特許第6825910号(P6825910)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6825910Flattop(Fltp)はβ細胞成熟についての新規のバイオマーカーである
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6825910
(24)【登録日】2021年1月18日
(45)【発行日】2021年2月3日
(54)【発明の名称】Flattop(Fltp)はβ細胞成熟についての新規のバイオマーカーである
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/04 20060101AFI20210121BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20210121BHJP
   C12Q 1/6881 20180101ALI20210121BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20210121BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20210121BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20210121BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20210121BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20210121BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20210121BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20210121BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20210121BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20210121BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20210121BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20210121BHJP
【FI】
   C12Q1/04ZNA
   C12Q1/68
   C12Q1/6881 Z
   C12N5/071
   C12N5/10
   C12M1/34 B
   C12N15/09 Z
   A61P3/10
   A61K38/17
   A61K45/00
   G01N33/53 D
   G01N33/48 P
   G01N33/50 Z
   G01N33/15 Z
   G01N33/53 Y
【請求項の数】29
【全頁数】58
(21)【出願番号】特願2016-558203(P2016-558203)
(86)(22)【出願日】2015年3月26日
(65)【公表番号】特表2017-516457(P2017-516457A)
(43)【公表日】2017年6月22日
(86)【国際出願番号】EP2015056664
(87)【国際公開番号】WO2015144861
(87)【国際公開日】20151001
【審査請求日】2018年1月25日
(31)【優先権主張番号】14161818.1
(32)【優先日】2014年3月26日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】398061245
【氏名又は名称】ヘルムホルツ・ツェントルム・ミュンヒェン・ドイチェス・フォルシュンクスツェントルム・フューア・ゲズントハイト・ウント・ウムベルト(ゲーエムベーハー)
【氏名又は名称原語表記】Helmholtz Zentrum Muenchen Deutsches Forschungszentrum fuer Gesundheit und Umwelt (GmbH)
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】リケルト,ハイコ
(72)【発明者】
【氏名】ミグリオリーニ,アドリアーナ
(72)【発明者】
【氏名】ゲッグ,モリッツ
(72)【発明者】
【氏名】バーデル,エリック
【審査官】 上村 直子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−150262(JP,A)
【文献】 特開2010−222330(JP,A)
【文献】 特表2009−511061(JP,A)
【文献】 特表2010−500568(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0329704(US,A1)
【文献】 特開2008−133233(JP,A)
【文献】 特開2005−220022(JP,A)
【文献】 Differentiation,2012年,Vol.83, No.2,p.S105-S113
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成熟β細胞と未成熟前駆β細胞を区別するためのバイオマーカーFlattop(Fltp)の使用であって、バイオマーカーが、Fltp mRNAまたはFltpタンパク質である、使用。
【請求項2】
成熟β細胞と未成熟前駆β細胞を区別するための方法であって、該方法は、β細胞中のバイオマーカーFlattop(Fltp)の存在または非存在を決定する工程を含み、ここで該細胞中のFltpの存在は、該細胞が成熟β細胞であることを示し、該細胞中のFltpの非存在は、該細胞が未成熟前駆β細胞であることを示し、Fltpの存在または非存在が、(i)mRNAレベル、(ii)タンパク質レベル、または(iii)それらの組合せで決定される、方法。
【請求項3】
Fltpの存在または非存在が、免疫組織化学、生細胞画像化、ウエスタンブロット、ノーザンブロット、PCR、RNAインサイチュハイブリダイゼーションまたはそれらの組合せにより決定される、請求項2記載の方法。
【請求項4】
未成熟前駆β細胞を成熟β細胞に分化させるのに適した化合物を同定する方法であって、該方法が、
(a) 未成熟前駆β細胞を含む細胞集団と試験化合物を接触させる工程、および
(b) 続いて該細胞集団内に含まれるβ細胞中のバイオマーカーFlattop(Fltp)の存在または発現レベルを決定する工程
を含み、
ここで試験化合物との接触後の該細胞集団に含まれるβ細胞中のFltpの存在またはFltpの発現レベルの増加は、未成熟前駆β細胞を成熟β細胞に分化させるのに適した化合物を示し、Fltpの存在もしくは非存在またはFltpの発現レベルの増加が、(i)mRNAレベル、(ii)タンパク質レベル、または(iii)それらの組合せで決定される、方法。
【請求項5】
未成熟前駆β細胞を成熟β細胞に分化させる方法であって、該方法が、未成熟前駆β細胞を含む細胞集団中のFltpの発現を誘導する工程を含む、方法。
【請求項6】
細胞中のFltpの発現が、該細胞を、Wnt5a、Wnt11、ならびに;共受容体ROR1、2、RYK、MUSK、PTK7およびシンデカン(Syndecan)の少なくとも1つのアクチベーターから選択される化合物の存在下で培養することにより誘導される、請求項5記載の方法。
【請求項7】
成熟β細胞と未成熟前駆β細胞を区別するためのキットであって、該キットが、
(a) バイオマーカーFlattop(Fltp)の存在または非存在を決定するための手段、ここでバイオマーカーは、Fltp mRNAまたはFltpタンパク質である、および
(b) キットをどのように使用するかの指示書
を含む、キット。
【請求項8】
検出可能な部分を含むFltp融合タンパク質を、Fltpの存在、非存在または発現レベルを決定するために使用し、Fltpの発現が、検出可能な部分の同時発現を導く、請求項1記載の使用。
【請求項9】
検出可能な部分を含むFltp融合タンパク質を、Fltpの存在または非存在または発現レベルを決定するために使用し、Fltpの発現が、検出可能な部分の同時発現を導く、請求項2〜6いずれか記載の方法。
【請求項10】
該検出可能な部分が、タグ、発光マーカー、蛍光マーカー、蛍光タンパク質;または酵素マーカーから選択される、請求項8記載の使用。
【請求項11】
該検出可能な部分が、タグ、発光マーカー、蛍光マーカー、蛍光タンパク質;または酵素マーカーから選択される、請求項9記載の方法。
【請求項12】
a)該タグが、Hisタグ、FLAGタグ、TAPタグもしくはmycタグである;
b)該発光マーカーもしくは蛍光マーカーが、ルシフェラーゼ、細菌性ルシフェラーゼ(luxAB)、PhotinusルシフェラーゼもしくはRenillaルシフェラーゼである;
c)該蛍光タンパク質が、緑色蛍光タンパク質(GFP)、強化GFP(enhanced GFP)(EGFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、向上されたVenus蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質(RFP)、シアン蛍光タンパク質(CFP)、サンゴ由来光タンパク質、DSRed、HcRed、AmCyan、ZsGreen、ZsYellowもしくはAsRedである;または
d)該酵素マーカーが、β-ガラクトシダーゼ、CAT、β-グルクロニダーゼ、β-キシロシダーゼ、XylE (カテコールジオキシゲナーゼ)、TreA(トレハラーゼ)、アルカリホスファターゼもしくは分泌されたアルカリホスファターゼである、
請求項10記載の使用。
【請求項13】
a)該タグが、Hisタグ、FLAGタグ、TAPタグもしくはmycタグである;
b)該発光マーカーもしくは蛍光マーカーが、ルシフェラーゼ、細菌性ルシフェラーゼ(luxAB)、PhotinusルシフェラーゼもしくはRenillaルシフェラーゼである;
c)該蛍光タンパク質が、緑色蛍光タンパク質(GFP)、強化GFP(enhanced GFP)(EGFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、向上されたVenus蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質(RFP)、シアン蛍光タンパク質(CFP)、サンゴ由来光タンパク質、DSRed、HcRed、AmCyan、ZsGreen、ZsYellowもしくはAsRedである;または
d)該酵素マーカーが、β-ガラクトシダーゼ、CAT、β-グルクロニダーゼ、β-キシロシダーゼ、XylE (カテコールジオキシゲナーゼ)、TreA(トレハラーゼ)、アルカリホスファターゼもしくは分泌されたアルカリホスファターゼである、
請求項11記載の方法。
【請求項14】
検出可能なFltpレポータータンパク質を、Fltpの存在、非存在または発現レベルを決定するために使用し、検出可能なレポータータンパク質の発現が、Fltpプロモーターの制御下にあβ細胞が、それぞれのβ細胞の内在性のFltp遺伝子領域において、Fltp遺伝子と下流のレポーター遺伝子の両方を発現するように改変されている、請求項1記載の使用。
【請求項15】
検出可能なFltpレポータータンパク質を、Fltpの存在、非存在または発現レベルを決定するために使用し、検出可能なレポータータンパク質の発現が、Fltpプロモーターの制御下にあβ細胞が、それぞれのβ細胞の内在性のFltp遺伝子領域において、Fltp遺伝子と下流のレポーター遺伝子の両方を発現するように改変されている、請求項2〜6いずれか記載の方法。
【請求項16】
該検出可能なレポータータンパク質が、Fltp発現の天然に存在する調節配列の制御下にある、請求項14記載の使用。
【請求項17】
該検出可能なレポータータンパク質が、Fltp発現の天然に存在する調節配列の制御下にある、請求項15記載の方法。
【請求項18】
該レポータータンパク質を、Fltp発現の代わりに発現させる、請求項14または16記載の使用。
【請求項19】
該レポータータンパク質を、Fltp発現の代わりに発現させる、請求項15または17記載の方法。
【請求項20】
該レポータータンパク質を、Fltp発現に加えて発現させる、請求項14または16記載の使用。
【請求項21】
該レポータータンパク質を、Fltp発現に加えて発現させる、請求項15または17記載の方法。
【請求項22】
該レポータータンパク質が、発光マーカー、蛍光マーカー、蛍光タンパク質;または酵素マーカーから選択される、請求項14、16、18および20いずれか記載の使用。
【請求項23】
該レポータータンパク質が、発光マーカー、蛍光マーカー、蛍光タンパク質;または酵素マーカーから選択される、請求項15、17、19および21いずれか記載の方法。
【請求項24】
a)該発光マーカーもしくは蛍光マーカーが、ルシフェラーゼ、細菌性ルシフェラーゼ(luxAB)、PhotinusルシフェラーゼもしくはRenillaルシフェラーゼである;
b)該蛍光タンパク質が、緑色蛍光タンパク質(GFP)、強化GFP(enhanced GFP)(EGFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、向上されたVenus蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質(RFP)、シアン蛍光タンパク質(CFP)、サンゴ由来光タンパク質、DSRed、HcRed、AmCyan、ZsGreen、ZsYellowもしくはAsRedである;または
c)該酵素マーカーが、β-ガラクトシダーゼ、CAT、β-グルクロニダーゼ、β-キシロシダーゼ、XylE (カテコールジオキシゲナーゼ)、TreA(トレハラーゼ)、アルカリホスファターゼもしくは分泌されたアルカリホスファターゼである、
請求項22記載の使用。
【請求項25】
a)該発光マーカーもしくは蛍光マーカーが、ルシフェラーゼ、細菌性ルシフェラーゼ(luxAB)、PhotinusルシフェラーゼもしくはRenillaルシフェラーゼである;
b)該蛍光タンパク質が、緑色蛍光タンパク質(GFP)、強化GFP(enhanced GFP)(EGFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、向上されたVenus蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質(RFP)、シアン蛍光タンパク質(CFP)、サンゴ由来光タンパク質、DSRed、HcRed、AmCyan、ZsGreen、ZsYellowもしくはAsRedである;または
c)該酵素マーカーが、β-ガラクトシダーゼ、CAT、β-グルクロニダーゼ、β-キシロシダーゼ、XylE (カテコールジオキシゲナーゼ)、TreA(トレハラーゼ)、アルカリホスファターゼもしくは分泌されたアルカリホスファターゼである、
請求項23記載の方法。
【請求項26】
該レポータータンパク質が、Venus蛍光タンパク質をFlattopのオープンリーディングフレームに直接融合させることにより生成されるFlattop-Venus融合タンパク質である、請求項20記載の使用。
【請求項27】
該レポータータンパク質が、Venus蛍光タンパク質をFlattopのオープンリーディングフレームに直接融合させることにより生成されるFlattop-Venus融合タンパク質である、請求項21記載の方法。
【請求項28】
I)該細胞が哺乳動物由来である;
II)該細胞が、マウス、ラットもしくはウサギ;ブタ、イヌ、ネコもしくはヒト由来である;
III)該使用が、適切な非ヒトモデルにおいてインビボで実施される;
IV)該使用が、非ヒト哺乳動物においてインビボで実施される;または
V)該使用が、マウス、ラットもしくはウサギ;ブタ、イヌ、ネコもしくは非ヒト霊長類においてインビボで実施される、
請求項1、8、10、12、14、16、18、20、22、24および26いずれか記載の使用。
【請求項29】
I)該細胞が哺乳動物由来である;
II)該細胞が、マウス、ラットもしくはウサギ;ブタ、イヌ、ネコもしくはヒト由来である;
III)該方法が、適切な非ヒトモデルにおいてインビボで実施される;
IV)該方法が、非ヒト哺乳動物においてインビボで実施される;または
V)該方法が、マウス、ラットもしくはウサギ;ブタ、イヌ、ネコもしくは非ヒト霊長類においてインビボで実施される、
請求項2〜6、9、11、13、15、17、19、21、23、25および27いずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成熟β細胞と未成熟前駆β細胞を区別するためのバイオマーカーFlattop(Fltp)の使用に関する。本発明はさらに、成熟β細胞と未成熟前駆β細胞を区別するための方法に関し、該方法は、β細胞中のバイオマーカーFlattop(Fltp)の存在または非存在を決定する工程を含み、ここで該細胞中のFltpの存在は、該細胞が成熟β細胞であることを示し、該細胞中のFltpの非存在は、該細胞が未成熟前駆β細胞であることを示す。さらに、本発明は、未成熟前駆β細胞を成熟β細胞に分化させるのに適した化合物を同定する方法、および成熟β細胞の脱分化を防ぐのに適した化合物を同定する方法に関する。本発明はさらに、未成熟前駆β細胞を成熟β細胞に分化させる方法および成熟β細胞の脱分化を防ぐ方法に関する。また、本発明は、成熟β細胞と未成熟前駆β細胞を区別するためのキットおよび糖尿病の治療または予防における使用のための医薬組成物にも関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書において、特許出願および製造業者のマニュアルを含むいくつかの書類が引用される。本発明の特許性に関係があるとはみなされないが、これらの書類の開示は、その全体において参照により本明細書に援用される。より具体的に、全ての参照される書類は、それぞれ個々の書類が具体的かつ個別に参照により援用されることが示された場合と同程度にまで参照により援用される。
【0003】
ランゲルハンス島は、5種類の内分泌細胞型(α、β、δ、PPおよびε細胞)、動脈および静脈血液供給、ならびに交感神経、副交感神経および知覚ニューロン神経支配を含む複雑な微小臓器である(In't Veld and Marichal 2010)。この微小臓器の唯一の機能は、エネルギー代謝を調節することである。この機能を実現するために、グルコース感受性β細胞は、ロゼット様構造中で血管の周囲に組織化され、食物摂取時に頂部PM(apical PM)で血流中にインスリンを分泌する(Bonner-Weir 1988)。β細胞は、ギャップ結合により機能的に連結され、最適なβ細胞機能に必要とされる血管への細胞-マトリックス接着を確立し、細胞極性も重要であり得ることが示唆される(Eberhard and Lammert 2009)。この考えについてのいくつかの裏付けは、極性確立およびmTOR制御に関与するLkb1キナーゼのβ細胞特異的ノックアウトによりもたらされる(Granot, Swisa et al. 2009)。これは、インスリン分泌の劇的な増加、ならびに細胞極性および線毛位置決定の欠陥をもたらす。しかしながら、極性確立およびエネルギー調節におけるLkb1の二重の役割のために、β細胞機能に細胞極性が必要であることに対して結論を出すことは困難である。
【0004】
上述のように、β細胞は血管の周囲に配列され、常にではないがしばしば、先端側および基底側で血管と直接接触する(Bonner-Weir 1988)。組織の構成におけるこの不均一さもβ細胞機能の不均一さを反映するかどうかははっきりしない。SalomonおよびMedaはすでに、インビトロにおいてβ細胞は、細胞-細胞連結(cell-cell coupling)に応じてそのインスリン分泌能力において不均一であることを報告した(Salomon and Meda 1986)。1年後にこれらの結果はインビボで確認され、中心 対 末梢、さらには脾臓 対 十二指腸のβ細胞は、グルコースチャレンジの際に異なるインスリン分泌能力を示すことが示された(Stefan, Meda et al. 1987)。β細胞の不均一性についてのさらなる証拠は、Glut2 mRNAまたはグルコース輸送における差よりもむしろ、グルコキナーゼのより高い発現および活性により、β細胞がそのグルコース応答性において異なるという証明により提供された(Heimberg, De Vos et al. 1993)。対照的に、島に存在し、インスリンおよび低レベルのGlut2を発現し、大きな増殖能力、自己再生および多能性を示す膵臓多能性前駆(PMP)集団が、マウスおよびヒトにおいて記載された(Smukler, Arntfield et al. 2011)。最近、マウスインスリンプロモーター下の蛍光マーカーの発現により、粒状度、サイズおよび分泌能力で異なるβ細胞の亜集団を区別することが可能になったが、これらの差異の理由は依然として議論がなされている(Katsuta, Aguayo-Mazzucato et al. 2012)。したがって、β細胞不均一性は25年以上前に発見されたが、この現象の根源(underlying principle)は、依然として論争的に議論されている。
【0005】
マウスにおける初期の生後島新生の間に、ナイーブβ細胞は、依然として孤立性のまたはコード様構造で組織化され、生後最初の2週間で典型的な球状3D島構造を獲得する。これらのナイーブβ細胞は、低い閾値でインスリンを分泌し、該β細胞が現在唯一知られている成熟マーカーUrocortin 3 (Ucn3)の発現を開始する生後数週間まで、成熟に達しない(Blum, Hrvatin et al. 2012)。前駆細胞に由来するβ細胞の機能的な成熟は、現在では、細胞補充療法の大きな障害の1つである(Pagliuca and Melton 2013)。さらに、β細胞の脱分化は、2型糖尿病におけるβ細胞の機能不全の機構の1つであることが最近提唱された(Talchai, Xuan et al. 2012)。この考えのさらなる裏付けは、Pdx1がβ細胞同一性を維持し、β細胞特異的なPdx1のノックアウトがβ細胞からα細胞への再プログラミングを引き起こすという最近の報告(Gao, McKenna et al. 2014)からもたらされる。
【0006】
したがって、β細胞成熟を調べることに多くの努力が費やされているという事実に関わらず、糖尿病の根底にある病理機構の理解を可能にし、ランゲルハンス島において脱分化したβ細胞の再生を可能にし、かつ細胞補充療法のために多能性幹細胞から機能的な成熟β細胞を作製するために、新規の成熟マーカーを同定する必要性が依然としてある。
【0007】
特許請求の範囲において特徴付けられる態様の提供によりこの必要性は取り組まれる。
【0008】
したがって、本発明は、第1の局面において、成熟β細胞と未成熟前駆β細胞を区別するためのバイオマーカーFlattop(Fltp)の使用に関する。
【0009】
本発明によると、用語「バイオマーカー」は、例えばcDNAまたはゲノムDNAを含むDNA、およびRNAなどの核酸分子ならびにタンパク質を含むその任意の天然に存在する形態における列挙されるマーカーに関する。
【0010】
本明細書で使用する場合、用語「Flattop(Fltp)」は、胚性結節(embryonic node)において発現し、さらに内耳(IE)の感覚器官などの他の一線毛(monociliated)組織、膵管および膵臓の島、ならびに精巣において活性である最近同定された遺伝子をいう(Lange, Gegg et al. 2012)。さらに、Fltp mRNAは、肺および脳内の脈絡叢の多線毛(multiciliated)上皮細胞において発現される。多線毛肺上皮細胞における遺伝子機能の消失は、基底体ドッキング(docking)の欠陥を生じて、線毛の消失を生じることが示されている。また、Fltpの消失は、IEおよび肺において、平面内細胞極性(planar cell polarity)(PCP)表現型を生じさせる。さらに、Fltpは、感覚IE細胞においてPCP様非対称様式で局在し、核(core)PCP分子Celsr1と遺伝子的に相互作用する。
