特許第6825461号(P6825461)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6825461
(24)【登録日】2021年1月18日
(45)【発行日】2021年2月3日
(54)【発明の名称】粗紡機の管理装置
(51)【国際特許分類】
   D01H 9/18 20060101AFI20210121BHJP
【FI】
   D01H9/18 E
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-74479(P2017-74479)
(22)【出願日】2017年4月4日
(65)【公開番号】特開2018-178270(P2018-178270A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2019年7月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】河瀬 達也
【審査官】 ▲高▼辻 将人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−158029(JP,A)
【文献】 特表2013−540667(JP,A)
【文献】 特開2007−284833(JP,A)
【文献】 特開2007−224452(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01H 1/00−17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗紡機で生産された粗糸がボビンに巻かれて粗糸パッケージが生産され、該粗糸パッケージが精紡機に供給される前に、前記粗紡機から玉揚げされた粗糸パッケージの重量を、複数の粗糸パッケージを有するグループ毎に計測する重量計測装置と、
前記重量計測装置で計測された重量を統計処理して前記グループにおける前記粗糸パッケージの重量平均値及び重量偏差を算出する統計処理装置と、
算出された前記重量平均値の偏りが異常である場合には、前記重量平均値の偏りを正常にするための対処方法を推定し、
前記重量偏差が異常である場合には、前記重量偏差を正常にするための対処方法を推定する推定装置と、を有する粗紡機の管理装置。
【請求項2】
前記グループは、1つの前記粗紡機から玉揚げされた全ての前記粗糸パッケージで構成される請求項1に記載の粗紡機の管理装置。
【請求項3】
前記重量偏差が異常である場合に前記推定装置が推定する対処方法は、前記粗紡機の糸道部品の保全を促すことである請求項1又は請求項2に記載の粗紡機の管理装置。
【請求項4】
前記重量平均値の偏りが異常である場合に前記推定装置が推定する対処方法は、練条機の設定を確認させることである請求項1〜請求項3のうちいずれか一項に記載の粗紡機の管理装置。
【請求項5】
前記重量偏差を表す指標は、予め設定された前記粗糸パッケージの重量幅と、計測された重量のばらつき幅との比を示す指数である請求項1〜請求項4のうちいずれか一項に記載の粗紡機の管理装置。
【請求項6】
前記重量平均値の偏りを表す指標は、予め設定された前記粗糸パッケージの重量幅の中心値に対する重量平均値の偏りを示す指数である請求項1〜請求項5のうちいずれか一項に記載の粗紡機の管理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粗紡機の管理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
紡績工程の中で、精紡機での異常な番手の糸の生産を防止するために、粗紡機で生産された粗糸の段階で粗糸パッケージの重量を確認している場合がある。その手段として、粗紡機において、ケンス交換後の初めに生産される粗糸パッケージを1本ずつ重量を測定し、重量異常のあった規格外の粗糸パッケージは取り除く等して、精紡機に供給されることを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−158029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1では、粗糸パッケージの重量を測定し、測定された重量が規格外であった場合(重量異常が生じた場合)は、その規格外の粗糸パッケージを取り除いているだけである。
