特許第6825810号(P6825810)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6825810炭素鎖延長反応による不飽和脂肪酸の化学変換方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6825810
(24)【登録日】2021年1月18日
(45)【発行日】2021年2月3日
(54)【発明の名称】炭素鎖延長反応による不飽和脂肪酸の化学変換方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/32 20060101AFI20210121BHJP
   C07C 69/587 20060101ALI20210121BHJP
【FI】
   C07C67/32
   C07C69/587
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-559793(P2015-559793)
(86)(22)【出願日】2015年1月14日
(86)【国際出願番号】JP2015000130
(87)【国際公開番号】WO2015115032
(87)【国際公開日】20150806
【審査請求日】2017年11月1日
【審判番号】不服2019-8717(P2019-8717/J1)
【審判請求日】2019年6月28日
(31)【優先権主張番号】特願2014-18354(P2014-18354)
(32)【優先日】2014年2月3日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】391007356
【氏名又は名称】備前化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】清水 芳雄
(72)【発明者】
【氏名】馬場 直道
(72)【発明者】
【氏名】万倉 三正
【合議体】
【審判長】 村上 騎見高
【審判官】 大熊 幸治
【審判官】 冨永 保
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−518088(JP,A)
【文献】 R.T.Brown,et al,Dealkoxycarbonylation of Representative β−Keto−esters and β−Diesters in Alkanoic Acids,Journal of Chemical Research,SYNOPSES,1984(10),332−333
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 1/00-409/44
CAPlus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブチルヒドロキシトルエンの存在下、および低級脂肪酸の存在下、不飽和脂肪酸のマロン酸エステル誘導体を反応させる工程を包含する、該不飽和脂肪酸の炭素鎖を炭素数2個分延長する方法であって、
該不飽和脂肪酸は、炭素数が16〜24であり、2〜6個の二重結合を含み、
該低級脂肪酸は、炭素数が1〜7の低級脂肪酸である、方法。
【請求項2】
前記不飽和脂肪酸が、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、ステアリドン酸、イコサテトラエン酸、イコサペンタエン酸、テトラコサヘキサエン酸、および、ドコサヘキサエン酸からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記マロン酸エステル誘導体が、マロン酸ジエチル誘導体、マロン酸ジメチル誘導体、マロン酸ジイソプロピル誘導体、および、マロン酸ジブチル誘導体からなる群から選択される誘導体である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記低級脂肪酸が、ギ酸、プロピオン酸、酢酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、ピバル酸、ヒドロアンゲリカ酸、および、イソ吉草酸からなる群から選択される酸である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法であって、窒素雰囲気下で加熱還流することによって行われる、方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不飽和脂肪酸の化学変換方法、特に、炭素鎖延長反応に関する。
【背景技術】
【0002】
ドコサペンタエン酸は魚油中に微量含まれるC22:5n−3の希少不飽和脂肪酸の一つであり、高純度のものが大量に入手できないため、その生理学・医学・栄養学的研究が遅れている(非特許文献1)。
【0003】
この点について下記のような事実が報告されている(非特許文献2)。
(1)ドコサペンタエン酸は多くの組織でイコサペンタエン酸に逆変換される。
(2)ドコサペンタエン酸は健康維持促進に有効である。
(3)ドコサペンタエン酸は血小板で代謝され水酸化ドコサペンタエン酸を与える。
この事実から、ドコサペンタエン酸が生体内でレゾルビンD4に変換され、これが免疫系を活性化し、抗炎症作用を示すという可能性が示唆されている。
【0004】
非特許文献3は、以下の報告をしている。
(4)ドコサペンタエン酸のウサギの血小板凝集阻害作用はイコサペンタエン酸やドコサヘキサエン酸よりも強く、血栓形成抑制効果が期待できる。