【0011】
ヒトFlattop(Fltp)は、例えば、配列番号:1および2に示されるように、Entrez Gene ID 257177およびUniProt ID UPF0740タンパク質C1Orf192で表される。マウスFlattopは、例えば、配列番号:3および4に示されるように、Entrez Gene ID 75472およびUniProt ID Q6P8X9で表される。
【0012】
β細胞は、膵臓、特にその内分泌構造、すなわちランゲルハンス島に存在する特有の細胞である。β細胞は、ホルモンを産生し、血流に直接分泌する少なくとも5の異なる種類の島細胞の1つであり、ホルモンインスリンを産生、貯蔵および放出する。通常、β細胞は、血糖値の完璧なセンサーであり、ちょうどよい量のインスリンを血流に分泌して、グルコースおよびエネルギーホメオスタシスを全身的に制御する(Lickert 2013)。世界中で多くの人々を襲う疾患である糖尿病は、β細胞の機能不全に関連する。1型糖尿病は、β細胞の自己免疫破壊により生じ、一方で2型糖尿病においては、β細胞による末梢インスリン抵抗性の補償の失敗は、β細胞塊の消耗、脱分化および機能消失をもたらす。好ましくは、本明細書で言及される細胞は、例えばげっ歯類、好ましくはマウス、ラットもしくはウサギ;ブタ、イヌ、ネコまたは霊長類などの哺乳動物由来である。より好ましくは、該細胞はヒトまたはマウス細胞である。
【0013】
本明細書で使用する場合、用語「成熟β細胞」は、グルコース刺激に応答してインスリンを分泌する高度に極性化したβ細胞をいう。このことは、血中グルコースを測定し、インスリンを産生、プロセッシングおよび分泌する分子機構を必要とする。成熟β細胞は、ほとんど増殖を示さず、血管の周囲に密集し、血管に向かってインスリンを分泌する(Eberhard and Lammert 2009)。成熟β細胞は、成熟マーカーUcn3の存在によりさらに特徴付けられる(Blum, Hrvatin et al. 2012)。また、下記の実施例6に示すように、成熟β細胞は、代謝過程、グルコース代謝、ミトコンドリアおよびインスリン分泌に関係する遺伝子などの成熟β細胞機能に重要な遺伝子の、有意な富化を示すことが本発明において見出された。解剖学的に、成熟β細胞はロゼット様構造で血管周囲に密集し、頂部の腔に向かってドッキングするインスリン顆粒により頂部-基部極性を示す(Bonner-Weir 1988)。
【0014】
本発明によると、本明細書において交換可能に使用される用語「未成熟前駆β細胞」および「ナイーブ前駆β細胞」は、わずかに少量のインスリンを産生および分泌し、低いレベルのグルコーストランスポーターGlut2を発現する、高度に増殖性であり、極性が低い前駆細胞をいう(Smukler, Arntfield et al. 2011)。成熟β細胞とは反対に、未成熟β細胞は互いにゆるく接触するようであり、血管の周囲で集団を形成しないことがある。未成熟前駆β細胞、さらに成熟β細胞を含む全てのβ細胞について公知のマーカーは、Pdx1、Nkx6.1およびインスリンである。しかしながら、成熟β細胞とは対照的に、未成熟前駆細胞は、Flattopの発現を欠損し、成熟β細胞と比較して、Glp1r、Gck、Insrr、Slc2a2などの遺伝子を、少なくとも2倍低い程度で発現するが、Smarca1およびSstr2において少なくとも2倍高い発現を示す。
【0015】
また、下記の実施例6に示すように、未成熟前駆β細胞は、細胞増殖、アクチン結合、Wnt/PCP、TGF受容体-、Gタンパク質共役受容体-およびERK-のシグナル伝達に関連するさらなる遺伝子の有意な富化を示すことが本発明において見出された。解剖学的に、および成熟β細胞とは対照的に、未成熟前駆β細胞は、ロゼット様構造を形成しないが、ロゼットに隣接するように思われる。さらに、未成熟前駆β細胞は、成熟β細胞において見られる(Bonner-Weir 1988)、頂部の腔に対してドッキングするインスリン顆粒による、頂部-基部極性を示さないように思われる。
【0016】
添付の実施例に示すように、未成熟β細胞はFltpの発現を欠損するが、成熟β細胞はこのバイオマーカーを発現する。したがって、Fltpの存在は、成熟β細胞と未成熟前駆β細胞を区別するために使用し得る。このために、目的のβ細胞におけるFltpの存在または非存在が決定され得、ここでFltpの存在は、β細胞が成熟β細胞であることを示し、Fltpの非存在は、β細胞が未成熟前駆β細胞であることを示す。
【0017】
本明細書で使用する場合、用語「[...]存在または非存在を決定すること」は、言及される分子が、調査される試料中に含まれる細胞中に存在するかまたは非存在であるかの分析をいう。該分子が、例えば免疫組織化学またはウエスタンブロット分析で得られるバックグラウンド染色の形態で観察されるような標準的な操作上の誤差を超える量で検出される場合、該分子は、本発明に従って存在するとみなされる。かかる操作上の誤差は、例えば、非疾患対照試料を分析すること、または手順における特定の工程または化合物、例えば免疫組織化学染色における一次抗体または核酸増幅技術における鋳型等を省略することにより、確立された手順に従って決定され得る。検出される分子の量が、標準的な操作上の誤差、例えば免疫組織化学分析におけるバックグラウンド染色に相当するかまたは、それより少ない場合、該分子は、試料中には存在しないとみなされる。
【0018】
検出可能な部分を含むFltp融合タンパク質の使用またはFltpの存在もしくは非存在を決定するためのFltpレポータータンパク質の使用も本発明に包含される。
【0019】
第一の場合において、Fltpの発現は、例えばHisタグ、FLAGタグ、TAPタグもしくはmycタグなどのタグ;例えばルシフェラーゼ、特に細菌性ルシフェラーゼ(luxAB)、Photinusルシフェラーゼ、Renillaルシフェラーゼなどの発光もしくは蛍光マーカー;例えば強化GFP(enhanced GFP)(EGFP)を含む緑色蛍光タンパク質(GFP)、特に向上されたVenus蛍光タンパク質を含む黄色蛍光タンパク質(YFP)、DSRed、HcRed、AmCyan、ZsGreen、ZsYellow、AsRedを含む赤色蛍光タンパク質(RFP)、シアン蛍光タンパク質(CFP)、サンゴ由来光タンパク質などの蛍光タンパク質;または例えばβ-ガラクトシダーゼ、CAT、β-グルクロニダーゼ、β-キシロシダーゼ、XylE (カテコールジオキシゲナーゼ)、TreA(トレハラーゼ)、アルカリホスファターゼもしくは分泌されたアルカリホスファターゼなどの酵素マーカーのような検出可能な部分の同時発現を引き起こす。
【0020】
添付の実施例に示すように、Flattop-Venus融合タンパク質は、Venus蛍光タンパク質をFlattopのオープンリーディングフレームに直接融合させることにより作製された。全ての組織でこのFlattop-Venus融合タンパク質を発現するマウスを作製し、ここで、Flattop-Venus融合タンパク質は野生型Flattopタンパク質と同等の量で発現される。このFlattop-Venus融合レポーターは、生理学的な量で発現され、正常なタンパク質代謝回転および正常な細胞内局在を示すという利点を有する。
【0021】
後者の場合、検出可能なレポータータンパク質の発現は、Fltpプロモーター、好ましくはFltp発現の天然に存在する調節配列の制御下にある。かかるレポータータンパク質は、Fltp発現の代わりかまたはFltp発現に加えてのいずれかで発現され得、下記の方法により検出され得る。検出可能なレポータータンパク質は、例えば、上述の発光、蛍光または酵素マーカーのいずれかであり得る。下記の実施例においても記載されるように、ORF全体を、とりわけ、明るいヒストン2B(H2B)-Venus蛍光レポーター遺伝子を含み、インビボにおけるFltp発現および機能の調査が可能なマルチシストロニック(multicistronic)lacZ-Venusレポーターカセットで置き換えたFltpZVノックイン/ノックアウト対立遺伝子を作製した。
【0022】
本発明によると、例えばFltp、レポータータンパク質、またはFltp融合タンパク質などの特定の分子の存在または非存在は、(i)タンパク質レベル、(ii)核酸レベルまたは(iii)それらの組合せのいずれかで決定され得る。
【0023】
タンパク質の存在または非存在の決定のための方法としては、限定されないが、例えば免疫組織化学的方法、免疫細胞化学的方法、生体レポーターを介した高含有量スクリーニング(例えばOpereta, Operon等)、バルク蛍光測定(例えばEnvision)、定量的蛍光画像化/定量的蛍光顕微鏡検査、ELISA、FACS分析またはCytof(登録商標) Mass Cytometryを非限定的に含む生細胞画像化、ならびに例えばウエスタンブロッティングなどの免疫ブロッティング、またはクーマシーブリリアントブルー染色もしくは銀染色などのタンパク質染色技術と組み合わせたポリアクリルアミドゲル電気泳動などの方法が挙げられる。好ましくは、Flattopタンパク質のスクリーニングは、Flattopタンパク質に特異的な抗体もしくは代替的な結合分子を用いた免疫組織化学もしくは免疫細胞化学により、または例えばレポーター系を使用した生細胞画像化により行われる。
【0024】
本発明に従って使用する場合、用語「抗体」は、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体、ならびにそれらの結合特異性を依然保持するそれらの誘導体または断片を含む。抗体断片または誘導体は、とりわけ、FabまたはFab'断片およびFd、F(ab')2、FvまたはscFv断片を含み、例えばHarlow and Lane 「Antibodies, A Laboratory Manual」、Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1988およびHarlow and Lane 「Using Antibodies: A Laboratory Manual」Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1999参照。用語「抗体」はまた、キメラ(ヒト定常ドメイン、非ヒト可変ドメイン)、一本鎖およびヒト化(非ヒトCDRを除いてはヒト抗体)抗体などの態様を含む。
【0025】
抗体の産生のための種々の技術は、当該技術分野で周知であり、例えばHarlow and Lane (1988)および(1999)に記載される。例えば、抗体は、ペプチド模倣物(peptidomimetics)として産生され得る。さらに、一本鎖抗体の産生のために記載される技術(とりわけ、米国特許4,946,778参照)は、それらのそれぞれの標的に特異的な一本鎖抗体を産生するために適用され得る。また、トランスジェニック動物または植物(例えば、米国特許6,080,560参照)は、本発明の標的に特異的な(ヒト化)抗体を発現するために使用され得る。最も好ましくは、抗体は、ヒトまたはヒト化抗体などのモノクローナル抗体である。モノクローナル抗体の調製のために、連続細胞株培養により産生される抗体を提供する任意の技術が使用され得る。かかる技術の例は、例えばHarlow and Lane (1988)および(1999)に記載され、例としては、Koehler and Milstein (Kohler and Milstein 1975)により最初に開発されたハイブリドーマ技術、トリオーマ(trioma)技術、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術(Kozbor 1983)およびヒトモノクローナル抗体を産生するためのEBV-ハイブリドーマ技術(Cole 1985)が挙げられる。BIAcoreシステムに使用される表面プラスモン共鳴を使用して、標的タンパク質に結合するファージ抗体の有効性を高め得る(Schier and Marks 1996)。本発明の文脈において、用語「抗体」は、細胞内で発現され得る抗体構築物、例えばとりわけウイルスまたはプラスミドベクターを介してトランスフェクションおよび/または形質導入され得る抗体構築物を含むことも認識される。
【0026】
添付の実施例に示されるように、中心およびC末端エピトープに対する2種類の異なるポリクローナルウサギ抗体を惹起した。これらの抗体は、組織または細胞培養において、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼまたは蛍光色素のいずれかにコンジュゲートされた二次抗体を使用してタンパク質を検出するための一次抗体として使用され得る。下記の実施例に示されるこれらのエピトープに基づいて、さらなる苦労をすることなく、例えば上述に言及した当該技術分野で公知の方法のいずれかを使用して、抗体を調製することが可能である。
【0027】
代替的な結合分子としては、限定されることなく、例えば突然変異誘発により適切な生物物理学的特性を有するタンパク質骨格に特異的結合特性が導入されたタンパク質またはペプチドが挙げられる。理想的には、発現および精製が容易であり、可溶性でかつ安定であり、凝集せず、さらに免疫原性のない小球状タンパク質が骨格として使用される。これまで、このクラスの50より多くのタンパク質、なかでもaffibodies(ブドウ球菌プロテインAのZドメインに基づく(Feldwisch and Tolmachev 2012))、adnectins (ヒトフィブロネクチンの10番目のドメインに基づく(Gebauer and Skerra 2009))、anticalins (リポカリンに由来する(Beste, Schmidt et al. 1999、Gebauer and Skerra 2009))、DARPins (ankyrin反復タンパク質に由来する(Gebauer and Skerra 2009))、avimers (例えば多量体化低密度リポタンパク質受容体(Low Density Lipoprotein Receptor)(LDLR)-Aに基づく(Weidle, Auer et al. 2013))、nanofitins (スルホロバス アシドカルダリウス(Sulfolobus acidocaldarius)のDNA結合タンパク質Sac7dに由来する(Mouratou, Behar et al. 2012))、affilins(構造的にγBクリスタリンまたはユビキチンに由来する(Weidle, Auer et al. 2013))、Kunitzドメインペプチド(種々のプロテアーゼインヒビターのKunitzドメインに由来する(Weidle, Auer et al. 2013))およびヒトFyn SH3ドメインに由来するFynomers(登録商標)(Bertschinger, Grabulovski et al. 2007、Grabulovski, Kaspar et al. 2007、Gebauer and Skerra 2009、Schlatter, Brack et al. 2012) が記載されている。これらのタンパク質またはペプチドは当該技術分野で周知である。
【0028】
本明細書において上述されるように、使用される検出方法に応じて、Fltp発現の測定は、生体画像化、すなわち観察中細胞または組織が生きたまま維持される方法によるか、または固定された試料(すなわち細胞また組織が固定され、画像化過程で(the imaging process)生存していない)上で使用され得る。
【0029】
目的のタンパク質の相対量はしばしば、例えば標識タンパク質の蛍光強度の形態の目的の試料由来のタンパク質の測定された全体量と、対照試料から得られたタンパク質の測定された全体量を比較して決定される。タンパク質定量化には、Agilent Bioanalyzer技術も有用である。
【0030】
核酸レベルでの決定は、目的のタンパク質をコードし、目的のタンパク質の発現が活性化された場合にのみ存在する(すなわちアップレギュレートされる)核酸分子の存在または非存在の決定をいう。好ましくは、前記核酸分子はmRNAまたはmRNAから得られるcDNAである。本発明によるとゲノムDNAは除外されることが理解される。
【0031】
核酸レベルでの分子の存在または非存在を決定するための方法としては、限定されないが、ハイブリダイゼーションアッセイ、核酸増幅アッセイまたは配列決定アッセイが挙げられる。
【0032】
ハイブリダイゼーションアッセイの例は、限定されることなく、インサイチュRNAハイブリダイゼーション、ノーザンおよびサザンブロットアッセイを含む。これらの方法は当該技術分野で周知であり、例えばMichael Green and Joseph Sambrook Molecular Cloning: A Laboratory Manual (第4版)に記載される。
【0033】
核酸増幅アッセイおよびこれを実施するための手段の非限定的な例としては、PCR(ネステッドPCR、RT-PCR、定量的(リアルタイム)検出、PCR伸長アッセイ、核酸配列塩基増幅(NASBA)、一本鎖高次構造多形(single-strand confirmation polymorphism)(SSCP) PCR、PCR-制限酵素断片長多形(RFLP)分析を含む)、増幅抵抗性変異系(amplification refractory mutation systems)(ARMSTM)および増幅抵抗性変異系直鎖伸長(amplification refractory mutation system linear extension)(ALEXTM)アッセイが挙げられる。かかる方法の詳細は当該技術分野に見られ得る(Newton, Graham et al. 1989、Haque, Hehir et al. 1998、Pissard, Huynh et al. 2002、Kakavas, Noulas et al. 2006、Steemers, Chang et al. 2006)。定量的PCRは、例えば島細胞中のFltpレベルを測定するために使用され得る。このために、cDNAをまず直線増幅(linear amplify)して、次いで増幅されたcDNAを定量的PCRに供し得る。
【0034】
配列決定アッセイの例は、限定されることなく、直接配列決定、自動DNAシークエンサーにおける蛍光SSCPおよびパイロシークエンシング(Pyrosequencing)による配列解析のアプローチを含む。これらの方法は当該技術分野で一般的であり、例えばAdams「Automated DNA Sequencing and Analysis」およびAlphey「DNA Sequencing: From Experimental Methods to Bioinformatics」(Ramon, Braden et al. 2003、Meng, Hager et al. 2005)参照。例えば、RNA配列決定を使用して、Flattop陽性および陰性FACS単離島細胞集団におけるmRNAレベルを分析し得る。
【0035】
本発明の態様によると、Fltpの存在または非存在は、免疫組織化学、RNAインサイチュハイブリダイゼーション(hybridisation)、定量的PCRまたはそれらの組合せにより決定されることが特に好ましい。Fltpの存在または非存在(または量)の決定に使用するための好ましい抗体は、下記の実施例に記載される抗体、ならびに図11に示されるエピトープ、すなわちエピトープ1:DNPDEPQSSHPSAGHT(マウス;配列番号:5);NSPDELQSSHPSAGHT(ヒト;配列番号:6)およびmP17Rik-116-135:KPFDPDSQTKQKKSVTKTVQ(マウス;配列番号:7);および対応ヒトエピトープ:KPHDPDSQKKLRKKSITKTVQ(ヒト;配列番号:8)に対する任意の抗体である。
【0036】
Fltpの存在または非存在(または量)の決定に使用するための好ましいプライマーは、下記の実施例に記載されるプライマー、特に以下のプライマー:ヒトフォワードプライマー5'-ACCTGGCAAATGCCTCTGAA-3'(配列番号:9);ヒトリバースプライマー5'-GGATCATGGGGCTTGCCTAA-3'(配列番号:10)およびヒトフォワードプライマー5'-CCTGACCTCCCGTACAACTG-3'(配列番号:11);ヒトリバースプライマー5'-TGGATCATGGGGCTTGCCTA-3'(配列番号:12);マウス:5'-AGCCATACCACATTTGTAGAGG-3'(配列番号:13);5'-CAGCATGGCATAGATCTGGAC-3(配列番号:14)';5'-GAGGCTGACTGGGAACAATC-3'(配列番号:15)である。
【0037】
Fltpの存在または非存在(または量)の決定に使用するための好ましいプローブは、例えば配列番号:17および18に示されるプライマーを使用して調整され得る、例えば配列番号:16に示されるプローブである。
【0038】
本発明によると、出生後の島新生の間にβ細胞は、Fltpレポーター遺伝子により測定される、増加したWnt/PCPシグナル伝達を段階的に受けることが示され、これは、3D島形成およびβ細胞成熟に相当した。Flattop活性は、発生の最初の2週間でα-、PP-、δ-およびε-細胞で45%まで増加し、β細胞では70%まで増加する。成体の島において、Fltp陰性β細胞は、Fltp陽性β細胞と比較して、およそ2倍高い増殖率を示し、これは妊娠時には4倍の増加まで強く増加する。Fltp機能消失は、第1段階のインスリン分泌欠損を引き起こすことが見出され、PCP媒介性細胞骨格再編成、基底体位置決定およびおそらく一次線毛機能が成熟β細胞機能に必要であることが示される。これはさらに、インスリン分泌欠損に関連するヒトFLTP遺伝子におけるSNPの同定により支持される。
【0039】
ノックインレポーター動物からのFltpレポーター陰性およびFltpレポーター発現β細胞の単離により、これらのナイーブβ細胞集団および成熟β細胞集団の差異に基づく分子特性の分析が初めて可能になった。顕著なことにに、成熟および極性マーカー、解糖酵素およびシグナル伝達受容体の発現は、これらのβ細胞集団間で著しく異なる。これは、β細胞の増殖機能 対 成熟機能の薬理学的標的化のための新規の可能性を切り開く。
【0040】
また、高度に増殖性のFltp陰性前駆細胞は、Fltp陽性成熟β細胞に変換し得ることが、遺伝的系譜追跡(genetic lineage tracing)により示された。一緒に、これらの所見により、新規のマーカーとしてのFltpおよびβ細胞の成熟主体としてPCPが同定され、β細胞不均一性の長い間の謎が解決され、β細胞再生のための新しい道が開かれる。
【0041】
さらに、これらの結果は、高い自己再生能力を有し、全ての内分泌細胞株に分化し得、かつマウスおよびヒト成人ランゲルハンス島にある膵臓多能性前駆体(PMP)集団の存在をほのめかす(Smukler, Arntfield et al. 2011)。高い増殖能力またはより成熟した表現型のいずれかを有する異質β細胞集団の同定は、将来においてこれらの特異的β細胞特徴を誘発する新しい可能性を切り開く。例えば、異なって発現したシグナル伝達受容体および経路の同定は、再生医療のための薬理学的進入点を形成し得る。
【0042】
また、β細胞成熟マーカーとしてのFltpの同定は、多能性幹細胞からの機能的成熟β細胞の作製も向上する。現在、ナイーブ細胞、未成熟細胞およびポリホルモン性(poly-hormonal)インスリン産生細胞のみがインビトロで産生され得る。PCPエフェクター遺伝子Fltpの同定は、機能的β細胞成熟に3D環境が重要であることを示す。さらに、Fltp PCPレポーター遺伝子は、PCPシグナル伝達を活性化し、機能的β細胞成熟を誘導するシグナルである、miRNAおよび小分子のスクリーニングを可能にする。また、β細胞の脱分化は2型糖尿病におけるβ細胞の機能不全に寄与するという最近の所見に照らすと、新規成熟マーカーとしてのFltpの同定は、マウスおよびヒトにおける2型糖尿病の病因学のより詳細な研究を可能にする。
【0043】
全体的に、本発明の所見は、β細胞不均一性の長い間の謎を解決し、組織極性が、内分泌細胞の不均一な極性状態に影響を及ぼすことを強く示唆する。β細胞に関して、極性状態におけるこの差は、異なる生物学的機能に直接関係する。この原理およびPCPレポーターとしてのFltpの発見は、糖尿病の病理機構の解読を可能にし、再生医療の新規のアプローチを可能にする。
