特許第6825510号(P6825510)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6825510医療用器具及び熱可塑性エラストマー組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6825510
(24)【登録日】2021年1月18日
(45)【発行日】2021年2月3日
(54)【発明の名称】医療用器具及び熱可塑性エラストマー組成物
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/315 20060101AFI20210121BHJP
   C08L 53/02 20060101ALI20210121BHJP
   C08L 15/00 20060101ALI20210121BHJP
   C08L 23/22 20060101ALI20210121BHJP
   C08L 23/10 20060101ALI20210121BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20210121BHJP
【FI】
   A61M5/315
   C08L53/02
   C08L15/00
   C08L23/22
   C08L23/10
   C08K3/34
【請求項の数】11
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-143740(P2017-143740)
(22)【出願日】2017年7月25日
(65)【公開番号】特開2018-23772(P2018-23772A)
(43)【公開日】2018年2月15日
【審査請求日】2020年2月6日
(31)【優先権主張番号】特願2016-150137(P2016-150137)
(32)【優先日】2016年7月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】515107720
【氏名又は名称】MCPPイノベーション合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】滝沢 可奈絵
【審査官】 岡▲さき▼ 潤
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−019750(JP,A)
【文献】 特開2016−087110(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0226334(US,A1)
【文献】 特開2007−002886(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0115312(US,A1)
【文献】 特開2015−232095(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/315
C08K 3/34
C08L 15/00
C08L 23/10
C08L 23/22
C08L 53/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状ポリオレフィン系樹脂からなる筐体と、熱可塑性エラストマー組成物からなるシール性部品とを有し、該筐体と該シール性部品が接触してなる医療用器具であって、
該熱可塑性エラストマー組成物が、ブロック重合体A 100質量部に対して、イソブチレン重合体Bを25〜100質量部、ポリプロピレン系樹脂Cを5〜100質量部含有してなり、
前記ブロック重合体Aが、構成単位としてスチレン単位を含む重合体ブロックPを2個以上、及び構成単位として共役ジエン単位を含む重合体ブロックQを1個以上有するブロック共重合体Rの水素添加物であり、スチレン単位の含有割合が全構成単量体単位を基準として20〜50質量%であり、質量平均分子量が150,000〜350,000の重合体であり、
前記重合体ブロックQの構成単位である共役ジエン単位がイソプレン単位であり、
前記重合体ブロックQにおけるイソプレン単位中の3,4−結合の割合が30〜60モル%であり、1,4−結合の割合が20〜50モル%であり、
前記ポリプロピレン系樹脂Cの曲げ弾性率が1,000〜3,000MPaである、医療用器具。
【請求項2】
前記イソブチレン重合体Bの粘度平均分子量が5,000〜100,000である、請求項1に記載の医療用器具。
【請求項3】
前記ポリプロピレン系樹脂Cがポリプロピレンである、請求項1又は2に記載の医療用器具。
【請求項4】
前記熱可塑性エラストマー組成物が、さらに、ブロック重合体A 100質量部に対して、タルクD 10〜70質量部、及び/又は、シリコーンオイルE 0.1〜20質量部を含有する、請求項1〜のいずれか1項に記載の医療用器具。
【請求項5】
前記熱可塑性エラストマー組成物がシリコーンオイルEを含み、シリコーンオイルEの25℃での動粘度が50〜2,000cStである、請求項に記載の医療用器具。
【請求項6】
ブロック重合体A 100質量部に対して、イソブチレン重合体Bを25〜100質量部、ポリプロピレン系樹脂Cを5〜100質量部含有してなる熱可塑性エラストマー組成物であって、
前記ブロック重合体Aが、構成単位としてスチレン単位を含む重合体ブロックPを2個以上、及び構成単位として共役ジエン単位を含む重合体ブロックQを1個以上有するブロック共重合体Rの水素添加物であり、スチレン単位の含有割合が全構成単量体単位を基準として20〜50質量%であり、質量平均分子量が150,000〜350,000の重合体であり、
前記重合体ブロックQの構成単位である共役ジエン単位がイソプレン単位であり、
前記重合体ブロックQにおけるイソプレン単位中の3,4−結合の割合が30〜60モル%であり、1,4−結合の割合が20〜50モル%であり、
前記ポリプロピレン系樹脂Cの曲げ弾性率が1,000〜3,000MPaである、熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項7】
前記イソブチレン重合体Bの粘度平均分子量が5,000〜100,000である、請求項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項8】
前記ポリプロピレン系樹脂Cがポリプロピレンである、請求項又はに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項9】
さらに、ブロック重合体A 100質量部に対して、タルクD 10〜70質量部、及び/又は、シリコーンオイルE 0.1〜20質量部を含有する、請求項のいずれか1項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項10】
シリコーンオイルEを含み、シリコーンオイルEの25℃での動粘度が50〜2,000cStである、請求項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項11】
