(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
    スポーツ選手、アスリート、武道家、などの訓練、各種作業訓練、自己啓発などにおいて、メンタル状態を把握して訓練に活かす試みがなされている。
【0003】
    特許文献1には、機械作業中の作業者の満足感を脳波で計測し、作業者に満足感の状態をフィードバックし、さらには、機械へもフィードバックをかけることが記載されている。この方法は、脳波という生理データから満足感を評価する手法であるが、満足感という感覚は複合的な感覚であり、具体的なメンタル状態を評価することはできない。例えば、リラックスして満足なのか、眠気を生じることで満足なのか、覚醒していることで満足なのか、そのような具体的なメンタル状態は把握できない。
    また、脳波から重要な生理情報を得ることができるが、それだけでは、具体的なメンタル状態を十分評価することは難しい。また、本特許は、作業者に満足感の状態をフィードバックすることができるが、それを知った作業者が自らの意思で自分の状態を変化させて、その効果を把握し、自分のメンタル状態をコントロールすることができるような訓練システムではない。
【0004】
    特許文献2は、ゲームの操作速度(反応速度)と心理状態とACTH(副腎皮質刺激ホルモン)の生理データとの対応関係を把握して、心理状態を判定するシステムである。ACTHでストレスを評価することは一般的であるが、本特許の心理状態がどのような心理状態を把握するかは明確にされておらず、具体的でない。また、心理状態の判定結果をユーザーに知らせるシステムであるが、その結果を受けて、ユーザー自らがメンタル状態をコントロールして心理状態を変化させてその結果を確認できる、という訓練システムではない。ACTHはリアルタイムで結果を出せる指標ではないので、技術的に困難だと思われる。また、ACTHでは、リラックス、覚醒、眠気、緊張などの、具体的なメンタル状態を評価することは難しい。
【0005】
    特許文献3は、脳波を検出して、その脳波情報から快適性を評価し、判定結果に基づいて機器を制御するシステムである。脳波のみで、リラックス、覚醒を脳波で評価することができるとされているが、心電のデータを加えた方が、より精度が上がる。また、本特許は、快適性を評価した結果を受けて、機器を制御するシステムであり、自分で自己のメンタル状態を変化させ、その効果を把握するような訓練システムではない。
【0006】
    特許文献4は、自動車乗員のぼんやり度を運転者の視線の動きをCCDカメラで撮影し、画像解析した結果から判断し、ぼんやり度が高くなる警報を出力する装置である。メンタル状態は、「ぼんやり度」という具体的な内容であるが、生理データではなく、表情を撮影することにより評価する方法である。また、判断結果については、機械へのフィードバックであり、人がその結果を受けて自らのメンタル状態をコントロールすることを試みるものではない。
【0007】
    特許文献5では、乳幼児の生理情報を計測し、心理状態を推定し、乳幼児に異変がおきたと判断された場合は、緊急通報手段で通報を行なうことができるシステムである。生理値は、脈拍を計測しており、眠たくて泣いている、あるいは、うつ伏せ寝で危険な状態にあるかどうか、などを判断することができる。判断結果を知らせることはできるが、人がその結果を受けて自らをコントロールすることを試みるものではない。
【0008】
    上記の特許文献に記載されているように、従来、生理情報を計測し、心理状態を推定し、評価結果を表示する、あるいは、さらに、機械へフィードバックする、というシステムは構築されている。しかし、経時的に、リアルタイムで、被計測者にメンタル状態を提示し続けるシステムではない。そのため、生理計測値から評価され、提示されたメンタル状態を受けて、被計測者が自らのメンタル状態をコントロールする訓練はできない。
【0009】
    また、生理計測値が脳波のみ、唾液(ACTH)のみ、脈拍のみ、という単一の計測値で評価することが多い。もちろん、単一の計測値でもある程度の心理状態は推定できるが、具体的なメンタル状態を精度良く推定するためには、複数の指標を用いることが望ましい。脈拍は自律神経活動を表し、脳波は中枢神経活動を表すので、特定のメンタル状態は評価できるが、複合的で具体的なメンタル状態を評価することは難しい。また、メンタル訓練を目的としていないので、結果を表示した段階でシステムを終了し、結果を受けて訓練をしてその効果を自分で知るシステムではない。または、機械へフィードバックをかける文献が多く、被計測者へ次の具体的方向を指示するシステムにはなっていない。
【0010】
  特許文献6には脳波情報と心電情報の両方を利用してメンタル状態を把握し、被測定者にフィードバックすることによりメンタル訓練を行うメンタル訓練システムが開示されている。脳波情報と心電情報の両方を用いる事によりメンタル状態の的確な把握が可能となる。しかしながら、心電信号がmVレベルであるのに対して、脳波情報はμV程度の微小信号であり、実験室内では信号取得が可能であっても、屋外で、ましてや激しい運動や実作業現場のように雑音が多い環境下での測定は極めて困難である。
【0011】
  さらに、心電測定においても、健康診断にて用いるような心電計を装着した状態で激しいスポーツや実作業を行うことは難しく、加えてそのような測定装置を身体に装着していること自体がストレスであるため、かかる機器を装着した状態のメンタル情報を把握したところで、実際の状態とは解離が生じており、適切な訓練に用いる事は難しい。
 