【0044】
本発明はさらに、成熟β細胞と未成熟前駆β細胞を区別するための方法に関し、該方法は、β細胞におけるバイオマーカーFlattop(Fltp)の存在または非存在を決定する工程を含み、ここで該細胞中のFltpの存在は、該細胞が成熟β細胞であることを示し、該細胞中のFltpの非存在は、該細胞が未成熟前駆β細胞であることを示す。
【0045】
本発明によると、成熟β細胞と未成熟前駆β細胞を区別するための方法は、単一細胞に限定されない。代わりに、複数の成熟β細胞を複数の未成熟前駆β細胞から区別することもできる。
【0046】
本明細書で使用する場合、用語「含む(comprising)」は、さらなる工程および/または構成要素が、具体的に記載された工程および/または構成要素に加えて含まれ得ることを示す。しかしながら、該用語は、特許請求される主題が厳密に記載された工程および/または構成要素からなることも包含する。
【0047】
先に記載される用語「[...]存在または非存在を決定すること」の定義およびかかる決定を達成する上述の好ましい方法は、本発明のこの方法にも準用される。
【0048】
本発明のこの方法の好ましい態様において、Fltpの存在または非存在は、免疫組織化学、定量的PCR、FACS分類またはそれらの組合せにより決定される。好ましい抗体、プライマーおよびプローブは、詳細に上述される。
【0049】
本発明はさらに、未成熟前駆β細胞を成熟β細胞に分化させるのに適した化合物を同定する方法に関し、該方法は、(a)未成熟前駆β細胞を含む細胞集団と試験化合物を接触させる工程;および(b)該細胞集団に含まれるβ細胞中のバイオマーカーFlattop(Fltp)の存在または発現レベルを続いて決定する工程を含み、ここで試験化合物との接触後の該細胞集団に含まれるβ細胞におけるFltpの存在またはFltpの発現レベルの増加は、未成熟前駆β細胞を成熟β細胞に分化させるのに適した化合物を示す。
【0050】
この態様は、β細胞を分化し得る化合物の同定のためのスクリーニングアッセイに関し、ここでFltpは、前記分化を検出するためのバイオマーカーとして使用される。バイオマーカーFlattop(Fltp)の使用および成熟β細胞と未成熟β細胞を区別するための方法に関して本明細書に提供される全ての定義および好ましい態様は、本発明のこのスクリーニング方法にも準用される。
【0051】
本明細書で使用する場合、用語「β細胞を分化させること」は、未成熟、ナイーブ前駆β細胞を成熟β細胞に変換させることをいう。
【0052】
本発明の方法に従って、本質的に任意の化合物をアッセイし得る。かかる化合物は、有機または無機の分子を含む。有機分子は、例えばタンパク質、糖、核酸、脂質などの生物学的実体を含む炭素ベース、炭素-炭素結合により一緒に結合される炭素原子を有する化合物の群に関するかまたは属する。有機という用語の元の定義は、化合物の供給源に関し、有機化合物は、植物または動物または微生物供給源から得られる炭素含有化合物である。有機化合物は天然または合成のものであり得る。小有機分子は、好ましくは約500Da以下の分子量を有する。無機化合物は、無機物供給源由来であり、炭素原子を有さない全ての化合物(二酸化炭素、一酸化炭素および炭酸塩を除く)が含まれる。かかる化合物の多くの供給業者があり、例えばSigma (St. Louis, Mo.)、Aldrich (St. Louis, Mo.)、Sigma-Aldrich (St. Louis, Mo.)、Fluka Chemika-Biochemica Analytika (Buchs, Switzerland)が挙げられる。また、分析対象の化合物は、当該技術分野で公知の方法により合成されてもよい。試験化合物は、異なるかまたは構造的に同様の化合物の化合物ライブラリー(例えばコンビナトリアル化学合成ライブラリー)に含まれ得、ライブラリー中の複数の試験化合物は、同時にアッセイされ得る。任意に、異なるライブラリー由来の試験化合物は、同時評価のためにプールされ得る。ライブラリーは、分子のランダムな集合を含み得る。代替的に、ライブラリーは、特定の配列、構造またはコンホメーションについて偏りを有する分子の集団を含み得る。種々の型の分子の種々の集団を含むライブラリーを作製するための方法は当該技術分野で公知である(Brenk, Schipani et al. 2008、Quinn, Carroll et al. 2008)。多くのライブラリーは市販されてもいる。
【0053】
β細胞を分化させる化合物の能力をスクリーニングするための好ましい化合物としては、限定されることなく、小分子、アンチセンス核酸分子、siRNA、shRNA、miRNA、抗体、アプタマーまたはリボザイムならびにホルモンおよびサイトカインが挙げられる。かかる化合物は、例えば経路内の関連のある標的分子(1つまたは複数)の特定の結合部位をブロッキングすることによる未分化状態のβ細胞の維持に関係のある経路のインヒビターとして特に適切であり得る。代替的にまたは付加的に、かかる化合物は、例えば以下により詳細に記載されるようなWnt/PCP経路などのβ細胞の分化を駆動する経路のアクチベーターとしても作用し得る。
【0054】
本発明によると、「小分子」は、例えば本明細書において先に定義されるような有機または無機の分子であり得る。好ましくは、小分子は、約2000amu未満、または約500amu未満などの約1000amu未満、およびさらに好ましくは約250amu未満の分子量を有する。小分子の大きさは、当該技術分野で周知の方法、例えば質量分析により決定され得る。小分子は、例えば標的分子の結晶構造に基づいて設計され得、生物学的活性の原因であると推定される部位は、インビボのハイスループットスクリーニング(HTS)アッセイなどのインビボのアッセイにおいて同定され検証され得る。
【0055】
本明細書で使用する場合、用語「アンチセンス核酸分子」は、当該技術分野で公知であり、標的核酸、すなわち標的タンパク質をコードする核酸に相補的である核酸をいう。本発明によるアンチセンス分子は、標的核酸と相互作用し得、より具体的には、標的核酸とハイブリダイズし得る。ハイブリッドの形成のために、標的遺伝子(1つまたは複数)の転写および/または標的mRNAの翻訳は、低減されるか遮断される。アンチセンス技術に関する標準的な方法が記載されている(Melani, Rivoltini et al. 1991)。
【0056】
本明細書で使用する場合、用語「siRNA」は、「短鎖干渉(short interfering)RNA」または「サイレンシングRNA」としても知られる「小干渉RNA」をいい、生物学において種々の役割を担う18〜30、好ましくは19〜25、最も好ましくは21〜23、またはさらに好ましくは21ヌクレオチド長の二本鎖RNA分子のクラスに関する。siRNAは、自然界で自然に見られ、十分に画定された構造:いずれかの末端に2nt 3'突出を有する短い二本鎖のRNA(dsRNA)を有する。それぞれの鎖は5'リン酸基および3'ヒドロキシル(-OH)基を有する。二本鎖RNA分子またはその代謝プロセッシング産物は、標的特異的核酸修飾、特にRNA干渉を媒介し得、ここで、siRNAは、特定の遺伝子の発現、および/またはDNAメチル化に干渉する。
【0057】
siRNAは、外因的に(人工的に)細胞に導入されて、配列が公知である本質的に任意の目的の遺伝子の特異的ノックダウンをもたらし得る。外因的に導入されたsiRNAは、それらの 3'および5'末端で突出を欠損し得るが、少なくとも1つのRNA鎖が5'-および/または3'-突出を有することが好ましい。一般的に、siRNAとして作用するのに適した任意のRNA分子が本発明において構想される。これまでに、いずれかの末端で2nt 3'突出を有するように対になった21ntセンス鎖および21ntアンチセンス鎖で構成されるsiRNA二本鎖を用いて最も効果的なサイレンシングが得られた。3'突出中の2'-デオキシヌクレオチドは、リボヌクレオチドと同じ程度効果的であるが、しばしば合成が安価であり、おそらくはよりヌクレアーゼに耐性である。
【0058】
本明細書で使用する場合、用語「shRNA」は、「短鎖ヘアピンRNA」をいい、RNA干渉により遺伝子発現をサイレンシングするために典型的に使用され得る堅いヘアピンターンを形成するRNAの配列に関する。shRNAは、例えば細胞に導入されたベクターを使用し得、この場合好ましくはU6プロモーターを使用して、shRNAが常に発現されることが確実にされる。このベクターは通常、娘細胞に伝えられ、遺伝される遺伝子サイレンシングを可能にする。shRNAヘアピン構造は細胞機構によりsiRNAに切断され、次いでRNA誘導サイレンシング複合体(RISC)に結合される。この複合体は、mRNAに結合するsiRNAと適合するmRNAに結合して切断する。
【0059】
好ましくは、本発明において使用されるsi/shRNAは、例えばリボヌクレオシドホスホロアミダイトを適切に保護した従来の方法および従来のDNA/RNA合成機を使用して化学的に合成される。RNA合成試薬の供給業者の非限定的な例は、Proligo (Hamburg, Germany)、Dharmacon Research (Lafayette, CO, USA)、Pierce Chemical (Perbio Scienceの一部, Rockford, IL, USA)、Glen Research (Sterling, VA, USA)、ChemGenes (Ashland, MA, USA)およびCruachem (Glasgow, UK)である。最も都合がよいことに、siRNAまたはshRNAは、異なる品質および費用のRNA合成産物を販売する市販のRNAオリゴ合成供給業者から得られる。一般的に、本発明に適用可能なRNAは、従来通りに合成され、RNAiに適した品質で容易に提供される。
【0060】
本明細書で使用する場合、用語「miRNA」は、「マイクロRNA」をいい、内因性RNA分子として遺伝子発現を調節する一本鎖RNA分子に関する。相補的mRNA転写産物への結合により、RNA干渉と同様のプロセスによる前記mRNA転写産物の分解が誘発される。したがって、miRNAは、本発明によるシグナル伝達経路のインヒビターとして使用され得る。
【0061】
本発明に従って使用される場合、用語「抗体」は、本明細書において先に定義される。
【0062】
「アプタマー」は、核酸、タンパク質、小有機化合物、およびさらには生物全体などの他の分子に結合するDNAまたはRNA分子である。アプタマーのデータベースは、aptamer.icmb.utexas.edu/で世界規模のウェブにおいて維持される。より具体的に、アプタマーは、核酸アプタマー(すなわちDNAまたはRNAアプタマー)またはペプチドアプタマーとして分類され得る。核酸アプタマーは、(通常短い)オリゴヌクレオチドの鎖からなり、小分子、タンパク質、核酸、ならびにさらには細胞、組織および生物体などの種々の分子標的に結合するように、インビトロ選択または同等には、SELEX(指数関数的富化によるリガンドの系統的進化(systematic evolution of ligands by exponential enrichment))の反復試行により遺伝子工学的に作り変えられる。ペプチドアプタマーは、細胞内の他のタンパク質相互作用に干渉するように設計されるタンパク質である。該アプタマーは、両末端がタンパク質骨格に結合された可変ペプチドループからなる。この二重構造拘束は、ペプチドアプタマーの結合親和性を、抗体の結合親和性と同等のレベル(ナノモル範囲)まで大きく高める。典型的には、可変ループは、10〜20アミノ酸で構成され、骨格は、良好な溶解性を有する任意のタンパク質であり得る。現在、細菌タンパク質チオレドキシン-Aが最も使用される骨格タンパク質であり、ここで、野生型タンパク質中の-Cys-Gly-Pro-Cys-ループである可変ループが還元性活性部位に挿入され、2つのシステイン側鎖はジスルフィド架橋を形成し得る。ペプチドアプタマーの選択は異なる系を使用してなされ得るが、現在は、酵母ツーハイブリッドシステムが最もよく使用されている。
【0063】
それらの区別認識に加えて、アプタマーは、試験管内で完全に遺伝子工学的に作り変えることができる、化学合成により容易に産生される、所望の保存特性を有する、および治療適用においてほとんどまたは全く免疫原性を発揮しないという、抗体に対する利点をもたらす。修飾されないアプタマーは、アプタマーの固有の低い分子量の結果、主にヌクレアーゼ分解および腎臓による身体からのクリアランスのために、数分から数時間の半減期で血流から迅速に除去される。例えば、2'-フッ素置換ピリミジン、ポリエチレングリコール(PEG)結合、アルブミンまたは他の半減期延長タンパク質への融合などのアプタマーの半減期を日または週でさえの時間規模に容易に増加し得るいくつかの修飾が、科学者に利用可能である。
【0064】
(RNA酵素または触媒性RNAとも称されるリボ核酸酵素由来の)リボザイムは、化学反応を触媒するRNA分子である。多くの天然のリボザイムは、それら自身の切断または他のRNAの切断のいずれかを触媒するが、リボソームのアミノトランスフェラーゼ活性を触媒することも見出された。良く特徴付けられた小さな自己切断RNAの非限定的な例は、ハンマーヘッド、ヘアピン、デルタ肝炎ウイルスおよびインビトロで選択された鉛依存的リボザイムであり、グループIイントロンは、より大きなリボザイムの例である。触媒性自己切断の原理は、過去10年間に良く確立されている。リボザイム活性を有するRNA分子の中で、ハンマーヘッドリボザイムは最もよく特徴付けされる。ハンマーヘッド構造は、異種由来のRNA配列中に組み込まれ得ること、およびそれによりリボザイム活性がこれらの分子に移行し得ることが示されたため、標的配列が潜在的な適合切断部位を含む場合、ほとんどの任意の標的配列について、触媒性アンチセンス配列が作製され得ると思われる。ハンマーヘッドリボザイムの構築の基本原理は以下のとおりである:GUC(またはCUC)トリプレットを含むRNAの目的の領域を選択する。それぞれ通常6〜8ヌクレオチドの2つのオリゴヌクレオチド鎖を採用して、触媒性ハンマーヘッド配列をそれらの間に挿入する。多くの標的配列についてこの型の分子を合成した。それらはインビトロで触媒活性を示し、いくつかの場合においてインビボでも示した。通常、短いリボザイムおよび標的配列を用いて、最良の結果が得られる。
【0065】
本発明に従っても有用である最近の開発は、小化合物を認識するアプタマーとハンマーヘッドリボザイムの組合せである。標的分子への結合時にアプタマー中で誘導されるコンホメーション変化は、リボザイムの触媒機能を制御すると推定される。
【0066】
ホルモンおよびサイトカインは当該技術分野で周知である。それらは、細胞または体の一部の腺により放出されて、生物体の他の部分の細胞に影響を及ぼすメッセージを送信して、1つの細胞から別の細胞にシグナルを伝達する化学メッセンジャーとして機能するポリペプチドである。試験化合物として適切であり得るホルモンおよびサイトカインの非限定的な例としては、ベータトロフィン、マイオカイン(myokine)(すなわち筋肉から)、ヘパトカイン(hepatokine)、アディポカイン、インクレチンまたは他の公知のサイトカインが挙げられる(Lickert 2013)。
【0067】
好ましくは、本発明のスクリーニング方法は、ハイスループット形式で実施される。ハイスループットアッセイは、生化学的、細胞性または他のアッセイとは独立して、一般的にマイクロタイタープレートのウェル中で実施され得、ここでそれぞれのプレートは、96、384または1536のウェルを含み得る。周囲温度以外の温度でのインキュベーションを含むプレートの取り扱いおよび試験化合物とアッセイ混合物の接触は、好ましくはピペッティングデバイスを含む1つ以上のコンピューター制御ロボットシステムにより実施される。試験化合物の大きなライブラリーをスクリーニングする場合および/または短時間でスクリーニングを実施する場合、例えば10、20、30、40、50または100の試験化合物の混合物をそれぞれのウェルに添加し得る。ウェルが生物学的活性を示す場合、試験化合物の前記混合物は、前記活性を生じさせる前記混合物中の1つ以上の試験化合物を同定するように簡略化(de-convoluted)され得る。
【0068】
これらの化合物の改変された形態も本発明に包含される。すなわち、本発明のスクリーニング方法により同定された化合物は、先導化合物(lead compound)の同定を生じ得、これは続いて例えば医薬組成物中で使用され得る化合物を生じるように最適化される。スクリーニングで同定された化合物、先導化合物の薬理学的特性の最適化のための方法は、当該技術分野で公知であり:(i)カルボキシル基のエステル化、もしくは(ii)カルボン酸によるヒドロキシル基のエステル化、もしくは(iii)ヒドロキシル基の例えばリン酸エステル、ピロリン酸エステルもしくは硫酸エステルもしくはヘミコハク酸エステルへのエステル化、もしくは(iv)薬学的に許容され得る塩の形成、もしくは(v)薬学的に許容され得る複合体の形成、もしくは(vi)薬学的に活性なポリマーの合成、もしくは(vii)親水性部分の導入、もしくは(viii)芳香族(aromate)もしくは側鎖上の置換基の導入/交換、置換基パターンの変更、もしくは(ix)等配電子的もしくは生体等配電子的部分の導入による改変、もしくは(x)相同化合物の合成、もしくは(xi)分岐側鎖の導入、もしくは(xii)アルキル置換基の環状アナログへの変換、もしくは(xiii)ヒドロキシル基のケタール、アセタールへの誘導体化、もしくは(xiv)アミド、フェニルカルバメートへのN-アセチル化、もしくは(xv)マンニッヒ塩基、イミンの合成、もしくは(xvi)ケトンもしくはアルデヒドのシッフ塩基、オキシム、アセタール、ケタール、エノールエステル、オキサゾリジン、チアゾリジンもしくはそれらの組合せへの変換により(i)改変された作用部位、活性のスペクトル、器官特異性、および/または(ii)向上した効力、および/または(iii)低下した毒性(向上した治療指標)、および/または(iv)低下した副作用、および/または(v)改変された治療作用の開始、効果の持続時間、および/または(vi)改変された薬物動態学パラメーター(吸収、分布、代謝および排出)、および/または(vii)改変された物理化学的パラメーター(溶解性、吸湿性、色、味、匂い、安定性、状態)、および/または(viii)向上した一般的な特異性、器官/組織特異性、および/または(ix)最適化された適用形態および経路を達成するように先導化合物として同定された化合物を改変する方法を含む。
【0069】
先に記載される種々の工程は、一般的に当該技術分野において公知である。該工程は、定量的構造活性関連性(QSAR)分析(Kubinyi (1992) 「Hausch-Analysis and Related Approaches」)、コンビナトリアル生化学、古典(classical)化学およびその他(Holzgrabe and Bechtold 2000)を含むか、またはそれらに依拠する。
【0070】
第1の工程において、未成熟前駆β細胞を含む細胞集団と、先に定義された試験化合物を接触させる。未成熟前駆β細胞を含む細胞集団は、胚性幹細胞もしくは多能性幹細胞もしくは前駆細胞から得られ得るか、または例えば膵臓外植片培養物などの膵臓、もしくは例えばランゲルハンス島などの膵臓の一部から得られる一次細胞集団であり得るか、または例えば、一般的に糖尿病研究分野で使用されるMIN6(マウス)およびINS-1E(ラット)インスリノーマ細胞株、ならびに例えば不死化ヒトβ細胞株(Ravassard, Hazhouz et al. 2011)などの確立された未成熟β細胞株であり得る。さらに、該細胞集団はまた、例えば単離された完全なランゲルハンス島(1つまたは複数)などの組織調製物であり得る。ランゲルハンス島は、例えばマウスにおいて被膜内に存在する小さな器官である。ランゲルハンス島は、膵臓をコラゲナーゼで緩やかに消化して細胞外マトリックスを緩め、次いで密度勾配遠心分離を行ってランゲルハンス島を単離した後に膵臓から単離され得、これは解剖顕微鏡下で可視であり、手でつまめるものであり得る。該細胞組織調製物は、目的の任意の動物由来であり得る。好ましくは、該細胞または組織調製物は、例えば、げっ歯類、好ましくはマウス、ラットもしくはウサギ;ブタ、イヌ、ネコまたは霊長類などの哺乳動物由来である。特に、ブタから単離された島は、マウスと比較してより多くの量の島がブタから単離され得るので、有望なツールである。
【0071】
さらに、本発明のスクリーニングアッセイは、適切な非ヒト動物モデルにおいてインビボでも実施され得る。好ましくは、前記非ヒト動物モデルは、例えばげっ歯類、好ましくはマウス、ラットもしくはウサギ;ブタ、イヌ、ネコまたは非ヒト霊長類などの哺乳動物である。
【0072】
しかしながら、本発明のこのスクリーニング方法はインビトロ方法であることが特に好ましい。
【0073】
該細胞集団は、未成熟前駆β細胞が検出可能な量で存在する限り、任意の量の未成熟前駆β細胞を含み得る。好ましくは、該細胞集団は、少なくとも5%の未成熟前駆β細胞、例えば少なくとも10%の未成熟前駆β細胞、より好ましくは少なくとも20%の未成熟前駆β細胞、さらに好ましくは少なくとも30%、例えば、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%またはさらにより好ましくは少なくとも80%の未成熟前駆β細胞を含む。該細胞集団が少なくとも90%の未成熟前駆β細胞、より好ましくは少なくとも95%の未成熟前駆β細胞、およびさらに好ましくは少なくとも98%の未成熟前駆β細胞を含むことがさらに好ましい。最も好ましくは、該細胞集団は、100%の未成熟前駆β細胞を含み、すなわち該細胞集団中のβ細胞の全てが未成熟前駆β細胞であり、成熟β細胞が検出可能な量では存在しない。
【0074】
細胞集団が100%の未成熟β細胞を含まない場合、残りの細胞が、既に分化した成熟β細胞、および例えば膵臓などのβ細胞を含む組織中に天然に存在する他の細胞から選択されることが好ましい。かかる他の細胞としては、例えば管細胞、腺房細胞、または例えばα-、PP-、δ-およびε-細胞などのランゲルハンス島の他の内分泌細胞、ならびに線維芽細胞が挙げられる。しかしながら、典型的に、一次島細胞調製物を使用する場合、非内分泌汚染細胞は、培養中に消失し、細胞集団の全細胞中1%未満で存在する。より好ましくは、細胞集団は、任意のα-、PP-、δ-およびε-細胞を含まない。最も好ましくは、細胞集団は、未成熟前駆β細胞からなり、すなわち細胞集団中の細胞の全てが未成熟前駆β細胞であり、他の細胞は存在しない。細胞集団を所望の純度まで富化する手段および方法は、当該技術分野で周知であり、限定されることなく、細胞の手動の選定またはロボット、レーザーキャプチャーマイクロダイゼクション(laser-capture microdissection)もしくはFACS(蛍光細胞分析分離)の使用による自動の選抜が挙げられる。かかる方法は、例えば(Murray 2007, Tung, Heydari et al. 2007)に記載される。
【0075】
本明細書で使用する場合、例えば用語「少なくとも5%」または「少なくとも1つ」などの用語「少なくとも」は、具体的に記載された量または数、さらに具体的に記載された量または数よりも多くをいう。例えば、用語「少なくとも5%の未成熟前駆β細胞」は、少なくとも6%、少なくとも7%、少なくとも8%、少なくとも9%の未成熟前駆β細胞なども包含する。さらに、この用語は、正確に5%、正確に6%、正確に7%、正確に8%、正確に9%の未成熟前駆β細胞なども包含する。
【0076】
細胞集団中の未成熟前駆β細胞の存在は、さらなる努力を必要とせず、例えば本明細書において先に提供される未成熟前駆β細胞の特徴に基づいて決定し得る。例えば、マーカーPdx1およびNkx6.1の存在は、新規のバイオマーカーFltpの非存在および/または確立されたマーカーUcn3の非存在の決定と共に、細胞集団中の未成熟前駆β細胞の存在を決定するために使用され得る。個々の細胞または細胞集団全体のいずれかにおけるかかるマーカーの存在または非存在を示すための適切な染色方法は、当該技術分野で周知である。さらに以下の実施例6に示すように、未成熟前駆β細胞は、本発明において、細胞増殖、アクチン結合、Wnt/PCP-、TGF受容体-、Gタンパク質共役受容体-およびERK-のシグナル伝達に関係する遺伝子の有意な富化を示すことが見出された。そのため、これらの遺伝子は、例えばこれらの遺伝子の発現産物についての細胞の免疫組織学的染色により、またはインサイチュハイブリダイゼーション技術などにより、未成熟前駆β細胞の存在の指標として働き得る。
