【文献】
Hudson SA, et al.,Eosinophil-selective binding and proapoptotic effect in vitro of a synthetic Siglec-8 ligand, polymeric 6'-sulfated sialyl Lewis x,The Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics,2009年,Vol.330, No.2,p.608-612
【文献】
竹野 幸夫, 樽谷 貴之,喘息に伴う慢性副鼻腔炎の病態と治療,Monthly Book ENTONI,2012年,第143号,p.45−53
【文献】
好酸球性副鼻腔炎・好酸球性中耳炎 ―最近注目されている上気道の慢性好酸球性炎症―,石戸谷 淳一,日本医事新報,2007年 9月29日,第4353号,p.53−57
【文献】
Scordamaglia F, et al.,Perturbations of natural killer cell regulatory functions in respiratory allergic diseases,Journal of Allergy and Clinical Immunology,2008年 2月,Vol.121, No.2,p.479-485
【文献】
Steinke JW, et al.,Prominent role of IFN-γ in patients with aspirin-exacerbated respiratory disease,Journal of Allergy and Clinical Immunology,2013年10月,Vol.132, No.4,p.856-865.e1-3
【文献】
Mroz RM, et al.,Siglec-8 in induced sputum of COPD patients,Advances in Experimental Medicine and Biology,2013年,Vol.788,p.19-23
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1に記載の使用のための組成物であって、慢性副鼻腔炎を有する前記個体における喘息の1種または複数の症状、あるいはアスピリン増悪呼吸器疾患を有する前記個体における1種または複数の症状が、ヒトシグレック−8に結合する前記抗体の投与後に、ベースラインと比べて低下され、前記1種または複数の症状が、任意選択で、一秒量(FEV1);喘息増悪の頻度;および局所的または全身性ステロイドの必要からなる群より選択される、組成物。
請求項1に記載の使用のための組成物であって、慢性閉塞性肺疾患を有する前記個体における1種または複数の症状が、ヒトシグレック−8に結合する前記抗体の投与後に、ベースラインと比べて低下され、慢性閉塞性肺疾患を有する前記個体における前記1種または複数の症状が、任意選択で、息切れ;喘鳴;胸部絞扼感、慢性の咳;痰産生;チアノーゼ、頻繁な呼吸器感染症;疲労;および体重減少からなる群より選択され、慢性閉塞性肺疾患が、任意選択で、肺機能検査を使用して診断または観察されており、前記肺機能検査は任意選択で肺活量測定検査である、組成物。
請求項1〜8のいずれか1項に記載の使用のための組成物であって、前記抗体が、Fc領域と、前記Fc領域に連結されたN−グリコシド結合型炭水化物鎖とを含み、前記N−グリコシド結合型炭水化物鎖の50%未満が、フコース残基を含有し、任意選択で、前記N−グリコシド結合型炭水化物鎖の実質的に全てが、フコース残基を含有しない、組成物。
【発明を実施するための形態】
【0038】
I.定義
本発明に関して詳細に記載する前に、本発明が、当然ながら変動し得る特定の組成物または生命システムに限定されないことを理解されたい。本明細書で使用されている用語法が、特定の実施形態を記載することのみを目的としており、限定を目的としないことも理解されたい。本明細書および添付の特許請求の範囲において使用されている通り、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」は、内容がそれ以外を明らかに指示しない限り、複数の指示対象を含む。よって、例えば、「分子(a molecule)」と言及される場合、2個またはそれを超える斯かる分子の組合せその他を任意選択で含む。
【0039】
用語「約」は、本明細書において、本技術分野における当業者であれば容易に分かるそれぞれの値の通常の誤差範囲を指す。本明細書において「約」の値またはパラメータが言及される場合、該値またはパラメータそれ自体に指示される実施形態を含む(および記載する)。
【0040】
本明細書に記載されている本発明の態様および実施形態が、態様および実施形態を「含む」、「からなる」および「から本質的になる」ことを含むことが理解される。
【0041】
用語「抗体」は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体(免疫グロブリンFc領域を有する全長抗体を含む)、ポリエピトープ特異性を有する抗体組成物、多特異性抗体(例えば、二重特異性抗体、ダイアボディ)および単鎖分子ならびに抗体断片(例えば、Fab、F(ab’)
2およびFv)を含む。用語「免疫グロブリン」(Ig)は、本明細書において「抗体」と互換的に使用される。
【0042】
基本的4鎖抗体単位は、2つの同一軽(L)鎖および2つの同一重(H)鎖で構成されたヘテロ四量体糖タンパク質である。IgM抗体は、J鎖と呼ばれる追加的なポリペプチドと共に5個の基本的ヘテロ四量体単位からなり、10個の抗原結合部位を含有するが、IgA抗体は、J鎖と組み合わせた、重合して多価集合体を形成することができる2〜5個の基本的4鎖単位を含む。IgGの場合、4鎖単位は一般に、約150,000ダルトンである。各L鎖は、1個の共有結合性ジスルフィド結合によってH鎖に連結される一方、2つのH鎖は、H鎖アイソタイプに応じて1個または複数のジスルフィド結合によって互いに連結される。各HおよびL鎖は、規則的に間隔をあけた鎖内ジスルフィド架橋も有する。各H鎖は、N末端において、可変ドメイン(V
H)に続いて、αおよびγ鎖のそれぞれに対し3個の定常ドメイン(C
H)、μおよびεアイソタイプに対し4個のC
Hドメインを有する。各L鎖は、N末端において可変ドメイン(V
L)、続いてその他端に定常ドメインを有する。V
Lは、V
Hと整列され、C
Lは、重鎖の第1の定常ドメイン(C
H1)と整列される。特定のアミノ酸残基は、軽鎖および重鎖可変ドメイン間の界面を形成すると考えられる。V
HおよびV
Lの対形成は共に、単一の抗原結合部位を形成する。異なるクラスの抗体の構造および特性に関して、例えば、Basic and Clinical Immunology、第8版、Daniel P. Sties、Abba I. TerrおよびTristram G. Parsolw(編)、Appleton & Lange、Norwalk、CT、1994年、71頁、第6章を参照されたい。
【0043】
いずれかの脊椎動物種由来のL鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づき、カッパおよびラムダと呼ばれる明らかに異なる2型の一方に割り当てることができる。その重鎖の定常ドメイン(CH)のアミノ酸配列に応じて、免疫グロブリンは、異なるクラスまたはアイソタイプに割り当てることができる。それぞれα、δ、ε、γおよびμと命名された重鎖を有する5クラスの免疫グロブリン:IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgMが存在する。γおよびαクラスは、CH配列における相対的に軽微な差および機能に基づいてサブクラスへとさらに分割され、例えば、ヒトは、次のサブクラスを発現する:IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2。IgG1抗体は、アロタイプと名付けられた複数の多型バリアントで存在することができ(JefferisおよびLefranc 2009年、mAbs、1巻、4号、1〜7頁において概説)、そのうちいずれかが、本発明における使用に適する。ヒト集団における共通アロタイプバリアントは、文字a、f、n、zによって命名されている。
【0044】
「単離された」抗体は、その産生環境(例えば、天然または組換えによる)の構成成分から同定、分離および/または回収された抗体である。一部の実施形態において、単離されたポリペプチドは、その産生環境由来のあらゆる他の構成成分との関連を含まない。組換えトランスフェクト細胞に起因するもの等、その産生環境の夾雑構成成分は、抗体の研究、診断または治療的使用に典型的に干渉する材料であり、酵素、ホルモンおよび他のタンパク質性または非タンパク質性溶質を含むことができる。一部の実施形態において、ポリペプチドは、(1)例えば、ローリー方法によって決定される抗体の95重量%超まで、一部の実施形態において、99重量%超まで;(1)スピニングカップシークエネーターの使用により、N末端もしくは内部アミノ酸配列の少なくとも15残基を得るのに十分な程度まで、または(3)クーマシーブルーもしくは銀染色を使用した非還元もしくは還元条件下のSDS−PAGEによって均一になるまで精製される。単離された抗体は、抗体の天然環境の少なくとも1種の構成成分が存在しないため、組換え細胞内のin situの抗体を含む。しかし通常、単離されたポリペプチドまたは抗体は、少なくとも1回の精製ステップにより調製される。
【0045】
用語「モノクローナル抗体」は、本明細書において、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体を指す、すなわち、集団を構成する個々の抗体は、微量で存在し得る可能な天然起源の変異および/または翻訳後修飾(例えば、異性化、アミド化)を除いて同一である。一部の実施形態において、モノクローナル抗体は、重鎖および/または軽鎖にC末端切断を有する。例えば、1、2、3、4または5個のアミノ酸残基が、重鎖および/または軽鎖のC末端において切断される。一部の実施形態において、C末端切断は、重鎖からC末端リシンを除去する。一部の実施形態において、モノクローナル抗体は、重鎖および/または軽鎖にN末端切断を有する。例えば、1、2、3、4または5個のアミノ酸残基が、重鎖および/または軽鎖のN末端において切断される。一部の実施形態において、モノクローナル抗体は、高度に特異的であり、単一の抗原部位に向けられている。一部の実施形態において、モノクローナル抗体は、高度に特異的であり、複数の抗原部位に向けられている(二重特異性抗体または多特異性抗体等)。修飾語句「モノクローナル」は、抗体の実質的に均一な集団から得られるという抗体の性状を示し、いずれか特定の方法による抗体の産生を要求するものと解釈するべきではない。例えば、本発明に従って使用するべきモノクローナル抗体は、例えば、ハイブリドーマ方法、組換えDNA方法、ファージディスプレイ技術、およびヒト免疫グロブリン配列をコードするヒト免疫グロブリン遺伝子座または遺伝子の一部または全体を有する動物においてヒトまたはヒト様抗体を産生するための技術を含む種々の技法によって作製することができる。
【0046】
用語「裸の抗体」は、細胞傷害性部分または放射性標識にコンジュゲートされていない抗体を指す。
【0047】
用語「全長抗体」、「インタクト抗体」または「全抗体」は、抗体断片とは対照的に、その実質的にインタクトな形態の抗体を指すように互換的に使用される。特に、全抗体は、Fc領域を含む重および軽鎖を有する抗体を含む。定常ドメインは、ネイティブ配列定常ドメイン(例えば、ヒトネイティブ配列定常ドメイン)またはそのアミノ酸配列バリアントとなり得る。場合によっては、インタクト抗体は、1種または複数のエフェクター機能を有することができる。
【0048】
「抗体断片」は、インタクト抗体の一部、インタクト抗体の抗原結合および/または可変領域を含む。抗体断片の例として、Fab、Fab’、F(ab’)
2およびFv断片;ダイアボディ;線状抗体(米国特許第5,641,870号、実施例2;Zapataら、Protein Eng.8巻(10号):1057〜1062頁[1995年]を参照);抗体断片から形成された単鎖抗体分子および多特異性抗体が挙げられる。
【0049】
抗体のパパイン消化は、「Fab」断片と呼ばれる2個の同一抗原結合性断片と、容易に結晶化する能力を反映する命名であるところの、残余の「Fc」断片を産生する。Fab断片は、一方の重鎖のH鎖可変領域ドメイン(V
H)および第1の定常ドメイン(C
H1)と共にL鎖全体からなる。各Fab断片は、抗原結合に関して一価である、すなわち、単一の抗原結合部位を有する。抗体のペプシン処理は、単一の大型のF(ab’)
2断片を生じ、これは、異なる抗原結合活性を有し、依然として抗原を架橋することができる2個のジスルフィド結合したFab断片に大まかに相当する。Fab’断片は、抗体ヒンジ領域由来の1個または複数のシステインを含む数個の追加的な残基をC
H1ドメインのカルボキシ末端に有するという点において、Fab断片とは異なる。Fab’−SHは、定常ドメインのシステイン残基(複数可)が遊離チオール基を有するFab’の本明細書における命名である。F(ab’)
2抗体断片は本来、それらの間にヒンジシステインを有するFab’断片のペアとして産生された。抗体断片の他の化学的カップリングも公知である。
【0050】
Fc断片は、ジスルフィドによって一体に保持された両方のH鎖のカルボキシ末端部分を含む。抗体のエフェクター機能は、ある特定の種類の細胞上に存在するFc受容体(FcR)によって認識される領域でもあるFc領域における配列によって決定される。
【0051】
「Fv」は、完全抗原認識および結合部位を含有する最小抗体断片である。この断片は、緊密な非共有結合性会合した1個の重および1個の軽鎖可変領域ドメインの二量体からなる。これら2個のドメインのフォールディングから、抗原結合のためのアミノ酸残基に寄与し、抗体に抗原結合特異性を付与する6個の高頻度可変性ループ(それぞれHおよびL鎖由来の3個のループ)を発する。しかし、単一の可変ドメイン(または抗原に特異的な3個のHVRのみを含むFvの半分)であっても、結合部位全体よりも低い親和性ではあるが、抗原を認識および結合する能力を有する。
【0052】
「sFv」または「scFv」としても省略される「単鎖Fv」は、単一のポリペプチド鎖へと接続されたVHおよびVL抗体ドメインを含む抗体断片である。一部の実施形態において、sFvポリペプチドは、V
HおよびV
Lドメインの間にポリペプチドリンカーをさらに含み、これは、sFvが、抗原結合のための所望の構造を形成することを可能にする。sFvの概説に関しては、Pluckthun、The Pharmacology of Monoclonal Antibodies、113巻、RosenburgおよびMoore編、Springer−Verlag、New York、269〜315頁(1994年)を参照されたい。
【0053】
本発明の抗体の「機能断片」は、インタクト抗体の抗原結合もしくは可変領域を一般に含むインタクト抗体の部分、または修飾されたFcR結合能を保持もしくは有する抗体のFv領域を含む。抗体断片の例として、抗体断片から形成された線状抗体、単鎖抗体分子および多特異性抗体が挙げられる。
【0054】
本明細書におけるモノクローナル抗体は、重および/または軽鎖の部分が、特定の種に由来するまたは特定の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体における相当する配列と同一または相同であるが、鎖(複数可)の残りが、別の種に由来するまたは別の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体における相当する配列と同一または相同である「キメラ」抗体(免疫グロブリン)と共に、所望の生物学的活性を呈する限りにおいて、斯かる抗体の断片を特に含む(米国特許第4,816,567号;Morrisonら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、81巻:6851〜6855頁(1984年))。本明細書における目的のキメラ抗体は、PRIMATIZED(登録商標)抗体を含み、この抗体の抗原結合領域は、例えば、目的の抗原でマカクザルを免疫化することによって産生された抗体に由来する。本明細書において、「ヒト化抗体」は、「キメラ抗体」のサブセットとして使用される。
【0055】
「ヒト化」型の非ヒト(例えば、マウス)抗体は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配列を含有するキメラ抗体である。一実施形態において、ヒト化抗体は、レシピエントのHVR由来の残基が、所望の特異性、親和性および/または能力を有するマウス、ラット、ウサギまたは非ヒト霊長類等の非ヒト種(ドナー抗体)のHVR由来の残基に置き換えられたヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。一部の事例において、ヒト免疫グロブリンのFR残基は、相当する非ヒト残基に置き換えられる。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体またはドナー抗体に存在しない残基を含むことができる。これらの修飾を為して、結合親和性等、抗体性能をさらに精緻化することができる。一般に、ヒト化抗体は、少なくとも1、典型的には2個の可変ドメインのうち実質的に全てを含み、それによると、高頻度可変性ループの全てまたは実質的に全てが、非ヒト免疫グロブリン配列のものに相当し、FR領域の全てまたは実質的に全てが、ヒト免疫グロブリン配列のものであるが、FR領域は、結合親和性、異性化、免疫原性等、抗体性能を改善する1個または複数の個々のFR残基置換を含むことができるであろう。一部の実施形態において、FRにおけるこれらのアミノ酸置換の数は、H鎖において6個以下であり、L鎖においては、3個以下である。ヒト化抗体は、典型的にはヒト免疫グロブリンの、免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも部分も任意選択で含むであろう。さらなる詳細に関して、例えば、Jonesら、Nature 321巻:522〜525頁(1986年);Riechmannら、Nature 332巻:323〜329頁(1988年);およびPresta、Curr. Op. Struct. Biol.2巻:593〜596頁(1992年)を参照されたい。例えば、VaswaniおよびHamilton、Ann. Allergy, Asthma & Immunol.1巻:105〜115頁(1998年);Harris、Biochem. Soc. Transactions 23巻:1035〜1038頁(1995年);HurleおよびGross、Curr. Op. Biotech.5巻:428〜433頁(1994年);ならびに米国特許第6,982,321号および同第7,087,409号も参照されたい。一部の実施形態において、ヒト化抗体は、単一の抗原部位に向けられている。一部の実施形態において、ヒト化抗体は、複数の抗原部位に向けられている。代替的ヒト化方法は、米国特許第7,981,843号および米国特許出願公開第2006/0134098号に記載されている。
【0056】
抗体の「可変領域」または「可変ドメイン」は、抗体の重または軽鎖のアミノ末端ドメインを指す。重鎖および軽鎖の可変ドメインは、それぞれ「VH」および「VL」と称することができる。これらのドメインは一般に、抗体の最も可変的な部分であり(同じクラスの他の抗体と比べて)、抗原結合部位を含有する。
【0057】
用語「高頻度可変領域」、「HVR」または「HV」は、本明細書において使用される場合、配列が高頻度可変性であるおよび/または構造的に定義されたループを形成する抗体可変ドメインの領域を指す。一般に、抗体は、6個のHVRを含む;VHにおける3個(H1、H2、H3)およびVLにおける3個(L1、L2、L3)。ネイティブ抗体において、H3およびL3は、6個のHVRのうち最大の多様性を表示し、H3は特に、抗体への優れた特異性の付与において特有の役割を果たすと考えられる。例えば、Xuら、Immunity 13巻:37〜45頁(2000年);JohnsonおよびWu、Methods in Molecular Biology 248巻:1〜25頁(Lo編、Human Press、Totowa、NJ、2003年))を参照されたい。実際に、重鎖のみからなる天然起源のラクダ科動物(camelid)抗体は、軽鎖の非存在下で機能的かつ安定的である。例えば、Hamers−Castermanら、Nature 363巻:446〜448頁(1993年)およびSheriffら、Nature Struct. Biol.3巻:733〜736頁(1996年)を参照されたい。
【0058】
多数のHVRの図解が使用されており、本明細書に包含される。Kabat相補性決定領域(CDR)であるHVRは、配列可変性に基づき、最も一般的に使用されている(Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、Public Health Service、National Institute of Health、Bethesda、MD(1991年))。Chothia HVRは、その代わりに、構造ループの位置を指す(ChothiaおよびLesk、J. Mol. Biol.196巻:901〜917頁(1987年))。「Contact」HVRは、利用できる複雑な結晶構造の解析に基づく。これらのHVRのそれぞれに由来する残基を下に記す。
【表1】
【0059】
他に断りがなければ、可変ドメイン残基(HVR残基およびフレームワーク領域残基)は、Kabatら(上掲)に従ってナンバリングする。
【0060】
「フレームワーク」または「FR」残基は、本明細書に定義されているHVR残基以外の可変ドメイン残基である。
【0061】
表現「Kabatにおける通りの可変ドメイン残基ナンバリング」または「Kabatにおける通りのアミノ酸位置ナンバリング」およびこれらの変種は、Kabatら(上掲)における抗体の編集の重鎖可変ドメインまたは軽鎖可変ドメインに使用されるナンバリング方式を指す。このナンバリング方式を使用して、実際の線状アミノ酸配列は、可変ドメインのFRまたはHVRの短縮またはそれへの挿入に相当する、より少ないまたは追加的なアミノ酸を含有することができる。例えば、重鎖可変ドメインは、H2の残基52の後に単一のアミノ酸挿入(Kabatによる残基52a)を、また、重鎖FR残基82の後に挿入された残基(例えば、Kabatによる残基82a、82bおよび82c等)を含むことができる。残基のKabatナンバリングは、「標準」Kabatナンバリングされた配列との抗体配列の相同性領域におけるアライメントにより、所定の抗体に対して決定することができる。
【0062】
本明細書における目的のための「アクセプターヒトフレームワーク」は、ヒト免疫グロブリンフレームワークまたはヒトコンセンサスフレームワークに由来するVLまたはVHフレームワークのアミノ酸配列を含むフレームワークである。ヒト免疫グロブリンフレームワークまたはヒトコンセンサスフレームワーク「に由来する」アクセプターヒトフレームワークは、その同じアミノ酸配列を含むことができる、あるいは先在するアミノ酸配列変化を含有することができる。一部の実施形態において、先在するアミノ酸変化の数は、10個もしくはそれに満たない、9個もしくはそれに満たない、8個もしくはそれに満たない、7個もしくはそれに満たない、6個もしくはそれに満たない、5個もしくはそれに満たない、4個もしくはそれに満たない、3個もしくはそれに満たないまたは2個もしくはそれに満たない。
【0063】
参照ポリペプチド配列に関する「パーセント(%)アミノ酸配列同一性」は、配列を整列し、必要であればギャップを導入して、配列同一性の一部としていかなる保存的置換も考慮することなく、最大パーセント配列同一性を達成した後に、参照ポリペプチド配列におけるアミノ酸残基と同一である候補配列におけるアミノ酸残基のパーセンテージとして定義される。パーセントアミノ酸配列同一性を決定する目的のためのアライメントは、当業者の技能範囲内の様々な仕方で、例えば、BLAST、BLAST−2、ALIGNまたはMegalign(DNASTAR)ソフトウェア等、公的に利用可能なコンピュータソフトウェアを使用して達成することができる。当業者であれば、比較されている配列の全長にわたる最大アライメントの達成に必要とされるいずれかのアルゴリズムを含む、配列の整列に適切なパラメータを決定することができる。例えば、所定のアミノ酸配列Bとの、これに関するまたはこれに対する所定のアミノ酸配列Aの%アミノ酸配列同一性(あるいは、所定のアミノ酸配列Bと、これに関しまたはこれに対し、ある特定の%アミノ酸配列同一性を有するまたは含む所定のアミノ酸配列Aと表現することができる)は、次の通りに計算される:
100×分数X/Y
(式中、Xは、AおよびBの該プログラムのアライメントにおける配列により同一マッチとしてスコア化されたアミノ酸残基の数であり、Yは、Bにおけるアミノ酸残基の総数である)。アミノ酸配列Aの長さが、アミノ酸配列Bの長さに等しくない場合、Bに対するAの%アミノ酸配列同一性が、Aに対するBの%アミノ酸配列同一性に等しくならないことが認められよう。
【0064】
特定のポリペプチドまたは特定のポリペプチドにおけるエピトープ「に結合する」、「に特異的に結合する」または「に特異的な」抗体は、他のいかなるポリペプチドまたはポリペプチドエピトープにも実質的に結合することなく、この特定のポリペプチドまたは特定のポリペプチドにおけるエピトープに結合する抗体である。一部の実施形態において、無関係の非シグレック−8ポリペプチドへの本明細書に記載されている抗シグレック−8抗体(例えば、ヒトシグレック−8に結合する抗体)の結合は、本技術分野で公知の方法(例えば、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA))によって測定されるシグレック−8への抗体結合の約10%未満である。一部の実施形態において、シグレック−8に結合する抗体(例えば、ヒトシグレック−8に結合する抗体)は、≦1μM、≦100nM、≦10nM、≦2nM、≦1nM、≦0.7nM、≦0.6nM、≦0.5nM、≦0.1nM、≦0.01nMまたは≦0.001nM(例えば、10
−8Mまたはそれに満たない、例えば、10
−8M〜10
−13M、例えば、10
−9M〜10
−13M)の解離定数(Kd)を有する。
【0065】
用語「抗シグレック−8抗体」または「ヒトシグレック−8に結合する抗体」は、無関係の非シグレック−8ポリペプチドの他のいずれかのポリペプチドまたはエピトープに実質的に結合することなく、ヒトシグレック−8のポリペプチドまたはエピトープに結合する抗体を指す。
【0066】
用語「シグレック−8」は、本明細書において、ヒトシグレック−8タンパク質を指す。この用語は、スプライスバリアントまたはアレルバリアントを含むシグレック−8の天然起源のバリアントも含む。例示的なヒトシグレック−8のアミノ酸配列を配列番号72に示す。別の例示的なヒトシグレック−8のアミノ酸配列を配列番号73に示す。一部の実施形態において、ヒトシグレック−8タンパク質は、免疫グロブリンFc領域に融合されたヒトシグレック−8細胞外ドメインを含む。免疫グロブリンFc領域に融合された例示的なヒトシグレック−8細胞外ドメインのアミノ酸配列を配列番号74に示す。配列番号74における下線を引いたアミノ酸配列は、シグレック−8 Fc融合タンパク質アミノ酸配列のFc領域を示す。
【化1】
【0067】
「アポトーシスを誘導する」または「アポトーシス性」である抗体は、アネキシンVの結合、DNAの断片化、細胞収縮、小胞体の拡張、細胞断片化および/または膜小胞の形成(アポトーシス小体と呼ばれる)等、標準アポトーシスアッセイによって決定されるプログラム細胞死を誘導する抗体である。例えば、本発明の抗シグレック−8抗体(例えば、ヒトシグレック−8に結合する抗体)のアポトーシス活性は、アネキシンVで細胞を染色することにより示すことができる。
【0068】
抗体「エフェクター機能」は、抗体のFc領域(ネイティブ配列Fc領域またはアミノ酸配列バリアントFc領域)に起因し得る生物学的活性を指し、抗体アイソタイプにより変動する。抗体エフェクター機能の例として:C1q結合および補体依存性細胞傷害;Fc受容体結合;抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC);食作用;細胞表面受容体(例えば、B細胞受容体)の下方調節;およびB細胞活性化が挙げられる。
【0069】
「抗体依存性細胞媒介性細胞傷害」または「ADCC」は、ある特定の細胞傷害性細胞(例えば、ナチュラルキラー(NK)細胞、好中球およびマクロファージ)上に存在するFc受容体(FcR)に結合した分泌されたIgが、これらの細胞傷害性エフェクター細胞を、抗原を有する標的細胞に特異的に結合させ、その後、細胞毒で標的細胞を死滅させることができる細胞傷害の形態を指す。抗体は、細胞傷害性細胞を「武装(arm)」させ、この機構による標的細胞の死滅に必要とされる。ADCCを媒介するための主な細胞であるNK細胞は、FcγRIIIのみを発現する一方、単球は、FcγRI、FcγRIIおよびFcγRIIIを発現する。造血細胞におけるFc発現は、RavetchおよびKinet、Annu. Rev. Immunol.9巻:457〜92頁(1991年)の464頁の表3に要約されている。一部の実施形態において、本明細書に記載されている抗シグレック−8抗体(例えば、ヒトシグレック−8に結合する抗体)は、ADCCを増強する。目的の分子のADCC活性を評価するために、米国特許第5,500,362号または同第5,821,337号に記載されているもの等、in vitro ADCCアッセイを行うことができる。斯かるアッセイに有用なエフェクター細胞は、末梢血単核細胞(PBMC)およびナチュラルキラー(NK)細胞を含む。その代わりにまたはその上、目的の分子のADCC活性は、in vivoで、例えば、Clynesら、PNAS USA 95巻:652〜656頁(1998年)に開示されているもの等、動物モデルにおいて評価することができる。ADCC活性および他の抗体特性を変更する他のFcバリアントは、Ghetieら、Nat Biotech.15巻:637〜40頁、1997年;Duncanら、Nature 332巻:563〜564頁、1988年;Lundら、J. Immunol 147巻:2657〜2662頁、1991年;Lundら、Mol Immunol 29巻:53〜59頁、1992年;Alegreら、Transplantation 57巻:1537〜1543頁、1994年;Hutchinsら、Proc Natl. Acad Sci USA 92巻:11980〜11984頁、1995年;Jefferisら、Immunol Lett.44巻:111〜117頁、1995年;Lundら、FASEB J 9巻:115〜119頁、1995年;Jefferisら、Immunol Lett 54巻:101〜104頁、1996年;Lundら、J Immunol 157巻:4963〜4969頁、1996年;Armourら、Eur J Immunol 29巻:2613〜2624頁、1999年;Idusogieら、J Immunol 164巻:4178〜4184頁、200;Reddyら、J Immunol 164巻:1925〜1933頁、2000年;Xuら、Cell Immunol 200巻:16〜26頁、2000年;Idusogieら、J Immunol 166巻:2571〜2575頁、2001年;Shieldsら、J Biol Chem 276巻:6591〜6604頁、2001年;Jefferisら、Immunol Lett 82巻:57〜65頁.2002年;Prestaら、Biochem Soc Trans 30巻:487〜490頁、2002年;Lazarら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 103巻:4005〜4010頁、2006年;米国特許第5,624,821号;同第5,885,573号;同第5,677,425号;同第6,165,745号;同第6,277,375号;同第5,869,046号;同第6,121,022号;同第5,624,821号;同第5,648,260号;同第6,194,551号;同第6,737,056号;同第6,821,505号;同第6,277,375号;同第7,335,742号;および同第7,317,091号に開示されているものを含む。
