHX、コロネートHK、旭化成ケミカルズ社製デュラネート24A−100、デュラネート21S−75E、デュラネートTPA−100、デュラネートTKA−100、デグサ社製VESTANAT T1890などを挙げることができる。
【0058】
前記硬化型塗料組成物における硬化反応において、前記ポリオール組成物と前記ポリイソシアネート組成物の質量比(ポリオール組成物/ポリイソシアネート組成物)は、3.5以上が好ましく、4.0以上がより好ましく、5.0以上がさらに好ましく、6.0以上が特に好ましく、10.0以下が好ましく、9.0以下がより好ましく、8.5以下がさらに好ましい。質量比(ポリオール組成物/ポリイソシアネート組成物)が前記範囲にある硬化型塗料組成物を用いることで、得られた塗膜は前述した諸物性を満足しやすく、そしてアプローチショットのスピン性能および打球感が良く、且つ、耐汚染性にも優れたゴルフボールが容易に得られる。一方、前記質量比が、3.5未満では、塗膜が硬くなり過ぎて、得られたゴルフボールは、アプローチショットのスピン性能および打球感が満足できない場合がある。また、前記質量比が、10.0を超えると、塗膜が軟らかくなり過ぎて、得られたゴルフボールは、耐汚染性が満足できない場合がある。
【0059】
前記硬化型塗料組成物における硬化反応において、主剤が有する水酸基(OH基)と硬化剤が有するイソシアネート基(NCO基)のモル比(NCO基/OH基)は、0.15以上が好ましく、0.18以上がより好ましく、0.20以上がさらに好ましく、0.22以上が特に好ましく、1.20以下が好ましく、1.10以下がより好ましく、1.00以下がさらに好ましい。モル比(NCO基/OH基)が前記範囲にある硬化型塗料組成物を用いることで、得られた塗膜は前述した諸物性を満足しやすく、そしてアプローチショットのスピン性能および打球感が良く、且つ、耐汚染性にも優れたゴルフボールが容易に得られる。一方、前記モル比が、0.15未満では、得られた塗膜が軟らかくなりすぎて、製造工程で不備が生じる場合がある。また、前記モル比が、1.20を超えると、得られた塗膜が硬くなりすぎて、スピン性能が劣る場合がある。
【0060】
前記塗料としては、水を主たる分散媒とする水系塗料、有機溶剤を分散媒とする溶剤系塗料のいずれであってもよいが、溶剤系塗料が好ましい。溶剤系塗料の場合、好ましい溶剤としては、トルエン、イソプロピルアルコール、キシレン、メチルエチルケトン、メチルエチルイソブチルケトン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチルベンゼン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、イソブチルアルコール、酢酸エチル、酢酸ブチルなどを挙げることができる。なお、溶剤は、ポリオール組成物およびポリイソシアネート組成物のいずれに配合してもよいが、均一に硬化反応をさせる観点から、ポリオール組成物およびポリイソシアネート組成物のそれぞれに配合することが好ましい。
【0061】
硬化反応には、公知の触媒を使用することができる。前記触媒としては、例えば、トリエチルアミン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミンなどのモノアミン類;N,N,N',N'−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N',N'',N''−ペンタメチルジエチレントリアミンなどのポリアミン類;1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン(DBU)、トリエチレンジアミンなどの環状ジアミン類;ジブチルチンジラウリレート、ジブチルチンジアセテートなどの錫系触媒などが挙げられる。これらの触媒は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ジブチルチンジラウリレート、ジブチルチンジアセテートなどの錫系触媒が好ましく、特に、ジブチルチンジラウリレートが好適に使用される。
【0062】
前記塗料は、さらに必要に応じて、フィラー、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、蛍光増白剤、ブロッキング防止剤、レベリング剤、スリップ剤、粘度調整剤などの、一般にゴルフボール用塗料に含有され得る添加剤を含有してもよい。
【0063】
本発明の硬化型塗料の塗布方法は、特に限定されず、公知の方法を採用することができ、例えば、スプレー塗装、静電塗装などを挙げることができる。
【0064】
エアーガンを用いたスプレー塗装の場合には、ポリオール組成物とポリイソシアネート組成物とをそれぞれのポンプで供給して、エアーガン直前に配置されたラインミキサーで連続的に混合し、得られた混合物をスプレー塗装してもよい。また、混合比制御機構を備えたエアースプレーシステムを用いて、ポリオール組成物とポリイソシアネート組成物とを別々にスプレー塗装してもよい。塗装は、1回でスプレー塗布しても良いし、複数回重ね塗りをしても良い。