【0077】
好ましくは、スクリーニングに使用される未成熟前駆β細胞を含む細胞集団(本明細書において「開始細胞集団」とも称される)は、Nkx6.1-陽性/Fltp-陰性細胞を含む、好ましくは該細胞からなる集団である。
【0078】
この細胞集団と試験化合物の接触後、本発明の方法のその後の工程において細胞集団に含まれるβ細胞中で、バイオマーカーFltpの存在または発現レベルが決定される。
【0079】
個々のβ細胞に関して、Fltpの存在は、本明細書において先に詳述したように、β細胞が成熟β細胞であることを示す。したがって、個々のβ細胞に対する試験化合物の効果を分析する場合、試験化合物との接触前のかかる細胞中のFltp発現の非存在、およびその後の試験化合物との接触後のかかる細胞中のFltp発現の存在は、試験化合物が未成熟前駆β細胞の成熟β細胞への分化に適切であることを示す。同様に、スクリーニングアッセイに使用される細胞集団中に最初から存在する全ての細胞が未成熟β細胞であった(すなわち、100%未成熟β細胞で成熟β細胞がない)場合、この開始集団は、Fltp発現を完全に欠損している。これらの場合、試験化合物との接触後のFltpの存在は、これらの細胞がこの時点で新規のバイオマーカーFltpを発現しているので、細胞集団がこの時点で成熟β細胞を含むことを示す。したがって、試験化合物との接触後のこれらの細胞集団中のFltpの存在は、未成熟前駆β細胞を成熟β細胞に分化するのに適した化合物を示す。
【0080】
Fltpの存在または非存在を決定することは、上述のいくつかの方法で達成され得る。
【0081】
開始細胞集団がすでに成熟β細胞を含む場合、前記開始細胞集団はすでにFltpを発現しており、すなわち、該細胞集団中にFltpは既に存在している。したがって、Fltpの存在を単純に決定する代わりに、試験化合物との接触後のFltpの発現レベルを決定することが必要である。次いで、試験化合物との接触後のFltpの発現レベルを、試験化合物との接触前のFltpの発現レベルと比較して、試験化合物との接触後の前記発現レベルの増加は、未成熟前駆β細胞を成熟β細胞へと分化させるために適した化合物を示す。
【0082】
本明細書で使用する場合、用語「発現レベル」は、目的の試料中の特定の分子の発現の値をいう。該発現レベルは、核酸レベル(例えばmRNA)またはタンパク質レベルのいずれかでの対応する遺伝子の発現産物のコピー数に対応する。分子の発現レベルを決定するための方法としては、核酸レベルまたはアミノ酸レベルで分子の存在または非存在を決定するための本明細書に上述した方法、例えばハイブリダイゼーションアッセイ、核酸増幅アッセイ、免疫組織化学的方法、さらに例えばウエスタンブロッティングまたはクーマシーブリリアントブルー染色もしくは銀染色などのタンパク質染色技術と組み合わせたポリアクリルアミドゲル電気泳動などが挙げられる。
【0083】
本明細書で使用する場合、用語「発現レベルの増加」は、対照試料において観察された発現レベルと比較した、試験化合物を用いた処理後の細胞中の目的のバイオマーカー、すなわちFltpのより高い発現レベルをいう。かかる対照試料は、例えば試験化合物との接触前の細胞集団、または同じ起源であり、アッセイに使用した細胞集団と同一の特徴を有するが、試験化合物で処理されていない細胞集団であり得る。アッセイに使用した細胞集団と特徴が同一である対照試料について、前記対照試料は、例えば細胞の分化を誘導することによりこれらの特徴を変化し得る条件下でさらに培養されないことが理解される。
【0084】
例えば、開始細胞集団を分割してもよく、処理前のFltpの発現レベルの決定に一部を使用し、第2の部分を本発明のこの方法に使用する。対照試料中のFltp発現レベルの決定を、本発明の本方法を実施する前に行い得、決定された値を、本発明の方法に従って細胞集団をスクリーニングするその後の任意の回に参照として使用してもよく、または本発明の方法に従って細胞集団をスクリーニングする各回に並行して決定してもよい。かかる参照値はまた、一度だけ決定して、全てのその後の試験のための標準として保存してもよい。
【0085】
好ましくは、用語「増加した発現レベル」は、対照試料中で観察された発現レベルと比較した際の、処理後の統計的に有意に高いFltpの発現レベルに関する。統計的に有意な差は、例えば、Fltpの発現の量が少なくとも2σ、すなわち、対照試料中で得られた発現レベルからの標準偏差の2倍だけ異なる場合であり、ここで該対照試料は、反復決定における複数の試料由来である。より好ましくは、Fltpの発現レベルは、対照試料中で観察された発現レベルと比較して、試験化合物との接触後に、少なくとも10%高い、例えば少なくとも20%高い、少なくとも30%高い、少なくとも40%高い、少なくとも50%高い、少なくとも75%高い、少なくとも100%高い(すなわち2倍高い)、少なくとも200%高い、少なくとも300%高い、少なくとも500%高いなどの場合に増加したとみなされる。好ましくは、Fltpの発現レベルに対する試験化合物の効果は、前記試験化合物を用いて、少なくとも約5分間、例えば少なくとも約10分間、より好ましくは少なくとも約30分、例えば少なくとも約1時間など、さらに好ましくは少なくとも約2時間、例えば少なくとも約3時間、少なくとも約4時間、少なくとも約5時間、少なくとも約6時間など、さらにより好ましくは少なくとも約12時間および最も好ましくは少なくとも約24時間処理した後に決定される。
【0086】
本明細書で使用する場合、用語「約」は、正確に記載される量およびそこから±15%のずれを包含する。より好ましくは、±10%のずれ、最も好ましくは±5%のずれが用語「約」に包含される。
【0087】
開始細胞集団が、例えばα-、PP-、δ-およびε-細胞などβ細胞以外の細胞を含むがFltpを発現することが疑われるかまたはわかっている場合に同様の考えが適用されることが理解される。また、これらの場合において、Fltpは既に開始細胞集団に存在する。これらの場合において、試験化合物との接触後のFltpの存在または増加した発現がβ細胞において決定されるが、他の細胞型または集団全体では決定されないことを確実にする必要がある。β細胞に特異的にFltpの発現を決定する手段および方法は、当該技術分野で周知である。例えば、Fltpおよび細胞特異的なさらなるマーカーについて、免疫組織学的染色を使用すること、または例えばFACSを使用して細胞分類することにより、Fltp発現の変化(非存在から存在へまたは存在から発現の増加した量へ)が細胞集団のβ細胞中に実際に起こるかどうかを決定し得る。
【0088】
本発明はまた、成熟β細胞の脱分化を防ぐのに適した化合物を同定する方法に関し、該方法は、(a)試験化合物の存在下で、成熟β細胞を含む細胞集団を培養する工程、ここで該細胞は前記成熟β細胞の脱分化を誘導する条件下で培養される;および(b)続いて、工程(a)において培養したβ細胞中のバイオマーカーFlattop(Fltp)の発現レベルを決定する工程を含み、ここで工程(a)における培養前の成熟β細胞を含む細胞集団におけるFltpの発現レベルと実質的に同一である工程(b)において決定したFltpの発現レベルは、成熟β細胞の脱分化を防ぐのに適した化合物を示す。
【0089】
この態様は、成熟β細胞の脱分化を防ぎ、それにより培養中の成熟β細胞を維持し得る化合物(1つまたは複数)の同定のためのスクリーニングアッセイに関する。新規バイオマーカーFltpは、β細胞の成熟状態を検出するためのバイオマーカーとして使用される。
【0090】
バイオマーカーFltpの使用、成熟β細胞と未成熟β細胞を区別するための方法、および未成熟前駆β細胞を成熟β細胞へと分化させるのに適した化合物を同定する方法に関して本明細書に提供される全ての定義および好ましい態様は、本発明のこのスクリーニング方法にも準用される。
【0091】
本発明のこの方法によると、成熟β細胞の脱分化を防ぎ得る化合物、すなわち成熟細胞として培養中の成熟β細胞を維持する化合物がスクリーニングされる。
【0092】
第1の工程において、試験化合物の存在下で、成熟β細胞を含む細胞集団が培養される。通常、すなわち試験化合物の非存在下で、前記成熟β細胞の脱分化を誘導する細胞培養条件が選択される。
【0093】
一般的な細胞培養条件および適切な細胞培養培地は当該技術分野で周知である(例えば、Cooper 2000 「Tools of Cell Biology」;Turksen, 2004 「Animal cell culture」)。好ましい条件および培地を以下に詳述する。
【0094】
本明細書に記載される細胞培養条件のいずれかにおいて、さらなる苦労なく当業者により決定され得る適切な間隔、例えば、4日毎など、より好ましくは3日毎、例えば2日毎などで培地を交換(すなわち新しく)することが好ましく、最も好ましくは、培地は24時間毎に新鮮な細胞培養培地で交換される。
【0095】
適切な細胞培養培地としては、限定されることなく、FCS Gold (例えばA15-151, PAA Laboratories GmbH)、Lグルタミン(例えばM11-004, PAA Laboratories GmbH)、抗生物質/抗真菌剤(例えばA5955, Sigma-Aldrich GmbH)、ゲンタマイシン(例えばA2712, Biochrom)、インスリン(例えばI9278, Sigma-Aldrich GmbH)を含む添加剤および/または当該技術分野で公知のさらなる添加剤を含む、RPMI-1640 (例えばBiochrom)、ダルベッコMEM (例えばFG 1445, Biochrom)、Basal Iscove Medium (例えばF0465, Biochrom)、MCDB 153 Basal Medium (例えばF8105, Biochrom AG)、William's Medium E (例えばF 1115, Biochrom)が非限定的に挙げられる。
【0096】
特に好ましい培養培地は、例えば1〜10% FBS(56℃で30分間熱不活性化)および1x Pen/Strep (100単位/mlのペニシリンおよび100μg/mlのストレプトマイシンに相当)を有するRPMI 1640;または5% FCS(56℃で30分間熱不活性化)、2mM Lグルタミン、1x Pen/Strep、1mMピルビン酸(pyrovate)ナトリウム、0.1mMβ-メルカプトエタノール、1x非必須アミノ酸を有するRPMI 1640もしくはDMEM:F12 (1:1)である。最も好ましくは、細胞は、島培養培地中で培養される。500mlの島培養培地は、RPMI 1640、1〜10% FCSおよび5ml Pen/Strep(100x)からなる。
【0097】
好ましくは、細胞または島は37℃で培養される。細胞が培養皿の表面を覆うコンフルエントな単層を形成するまで、細胞を37℃で培養することも好ましい。典型的に、これは2〜4日かかる。次いで、例えばTrypLE (例えばGibco, 12563)などのプロテアーゼ処理を使用して、細胞を分離し、次いで(RPMI 1640、1〜10% FCSおよび1x Pen/Strepからなる)島培養培地を用いて1:2〜1:5の希釈密度で再度プレート(plate)し、培養皿の表面を覆うコンフルエントな単層が生育するまで再度培養する、等(上記参照)。
【0098】
用語「前記成熟β細胞の脱分化を誘導する条件」は、前記細胞集団中の成熟β細胞の成熟状態の消失を生じる全ての細胞培養条件をいう。かかる細胞培養条件としては、限定されることなく、外因性サイトカインなしおよびホルモンなしの、例えば上述の島培養培地などの、標準培地と比較して血清の量が低減された上述の培養培地のいずれかが挙げられる。好ましくは、該培地は、1%未満の血清、例えば0.9%未満の血清など、より好ましくは0.8%未満の血清およびさらに好ましくは0.5%未満の血清を含む。
【0099】
より好ましくは、かかる培地は、RPMI 1640、1%未満のFCSおよび1x Pen/Strep、ならびにアミノ酸、抗生物質および抗真菌剤から選択される添加剤からなる島培養培地のみからなる。代替的に、細胞を、例えば5%の酸素などの低減された量の酸素の存在下で培養することにより脱分化は誘導され得る。さらなる代替物として、脱分化を誘導するために、ヘッジホッグシグナル伝達経路を活性化する化合物を細胞培養培地に添加し得る。かかる化合物は当該技術分野で周知であり、限定されることなく、例えばShh、IhhおよびDhhなどのリガンド、ならびに例えばSAG(スムーズンド(smoothened)アゴニスト)などのアゴニストが挙げられる。さらに、脱分化を誘導するために、FoxO1もしくはPdx1もしくはFoxa2もしくは任意の他のβ細胞特異的転写因子またはβ細胞維持サイトカインの枯渇も使用し得る(Landsman, Parent et al. 2011、Pan and Wright 2011、Talchai, Xuan et al. 2012、Puri, Akiyama et al. 2013、Gao, McKenna et al. 2014)。かかる枯渇は、さらなる努力なく、例えばRNA干渉を使用するかまたは抗体を枯渇させることにより達成され得る。
【0100】
後半の2つの選択肢において、血清、好ましくは1〜10%の血清を含む細胞培養条件が使用され得ることが理解される。
【0101】
細胞培養条件が成熟β細胞の脱分化を誘導するかどうかをどのように試験するかは、当該技術分野で周知である。例えば、成熟の消失、すなわち脱分化は、単独または例えば先に詳述されるUcn3などの他の成熟マーカーと組み合わせるかのいずれかで、Fltpなどの成熟細胞のマーカーの消失により検出し得る。また、成熟β細胞に特異的に発現される遺伝子のダウンレギュレーションおよび未成熟前駆β細胞に特異的に発現される遺伝子のアップレギュレーションを、本明細書において先に詳述されるように分析して、細胞の脱分化を確認し得る。
【0102】
成熟β細胞を含む細胞集団は、膵臓または例えばランゲルハンス島などの膵臓の一部から得られた、単離された内分泌細胞などの一次細胞集団であり得る。さらに、該細胞集団はまた、例えば単離された完全なランゲルハンス島(1つまたは複数)などの組織調製物であり得る。さらに、本発明のこのスクリーニングアッセイは、適切な非ヒト動物モデルにおいてインビボでも実施され得る。好ましくは、前記非ヒト動物モデルは、例えばげっ歯類、好ましくはマウス、ラットもしくはウサギ;ブタ、イヌ、ネコまたは非ヒト霊長類などの哺乳動物である。例えば、脱分化は、動物モデルにおいて記載されている(Talchai, Xuan et al. 2012)。したがって、かかるモデルにおいて、試験化合物がスクリーニングされ得るか、または同定された先導化合物が検証され得る。最も好ましくは、本発明のこのスクリーニング方法は、インビトロ法である。
【0103】
成熟β細胞が検出可能な量で存在する限り、該細胞集団は、任意の量の成熟β細胞を含み得る。好ましくは、該細胞集団は、少なくとも5%の成熟β細胞、例えば少なくとも10%の成熟β細胞、より好ましくは少なくとも20%の成熟β細胞、さらに好ましくは少なくとも30%、例えば少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、またはさらにより好ましくは、少なくとも80%の成熟β細胞を含む。例えば、外植片培養物を細胞集団として直接使用する場合、該細胞集団は典型的に、約80%の成熟β細胞を含む。該細胞集団が、少なくとも90%の成熟β細胞、例えば少なくとも95%の成熟β細胞、少なくとも98%の成熟β細胞を含むのも好ましく、最も好ましくは該細胞集団が100%の成熟β細胞を含む、すなわち該細胞集団中の全てのβ細胞が成熟β細胞であり、未成熟前駆β細胞が検出可能な量で存在しない。かかる純度は、例えば、成熟β細胞を富化するために、該細胞集団を分類して、例えばFACS分類を使用して、得られ得る。
【0104】
細胞集団が100%の成熟β細胞を含まないこれらの場合において、残りの細胞は、分化していないかまたは脱分化した未成熟前駆β細胞、および例えば膵臓などのβ細胞を含む組織内に天然に存在する他の細胞から選択されることが好ましい。かかる他の細胞としては、例えば管細胞、腺房細胞、または例えばα-、PP-、δ-およびε-細胞などのランゲルハンス島の他の内分泌細胞、ならびに線維芽細胞が挙げられる。しかしながら、典型的には、一次島細胞集団を使用する場合、かかる非内分泌細胞は、培養中に消失し、細胞集団の全細胞中1%未満で存在する。より好ましくは、該細胞集団は、任意のα-、PP-、δ-およびε-細胞を含まない。最も好ましくは、該細胞集団は、成熟β細胞からなり、すなわち細胞集団中の細胞の全ては、成熟β細胞であり、他の細胞は存在しない。細胞集団を所望の純度まで富化させる手段および方法は、本明細書において上述される。
【0105】
本発明のこの方法によると、この細胞集団は、試験化合物の存在下、脱分化条件下で培養される。
【0106】
本明細書において先に記載される化合物のいずれかは、成熟β細胞の脱分化を防ぐのに適した化合物を同定する本発明のこの方法に従って、試験化合物としてアッセイされ得る。
【0107】
第2の工程において、バイオマーカーFltpの発現レベルは、工程(a)で培養されたβ細胞中で決定される。この態様に関して、本明細書において上述される方法も使用され得る。また、未成熟前駆β細胞を成熟β細胞に分化させるのに適した化合物を同定する方法に関して本明細書において先に詳述される混合された集団中のFltp発現レベルの決定に関する考えは、成熟β細胞の脱分化を防ぐのに適した化合物を同定するこの方法に準用される。
【0108】
本発明のこの方法の第2の工程で決定されたFltpの発現レベルは、次いで工程(a)における培養前の成熟β細胞を含む細胞集団におけるFltpの発現レベル、すなわちFltp発現の対照値と比較される。未成熟前駆β細胞を成熟β細胞に分化させるのに適した化合物を同定する方法について先に詳述されるように、これに関していくつかの可能性が存在する。例えば、Fltpの発現レベルは、培養工程(a)を実施する直前に細胞集団またはその一部において決定され得る。代替的に、開始細胞集団は分割してもよく、一部を、処理前のFltpの発現レベルを決定するために使用し、第2の部分を、本発明のこの方法の工程(a)に使用する。Fltpのこの対照発現レベルを決定することは、本発明の本方法を実施する前に行われ得、決定された値を、本発明の方法に従って細胞集団をスクリーニングするその後の任意の回に参照として使用してもよいか、または本発明の方法に従って細胞集団をスクリーニングする各回に並行して決定してもよい。かかる対照値はまた、一度だけ決定して、全てのその後の試験のための標準として保存してもよい。未成熟前駆β細胞を成熟β細胞に分化させるのに適した化合物を同定する方法に関して本明細書において先に詳述されるように、前記対照値は、該アッセイに使用される細胞集団と同一の特性であることが必要とされる試料から得られる。したがって、前記対照試料は、これらの特性を変化させる条件下でさらに培養されないことが理解される。上述されるFltpの発現レベルを決定する好ましい時点は、この方法にも準用される。
【0109】
処理された細胞集団と未処理の細胞集団の比較のこの工程が、Fltpの発現レベルが実質的に同一であることを示す場合、この所見は、該化合物が、成熟β細胞の脱分化を防ぐのに適切であることを示す。
【0110】
本発明の全ての態様によると、Fltpの発現レベルは、2試料間の発現レベルが 10%未満、好ましくは5%未満、より好ましくは4%未満、例えば3%未満、2%未満およびより好ましくは1%未満だけ異なる場合に、「実質的に同一」であるとみなされる。さらに好ましくは、2試料間の発現レベルは、0.5%未満だけ、および最も好ましくは0.1%未満だけ異なる。さらにより好ましくは、2試料間の発現レベルは、わずかに、確立された検出方法の精度の限界により生じる偏差だけ異なり、この場合、発現レベルは同一であるとみなされる。
【0111】
本明細書で上述されるように、最近の発見により、β細胞脱分化は、2型糖尿病におけるβ細胞の機能不全に寄与することが示された。したがって、本発明のこの方法は、2型糖尿病の治療に有用であることが証明され得る新規の先導化合物の同定を可能にする。
【0112】
本発明のこの方法の好ましい態様において、該方法は、成熟β細胞を含む細胞集団を提供する工程、ならびに
(a) 成熟β細胞を含む前記細胞集団の一部を、試験化合物の存在下で培養する工程、ここで該細胞は、前記細胞の脱分化を誘導する条件下で培養される;ならびに
(b) 成熟β細胞を含む前記細胞集団の第2の部分を、試験化合物の非存在下で培養する工程、ここで該細胞は、前記細胞の脱分化を誘導する条件下で培養される;ならびに
(b) 続いて、
(i) (a)で培養された細胞、および
(ii) (b)で培養された細胞
において、バイオマーカーFlattop(Fltp)の発現レベルを決定する工程、
を含み、
ここで、工程(b)で培養した細胞におけるFltpの発現レベルと比較して、工程(a)で培養した細胞におけるFltpの増加した発現レベルは、成熟β細胞の脱分化を防ぐのに適した化合物を示す。
【0113】
未成熟前駆β細胞を成熟β細胞に分化させるのに適した化合物を同定する方法または成熟β細胞の脱分化を防ぐのに適した化合物を同定する方法の別の好ましい態様において、該試験化合物は、平面内細胞極性(PCP)を活性化する化合物である。
【0114】
保存された平面内細胞極性(PCP)経路は、組織の平面内の細胞および細胞小器官の位置づけ(orientation)を制御し、器官の背景において、成熟細胞の機能を大きく決定する((Seifert and Mlodzik 2007、Wang and Nathans 2007、Wallingford 2012)。非古典的(non-canonical)Wnt/PCPシグナル伝達経路の活性化は、コアPCP分子の非対称な局在化を誘発し、かつ細胞骨格再配列を引き起こして、細胞に3次元(3D)組織極性情報を提供する(Wallingford and Mitchell 2011)。コアPCP経路構成要素Van Gogh (Vangl)、Flamingo/Cadherin EGF LAG 7回貫通G型受容体(Fmi/Celsr)、Frizzled (Fzd)、Dishevelled (Dvl)およびPrickle (Pk)は進化の間保存される(Wallingford and Mitchell 2011)。
【0115】
Wnt/PCPシグナル伝達経路の活性化は、Wnt受容体(Frizzled (Frz)受容体);およびRor1、ROR2、RYK、MUSK、PTK7、シンデカン(Syndecan)またはグリピカン(Glypican)などの共受容体(Niehrs 2012)の、これらの受容体に対してアゴニスト効果を有する天然に存在するリガンド、小分子化合物および/または抗体のいずれかを介した刺激により達成され得る。したがって、平面内細胞極性(PCP)を活性化する化合物は、リガンド、細胞内メディエーターおよびコアPCP構成要素に分割され得る。例えば、Wnt5aおよびWnt11ならびに典型的でないカドヘリンFatおよびDachsousは、Wnt受容体および共受容体を介して作用する、天然に存在するリガンドである。また、アクチベーターとして作用し得る抗Ror1-および抗Ror2-抗体は、当該技術分野で公知である。Wnt5a、Wnt11およびRor1/2に対する抗体は、例えばR&Dおよび他の供給業者から市販される。Dishevelled (Dvl)およびPrickle (Pk)は細胞内メディエーターであり、Van Gogh (Vangl1/2)およびFlamingo/Cadherin EGF LAG 7回貫通G型受容体(Fmi/Celsr1、2および3)は、コアPCP構成要素である。全てのこれらの化合物は当該技術分野で周知である。
【0116】