【0070】
本明細書における用語「Fc領域」は、ネイティブ配列Fc領域およびバリアントFc領域を含む免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するように使用されている。免疫グロブリン重鎖のFc領域の境界は変動し得るが、ヒトIgG重鎖Fc領域は通常、Cys226またはPro230の位置のアミノ酸残基からそのカルボキシル末端に伸びるものと定義される。本発明の抗体における使用に適したネイティブ配列Fc領域は、ヒトIgG1、IgG2、IgG3およびIgG4を含む。単一のアミノ酸置換(KabatナンバリングによるS228P;IgG4Proと命名)を導入して、組換えIgG4抗体において観察される異質性を消失させることができる。Angal, S.ら(1993年)Mol Immunol 30巻、105〜108頁を参照されたい。
【0071】
「非フコシル化」または「フコース欠損」抗体は、Fc領域を含むグリコシル化抗体バリアントを指し、このFc領域に付着した糖質構造は、低下したフコースを有するまたはフコースを欠如する。一部の実施形態において、フコースが低下したまたはフコースを欠如する抗体は、改善されたADCC機能を有する。一部の実施形態において、非フコシル化またはフコース欠損抗体は、細胞株において産生される同じ抗体におけるフコースの量と比べて低下したフコースを有する。本明細書において企図される非フコシル化またはフコース欠損抗体組成物は、組成物における抗体のFc領域に付着したN結合型グリカンの約50%未満が、フコースを含む組成物である。
【0072】
用語「フコシル化」または「フコシル化された」は、抗体のペプチド骨格に付着したオリゴ糖内のフコース残基の存在を指す。特に、フコシル化抗体は、例えば、ヒトIgG1 FcドメインのAsn297位における(Fc領域残基のEUナンバリング)、抗体Fc領域に付着したN結合型オリゴ糖の一方または両方における最内側N−アセチルグルコサミン(GlcNAc)残基にα(1,6)結合型フコースを含む。Asn297は、免疫グロブリンにおける軽微な配列変種により、297位の上流または下流の約+3アミノ酸に、すなわち、294〜300位の間に位置することもできる。
【0073】
「フコシル化の程度」は、本技術分野で公知の方法によって、例えば、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析(MALDI TOF MS)によって評価されるN−グリコシダーゼF処理抗体組成物において同定された、全オリゴ糖と比べたフコシル化オリゴ糖のパーセンテージである。「完全にフコシル化された抗体」の組成物において、基本的に全オリゴ糖が、フコース残基を含む、すなわち、フコシル化されている。一部の実施形態において、完全にフコシル化された抗体の組成物は、少なくとも約90%のフコシル化の程度を有する。したがって、斯かる組成物における個々の抗体は、典型的に、Fc領域における2個のN結合型オリゴ糖のそれぞれにフコース残基を含む。逆に、「完全非フコシル化」抗体の組成物において、基本的にいかなるオリゴ糖もフコシル化されておらず、斯かる組成物における個々の抗体は、Fc領域における2個のN結合型オリゴ糖のいずれにもフコース残基を含有しない。一部の実施形態において、完全非フコシル化抗体の組成物は、約10%未満のフコシル化の程度を有する。「部分的にフコシル化された抗体」の組成物において、オリゴ糖の一部のみが、フコースを含む。組成物が、Fc領域におけるN結合型オリゴ糖にフコース残基を欠如する基本的にあらゆる個々の抗体も、Fc領域におけるN結合型オリゴ糖の両方にフコース残基を含有する基本的にあらゆる個々の抗体も含まないのであれば、斯かる組成物における個々の抗体は、Fc領域におけるN結合型オリゴ糖の一方または両方にフコース残基を含むことができるまたはどちらにも含まない。一実施形態において、部分的にフコシル化された抗体の組成物は、約10%〜約80%(例えば、約50%〜約80%、約60%〜約80%または約70%〜約80%)のフコシル化の程度を有する。
【0074】
本明細書における「結合親和性」は、分子(例えば、抗体)の単一の結合部位およびその結合パートナー(例えば、抗原)の間の非共有結合性相互作用の強度を指す。一部の実施形態において、シグレック−8(本明細書に記載されているシグレック−8−Fc融合タンパク質等、二量体の場合がある)に対する抗体の結合親和性は、一般に、解離定数(Kd)により表すことができる。親和性は、本明細書に記載されている方法を含む、本技術分野で公知の一般的方法により測定することができる。
【0075】
本明細書における「結合アビディティー」は、分子(例えば、抗体)の複数の結合部位およびその結合パートナー(例えば、抗原)の結合強度を指す。
【0076】
本明細書における抗体をコードする「単離された」核酸分子は、同定され、これが産生された環境においてこれが通常関連する少なくとも1種の夾雑核酸分子から分離された核酸分子である。一部の実施形態において、単離された核酸は、産生環境と関連するあらゆる構成成分との関連を含まない。本明細書におけるポリペプチドおよび抗体をコードする単離された核酸分子は、これが天然に見出される形態または設定以外の形態である。したがって、単離された核酸分子は、本明細書において細胞中に天然に存在するポリペプチドおよび抗体をコードする核酸から区別される。
【0077】
用語「医薬製剤」は、活性成分の生物学的活性が有効となることを可能にするような形態の、この製剤が投与される個体にとって容認し難い毒性がある追加的な構成成分を含有しない調製物を指す。斯かる製剤は無菌である。
【0078】
本明細書における「担体」は、用いられている投薬量および濃度でこれに曝露される細胞または哺乳動物にとって無毒性の、薬学的に許容される担体、賦形剤または安定剤を含む。多くの場合、生理的に許容される担体は、水性pH緩衝溶液である。生理的に許容される担体の例として、リン酸塩、クエン酸塩および他の有機酸等のバッファー;アスコルビン酸を含む抗酸化剤;低分子量(約10残基未満の)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリン等のタンパク質;ポリビニルピロリドン等の親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンまたはリシン等のアミノ酸;グルコース、マンノースまたはデキストリンを含む単糖、二糖および他の糖質;EDTA等のキレート剤;マンニトールまたはソルビトール等の糖アルコール;ナトリウム等の塩形成対イオン;および/またはTWEEN(商標)、ポリエチレングリコール(PEG)およびPLURONICS(商標)等の非イオン性界面活性剤が挙げられる。
【0079】
本明細書において、用語「処置」は、臨床病理学の経過において処置されている個体または細胞の天然の経過を変更するように設計された臨床介入を指す。処置の望ましい効果は、疾患進行速度の減少、疾患状態の回復または緩和、および寛解または改善された予後を含む。例えば、障害(例えば、シグレック−8関連疾患)に関連する1種または複数の症状が、軽減または排除される場合、個体はうまく「処置」される。例えば、処置が、疾患に罹った個体のクオリティ・オブ・ライフの増加、疾患処置に必要とされる他の薬物療法の用量の減少、疾患再発の頻度の低下、疾患の重症度の低減、疾患の発症もしくは進行の遅延および/または個体の生存の延長をもたらす場合、個体はうまく「処置」される。
【0080】
本明細書において、「と併せて」は、ある処置様式に加えた、別の処置様式の投与を指す。このようなものとして、「と併せて」は、個体へのある処置様式の投与の前、最中または後における、他の処置様式の投与を指す。
【0081】
本明細書において、用語「予防」は、個体における疾患の発生または再発に関する予防法の提供を含む。個体は、障害の素因がある、障害になりやすいまたは障害発症リスクがある可能性があるが、未だ障害と診断されていない。一部の実施形態において、本明細書に記載されている抗シグレック−8抗体(例えば、ヒトシグレック−8に結合する抗体)は、障害(例えば、シグレック−8関連疾患)の発症を遅延させるために使用される。
【0082】
本明細書において、障害(例えば、シグレック−8関連疾患)発症「リスクがある」個体は、検出可能な疾患または疾患症状を有していても有していなくてもよく、本明細書に記載されている処置方法に先立ち検出可能な疾患または疾患症状を呈していてもいなくてもよい。「リスクがある」は、個体が、本技術分野で公知の疾患(例えば、シグレック−8関連疾患)の発症と相関する測定可能なパラメータである1種または複数のリスク因子を有することを意味する。これらのリスク因子のうち1種または複数を有する個体は、これらのリスク因子の1種または複数がない個体よりも高い障害発症確率を有する。
【0083】
「有効量」は、治療的または予防的結果を含む、所望のまたは表示の効果の達成に必要な投薬量および期間で、少なくとも有効な量を指す。有効量は、1回または複数の投与でもたらすことができる。「治療有効量」は、特定の障害の測定可能な改善をもたらすために要求される少なくとも最小濃度である。本明細書における治療有効量は、患者の疾患状態、年齢、性別および体重、ならびに個体において所望の応答を誘発する抗体の能力等の因子に応じて変動し得る。治療有効量は、治療的に有益な効果が、抗体のいかなる毒性または有害効果も上回る量となることもできる。「予防有効量」は、所望の予防的結果の達成に必要な投薬量および期間で有効な量を指す。典型的には、ただし必然的にではなく、予防的用量は、疾患のより早期ステージにおいてまたはそれに先立ち個体において使用されるため、予防有効量は、治療有効量未満となり得る。
【0084】
「慢性」投与は、延長された期間で初期治療効果(活性)を維持するために、急性様式とは対照的に継続的な様式での医薬(複数可)の投与を指す。「間欠的」投与は、中断することなく連続的に為されないが、周期性の性質の処置である。
【0085】
本明細書において、「個体」または「被験体」は、哺乳動物である。処置目的のための「哺乳動物」は、イヌ、ウマ、ウサギ、ウシ、ブタ、ハムスター、スナネズミ、マウス、フェレット、ラット、ネコ等、ヒト、飼育動物および家畜、ならびに動物園、スポーツまたは愛玩動物を含む。一部の実施形態において、個体または被験体は、ヒトである。
【0086】
II.組成物および方法
A.本発明の方法
個体におけるシグレック−8関連疾患(例えば、AERD)を処置または予防するための方法であって、個体に、ヒトシグレック−8に結合する本明細書に記載されている抗体(例えば、抗シグレック−8抗体)またはその組成物の有効量を投与するステップを含む方法が本明細書に提供される。個体におけるシグレック−8関連疾患(例えば、AERD)を処置または予防するための方法であって、個体に、ヒトシグレック−8に結合する本明細書に記載されているアゴニスト(例えば、6’−スルホ−sLe
X含有アゴニストまたはアゴニスト抗体)またはその組成物の有効量を投与するステップを含む方法も本明細書に提供される。一部の実施形態において、個体(例えば、ヒト)は、シグレック−8関連疾患(例えば、AERD)と診断されている、またはシグレック−8関連疾患を発症するリスクがある。本明細書において、用語「シグレック−8関連疾患」は、シグレック−8発現細胞の増殖の増加(例えば、数の増加)または活性化に関連する疾患、障害または状態を指すことができる。シグレック−8発現細胞として、好酸球、好塩基球および肥満細胞が挙げられるがこれらに限定されない。本発明の製剤により処置することができるシグレック−8関連疾患の非限定例として、慢性副鼻腔炎、鼻ポリポーシスを伴う慢性副鼻腔炎(例えば、鼻ポリポーシスを伴うアトピー性慢性副鼻腔炎または鼻ポリポーシスを伴う非アトピー性慢性副鼻腔炎)、鼻ポリポーシスおよび付随する喘息を伴う慢性副鼻腔炎(例えば、鼻ポリポーシスおよび付随する喘息を伴うアトピー性慢性副鼻腔炎または鼻ポリポーシスおよび付随する喘息を伴う非アトピー性慢性副鼻腔炎)、アスピリン増悪呼吸器疾患(例えば、アトピー性アスピリン増悪呼吸器疾患または非アトピー性アスピリン増悪呼吸器疾患)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)および副鼻腔疾患を伴う成体発症型非アトピー性喘息が挙げられる。一部の実施形態において、シグレック−8関連疾患は好酸球媒介性障害である。一部の実施形態において、シグレック−8関連疾患は、肥満細胞媒介性障害である。一部の実施形態において、シグレック−8関連疾患は、損なわれたNK細胞機能に関連する疾患である(例えば、CRSwNP)。一部の実施形態において、シグレック−8関連疾患を有する個体は、損なわれたNK細胞機能を有する。一部の実施形態において、シグレック−8関連疾患を有する個体は、損なわれたNK細胞エフェクター機能(例えば、損なわれたNK細胞媒介性ADCC活性)を有する。
【0087】
鼻ポリポーシスを伴う慢性副鼻腔炎(CRS)(CRSwNP)は、アトピー性および非アトピー性個体の両方の鼻ポリープにおける肥満細胞浸潤および好酸球浸潤によって特徴付けられる(Ruhnoら、Allergy、45巻:370〜374頁、1990年)。肥満細胞は、CRSwNPにおける副鼻腔粘膜全体を通して見出すこともできる(Takabayashiら、2011年;Stevensonら、Clin Rev. Allergy Immunol.、24巻:169頁、2003年)。その上、末梢好酸球増加症は、ポリープ好酸球浸潤(Huら、Laryngoscope、122巻(3号):498〜503頁、2012年)および疾患重症度(Brysonら、Clin Otolaryngol Allied Sci.、28巻(1号):55〜8頁、2003年)に相関する。CRSwNP患者の約30%は、慢性炎症調節に関与する局所的IgEレベル増加に関連する喘息を有する。Geveartら、J Allergy Clin Immunol.、131巻(1号):110〜116頁、2012年を参照されたい。本明細書において、「慢性副鼻腔炎」または「CRS」を有する個体は、鼻ポリープを含有してもしなくてもよい。CRSを有する成人(例えば、個体)は、次の症状のうち1種または複数を12週間またはそれを超えて示すであろう:1)そのうち1種がa)鼻の詰まり、閉塞もしくはうっ血またはb)前もしくは後鼻漏を伴う鼻汁のいずれかとなるべきである2種またはそれを超える症状によって特徴付けられる鼻部および副鼻腔の炎症;2)顔面痛または圧迫;または3)嗅覚低下または喪失。CRSを有する小児(例えば、個体)は、次の症状のうち1種または複数を12週間またはそれを超えて示すであろう:1)そのうち1種がa)鼻の詰まり、閉塞もしくはうっ血またはb)前もしくは後鼻漏を伴う鼻汁のいずれかとなるべきである2種またはそれを超える症状によって特徴付けられる鼻部および副鼻腔の炎症;2)顔面痛または圧迫、または3)咳。CRSの追加的な症状として、耳痛または耳圧、眩暈、口臭、歯痛、鼻の刺激、咽頭の刺激、喉頭の刺激、気管の刺激、発声障害、咳、傾眠、倦怠感、睡眠障害およびアスピリン感受性が挙げられるがこれらに限定されない。「鼻ポリポーシスを伴わないCRS」または「CRSsNP」を有する個体は、中鼻道に目に見えるポリープを持たない。「鼻ポリポーシスを伴うCRS」または「CRSwNP」を有する個体は、中鼻道に内視鏡により可視化される両側性ポリープを有する。副鼻腔外科手術を受けた個体は、外科手術6カ月を超えた後に、内視鏡検査においてポリープの存在が、敷石状粘膜とは対照的に両側性有茎性病変として見いだされた場合、CRSwNPを有すると診断され得る。CRSを有する個体における内視鏡(Endocopic)所見は、ポリープ、粘液膿性漏出、浮腫/粘膜閉塞のうち1種または複数を含む。CRSを有する個体は、コンピュータ断層撮影によって評価された場合、中鼻道自然口ルート(osteomeatal complex)および/または副鼻腔内に粘膜変化を有することもできる。数種類の因子が、CRSsNPまたはCRSwNPに関連することができ、その例として、線毛機能障害(カルタゲナー(Karatagener)症候群、原発性線毛運動不全または嚢胞性線維症を有する個体等)、アレルギー、喘息、アスピリン感受性、免疫無防備状態(HIVに感染した個体等)、CRSsNPもしくはCRSwNPを有する遺伝的家族歴、妊娠、病原性細菌(メチシリン耐性Staphylococcus aureus(MRSA)等)のバイオフィルム、喫煙、Helicobacter pylori感染、呑酸または骨炎が挙げられるがこれらに限定されない。Lundら、Rhinology、追補23巻:1〜299頁、2012年を参照されたい。一部の実施形態において、CRSwNPを有する個体は、損なわれたNK細胞機能を有する。一部の実施形態において、CRSwNPを有する個体は、損なわれたNK細胞エフェクター機能(例えば、損なわれたNK細胞媒介性ADCC活性)を有する。
【0088】
CRSsNPまたはCRSwNPを有する個体における処置に対する応答は、本技術分野で周知の方法によって評価することができる。Lundら、Rhinology、追補23巻:1〜299頁、2012年を参照されたい。例えば、CRSsNPまたはCRSwNPを有する個体における症状の低下または改善は、Sensonics Inc.の嗅覚識別検査のペンシルバニア大学嗅覚識別検査(University of Pennsylvania Smell Identification Test)(UPSIT)等、検証された嗅覚鈍麻スコアリング方法論を使用した、嗅覚の改善となることができる。他の例示的なアッセイにおいて、Sino−Nasal Outcome Test 20(SNOT−20)および22(SNOT−22)は、副鼻腔状態(例えば、CRS)における症状重症度および健康関連のQoLの検証された患者報告による尺度である。簡潔に説明すると、SNOT−22は、鼻をかむ必要;くしゃみ;鼻水鼻閉塞(runny nose nasal obstruction);嗅覚または味覚の喪失;咳;後鼻漏(post−nasal discharge);濃鼻汁(thick nasal discharge);耳閉感(ear fullness);眩暈;耳痛;顔面痛または圧迫;入眠障害(difficulty falling asleep);夜間に目を覚ます;良質な夜間睡眠がとれない;疲れて目を覚ます;疲労;生産性低下;集中低下;フラストレーション、不穏、易怒性;悲しみ;および困惑等、CRS関連症状に関する22個の質問を含有する。症状重症度は、ゼロから5にグレード分けされ、ゼロは、全く問題なしを示し、5は、最悪な可能な症状を示す。項目毎に、スコアが加えられて、ゼロから110に及ぶスケールの合計スコアが得られ、高スコアは、より大きい副鼻腔炎関連健康負担を示す。個体は、いずれの5項目が自身に最も重要であるかを同定するようにも求められる。アンケートの最後に、個体は、該22症状に含まれていないいかなる症状があるか記述することができ、ここ2週間にわたり経験した症状を示すように個体に求める。Langeら、Dan Med Bul.、58巻(2号):1〜6頁、2011年を参照されたい。鼻漏および鼻うっ血の評価を含む追加的な成績尺度は、前検鼻法、鼻内視鏡検査、鼻細胞診、生検および細菌学、副鼻腔透視法、コンピュータ断層撮影(CT)ならびに磁気共鳴画像法(MRI)と共に、鼻粘液線毛クリアランス(nasomucociliary clearance)、線毛拍動頻度(ciliary beat frequency)、一酸化窒素産生、ピーク鼻吸気流測定(peak nasal inspiratory flow measurement)(PNIF)、鼻腔通気度検査、音響鼻腔計測法(acoustic rhinometry)、鼻腔体積測定法(rhinostereometry)、嗅覚閾値検査およびアスピリン負荷等の追加的な評価または診断検査等、公知の方法論を使用することにより、本技術分野で公知である。例えば、ベースラインおよび本明細書に記載されている抗体またはアゴニストによる処置後に行われる鼻部および副鼻腔のコンピュータ断層撮影(CT)x線走査は、Lund−Mackayスコアリングシステムを使用することにより評価される。Lundら、Rhinology、追補23巻:1〜299頁、2012年;およびvan Spronsenら、Allergy、63巻:820〜833頁、2008年を参照されたい。
【0089】
可逆性閉塞性気道疾患としても公知の喘息は、呼吸刺激物質および気管支収縮剤化学物質に対する気管気管支樹の応答性亢進によって特徴付けられ、自発的にまたは処置により可逆性である喘鳴、呼吸困難、胸部絞扼感および咳の発作を生じる。これは、気道全体に関与する慢性疾患であるが、時折の軽度一過性エピソードから重度慢性の生命に関わる気管支閉塞へと重症度が変動する。喘息発作の身体的兆候は、頻呼吸、聞き取れる喘鳴および呼吸副筋の使用を含む。末梢血および鼻分泌物における好酸球のレベル上昇と同様に、速い脈拍および血圧上昇も典型的に存在する。喘息およびアトピーは共存し得るが、喘息患者の約半数のみが、同様にアトピー性であり、さらにより少ないパーセンテージのアトピー患者が喘息も有する。しかし、喘息は、特に小児期において、非アトピー性個体よりも頻繁にアトピー性個体の間で起こるという点において、アトピーおよび喘息は、完全に無関係とは限らない。喘息はさらに、2種のサブグループ、外因性喘息および内因性喘息へと歴史的に分類されている。加えて、喘息は、気道の慢性炎症、異なる患者間の頻度で環境的トリガーに応答して変動する急性増悪に関与する。重症例において、気道の慢性リモデリングが起こり得る。
【0090】
アレルギー性、アトピー性または免疫性喘息としても公知の外因性喘息は、通常、乳児期または小児期である年少期に喘息を一般に発症する患者の説明である。湿疹またはアレルギー性鼻炎を含むアトピーの他の症状発現が多くの場合共存する。喘息性発作は、花粉の季節において、動物の存在下で、またはハウスダスト、羽毛枕もしくは他のアレルゲンへの曝露下で起こり得る。皮膚検査は、原因となるアレルゲンに対する陽性膨疹・紅斑反応を示す。興味深いことに、血清総IgE濃度は頻繁に上昇するが、正常の場合もある。非アレルギー性または特発性(idopathic)喘息としても公知の内因性喘息は、典型的には、顕性呼吸感染後に成人期において最初に起こる。症状は、花粉の季節または他のアレルゲンへの曝露とは無関係な慢性または再発性気管支閉塞を含む。皮膚検査は、通常のアトピー性アレルゲンに対し陰性であり、血清IgE濃度は正常である。追加的な症状は、痰血液および好酸球増加症を含む。本特許出願の目的のために、「好酸球媒介性障害」、「肥満細胞媒介性障害」、「シグレック−8関連疾患」、「付随する喘息を伴うCRSsNP」または「付随する喘息を伴うCRSwNP」は、アレルギー性および非アレルギー性喘息の両方を含む。喘息の症状は、一秒量(FEV
1);喘息増悪の頻度の低下;および局所的または全身性ステロイドの必要の低下等、標準喘息スコアリングシステムを使用して評価することができる。
【0091】
鼻ポリープは、鼻閉塞、鼻漏、後鼻漏および嗅覚喪失等の症状を引き起こし得る鼻腔、副鼻腔またはその両方における良性浮腫性腫瘤である。Geveartら、J Allergy Clin Immunol.、131巻(1号):110〜116頁、2012年を参照されたい。鼻ポリポーシスは、鼻腔へと成長して飛び出す炎症組織によって特徴付けられる、上気道の慢性炎症性疾患であり、正確な病因は不明であるが、成人の1〜5%の間の有病率を有することが公知である(Settipane G A:Epidemiology of nasal polyps.、Allergy Asthma Proc、1996年、17巻:231〜236頁)。鼻ポリポーシスは、典型的には、20歳またはそれより年上の男性において呈し、鼻閉塞、嗅覚鈍麻および再発性感染を引き起こし、通年性アレルギー性鼻炎よりも有意に大きい影響をクオリティ・オブ・ライフに与える(Liら、J Investig Allergol Clin Immunol、19巻(4号):276〜282頁、2009年)。鼻ポリポーシスの全患者の最大3分の1が、喘息であると報告されるが、喘息患者の7%のみが、鼻ポリポーシスを有する。鼻ポリポーシスに関係付けられる優勢な細胞型は、鼻ポリープに浸潤することが示されてきた好酸球および肥満細胞を含む。(Ruhnoら、Allergy、45巻:370〜374頁、1990年)および(Huら、Laryngoscope、122巻(3号):498〜503頁、2012年)を参照されたい。本明細書における一部の実施形態において、鼻ポリープのサイズの低下が評価される。鼻ポリープのサイズを評価する標準方法は、本技術分野で公知である。Gevaertら、J Allergy Clin Immunol.、131巻(1号):110〜116頁、2013年を参照されたい。例示的なアッセイにおいて、総鼻内視鏡ポリープスコア(TPS)は、各来診の際の鼻内視鏡検査を用いて評価され、ポリープのサイズに基づきグレード分けされ、外鼻孔毎に0から4のスコアをもたらす。このスコアリングシステムを次に示す:スコア0は、ポリープなしを示す;1は、中鼻甲介(middle turbinate)の下縁の下に達しない中鼻道(middle meatus)における小ポリープを表す;2は、中鼻甲介の下辺縁の下に達するポリープを表す;3は、下鼻甲介の下辺縁に達する大ポリープまたは中鼻甲介の内側にあるポリープを表す;4は、下鼻腔の完全閉塞の原因となる大ポリープを表す。TPSは、左および右外鼻孔スコアの和である(0から8のスケール)。ポリープを除去し、副鼻腔および鼻孔をきれいにするための外科的介入の必要の低下を評価することもできる。本明細書に記載されている方法の一部において、鼻ポリープにおける好酸球が枯渇される。
【0092】
アスピリン増悪呼吸器疾患(AERD)またはSamterの三徴候は、ほとんど致死的な喘息に強く関連する(Szczeklikら、Hypersensitivity to Aspirin and Nonsteroidal Anti−Inflammatory Drugs. In: Middleton’s Allergy、第7版、Mosby Elsevier、Philadelphia, PA、1227〜1243頁、2009年)。喘息に加えて、AERD患者は、鼻ポリープを伴うCRSを有し、アスピリンの経口摂取は、喘息および鼻炎発作の両方をもたらす。Berges−Gimeneら、Ann Allergy Asthma Immunol、89巻:474〜478頁、2002年を参照されたい。重篤かつ制御できないCRSは、これらの患者における喘息の経過を悪化させる(Kowalski M. L.、http://www.worldallergy.org/professional/allergic_diseases_center/aspirin/、本来2006年5月に投稿)。この疾患は、好酸球性喘息に関連し、多数の好酸球および肥満細胞の両方(総細胞の50%を超える)を含有する鼻ポリープの成長によって特徴付けられるため、高度に好酸球性である。AERDは、呼吸粘膜全体への好酸球および肥満細胞の激しい浸潤によって特徴付けられ(Stevensonら、Clin Rev. Allergy Immunol.、24巻:169頁、2003年)、これは、浸潤性気道リモデリングをもたらし得る(Steinkeら、J Allergy.、2012年:1〜9頁、2012年)。AERD患者におけるポリープは、アスピリン耐性CRSwNP患者と同様の組織学を示すが、さらにより顕著な肥満細胞および好酸球関与を示す。AERDにおける好酸球および肥満細胞浸潤は、激しいまたは「壊滅的」であると記載されている(Stevensonら、J Allergy Clin Immunol.、118巻:773〜786頁、2006年)。AERDは、喘息とは異なる自然経過による別個の疾患である考慮される。例えば、これは典型的には、小児喘息から発生しないが、典型的には30代から40代に鼻ポリポーシスを伴う重篤な持続性疾患としてde novoで生じる。AERDに見られるIL−4およびシステイニルロイコトリエン(CysLT)のレベル上昇は、この疾患における肥満細胞および好酸球の両方の激しい浸潤に関係付けられており(Steinkeら、J Allergy.、2012年:1〜9頁、2012年)、肥満細胞および好酸球の両方のアポトーシスの低下は、ポリープにおける両方の細胞型の高レベルに寄与する因子となることができる(Kowalski M. L.、http://www.worldallergy.org/professional/allergic_diseases_center/aspirin/、本来2006年5月に投稿)。本明細書における一部の実施形態において、慢性副鼻腔炎を有する個体は、アスピリン増悪呼吸器疾患を有する。
【0093】
一部の個体は、喘息を処置するのが困難であり、抗炎症性処置にもかかわらず好酸球性気道炎症が持続する。この種類の喘息は、より重篤な喘息、高頻度増悪および肺機能喪失に関連し得る。喘息処置の困難の1種は、副鼻腔疾患を伴う成体発症型非アトピー性喘息である。副鼻腔疾患を伴う成体発症型非アトピー性喘息を有する個体は、永続的喀痰中好酸球増加症、遅発型の喘息を有し、アトピー性である場合が少なく、永続的喀痰中好酸球増加症がない個体と比較して、より高い血中好酸球、より高いコンピュータ断層撮影副鼻腔スコアおよびより低いFEV
1を有する。一部の個体は、上昇したレベルの呼気中一酸化窒素(FeNO)を有することもできる。永続的喀痰中好酸球増加症は、ベースラインおよびベースラインの5年間後における痰好酸球≧2%として定義される。van Veenら、J Allergy Clin Immunol.、124巻(3号):615617頁、2009年を参照されたい。