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
    本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、着用が容易で、かつ着用時に着用者に違和感を与えない衣服型の生体情報計測装置を用いてメンタル状態を把握し、フィードバックすることにより訓練に活かすことができる訓練システムを提供することにある。
 
【課題を解決するための手段】
【0014】
  本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、着用が容易で、かつ着用時に着用者に違和感を与えない衣服型の生体情報計測装置(センシングウェア、またはウェアラブル・スマート・デバイス)を開発し、その衣服型の生体情報計測装置を活かした生体情報提示システムおよびそのシステムを利用した訓練方法を発明した。
【0015】
  すなわち本発明は、以下の構成である。
[1]  被験者の心電情報から得られる、拍動間隔と副交感神経系活動の指標を、直交座標系の各々の座標軸に取り、生体情報を二次元的に図示することにより被験者の心理・生理学状態を表示することを特徴とする生体情報提示システム。
[2]  被験者の心電情報から得られる、拍動間隔と交感神経系活動の指標を、直交座標系の各々の座標軸に取り、生体情報を二次元的に図示することにより被験者の心理・生理学状態を表示することを特徴とする生体情報提示システム。
[3]  前記拍動間隔として、心電信号におけるR波とR波との間隔であるRRIを用いる[1]または[2]に記載の生体情報提示システム。
[4]  拍動間隔を周波数スペクトル変換するステップを含んで得たパワースペクトルを周波数L
f1からL
f2まで定積分した値であるLFと、前記パワースペクトルを周波数H
f1からH
f2まで定積分した値であるHFを算出するステップを有し、前記副交感神経系活動の指標としてHFを、前記交感神経系活動の指標として(LF/HF)を用いることを特徴とする[1]または[2]に記載の生体情報提示システム。
  なお、ここで、H
f1>L
f1、H
f2>L
f2である。
[5]  前記心電情報の取得が衣服型の生体情報計測装置によることを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載の生体情報提示システム。
[6]  前記衣服型の生体情報計測装置が
    20N以下の20%伸張応力を有する生地を少なくとも用いており、
    衣服圧が0.1kPa以上1.5kPa以下であり、
    衣服圧が0.3kPa以上となる部分に皮膚接触型電極を有する
事を特徴とする[1]〜[5]のいずれかに記載の生体情報提示システム。
[7]  前記皮膚接触型電極が、導電性ファブリックを用いた電極である事を特徴とする[6]に記載の生体情報提示システム。
[8]  前記皮膚接触型電極が、伸縮性導体組成物を用いた電極である事を特徴とする[6]に記載の生体情報提示システム。
[9]  前記皮膚接触型電極が、導電性ゲルを用いた電極である事を特徴とする[6]に記載の生体情報提示システム。
[10]  前記表示された被験者の心理・生理学状態に応じて、あらかじめケースバイケースに準備された行動指示を被験者に伝える手段を有する事を特徴とする[1]〜[9]のいずれかに記載の生体情報提示システム。
[11]  前記[1]〜[10]のいずれかに記載の生体情報提示システムを用いて、作業訓練を行う事を特徴とする訓練方法。
[12]  前記作業がスポーツである事を特徴とする[10]または[11]に記載の訓練方法。
[13]  前記作業が楽器演奏であることを特徴とする[10]または[11]に記載の訓練方法。
[14]  前記作業が機械操作である事を特徴とする[10]または[11]に記載の訓練方法。
【0016】
  さらに本発明は以下の構成を有する事が好ましい。
[15]  前記[4]または[5]に記載の衣服型の生体情報計測装置が、伸縮性導電材料からなる配線を有することを特徴とする生体情報提示システム。
[16]  前記伸縮性導電材料として、伸縮性の導体組成物の層(フィルム、シート、メンブレン)を用いる事を特徴とする生体情報提示システム。
[17]  前記伸縮性導電材料として、ジグザグステッチにて生地に縫い込んだ導電性糸を用いる事を特徴とする生体情報提示システム。
[18]  前記伸縮性導電材料として、ニット編み地に組み込んだ導電糸を用いる事をT句チュとする生体情報提示システム。
[19]  前記伸縮性導電材料として、冗長性を持って配置された電線ないし金属箔パターン等を用いる事を特徴とする生体情報提示システム。
[20]  被験者の心電情報から得られる、拍動間隔と副交感神経系活動の指標を、直交座標系の各々の座標軸に取り、二次元的に図示した生体情報と、拍動間隔と交感神経系活動の指標を、直交座標系の各々の座標軸に取り、二次元的に図示した生体情報の両方を同時に提示することを特徴とする[3]〜[10]、[15]〜[19]のいずれかに記載の生体情報提示システムおよび[11]〜[14]のいずれかに記載の訓練方法。
 