(5)内皮細胞遊走能においてもドコサペンタエン酸はイコサペンタエン酸よりも10倍高い。この事は創傷治癒において重要な効果である。
【0005】
非特許文献4は、以下の報告をしている。
(6)ドコサペンタエン酸の脂肪酸合成酵素とリンゴ酸合成酵素活性を低下させる作用がイコサペンタエン酸より強い。
(7)ドコサペンタエン酸は老化に伴う空間学習と同時刺激により二つの神経細胞間の信号伝達が持続的に向上する現象を調節しているという可能性がある。
【0006】
非特許文献5は、以下の報告をしている。
(8)ドコサペンタエン酸は血管新生抑制作用を有する。
【0007】
以上のようにドコサペンタエン酸は今後、代替医療分野や健康食品分野で重要な役割を果たし、それに伴い需要も高くなることから、本発明を含む高効率生産方法の開発は将来に向けての緊急の課題である。近年、多価不飽和脂肪酸、特に魚油由来のイコサペンタエン酸やドコサペンタエン酸の生体機能が注目され、医薬としての高純度イコサペンタエン酸を始めとして、それらの需要がますます高まりつつある。また、ドコサヘキサエン酸を主とする多価不飽和脂肪酸のサプリメントとしての需要もますます拡大ししつある。一方、多価不飽和脂肪酸の資源確保も地球規模で減少の傾向にあり、重要な課題として模索されている。現在はそのほとんどが魚類を中心とする水産資源に依存しているが、藻類や植物によって生産する方法に関する研究が活発に行われる。例えばモンサント社はイコサペンタエン酸の前駆体となるステアリドン酸を遺伝子組み換え大豆によって生産する方法を確立し、すでにFDAから承認されている。また、多価不飽和脂肪酸の化学的延長反応や微生物生産不飽和化酵素を用いる方法も報告されている。ただ、一般に多量の多価不飽和脂肪酸に対して炭素鎖延長反応と不飽和化を同時に行う事は困難であり、実験室レベルを超えて実用的生産レベルで実施可能な段階ではない。炭素鎖延長反応による多価不飽和脂肪酸の化学的合成法が報告されている。例えば非特許文献6はパラトルエンスルホニルメチルイソシアネート分子中の一個のメチレンプロトンを塩基で引き抜き、生成したカルボアニオンを飽和脂肪酸メチルエステル臭化物と反応させて炭素長鎖を有する新たなイソシアネートを合成し、ナトリウムヒドリドのような強い塩基を用いてメチレン鎖のもう一つのプロトンも同様に不飽和鎖で置き換えている。最後にリチウム/アンモニア/エタノールおよびメタノール/塩酸を作用させる事によって脱トルエンスルホニル基と脱イソニトリル基を行って目的とする多価不飽和脂肪酸メチルエステルの合成を行っている。しかしながら、これらの方法の欠点は総収率が低く、また、高価な試薬や激しい反応性を有し取扱いにくい試薬を用いなければならない。
【0008】
他方、馬場らはドコサヘキサエン酸エチルエステルを出発原料として、リチウムアルミニウムヒドリド還元によってアルコールとし、これをパラトルエンスルホン酸エステルに変換した後、置換反応によってヨウ素化物に変換し、さらにこのものに塩基存在下、ジエチルマロン酸を作用させてマロネートエステルとし、エステルのアルカリ加水分解、脱炭酸を経てドコサヘキサエン酸エチルエステルより2炭素原子分多いテトラコサヘキサエン酸エチルエステルの合成に成功している(非特許文献7および非特許文献8)。
【0009】
この反応はリノール酸やアラキドン酸の炭素鎖延長反応にも応用された。しかし、この方法は多くの反応ステップを含み必ずしも大規模生産に向けての実用的な方法とは言えない。
【0010】
2011年に伊藤等が発表した方法は、ドコサペンタエン酸エチルエステルから4段階で炭素数の2個多いテトラコサヘキサエン酸を合成している(非特許文献9)。しかし、この方法はダイバール−Hという空気に対して非常に不安定な試薬を用いていて、−78℃という低い温度で反応が行われるため、合成工程のスケールアップが難しい事が予想される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】P. D. Nichols, J. Petrie, and S. Singh, Long−chain omega−3 oils−An update on sustainable sources. Nutrients, 2010, 2, 572−585.
【非特許文献2】W. W. Christie, “Resolvins and protectins” - Chemistry and Biology, AOCS Lipid Libray, Feb. 27th, 2013.
【非特許文献3】T. Kanayasu−Toyoda, I. Morita, and S. Murota, Docosapentaenoic acid (22:5, n−3), an elongation metabolite of eicosapentaenoic acid (20:5, n−3), is a potent stimulator of endothelial cell migration on pretreatment in vitro. Prostaglandins, Leucotrienes & EFA’S., 1996, 54, 319−325.
【非特許文献4】G. Kaur, D. Cameron−Smith, M. Garg, A. J. Sinclair, Docosapentaenoic acid (22:5n−3): A review of its biological effects. Progress in Lipid Research, 2011, 50, 28−34.
【非特許文献5】辻・森田(東京医科歯科大学)ら、日本新脈管作動物質学会誌「血管」2002, 25, 5.
