(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0011】
〔電力変換システム〕
図1に示す電力変換システム1は、複数の電力変換装置により同一の負荷に電力を供給する並列運転型のシステムである。電力変換システム1は、自装置で生成した指令値に基づいて一次側(例えば電源側)電力を二次側(例えば負荷側)電力に変換するマスタ装置2A(第1電力変換装置)と、マスタ装置2Aが生成した指令値に基づいて一次側電力を二次側電力に変換するスレーブ装置2B(第2電力変換装置)とを備える。
図1に例示するように、電力変換システム1は、複数のスレーブ装置2Bを備えていてもよい。
【0012】
マスタ装置2A及びスレーブ装置2Bは、いずれも電力変換回路10(電力変換部)を備える。マスタ装置2Aの電力変換回路10(第1電力変換部)は、電源PS側の電力を負荷LD側の電力に変換する。スレーブ装置2Bの電力変換回路10(第2電力変換部)は、マスタ装置2Aの電力変換回路10に対して並列に接続され、電源PS側の電力を負荷LD側の電力に変換する。電源PS側の電力形態及び負荷LD側の電力形態に特に制限はない。電源PS側の電力形態及び負荷LD側の電力形態は、直流電力であってもよいし、交流電力であってもよい。一例として、
図1は、電源PS側の電力形態及び負荷LD側の電力形態がいずれも三相交流電力である場合の構成を示している。電源PSの具体例としては、電力系統又は発電機等が挙げられる。負荷LDの具体例としては、電動モータ、ヒータ、又は光源等が挙げられる。マスタ装置2A及びスレーブ装置2Bは、ユーザの設定によりマスタ装置2A及びスレーブ装置2Bのいずれとしても利用可能な電力変換装置2により構成されていてもよい。
【0013】
以下、電力変換装置2の具体的な構成を例示する。電力変換装置2は、上記電力変換回路10と、制御回路100と、電流センサ14U,14V,14Wと、インダクタ15U,15V,15Wとを備える。電力変換回路10は、整流回路11と、コンデンサ12と、インバータ回路13とを有する。整流回路11は、例えばダイオードブリッジ回路であり、電源PS側の三相交流電力を直流電力に変換する。コンデンサ12は、上記直流電力の電圧(以下、「直流母線電圧」という。)を平滑化する。
【0014】
インバータ回路13は、上記直流電力を負荷LD側の三相交流電力に変換する。インバータ回路13は、複数(例えば六つ)のスイッチング素子を有し、スイッチング素子のオン・オフを切り替えることにより、直流電力を三相交流電力に変換する。スイッチング素子は、例えばパワーMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)又はIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等であり、ゲート駆動信号に応じてオン・オフを切り替える。
【0015】
なお、電力変換回路10の構成はあくまで一例である。電力変換回路10は、電源PS側の電力を負荷LD側の電力に変換し得る限りいかようにも構成可能である。例えば整流回路11は、PWMコンバータであってもよい。また、互いに並列な電力変換回路10の直流母線同士が接続されていてもよい。更に、電力変換回路10は、電力の直流化を経ることなく電源PS側の交流電力を負荷LD側の交流電力に変換するマトリクスコンバータであってもよい。
【0016】
電流センサ14U,14V,14Wは、インバータ回路13と負荷LDとの間に流れる電流を検出する。例えば電流センサ14U,14V,14Wは、U相,V相,W相の交流電流をそれぞれ検出する。電流センサ14U,14V,14Wの検出値は、制御回路100による電力変換回路10の制御に用いられる。インダクタ15U,15V,15Wは、互いに並列に接続された電力変換回路10同士の間の循環電流を抑制する。インバータ回路13と負荷LDとの間の配線自体のインダクタンス成分を利用することでインダクタ15U,15V,15Wを省略してもよい。
【0017】