医療用器具のシール性部品成形用熱可塑性エラストマー組成物である、請求項10のいずれか1項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用器具に関し、詳しくは、環状ポリオレフィン系樹脂からなる筐体と、この筐体に接する熱可塑性エラストマー組成物からなるシール性部品とを有する医療用器具であって、シール性部品によるシール性、耐熱性、耐圧縮永久歪性、耐ブリード性に優れると共に、滅菌処理等で加熱条件に晒された場合における筐体のシール性部品との接触部分の白化や筐体とシール性部品との固着の問題を解決した医療用器具に関する。本発明はまた、このような医療用器具のシール性部品の構成材料として好適な熱可塑性エラストマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチック製医療用容器は、軽量、安価で落下による破損が少なく、成形も容易であることから、医薬品の収納容器として広く使用されている。また、近年、注射器の先端を封止した外筒に薬液や注射液を充填し、もう一端の開口部をシール性部品(ガスケット)で封止した状態で輸送、保管し、シリンジ先端部に注射針もしくは投与用器具を取り付け、ガスケットを押し込んでシリンジ内を摺動させることにより薬液や注射液を投与するプレフィルドシリンジが使われ始めている。プレフィルドシリンジは操作が簡便であり、既に薬液が充填されているために現場で薬剤を調製する必要がないことから、細菌の感染を防止するだけではなく、調剤時間が短縮化されるなどの多くの利点を有している。このため、最近の医療現場においては、治療の効率化、医療過誤防止などの観点から、各種薬剤のプレフィルド化が望まれてきている。
【0003】
プレフィルドシリンジにおけるシリンジの材料としては、耐薬品性や耐熱性、収納する薬剤への非吸着性の観点から通常環状ポリオレフィン系樹脂が使用されている。一方、ガスケットの構成材料としては熱可塑性エラストマー組成物を用いる提案がなされている。
【0004】
例えば、摺動性や応力緩和特性、流動立ち上がり特性や脈動性を改良したものとして、特許文献1には、ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックと、共役ジエンを主体とする重合体ブロックを有するブロック共重合体及び/または水添ブロック共重合体と、炭化水素系ゴム用軟化剤と、ポリオレフィン系樹脂とを配合したものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−197829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の熱可塑性エラストマー組成物では、この熱可塑性エラストマー組成物よりなるガスケットを環状ポリオレフィン系樹脂製のシリンジに取り付けて用いると、滅菌処理時の加熱条件下で、ガスケットがシリンジと固着したり、接触部が白化したりする問題がある。
【0007】
本発明は、環状ポリオレフィン系樹脂からなる筐体と、これと接する熱可塑性エラストマー組成物からなるシール性部品とを有する医療用器具であって、シール性部品によるシール性、耐熱性、耐圧縮永久歪性、耐ブリード性に優れると共に、滅菌処理等で加熱条件に晒された場合における筐体のシール性部品との接触部分の白化や筐体とシール性部品との固着の問題のない医療用器具、及びそのための熱可塑性エラストマー組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、シール性部品を構成する熱可塑性エラストマー組成物として、特定のブロック重合体A、イソブチレン重合体B、及びポリプロピレン系樹脂Cを所定の割合で含むものを用いることにより、上記課題を解決し得ることを知見し、本発明を完成させた。
即ち、本発明は以下を要旨とする。
【0009】
[1] 環状ポリオレフィン系樹脂からなる筐体と、熱可塑性エラストマー組成物からなるシール性部品とを有し、該筐体と該シール性部品が接触してなる医療用器具であって、該熱可塑性エラストマー組成物が、ブロック重合体A 100質量部に対して、イソブチレン重合体Bを25〜100質量部、ポリプロピレン系樹脂Cを5〜100質量部含有してなり、前記ブロック重合体Aが、構成単位としてスチレン単位を含む重合体ブロックPを2個以上、及び構成単位として共役ジエン単位を含む重合体ブロックQを1個以上有するブロック共重合体Rの水素添加物であり、スチレン単位の含有割合が全構成単量体単位を基準として20〜50質量%であり、質量平均分子量が150,000〜350,000の重合体であり、前記ポリプロピレン系樹脂Cの曲げ弾性率が1,000〜3,000MPaである、医療用器具。
【0010】
[2] 前記イソブチレン重合体Bの粘度平均分子量が5,000〜100,000である、[1]に記載の医療用器具。
【0011】
[3] 前記ポリプロピレン系樹脂Cがポリプロピレンである、[1]又は[2]に記載の医療用器具。
【0012】
[4] 前記重合体ブロックQの構成単位である共役ジエン単位がイソプレン単位である、[1]〜[3]のいずれかに記載の医療用器具。
【0013】
[5] 前記重合体ブロックQにおけるイソプレン単位中の3,4−結合の割合が30〜60モル%であり、1,4−結合の割合が20〜50モル%である、[4]に記載の医療用器具。
【0014】
[6] 前記熱可塑性エラストマー組成物が、さらに、ブロック重合体A 100質量部に対して、タルクD 10〜70質量部、及び/又は、シリコーンオイルE 0.1〜20質量部を含有する、[1]〜[5]のいずれかに記載の医療用器具。
【0015】
[7] 前記熱可塑性エラストマー組成物がシリコーンオイルEを含み、シリコーンオイルEの25℃での動粘度が50〜2,000cStである、[6]に記載の医療用器具。
【0016】
[8] ブロック重合体A 100質量部に対して、イソブチレン重合体Bを25〜100質量部、ポリプロピレン系樹脂Cを5〜100質量部含有してなる熱可塑性エラストマー組成物であって、前記ブロック重合体Aが、構成単位としてスチレン単位を含む重合体ブロックPを2個以上、及び構成単位として共役ジエン単位を含む重合体ブロックQを1個以上有するブロック共重合体Rの水素添加物であり、スチレン単位の含有割合が全構成単量体単位を基準として20〜50質量%であり、質量平均分子量が150,000〜350,000の重合体であり、前記ポリプロピレン系樹脂Cの曲げ弾性率が1,000〜3,000MPaである、熱可塑性エラストマー組成物。
【0017】
[9] 前記イソブチレン重合体Bの粘度平均分子量が5,000〜100,000である、[8]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0018】