【非特許文献6】D.W. Johnson, A synthesis of unsaturated very long chain fatty acids. Chem. Phys. Lipids, 1990, 56, 65-71
【非特許文献7】N. Baba, Md. K. Alam, Y. Mori, S. S. Haider, M. Tanaka, S. Nakajima and S. Shimizu, A first synthesis of a phosphatidylcholine bearing docosahexaenoic and tetracosahexaenoic acids. J. Chem. Soc. Perkin Trans. 1, 2001, 221−223
【非特許文献8】S. S. Haider, M. Tanaka, Md K. Alam, S. Nakajima, N. Baba, and S. Shimizu, Synthesis of phosphatidylcholine having a very long chain polyunsaturated fatty acid. Chem. Lett., 1998, 175−176
【非特許文献9】T. Itoh, A. Tomiyasu, and K. Yamamoto, Efficient synthesis of the very−long−chain n−3 fatty acids, tetracosahexaenoic acid (C24:6n−3) and tricosahexaenoic acid (C23:6n−3). Lipids, 2011, 46, 45−461.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
不飽和脂肪酸の炭素鎖を化学的に延長する事によって異なる不飽和脂肪酸に変換する方法が報告されている。その一つはマロン酸エステル合成法を用いる工程である。従来法の反応工程を短くし、より短時間で炭素鎖延長反応を完了することが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は従来の炭素鎖延長反応を改善し、反応工程全体を短くしたものである。発明者らは、長鎖脂質(例えば、不飽和脂肪酸)のエステル誘導体(例えば、マロン酸エステル誘導体)から一気に目的とする2炭素延長不飽和脂肪酸エステルが得られる事を見出し、本発明を完成させた。
【0014】
本発明の一つの局面では、抗酸化剤の存在下、不飽和脂肪酸から得られたマロン酸エステル誘導体と、低級脂肪酸とを反応させる工程を用いることによって、不飽和脂肪酸の炭素鎖を炭素数2個分延長する方法が提供される。
【0015】
本発明の一つの局面では、不飽和脂肪酸エチルエステルを還元して一級不飽和アルコールに変換する工程、このアルコールをパラトルエンスルホン酸エステルに変換する工程、このパラトルエンスルホン酸エステルをヨウ化物に変換する工程、このヨウ化物をマロン酸エステルに変換する工程、およびこのマロン酸エステルを、炭素鎖が延長された目的とする不飽和脂肪酸エステルに変換する工程を包含する方法によって、不飽和脂肪酸の炭素鎖延長反応を行う。
【0016】
本発明に従い、不飽和脂肪酸またはそのエステルから炭素数2個分多い別の不飽和脂肪酸を合成する。本発明の方法により、イコサペンタエン酸エチルエステルよりドコサペンタエン酸エチルエステルを初めて化学合成することができた。本発明の方法によりα−リノレン酸よりイコサトリエン酸(C2: 2n−3)、リノール酸よりイコサジエン酸(C2: 2n−6)、ステアリドン酸よりイコサテトラエン酸(C20: 4n−3)、アラキドン酸よりドコサテトラエン酸(C22: 4n−6)、ドコサヘキサエン酸よりテトラコサヘキサエン酸(C24: 6n−3)をそれぞれ得る事ができた。

【0017】
本発明は例えば、以下を提供する:
(項目1)
抗酸化剤の存在下、不飽和脂肪酸から得られたマロン酸エステル誘導体と、低級脂肪酸とを反応させる工程を包含する、該不飽和脂肪酸の炭素鎖を炭素数2個分延長する方法。
(項目2)
前記不飽和脂肪酸が、炭素数が16〜24の不飽和脂肪酸である、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記不飽和脂肪酸が、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、ステアリドン酸、イコサテトラエン酸、イコサペンタエン酸、テトラコサヘキサエン酸、および、ドコサヘキサエン酸からなる群から選択される、項目1に記載の方法。
(項目4)