【発明の効果】
【0017】
  本発明における拍動間隔は、肉体が直接的に受けているストレスを反映した値と云える。一方で副交感神経活動の指標は自律神経のリラックス度合いを表す指標で有り、交感神経活動の指標は自律神経の活性度合いを表す指標である。本発明では拍動間隔を例えば横軸に、副交感神経活動系の指標ないし(あるいは)交感神経活動の指標を縦軸に取り、まず、平常時の各々の状態をプロットし、次いで訓練(トレーニング)時、あるいは試合時などの状態をプロットすることにより、平常時に比較してストレス下にある場合、自律神経系の活動がどのように活性化しているかを本人ないしはコーチが直観的に把握することができる。
  かかるシステムを利用して訓練を行う事により、交感神経活動、副交感神経活動を意識的にコントロールすることができるようになる。かかる訓練を繰り返すことにより、本試合時に必要以上に緊張したり、あるいは弛緩しすぎていたりすることがないように矯正することができるようになる。さらに、あらかじめ個人の特性に応じて、被験者の心理・生理学状態に応じた行動指示をストックしておき、提示された生体情報に応じてかかる指示を自動的に、ないしは被験者の操作により出す仕組みを取り入れておけば、さらに自律的な訓練が可能となり、試合時などコーチの指示を受けることが出来ない場合にも、本システムを有効に用いる事ができる。
【0018】
  本発明では、脳波情報を用いる事無く、心電情報だけで、訓練に必要な情報を得ることが出来る。脳波情報は心電信号に比較して微弱であり、ノイズに弱いため、特にIn−Situにて検出することが難しい。また脳波取得のためには頭部に電極を設置しなくてはならず、激しい動きや、衝突などが生じる可能性のある動作時には取得が困難である。本発明では心電情報のみを用いて、肉体が直接的に受けているストレスを反映した値と同時に副交感神経活動の指標、交感神経活動の指標といった心理・精神面が作用しやすい自律神経の活性度合いを得ることができ、さらにそれらを二次元的に表現することにより、心電情報のみを用いて心理・生理学状態を把握することが可能となる。  
【0019】
  また、本発明においては衣服型の生体情報計測装置を用いて心電情報を取得することが好ましく、かかる衣服型の生体情報計測装置は、適度な衣服圧を有するため、着用者に違和感を抱かせずに着用させることができる。さらに生体情報を検出するための皮膚接触型電極を適切な接触圧の部分に配置するため、信号取得が確実に行え、しかも電極部に特有の違和感を着用者に与えない。結果として生体情報計測装置を着用した状態で、スポーツ、作業、などの動作を自然な状態で行う事が出来るため、自然な心電情報をIn−Situに取得することができる。また生体情報計測装置が人体に比較的緊密に接しているために人体自体が雑音のバッファとして作用し、SN比が改善される。
 
 
【発明を実施するための形態】
【0021】
  本発明の生体情報計測装置において心電情報から拍動間隔、副交感神経活動の指標、交感神経活動の指標を求める方法に付いて説明する。
  心電情報は電気信号として取得できる。これらは生体接触型電極を介して経時的に電圧測定を行えば良い。
  拍動間隔とは心拍あるいは脈拍の間隔を指す(単位:ms)。心拍間隔は、心電図からR波とR波の間隔を読み取ること、あるいは隣り合う心拍同士の間隔を計測することにより取得する。脈拍間隔は、隣り合う脈拍同士の間隔を計測することにより取得する。拍動間隔またはその揺動は、精神神経の状態を示しているといわれている。拍動間隔またはその搖動は、身体的・精神的ストレスの指標になるといわれており、自律神経系である交感神経・副交感神経の精神神経状態のバランスを反映している。
 
【0022】
  拍動間隔として、心電信号におけるR波とR波との間隔であるRR間隔(以下、「RRI」と記載する)を用いることが好ましい。RRIは信号のピークがはっきり出ることによりピーク位置の誤認識が起こりにくいため、拍動間隔の精度を高められる。
 
【0023】
  本発明の交感神経系活動の指標、副交感神経系活動の指標としては、拍動間隔を周波数スペクトル解析して得られた値を用いることが出来る。より具体的には、拍動間隔を周波数スペクトル変換するステップを含んで得たパワースペクトルを周波数L
f1からL
f2まで定積分した値であるLFと、前記パワースペクトルを周波数H
f1からH
f2まで定積分した値であるHFを算出するステップを有し、前記副交感神経系活動の指標としてHFを、前記交感神経系活動の指標として(LF/HF)を用いることができる。なお、ここで、H
f1>L
f1、H
f2>L
f2である。
 
【0024】
  例えば、LFは、時間信号fである拍動間隔を周波数スペクトル変換したもの(周波数スペクトルF)を二乗することにより得られるパワースペクトルF2(第1のパワースペクトル)を周波数L
f1からL
f2まで定積分した値であり、HFは、前記パワースペクトルF2(第1のパワースペクトル)を周波数H
f1(>L
f1)からH
f2(>L
f2)まで定積分した値とすることができる。
  第1のパワースペクトルF
2を用いて計算されるLF、HFの単位はms
2である。周波数スペクトル変換の方法としては、例えば高速フーリエ変換(FFT)、ウェーブレット解析、最大エントロピー法などを用いることができる。なお、本明細書においては、FFTを用いた場合を例として説明するが、もちろん他の方法を用いることも可能である。
 
