(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ステアリングの舵角を検出するステアリング舵角検出部で検出した舵角に基づいて、操舵補助力を発生する多相電動モータのモータ電気角を推定するモータ電気角推定部と、
前記モータ電気角推定部によって推定された前記モータ電気角を補正するモータ電気角補正部と
を備え、
前記モータ電気角補正部は、
駆動される前記多相電動モータが有する多相コイルの各々に流れる電流を検出する電流検出部と、
前記多相コイルの各々の電圧を検出する電圧検出部と、
前記電流検出部により検出された電流及び前記電圧検出部により検出された電圧に基づいて前記多相電動モータの相間誘起電圧を算出する誘起電圧算出部と、
前記誘起電圧算出部により算出された相間誘起電圧に基づいて、当該相間誘起電圧と位相又は周波数が異なる仮想相間誘起電圧を算出する仮想相間誘起電圧算出部と、
前記相間誘起電圧と前記仮想相間誘起電圧の各々又は前記仮想相間誘起電圧の大小関係及び符号関係の組が他の大小関係及び符号関係の組に切り替わるタイミングを検出する切り替わりタイミング検出部と、
前記切り替わりタイミング検出部による検出結果に基づいて前記モータ電気角推定部によって推定された前記モータ電気角を補正する補正部と
を有する
モータ制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、発明を実施するための形態(以下、実施形態という)につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の実施形態により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0026】
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係る電動パワーステアリング装置を搭載した車両を模式的に示した斜視図である。
図2は、実施形態1に係る電動パワーステアリング装置の模式図である。
図1に示すように、車両101は、電動パワーステアリング装置80を搭載している。
図2に示すように、電動パワーステアリング装置80は、操作者から与えられる力が伝達する順に、ステアリングホイール81と、ステアリングシャフト82と、操舵力アシスト機構83と、ユニバーサルジョイント84と、ロアシャフト85と、ユニバーサルジョイント86と、を備え、ピニオンシャフト87に接合されている。また、電動パワーステアリング装置80は、モータ制御装置としてのECU(Electronic Control Unit)90と、トルクセンサ94と、を備える。車速センサ95は、車体に備えられ、CAN(Controller Area Network)通信により信号として車速VをECU90に出力する。
【0027】
図2に示すように、ステアリングシャフト82は、入力軸82aと、出力軸82bと、を備える。入力軸82aの一方の端部がステアリングホイール81に連結され、入力軸82aの他方の端部が出力軸82bに連結される。また、出力軸82bの一方の端部が入力軸82aに連結され、出力軸82bの他方の端部がユニバーサルジョイント84に連結される。本実施形態では、入力軸82a及び出力軸82bは、機械構造用炭素鋼(SC材(Carbon Steel for Machine Structural Use))又は機械構造用炭素鋼鋼管(いわゆるSTKM材(Carbon Steel Tubes for Machine Structural Purposes))等の一般的な鋼材等から形成される。
【0028】
図2に示すように、ロアシャフト85は、ユニバーサルジョイント84を介して出力軸82bに連結される部材である。ロアシャフト85の一方の端部がユニバーサルジョイント84に連結され、他方の端部がユニバーサルジョイント86に連結される。また、ピニオンシャフト87の一方の端部がユニバーサルジョイント86に連結され、ピニオンシャフト87の他方の端部がステアリングギヤ88に連結される。
【0029】
図2に示すように、ステアリングギヤ88は、ピニオン88aと、ラック88bと、を備える。ピニオン88aは、ピニオンシャフト87に連結される。ラック88bは、ピニオン88aに噛み合う。ステアリングギヤ88は、ピニオン88aに伝達された回転運動をラック88bで直進運動に変換する。ラック88bは、タイロッド89に連結される。
【0030】
図2に示すように、操舵力アシスト機構83は、減速装置92と、モータ93と、を備える。モータ93は、例えばブラシレスモータである。モータ93は、正弦波駆動の三相交流モータである。減速装置92は、例えばウォーム減速装置である。モータ93で生じたトルクは、減速装置92の内部のウォームを介してウォームホイールに伝達され、ウォームホイールを回転させる。減速装置92は、ウォーム及びウォームホイール(ウォームギヤ)によって、モータ93で生じたトルクを増加させる。そして、減速装置92は、出力軸82bに補助操舵トルクを与える。電動パワーステアリング装置80は、コラムアシスト方式である。
【0031】
出力軸82bを介して出力された操舵トルク(補助操舵トルクを含む)は、ユニバーサルジョイント84を介してロアシャフト85に伝達され、さらにユニバーサルジョイント86を介してピニオンシャフト87に伝達される。ピニオンシャフト87に伝達された操舵トルクは、ステアリングギヤ88を介してタイロッド89に伝達され、車輪を変位させる。
【0032】
ECU90は、モータ93の動作を制御する装置である。イグニッションスイッチ98がオンの状態で、電源装置99(例えば車載のバッテリ)からECU90に電力が供給される。ECU90は、トルクセンサ94、車速センサ95及び回転検出部23a(
図11参照)から信号を取得する。具体的には、ECU90は、トルクセンサ94から操舵トルクTを取得する。ECU90は、車速センサ95から車体の車速Vを取得する。ECU90は、回転検出部23aから出力される情報を動作情報Yとして取得する。ECU90は、操舵トルクTと車速Vと動作情報Yとに基づいて補助操舵指令値を算出する。そして、ECU90は、その算出された補助操舵指令値に基づいてモータ93へ供給する電力値Xを調節する。
【0033】
図3は、実施形態1に係るトルクセンサを模式的に示す斜視図である。
図4は、実施形態1に係るトルクセンサを模式的に示す側面図である。
図5は、
図4におけるA−A断面図である。
図6は、
図4におけるB−B断面図である。トルクセンサ94は、入力軸82aに伝達された操舵トルクTを検出する。具体的に、トルクセンサ94は、
図3に示すように、トーションバー82cと、第1多極リング磁石10と、第2多極リング磁石11と、入力軸回転角センサ12と、出力軸回転角センサ13と、を備える。トーションバー82cは、例えば鋼材で形成された弾性部材である。トーションバー82cは、入力軸82a及び出力軸82bを連結している。
【0034】
第1多極リング磁石10及び第2多極リング磁石11は、例えば交互に配置されたS極及びN極を外周面に有する。第1多極リング磁石10及び第2多極リング磁石11には、必要な磁束密度に応じて、例えば、ネオジム磁石、フェライト磁石、サマリウムコバルト磁石等が用いられる。第1多極リング磁石10は、例えば入力軸82aの出力軸82b側の端部に取り付けられており、入力軸82aと共に回転する。第2多極リング磁石11は、例えば出力軸82bの入力軸82a側の端部に取り付けられており、出力軸82bと共に回転する。
【0035】
入力軸回転角センサ12は、入力軸82aの回転角である入力軸回転角θ
is(第1多極リング磁石10の回転角)を検出する。入力軸回転角センサ12は、例えば車体に固定されている。入力軸回転角センサ12は、第1多極リング磁石10の回転角に応じてsin信号及びcos信号を出力する。入力軸回転角センサ12は、
図3に示すように、第1sin磁気センサ14及び第1cos磁気センサ15を備える。第1sin磁気センサ14及び第1cos磁気センサ15は、第1多極リング磁石10の外周面に対向している。第1cos磁気センサ15は、第1sin磁気センサ14に対して、第1多極リング磁石10の電気角で90°の位相差を有するように配置されている。第1sin磁気センサ14は、第1多極リング磁石10の回転角に応じて、sinθ
isを出力する。第1cos磁気センサ15は、第1多極リング磁石10の回転角に応じて、cosθ
isを出力する。
【0036】
出力軸回転角センサ13は、出力軸82bの回転角である出力軸回転角θ