制御回路100は、電力変換装置2をマスタ装置2Aとして動作させるマスタモードで電力変換回路10を制御することと、電力変換装置2をスレーブ装置2Bとして動作させるスレーブモードで電力変換回路10を制御することと、ユーザの入力に応じてマスタモードとスレーブモードとを切り替えることとを実行するように構成されている。
【0018】
マスタモードで電力変換回路10を制御する際に、制御回路100は、電力変換回路10への指令値を生成することと、指令値を所定の上限値以下に制限することと、上限値以下に制限した指令値をスレーブ装置2B(他装置)に送信することと、自装置の電力変換回路10とスレーブ装置2Bの電力変換回路10との間の循環電流を抑制するためにスレーブ装置2Bにおいて指令値に加算された調節値である他装置側調節値を示す補正情報をスレーブ装置2Bから受信することと、電力変換回路10が追従し得る最大の指令値に対する上限値の余裕が他装置側調節値に近付くように上限値を変更することと、を実行する。
【0019】
スレーブモードで電力変換回路10を制御する際に、制御回路100は、自装置の電力変換回路10に対する指令値として、マスタ装置2Aが送信した指令値を受信することと、受信した指令値に自装置用の調節値である自装置側調節値を加算して、自装置の電力変換回路10に対する指令値を補正することと、自装置側調節値を示す情報をマスタ装置2Aに送信することと、を実行する。
【0020】
図2に示すように、制御回路100は、機能上の構成(以下、「機能モジュール」という。)として、電力変換制御部114と、マスタモード制御部120と、スレーブモード制御部130と、モード切替部111と、モード記憶部112とを備える。
【0021】
電力変換制御部114は、指令値に従って電源PS側の電力を負荷LD側の電力に変換するように電力変換回路10を制御する。例えば電力変換制御部114は、電源PS側の電力を指令値に従った負荷LD側の電力に変換するように電力変換回路10を制御する。指令値は、負荷LD側の電力の目標値となり得る値であればいかなる値であってもよい。指令値の具体例としては、電力変換回路10の空間ベクトル制御用の電圧指令値が挙げられる。指令値は、電圧指令値の大きさを変調率で表した変調率指令値であってもよい。
変調率とは、上記直流母線電圧に対する電圧指令値の比率である。例えば電力変換制御部114は、インバータ回路13の出力電圧を指令値に追従させるようにインバータ回路13のスイッチング素子のオン・オフを切り替える。
【0022】
マスタモード制御部120は、電力変換回路10をマスタモードで制御するための指令値(すなわち電力変換装置2をマスタ装置2Aとして動作させるための指令値)を生成して電力変換制御部114に出力する。換言すると、マスタモード制御部120は、電力変換制御部114を介して電力変換回路10をマスタモードで制御する。
【0023】
例えばマスタモード制御部120は、上位コントローラ等から取得した制御目標値に負荷LDを追従させるための目標電流値を算出し、目標電流値と電流検出値(例えば電流センサ14U,14V,14Wによる検出値)との偏差を縮小させるための指令値を比例演算、比例・積分演算、又は比例・積分・微分演算等により算出する。制御目標値の具体例としては、負荷LDの一例である電動モータに対する速度指令値が挙げられる。
【0024】
更に、マスタモード制御部120は、指令値を所定の上限値以下に制限することと、上限値以下に制限した指令値をスレーブ装置2Bに送信することと、自装置の電力変換回路10とスレーブ装置2Bの電力変換回路10との間の循環電流を抑制するためにスレーブ装置2Bにおいて指令値に加算された調節値である他装置側調節値を示す補正情報をスレーブ装置2Bから受信することと、電力変換回路10が追従し得る最大の指令値に対する上限値の余裕が他装置側調節値に近付くように上限値を変更することとを実行する。
【0025】
スレーブモード制御部130は、電力変換回路10をスレーブモードで制御するための指令値(すなわち電力変換装置2をスレーブ装置2Bとして動作させるための指令値)を生成して電力変換制御部114に出力する。換言すると、スレーブモード制御部130は、電力変換制御部114を介して電力変換回路10をスレーブモードで制御する。