[10] 前記ポリプロピレン系樹脂Cがポリプロピレンである、[8]又は[9]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0019】
[11] 前記重合体ブロックQの構成単位である共役ジエン単位がイソプレン単位である、[8]〜[10]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0020】
[12] 前記重合体ブロックQにおけるイソプレン単位中の3,4−結合の割合が30〜60モル%であり、1,4−結合の割合が20〜50モル%である、[11]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0021】
[13] さらに、ブロック重合体A 100質量部に対して、タルクD 10〜70質量部、及び/又は、シリコーンオイルE 0.1〜20質量部を含有する、[8]〜[12]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0022】
[14] シリコーンオイルEを含み、シリコーンオイルEの25℃での動粘度が50〜2,000cStである、[13]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0023】
[15] 医療用器具のシール性部品成形用熱可塑性エラストマー組成物である、[8]〜[14]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、環状ポリオレフィン系樹脂製筐体と熱可塑性エラストマー組成物製シール性部品とを有する医療用器具において、シール性部品によるシール性、耐熱性、耐圧縮永久歪性、耐ブリード性等に優れると共に、加熱滅菌処理時などの加熱条件下における環状ポリオレフィン系樹脂製筐体の白化や筐体とシール性部品との固着の問題を解決することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する説明は、本発明の実施の形態の一例であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載内容に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」という表現を用いる場合、その前後の数値又は物性値を含む表現として用いるものとする。
【0026】
[熱可塑性エラストマー組成物]
まず、本発明の医療用器具のシール性部品を構成する本発明の熱可塑性エラストマー組成物について説明する。
【0027】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、ブロック重合体A 100質量部に対して、イソブチレン重合体Bを25〜100質量部、ポリプロピレン系樹脂Cを5〜100質量部含有するものである。
本発明に係るブロック重合体Aは、構成単位としてスチレン単位を含む重合体ブロックPを2個以上、及び構成単位として共役ジエン単位を含む重合体ブロックQを1個以上有するブロック共重合体Rの水素添加物であり、スチレン単位の含有割合が全構成単量体単位を基準として20〜50質量%であり、質量平均分子量が150,000〜350,000の重合体である。
また、ポリプロピレン系樹脂Cは、曲げ弾性率1,000〜3,000MPaのポリプロピレン系樹脂である。
【0028】
<作用機構>
本発明で用いる、構成単位としてスチレン単位を含む重合体ブロックPを2個以上、及び構成単位として共役ジエン単位を含む重合体ブロックQを1個以上有するブロック共重合体Rの水素添加物であって、スチレン単位の含有割合が全構成単量体単位を基準として20〜50質量%で、質量平均分子量が150,000〜350,000のブロック重合体Aは、組成物の耐熱性、高温時の耐圧縮永久歪性を向上させるために重要な成分である。
このようなブロック重合体Aに、所定量のイソブチレン重合体Bを混合することで、組成物の成形性が良好なものとなり、また、シール性を向上させることができる。
更に、曲げ弾性率が1,000〜3,000MPaのポリプロピレン系樹脂Cの所定量を混合することで、組成物の成形性、得られる成形体の耐熱性およびシール性のバランスを良好なものとすることができる。
また、本発明の熱可塑性エラストマー組成物の必須成分は、脂環式構造を含まず、環状ポリオレフィン系樹脂に対する固着の問題がない。
このようなことから、本発明によれば、シール性部品によるシール性、耐熱性、耐圧縮永久歪性、耐ブリード性に優れると共に、滅菌処理等で加熱条件に晒された場合における筐体の白化や筐体とシール性部品との固着の問題のない医療用器具を提供することができる。
【0029】
<ブロック重合体A>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物に含まれるブロック重合体A(以下、「A成分」と称す場合がある。)は、構成単位としてスチレン単位を含む重合体ブロックPを2個以上、及び構成単位として共役ジエン単位を含む重合体ブロックQを1個以上有するブロック共重合体Rの水素添加物であり、スチレン単位の含有割合が全構成単量体単位を基準として20〜50質量%であり、質量平均分子量が150,000〜350,000の重合体である。
【0030】
A成分を構成する水素添加前のブロック共重合体Rの重合体ブロックPは、構成単位としてスチレン単位を含むものであり、得られる成形体の耐熱性および耐圧縮永久歪性の観点から、重合体ブロックPは、スチレン単位を主体とすることが好ましい。
一方、重合体ブロックQは、構成単位として共役ジエン単位を含むものであり、イソブチレン重合体Bとの相溶性の観点から、共役ジエン単位を主体とすることが好ましく、特に共役ジエン単位の中でもイソプレン単位を主体とすることが好ましい。
【0031】
ここで、「スチレン単位を主体とする重合体ブロック」とは、スチレンを主体とする単量体を重合したものを意味し、「共役ジエン単位を主体とする重合体ブロック」とは、共役ジエンを主体とする単量体を重合したものを意味する。また、ここで「主体とする」とは、その含有割合が50質量%以上であることを意味する。
【0032】
重合体ブロックPを構成するスチレン以外の単量体としては、α−メチルスチレンなどのスチレン誘導体、その他のビニル芳香族化合物が挙げられる。重合体ブロックPには、ビニル芳香族化合物以外の単量体単位が含まれていてもよい。例えば、重合体ブロックQを構成するジエン化合物として以下に例示したジエン単位を含んでいてもよい。重合体ブロックPに含まれるスチレン単位の含有割合は、得られる成形体の耐熱性および耐圧縮永久歪性の観点から70質量%以上、特に90〜100質量%であることが好ましい。
【0033】
重合体ブロックQを構成する構成単位である共役ジエン単位としては、イソプレン単位、ブタジエン単位などが挙げられるが、これらの中でも、イソプレン単位であることが好ましい。重合体ブロックQに含まれる共役ジエン単位として、イソプレン単位を含む場合、イソプレン単位の含有割合は、イソブチレン重合体Bとの相溶性の観点から60質量%以上、特に80〜100質量%であることが好ましい。