【0094】
ナチュラルキラー細胞(NK細胞)は、炎症性肺疾患の予防において重要な役割を果たすことが示されてきた細胞傷害性リンパ球である。NK細胞機能は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)として公知の気道の慢性炎症性障害において損なわれることが見いだされている。COPDは、完全に可逆的とは限らない進行性気流制限によって特徴付けられる疾患である。COPDの病理学的特徴は、慢性気管支炎、肺気腫および呼吸器細気管支炎を含む。中枢気道における炎症性応答は、慢性気管支炎として公知であり、定期的に痰を喀出する個体において臨床診断することができる。炎症性応答は、肺気腫として公知の状態である、肺胞等、肺における組織の破壊を引き起こし得る。COPDを診断する方法は、肺活量測定検査等、肺機能検査を含む。Prietoら、Am J Respir Crit Care Med.、163巻(7号):1578〜83頁、2001年およびFaircloughら、Clin Sci (Lond).、114巻(8号):533〜41頁、2008年を参照されたい。さらに、NK細胞は、慢性副鼻腔炎(CRS)を有する個体における病理学的特徴と考慮される好酸球性炎症を調節することができる。近年、損なわれたNK細胞機能は、CRSを有する個体において見出され、これらの個体は、付随する喘息および末梢血好酸球増加症等、不良な予後因子に関連した。この種類のCRSは、医学的および外科的治療法に対し不応性である。Kimら、PLoS ONE.、8巻(10号):e77177頁、2013年を参照されたい。個体は、ADCC活性を媒介するNK細胞におけるFc受容体であるCD16における多型のため、変動するNK細胞機能を有することができる。CD16コード遺伝子FCGR3Aは、ヌクレオチド526に一塩基多型(SNP)を有し[チミジン(T)→グアニン(G)]、158位のアミノ酸におけるフェニルアラニン(F)からバリン(V)へのアミノ酸交換をもたらす。ヒトIgG1が、FcγRIIIa−158Fアロタイプよりも効率的にFcγRIIIa−158Vアロタイプを発現するNK細胞に結合することが実証された。個体は、CD16 158V/V遺伝子型(すなわち、CD16の両方のアレルにおける158V)、CD16 158F/F遺伝子型(すなわち、CD16の両方のアレルにおける158F)またはCD16 158V/F遺伝子型(すなわち、CD16の一方のアレルにおける158VおよびCD16の一方のアレルにおける158F)を有することができる。Koeneら、Blood.、90巻(3号):1109〜14頁、1997年を参照されたい。
【0095】
一部の実施形態において、ナチュラルキラー(NK)細胞機能が損なわれた個体におけるシグレック−8関連疾患を処置または予防するための方法であって、ヒトシグレック−8に結合する抗体(例えば、抗シグレック−8抗体)またはアゴニスト(例えば、6’−スルホ−sLe
X含有アゴニスト)の有効量を個体に投与するステップを含む方法が本明細書に提供される。本明細書における一部の実施形態において、シグレック−8関連疾患は、鼻ポリポーシスおよび付随する喘息を伴う慢性副鼻腔炎である。本明細書における一部の実施形態において、シグレック−8関連疾患は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)である。本明細書における実施形態の一部において、シグレック−8関連疾患(例えば、CRSwNPおよび付随する喘息)を有する個体における1種または複数の症状は、ヒトシグレック−8に結合する抗体(例えば、抗シグレック−8抗体)の投与後に、ベースラインと比べて低下または改善される(例えば、参照値)。本明細書における実施形態の一部において、シグレック−8関連疾患(例えば、CRSwNPおよび付随する喘息)を有する個体における1種または複数の症状は、ヒトシグレック−8に結合するアゴニスト(例えば、6’−スルホ−sLe
X含有アゴニスト)の投与後に、ベースラインと比べて低下または改善される(例えば、参照値)。本明細書における実施形態の一部において、損なわれたNK細胞機能は、損なわれたNK細胞脱顆粒、損なわれたNK細胞サイトカイン産生および損なわれたNK細胞媒介性抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)のうち1種または複数である。一部の実施形態において、NK細胞機能が損なわれた個体は、CD16 158V/V遺伝子型を有する。一部の実施形態において、NK細胞機能が損なわれた個体は、CD16 158F/F遺伝子型を有する。一部の実施形態において、NK細胞機能が損なわれた個体は、CD16 158V/F遺伝子型を有する。一部の実施形態において、NK細胞機能は、シグレック−8関連疾患がなく、等価なCD16遺伝子型を有する個体から得られる試料と比較して、シグレック−8関連疾患を有し、NK細胞機能が損なわれた個体から得られる試料において少なくとも約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%または約100%低下される(例えば、NK細胞機能は、損なわれる)。
【0096】
一部の実施形態において、個体における慢性閉塞性肺疾患(COPD)を処置または予防するための方法であって、ヒトシグレック−8に結合する抗体(例えば、抗シグレック−8抗体)またはアゴニスト(例えば、6’−スルホ−sLe
X含有アゴニスト)の有効量を個体に投与するステップを含む方法が本明細書に提供される。本明細書における実施形態の一部において、COPDを有する個体における1種または複数の症状は、ヒトシグレック−8に結合する抗体(例えば、抗シグレック−8抗体)の投与後に、ベースラインと比べて低下または改善される(例えば、参照値)。本明細書における実施形態の一部において、COPDを有する個体における1種または複数の症状は、ヒトシグレック−8に結合するアゴニスト(例えば、6’−スルホ−sLe
X含有アゴニスト)の投与後に、ベースラインと比べて低下または改善される(例えば、参照値)。一部の実施形態において、COPDを有する個体における1種または複数の症状は、息切れ;喘鳴;胸部絞扼感、慢性の咳;痰産生;チアノーゼ、頻繁な呼吸器感染症;疲労;および体重減少からなる群より選択される。一部の実施形態において、個体は、損なわれたナチュラルキラー(NK)細胞機能を有する。一部の実施形態において、NK細胞機能が損なわれた個体は、CD16 158V/V遺伝子型を有する。一部の実施形態において、NK細胞機能が損なわれた個体は、CD16 158F/F遺伝子型を有する。一部の実施形態において、NK細胞機能が損なわれた個体は、CD16 158V/F遺伝子型を有する。一部の実施形態において、NK細胞機能は、慢性閉塞性肺疾患がなく、等価なCD16遺伝子型を有する個体から得られる試料と比較して、慢性閉塞性肺疾患を有し、NK細胞機能が損なわれた個体から得られる試料において少なくとも約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%または約100%低下される(例えば、NK細胞機能は、損なわれる)。
【0097】
一部の実施形態において、ナチュラルキラー(NK)細胞機能が損なわれた個体における好酸球を枯渇させるための方法であって、ヒトシグレック−8に結合する抗体(例えば、抗シグレック−8抗体)またはアゴニスト(例えば、6’−スルホ−sLe
X含有アゴニスト)の有効量を個体に投与するステップを含む方法が本明細書に提供される。本明細書における実施形態の一部において、個体は、シグレック−8関連疾患を有する。一部の実施形態において、シグレック−8関連疾患は、鼻ポリポーシスおよび付随する喘息を伴う慢性副鼻腔炎または慢性閉塞性肺疾患である。本明細書における実施形態の一部において、損なわれたNK細胞機能は、損なわれたNK細胞脱顆粒、損なわれたNK細胞サイトカイン産生および損なわれたNK細胞媒介性抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)のうち1種または複数である。一部の実施形態において、NK細胞機能が損なわれた個体は、CD16 158V/V遺伝子型を有する。一部の実施形態において、NK細胞機能が損なわれた個体は、CD16 158F/F遺伝子型を有する。一部の実施形態において、NK細胞機能が損なわれた個体は、CD16 158V/F遺伝子型を有する。一部の実施形態において、NK細胞機能は、シグレック−8関連疾患がなく、等価なCD16遺伝子型を有する個体から得られる試料と比較して、シグレック−8関連疾患を有し、NK細胞機能が損なわれた個体から得られる試料において少なくとも約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%または約100%低下される(例えば、NK細胞機能は、損なわれる)。
【0098】
本技術分野で公知であり本明細書に記載されている方法論およびアッセイは、本明細書に記載されているいずれかのシグレック−8関連疾患(例えば、CRSsNP、CRSwNP、AERDおよび副鼻腔疾患を伴う成体発症型非アトピー性喘息)または本明細書に記載されているシグレック−8関連疾患の症状の評価に使用することができる。
【0099】
本明細書に提供される方法の一部の実施形態において、本方法は、シグレック−8関連疾患(例えば、鼻ポリポーシスを伴う慢性副鼻腔炎)であると個体(例えば、患者)を診断するステップ、処置のためにシグレック−8関連疾患(例えば、鼻ポリポーシスを伴う慢性副鼻腔炎)を有する個体(例えば、患者)を選択するステップ、および/または個体(例えば、患者)が、シグレック−8関連疾患(例えば、鼻ポリポーシスを伴う慢性副鼻腔炎)を有するか決定するステップをさらに含む。一部の実施形態において、本方法は、個体におけるシグレック−8関連疾患(例えば、鼻ポリポーシスを伴う慢性副鼻腔炎)を処置または予防する前に、シグレック−8関連疾患であると個体を診断するステップ、処置のためにシグレック−8関連疾患を有する個体を選択するステップ、および/または個体が、シグレック−8関連疾患を有するか決定するステップをさらに含み、方法は、ヒトシグレック−8に結合する抗体(例えば、抗シグレック−8抗体)またはアゴニスト(例えば、6’−スルホ−sLe
X含有アゴニスト)の有効量を投与するステップを含む。一部の実施形態において、本方法は、個体におけるシグレック−8関連疾患(例えば、鼻ポリポーシスを伴う慢性副鼻腔炎)を処置または予防した後に、シグレック−8関連疾患であると個体を診断するステップ、処置のためにシグレック−8関連疾患を有する個体を選択するステップ、および/または個体が、シグレック−8関連疾患を有するか決定するステップをさらに含み、方法は、ヒトシグレック−8に結合する抗体(例えば、抗シグレック−8抗体)またはアゴニスト(例えば、6’−スルホ−sLe
X含有アゴニスト)の有効量を投与するステップを含む。
【0100】
一部の実施形態において、個体における鼻ポリポーシスを伴わない慢性副鼻腔炎を処置または予防するための方法であって、ヒトシグレック−8に結合する抗体(例えば、抗シグレック−8抗体)またはアゴニスト(例えば、6’−スルホ−sLe
X含有アゴニスト)の有効量を個体に投与するステップを含む方法が本明細書に提供される。一部の実施形態において、個体における鼻ポリポーシスを伴う慢性副鼻腔炎を処置または予防するための方法であって、ヒトシグレック−8に結合する抗体(例えば、抗シグレック−8抗体)またはアゴニスト(例えば、6’−スルホ−sLe
X含有アゴニスト)の有効量を個体に投与するステップを含む方法が本明細書に提供される。一部の実施形態において、個体における鼻ポリポーシスを伴う非アトピー性慢性副鼻腔炎を処置または予防するための方法であって、ヒトシグレック−8に結合する抗体(例えば、抗シグレック−8抗体)またはアゴニスト(例えば、6’−スルホ−sLe
X含有アゴニスト)の有効量を個体に投与するステップを含む方法が本明細書に提供される。一部の実施形態において、個体における鼻ポリポーシスを伴うアトピー性慢性副鼻腔炎を処置または予防するための方法であって、ヒトシグレック−8に結合する抗体(例えば、抗シグレック−8抗体)またはアゴニスト(例えば、6’−スルホ−sLe
X含有アゴニスト)の有効量を個体に投与するステップを含む方法が本明細書に提供される。一部の実施形態において、個体における付随する喘息を伴う慢性副鼻腔炎を処置または予防するための方法であって、ヒトシグレック−8に結合する抗体(例えば、抗シグレック−8抗体)またはアゴニスト(例えば、6’−スルホ−sLe
X含有アゴニスト)の有効量を個体に投与するステップを含む方法が本明細書に提供される。一部の実施形態において、個体における鼻ポリポーシスおよび付随する喘息を伴う慢性副鼻腔炎を処置または予防するための方法であって、ヒトシグレック−8に結合する抗体(例えば、抗シグレック−8抗体)またはアゴニスト(例えば、6’−スルホ−sLe
X含有アゴニスト)の有効量を個体に投与するステップを含む方法が本明細書に提供される。本明細書における実施形態の一部において、個体は、アスピリンに対し感受性である。本明細書における実施形態の一部において、慢性副鼻腔炎は、アスピリン増悪呼吸器疾患である。
【0101】
本明細書における実施形態の一部において、慢性副鼻腔炎(例えば、CRSwNP)を有する個体における1種または複数の症状は、ヒトシグレック−8に結合する抗体(例えば、抗シグレック−8抗体)の投与後に、ベースラインと比べて低下または改善される(例えば、参照値)。本明細書における実施形態の一部において、慢性副鼻腔炎(例えば、CRSwNP)を有する個体における1種または複数の症状は、ヒトシグレック−8に結合するアゴニスト(例えば、6’−スルホ−sLe
X含有アゴニスト)の投与後に、ベースラインと比べて低下または改善される(例えば、参照値)。一部の実施形態において、慢性副鼻腔炎(例えば、CRSwNP)を有する個体における1種または複数の症状は、鼻部および副鼻腔の炎症;鼻の詰まり、閉塞またはうっ血;鼻ポリープ;前または後鼻漏を伴う鼻汁;顔面痛または圧迫;嗅覚低下または喪失;咳;耳痛;耳圧;眩暈;口臭;歯痛;鼻の刺激;咽頭の刺激;喉頭の刺激;気管の刺激;発声障害;咳;傾眠;倦怠感;睡眠障害;ならびにアスピリン感受性からなる群より選択される。一部の実施形態において、慢性副鼻腔炎(例えば、CRSwNP)を有する個体における1種または複数の症状は、鼻をかむ必要;くしゃみ;鼻水鼻閉塞;嗅覚または味覚の喪失;咳;後鼻漏;濃鼻汁;耳閉感;眩暈;耳痛;顔面痛または圧迫;入眠障害;夜間に目を覚ます;良質な夜間睡眠がとれない;疲れて目を覚ます;疲労;生産性低下;集中低下;フラストレーション、不穏、易怒性;悲しみ;および困惑からなる群より選択される。本明細書における実施形態の一部において、慢性副鼻腔炎(例えば、CRSwNP)を有する個体における喘息の1種または複数の症状は、ヒトシグレック−8に結合する抗体(例えば、抗シグレック−8抗体)の投与後に、ベースラインと比べて低下または改善される。本明細書における実施形態の一部において、慢性副鼻腔炎(例えば、CRSwNP)を有する個体における喘息の1種または複数の症状は、ヒトシグレック−8に結合するアゴニスト(例えば、6’−スルホ−sLe
X含有アゴニスト)の投与後に、ベースラインと比べて低下または改善される。一部の実施形態において、慢性副鼻腔炎(例えば、CRSwNP)を有する個体における喘息の1種または複数の症状は、一秒量(FEV
1);喘息増悪の頻度;および局所的または全身性ステロイドの必要からなる群より選択される。本明細書における一部の実施形態において、個体(例えば、CRSwNPを有する個体)における鼻ポリープのサイズは、ヒトシグレック−8に結合する抗体またはアゴニストの投与後に、ベースラインと比べて低下される。本明細書における一部の実施形態において、個体(例えば、CRSwNPを有する個体)における総鼻内視鏡ポリープスコアは、ヒトシグレック−8に結合する抗体またはアゴニストの投与後に、ベースラインと比べて低下される。本明細書における一部の実施形態において、個体(例えば、CRSwNPを有する個体)における鼻ポリープにおける好酸球の量は、ヒトシグレック−8に結合する抗体またはアゴニストの投与後に、ベースラインと比べて低下される。本明細書における一部の実施形態において、個体(例えば、CRSwNPを有する個体)における生体液(例えば、血液)における好酸球の量は、ヒトシグレック−8に結合する抗体またはアゴニストの投与後に、ベースラインと比べて低下される。本明細書における一部の実施形態において、個体は、ヒトである。本明細書における実施形態の一部において、抗体は、抗体および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物中に存在する。本明細書における実施形態の一部において、アゴニストは、アゴニストおよび薬学的に許容される担体を含む医薬組成物中に存在する。
【0102】
一部の実施形態において、個体におけるアスピリン増悪呼吸器疾患を処置または予防するための方法であって、ヒトシグレック−8に結合する抗体(例えば、抗シグレック−8抗体)またはアゴニスト(例えば、6’−スルホ−sLe
X含有アゴニスト)の有効量を個体に投与するステップを含む方法が本明細書に提供される。一部の実施形態において、アスピリン増悪呼吸器疾患は、非アトピー性アスピリン増悪呼吸器疾患である。一部の実施形態において、アスピリン増悪呼吸器疾患は、アトピー性アスピリン増悪呼吸器疾患である。本明細書における実施形態の一部において、アスピリン増悪呼吸器疾患(例えば、アトピー性アスピリン増悪呼吸器疾患)を有する個体における1種または複数の症状は、ヒトシグレック−8に結合する抗体(例えば、抗シグレック−8抗体)の投与後に、ベースラインと比べて低下または改善される(例えば、参照値)。本明細書における実施形態の一部において、アスピリン増悪呼吸器疾患(例えば、アトピー性アスピリン増悪呼吸器疾患)を有する個体における1種または複数の症状は、ヒトシグレック−8に結合するアゴニスト(例えば、6’−スルホ−sLe
X含有アゴニスト)の投与後に、ベースラインと比べて低下または改善される(例えば、参照値)。一部の実施形態において、アスピリン増悪呼吸器疾患(例えば、アトピー性アスピリン増悪呼吸器疾患)を有する個体における1種または複数の症状は、鼻部および副鼻腔の炎症;鼻の詰まり、閉塞またはうっ血;鼻ポリープ;前または後鼻漏を伴う鼻汁;顔面痛または圧迫;嗅覚低下または喪失;咳;耳痛;耳圧;眩暈;口臭;歯痛;鼻の刺激;咽頭の刺激;喉頭の刺激;気管の刺激;発声障害;咳、傾眠;倦怠感;睡眠障害;ならびにアスピリン感受性からなる群より選択される。本明細書における一部の実施形態において、アスピリン増悪呼吸器疾患(例えば、アトピー性アスピリン増悪呼吸器疾患)に関連する症状は、鼻ポリポーシスである。本明細書における一部の実施形態において、個体(例えば、アスピリン増悪呼吸器疾患を有する個体)における鼻ポリープのサイズは、ヒトシグレック−8に結合する抗体またはアゴニストの投与後に、ベースラインと比べて低下される。本明細書における一部の実施形態において、個体(例えば、アスピリン増悪呼吸器疾患を有する個体)における総鼻内視鏡ポリープスコアは、ヒトシグレック−8に結合する抗体またはアゴニストの投与後に、ベースラインと比べて低下される。本明細書における実施形態の一部において、アスピリン増悪呼吸器疾患(例えば、アトピー性アスピリン増悪呼吸器疾患)を有する個体における喘息の1種または複数の症状は、ヒトシグレック−8に結合する抗体またはアゴニストの投与後に、ベースラインと比べて低下または改善される。一部の実施形態において、アスピリン増悪呼吸器疾患(例えば、アトピー性アスピリン増悪呼吸器疾患)を有する個体における喘息の1種または複数の症状は、一秒量(FEV
1);喘息増悪の頻度;および局所的または全身性ステロイドの必要からなる群より選択される。本明細書における一部の実施形態において、個体は、ヒトである。本明細書における一部の実施形態において、個体(例えば、アスピリン増悪呼吸器疾患を有する個体)におけるアスピリンに対する感受性は、ヒトシグレック−8に結合する抗体またはアゴニストの投与後に、ベースラインと比べて低下される。本明細書における実施形態の一部において、抗体は、抗体および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物中に存在する。本明細書における実施形態の一部において、アゴニストは、アゴニストおよび薬学的に許容される担体を含む医薬組成物中に存在する。
【0103】
一部の実施形態において、個体における副鼻腔疾患を伴う成体発症型非アトピー性喘息を処置または予防するための方法であって、ヒトシグレック−8に結合する抗体(例えば、抗シグレック−8抗体)またはアゴニスト(例えば、6’−スルホ−sLe
X含有アゴニスト)の有効量を個体に投与するステップを含む方法が本明細書に提供される。本明細書における実施形態の一部において、副鼻腔疾患を伴う成体発症型非アトピー性喘息を有する個体における1種または複数の症状は、ヒトシグレック−8に結合する抗体(例えば、抗シグレック−8抗体)の投与後に、ベースラインと比べて低下または改善される(例えば、参照値)。本明細書における実施形態の一部において、副鼻腔疾患を伴う成体発症型非アトピー性喘息を有する個体における1種または複数の症状は、ヒトシグレック−8に結合するアゴニスト(例えば、6’−スルホ−sLe
X含有アゴニスト)の投与後に、ベースラインと比べて低下または改善される(例えば、参照値)。一部の実施形態において、副鼻腔疾患を伴う成体発症型非アトピー性喘息を有する個体における1種または複数の症状は、永続的喀痰中好酸球増加症、永続的喀痰中好酸球増加症がない個体と比較してより高い血中好酸球、および永続的喀痰中好酸球増加症がない個体と比較して上昇したレベルの呼気中一酸化窒素(FeNO)からなる群より選択される。本明細書における一部の実施形態において、副鼻腔疾患を伴う成体発症型非アトピー性喘息に関連する症状は、永続的喀痰中好酸球増加症である。本明細書における実施形態の一部において、副鼻腔疾患を伴う成体発症型非アトピー性喘息を有する個体における喘息の1種または複数の症状は、ヒトシグレック−8に結合する抗体またはアゴニストの投与後に、ベースラインと比べて低下または改善される。一部の実施形態において、副鼻腔疾患を伴う成体発症型非アトピー性喘息を有する個体における喘息の1種または複数の症状は、一秒量(FEV
1);喘息増悪の頻度;および局所的または全身性ステロイドの必要からなる群より選択される。本明細書における一部の実施形態において、個体は、ヒトである。本明細書における実施形態の一部において、抗体は、抗体および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物中に存在する。本明細書における実施形態の一部において、アゴニストは、アゴニストおよび薬学的に許容される担体を含む医薬組成物中に存在する。
【0104】
本明細書において互換的に使用される用語「ベースライン」または「ベースライン値」は、治療法(例えば、抗シグレック−8抗体)の投与前の、または治療法の投与の開始時における症状の測定値または特徴付けを指すことができる。本明細書において考慮されるシグレック−8関連疾患の症状の低下または改善を決定するために、ベースライン値は、参照値と比較することができる。本明細書において互換的に使用される用語「参照」または「参照値」は、治療法(例えば、抗シグレック−8抗体)の投与後の症状の測定値または特徴付けを指すことができる。参照値は、投薬レジメンもしくは処置サイクルの間にまたは投薬レジメンもしくは処置サイクルの完了時に、1回または複数回測定することができる。「参照値」は、絶対値;相対値;上限および/または下限を有する値;値の範囲;平均値;中央値;平均的な値;またはベースライン値と比較される値となることができる。同様に、「ベースライン値」は、絶対値;相対値;上限および/または下限を有する値;値の範囲;平均値;中央値;平均的な値;または参照値と比較される値となることができる。参照値および/またはベースライン値は、1個体から、または異なる2個体から、または個体の群(例えば、2、3、4、5またはそれを超える個体の群)から得ることができる。例えば、シグレック−8関連疾患(例えば、CRSwNP)を有する個体は、個体におけるヒトシグレック−8に結合する抗体の投与の前または開始時に測定される嗅覚の感覚またはレベル(例えば、ベースライン値)と比較して、ヒトシグレック−8に結合する抗体の投与後に(例えば、参照値)、改善された嗅覚の感覚またはレベルを有することができる。別の例において、シグレック−8関連疾患(例えば、CRSwNP)を有する個体は、異なる個体におけるヒトシグレック−8に結合する抗体の投与の前または開始時に測定される嗅覚の感覚またはレベル(例えば、ベースライン値)と比較して、ヒトシグレック−8に結合する抗体の投与後に(例えば、参照値)、改善された嗅覚の感覚またはレベルを有することができる。さらに別の例において、シグレック−8関連疾患(例えば、CRSwNP)を有する個体は、個体の群におけるヒトシグレック−8に結合する抗体の投与の前または開始時に測定される嗅覚の感覚またはレベル(例えば、ベースライン値)と比較して、ヒトシグレック−8に結合する抗体の投与後に(例えば、参照値)、改善された嗅覚の感覚またはレベルを有することができる。別の例において、シグレック−8関連疾患(例えば、CRSwNP)を有する個体の群は、個体の群におけるヒトシグレック−8に結合する抗体の投与の前または開始時に測定される嗅覚の感覚またはレベル(例えば、ベースライン値)と比較して、ヒトシグレック−8に結合する抗体の投与後に(例えば、参照値)、改善された嗅覚の感覚またはレベルを有することができる。本明細書における実施形態のいずれかにおいて、ベースライン値は、ヒトシグレック−8に結合する抗体で処置されていない、1個体から、異なる2個体から、または個体の群(例えば、2、3、4、5またはそれを超える個体の群)から得ることができる。
【0105】
本明細書において考慮される処置方法は、ヒトシグレック−8に結合する本明細書に記載されている抗体もしくはアゴニストまたはその組成物による、好酸球媒介性障害および/または肥満細胞媒介性障害の処置である。好酸球媒介性障害は、好酸球遊走、走化性、発生または顆粒化に関連する障害または疾患を含む。同様に、肥満細胞媒介性障害は、肥満細胞遊走、走化性、作製または顆粒化に関連する障害または疾患を含む。本発明の製剤で処置可能な好酸球媒介性障害および/または肥満細胞媒介性障害は、喘息、アレルギー性鼻炎、鼻ポリポーシス、アトピー性皮膚炎、慢性蕁麻疹、肥満細胞症、好酸球性白血病、好酸球増加症候群、慢性副鼻腔炎、鼻ポリポーシスを伴う慢性副鼻腔炎(例えば、鼻ポリポーシスを伴うアトピー性慢性副鼻腔炎または鼻ポリポーシスを伴う非アトピー性慢性副鼻腔炎)、鼻ポリポーシスおよび付随する喘息を伴う慢性副鼻腔炎(例えば、鼻ポリポーシスおよび付随する喘息を伴うアトピー性慢性副鼻腔炎または鼻ポリポーシスおよび付随する喘息を伴う非アトピー性慢性副鼻腔炎)、アスピリン増悪呼吸器疾患(例えば、アトピー性アスピリン増悪呼吸器疾患または非アトピー性アスピリン増悪呼吸器疾患)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)ならびに副鼻腔疾患を伴う成体発症型非アトピー性喘息を含む。本発明の製剤により処置できる好酸球媒介性障害および/または肥満細胞媒介性障害は、損なわれたNK細胞機能(例えば、損なわれたNK細胞媒介性ADCC活性等、損なわれたNK細胞エフェクター機能)に関連する疾患(例えば、CRSwNP)も含む。
【0106】
一部の実施形態において、本明細書に記載されている個体は、好酸球(例えば、シグレック−8を発現する好酸球)の枯渇または低下のために、ヒトシグレック−8に結合する抗体もしくはアゴニストまたはその組成物の有効量を投与される。一部の実施形態において、抗シグレック−8抗体は、処置前のベースラインレベルと比較して、被験体から得られる試料における好酸球(例えば、シグレック−8を発現する好酸球)の少なくとも約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%または約100%を枯渇または低下させる。一部の実施形態において、抗シグレック−8抗体は、処置前のベースラインレベルと比較して、被験体から得られる試料における好酸球(例えば、シグレック−8を発現する好酸球)の少なくとも約20%を枯渇または低下させる。一部の実施形態において、好酸球の枯渇または低下は、抗体またはアゴニストによる処置後の個体由来の試料(例えば、組織試料または生体液試料)における好酸球集団数を、抗体またはアゴニストによる処置前の個体由来の試料における好酸球集団数と比較することにより測定される。一部の実施形態において、好酸球の枯渇または低下は、抗体またはアゴニストによる処置後の個体由来の試料(例えば、組織試料または生体液試料)における好酸球集団数を、抗体処置もしくはアゴニスト処置なしの別の個体由来の試料における好酸球集団数または抗体処置もしくはアゴニスト処置なしの個体由来の試料における平均好酸球集団数と比較することにより測定される。一部の実施形態において、試料は、組織試料(例えば、皮膚試料、肺試料、骨髄試料、鼻ポリポーシス試料等)である。本明細書における一部の実施形態において、抗体は、組織試料(例えば、鼻ポリープ試料)における好酸球を枯渇させる。一部の実施形態において、試料は、生体液試料(例えば、血液試料、気管支肺胞洗浄試料および鼻洗浄試料)である。本明細書における一部の実施形態において、抗体は、生体液試料(例えば、血液試料)における好酸球を枯渇させる。本明細書における方法の一部の実施形態において、ヒトシグレック−8に結合する抗体もしくはアゴニストまたはその組成物の有効量は、活性化された好酸球のアポトーシスを誘導する。好酸球は、IL−5、GM−CSF、IL−33、IFN−γ、TNF−αおよびレプチン等が挙げられるがこれらに限定されない、サイトカインまたはホルモンにより活性化または感作することができる。本明細書における方法の一部の実施形態において、ヒトシグレック−8に結合する本明細書に記載されている抗体もしくはアゴニストまたはその組成物の有効量は、休止した好酸球のアポトーシスを誘導する。一部の実施形態において、ヒトシグレック−8に結合する本明細書に記載されている抗体もしくはアゴニストまたはその組成物の有効量は、好酸球に対する抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)活性を有する。一部の実施形態において、ヒトシグレック−8に結合する本明細書に記載されている抗体もしくはアゴニストまたはその組成物の有効量は、炎症性メディエーターの好酸球産生を予防または低下させる。例示的な炎症性メディエーターとして、活性酸素種、顆粒タンパク質(例えば、好酸球カチオン性タンパク質、主要塩基性タンパク質、好酸球由来神経毒、好酸球ペルオキシダーゼ等)、脂質メディエーター(例えば、PAF、PGE1、PGE2等)、酵素(例えば、エラスターゼ)、増殖因子(例えば、VEGF、PDGF、TGF−α、TGF−β等)、ケモカイン(例えば、RANTES、MCP−1、MCP−3、MCP4、エオタキシン等)およびサイトカイン(例えば、IL−3、IL−5、IL−10、IL−13、IL−15、IL−33、TNF−α等)が挙げられるがこれらに限定されない。