【0026】
スレーブモード制御部130は、自装置の電力変換回路10に対する指令値として、マスタ装置2Aのマスタモード制御部120が送信した指令値を受信することと、受信した指令値に自装置側調節値を加算して、自装置の電力変換回路10に対する指令値を補正することとを実行する。更に、スレーブモード制御部130は、自装置側調節値を示す情報をマスタ装置2Aのマスタモード制御部120に送信する。
【0027】
モード切替部111は、ユーザの入力に応じてマスタモード制御部120による制御とスレーブモード制御部130による制御とを切り替える。例えばモード切替部111は、電力変換回路10の制御モードを、ユーザの入力に応じて上記マスタモード及びスレーブモードのいずれかに設定し、設定結果をモード記憶部112に保存する。モード記憶部112が記憶する制御モードがマスタモードである場合には、マスタモード制御部120が指令値を生成して電力変換制御部114に出力する。モード記憶部112が記憶する制御モードがスレーブモードである場合には、スレーブモード制御部130が指令値を生成して電力変換制御部114に出力する。
【0028】
以下、マスタモード制御部120及びスレーブモード制御部130の構成をより詳細に説明する。
図3に示すように、マスタモード制御部120は、より細分化された機能モジュールとして、指令生成部121と、上限値記憶部122と、リミッタ123と、調節値算出部141と、指令補正部142と、指令送信部124と、補正情報受信部126と、上限値変更部127と、電流情報送信部128とを有する。換言すると、マスタモード制御部120は、これらの機能モジュールを用いて自装置の電力変換回路10を制御する。
【0029】
指令生成部121は、自装置の電力変換回路10に対する指令値を生成する。上限値記憶部122は、上記指令値に対し予め設定された上限値を記憶する。リミッタ123は、上記指令値を上限値記憶部122が記憶する上限値以下に制限して指令補正部142に出力する。例えばリミッタ123は、指令生成部121が生成した指令値のうち、上限値を超える部分をカットする。リミッタ123は、上限値を指令生成部121に出力し、指令生成部121に指令値を制限させてもよい。この場合は、指令生成部121が指令補正部142に指令値を出力する。
【0030】
調節値算出部141は、自装置の電力変換回路10の二次側に流れる電流(以下、「自装置電流」という。)に基づいて自装置側調節値(以下、「マスタ側調節値」という。)を算出する。例えば調節値算出部141は、デッドタイム補償用の補正成分、コモンモード(零相)電流抑制用の補正成分等を含むマスタ側調節値を算出する。指令補正部142は、リミッタ123により制限された指令値に調節値算出部141が算出したマスタ側調節値を加算して、自装置の電力変換回路10に対する指令値を補正し、電力変換制御部114に出力する。なお、ここでの加算は、負の値の加算(すなわち絶対値の減算)も含む。
【0031】
指令送信部124は、リミッタ123により制限された指令値(指令補正部142による補正前の指令値)をスレーブ装置2Bに送信する。電力変換システム1が複数のスレーブ装置2Bを備える場合、指令送信部124は、リミッタ123により制限された指令値を複数のスレーブ装置2Bに送信してもよい。
【0032】
補正情報受信部126は、指令送信部124が送信した指令値に対しスレーブ装置2Bにおいて加算された他装置側調節値(以下、「スレーブ側調節値」という。)を示す情報をスレーブ装置2Bから受信する。電力変換システム1が複数のスレーブ装置2Bを備える場合、補正情報受信部126は、複数のスレーブ装置2Bからスレーブ側調節値を示す情報を受信してもよい。スレーブ側調節値を示す情報は、スレーブ側調節値の特定を可能にする情報であればいかなる情報であってもよい。例えば、スレーブ側調節値を示す情報は、スレーブ側調節値自体の大きさを示す数値情報であってもよい。スレーブ側調節値を示す情報は、スレーブ側調節値の加算後の指令値(以下、「補正後の指令値」という。)の大きさを示す数値情報であってもよい。この場合、補正後の指令値から、補正前の指令値(指令生成部121が生成した指令値)を減算することによって、スレーブ側調節値を特定することが可能である。