【0005】
本発明の目的は、粗糸パッケージの重量異常が生じた場合の重量異常の原因に応じた適切な対処方法をユーザに提案できる粗紡機の管理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題点を解決するための粗紡機の管理装置は、粗紡機で生産された粗糸がボビンに巻かれて粗糸パッケージが生産され、該粗糸パッケージが精紡機に供給される前に、前記粗紡機から玉揚げされた粗糸パッケージの重量を、複数の粗糸パッケージを有するグループ毎に計測する重量計測装置と、前記重量計測装置で計測された重量を統計処理して前記グループにおける前記粗糸パッケージの重量平均値及び重量偏差を算出する統計処理装置と、算出された前記重量平均値の偏りが異常である場合には、前記重量平均値の偏りを正常にするための対処方法を推定し、前記重量偏差が異常である場合には、前記重量偏差を正常にするための対処方法を推定する推定装置と、を有することを要旨とする。
【0007】
これによれば、統計処理装置によって算出された重量平均値及び重量偏差を用いて、推定装置は、重量平均値及び重量偏差の異常の有無から推測される重量異常の原因に応じた適切な対処方法を推定する。したがって、粗糸パッケージの重量を計測し、重量異常の粗糸パッケージを排除するだけに留まらず、計測された重量データを利用して重量異常を正常にするための適切な対処方法をユーザに提供できる。
【0008】
また、粗紡機の管理装置について、前記グループは、1つの前記粗紡機から玉揚げされた全ての前記粗糸パッケージで構成される。
これによれば、粗紡機単位での対処方法をユーザに提供できる。
【0009】
また、粗紡機の管理装置について、前記重量偏差が異常である場合に前記推定装置が推定する対処方法は、前記粗紡機の糸道部品の保全を促すことである。
これによれば、重量偏差が異常となる場合は、1つのグループにおいて、1つ1つの粗糸パッケージの重量にばらつきがあることであり、重量の大きい粗糸パッケージや、重量の小さい粗糸パッケージが混在する状態である。粗糸パッケージの重量は、粗糸の原料であるスライバの重量である。よって、重量偏差が異常である場合は、スライバの重量がばらついていることが主な原因となる。したがって、対処方法としては、スライバの重量のばらつきを抑えるために、スライバを製造する糸道部品の保全をユーザに促す対処方法とするのが好ましい。
【0010】
また、粗紡機の管理装置について、前記重量平均値の偏りが異常である場合に前記推定装置が推定する対処方法は、練条機の設定を確認させることである。
これによれば、重量平均値の偏りが異常となることは、1つのグループにおいて、1つ1つの粗糸パッケージの間での重量ばらつきは小さいが、粗糸パッケージの重量それぞれが基準とする重量から大きくずれていることである。粗糸パッケージの重量が基準からずれる原因としては、スライバの重量が一律に重かったり軽かったりすることが主な原因である。よって、重量平均値の偏りが異常である場合の対処方法としては、スライバの重量を調整するために練条機の設定の再考をユーザに促す。
【0011】
また、粗紡機の管理装置について、前記重量偏差を表す指標は、予め設定された前記粗糸パッケージの重量幅と、計測された重量のばらつき幅との比を示す指数であるのが好ましい。
【0012】
これによれば、重量偏差の異常を客観的に判定できる。
また、粗紡機の管理装置について、前記重量平均値の偏りを表す指標は、予め設定された前記粗糸パッケージの重量幅の中心値に対する重量平均値の偏りを示す指数であるのが好ましい。
【0013】
これによれば、重量平均値の偏りの異常を客観的に判定できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、粗糸パッケージの重量異常が生じた場合の重量異常の原因に応じた適切な対処方法をユーザに提案できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】粗紡機の管理装置を模式的に示す図。
図2】キャリッジに吊り下げられた粗糸パッケージを示す側面図。
図3】重量データを模式的に示す図。
図4】(a)は重量偏差を示すグラフ、(b)は重量平均値の偏りを示すグラフ。
図5】処置警告と各指数との関係を示す表。