【0065】
ゴルフボール本体に塗布された硬化型塗料は、例えば、30℃〜70℃の温度で1時間〜24時間乾燥することにより塗膜を形成することができる。
【0066】
本発明のゴルフボールは、ゴルフボール本体と、前記ゴルフボール本体表面に設けられた塗膜とを有するゴルフボールであれば、特に限定されない。ゴルフボール本体の構造は、特に限定されず、ワンピースゴルフボール、ツーピースゴルフボール、スリーピースゴルフボール、フォーピースゴルフボール、ファイブピースゴルフボール以上のマルチピースゴルフボール、あるいは、糸巻きゴルフボールであってもよい。いずれの場合であっても、本発明を好適に適用できる。
【0067】
図1は、本発明の一実施形態に係るゴルフボール1が示された一部切り欠き断面図(模式図)である。ゴルフボール1は、球状コア2と、球状コア2を被覆するカバー3と、このカバー3の表面に設けられた塗膜4を有する。前記カバー3の表面には、多数のディンプル31が形成されている。このカバー3の表面のうち、ディンプル31以外の部分は、ランド32である。
【0068】
以下、前記ワンピースゴルフボール本体、ならびに、糸巻きゴルフボール、ツーピースゴルフボールおよびマルチピースゴルフボールに用いられるコアについて説明する。
【0069】
前記コアの構造は、特に限定されず、単層構造でもよいし、2層以上の多層構造でもよいが、単層構造であることが好ましい。単層構造のコアは、多層構造の界面における打撃時のエネルギーロスがなく、反発性が向上するからである。前記コアの形状は、球状であることが好ましい。
【0070】
前記ワンピースゴルフボール本体およびコアには、公知のゴム組成物(以下、単に「コア用ゴム組成物」という場合がある)を用いることができ、例えば、基材ゴム、共架橋剤および架橋開始剤を含むゴム組成物を加熱プレスして成形することができる。
【0071】
前記基材ゴムとしては、特に、反発に有利なシス結合が40質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上のハイシスポリブタジエンを用いることが好ましい。前記共架橋剤としては、炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸またはその金属塩が好ましく、アクリル酸の金属塩またはメタクリル酸の金属塩がより好ましい。金属塩の金属としては、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、ナトリウムが好ましく、より好ましくは亜鉛である。共架橋剤の使用量は、基材ゴム100質量部に対して20質量部以上50質量部以下が好ましい。前記共架橋剤として炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸を使用する場合、金属化合物を配合することが好ましい。前記共架橋剤として炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸の金属塩を使用する場合、金属化合物を配合してもよい。架橋開始剤としては、有機過酸化物が好ましく用いられる。具体的には、ジクミルパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t―ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ−t−ブチルパーオキサイドなどの有機過酸化物が挙げられ、これらのうちジクミルパーオキサイドが好ましく用いられる。架橋開始剤の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、0.2質量部以上が好ましく、より好ましくは0.3質量部以上であって、3質量部以下が好ましく、より好ましくは2質量部以下である。
【0072】
また、前記コア用ゴム組成物は、さらに、有機硫黄化合物を含有してもよい。前記有機硫黄化合物としては、ジフェニルジスルフィド類(例えば、ジフェニルジスルフィド、ビス(ペンタブロモフェニル)ジスルフィド)、チオフェノール類、チオナフトール類(例えば、2−チオナフトール)を好適に使用することができる。有機硫黄化合物の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、0.1質量部以上が好ましく、より好ましくは0.3質量部以上であって、5.0質量部以下が好ましく、より好ましくは3.0質量部以下である。前記コア用ゴム組成物は、さらにカルボン酸および/またはその塩を含有してもよい。カルボン酸および/またはその塩としては、炭素数が1〜30のカルボン酸および/またはその塩が好ましい。前記カルボン酸としては、脂肪族カルボン酸、芳香族カルボン酸(安息香酸など)のいずれも使用できる。カルボン酸および/またはその塩の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、1質量部以上、40質量部以下である。