さらに、Wnt/PCP経路はまた、小Rho GTPアーゼ、DAAM、RHOA、RACI、JNK、ROCK1およびROCK2などの細胞内分子を活性化する(Seifert and Mlodzik 2007、Wallingford and Mitchell 2011、Niehrs 2012、Ezan and Montcouquiol 2013、Matis and Axelrod 2013)。したがって、かかる細胞内PCPアクチベーターのアゴニストも、本発明の方法において試験化合物として使用し得る。
【0117】
また、用語「平面内細胞極性(PCP)を活性化する化合物」は、この経路の構成要素のアクチベーターおよびインヒビター、すなわちWnt/PCPシグナル伝達経路の構成要素の1つの活性を調節することにより該経路を間接的に活性化する化合物のこともいう。例えば、物理的シグナル伝達を統合して細胞増殖を制御するPCPシグナル伝達経路およびHippoシグナル伝達経路は、Fatを介して相互に連結することは、当該技術分野で公知である(Lawrence and Casal 2013)。したがって、Hippoシグナル伝達経路を活性化する化合物は、PCP経路の下流のシグナル伝達分子を活性化し得る。例えば、Hippoシグナル伝達により制御される(Sawada, Nishizaki et al. 2005)極性制御転写因子Foxa2は、Flattopを直接標的化することが知られており(Weedon, Cebola et al. 2014)、Fltp活性化も、例えば極性、PCPおよびHippoシグナル伝達を媒介する間接転写因子を介して誘導され得ることが示される。
【0118】
未成熟前駆β細胞を成熟β細胞に分化させるのに適した化合物を同定する本発明の方法または成熟β細胞の脱分化を防ぐのに適した化合物を同定する本発明の方法のより好ましい態様において、平面内細胞極性(PCP)を活性化する化合物は、非古典的 Wnt/PCP経路のアクチベーターである。
【0119】
本明細書で使用する場合、用語「アクチベーター」は、好ましくは、以下の効果:(i)活性化されるタンパク質をコードする遺伝子の転写が高められる、(ii)活性化されるタンパク質をコードするmRNAの翻訳が高められる、(iii)アクチベーターの存在下で、該タンパク質が、有効性を高められた生化学的な機能を実施する、および(iv)アクチベーターの存在下で、該タンパク質が、有効性を高められた細胞機能を実施する、の1つ以上を実施することにより、標的分子の活性を高める化合物として定義される。したがって、用語「アクチベーター」は、特定の経路を直接活性化する効果を有する分子、さらに例えば前記経路を負の方向に制御する(例えば抑制する)分子と例えば相互作用することにより間接的に活性化する分子の両方を包含する。
【0120】
(i)に記載される効果を達成するのに適した化合物としては、転写機構および/または前記遺伝子のプロモーターおよび/またはエンハンサーなどのプロモーターから離れた発現制御因子との相互作用を調節する化合物が挙げられる。(ii)に記載される効果を達成するのに適した化合物は、翻訳機構を調節する化合物を含む。(iii)に記載される効果を達成するのに適した化合物は、活性化されるタンパク質の分子機能を調節する。(iv)に記載される効果を達成するのに適した化合物としては、標的タンパク質に必ずしも直接結合するわけではないが、例えば該標的タンパク質を含む経路のメンバーに結合することによりおよび/または該メンバーの機能および発現を調節することにより、該標的タンパク質の活性を調節する化合物が挙げられる。これらのメンバーは、好ましくは前記経路において活性化されるタンパク質の上流にある。
【0121】
かかる化合物としては、限定されることなく、例えば小分子、アンチセンス核酸分子、siRNA、shRNA、miRNA、抗体、アプタマー、リボザイムまたは可溶性ペプチドなどのペプチドなど、上述の化合物の全てが挙げられる。
【0122】
好ましくは、アクチベーターの存在下での非古典的Wnt/PCP経路の活性のレベルは、アクチベーターの非存在下での非古典的Wnt/PCP経路の活性よりも10%高く、より好ましくは活性のレベルは25%より高く、例えば50%より高い。非古典的Wnt/PCP経路の活性のレベルを、アクチベーターの非存在下での非古典的Wnt/PCP経路の活性よりも75%、80%、90%または100%高くまで向上させるアクチベーターがさらに好ましい。
【0123】
用語「非古典的Wnt/PCP経路」は当該技術分野で周知であり、記載されている((Seifert and Mlodzik 2007、Wallingford and Mitchell 2011、Niehrs 2012、Ezan and Montcouquiol 2013、Matis and Axelrod 2013)。例えばWnt5aおよびWnt11を含む非古典的Wnt/PCP経路リガンドは、例えば小GTPアーゼ、Cdc42、RhoA、Inturned、Fuzzyおよび特にFlattopを含むタンパク質に伝達されるシグナルを生じる、Wnt/PCP受容体および例えばFrz 1、2、3、6またはRor1/2を含む共受容体に結合する。これは、PI3K、JNK、RHOA、ROCK1/2および他のキナーゼの活性化を生じ、その後細胞骨格配列をもたらす。
【0124】
したがって、用語「非古典的Wnt/PCP経路のアクチベーター」は、このシグナル伝達経路の一部を形成する上述の分子のいずれか1つのアクチベーターをいう。好ましくは、非古典的Wnt/PCP経路のアクチベーターは、Wnt5aのアクチベーター、Wnt11のアクチベーター、PCP経路を活性化する他のWntリガンド、共受容体ROR1、2、RYK、MUSK、PTK7、シンデカンまたはグリピカンを活性化するリガンド、ならびに本明細書に上述されるものなどの抗体または代替的な結合分子、またはWnt受容体および共受容体にアゴニスト作用を及ぼす小分子からなる群より選択される。
【0125】
本発明はさらに、未成熟前駆β細胞を成熟β細胞に分化させる方法に関し、該方法は、未成熟前駆β細胞を含む細胞集団においてFltpの発現を誘導する工程を含む。
【0126】
特に未成熟前駆β細胞、成熟β細胞、未成熟前駆β細胞を含む細胞集団および分化に関する本明細書において先に提供される定義および好ましい態様は、本発明のこの方法に準用される。
【0127】
この方法によると、未成熟前駆β細胞は成熟β細胞に分化される。この方法は、インビボまたはインビトロで実施され得る。好ましくは、該方法はインビトロ法である。
【0128】
この態様によると、胚性幹細胞または多能性幹細胞または前駆細胞から未成熟前駆β細胞を得ることが特に好ましい。
【0129】
本発明のこの方法によると、β細胞の分化は、前記細胞中のFltpの発現を誘導することにより達成される。Fltpの発現を誘導する手段は特に限定されない。例えば、本発明に従ってFltpが非古典的Wnt/PCP経路の下流エフェクター遺伝子であることがわかっているので、Fltp発現は、非古典的Wnt/PCP経路のアクチベーターの存在下で未成熟前駆β細胞を培養することにより誘導され得る。Fltpの発現を誘導する化合物は、本明細書において、「Fltp発現のアクチベーター」とも称される。
【0130】
また、Fltpの発現は、例えば90%コンフルエントなどの高密度、または接触阻害および極性化を誘発することが知られる細胞密度で未成熟前駆β細胞を培養することにより誘導され得る。かかる高密度で未成熟前駆β細胞を増殖させることにより、細胞-細胞接触、これらの細胞間で誘導される極性化および接触阻害は、細胞の成熟を引き起こす。
【0131】
本発明のこの態様に従って得られる成熟β細胞は、例えばβ細胞補充療法などの治療アプローチに特に有用である。
【0132】
未成熟前駆β細胞を成熟β細胞に分化させるこの方法の好ましい態様において、該細胞中のFltpの発現は、Wnt5a、Wnt11、Wnt3a;共受容体ROR1、2、RYK、MUSK、PTK7、シンデカンおよびグリピカンの少なくとも1つのアクチベーター;および/または未成熟前駆β細胞を成熟β細胞に分化させるのに適した化合物を同定する本発明の方法により同定される化合部からなる群より選択される化合物の存在下で、該細胞を培養することにより誘導される。
【0133】
Wnt5aは当該技術分野で周知であり、記載されている(Yang 2012、Baarsma, Konigshoff et al. 2013)。細胞培養における使用のためのWnt5aは、例えばR&D Systemから商業的に入手し得る。使用されるWnt5aの好ましい量は、約50〜約200ng/ml、より好ましくは約70〜約150ng/ml、例えば約90〜約120ng/mlなどであり、最も好ましくは、該量は約100ng/mlである。
【0134】
Wnt11は当該技術分野で周知であり、記載されている(Baarsma, Konigshoff et al. 2013)。細胞培養における使用のためのWnt11は、例えばR&D Systemから商業的に入手し得る。使用されるWnt11の好ましい量は、約50〜約200ng/ml、より好ましくは約70〜約150ng/ml、例えば約90〜約120ng/mlなどであり、最も好ましくは、該量は約100ng/mlである。
【0135】
Wnt3aは当該技術分野で周知であり、記載されている(Baarsma, Konigshoff et al. 2013)。細胞培養における使用のためのWnt3aは、例えばR&Dから商業的に入手し得る。使用されるWnt3aの好ましい量は、約50〜約200ng/ml、より好ましくは約70〜約150ng/ml、例えば約90〜約120ng/mlなどであり、最も好ましくは、該量は約100ng/mlである。
【0136】
用語「共受容体ROR1、2、RYK、MUSK、PTK7、シンデカンおよびグリピカンのアクチベーター」は、これらの共受容体の任意のアクチベーターを包含し、すなわち該アクチベーターは、直接および間接アクチベーターを含む。好ましくは、これらの共受容体の1つのアクチベーターは、活性化されるそれぞれの共受容体のリガンドである。細胞培養における使用のための共受容体ROR1、2、RYK、MUSK、PTK7、シンデカンおよびグリピカンを活性化するリガンドは周知であり、例えばR&Dから商業的に入手し得る。使用される共受容体ROR1、2、RYK、MUSK、PTK7、シンデカンおよび/またはグリピカンを活性化するリガンドの好ましい量は、50〜約200ng/ml、より好ましくは約70〜約150ng/ml、例えば約90〜約120ng/mlなどであり、最も好ましくは、該量は約100ng/mlである。
【0137】
本発明はさらに、成熟β細胞の脱分化を防ぐ方法に関し、該方法は、成熟β細胞中のFltpの発現を誘導または維持する工程を含む。
【0138】
特に、成熟β細胞、脱分化およびFltp発現の誘導に関して、本明細書において先に提供される定義および好ましい態様は、本発明のこの方法に準用される。
【0139】
この方法によると、成熟β細胞の脱分化は防がれる、すなわち該細胞は成熟、機能的状態に維持される。この方法は、インビボまたはインビトロで実施され得る。好ましくは、該方法はインビトロ法である。後者の場合、該方法は、該細胞中でFltpの発現を誘導または維持するのに適した条件下で、インビトロで成熟β細胞を培養する工程を含む。
【0140】
Fltpの発現を誘導する手段は、本明細書において先に定義される。これらの手段はFltpがすでに発現されている場合にFltp発現の維持を引き起こすことが理解される。
【0141】
成熟β細胞の脱分化を防ぐ方法の好ましい態様において、細胞中のFltpの発現は、Wnt5a、Wnt11、Wnt3a;共受容体ROR1、2、RYK、MUSK、PTK7、シンデカンおよび/またはグリピカンの少なくとも1つのアクチベーター;および/または成熟β細胞の脱分化を防ぐのに適した化合物を同定する発明の方法により同定される化合物から選択される化合物の存在下で、該細胞を培養することにより誘導される。
【0142】
これらの化合物は本明細書において先に定義される。
【0143】
本発明はさらに、成熟β細胞と未成熟前駆β細胞を区別するためのキットに関し、該キットは、(a)バイオマーカーFlattop(Fltp)の存在または非存在を決定する手段および(b)該キットの使用方法の指示書を含む。
【0144】
そのもっとも広い意味において用語「キット」は、記載される構成要素以外の任意の他の化合物、バイアル、容器等の存在を必要とせず、本発明のキットの文脈において用語「含む(comprising)」は、該キット中にさらなる構成要素が存在し得ることを示す。かかるさらなる構成要素の非限定的な例としては、保存剤、保存のためのバッファ、酵素等が挙げられる。
【0145】
(a)に従ったいくつかの構成要素がキットに含まれる場合、該キットの種々の構成要素は、1つ以上のバイアルなどの1つ以上の容器内にパッケージ化され得る。結果的に、キットの種々の構成要素は、分離してまたは組み合わせて存在し得る。該容器またはバイアルは、構成要素に加えて、保存剤または保存のためのバッファを含み得る。また、該キットは使用のための指示書を含む。
【0146】
「バイオマーカーFltpの存在または量を決定するための手段」は、当該技術分野において周知であり、限定されることなく、本発明に従ってFltpに特異的に結合する(すなわち、関係のないマーカーと交差反応しない)抗体;例えばFltpをコードする核酸分子(DNAおよびRNA)の一部または全長に特異的にハイブリダイズする核酸プローブなどの核酸レベルでのFltpの検出のための核酸プローブ;FltpをコードするDNAの特定の配列の分析および検出のための配列決定プライマー、例えばFltpの発現に干渉することが知られる変異を含む配列;またはFltpの転写された核酸分子を増幅するための増幅プライマーが挙げられる。
【0147】
該キットが、バイオマーカーまたは本発明のバイオマーカー、すなわちFltpとは異なる参照マーカーの存在または量を決定するためのさらなる手段を含むことも、この態様に包含される。
【0148】
Fltpとは異なるかかるバイオマーカーとしては、限定されることなく、例えばUrocortin 3 (Blum, Hrvatin et al. 2012)などのさらなるβ細胞成熟マーカー、およびNkx6.1、インスリン、Pdx1または任意の他のβ細胞特異的マーカーなどの一般的なβ細胞マーカーが挙げられる。
【0149】
本明細書で使用する場合、用語「参照マーカー」は、実質的に一定のレベルでβ細胞内に存在するマーカーをいう。すなわち、参照マーカーの発現レベルは、異なる成熟レベルのβ細胞間で異なるべきではない(確立された検出方法の精度の限界により生じる偏差を除く)。異なるβ細胞集団においてかかる参照マーカーの量は本質的に変化しないために、参照マーカーは、例えば前記変化しない参照マーカーの発現レベルと、目的のバイオマーカーの発現レベルの比較により、バイオマーカーの量の値を標準化するために使用され得る。しばしば、ハウスキーピング遺伝子が参照マーカーとして使用される。参照マーカーの例としては、限定されることなく、GAPDH、RPLP0、PGK1、HSP90AB1、シクロフィリン、アクチン、HPRT、RN18sおよび多くの他のもの(many more)が挙げられる。さらなる例が文献に記載される(Velculescu, Madden et al. 1999、Eisenberg and Levanon 2003)。
【0150】
該キットが、バイオマーカーまたは本発明に従ったFltpとは異なる参照マーカーの存在または量を決定するためのかかるさらなる手段を含む場合、最大で10,000のかかるさらなるマーカーが本発明のキットに含まれることが好ましい。より具体的には、最大で5,000、例えば最大で2,000など、およびより好ましくは最大で1,000のさらなる核酸マーカーが本発明のキットに含まれる。より好ましくは、最大で800、例えば最大で600など、より好ましくは最大で400、例えば最大で300、最大で200、最大で100など、およびより好ましくは、最大で80のさらなるマーカーが本発明のキットに含まれる。さらに好ましくは、最大で50、例えば最大で40など、より好ましくは最大で30、例えば最大で20、最大で10、最大で9、最大で8、最大で7、最大で6、最大で5、最大で4、最大で3、最大で2など、およびさらに好ましくは最大で1のさらなるマーカー(1つまたは複数)が、本発明のキットに含まれる。本発明のキットがFltpの存在または量を決定する手段のみを含むことも好ましい
【0151】
本発明はさらに、糖尿病の治療または予防における使用のための医薬組成物に関し、ここで、該医薬組成物は、Fltp発現のアクチベーター(1つまたは複数)を含む。さらに、本発明は、糖尿病を治療または予防する方法に関し、該方法は、Fltp発現のアクチベーター(1つまたは複数)を含む医薬組成物を、糖尿病の治療または予防を必要とする被験体に投与する工程を含む。
【0152】
本発明によると、用語「医薬組成物」は、患者、好ましくはヒト患者への投与のための組成物に関する。本発明の医薬組成物は、上述の化合物を含む。本発明の医薬組成物は、任意におよびさらに、薬学的に許容され得る担体を含み得る。「薬学的に許容され得る担体」は、非毒性の固体、半固体または液体の充填剤、希釈剤、封入物質または任意の種類の製剤化補助剤を意味する。適切な医薬担体の例は当該技術分野で周知であり、塩化ナトリウム溶液、リン酸緩衝化塩化ナトリウム溶液、水、油/水エマルジョンなどのエマルジョン、種々の型の湿潤剤、滅菌溶液、有機溶媒等が挙げられる。好ましくは、該担体は、非経口担体、より好ましくはレシピエントの血液と等張の溶液である。該担体は、等張性および化学安定性を高める物質などの微量の添加剤を適切に含む。かかる物質は、使用される用量および濃度でレシピエントに対して非毒性であり、リン酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩、酢酸、および他の有機酸もしくはそれらの塩などのバッファ;アスコルビン酸などの酸化防止剤;低分子量(約10残基未満)(ポリ)ペプチド、例えばポリアルギニンもしくはトリペプチド;血清アルブミン、ゼラチンもしくはさらなる免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン酸、アスパラギン酸もしくはアルギニンなどのアミノ酸;セルロースもしくはその誘導体、グルコース、マンノースもしくはデキストリンを含む単糖類、二糖類および他の炭水化物;EDTAなどのキレート剤;マンニトールもしくはソルビトールなどの糖アルコール;ナトリウムなどの対イオン;および/またはポリソルベート、ポロキサマーもしくはPEGなどの非イオン性界面活性剤が挙げられる。
【0153】
かかる担体を含む組成物は、周知の従来の方法により製剤化され得る。一般的に、製剤は、医薬組成物の成分を、液体担体もしくは細かく分割された固体担体またはその両方と均一にかつ完全に(intimately)接触させることにより調製される。次いで、必要な場合、該製品は、所望の製剤に形作られる。
【0154】
治療的投与に使用される医薬組成物の成分は、無菌でなければならない。無菌性は、例えば滅菌濾過膜(例えば0.2ミクロンの膜)による濾過により達成され得る。
【0155】
これらの医薬組成物は、適切な用量で被験体に投与され得る。投与計画(dosage regimen)は、かかりつけの医師および臨床学的要因により決定される。医学の分野で周知のように、任意の一患者についての用量は、患者の大きさ、体表面積、年齢、投与される特定の化合物、性別、投与の時間および経路、一般的健康状態、および同時に投与される他の薬物を含む多くの要因に依存する。所定の状況についての治療的に有効な量は、常套的な実験により容易に決定され、通常の臨床医または医師の技術および判断の範囲内にある。医薬組成物は、1回の投与のためのものであり得るかまたは長期間にわたる定期的投与のためのものであり得る。一般的に、医薬組成物の投与は、単一用量について、例えば10μg/体重kg〜2g/体重kgの範囲であるべきである。しかしながら、より好ましい用量は、単一用量について、100μg/体重kg〜1.5g/体重kg、さらに好ましくは1mg/体重kg〜1g/体重kg、さらにより好ましくは5mg/体重kg〜500mg/体重kgの範囲であり得る。変化の観察に必要な治療の長さおよび応答が起こるための治療後の間隔は、所望の効果に応じて変化する。当業者に周知の従来の試験により特定の量が決定され得る。
【0156】
本発明の医薬組成物の投与は、異なる方法により、例えば、非経口(例えば、静脈内、筋内、腹腔内、胸骨内、皮下および関節内の注射ならびに注入を含む)、皮内、鼻腔内または気管支内の投与により、実施され得る。
【0157】
医薬組成物の成分は通常、単位用量または複数用量の容器、例えば密封されたアンプルまたはバイアル内に、水溶液または再構成のための凍結乾燥製剤として保存される。凍結乾燥製剤の例として、10mlのバイアルに、5mlの滅菌濾過した1%(w/v)水溶液を充填し、得られた混合物を凍結乾燥する。該凍結乾燥化合物(1つまたは複数)を、注射用静菌水を用いて再構成して注入溶液を調製する。保存剤、ならびに例えば抗菌剤、酸化防止剤、キレート剤および不活性気体などの他の添加剤も存在してもよい。医薬組成物は、医薬組成物の意図される使用に応じて、さらなる薬剤を含み得る。本発明の医薬製剤は、上述の化合物によるので、これらの記載されたさらなる薬剤が補充物としてのみ、すなわち例えばさらなる薬剤により付与される副作用を低減するように、単独の薬物として使用する場合に推奨される用量と比較して低減された用量で、使用されることが好ましい。
【0158】
用語「Fltpの誘導物質」と交換可能に使用される用語「Fltp発現のアクチベーター」の定義は、本明細書において先に提供されており、本発明の医薬組成物にも準用される。
【0159】
糖-脂質毒性の結果の1つは、炎症のためにβ細胞が死に、ランゲルハンス島の構造が変化することであることが当該技術分野で周知である。そのために、炎症を止めることに加えて、組織構造の回復は、ランゲルハンス島におけるβ細胞の機能性を再生させるための有望なアプローチである。本明細書に示されるように、Fltp発現のアクチベーターは、組織極性を復活させ、かつβ細胞の成熟を高め、それによりランゲルハンス島の機能性を復活させるための価値のあるツールを提供する。
【0160】
本発明の医薬組成物の好ましい態様において、Fltp発現のアクチベーターは、Wnt5a、Wnt11、Wnt3a;共受容体ROR1、2、RYK、MUSK、PTK7、シンデカンおよびグリピカンの少なくとも1つのアクチベーター;および/または未成熟前駆β細胞を成熟β細胞に分化させるのに適した化合物を同定する本発明の方法により同定された化合物からなる群より選択される。これらの化合物は、本明細書において先に定義されている。
【0161】
他に定義されなければ、本明細書において使用される全ての科学技術用語は、本発明が属する分野における当業者により一般的に理解されるものと同じ意味を有する。矛盾する場合、定義を含む本発明の明細書が支配する。
【0162】
本明細書、特に特許請求の範囲において特徴付けされる態様に関して、従属請求項に記載されるそれぞれの態様を、(独立してまたは従属して)前記従属請求項が従属するそれぞれのそれぞれの請求項の態様と組み合わせることが意図される。例えば、3つの選択肢A、BおよびCを記載する独立請求項1、3つの選択肢D、EおよびFを記載する従属請求項2ならびに請求項1および2に従属し、かつ3つの選択肢G、HおよびIを記載する請求項3の場合、そうではないと具体的に記載されなければ、組合せA、D、G;A、D、H;A、D、I;A、E、G;A、E、H;A、E、I;A、F、G;A、F、H;A、F、I;B、D、G;B、D、H;B、D、I;B、E、G;B、E、H;B、E、I;B、F、G;B、F、H;B、F、I;C、D、G;C、D、H;C、D、I;C、E、G;C、E、H;C、E、I;C、F、G;C、F、H;C、F、Iに対応する態様が、明細書に明白に開示されることが理解される。
【0163】
