(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本願発明の実施形態の説明]
最初に本願発明の実施形態を列記して説明する。本実施の形態に係るシリカ材料の製造方法は、塩化ケイ素と、フッ素源と、O
2と、H
2とを反応させることにより、フッ素がドープされたシリカ材料を形成する工程と、シリカ材料を形成する工程において副生する塩素を含有する塩素含有ガスを水と接触させて塩素を水に溶解させることにより、塩素が水に溶解した廃液を得る工程と、廃液を処理する工程と、を備える。廃液を処理する工程は、廃液にカルシウム化合物を添加し、廃液中の余剰のフッ素を捕捉する工程と、廃液にH
2O
2を接触させて、廃液中の次亜塩素酸イオンを還元する工程と、を含む。
【0010】
本実施の形態に係るシリカ材料の製造方法は、ケイ素源として塩化ケイ素と、シリカ材料を改質するためのフッ素源とを用いる。塩化ケイ素からは次の式(1)及び式(2)に従ってシリカ(SiO
2)が形成される。
SiCl
4+2H
2+O
2→SiO
2+4HCl (1)
SiCl
4+O
2→SiO
2+2Cl
2 (2)
【0011】
式(2)の反応を経てSiO
2が形成された場合、塩素ガス(Cl
2)が副生する。特に反応系においてO
2の濃度が高い箇所においては式(1)よりも式(2)の経路での反応が起こりやすくなる。副生した塩素ガスは分解する必要がある。
【0012】
塩素ガスを分解するため、塩素ガスを水に溶解させて捕捉する。塩素が水に溶解すると、塩素が水に溶解した廃液が得られる。廃液には、下記式(3)のように、塩化物イオン(Cl
−)と次亜塩素酸イオン(ClO
−)とが含まれる。
2Cl
2+H
2O→Cl
−+ClO
−+2H
+ (3)
【0013】
式(3)の反応において発生する次亜塩素酸イオンは酸化力が高く、分解せずにそのまま廃液を廃棄するのは好ましくない。そのため、さらに廃液に還元剤を接触させて次亜塩素酸イオンを塩化物イオンに還元する。
【0014】
還元剤の一例としては、食品用、化粧品用原料としても知られるメタ重亜硫酸ナトリウム(Na
2S
2O
5、ピロ亜硫酸ナトリウムともいう)が挙げられる。メタ重亜硫酸ナトリウムは粉体であり、水への溶解性も高いため扱いやすい還元剤の一つである。メタ重亜硫酸ナトリウムを廃液に添加すると、メタ重亜硫酸ナトリウムは水中で加水分解され、亜硫酸水素ナトリウム(NaHSO
3)を生成する。亜硫酸水素ナトリウムの還元力により、下記式(4)のように次亜塩素酸イオンが塩化物イオンに還元される。このようにして、上記式(2)において発生した塩素ガスは塩化物イオンへと分解される。
ClO
−+NaHSO
3→Cl
−+NaHSO
4 (4)
【0015】
一方、シリカ材料には、シリカの改質のためにフッ素をドープすることが行われる。フッ素をドープするために、原料にフッ素源が用いられる。この場合、シリカ材料の形成後、廃液中の、シリカ材料に取り込まれなかったフッ素を捕捉する必要がある。フッ素はカルシウムイオン(Ca
2+)と相性が良いことから、フッ素の捕捉剤としてカルシウム塩などのカルシウム化合物が廃液に添加される。例えばCa(OH)
2などのカルシウム化合物を添加することにより廃液中のフッ素を捕捉することができる。
【0016】
しかしながらメタ重亜硫酸ナトリウムを還元剤として用いた場合においては、廃液中に残存するカルシウムイオンが上記式(4)で発生するNaHSO
4と反応して、式(5)に示すように難水溶性の硫酸カルシウム(CaSO
4)の沈殿物を発生させる。一旦硫酸カルシウムが発生すると分解が難しく、廃棄物量の増大に繋がる。このように、メタ重亜硫酸ナトリウムを還元剤として用いるのは、難水溶性廃棄物の発生量の増大を招き好ましくない。
NaHSO
4+Ca(OH)
2→CaSO
4↓+H
2O+NaOH (5)
【0017】
これに対し、本実施の形態に係るシリカ材料の製造方法においては、還元剤として過酸化水素(H
2O
2)を使用し、廃液にH
2O
2を接触させて廃液中の次亜塩素酸イオンを還元する。過酸化水素を使用すると、下記式(6)に示すように、廃液の処理工程においてカルシウムイオンと結合して難水溶性の沈殿物の発生させる成分が発生しない。したがって、廃液中にカルシウムイオンが残存していても難水溶性の沈殿物が発生しないことから、難水溶性廃棄物の発生量を劇的に低減することができる。このようにして、環境に優しく、廃棄物処理コストが削減できるシリカ材料の製造方法を提供することが可能となる。
ClO