【0073】
前記コア用ゴム組成物には、基材ゴム、共架橋剤、架橋開始剤、有機硫黄化合物に加えて、さらに、酸化亜鉛や硫酸バリウムなどの重量調整剤、老化防止剤、色粉などを適宜配合することができる。
【0074】
前記コア用ゴム組成物の加熱プレス成型条件は、ゴム組成に応じて適宜設定すればよいが、通常、130℃〜200℃で10分間〜60分間加熱するか、あるいは130℃〜150℃で20分間〜40分間加熱した後、160℃〜180℃で5分間〜15分間と2段階加熱することが好ましい。
【0075】
前記コアの表面硬度Hsと中心硬度Hoとの硬度差(Hs−Ho)は、ショアC硬度で、10以上が好ましく、より好ましくは15以上、さらに好ましくは20以上である。硬度差(Hs−Ho)が10以上であれば、ドライバーショットのスピン量が低下し、ドライバーショットにおける飛距離が向上する。また、硬度差(Hs−Ho)は、ショアC硬度で、50以下が好ましく、より好ましくは45以下、さらに好ましくは40以下、特に好ましくは35以下である。硬度差(Hs−Ho)が50以下であれば、ゴルフボールの耐久性が向上する。
【0076】
前記コアの中心硬度Hoは、ショアC硬度で、40以上が好ましく、より好ましくは45以上、さらに好ましくは50以上である。コアの中心硬度Hoが40以上であれば、ゴルフボールの反発性が良好となり、ドライバーショットにおける飛距離が向上する。また、コアの中心硬度Hoは、ショアC硬度で、80以下が好ましく、より好ましくは75以下であり、さらに好ましくは70以下である。コアの中心硬度Hoが80以下であれば、ゴルフボールの打球感が向上する。
【0077】
前記コアの表面硬度Hsは、ショアC硬度で、60以上が好ましく、より好ましくは65以上、さらに好ましくは70以上である。コアの表面硬度Hsが60以上であれば、ゴルフボールの反発性が良好となり、ドライバーショットにおける飛距離が向上する。また、前記コアの表面硬度Hsは、ショアC硬度で、100以下が好ましく、より好ましくは95以下、さらに好ましくは90以下である。コアの表面硬度Hsが100以下であれば、コアが硬くなり過ぎず、耐久性が良好となる。
【0078】
前記コアの直径は、37.0mm以上が好ましく、より好ましくは37.5mm以上、さらに好ましくは38.5mm以上である。前記コアの直径が37.0mm以上であれば、反発性がより良好となる。前記コアの直径の上限は特に限定されないが、40.5mm以下が好ましく、40.0mm以下がより好ましく、さらに好ましくは39.8mm以下である。
【0079】
前記コアは、直径37.0mm〜40.5mmの場合、初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときまでの圧縮変形量(圧縮方向にコアが縮む量)が、2.5mm以上が好ましく、より好ましくは3.0mm以上であり、4.5mm以下が好ましく、より好ましくは4.0mm以下である。前記圧縮変形量が、2.5mm以上であれば打球感がより良好となり、4.5mm以下であれば反発性がより良好となる。
【0080】
前記ゴルフボール本体は、コアとカバーを有することが好ましい。ここで、カバーは、ゴルフボール本体の最も外側に配置される層(「最外層カバー」とも呼ばれる)である。
【0081】
前記カバーを構成するカバー用組成物は、樹脂成分を含有することが好ましい。前記樹脂成分としては、例えば、アイオノマー樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂などの各種樹脂、BASFジャパン(株)から商品名「エラストラン(登録商標)」で市販されている熱可塑性ポリウレタンエラストマー、アルケマ(株)から商品名「ペバックス(登録商標)」で市販されている熱可塑性ポリアミドエラストマー、東レ・デュポン(株)から商品名「ハイトレル(登録商標)」で市販されている熱可塑性ポリエステルエラストマー、三菱化学(株)から商品名「ラバロン(登録商標)」で市販されている熱可塑性スチレンエラストマーなどが挙げられる。
【0082】
前記アイオノマー樹脂としては、例えば、オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸との二元共重合体中のカルボキシル基の少なくとも一部を金属イオンで中和したもの、オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体のカルボキシル基の少なくとも一部を金属イオンで中和したもの、あるいは、これらの混合物を挙げることができる。前記オレフィンとしては、炭素数が2〜8個のオレフィンが好ましく、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン等を挙げることができ、特にエチレンが好ましい。前記炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、クロトン酸等が挙げられ、特にアクリル酸またはメタクリル酸が好ましい。