図6】(a)は処置警告1を模式的に示す図、(b)は処置警告2を模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、粗紡機の管理装置を具体化した一実施形態を図1図6にしたがって説明する。
まず、紡績糸の製造工程について説明する。前紡工程では、コーマにより、シート状のラップがコーミングされてフリースが製造され、フリースは練条機で集束されてスライバとなり、スライバはコイラ装置でケンスに収容される。次に、粗紡工程では、ケンスから供給されたスライバを粗紡機のドラフト装置で引き伸ばすとともに拠りをかけ、粗糸をボビンに巻き取って粗糸パッケージとする。最後に、精紡工程において、粗糸パッケージから供給された粗糸を精紡機でさらに引き伸ばし、所定の太さに細くし、撚りをかけて紡績糸とする。
【0017】
次に、粗紡工程において粗糸パッケージの重量を管理する粗紡機の管理装置を説明する。
図1に示すように、粗紡機の管理装置は、2つの粗紡機11を備える。粗紡機11はスライバを粗糸に加工する錘を多数備える。各粗紡機11では、各錘で粗糸が生産され、生産された粗糸は、ボビンに巻かれて粗糸パッケージとなる。各粗紡機11からは複数の粗糸パッケージが生産される。各粗紡機11は、各種情報を表示させる表示器11aを備える。
【0018】
粗紡機の管理装置は、粗糸パッケージ12の搬送装置16を備える。搬送装置16は、搬送レール13を備える。搬送レール13は、1つの粗紡機11から延びる第1分岐レール13aと、別の粗紡機11から延びる第2分岐レール13bと、第1分岐レール13aと第2分岐レール13bとが合流する共通レール14と、を備える。搬送装置16は、搬送用制御部17を備える。搬送用制御部17には、粗紡機11の番号といった各粗紡機11に関する情報、及び、いつ、どの粗紡機11で生産された粗糸パッケージを搬送するキャリッジ15かといった、キャリッジ15に関する情報が格納されている。
【0019】
図2に示すように、搬送レール13にはキャリッジ15が走行可能に支持されている。キャリッジ15には、各粗紡機11の全ての錘で生産された粗糸パッケージ12の全てが吊下げられる。なお、キャリッジ15には、粗紡機11の錘に対応した粗糸パッケージ12の取付位置がある。このため、キャリッジ15における粗糸パッケージ12の取付位置を確認することで、どの錘で生産された粗糸パッケージ12かを把握できるようになっている。粗紡機11で生産された粗糸パッケージ12は、搬送レール13を走行するキャリッジ15によって搬送される。
【0020】
図1に示すように、粗紡機の管理装置は、キャリッジ15に吊下げられた粗糸パッケージ12の重量を1つずつ計測する重量計測装置20を備える。重量計測装置20は、共通レール14に隣接して設置されている。計測された粗糸パッケージ12の重量データは、粗糸パッケージ12の製造された錘と対応付けて、重量計測装置20に記憶される。
【0021】
粗紡機の管理装置は、共通レール14におけるキャリッジ15の搬送方向において、重量計測装置20より下流側に設置された第1位置センサ21aと、この第1位置センサ21aよりも下流側に設置された第2位置センサ21bと、を備える。第1位置センサ21aと第2位置センサ21bは、キャリッジ15の長手方向への長さより若干短い距離離れて設置されている。そして、第1位置センサ21aと第2位置センサ21bによりキャリッジ15の両端部が同時に検知されると、キャリッジ15の長手方向一端と他端が検知されたことになり、キャリッジ15が重量計測装置20を通過したことが判定され、キャリッジ15に吊下げられた粗糸パッケージ12の重量計測が全て終了したことが判定される。
【0022】
重量計測装置20には入力装置20aが信号接続されている。重量計測装置20には、入力装置20aによって、基準となる粗糸パッケージ12の重量(重量基準値)、粗糸パッケージ12の重量上限値Tu及び重量下限値Tdが入力される。粗糸パッケージ12の重量基準値、重量上限値Tu、及び重量下限値Tdは、粗紡機11のユーザによって任意に設定される。また、粗糸パッケージ12の重量基準値は、所望する中央値(設計値)の重量に製造公差を含めた値となる。重量計測装置20は、計測された粗糸パッケージ12の重量データから、キャリッジ15毎の重量平均値μ及び重量偏差σを算出し、記憶する。なお、重量異常のあった粗糸パッケージ12は、キャリッジ15から取り外され、排除される。