【0033】
上限値変更部127は、電力変換回路10が追従し得る最大の指令値(以下、「最大指令値」という。)に対する上限値の余裕がスレーブ側調節値に近付くように上限値を変更する。例えば指令値が電圧指令値である場合、最大指令値は直流母線電圧値である。指令値が変調率指令値である場合、最大指令値は1である。なお、電力変換装置2が使用される条件(負荷LDの駆動にて許容される電圧、電流の歪の条件)に応じた制約により、最大指令値は、直流母線電圧値(指令値が変調率指令値である場合の1)よりも小さい場合もある。
【0034】
例えば上限値変更部127は、最大指令値に対する上限値の余裕がスレーブ側調節値に近付くように上限値を算出し、算出結果を上限値記憶部122が記憶する上限値に上書きする。例えば上限値変更部127は、上記余裕がスレーブ側調節値より大きい場合に、上記余裕とスレーブ側調節値との差が縮小するように上限値を大きくする。一方、上限値変更部127は、上記余裕がスレーブ側調節値より小さい場合に、スレーブ側調節値と上記余裕との差が縮小するように上限値を小さくする。
【0035】
一例として、上限値変更部127は、最大指令値に対する上限値の余裕がスレーブ側調節値に一致するように上限値を算出してもよい。上限値変更部127は、最大値指令値に対する上限値の余裕が、スレーブ側調節値に所定のマージンを加算した値に一致するように上限値を算出してもよい。上限値変更部127は、マスタ側調節値がスレーブ側調節値よりも大きい場合には上記余裕がマスタ側調節値に近付くように上限値を算出し、スレーブ側調節値がマスタ側調節値よりも大きい場合には上記余裕がスレーブ側調節値に近付くように上限値を算出してもよい。このように、上記余裕がスレーブ側調節値に近付くように上限値を算出することは、スレーブ側調節値がマスタ側調節値よりも大きい場合に限定して、上記余裕がスレーブ側調節値に近付くように上限値を算出することを含む。
【0036】
補正情報受信部126が複数のスレーブ装置2Bからスレーブ側調節値を示す情報を受信する場合、上限値変更部127は、補正情報受信部126が受信した情報が示す最大のスレーブ側調節値に上記余裕が近付くように上限値を変更してもよい。
【0037】
上限値変更部127は、スレーブ側調節値に基づく上限値の変更を開始する前に、上限値の初期値を上限値記憶部122に保存するように構成されていてもよい。例えば上限値の初期値は、過去のデータ等に基づき想定されるスレーブ側調節値の最大値に対し上記余裕が大きくなるように予め定められている。
【0038】
電流情報送信部128は、自装置の電力変換回路10の負荷LD側に流れる電流の情報をスレーブ装置2Bに送信する。例えば電流情報送信部128は、自装置の電力変換制御部114が電流センサ14U,14V,14Wから取得した電流検出値をスレーブ装置2Bに送信する。
【0039】
図4に示すように、スレーブモード制御部130は、より細分化された機能モジュールとして、指令受信部131と、電流情報受信部132と、循環電流算出部133と、調節値算出部134と、指令補正部135と、補正情報送信部136とを有する。換言すると、スレーブモード制御部130は、これらの機能モジュールを用いて自装置の電力変換回路10を制御する。
【0040】
指令受信部131は、自装置の電力変換回路10に対する指令値として、マスタ装置2Aの指令送信部124から指令値を受信する。電流情報受信部132は、マスタ装置2Aの電力変換回路10の二次側に流れる電流の情報をマスタ装置2Aの電流情報送信部128から受信する。
【0041】