また、α,β−不飽和カルボン酸エステルとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸等のメチル、エチル、プロピル、n−ブチル、イソブチルエステル等が用いられ、特にアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルが好ましい。これらのなかでも、前記アイオノマー樹脂としては、エチレン−(メタ)アクリル酸二元共重合体の金属イオン中和物、エチレン−(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル三元共重合体の金属イオン中和物が好ましい。
【0083】
前記アイオノマー樹脂の具体例を商品名で例示すると、三井・デュポンポリケミカル(株)から市販されている「ハイミラン(Himilan)(登録商標)(例えば、ハイミラン1555(Na)、ハイミラン1557(Zn)、ハイミラン1605(Na)、ハイミラン1706(Zn)、ハイミラン1707(Na)、ハイミランAM3711(Mg)、ハイミランAM7337(Na)、ハイミランAM7329(Zn)などが挙げられ、三元共重合体アイオノマー樹脂としては、ハイミラン1856(Na)、ハイミラン1855(Zn)など)」が挙げられる。
【0084】
さらにデュポン社から市販されているアイオノマー樹脂としては、「サーリン(Surlyn)(登録商標)(例えば、サーリン8945(Na)、サーリン9945(Zn)、サーリン8140(Na)、サーリン8150(Na)、サーリン9120(Zn)、サーリン9150(Zn)、サーリン6910(Mg)、サーリン6120(Mg)、サーリン7930(Li)、サーリン7940(Li)、サーリンAD8546(Li)などが挙げられ、三元共重合体アイオノマー樹脂としては、サーリン8120(Na)、サーリン8320(Na)、サーリン9320(Zn)、サーリン6320(Mg)、HPF1000(Mg)、HPF2000(Mg)など)」が挙げられる。
【0085】
またエクソンモービル化学(株)から市販されているアイオノマー樹脂としては、「アイオテック(Iotek)(登録商標)(例えば、アイオテック8000(Na)、アイオテック8030(Na)、アイオテック7010(Zn)、アイオテック7030(Zn)などが挙げられ、三元共重合体アイオノマー樹脂としては、アイオテック7510(Zn)、アイオテック7520(Zn)など)」が挙げられる。
【0086】
なお、前記アイオノマー樹脂の商品名の後の括弧内に記載したNa、Zn、Li、Mgなどは、これらの中和金属イオンの金属種を示している。前記アイオノマー樹脂は、単独で若しくは2種以上を混合して使用しても良い。
【0087】
前記カバー用組成物は、樹脂成分として、熱可塑性ポリウレタンエラストマーまたはアイオノマー樹脂を含有することが好ましい。カバー用組成物の樹脂成分中のポリウレタンまたはアイオノマー樹脂の含有率は、40質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、60質量%以上がさらに好ましく、70質量%以上が特に好ましい。また、樹脂成分として、熱可塑性ポリウレタンエラストマーまたはアイオノマー樹脂のみを含有することも好ましい態様である。なお、アイオノマー樹脂を使用する場合には、熱可塑性スチレンエラストマーを併用することが好ましい。この場合、アイオノマー樹脂と熱可塑性スチレンエラストマーの質量比(アイオノマー樹脂/熱可塑性スチレンエラストマー)は、40/60以上が好ましく、より好ましくは45/55以上、さらに好ましくは50/50以上であり、80/20以下が好ましく、より好ましくは70/30以下、さらに好ましくは60/40以下である。質量比が前記範囲にあるアイオノマー樹脂と熱可塑性スチレンエラストマーを樹脂成分とするカバー用組成物を用いることで、本発明の塗膜によるアプローチショットにおけるスピン性能向上効果と相乗する効果があり、アプローチショットにおけるスピン性能が一層向上したゴルフボールが得られる。
【0088】
前記カバー用組成物は、上述した樹脂成分のほか、白色顔料(例えば、酸化チタン)、青色顔料(例えば、ウルトラマリンブルー)、赤色顔料などの顔料成分、酸化亜鉛、炭酸カルシウムや硫酸バリウムなどの重量調整剤、分散剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、蛍光材料または蛍光増白剤などを、カバーの性能を損なわない範囲で含有してもよい。
【0089】
前記カバー用組成物を用いてカバーを成形する方法としては、例えば、カバー用組成物を球体上に直接射出成形する方法、或いは、カバー用組成物から中空殻状のシェルを成形し、球体を複数のシェルで被覆して圧縮成形する方法(好ましくは、カバー用組成物から中空殻状のハーフシェルを成形し、球体を2枚のハーフシェルで被覆して圧縮成形する方法)を挙げることができる。
【0090】
