(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
高周波のパルス電圧の印加によってスイッチングを行う技術として、
図7に示すように、パルス電圧を印加する駆動回路と、電圧駆動型のスイッチング素子SWとの間に抵抗素子(ゲート抵抗R)を備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ゲート抵抗Rは、駆動回路によって印加されたパルス電圧の波形の傾斜を緩やかに整形し(なまらせ)、パルス電圧の立ち上がりと立ち下がりを遅らせて、スイッチング素子SWを切り替える。この構成によれば、スイッチング素子SWは、駆動回路からパルス電圧が直接的に印加される場合と比べて、サージやテール電流等の発生が抑制され、誤動作や破損が防止される。
【0004】
しかしながら、ゲート抵抗Rに印加される電圧の大きさは、立ち上がりと立ち下がりとで異なるため、
図8に示すように、それぞれのタイミングで遅延時間が異なる。そのため、スイッチング素子を駆動するためのパルス電圧の立ち上がりと立ち下がりの両方について遅延時間を適切に設定することが難しいという問題がある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係る遅延回路の構成を示した図である。
【
図2】
図1に示した遅延回路を用いた場合における、駆動回路の出力電圧、ゲート端子に印加される電圧、および負荷に印加される電圧の各関係を示した波形図である。
【
図3】第1の変形例に係る遅延回路の構成を示した図である。
【
図4】第2の変形例に係る遅延回路の構成を示した図である。
【
図5A】第3の変形例であって、立ち上げの遅延を2つの抵抗、立ち下げの遅延を1つの抵抗によって行う遅延回路の構成を示した図である。
【
図5B】第3の変形例であって、立ち上げの遅延を1つの抵抗、立ち下げの遅延を2つの抵抗によって行う遅延回路の構成を示した図である。
【
図6A】第4の変形例であって、抵抗に並列に接続されたコンデンサを備えた遅延回路の構成を示した図である。
【
図6B】第4の変形例であって、一端が接地され、他端が抵抗とダイオードの間に接続されたコンデンサを備えた遅延回路の構成を示した図である。
【
図6C】第4の変形例であって、一端が接地され、他端がスイッチング素子側の接続点と抵抗との間に接続されたコンデンサを備えた遅延回路の構成を示した図である。
【
図8】従来例に係る抵抗を用いた場合における、駆動回路の出力電圧、ゲート端子に印加される電圧、および負荷に印加される電圧の各関係を示した波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態に係る遅延回路を説明する。
【0010】
図1に示すように、遅延回路1は、スイッチング素子2側と駆動回路3側とに各端部が接続される。遅延回路1は、パルス電圧の立ち上がりと立ち下がりとを、それぞれ個別に設定された遅延時間に基づいて遅延させるものである。
【0011】
遅延回路1は、第1の遅延部11と第2の遅延部12とを備える。第1の遅延部11と第2の遅延部12とは、互いに並列に接続されている。
【0012】
第1の遅延部11は、駆動回路3によって印加される電圧の立ち上がりを遅延させ、立ち上がりが遅延された電圧をスイッチング素子2に印加するよう配置されている。電圧の立ち上がりを遅延させるとは、ロウレベルからハイレベルに立ち上がる電圧の波形の傾斜を緩やかに整形し(なまらせ)、ハイレベルに立ち上がるまでの時間を遅らせることをいう。第1の遅延部11は、電圧の立ち上がりを遅延させる立ち上げ時間が予め定められ、当該立ち上げ時間に基づいて電圧の立ち上がりを遅延させる。
【0013】
第2の遅延部12は、駆動回路3によって印加される電圧の立ち下がりを遅延させ、立ち下がりが遅延された電圧をスイッチング素子2に印加するよう配置されている。電圧の立ち下がりを遅延させるとは、ハイレベルからロウレベルに立ち下がる電圧の波形の傾斜を緩やかに整形し、ロウレベルに立ち下がるまでの時間を遅らせることをいう。第2の遅延部12は、電圧の立ち下がりを遅延させる立ち下げ時間が予め定められ、当該立ち下げ時間に基づいて電圧の立ち下がりを遅延させる。
【0014】
第1の遅延部11は、ダイオード11aと、抵抗11bとを備える。
【0015】