循環電流算出部133は、自装置の電力変換回路10の二次側に流れる電流(以下、「スレーブ電流」という。)と、電流情報受信部132が受信した情報が示す電流(以下、「マスタ電流」という。)との差に基づいて循環電流を算出する。マスタ装置2Aからスレーブ装置2Bに流れる方向を循環電流の正方向とする場合、循環電流算出部133は、マスタ電流からスレーブ電流を減算して循環電流を算出する。反対に、スレーブ装置2Bからマスタ装置2Aに流れる方向を循環電流の正方向とする場合、循環電流算出部133は、スレーブ電流からマスタ電流を減算して循環電流を算出する。
【0042】
調節値算出部134は、循環電流算出部133が算出した循環電流に基づいてスレーブ側調節値を算出する。例えば調節値算出部134は、循環電流を縮小するようにスレーブ側調節値を算出する。一例として、マスタ装置2Aからスレーブ装置2Bに向かう循環電流が生じている場合、調節値算出部134は、当該循環電流の値に比例演算、比例・積分演算、又は比例・積分・微分演算等を施してスレーブ側調節値を算出する。このように算出されたスレーブ側調節値が、自装置の電力変換回路10に対する指令値に加算されることによって、マスタ装置2Aからスレーブ装置2Bに向かう循環電流が縮小される。
【0043】
なお、調節値算出部134は、循環電流の他の情報に更に基づいてスレーブ側調節値を算出してもよい。例えば調節値算出部134は、循環電流の値に比例演算、比例・積分演算、又は比例・積分・微分演算等を施した値に、スレーブ電流に基づく補正成分(例えば、デッドタイム補償用の補正成分、コモンモード(零相)電流抑制用の補正成分)等を加算してスレーブ側調節値を算出してもよい。
【0044】
指令補正部135は、指令受信部131が受信した指令値に調節値算出部134が算出したスレーブ側調節値を加算して、自装置の電力変換回路10に対する指令値を補正し、電力変換制御部114に出力する。なお、ここでの加算は、負の値の加算(すなわち絶対値の減算)も含む。
【0045】
補正情報送信部136は、調節値算出部134が算出したスレーブ側調節値を示す情報をマスタ装置2Aの補正情報受信部126に送信する。上述したように、スレーブ側調節値を示す情報は、スレーブ側調節値の特定を可能にする情報であればいかなる情報であってもよい。
【0046】
図5は、制御回路100のハードウェア構成を例示する図である。
図5に示すように、制御回路100は、一つ又は複数のプロセッサ191と、メモリ192と、ストレージ193と、入出力ポート194と、通信ポート195と、表示デバイス196と、入力デバイス197とを有する。
【0047】
ストレージ193は、電力変換装置2をマスタ装置2Aとして動作させるマスタモードで電力変換回路10を制御することと、電力変換装置2をスレーブ装置2Bとして動作させるスレーブモードで電力変換回路10を制御することと、ユーザの入力に応じてマスタモードとスレーブモードとを切り替えることとを制御回路100に実行させるためのプログラムを記憶している。
【0048】
このプログラムは、マスタモードで電力変換回路10を制御する際に、電力変換回路10への指令値を生成することと、指令値を所定の上限値以下に制限することと、上限値以下に制限した指令値をスレーブ装置2Bに送信することと、自装置の電力変換回路10とスレーブ装置2Bの電力変換回路10との間の循環電流を抑制するためにスレーブ装置2Bにおいて指令値に加算されたスレーブ側調節値を示す補正情報をスレーブ装置2Bから受信することと、電力変換回路10が追従し得る最大の指令値に対する上限値の余裕がスレーブ側調節値に近付くように上限値を変更することと、を制御回路100に実行させるように構成されていてもよい。
【0049】
また、このプログラムは、スレーブモードで電力変換回路10を制御する際に、自装置の電力変換回路10に対する指令値として、マスタ装置2Aが送信した指令値を受信することと、受信した指令値にスレーブ側調節値を加算して、自装置の電力変換回路10に対する指令値を補正することと、スレーブ側調節値を示す情報をマスタ装置2Aに送信することと、を制御回路100に実行させるように構成されていてもよい。
【0050】