【0023】
粗紡機の管理装置は、重量計測装置20と信号接続された統計処理装置としての演算装置31を備える。演算装置31には、各種情報が重量計測装置20から入力される。図3に示すように、入力される情報としては、キャリッジ15に関する情報と、1つのキャリッジ15における全ての粗糸パッケージ12の重量データ(図示せず)と、重量計測装置20で算出された重量平均値μ及び重量偏差σとが入力される。また、図示はしないが、演算装置31には、入力装置20aによって入力された重量上限値Tu及び重量下限値Tdとが入力される。なお、キャリッジ15に関する情報は、重量計測装置20が搬送用制御部17から取得している。また、重量計測装置20は、入力装置20aから入力された重量基準値と、計測された粗糸パッケージ12の重量とを比較し、重量基準値から外れた粗糸パッケージ12について、生産されたキャリッジ15及び錘の位置を記憶する。そして、演算装置31には、重量異常のあった錘の番号も入力される。
【0024】
演算装置31は、取得した情報のうち、重量平均値μ、重量偏差σ、重量上限値Tu、及び重量下限値Tdを用いて第1の指数及び第2の指数を算出する。第1の指数は、工程能力指数Cpを算出する数1を用いて算出される。なお、数1におけるUTLには重量上限値Tuが代入され、LTLには重量下限値Tdが代入される。
【0025】
【数1】
また、第2の指数は、工程能力指数Cpkを算出する数2を用いて算出される。
【0026】
【数2】
なお、数2におけるUTLには重量上限値Tuが代入され、LTLには重量下限値Tdが代入される。また、数2において、Tは、重量上限値Tuと重量下限値Tdの中心値であり、以下の式、
(Tu−Td)/2
で算出される。
【0027】
第1の指数は、粗糸パッケージ12における重量上限値Tuと重量下限値Tdの差である重量幅と、実際に計測された粗糸パッケージ12の重量のばらつき幅との比を表したものとなり、重量偏差σを表す指標の一つとなる。また、第2の指数は、予め設定された重量上限値Tuと重量下限値Tdの中心値に対する、実際の重量平均値の偏りを表したものであり、重量平均値μの偏りを表す指標の一つとなる。
【0028】
演算装置31は、第1の指数及び第2の指数を算出すると、記憶装置31aに保存する。演算装置31は、各粗紡機11と信号接続されている。演算装置31は、各粗紡機11から、粗糸の原材料、ボビンに巻かれた粗糸の長さ、スライバの単位長さ当たりの重量(ゲレン)及びフライヤ回転数等の各種情報を取得し、記憶装置31aに保存する。
【0029】
図4(a)の2点鎖線に示すように、1つのキャリッジ15に複数ある粗糸パッケージ12には理想の重量分布がある。しかし、重量偏差σが大きくなると、図4(a)の実線に示すようになる。そして、重量偏差σが大きくなると、第1の指数(工程能力指数Cp)が1.0より小さくなる。第1の指数が1.0より小さい場合は、1つのキャリッジ15に複数ある粗糸パッケージ12の間で粗糸パッケージ12の重量にばらつきがあることであり、重量の大きい粗糸パッケージ12や、重量の小さい粗糸パッケージ12が1つのキャリッジ15の中に混在する状態である。本実施形態では、第1の指数が1.0より小さい場合に、演算装置31は重量偏差σが異常であると判定する。
【0030】
また、図4(b)の2点鎖線に示すように、理想の重量分布に対し、重量平均値μの偏りが大きくなると、重量分布は、例えば実線に示すようになり、第2の指数が1.0より小さくなる。第2の指数が1.0より小さい場合は、粗糸パッケージ12の重量平均値μが中央値から大きくずれていることである。具体的には、粗糸パッケージ12同士の間での重量ばらつきは小さいが、粗糸パッケージ12の重量それぞれが中央値から大きくずれていることである。本実施形態では、第2の指数が1.0より小さい場合に、重量平均値μの偏りが異常であると判定する。
【0031】
そして、重量偏差σが異常(1.0>第1の指数)と判定された場合、演算装置31は、処置警告1に関する信号を粗紡機11に出力する。処置警告は、粗糸パッケージ12の重量異常を修正し、正常にするための対処方法が含まれる。処置警告は、複数種類あり、第1の指数及び第2の指数に対応付けて予め記憶装置31aに保存されている。
【0032】