os(第2多極リング磁石11の回転角)を検出する。出力軸回転角センサ13は、例えば車体に固定されている。出力軸回転角センサ13は、第2多極リング磁石11の回転角に応じてsin信号及びcos信号を出力する。出力軸回転角センサ13は、
図3に示すように、第2sin磁気センサ16及び第2cos磁気センサ17を備える。第2sin磁気センサ16及び第2cos磁気センサ17は、第2多極リング磁石11の外周面に対向している。第2cos磁気センサ17は、第2sin磁気センサ16に対して、第2多極リング磁石11の電気角で90°の位相差を有するように配置されている。第2sin磁気センサ16は、第2多極リング磁石11の回転角に応じて、sinθ
osを出力する。第2cos磁気センサ17は、第2多極リング磁石11の回転角に応じて、cosθ
osを出力する。
【0037】
第1sin磁気センサ14、第1cos磁気センサ15、第2sin磁気センサ16、及び第2cos磁気センサ17には、例えば、ホール素子、ホールIC、MR(Magneto Resistance effect)センサ等が用いられる。
【0038】
図7及び
図8は、実施形態1に係るトルクセンサを機能ブロックを用いて示す模式図である。
図7に示すように、相対角度演算部18と、トルク演算部19と、を備える。
【0039】
相対角度演算部18は、入力軸回転角センサ12及び出力軸回転角センサ13から入力される信号に基づき、入力軸82aに対する出力軸82bの相対角度(第1多極リング磁石10に対する第2多極リング磁石11の相対角度)を演算し、演算結果を相対角度Δθ
ioとしてトルク演算部19に出力する。具体的には、相対角度演算部18は、
図8に示すように、入力軸回転角演算部181と、出力軸回転角演算部182と、差分演算部183と、を備える。
【0040】
入力軸回転角演算部181には、第1sin磁気センサ14から出力されたsinθ
is及び第1cos磁気センサ15から出力されたcosθ
isが入力される。入力軸回転角演算部181は、sinθ
isをcosθ
isで除した値の逆正接関数、すなわち下記式(1)により入力軸回転角θ
is(rad)を演算する。
【0042】
出力軸回転角演算部182には、第2sin磁気センサ16から出力されたsinθ
os及び第2cos磁気センサ17から出力されたcosθ
osが入力される。出力軸回転角演算部182は、sinθ
osをcosθ
osで除した値の逆正接関数、すなわち下記式(2)により出力軸回転角θ
os(rad)を演算する。
【0044】
差分演算部183には、入力軸回転角演算部181から出力された入力軸回転角θ
isと、出力軸回転角演算部182から出力された出力軸回転角θ
osが入力される。差分演算部183は、入力軸回転角θ
is及び出力軸回転角θ
osの差分を相対角度Δθ
ioとしてトルク演算部19に出力する。
【0045】
トルク演算部19は、相対角度演算部18から入力された相対角度Δθ
ioに基づき、操舵トルクTを演算する。例えば、トルク演算部19は、トーションバー82cの特性によって決まる、相対角度Δθ
ioと操舵トルクTとの関係を記憶している。トルク演算部19は、相対角度演算部18から入力された相対角度Δθ
ioと、記憶された相対角度Δθ
ioと操舵トルクTとの関係と、に基づいて操舵トルクTを演算する。
【0046】
図9は、実施形態1に係るモータの断面図である。
図10は、実施形態1に係るモータの配線を示す模式図である。モータ93は、
図9に示すように、ハウジング930と、ステータ931と、ロータ932と、を備える。ステータ931は、円筒状であるステータコア931と、複数の第1コイル37と、複数の第2コイル38を含む。ステータコア931は、環状のバックヨーク931aと、バックヨーク931aの内周面から突出する複数のティース931bと、を備える。ティース931bは、周方向に12個配置されている。ロータ932は、ロータヨーク932aと、マグネット932bとを含む。マグネット932bは、ロータヨーク932aの外周面に設けられている。マグネット932bの数は、例えば8つである。
【0047】
図9に示すように、第1コイル37は、複数のティース931bのそれぞれに集中巻きされている。第1コイル37は、ティース931bの外周にインシュレータを介して集中巻きされる。全ての第1コイル37は、第1インバータ27(
図11参照)によって励磁される系統である第1コイル系統に含まれる。第1コイル系統は、例えば第1コイル37を6つ含む。6つの第1コイル37は、2つの第1コイル37が周方向で互いに隣接するように配置されている。隣接する第1コイル37を1つのグループとした第1コイルグループGr1が、周方向に等間隔に3つ配置されている。すなわち、第1コイル系統は、周方向に等間隔に並べられた3つの第1コイルグループGr1を備えている。なお、第1コイルグループGr1は、必ずしも3つでなくてもよく、nを自然数としたときに周方向に等間隔に3n個配置されていればよい。また、nは奇数である方が望ましい。
【0048】
図9に示すように、第2コイル38は、複数のティース931bのそれぞれに集中巻きされている。第2コイル38は、ティース931bの外周にインシュレータを介して集中巻きされる。第2コイル38が集中巻きされるティース931bは、第1コイル37が集中巻きされるティース931bとは異なるティース931bである。全ての第2コイル38は、第2インバータ29(
図11参照)によって励磁される系統である第2コイル系統に含まれる。第2コイル系統は、例えば第2コイル38を6つ含む。6つの第2コイル38は、2つの第2コイル38が周方向で互いに隣接するように配置されている。隣接する第2コイル38を1つのグループとした第2コイルグループGr2が、周方向に等間隔に3つ配置されている。すなわち、第2コイル系統は、周方向に等間隔に並べられた3つの第2コイルグループGr2を備えている。なお、第2コイルグループGr2は、必ずしも3つでなくてもよく、nを自然数としたときに周方向に等間隔に3n個配置されていればよい。また、nは奇数である方が望ましい。
【0049】
図10に示すように、6つの第1コイル37は、第1U相電流I1uにより励磁される2つの第1U相コイル37Ua及び第1U相コイル37Ubと、第1V相電流I1vにより励磁される2つの第1V相コイル37Va及び第1V相コイル37Vbと、第1W相電流I1wにより励磁される2つの第1W相コイル37Wa及び第1W相コイル37Wbと、を含む。第1U相コイル37Ubは、第1U相コイル37Uaに対して直列に接続されている。第1V相コイル37Vbは、第1V相コイル37Vaに対して直列に接続されている。第1W相コイル37Wbは、第1W相コイル37Waに対して直列に接続されている。第1コイル37のティース931bに対する巻き方向は、全て同じ方向である。また、第1U相コイル37Ub、第1V相コイル37Vb及び第1W相コイル37Wbは、スター結線(Y結線)で接合されている。
【0050】
図10に示すように、6つの第2コイル38は、第2U相電流I2uにより励磁される2つの第2U相コイル38Ua及び第2U相コイル38Ubと、第2V相電流I2vにより励磁される2つの第2V相コイル38Va及び第2V相コイル38Vbと、第2W相電流I2wにより励磁される2つの第2W相コイル38Wa及び第2W相コイル38Wbと、を含む。第2U相コイル38Ubは、第2U相コイル38Uaに対して直列に接続されている。第2V相コイル38Vbは、第2V相コイル38Vaに対して直列に接続されている。第2W相コイル38Wbは、第2W相コイル38Waに対して直列に接続されている。第2コイル38のティース931bに対する巻き方向は、全て同じ方向であり、第1コイル37の巻き方向と同じである。また、第2U相コイル38Ub、第2V相コイル38Vb及び第2W相コイル38Wbは、スター結線(Y結線)で接合されている。
【0051】
図9に示すように、3つの第1コイルグループGr1は、第1UVコイルグループGr1UVと、第1VWコイルグループGr1VWと、第1UWコイルグループGr1UWと、からなる。第1UVコイルグループGr1UVは、周方向で互いに隣接する第1U相コイル37Ubおよび第1V相コイル37Vaを含む。第1VWコイルグループGr1VWは、周方向で互いに隣接する第1V相コイル37Vbおよび第1W相コイル37Waを含む。第1UWコイルグループGr1UWは、周方向で互いに隣接する第1U相コイル37Uaおよび第1W相コイル37Wbを含む。
【0052】