【0025】
  LF、HFの詳細な算出方法について、
図2を用いて説明する。
図2は、本発明に係るパワースペクトル積分の説明図である。
図2の縦軸はパワースペクトル密度(単位:ms2/Hz)であり、横軸は周波数(単位:Hz)である。LFは、パワースペクトル(例えば第1のパワースペクトルF2)を例えば0.04Hz(L
f1)から0.15Hz(L
f2)まで定積分した値であり、
図1において斜線によりハッチングがされている部分の面積である。ここで、Lf1<L
f2である。一方、HFは、パワースペクトル(例えば第1のパワースペクトルF2)を例えば0.15Hz(H
f1)から0.4Hz(H
f2)まで定積分した値であり、
図2において縦線によりハッチングがされている部分の面積である。ここで、H
f1<H
f2である。
図2では、L
f2とH
f1がいずれも0.15Hzと等しくなるように積分範囲を設定したが、L
f1<H
f1およびL
f2<H
f2の関係を満たしていれば、L
f2とH
f1は同一の値であっても異なる値でもよい。ここでは、パワースペクトル積分の方法を、第1のパワースペクトルF2を用いて説明したが、第2のパワースペクトルFによる定積分も同様に行うことができる。
 
【0026】
  周波数スペクトル変換により得られるパワースペクトルは、血圧の変動に由来する成分でMayer−Wave関連成分ともいわれるLFと、呼吸に由来する成分HFとに分けられる。血圧変動成分LFは0.1Hz周辺のパワースペクトルであり、交感神経活動と副交感神経活動の双方に関連している。一方、呼吸由来の成分HFは0.3Hz周辺のパワースペクトルで、副交感神経活動に関連していると考えられている。以上のことから、交感神経活動および副交感神経活動を示すLFの積分範囲は、少なくとも0.1Hzを含み、L
f1<0.1<L
f2であることが好ましい。また、L
f1は0.03Hz以上であることがより好ましく、0.04Hz以上であることがさらに好ましい。また、L
f1は、0.05Hz以下であることが好ましく、0.045Hz以下であることがより好ましい。L
f2は0.13Hz以上であることが好ましく、0.14Hz以上であることがより好ましく、また、0.16Hz以下であることがより好ましく、0.15Hz以下であることがよりさらに好ましい。また、副交感神経活動を示すHFの積分範囲は、少なくとも0.3Hzを含み、H
f1<0.3<H
f2であることが好ましい。H
f1は0.14Hz以上であることがより好ましく、0.15Hz以上であることがさらに好ましく、また、0.17Hz以下であってもよく、0.16Hz以下であってもよいい。H
f2は0.38Hz以上であることが好ましく、0.39Hz以上であることがより好ましく、また、0.41Hz以下であることがより好ましく、0.4Hz以下であることがさらに好ましい。
 
【0027】
  発明者らの検討の結果、集中した作業時には、RRIが小さくなり、かつ、副交感神経系活動が小さくなる、または、RRIが小さくなり、かつ、交感神経系活動が小さくなる現象が観察され、RRIと副交感神経系活動の指標、または、RRIと交感神経系活動の指標の二次元的に図示することにより被験者の心理・生理学状態を表示することができることがわかった。
 
【0028】
  例えば、作業者が最も良い心理・生理学状態と考える時のRRIと副交感神経系活動の指標、または、RRIと交感神経系活動の指標を把握しておけば、イメージ訓練、メンタル訓練の際に、RRIと副交感神経系活動の指標、または、RRIと交感神経系活動の指標とが、その領域に近づくように訓練することができる。
 
【0029】
  本発明において、心電情報は生体接触型電極を介して経時的に電圧測定を行って得ることができる。なお電圧測定部の入力インピーダンスは100kΩ以上、好ましくは300kΩ以上、さらに好ましくは1MΩ以上である。上限は特に規定されない。
 
【0030】
  本発明の衣服型生体情報計測装置の母体となる衣服は20%伸張応力が20N以下である生地により作成される。また衣服圧は0.1kPa以上1.5kPa以下となるように設定される。衣服圧は標準体系の持ち主を前提としているが、衣服圧の許容範囲に入りように被験者の体系と衣服のサイズを調整すれば良い。
  本発明では衣服圧が0.3kPa以上となる部分に皮膚接触型電極を配置する。一般に皮膚接触型電極は、確実なコンタクトを欲するために、必要以上の圧力で身体に接触させることが多い。しかしながら、そのような配置では被験者から違和感を取り除くことはできず、有効な生体情報を取得することはできない。
 
【0031】
  本発明では心電情報の代わりに、生体電位ではなく、血流量の変化を捉える脈波情報を用いる事も出来る。脈波は手首、または手指で計測することができる。また心電情報と心臓から離れた位置での脈波情報との差分から血圧に関連するパラメータを算出することが可能である。
 
【0032】
  次に、検出手段からの信号を処理する信号処理手段について説明する。心電情報からはR波の検出し、R波とR波との時間間隔(RRI)を求める。R波は心電情報の波形の中で、最も振幅の大きい波である。
図1に典型的な心電波形を示す。
 