【0107】
一部の実施形態において、本明細書に記載されている個体は、肥満細胞の枯渇または低下のために、ヒトシグレック−8に結合する抗体もしくはアゴニストまたはその組成物の有効量を投与される。一部の実施形態において、肥満細胞の枯渇または低下は、抗体またはアゴニストによる処置後の個体由来の試料(例えば、組織試料または生体液試料)における肥満細胞集団数を、抗体またはアゴニストによる処置前の個体由来の試料における肥満細胞集団数と比較することにより測定される。一部の実施形態において、肥満細胞の枯渇または低下は、抗体またはアゴニストによる処置後の個体由来の試料(例えば、組織試料または生体液試料)における肥満細胞集団数を、抗体処置もしくはアゴニスト処置なしの別の個体由来の試料における肥満細胞集団数または抗体処置もしくはアゴニスト処置なしの個体由来の試料における平均肥満細胞集団数と比較することにより測定される。一部の実施形態において、試料は、組織試料(例えば、皮膚試料、肺試料、骨髄試料、鼻ポリポーシス試料等)である。一部の実施形態において、試料は、生体液試料(例えば、血液試料、気管支肺胞洗浄試料および鼻洗浄試料)である。一部の実施形態において、ヒトシグレック−8に結合する本明細書に記載されている抗体もしくはアゴニストまたはその組成物の有効量は、肥満細胞に対する抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)活性を有する。一部の実施形態において、肥満細胞の枯渇または低下は、肥満細胞から産生される予め形成または新たに形成された炎症性メディエーターの低下または予防である。例示的な炎症性メディエーターとして、ヒスタミン、N−メチルヒスタミン、酵素(例えば、トリプターゼ、キマーゼ、カテプシン(cathespin)G、カルボキシペプチダーゼ等)、脂質メディエーター(例えば、プロスタグランジンD2、プロスタグランジンE2、ロイコトリエンB4、ロイコトリエンC4、血小板活性化因子、11−ベータ−プロスタグランジンF2等)、ケモカイン(例えば、CCL2、CCL3、CCL4、CCL11(すなわち、エオタキシン)、CXCL1、CXCL2、CXCL3、CXCL10等)およびサイトカイン(例えば、IL−3、IL−4、IL−5、IL−15、IL−33、GM−CSF、TNF等)が挙げられるがこれらに限定されない。
【0108】
一部の実施形態において、本明細書に記載されている個体は、シグレック−8を発現する肥満細胞を枯渇させるために、ヒトシグレック−8に結合する抗体もしくはアゴニストまたはその組成物の有効量を投与され、抗シグレック−8抗体は、ADCC活性によりシグレック−8を発現する肥満細胞を死滅させる。一部の実施形態において、抗シグレック−8抗体は、処置前のベースラインレベルと比較した場合に、被験体から得られる試料におけるシグレック−8を発現する肥満細胞の少なくとも約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%または約100%を枯渇させる。一部の実施形態において、抗シグレック−8抗体は、処置前のベースラインレベルと比較した場合に、被験体から得られる試料におけるシグレック−8を発現する肥満細胞の少なくとも約20%を枯渇させる。一部の実施形態において、肥満細胞の枯渇または死滅は、抗体による処置後の被験体由来の試料(例えば、組織試料または生体液試料)における肥満細胞集団数を、抗体による処置前の被験体由来の試料における肥満細胞集団数と比較することにより測定される。一部の実施形態において、肥満細胞の枯渇または死滅は、抗体による処置後の被験体由来の試料(例えば、組織試料または生体液試料)における肥満細胞集団数を、抗体処置なしの別の被験体由来の試料における肥満細胞集団数または抗体処置なしの被験体由来の試料における平均肥満細胞集団数と比較することにより測定される。一部の実施形態において、試料は、組織試料(例えば、皮膚試料、肺試料、骨髄試料、鼻ポリポーシス試料等)である。一部の実施形態において、試料は、生体液試料(例えば、血液試料、気管支肺胞洗浄試料および鼻洗浄試料)である。一部の実施形態において、抗シグレック−8抗体は、ADCC活性を改善するように操作された。一部の実施形態において、抗シグレック−8抗体は、ADCC活性を改善するFc領域における少なくとも1個のアミノ酸置換を含む。一部の実施形態において、抗体の重鎖の少なくとも1または2つは、フコシル化されていない。一部の実施形態において、肥満細胞の枯渇または死滅は、肥満細胞から産生される予め形成または新たに形成された炎症性メディエーターの低下または予防である。例示的な炎症性メディエーターとして、ヒスタミン、N−メチルヒスタミン、酵素(例えば、トリプターゼ、キマーゼ、カテプシンG、カルボキシペプチダーゼ等)、脂質メディエーター(例えば、プロスタグランジンD2、プロスタグランジンE2、ロイコトリエンB4、ロイコトリエンC4、血小板活性化因子、11−ベータ−プロスタグランジンF2等)、ケモカイン(例えば、CCL2、CCL3、CCL4、CCL11(すなわち、エオタキシン)、CXCL1、CXCL2、CXCL3、CXCL10等)およびサイトカイン(例えば、IL−3、IL−4、IL−5、IL−13、IL−15、IL−33、GM−CSF、TNF等)が挙げられるがこれらに限定されない。
【0109】
一部の実施形態において、本明細書に記載されている個体は、肥満細胞媒介性活性の阻害のために、ヒトシグレック−8に結合する抗体もしくはアゴニストまたはその組成物の有効量を投与される。一部の実施形態において、肥満細胞媒介性活性の阻害は、抗体またはアゴニストによる処置後の個体由来の試料(例えば、組織試料または生体液試料)における肥満細胞媒介性活性を、抗体またはアゴニストによる処置前の個体由来の試料における肥満細胞媒介性活性と比較することにより測定される。一部の実施形態において、肥満細胞媒介性活性の阻害は、抗体またはアゴニストによる処置後の個体由来の試料(例えば、組織試料または生体液試料)における肥満細胞媒介性活性を、抗体処置もしくはアゴニスト処置なしの別の個体由来の試料における肥満細胞媒介性活性または抗体処置もしくはアゴニスト処置なしの個体由来の試料における平均肥満細胞媒介性活性と比較することにより測定される。一部の実施形態において、試料は、組織試料(例えば、皮膚試料、肺試料、骨髄試料、鼻ポリポーシス試料等)である。一部の実施形態において、試料は、生体液試料(例えば、血液試料、気管支肺胞洗浄試料および鼻洗浄試料)である。一部の実施形態において、肥満細胞媒介性活性の阻害は、肥満細胞脱顆粒の阻害である。一部の実施形態において、肥満細胞媒介性活性の阻害は、気道平滑筋収縮の阻害である。一部の実施形態において、肥満細胞媒介性活性の阻害は、肥満細胞におけるカルシウムフラックスの阻害である。一部の実施形態において、肥満細胞媒介性活性の阻害は、肥満細胞からの予め形成または新たに形成された炎症性メディエーターの放出の阻害である。例示的な炎症性メディエーターとして、ヒスタミン、N−メチルヒスタミン、酵素(例えば、トリプターゼ、キマーゼ、カテプシンG、カルボキシペプチダーゼ等)、脂質メディエーター(例えば、プロスタグランジンD2、プロスタグランジンE2、ロイコトリエンB4、ロイコトリエンC4、血小板活性化因子、11−ベータ−プロスタグランジンF2等)、ケモカイン(例えば、CCL2、CCL3、CCL4、CCL11(すなわち、エオタキシン)、CXCL1、CXCL2、CXCL3、CXCL10等)およびサイトカイン(例えば、IL−3、IL−4、IL−5、IL−13、IL−15、IL−33、GM−CSF、TNF等)が挙げられるがこれらに限定されない。
【0110】
疾患の予防または処置のために、活性薬剤の適切な投薬量は、上に定義されている処置しようとする疾患の種類、疾患の重症度および経過、予防または治療目的のいずれのために薬剤が投与されるか、以前の治療法、個体の臨床歴および薬剤に対する応答、ならびに主治医の裁量に依存するであろう。薬剤は、一度にまたは一連の処置にわたって個体に適宜投与される。本明細書に記載されている方法の一部の実施形態において、本明細書に記載されている抗シグレック−8抗体(例えば、ヒトシグレック−8に結合する抗体)またはアゴニストの投与間の間隔は、約1カ月間またはそれより長い。一部の実施形態において、投与間の間隔は、約2カ月間、約3カ月間、約4カ月間、約5カ月間、約6カ月間またはそれより長い。本明細書において、投与間の間隔は、抗体またはアゴニストの1投与と、抗体またはアゴニストの次の投与との間の期間を指す。本明細書において、約1カ月間の間隔は、4週間を含む。したがって、一部の実施形態において、投与間の間隔は、約4週間、約5週間、約6週間、約7週間、約8週間、約9週間、約10週間、約11週間、約12週間、約16週間、約20週間、約24週間またはそれより長い。一部の実施形態において、処置は、抗体またはアゴニストの複数投与を含み、投与間の間隔は、変動し得る。例えば、第1の投与と第2の投与との間の間隔は、約1ヶ月間であり、その後の投与間の間隔は、約3ヶ月間である。一部の実施形態において、第1の投与と第2の投与との間の間隔は、約1ヶ月間であり、第2の投与と第3の投与との間の間隔は、約2ヶ月間であり、その後の投与間の間隔は、約3ヶ月間である。一部の実施形態において、本明細書に記載されている抗シグレック−8抗体(例えば、ヒトシグレック−8に結合する抗体)または本明細書に記載されているアゴニストは、平坦な用量で投与される。一部の実施形態において、本明細書に記載されている抗シグレック−8抗体(例えば、ヒトシグレック−8に結合する抗体)または本明細書に記載されているアゴニストは、用量当たり約0.1mg〜約1800mgの投薬量で個体に投与される。一部の実施形態において、抗シグレック−8抗体(例えば、ヒトシグレック−8に結合する抗体)またはアゴニストは、用量当たり0.1mg、0.5mg、1mg、5mg、10mg、20mg、30mg、40mg、50mg、60mg、70mg、80mg、90mg、100mg、150mg、200mg、250mg、300mg、350mg、400mg、450mg、500mg、550mg、600mg、650mg、700mg、750mg、800mg、850mg、900mg、950mg、1000mg、1100mg、1200mg、1300mg、1400mg、1500mg、1600mg、1700mgおよび1800mgのほぼいずれかの投薬量で個体に投与される。一部の実施形態において、本明細書に記載されている抗シグレック−8抗体(例えば、ヒトシグレック−8に結合する抗体)または本明細書に記載されているアゴニストは、用量当たり約150mg〜約450mgの投薬量で個体に投与される。一部の実施形態において、抗シグレック−8抗体(例えば、ヒトシグレック−8に結合する抗体)またはアゴニストは、用量当たり150mg、200mg、250mg、300mg、350mg、400mgおよび450mgのほぼいずれかの投薬量で個体に投与される。一部の実施形態において、本明細書に記載されている抗シグレック−8抗体(例えば、ヒトシグレック−8に結合する抗体)または本明細書に記載されているアゴニストは、用量当たり約0.1mg/kg〜約20mg/kgの投薬量で個体に投与される。一部の実施形態において、本明細書に記載されている抗シグレック−8抗体(例えば、ヒトシグレック−8に結合する抗体)または本明細書に記載されているアゴニストは、用量当たり約0.01mg/kg〜約10mg/kgの投薬量で個体に投与される。一部の実施形態において、本明細書に記載されている抗シグレック−8抗体(例えば、ヒトシグレック−8に結合する抗体)または本明細書に記載されているアゴニストは、約0.1mg/kg〜約10mg/kgまたは約1.0mg/kg〜約10mg/kgの投薬量で被験体に投与される。一部の実施形態において、本明細書に記載されている抗シグレック−8抗体は、約0.1mg/kg、0.5mg/kg、1.0mg/kg、1.5mg/kg、2.0mg/kg、2.5mg/kg、3.0mg/kg、3.5mg/kg、4.0mg/kg、4.5mg/kg、5.0mg/kg、5.5mg/kg、6.0mg/kg、6.5mg/kg、7.0mg/kg、7.5mg/kg、8.0mg/kg、8.5mg/kg、9.0mg/kg、9.5mg/kgまたは10.0mg/kgのいずれかの投薬量で被験体に投与される。上述の投薬頻度のいずれかを使用することができる。上述のいずれかの投薬頻度は、本明細書に記載されている方法または組成物の使用において使用することができる。本明細書に記載されている抗体(例えば、ヒトシグレック−8に結合する抗体)または本明細書に記載されているアゴニストによる処置の有効性は、1週間毎〜3カ月間毎に及ぶ間隔で、本明細書に記載されている方法論またはアッセイのいずれかを使用して評価することができる。本明細書に記載されている方法の一部の実施形態において、処置の有効性(例えば、1種または複数の症状の低下または改善)は、ヒトシグレック−8に結合する抗体またはアゴニストの投与後に、約1カ月間毎に、約2カ月間毎に、約3カ月間毎に、約4カ月間毎に、約5カ月間毎に、約6カ月間毎にまたはそれより長い間隔で評価される。本明細書に記載されている方法の一部の実施形態において、処置の有効性(例えば、1種または複数の症状の低下または改善)は、約1週間毎に、約2週間毎に、約3週間毎に、約4週間毎に、約5週間毎に、約6週間毎に、約7週間毎に、約8週間毎に、約9週間毎に、約10週間毎に、約11週間毎に、約12週間毎に、約16週間毎に、約20週間毎に、約24週間毎にまたはそれより長い間隔で評価される。
【0111】
シグレック−8のアゴニスト
一態様において、本発明は、本明細書における方法のいずれかにおける使用のためのアゴニストを提供する。一部の実施形態において、アゴニストは、好酸球において発現されるシグレック−8に結合し、in vitroまたはin vivoにおける好酸球のアポトーシスを誘導する薬剤である。一部の実施形態において、アゴニストは、アゴニスト抗体である。一部の実施形態において、アゴニスト抗体(例えば、本明細書に提供される抗体2E2)は、好酸球によって発現されるシグレック−8に架橋し、好酸球における1種または複数のカスパーゼ(例えば、カスパーゼ−8、カスパーゼ−3およびカスパーゼ−9)の活性化および/またはミトコンドリア膜電位の喪失を誘導する。Nutkuら、Biochem Biophys Res Commun.、336巻:918〜924頁、2005年を参照されたい。シグレック−8は、グリカン6’−スルホ−シアリルルイスX(本明細書において、6’−スルホ−sLe
Xとも称される)に結合し、このグリカンへの会合は、シグレック−8発現細胞(例えば、好酸球)のアポトーシスを誘導する。Hudsonら、J Pharmacol Exp Ther.、330巻(2号):608〜12頁、2009年を参照されたい。本明細書における一部の実施形態において、シグレック−8のアゴニストは、分子(例えば、ポリマー、オリゴ糖、ポリペプチド、糖タンパク質等)に付着または連結された6’−スルホ−sLe
Xを有する分子である。本明細書における一部の実施形態において、アゴニストは、6’−スルホ−sLe
X含有アゴニスト分子(例えば、6’−スルホ−sLe
X含有リガンド、6’−スルホ−sLe
X含有オリゴ糖、6’−スルホ−sLe
X含有ポリペプチドおよび6’−スルホ−sLe
X含有糖タンパク質)である。
【0112】
アゴニストは、種々の供給源、例えば、細胞、無細胞調製物、化学ライブラリーおよび天然産物の混合物から同定することができる。斯かるアゴニストは、グリカン6’−スルホ−sLe
Xを含有し、シグレック−8に結合する天然または修飾された基質、リガンド、受容体、オリゴヌクレオチド、ポリペプチドまたは抗体となることができる、あるいはこれらの構造または機能的模倣物となることができる。グリカン6’−スルホ−sLe
Xを含有する斯かる天然または修飾された基質、リガンド、受容体、オリゴヌクレオチドまたは抗体の構造または機能的模倣物は、本明細書において、「6’−スルホ−sLe
X含有糖模倣物(glycomimetic)」と称される。Coliganら、Current Protocols in Immunology 1巻(2号):第5章、1991年を参照されたい。例えば、6’−スルホ−sLe
X含有糖模倣物は、シグレック−8の天然リガンドの活性を構造または機能的に模倣する6’−スルホ−sLe
Xで装飾された合成ポリマーに基づくリガンドとなることができる。例えば、本明細書で考慮される糖模倣物に関する、Hudsonら、J Pharmacol Exp Ther.、330巻(2号):608〜12頁、2009年を参照されたい。潜在的アゴニストの他の例として、抗体、あるいは一部の事例において、シグレック−8の天然リガンドに密接に関係したオリゴヌクレオチドもしくはポリペプチドまたはシグレック−8に結合する小分子が挙げられる。シグレック−8に結合する特定の多糖リガンド(例えば、6’−スルホ−sLe
X含有リガンド)のコンフォメーションおよび望ましい特色を模倣し、好ましくは、目的の元の多糖リガンド(例えば、6’−スルホ−sLe
X含有リガンド)の少なくとも一部の望ましくない特色(低い結合親和性、短いin vivo半減期その他等)を回避する合成化合物は、本明細書において、「模倣物」と称される。例えば、本明細書で考慮される模倣物に関する、米国特許第8,178,512号を参照されたい。
【0113】
一部の態様において、本明細書に記載されているヒトシグレック−8に結合するアゴニスト(例えば、6’−スルホ−sLeX含有アゴニストまたは抗体)は、好酸球のアポトーシスを誘導する。好酸球のアポトーシスは、本技術分野で周知の方法によって評価することができる。Hudsonら、J Pharmacol Exp Ther.、330巻(2号):608〜12頁、2009年およびNutkuら、Biochem Biophys Res Commun.、336巻:918〜924頁、2005年を参照されたい。例えば、ヒト好酸球は、末梢血から単離され、精製され、IL−5において24または72時間培養され、続いてヒトシグレック−8に結合するアゴニストと共にさらに24時間インキュベーションされる。次に、アネキシン−Vおよびヨウ化プロピジウムで標識した後に、フローサイトメトリー解析により細胞生存を評価する。アゴニスト活性は、好酸球におけるカスパーゼ(例えば、カスパーゼ−8、カスパーゼ−3およびカスパーゼ−9)の活性化および/または好酸球におけるミトコンドリア膜電位の喪失を検出することにより使用して評価することもできる。これらのアッセイは、Nutkuら、Biochem Biophys Res Commun.、336巻:918〜924頁、2005年に記載されている。
【0114】
抗体
一態様において、本発明は、ヒトシグレック−8に結合する単離された抗体(例えば、ヒトシグレック−8に結合するアゴニスト抗体)を提供する。一部の実施形態において、本明細書に記載されている抗シグレック−8抗体は、次の特徴のうち1種または複数を有する:(1)ヒトシグレック−8に結合する;(2)ヒトシグレック−8の細胞外ドメインに結合する;(3)マウス抗体2E2および/またはマウス抗体2C4よりも高い親和性でヒトシグレック−8に結合する;(4)マウス抗体2E2および/またはマウス抗体2C4よりも高いアビディティーでヒトシグレック−8に結合する;(5)熱シフトアッセイにおいて約70℃〜72℃またはそれより高いT
mを有する;(6)低下した程度のフコシル化を有するかまたはフコシル化されていない;(7)好酸球上に発現されたヒトシグレック−8に結合し、好酸球のアポトーシスを誘導する;(8)肥満細胞上に発現されたヒトシグレック−8に結合し、肥満細胞を枯渇させる;(9)肥満細胞上に発現されたヒトシグレック−8に結合し、肥満細胞のFcεRI依存性活性(例えば、ヒスタミン放出、PGD
2放出、Ca
2+フラックスおよび/またはβ−ヘキソサミニダーゼ放出等)を阻害する;(10)ADCC活性を改善するように操作された;(11)鼻ポリープ中の好酸球において発現されるヒトシグレック−8に結合し、好酸球のアポトーシスを誘導する;および(12)血液中の好酸球において発現されるヒトシグレック−8に結合し、好酸球のアポトーシスを誘導する。
【0115】
一態様において、本発明は、ヒトシグレック−8に結合する抗体を提供する。一部の実施形態において、ヒトシグレック−8は、配列番号72のアミノ酸配列を含む。一部の実施形態において、ヒトシグレック−8は、配列番号73のアミノ酸配列を含む。一部の実施形態において、本明細書に記載されている抗体は、好酸球上に発現されるヒトシグレック−8に結合し、好酸球のアポトーシスを誘導する。一部の実施形態において、本明細書に記載されている抗体は、肥満細胞上に発現されるヒトシグレック−8に結合し、肥満細胞を枯渇させる。一部の実施形態において、本明細書に記載されている抗体は、肥満細胞上に発現されるヒトシグレック−8に結合し、肥満細胞媒介性活性を阻害する。
【0116】
一態様において、本明細書に記載されている抗シグレック−8抗体は、モノクローナル抗体である。一態様において、本明細書に記載されている抗シグレック−8抗体は、抗体断片(抗原結合性断片を含む)、例えば、Fab、Fab’−SH、Fv、scFvまたは(Fab’)
2断片である。一態様において、本明細書に記載されている抗シグレック−8抗体は、キメラ、ヒト化またはヒト抗体である。一態様において、本明細書に記載されている抗シグレック−8抗体のいずれかは、精製されている。
【0117】
一態様において、シグレック−8に結合するマウス2E2抗体およびマウス2C4抗体と競合する抗シグレック−8抗体が提供される。マウス2E2抗体およびマウス2C4抗体と同じエピトープに結合する抗シグレック−8抗体も提供される。シグレック−8に対するマウス抗体、2E2および2C4抗体は、米国特許第8,207,305号;米国特許第8,197,811号、米国特許第7,871,612号および米国特許第7,557,191号に記載されている。
【0118】
一態様において、シグレック−8への結合に関して本明細書に記載されているいずれかの抗シグレック−8抗体(例えば、HEKA、HEKF、1C3、1H10、4F11)と競合する抗シグレック−8抗体が提供される。本明細書に記載されているいずれかの抗シグレック−8抗体(例えば、HEKA、HEKF、1C3、1H10、4F11)と同じエピトープに結合する抗シグレック−8抗体も提供される。
【0119】
本発明の一態様において、抗シグレック−8抗体をコードするポリヌクレオチドが提供される。ある特定の実施形態において、抗シグレック−8抗体をコードするポリヌクレオチドを含むベクターが提供される。ある特定の実施形態において、斯かるベクターを含む宿主細胞が提供される。本発明の別の態様において、抗シグレック−8抗体または抗シグレック−8抗体をコードするポリヌクレオチドを含む組成物が提供される。ある特定の実施形態において、本発明の組成物は、本明細書に列挙されているもの等、好酸球媒介性障害、肥満細胞媒介性障害および/またはシグレック−8関連疾患(例えば、AERD)の処置のための医薬製剤である。
【0120】
一態様において、マウス抗体2C4のHVR配列のうち1、2、3、4、5または6個を含む抗シグレック−8抗体が本明細書において提供される。一態様において、マウス抗体2E2のHVR配列のうち1、2、3、4、5または6個を含む抗シグレック−8抗体が本明細書において提供される。一部の実施形態において、HVRは、Kabat CDRまたはChothia CDRである。
【0121】
一態様において、マウス抗体1C3のHVR配列のうち1、2、3、4、5または6個を含む抗シグレック−8抗体が本明細書において提供される。一態様において、マウス抗体4F11のHVR配列のうち1、2、3、4、5または6個を含む抗シグレック−8抗体が本明細書において提供される。一態様において、マウス抗体1H10のHVR配列のうち1、2、3、4、5または6個を含む抗シグレック−8抗体が本明細書において提供される。一部の実施形態において、HVRは、Kabat CDRまたはChothia CDRである。
【0122】
一態様において、ヒトシグレック−8および非ヒト霊長類シグレック−8に結合する単離された抗シグレック−8抗体が本明細書に提供される。一部の実施形態において、ヒトシグレック−8および非ヒト霊長類シグレック−8に結合する抗体は、ヒトシグレック−8のドメイン1におけるエピトープに結合する。一部の実施形態において、ヒトシグレック−8および非ヒト霊長類シグレック−8に結合する抗体は、ヒトシグレック−8のドメイン3におけるエピトープに結合する。一部の実施形態において、ヒトシグレック−8および非ヒト霊長類シグレック−8に結合する抗体は、ヒト化抗体、キメラ抗体またはヒト抗体である。一部の実施形態において、ヒトシグレック−8および非ヒト霊長類シグレック−8に結合する抗体は、マウス抗体である。一部の実施形態において、ヒトシグレック−8および非ヒト霊長類シグレック−8に結合する抗体は、ヒトIgG1抗体である。
【0123】
一態様において、重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含む抗シグレック−8抗体であって、重鎖可変領域が、(i)配列番号61のアミノ酸配列を含むHVR−H1、(ii)配列番号62のアミノ酸配列を含むHVR−H2および(iii)配列番号63のアミノ酸配列を含むHVR−H3を含み、かつ/または軽鎖可変領域が、(i)配列番号64のアミノ酸配列を含むHVR−L1、(ii)配列番号65のアミノ酸配列を含むHVR−L2および(iii)配列番号66のアミノ酸配列を含むHVR−L3を含む抗体が本明細書において提供される。
【0124】
一態様において、重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含む抗シグレック−8抗体であって、重鎖可変領域が、(i)配列番号61のアミノ酸配列を含むHVR−H1、(ii)配列番号62のアミノ酸配列を含むHVR−H2および(iii)配列番号67〜70から選択されるアミノ酸配列を含むHVR−H3を含み、かつ/または軽鎖可変領域が、(i)配列番号64のアミノ酸配列を含むHVR−L1、(ii)配列番号65のアミノ酸配列を含むHVR−L2および(iii)配列番号66のアミノ酸配列を含むHVR−L3を含む抗体が本明細書において提供される。
【0125】
一態様において、重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含む抗シグレック−8抗体であって、重鎖可変領域が、(i)配列番号61のアミノ酸配列を含むHVR−H1、(ii)配列番号62のアミノ酸配列を含むHVR−H2および(iii)配列番号63のアミノ酸配列を含むHVR−H3を含み、かつ/または軽鎖可変領域が、(i)配列番号64のアミノ酸配列を含むHVR−L1、(ii)配列番号65のアミノ酸配列を含むHVR−L2および(iii)配列番号71のアミノ酸配列を含むHVR−L3を含む抗体が本明細書において提供される。
【0126】
別の態様において、重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含む抗シグレック−8抗体であって、重鎖可変領域が、(i)配列番号61のアミノ酸配列を含むHVR−H1、(ii)配列番号62のアミノ酸配列を含むHVR−H2および(iii)配列番号67〜70から選択されるアミノ酸配列を含むHVR−H3を含み、かつ/または軽鎖可変領域が、(i)配列番号64のアミノ酸配列を含むHVR−L1、(ii)配列番号65のアミノ酸配列を含むHVR−L2および(iii)配列番号71のアミノ酸配列を含むHVR−L3を含む抗体が本明細書において提供される。
【0127】
別の態様において、重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含む抗シグレック−8抗体であって、重鎖可変領域が、(i)配列番号88のアミノ酸配列を含むHVR−H1、(ii)配列番号91のアミノ酸配列を含むHVR−H2および(iii)配列番号94のアミノ酸配列を含むHVR−H3を含む、かつ/または軽鎖可変領域が、(i)配列番号97のアミノ酸配列を含むHVR−L1、(ii)配列番号100のアミノ酸配列を含むHVR−L2および(iii)配列番号103のアミノ酸配列を含むHVR−L3を含む抗体が本明細書において提供される。
【0128】
別の態様において、重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含む抗シグレック−8抗体であって、重鎖可変領域が、(i)配列番号89のアミノ酸配列を含むHVR−H1、(ii)配列番号92のアミノ酸配列を含むHVR−H2および(iii)配列番号95のアミノ酸配列を含むHVR−H3を含む、かつ/または軽鎖可変領域が、(i)配列番号98のアミノ酸配列を含むHVR−L1、(ii)配列番号101のアミノ酸配列を含むHVR−L2および(iii)配列番号104のアミノ酸配列を含むHVR−L3を含む抗体が本明細書において提供される。
【0129】
別の態様において、重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含む抗シグレック−8抗体であって、重鎖可変領域が、(i)配列番号90のアミノ酸配列を含むHVR−H1、(ii)配列番号93のアミノ酸配列を含むHVR−H2および(iii)配列番号96のアミノ酸配列を含むHVR−H3を含む、かつ/または軽鎖可変領域が、(i)配列番号99のアミノ酸配列を含むHVR−L1、(ii)配列番号102のアミノ酸配列を含むHVR−L2および(iii)配列番号105のアミノ酸配列を含むHVR−L3を含む抗体が本明細書において提供される。
【0130】
本明細書に記載されている抗シグレック−8抗体は、この抗体が、ヒトシグレック−8に結合する能力を保持するのであれば、いかなる適したフレームワーク可変ドメイン配列を含むこともできる。本明細書において、重鎖フレームワーク領域は、「HC−FR1〜FR4」と命名され、軽鎖フレームワーク領域は、「LC−FR1〜FR4」と命名される。一部の実施形態において、抗シグレック−8抗体は、配列番号26、34、38および45の重鎖可変ドメインフレームワーク配列(それぞれHC−FR1、HC−FR2、HC−FR3およびHC−FR4)を含む。一部の実施形態において、抗シグレック−8抗体は、配列番号48、51、55および60の軽鎖可変ドメインフレームワーク配列(それぞれLC−FR1、LC−FR2、LC−FR3およびLC−FR4)を含む。一部の実施形態において、抗シグレック−8抗体は、配列番号48、51、58および60の軽鎖可変ドメインフレームワーク配列(それぞれLC−FR1、LC−FR2、LC−FR3およびLC−FR4)を含む。
【0131】