ダイオード11aは、駆動回路3からスイッチング素子2の方向にのみ電流が流れるように配置されている。ダイオード11aは、カソード端子が抵抗11bに接続され、アノード端子が、駆動回路3側に設けられた第2の遅延部12との接続点1aに接続されている。接続点1aは、駆動回路3に接続されている。
【0016】
抵抗11bは、ダイオード11aに直列に接続されている。抵抗11bは、一端がダイオード11aのカソード端子に接続され、他端が、スイッチング素子2側に設けられた第2の遅延部12との接続点1bに接続されている。接続点1bは、スイッチング素子2のゲート端子2gに接続されている。
【0017】
抵抗11bは、立ち上げ時間に対応する抵抗値を有する。つまり、抵抗11bは、立ち上げ時間によって電圧の立ち上がりを遅延させる抵抗値が定められている。抵抗11bは、立ち上がりを遅延させた電圧(遅延後の電圧)を、接続点1bを介してスイッチング素子2のゲート端子2gに印加する。
【0018】
第2の遅延部12は、ダイオード12aと、抵抗12bとを備える。
【0019】
ダイオード12aは、スイッチング素子2から駆動回路3の方向にのみ電流が流れるように配置されている。ダイオード12aは、アノード端子が抵抗12bに接続され、カソード端子が接続点1aに接続されている。
【0020】
抵抗12bは、ダイオード12aに直列に接続されている。抵抗12bは、一端がダイオード12aのアノード端子に接続され、他端が接続点1bに接続されている。
【0021】
抵抗12bは、立ち下げ時間に対応する抵抗値を有する。つまり、抵抗12bは、立ち下げ時間によって電圧の立ち下がりを遅延させる抵抗値が定められている。抵抗12bは、立ち下がりを遅延させた電圧(遅延後の電圧)を、接続点1bを介してスイッチング素子2のゲート端子2gに印加する。抵抗12bの抵抗値は、抵抗11bの抵抗値と異なる。
【0022】
スイッチング素子2は、電圧駆動型のパワーデバイスである。本実施形態ではN型MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)を例に挙げて説明する。なお、スイッチング素子2は、P型MOSFET、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等でもよい。
【0023】
スイッチング素子2は、ドレイン端子2dと、ソース端子2sと、ゲート端子2gとを備える。
【0024】
ドレイン端子2dは、直流定電圧を印加する負荷用電源4に接続されている。ゲート端子2gは、遅延回路1の接続点1bに接続されている。ソース端子2sは、マイクロ波増幅器等の高周波増幅器5に接続されている。
【0025】
ゲート端子2gは、遅延回路1によって印加される電圧に応じて、スイッチング素子2をアクティブ、非アクティブの各状態に切り替える。具体的には、ゲート端子2gは、予め定められたしきい値電圧を超える電圧が印加された場合に、スイッチング素子2をアクティブの状態に切り替え(ターンオン)、負荷用電源4と高周波増幅器5との間を通電させる。一方、ゲート端子2gは、しきい値電圧を下回る電圧が印加された場合に、スイッチング素子2を非アクティブの状態に切り替え(ターンオフ)、負荷用電源4と高周波増幅器5との間の通電を遮断する。
【0026】
駆動回路3は、外部から入力される制御信号に応じてパルス電圧を生成し、当該パルス電圧を遅延回路1に印加する。
【0027】
制御端子31には、パルス電圧を生成するための制御信号が外部から入力される。具体的には、制御端子31には、ハイレベルの電圧を生成するための第1の制御信号、または、ロウレベルの電圧を生成するための第2の制御信号が入力される。
【0028】
外部から制御端子31に第1の制御信号が入力されると、駆動回路3は、ハイレベルの電圧VHを生成する。駆動回路3によって生成されたハイレベルの電圧VHは、接続点1a、第1の遅延部11のダイオード11aを介して抵抗11bに印加される。
【0029】
抵抗11bは、印加された電圧VHを、予め定められた抵抗値に対応する立ち上げ時間に基づいて遅延させる。抵抗11bに印加された電圧VHは、
図2に示すように、ロウレベルからハイレベルに立ち上がる電圧の波形の傾斜が緩やかに整形され、ハイレベルに立ち上がるまでの時間が遅延される。
【0030】
また、抵抗11bは、立ち上がりを遅延させた電圧を、接続点1bを介して、スイッチング素子2のゲート端子2gに印加する。ゲート端子2gは、印加された電圧が予め定められたしきい値電圧を超えると、アクティブの状態に切り替え(ターンオン)、負荷用電源4と高周波増幅器5との間を通電させる。これにより、高周波増幅器5は、緩やかに立ち上げられ、外部から入力された高周波信号(マイクロ波)の増幅を行う。高周波増幅器5は、増幅した高周波信号(増幅信号)を外部に出力する。