カバーを成形する際には、通常、表面にディンプルと呼ばれるくぼみが形成される。カバーに形成されるディンプルの総数は、200個以上500個以下が好ましい。ディンプルの総数が200個未満では、ディンプルの効果が得られにくい。また、ディンプルの総数が500個を超えると、個々のディンプルのサイズが小さくなり、ディンプルの効果が得られにくい。形成されるディンプルの形状(平面視形状)は、特に限定されるものではなく、円形;略三角形、略四角形、略五角形、略六角形などの多角形;その他不定形状;を単独で使用してもよいし、2種以上を組合せて使用してもよい。
【0091】
前記カバーの硬度は、所望のゴルフボールの性能に応じて適宜設定することが好ましい。例えば、飛距離を重視するディスタンス系のゴルフボールの場合、カバーの硬度は、ショアD硬度で、50以上が好ましく、55以上がより好ましく、80以下が好ましく、70以下がより好ましい。カバーの硬度を50以上にすることにより、ドライバーショットにおける飛距離が大きいゴルフボールが得られる。また、カバーの硬度を80以下とすることにより、耐久性に優れたゴルフボールが得られる。また、コントロール性を重視するスピン系のゴルフボールの場合、カバーの硬度は、ショアD硬度で、50未満が好ましく、45以下がより好ましく、40以下がさらに好ましく、20以上が好ましく、23以上がより好ましく、25以上がさらに好ましい。カバーの硬度が50未満であれば、アプローチショットのスピン量が一層高くなり、コントロール性に優れるゴルフボールが得られる。また、カバーの硬度を20以上とすることにより、耐擦過傷性が向上する。なお、前記カバーの硬度は、カバー用組成物をシート状に成形して測定したスラブ硬度である。
【0092】
前記カバーの厚さは、0.3mm以上が好ましく、より好ましくは0.4mm以上、さらに好ましくは0.5mm以上であり、3.0mm以下が好ましく、より好ましくは2.5mm以下、さらに好ましくは2.3mm以下である。カバーの厚さが0.3mm以上であれば、ゴルフボールの打球感がより良好となり、耐久性も向上する。また、カバーの厚さが3.0mm以下であれば、ゴルフボールの反発性を維持することができる。
【0093】
本発明のゴルフボール本体は、前記コアとカバーとの間に少なくとも1層以上の中間層を設けてもよい。なお、前記中間層は、ゴルフボールの構成に応じて、内側カバー層や外層コアと称される場合がある。
【0094】
前記中間層を構成する中間層用組成物は、樹脂成分を含有することが好ましい。前記樹脂成分としては、例えば、アイオノマー樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレンなどの熱可塑性樹脂;スチレンエラストマー、ポリオレフィンエラストマー、ポリウレタンエラストマー、ポリエステルエラストマーなどの熱可塑性エラストマー;ゴム組成物の硬化物などが挙げられる。これらの中でも、アイオノマー樹脂が好ましい。アイオノマー樹脂としては、前記カバー用組成物に使用できる樹脂成分として例示されるアイオノマー樹脂が好ましく使用できる。前記中間層には、さらに、硫酸バリウム、タングステンなどの比重調整剤、老化防止剤、顔料などが配合されていてもよい。
【0095】
前記中間層用組成物を用いて中間層を成形方法としては、例えば、中間層用組成物をコア上に直接射出成形する方法、或いは、中間層用組成物から中空殻状のシェルを成形し、コアを複数のシェルで被覆して圧縮成形する方法(好ましくは、中間層用組成物から中空殻状のハーフシェルを成形し、コアを2枚のハーフシェルで被覆して圧縮成形する方法)を挙げることができる。
【0096】
前記中間層の硬度は、ショアD硬度で、50以上が好ましく、55以上がより好ましく、80以下が好ましく、70以下がより好ましい。中間層の硬度を50以上にすることにより、ドライバーショットにおける飛距離が向上すると共に、アプローチショットのスピン量が一層高くなり、コントロール性により優れるゴルフボールが得られる。また、中間層の硬度を80以下とすることにより、打球感および耐久性に優れたゴルフボールが得られる。なお、前記中間層の硬度は、中間層用組成物をシート状に成形して測定したスラブ硬度である。
【0097】
前記中間層と前記カバーに硬度差を設けることが好ましい。中間層とカバーとの硬度差(中間層−カバー)は、ショアD硬度で、10以上が好ましく、15以上がより好ましく、20以上がさらに好ましく、25以上が特に好ましく、60以下が好ましく、50以下がより好ましく、40以下がさらに好ましい。中間層とカバーとの硬度差を前記範囲とすることで、本発明の塗膜によるアプローチショットにおけるスピン性能向上効果と相乗する効果があり、アプローチショットにおけるスピン性能が極めて向上したゴルフボールが得られる。また、ゴルフボールの打球感も格別に向上している。
【0098】