【0034】
ブロック共重合体Rの重合体ブロックQに含まれる共役ジエン単位として、イソプレン単位を含む場合、イソプレン単位中の3,4−結合の割合は、30〜60モル%であることが好ましい。イソプレン単位中の3,4−結合の割合が30モル%以上であると得られる成形体の柔軟性が向上し、シール性が良好なものとなり、60モル%以下であるとイソブチレン重合体Bとの相溶性が良好なものとなり、好ましい。より好ましい3,4−結合の割合は40〜59モル%であり、特に好ましくは45〜58モル%である。
【0035】
また、ブロック共重合体Rの重合体ブロックQに含まれる共役ジエン単位として、イソプレン単位を含む場合、イソプレン単位中の1,4−結合の割合は、20〜50モル%であることが好ましい。イソプレン単位中の1,4−結合の割合が20モル%以上であると得られる成形体の弾性的性質が向上し、50モル%以下であると得られる成形体の柔軟が良好であり、好ましい。より好ましい1,4−結合の割合は25〜48モル%であり、特に好ましくは30〜45モル%である。
【0036】
共役ジエン単位としてイソプレン単位を含む重合体ブロックQは、特に3,4−結合の割合が45〜58モル%で、1,4−結合の割合が30〜45モル%で、1,2−結合の割合が3〜15モル%であることが好ましい。
【0037】
ここで、重合体ブロックQに含まれる共役ジエン単位として、イソプレン単位を含む場合、イソプレン単位中の3,4−結合、1,4−結合、1,2−結合の割合は13C−NMRにより測定することができる。
【0038】
本発明におけるブロック共重合体Rは、重合体ブロックPを少なくとも2個と、重合体ブロックQを少なくとも1個有する構造であれば限定されず、直鎖状、分岐状、放射状等の何れであってもよいが、下記式(1)又は(2)で表されるブロック共重合体が好ましい。A成分が下記式(1)又は(2)で表されるブロック共重合体Rの水素添加物であると、熱安定性が良好になる。
P−(Q−P)m (1)
(P−Q)n (2)
(式中Pは重合体ブロックPを、Qは重合体ブロックQをそれぞれ表し、mは1〜5の整数を表し、nは2〜5の整数を表す)
式(1)又は(2)においてm及びnは、ゴム的高分子体としての秩序−無秩序転移温度を下げる点では大きい方がよいが、製造のしやすさ及びコストの点では小さい方がよい。
【0039】
A成分は、ゴム弾性に優れることから、上記式(2)で表されるブロック共重合体の水素添加物よりも式(1)で表されるブロック共重合体の水素添加物の方が好ましく、mが3以下である式(1)で表されるブロック共重合体の水素添加物がより好ましく、mが2以下である式(1)で表されるブロック共重合体の水素添加物が更に好ましい。
【0040】
A成分は、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体の水素添加物であることが最も好ましい。
【0041】
ブロック共重合体Rを構成する重合体ブロックPと重合体ブロックQとの質量割合は任意であるが、本発明の熱可塑性エラストマー組成物の機械的強度及び熱融着強度の点からはA成分中のスチレン単位の含有量が多い方が好ましく、一方、熱可塑性エラストマー組成物の柔軟性、異形押出成形性、ブリードアウト抑制の点からはスチレン単位の含有量が少ない方が好ましい。
ブロック共重合体Rは、A成分中のスチレン単位の含有割合が、全構成単量体単位を基準として20〜50質量%、好ましくは25〜45質量%、より好ましくは28〜40質量%となるように、重合体ブロックPと重合体ブロックQとを含有することで、上記の特性バランスに優れたものとなる。
【0042】
ブロック共重合体Rの水素添加でブロック重合体Aとする際のブロック共重合体Rの水素添加率は限定されないが、重合体ブロックQの水素添加率は80〜100質量%が好ましく、90〜100質量%が好ましい。重合体ブロックQを上記範囲で水素添加することにより、得られる組成物の粘着的性質が低下し、弾性的性質が増加するため、シール性部品として良好な特性を得ることができる。なお、重合体ブロックPが、原料としてジエン成分を用いた場合についても同様である。ここで、水素添加率は、13C−NMRにより測定することができる。
【0043】
本発明におけるブロック共重合体Rの製造方法は、上述の構造と物性が得られればどのような方法でもよく、特に限定されない。具体的には、例えば、特公昭40−23798号公報に記載された方法によりリチウム触媒等を用いて不活性溶媒中でブロック重合を行うことによって得ることができる。また、ブロック共重合体Rの水素添加(水添)は、例えば、特公昭42−8704号公報、特公昭43−6636号公報、特開昭59−133203号公報及び特開昭60―79005号公報などに記載された方法により、不活性溶媒中で水添触媒の存在下で行うことができる。
【0044】
本発明におけるA成分の質量平均分子量(Mw)は、150,000以上、好ましくは180,000以上、より好ましくは200,000以上であり、350,000以下、好ましくは330,000以下、より好ましくは310,000以下である。A成分の質量平均分子量が上記範囲内であると、成形性と耐熱性が良好であるので望ましい。
【0045】
なお、本発明において、A成分の質量平均分子量(Mw)は、GPCにより、以下の測定条件で測定される。
(測定条件)
機 器:東ソー株式会社製「HLC−8120GPC」
カラム:東ソー株式会社製「TSKgel Super HM−M」
検出器:示差屈折率検出器(RI検出器/内蔵)
溶 媒:クロロホルム
温 度:40℃
流 速:0.5ml/分
注入量:20μL
濃 度:0.1wt%
較正資料:単分散ポリスチレン
較正法:ポリスチレン換算
較正曲線近似式:3次式
ピーク分離ソフト:東ソー株式会社製「DBFinderSP」
ピーク分離法:ガウス・ニュートン法
【0046】
このような水添ブロック共重合体であるA成分の市販品としては、株式会社クラレ製「セプトン」、「ハイブラー」等が挙げられる。
【0047】
A成分としては、1種のみを用いてもよく、トリブロック組成や質量平均分子量(Mw)等の物性の異なるものを2種以上併用してもよい。
【0048】
<イソブチレン重合体B>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物に含まれるイソブチレン重合体B(以下、「B成分」と称す場合がある。)はイソブチレンの単独重合体、即ち、ポリイソブチレンである。
【0049】
イソブチレンはカチオン重合性を有しており、イソブチレン重合体Bは、例えば、Kennedyらにより報告されている方法(J. Polym. Sci., Part A; Polym. Chem. 29, 427−435(1991))に従って製造することができる。