−+H
2O
2→Cl
−+H
2O+O
2↑ (6)
【0018】
上記シリカ材料の製造方法においては、廃液を得る工程よりも後に、廃液をろ過することにより、廃液中の粗SiO
2を分離する工程をさらに備えてもよい。上記シリカ材料の製造方法においては、シリカ材料の製品中に取り込まれなかった粗SiO
2も難水溶性廃棄物の構成成分になりうる。SiO
2はろ過による分離が可能なため、SiO
2を分離し、回収することにより、難水溶性廃棄物の量をより削減することができる。分離されたSiO
2は、ガラスなどの原料としてリユースが可能であり、より環境に優しいシリカ材料の製造方法を提供することができる。
【0019】
フッ素源は、フッ化炭素であるのが好ましい。フッ化炭素は主原料である塩化ケイ素との相性がよく、SiO
2の形成反応を妨げない点で好ましい。
【0020】
また上記フッ化炭素の投入量は、塩化ケイ素100質量部に対して好ましくは0.01質量部以上1.0質量部以下、より好ましくは0.05質量部以上0.5質量部以下であってもよい。ケイ素原料がこのような量のフッ化炭素をフッ素源として含むことにより、改質されたシリカ材料をより安定的に形成することができる。
【0021】
シリカ材料を形成する工程は乾式法によって行われてもよい。SiO
2を製造する方法としては、溶媒や水などの液体を用いる湿式法と、液体を用いずに行う乾式法とがある。中でも特に上記シリカ材料の製造方法は、塩化ケイ素を原料とした乾式法で行うのに適している。
【0022】
上記塩素を水に溶解させる工程においては、塩素含有ガスと接触する水がアルカリ性であってもよい。塩素含有ガスと接触する水がアルカリ性であるとより効率よく塩素を捕捉することができる。
【0023】
シリカ材料を形成する工程においては、O
2をキャリアガスとして用いてもよい。SiO
2の形成反応にも関与するO
2をキャリアガスとして用いることにより、製造工程を複雑化することなくシリカ材料を製造することが容易となる。
【0024】
シリカ材料を形成する工程において、気相軸付法(VAD法)により実施されてもよい。VAD法は、光ファイバ用石英ガラスなどの光学材料を形成する工程として好適である。本実施の形態に係るシリカ材料の製造方法においてもSiO
2の形成方法としてVAD法を採用することで、高品質のシリカ材料を製造することが容易となる。
【0025】
上記シリカ材料は、光ファイバ用の多孔質母材であってもよい。難水溶性廃棄物の発生が少ない上記シリカ材料の製造方法は、乾式法で主に製造される光ファイバ用の多孔質母材の製造方法として好適である。光ファイバ用の多孔質母材を、その後加熱処理することにより、光ファイバ用の材料として好適な光ファイバ用石英ガラスが得られる。
【0026】
上記シリカ材料は、フュームドシリカであってもよい。難水溶性廃棄物の発生が少ない上記シリカ材料の製造方法は、乾式法で製造されるフュームドシリカの製造方法として好適である。
【0027】
[本願発明の実施形態の詳細]
次に、本願のシリカ材料の製造方法の一実施の形態を、図面及び化学式を参照しつつ説明する。以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰り返さない。
【0028】
[シリカ材料の製造方法]
まず、
図1〜
図3及び化学式を参照して、本実施の形態に係るシリカ材料の製造方法の手順を説明する。
図1は、シリカ材料の製造方法の手順を示すフローチャートである。
図2は気相軸付法における光ファイバ用多孔質母材の形成工程を説明するための図である。
図3は、気相軸付法後の焼結工程を説明するための図である。本実施の形態に係るシリカ材料の製造方法においては、
図1に示すステップS10〜ステップS50の各ステップが実施される。
【0029】
図1〜
図3を参照して、まずステップS10においてフッ素がドープされたシリカ材料が形成される。本実施の形態においては、シリカ材料を乾式法によって形成する。必要とされるシリカ材料の種類によってシリカ材料の製造方法も異なるが、本実施の形態においては、一例として、乾式法の一種である気相軸付法により光ファイバ用多孔質母材を形成する手順について述べる。
【0030】
図2を参照して、まず塩化ケイ素を、O
2ガス及びH