前記マロン酸エステル誘導体が、マロン酸ジエチル誘導体、マロン酸ジメチル誘導体、マロン酸ジイソプロピル誘導体、および、マロン酸ジブチル誘導体からなる群から選択される誘導体である、項目1に記載の方法。
(項目5)
前記低級脂肪酸が、炭素数が1〜7の脂肪酸である、項目1に記載の方法。
(項目6)
前記低級脂肪酸が、ギ酸、プロピオン酸、酢酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、ピバル酸、ヒドロアンゲリカ酸、および、イソ吉草酸からなる群から選択される酸である、項目1に記載の方法。
(項目7)
前記抗酸化剤がブチルヒドロキシトルエンである、項目1に記載の方法。
(項目8)
項目1に記載の方法であって、窒素雰囲気下で加熱還流することによって行われる、方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、魚油などに含まれる微量成分である希少不飽和脂肪酸を大量合成し、それらの未知の生物機能を調べる事ができる。さらに将来、魚油資源の枯渇が起こった場合に豊富に存在する植物油から有用不飽和脂肪酸を合成する方法として、その可能性が期待できる。本発明により、初めてイコサペンタエン酸からドコサペンタエン酸を合成することができた。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】炭素鎖延長反応過程の一般図を示す。
図2】本発明の代表的な炭素鎖延長反応過程を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。また、本明細書において「wt%」は、「質量パーセント濃度」と互換可能に使用される。
【0021】
(用語の定義)
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。
【0022】
本明細書において使用される用語「不飽和脂肪酸」とは、1つ以上の不飽和の炭素結合を持つ脂肪酸をいう。不飽和炭素結合とは炭素分子鎖における炭素同士の不飽和結合、すなわち炭素二重結合または三重結合のことである。天然に見られる不飽和脂肪酸は1つ以上の二重結合を有しており、脂肪酸中の飽和脂肪酸と置き換わることで、融点や流動性など脂肪の特性に変化を与えている。
【0023】
本発明において、不飽和脂肪酸は、好ましくは、多価不飽和脂肪酸である。本発明において使用する多価不飽和脂肪酸の炭素数は、好ましくは16〜24、より好ましくは17〜23、最も好ましくは18〜22であるが、これらに限定されない。本発明において使用する多価不飽和脂肪酸は、好ましくは1個〜7個、より好ましくは2個〜6個の二重結合を含む。多価不飽和脂肪酸としては、例えば、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、ステアリドン酸、イコサテトラエン酸、イコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、および、テトラコサヘキサエン酸が挙げられるがこれらに限定されない。
【0024】
本明細書において使用される用語「抗酸化剤」とは、生体内、食品、日用品、工業原料において酸素が関与する有害な反応を減弱もしくは除去する物質をいう。代表的には、抗酸化剤としては、ブチルヒドロキシトルエンが挙げられるがこれらに限定されない。
【0025】
本発明において、抗酸化剤の存在下、マロン酸エステル類と不飽和脂肪鎖ヨウ化物とを反応させて、マロン酸エステル類における不飽和脂肪酸の炭素鎖を炭素数2個分延長する方法が提供される。
【0026】
本発明において不飽和脂肪酸の炭素鎖を炭素数2個分延長する方法に使用される抗酸化剤としては、ブチルヒドロキシトルエン以外に、ブチルヒドロキシアニソール等のフェノール誘導体、トコフェロール、トコトリエノール、ポリフェノール類、フラボノイドとその誘導体、アスコルビン酸およびその糖または脂質誘導体、カテキン等のタンニン類、グルタチオン、メラノイジン、カラメル、尿酸、カラメル、カロチノイド、N-アセチルシステイン、レシチン類、グルコースが挙げられるがこれらに限定されない。
【0027】
上記の不飽和脂肪酸の炭素鎖を炭素数2個分延長する方法において利用可能なマロン酸エステル類としては、例えば、マロン酸ジエチル、マロン酸ジメチル、マロン酸ジイソプロピル、マロン酸ジブチル等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0028】