【0050】
イソブチレン重合体Bの粘度平均分子量は、特に制限はないが、粘着性と強度の観点から、5,000〜100,000が好ましく、特に10,000〜90,000が好ましく、とりわけ20,000〜80,000が好ましい。質量平均分子量が5,000より小さいと、強度が弱くなり、また、成形品の耐ブリード性が悪化する。逆に100,000を超えると、溶融粘度が高くなり、他の成分と均一に混合できない場合がある。
【0051】
イソブチレン重合体としては、通常市販されている多くの商品がこれに相当し、具体的にはEXXON製ビスタネックス(LM−MS、MH、HまたはMML−80,100,120,140等)、新日本石油製テトラックス(3T、4T、5T、6T等)、ハイモール(4H、5H、6Hなど)、およびBASF製オパノール(B10、B12、B15、B50、B80、B100、B120、B150、B220等)などが例示できる。
【0052】
イソブチレン重合体Bは1種のみを用いてもよく、粘度平均分子量等の異なる2種以上を併用してもよい。
【0053】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、A成分のブロック重合体A 100質量部に対して、B成分のイソブチレン重合体Bを25〜100質量部含む。熱可塑性エラストマー組成物中のB成分の含有量が上記下限未満であると、熱可塑性エラストマー組成物の製造に際し、各成分を混練し得ず、熱可塑性エラストマー組成物の製造が困難であり、また、成形時の流動性が悪くなり、成形品の外観が悪くなるという問題が生じ、上記上限を超えると成形品の耐ブリード性が悪化する。これらの観点から、本発明の熱可塑性エラストマー組成物はA成分100質量部に対してB成分を30〜90質量部含有することが好ましく、35〜80質量部含有することがより好ましい。
【0054】
<ポリプロピレン系樹脂C>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物に含まれるポリプロピレン系樹脂C(以下、「C成分」と称す場合がある。)は、曲げ弾性率1,000〜3,000MPaのポリプロピレン系樹脂である。
【0055】
ポリプロピレン系樹脂とは、全単量体単位に対するプロピレン単位の含有量が50質量%よりも多いポリオレフィン樹脂である。
【0056】
ポリプロピレン系樹脂としては、その種類は特に制限ざれず、プロピレン単独重合体、プロピレンランダム共重合体、プロピレンブロック共重合体等のいずれも使用することができる。
【0057】
ポリプロピレン系樹脂がプロピレン共重合体である場合、プロピレンと共重合する単量体としては、エチレン、1−ブテン、2−メチルプロピレン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン等の1種又は2種以上を例示することができる。
【0058】
ポリプロピレン系樹脂におけるプロピレン単位の含有量は、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは75質量%以上であり、更に好ましくは90質量%以上である。プロピレン単位の含有量が上記下限値以上であることにより、耐熱性及び剛性が良好となる傾向にある。成形品の耐熱性および耐圧縮永久歪性の観点から、B成分のポリプロピレン系樹脂としては、ポリプロピレン(プロピレン単独重合体)を用いることが好ましい。なお、ポリプロピレン系樹脂のプロピレン単位の含有量は、赤外分光法により求めることができる。
【0059】
ポリプロピレン系樹脂Cの曲げ弾性率は、得られるシール性部品のシール性及び針保持性の観点から、1,000MPa以上であり、1,100MPa以上が好ましく、1,200MPa以上がより好ましい。また、得られるシール性部品のシール性の観点から、3,000MPa以下であり、2,500MPa以下が好ましく、2,000MPa以下がより好ましい。即ち、C成分のポリプロピレン系樹脂Cの曲げ弾性率は、1,000〜3,000MPaであり、1,100〜2,500MPaが好ましく、1,200〜2,000MPaがより好ましい。
【0060】
なお、ここで、ポリプロピレン系樹脂Cの曲げ弾性率は、JIS K7171に準拠して測定される値である。
【0061】
また、C成分のポリプロピレン系樹脂Cの、JIS K7210に従い、測定温度230℃、測定荷重21.2Nの条件で測定されたMFRは、0.1〜100g/10分であることが好ましく、0.5〜85g/10分であることがより好ましく、1〜70g/10分であることが特に好ましい。C成分のポリプロピレン系樹脂CのMFRが上記下限以上であると成形流動性の観点から好ましく、上記上限以下であると成形品の耐圧縮永久歪性および成形品外観の観点から好ましい。
【0062】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、A成分のブロック重合体A 100質量部に対して、C成分のポリプロピレン系樹脂Cを5〜100質量部含む。熱可塑性エラストマー組成物中のC成分の含有量が上記下限未満であると、成形品の耐熱性が悪化し、また組成物の流動性が悪くなるため成形品外観が悪化する。上記上限を超えると成形品の柔軟性が失われ、十分なシール性を有しなくなる。これらの観点から、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、A成分100質量部に対して、C成分を5〜80質量部含有することが好ましく、10〜60質量部含有することがより好ましい。
【0063】
<タルクD>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、更にタルクD(以下、「D成分」と称す場合がある。)を含有していてもよく、タルクDを含むことで、成形品表面を適度に荒らし、成形性の向上、シール性部品の環状ポリオレフィン系樹脂との固着低減の効果を得ることができる。
好ましいタルクDとしては、平均粒子径が20μm以下、好ましくは1〜15μmのものを挙げることができる。
【0064】
上記タルクDは、例えばタルク原石を衝撃式粉砕機やミクロ型粉砕機で粉砕して、更にミクロンミル、ジェット型粉砕機で微粉砕した後、サイクロンやミクロンセパレーター等で分級調整し製造することができる。
【0065】
ここで、タルクDの平均粒子径の測定は、レーザー光散乱方式粒度分布計を用いて測定した値であり、そのような測定装置として、例えば堀場製作所製LA−500型は測定精度が優れているので望ましい。
【0066】
タルクDは1種のみを用いてもよく、平均粒子径の異なるものの2種以上を併用してもよい。