同様に、独立請求項および/または従属請求項が選択肢を記載しない場合も、従属請求項が複数の先行する請求項を引用するならば、それによりカバーされる主題の任意の組合せは明示的に開示されるとみなされることが理解される。例えば、独立請求項1、請求項1を引用する従属請求項2、ならびに請求項2および1の両方を引用する独立項3の場合、請求項3および1の主題の組合せは、請求項3、2および1の主題の組合せと同様に、明確かつ明白に開示されるものとする。請求項1〜3のいずれか1つを引用するさらなる従属請求項4が存在する場合、請求項4および1、請求項4、2および1、請求項4、3および1、ならびに請求項4、3、2および1の主題の組合せが明確かつ明白に開示されるものとする。
【0164】
上述の考えは、全ての添付の請求項に準用される。非限定的な例を与えるために、請求項の構造を考慮すると、請求項5および7の組合せが明確かつ明白に構想される。同様のことは、例えば請求項5、7および8等の組合せに適用される。
【図面の簡単な説明】
【0165】
図面は以下を示す:
図1-1】図1:Fltpレポーター発現は、生後のβ細胞成熟に相関し、全ての内分泌系統において不均一性を示す。(A)生後1日目(P1)および12週齢FltpZV/+動物の、FltpレポーターおよびNkx6.1についての膵臓組織の単一免疫蛍光染色の代表的な画像。(B)FltpZV/+マウスにおけるβ細胞成熟期間のβ細胞中のFltpレポーター発現の定量分析。値は平均±SEM(平均の標準誤差)である;P1、3、11についてn=2、および12週についてn=9;P1 対 12週齢動物のFltpレポーターおよびNkx6.1陽性β細胞において、***P<0.001。Fltpレポーター発現β細胞のパーセンテージは、45%(P1)から、70%以上(P11)〜80%(12週)まで増加する。
図1-2】(C)成体膵臓組織上の4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)、Fltpレポーター、および1つの内分泌ホルモンの単一免疫蛍光染色の代表的な画像。ホルモンは、示されるように上の列から下の列に並べられる(グルカゴン、インスリン、ソマトスタチンおよび膵臓ポリペプチド)。(D)Fltpレポーター発現の定量分析により、全ての内分泌細胞型におけるFltpレポーター発現の不均一性が明らかになる(α=47.4%、β=81.1%、δ=49.3%、PP=47.0%)。値は平均±SEMである;n>30島。Fltp発現(Fltp)の核レポーターをGFP抗体でマークする(A、C)。
図2-1】図2:β細胞亜集団は、インビボにおいて増殖能力の差を示す。(A)FltpZV/+マウスにおける代謝要求(妊娠)時のβ細胞におけるKi67発現の定量分析。値は平均±SEMである;対照および妊娠マウス胚性日数(embryonic day)15.5(E15.5)についてn=4;妊娠(E15.5)マウスにおけるFltpレポーター発現を欠くβ細胞 対 Fltpレポーター発現β細胞のKi67発現において**P<0.01。(B)対照群および妊娠マウスE15.5の成体膵臓組織に対するFltpレポーター、Nkx6.1およびKi67の単一免疫蛍光染色の代表的な画像。
図2-2】(C)FltpZV/+マウスにおけるEdUを使用したインビボパルス標識における24時間後の代謝要求(妊娠)時のβ細胞増殖の定量分析。値は平均±SEMである;対照および妊娠マウスについてn=5;Fltpレポーター発現を欠く妊娠マウス(E15.5)のEdUでマークされたβ細胞 対 妊娠マウスのFltpレポーター発現β細胞 対 対照群におけるFltpレポーター陰性β細胞において***P<0.001。Fltpレポーターを発現する妊娠マウス(E15.5)のEdUでマークされたβ細胞 対 対照マウスのFltpレポーター発現β細胞において**P<0.01。Fltpレポーター発現を欠く対照マウスのEdUでマークされたβ細胞 対 対照マウスのFltpレポーター発現β細胞において*P<0.05。(D)対照群およびE15.5での妊娠群の成体膵臓組織におけるFltpレポーター、Nkx6.1およびEdUの単一免疫蛍光染色の代表的な画像。
図2-3】(E)FltpZV/+マウスにおける代謝要求時(妊娠)のβ細胞におけるKi67発現の定量分析。値は平均±SEMである;P1、3、11についてn=2、ならびに対照および妊娠マウス(E18.5)に対してn=4;Fltpレポーター発現を欠くβ細胞 対 P1、P3、P11および妊娠(E18.5)マウスにおけるFltpレポーター発現β細胞におけるKi67発現において*P<0.05。(F)代謝要求(妊娠E15.5)時におけるβ細胞におけるFltpレポーター発現の定量分析。値は平均±SEMであり、対照および妊娠群についてn=5;Fltpレポーター陰性β細胞のパーセンテージと比較してFltpレポーター発現β細胞のパーセンテージの間で**P<0.01。Fltp発現(Fltp)の核レポーターはGFP抗体によりマークされる(B、D)。
図3-1】図3:FltpZV/ZVβ細胞は、インビボにおける第1段階インスリン分泌欠損を示す。(A)FltpZV/+およびFltpZV/ZVは、Fltp+/+と比較して、グルコース耐性の変化を示さない。グルコース負荷を処理するFltpZV/+、FltpZV/ZVおよびFltp+/+の能力は、標準GTTを使用して評価した。絶食オスマウスにグルコースをi.p.注射し(2g/体重kg)、グルコース注射の0、15、30、60および120分後に血糖値を測定した。(B)Fltp+/+、FltpZV/+およびFltpZV/ZVマウスにおける全膵臓インスリン含有量の定量分析は、大きな差を示さない(1遺伝子型当たりn=5)。値は平均±SEMである。
図3-2】(C)第1段階インスリン分泌の定量分析によりFltpZV/ZVとFltp+/+の差が明らかになる(1遺伝子型当たりn=4マウス)。値は平均±SEMである。(D)第2段階インスリン分泌の定量分析は大きな差を示さない。値は平均±SEMである。
図4図4:FLTPイントロン性SNP rs7515334は、ヒトにおけるインスリン分泌欠損に有意に関連する。(A)代謝状態に応じて、重要でない(minor)C1ORF192対立遺伝子rs7515334は、インスリン分泌の増加(BMI<25)およびインスリン分泌の低下(BMI>35)に関連する(B)。性別、年齢およびOGTT由来インスリン感受性についてインスリン分泌指標を調整した。XG=CG+GGを有する優性遺伝モデルにおいて遺伝子型を試験した。Bonferroni-補正αレベル:p<0.0073。
図5-1】図5:FltpZV/ZVマウスは、STZ誘導β細胞死に対する改変された感受性を示す。(A)ストレプトゾトシン(STZ)で処理したFltpZV/+マウス、FltpZV/+ビヒクル(クエン酸バッファ)(対照)、STZで処理したFltpZV/ZVマウス、およびFltpZV/ZVビヒクル(対照)由来の成体膵臓組織上のDAPI、FltpレポーターおよびNkx6.1の単一免疫蛍光染色の代表的な画像。
図5-2】(B)一晩絶食(16h)後、共にSTZで処理したFltpZV/+およびFltpZV/ZVならびにそれらのそれぞれの対照のマウスに、グルコースをi.p.注射して(2g/体重kg)、注射の0、15、30、60および120分後に血糖値を測定した。FltpZV/ZVマウスは、STZ誘導β細胞損傷に対する高められた感受性を示し、FltpZV/+と比較して、より早い時点でインスリン抵抗性を生じる。値は平均±SEMである;STZマウスについてn=4および対照マウスについてn=4。FltpZV/+に対して*P<0.05。(C)共にSTZで処理した(40mg/kg、5日)STZ誘導糖尿病を有するFltpZV/+およびFltpZV/ZVマウス(FltpZV/+ and FltpZV/ZV both treated with STZ-induced diabetic mice (40 mg/kg, 5 days))ならびにそれらのそれぞれの対照マウスの全血グルコース濃度。Fltp発現(Fltp)の核レポーターをGFP抗体でマークする(A)。
図6-1】図6:Fltpレポーター陰性および陽性の島亜集団は、明らかな遺伝子発現の差を示す。(A)島単離から開始し蛍光細胞分析分離(FACS)へマイクロアレイを使用した遺伝子発現分析への実験アプローチの模式的概観。(B)FltpZV/+マウス(12週齢)の単離されたマウス島由来のy軸上の側方散乱(side scatter)(SSC)およびx軸上の488nm蛍光の発光を用いた内分泌亜集団のFACSプロット。(C)分類されたFltpレポーター陰性細胞およびFltpレポーター発現細胞上のNkx6.1およびFltpレポーターの単一免疫蛍光染色の代表的画像。
図6-2】(D)FACS分類試料におけるFltp mRNA発現のマイクロアレイ分析;差異的に(differential)調節され、かつ内分泌細胞の機能、極性、シグナル伝達および細胞周期に重要な遺伝子を含むマイクロアレイ転写遺伝子プロフィールの二次元ヒートマップ:P<0.05および1.5x調節された左の3試料は、Fltpレポーター発現試料であり、右の2試料は、Fltpレポーター陰性試料である。
図6-3】(E)Genomatix(登録商標)のGepによる分析後のG0期(GOterm)の富化;バーは、P値による有意さを示す。Fltp発現(Fltp)の核レポーターをGFP抗体でマークする(C)。
図7-1】図7:遺伝的系譜追跡(genetic lineage tracing)により、Fltp陰性前駆体がFltp発現成熟β細胞になる(give rise to)ことが明らかになる。(A)FltpT2A-iCre/+-mTmG+/-モデルの模式図。このモデルにおいて、膜結合GFP(mG)を発現するFltpT2A-iCre発現細胞以外、全ての細胞は、膜結合tomato(mT)を発現する。Fltp陰性細胞がFltpプロモーターの活性化を始める場合、細胞は、黄色の状態(mGおよびmT発現)を介して、緑色の状態(mG発現)に切り替わる。
図7-2】(B)FltpT2A-iCre/+-mTmG+/-モデルからの島の蛍光細胞分析分離プロット。Nkx6.1染色対照(上)およびNkx6.1染色細胞(下)。GFPおよびRFP発現は右に示される(Nkx6.1+細胞の66.7%はGFP発現細胞であり、12.3%はRFP陽性であり、20%はGPFおよびRFP陽性である)。(C)mT発現細胞のmGおよびmT発現状態への変換(白色矢印)を示すFltpT2A-iCre-mTmG+/-から単離された島の生体画像化実験の代表的な画像。
図8図8:Fltp発現は、島新生および生後β細胞成熟に相関する。(A-C')ホールマウント染色してBABBきれいにした膵臓における、E18.5およびP5でのLSM分析により分析したFltp::H2B-Venusレポーター活性の定量分析。Fltpレポーター活性は抗GFP抗体で検出する。ぎっしり詰まった(compacted)島およびコード様構造の高倍率画像(C-C')。島がぎっしり詰まった3D構造を形成して該構造になる際に、Fltpレポーター活性は強く増加するが、コード様構造においては依然として検出可能ではない。
図9-1】図9:FltpZV/ZV動物は、Fltpヌル変異である。(A)FltpZV標的化戦略は、エキソン2(E2)からE6までの範囲の完全オープンリーディングフレーム(遺伝子型決定についてのプライマー:5'-AGCCATACCACATTTGTAGAGG-3'、5'-CAGCATGGCATAGATCTGGAC-3'、5'-GAGGCTGACTGGGAACAATC-3')を欠損する。外部5'-および3'-サザンプローブを表示する。DraIIIおよびEcoRVについての制限酵素部位を示す。標的化構築物の組み換えのための相同性領域は、5'-および3'-回復(Retrieval)(5'-および3'-R)で表示する。該図は一定の縮尺である。(B)DraIIIで消化して、外部5'サザンプローブとハイブリダイズした、Bl6 (16443bp)および129WT対立遺伝子ならびにBl6標的化対立遺伝子(11469bp)を示すWT胚性幹(ES)細胞 対 FltpZV/+ ES細胞のサザンブロット。制限長(restriction length)多形のためのWTバンドのシフトに注意。(C)WT、FltpZV/+およびFltpZV/ZVを区別する遺伝子型決定PCR(使用したプライマー:418、565および566;WTバンド(317bp);標的化Δneoバンド(387bp))。
図9-2】(D)ウエスタンブロットは、FltpZV/ZV動物の精巣溶解物におけるFltpタンパク質の非存在を示す。Fltpタンパク質バンドは約25kDa(計算した重量、20kDa)で検出可能である。略語:NLS-LacZ:核局在化シグナル-β-ガラクトシダーゼ;2A:ウイルス性T2A配列;H2B:ヒストン2B;Venus:黄色蛍光レポーター遺伝子;SpA:シミアンウイルス40ポリアデニル化シグナル;loxP:Cre媒介組み換えの部位;bpA:ウシ成長ホルモンポリアデニル化シグナル;neo:ネオマイシン耐性カセット;PG:ホスホグリセリン酸キナーゼ;UTR:非翻訳領域;SP:サザンプローブ;VP:Venusプローブ。
図10-1】図10:Fltp::Venus融合マウス系統の作製検証(generation a validation)。(A)Fltp::Venus-融合標的化戦略は、Fltpのオープンリーディングフレームと、蛍光レポーター遺伝子Venusおよび3xFLAGタグを融合する(遺伝子型決定のためのプライマー:5'-CAGCATGGCATAGATCTGGAC-3'、5'-GAGGCTGACTGGGAACAATC-3'、5'-CAAGATCCGCCACAACATCG-3')。外部5'-および3'サザンプローブを表示する。DraIIIについての制限酵素部位を示す。標的化構築物の組み換えのための相同性領域は5'-および3'-回復(5'-および3'-R)で表示する。
図10-2】(B)標的化マウスES細胞のサザンブロット分析(129Sv-/- C57Bl/6;IGD 3.2;Hitz et al., 2007)。ゲノムDNAをDraIIIで消化して、5'Fltp外部プローブとハイブリダイズさせ、WT(Fltp+/+)について16443bp(計算したサイズ)およびFltp::Venus Neo (FltpV/+)対立遺伝子について19133bpのバンドを生じる。(C)WT、FltpV/+およびFltpV/Vを区別する遺伝子型決定PCR(遺伝子型決定のプライマー:5'-CAGCATGGCATAGATCTGGAC-3'、5'-GAGGCTGACTGGGAACAATC-3'、5'-CAAGATCCGCCACAACATCG-3')。WTバンド(317bp);標的化Δneoバンド(430bp))。(D)内因性Fltp(24kDa)およびFltp::Venus融合タンパク質(50kDa)を検出するための抗Fltp抗体を使用した2ヶ月齢オスWTまたはFltpV/+動物の肺および精巣溶解物のウエスタンブロット分析。略語:E1-6:エキソン1〜6;Venus:黄色蛍光レポーター遺伝子;bpA:ウシ成長ホルモンポリアデニル化シグナル;EM7;細菌性プロモーター;loxP:Cre媒介組み換えの部位;neo:ネオマイシン耐性カセット;PG:ホスホグリセリン酸キナーゼ;UTR:非翻訳領域;SP:サザンプローブ;VP:Venusプローブ;3xF:3xFLAGタグ。
図11図11:Fltpプロモーター中に活性Foxa2結合部位を有するFltp、抗体結合部位および種の間のFltp保存。(A)Fltpは、そのプロモーター内にFoxj1、Foxa1およびFoxa2結合部位を示す(模式的遺伝子の下のバー)。(B)2つの推定プロリンリッチリピート(PRR)およびFltp116-1抗体のペプチド配列ならびにFltp1抗体を示すFltpタンパク質の模式図。(C、D)WT、FltpZV/+およびFltpZV/ZV動物の精巣溶解物におけるFltp116-1(C)およびFltp1(D)抗体の特異性を示すウエスタンブロット。Fltpタンパク質バンドは約25kDa(計算した重量20kDa)で検出可能である。(E)Fltp116-1抗体が特異的であることを示す、LSM分析と組み合わせた凍結切片上の免疫組織化学。Fltpは、WT(Ctrl)成体動物の多線毛肺上皮細胞の頂部細胞膜中に線毛に沿って局在するが、FltpZV/ZVの肺では、Fltp免疫反応性は検出されない。略語:エキソン1〜6(E1〜E6);TSS:転写開始部位)。核は4',6-ジアミジン-2-フェニルインドール(DAPI)でマークし、FltpはFltp116-1でマークする。スケールバー;10μm。
図12図12: ヒトFLTPに対するモノクローナル抗体。(A)ヒトFLTPに対する異なるモノクローナル抗体(クローン#13、#28および#43)を用いて染色されたEndoC-β H1ヒトβ細胞のレーザー走査型顕微鏡検査(LSM)。陰性対照として、ヒト胚性幹細胞(hESC)を使用した(示さず)。(B)HEK293Tに一過的にトランスフェクトされ、モノクローナル抗体(クローン#13、#28および#43)により検出されるStrep Flag-タグ付加ヒトFLTPのウエスタンブロット。トランスフェクトされないHEK293T細胞溶解物を陰性対照として使用した。
図13図13:EndoC-β H1ヒトβ細胞におけるFLTP mRNA発現。EndoC-β H1細胞における3D 対 2D条件下で培養したヒトFLTP mRNA発現レベルの有意な増加を示す。
図14-1】図14:マウスおよびヒトβ細胞における3D極性化およびWnt/PCP経路活性化。(a、b)マトリゲル(3D)において培養したEndoC-β H1ヒトβ細胞のレーザー走査型顕微鏡検査(LSM)は、2D条件(b)と比較して、β細胞および成熟マーカーNKX6.1のより高い発現を示す。定量化についてはdを参照(3D:n=2;2D;n=2)。(c、g)2Dと比較した3D(c)およびWnt5aで処理した3DおよびWnt5a処理なしの3D(g)における単一細胞におけるNkx6.1の蛍光強度を示す図。白線は、測定される目的の領域(region of interest)(ROI)を示す(すなわちcについてa、b;gについてe、f)。(e、f)マトリゲル(3D)で培養して、WNT5aで処理したEndoC-β H1細胞のLSMは、3D条件下(f)よりも高いNKX6.1の発現を示す。定量化のためにhを参照(WNT:n=1;対照:n=4)。
図14-2】(i、j)Ucn3成熟マーカー染色の有意な増加を示すWnt5aあり(i)またはなし(j)のいずれかで3日間処理したP5 WT動物の単離した島のLSM。定量化のためにlを参照(Wnt5a処理:n=3;未処理:n=3)。(k)+Wnt5aおよびWnt5a処理なしでの再凝集した島のUcn3の蛍光強度を示す図。(i、j)中の白線は測定されるROIを示す。(m)ぎっしり詰まった3D擬似島を示す、7日目のEndoC-β H1細胞のLSM写真。(n)3Dおよび2D条件下で培養したEndoC-βH1細胞におけるFLTP mRNA発現レベル。d、hについての計測(counting)基準:いくつかの独立した実験の特定の細胞数のNKX6.1蛍光強度を2Dおよび3Dで計測し、中位蛍光強度をIMARISで計算した。閾値として中位蛍光強度を使用した。高い強度を有する全ての細胞を、NKX6.1高として計測し、より低い強度を有する全ての細胞をNKX6.1低細胞として計測した。図14dについて(3D:300のNKX6.1+細胞;2D:221のNkx6.1+細胞)を計測した。図14hについて(WNT:110のNkx6.1+細胞;対照:550のNkx6.1+細胞)を計測した。スケールバー、20μm(a、b、e、f)、10μm(m)。
図15図15:マウスおよびヒトβ細胞における3D極性化およびWnt/PCP経路活性化(さらなるデータ)。(a、b)マトリゲル(3D)中で培養したEndoC-β H1細胞のLSMは、2D下(b)よりも高いβ細胞および成熟マーカーNKX6.1の発現を示す。定量化についてdを参照(3D:n=1;2D:n=1)。(c) 3Dおよび2Dにおける単一細胞のNkx6.1の蛍光強度を示す図。a、bにおける白線は、測定される目的の領域(ROI)を示す。(e、f)P5 WT動物の単離された島のLSMは、未処理島(f)と比較して、Wnt5aで12h処理した(e)島における成熟マーカーUcn3タンパク質のより高い量を示した。定量化についてhを参照(島+ Wnt5a:n=3;未処理島:n=3)。(g)+Wnt5aおよびWnt5aなしの再凝集した島のUcn3の蛍光強度を示す図。(e、f)の白線は、測定されるROIを示す。cの計測基準:いくつかの独立した実験の特定の数の細胞のNKX6.1蛍光強度を2Dおよび3Dで計測し、中位蛍光強度をIMARISで計測した。閾値として中位蛍光強度を使用した。高強度を有する全ての細胞をNKX6.1高として計測し、低強度を有する全ての細胞をNKX6.1低細胞として計測した。図15dについて(3D:571のNKX6.1+細胞;2D:265のNkx6.1+細胞)を計測した。図15vについて(島+ Wnt5a:680の細胞;未処理の島:877の細胞)を計測した。スケールバー20μm(a、b、e、f)。
【発明を実施するための形態】
【0166】
実施例により本発明を例示する:
【実施例】
【0167】
実施例1:材料および方法
動物試験
12h明周期において、マウスを最適の条件下で動物施設に維持した。食物および水は制約なしに与えた。動物実験は、ドイツ動物管理倫理法(German animal care and ethics legislation)に従って行い、地方自治体当局により承認された。
【0168】
8週齢FltpZV/+メスをC57BL/6Jオスとつがいにして、妊娠0日を示す膣栓の出現後にオスから離した。妊娠15.5日目(E15.5)に妊娠メスを安楽死させ、膵臓を取り出した。
【0169】
12時間の絶食後、12週齢マウスにおいて耐糖能試験(GTT)およびインスリン分泌試験(IST)を行なった。簡潔に、マウスに、単一用量のグルコースを腹腔内投与して(2g/体重kg)、グルコース負荷の0、15、30、60および120分後に尾の先端を切断して緩やかに搾って、Freestyle Lite glucometer (Abbot Laboratory, USA)を使用して、血糖値を測定した。血漿インスリン検出のために、グルコース負荷の0、2.5、5、10および20分後に血液試料を採取した(Andrikopoulos, Blair et al. 2008, Ayala, Samuel et al. 2010)。血漿インスリンは、製造業者の指示書に従って超高感度マウスインスリンELISAキット(Chrystal Chem, USA)を使用して、測定した。
【0170】
ストレプトゾトシン(STZ)媒介性糖尿病誘導のために、50nMクエン酸ナトリウム(pH4.5)中に新たに調製したSTZ(Sigma Aldrich, Germany)を5日間、毎日腹腔内注射した(40mg/kg)。Freestyle Lite glucometer (Abbot Laboratory)を使用して、2日毎に血糖値を測定した。最初のSTZ注射の16日後に、記載されるとおりにGTTを行い、マウスを安楽死させた。
【0171】
動物モデルの作製
エキソン6中の翻訳停止コドンを除去し、Venus蛍光タンパク質をFlattopのオープンリーディングフレームに直接融合させて、マウス胚性幹(ES)細胞中で相同組み換えによりFlattop-Venus融合タンパク質を作製した。これらのES細胞から、標的化ES細胞の生殖細胞株伝達(germ lime transmission)によりノックインマウスを作製した。これらのマウスは、Flattopが発現する全ての組織において、野生型Flattopタンパク質と同等の量のFlattop-Venus融合タンパク質を発現する。このFlattop-Venus融合レポーターは、生理学的量で発現し、正常なタンパク質代謝回転を示し、かつ正常な細胞内局在を示すという利点を有する。
【0172】
抗体作製
Fltpタンパク質をより詳細に分析し得るように、中心およびC末端エピトープ(図11)に対して2種類の異なるポリクローナルウサギ抗体を惹起した(図11)。溶解物およびFltp遺伝子が過剰発現またはノックアウトしたかのいずれかの細胞に対して、ウエスタンブロット分析および免疫細胞化学においてこれらの抗体の特異性を確認した(図11)。ヒトFLTPタンパク質をより詳細に分析し得るように、中心およびC末端エピトープに対して3種類の異なるモノクローナルラット抗体を惹起した(図12)。溶解物およびSterp-Flagタグ付加ヒトFLTP cDNAが過剰発現した細胞に対して、ウエスタンブロット分析および免疫細胞化学においてこれらの抗体の特異性を確認した(図12)。これらの抗体は、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼまたは蛍光色素のいずれかにコンジュゲートされた二次抗体を使用して、組織または細胞培養物におけるタンパク質を検出するための一次抗体として使用し得る。