例えばストレージ193は、少なくとも一つのハードディスク又は不揮発性メモリ等の記憶媒体であり、上述した制御回路100の機能モジュールを構成するためのプログラムを記憶している。
【0051】
メモリ192は、ストレージ193からロードしたプログラム及びプロセッサ191による演算結果等を一時的に記憶する。プロセッサ191は、メモリ192と協働して上記プログラムを実行する。入出力ポート194は、プロセッサ191からの指令に従って、電力変換回路10及び電流センサ14U,14V,14Wとの間で電気信号の入出力を行う。通信ポート195は、プロセッサ191からの指令に従って、有線又は無線の通信経路を介して他の制御回路100の通信ポート195との情報通信を行う。表示デバイス196は、例えば液晶モニタ等を含み、ユーザに対する情報表示に用いられる。入力デバイス197は、例えばキーボード等であり、ユーザによる入力情報を取得する。表示デバイス196及び入力デバイス197は、所謂タッチパネルのように一体化されていてもよい。
【0052】
〔電力変換方法〕
続いて、電力変換方法の一例として、制御回路100が実行する電力変換制御手順を例示する。この手順は、電力変換装置2をマスタ装置2Aとして動作させるマスタモードで電力変換回路10を制御するマスタモード制御手順と、電力変換装置2をスレーブ装置2Bとして動作させるスレーブモードで電力変換回路10を制御するスレーブモード制御手順と、ユーザの入力に応じてマスタモードとスレーブモードとを切り替える制御モードの切替手順とを含む。以下、各手順を例示する。
【0053】
(マスタモード制御手順)
マスタモード制御手順は、電力変換回路10に対する指令値を生成することと、指令値を所定の上限値以下に制限することと、スレーブ装置2Bに、上限値以下に制限した指令値を送信することと、自装置の電力変換回路10とスレーブ装置2Bの電力変換回路10との間の循環電流を抑制するためにスレーブ装置2Bにおいて指令値に加算されたスレーブ側調節値を示す補正情報をスレーブ装置2Bから受信することと、上記最大指令値に対する上限値の余裕がスレーブ側調節値に近付くように上限値を変更することと、を含む。
【0054】
図6に例示するように、制御回路100は、ステップS01,S02,S03,S04,S05,S06,S07,S08,S09,S10を実行する。ステップS01では、上限値変更部127が、上限値の初期値を上限値記憶部122に保存する。ステップS02では、指令生成部121が、自装置の電力変換回路10に対する指令値を生成する。ステップS03では、リミッタ123が、指令生成部121が生成した指令値を上限値記憶部122が記憶する上限値以下に制限する。ステップS04では、調節値算出部141が上記マスタ側調節値を算出する。ステップS05では、指令補正部142が、リミッタ123により制限された指令値に調節値算出部141が算出したマスタ側調節値を加算して、自装置の電力変換回路10に対する指令値を補正する。ステップS06では、指令送信部124が、リミッタ123により制限された指令値をスレーブ装置2Bの指令受信部131に送信する。ステップS07では、電流情報送信部128が、自装置の電力変換制御部114が電流センサ14U,14V,14Wから取得した電流検出値をスレーブ装置2Bに送信する。
【0055】
ステップS08では、指令補正部142が、補正した指令値を自装置の電力変換制御部114に出力する。これに応じ、電力変換制御部114が、指令値に従って電源PS側の電力を負荷LD側の電力に変換するように電力変換回路10を制御する。ステップS09では、補正情報受信部126が、指令送信部124が送信した指令値に対しスレーブ装置2Bにおいて加算されたスレーブ側調節値を示す情報をスレーブ装置2Bから受信する。
【0056】
ステップS10では、上限値変更部127が、最大指令値に対する上限値の余裕がスレーブ側調節値に近付くように上限値を算出し、算出結果を上限値記憶部122が記憶する上限値に上書きする。その後、制御回路100は処理をステップS02に戻す。以後、変更後の上限値により制限した指令値による電力変換回路10の制御と、スレーブ装置2Bにおけるスレーブ側調節値に基づく上限値の更なる変更とが繰り返される。