【0067】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物がD成分のタルクDを含有する場合、ブロック重合体A 100質量部に対して、D成分のタルクDを10〜70質量部含むことが好ましい。熱可塑性エラストマー組成物中のD成分の含有量が上記下限以上であると成形性の向上、シール性部品の環状ポリオレフィン系樹脂との固着低減に効果が高い。上記上限未満であると組成物の流動性が良好となる。これらの観点から、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、A成分100質量部に対して、D成分を15〜60質量部含有することがより好ましく、20〜55質量部含有することが特に好ましい。
【0068】
<シリコーンオイルE>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、更にシリコーンオイルE(以下、「E成分」と称す場合がある。)を含有していてもよく、シリコーンオイルEを含むことで、成形時の離型性を向上させることができる。
【0069】
E成分のシリコーンオイルEとしては、25℃での動粘度が50〜2,000cStであるシリコーンオイルが好ましい。ここで、シリコーンオイルEの25℃での動粘度はJIS Z8803により測定することができる。
【0070】
E成分のシリコーンオイルEの25℃での動粘度が50cSt未満であると、得られるシール性部品の表面にシリコーンオイルがブリードし、医療用器具のシール性部品として使用した場合、内容物にシリコーンオイルが混入する懸念がある。また、成分EのシリコーンオイルEの25℃での動粘度が2,000cStより大きいと、成形時の離型性向上への効果が低くなる。これらの効果をより良好なものとするため、E成分の25℃での動粘度は、より好ましくは60cSt以上であり、更に好ましくは70cSt以上であり、一方、より好ましくは1,600cSt以下であり、更に好ましくは1,200cSt以下であり、特に好ましくは800cSt以下である。
【0071】
E成分のシリコーンオイルEとしては、好ましくは下記式(3)で表される直鎖状シリコーンを用いることができる。
【0072】
【化1】
【0073】
上記式(3)中、Rはそれぞれ独立してアルケニル基及び/又はSiH基等のヒドロシリル化付加反応に関与する官能性基を含有しない有機官能基、又は水酸基を表し、それぞれのRは同じでも異なっていてもよい。xは10〜2000の整数を表す。Rは、好ましくはそれぞれ独立に一価炭化水素基又は水酸基を表し、より好ましくはアルキル基やアリール基を表し、更に好ましくはメチル基、エチル基、フェニル基を表す。
【0074】
式(3)で表される直鎖状シリコーンとしては、両末端をトリオルガノシリル基で封鎖されたポリジオルガノシロキサンであり、ポリジアルキルシロキサン、ポリジアリールシロキサン、ポリアルキルアリールシロキサン又はこれらの共重合体がより好ましく、ポリジメチルシロキサン又はポリメチルフェニルシロキサンが更に好ましく、Rがすべてメチル基であるポリジメチルシロキサンが特に好ましい。
【0075】
ポリジメチルシロキサンとしては、SH200(東レ・ダウコーニング社製)、KF−96、KF−96H、KF−965、KF−968(信越シリコーン社製)、TSF451(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製)、AK、AKF、AKC(旭化成ワッカーシリコーン社製)等が市販品として入手できる。また、ポリメチルフェニルシロキサンとしては、SH510、SH550、SH710(東レ・ダウコーニング社製)、KF−50、KF−53、KF−54(信越シリコーン社製)、TSF431、TSF433、TSF4300(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ)、AR(旭化成ワッカーシリコーン)等が市販品として入手できる。
【0076】
シリコーンオイルEは1種のみを用いてもよく、動粘度や式(3)におけるRの異なるものの2種以上を併用してもよい。
【0077】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物がE成分のシリコーンオイルEを含有する場合、ブロック重合体A 100質量部に対して、シリコーンオイルEを0.1〜20質量部含むことが好ましい。熱可塑性エラストマー組成物中のE成分の含有量が上記下限以上であると成形時の離型性向上に十分な効果が得られ、上記下限未満であるとブリードアウトによる成形品外観の低下および医薬品中への混入が抑制される。これらの観点から、本発明の熱可塑性エラストマー組成物はA成分100質量部に対して、E成分を0.5〜18質量部含有することがより好ましく、1〜15質量部含有することが特に好ましい。
【0078】
<その他の成分>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、本発明の目的を損なわない範囲において、上記A〜E成分以外の他の成分、例えばA〜C成分以外の樹脂やD,E成分以外の添加剤を含むものであってもよい。
【0079】
A成分及びB成分以外の樹脂としては、具体的には、例えば、ポリフェニレンエーテル系樹脂;ナイロン66、ナイロン11等のポリアミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリメチルメタクリレート系樹脂等のアクリル/メタクリル系樹脂等の熱可塑性樹脂等;イソブチレン系重合体等の架橋物等を挙げることができる。
【0080】
また、他の添加剤等としては、各種の熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、老化防止剤、可塑剤、光安定剤、結晶核剤、衝撃改良剤、顔料、滑剤、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤、充填剤、相溶化剤、粘着性付与剤、炭化水素系ゴム用軟化剤等が挙げられる。
これらのその他の樹脂や添加剤等は、1種類のみを用いても、2種類以上を任意の組合せと比率で併用してもよい。
【0081】
熱安定剤及び酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール類、リン化合物、ヒンダードアミン、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物等が挙げられる。
滑剤としては、例えば、脂肪酸アミド、脂肪酸グリセリド等が挙げられる。
難燃剤は、ハロゲン系難燃剤と非ハロゲン系難燃剤に大別されるが、非ハロゲン系難燃剤が環境面で好ましい。非ハロゲン系難燃剤としては、リン系難燃剤、水和金属化合物(水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム)難燃剤、窒素含有化合物(メラミン系、グアニジン系)難燃剤及び無機系化合物(硼酸塩、モリブデン化合物)難燃剤等が挙げられる。
【0082】