図9に示すように、3つの第2コイルグループGr2は、第2UVコイルグループGr2UVと、第2VWコイルグループGr2VWと、第2UWコイルグループGr2UWと、からなる。第2UVコイルグループGr2UVは、周方向で互いに隣接する第2U相コイル38Ubおよび第2V相コイル38Vaを含む。第2VWコイルグループGr2VWは、周方向で互いに隣接する第2V相コイル38Vbおよび第2W相コイル38Waを含む。第2UWコイルグループGr2UWは、周方向で互いに隣接する第2U相コイル38Uaおよび第2W相コイル38Wbを含む。
【0053】
第1U相電流I1uにより励磁される第1コイル37は、第2U相電流I2uにより励磁される第2コイル38に、ステータコア931の径方向で対向している。以下の説明において、ステータコア931の径方向は、単に径方向と記載される。例えば、
図9に示すように、径方向で第1U相コイル37Uaが第2U相コイル38Uaに対向し、第1U相コイル37Ubが第2U相コイル38Ubに対向している。
【0054】
第1V相電流I1vにより励磁される第1コイル37は、第2V相電流I2vにより励磁される第2コイル38に、径方向で対向している。例えば、
図9に示すように、径方向で第1V相コイル37Vaが第2V相コイル38Vaに対向し、第1V相コイル37Vbが第2V相コイル38Vbに対向している。
【0055】
第1W相電流I1wにより励磁される第1コイル37は、第2W相電流I2wにより励磁される第2コイル38に、径方向で対向している。例えば、
図9に示すように、径方向で第1W相コイル37Waが第2W相コイル38Waに対向し、第1W相コイル37Wbが第2W相コイル38Wbに対向している。
【0056】
図11は、実施形態1に係るモータとECUとの関係を示す模式図である。
図11に示すように、ECU90は、電流指令値演算部24と、モータ電気角演算部23と、第1ゲート駆動回路25と、第2ゲート駆動回路26と、第1インバータ27と、第2インバータ28と、を備えている。電流指令値演算部24は、モータ電流指令値を演算する。モータ電気角演算部23は、モータ電気角θ
mを演算し、電流指令値演算部24に出力する。第1ゲート駆動回路25及び第2ゲート駆動回路26には、電流指令値演算部24から出力されるモータ電流指令値が入力される。
【0057】
モータ93は、
図11に示すように、モータ回転角センサとして回転検出部23aを備えている。回転検出部23aは、例えばレゾルバである。回転検出部23aの検出値がモータ電気角演算部23に供給される。モータ電気角演算部23は、回転検出部23aの検出値に基づいてモータ電気角θ
mを演算し、電流指令値演算部24に出力する。
【0058】
電流指令値演算部24には、トルクセンサ94で検出された操舵トルクTと、車速センサ95で検出された車速Vと、モータ電気角演算部23から出力されるモータ電気角θ
mと、が入力される。電流指令値演算部24は、操舵トルクT、車速V及びモータ電気角θ
mに基づいて電流指令値を算出し、第1ゲート駆動回路25及び第2ゲート駆動回路26に出力する。
【0059】
第1ゲート駆動回路25は、電流指令値に基づいて第1パルス幅変調信号を演算し、第1インバータ27に出力する。第1インバータ27は、第1パルス幅調変信号のデューティ比に応じて、三相の電流値となるように電界効果トランジスタをスイッチングして第1U相電流I1u、第1V相電流I1v及び第1W相電流I1wを含む三相交流を生成する。第1U相電流I1uが第1U相コイル37Ua及び第1U相コイル37Ubを励磁し、第1V相電流I1vが第1V相コイル37Va及び第1V相コイル37Vbを励磁し、第1W相電流I1wが第1W相コイル37Wa及び第1W相コイル37Wbを励磁する。
【0060】
第2ゲート駆動回路26は、電流指令値に基づいて第2パルス幅変調信号を演算し、第2インバータ28に出力する。第2インバータ28は、第2パルス幅調変信号のデューティ比に応じて、3相の電流値となるように電界効果トランジスタをスイッチングして第2U相電流I2u、第2V相電流I2v及び第2W相電流I2wを含む三相交流を生成する。第2U相電流I2uが第2U相コイル38Ua及び第2U相コイル38Ubを励磁し、第2V相電流I2vが第2V相コイル38Va及び第2V相コイル38Vbを励磁し、第2W相電流I2wが第2W相コイル38Wa及び第2W相コイル38Wbを励磁する。
【0061】
図11に示すように、電動パワーステアリング装置80は、モータ93の各相の電流値を検出するための第1電流センサ31u、第1電流センサ31v、第1電流センサ31w、第2電流センサ33u、第2電流センサ33v及び第2電流センサ33wを備える。例えば、第1電流センサ31u、第1電流センサ31v、第1電流センサ31w、第2電流センサ33u、第2電流センサ33v及び第2電流センサ33wは、それぞれシャント抵抗を備える。第1電流センサ31uは、第1U相電流値I
dct1U、を検出し、モータ電気角演算部23に出力する。第1電流センサ31vは、第1V相電流値I
dct1Vを検出し、モータ電気角演算部23に出力する。第1電流センサ31wは、第1W相電流値I
dct1Wを検出し、モータ電気角演算部23に出力する。第2電流センサ33uは、第2U相電流値I
dct2Uを検出し、モータ電気角演算部23に出力する。第2電流センサ33vは、第2V相電流値I
dct2Vを検出し、モータ電気角演算部23に出力する。第2電流センサ33wは、第2W相電流値I
dct2Wを検出し、モータ電気角演算部23に出力する。
【0062】
以下の説明において、第1U相電流値I
dct1U、第1V相電流値I
dct1V及び第1W相電流値I
dct1Wを区別して説明する必要がない場合、第1電流値I
d1と記載される場合がある。第2U相電流値I
dct2U、第2V相電流値I
dct2V及び第2W相電流値I
dct2Wを区別して説明する必要がない場合、第2電流値I
d2と記載される場合がある。第1電流センサ31u、第1電流センサ31v及び第1電流センサ31wを区別して説明する必要がない場合、1電流センサ31と記載される場合がある。第2電流センサ33u、第2電流センサ33v及び第2電流センサ33wを区別して説明する必要がない場合、第2電流センサ33と記載される場合がある。
【0063】
図11に示すように、電動パワーステアリング装置80は、モータ93の各相電圧値を検出するための第1電圧センサ32u、第1電圧センサ32v、第1電圧センサ32w、第2電圧センサ34u、第2電圧センサ34v及び第2電圧センサ34wを備える。第1電圧センサ32uは、第1U相電圧値V
dct1Uを検出し、モータ電気角演算部23に出力する。第1電圧センサ32vは、第1V相電圧値V
dct1Vを検出し、モータ電気角演算部23に出力する。第1電圧センサ32wは、第1W相電圧値V
dct1Wを検出し、モータ電気角演算部23に出力する。第2電圧センサ34uは、第2U相電圧値V
dct2Uを検出し、モータ電気角演算部23に出力する。第2電圧センサ34vは、第2V相電圧値V
dct2Vを検出し、モータ電気角演算部23に出力する。第2電圧センサ34wは、第2W相電圧値V
dct2Wを検出し、モータ電気角演算部23に出力する。
【0064】
以下の説明において、第1U相電圧値V
dct1U、第1V相電圧値V
dct1V及び第1W相電圧値V
dct1Wを区別して説明する必要がない場合、第1電圧値V
d1と記載される場合がある。第2U相電圧値V
dct2U、第2V相電圧値V
dct2V及び第2W相電圧値V
dct2Wを区別して説明する必要がない場合、第2電圧値V
d2と記載される場合がある。第1電圧センサ32u、第1電圧センサ32v、第1電圧センサ32wを区別して説明する必要がない場合、第1電圧センサ32と記載される場合がある。第2電圧センサ34u、第2電圧センサ34v及び第2電圧センサ34wを区別して説明する必要がない場合、第2電圧センサ34と記載される場合がある。
【0065】
図12は、実施形態1に係るモータ電気角演算部を示す模式図である。モータ電気角演算部23は、
図12に示すように、メインモータ電気角演算部23bと、サブモータ電気角演算部23cと、電気角選択部23dと、RAM50と、ROM51と、を備えている。メインモータ電気角演算部23bは、角度演算部60と、回転検出異常診断部61と、を備えている。角度演算部60は、回転検出部23aから出力されるモータ93の回転角に応じたsin信号及びcos信号に基づいて第1モータ電気角θ
m1を演算する。そして、演算した第1モータ電気角θ
m1を電気角選択部23dに出力する。回転検出異常診断部61は、回転検出部23a及び角度演算部60の異常を検出し、異常検出信号SArを出力する。
【0066】
サブモータ電気角演算部23cは、回転検出部23aから出力される情報を用いずに、推定値として第2モータ電気角θ