本発明の炭素鎖延長反応において使用する低級脂肪酸の炭素数は、好ましくは1〜7、より好ましくは2〜6、最も好ましくは2〜5であるが、これらに限定されない。本発明において使用する低級脂肪酸としては、例えば、ギ酸、プロピオン酸、酢酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、ピバル酸、ヒドロアンゲリカ酸、および、イソ吉草酸が挙げられるがこれらに限定されない。低級脂肪酸の添加量(添加質量)は特に限定されることはないが、代表的には、低級脂肪酸添加質量は、低級脂肪酸以外の反応混合液質量の2倍以上である。好ましくは、低級脂肪酸以外の反応混合液質量:低級脂肪酸添加質量=1:2〜1:20である。
【0029】
本発明の不飽和脂肪酸のマロン酸エステル類誘導体において不飽和脂肪酸の炭素鎖を炭素数2個分延長する方法に使用するマロン酸エステル類は、任意の周知の方法によって製造することができる。
【0030】
例えば、本発明においては、
(a)不飽和脂肪酸またはそのエステルを還元し、不飽和アルコールを生成する工程;
(b)該不飽和アルコールをパラトルエンスルホン酸エステルに変換する工程;
(c)該パラトルエンスルホン酸エステルを用いて、不飽和脂肪酸のヨウ化物または臭化物を生成する工程;
(d)該ヨウ化物をマロン酸エステル誘導体に変換する工程;
を包含する方法によって、不飽和脂肪酸から得られたマロン酸エステル類誘導体を生成することができる。
【0031】
例えば、上記工程に続いて、さらに、本願発明に従って
(e)抗酸化剤の存在下、該マロン酸エステル誘導体と低級脂肪酸とを反応させる工程
を行い、不飽和脂肪酸の炭素鎖を炭素数2個分延長する方法が提供される。
【0032】
上記工程(a)は、例えば、乾燥テトラヒドロフラン溶媒中、多価不飽和脂肪酸またはそのエステルをリチウムアルミニウムヒドリドで還元し、不飽和アルコールとすることによって行われる。なお、この反応において使用する溶媒としては、テトラヒドロフランの他、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテルを用いてもよい。また、この反応において使用するリチウムアルミニウムヒドリドに替えて、(2−メトキシエトキシ)アルミニウムヒドリドナトリウム[sodium bis(2-methoxyethoxy)alminium hydride]、リチウムホウ素ヒドリド[lithium borohydride]、ジイソブチルアルミニウムヒドリド[diisobutylalminum hydride,DIBAL]、アルミニウムヒドリド[aluminum hydride]、ナトリウムホウ素ヒドリド+塩化アルミニウム[sodium borohydride+aluminum chloride]、リチウムトリエチルホウ素ヒドリド[lithium triethylborohydride]、グリニャール試薬類[Grignard reagents]、ボラン[borane]、リチウムヒドロトリエチルボーレイト[lithium hydrotriethylborate]、トリアセトキシホウ素ヒドリド[sodium triacetoxyborohydride]、ナトリウムホウ素ヒドリド+エタンジチオール、ナトリウムトリメトキシボロヒドリド[sodium trimethoxyborohydride]、リチウムアミドトリヒドロボーレート[lithium amidotrihydroborate]が利用可能であるがこれらに限定されない。エステルからアルコールへの還元反応を行える限り、任意の溶媒を使用することができる。

【0033】
上記工程(b)では、不飽和アルコールをパラトルエンスルホン酸エステル、または、ベンゼンスルホン酸エステルに変換する。あるいは、上記工程(b)では、不飽和アルコールを、ベンゼンやトルエンのような芳香環にスルホン酸基が結合した酸のエステルという構造的特徴を持つ化合物に変換する。
【0034】
上記工程(c)でヨウ化物を生成する場合、例えば、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、または、ヨウ化カリウムあるいはこれらの混合物を使用することができる。上記工程(c)で臭化物を生成する場合、例えば、臭化リチウム、臭化ナトリウム、または、臭化カリウムあるいはこれらの混合物を使用することができる。
【0035】
上記工程(d)は、例えば、マロン酸ジエチルに塩基を作用させてカルバニオンとしこれを前記ヨウ化物に作用させて不飽和脂肪鎖を結合するマロン酸ジエステルに変換することによって、行われる。なお、マロン酸ジエチルの代わりにマロン酸ジメチル、マロン酸ジイソプロピル、マロン酸ジブチル、マロン酸ジイソブチル、マロン酸ジsec-ブチル等を用いることもできる。また、塩基としてはナトリウムヒドリド、リチウムヒドリド、カリウムヒドリド、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムアミド、リチウムアミド、カリウムアミド等を含む。
【0036】