充填剤は、有機充填剤と無機充填剤に大別される。有機充填剤としては、澱粉、セルロース微粒子、木粉、おから、モミ殻、フスマ等の天然由来のポリマーやこれらの変性品等が挙げられる。また、無機充填剤としては、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、カーボンブラック、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、ゼオライト、ハイドロタルサイト、金属繊維、金属ウイスカー、セラミックウイスカー、チタン酸カリウム、窒化ホウ素、グラファイト、炭素繊維等が挙げられる。
【0083】
A〜E成分以外の樹脂や添加剤を用いる場合でも、本発明の熱可塑性エラストマー組成物中におけるA〜E成分の合計量は、本発明の優れた効果の発現のしやすさ等の点から、60質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。なお、ここでの上限は、通常100質量%である。
【0084】
<熱可塑性エラストマー組成物の製造方法>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、上述の各成分を所定の割合で混合することにより製造され、耐熱性、耐圧縮永久歪性、耐ブリード性に優れるものである。
【0085】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法については、原料成分が均一に分散すれば特に制限は無い。すなわち、上述の各原料成分等を同時に又は任意の順序で混合することにより、各成分が均一に分布した樹脂組成物を得ることができる。
【0086】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、前記の各原料成分をそのままドライブレンドした状態をも包含し、これを成形することによってシール性部品としてもよいが、より均一な混合・分散のためには、前記のA〜C成分等の原料成分を、溶融混合して組成物としておくことが好ましい。溶融混合の方法としては、例えば、本発明の熱可塑性エラストマー組成物の各原料成分を任意の順序で混合してから加熱したり、全原料成分を順次溶融させながら混合してもよいし、各原料成分の混合物をペレット化したり目的成形品を製造する際の成形時に溶融混合してもよい。
【0087】
前記の各原料成分を混合する際の混合方法や混合条件は、各原料成分が均一に混合されれば特に制限はないが、生産性の点からは、単軸押出機や二軸押出機のような連続混練機及びミルロール、バンバリーミキサー、加圧ニーダー等のバッチ式混練機等の公知の溶融混練方法が好ましい。溶融混合時の温度は、各原料成分の少なくとも一つが溶融状態となる温度であればよいが、通常は用いる全成分が溶融する温度が選択され、一般には150〜250℃の範囲である。
【0088】
[シール性部品]
本発明の医療用器具のシール性部品(以下、「本発明のシール性部品」と称す場合がある。)は、上述の本発明の熱可塑性エラストマー組成物をシール性部品の形状に成形することにより得ることができる。本発明のシール性部品は、密封性と摺動性が確保できればどのような形状のものでも構わない。
【0089】
本発明のシール性部品の製造方法は、シール性を発現させることができる形状に成形できれば特に制限はない。具体的には射出成形、圧縮成形、押出成形からの打ち抜き成形等が挙げられるが、これらのうち、成形サイクルや量産性を考えると、射出成形又は圧縮成形が好ましい。
【0090】
成形時のシリンダー及びダイスの温度は、未溶融物の表面析出等による外観不良が起こり難い点では、高温であることが好ましく、熱可塑性エラストマー組成物中に含まれる成分の中で最も融点が高い成分の融点より高温であることがより好ましく、最も融点が高い成分の融点より10℃以上高いことが更に好ましく、最も融点が高い成分の融点より20℃以上高いことが特に好ましい。具体的には、A成分の融点が一般的に160〜240℃であることから、170℃以上であることが好ましく、190℃以上であることがより好ましく、200℃以上であることが更に好ましい。一方、含有成分の熱分解による変色や物性低下を起こさないためには、成形時のシリンダー及びダイスの温度は、低い方が好ましい。成形時のシリンダー及びダイス温度の上限は250℃以下であることが好ましく、240℃以下であることがより好ましい。また、射出成形を行う場合の金型温度は、60℃以下であることが好ましく、45℃以下であることがより好ましい。
【0091】
[筐体]
本発明の医療用器具の筐体は環状ポリオレフィン系樹脂からなる。
環状ポリオレフィンとは、エチレンと環状オレフィンモノマーとの共重合体、または環状オレフィンモノマーの開環メタセシス重合体の水素添加物を指す。環状オレフィンモノマーとしては、例えばシクロブテン、シクロペンテン、シクロオクテン、シクロドデセンなどの単環シクロオレフィンおよび置換基を有するそれらの誘導体や、ノルボルネン環を有する置換および無置換の二環もしくは三環以上の多環環状オレフィンモノマー(以下、「ノルボルネン系モノマー」と称す場合がある。)が挙げられる。製造適性及び内容物適性の観点から、中でもノルボルネン系モノマーが好適に用いられる。
【0092】
前記ノルボルネン系モノマーとしては、例えば、ノルボルネン、ノルボルナジエン、メチルノルボルネン、ジメチルノルボルネン、エチルノルボルネン、塩素化ノルボルネン、クロロメチルノルボルネン、トリメチルシリルノルボルネン、フェニルノルボルネン、シアノノルボルネン、ジシアノノルボルネン、メトキシカルボニルノルボルネン、ピリジルノルボルネン、ナヂック酸無水物、ナヂック酸イミドなどの二環シクロオレフィン;ジシクロペンタジエン、ジヒドロジシクロペンタジエンやそのアルキル、アルケニル、アルキリデン、アリール置換体などの三環シクロオレフィン;ジメタノヘキサヒドロナフタレン、ジメタノオクタヒドロナフタレンやそのアルキル、アルケニル、アルキリデン、アリール置換体などの四環シクロオレフィン;トリシクロペンタジエンなどの五環シクロオレフィン;ヘキサシクロヘプタデセンなどの六環シクロオレフィンなどが挙げられる。また、ジノルボルネン、二個のノルボルネン環を炭化水素鎖またはエステル基などで結合した化合物、これらのアルキル、アリール置換体などのノルボルネン環を含む化合物等を用いることも可能である。
【0093】
上記エチレンと環状オレフィンモノマーの共重合体としては、例えば三井化学株式会社製の「アペル(登録商標)」、TICONA社製の「TOPAS(登録商標)」等の市販品を好適に用いることができる。また、上記ノルボルネン系モノマーの開環メタセシス重合体の水素添加物としては、日本ゼオン株式会社製の「ゼオネックス(登録商標)」、「ゼオノア(登録商標)」やJSR製の「アートン(登録商標)」等の市販品を好適に用いることができる。
【0094】
環状ポリオレフィン系樹脂としては、その透明性、水蒸気バリア性を損なわない範囲で複数種の環状ポリオレフィン系樹脂を併用した環状ポリオレフィン系樹脂組成物を用いることもでき、また、ポリエチレンやスチレン系エラストマーとの混合物を使用することもできる。