【0173】
全膵臓インスリン含有量
12hの絶食後、動物を安楽死させ、膵臓を迅速に取り出した。膵臓を70%エタノール中5mlの0.2M HClに入れ、均質化して、-20℃で一晩インキュベートした。続いて、均質化した膵臓を、再度70%エタノール中0.2M HClと混合して、-20℃で一晩インキュベートした。1000gで15分間の遠心分離後、上清を1M Tris pH7.5で希釈して(1:2)、次いで分析した。製造業者の指示書に従って超高感度マウスインスリンELISAキット(Chrystal Chem, USA)を使用して、インスリン検出を行った。Bradfordアッセイ(Harlow and Lane 2006)により全膵臓タンパク質含有量を推定した。全膵臓インスリン含有量は、インスリン(ng)/全膵臓タンパク質(μg)として述べられる。
【0174】
LacZ染色および免疫組織化学
ホールマウント臓器染色を以前に記載されるとおりに行った(Huber, Kania et al. 2005)。画像化について、ホールマウントBABB(1部のベンジルアルコール、2部の安息香酸ベンジル)を使用して胚をきれいに(clear)した。免疫組織化学染色について、膵臓試料を4%ホルマリン中で固定して、スクロース勾配中それぞれ1時間(5%、15%、30%)インキュベートにより凍結保護し、Optimum Cutting Temperature (OCT)に包埋した。スライドガラス上で分類した細胞を2% PFAで固定した。
【0175】
DAPI (Life Technology, Germany)で核染色を行った。島β細胞増殖の組織学的評価のために、マウスにEdU溶液(100μg/体重g)を注射し、24時間後に屠殺した。製造業者の指示書に従ってClick-iT(登録商標) Staining Kit (Life Technology)を使用して、EdU染色を行った。Leica共焦点SP5顕微鏡を使用して凍結切片画像化を行なった。定量目的で、染色した細胞を10区画ごとに手動で計測した(14〜15μmの厚さの凍結切片)。ホールマウント臓器染色の定量は、IMARISソフトウェア(Bitplane, Switzerland)を使用して行った。
【0176】
島単離、FACS分析および遺伝子プロファイリング
コラゲナーゼP(Roche, Germany)消化およびOptiprep密度勾配(Sigma)を使用した遠心分離により島単離を行った。単離した島を顕微鏡下で2回手動で選抜した。1〜3時間の培養後、島をPBSで洗浄し、0.25% トリプシン-EDTA (Invitrogen)と共にインキュベートして、単一細胞懸濁物を得た。FACS-Aria III (BD Bioscience)を使用して、単一細胞を選別した。Flow Joソフトウェアを使用して結果を解析した。miRNeasyマイクロキット(Qiagen, Germany)を使用して全RNAを抽出し、Encore Biotin Module (Nugen, USA)と組み合わせてOvation PicoSL WTA System V2により増幅した。増幅したcDNAを、約28,000のプローブセットを含むAffymetrix Mouse Gene ST 1.0アレイ上にハイブリダイズさせた。Encore Biotionプロトコルに提案されるようなわずかな変更を加えた、Affymetrix発現プロトコルに従って染色(Fluidics script FS450_0007)およびスキャニングを行った。品質管理のために発現コンソール(v.1.3.0.187, Affymetrix)を使用して、注釈標準化(annotated normalized)RNA遺伝子レベルデータ(中位研磨およびスケッチ分位標準化(median polish and sketch-quantile normalization)を含む標準設定)を得た。CARMAwebで実行される統計プログラミング環境R(R Development Core Team)を利用して、統計解析を行った。(対応(paired)) limma t-検定およびBenjamini-Hochberg多重検定補正(multiple testing correction) (FDR < 10%)を使用して、差異的発現のためのGenewise試験を行った。CARMAwebおよびRスクリプトhclustを有するクラスターデンドログラムによりヒートマップを作成した。Genomatix Software Suite v3.1 (Genomatix, Munich, Germany)中でGePSモジュールを使用して、1.5x規則化(regulated)遺伝子およびP値<0.005についてGO期および経路富化を行った。
【0177】
系譜追跡試験について、8週齢FltpT2A-iCre-mTmG由来の島を上述のように単離した。FACS分析のために、島を0.25% トリプシン-EDTA (Invitrogen)と共にインキュベートして、単一細胞懸濁物を得て、Nkx6.1について細胞内染色を行った。生体画像化実験のために、FltpT2A-iCre-mTmGから単離された島をマトリゲル中で培養して、Leica共焦点SP5顕微鏡を使用して画像化を行った。
【0178】
抗体
免疫蛍光に使用する一次抗体:ヤギ抗Nkx6.1 (R&D system, Germany, AF5857 1:200);ニワトリ抗GFP (Aves Labs, USA, GFP-1020 1:800);モルモット抗グルカゴン(Millipore, 4031-01F, 1:500);ヤギ抗ソマトスタチン(Santa Cruz, USA, sc-7819, 1:300);ウサギ抗インスリン(Thermo Scientific, USA, PA-18001, 1:300);モルモット抗インスリン(Thermo Scientific, USA, PA-26938, 1:300);ヤギ抗膵臓ポリペプチド(PP) (Abcam, USA, ab77192, 1:300);ウサギ抗Ki-67 (Abcam, ab15580, 1:200);ウサギ抗Urocortin 3 (Phoenix Pharmaceuticals, USA, H-019-29, 1:300);Alexa Fluor 546ファロイジン (Invitrogen,Germany, A22283, 1:200)。
【0179】
間接蛍光染色に使用する二次抗体(全てについて希釈1:800):ヤギ抗ニワトリAlexa Fluor 488 (Dianova, Canada, 103-545-155);ロバ抗ヤギAlexa Fluor 488 (Invitrogen, Germany, A11055);ロバ抗マウスAlexa Fluor 555 (Invitrogen, A31570);ロバ抗ヤギAlexa Fluor 555 (Invitrogen, A21432);ロバ抗ウサギAlexa Fluor 555 (Invitrogen, A31572);ロバ抗ヤギAlexa Fluor 594 (Invitrogen, A11058);ロバ抗マウスAlexa Fluor 594 (Invitrogen, A21203);ロバ抗モルモットAlexa Fluor 649 (Dianova, 706-495-148)。DAPI(Life Technology, Germany)を用いて核染色を行った。製造業者の指示書に従ってClick-iT(登録商標)染色キット(Life Technology)を使用して、EdU染色を行った。
【0180】
統計解析
統計解析は、GraphPad Prism 6 ソフトウェア(GraphPad Software, USA)を使用して行った。2群間の直接比較のためにスチューデントのt-検定を使用した。<0.05のp値は、統計的に有意とみなされた。データは平均±SEM/SDで表す。
【0181】
実施例2: 平面内細胞極性(PCP)エフェクター遺伝子Fltpの発現は、生後のβ細胞成熟の間に強く増加し、成体内分泌細胞において不均一なレベルを示す
臓器形成および機能のために3次元(3D)および自己組織化(self-organized)組織構造が必要である(Eiraku, Takata et al. 2011, Sasai 2013)。島新生の間の組織極性の獲得が、β細胞の機能および成熟に影響を及ぼすかどうかを決定するために、Fltp::H2B-Venusレポーターマウスを使用して、分子レベルで組織極性確立を分析した。
【0182】
Fltpレポーター活性は、内耳および肺、アクチンおよびMT細胞骨格動力学の調節因子としてのFltp機能に依存する組織において、平面内細胞極性(PCP)活性を正確に反映する。Fltpレポーター活性は最初、β細胞が依然コード様構造に組織化され、活発に凝集して3D球状小器官を形成する際の胚性(E)18.5日に分析された。この目的のために、全膵臓を単離して、組織をきれいにし、レーザー走査型共焦点顕微鏡検査(LSM)分析を使用して、Nkx6.1+β細胞の完全な3D組織分布を得た(図8)。興味深いことに、Fltpレポーター発現は、ぎっしり詰まった島に見られるβ細胞に限られたが、コード様構造に組織化されたβ細胞中では検出可能でなかった。さらに、高レベルのNkx6.1もFltpレポーター活性を誘導するが、それは既に形成された島構造だけで起こるように思われた。これらの結果を合わせると、Fltpレポーター活性は平面内細胞極性獲得時に、内耳および肺と同程度に切り替わることが確認された。
【0183】
生後のβ細胞成熟におけるこのPCPエフェクター遺伝子の発現をさらに調べるために(Blum, Hrvatin et al. 2012)、誕生直後の膵臓切片においてFltp::H2B-Venusレポーター発現を分析した(図1A)。β細胞が生後1日目(P1)、Fltpレポーター活性は、Nkx6.1+β細胞の50%未満で検出された。生後最初の10日間で新たに形成された島において成熟する際に、レポーター活性は、β細胞の70%までにおいて急速に増加した。成体マウスにおいて、Fltpレポーター活性は、β細胞の約80%および他の内分泌細胞集団の約50%で検出された(図1C)。これらの結果により、全ての内分泌細胞が不均一なレベルのPCPレポーター活性を発現することが示される。さらに、島新生およびぎっしり詰まることの間のレポーター活性は、島細胞のニッチ(niche)の物理的特性の変化を反映するようであり、全ての島細胞に対する機能的な影響を有し得る。
【0184】
実施例3:Fltp陰性β細胞は、特にβ細胞拡張期間に増加した増殖能を示す
さらなる試験のために、β細胞についてのPCP関連不均一性の生物学的関連性に焦点を当てた。そのため、ホメオスタシスの間、ならびに妊娠誘導性および生後のβ細胞拡張の期間のFltpレポーター陰性β細胞およびFltpレポーター発現β細胞の最初の増殖率を比較した。著しいことに、P1、P3およびP11のFltpレポーター陰性Nkx6.1+β細胞は、膵臓凍結切片におけるKi67免疫反応性により測定した場合、Fltpレポーター発現Nkx6.1+β細胞と比較すると、4倍まで高い複製速度を示した(図2E)。これら2つのβ細胞亜集団の増殖率の同様の4倍までの差は、妊娠の間にも観察された(図2Aおよび2E)。Fltpレポーター陽性細胞の80%から70%への同時発生的かつ有意な減少(図2F)は、主に、妊娠中に、Fltpレポーター陰性細胞が増殖してβ細胞拡張に寄与することを示す。β細胞がホメオスタシスにあり、増殖に抵抗性である生理学的な状態である、随意に食餌を行う成体マウスにおいても、Fltpレポーター陰性β細胞は依然、増加した複製能力を示した(図2C)。これらの増殖試験は、β細胞ホメオスタシスおよび拡張の間に、EdUパルス標識により確認された(図2C)。したがって、これらのデータはまとめて、β細胞の2つの亜集団は、環境条件および細胞極性状態に応じて著しく異なった増殖能力を示すことを示す。
【0185】
実施例4:ヒトFLTPにおけるマウスFltpおよびイントロン性SNPの消失は、インスリン分泌欠損に関連する
β細胞を機能的に連結することおよびインスリン分泌はアクチンおよびMT細胞骨格に依存することが良く確立されている(Kalwat and Thurmond 2013)。PCPエフェクタータンパク質Fltpが成体β細胞機能に必要であるかどうかを分析するために、食餌を与えた成体オスにおける腹腔内グルコース刺激(ipGTT)を使用して耐糖能試験を行った(図3A)。Fltp+/+同腹子と比較して、わずかではあるが有意ではないグルコースクリアランスにおける遅延が、FltpZV/ZVおよびFltpZV/+マウスにおいて観察された。また、全膵臓インスリン含有量においては、Fltp+/+、FltpZV/+およびFltpZV/ZVマウスの間で有意な差は観察されなかった(図3B)。興味深いことに、Fltp+/+同腹子と比較すると、ホモ接合子変異体において、第2段階インスリン分泌(図3D)ではなく第1段階インスリン分泌(図3C)が遅延されると思われ、これは、PCP活性およびFltp機能が、β細胞のグルコース誘導インスリン分泌に必要であることを示唆する。
【0186】
ヒトオルソログ遺伝子C1Orf192も、代謝特性に関連するかどうかの第1の証拠を調べるために、2100ヒト前糖尿病および糖尿病の被験体のコホートにおける遺伝的な関連について10+ SNPをスクリーニングした。興味深いことに、これは、0.2の重要ではない対立遺伝子頻度でイントロン性SNP rs75715534が、やせた被験体(BMI<25)においてインスリン分泌の増加に有意に関連があるが、肥満被験体(BMI>35)においては、同じSNPがインスリン分泌の低下に関連した(図4AおよびB)ことを明らかにした。これらの結果は、ヒトFLTPが、代謝要求に対して異なる反応を示し、一般的にグルコース誘導インスリン分泌に重要であることを示唆する。これらのデータは一緒になって、平面内細胞極性時に確立されるFltp依存性細胞骨格再配列が、β細胞のグルコース誘導インスリン分泌に重要であることを示唆する。
【0187】
関連性分析
被験体。該試験集団は、2型糖尿病についての進行中のTuebingen Family試験から募集した、2型糖尿病のリスク(2型糖尿病の家族性病歴、ボディーマス指数(BMI)≧27kg/m2、空腹時血糖異常上昇、および/または以前の妊娠糖尿病)を有する2,228名の白人からなった(1)。全ての参加者は、病歴、喫煙状態およびアルコール消費習慣の評価を受けており、該被験体はさらに、身体検査、日常的な血液検査および経口耐糖能試験(OGTT)を受けることに同意した。完全な表現型的および遺伝子型的データセットを有し、グルコース耐性、インスリン感受性またはインスリン分泌に影響を及ぼすことが知られている医薬の非存在が文書で証明されている個体のみを含んだ。全ての試験参加者は、ヘルシンキ宣言を遵守した試験について文書化されたインフォームドコンセントを提出した。
【0188】
試験プロトコルは、OGTTおよび実験室測定により承認された。10時間一晩の絶食後に標準化された75g OGTTを行った。血漿グルコース、インスリンおよびCペプチドレベルの測定のために、ベースラインならびにOGTTの30、60、90および120分の時点で静脈血試料を採取した(Stefan, Machicao et al. 2005)。血漿グルコースレベル(mmol/L)は、ベッドの傍らのグルコース分析器(グルコースオキシダーゼ法、Yellow Springs Instruments, Yellow Springs, OH, USA)により測定した。血漿インスリンおよびCペプチドレベル(両方pmol/L)は、ADVIA Centaur (Siemens Medical Solutions, Fernwald, Germany)についての市販の化学発光アッセイにより測定した。BMIは、体重を身長の2乗で割ったものとして計算した(kg/m2)。OGTT由来インスリン感受性は、以前に提唱されたように推定した(Matsuda and DeFronzo 1999):10,000/[c(Glc0)*c(Ins0)*c(Glc平均)*c(Ins平均)]1/2(式中、c=濃度、Glc=グルコース、およびIns=インスリン)。OGTT由来インスリン分泌は、式:[c(Cpep0)+c(Cpep30)]/[c(Glc0)+c(Glc30)](式中、Cpep=Cペプチド)に従って、曲線下面積(AUC) Cpep0-30/AUC Glc0-30として推定した。Eberhard Karls University Tuebingenの倫理委員会。
【0189】
タグ付加SNPの選択および遺伝子型決定。1000のゲノムプロジェクトの公に利用可能なデータ(http://browser.1000genomes.org/index.html)に基づいて、発明者らは、C1orf192遺伝子(3.143kb、5個のエキソン、4個のイントロン、リバース鎖上に位置)および2kbの遺伝子の5'-側方領域にわたるヒト染色体1q23.3上のゲノム領域をコンピューター上で解析した。解析したC1orf192座内に36個のSNPが見られた。Haploview (broadinstitute.org/scientific-community/science/programs/medical-and-population-genetics/haploview/haploviewのWordl Wide Web参照)のタグ付加体(tagger)解析ツールを使用して、r2≧0.8を有する他の共通のSNP(≧0.01の重要でない対立遺伝子頻度)の全てをカバーする7個のタグ付加SNPを同定した。これらのSNPは、5'-側方領域中rs17399583(C/T)、rs11584714(C/G)およびrs57835711(C/G)、イントロン1中rs114482063(A/T)およびrs182840301(C/A)、ならびにイントロン3中rs16832872(G/A)およびrs75715534(C/G)であった。遺伝子型決定について、市販のキット(NucleoSpin, Macherey & Nagel, Dueren, Germany)を使用して、全血からDNAを単離した。Sequenomの質量分析システムmassARRAYおよび製造業者のiPLEXソフトウェア(Sequenom, Hamburg, Germany)を使用してタグ付加SNPの遺伝子型を決定した。コールレート(callrate)は≧96.1%であった。両方向配列決定により、質量分析結果を50名のランダムに選択した被験体において検証し、両方の方法は100%同一の結果をもたらした。
【0190】
統計解析。非正規分布を有する連続変数をloge変換した後に統計解析を行った。最小二乗法を使用して多重線形回帰分析を行った。回帰モデルにおいて、結果変数としてインスリン分泌、独立変数としてSNP遺伝子型(優性遺伝モデルにおいて)、ならびに混乱(confounding)変数として性別、年齢、BMIおよびインスリン感受性を選択した。インスリン分泌に対するSNP-BMI相互作用効果を、混乱変数として、性別、年齢およびインシュリン感受性と共に共分散分析(ANCOVA)により試験した。7個全てのタグ付加SNPを並行して試験した場合、Bonferroni-補正p値<0.0073は統計的に有意であるとみなした。全ての解析について、統計ソフトウェアJMP 8.0 (SAS Institute, Cary, NC, USA)を使用した。
【0191】
実施例5:Fltpの消失は、ストレプトゾトシン処理に対してβ細胞をより感受性にする
β細胞生存および再生に関してPCPおよびFltpの必要性をさらに試験するために、複数の低用量ストレプトゾトシン(STZ)モデルを使用した(Kolb 1987)。ストレプトゾトシンは、β細胞に対して特に毒性のある天然に存在する化学物質である。この目的のために、FltpZV/+およびFltpZV/ZVコホートにおいてSTZを連続して5日間注射し、その後血糖調節を2日毎に測定した(図5C)。これにより、Fltp用量依存的な様式で、最初の注射後16日目まで血糖調節およびβ細胞機能は徐々に低下したことが明らかになった。最初のSTZ注射の16日後に行ったipGTTにより、FltpZV/+同腹子と比較して、FltpZV/ZVマウスは、有意によりグルコース耐性であることが明らかになった(図5B)。ビヒクルおよびSTZ処理動物由来の膵臓切片上の免疫組織化学により、β細胞の段階的な消失が確認され(図5A)、分析した段階では、β細胞再生の徴候を何ら示さなかった。したがって、β細胞内のFltpおよび平面内極性化の消失は、STZに対する影響の受けやすさを高める。
【0192】
実施例6:分子的プロファイリングによりFltpレポーター発現β細胞の増加した成熟状態が明らかになる
これまでに示されたデータにより、Fltp媒介平面内極性化は、β細胞を増殖性β細胞およびより成熟したβ細胞に細別することが明らかに示された。分子レベルでのこれらのPCPが媒介する差をよりよく理解するために、Fltp::H2B-Venusレポーターを使用した。成体の島を生理学的ホメオスタシス条件下で動物から精製し、Fltpレポーター陰性およびFltpレポーター発現内分泌亜集団を、蛍光細胞分析分離(FACS;図6AおよびB)を使用して単離した。Fltpレポーター陰性およびFltpレポーター発現内分泌細胞集団の純度をサイトスピン(cytospin)により調整し、Venus蛍光マーカーについてほぼ100%に達し、両方の集団の約80%がβ細胞になった(Nkx6.1によりマークした)(図6C)。
【0193】
Fltpレポーター陰性およびFltpレポーター発現内分泌亜集団は、cDNA増幅およびAffymetrix遺伝子アレイを使用した発現プロファイリング後、著しく異なるmRNA発現のレベルを示した(図6D)。1887個の遺伝子はアップレギュレートされ、1800個の遺伝子は1.5倍を超えて有意に(p<0.005)ダウンレギュレートされる。著しいことに、偏りのない遺伝子存在論(gene ontology)(GO)期間分析により、Fltpレポーター陰性集団は、細胞増殖、アクチン結合、Wnt/PCP、TGF受容体、Gタンパク質共役受容体、ERKのシグナル伝達に関連する遺伝子の有意な富化を示し、Fltpレポーター発現集団は、代謝プロセス、糖代謝、ミトコンドリアおよびインスリン分泌に関係する遺伝子などの成熟β細胞機能に重要である遺伝子の有意な富化を示すことが明らかになった(図6E)。
【0194】
一緒にすると、Fltpレポーター陰性およびFltpレポーター発現内分泌集団の分子的プロファイリングにより、Fltpレポーター陰性細胞は、極性化が低く、よりナイーブな前駆細胞の集団を構成し、Fltpレポーター陰性細胞は、高度に極性化され、より成熟しかつより高いレベルの解糖酵素、極性化マーカーおよび主要なβ細胞制御経路に対するシグナル伝達受容体を発現することが明確に明らかになった。
【0195】
実施例7:Fltpレポーター陰性β前駆細胞は、直接Fltpレポーター発現成熟β細胞になる
Fltpレポーター陰性β細胞がFltpレポーター発現β細胞の前駆体であるかどうかを直接試験するために、Creリコンビナーゼ/loxP媒介遺伝的系譜追跡アプローチを使用した。このために、以前に確立されたFltp-T2A-iCreマウス系統(Lange, Gegg et al. 2012)を、mTmGレポーターマウス系統(Muzumdar, Tasic et al. 2007)と交配した。Fltpプロモーター駆動Cre発現の際に、膜Tomato (mT)蛍光レポーター遺伝子は、膜GFP (mG)に切り替わり、これは不可逆的であるために、細胞運命分析が可能になる。
【0196】