【0033】
  本発明においては、被験者に違和感を与えない生体情報計測環境を実現しているため、脳波情報を用いず、心電情報のみからでもメンタル状態を評価することができる。
 
【0034】
    次に、メンタル評価結果を被計測者にリアルタイムに経時的に提示し続ける評価結果表示手段について説明する。心電信号からRRIと副交感神経活動の指標、およびまたは交感神経活動の指標を導出した信号処理結果を、モニター画面に提示する。
  好ましくは、経時変化がわかるように、X軸に心電情報のRRIを、Y軸に副交感神経活動の指標と交感神経活動の指標をとり、単位時間当たり(たとえば1秒毎)の値をプロットし続ける。時間経過を分かりやすくするために、色の濃度を経時的に変える、あるいは、1分毎に色を変える、などの方法をとると望ましい。長時間訓練するときは、表示間隔を1秒ではなく、もっと間隔を長くして結果を表示することも可能である。
 
【0035】
  訓練を開始して最初のプロットは中央を開始とする。そうすることで、変化を分かりやすく表示することができる。X軸、Y軸のレンジも、画面全体を使って表示できるように、プロットが増えてくるに従いレンジを変更して表示すると良い。このようにして生理学的−心理学的生体情報を視覚化して提示することができる。なお本発明においてリアルタイムとはメンタル情報評価結果を得られる都度表示していくことを意味する。評価演算に時間を要する場合には、表示までにその時間分遅れることは容認される。
 
【0036】
  次に、具体的推奨行動を提示する行動提示手段について説明する。被計測者自身が操作する場合には、メンタル状態評価結果を見て、よりリラックスしたいと思った場合は、モニター上の希望メンタル選択画面の「リラックス」を選択する。それを受けて、「目を瞑って深呼吸をしてください」などの指示をモニターに表示する。より緊張状態にしたいという選択をされた場合は、「呼吸を故意に速くしてください」などの指示をモニター上に表示する。
 
【0037】
  被計測者がメンタル状態評価結果を見て、より覚醒したいと思った場合は、モニター上の希望のメンタル選択画面の「覚醒」を選択する。それを受けて、「目を瞑って趣味などの楽しみな予定を考えてください」などの指示をモニター上に表示する。より眠たくなりたい、という選択をされた場合は、「目を瞑って何も考えないようにしてください」などの指示をモニター上に表示する。具体的指示の内容は、上述の内容に限定されない。柔軟体操の指示や、食べ物を食べる指示も含まれる。また、メンタル状態を維持したい場合は、維持したいことを表す選択「変化無し」を選定する。これらの指示は、定時的に、あるいは心理生理学状態が大きく変化した際に危機側がそれを自動的に検知して、自動的に指示を提示するようにしてもよい。かかる表示方法は本発明の一例であり、これに限定されるものではない。
 
【0038】
  以上は、被験者自身が提示結果を見て操作する場合についての説明であったが、監督者、トレーナーが提示結果を見て、適宜行動提示を行う事も出来る。本システムを活用することにより、生理学データに基づいた適切な行動提示を行う事ができるようになり、より良質な訓練が行える。
 
【0039】
  本発明における皮膚接触型電極としては導電性ファブリックを用いた電極を用いることができる。導電性ファブリックとは少なくとも導電糸を含む繊維からなる織布、不織布、編物、刺繍糸、縫糸などである。
  上記導電糸とは、繊維長1cmあたりの抵抗値が100Ω以下の糸が好ましい。上記導電糸とは、導電性繊維、導電性繊維の繊維束、導電性繊維を含む繊維から得られる撚糸、組み糸、紡績糸、混紡糸、金属線を極細に延伸した極細金属線、フィルムを極細の繊維状に切断した極細フィルムの総称である。
  上記導電性繊維としては、例えば、金属で被覆された化学繊維または天然繊維、導電性金属酸化物で被覆された化学繊維または天然繊維、グラファイト、カーボン、カーボンナノチューブ、グラフェンなどのカーボン系導電性材料で被覆された化学繊維または天然繊維、導電性高分子で被覆された化学繊維または天然繊維などが挙げられる。
  また、上記導電性繊維として、例えば、金属、導電性金属酸化物、カーボン系導電性材料、および導電性高分子よりなる群から選ばれる少なくとも1種の導電性材料を含む高分子材料を紡糸して得られた繊維を用いることができる。
  上記導電性繊維の繊維束としては、例えば、上記導電性繊維のマイクロファイバーやナノファイバーなどからなる繊維束に、導電性フィラーや導電性高分子等を担持、含浸させて得られたものを用いることができる。
 
【0040】
  上記導電糸として、上記導電性繊維を含む繊維を用いて得られた撚糸、組み糸、紡績糸、混紡糸など用いてもよい。上記導電糸には、金属線を極細に延伸した極細金属線も包含される。
  上記導電性繊維、上記導電性繊維の繊維束、上記導電性繊維を含む繊維から得られる撚糸、組み糸、紡績糸、混紡糸、上記極細金属線の平均直径は、250μm以下が好ましく、より好ましくは120μm以下、更に好ましくは80μm以下、特に好ましくは50μm以下である。
  上記導電糸には、フィルムを極細の繊維状に切断した極細フィルムも包含され、上記極細フィルムとは、金属、導電性金属酸化物、カーボン系導電性材料、および導電性高分子よりなる群から選ばれる少なくとも1種の導電性材料を被覆した高分子フィルムを幅800μm以下に切断して得られた繊維状フィルムを意味する。
  上記導電糸のなかでも、金属で被覆された化学繊維、導電性高分子を担持、含浸させた導電性繊維の繊維束、および平均直径が50μm以下の極細金属線よりなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
 