前記中間層とカバーとのショアD硬度比(中間層/カバー)は、1.1以上が好ましく、1.2以上がより好ましく、1.3以上がさらに好ましく、1.5以上が特に好ましく、5以下が好ましく、4以下がより好ましく、3以下がさらに好ましい。中間層とカバーとのショアD硬度比を前記範囲とすることで、本発明の塗膜によるアプローチショットにおけるスピン性能向上効果と相乗する効果があり、アプローチショットにおけるスピン性能が極めて向上したゴルフボールが得られる。また、ゴルフボールの打球感も格別に向上している。
【0099】
前記中間層の厚みは、0.3mm以上が好ましく、より好ましくは0.4mm以上、さらに好ましくは0.5mm以上であり、4.0mm以下が好ましく、より好ましくは3.0mm以下、さらに好ましくは2.5mm以下、最も好ましくは2.0mm以下である。中間層の厚みが0.3mm以上であれば、中間層の成形がより容易となり、また得られるゴルフボールの耐久性がより向上する。また、中間層の厚みが4.0mm以下であれば、得られるゴルフボールの反発性や打球感がより良好となる。なお、複数の中間層の場合は、複数の中間層の合計厚みが上記範囲であることが好ましい。
【0100】
カバーが成形されたゴルフボール本体は、金型から取り出し、必要に応じて、バリ取り、洗浄、サンドブラストなどの表面処理を行うことが好ましい。また、所望により、マークを形成することもできる。
【0101】
本発明のゴルフボールの直径は、40mm〜45mmが好ましい。米国ゴルフ協会(USGA)の規格が満たされるとの観点から、直径は、42.67mm以上が好ましい。空気抵抗の観点から、直径は44mm以下が好ましく、42.80mm以下がより好ましい。ゴルフボールの質量は、40g以上50g以下が好ましい。大きな慣性が得られるとの観点から、質量は44g以上が好ましく、45.00g以上がより好ましい。USGAの規格が満たされるとの観点から、質量は45.93g以下が好ましい。
【0102】
前記ゴルフボールは、直径40mm〜45mmの場合、初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときの圧縮変形量(圧縮方向に縮む量)は、2.0mm以上であることが好ましく、より好ましくは2.5mm以上であり、4.0mm以下であることが好ましく、より好ましくは3.5mm以下である。前記圧縮変形量が2.0mm以上のゴルフボールは、硬くなり過ぎず、打球感が良い。一方、圧縮変形量を4.0mm以下にすることにより、反発性が高くなる。
【実施例】
【0103】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の変更、実施の態様は、いずれも本発明の範囲内に含まれる。
【0104】
[評価方法]
(1)スラブ硬度(ショアD硬度)
カバー用組成物または中間層用組成物を用いて、射出成形により、厚み約2mmのシートを作製し、23℃で2週間保存した。このシートを、測定基板などの影響が出ないように、3枚以上重ねた状態で、ASTM−D2240に規定するスプリング式硬度計ショアD型を備えたH.バーレイス社製自動硬度計デジテストIIを用いて測定した。
【0105】
(2)コア硬度(ショアC硬度)
H.バーレイス社製自動硬度計デジテストIIを用いて、コアの表面部において測定したショアC硬度をコア表面硬度とした。また、コアを半球状に切断し、切断面の中心において測定したショアC硬度をコア中心硬度とした。
【0106】
(3)圧縮変形量(mm)
コアに初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときまでの圧縮方向の変形量(圧縮方向にコアが縮む量)を測定した。
【0107】
(4)塗膜の損失正接tanδ
ゴルフボールを半球状に切断し安定に配置した後、半球上の塗膜表面に対して垂直方向から圧子を押し込み、下記の測定条件にて、周波数1Hz、10Hz、105Hzにおける塗膜の損失正接tanδをそれぞれ測定した。なお、測定は5箇所について行い、これらの平均値をその塗膜の損失正接tanδとした。
測定装置:HYSITRON社製の「TI950 Tribo Indenter」
圧子仕様:Berkovich型
試験荷重(最大押し込み荷重):100μN
周波数:1Hz、10Hz、105Hz
測定環境:23℃、RH50%、大気中
【0108】
(5)塗膜の弾性率(GPa)および硬度(GPa)
ゴルフボールを半球状に切断し安定に配置した後、半球上の塗膜表面に対して垂直方向から圧子を押し込み、下記の測定条件にて測定した荷重−変位曲線から塗膜の弾性率および硬度をそれぞれ求めた。なお、測定はそれぞれ5箇所について行い、これらの平均値をその塗膜の弾性率および硬度とした。
測定装置:HYSITRON社製の「TI950 Tribo Indenter」
圧子仕様:Berkovich型
最大押し込み深さ:300nm
測定環境:23℃、RH50%、大気中
【0109】
(6)塗膜の膜厚(μm)
ゴルフボールを半球状に切断し、半球上の塗膜断面をマイクロスコープ(キーエンス社製VHX−1000)を用いて観察し、塗膜の膜厚を求めた。
(7)塗膜の10%モジュラス(kgf/cm2