演算装置31は、重量偏差σが異常(1.0>第1の指数)と判定された場合、この判定に対応付けられた処置警告1を選択し、処置警告1に関する信号を、判定された粗糸パッケージ12を生産した粗紡機11に出力する。すると、粗紡機11は、処置警告1を表示器11aに表示させる。したがって、本実施形態では、演算装置31が重量偏差σを正常にするための対処方法を推定する推定装置を構成する。
【0033】
重量偏差σが異常な(1.0>第1の指数)場合は、スライバ重量のばらつきや、粗糸の生産過程において、粗糸をボビンに巻く途中で粗糸が切断される胴切れや、ボビンに巻かれる前に切断される糸切れが多発していることが挙げられる。例えば、粗紡機の複数のドラフト装置において、特定の錘におけるドラフトローラの一部が摩耗している場合には、スライバの引き伸ばし量が他の錘と異なり、スライバの重量が変動して、粗糸パッケージ12の重量のばらつきに繋がる。
【0034】
また、胴切れや糸切れが発生すると、粗紡機が停止し、糸を繋いで粗紡機が再起動される。複数ある錘の中で胴切れや糸切れが多発した錘については、ボビンに巻かれる粗糸量が他の錘と比べて変動してしまい、結果として粗糸パッケージ12の重量のばらつきに繋がる。
【0035】
これらを解消するためには、スライバ重量のばらつきや、胴切れ、糸切れの多発を抑制する必要がある。本実施形態では、スライバ重量のばらつきが、重量偏差σが異常となる主な原因と推測し、処置警告1として、図6(a)に示すように、スライバが通過する糸道部品(具体的にはドラフト装置におけるドラフトローラ)の保全をユーザに促す対処方法を提案する。
【0036】
一方、重量平均値μの偏りが異常(1.0>第2の指数)と判定された場合、演算装置31は、この判定に対応付けられた処置警告2を選択し、処置警告2に関する信号を、粗紡機11に出力する。粗紡機11は、信号を入力すると、処置警告2に関する情報を表示器11aに表示させる。したがって、本実施形態では、演算装置31が重量平均値μの偏りを正常にするための対処方法を推定する推定装置を構成する。
【0037】
粗糸パッケージ12の重量平均値μの偏りは、ドラフト装置の設定誤りにより、スライバから引き伸ばされた粗糸の重量が一律に重かったり、軽かったりすることや、練条機の設定誤りにより、スライバの重量が一律に重かったり軽かったりすることが挙げられる。これら不具合を解消するためには、スライバの重量の一律な変動や、粗糸の重量の一律な変動を抑制する必要がある。本実施形態では、スライバの重量が所望する重量基準値からずれていることが重量平均値μの偏りが異常となる主な原因と推測し、処置警告2として、図6(b)に示すように、スライバを製造する練条機の設定確認をユーザに促す対処方法を提案する。
【0038】
なお、重量偏差σが異常で(1.0>第1の指数)、かつ重量平均値μの偏りが異常な(1.0>第2の指数)場合は、演算装置31は、まず、重量偏差σを正常にするために処置警告1に関する信号を粗紡機11に出力する。その後、重量偏差σが正常になったが、重量平均値μの偏りの異常が解消されていなければ、演算装置31は、重量平均値μの偏りを正常にするために処置警告2に関する信号を粗紡機11に出力する。
【0039】
そして、表示器11aに処置警告1又は処置警告2が表示されると、ユーザは処置警告に対する対策を取ることで、粗糸パッケージ12の重量異常を正常にすることができる。
なお、演算装置31には、重量異常のあった錘の番号も入力される。演算装置31は、重量異常のあった錘が特定のキャリッジ15で短時間(例えば、半日)で数回検出された場合は、重量異常のあった錘に関する信号を、その錘を備える粗紡機11に出力する。粗紡機11は、信号を入力すると、重量異常のあった錘に関する情報を表示器11aに表示させる。
【0040】
この場合、表示器11aには、「粗紡機11の○列の○番の錘で重量異常が頻発している」といった警告を表示させる。
上記実施形態によれば、以下のような作用効果を得ることができる。
【0041】
(1)演算装置31は、計測された粗糸パッケージ12の重量データを利用して処置警告1及び処置警告2を推定する。このため、ユーザは、重量異常の粗糸パッケージ12を排除するだけに留まらず、推定された処置警告から対処方法を把握し、粗糸パッケージ12の重量異常に対処することができる。その結果、粗紡機11の製造メーカによって対処されるまで、粗糸パッケージ12の製造が停止されたり、重量異常が生じたまま粗糸パッケージ12が製造されることを無くすことができる。