一実施形態において、抗シグレック−8抗体は、フレームワーク配列および高頻度可変領域を含む重鎖可変ドメインを含み、フレームワーク配列は、HC−FR1〜HC−FR4配列、それぞれ配列番号26〜29(HC−FR1)、配列番号31〜36(HC−FR2)、配列番号38〜43(HC−FR3)および配列番号45または46(HC−FR4)を含み、HVR−H1は、配列番号61のアミノ酸配列を含み、HVR−H2は、配列番号62のアミノ酸配列を含み、HVR−H3は、配列番号63のアミノ酸配列を含む。一実施形態において、抗シグレック−8抗体は、フレームワーク配列および高頻度可変領域を含む重鎖可変ドメインを含み、フレームワーク配列は、HC−FR1〜HC−FR4配列、それぞれ配列番号26〜29(HC−FR1)、配列番号31〜36(HC−FR2)、配列番号38〜43(HC−FR3)および配列番号45または46(HC−FR4)を含み、HVR−H1は、配列番号61のアミノ酸配列を含み、HVR−H2は、配列番号62のアミノ酸配列を含み、HVR−H3は、配列番号67〜70から選択されるアミノ酸配列を含む。一実施形態において、抗シグレック−8抗体は、フレームワーク配列および高頻度可変領域を含む軽鎖可変ドメインを含み、フレームワーク配列は、LC−FR1〜LC−FR4配列、それぞれ配列番号48または49(LC−FR1)、配列番号51〜53(LC−FR2)、配列番号55〜58(LC−FR3)および配列番号60(LC−FR4)を含み、HVR−L1は、配列番号64のアミノ酸配列を含み、HVR−L2は、配列番号65のアミノ酸配列を含み、HVR−L3は、配列番号66のアミノ酸配列を含む。一実施形態において、抗シグレック−8抗体は、フレームワーク配列および高頻度可変領域を含む軽鎖可変ドメインを含み、フレームワーク配列は、LC−FR1〜LC−FR4配列、それぞれ配列番号48または49(LC−FR1)、配列番号51〜53(LC−FR2)、配列番号55〜58(LC−FR3)および配列番号60(LC−FR4)を含み、HVR−L1は、配列番号64のアミノ酸配列を含み、HVR−L2は、配列番号65のアミノ酸配列を含み、HVR−L3は、配列番号71のアミノ酸配列を含む。これらの抗体の一実施形態において、重鎖可変ドメインは、配列番号2〜10から選択されるアミノ酸配列を含み、軽鎖可変ドメインは、配列番号16〜22から選択されるアミノ酸配列を含む。これらの抗体の一実施形態において、重鎖可変ドメインは、配列番号2〜10から選択されるアミノ酸配列を含み、軽鎖可変ドメインは、配列番号23または24から選択されるアミノ酸配列を含む。これらの抗体の一実施形態において、重鎖可変ドメインは、配列番号11〜14から選択されるアミノ酸配列を含み、軽鎖可変ドメインは、配列番号16〜22から選択されるアミノ酸配列を含む。これらの抗体の一実施形態において、重鎖可変ドメインは、配列番号11〜14から選択されるアミノ酸配列を含み、軽鎖可変ドメインは、配列番号23または24から選択されるアミノ酸配列を含む。これらの抗体の一実施形態において、重鎖可変ドメインは、配列番号6のアミノ酸配列を含み、軽鎖可変ドメインは、配列番号16のアミノ酸配列を含む。これらの抗体の一実施形態において、重鎖可変ドメインは、配列番号6のアミノ酸配列を含み、軽鎖可変ドメインは、配列番号21のアミノ酸配列を含む。
【0132】
一部の実施形態において、重鎖HVR配列は、次のものを含む:
【化2】
【0133】
一部の実施形態において、重鎖HVR配列は、次のものを含む:
【化3】
【0134】
一部の実施形態において、重鎖FR配列は、次のものを含む:
【化4】
【0135】
一部の実施形態において、軽鎖HVR配列は、次のものを含む:
【化5】
【0136】
一部の実施形態において、軽鎖HVR配列は、次のものを含む:
【化6】
【0137】
一部の実施形態において、軽鎖FR配列は、次のものを含む:
【化7】
【0138】
一部の実施形態において、ヒトシグレック−8に結合する抗シグレック−8抗体(例えば、ヒト化抗シグレック−8抗体)であって、重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含む抗体であり、
(a)
(1)配列番号26〜29から選択されるアミノ酸配列を含むHC−FR1、
(2)配列番号61のアミノ酸配列を含むHVR−H1、
(3)配列番号31〜36から選択されるアミノ酸配列を含むHC−FR2、
(4)配列番号62のアミノ酸配列を含むHVR−H2、
(5)配列番号38〜43から選択されるアミノ酸配列を含むHC−FR3、
(6)配列番号63のアミノ酸配列を含むHVR−H3および
(7)配列番号45〜46から選択されるアミノ酸配列を含むHC−FR4
を含む重鎖可変ドメイン
および/または
(b)
(1)配列番号48〜49から選択されるアミノ酸配列を含むLC−FR1、
(2)配列番号64のアミノ酸配列を含むHVR−L1、
(3)配列番号51〜53から選択されるアミノ酸配列を含むLC−FR2、
(4)配列番号65のアミノ酸配列を含むHVR−L2、
(5)配列番号55〜58から選択されるアミノ酸配列を含むLC−FR3、
(6)配列番号66のアミノ酸配列を含むHVR−L3および
(7)配列番号60のアミノ酸配列を含むLC−FR4
を含む軽鎖可変ドメイン
を含む抗体が本明細書において提供される。
【0139】
一態様において、配列番号2〜10から選択される重鎖可変ドメインを含む、かつ/または配列番号16〜22から選択される軽鎖可変ドメインを含む抗シグレック−8抗体が本明細書において提供される。一態様において、配列番号2〜10から選択される重鎖可変ドメインを含む、かつ/または配列番号23もしくは24から選択される軽鎖可変ドメインを含む抗シグレック−8抗体が本明細書において提供される。一態様において、配列番号11〜14から選択される重鎖可変ドメインを含む、かつ/または配列番号16〜22から選択される軽鎖可変ドメインを含む抗シグレック−8抗体が本明細書において提供される。一態様において、配列番号11〜14から選択される重鎖可変ドメインを含む、かつ/または配列番号23もしくは24から選択される軽鎖可変ドメインを含む抗シグレック−8抗体が本明細書において提供される。一態様において、配列番号6の重鎖可変ドメインを含む、かつ/または配列番号16もしくは21から選択される軽鎖可変ドメインを含む抗シグレック−8抗体が本明細書において提供される。
【0140】
一態様において、配列番号106〜108から選択される重鎖可変ドメインを含む、かつ/または配列番号109〜111から選択される軽鎖可変ドメインを含む抗シグレック−8抗体が本明細書において提供される。一態様において、配列番号106の重鎖可変ドメインを含む、かつ/または配列番号109の軽鎖可変ドメインを含む抗シグレック−8抗体が本明細書において提供される。一態様において、配列番号107の重鎖可変ドメインを含む、かつ/または配列番号110の軽鎖可変ドメインを含む抗シグレック−8抗体が本明細書において提供される。一態様において、配列番号108の重鎖可変ドメインを含む、かつ/または配列番号111の軽鎖可変ドメインを含む抗シグレック−8抗体が本明細書において提供される。
【0141】
一部の実施形態において、配列番号2〜14から選択されるアミノ酸配列に対し少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%配列同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインを含む抗シグレック−8抗体が本明細書において提供される。一部の実施形態において、配列番号106〜108から選択されるアミノ酸配列に対し少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%配列同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインを含む抗シグレック−8抗体が本明細書において提供される。一部の実施形態において、少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%配列同一性を有するアミノ酸配列は、参照配列と比べて置換、挿入または欠失を含有するが、このアミノ酸配列を含む抗体は、ヒトシグレック−8に結合する能力を保持する。一部の実施形態において、置換、挿入または欠失(例えば、1、2、3、4または5アミノ酸)は、HVRの外側の領域(すなわち、FR)において生じる。一部の実施形態において、抗シグレック−8抗体は、配列番号6のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインを含む。一部の実施形態において、抗シグレック−8抗体は、配列番号106〜108から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインを含む。
【0142】
一部の実施形態において、配列番号16〜24から選択されるアミノ酸配列に対し少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%配列同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインを含む抗シグレック−8抗体が本明細書において提供される。一部の実施形態において、配列番号109〜111から選択されるアミノ酸配列に対し少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%配列同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインを含む抗シグレック−8抗体が本明細書において提供される。一部の実施形態において、少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%配列同一性を有するアミノ酸配列は、参照配列と比べて置換、挿入または欠失を含有するが、このアミノ酸配列を含む抗体は、ヒトシグレック−8に結合する能力を保持する。一部の実施形態において、置換、挿入または欠失(例えば、1、2、3、4または5アミノ酸)は、HVRの外側の領域(すなわち、FR)において生じる。一部の実施形態において、抗シグレック−8抗体は、配列番号16または21のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインを含む。一部の実施形態において、抗シグレック−8抗体は、配列番号109〜111から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインを含む。
【0143】
一態様において、本発明は、(a)表2に示すVH HVRから選択される1、2もしくは3個のVH HVRおよび/または(b)表2に示すVL HVRから選択される1、2もしくは3個のVL HVRを含む抗シグレック−8抗体を提供する。
【0144】
一態様において、本発明は、(a)表5に示すVH HVRから選択される1、2もしくは3個のVH HVRおよび/または(b)表5に示すVL HVRから選択される1、2もしくは3個のVL HVRを含む抗シグレック−8抗体を提供する。
【0145】
一態様において、本発明は、(a)表3に示すVH FRから選択される1、2、3もしくは4個のVH FRおよび/または(b)表3に示すVL FRから選択される1、2、3もしくは4個のVL FRを含む抗シグレック−8抗体を提供する。
【0146】
一部の実施形態において、表4に示す抗体、例えば、HAKA抗体、HAKB抗体、HAKC抗体等の重鎖可変ドメインおよび/または軽鎖可変ドメインを含む抗シグレック−8抗体が本明細書において提供される。
【表2】
【表3-1】
【表3-2】
【表3-3】
【表4-1】
【表4-2】
【表4-3】
【表4-4】
【表4-5】
【表5-1】
【0147】
それぞれα、δ、ε、γおよびμと命名された重鎖を有する5クラスの免疫グロブリン:IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgMが存在する。γおよびαクラスは、サブクラスにさらに分けられ、例えば、ヒトは、次のサブクラスを発現する:IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2。IgG1抗体は、アロタイプと命名される複数の多型バリアントで存在することができ(JefferisおよびLefranc 2009年、mAbs 1巻、4号1〜7頁において概説)、そのうちいずれかが、本明細書における実施形態の一部における使用に適する。ヒト集団における共通アロタイプバリアントは、文字a、f、n、zまたはこれらの組合せによって命名されるバリアントである。本明細書における実施形態のいずれかにおいて、抗体は、ヒトIgG Fc領域を含む重鎖Fc領域を含むことができる。さらなる実施形態において、ヒトIgG Fc領域は、ヒトIgG1またはIgG4を含む。一部の実施形態において、ヒトIgG4は、アミノ酸置換S228Pを含み、このアミノ酸残基は、Kabatにおける通りのEUインデックスに従ってナンバリングされる。一部の実施形態において、ヒトIgG1は、配列番号78のアミノ酸配列を含む。一部の実施形態において、ヒトIgG4は、配列番号79のアミノ酸配列を含む。
【0148】
一部の実施形態において、配列番号75のアミノ酸配列を含む重鎖、および/または配列番号76もしくは77から選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖を含む抗シグレック−8抗体が本明細書において提供される。一部の実施形態において、抗体は、配列番号87のアミノ酸配列を含む重鎖、および/または配列番号76のアミノ酸配列を含む軽鎖を含むことができる。一部の実施形態において、抗シグレック−8抗体は、肥満細胞を枯渇させ、肥満細胞活性化を阻害する。一部の実施形態において、抗シグレック−8抗体は、活性化された好酸球を枯渇させ、肥満細胞活性化を阻害する。一部の実施形態において、抗シグレック−8抗体は、活性化された好酸球のアポトーシスを誘導する。一部の実施形態において、抗シグレック−8抗体は、休止した好酸球のアポトーシスを誘導する。本明細書における一部の実施形態において、抗体は、組織(例えば、鼻ポリープ)における好酸球を枯渇させる。本明細書における一部の実施形態において、抗体は、生体液(例えば、血液)における好酸球を枯渇させる。
【0149】
1.抗体親和性
一部の態様において、本明細書に記載されている抗シグレック−8抗体は、マウス抗体2E2および/またはマウス抗体2C4と比較した場合に、ほぼ同じもしくはより高い親和性および/またはより高いアビディティーでヒトシグレック−8に結合する。ある特定の実施形態において、本明細書に提供される抗シグレック−8抗体は、≦1μM、≦150nM、≦100nM、≦50nM、≦10nM、≦1nM、≦0.1nM、≦0.01nMまたは≦0.001nM(例えば、10
−8Mまたはそれに満たない、例えば、10
−8M〜10
−13M、例えば、10
−9M〜10
−13M)の解離定数(Kd)を有する。一部の実施形態において、本明細書に記載されている抗シグレック−8抗体は、マウス抗体2E2および/またはマウス抗体2C4よりも約1.5倍、約2倍、約3倍、約4倍、約5倍、約6倍、約7倍、約8倍、約9倍または約10倍高い親和性で、ヒトシグレック−8に結合する。本明細書における一部の実施形態において、抗シグレック−8抗体は、配列番号6のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域および/または配列番号16もしくは21から選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。
【0150】
一実施形態において、抗シグレック−8抗体の結合親和性は、表面プラズモン共鳴アッセイにより決定することができる。例えば、KdまたはKd値は、固定化された抗原CM5チップにより約10の応答単位(RU)で25℃にてBIAcore(商標)−2000またはBIAcore(商標)−3000(BIAcore,Inc.、Piscataway、N.J.)を使用することにより測定することができる。簡潔に説明すると、カルボキシメチル化デキストランバイオセンサーチップ(CM5、BIAcore(登録商標)Inc.)は、供給元の説明書に従ってN−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩(EDC)およびN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)により活性化される。捕捉抗体(例えば、抗ヒト−Fc)は、10mM酢酸ナトリウム、pH4.8で希釈され、その後、流速30μl/分で注射し、抗シグレック−8抗体でさらに固定化する。動態測定のため、二量体シグレック−8の2倍系列希釈を、0.05%Tween20含有PBS(PBST)において25℃、流速およそ25μl/分で注射する。会合および解離センサーグラムを同時に適合することにより、単純1対1ラングミュア結合モデル(BIAcore(登録商標)評価ソフトウェアバージョン3.2)を使用して、会合速度(kon)および解離速度(koff)を計算する。平衡解離定数(Kd)は、比koff/konとして計算する。例えば、Chen, Y.ら(1999年)J. Mol. Biol.293巻:865〜881頁を参照されたい。
【0151】
別の実施形態において、バイオレイヤーインターフェロメトリーを使用して、シグレック−8に対する抗シグレック−8抗体の親和性を決定することができる。例示的なアッセイにおいて、シグレック−8−Fcタグ付けタンパク質は、抗ヒト捕捉センサー上に固定化され、増加濃度のマウス、キメラまたはヒト化抗シグレック−8 Fab断片と共にインキュベートされて、例えば、Octet Red 384 System(ForteBio)等の機器を使用して親和性測定値を得る。
【0152】
抗シグレック−8抗体の結合親和性は、例えば、関連技術分野において周知の標準技法を使用して、Munsonら、Anal. Biochem.、107巻:220頁(1980年)に記載されているScatchard解析によって決定することもできる。Scatchard, G.、Ann. N.Y. Acad. Sci.51巻:660頁(1947年)も参照されたい。
【0153】
1.抗体アビディティー
一実施形態において、抗シグレック−8抗体の結合アビディティーは、表面プラズモン共鳴アッセイにより決定することができる。例えば、KdまたはKd値は、BIAcore T100を使用することにより測定することができる。捕捉抗体(例えば、ヤギ−抗ヒト−Fcおよびヤギ−抗マウス−Fc)は、CM5チップ上に固定化される。フローセルは、抗ヒトまたは抗マウス抗体により固定化することができる。ある温度および流速、例えば、25℃、流速30μl/分でアッセイを行う。二量体シグレック−8は、アッセイバッファーにおいて様々な濃度で、例えば、15nM〜1.88pMに及ぶ濃度で希釈する。抗体を捕捉し、高速注射、続いて解離を行う。バッファー、例えば、50mMグリシンpH1.5でフローセルを再生する。空の参照セルおよび複数のアッセイバッファー注射により結果をブランク作成し、1:1グローバルフィットパラメータにより解析する。
【0154】
2.競合アッセイ
競合アッセイを使用して、2種の抗体が、同一もしくは立体的に重複するエピトープを認識することにより、同じエピトープに結合するか、または一方の抗体が、抗原への別の抗体の結合を競合的に阻害するか決定することができる。このようなアッセイは、本技術分野で公知である。典型的には、抗原または抗原発現細胞が、マルチウェルプレートに固定化され、標識抗体の結合を遮断する非標識抗体の能力が測定される。斯かる競合アッセイに一般的な標識は、放射性標識または酵素標識である。一部の実施形態において、本明細書に記載されている抗シグレック−8抗体は、細胞(例えば、好酸球)の細胞表面に存在するエピトープへの結合に関して、本明細書に記載されている2E2抗体と競合する。一部の実施形態において、本明細書に記載されている抗シグレック−8抗体は、細胞(例えば、好酸球)の細胞表面に存在するエピトープへの結合に関して、配列番号1のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインおよび配列番号15のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む抗体と競合する。一部の実施形態において、本明細書に記載されている抗シグレック−8抗体は、細胞(例えば、好酸球)の細胞表面に存在するエピトープへの結合に関して、本明細書に記載されている2C4抗体と競合する。一部の実施形態において、本明細書に記載されている抗シグレック−8抗体は、細胞(例えば、好酸球)の細胞表面に存在するエピトープへの結合に関して、配列番号2のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン(米国特許第8,207,305号に見出されるものと同様に)および配列番号4のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(米国特許第8,207,305号に見出されるものと同様に)を含む抗体と競合する。
【0155】
3.熱的安定性
一部の態様において、本明細書に記載されている抗シグレック−8は、熱シフトアッセイにおいて少なくとも約70℃、少なくとも約71℃または少なくとも約72℃の融解温度(Tm)を有する。例示的な熱シフトアッセイにおいて、ヒト化抗シグレック−8抗体を含む試料を、qPCRサーマルサイクラーにおいて1サイクル毎に1℃増加させつつ71サイクルにわたり蛍光色素(Sypro Orange)と共にインキュベートして、Tmを決定する。本明細書における一部の実施形態において、抗シグレック−8抗体は、マウス2E2抗体および/またはマウス2C4抗体と比較した場合に、同様のまたはより高いTmを有する。本明細書における一部の実施形態において、抗シグレック−8抗体は、配列番号6のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および/または配列番号16もしくは21から選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む。一部の実施形態において、抗シグレック−8抗体は、キメラ2C4抗体と比較した場合に同じまたはより高いTmを有する。一部の実施形態において、抗シグレック−8抗体は、配列番号84のアミノ酸配列を含む重鎖および配列番号85のアミノ酸配列を含む軽鎖を有する抗体と比較した場合に同じまたはより高いTmを有する。
【0156】
4.生物学的活性アッセイ
一部の態様において、本明細書に記載されている抗シグレック−8抗体は、好酸球のアポトーシスを誘導する。一部の他の態様において、本明細書に記載されている抗シグレック−8抗体は、肥満細胞を枯渇させる。細胞のアポトーシスを評価するためのアッセイは、本技術分野において周知であり、例えば、アネキシンVによる染色およびTUNNELアッセイが挙げられる。例示的な細胞アポトーシスアッセイにおいて、血液試料由来の新鮮バフィーコートを培地に再懸濁し、96ウェルU字底プレートで平板培養する。抗シグレック−8抗体の一連の系列5倍希釈を各ウェルに添加し、このプレートを37℃、5%CO
2で4時間より長くインキュベートする。PBSに希釈したパラホルムアルデヒドで細胞を固定し、顕微鏡を使用した検出のための好酸球に特異的なコンジュゲートされた抗体で染色する。バフィーコートが抗シグレック−8抗体の存在下でインキュベートされないときと比較した場合に、バフィーコートが抗シグレック−8抗体の存在下でインキュベートされたときの総末梢血白血球における好酸球集団を評価する。別の例示的なアッセイにおいて、血液試料から精製された好酸球(例えば、Miltenyi好酸球単離キット)を培地に再懸濁し、IL−5の存在または非存在下で一晩培養する。培養した好酸球をその後、遠心分離によって収集し、培地に再懸濁し、96ウェルU字底プレートで平板培養する。抗シグレック−8抗体の一連の系列5倍希釈を各ウェルに添加し、このプレートを37℃、5%CO
2で4時間より長くインキュベートする。本技術分野において周知の標準技法を使用して細胞を固定し、アネキシン−Vで染色し、顕微鏡を使用して好酸球の数を検出する。精製された細胞が抗シグレック−8抗体の存在下でインキュベートされないときと比較した場合に、精製された細胞が抗シグレック−8抗体の存在下でインキュベートされたときの試料における好酸球集団を評価する。
【0157】
一部の態様において、本明細書に記載されている抗シグレック−8抗体は、ADCC活性を誘導する。一部の他の態様において、本明細書に記載されている抗シグレック−8抗体は、ADCC活性によりシグレック−8を発現する肥満細胞を死滅させる。一部の実施形態において、組成物は、非フコシル化(すなわち、アフコシル化(afucosylated))抗シグレック−8抗体を含む。一部の実施形態において、本明細書に記載されている非フコシル化抗シグレック−8抗体を含む組成物は、部分的にフコシル化された抗シグレック−8抗体を含む組成物と比較した場合に、ADCC活性を増強する。ADCC活性を評価するためのアッセイは、本技術分野において周知であり、本明細書に記載されている。例示的なアッセイにおいて、ADCC活性を測定するために、エフェクター細胞および標的細胞が使用される。エフェクター細胞の例として、ナチュラルキラー(NK)細胞、大型顆粒リンパ球(LGL)、リンホカイン活性化キラー(LAK)細胞ならびにNKおよびLGLを含むPBMC、または好中球、好酸球およびマクロファージ等、細胞表面にFc受容体を有する白血球が挙げられる。標的細胞は、評価しようとする抗体が認識できる抗原を細胞表面に発現するいずれかの細胞である。斯かる標的細胞の例は、細胞表面にシグレック−8を発現する好酸球である。斯かる標的細胞の別の例は、細胞表面にシグレック−8を発現する肥満細胞である。標的細胞は、細胞溶解の検出を可能にする試薬で標識される。標識のための試薬の例として、クロム酸ナトリウム(Na
2 51CrO
4)等、放射性物質が挙げられる。例えば、Immunology、14巻、181頁(1968年);J. Immunol. Methods、172巻、227頁(1994年);およびJ. Immunol. Methods、184巻、29頁(1995年)を参照されたい。
【0158】
一部の態様において、本明細書に記載されている抗シグレック−8抗体は、肥満細胞媒介性活性を阻害する。肥満細胞トリプターゼは、総肥満細胞数および活性化のバイオマーカーとして使用されてきた。例えば、血液または尿中の総および活性トリプターゼならびにヒスタミン、N−メチルヒスタミンおよび11−ベータ−プロスタグランジンF2を測定して、肥満細胞の低下を評価することができる。例えば、例示的な肥満細胞活性アッセイに関して、米国特許出願公開第20110293631号を参照されたい。肥満細胞における抗シグレック−8抗体のADCCおよびアポトーシス活性を評価するための例示的なアッセイにおいて、ヒト肥満細胞は、公開されたプロトコールに従ってヒト組織から単離される(Guhlら、Biosci. Biotechnol. Biochem.、2011年、75巻:382〜384頁;Kulkaら、In Current Protocols in Immunology、2001年、(John Wiley & Sons, Inc.))、または例えば、Yokoiら、J Allergy Clin Immunol.、2008年、121巻:499〜505頁に記載されている通りにヒト造血幹細胞から分化される。精製された肥満細胞は、無菌96ウェルU字底プレートにおける完全RPMI培地に再懸濁され、0.0001ng/ml〜10μg/mlの間に及ぶ濃度における抗シグレック−8抗体の存在または非存在下で30分間インキュベートされる。精製されたナチュラルキラー(NK)細胞または新鮮PBLありまたはなしで、試料をさらに4〜16時間インキュベートして、ADCCを誘導する。肥満細胞を検出するための蛍光コンジュゲート抗体(CD117およびFcεR1)ならびに生きているおよび死んでいるまたは瀕死の細胞を識別するためのアネキシン−Vおよび7AADを使用したフローサイトメトリーにより、アポトーシスまたはADCCによる細胞死滅を解析する。製造元の説明書に従ってアネキシン−Vおよび7AAD染色を行う。
【0159】
抗体調製
本明細書に記載されている抗体(例えば、ヒトシグレック−8に結合する抗体)は、抗体を作製するための本技術分野において利用できる技法を使用して調製されるが、そのうち例示的な方法について次のセクションでより詳細に記載する。
【0160】
1.抗体断片
本発明は、抗体断片を包含する。抗体断片は、酵素消化等の伝統的な手段または組換え技法によって作製することができる。ある特定の状況下で、全抗体ではなく抗体断片を使用する利点がある。ある特定の抗体断片の概説に関しては、Hudsonら(2003年)Nat. Med.9巻:129〜134頁を参照されたい。
【0161】
抗体断片の産生のための様々な技法が開発された。伝統的には、このような断片は、インタクト抗体のタンパク質分解的消化により得られた(例えば、Morimotoら、Journal of Biochemical and Biophysical Methods 24巻:107〜117頁(1992年);およびBrennanら、Science、229巻:81頁(1985年)を参照)。しかし、このような断片は現在、組換え宿主細胞によって直接的に産生することができる。Fab、FvおよびScFv抗体断片は全て、E.coliにおいて発現させ、それから分泌させることができ、よって、大量のこのような断片の手軽な産生を可能にする。抗体断片は、上述の抗体ファージライブラリーから単離することができる。あるいは、Fab’−SH断片をE.coliから直接的に回収し、化学的にカップリングして、F(ab’)
2断片を形成することができる(Carterら、Bio/Technology 10巻:163〜167頁(1992年))。別のアプローチによると、F(ab’)
2断片は、組換え宿主細胞培養物から直接的に単離することができる。サルベージ受容体結合エピトープ残基を含む、in vivo半減期が増加したFabおよびF(ab’)
2断片が、米国特許第5,869,046号に記載されている。抗体断片の産生のための他の技法は、当業者には明らかとなろう。ある特定の実施形態において、抗体は、単鎖Fv断片(scFv)である。WO93/16185;米国特許第5,571,894号;および同第5,587,458号を参照されたい。FvおよびscFvは、定常領域を欠くインタクトな組み合わせ部位を有する唯一の種である;よって、これらは、in vivo使用における非特異的結合低下に適する可能性がある。scFv融合タンパク質を構築して、scFvのアミノまたはカルボキシ末端のいずれかにおけるエフェクタータンパク質の融合体を生じることができる。Antibody Engineering、Borrebaeck編(上掲)を参照されたい。例えば抗体断片は、例えば、米国特許第5,641,870号に記載されている「線状抗体」となることもできる。斯かる線状抗体は、単一特異性または二重特異性となり得る。