塗膜の10%モジュラスは、JIS K7161(2014)に準じて測定した。具体的には、主剤および硬化剤を配合した塗料を40℃で4時間乾燥及び硬化をさせて塗膜(厚さ0.05mm)を作製した。この塗膜を、JIS K7127(1999)で規定された試験片タイプ2(平行部の幅10mm、標線間距離50mm)に打ち抜いて試験片を作製した。この試験片について、精密万能試験機(島津製作所製、オートグラフ(登録商標))を用いて引張試験を行った。試験条件は、つかみ具間距離100mm、引張速度50mm/min、試験温度23℃とした。
【0110】
(8)アプローチショットのスピン量(rpm)
ツルーテンパー社製スイングマシンに、サンドウエッジ(クリーブランドゴルフ社製CG15フォージドウエッジ(58°))を取り付け、ヘッドスピード10m/秒でゴルフボールを打撃し、打撃されたゴルフボールを連続写真撮影することによってスピン量(rpm)を測定した。測定は、各ゴルフボールについて10回ずつ行い、その平均値をスピン量とした。
【0111】
(9)打球感
アマチュアゴルファー(上級者)10人により、サンドウエッジ(クリーブランドゴルフ社製CG15フォージドウエッジ(58°))を用いた実打テストを行った。フィーリング良好(フェースに乗っている感じがして良い、ひっかかる感じがして良い、スピンがきく感じがして良い、くっつく感じがして良い等)と答えた人数に基づいて、以下のように評価した。
◎:8人以上
○:5人〜7人
△:3〜4人
×:2人以下
【0112】
(10)耐汚染性
ゴルフボールを、ヨードチンキ(ヨウ素を6質量%、ヨウ化カリウムを4質量%含有するエタノール溶液)を40倍に希釈したヨードチンキ水に30秒間浸漬して、取り出した。ゴルフボール表面に付着している余分なヨードチンキ水を拭きとった後、色差計(コニカミノルタ社製CM3500D)を用いて、浸漬前後のゴルフボールの色調(L,a,b)を測定し、色差(ΔE)を次式にて算出した。なお、色差(ΔE)の値が大きいほど、変色の度合いが大きいことを意味する。
ΔE=[(ΔL)+(Δa)+(Δb)1/2
評価基準
◎:ΔEが15以下
○:ΔEが15超20以下
×:ΔEが20超
【0113】
1.コアの作製
表1に示した配合のコア用ゴム組成物を混練し、半球状キャビティを有する上下金型内で、表1に示した条件にて加熱プレスすることにより球状コアを得た。
【0114】
【表1】
【0115】
ポリブタジエンゴム:JSR(株)製、「BR730(ハイシスポリブタジエン)」
アクリル酸亜鉛:日本蒸溜工業社製、「ZN−DA90S」
酸化亜鉛:東邦亜鉛社製、「銀嶺R」
硫酸バリウム:堺化学社製、「硫酸バリウムBD」
2−チオナフトール:東京化成工業社製
ビス(ペンタブロモフェニル)ジスルフィド:住友精化社製
ジクミルパーオキサイド:日油社製、「パークミル(登録商標)D」
安息香酸:シグマアルドリッチ社製(純度99.5質量%以上)
【0116】
2.中間層用組成物およびカバー用組成物の調製
表2、表3に示した配合の材料を、二軸混練型押出機によりミキシングして、ペレット状の中間層用組成物およびカバー用組成物を調製した。押出条件は、スクリュー径45mm、スクリュー回転数200rpm、スクリューL/D=35であり、配合物は、押出機のダイの位置で200〜260℃に加熱された。
【0117】
【表2】
【0118】
サーリン8150:デュポン社製、ナトリウムイオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体アイオノマー樹脂
サーリン9150:デュポン社製、亜鉛イオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体アイオノマー樹脂
ポリアミド6:東レ社製
ハイミランAM7337:三井・デュポン・ポリケミカル社製、ナトリウムイオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体アイオノマー樹脂
ハイミランAM7329:三井・デュポン・ポリケミカル社製、亜鉛イオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体アイオノマー樹脂
ハイミラン1555:三井・デュポン・ポリケミカル社製、ナトリウムイオン中和エチレン−アクリル酸共重合体アイオノマー樹脂
ラバロンT3221C:三菱化学社製、熱可塑性ポリスチレンエラストマー
硫酸バリウム:堺化学社製、「硫酸バリウムBD」
酸化チタン:石原産業社製、A220
【0119】
【表3】
【0120】
エラストランNY80A:BASFジャパン社製、熱可塑性ポリウレタンエラストマー
エラストランNY97A:BASFジャパン社製、熱可塑性ポリウレタンエラストマー
酸化チタン:石原産業社製、A220
【0121】
3.ゴルフボール本体の作製
ゴルフボール本体No.1〜8