m2を算出する。サブモータ電気角演算部23cは、
図12に示すように、相対オフセット量推定部62と、モータ電気角推定部63と、モータ電気角補正部64と、を備える。
【0067】
相対オフセット量推定部62は、モータ電気角θ
mの原点θ
mdに対する出力軸回転角θ
osの基準値θ
osrの相対オフセット量θ
offを推定する。以下の説明において、モータ電気角θ
mの原点θ
mdは、モータ電気角原点θ
mdと記載される場合がある。基準値θ
osrは、システム起動時(イグニッションスイッチ98がOFFからONになった時刻)の出力軸回転角θ
osである。そして、相対オフセット量推定部62は、推定した相対オフセット量θ
offをモータ電気角推定部63に出力する。
【0068】
図13は、実施形態1に係る相対オフセット量推定部を示す模式図である。相対オフセット量推定部62は、
図13に示すように、第1相対オフセット量推定部621と、第2相対オフセット量推定部622と、相対オフセット量選択部623と、を備えている。第1相対オフセット量推定部621は、回転検出部23a及び角度演算部60が正常である場合に、出力軸回転角センサ13で検出される出力軸回転角θ
osと、メインモータ電気角演算部23bで検出される第1モータ電気角θ
m1とに基づき第1の相対オフセット量θ
off1を推定する。そして、推定した第1の相対オフセット量θ
off1をRAM50に記憶する。
【0069】
回転検出部23a及び角度演算部60が正常であるときは、第1相対オフセット量推定部621は、モータ電気角原点θ
mdを取得することができるので、第1の相対オフセット量θ
off1を容易に推定することできる。回転検出部23a又は角度演算部60に異常があるときには、第1相対オフセット量推定部621は、モータ電気角原点θ
mdを取得することができない。回転検出部23a又は角度演算部60に異常があるときのために、第2相対オフセット量推定部622及び相対オフセット量選択部623が設けられている。
【0070】
第2相対オフセット量推定部622は、システム再起動時(イグニッションスイッチ98がOFF状態からON状態となる時刻)の回転検出異常診断部61による初期診断にて、異常検出信号SArが異常ありを示す値であったときに、第2の相対オフセット量θ
off2を推定する。具体的には、第2相対オフセット量推定部622は、モータ電気角原点θ
mdを推定すると共に、推定したモータ電気角原点θ
mdに基づき第2の相対オフセット量θ
off2を推定する。そして、推定した第2の相対オフセット量θ
off2をRAM50に記憶する。
【0071】
第2相対オフセット量推定部622は、システム再起動時にトルクセンサ94で検出される操舵トルクTをトルクオフセット量ToffとしてRAM50に記憶する。
【0072】
次に、第2相対オフセット量推定部622は、現在のモータ電気角θ
mを仮定モータ電気角θ
Xと仮定し、仮定モータ電気角θ
Xに対応するステップ波状の電流をモータ93に入力するように電流出力指令I
oiを電流指令値演算部24に出力する。電流指令値演算部24は、サブモータ電気角演算部23cからの電流出力指令I
oiの入力に応じて、仮定モータ電気角θ
Xに対応するステップ波状の電流をモータ93に入力する。第2相対オフセット量推定部622は、ステップ波状の電流のモータ93への入力に応じてトルクセンサ94で検出される操舵トルクTを取得する。
【0073】
次に、第2相対オフセット量推定部622は、取得した操舵トルクTからトルクオフセット量Toffを減算する。システム起動時において、イグニッションスイッチ98がON状態になる際にドライバがステアリングホイール81に力をかけている場合等に、操舵トルクTが0でない可能性がある。第2相対オフセット量推定部622は、システム起動時の操舵トルクTをトルクオフセット量Toffとして予め記憶しておき、システム起動後に検出される操舵トルクTから差し引く。
【0074】
次に、第2相対オフセット量推定部622は、トルクオフセット量Toffが減算された後の操舵トルクTについてトルク波形の対称性を判定する。第2相対オフセット量推定部622は、トルク波形の振幅が正負で同等か否かを判定する。第2相対オフセット量推定部622は、振幅が正負で同等であると判定した場合のモータ電気角θ
mをモータ電気角原点θ
mdであると推定する。
【0075】
一方、減算後の操舵トルクTにおいてトルク波形の振幅が正負で同等ではない(トルク指令通りの出力ではない)と判定した場合は、そのときのモータ電気角θ
mはモータ電気角原点θ
mdではない。この場合、第2相対オフセット量推定部622は、振幅が正負で異なるトルク波形の形状から、仮定モータ電気角θ
Xを所定角度シフトさせて更新した仮定モータ電気角θ
Xとし、更新した仮定モータ電気角θ
Xに対応するステップ波状の電流をモータ93に入力するように電流出力指令I
oiを電流指令値演算部24に出力する。第2相対オフセット量推定部622は、このような処理をトルク波形の振幅が正負で同等と判定されるまで繰り返し実行する。
【0076】
相対オフセット量選択部623は、システム起動中に異常検出信号SArが異常ありを示す値となった場合に、第1の相対オフセット量θ
off1を選択する。相対オフセット量選択部623は、システム再起動後の初期診断で異常検出信号SArが異常ありを示す値となった場合に、第2の相対オフセット量θ
off2を選択する。第1の相対オフセット量θ
off1及び第2の相対オフセット量θ
off2のうち選択した方をRAM50から読み出し、相対オフセット量θ
offとしてモータ電気角推定部63に出力する。
【0077】
モータ電気角推定部63は、出力軸回転角センサ13が検出した出力軸回転角θ
osと、ROM51に予め記憶された減速装置92(
図2参照)の減速比RGr及びロータ932(
図9参照)の極対数Pと、相対オフセット量推定部62で推定した相対オフセット量θ
offとに基づきモータ電気角推定値θ
meを算出する。そして、算出したモータ電気角推定値θ
meをモータ電気角補正部64に出力する。
【0078】
具体的に、モータ電気角推定部63は、下記式(3)にしたがって、モータ電気角推定値θ
me(rad)を算出する。
【0080】
モータ電気角補正部64は、モータ93の誘起電圧に基づきモータ電気角推定値θ
meを補正する。そして、補正後のモータ電気角推定値を第2モータ電気角θ
m2として電気角選択部23dに出力する。
【0081】
図14は、実施形態1に係るモータ電気角補正部を示す模式図である。
図15は、操舵力アシスト機構の機械要素の変形特性による、負荷トルクとモータ電気角の変化量との関係の一例を示す模式図である。
図16は、実施形態1に係る補正部によるモータ電気角推定値の補正を示す模式図である。
図14に示すように、モータ電気角補正部64は、誘起電圧算出部641と、切り替わりタイミング検出部642と、角度誤差算出部643と、補正部644と、を備えている。
【0082】
出力軸82bとモータ93との間には減速装置92のウォームギヤ等の機械要素が介在している。例えば、ウォームギヤのコンプライアンス特性は、
図15に示すように、非線形かつヒステリシスを有する。
図15において、X軸は負荷トルク(モータ出力トルク)であり、Y軸はモータ電気角θ
mの変化量δθ
mである。このため、モータ電気角θ
mは出力軸回転角θ
osと一対一で対応しない。モータ93の出力が増加するにつれて、モータ電気角推定値θ
meと実際のモータ電気角θ
mとの間の誤差が増大する。
【0083】
ウォームギヤのコンプライアンス特性を考慮しない場合、モータ93の出力によって実際のモータ電気角θ
mとモータ電気角推定値θ
meとの間に乖離が生じる。そこで、モータ電気角補正部64が、モータ電気角推定値θ
meを誘起電圧に基づき補正する。
【0084】
誘起電圧算出部641は、U相とV相との間のUV相間誘起電圧e
UVと、V相とW相との間のVW相間誘起電圧e
VWと、W相とU相との間のWU相間誘起電圧e
WUと、を演算する。
【0085】
第1U相コイル37Ua及び第1U相コイル37Ub(
図10)によるインダクタンスをL(H)、抵抗をR(Ω)とする。第1V相コイル37Va及び第1V相コイル37Vbによるインダクタンス及び抵抗、並びに第1W相コイル37Wa及び第1W相コイル37Wbによるインダクタンス及び抵抗は、L(H)及びR(Ω)と等しいとする。
図11に示した第1U相電流値I
dct1U、第1V相電流値I
dct1V、及び第1W相電流値I
dct1Wが、それぞれI
dct1U(A)、I
dct1V(A)及びI
dct1W(A)であるとする。第1U相電圧値V