上記工程(e)では、例えば、マロン酸エステル誘導体をプロピオン酸などの低級脂肪酸の溶液とし、窒素雰囲気下、抗酸化剤を加えて1〜50時間加熱還流することによって目的とする炭素数が2個延長された脂肪酸エステルを得ることができる。なお、プロピオン酸の代わりにギ酸、酢酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、ピバル酸、ヒドロアンゲリカ酸、イソ吉草酸を用いる事もできる。
【0037】
本発明はマロン酸エステル合成を基本とする炭素鎖延長反応を行い、その合成経路における各反応をより効率的な反応に置き換え、更に新たな反応を組み込むことによって、従来の反応を省略し、これまでに無い新たな炭素鎖延長反応経路を構築し、ドコサペンタエン酸またはそのエチルエステルを含む希少脂質を効率的に合成するものである。例えば、イコサペンタエン酸またはそのエステルを含む多価不飽和脂肪酸エチルエステルをリチウムアルムニウムヒロリドで還元して多価不飽和アルコールとし、これを、悪臭を有し取扱いにくいピリジンを用いない方法でパラトルエンスルホン酸エステル(もしくは、ベンゼンやトルエンのような芳香環にスルホン酸基が結合した酸のエステル)に変換した後、ヨウ化リチウムを作用させて多価不飽和脂肪ヨウ化物に導く。アルカリ存在下、このヨウ化物にマロン酸ジエチルを作用させてマロン酸誘導体を合成し、この誘導体のプロピオン酸溶液を加熱する事によって目的とするドコサペンタエン酸またはそのエステルを含む希少脂質を製造する方法である(参考文献:R.T. Brown and M. F. Jones, Dealkoxycarbonylation of representative β-keto-esters and β-diesters in alkanoic acids. J.Chem.Res. (S). 1984, 332-333、図1参照)。
【0038】
この最後のステップは従来の方法であればマロン酸誘導体の加水分解によるジカルボン酸の合成、酸性条件における脱炭酸によるモノカルボン酸の合成およびそのカルボン酸のエチルエステル化という3段階を含み、工程が煩雑であり全収率も低い。
【0039】
以下、例示のために本発明を詳細に説明する。なお、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲によって示されるのであり、以下の記載によって限定されることはない。
【0040】
本発明における合成過程で中心反応となるマロン酸エステル合成は、有機化合物を2炭素原子分増加したカルボン酸に変換したり、脂肪鎖の場合には2炭素原子分延長したカルボン酸またはそのエステルの合成に広く用いられる反応である。本発明はこの反応を含む一連の化学反応に改善を加えて実現したものである。
【0041】
本発明の合成反応スキーム1(図1)に示す。(1)乾燥テトラヒドロフラン溶媒中、多価不飽和脂肪酸またはそのエステルをリチウムアルミニウムヒドリドで還元し、不飽和アルコールとする。(2)このアルコールをマロン酸エステル誘導体に変換するために、パラトルエンスルホン酸エステルに変換し、さらにヨウ化リチウムを作用させてヨウ化物とする。(3)マロン酸ジエチルに塩基を作用させてカルバニオンとしこれを(2)のヨウ化物に作用させて不飽和脂肪鎖を結合するマロン酸ジエステルに変換する。(4)最後のステップとして、このジエステルをプロピオン酸などの低級脂肪酸の溶液とし、窒素雰囲気下、抗酸化剤を加えて1〜50時間加熱還流することによって目的とする炭素数が2個延長された不飽和脂肪酸エステルを得る。
【0042】
本発明における合成過程で中心反応となるマロン酸エステル合成は、有機化合物を2炭素原子分増加したカルボン酸に変換したり、脂肪鎖の場合には2炭素原子分延長したカルボン酸またはそのエステルの合成に広く用いられる反応である。本発明はこの反応を含む一連の化学反応に改善を加えて実現したものである。
【0043】
本発明において原料となる多価不飽和脂肪酸またはそのアルコールエステル類は魚類・海藻類・微生物類・植物あるいは化学合成によって得られるものを尿素処理・硝酸銀処理・真空蒸留・SMBを含むカラムクロマトグラフィー、またはそれらの組み合わせによって得られるものである。合成の出発原料となる多価不飽和脂肪酸またはそのアルコールエステル類は純度の高いものが好ましいが、低くても合成の各段階で精製を行うので、特に問題はない。
【0044】