【0031】
一方、外部から制御端子31に第2の制御信号が入力されると、駆動回路3は、ロウレベルの電圧VLを生成する。駆動回路3によって生成されたロウレベルの電圧VLは、接続点1a、第2の遅延部12のダイオード12aを介して抵抗12bに印加される。
【0032】
抵抗12bは、印加された電圧VLを、予め定められた抵抗値に対応する立ち下げ時間に基づいて遅延させる。抵抗12bに印加された電圧VLは、
図2に示したように、ハイレベルからロウレベルに立ち下がる電圧の波形の傾斜が緩やかに整形され、ロウレベルに立ち下がるまでの時間が遅延される。
【0033】
また、抵抗12bは、立ち下がりを遅延させた電圧を、接続点1bを介して、スイッチング素子2のゲート端子2gに印加する。ゲート端子2gは、印加された電圧が予め定められたしきい値電圧を下回ると、非アクティブ(ターンオフ)の状態に切り替え、負荷用電源4と高周波増幅器5との間の通電を遮断する。これにより、高周波増幅器5は、緩やかに立ち下げられ、外部から入力された高周波信号の増幅を停止する。
【0034】
以上説明したように、本実施形態の遅延回路1によれば、互いに並列に接続された第1の遅延部11と第2の遅延部12のうち、第1の遅延部11は、パルス電圧の立ち上がりを遅延させ、当該立ち上がりが遅延された電圧をスイッチング素子2に印加するよう配置され、第2の遅延部12は、パルス電圧の立ち下がりを遅延させ、当該立ち下がりが遅延された電圧をスイッチング素子2に印加するよう配置されている。これにより、スイッチング素子2を駆動する電圧の立ち上がりと立ち下がりの両方の遅延時間を適切かつ効率的に設定できる。また、本実施形態の遅延回路1によれば、高周波増幅器5の立ち上げと立ち下げを、第1の遅延部11と第2の遅延部12によって設定された各遅延時間に基づいて緩やかに行うことができ、高周波増幅器5から出力される信号(増幅後の高周波信号)のスペクトラムの広がりを抑制することができる。その結果、電波法に規定された占有帯域幅の規格を満たすことができる。
【0035】
(変形例1)
上記実施形態で説明した第1の遅延部11の抵抗11bと、第2の遅延部12の抵抗12bは、温度に応じて抵抗値が変化する特性を有する。抵抗値が変化すると、設定された遅延時間が変化し得る。設定された遅延時間を維持するため、遅延回路1は、
図3に示すように、可変抵抗11c,12c、抵抗値取得部13a,13b、および、抵抗制御部14aを備えてもよい。
【0036】
抵抗値取得部13a,13bは、抵抗計測器等から構成される。抵抗値取得部13aは、可変抵抗11cと接続点1bとの間に接続され、抵抗値取得部13bは、可変抵抗12cと接続点1bとの間に接続される。抵抗値取得部13a,13bは、可変抵抗11c,12cの各抵抗値を取得し、各抵抗値を抵抗制御部14aに供給する。
【0037】
抵抗制御部14aは、CPU(Central Processing Unit)、CPUのメインメモリとして機能するRAM(Random Access Memory)等を備えた制御回路から構成される。なお、抵抗制御部14aは、一部がASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の専用回路から構成されてもよい。
【0038】
抵抗制御部14aには、立ち上げ時間、立ち下げ時間にそれぞれ対応する抵抗値が予め記憶されている。抵抗制御部14aは、抵抗値取得部13a,13bから各抵抗値を受け取り、予め記憶された抵抗値が維持されるよう、可変抵抗11c,12cを制御する。これにより、パルス電圧の立ち上がりと立ち下がりについて個別に設定された遅延時間を維持できる。
【0039】
(変形例2)
上記実施形態では、パルス電圧の立ち上げ時間と立ち下げ時間が予め定められている例を説明したが、オペレータの操作に応じて、パルス電圧の立ち上げ時間、立ち下げ時間の少なくとも一方が設定されてもよい。この場合、遅延回路1は、
図4に示すように、
図1または
図3に示した構成に加えて、命令受付部15、および、抵抗制御部14bを遅延回路1に備える。
【0040】
命令受付部15は、操作インタフェースから構成され、パルス電圧の立ち上げ時間、立ち下げ時間の少なくとも一方を設定する操作を受け付ける。命令受付部15は、ユーザの操作に対応する操作信号を抵抗制御部14bに供給する。