【0041】
  上記導電性ファブリックとしては、具体的には、非導電性の布帛に導電糸を刺繍した繊維構造体、非導電性の布帛に導電性高分子含有溶液を含浸、乾燥させた繊維構造体、導電性フィラーとバインダ樹脂とを含む溶液を含浸、乾燥させた繊維構造体などが挙げられる。これらのなかでも、非導電性の布帛に導電性高分子含有溶液を含浸、乾燥させた繊維構造体を用いることが好ましい。
  上記導電性高分子としては、例えば、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸とを含む混合物を好ましく用いることができる。
  上記導電糸を含む繊維としては、合成繊維マルチフィラメントが好ましく、該合成繊維マルチフィラメントの少なくとも一部が、繊度が30dtex未満の極細フィラメントであるか、或いは、繊度が400dtexを超え、かつ単糸繊度が0.2dtex以下の合成繊維マルチフィラメントであることが好ましい。
  上記導電性ファブリックが、導電糸を含む繊維で構成された織物であるか、編み物である場合は、目付けは50g/m
2未満が好ましく、導電性高分子の脱落を防止できる。また、目付けは300g/m
2を超えることが好ましく、充分な導電性を確保できる。
 
【0042】
  本発明の皮膚接触電極としては、伸縮性導体組成物を用いた電極を用いる事ができる。上記伸縮性導体層とは、伸縮性を有し、且つ比抵抗が1×10
0Ωcm以下の層を意味する。上記伸縮性とは、導電性を保った状態で、繰り返し10%以上の伸縮が可能であることを意味する。上記伸縮性導体層は、層単独で40%以上の破断伸度を有することが好ましい。破断伸度は、より好ましくは50%以上、更に好ましくは80%以上である。
  破断伸度は、導電性ペーストを離型シート上に所定の膜厚に塗布し、乾燥後に剥離し、引張試験を行って測定できる。
  上記伸縮性導体層は、引張弾性率が10〜500MPaであることが好ましい。
  上記伸縮性導体層の平均厚さは、例えば20μm以上が好ましく、50μm以下が好ましい。平均厚さは、より好ましくは500μm以下、更に好ましくは250μm以下、特に好ましくは90μm以下である。
 
【0043】
  このような伸縮性導体層を形成できる材料を、以下、伸縮性導体層用組成物とよぶことがある。上記伸縮性導体層は、例えば、伸縮性導体層用組成物として導電性ペーストを用いて形成できる。
  導電性ペーストは、少なくとも(i)導電性粒子、(ii)柔軟性樹脂、および(iii)溶剤を含むものである。
 
【0044】
  (i)導電性粒子
  上記導電性粒子とは、比抵抗が1×10
-1Ωcm以下の粒子を意味する。
  上記比抵抗が1×10
-1Ωcm以下の粒子としては、例えば、金属粒子、合金粒子、カーボン粒子、カーボンナノチューブ粒子、ドーピングされた半導体粒子、導電性高分子粒子、ハイブリッド粒子などが挙げられる。
  上記金属粒子としては、例えば、銀粒子、金粒子、白金粒子、パラジウム粒子、銅粒子、ニッケル粒子、アルミニウム粒子、亜鉛粒子、鉛粒子、錫粒子などが挙げられる。
  上記合金粒子としては、例えば、黄銅粒子、青銅粒子、白銅粒子、半田粒子などが挙げられる。上記ドーピングされた半導体粒子としては、例えば、錫の酸化物、インジウムと錫の複合酸化物などが挙げられる。上記導電性高分子粒子としては、例えば、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸とを含む混合物からなる粒子や、金属被覆した高分子粒子が挙げられる。上記ハイブリッド粒子としては、例えば、金属被覆した金属粒子、金属被覆したガラス粒子、金属被覆したセラミック粒子などが挙げられる。上記金属被覆した金属粒子としては、例えば、銀被覆銅粒子が挙げられる。
 
【0045】
  上記導電性粒子の平均粒子径は、例えば、100μm以下が好ましく、より好ましくは30μm以下、更に好ましくは12μm以下である。上記平均粒子径の下限は特に限定されないが、例えば、0.08μm以上である。
 