最初のステップはリチウムアルミニウムヒドリドという還元試薬によるエステルから一級アルコールへの変換反応である。種々の還元試薬の中でエステルをアルコールに変換する試薬としてリチウムアルミニウムヒドリドが圧倒的に高い頻度で使われる。それは本試薬が高い反応性を有し、しかも炭素−炭素不飽和結合にほとんど影響を与えないことによる。このような性質からイコサペンタエン酸やドコサヘキサエン酸およびそれらのエステル類の一級アルコールへの化学的変換に問題なく使用できる。また、反応溶媒としてはジエチルエーテルやテトラヒドロフラン等の解離基を持たないエーテル類であれば使用できる。反応終了後は、過剰の酢酸エチルを加えて未反応で残るリチウムアルミニウムヒドリドを完全に消費し、副生成物として生じるアルコキシドを、苛性ソーダ水溶液を加えて分解し、分離してくる水酸化物をろ過し、ろ液を濃縮するのみで容易に目的とする一級アルコールが得られる。また、必要に応じてカラムクロマトグラフィーで精製する事により、容易に高純度の目的物を得ることができ、このものは次の反応にそのまま使用する事ができる。
【0045】
本発明の目的を達成するためには形式的には不飽和アルコールの水酸基をエトキシカルボニルメチル基であるCH2COOEtに置き換えればよい事になるが、実際には以下に述べるステップが必要である。水酸基が結合する炭素原子に別の炭素を結合させるためには水酸基を脱離しなければならない。水酸基を脱離しやすくするためには、一般に水酸基をパラトルエンスルホン酸エステルに変換し更にパラトルエンスルホン酸エステル部分をヨウ素に置き換える。このパラトルエンスルホン酸エステルは一般に熱などに不安定であり、長時間の加熱を必要とするマロニル基の導入には不適当である。ヨウ素の他、臭素や塩素でもよいが、マロニル基を導入するためには、よりソフトなヨウ素が最適である。水酸基を直接ヨウ素に置き換える方法もあるが、この反応条件は二重結合を著しく分解することから水酸基のハロゲン原子への置換反応の条件はEPAやDHAの全シス型の非共役二重結合に分解を招く危険性がある。
【0046】
以上の条件を考慮したうえで不飽和脂肪酸エステルから得られた一級アルコールにヨウ化リチウムを作用させて長鎖不飽和脂質ヨウ化物を合成する。この反応で用いたヨウ化リチウムの代わりにヨウ化ナトリウムあるいはヨウ化カリウムでも構わないが、有機溶媒への溶解性の問題からヨウ化リチウムが好ましい。このヨウ素化反応は乾燥アセトン中で行う。反応終了後はヨウ化ナトリウムの沈殿をろ過し、ろ液を濃縮後、残渣をシリカゲルカラムで精製すれば目的物が得られ、次のマロン酸エステル誘導体に変換できる。
【0047】
マロン酸ジエチルに塩基であるナトリウムヒドリドを作用させるとマロン酸ジエチルの炭素陰イオンが生成し、このイオンが、パラトルエンスルホン酸が結合する炭素を攻撃して炭素―炭素結合が生成する。この反応で初めて2炭素原子分の延長が実現する。ただ、この反応の結果生成する炭素鎖延長生成物にはマロン酸から由来するCOOEt基が存在する
ので、これを除去しなければならない。
【0048】
その一般的除去法は、まずマロン酸ジエステル誘導体にアルカリを作用させて加水分解を行い、生成したジカルボン酸を酢酸中、加熱して脱炭酸を行う。得られたモノカルボン酸をエチルエステルに変換して最終目的物を得るという過程を経る。しかし、本発明では、このような煩雑性を避けるため、BrownとJonesが184年に発表した方法を適用する事により長鎖脂質のマロン酸エステル誘導体から一気に目的とする2炭素延長不飽和脂肪酸エステルが得られる事を見出した。この方法により、長鎖脂質のマロン酸エステル誘導体のプロピオン酸溶液を加熱還流し、溶媒除去、カラム精製のみで目的物質を得る。
【0049】
以下に実施例等により本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0050】
(実施例1)
2リットル容の反応フラスコに100 mlの乾燥テトラヒドロフランを入れ、これに7.34gのリチウムアルミニウムヒドリドを注意深く加える。マグネティックスターラーで5分間攪拌した後、攪拌しながら、この懸濁液に44.6g(0.135mol)のイコサペンタエン酸エチルエステル(98.5%純度)の乾燥テトラヒドロフラン溶液(210ml)を反応が激しくなり過ぎないようにゆっくりと滴下した。必要に応じて氷水で冷却した。室温で5時間反応させた後、反応フラスコを外側から氷水で0−5℃に冷却し、酢酸エチル(約100ml)をゆっくり滴下して残存する未反応のリチウムアルミニウムヒドリドを消費した。続いて反応複合体を分解するために2N水酸化ナトリウム水溶液(約60ml)を攪拌しながら滴下し、灰色の不溶物が反応液から分離してきたら滴下を中止した。この溶液をろ紙でろ過して不溶物を除き、ろ液を2N塩酸水溶液で2回(70ml × 2)洗浄した。続いて飽和重曹水で2回、飽和食塩水で2回洗浄して無水硫酸マグネシウムで乾燥した。ろ過で硫酸マグネシウムを分離し、減圧下、ろ液を濃縮し、ヘキサン/酢酸エチル(9:1)混合溶媒を溶離液として、約70mlのシリカゲル(C−60半井化学)を用いてカラム(直径4.5cm)精製を行った。収量は、30.4g(収率78.1%)であった。