dct1U、第1V相電圧値V
dct1V、及び第1W相電圧値V
dct1Wが、それぞれV
dct1U(V)、V
dct1V(V)、及びV
dct1W(V)であるとする。このとき、UV相間誘起電圧e
UV(V)は下記式(4)で表される。VW相間誘起電圧e
VW(V)は下記式(5)で表される。WU相間誘起電圧e
WU(V)は下記式(6)で表される。
【0089】
式(4)、式(5)及び式(6)は、電流検出値を微分する項を含んでいる。誘起電圧算出部641は、微分方程式を解く場合、微分方程式を差分方程式で近似することになる。しかしながら、微分方程式を差分方程式で近似する手法が、ノイズを含みやすい電流検出値に対して用いられると、誘起電圧算出部641による演算結果と実際の誘起電圧値との間の乖離が大きくなる可能性がある。
【0090】
従来技術においては、微分の項が他の項に比べて十分に小さいとみなされ、無視されることがある。又は、差分方程式の解に対してローパスフィルタが用いられることがある。しかしながら、いずれの場合であっても、演算結果と実際の誘起電圧値との間の乖離を小さくすることには限界があった。
【0091】
これに対して、実施形態1に係るモータ電気角演算部23は、式(4)、式(5)及び式(6)による演算結果と実際の誘起電圧値との間の乖離を小さくすることができる。
【0092】
第1U相電流値I
dct1U、第1V相電流値I
dct1V、及び第1W相電流値I
dct1wの波高値をI
pとし、モータ電気角をθ
m(rad)とする。このとき、第1U相電流値I
dct1U(A)は下記式(7)で表される。第1V相電流値I
dct1V(A)は下記式(8)で表される。第1W相電流値I
dct1W(A)は下記式(9)で表される。
【0096】
式(7)及び式(8)を式(4)に適用すると、式(4)の右辺の最後の項は、下記式(10)のように変形される。式(10)において、Δθ
mは、θ
mを時間微分した項である。Δθ
mはモータ93の電気角変化率(電気角の単位時間当たりの変化量)である。そして、式(10)を式(4)に代入すると、式(11)が得られる。このように、電流検出値を微分する項が、モータ93の電気角変化率Δθ
m(rad/s)に置き換えられる。同様に、式(8)及び式(9)を式(5)に代入すると、下記式(12)が得られる。式(7)及び式(9)を式(6)に代入すると、下記式(13)が得られる。
【0101】
回転検出部23aが正常であれば、誘起電圧算出部641は、回転検出部23aから得られる情報に基づいて電気角変化率Δθ
mを算出することができる。しかしながら、誘起電圧算出部641は、回転検出部23aに異常があるときに電気角変化率Δθ
mを算出する必要がある。
【0102】
誘起電圧算出部641は、例えばトルクセンサ94で検出される出力軸回転角θ
osに基づいて電気角変化率Δθ
mを算出する。
図14に示すように、誘起電圧算出部641には、トルクセンサ94の出力軸回転角演算部182(
図8参照)から出力軸回転角θ
osが入力される。また、出力軸回転角θ
osは、RAM50に入力され記憶される。RAM50は、前回に記憶した出力軸回転角θ
osを、前回出力軸回転角θ
ospとして誘起電圧算出部641に出力する。誘起電圧算出部641は、前回出力軸回転角θ
ospと現在の出力軸回転角θ
osとの差に基づいて電気角変化率Δθ
mを算出する。具体的には、相対角度演算部18の演算周期をt(s)とすると、誘起電圧算出部641は、下記式(14)により電気角変化率Δθ
mを算出する。
【0104】
誘起電圧算出部641は、式(14)を式(4)、式(5)及び式(6)に代入することで、UV相間誘起電圧e
UV、VW相間誘起電圧e
VW、及びWU相間誘起電圧e
WUを算出する。
図16に示すように、UV相間誘起電圧e
UV、VW相間誘起電圧e
VW、及びWU相間誘起電圧e
WUは、互いに120°ずれた正弦波である。
図14に示すように、誘起電圧算出部641は、算出したUV相間誘起電圧e
UV、VW相間誘起電圧e
VW、及びWU相間誘起電圧e
WUを切り替わりタイミング検出部642に出力する。
【0105】
仮想相間誘起電圧算出部645は、誘起電圧算出部641により算出された相間誘起電圧に基づいて、当該相間誘起電圧と位相が異なる仮想相間誘起電圧を算出する。ここで、仮想相間誘起電圧について、
図16を参照して説明する。仮想相間誘起電圧は、相間誘起電圧のゼロクロス点とは異なるゼロクロス点を含む電圧である。ゼロクロス点は、UV相間誘起電圧e
UV、VW相間誘起電圧e
VW及びWU相間誘起電圧e
WUがそれぞれ基準の誘起電圧(例えば、0[V])となるタイミングである。本実施形態では、相間誘起電圧から仮想相間誘起電圧を算出することで、相間誘起電圧のみが示すゼロクロス点よりも多くのゼロクロス点を得ることができる。本実施形態では、仮想相間誘起電圧算出部645は、これらのゼロクロス点が示す情報を得ることを目的として、仮想相間誘起電圧を算出している。
【0106】
図16は、相間誘起電圧と仮想相間誘起電圧との関係の一例を示す図である。なお、
図16で図示する1つの相間誘起電圧波形及び3つの仮想相間電圧波形のグラフの縦軸は誘起電圧の正負及び大小を示し、横軸はモータ電気角([deg])を示す。電圧方程式から推定した相間誘起電圧を正弦波と仮定すると、UV相間誘起電圧e
UV、VW相間誘起電圧e
VW及びWU相間誘起電圧e
WUが描く相間誘起電圧波形は、モータ93のモータ電気角をθとして以下の式(15)、式(16)及び式(17)のように三角関数で表すことができ、
図16の左上のグラフのように図示することができる。
【0108】
式(15)、式(16)及び式(17)に倍角の公式を適用することで、より多くのゼロクロス点を有する仮想相間誘起電圧を示す式を得ることができる。倍角の公式は、以下の式(18)のように表すことができる。sin(θ)は、式(15)で表されるUV相間誘起電圧e
UVとすることができる。また、cos(θ)は、以下の式(19)が示す三角関数の合成により算出することができる。式(19)により、式(16)及び式(17)で表されるVW相間誘起電圧e
VW及びWU相間誘起電圧e
WUからcos(θ)を算出することができる。
【0110】
式(18)で表される倍角の公式を式(15)、式(16)及び式(17)で表されるUV相間誘起電圧e
UV、VW相間誘起電圧e
VW及びWU相間誘起電圧e
WUに適用すると、式(20)、式(21)及び式(22)が得られる。式(20)、式(21)及び式(22)は、UV相間誘起電圧e
UV、VW相間誘起電圧e
VW及びWU相間誘起電圧e
WUを示す三角関数に2倍角の公式を適用して得られた三角関数に対応する仮想相間誘起電圧を表しており、例えば
図16の左下のグラフのように図示することができる。
【0112】
上記ではn倍角(nは、2以上の自然数)のうち、倍角(n=2)の公式の適用例を示しているが、これに限られるものでない。例えば、三倍角(n=3)や四倍角(n=4)の公式であってもよい。具体的には、三倍角の場合、sin(3θ)=3sin(θ)cos
2(θ)−sin
3(θ)と表すことができる。また、四倍角の場合、sin(4θ)=4sin(θ)cos
3(θ)−4sin
3(θ)cos(θ)と表すことができる。これらの式における右辺のsin(θ)は、上記の式(15)から得られる。また、これらの式における右辺のcos(θ)は、上記の式(19)から得られる。よって、n倍角の公式は、いずれも上記の式(15)及び上記の式(19)に基づいて導出することができる。
【0113】
次に、ゼロクロスタイミングが式(20)、式(21)及び式(22)と重複しない別の式を得る場合について説明する。相間誘起電圧を表す三角関数(式(15)、式(16)及び式(17)参照)を操作することで、位相が異なる相間誘起電圧を表す三角関数が得られる。以下の式(23)、式(24)及び式(25)は、(式(15)、式(16)及び式(17)で表されるUV相間誘起電圧e
UV、VW相間誘起電圧e
VW及びWU相間誘起電圧e
WUの位相を37.5°ずらした三角関数であり、例えば
図16の右上のグラフのように図示することができる。
【0115】
上記の式(23)、式(24)及び式(25)に倍角の公式を適用することで、以下の式(26)、式(27)及び式(28)が得られる。式(26)、式(27)及び式(28)は、相間誘起電圧の位相を37.5°ずらした電圧を示す三角関数に2倍角の公式を適用して得られた三角関数に対応する仮想相間誘起電圧を表しており、例えば
図16の右下のグラフのように図示することができる。
【0117】