2ガスをキャリアガスとした原料ガスとしてコア形成用バーナ30とクラッド形成用バーナ32に導入する。コア形成用バーナ30に導入される原料ガスには、クラッドよりも屈折率を高くするためのGe(ゲルマニウム)やP(リン)などの成分が添加される。またクラッド形成用バーナ32に導入される原料ガスには、屈折率を下げるフッ素源としてフッ化炭素が添加される。クラッド形成用バーナ32には、塩化ケイ素100質量部に対して0.01質量部以上1質量部以下のフッ化炭素が投入される。コアの屈折率を、そのコアの外周側に配置されるクラッドよりも高くすることで光ファイバ用シリカ材料として適した光ファイバ用の多孔質母材10が形成される。このような多孔質母材10から得られた石英ガラスを光ファイバとして用いると、コアに入射した光がクラッドとの界面で全反射され、損失なく光が伝播される。
【0031】
図2を参照して、供給される原料ガスをコア形成用バーナ30及びクラッド形成用バーナ32において加熱すると、式(1)及び式(2)で表される反応に基づいてSiO
2が形成される。またクラッド形成用バーナ32に供給される原料ガスに含まれるフッ素源は、SiO
2の一部にSiF結合を形成する形でドープされる。
SiCl
4+2H
2+O
2→SiO
2+4HCl (1)
SiCl
4+O
2→SiO
2+2Cl
2 (2)
【0032】
図2を参照して、出発棒20を回転させながら、生成したSiO
2の微粒子40,42を出発棒20の先端に堆積させつつ、出発棒20を軸方向上方に引き上げていく。この操作によりSiO
2微粒子の集合体(多孔質母材10)を軸方向に成長させる。このようにして、フッ素がドープされたシリカ材料としての光ファイバ用の多孔質母材10が形成される。
【0033】
得られた多孔質母材10は、加熱により光ファイバ用石英ガラスとすることができる。
図3を参照して、多孔質母材10を電気炉70中で高温に加熱する。高温に加熱することにより、多孔質母材10は透明ガラス化(焼結)される。このようにして、シリカ材料として、透明な光ファイバ用石英ガラス(プリフォーム50)が形成される。
【0034】
多孔質母材10が形成されたのち、次に上記式(2)の反応に従って副生する塩素を含有する塩素含有ガスを、水と接触させることにより、塩素を水に溶解させて捕捉する(ステップS20)。ステップS20により塩素が水に溶解した廃液が得られる。
【0035】
塩素含有ガスを水と接触させる方法は特に限定されないが、本実施の形態においては、塩素含有ガスの流路上でシャワー状又はミスト状の水を塩素含有ガスに接触させることで、塩素を水に溶解させる。塩素含有ガスと接触する水はアルカリ性(pH7超)であることが好ましい。水がアルカリ性の場合、式(3)において発生するH
+イオンが中和されるため、式(3)の反応がより矢印の右側の方向に進行しやすくなる。
2Cl
2+H
2O→Cl
−+ClO
−+2H
+ (3)
【0036】
そのためアルカリ性の水を接触させることで水への塩素ガスの溶解量が増大する。このようにして塩素が水に溶解した廃液が得られる。この廃液には、次亜塩素酸イオンなどの塩素由来の化合物のみならず、上記ステップS10において生成したものの、光ファイバ用の多孔質母材10として利用されなかった固体状の粗SiO
2等を含む固形の沈殿物も含まれる。この粗SiO
2も難水溶性廃棄物の構成成分になりうる物質である。
【0037】
そのため、廃液を得る工程よりも後に、廃液をろ過し、固形分を分離する工程を経ることにより、廃液中に存在する粗SiO
2を分離する(ステップS30)。分離された粗SiO
2は、必要に応じて水洗などの洗浄を行ってもよい。なおステップS30は省略することも可能であるが、難水溶性廃棄物の量をより低減できる点でステップS30を実施するのが好ましい。
【0038】
ステップS30において、固体である粗SiO
2を廃棄物とせず、粗SiO
2を分離し、回収することにより、難水溶性廃棄物の量を削減することができる。分離された粗SiO
2は、ガラスなどの原料としてリユースが可能である。そのため、地球環境に優しいシリカ材料の製造プロセスを実現することができる。
【0039】
次に上記廃液を処理する。排液を処理する工程においては、廃液にカルシウム化合物を添加し、廃液中の余剰のフッ素を捕捉する工程(ステップS40)と、廃液にH
2O
2を接触させて、廃液中の次亜塩素酸イオンを還元する工程(ステップS50)とが行われる。ステップS40とステップS50の順序は特に限定されない。本実施の形態においては廃液にカルシウム化合物を添加し、廃液中の余剰のフッ素を捕捉する工程(ステップS40)を先に行う例について説明する。
【0040】
ステップS40においては廃液にカルシウム化合物を添加し、廃液中の余剰のフッ素をフッ化カルシウムとして捕捉する。フッ素はカルシウムイオン(Ca