【0162】
2.ヒト化抗体
本発明は、ヒト化抗体を包含する。非ヒト抗体をヒト化するための様々な方法が、本技術分野で公知である。例えば、ヒト化抗体は、非ヒト供給源から導入された1個または複数のアミノ酸残基を有することができる。このような非ヒトアミノ酸残基は多くの場合、「移入」残基と称され、これは典型的には、「移入」可変ドメインから得られる。ヒト化は基本的に、高頻度可変領域配列をヒト抗体の相当する配列の代わりに置換することにより、Winterの方法に従って行うことができる(Jonesら(1986年)Nature 321巻:522〜525頁;Riechmannら(1988年)Nature 332巻:323〜327頁;Verhoeyenら(1988年)Science 239巻:1534〜1536頁)。したがって、斯かる「ヒト化」抗体は、キメラ抗体であり(米国特許第4,816,567号)、インタクトなヒト可変ドメインに実質的に満たないものが、非ヒト種由来の相当する配列によって置換されている。実際には、ヒト化抗体は典型的には、いくつかの高頻度可変領域残基およびおそらくいくつかのFR残基が、齧歯類抗体における類似性部位由来の残基によって置換されたヒト抗体である。
【0163】
ヒト化抗体の作製において使用するべき軽および重両方のヒト可変ドメインの選択は、抗原性の低下に重要となり得る。いわゆる「ベストフィット(best−fit)」方法によると、齧歯類(例えば、マウス)抗体の可変ドメインの配列が、公知ヒト可変ドメイン配列のライブラリー全体に対しスクリーニングされる。続いて、齧歯類の配列に最も近縁のヒト配列が、ヒト化抗体のヒトフレームワークとして受け入れられる(Simsら(1993年)J. Immunol.151巻:2296頁;Chothiaら(1987年)J. Mol. Biol.196巻:901頁)。別の方法は、軽または重鎖の特定のサブグループのあらゆるヒト抗体のコンセンサス配列に由来する特定のフレームワークを使用する。いくつかの異なるヒト化抗体に同じフレームワークを使用することができる(Carterら(1992年)Proc. Natl. Acad. Sci. USA、89巻:4285頁;Prestaら(1993年)J. Immunol.、151巻:2623頁)。
【0164】
抗体が、抗原に対する高い親和性および他の好ましい生物学的特性を保持しつつヒト化されることがさらに一般に望ましい。この目標を達成するため、一方法に従って、ヒト化抗体は、親およびヒト化配列の三次元モデルを使用して、親配列および様々な概念的ヒト化産物の解析のプロセスにより調製される。三次元免疫グロブリンモデルは、一般的に利用でき、当業者には馴染み深い。選択された候補免疫グロブリン配列の可能な三次元コンフォメーションを図解および表示するコンピュータプログラムを利用できる。このような表示の点検は、候補免疫グロブリン配列の機能における残基の可能性の高い役割の解析、すなわち、その抗原に結合する候補免疫グロブリンの能力に影響を与える残基の解析を可能にする。このようにして、標的抗原(複数可)に対する親和性増加等、所望の抗体特徴が達成できるように、レシピエントおよび移入配列からFR残基を選択し、組み合わせることができる。一般に、高頻度可変領域残基は、直接的におよび最も実質的に、抗原結合への影響に関与する。
【0165】
3.ヒト抗体
本発明のヒト抗シグレック−8抗体は、ヒト由来ファージディスプレイライブラリーから選択されるFvクローン可変ドメイン配列(複数可)と公知ヒト定常ドメイン配列(複数可)を組み合わせることにより構築することができる。あるいは、本発明のヒトモノクローナル抗シグレック−8抗体は、ハイブリドーマ方法によって作製することができる。ヒトモノクローナル抗体の産生のためのヒトミエローマおよびマウス−ヒトヘテロミエローマ細胞株は、例えば、Kozbor、J. Immunol.、133巻:3001頁(1984年);Brodeurら、Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications、51〜63頁(Marcel Dekker, Inc.、New York、1987年);およびBoernerら、J. Immunol.、147巻:86頁(1991年)によって記載されている。
【0166】
免疫化により、内在性免疫グロブリン産生の非存在下でヒト抗体の完全レパートリーを産生することができるトランスジェニック動物(例えば、マウス)を産生することが可能である。例えば、キメラおよび生殖系列変異体マウスにおける抗体重鎖連結領域(JH)遺伝子のホモ接合型欠失が、内在性抗体産生の完全阻害をもたらすことが記載されている。斯かる生殖系列変異体マウスへのヒト生殖系列免疫グロブリン遺伝子アレイの移行は、抗原負荷によるヒト抗体の産生をもたらすであろう。例えば、Jakobovitsら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、90巻:2551頁(1993年);Jakobovitsら、Nature、362巻:255頁(1993年);Bruggermannら、Year in Immunol.、7巻:33頁(1993年)を参照されたい。
【0167】
遺伝子シャッフリングを使用して、非ヒト(例えば、齧歯類)抗体からヒト抗体を得ることもでき、このヒト抗体は、出発非ヒト抗体と同様の親和性および特異性を有する。「エピトープインプリンティング」とも呼ばれるこの方法に従い、本明細書に記載されているファージディスプレイ技法によって得られる非ヒト抗体断片の重または軽鎖可変領域のいずれかを、ヒトVドメイン遺伝子のレパートリーと置き換え、非ヒト鎖/ヒト鎖scFvまたはFabキメラの集団を作り出す。抗原による選択は、非ヒト鎖/ヒト鎖キメラscFvまたはFabの単離をもたらし、ヒト鎖は、一次ファージディスプレイクローンにおける相当する非ヒト鎖の除去により破壊された抗原結合部位を修復する、すなわち、エピトープは、ヒト鎖パートナーの選択を支配する。残存非ヒト鎖を置き換えるために、このプロセスを反復すると、ヒト抗体が得られる(PCT WO93/06213、1993年4月1日公開を参照)。CDRグラフトによる非ヒト抗体の伝統的なヒト化とは異なり、この技法は、非ヒト起源のFR残基もCDR残基も持たない完全なヒト抗体を提供する。
【0168】
4.二重特異性抗体
二重特異性抗体は、少なくとも2種の異なる抗原に対し結合特異性を有するモノクローナル抗体である。ある特定の実施形態において、二重特異性抗体は、ヒトまたはヒト化抗体である。ある特定の実施形態において、結合特異性のうち一方は、シグレック−8に対するものであり、他方は、他のいずれかの抗原に向けられている。ある特定の実施形態において、二重特異性抗体は、シグレック−8の2種の異なるエピトープに結合することができる。二重特異性抗体を使用して、シグレック−8を発現する細胞に細胞傷害性薬剤を局在化させることもできる。二重特異性抗体は、全長抗体または抗体断片(例えば、F(ab’)
2二重特異性抗体)として調製することができる。
【0169】
二重特異性抗体を作製するための方法は、本技術分野で公知である。MilsteinおよびCuello、Nature、305巻:537頁(1983年)、WO93/08829、1993年5月13日公開およびTrauneckerら、EMBO J.、10巻:3655頁(1991年)を参照されたい。二重特異性抗体作製のさらなる詳細に関しては、例えば、Sureshら、Methods in Enzymology、121巻:210頁(1986年)を参照されたい。二重特異性抗体は、架橋されたまたは「ヘテロコンジュゲート」抗体を含む。例えば、ヘテロコンジュゲートにおける抗体の一方は、アビジンにカップリングすることができ、他方はビオチンにカップリングすることができる。ヘテロコンジュゲート抗体は、任意の簡便な架橋方法を使用して作製することができる。適した架橋剤は、本技術分野において周知であり、多数の架橋技法と共に米国特許第4,676,980号に開示されている。
【0170】
5.シングルドメイン抗体
一部の実施形態において、本発明の抗体は、シングルドメイン抗体である。シングルドメイン抗体は、抗体の重鎖可変ドメインの全体もしくは部分または軽鎖可変ドメインの全体もしくは部分を含む単一のポリペプチド(polyeptide)鎖である。ある特定の実施形態において、シングルドメイン抗体は、ヒトシングルドメイン抗体である(Domantis,Inc.、Waltham、Mass.;例えば、米国特許第6,248,516(B1)号を参照)。一実施形態において、シングルドメイン抗体は、抗体の重鎖可変ドメインの全体または部分からなる。
【0171】
6.抗体バリアント
一部の実施形態において、本明細書に記載されている抗体のアミノ酸配列修飾(複数可)が企図される。例えば、抗体の結合親和性および/または他の生物学的特性を改善することが望ましくなり得る。抗体のアミノ酸配列バリアントは、抗体をコードするヌクレオチド配列に適切な変化を導入することにより、あるいはペプチド合成により調製することができる。斯かる修飾は、例えば、抗体のアミノ酸配列内の残基からの欠失および/またはそれへの挿入および/またはその置換を含む。欠失、挿入および置換のいずれかの組合せを為して、最終構築物に到達することができるが、この最終構築物が、所望の特徴を保有することを条件とする。アミノ酸変更は、配列が作製されるときに対象抗体アミノ酸配列に導入することができる。
【0172】
変異誘発に好まれる位置である、抗体のある特定の残基または領域の同定に有用な方法は、CunninghamおよびWells(1989年)Science、244巻:1081〜1085頁によって記載されている「アラニンスキャニング変異誘発」と呼ばれる。それによると、残基または標的残基の群が同定され(例えば、arg、asp、his、lysおよびglu等、荷電残基)、中性または負電荷アミノ酸(例えば、アラニンまたはポリアラニン)によって置き換えられて、抗原とアミノ酸との相互作用に影響を与える。置換に対する機能的感受性を実証するアミノ酸位置は続いて、置換部位にまたはそれに代えてさらに別のまたは他のバリアントを導入することにより精緻化される。よって、アミノ酸配列変種を導入するための部位は既定であるが、変異の性質それ自体は既定である必要はない。例えば、所定の部位における変異の性能を解析するために、alaスキャニングまたはランダム変異誘発が、標的コドンまたは領域において行われ、発現された免疫グロブリンが、所望の活性に関してスクリーニングされる。
【0173】
アミノ酸配列挿入は、1残基から100またはそれを超える残基を含有するポリペプチドの長さに及ぶアミノおよび/またはカルボキシル末端融合、ならびに単一または複数のアミノ酸残基の配列内挿入を含む。末端挿入の例として、N末端メチオニル残基を有する抗体が挙げられる。抗体分子の他の挿入バリアントは、抗体の血清半減期を増加させる酵素またはポリペプチドへの抗体のNまたはC末端の融合を含む。
【0174】
一部の実施形態において、モノクローナル抗体は、重鎖および/または軽鎖にC末端切断を有する。例えば、1、2、3、4または5アミノ酸残基が、重鎖および/または軽鎖のC末端において切断される。一部の実施形態において、C末端切断は、重鎖からC末端リシンを除去する。一部の実施形態において、モノクローナル抗体は、重鎖および/または軽鎖にN末端切断を有する。例えば、1、2、3、4または5アミノ酸残基が、重鎖および/または軽鎖のN末端において切断される。一部の実施形態において、モノクローナル抗体のトランケート型は、組換え技法によって作製することができる。
【0175】
ある特定の実施形態において、本発明の抗体は、抗体がグリコシル化される程度を増加または減少させるように変更される。ポリペプチドのグリコシル化は、典型的には、N結合型またはO結合型のいずれかである。N結合型は、アスパラギン残基の側鎖への糖質部分の付着を指す。トリペプチド配列、アスパラギン−X−セリンおよびアスパラギン−X−スレオニン(式中、Xは、プロリンを除くいずれかのアミノ酸である)は、アスパラギン側鎖への糖質部分の酵素による付着の認識配列である。よって、ポリペプチドにおけるこれらのトリペプチド配列のいずれかの存在は、潜在的グリコシル化部位を生じる。O結合型グリコシル化は、5−ヒドロキシプロリンまたは5−ヒドロキシリシンを使用してもよいが、最も一般的にはセリンまたはスレオニンであるヒドロキシアミノ酸への糖、N−アセチルガラクトサミン(aceylgalactosamine)、ガラクトースまたはキシロースのうち1種の付着を指す。
【0176】
抗体に対するグリコシル化部位の付加または欠失は、上述のトリペプチド配列(N結合型グリコシル化部位のための)のうち1種または複数が作出または除去されるように、アミノ酸配列を変更することにより簡便に達成される。変更は、本来の抗体の配列に対する1個または複数のセリンまたはスレオニン残基の付加、欠失または置換によって為すこともできる(O結合型グリコシル化部位のため)。
【0177】
抗体が、Fc領域を含む場合、それに付着した糖質を変更することができる。例えば、抗体のFc領域に付着したフコースを欠如する、成熟糖質構造を有する抗体が、米国特許出願公開第2003/0157108号(Presta, L.)に記載されている。US2004/0093621(Kyowa Hakko Kogyo Co., Ltd)も参照されたい。抗体のFc領域に付着した糖質において二分(bisecting)N−アセチルグルコサミン(GlcNAc)を有する抗体は、WO2003/011878、Jean−Mairetらおよび米国特許第6,602,684号、Umanaらにおいて参照される。抗体のFc領域に付着したオリゴ糖において少なくとも1個のガラクトース残基を有する抗体は、WO1997/30087、Patelらに報告されている。そのFc領域に付着した変更された糖質を有する抗体に関して、WO1998/58964(Raju, S.)およびWO1999/22764(Raju, S.)も参照されたい。修飾されたグリコシル化を有する抗原結合分子に関して、US2005/0123546(Umanaら)も参照されたい。
【0178】
ある特定の実施形態において、グリコシル化バリアントは、Fc領域に付着した糖質構造が、フコースを欠如するFc領域を含む。斯かるバリアントは、改善されたADCC機能を有する。任意選択で、Fc領域は、ADCCをさらに改善する1個または複数のアミノ酸置換をそこにさらに含み、例えば、Fc領域の298、333および/または334位(残基のEuナンバリング)における置換が挙げられる。「脱フコシル化(defucosylated)」または「フコース欠損」抗体に関する刊行物の例として:US2003/0157108;WO2000/61739;WO2001/29246;US2003/0115614;US2002/0164328;US2004/0093621;US2004/0132140;US2004/0110704;US2004/0110282;US2004/0109865;WO2003/085119;WO2003/084570;WO2005/035586;WO2005/035778;WO2005/053742;Okazakiら、J. Mol. Biol.336巻:1239〜1249頁(2004年);Yamane−Ohnukiら、Biotech. Bioeng.87巻:614頁(2004年)が挙げられる。脱フコシル化抗体を産生する細胞株の例として、タンパク質フコシル化を欠損するLec13 CHO細胞(Ripkaら、Arch. Biochem. Biophys.249巻:533〜545頁(1986年);米国特許出願公開第2003/0157108(A1)号、Presta, L;およびWO2004/056312(A1)、Adamsら、特に、実施例11)と、アルファ−1,6−フコシル基転移酵素遺伝子、FUT8、ノックアウトCHO細胞(Yamane−Ohnukiら、Biotech. Bioeng.87巻:614頁(2004年))等のノックアウト細胞株と、β1,4−N−アセチルグルコサミン転移酵素III(GnT−III)およびゴルジμ−マンノシダーゼII(ManII)を過剰発現する細胞が挙げられる。
【0179】
野生型CHO細胞において産生された同じ抗体におけるフコースの量と比べて低下したフコースを有する抗体が、本明細書において企図される。例えば、抗体は、ネイティブCHO細胞(例えば、ネイティブFUT8遺伝子を含有するCHO細胞等、ネイティブグリコシル化パターンを産生するCHO細胞)によって産生された場合よりも少量のフコースを有する。ある特定の実施形態において、本明細書において提供される抗シグレック−8抗体は、そのN結合型グリカンの約50%、40%、30%、20%、10%、5%または1%未満がフコースを含む抗体である。ある特定の実施形態において、本明細書において提供される抗シグレック−8抗体は、そのN結合型グリカンのいずれもフコースを含まない抗体である、すなわち、抗体は、完全にフコースを含有しない、またはフコースを持たない、またはフコシル化されていない、またはアフコシル化されている。フコースの量は、例えばWO2008/077546に記載されているMALDI−TOF質量分析によって測定される、Asn297に付着したあらゆる糖構造の和と比べて(例えば、複合的、ハイブリッドおよび高マンノース構造)、Asn297における糖鎖内のフコースの平均量を計算することにより決定することができる。Asn297は、Fc領域における約297位に位置するアスパラギン残基を指す(Fc領域残基のEuナンバリング);しかし、Asn297は、抗体における軽微な配列変種により、297位の約±3アミノ酸上流または下流に、すなわち、294〜300位の間に位置することもできる。一部の実施形態において、抗体の重鎖の少なくとも1または2つは、フコシル化されていない。
【0180】
一実施形態において、抗体は、その血清半減期を改善するように変更される。抗体の血清半減期を増加させるために、例えば、米国特許第5,739,277号に記載されている通り、サルベージ受容体結合エピトープを抗体(特に、抗体断片)に取り込ませることができる。本明細書において、用語「サルベージ受容体結合エピトープ」は、IgG分子のin vivo血清半減期の増加の原因となる、IgG分子(例えば、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4)のFc領域のエピトープを指す(US2003/0190311、米国特許第6,821,505号;米国特許第6,165,745号;米国特許第5,624,821号;米国特許第5,648,260号;米国特許第6,165,745号;米国特許第5,834,597号)。
【0181】
別の種類のバリアントは、アミノ酸置換バリアントである。このようなバリアントは、異なる残基によって置き換えられた少なくとも1個のアミノ酸残基を抗体分子に有する。置換変異誘発のための目的の部位は、高頻度可変領域を含むが、FR変更も企図される。保存的置換は、表1の見出し「好まれる置換」に示す。斯かる置換が、生物学的活性に望ましい変化をもたらす場合、表1において「例示的な置換」と命名される、またはアミノ酸クラスを参照しつつさらに後述する、より実質的な変化を導入し、その産物をスクリーニングすることができる。
【表5-2】
【0182】
抗体の生物学的特性における実質的な修飾は、(a)例えば、シートもしくはヘリックスコンフォメーションとしての、置換の区域におけるポリペプチド骨格の構造、(b)標的部位における分子の電荷もしくは疎水性、またはc)側鎖の嵩の維持におけるその効果が有意に異なる置換を選択することにより達成される。アミノ酸は、その側鎖の特性の類似性に従ってグループ化することができる(A. L. Lehninger、Biochemistry、第2版、73〜75頁、Worth Publishers、New York(1975年)):
(1)非極性:Ala(A)、Val(V)、Leu(L)、Ile(I)、Pro(P)、Phe(F)、Trp(W)、Met(M)
(2)無電荷極性:Gly(G)、Ser(S)、Thr(T)、Cys(C)、Tyr(Y)、Asn(N)、Gln(Q)
(3)酸性:Asp(D)、Glu(E)
(4)塩基性:Lys(K)、Arg(R)、His(H)
【0183】
あるいは、天然起源の残基は、共通側鎖特性に基づき群に分けることができる:
(1)疎水性:ノルロイシン、Met、Ala、Val、Leu、Ile;
(2)中性親水性:Cys、Ser、Thr、Asn、Gln;
(3)酸性:Asp、Glu;
(4)塩基性:His、Lys、Arg;
(5)鎖の配向性に影響を与える残基:Gly、Pro;
(6)芳香族:Trp、Tyr、Phe。
【0184】
非保存的置換は、これらのクラスのうちあるクラスから別のクラスへのメンバーの交換を必要とするであろう。斯かる置換された残基は、保存的置換部位または残存(非保存)部位へと導入することもできる。
【0185】
1種類の置換バリアントは、親抗体(例えば、ヒト化またはヒト抗体)のうち1個または複数の高頻度可変領域残基の置換に関与する。一般に、さらなる開発のために選択されるその結果得られたバリアント(複数可)は、これを作製する元になった親抗体と比べて修飾された(例えば、改善された)生物学的特性を有するであろう。斯かる置換バリアントを作製するための簡便な仕方は、ファージディスプレイを使用した親和性成熟化に関与する。簡潔に説明すると、いくつかの高頻度可変領域部位(例えば、6〜7部位)を変異させて、各部位にあらゆる可能なアミノ酸置換を作製する。このように作製された抗体は、各粒子内にパッケージされたファージコートタンパク質(例えば、M13の遺伝子III産物)の少なくとも一部への融合体として繊維状ファージ粒子からディスプレイされる。次に、ファージディスプレイされたバリアントは、その生物学的活性(例えば、結合親和性)に関してスクリーニングされる。修飾のための候補高頻度可変領域部位を同定するために、スキャニング変異誘発(例えば、アラニンスキャニング)を行って、抗原結合に有意に寄与する高頻度可変領域残基を同定することができる。その代わりにまたはその上、抗原−抗体複合体の結晶構造を解析して、抗体および抗原の間の接触点を同定することが有益となり得る。斯かる接触残基および隣接する残基は、本明細書に詳述されている技法を含む、本技術分野で公知の技法に従った置換の候補である。斯かるバリアントが作製されたら、バリアントのパネルを、本明細書に記載されている技法を含む本技術分野で公知の技法を使用したスクリーニングに付し、1種または複数の関連アッセイにおいて優れた特性を有する抗体をさらなる開発のために選択することができる。
【0186】
抗体のアミノ酸配列バリアントをコードする核酸分子は、本技術分野で公知の種々の方法によって調製される。このような方法として、天然供給源からの単離(天然起源のアミノ酸配列バリアントの場合)、または先に調製されたバリアントもしくは非バリアントバージョンの抗体のオリゴヌクレオチド媒介性(または部位特異的)変異誘発、PCR変異誘発およびカセット変異誘発による調製が挙げられるがこれらに限定されない。
【0187】
本発明の抗体のFc領域に1個または複数のアミノ酸修飾を導入し、これにより、Fc領域バリアントを作製することが望ましくなり得る。Fc領域バリアントは、ヒンジシステインの位置を含む1個または複数のアミノ酸位置にアミノ酸修飾(例えば、置換)を含むヒトFc領域配列(例えば、ヒトIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4 Fc領域)を含むことができる。一部の実施形態において、Fc領域バリアントは、ヒトIgG4 Fc領域を含む。さらなる実施形態において、ヒトIgG4 Fc領域は、アミノ酸置換S228Pを含み、このアミノ酸残基は、Kabatにおける通りのEUインデックスに従ってナンバリングされる。
【0188】
本明細書および本技術分野が教示するところに従って、一部の実施形態において、本発明の抗体が、野生型カウンターパート抗体と比較して1個または複数の変更を、例えば、Fc領域に含むことができることが企図される。それにもかかわらず、このような抗体は、その野生型カウンターパートと比較した場合に、治療的有用性に必要とされる実質的に同じ特徴を保持するであろう。例えば、WO99/51642に記載されている通り、例えば、変更された(すなわち、改善または縮小された)C1q結合および/または補体依存性細胞傷害(CDC)をもたらすであろう、ある特定の変更をFc領域に為すことができることが考えられる。Fc領域バリアントの他の例に関して、DuncanおよびWinter、Nature 322巻:738〜40頁(1988年);米国特許第5,648,260号;米国特許第5,624,821号;およびWO94/29351も参照されたい。WO00/42072(Presta)およびWO2004/056312(Lowman)は、FcRに対し改善または縮小された結合を有する抗体バリアントについて記載する。これらの特許公報の内容は、特に参照により本明細書に組み入れられる。Shieldsら、J. Biol. Chem.9巻(2号):6591〜6604頁(2001年)も参照されたい。増加された半減期および胎児への母系IgGの移行の原因となる、新生児Fc受容体(FcRn)への改善された結合を有する抗体(Guyerら、J. Immunol.117巻:587頁(1976年)およびKimら、J. Immunol.24巻:249頁(1994年))は、US2005/0014934A1(Hintonら)に記載されている。このような抗体は、FcRnへのFc領域の結合を改善する、1個または複数の置換をその中に有するFc領域を含む。変更されたFc領域アミノ酸配列および増加または減少されたC1q結合能を有するポリペプチドバリアントは、米国特許第6,194,551B1号、WO99/51642に記載されている。これらの特許公報の内容は、特に参照により本明細書に組み入れられる。Idusogieら、J. Immunol.164巻:4178〜4184頁(2000年)も参照されたい。
【0189】
7.ベクター、宿主細胞および組換え方法
本発明の抗体の組換え産生のため、これをコードする核酸を単離し、さらなるクローニング(DNAの増幅)または発現のために複製可能なベクターに挿入する。抗体をコードするDNAは、従来手順を使用して(例えば、抗体の重および軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することができるオリゴヌクレオチドプローブを使用することにより)容易に単離および配列決定される。多くのベクターを利用できる。ベクターの選択は、一部には、使用するべき宿主細胞に依存する。一般に、宿主細胞は、原核生物または真核生物(一般には哺乳動物)起源のいずれかである。IgG、IgM、IgA、IgDおよびIgE定常領域を含むいかなるアイソタイプの定常領域をこの目的のために使用してもよく、いかなるヒトまたは動物種から斯かる定常領域を得てもよいことが認められよう。
【0190】
原核生物宿主細胞を使用した抗体の作製:
a)ベクター構築
本発明の抗体のポリペプチド構成成分をコードするポリヌクレオチド配列は、標準組換え技法を使用して得ることができる。所望のポリヌクレオチド配列は、ハイブリドーマ細胞等、抗体産生細胞から単離および配列決定することができる。あるいは、ポリヌクレオチドは、ヌクレオチド合成機またはPCR技法を使用して合成することができる。得られた後に、ポリペプチドをコードする配列は、原核生物宿主において異種ポリヌクレオチドを複製および発現することができる組換えベクターに挿入する。利用できる本技術分野で公知の多くのベクターを本発明の目的のために使用することができる。適切なベクターの選択は、主に、ベクターに挿入されるべき核酸のサイズおよびベクターで形質転換されるべき特定の宿主細胞に依存するであろう。各ベクターは、その機能(異種ポリヌクレオチドの増幅もしくは発現またはその両方)およびこれが存在する特定の宿主細胞との適合性に応じて様々な構成成分を含有する。ベクター構成成分として、複製起点、選択マーカー遺伝子、プロモーター、リボソーム結合部位(RBS)、シグナル配列、異種核酸挿入物および転写終結配列が一般に挙げられるがこれらに限定されない。
【0191】
一般に、宿主細胞と適合性の種に由来するレプリコンおよび対照配列を含有するプラスミドベクターは、このような宿主に関連して使用される。ベクターは通常、複製部位と共に、形質転換細胞における表現型選択をもたらすことができるマーキング配列を保有する。例えば、E.coliは典型的に、E.coli種に由来するプラスミドであるpBR322を使用して形質転換される。pBR322は、アンピシリン(Amp)およびテトラサイクリン(Tet)抵抗性をコードする遺伝子を含有し、これにより、形質転換細胞を同定するための容易な手段を提供する。pBR322、その派生体または他の微生物プラスミドまたはバクテリオファージは、内在性タンパク質の発現のために微生物によって使用され得るプロモーターを含有することもできるまたは含有するように修飾することもできる。特定の抗体の発現のために使用されるpBR322派生体の例は、Carterら、米国特許第5,648,237号に詳細に記載されている。
【0192】
加えて、宿主微生物と適合性であるレプリコンおよび対照配列を含有するファージベクターは、このような宿主に関連した形質転換ベクターとして使用することができる。例えば、λGEM.TM.−11等、バクテリオファージは、E.coli LE392等、感受性宿主細胞の形質転換に使用することができる組換えベクターの作製において利用することができる。
【0193】
本発明の発現ベクターは、ポリペプチド構成成分のそれぞれをコードする2個またはそれを超えるプロモーター−シストロンペアを含むことができる。プロモーターは、その発現をモジュレートするシストロンの上流(5’)に位置する非翻訳調節配列である。原核生物プロモーターは、典型的には、2種のクラス、誘導性および構成的に分類される。誘導性プロモーターは、培養条件の変化、例えば、栄養素の存在もしくは非存在または温度変化に応答して、その制御下でシストロンの転写のレベル増加を開始するプロモーターである。
【0194】
種々の潜在的宿主細胞によって認識される多数のプロモーターが周知である。制限酵素消化により供給源DNAからプロモーターを除去し、本発明のベクターへと単離されたプロモーター配列を挿入することにより、選択されたプロモーターは、軽または重鎖をコードするシストロンDNAに作動可能に連結することができる。ネイティブプロモーター配列および多くの異種プロモーターの両方を使用して、標的遺伝子の増幅および/または発現を方向付けることができる。一部の実施形態において、一般に、ネイティブ標的ポリペプチドプロモーターと比較した場合に、より優れた転写および発現された標的遺伝子のより高い収量を可能にするため、異種プロモーターが利用される。
【0195】
原核生物宿主による使用に適したプロモーターは、PhoAプロモーター、β−ガラクタマーゼ(galactamase)およびラクトースプロモーター系、トリプトファン(trp)プロモーター系ならびにtacまたはtrcプロモーター等のハイブリッドプロモーターを含む。しかし、細菌において機能的な他のプロモーター(他の公知細菌またはファージプロモーター等)も同様に適する。これらのヌクレオチド配列は発表されているため、当業者であれば、任意の必要とされる制限部位を供給するためのリンカーまたはアダプターを使用して、操作可能にこれらを標的の軽および重鎖をコードするシストロンにライゲーションすることができる(Siebenlistら(1980年)Cell 20巻:269頁)。