【0046】
  上記粒子は、例えば、フレーク状粉であってもよいし、不定形凝集粉であってもよい。例えば、上記銀粒子としては、フレーク状銀粒子や不定形凝集銀粉を用いることができる。
  上記フレーク状粉の平均粒子径は、動的光散乱法により測定した平均粒子径(50%D)が、例えば、0.5〜20μmであるものが好ましい。平均粒子径が0.5μm未満では、粒子同士が接触できないことがあり、導電性が悪化するおそれがある。平均粒子径は、より好ましくは3μm以上、更に好ましくは5μm以上である。しかし、平均粒子径が20μmを超えると、微細な配線の形成が困難になることがある。また、スクリーン印刷などを行うと、目詰まりすることがある。平均粒子径は、より好ましくは15μm以下、更に好ましくは12μm以下である。
  上記不定形凝集粉の平均粒子径は、光錯乱法により測定した平均粒子径(50%D)が、例えば、1〜20μmであるものが好ましい。平均粒子径が1μm未満では、凝集粉としての効果が失われ、導電性を維持できないことがある。平均粒子径は、より好ましくは3μm以上、更に好ましくは5μm以上である。しかし、平均粒子径が20μmを超えると、溶剤への分散性が低下し、ペースト化が難しくなる。平均粒子径は、より好ましくは15μm以下、更に好ましくは12μm以下である。
 
【0047】
  (ii)柔軟性樹脂
  上記柔軟性樹脂とは、弾性率が1〜1000MPaの熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ゴムなどを用いることができる。膜の伸縮性を発現させるために、ゴムを用いることが好ましい。上記弾性率は、好ましくは3MPa以上、より好ましくは10MPa以上、更に好ましくは30MPa以上である。上記弾性率は、好ましくは600MPa以下、より好ましく500MPa以下、更に好ましくは300MPa以下である。
  上記熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリエステルなどを用いることができる。上記熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂などを用いることができる。
 
【0048】
  上記ゴムとしては、例えば、ウレタンゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム、ブタジエンゴム、ニトリルゴムや水素化ニトリルゴムなどのニトリル基含有ゴム、イソプレンゴム、硫化ゴム、スチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、クロロプレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、エチレンプロピレンゴム、フッ化ビニリデンコポリマーなどが挙げられる。これらの中でも、ニトリル基含有ゴム、クロロプレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴムが好ましく、ニトリル基含有ゴムが特に好ましい。
  上記ニトリル基含有ゴムは、ニトリル基を含有するゴムやエラストマーであれば特に限定されず、例えば、ニトリルゴムと水素化ニトリルゴムが好ましい。ニトリルゴムはブタジエンとアクリロニトリルの共重合体であり、結合アクリロニトリル量が多いと金属との親和性が増加するが、伸縮性に寄与するゴム弾性は逆に減少する。従って、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム中の結合アクリロニトリル量は18〜50質量%が好ましく、より好ましくは40〜50質量%である。
 
【0049】
  上記柔軟性樹脂の配合量は、導電性粒子と柔軟性樹脂の合計に対して、7〜35質量%であり、より好ましくは9質量%以上、更に好ましくは12質量%以上、より好ましくは28質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。
 
【0050】
  (iii)溶剤
  上記溶剤は特に限定されず、公知の有機溶媒または水系溶媒を用いることができる。
  上記電極の表面、即ち、装着者の肌に接触する側には、電極表面層を有することが好ましい。一方、上記電極と上記布帛部との境界には、絶縁性を高めるために、下地層を有することが好ましい。
 
【0051】
  (電極表面層)
  上記電極表面層としては、例えば、貴金属メッキ層、不動態形成により酸化しにくい金属層、耐食性合金層、カーボン層、伸縮性導電層などが挙げられ、単独で、あるいは2種以上を積層して設けてもよい。
  上記貴金属メッキ層としては、例えば、金、銀、白金、ロジウム、およびルテニウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の層が挙げられる。
  上記不動態形成により酸化しにくい金属層としては、例えば、クロム、モリブデン、タングステン、およびニッケルよりなる群から選ばれる1種の層が挙げられる。
  上記耐食性合金層としては、例えば、モネル合金などの層が挙げられる。
  上記カーボン層は、上記電極の表面に、例えば、カーボンペーストなどを印刷して層を形成することが好ましい。
  上記伸縮性導電層としては、例えば、導電性フィラーと柔軟性樹脂などを含む伸縮性導電組成物を用いて層を形成することが好ましい。
 
【0052】
  本発明の皮膚接触型電極としては導電性ゲルを用いることができる、ここに導電性ゲルとは医療機器において用いる皮膚接触型電極の表面に用いられるゲル電極材料と解釈して良い。
 