本実施形態の仮想相間誘起電圧算出部645は、位相が異なる2つの仮想相間誘起電圧を算出する。具体的には、本実施形態の仮想相間誘起電圧算出部645は、上記の式(20)、式(21)及び式(22)で表される仮想相間誘起電圧と、上記の式(23)、式(24)及び式(25)で表される仮想相間誘起電圧と、上記の式(26)、式(27)及び式(28)で表される仮想相間誘起電圧を算出する。上記の式(20)、式(21)及び式(22)並びに式(26)、式(27)及び式(28)で表される仮想相間誘起電圧は、UV相間誘起電圧e
UV、VW相間誘起電圧e
VW及びWU相間誘起電圧e
WUに比して2倍の周波数を有する仮想相間誘起電圧である。なお、仮想相間誘起電圧算出部645が算出する仮想相間誘起電圧は、これに限られるものでない。例えば、仮想相間誘起電圧算出部645は、上記の式(20)、式(21)及び式(22)で表される仮想相間誘起電圧のみを算出してもよい。また、(26)、式(27)及び式(28)の導出に係る演算の順番は上記の例に限られるものでない。例えば、式(20)、式(21)及び式(22)に対して位相操作を施して(26)、式(27)及び式(28)を導出するようにしてもよい。仮想相間誘起電圧算出部645は、算出された仮想相間誘起電力を切り替わりタイミング検出部642に出力する。
図14では、仮想相間誘起電圧算出部645から切り替わりタイミング検出部642に出力される仮想相間誘起電力に符号VIを付して図示している。
【0118】
切り替わりタイミング検出部642は、相間誘起電圧と仮想相間誘起電圧又は仮想相間誘起電圧の電圧の大小関係及び符号関係の組が他の大小関係及び符号関係の組に切り替わるタイミングを検出する。大小関係とは、1つの系統の多相電動モータ(例えば、モータ93)が有する複数の相の各々の電圧値の大小関係である。例えば、あるモータ電気角のモータ93におけるUV相間誘起電圧e
UV、VW相間誘起電圧e
VW、WU相間誘起電圧e
WUの各々を比較した場合に、電圧値が大きい順にUV相間誘起電圧e
UV、VW相間誘起電圧e
VW、WU相間誘起電圧e
WUとなるとき、UV相間誘起電圧e
UVは、VW相間誘起電圧e
VW及びWU相間誘起電圧e
WUよりも大きいという大小関係を有している。また、このとき、VW相間誘起電圧e
VWは、UV相間誘起電圧e
UVよりも大きく、かつ、WU相間誘起電圧e
WUよりも大きいという大小関係を有している。また、このとき、WU相間誘起電圧e
WUは、UV相間誘起電圧e
UV及びVW相間誘起電圧e
VW、WU相間誘起電圧e
WUよりも小さいという大小関係を有している。符号関係とは、1つの系統の多相電動モータ(例えば、モータ93)が有する複数の相の各々の電圧値の正負の組み合わせである。例えば、あるモータ電気角のモータ93におけるUV相間誘起電圧e
UV、VW相間誘起電圧e
VW、WU相間誘起電圧e
WUの各々の電圧値が正である場合を模式的に示すと、(e
UV,e
VW,e
WU)=(+,+,+)の符号関係を有するものととらえることができる。また、あるモータ電気角のモータ93におけるUV相間誘起電圧e
UV、VW相間誘起電圧e
VW、WU相間誘起電圧e
WUの各々の電圧値が負である場合を模式的に示すと、(e
UV,e
VW,e
WU)=(−,−,−)の符号関係を有するものととらえることができる。以下、切り替わりタイミング検出部642による検出対象である大小関係及び符号関係の組とモータ電気角との関係について、
図17〜
図24を参照して説明する。
【0119】
図17は、モータ93が正回転する場合の相間誘起電圧波形を示す図である。
図18は、モータ93が正回転する場合の相間誘起電圧波形の電圧の大小関係及び符号関係を示す図である。
図19は、モータ93が正回転する場合の相間誘起電圧波形を示す図である。
図20は、モータ93が正回転する場合の相間誘起電圧波形の電圧の大小関係及び符号関係を示す図である。
図18と、
図20と、後述する
図21〜
図24では、相間誘起電圧波形及び仮想相間誘起電圧波形の電圧の大小関係及び符号関係の組から特定されるモータ電気角の範囲をα〜βで表しており、モータ電気角をθとすると、例えばα≦θ<βである。
【0120】
UV相間誘起電圧e
UV、VW相間誘起電圧e
VW及びWU相間誘起電圧e
WUは、予め定められた角度範囲(例えば、30°の範囲)において、電圧の大小関係及び符号関係が予め定められた関係になる。言い換えれば、モータ93は、モータ電気角(θ)に対応する相間誘起電圧の大小関係及び符号関係が一意に定まる。すなわち、電圧の大小関係及び符号関係の組とは、モータ電気角(θ)に応じて一意に定まる大小関係と符号関係の組み合わせである。本実施形態のモータ93のように3相電動モータである場合、30度以上330度未満の範囲でモータ電気角(θ)が変化したとき、モータ電気角(θ)の変化前後で相間誘起電圧の大小関係及び符号関係の組が異なる大小関係及び符号関係の組となる。
図17の場合、モータ93が正回転する場合のモータ電気角0〜30°の範囲では、UV相間誘起電圧e
UVが一番大きく(
図18の「大」)、VW相間誘起電圧e
VWが二番目に大きく(
図18の「中」)、WU相間誘起電圧e
WUが一番小さい(
図18の「小」)。また、モータ93が正回転する場合のモータ電気角30〜60°の範囲では、UV相間誘起電圧e
UVが二番目に大きく(
図18の「中」)、VW相間誘起電圧e
VWが一番大きく(
図18の「大」)、WU相間誘起電圧e
WUが一番小さい(
図18の「小」)。このように、UV相間誘起電圧e
UV、VW相間誘起電圧e
VW及びWU相間誘起電圧e
WUの大小関係は、30°単位で変化する。ただし、
図17に示す例では、モータ電気角180〜210°の範囲では、モータ電気角0〜30°の範囲と同じ電圧の大小関係となる。また、モータ電気角210〜240°の範囲では、モータ電気角30〜60°の範囲と同じ電圧の大小関係となる。このように、電圧の大小関係の周期は180°である。
【0121】
ここで、UV相間誘起電圧e
UV、VW相間誘起電圧e
VW及びWU相間誘起電圧e
WUの符号(正負)に着目すると、モータ93が正回転する場合のモータ電気角0〜30°の範囲では、UV相間誘起電圧e
UVが「+」、VW相間誘起電圧e
VWが「−」、WU相間誘起電圧e
WUが「+」となる。すなわち、(e
UV,e
VW,e
WU)=(+,−,+)の符号関係を有するととらえることができる。一方、モータ93が正回転する場合のモータ電気角180〜210°の範囲では、UV相間誘起電圧e
UVが「−」、VW相間誘起電圧e
VWが「+」、WU相間誘起電圧e
WUが「−」となる。すなわち、(e
UV,e
VW,e
WU)=(−,+,−)の符号関係を有するととらえることができる。このように、電圧の大小関係が同じになる2つのモータ電気角の範囲は、符号関係が異なる。このため、モータ電気角0〜360°の範囲では、電圧の大小関係と符号関係との組み合わせによって30°単位で判別が可能となっている。言い換えれば、UV相間誘起電圧e
UV、VW相間誘起電圧e
VW及びWU相間誘起電圧e
WUの電圧の大小関係と正負を検出することで、30°単位でモータ電気角の範囲を特定することができる。これは、
図19、
図20に示すように、モータ93が逆回転する場合も同様である。
【0122】
このように、UV相間誘起電圧e
UV、VW相間誘起電圧e
VW及びWU相間誘起電圧e
WUに基づいて30°単位の分解能でモータ電気角の範囲を特定することができるが、さらに仮想相間誘起電圧を利用することで、算出可能なモータ電気角の分解能をより高めることができる。具体的には、例えばn倍角の公式を適用することで、分解能をn倍にすることができる。さらに、n倍角の公式を適用された2つの仮想相間誘起電圧の一方に位相のずれを与え、位相が異なる2つの仮想相間誘起電圧の大小関係と符号関係の組として扱うことで、分解能を2n倍にすることができる。ただし、n倍角の公式が適用された仮想相間誘起電圧における電圧の大小関係と符号関係の周期は、n倍角の公式が適用される前の1/nとなる。そこで、相間誘起電圧が示す電圧の大小関係と符号関係(又は、相間誘起電圧と同一の倍率である仮想相間誘起電圧が示す電圧の大小関係と符号関係)と仮想相間誘起電圧が示す電圧の大小関係と符号関係とを組み合わせることで、モータ電気角0〜360°の範囲で、n倍角の公式が適用された仮想相間誘起電圧に基づいた分解能(例えば、2n倍)を得ることができる。
【0123】
図21〜
図24は、モータ93が正回転する場合の相間誘起電圧波形及び仮想相間誘起電圧波形の電圧の大小関係及び符号関係を示す図である。
図21〜
図24では、相間誘起電圧波形及び仮想相間誘起電圧波形の電圧の大小関係及び符号関係の組に通番(1〜48)を付している。また、