【0196】
本発明の一態様において、組換えベクター内の各シストロンは、膜を横切っての発現されたポリペプチドのトランスロケーションを方向付ける分泌シグナル配列構成成分を含む。一般に、シグナル配列は、ベクターの構成成分となり得る、あるいはベクターに挿入される標的ポリペプチドDNAの一部となり得る。本発明の目的のために選択されるシグナル配列は、宿主細胞によって認識およびプロセシングされる(すなわち、シグナルペプチダーゼによって切断される)配列となるべきである。異種ポリペプチドにとってネイティブなシグナル配列を認識およびプロセシングしない原核生物宿主細胞のため、シグナル配列は、アルカリホスファターゼ、ペニシリナーゼ、Ippまたは熱安定性エンテロトキシンII(STII)リーダー、LamB、PhoE、PelB、OmpAおよびMBPからなる群から例えば選択される原核生物シグナル配列によって置換される。本発明の一実施形態において、発現系の両方のシストロンで使用されるシグナル配列は、STIIシグナル配列またはそのバリアントである。
【0197】
別の態様において、本発明に係る免疫グロブリンの産生は、宿主細胞の細胞質において起こることができ、したがって、各シストロン内に分泌シグナル配列の存在を必要としない。これに関して、免疫グロブリン軽および重鎖は、細胞質内で発現され、フォールドされ、アセンブルされて、機能的免疫グロブリンを形成する。ある特定の宿主系統(例えば、E.coli trxB−系統)は、ジスルフィド結合形成に好ましい細胞質条件を提供し、これにより、発現されたタンパク質サブユニットの適切なフォールディングおよびアセンブリを可能にする。ProbaおよびPluckthun、Gene、159巻:203頁(1995年)。
【0198】
本発明の抗体は、分泌され適切にアセンブルされた本発明の抗体の収量を最大化するために、発現されたポリペプチド構成成分の定量的な比をモジュレートすることができる発現系を使用することにより産生することもできる。斯かるモジュレーションは、少なくとも一部には、ポリペプチド構成成分の翻訳強度を同時にモジュレートすることにより達成される。
【0199】
翻訳強度をモジュレートするための一技法は、Simmonsら、米国特許第5,840,523号に開示されている。これは、シストロン内の翻訳開始領域(TIR)のバリアントを利用する。所定のTIRのため、一連のアミノ酸または核酸配列バリアントをある範囲の翻訳強度で作り出し、これにより、特異的な鎖の所望の発現レベルにこの因子を調整するための簡便な手段を提供することができる。TIRバリアントは、アミノ酸配列を変更し得るコドン変化をもたらす従来の変異誘発技法によって作製することができる。ある特定の実施形態において、ヌクレオチド配列の変化は、サイレントである。TIRにおける変更は、例えば、シグナル配列における変更と共に、シャインダルガーノ配列の数またはスペーシングの変更を含むことができる。変異体シグナル配列を作製するための一方法は、シグナル配列のアミノ酸配列を変化させない(すなわち、変化がサイレントである)、コード配列の開始における「コドンバンク」の作製である。これは、各コドンの第3のヌクレオチド位置を変化させることにより達成することができる;その上、ロイシン、セリンおよびアルギニン等、一部のアミノ酸は、バンクの作製において複雑さを加えることができる複数の第1および第2の位置を有する。この変異誘発方法は、Yansuraら(1992年)METHODS: A Companion to Methods in Enzymol.4巻:151〜158頁に詳細に記載されている。
【0200】
一実施形態において、ベクターのセットが、その中のシストロン毎にある範囲のTIR強度で作製される。この限定されたセットは、各鎖の発現レベルの比較と共に、様々なTIR強度組合せ下における所望の抗体産物の収量をもたらす。TIR強度は、Simmonsら、米国特許第5,840,523号に詳細に記載されている通り、レポーター遺伝子の発現レベルを定量化することにより決定することができる。翻訳強度比較に基づき、所望の個々のTIRが選択されて、本発明の発現ベクター構築物において組み合わされる。
【0201】
本発明の抗体の発現に適した原核生物宿主細胞は、グラム陰性またはグラム陽性生物等、古細菌および真正細菌を含む。有用な細菌の例として、Escherichia(例えば、E.coli)、Bacilli(例えば、B.subtilis)、Enterobacteria、Pseudomonas種(例えば、P.aeruginosa)、Salmonella typhimurium、Serratia marcescans、Klebsiella、Proteus、Shigella、Rhizobia、VitreoscillaまたはParacoccusが挙げられる。一実施形態において、グラム陰性細胞が使用される。一実施形態において、E.coli細胞が、本発明のための宿主として使用される。E.coli系統の例として、系統W3110(Bachmann、Cellular and Molecular Biology、2巻(Washington, D.C.:American Society for Microbiology、1987年)、1190〜1219頁;ATCC寄託番号27,325)および遺伝子型W3110 ΔfhuA(ΔtonA)ptr3 lac Iq lacL8 ΔompTΔ(nmpc−fepE)degP41 kanRを有する系統33D3を含むその派生体(米国特許第5,639,635号)が挙げられる。E.coli 294(ATCC31,446)、E.coli B、E.coliλ 1776(ATCC31,537)およびE.coli RV308(ATCC31,608)等、他の系統およびその派生体も適している。これらの例は、限定的ではなく説明的である。定義された遺伝子型を有する上述の細菌のうちいずれかの派生体を構築するための方法は、本技術分野で公知であり、例えば、Bassら、Proteins、8巻:309〜314頁(1990年)に記載されている。細菌の細胞におけるレプリコンの複製能(replicability)を考慮に入れて適切な細菌を選択することが一般に必要である。pBR322、pBR325、pACYC177またはpKN410等、周知のプラスミドが、レプリコンの供給に使用される場合、例えば、E.coli、SerratiaまたはSalmonella種は、宿主として適切に使用することができる。典型的には、宿主細胞は、最小量のタンパク質分解酵素を分泌するべきであり、望ましくは、追加的なプロテアーゼ阻害剤を細胞培養において取り込むことができる。
【0202】
b)抗体産生
宿主細胞は、上述の発現ベクターで形質転換され、プロモーターを誘導するため、形質転換体を選択するため、または所望の配列をコードする遺伝子を増幅するための、必要に応じて修飾された従来の栄養培地において培養される。
【0203】
形質転換は、DNAが、染色体外エレメントとしてまたは染色体組み込み体により複製可能となるような、原核生物宿主へのDNAの導入を意味する。使用する宿主細胞に応じて、形質転換は、斯かる細胞に適切な標準技法を使用して行われる。塩化カルシウムを用いたカルシウム処理は、実質的な細胞壁障壁を含有する細菌細胞のために一般に使用される。形質転換のための別の方法は、ポリエチレングリコール/DMSOを用いる。使用されるさらに別の技法は、エレクトロポレーションである。
【0204】
本発明のポリペプチドの産生に使用される原核細胞は、本技術分野で公知の、選択された宿主細胞の培養に適した培地において育成される。適した培地の例として、ルリアブロス(LB)に必要な栄養素補充物質を加えたものが挙げられる。一部の実施形態において、培地は、発現ベクターの構築に基づき選ばれる選択用薬剤も含有して、この発現ベクターを含有する原核細胞の成長を選択的に可能にする。例えば、アンピシリン抵抗性遺伝子を発現する細胞の成長のために、培地にアンピシリンが添加される。
【0205】
炭素、窒素および無機リン酸塩源に加えて任意の必要な補充物質が、単独でまたは複合的窒素源等の別の補充物質もしくは培地との混合物として導入されて、適切な濃度で含まれていてもよい。任意選択で、培養培地は、グルタチオン、システイン、シスタミン、チオグリコレート、ジチオエリトリトールおよびジチオスレイトールからなる群より選択される1種または複数の還元剤を含有することができる。
【0206】
原核生物宿主細胞は、適した温度で培養される。ある特定の実施形態において、E.coliの成長のため、成長温度は、約20℃から約39℃、約25℃から約37℃の範囲であるか、または約30℃である。培地のpHは、主に宿主生物に応じて、約5〜約9に及ぶいずれかのpHとなり得る。ある特定の実施形態において、E.coliのため、pHは、約6.8〜約7.4または約7.0である。
【0207】
誘導性プロモーターが、本発明の発現ベクターにおいて使用される場合、タンパク質発現は、プロモーターの活性化に適した条件下で誘導される。本発明の一態様において、PhoAプロモーターが、ポリペプチドの転写を制御するために使用される。したがって、形質転換された宿主細胞は、誘導のためのリン酸塩制限培地において培養される。ある特定の実施形態において、リン酸塩制限培地は、C.R.A.P.培地である(例えば、Simmonsら、J. Immunol. Methods(2002年)263巻:133〜147頁を参照)。本技術分野で公知の通り、用いられているベクター構築物に従って、種々の他の誘導因子を使用することができる。
【0208】
一実施形態において、本発明の発現されたポリペプチドは、宿主細胞の周辺質に分泌され、そこから回収される。タンパク質回収は、典型的には、一般に、浸透圧ショック、超音波処理または溶解等の手段による微生物の崩壊に関与する。細胞が崩壊されたら、細胞デブリまたは細胞全体は、遠心分離または濾過によって除去することができる。タンパク質は、例えば、親和性樹脂クロマトグラフィーによってさらに精製することができる。あるいは、タンパク質は、培養培地へと輸送され、そこに単離されてもよい。細胞をこの培養物から除去し、産生されたタンパク質のさらなる精製のために培養上清を濾過および濃縮することができる。発現されたポリペプチドは、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)およびウエスタンブロットアッセイ等、一般的に公知の方法を使用してさらに単離および同定することができる。
【0209】
本発明の一態様において、抗体産生は、発酵プロセスにより大量に行われる。様々な大規模フェドバッチ(fed−batch)発酵手順が、組換えタンパク質の産生のために利用できる。大規模発酵は、少なくとも1000リットルの容量、ある特定の実施形態において、約1,000〜100,000リットルの容量を有する。このような発酵槽は、酸素および栄養素、特にグルコースを分布させるための撹拌機羽根車を使用する。小規模発酵は一般に、およそ100リットル以下の容積測定的容量の発酵槽における発酵を指し、約1リットル〜約100リットルに及び得る。
【0210】
発酵プロセスにおいて、タンパク質発現の誘導は、典型的には、細胞が適した条件下で所望の密度、例えば、約180〜220のOD550まで成長した後に開始され、このステージにおいて、細胞は定常期初期にある。本技術分野で公知かつ上述の通り、用いられているベクター構築物に従って、種々の誘導因子を使用することができる。誘導に先立ちより短い期間、細胞を育成することができる。細胞は通常、約12〜50時間誘導されるが、より長いまたはより短い誘導時間を使用してもよい。
【0211】
本発明のポリペプチドの産生収量および質を改善するために、様々な発酵条件を修飾することができる。例えば、分泌された抗体ポリペプチドの適切なアセンブリおよびフォールディングを改善するために、Dsbタンパク質(DsbA、DsbB、DsbC、DsbDおよび/またはDsbG)またはFkpA(シャペロン活性を有するペプチジルプロリルcis,trans−イソメラーゼ)等、シャペロンタンパク質を過剰発現する追加的なベクターを使用して、宿主原核細胞を同時形質転換することができる。シャペロンタンパク質は、細菌宿主細胞において産生された異種タンパク質の適切なフォールディングおよび溶解度を容易にすることが実証された。Chenら(1999年)J. Biol. Chem.274巻:19601〜19605頁;Georgiouら、米国特許第6,083,715号;Georgiouら、米国特許第6,027,888号;BothmannおよびPluckthun(2000年)J. Biol. Chem.275巻:17100〜17105頁;RammおよびPluckthun(2000年)J. Biol. Chem.275巻:17106〜17113頁;Arieら(2001年)Mol. Microbiol.39巻:199〜210頁。
【0212】
発現された異種タンパク質(特に、タンパク質分解に感受性のタンパク質)のタンパク質分解を最小化するために、タンパク質分解酵素を欠損したある特定の宿主系統を本発明のために使用することができる。例えば、宿主細胞系統を修飾して、プロテアーゼIII、OmpT、DegP、Tsp、プロテアーゼI、プロテアーゼMi、プロテアーゼV、プロテアーゼVIおよびこれらの組合せ等、公知の細菌プロテアーゼをコードする遺伝子に遺伝的変異(複数可)を生じることができる。いくつかのE.coliプロテアーゼ欠損系統を利用することができ、例えば、Jolyら(1998年)(上掲);Georgiouら、米国特許第5,264,365号;Georgiouら、米国特許第5,508,192号;Haraら、Microbial Drug Resistance、2巻:63〜72頁(1996年)に記載されている。
【0213】
一実施形態において、タンパク質分解酵素を欠損し、1種または複数のシャペロンタンパク質を過剰発現するプラスミドにより形質転換されたE.coli系統が、本発明の発現系における宿主細胞として使用される。
【0214】
c)抗体精製
一実施形態において、本明細書における産生された抗体タンパク質は、さらに精製されて、さらなるアッセイおよび使用のために実質的に均一な調製物を得る。本技術分野で公知の標準タンパク質精製方法を用いることができる。次の手順は、適した精製手順に例示的である:免疫親和性またはイオン交換カラムにおける分画、エタノール沈殿、逆相HPLC、DEAE等、シリカまたはカチオン交換樹脂におけるクロマトグラフィー、クロマトフォーカシング、SDS−PAGE、硫酸アンモニウム沈殿および例えば、Sephadex G−75を使用したゲル濾過。
【0215】
一態様において、固相に固定化されたプロテインAが、本発明の抗体産物の免疫親和性精製のために使用される。プロテインAは、抗体のFc領域に高親和性で結合する、Staphylococcus aureas由来の41kDの細胞壁タンパク質である。Lindmarkら(1983年)J. Immunol. Meth.62巻:1〜13頁。プロテインAが固定化される固相は、ガラスもしくはシリカ表面を含むカラム、またはポア制御(controlled pore)ガラスカラムまたはケイ酸カラムであり得る。一部の適用において、カラムは、グリセロール等の試薬でコーティングされて、夾雑物の非特異的接着性を予防する可能性がある。
【0216】
精製の第1のステップとして、上述の細胞培養物に由来する調製物をプロテインA固定化固相にアプライして、プロテインAへの目的の抗体の特異的結合を可能にすることができる。続いて、固相を洗浄して、固相に非特異的に結合した夾雑物を除去する。最後に、溶出により固相から目的の抗体を回収する。
【0217】
真核生物宿主細胞を使用した抗体の作製:
真核生物宿主細胞における使用のためのベクターは一般に、次の非限定的構成成分のうち1種または複数を含む:シグナル配列、複製起点、1種または複数のマーカー遺伝子、エンハンサーエレメント、プロモーターおよび転写終結配列。
【0218】
a)シグナル配列構成成分
真核生物宿主細胞における使用のためのベクターは、目的の成熟タンパク質またはポリペプチドのN末端に特異的な切断部位を有する、シグナル配列または他のポリペプチドを含有することもできる。選択された異種シグナル配列は、宿主細胞により認識およびプロセシングされる(すなわち、シグナルペプチダーゼによって切断される)配列となり得る。哺乳動物細胞発現において、哺乳動物シグナル配列およびウイルス分泌リーダー、例えば、単純ヘルペスgDシグナルが利用できる。斯かる前駆体領域のためのDNAは、抗体をコードするDNAに読み取り枠でライゲーションされる。
【0219】
b)複製起点
一般に、複製起点構成成分は、哺乳動物発現ベクターには必要とされない。例えば、SV40起点は、典型的には、初期プロモーターを含有するという理由でのみ使用することができる。
【0220】
c)選択遺伝子構成成分
発現およびクローニングベクターは、選択可能マーカーとも命名される選択遺伝子を含有することができる。典型的な選択遺伝子は、(a)抗生物質もしくは他の毒素、例えば、アンピシリン、ネオマイシン、メトトレキセートもしくはテトラサイクリンに対する抵抗性を付与する、(b)関連する場合、栄養要求性欠乏を補完する、または(c)複合培地から得ることができない重大な栄養素を供給するタンパク質をコードする。
【0221】
選択スキームの一例は、宿主細胞の成長を停止させるための薬物を利用する。異種遺伝子による形質転換が成功した細胞は、薬物抵抗性を付与するタンパク質を産生し、これにより、この選択レジメンを生き残る。斯かる優性選択の例は、薬物、ネオマイシン、ミコフェノール酸およびハイグロマイシンを使用する。
【0222】
哺乳動物細胞に適した選択可能マーカーの別の例は、DHFR、チミジンキナーゼ、メタロチオネイン−Iおよび−II、霊長類メタロチオネイン遺伝子、アデノシンデアミナーゼ、オルニチンデカルボキシラーゼ等、抗体核酸を取り込む能力のある細胞の同定を可能にするマーカーである。
【0223】
例えば、一部の実施形態において、DHFR選択遺伝子で形質転換された細胞は先ず、DHFRの競合的アンタゴニストであるメトトレキセート(Mtx)を含有する培養培地において全形質転換体を培養することにより同定される。一部の実施形態において、野生型DHFRが用いられる場合に適切な宿主細胞は、DHFR活性を欠損したチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株である(例えば、ATCC CRL−9096)。
【0224】
あるいは、抗体、野生型DHFRタンパク質およびアミノグリコシド3’−ホスホトランスフェラーゼ(APH)等の別の選択可能マーカーをコードするDNA配列で形質転換または同時形質転換された宿主細胞(特に、内在性DHFRを含有する野生型宿主)は、アミノグリコシド系抗生物質、例えば、カナマイシン、ネオマイシンまたはG418等、この選択可能マーカーのための選択用薬剤を含有する培地における細胞成長により選択することができる。米国特許第4,965,199号を参照されたい。宿主細胞は、グルタミンシンテターゼ(GS)を欠損した細胞株を含む、NS0、CHOK1、CHOK1SVまたは派生体を含むことができる。哺乳動物細胞のための選択可能マーカーとしてのGSの使用のための方法は、米国特許第5,122,464号および米国特許第5,891,693号に記載されている。
【0225】
d)プロモーター構成成分
発現およびクローニングベクターは通常、宿主生物によって認識され、目的のポリペプチド(例えば、抗体)をコードする核酸に作動可能に連結されたプロモーターを含有する。プロモーター配列は、真核生物で公知である。例えば、実際ではあらゆる真核生物遺伝子は、転写が開始される部位からおよそ25〜30塩基上流に位置するATリッチ領域を有する。多くの遺伝子の転写開始から70〜80塩基上流に見出された別の配列は、CNCAAT領域であり、Nは、いかなるヌクレオチドでもよい。大部分の真核生物遺伝子の3’端には、コード配列の3’端へのポリAテイルの付加のためのシグナルとなり得るAATAAA配列がある。ある特定の実施形態において、これらの配列のいずれかまたは全てを、真核生物発現ベクターに適切に挿入することができる。
【0226】
哺乳動物宿主細胞におけるベクターからの転写は、例えば、ポリオーマウイルス、鶏痘ウイルス、アデノウイルス(アデノウイルス2等)、ウシパピローマウイルス、トリ肉腫ウイルス、サイトメガロウイルス、レトロウイルス、B型肝炎ウイルスおよびサルウイルス40(SV40)等、ウイルスのゲノムから、あるいは異種哺乳動物プロモーター、例えば、アクチンプロモーターまたは免疫グロブリンプロモーターから、熱ショックプロモーターから得られるプロモーターによって制御される、ただし、斯かるプロモーターは、宿主細胞系と適合性であること。
【0227】
SV40ウイルスの初期および後期プロモーターは、SV40ウイルス複製起点も含有するSV40制限断片として簡便に得られる。ヒトサイトメガロウイルスの最初期プロモーターは、HindIII E制限断片として簡便に得られる。ベクターとしてウシパピローマウイルスを使用して哺乳動物宿主においてDNAを発現するための系は、米国特許第4,419,446号に開示されている。この系の修飾は、米国特許第4,601,978号に記載されている。単純ヘルペスウイルス由来のチミジンキナーゼプロモーターの制御下でのマウス細胞におけるヒトβ−インターフェロンcDNAの発現について記載するReyesら、Nature 297巻:598〜601頁(1982年)も参照されたい。あるいは、ラウス肉腫ウイルス末端反復配列をプロモーターとして使用することができる。
【0228】
e)エンハンサーエレメント構成成分
高等真核生物による本発明の抗体をコードするDNAの転写は、多くの場合、ベクターにエンハンサー配列を挿入することにより増加される。多くのエンハンサー配列が、哺乳動物遺伝子(グロビン、エラスターゼ、アルブミン、α−フェトプロテインおよびインスリン)から現在公知である。しかし典型的には、真核細胞ウイルス由来のエンハンサーが使用されるであろう。例として、複製起点の後方(late side)(bp100〜270)のSV40エンハンサー、ヒトサイトメガロウイルス初期プロモーターエンハンサー、マウスサイトメガロウイルス初期プロモーターエンハンサー、複製起点の後方のポリオーマエンハンサーおよびアデノウイルスエンハンサーが挙げられる。真核生物プロモーターの活性化のためのエンハンサーエレメントについて記載するYaniv、Nature 297巻:17〜18頁(1982年)も参照されたい。エンハンサーは、抗体ポリペプチドコード配列に対し5’位または3’位においてベクターにスプライスすることができるが、一般に、プロモーターから5’の部位に位置する。
【0229】
f)転写終結構成成分
真核生物宿主細胞において使用される発現ベクターは、転写の終結およびmRNAの安定化に必要な配列を含有することもできる。斯かる配列は、真核生物またはウイルスDNAまたはcDNAの5’および場合により3’非翻訳領域から一般的に利用できる。このような領域は、抗体をコードするmRNAの非翻訳部分におけるポリアデニル化断片として転写されるヌクレオチドセグメントを含有する。有用な転写終結構成成分の1種は、ウシ成長ホルモンポリアデニル化領域である。WO94/11026およびそこに開示されている発現ベクターを参照されたい。
【0230】
g)宿主細胞の選択および形質転換
本明細書におけるベクターにおけるDNAのクローニングまたは発現に適した宿主細胞は、脊椎動物宿主細胞を含む、本明細書に記載されている高等真核生物細胞を含む。培養(組織培養)における脊椎動物細胞の繁殖は、ルーチン手順となった。有用な哺乳動物宿主細胞株の例は、SV40によって形質転換されたサル腎臓CV1系列(COS−7、ATCC CRL 1651);ヒト胚性腎臓系列(懸濁培養における育成のためにサブクローニングされた293または293細胞、Grahamら、J. Gen Virol.36巻:59頁(1977年));ベビーハムスター腎臓細胞(BHK、ATCC CCL 10);チャイニーズハムスター卵巣細胞/−DHFR(CHO、Urlaubら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77巻:4216頁(1980年));マウスセルトリ細胞(TM4、Mather、Biol. Reprod.23巻:243〜251頁(1980年));サル腎臓細胞(CV1 ATCC CCL 70);アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO−76、ATCC CRL−1587);ヒト子宮頸癌細胞(HELA、ATCC CCL 2);イヌ腎臓細胞(MDCK、ATCC CCL 34);バッファローラット(buffalo rat)肝臓細胞(BRL 3A、ATCC CRL 1442);ヒト肺細胞(W138、ATCC CCL 75);ヒト肝臓細胞(Hep G2、HB 8065);マウス乳房腫瘍(MMT 060562、ATCC CCL51);TRI細胞(Matherら、Annals N.Y. Acad. Sci.383巻:44〜68頁(1982年));MRC5細胞;FS4細胞;CHOK1細胞、CHOK1SV細胞または派生体およびヒトヘパトーマ系列(Hep G2)である。
【0231】
宿主細胞は、抗体産生のために上述の発現またはクローニングベクターにより形質転換され、プロモーターを誘導するため、形質転換体を選択するため、または所望の配列をコードする遺伝子を増幅するために、必要に応じて修飾された従来の栄養培地において培養される。
【0232】
h)宿主細胞の培養
本発明の抗体の産生に使用される宿主細胞は、種々の培地において培養することができる。HamのF10(Sigma)、最小必須培地((MEM)、Sigma)、RPMI−1640(Sigma)およびダルベッコ変法イーグル培地((DMEM)、Sigma)等、市販の培地は、宿主細胞の培養に適する。加えて、Hamら、Meth. Enz.58巻:44頁(1979年)、Barnesら、Anal. Biochem.102巻:255頁(1980年)、米国特許第4,767,704号;同第4,657,866号;同第4,927,762号;同第4,560,655号;もしくは同第5,122,469号;WO90/03430;WO87/00195;または米国再発行特許(U.S. Pat. Re.)30,985に記載されている培地のいずれかを宿主細胞のための培養培地として使用することができる。これらの培地のいずれも、ホルモンおよび/または他の増殖因子(インスリン、トランスフェリンまたは上皮増殖因子等)、塩(塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウムおよびリン酸塩等)、バッファー(HEPES等)、ヌクレオチド(アデノシンおよびチミジン等)、抗生物質(GENTAMYCIN(商標)薬物等)、微量元素(マイクロモル濃度範囲内の最終濃度で通常存在する無機化合物として定義)ならびにグルコースまたは等価なエネルギー源を必要に応じて補充することができる。他のいずれかの補充物質が、当業者に公知の適切な濃度で含まれていてもよい。温度、pHその他等、培養条件は、発現のために選択された宿主細胞により以前に使用された条件であり、当業者には明らかとなろう。
【0233】
i)抗体の精製
組換え技法を使用する場合、抗体は、細胞内に産生することができる、あるいは培地に直接的に分泌することができる。抗体が、細胞内に産生される場合、第1のステップとして、宿主細胞または溶解された断片のあらゆる粒子状デブリは、例えば、遠心分離または限外濾過により除去することができる。抗体が、培地に分泌される場合、斯かる発現系から得た上清は、市販のタンパク質濃縮フィルター、例えば、AmiconまたはMillipore Pellicon限外濾過ユニットを使用して先ず濃縮することができる。PMSF等、プロテアーゼ阻害剤が、タンパク質分解を阻害するために前述ステップのいずれかに含まれていてよく、抗生物質が、偶発的な夾雑物の成長を予防するために含まれていてよい。
【0234】
細胞から調製された抗体組成物は、例えば、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析および親和性クロマトグラフィーを使用して精製することができ、親和性クロマトグラフィーが、簡便な技法である。親和性リガンドとしてのプロテインAの適合性は、抗体に存在するいずれかの免疫グロブリンFcドメインの種およびアイソタイプに依存する。プロテインAを使用して、ヒトγ1、γ2またはγ4重鎖に基づく抗体を精製することができる(Lindmarkら、J. Immunol. Methods 62巻:1〜13頁(1983年))。プロテインGは、全マウスアイソタイプおよびヒトγ3に推奨される(Gussら、EMBO J.5巻:1567 1575頁(1986年))。親和性リガンドが付着するマトリックスは、アガロースであってよいが、他のマトリックスも利用できる。ポア制御ガラスまたはポリ(スチレンジビニル)ベンゼン等、機械的に安定的なマトリックスは、アガロースにより達成され得るものよりも速い流速およびより短い処理時間を可能にする。抗体が、CH3ドメインを含む場合、Bakerbond ABX(商標)樹脂(J.T.Baker、Phillipsburg、N.J.)が、精製に有用である。イオン交換カラムにおける分画、エタノール沈殿、逆相HPLC、シリカにおけるクロマトグラフィー、ヘパリンにおけるクロマトグラフィー、アニオンまたはカチオン交換樹脂(ポリアスパラギン酸カラム等)におけるSEPHAROSE(商標)クロマトグラフィー、クロマトフォーカシング、SDS−PAGEおよび硫酸アンモニウム沈殿等、タンパク質精製のための他の技法も、回収しようとする抗体に応じて利用できる。
【0235】
任意の予備的精製ステップ(複数可)の後に、目的の抗体および夾雑物を含む混合物は、例えば、低塩濃度(例えば、約0〜0.25M塩)で行われる約2.5〜4.5の間のpHの溶出バッファーを使用した低pH疎水性相互作用クロマトグラフィーにより、さらなる精製に付すことができる。
【0236】
一般に、研究、検査および臨床用途における使用のための抗体を調製するための様々な方法論は、本技術分野において十分に確立されており、上述の方法論と一貫しており、および/または当業者によって特定の目的の抗体に適切であると考慮される。
【0237】
非フコシル化抗体の産生