上記で得たペレット状カバー用組成物を、上記で得た球状コア上に直接射出成形することにより、カバーを作製した。成形用上下型は、半球状キャビティと、球状コアを支持する進退可能なホールドピンとを有している。カバー成形時には、上記ホールドピンを突き出し、コアを投入後ホールドさせ、80トンの圧力で型締めした金型に260℃に加熱したカバー用組成物を0.3秒で注入し、30秒間冷却して型開きしてゴルフボールを取り出した。
【0122】
ゴルフボール本体No.9〜10
上記で得た中間層用組成物を、上記で得たコア上に直接射出成形することにより、コアに中間層が被覆された球体を作製した。成形用上下型は、半球状キャビティと、球体を支持する進退可能なホールドピンとを有している。中間層成形時には、上記ホールドピンを突き出し、コアを投入後ホールドさせ、80トンの圧力で型締めした金型に260℃に加熱した中間層用組成物を0.3秒で注入し、30秒間冷却して型開きして球体を取り出した。上記で得たペレット状のカバー用組成物をハーフシェル成形用金型の下型の凹部ごとに1つずつ投入し、加圧してハーフシェルを成形した。圧縮成形は、成形温度170℃、成形時間5分、成形圧力2.94MPaの条件で行った。2枚のハーフシェルを用いて、上記で得た球体を同心円状に被覆して、圧縮成形によりカバーを成形した。圧縮成形は、成形温度145℃、成形時間2分、成形圧力9.8MPaの条件で行った。
【0123】
4.ポリオール組成物の調製
ポリオール成分として、ポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG、数平均分子量650)、トリメチロールプロパン(TMP)を溶剤(トルエン、メチルエチルケトン)に溶解した。なお、モル比(PTMG:TMP)は1.8:1.0とした。ここに、触媒としてジブチルチンジラウレートを主剤全体に対して0.1質量%となるように添加した。このポリオール溶液を80℃に保持しながらポリイソシアネート成分としてのイソホロンジイソシアネート(IPDI)を滴下混合した。なお、ポリイソシアネート成分のNCO基とポリオール成分のOH基のモル比(NCO/OH)は0.6とした。滴下後は、イソシアネート基がなくなるまで撹拌を続け、その後常温で冷却し、ウレタンポリオール(固形分:30質量%)を調製した。得られたポリオール組成物のPTMG含有率は67質量%、固形分の水酸基価は67.4mgKOH/g、ウレタンポリオールの重量平均分子量は4867であった。
【0124】
5.ポリイソシアネート組成物の調製
ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体(旭化成ケミカルズ社製、デュラネート(登録商標)TKA−100(NCO含有率:21.7質量%))30質量部、ヘキサメチレンジイソシアネートのビュレット変性体(旭化成ケミカルズ社製、デュラネート21S−75E(NCO含有率:15.5質量%))30質量部、イソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体(住化バイエルウレタン社製、デスモジュール(登録商標) Z 4470(NCO含有率:11.9質量%))40質量部を混合した。ここに、溶媒として、メチルエチルケトン、酢酸n−ブチル、トルエンの混合溶媒を追加し、ポリイソシアネート成分の濃度が60質量%になるように調整した。
【0125】
6.塗膜の形成
上記で得たゴルフボール本体の表面をサンドブラスト処理して、マーキングを施した後、スプレーガンで表4に示した配合の塗料を塗布し、40℃のオーブンで24時間塗料を乾燥させ、質量45.3gのゴルフボールを得た。塗装は、3本のプロングを備えた回転体にゴルフボール本体を載置し、回転体を300rpmで回転させ、ゴルフボール本体からエアーガンを吹き付け距離(7cm)だけ離間させて上下方向に移動させながら行った。エアーガンの吹付条件は、吹付エアー圧;0.15MPa、圧送タンクエアー圧;0.10MPa、1回の塗布時間;1秒、雰囲気温度;20℃〜27℃、雰囲気湿度;65%以下の条件で塗装とした。得られたゴルフボールの評価結果を表4に示した。
【0126】
【表4】
【0127】
表4の結果から分かるように、塗膜が、ゴルフボール本体表面に設けられた状態で条件1にて測定した損失正接tanδを縦軸とし、測定周波数(Hz)を横軸としてプロットしたときに、最小二乗法によって求めた線形一次近似曲線の傾きの絶対値が0.0001〜0.0020であり、ゴルフボール本体表面に設けられた状態で測定条件2にて測定した弾性率が0.040GPa〜0.600GPaであるゴルフボールは、アプローチショットのスピン性能および打球感が良く、且つ、耐汚染性にも優れている。特に、カバーの材料硬度がショアD硬度で50未満である場合(ゴルフボールNo.7、9、10)や、コアとカバーとの間に中間層が設けられ、中間層とカバーとの硬度差(中間層−カバー)がショアD硬度で10〜60の範囲にある場合(ゴルフボールNo.9、10)が、アプローチショットにおけるスピン性能が極めて向上している。
【符号の説明】
【0128】
1:ゴルフボール、2:球状コア、3:カバー、4:塗膜、31:ディンプル、32:ランド
図1