図21〜
図24では、上記の式(15)〜式(17)で表される相間誘起電圧及び式(20)〜式(28)で表される仮想相間誘起電圧を式の番号で示している。
【0124】
式(20)〜式(22)で表される仮想相間誘起電圧及び式(26)〜式(28)で表される仮想相間誘起電圧はそれぞれ、単独で15°単位の分解能でモータ電気角の範囲を特定することが可能な電圧の大小関係及び符号関係を示す。また、式(20)〜式(22)で表される仮想相間誘起電圧と式(26)〜式(28)で表される仮想相間誘起電圧とは、位相が37.5°ずれている。このため、モータ電気角が7.5°変化するたびに式(20)〜式(22)で表される仮想相間誘起電圧の大小関係又は式(26)〜式(28)で表される仮想相間誘起電圧の大小関係の一方が変化することになる。また、モータ電気角0〜180°の範囲とモータ電気角0〜180°の範囲とモータ電気角180〜360°の範囲とでは、相間誘起電圧の符号関係が異なる。したがって、
図21〜
図24に示すように、モータ電気角0〜360°の範囲で、それぞれ異なる通番を付された相間誘起電圧波形及び仮想相間誘起電圧波形の電圧の大小関係及び符号関係の組同士を照合した場合に、電圧の大小関係及び符号関係が完全に一致するものはない。これによって、本実施形態では、7.5°単位の分解能でモータ電気角の範囲を特定することができる。
【0125】
なお、
図18が示す正回転の場合における電圧の大小関係及び符号関係と、
図20が示す逆回転の場合における電圧の大小関係及び符号関係とは相違するが、各回転方向における電圧の大小関係及び符号関係の組を示すデータを予め用意しておくことで、モータ93の回転方向を問わずモータ電気角の範囲を特定することができる。これは、電圧の大小関係及び符号関係の組を相間誘起電圧のみに基づいた場合に限らず、
図21〜
図24を参照して説明した相間誘起電圧と仮想相間誘起電圧の各々電圧の大小関係及び符号関係の組についても同様である。
【0126】
図21〜
図24を参照して説明した考え方で電圧の大小関係と符号関係の組に基づいてモータ電気角θ
mzを特定するためのマップデータとして、正回転及び逆回転の両方に対応するマップデータが予めROM51に記憶されている。切り替わりタイミング検出部642は、モータ回転方向と切り替わりタイミングの前後の大小関係及び符号関係の組とに対応するモータ電気角θ
mzをROM51から読み出し、読み出したモータ電気角θ
mzを角度誤差算出部643に出力する。具体的には、切り替わりタイミング検出部642は、電圧の大小関係又は符号関係に変化が生じたタイミングに応じてマップデータを参照してモータ電気角θ
mzを特定し、特定されたモータ電気角θ
mzを角度誤差算出部643に出力する。例えば、通番1の電圧の大小関係及び符号関係から通番2の電圧の大小関係及び符号関係に遷移した場合、切り替わりタイミング検出部642は、モータ電気角θ
mz=7.5°と特定する(
図21参照)。
【0127】
角度誤差算出部643は、モータ電気角θ
mzに基づいて、モータ電気角推定値θ
meを補正するための角度誤差θ
errを算出する。具体的には、角度誤差算出部643は、モータ電気角θmzが入力されると、モータ電気角θ
mzとモータ電気角推定値θ
meの差分を角度誤差θ
errとして算出する。すなわち、モータ電気角推定値θ
meに角度誤差θ
errを適用した場合にモータ電気角θ
mzが導出されるよう角度誤差θ
errを算出する。角度誤差算出部643は、算出した差分を角度誤差θ
errとしてRAM50に記憶する。
図25では、切り替わりタイミング検出部642から入力された7.5度の分解能に対応するモータ電気角θ
mzとして、モータ電気角θ
mz1,θ
mz2,θ
mz3,θ
mz4,θ
mz5,θ
mz6を例示している。
【0128】
図25は、実施形態1に係る補正部によるモータ電気角推定値の補正を示す模式図である。補正部644は、
図25に示すように、モータ電気角推定部63から入力されたモータ電気角推定値θ
meを、RAM50に記憶された角度誤差θ
errで補正する。補正部644は、次のゼロクロスタイミングが検出されるまでは、現在RAM50に記憶されている角度誤差θ
errによってモータ電気角推定値θ
meを補正する。
図16の上側のグラフ中の実線は、補正部644で補正された後のモータ電気角推定値θ
me(第2モータ電気角θ
m2)である。例えば、ゼロクロスタイミングにおける実線のピーク値とモータ電気角θ
mz(モータ電気角θ
mz1からモータ電気角θ
mz6)との差が角度誤差θ
errである。補正部644は、補正したモータ電気角推定値θ
meを第2モータ電気角θ
m2として電気角選択部23d(
図12参照)に出力する。仮に、相間誘起電圧の大小関係及び符号関係のみに基づいてモータ電気角θmzを得ようとすると、分解能が30度になることから、
図25におけるRVのようにモータ電気角推定値θ
meの更新頻度が1/4になる。このように、本実施形態によれば、より高い分解能でモータ電気角推定値θ
meを補正するためのモータ電気角θ
mzを得ることができる。
【0129】
電気角選択部23d(
図12参照)は、回転検出異常診断部61から出力される異常検出信号SArが異常なしを示すときに、メインモータ電気角演算部23bから出力される第1モータ電気角θ
m1を選択する。電気角選択部23dは、第1モータ電気角θ
m1をモータ電気角θ
mとして電流指令値演算部24(
図11参照)に出力する。一方、電気角選択部23dは、異常検出信号SArが異常ありを示すときに、サブモータ電気角演算部23cから出力される第2モータ電気角θ
m2を選択する。電気角選択部23dは、第2モータ電気角θ
m2をモータ電気角θ
mとして電流指令値演算部24(
図11参照)に出力する。
【0130】
そして、電流指令値演算部24は、操舵トルクT、車速V及びモータ電気角θ
m(第1モータ電気角θ
m1又は第2モータ電気角θ
m2)に基づいて電流指令値を算出する。これにより、仮に回転検出部23aに異常が生じた場合であっても、ECU90はモータ93を適切に制御することができる。
【0131】
なお、誘起電圧算出部641は、必ずしも第1電流値I
d1及び第1電圧値V
d1に基づいてUV相間誘起電圧e
UV、VW相間誘起電圧e
VW、及びWU相間誘起電圧e
WUを算出しなくてもよい。誘起電圧算出部641は、第1電流値I
d1及び第1電圧値V
d1に代えて第2コイル系統の第2電流値I
d2及び第2電圧値V
d2を用いてもよい。
【0132】
なお、モータ93は、必ずしも第1コイル系統及び第2コイル系統を備えていなくてもよい。すなわち、モータ93が有するコイル系統の数が1つであってもよい。また、回転検出部23aは、必ずしもレゾルバでなくてもよく、例えばロータリーエンコーダ又はMRセンサ等の他のセンサであってもよい。
【0133】
以上説明したように、本実施形態によれば、ECU90は、ステアリングの舵角を検出するステアリング舵角検出部(例えば、出力軸回転角センサ13)で検出した舵角に基づいて、操舵補助力を発生する多相電動モータのモータ電気角推定値θ
meを推定するモータ電気角推定部63と、モータ電気角推定部によって推定されたモータ電気角推定値θ
meを補正するモータ電気角補正部64とを備え、モータ電気角補正部64は、駆動される多相電動モータが有する多相コイルの各々に流れる電流を検出する電流検出部(第1電流センサ31及び第2電流センサ33)と、多相コイルの各々の電圧を検出する電圧検出部(第1電圧センサ32及び第2電圧センサ34)と、電流検出部により検出された電流及び電圧検出部により検出された電圧に基づいて多相電動モータの相間誘起電圧を算出する誘起電圧算出部641と、誘起電圧算出部641により算出された相間誘起電圧に基づいて、当該相間誘起電圧と位相が異なる仮想相間誘起電圧を算出する仮想相間誘起電圧算出部645と、相間誘起電圧と仮想相間誘起電圧の各々又は仮想相間誘起電圧の大小関係及び符号関係の組が他の大小関係及び符号関係の組に切り替わるタイミングを検出する切り替わりタイミング検出部642と、切り替わりタイミング検出部642による検出結果に基づいてモータ電気角推定部によって推定されたモータ電気角推定値θ
meを補正する補正部644とを有する。
【0134】
これにより、電圧の大小関係及び符号関係の組が他の大小関係及び符号関係の組に切り替わるタイミングで、電圧の大小関係及び符号関係の組が他の大小関係及び符号関係の組に対応するモータ電気角θ
mzになったという推定に基づいてモータ電気角推定値θ