【0041】
抵抗制御部14bは、CPU、RAM等を備えた制御回路から構成される。抵抗制御部14bは、一部がASIC等の専用回路から構成されてもよい。
【0042】
抵抗制御部14bには、立ち上げ時間と抵抗値との対応関係、および、立ち下げ時間と抵抗値との対応関係がそれぞれ予め記憶されている。また、抵抗制御部14bは、命令受付部15から操作信号を受け取る。抵抗制御部14bは、予め記憶された各対応関係を参照して、ユーザの操作に従って設定された立ち上げ時間または立ち下げ時間に対応する抵抗値を読み出す。抵抗制御部14bは、読み出した抵抗値となるよう可変抵抗11c,12cを制御する。これにより、パルス電圧の立ち上げ時間、立ち下げ時間を、ユーザの操作に従って個別に設定できる。なお、パルス電圧の立ち上げ時間、立ち下げ時間の代わりに、ユーザの操作に従って抵抗値を設定できるようにしてもよい。この場合、命令受付部15は、可変抵抗11c,12cの抵抗値を設定する操作を受け付ける。抵抗制御部14bは、命令受付部15を介してユーザの操作に従って設定された抵抗値となるよう可変抵抗11c,12cを制御する。これにより、可変抵抗11c,12cの各抵抗値を、ユーザの操作に従って個別に設定できる。
【0043】
(変形例3)
遅延回路1が備える第1の遅延部11および第2の遅延部12は、上記実施形態や変形例で説明したもの以外の態様によって構成されてもよい。
【0044】
例えば、
図5Aに示すように、第1の遅延部11’を、直列に接続されたダイオード11aおよび抵抗11bと、抵抗11bに並列に接続された抵抗12bとから構成し、第2の遅延部12’を抵抗12bから構成してもよい。
【0045】
この場合、駆動回路3によって印加されたパルス電圧の立ち上がりは、2つの抵抗11b,12bの抵抗値に基づいて遅延される。一方、駆動回路3によって印加されたパルス電圧の立ち下がりは、1つの抵抗12bの抵抗値に基づいて遅延される。
【0046】
また、
図5Bに示すように、第1の遅延部11”を抵抗11bから構成し、第2の遅延部12”を、直列に接続されたダイオード12aおよび抵抗12bと抵抗12bに並列に接続された抵抗11bとから構成してもよい。
【0047】
この場合、駆動回路3によって印加されたパルス電圧の立ち上がりは、1つの抵抗11bの抵抗値に基づいて遅延される。一方、駆動回路3によって印加されたパルス電圧の立ち下がりは、2つの抵抗11b,12bの抵抗値に基づいて遅延される。
【0048】
(変形例4)
また、第1の遅延部11および第2の遅延部12は、
図6Aに示すように、抵抗11b,12bに並列に接続されたコンデンサ11d,12dを備えてもよい。この場合、第1の遅延部11は、抵抗11bの抵抗値とコンデンサ11dの容量値とに基づいて、パルス電圧の立ち上がりを遅延させる。一方、第2の遅延部12は、抵抗12bの抵抗値とコンデンサ12dの容量値とに基づいて、パルス電圧の立ち下りを遅延させる。また、第1の遅延部11および第2の遅延部12は、
図6Bおよび
図6Cに示すように、抵抗11b,12bとダイオード11a,12aの間、または、スイッチング素子2側の接続点1bと抵抗11b,12bとの間に一端が接続され、他端が接地されたコンデンサ11e,12eを備えてもよい。この場合も、第1の遅延部11は、抵抗11bの抵抗値とコンデンサ11eの容量値とに基づいて、パルス電圧の立ち上がりを遅延させる。一方、第2の遅延部12は、抵抗12bの抵抗値とコンデンサ12eの容量値とに基づいて、パルス電圧の立ち下りを遅延させる。また、変形例1から変形例4に示した各構成は適宜組み合わされてもよい。
【0049】
その他、上記実施形態では、ダイオード11a,11bを整流素子の一例として説明したが、一方向のみに電流を流す構成のものであればよく、サイリスタやトライアック等の整流器から構成されてもよい。また、上記実施形態では、負荷の一例として高周波増幅器5を挙げたが、負荷は、パルス電圧によって駆動するものであればよく、増幅器以外の構成を採用してもよい。
【0050】
以上、いくつかの実施の形態を説明したが、これらの実施の形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施の形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施の形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。