【0095】
本発明の医療用器具の筐体は、上記のような環状ポリオレフィン系樹脂を用いて押出成形、射出成形、二色成形等により常法に従って製造することができる。
【0096】
[医療用器具]
本発明の医療用器具は、上記のような環状ポリオレフィン系樹脂からなる筐体と本発明の熱可塑性エラストマー組成物からなるシール性部品とを有するものである。
本発明の医療用器具は、環状ポリオレフィン系樹脂からなる筐体と、これと接する本発明のシール性部品とを有するものであれば、その形状、使用目的等には特に制限はないが、代表的には注射器が挙げられ、本発明の医療用器具における筐体がシリンジ、シール性部品がガスケットであることが好ましく、特に本発明の医療用器具はプレフィルドシリンジとして好適に適用される。
【実施例】
【0097】
以下、実施例を用いて本発明の内容を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味を持つものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0098】
[原料]
以下の実施例及び比較例で使用した材料を以下に示す。
【0099】
[ブロック重合体A]
A−1:ハイブラー 7135(クラレ社製)
スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体の水素添加物
イソプレンの水素添加率:100質量%
質量平均分子量:280,000
スチレン単位含有割合:33質量%
イソプレン単位における1,2−結合の割合:6モル%
イソプレン単位における1,4−結合の割合:41モル%
イソプレン単位における3,4−結合の割合:54モル%
【0100】
[イソブチレン重合体B]
B−1:ハイモール 4H(JX日鉱日石エネルギー社製)
イソブチレン単独重合体
粘度平均分子量:40,000
b−1:シブスター 103T(カネカ社製)
スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体
質量平均分子量:118,000
イソブチレン単位含有割合:70質量%
b−2:タフマー A4050S(三井化学社製)
エチレン−ブテン共重合体
質量平均分子量:80,000
エチレン単位含有割合:74質量%
ブテン単位含有割合:26質量%
【0101】
[ポリプロピレン系樹脂C]
C−1:ノバテックPP FA3KM(日本ポリプロ社製)
ポリプロピレン
曲げ弾性率:1,500MPa(JIS K7171)
MFR:10g/10分
(測定条件:230℃、荷重21.2N(JIS K7210))
【0102】
[タルクD]
D−1:ミクロエース P−3(日本タルク社製)
平均粒子径:8.0μm
【0103】
[シリコーンオイルE]
E−1:SH200−100CS(東レ・ダウコーニング社製)
ポリジメチルシロキサン
動粘度(25℃):100cSt
E−2:SH200−1000CS(東レ・ダウコーニング社製)
ポリジメチルシロキサン
動粘度(25℃):1000cSt
【0104】
<環状ポリオレフィン系樹脂>
シクロオレフィンポリマー(商品名:ゼオネックス(登録商標)690R、日本ゼオン社製、密度=1.01g/cm、MFR(280℃、2.12N荷重)=20g/10分)
【0105】
[実施例1,2、比較例1〜4]
<熱可塑性エラストマー組成物試験片の製造>
表−1に示す配合割合(質量部)となるように、表−1に示す成分を配合し、ラボプラストミル(東洋精機製作所社製)を用いて200℃にて5分間溶融混練し、熱可塑性エラストマー樹脂組成物を得た。次いで、得られた組成物を200℃にて圧縮成形し、2mm厚のプレートを得た。
【0106】
<環状ポリオレフィン系樹脂フィルムの製造>
株式会社テクノベル製二軸押出機KZW15−45MG−NHにて環状ポリオレフィン系樹脂を成形し、厚み100μmの単層フィルムを得た。成形時の条件は、成形温度:230〜260℃、成形速度:3m/分に設定した。得られたフィルムは10cm四方の大きさに切り出した。
【0107】
製造された熱可塑性エラストマー組成物プレートと環状ポリオレフィン系樹脂フィルムを用い、以下の評価を行い、結果を表−1に示した。
【0108】
<力学的評価:A硬度>
熱可塑性エラストマー組成物のプレートを用い、JIS K6253に準じて測定を行った。熱可塑性エラストマー樹脂組成物をシール性部品として好適に用いるためには、熱可塑性エラストマー組成物のA硬度は40以上75以下であることが好ましい。
【0109】
<力学的評価:圧縮永久歪>
熱可塑性エラストマー組成物のプレートを用い、JIS K6262に準じて測定を行った。熱可塑性エラストマー樹脂組成物をシール性部品として好適に用いるためには、120℃×22hr(25%圧縮)の圧縮永久歪が80%以下であることが好ましい。
【0110】
<筐体とシール性部品との接触評価>
作成した熱可塑性エラストマー組成物のプレートから接触評価用の直径28mmの試験片を打ち抜いた。打ち抜いた熱可塑性エラストマー樹脂組成物の試験片を、切り出した環状ポリオレフィン系樹脂フィルムの中央部に載せて両者を接触させ、評価用サンプルとした。これを120℃のオーブンに入れ、4.5kgの荷重を加えた状態で120分間加熱した後、荷重を除き、23℃で30分間空冷した後、下記の測定方法により固着性試験、白化確認試験を実施した。
1.固着性試験
評価用サンプルから熱可塑性エラストマー樹脂組成物の試験片を除く際、試験片と環状ポリオレフィン系樹脂のフィルムの固着状態を確認した。評価基準は下記の通りとした。
◎:特に力を加えなくても試験片とフィルムを容易にはがすことができる。
○:多少の力は必要だが、試験片とフィルムをはがすことができる。
×:試験片とフィルムをはがすのにかなりの力を要するか、はがすことができない。2.白化確認試験
評価用サンプルから熱可塑性エラストマー樹脂組成物の試験片を除き、残った環状ポリオレフィン系樹脂フィルムの試験片と接触していた部分の外見上の変化を確認した。評価基準は下記の通りとした。
◎:フィルムに全く変化が認められない。
○:フィルムにやや白化が見られるが問題ない。
×:フィルムに白化や割れ等の変化が顕著に見られる。
【0111】
【表1】
【0112】
表−1より、実施例1,2の熱可塑性エラストマー組成物は、硬度、圧縮永久歪、環状ポリオレフィン系樹脂との固着防止性、白化防止性に優れることがわかる。
これに対して、ブロック共重合体Aを用いなかった比較例1では、原材料を均一に混練することができず、サンプリングができなかった。
また、イソブチレン重合体Bの代りにスチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体を用いた比較例2や、エチレン−ブテン共重合体を用いた比較例3、ポリプロピレン系樹脂Cを用いていない比較例4では、耐圧縮永久歪性が不足しており、また、環状ポリオレフィン系樹脂との固着の問題がある。