【実施例】
【0053】
[導電ペーストの調整]
  バインダとして、三洋化成工業株式会社製コートロンKYU−1(ガラス転移温度−35℃)、銀粒子として三井金属鉱業株式会社製微小径銀粉SPH02J(平均粒子径1.2μm)、カーボン粒子としてライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製ケッチェンブラックEC600JD、溶剤としてブチルカルビトールアセテートを用い、バインダ10質量部、銀粒子70質量部、カーボン粒子1質量部、溶剤19質量部の配合において伸縮性導体形成用の導電ペーストを調整した。  まず、所定の溶剤量の半分量の溶剤にバインダ樹脂を溶解し、得られた溶液に金属系粒子、炭素系粒子を添加して予備混合の後、三本ロールミルにて分散することによりペースト化した。
  得られた伸縮性導体形成用ペーストを厚さが25μmとなるようにスクリーン印刷し、100度にて20分間乾燥して得られた伸縮性導体層(伸縮性導体シート)は、初期の比抵抗が250μΩ・cmであり20%伸張を100回繰り返した後も導電性を維持するストレッチャビリティを有していた。
【0054】
[伸縮性カーボンペーストの調製]
表2に示す組成により、電極保護層用のカーボンペーストを調整した。
  ガラス転移温度が−19℃のニトリルブタジエンゴム樹脂を40質量部、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製ケッチェンブラックEC300Jを20質量部、溶剤としてエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート50質量部を予備核酸の後三本ロールミルにて分散化し、伸縮性カーボンペーストを得た。
【0055】
  表面をシリコーン系離型剤により処理されたPET製離型シートに、電極部分とコネクタ部が切り抜かれた所定形状のウレタンシート(絶縁カバー層に相当)を仮接着し、電極部分に伸縮性カーボンペーストをスクリーン印刷し、さらに伸縮性導体ペーストを電極部分からコネクタ位置まで所定パターンで印刷し、さらにウレタンシートを覆うように両面ホットメルトシート(絶縁下地層に相当)をラミネートして離型シート上に電極と配線を形成した。
  得られた離型シート上に形成された電極と配線は、衣服用の生地に両面ホットメルトシート側が触れるように重ね、ホットプレスにより加熱加圧することにより電極と配線を絶縁下地層、絶縁カバー層とともに電極支持部に転写することができる。
【0056】
<実施例1>
  20%伸張応力が7Nの生地を用いたスポーツシャツの胸部分に20%伸張応力が0.5Nである伸縮性導体組成物からなる心電情報計測用電極、同じ素材を用いて腕回りに筋電分布測定電極(左右の腕の各々に各8点を配置)を取り付け、さらに20%伸張応力が1.2Nである伸縮性キャパシタを胸回りに設置し、電極電位と伸縮性キャパシタの容量変化を検出し、携帯端末に送信するための電子ユニット取り付けて、心電情報、筋電分布情報、呼吸情報を同時測定することができる衣服型の生体情報計測装置を作成した。得られた生体情報計測装置を被験者に着用させたところ、最大衣服圧は0.6kPa、心電情報計測用電極設置部の衣服圧は0.4kPa、筋電測定電極設置部の衣服圧は0.6kPaであった。なお伸縮性導体組成物による電極は先に得られた、離型シート上に形成された電極と配線をホットプレスにより転写することにより作製した。前記電子ユニットには温度計、GPSによる位置情報、XYZ各軸への加速度センサが搭載されており、同様に携帯端末に情報送信が可能である。
【0057】
  衣服型の生体情報計測装置から得られた心電情報から、RRI、副交感神経系活動の指標、交感神経活動の指標を求め、RRIと副交感神経活動の指標をそれぞれXY軸に用いたチャート、およびRRIと交感神経活動の指標をそれぞれXY軸に用いたチャートを描画し、タブレット端末に表示するようにして生体情報提示システムを得た。
  衣服型生体情報計測装置を被験者に着用させ、タブレットをトレーナーが観察するようにした。被験者は自動車レースのドライバーである。非乗車時(待機中)、イメトレ時(イメージトレーニング中)、乗車時(本戦レース中)の被験者の基本的パラメータ:心電(心拍)、呼吸、筋電、体表面温度を検出し、心電情報からRRI、交感神経活動の指標、副交感神経活動の指標を算出し被験者の緊張・リラックス度合いをタブレット端末にて監督者であるトレーナーが観測しつつ、適宜指示を出しながら訓練および、本戦レース競技を行った。
  結果、被験者のメンタル状態、生理学状態(疲労状態など)をもとに神経集中しつつも、過度に緊張しない状態に誘導するように指示をだすことができた。
【0058】
<実施例2>
  20%伸張応力が5Nの生地を用いたスポーツブラジャーのアンダーバスト部分に導電性ファブリックからなる心電情報計測用電極と、20%伸張応力が1.2Nである伸縮性キャパシタを設置し、電極電位と伸縮性キャパシタの容量変化を検出し、携帯端末に送信するための電子ユニット取り付けて、心電情報と呼吸情報を同時測定することができる衣服型の生体情報計測装置を作成した。得られた生体情報計測装置を被験者に着用させたところ、最大衣服圧は0.85kPa、心電情報計測用電極設置部の衣服圧は0.8kPaであった。
【0059】
   実施例1と同様に、得られた心電情報から、RRI、副交感神経系活動の指標、交感神経活動の指標を求め、RRIと副交感神経活動の指標をそれぞれXY軸に用いたチャート、およびRRIと交感神経活動の指標をそれぞれXY軸に用いたチャートを描画し、タブレット端末に表示するようにして生体情報提示システムを得た。
  衣服型生体情報計測装置を被験者に着用させ、タブレットをトレーナーが観察するようにして、被験者のトレーニングを行った、被験者は声楽家である。実施例1と同様に被験者の各種パラメータを練習時、リハーサル時、ゲネプロ時、リサイタル(本番)時に取得し、本番舞台に向かう際のイメージトレーニングに活用した結果、リサイタル時にも必要以上に緊張することなく、伸びやかな芸術表現が行えるようになった。