【0057】
なお、この手順はあくまで一例であり、適宜変更可能である。例えば、ステップS06における指令値の送信は、少なくとも、ステップS03における指令値の制限とステップS09における補正情報(スレーブ側調節値を示す情報)の受信との間に行われればよく、ステップS07の後に実行されてもよいし、ステップS08の後に実行されてもよい。また、ステップS08における自装置の電流情報送信は、少なくともステップS09における補正情報の受信前に行われればよく、ステップS03における指令値の制限の前に実行されてもよく、ステップS02の指令生成前に実行されてもよい。
【0058】
(スレーブモード制御手順)
スレーブモード制御手順は、自装置の電力変換回路10に対する指令値として、マスタ装置2Aが送信した指令値を受信することと、受信した指令値にスレーブ側調節値を加算して、自装置の電力変換回路10に対する指令値を補正することと、スレーブ側調節値を示す情報をマスタ装置2Aに送信することと、を含む。
【0059】
図7に例示するように、制御回路100は、ステップS11,S12,S13,S14,S15,S16,S17,S18を実行する。ステップS11では、指令受信部131が、マスタ装置2Aの指令送信部124から指令値を受信するのを待機する。ステップS12では、電流情報受信部132が、マスタ装置2Aの電力変換回路10の二次側に流れる電流の情報をマスタ装置2Aの電流情報送信部128から受信するのを待機する。
【0060】
ステップS13では、循環電流算出部133が、自装置の電力変換回路10の二次側に流れる電流(上記スレーブ電流)の情報を自装置の電力変換制御部114から取得する。ステップS14では、循環電流算出部133が、スレーブ電流と、電流情報受信部132が受信した情報が示す電流(上記マスタ電流)との差に基づいて循環電流を算出する。ステップS15では、調節値算出部134が、循環電流算出部133が算出した循環電流に基づいてスレーブ側調節値を算出する。
【0061】
ステップS16では、指令補正部135が、指令受信部131が受信した指令値に調節値算出部134が算出したスレーブ側調節値を加算して、自装置の電力変換回路10に対する指令値を補正する。ステップS17では、指令補正部135が、補正した指令値を自装置の電力変換制御部114に出力する。これに応じ、電力変換制御部114が、指令値に従って電源PS側の電力を負荷LD側の電力に変換するように電力変換回路10を制御する。
【0062】
ステップS18では、補正情報送信部136が、調節値算出部134が算出したスレーブ側調節値を示す情報をマスタ装置2Aの補正情報受信部126に送信する。その後、制御回路100は処理をステップS11に戻す。以後、マスタ装置2Aからの指令値の受信と、受信した指令値の補正及び補正後の指令値による電力変換回路10の制御と、補正情報(スレーブ側調節値を示す情報)のマスタ装置2Aへの送信とが繰り返される。
【0063】
(制御モードの切替手順)
図8に例示するように、制御回路100は、ステップS21,S22を実行する。ステップS21では、モード切替部111が、ユーザによる制御モード設定用の入力を待機する。ステップS22では、モード切替部111が、電力変換回路10の制御モードを、ユーザの入力に応じて上記マスタモード及びスレーブモードのいずれかに設定し、設定結果をモード記憶部112に保存する。制御回路100は、以上の処理を繰り返す。
【0064】
〔本実施形態の効果〕