【0051】
上記アルコール(30.4g,0.105mol)の乾燥ピリジン(約70ml)溶液を、温度計と窒素ガス導入管を付した1リットル容の反応フラスコに入れ、窒素雰囲気下、1−5℃で、マグネティックスターラーで攪拌しながらパラトルエンスルホン酸塩化物を徐々に添加した。添加し終われば、1℃前後で5時間攪拌した。反応終了後、約100mlの塩化メチレンで反応液を希釈し、2N塩酸水溶液で4回洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。一般にパラトルエンスルホン酸エステルは不安定であるため、溶媒を減圧除去した残渣をそのまま次の反応に使用した。

【0052】
41.0g(0.093mol)の上記パラトルエンスルホン酸エステルと12.4g(0.093mol)のヨウ化リチウムのモレキュラーシーブ4Aで乾燥したアセトン溶液(188ml)を冷却管と窒素風船を付した500ml容反応フラスコに入れ、窒素雰囲気下、マグネティックスターラーで攪拌しながら4時間加熱還流した。この時、突沸が非常に激しいので注意を要する。冷却後、生成したパラトルエンスルホン酸リチウムの結晶をろ過除去し、ろ液から目的物をヘキサンで4回抽出した。そのヘキサン溶液を飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を減圧除去して得られた残渣をシリカゲルカラムで精製した。溶離液としてヘキサン/酢酸エチル(9:1)混合溶媒を溶離液として用いた。収量は28.0g(収率 76%)であった。
【0053】
1リットル容反応フラスコに60%純度のナトリウムヒドリド(3.58g)を計り取り、水分から保護するために表面を覆っている油をヘキサンで3回洗浄して除去する。具体的には約20mlのヘキサンを加え静かに攪拌して静置した後、上澄みをピペットで除去した。この操作を3回繰り返えした。このナトリウムヒドリドに乾燥ジメチルフォルムアミド(200ml)と乾燥テトラヒドロフラン(200ml)の混合溶媒を加えた。この溶液にマロン酸ジエチル(14.3g,0.084mol)を上記混合溶媒(60ml)に溶解した溶液を加え、窒素雰囲気下、室温で20分間攪拌した。この溶液に上記のとおり合成したヨウ化物(28g)を乾燥ジメチルフォルムアミド(30ml)と乾燥テトラヒドロフラン(30ml)の混合溶媒に溶解したものを滴下した後、70〜80℃で6時間加熱した。冷却後、2回のヘキサン抽出(200ml × 2)によって反応液から目的物を抽出し、その溶液を水で3回洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥後、シリカゲルカラム(シリカゲル 200ml、カラム(直径4cm)、ヘキサン/酢酸エチル(98:2))で精製し、15.7 gのマロン酸誘導体を得た。収量は15.7g(収率 51.6%)であった。
【0054】
上記マロン酸エステル誘導体(0.92g)のプロピオン酸(20ml)溶液に抗酸化剤BHTを少量加え窒素雰囲気下、38時間還流した。なお、プロピオン酸量は最低2mlで同反応を行う事ができるが、20mlが望ましい。ジエチルエーテル(20ml)で共洗いして反応液を分液ロートに移し、ヘキサン(80ml)を加えて水(20ml × 3)で洗浄し、残存するプロピオン酸を除去した。続いて飽和重曹水で2回、飽和食塩水で2回洗浄して無水硫酸ナトリウムで乾燥する。溶媒を減圧下で除去し、残渣をシリカゲルカラムで精製し、0.6gの最終目的物であるドコサペンタエン酸エチルエステルを得た。収量は9.7g(収率 73.9%)であった。
【0055】
(実施例2)
同様の方法によりリノール酸(C18: 2n−6)よりイコサジエン酸(C20: 2n−6)が合成できた。
【0056】
(実施例3) 同様の方法によりステアリドン酸(C18: 4n−3)よりイコサテトラエン酸(C2: 4n−3)が合成できた。
【0057】
(実施例4)
同様の方法によりアラキドン酸(C20: 4n−6)よりドコサテトラエン酸(C22: 4n−6)が合成できた。
【0058】
(実施例5)
同様の方法によりドコサヘキサエン酸よりテトラコサヘキサエン酸(C24: 6n−3)が合成できた。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によれば魚油等に含まれる非常に含有量の低い希少多価不飽和脂肪酸を炭素鎖延長反応によって生物や酵素に頼る事なく化学的に合成する事ができる。こうして希少多価不飽和脂肪酸を十分得る事ができれば、それらの物理化学的性質・生物化学的性質や生体機能を研究する貴重な材料となるばかりでなく、医薬としての開発にも功を奏すると期待される。
図1
図2