meを補正することができる。したがって、ECU90は、モータ回転角センサに依存せずにより高い精度でモータ電気角θ
mzを推定することができる。また、仮想相間誘起電圧を算出し、相間誘起電圧と仮想相間誘起電圧の各々の大小関係及び符号関係の組とモータ電気角との関係を利用することで、より高い分解能でモータ電気角θ
mzを判別することができる。すなわち、モータ電気角推定値θ
meの補正をより細かに行うことができる。なお、モータ電気角推定部63から出力されるモータ電気角推定値θ
meは、トルクセンサ94で検出される操舵トルクTに基づいているので、トルクセンサ94の検出対象とモータ93との間の機械的構成(例えば、減速装置92等)による機械的な誤差が生じることがある。一方、モータ電気角θ
mzは、モータ93からの電気的信号に基づいているので、モータ電気角推定値θ
meに生じることがある機械的な誤差を生じることがない。すなわち、本実施形態では、モータ電気角θ
mzでモータ電気角推定値θ
meを補正することで、第2モータ電気角θ
m2の導出に係り生じることがある機械的な誤差を抑制することができる。したがって、より高い精度で第2モータ電気角θ
m2を導出することができる。このように、本実施形態によれば、より細かい角度推定が出来るようになるので、角度誤差の累積が大きくなる前に補正が可能となり、操舵感をより向上させることができる。
【0135】
また、仮想相間誘起電圧算出部645は、相間誘起電圧に比して2倍の周波数を有する仮想相間誘起電圧を算出することが好ましい。仮想相間誘起電圧の周波数を2倍にすることで、相間誘起電圧に比して2倍の分解能でモータ電気角推定値θ
meを推定することができ、ECU90は、モータ回転角センサに依存せずにモータ電気角θ
mzをより高い精度で推定することができる。また、角度誤差の補正をより高精度で行うことができるので、推定されたモータ電気角の角度誤差の累積(積算)を抑制することができる。したがって、モータ電気角の推定精度を向上させることができる。
【0136】
また、仮想相間誘起電圧算出部645は、位相が異なる2つの仮想相間誘起電圧を算出し、切り替わりタイミング検出部642は、相間誘起電圧及び仮想相間誘起電圧の大小関係及び符号関係の組が他の大小関係及び符号関係の組に切り替わるタイミングを検出することが好ましい。位相が異なる2つの仮想相間誘起電圧の大小関係及び符号関係を組み合わせることで、より高い分解能でモータ電気角推定値θ
meを推定することができる。したがって、ECU90は、モータ回転角センサに依存せずにモータ電気角θ
mzをより高い精度で推定することができる。
【0137】
また、モータ93は3相電動モータであり、2つの仮想相間誘起電圧のうち一方は、相間誘起電圧を示す三角関数に2倍角の公式を適用して得られた三角関数に対応する仮想相間誘起電圧であり、2つの仮想相間誘起電圧のうち他方は、相間誘起電圧の位相を37.5°ずらした電圧を示す三角関数に2倍角の公式を適用して得られた三角関数に対応する仮想相間誘起電圧であることが好ましい。これにより、7.5°単位の分解能でモータ電気角θ
mzを推定することができる。
【0138】
また、電流指令値演算部24を備える制御演算装置(ECU90)は、ステアリング舵角検出部(例えば、出力軸回転角センサ13)で検出した舵角から推定されたモータ電気角及びモータ電気角補正部64が出力したモータ電気角に基づいてフィードバック制御でモータ93を駆動する。具体的には、モータ電気角推定部63は、出力軸回転角センサ13が検出した出力軸回転角θ
osと、ROM51に予め記憶された減速装置92(
図2参照)の減速比RGr及びロータ932(
図9参照)の極対数Pと、相対オフセット量推定部62で推定した相対オフセット量θ
offとに基づきモータ電気角推定値θ
meを算出する。そして、算出したモータ電気角推定値θ
meをモータ電気角補正部64に出力する。モータ電気角補正部64は、モータ93の誘起電圧に基づきモータ電気角推定値θ
meを補正する。そして、補正後のモータ電気角推定値を第2モータ電気角θ
m2として電気角選択部23dに出力する。電流指令値演算部24は、モータ電気角θ
m(例えば、第2モータ電気角θ
m2)等に基づいて電流指令値を算出することで、モータ93を駆動する。これによって、単にステアリング舵角検出部で検出した舵角から推定されたモータ電気角θ
meのみを用いる場合及び単に相間誘起電圧と仮想相間誘起電圧、又は、仮想相間誘起電圧の電圧の大小関係及び符号関係の組が他の大小関係及び符号関係の組に切り替わるタイミングが示す切り替わり前後の電圧の大小関係及び符号関係の組に対応するモータ電気角(例えば、後述する実施形態2のモータ電気角θ
mz)のみを用いる場合に比してより正確に推定されたモータ電気角θ
mzに基づいてモータ93を駆動させることができる。
【0139】
また、電動パワーステアリング装置80は、ステアリングの操舵補助力を発生するモータと、モータに駆動電流を供給するモータ駆動回路(第1ゲート駆動回路25及び第2ゲート駆動回路26)と、モータの第2モータ電気角θ
m2に基づいてモータ駆動回路を駆動制御する制御演算装置(電流指令値演算部24)と、第2モータ電気角θ
m2を出力するモータ電気角演算部23を備えるECU90とを備える電動パワーステアリング装置である。係る電動パワーステアリング装置80は、モータ回転角センサに依存せずにモータ電気角θ
mzを高い精度で推定することができ、適切な補助操舵トルクを出力軸に与えることができる。
【0140】
また、電動パワーステアリング装置80は、ステアリングの舵角を検出するステアリング舵角検出部(例えば、出力軸回転角センサ13)と、ステアリング機構に伝達されるトルクを検出するトルクセンサ94と、モータの出力軸の回転角度を検出する回転検出部23aと、回転検出部23aの異常を検出する回転検出異常診断部61とを備え、制御演算装置は、回転検出異常診断部61で回転検出部23aの異常を検出していない場合にトルクセンサ94で検出したトルク及び回転検出部23aで検出したモータ電気角θ
mに基づいてモータ駆動回路を駆動制御し、回転検出異常診断部61で回転検出部23aの異常を検出した場合にモータ電気角演算部23が出力する第2モータ電気角θ
m2に基づいてモータ駆動回路を駆動制御する。
【0141】
これにより、電動パワーステアリング装置80は、出力軸回転角に基づいてモータ電気角推定値を得られるので、モータ回転角センサに異常が生じてもモータ電気角推定値を得られる。したがって、本実施形態に係る電動パワーステアリング装置80は、モータ回転角センサに依存せずに第2モータ電気角θ
m2を高い精度で推定することができる。
【0142】
なお、誘起電圧算出部641は、必ずしも出力軸回転角θ
osに基づいて電気角変化率Δθ
mを算出しなくてもよい。例えば、誘起電圧算出部641は、入力軸回転角θ
isに基づいて電気角変化率Δθ
mを算出してもよい。この場合、誘起電圧算出部641は、前回入力軸回転角θ
ispと現在の入力軸回転角θ
isとの差に基づいて電気角変化率Δθ
mを算出する。具体的には、相対角度演算部18の演算周期をt(s)とすると、誘起電圧算出部641は、下記式(29)により電気角変化率Δθ
mを算出することになる。
【0144】
また、回転検出部23aはなくてもよい。回転検出部23aがない場合、メインモータ電気角演算部23b及び電気角選択部23dは省略される。また、この場合、サブモータ電気角演算部23cが算出した第2モータ電気角θ
m2がモータ電気角θ
mとして扱われる。
【0145】
(実施形態2)
図26は、実施形態2に係るモータ制御装置の構成例を示す模式図である。
図1から
図25を参照して説明した構成のうち、モータ電気角推定部63はなくてもよい。実施形態2では、相対オフセット量推定部62及びモータ電気角推定部63は省略されている。また、この場合、切り替わりタイミング検出部642は、相間誘起電圧と仮想相間誘起電圧又は仮想相間誘起電圧の電圧の大小関係及び符号関係の組が他の大小関係及び符号関係の組に切り替わるタイミングを検出し、切り替わり前後の電圧の大小関係及び符号関係の組を示す出力PIをモータ電気角推定部649に対して行う。モータ電気角推定部649は、出力PIが示す切り替わり前後の電圧の大小関係及び符号関係の組に対応するモータ電気角θ
mzを推定された第2モータ電気角θ
m2として出力する。
【0146】
また、上記のモータ93は第1コイル系統L1と第2コイル系統L2を有する2系統のモータ93であるが、モータ93が有する系統の数は3以上であってもよい。また、1つの系統が有するモータの相数は3に限られるものでなく、例えば4以上であってもよいし、1又は2であってもよい。