フコシル化の程度が低下した抗体を調製するための方法が本明細書に提供されている。例えば、本明細書において企図される方法として、タンパク質フコシル化が欠損した細胞株の使用(例えば、Lec13 CHO細胞、アルファ−1,6−フコシル基転移酵素遺伝子ノックアウトCHO細胞、β1,4−N−アセチルグルコサミン転移酵素IIIを過剰発現する細胞およびゴルジμ−マンノシダーゼIIをさらに過剰発現する細胞等)および抗体の産生に使用される細胞培養培地におけるフコースアナログ(複数可)の添加が挙げられるがこれらに限定されない。Ripkaら、Arch. Biochem. Biophys.249巻:533〜545頁(1986年);米国特許出願公開第2003/0157108(A1)号、Presta, L;WO2004/056312(A1);Yamane−Ohnukiら、Biotech. Bioeng.87巻:614頁(2004年);および米国特許第8,574,907号を参照されたい。抗体のフコース含量を低下させるための追加的な技法は、米国特許出願公開第2012/0214975号に記載されているGlymaxx技術を含む。抗体のフコース含量を低下させるための追加的な技法は、抗体の産生に使用される細胞培養培地における1種または複数のグリコシダーゼ阻害剤の添加も含む。グリコシダーゼ阻害剤は、α−グルコシダーゼI、α−グルコシダーゼIIおよびα−マンノシダーゼIを含む。一部の実施形態において、グリコシダーゼ阻害剤は、α−マンノシダーゼIの阻害剤である(例えば、キフネンシン)。
【0238】
本明細書において、「コアのフコシル化」は、N結合型グリカンの還元末端におけるN−アセチルグルコサミン(「GlcNAc」)へのフコースの付加(「フコシル化」)を指す。斯かる方法によって産生された抗体およびその組成物も提供される。
【0239】
一部の実施形態において、Fc領域(またはドメイン)に結合した複合N−グリコシド結合型糖鎖のフコシル化が低下される。本明細書において、「複合N−グリコシド結合型糖鎖」は、典型的に、アスパラギン297(Kabatの番号に従う)に結合されるが、複合N−グリコシド結合型糖鎖は、他のアスパラギン残基に連結されてもよい。「複合N−グリコシド結合型糖鎖」は、コア構造の非還元末端にマンノースのみが取り込まれた高マンノース型の糖鎖を除外するが、1)コア構造の非還元末端側が、ガラクトース−N−アセチルグルコサミン(「gal−GlcNAc」とも称される)の1個または複数の分枝を有し、Gal−GlcNAcの非還元末端側が、シアル酸、二分N−アセチルグルコサミンその他を任意選択で有する複合型;または2)コア構造の非還元末端側が、高マンノースN−グリコシド結合型糖鎖および複合N−グリコシド結合型糖鎖の両方の分枝を有するハイブリッド型を含む。
【0240】
一部の実施形態において、「複合N−グリコシド結合型糖鎖」は、コア構造の非還元末端側が、ガラクトース−N−アセチルグルコサミン(「gal−GlcNAc」とも称される)の0、1個または複数の分枝を有し、Gal−GlcNAcの非還元末端側が、シアル酸、二分N−アセチルグルコサミンその他等の構造を任意選択でさらに有する複合型を含む。
【0241】
本方法によると、典型的には、ごく微量のフコースが、複合N−グリコシド結合型糖鎖(複数可)に取り込まれる。例えば、様々な実施形態において、組成物中、抗体の約60%未満、約50%未満、約40%未満、約30%未満、約20%未満、約15%未満、約10%未満、約5%未満または約1%未満が、フコースによりコアがフコシル化されている。一部の実施形態において、組成物中、抗体の実質的に全てが、フコースによりコアがフコシル化されていない(すなわち、約0.5%未満が、フコシル化されている)。一部の実施形態において、組成物中、抗体の約40%超、約50%超、約60%超、約70%超、約80%超、約90%超、約91%超、約92%超、約93%超、約94%超、約95%超、約96%超、約97%超、約98%超または約99%超が、フコシル化されていない。
【0242】
一部の実施形態において、N−グリコシド結合型炭水化物鎖の実質的に全てが、フコース残基を含有しない(すなわち、約0.5%未満が、フコース残基を含有する)抗体が本明細書において提供される。一部の実施形態において、抗体重鎖の少なくとも1または2つがフコシル化されていない抗体が本明細書において提供される。
【0243】
上述の通り、種々の哺乳動物宿主−発現ベクター系を利用して、抗体を発現させることができる。一部の実施形態において、培養培地は、フコースを補充されない。一部の実施形態において、有効量のフコースアナログが、培養培地に添加される。この文脈において、「有効量」は、抗体の複合N−グリコシド結合型糖鎖へのフコース取り込みを、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%または少なくとも約50%減少させるのに十分なアナログの量を指す。一部の実施形態において、本方法によって産生された抗体は、フコースアナログの非存在下で培養された宿主細胞から産生された抗体と比較した場合に、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%または少なくとも約50%のコアがフコシル化されていないタンパク質(例えば、コアのフコシル化が欠如している)を含む。
【0244】
フコースが糖鎖の還元端におけるN−アセチルグルコサミンに結合されていない糖鎖、対、フコースが糖鎖の還元端におけるN−アセチルグルコサミンに結合されている糖鎖の含量(例えば、比)は、例えば、実施例に記載されている通りに決定することができる。他の方法は、ヒドラジン分解または酵素消化(例えば、Biochemical Experimentation Methods 23巻:Method for Studying Glycoprotein Sugar Chain(Japan Scientific Societies Press)、Reiko Takahashi編集(1989年)を参照)、放出された糖鎖の蛍光標識または放射性同位元素標識と、続くクロマトグラフィーによる標識された糖鎖の分離を含む。また、放出された糖鎖の組成は、HPAEC−PAD方法によって鎖を解析することにより決定することができる(例えば、J. Liq Chromatogr.6巻:1557頁(1983年)を参照)(全般的には、米国特許出願公開第2004/0110282号を参照)。
【0245】
B.本発明の組成物
一部の態様において、本明細書に記載されている抗シグレック−8抗体(例えば、シグレック−8に結合する抗体)または本明細書に記載されているアゴニストのいずれかを含む組成物(例えば、医薬組成物)も本明細書に提供される。一部の態様において、本明細書に記載されている抗シグレック−8抗体を含む組成物であって、抗体が、Fc領域と、Fc領域に連結されたN−グリコシド結合型炭水化物鎖とを含み、N−グリコシド結合型炭水化物鎖の約50%未満が、フコース残基を含有する組成物が本明細書において提供される。一部の実施形態において、抗体は、Fc領域と、Fc領域に連結されたN−グリコシド結合型炭水化物鎖とを含み、N−グリコシド結合型炭水化物鎖の約45%、約40%、約35%、約30%、約25%、約20%または約15%未満が、フコース残基を含有する。一部の態様において、本明細書に記載されている抗シグレック−8抗体を含む組成物であって、抗体が、Fc領域と、Fc領域に連結されたN−グリコシド結合型炭水化物鎖とを含み、N−グリコシド結合型炭水化物鎖の実質的に全てが、フコース残基を含有しない組成物が本明細書において提供される。
【0246】
任意選択の薬学的に許容される担体、賦形剤または安定剤と、所望の程度の純度を有する活性成分とを混合することにより、貯蔵のための治療用製剤が調製される(Remington:The Science and Practice of Pharmacy、第20版、Lippincott Williams & Wiklins, Pub.、Gennaro編、Philadelphia、Pa.2000年)。許容される担体、賦形剤または安定剤は、用いられている投薬量および濃度ではレシピエントに対し無毒性であり、バッファー、アスコルビン酸、メチオニン、ビタミンE、二亜硫酸ナトリウム含む抗酸化剤;保存料、等張化剤(isotonicifier)、安定剤、金属錯体(例えば、Zn−タンパク質錯体);EDTA等のキレート剤および/または非イオン性界面活性剤を含む。
【0247】
特に、安定性がpH依存性である場合、バッファーを使用して、治療上の有効性を最適化する範囲にpHを制御することができる。バッファーは、約50mM〜約250mMに及ぶ濃度で存在することができる。本発明による使用に適した緩衝剤は、有機および無機酸ならびにこれらの塩の両方を含む。例えば、クエン酸塩、リン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、グルコン酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩、酢酸塩である。その上、バッファーは、ヒスチジンおよびTris等のトリメチルアミン塩で構成され得る。
【0248】
保存料を添加して微生物の成長を予防することができ、これは典型的には、約0.2%〜1.0%(w/v)の範囲内で存在する。本発明による使用に適した保存料は、オクタデシルジメチルベンジル塩化アンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;ハロゲン化ベンザルコニウム(例えば、塩化物、臭化物、ヨウ化物)、塩化ベンゼトニウム;チメロサール、フェノール、ブチルまたはベンジルアルコール;メチルまたはプロピルパラベン等のアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール、3−ペンタノールおよびm−クレゾールを含む。
【0249】
「安定剤」として公知の場合もある等張化剤は、組成物における液体の張度を調整または維持するために存在することができる。タンパク質および抗体等、大型の荷電生体分子と共に使用される場合、これは、アミノ酸側鎖の荷電基と相互作用し、これにより、分子間および分子内相互作用の可能性を減らすことができるため、多くの場合「安定剤」と命名される。等張化剤は、他の成分の相対量を考慮に入れつつ、約0.1%〜約25重量%の間または約1〜約5重量%の間のいずれかの量で存在することができる。一部の実施形態において、等張化剤は、グリセリン、エリスリトール、アラビトール、キシリトール、ソルビトールおよびマンニトール等、多価糖アルコール、三価またはより高次の糖アルコールを含む。
【0250】
追加的な賦形剤は、次のうち1種または複数として機能し得る薬剤を含む:(1)増量剤、(2)溶解促進剤(solubility enhancer)、(3)安定剤および(4)変性または容器壁への接着を予防する薬剤。斯かる賦形剤は、次のものを含む:多価糖アルコール(上に列挙);アラニン、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、リシン、オルニチン、ロイシン、2−フェニルアラニン、グルタミン酸、スレオニン等、アミノ酸;スクロース、ラクトース、ラクチトール、トレハロース、スタキオース、マンノース、ソルボース、キシロース、リボース、リビトール、ミオイニシトース(myoinisitose)、ミオイノシトール(myoinisitol)、ガラクトース、ガラクチトール、グリセロール、シクリトール(例えば、イノシトール)、ポリエチレングリコール等、有機糖または糖アルコール;尿素、グルタチオン、チオクト酸、チオグリコール酸ナトリウム、チオグリセロール、α−モノチオグリセロールおよびチオ硫酸ナトリウム等、含硫還元剤;ヒト血清アルブミン、ウシ血清アルブミン、ゼラチンまたは他の免疫グロブリン等、低分子量タンパク質;ポリビニルピロリドン等、親水性ポリマー;単糖(例えば、キシロース、マンノース、フルクトース、グルコース);二糖(例えば、ラクトース、マルトース、スクロース);ラフィノース等、三糖;ならびにデキストリンまたはデキストラン等、多糖。
【0251】
非イオン性界面活性剤または洗剤(「湿潤剤」としても公知)は、治療剤の可溶化を助けると共に、撹拌誘導性凝集から治療タンパク質を保護するために存在することができ、これは、活性治療タンパク質または抗体の変性を引き起こすことなく、製剤をせん断表面応力に曝露させることもできる。非イオン性界面活性剤は、約0.05mg/ml〜約1.0mg/mlまたは約0.07mg/ml〜約0.2mg/mlの範囲内で存在する。一部の実施形態において、非イオン性界面活性剤は、約0.001%〜約0.1%w/vまたは約0.01%〜約0.1%w/vまたは約0.01%〜約0.025%w/vの範囲内で存在する。
【0252】
適した非イオン性界面活性剤は、ポリソルベート(20、40、60、65、80等)、ポロクサマー(polyoxamer)(184、188等)、PLURONIC(登録商標)ポリオール、TRITON(登録商標)、ポリオキシエチレンソルビタンモノエーテル(TWEEN(登録商標)−20、TWEEN(登録商標)−80等)、ラウロマクロゴール400、ステアリン酸ポリオキシル40、ポリオキシエチレン水素付加ヒマシ油10、50および60、グリセロールモノステアレート、スクロース脂肪酸エステル、メチルセルロース(celluose)ならびにカルボキシメチルセルロースを含む。使用することができるアニオン性洗剤は、ラウリル硫酸ナトリウム、スルホコハク酸ジオクチルナトリウムおよびスルホン酸ジオクチルナトリウムを含む。カチオン性洗剤は、塩化ベンザルコニウムまたは塩化ベンゼトニウムを含む。
【0253】
製剤は、in vivo投与に使用するためには、無菌でなければならない。製剤は、滅菌濾過膜を通した濾過により滅菌することができる。本明細書における治療用組成物は一般に、無菌アクセスポートを有する容器、例えば、静脈内溶液バッグまたは皮下注射針により穿刺可能な共栓を有するバイアルに入れられる。
【0254】
投与の経路は、適した方式での長期間に及ぶ単一または複数のボーラスまたは注入、例えば、皮下、静脈内、腹腔内、筋肉内、動脈内、病巣内もしくは関節内経路による注射または注入、局所的投与、吸入または徐放もしくは延長放出手段による等、公知かつ受け入れられた方法に従う。
【0255】
本明細書における製剤は、処置されている特定の適応症の必要に応じて、1種より多くの活性化合物、好ましくは、互いに有害な影響を与えない相補的な活性を有する化合物を含有することもできる。その代わりにまたはそれに加えて、組成物は、細胞傷害性薬剤、サイトカインまたは成長阻害薬剤を含むことができる。斯かる分子は、意図される目的に有効な量で、組み合わせて適切に存在する。
【0256】
III.製造品またはキット
別の態様において、本明細書に記載されている抗シグレック−8抗体(例えば、ヒトシグレック−8に結合する抗体)または本明細書に記載されているアゴニストを含む製造品またはキットが提供される。製造品またはキットは、本発明の方法における抗体またはアゴニストの使用のための説明書をさらに含むことができる。よって、ある特定の実施形態において、製造品またはキットは、個体における好酸球媒介性障害、肥満細胞媒介性障害および/またはシグレック−8関連疾患(例えば、AERD)を処置または予防するための方法であって、個体に、ヒトシグレック−8に結合する抗シグレック−8抗体またはアゴニストの有効量を投与するステップを含む方法における、ヒトシグレック−8に結合する抗シグレック−8抗体またはアゴニストの使用のための説明書を含む。ある特定の実施形態において、製造品は、ヒトシグレック−8に結合する抗体またはアゴニストを含む医薬と、慢性副鼻腔炎を処置または予防するための、それを必要とする個体における医薬の投与のための説明書を含む添付文書とを含む。一部の実施形態において、慢性副鼻腔炎は、鼻ポリポーシスを伴うアトピー性慢性副鼻腔炎である。一部の実施形態において、慢性副鼻腔炎は、鼻ポリポーシスを伴う非アトピー性慢性副鼻腔炎である。一部の実施形態において、慢性副鼻腔炎は、鼻ポリポーシスおよび付随する喘息を伴う慢性副鼻腔炎である。一部の実施形態において、慢性副鼻腔炎は、鼻ポリポーシスを伴わない慢性副鼻腔炎である。一部の実施形態において、慢性副鼻腔炎は、付随する喘息を伴う慢性副鼻腔炎である。一部の実施形態において、慢性副鼻腔炎は、アスピリン増悪呼吸器疾患である。一部の実施形態において、添付文書は、処置が、ヒトシグレック−8に結合する抗体またはアゴニストの投与後に、ベースラインと比べた、慢性副鼻腔炎(例えば、AERD)を有する個体における1種または複数の症状(本明細書に記載されている1種または複数の症状等)の低下において有効であることをさらに示す。ある特定の実施形態において、個体は、ヒトである。ある特定の実施形態において、製造品は、ヒトシグレック−8に結合する抗体またはアゴニストを含む医薬と、アスピリン増悪呼吸器疾患を処置または予防するための、それを必要とする個体における医薬の投与のための説明書を含む添付文書とを含む。一部の実施形態において、アスピリン増悪呼吸器疾患は、アトピー性アスピリン増悪呼吸器疾患である。一部の実施形態において、アスピリン増悪呼吸器疾患は、非アトピー性アスピリン増悪呼吸器疾患である。一部の実施形態において、添付文書は、処置が、ヒトシグレック−8に結合する抗体またはアゴニストの投与後に、ベースラインと比べた、アスピリン増悪呼吸器疾患を有する個体における1種または複数の症状(本明細書に記載されている1種または複数の症状等)の低下において有効であることをさらに示す。ある特定の実施形態において、個体は、ヒトである。ある特定の実施形態において、製造品は、ヒトシグレック−8に結合する抗体またはアゴニストを含む医薬と、副鼻腔疾患を伴う成体発症型非アトピー性喘息を処置または予防するための、それを必要とする個体における医薬の投与のための説明書を含む添付文書とを含む。一部の実施形態において、添付文書は、処置が、ヒトシグレック−8に結合する抗体またはアゴニストの投与後に、ベースラインと比べた、副鼻腔疾患を伴う成体発症型非アトピー性喘息を有する個体における1種または複数の症状(本明細書に記載されている1種または複数の症状等)の低下において有効であることをさらに示す。ある特定の実施形態において、個体は、ヒトである。ある特定の実施形態において、製造品は、ヒトシグレック−8に結合する抗体またはアゴニストを含む医薬と、慢性閉塞性肺疾患を処置または予防するための、それを必要とする個体における医薬の投与のための説明書を含む添付文書とを含む。一部の実施形態において、添付文書は、処置が、ヒトシグレック−8に結合する抗体またはアゴニストの投与後に、ベースラインと比べた、慢性閉塞性肺疾患を有する個体における1種または複数の症状(本明細書に記載されている1種または複数の症状等)の低下において有効であることをさらに示す。ある特定の実施形態において、個体は、ヒトである。
【0257】
製造品またはキットは、容器をさらに含むことができる。適した容器は、例えば、ボトル、バイアル(例えば、デュアルチャンバーバイアル)、シリンジ(シングルまたはデュアルチャンバーシリンジ等)および試験管を含む。容器は、ガラスまたはプラスチック等、種々の材料でできていてよい。容器は、製剤を保持する。
【0258】
製造品またはキットは、容器上にあるかまたは容器に付随する、製剤の再構成および/または使用に関する指示を示すことができるラベルまたは添付文書をさらに含むことができる。ラベルまたは添付文書は、製剤が、個体における好酸球媒介性障害、肥満細胞媒介性障害および/またはシグレック−8関連疾患(例えば、AERD)を処置または予防するための、皮下、静脈内または他の様式の投与に有用であるまたは意図されることをさらに示すことができる。製剤を保持する容器は、使い捨てバイアルであっても多重使用バイアルであってもよく、これは、再構成された製剤の反復投与を可能にする。製造品またはキットは、適した希釈液を含む第2の容器をさらに含むことができる。製造品またはキットは、他のバッファー、希釈液、フィルター、針、シリンジおよび添付文書と使用説明書を含む、商業的、治療的および使用者の見地から望ましい他の材料をさらに含むことができる。
【0259】
具体的な実施形態において、本発明は、単一用量投与単位のためのキットを提供する。斯かるキットは、シングルまたはマルチチャンバーの両方の予め充填されたシリンジを含む、治療抗体の水性製剤の容器を含む。例示的な予め充填されたシリンジは、Vetter GmbH、ドイツ、ラーフェンスブルクから入手できる。
【0260】
本発明は、個体における好酸球媒介性障害、肥満細胞媒介性障害および/またはシグレック−8関連疾患(例えば、AERD)を処置または予防するための1種または複数の医薬(例えば、第2の医薬)と組み合わせた、ヒトシグレック−8に結合する本明細書に記載されている抗シグレック−8抗体(例えば、ヒトシグレック−8に結合する抗体)またはアゴニストも提供する。一部の実施形態において、本明細書における製造品またはキットは、第2の医薬を含む容器を任意選択でさらに含み、抗シグレック−8抗体またはアゴニストは、第1の医薬であり、製造品またはキットは、ラベルまたは添付文書に、第2の医薬の有効量により個体を処置するための説明書をさらに含む。
【0261】
別の実施形態において、自動注射装置における投与のための、本明細書に記載されている製剤を含む製造品またはキットが本明細書において提供される。自動注射器は、起動すると、患者または管理者の追加的な必要な動作なしでその内容物を送達する注射装置として説明することができる。送達速度が一定でなければならず、送達時間が僅かな間よりも長い場合、これは、治療用製剤のセルフメディケーションに特に適する。
【0262】
本明細書に記載されている態様および実施形態は、単なる説明目的のものであり、これを踏まえた様々な修正または変更が、当業者に示唆され、これが本願の精神および範囲内ならびに添付の特許請求の範囲内に含まれるべきであることが理解される。
【0263】
本発明は、次の実施例を参照することによって、より十分に理解されるであろう。しかし、実施例は、本発明の範囲を限定するものと解釈するべきではない。本明細書に記載されている実施例および実施形態が、単なる説明目的であり、これを踏まえた様々な修正または変更が、当業者に示唆され、本願および添付の特許請求の範囲の精神および範囲内に含まれるべきであることが理解される。
【実施例】
【0264】
シグレック(シアル酸結合、免疫グロブリン様レクチン)は、主に白血球上に見いだされる1回膜貫通型細胞表面タンパク質である。シグレックファミリーのメンバーであるシグレック−8は、ヒト好酸球、好塩基球および肥満細胞によって発現される。シグレック−8は、硫酸化グリカン、すなわち、6’−スルホ−シアリルルイスXまたは6’−スルホ−シアリル−N−アセチル−S−ラクトサミンを認識し、肥満細胞機能を阻害することが示された細胞内免疫受容抑制性チロシンモチーフ(ITIM)ドメインを含有する。
(実施例1)
CRSwNP患者由来の鼻ポリープおよび血液試料に見いだされる好酸球における抗シグレック−8抗体の活性
【0265】
鼻ポリポーシスを伴う慢性副鼻腔炎(CRSwNP)と診断された患者から単離された鼻ポリープおよび血液試料に見いだされる好酸球に対するヒト化抗体抗シグレック−8抗体の活性を調査した。
【0266】
材料と方法
CRSwNP患者から単離された鼻ポリープ組織を、リン酸緩衝食塩水(PBS)においておよそ3ミリメートル片となるように刻み、懸濁物を50mLコニカルチューブに移した。上清の除去後に、37℃で1時間攪拌しながら、ペニシリン、ストレプトマイシン、10μg/mLコラゲナーゼIV、0.5mg/mLヒアルロニダーゼI−S型、5mM MgSO
4、1mg/mL DNAseを補充したRPMI−1640培地(Invitrogen)を使用して組織を解離させた。40μmフィルターを通して細胞懸濁物を濾過し、塩化アンモニウム溶解バッファー(水中の0.8%NH
4Cl、10mM KHCO
3および0.1mM EDTA溶液)を使用して、5分間室温のインキュベーションにより赤血球(RBC)を除去した。PBSで2回細胞を洗浄し、その後、フローサイトメトリーおよび細胞枯渇アッセイにおいて使用した。
【0267】
フローサイトメトリーアッセイのため、鼻ポリープ細胞懸濁物における細胞を、抗シグレック−8抗体(R&D Systems抗体クローン837535)、抗IgE受容体抗体(抗IgER)、抗CCR3抗体および抗CD45抗体を使用して、細胞表面マーカーに関して染色した。細胞を固定し、FACSCalibur(商標)機器(BD Biosciences)を使用したフローサイトメトリーにより解析した。CD45
+CCR3
+IgER
−細胞集団に基づき好酸球を同定した。肥満細胞は、CD45
+CCR3
−IgER
+細胞集団により定義した。
【0268】
細胞枯渇アッセイのため、10%ウシ胎仔血清(FBS)を補充したRPMI−1640培地に懸濁した1.0×10
6個の鼻ポリープ細胞を、10μg/mL HEKA IgG4ヒト化抗体、HEKA IgG1非フコシル化ヒト化抗体またはヒトIgG4アイソタイプ対照抗体と共に16時間インキュベートした。細胞をPBSで2回洗浄し、マウス抗シグレック−8モノクローナル抗体(クローン1H10)、抗IgER抗体、抗CCR3抗体および抗CD45抗体を使用して、上述の通りフローサイトメトリーアッセイのために染色した。CD45
+CCR3
+IgER
−細胞集団に基づき好酸球をゲート選別した(gate)。
【0269】
健康なドナーおよびCRSwNP患者由来の血液を採取し、収集後24時間未満に末梢血白血球(PBL)を単離した(表6)。完全RPMI培地[(10%ウシ胎仔血清を補充したRPMI−1640培地(Invitrogen、カタログ番号A10491−01))]に細胞を懸濁した。50ng/ml組換えヒトIL−5(R&D Systems、カタログ番号205−IL−025)を補充したか、またはサイトカイン添加無しの完全RPMI培地に、1mL当たり107細胞となるよう細胞を調整し、ウェル当たり100μLで無菌96ウェルU字底プレートで平板培養した。0.1pg/mL〜10μg/mL(すなわち、1pg/mL、10pg/mL、0.1ng/mL、1ng/mL、10ng/mL、0.1μg/mL、1μg/mLおよび10μg/mL)に及ぶ濃度で抗シグレック−8抗体を添加して、用量応答および50%最大好酸球枯渇(EC50)をもたらす濃度を決定した。プレートを200gで1分間遠心分離し、加湿37℃インキュベーター内で5%CO2にて16時間インキュベートした。フローサイトメトリーにより細胞集団を評価して、好酸球の枯渇を評価した。CCR3陽性顆粒(高い側方散乱)細胞の除去により好酸球枯渇を検出した。
【表6】
【0270】
結果
高レベルの肥満細胞(総単離細胞の8%)が、鼻ポリープホモジネートにおいて検出された。CRSwNP患者は、血液(6試料中6試料;図示せず)および鼻ポリープ(2試料中2試料;
図1に一例を示す)における好酸球において高レベルのシグレック−8を発現する。
【0271】
様々なサイトカイン(IL−5、GM−CSFまたはIL−33を含む)により活性化された好酸球におけるアポトーシスを誘導する抗シグレック−8抗体について記載されている。IL−5処理好酸球におけるアポトーシスの強力な誘導とは対照的に、HEKA IgG4ヒト化抗体を含む抗シグレック−8抗体は、添加されたサイトカインの非存在では、正常ドナー由来の末梢血白血球調製物において僅かな好酸球枯渇活性のみを示した(
図3)。対照的に、HEKA IgG4ヒト化抗体は、IL−5ありまたはなしで、鼻ポリープ細胞ホモジネート由来の好酸球を死滅させた(
図2)。IL−5による好酸球の活性化が死滅を改善する非罹患血液試料とは異なり、罹患組織において、HEKA IgG4ヒト化抗体は、IL−5とのインキュベーションを必要としなかった。理論に制約されることなく、この結果は、組織好酸球が、抗シグレック−8抗体のアポトーシス促進性効果に対し既に感作されたことを示し得る。
【0272】
強力なADCC効果により、HEKA IgG1非フコシル化ヒト化抗体は、HEKA IgG4ヒト化抗体と比較して、健康なドナー血液試料において好酸球のより有意な死滅を示した(
図3)。鼻ポリープ細胞ホモジネートにおいて、HEKA IgG1非フコシル化ヒト化抗体およびHEKA IgG4ヒト化抗体の活性は同様であり、ADCCが、ポリープ由来好酸球におけるHEKA IgG4ヒト化抗体の細胞死滅活性に必要とされなかったことを示す。健康なドナー血液試料において、HEKA IgG4ヒト化抗体は、IL−5活性化された好酸球を優先的に死滅させた(
図3)。HEKA IgG4ヒト化抗体の僅かな細胞死滅活性のみが、IL−5なしでインキュベートした正常血液試料において観察された。HEKA IgG1非フコシル化ヒト化抗体は、あらゆる(休止したおよび活性化された)好酸球における強力なADCC効果を誘導した。全ての正常血液試料において頑強なNK細胞活性が実証された(
図3)。
【0273】
正常血液とは異なり、NK細胞に基づくADCC活性は、CRSwNP患者において損なわれた(
図4)。6種のCRSwNP患者血液試料のうち5種において、血中好酸球の枯渇に対するHEKA IgG4ヒト化抗体およびHEKA IgG1非フコシル化ヒト化抗体の活性は同様であり、これらの患者由来試料においてADCCによる死滅活性の追加的な増強がなかったことを示す。ADCC活性が損なわれた全5種の試料において、CD16
+NK細胞の数は、正常範囲内(4.2〜9.9%)であり、CRSwNP患者におけるNK細胞の活性が損なわれた可能性があることを示す。
【0274】
これらの結果は、HEKA IgG4ヒト化抗体が、CRSwNPを患う患者由来の組織好酸球および循環好酸球に対する強力かつ選択的な細胞枯渇活性を示したことを示す。この抗体は、ADCC媒介性死滅に必要とされる正常NK細胞機能が損なわれた患者由来の好酸球に対する活性を有した。
【0275】
CRSwNPおよび付随する喘息を有する個体は、処置が困難である。鼻ポリープの除去が、このような個体における喘息管理を改善することが示された。Ehnhageら、Allergy.、64巻:762〜769頁、2009年を参照されたい。喘息症状を改善するために、鼻ポリープのサイズを低下させるための好酸球枯渇抗体による処置は、このような個体において有益となるであろう。IL−5は、喘息等、好酸球によって媒介される疾患に関係付けられてきた。ベンラリズマブ(Benralizumab)は、IL−5受容体に結合するモノクローナル抗体であり、NK細胞媒介性ADCC活性を介した好酸球枯渇活性を実証し、喘息の処置に使用される。Ghaziら、Expert Opin Biol Ther.、12巻(1号):113〜118頁、2012年を参照されたい。しかし、好酸球を枯渇させるためのADCC活性を媒介するためにNK細胞に依存するベンラリズマブ等の抗体は、損なわれたNK細胞機能に関連する疾患のための最良の処置経過ではない場合もある。
【0276】
本明細書に記載されている抗シグレック−8抗体は、NK細胞を必要とすることなく好酸球を枯渇させることが示されてきたため、本明細書に記載されている抗シグレック−8抗体は、好酸球を枯渇させるために機能的NK細胞を必要とする抗体と比較してより有効となることができる。特に、本明細書に記載されている抗シグレック−8抗体による処置は、CRSwNPを有する個体における喘息症状の処置に特に有利である。なぜなら、斯かる個体は典型的に、損なわれたNK細胞機能を有し、その活性のためにNK細胞機能を必要とする抗体に応答することができないからである。
【化8】
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