【0042】
(2)キャリッジ15が重量計測装置20に搬送される度に、演算装置31によって第1の指数及び第2の指数が算出され、粗紡機11の表示器11aに処置警告1又は処置警告2が表示される。よって、ユーザは、粗糸パッケージ12の重量に関する情報をリアルタイムに把握でき、対処も可能になる。
【0043】
(3)演算装置31は、重量平均値μ及び重量偏差σから重量異常の原因を推測し、処置警告1又は処置警告2として対処方法を推定する。このため、ユーザとしては、推定された対処方法を元に重量異常の原因を絞ることができ、原因調査の工数を低減できる。
【0044】
(4)重量平均値μ及び重量偏差σは、1つの粗紡機11で製造された複数の粗糸パッケージ12に対し算出される。このため、粗紡機11毎で重量異常に対処することができる。
【0045】
(5)演算装置31は、重量平均値μ及び重量偏差σから重量異常の原因を推測し、処置警告1又は処置警告2として表示器11aに表示させる。このため、重量異常を視認化して、ユーザの負担を減らすことができる。
【0046】
(6)粗紡機11からは複数の粗糸パッケージ12が玉揚げされる。1つの粗紡機11で玉揚げされた粗糸パッケージ12を1グループとし、1グループでの重量偏差σ及び重量平均値μから処置警告1及び処置警告2を推定する。このため、粗紡機11単位で対処方法を推定することができる。
【0047】
(7)演算装置31は、工程能力指数Cpと同じ式で算出される第1の指数を指標として重量偏差σが異常か否かを判定する。よって、重量偏差σの異常の判定を客観的に行うことができる。また、第1の指数は、工程能力指数Cpを算出する数1に重量上限値Tu、重量下限値Td、重量偏差σを代入することで簡単に算出できるため、重量偏差σの異常の判定も簡単に行うことができる。
【0048】
(8)演算装置31は、工程能力指数Cpkと同じ式で算出される第2の指数を指標として重量平均値μの偏りが異常か否かを判定する。よって、重量平均値μの偏りの異常の判定を客観的に行うことができる。また、第2の指数は、工程能力指数Cpkを算出する数2に重量上限値Tu、重量下限値Td、重量平均値μを代入することで簡単に算出できるため、重量平均値μの偏りの異常の判定も簡単に行うことができる。
【0049】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
○ 第1の指数及び第2の指数の算出は、演算装置31ではなく重量計測装置20で行ってもよく、この場合は、重量計測装置20が統計処理装置となる。
【0050】
○ 重量異常が発生した場合、演算装置31は、処置警告に関する信号を粗紡機11に出力し、粗紡機11の表示器11aに表示させる構成としたが、これに限らない。重量異常が発生した場合、粗紡機11にフィードバックせず、重量計測装置20で処置警告を表示させてもよい。
【0051】
○ 重量異常が発生した場合、重量異常を正常にするために粗紡機11の駆動部を直接制御してもよい。なお、この場合、処置警告を粗紡機11の表示器11aに表示させてもよいし、表示させなくてもよい。
【0052】
○ 重量偏差σを表す指標として分散を用いてもよい。
○ 重量平均値μの偏りを表す指標は、重量平均値μと、重量範囲の中心値(T:Tu−Td)との差を表す値としてもよい。
【0053】
○ 実施形態では、1つの粗紡機11から玉揚げされる全ての粗糸パッケージ12を1つのグループに含める形としたが、これに限らない。例えば、2つの粗紡機11から玉揚げされる全ての粗糸パッケージ12を1つのグループに含める形としてもよいし、1つの粗紡機11から玉揚げされる全ての粗糸パッケージ12のうちの半分を1つのグループに含める形としてもよい。
【0054】
○ 処置警告の内容は、実施形態に限らず、適宜変更してもよいし、処置警告の数は3種類以上あってもよい。
○ 粗紡機の管理装置は、3つ以上の粗紡機11を備えていてもよい。
【符号の説明】
【0055】
μ…重量平均値、σ…重量偏差、11…粗紡機、12…粗糸パッケージ、20…重量計測装置、31…統計処理装置及び推定装置としての演算装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6