2+)と相性が良いことから、フッ素の捕捉剤としてカルシウム塩などのカルシウム化合物が廃液に添加される。例えばCa(OH)
2などのカルシウム化合物を添加することにより廃液中のフッ素を捕捉することができる。なお、ここでいう「フッ素」とは、フッ素単体のみを意味するのではなく、フッ化物イオン、フッ化物その他のフッ素を含有するあらゆる化学物質を意味する。生じたフッ化カルシウムは、ろ過により除去することも可能である。
【0041】
次に上記廃液にH
2O
2を接触させる(ステップS50)。このとき、式(6)に基づいて、廃液中の次亜塩素酸イオンが塩化物イオンと水と酸素に分解される。
ClO
−+H
2O
2→Cl
−+H
2O+O
2↑ (6)
【0042】
式(6)に示す反応においては、カルシウムイオンと結合して難水溶性の廃棄物を生じさせるような物質は生じない。そのため、還元剤としてH
2O
2を廃液に接触させて廃液中の次亜塩素酸イオンを分解することにより、難水溶性廃棄物の発生量を低減できる。このように、カルシウムイオンをフッ素の捕捉剤として添加した場合でも、難水溶性廃棄物の発生量を低減できる。その結果、シリカ材料の製造コストを低減することができる。
【0043】
以上が一連のシリカ材料の製造方法の流れである。なお、上記実施形態のステップS10においては、乾式法によるシリカ材料の形成工程の一例として気相軸付法により光ファイバ用の多孔質母材10を形成する工程を述べたが、乾式法によるシリカ材料の形成工程はこれに限定されない。例えばステップS10は、乾式法によりフュームドシリカを形成する方法であってもよい。このとき、形成されるシリカ材料はフュームドシリカであってもよい。
【0044】
また上記実施形態においては、廃液を得る工程(ステップS20)後のステップS30において粗SiO
2を分離する工程を行ったが、粗SiO
2を分離する工程は、廃液を得る工程(ステップS20)よりも後の任意の段階で行うことができる。例えば、廃液にH
2O
2を接触させるステップS50の後で、得られた廃液から粗SiO
2を濾過により分離してもよい。メタ重亜硫酸ナトリウムを還元剤として用いる場合には、CaSO
4の沈殿が生じた後は粗SiO
2が汚泥としてその沈殿物に取り込まれ、粗SiO
2のみの濾過が困難である。これに対し、上記実施の形態に係るシリカ材料の製造方法においては難水溶性のCa塩が生じないことから、工程上の制約が少ない。そのためステップS50の後で粗SiO
2を濾過により分離してもよい。またステップS40とステップS50についても互いに入れ替えが可能である。このように上記シリカ材料の製造方法は、工程設計上の自由度が高いという利点もある。
【0045】
このように、本実施の形態により、塩化ケイ素とフッ素源とを原料とした場合であっても、難水溶性廃棄物の発生量が少なく環境に優しいシリカ材料の製造方法を提供することができる。また難水溶性廃棄物の発生量を低減することで廃棄物の処理コストを削減でき、ひいてはシリカ材料の生産コストを削減することができる。
【0046】
[水溶性廃棄物の発生量の低減例]
次に実際に本実施の形態に係るシリカ材料の製造方法を実施することにより、難水溶性廃棄物である汚泥の発生量が削減された例を下記表1〜表3に示す。表中に示される数字の単位は質量部である。
【0047】
表1は、還元剤としてメタ重亜硫酸ナトリウムを用いた比較例の結果である。表2は本実施の形態に係るシリカ材料の製造方法に従って、還元剤としてH
2O
2を用いた例である。表3は本実施の形態に係るシリカ材料の製造方法に従って、還元剤としてH
2O
2を用い、さらにろ過により粗SiO
2を分離した例である。表1と表2の比較から、本願のシリカ材料の製造方法に従った表2に示す結果によれば、比較例と比較して汚泥の排出量が40質量%削減される。これはCaSO
4の発生が抑制されたことによる。また表1と表3の比較から、還元剤としてH
2O
2を用いるとともに、廃液の濾過により粗SiO
2を分離すると、汚泥の発生量が90質量%削減される。
【0051】
以上の結果からわかるように、上記シリカ材料の製造方法による汚泥量の低減効果は大きい。このように、環境に優しく、廃棄物処理コストを削減することができるシリカ材料の製造方法が提供される。
【0052】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本発明の範囲は上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。