以上に説明したように、電力変換装置2は、指令値に従って一次側電力を二次側電力に変換する電力変換回路10と、電力変換回路10に対する指令値を生成する指令生成部121と、指令値を所定の上限値以下に制限するリミッタ123と、自装置の電力変換回路10と並列に接続された電力変換回路10を備える他装置に、リミッタ123により制限された指令値を送信する指令送信部124と、他装置において指令値に加算されたスレーブ側調節値を示す情報を他装置から受信する補正情報受信部126と、電力変換回路10が追従し得る最大の指令値に対する上限値の余裕がスレーブ側調節値に近付くように上限値を変更する上限値変更部127と、を備える。上限値変更部127は、余裕がスレーブ側調節値より大きい場合に、余裕とスレーブ側調節値との差が縮小するように上限値を大きくしてもよい。上限値変更部127は、余裕がスレーブ側調節値より小さい場合に、スレーブ側調節値と余裕との差が縮小するように上限値を小さくしてもよい。
【0065】
並列運転における複数の電力変換装置2の出力の安定性を向上させるためには、他装置においてスレーブ側調節値の加算代を確保する必要がある。一方、加算代を確保するために、最大指令値と上限値との間に過大な余裕を設けてしまうと、各電力変換装置2における電圧利用率が過小となる。これに対し、本電力変換装置2によれば、他装置において指令値に加算されたスレーブ側調節値に基づいて余裕が設定される。これにより、スレーブ側調節値の加算代を保ち得る範囲で電圧利用率が最大化される。従って、並列運転における複数の電力変換装置2の出力の安定性と、各電力変換装置2における電圧利用率の向上との両立に有効である。
【0066】
指令送信部124は、複数の他装置に、リミッタ123により制限された指令値を送信し、補正情報受信部126は、複数の他装置からスレーブ側調節値を示す情報を受信し、上限値変更部は、補正情報受信部126が受信した情報が示す最大のスレーブ側調節値に余裕が近付くように上限値を変更してもよい。この場合、電力変換装置2が他の複数の電力変換装置2と並列運転されるシステムにおいて、並列運転における複数の電力変換装置2の出力の安定性と、電圧利用率の向上との両立をより確実に図ることができる。
【0067】
電力変換装置2は、自装置の電力変換回路10に対する指令値として、他装置から指令値を受信する指令受信部131と、指令受信部131が受信した指令値にスレーブ側調節値を加算して、自装置の電力変換回路10に対する指令値を補正する指令補正部135と、スレーブ側調節値を示す情報を他装置に送信する補正情報送信部136と、指令生成部121、リミッタ123、指令送信部124、補正情報受信部126、及び上限値変更部127を用いて自装置の電力変換回路10を制御するマスタモード制御部120と、指令受信部131、指令補正部135、及び補正情報送信部136を用いて自装置の電力変換回路10を制御するスレーブモード制御部130と、ユーザの入力に応じてマスタモード制御部120による制御とスレーブモード制御部130による制御とを切り替えるモード切替部111と、を更に備えていてもよい。この場合、マスタ側及びスレーブ側の装置構成の共通化によって、電力変換装置2の製造効率を向上させることができる。
【0068】
電力変換装置2は、他装置の電力変換回路10の二次側に流れる電流の情報を他装置から受信する電流情報受信部132と、自装置の電力変換回路10の二次側に流れる電流と、電流情報受信部132が受信した情報が示す電流との差に基づいて循環電流を算出する循環電流算出部133と、循環電流算出部133が算出した循環電流に基づいてスレーブ側調節値を算出する調節値算出部134と、を更に備え、スレーブモード制御部130は、電流情報受信部132、循環電流算出部133及び調節値算出部134を更に用いて自装置の電力変換回路10を制御してもよい。この場合、循環電流の抑制と、電圧利用率の向上との両立を図ることができる。
【0069】
以上、実施形態について説明したが、本開示は必ずしも上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。上述した実施形態では、共通の電力変換装置2を設定によりマスタ装置2A及びスレーブ装置2Bに使い分ける例を示したが、これに限られない。例えば、電力変換システム1は、上記マスタモード専用のマスタ装置2Aと、上記スレーブモード専用のスレーブ装置2Bとを備えていてもよい。この場合、マスタ装置2Aはスレーブモード制御部130を有さず、スレーブ装置2Bはマスタモード制御部120を有しない。