これらの交配マウス(crossings)の島を単離して、インビトロで培養した。培養条件を確立するために、最初に、β細胞は、Fltpレポーター発現を維持するためにWnt/PCPシグナル伝達に依存するかどうかを試験する。したがって、古典的(canonical)Wnt/β-カテニン(Wnt3a)および非古典的Wnt/PCP経路(Wnt5a)のリガンドの非存在下または存在下で島を培養した。これらの実験は、Fltp-レポーター遺伝子発現が実際に、古典的Wntシグナル伝達ではなくWnt/PCPに依存することを示した。これらの培養条件と、単一生細胞画像化の併用により、本発明者が、新生Fltp-Cre発現mTおよびmG発現細胞を2〜4日の時間経過にわたり追跡することが可能になる。この時間経過にわたる単一細胞の追跡、その後の固定およびβ細胞マーカーNkx6.1の染色により、mT発現細胞(Fltp陰性)細胞が、mG発現細胞(Fltp発現)になることが明確に明らかになり、これは、成体島が、Wnt/PCP依存的に高度に極性化され、増殖性がより低いFltp発現成熟β細胞集団になり得る、Fltp陰性低極性化、高増殖性前駆体集団を含むことを示唆した。
【0197】
実施例8:Nkx6.1発現β細胞前駆体は、その後ランゲルハンス島において配列されるコード様構造を形成する
E18.5でホールマウント染色されBABB清掃化(clear)された膵臓におけるNkx6.1発現β細胞の分析は、コード様構造を示す。生後の成熟期間に、細胞は、ぎっしり詰まった3D構造になる。Fltpレポーターは、島と比較して、コード様構造中に位置するb細胞中には非存在である。成熟中のFltpレポーター発現の増加(図1B)およびコード様構造の島への形態の変化と一緒にすると、Fltp発現は島形成に関連することが示される。
【0198】
実施例9:lacZおよびH2B-VenusのFltp座へのノックイン/該座のノックアウト
インビボにおけるFltp発現および機能を調べるために、完全なORFがマルチシストロニックなlacZ-Venusレポーターカセットで置換されたFltpZVノックイン/ノックアウト対立遺伝子を作製した。これは、核局在化シグナル(NLS)タグ付加β-ガラクトシダーゼ(lacZ)レポーター遺伝子、その後に共翻訳切断のための間にあるウイルス性Thosea Asigma 2Aペプチド(T2A)および非常に明るいヒストン2B(H2B)-Venus蛍光レポーター遺伝子を含んだ。サザンおよびウエスタンブロット分析により、標的化相同組み換えおよびヌル対立遺伝子の作製を確認した。
【0199】
図9に示されるように、ノックイン/ノックアウト構築物を設計した。鋳型としてC57BL/6J BACクローン(RP23-333P11)を使用して、Fltp遺伝子についての5'および3'HRをPCRで増幅した(449fwd 5'HR AscI:5'-NNNGGCGCGCCAGTCAGGAAGTGGAAGAGAAGAACACAG-3';450rev 5'HR HindIII、SpeI:5'-NNNAAGCTTACTAGTGTGGTGGAGTGCCTGTCTACATGTG-3';451fwd 3'HR HindIII:5'-NNNAAGCTTCACGACAGTCAAAGCTGCAATAGAAC-3';452rev 3'HR BamHI:5'-NNNGGATCCGGTAATTTGGCAATTATAGAACTCAGGC-3')。AscIおよびBamHIを使用して、これら2つのPCR産物をpL254ベクターにサブクローニングした(Liao, Uetzmann et al. 2009)。得られたベクターをHindIIIおよびSpeIで消化し、Fltp BACクローンを含むエレクトロコンピテント(electrocompetent)EL350細菌にエレクトロポレートし、PCR相同性アームの間でWT配列を回復(retrieve)し、Fltp回復ベクターを生じた。エキソンのATGへのノックインのために、ノックイン/ノックアウトカセットをpBKS-5'および3'HRにクローニングするために、前述のBACを鋳型として使用し、2つのFltpをPCR(453fwd 5'HR SacII:5'-NNNCCGCGGAGCAGACTTAACTATGTTGGGGAAACAGC-3';454rev 5'HR SalI、NotI:5'-NNNGTCGACGCGGCCGCTGTTTACACTTGTTGCCTGGCAACTG-3';455fwd 3'HR SalI:5'-NNNGTCGACGGTCCTAGTCTAGCTGAGGTCCAGATC-3';456rev 3'HR KpnI:5'-NNNGGTACCATGCTGTGGGAGTCACTGACATTCTTG-3')により作製し、導入された制限部位を使用し、pBKS-にサブクローニングして、pBKS--Fltp-HomArmsを得た。標的化ベクターの作製のための第1の工程は、5'NotIおよび完全Kozak配列(025:5'-NNNGCGGCCGCGCCACCATGCCAGAGCCAGCG-3')および3'XbaI部位(026:5'-NNNTCTAGACTTAGCGCTGGTGTACTTGGTGATGG-3')を導入するH2B(ヒストン2B)のためのオリゴヌクレオチドをサブクローニングして、pBKS--H2B-Venus-イントロン-SV40pAプラスミドを構築することであった。このPCR産物をpBKS-(両方NotI、XbaIで切断する)にライゲートし、pBKS--H2Bを得た。次の工程は、Venusレポーター遺伝子(黄色蛍光タンパク質)を再度、XbaI部位を含むフォワード(fwd)プライマー(013:5'-NNNTCTAGAATGGTGAGCAAGGGCGAGGAGCTGTTC-3')およびSpeI部位を含むリバース(rev)プライマー(014:5'-NNNACTAGTTTACTTGTACAGCTCGTCCATGCCGAGAG-3')を用いてPCRにより導入することであった。このPCRおよびベクターpBKS--H2BをXbaIおよびSpeIで消化し、ライゲートして、pBKS--H2B-Venusを得た。構築物を完成するために、SpeIを含むfwdプライマー(011:5'-NNNACTAGTAGGTAAGTGTACCCAATTCGCCCTATAG-3')およびBamHIを含むrevプライマー(012:5'-NNNGGATCCACGCGTTAAGATACATTGATGAGTTTGGAC-3')を使用して、イントロン-SV40pAオリゴヌクレオチドを作製した。両方SpeIおよびBamHIで切断して、このオリゴヌクレオチドをpBKS--H2B-Venusにサブクローニングし、pBKS--H2B-Venus-イントロン-SV40pAプラスミドを得た。次の工程は、PL-452ベクター(Liu, Jenkins et al. 2003)をSalIおよびBamHIで消化して、loxP隣接ネオマイシン(neo)耐性カセットを導入することであった。消化されたベクターを、SalIおよびBamHIで切断して開環されたpBKS--H2B-Venus-イントロン-SV40pAプラスミドにライゲートして、pBKS--H2B-Venus-イントロン-SV40pA-loxP-bGHpA-neo-EM7-PGK-loxP(pBKS--H2B-Venus-neo)を得た。以降のクローニング工程について、MluIで切断して、5'突出をKlenowポリメラーゼで埋め、ベクターを再度ライゲートして、SV40pA中に位置するMluI部位を破壊する必要があった。NotI適合性突出を作製する以下のオリゴ2A_fwd(5'-GGCCGCACGCGTTTGAAGGTAGAGGCTCTTTACTAACATGCGGCGACGTTGAGGAAAACCCAGGACC‐3')および2A_rev (5'‐GGCCTGGTCCTGGGTTTTCCTCAACGTCGCCGCATGTTAGTAAAGAGCCTCTACCTTCAAACGCGTGC‐3')をアニーリングして、Thosea asignaウイルス由来のT2A配列を、pBKS--H2B-Venus-neoのNotI部位に導入し、pBKS--2A-H2B-Venus-neoを得た。H2B-Venus構築物の前にNLS-lacZ(核局在化シグナル-b-ガラクトシダーゼ融合タンパク質)をクローニングするために、本発明者は、NLS-lacZ含有ベクターの外側のPCRにより、NLS-lacZを増幅した。本発明者は、5'末端にNotI部位を有するfwdプライマー340(5'-NNNGCGGCCGCGCCACCATGAACCTTGAAGCTCGAAAAACAAAG-3')および3'末端にAscI部位を含むrevプライマー341(5'-NNNGGCGCGCCTTTTTGACACCAGACCAACTGGTAATGGTAGC-3')を使用した。PCR産物をNotIおよびAscIで消化し、NotIおよびMluIで消化したpBKS--2A-H2B-Venus-neoベクターにライゲートし、pBKS--NLS-lacZ-2A-H2B-Venus-neoを得た。小さな標的化構築物(minitargeting construct)を完成するために、本発明者は、pBKS--NLS-lacZ-2A-H2B-Venus-neoをpBKS--Fltp-HomArms(両方NotIおよびSalIで切断)にクローニングした。小さな標的化構築物をSacIIおよびKpnIで切断して、EL350細菌にエレクトロポレートし、細菌相同組み換えによりPL254に導入し、最終標的化構築物(PL254-Fltp-NLS-lacZ-2A-H2B-Venus-イントロン-SV40pA-loxP-bGHpA-neo-EM7-PGK-loxP)を得て、これを配列決定により確認したが、これは(AscIにより直線化後)胚性幹(ES)細胞にエレクトロポレートされる準備ができている。
【0200】
実施例10:Fltp-Venus融合ノックイン戦略および確認
図10に示すようにノックイン構築物を設計した。Fltp回復ベクターを実施例9に記載されるように作製した。
【0201】
エキソンのATGへのノックインのためのpBKS-5'および3'HRへのノックインカセットのクローニングのために、2つのFltpを、鋳型としてC57BL/6J BACクローン(RP23-333P11)を使用して、以下のプライマー:NotIおよびXbaIで消化した1228fwd 5'HR:5'-NNNGCGGCCGCGGTTGGATTCTGAGGCTGACTGGG-3'および1229rev 5'HR:5'-NNNTCTAGACTTGGTGCTCTTACAAGGGCTCGG-3';EcoRIおよびHindIIIで消化したEP1230 fwd 3'HR:5'-NNNGAATTCGTCCTAGTCTAGCTGAGGTCCAGATCTATG-3'およびEP1231 rev 3'HR:5'-NNNAAGCTTGTGGGAGTCACTGACATTCTTGTTAACC-3'を用いて、PCRにより作製した。5'HRのSTOPコドンを排除し、下流配列を導入した融合構築物を得た。5'および3'HR PCR産物を、導入された制限部位を使用して、pBKS-にサブクローニングし、pBKS--Fltp-Hom Armsと称されるプラスミドを得た。
【0202】
Venus融合レポーター遺伝子および3xFLAGタグを標的化構築物に導入するために、XbaI部位を含むプライマー1126fwd (5'-GCGGCCGCAGCCACCATGTCTAGAATGGTGAGCAAGGGCGAGGAGCTGTTC-3')、ならびにSpeI部位およびC末端3xFLAGタグ配列を含む1201 rev (5'-NNNACTAGTTCACTTGTCATCGTCATCCTTGTAATCGATGTCATGATCTTTATAATCACCGTCATGGTCTTTGTAGTCCTTGTACAGCTCGTCCATGCCGAGAGTGATCC-3')を使用して、pBKS-Venusベクター(Nagai, Ibata et al. 2002)からVenus配列を増幅した。Venus-3xFLAGの得られたオープンリーディングフレームを、XbaIおよびSpeIによる消化後、Fltp配列とインフレームで、pBKS--Fltp-HomArmsベクターにクローニングした。
【0203】
次の工程において、loxP部位が隣接したPGKプロモーター由来ネオマイシン耐性遺伝子(loxP-bGHpA-neo-EM7-PGK-loxP)を、BamHIおよびEcoRIを介してPL-452ベクターからクローニングして(Liu, Jenkins et al. 2003)、Venus-3xFLAG配列の3'をサブクローニングして、pBKS--Fltp-HomArms-Venus-3xFLAG-融合-loxP-Neo-loxPを得た。その後、小さな標的化カセットを、NotIおよびHindIIIで切断して、EL350細菌中の細菌性相同組み換えにより、Fltp回復ベクターpL254に導入して、最終標的化構築物pL254-Fltp-Venus-3xFLAG-融合-loxP-bGHpA-neo-EM7-PGK-loxPを得た。これを配列決定により確認した。AscIにより標的化ベクターを直線化して、ES細胞にエレクトロポレートした。
【0204】
実施例11:Fltp抗体エピトープおよび結合特異性
以前に記載されたように(Lange, Gegg et al. 2012)、Fltp抗体を作製した。Fltpタンパク質を生化学的および細胞生物学的に分析するために、ウサギにおいて、ペプチド配列:FltpについてDNPDEPQSSHPSAGHTおよびFltp116-1についてKPFDPDSQTKQKKSVTKTVQ(Pineda, Berlin, Germany)を使用して、マウスFltpに対する、2つの親和性精製ポリクローナル抗体(Fltp1、Fltp116-1)を惹起した。Fltp1エピトープは、Fltpタンパク質のあまりよく保存されていないC末端部分のPRR内にある(図11B)。それにもかかわらず、ヒトおよびマウスの配列はほとんど完全に同様である。Fltp116-1エピトープは、Fltp1エピトープに対してN末端にあり、ヒトにおいてはあまり保存されていない。
【0205】
ヒトFLTPに対するさらなるラットモノクローナル抗体(クローン#13、#28および#43)を、ペプチド配列KPHDPDSQKKLRKKSITKTVQを使用して調製した(図12)。EndoC-β H1を、以前に記載されたように(Ravassard et al. (2011)、付着させて(in adherence)(2D培養)中で培養し、以下のように染色した:細胞を4%パラホルムアルデヒド(PFA)中、37℃で10分間固定し、0.2% Tweenおよび0.3% BSAを含むPBS(洗浄バッファ)で、室温(RT)で3回洗浄し、RTで、振盪器上で30分間、浸透化(permeabilize)させた。続いて、細胞を再度、洗浄バッファで3回、RTで洗浄し、ブロッキングバッファ(0.02% Tween、10% FCS、0.2% BSA、3%血清を含むPBS)中、RTで1時間ブロッキングした。次いで、ブロッキング溶液中に一次抗体を添加して、4℃で一晩インキュベートした。細胞を洗浄バッファ中で3回洗浄し、マウスIgG2b抗ラットIgG2b抗体(希釈1:2)と、RTで2時間インキュベートした。次いで細胞を洗浄バッファ中で3回洗浄し、ロバ抗マウスIgG488(Invitrogen, A21202)(希釈1:800)と、RTで2時間インキュベートし、洗浄バッファ中で3回洗浄し、その後の画像化のためにElvanolに包埋した。製造業者のガイドラインに従ってLeica SP5共焦点顕微鏡を用いた、画像化を行った。63x グリセロール対物レンズを使用した。図12Aは、内因性FLTPタンパク質が、EndoC-β H1ヒトβ細胞の細胞質に局在することを示す。
【0206】
ウエスタンブロッティング実験(図12B参照)のために、Flag-タグ付加FLTP Strepを一過的にトランスフェクトしたHEK293T細胞を使用して、一方でトランスフェクトしていないHEK293T細胞を対照として使用した。EndoC-β H1ヒトβ細胞由来のcDNAを使用して、PCRによりヒトFLTPコーディング配列を得た。以下のプライマー:
フォワード(NotI) 5'-GCGGCCGCGCCACCATGGCCACTAACTACAGTGCCAAC-3'
リバース(Eco-RI) 5'-NNNNGAATTCTAAGGATTTGGCTGGTCTTTGGGGACC-3'
を使用した。
NotIおよびEco-RI制限酵素を使用して、ヒトFLTPコーディング配列をpCAG Strep Flag-タグプラスミドにクローニングし、FLTP Strep Flag-タグ付加プラスミドを得た。HEK 293TにFLTP Strep Flag-タグ付加プラスミドを、ポリエチレンイミン(PEI)を使用して一過的にトランスフェクトした。
【0207】
ウエスタンブロッティングについて、タンパク質インヒビターを有するRIPAバッファに試料を再懸濁し、氷上で20分間インキュベートした。細胞溶解物を14000rpmで30分間、4℃で遠心分離し、タンパク質を含む上清を回収した。Bradford Assayを使用してタンパク質濃度を測定した。各試料について、20μgのタンパク質を、ジチオトレイトール(DTT)を有する4x SDS充填バッファと、1:4で混合し、95℃で5分間変性させた。変性SDSポリアクリルアミドゲル(10%)上、125Vで約1.5時間、タンパク質を分離した。30分間、0.44mAおよび25Vのセミドライブロットによりタンパク質をニトロセルロース膜に転写した。その後、膜をPonceau-S溶液中でインキュベートして成功裡の転写を確認し、PBS-T(PBS+0.2% Tween)中で洗浄して、脱色した。膜をPBS-T中5%の粉乳で2時間ブロッキングした。その後、膜を、PBS-T中の一次抗体と、4℃で一晩、回転させながらインキュベートした。膜をPBS-Tで10分間、3回洗浄した後、PBS-T中の二次抗体を添加して、RTで1時間インキュベートした。膜を再度、PBS-Tで3回、振盪しながら洗浄した。溶液1と2を1:1の比で混合してECL(増強化学発光溶液)を調製した。膜を該溶液ですすいだ後、プラスチックホイルに包んで、X線フィルムカセットに配置した。膜をフィルムに10秒〜5分間曝露して、その後フィルムを現像した。
【0208】
実施例12:EndoC-β H1ヒトβ細胞中のFLTP mRNA発現
3Dおよび2D条件下で培養したヒトβ細胞中のFLTP mRNA発現レベルを調べるために、EndoC-β H1ヒトβ細胞を、マトリゲル(3D)中で培養して、2D条件と比較した。EndoC-β H1ヒトβ細胞株を、以前に記載されたように(Ravassard et al. 2011)、付着させて培養した(2D培養)。3Dマトリゲル系の培養について、EndoC-β H1を、それぞれの培地中に1:2に希釈したMatrigel Matrix Growth Factor Reduced (BD Bioscience, Germany)中で培養した。
【0209】
mRNA単離のためにmiRNeasy Micro Kit (Qiagen)を使用した。最初に、700μl QIAzol Lysis Reagentを100万細胞までの細胞ペレットに添加した。ピペッティングおよびボルテックスにより試料を破砕して、RTで5分間インキュベートした。140μlのクロロホルムを試料に添加して、次いで15秒間ボルテックスにかけてRTで3分間インキュベートした。12,000xg、4℃での15分間の遠心分離後、上部の水相を新しいチューブに回収した。100%エタノールを、試料の1.5倍容量まで添加して、ピペッティングにより混合した。700μlの試料を、2mlの回収チューブ中のRNeasy Min Eluteスピンカラムに移し、≧8000xgで15秒間遠心分離した。フロースルー(flow through)を廃棄した。10μlのDNaseIおよび70μlのRDDバッファを混合し、カラムの膜上でピペッティングすることによりDNase消化を行い、RTで15分間インキュベートした。700μlのバッファRWTをカラムに添加して、さらに15秒間≧8000xgで遠心分離した。フロースルーを廃棄して、500μlのRPEバッファを添加し、≧8000xgで15秒間カラムを遠心分離した。フロースルーを廃棄した後、500μlの80%エタノールを添加して、カラムを≧8000xgで2分間遠心分離した。再度、フロースルーおよび回収チューブを廃棄して、カラムを別のチューブに配置した。膜を乾燥させるために、カラムのふたを開けて、全速で5分間遠心分離した。フロースルーおよび回収チューブを廃棄して、カラムを新しい回収チューブに配置した。14μlのRNase非含有水を膜の中心において、RNAを溶出し、全速で1分間遠心分離して、RNAを回収した。単離されたRNAの純度および濃度は、nanodropを使用して測定した。それぞれの試料について、Super Script Kit (Invitrogen,Germany)を使用して、1μgのRNAをcDNAに合成した。4μlの5x Vilo Reaction Mixおよび2μlのSuper Skript Enzyme MixをRNAに添加して、ヌクレアーゼ非含有水を20μlまで満たした。Eppendorfチューブ内の混合物を、以下のプログラム:25℃で10分、42℃で60分、85℃で5分でヒートブロックに配置した。
【0210】
製造業者の指示書に従いTaqMan qPCRを評価して、以下のプローブGAPdh Hs-02758991_g1および(Fltp) C1orf192 Hs01595277_g1を使用した。
【0211】
図13に示すように、EndoC-β H1ヒトβ細胞中のFLTP mRNA発現は、これらの細胞が小さな島および細胞連結を形成する際に増加する。
【0212】
実施例13:FLTPの発現は、他の成熟マーカーの発現に相関し、ぎっしり詰まることおよび非古典的WntリガンドWnt5aの添加により誘導される
FLTPがβ細胞についての新規の成熟マーカーであることを確認するために、FLTP発現と、別の成熟マーカー、すなわちEndoC-β H1細胞中の成熟マーカーNKX6.1(例えば、Ravassard et al. 2011に記載される)、および再凝集した生後の島におけるもの(Ucn3)の発現を相関させた。
【0213】
EndoC-β H1ヒトβ細胞株を、以前に記載されたように(Ravassard et al. (2011))、付着させて(2D培養)培養した。3Dマトリゲル系の培養について、EndoC-β H1を、それぞれの培地中1:2に希釈したMatrigel Matrix Growth Factor Reduced (BD Bioscience, Germany)中で培養した。WNT5a誘導β細胞成熟の分析のために、試料を、400ng/mlのWNT5a (R&D systems, Germany)で、12時間または3日間刺激した。
【0214】
EndoC-β H1細胞の染色を、以下の通りに行った:細胞を37℃で4% PFA中で10分間固定し、0.2% Tweenおよび0.3% BSAを含むPBS(洗浄バッファ)を用いてRTで3回洗浄し、RTで30分間、振盪器上で浸透化させた。続いて、細胞を、再度洗浄バッファを用いてRTで3回洗浄し、ブロッキングバッファ(0.02% Tween、10% FCS、0.2% BSA、3%血清を含むPBS)中、RTで1時間ブロッキングした。次いで、ブロッキング溶液に一次抗体を添加して、4℃で一晩インキュベートした。細胞を洗浄バッファ中で3回洗浄し、二次抗体と共に、RTで2時間インキュベートし、洗浄バッファ中で3回洗浄して、その後の画像化のためにElvanolに包埋した。製造業者のガイドラインに従ってLeica SP5共焦点顕微鏡により画像化を行った。63xグリセロール対物レンズを使用した。
【0215】
5日齢のマウスから、マウス膵臓のランゲルハンス島を単離した。動物の頭部切断の後、膵臓を切除して、10% BSAを含むHBSS(ハンクス平衡化塩溶液)(G溶液)中、コラゲナーゼP(1mg/ml)を補充し、37℃で15分間インキュベートした。膵臓を、G溶液中RTで2回洗浄し、立体顕微鏡(Leica)下で島を選抜した。島を、RPMI 1640 + 5% FCS(ウシ胎仔血清)および1% P/S (ペニシリンおよびストレプトマイシン)中でインキュベートした。その後、島を、0.05%トリプシン15を用いて37℃で、トリプシン処理し、PBS + 0.3% BSAで2回洗浄し、次いでiBidi 8ウェルチャンバー中に播種した。免疫組織化学のために上述のプロトコルを使用した。Leica LAS-AF (バージョン2.7.3.9723)ソフトウェアにより蛍光強度を計算し、エクセルによりグラフをプロットした。
【0216】
図14および15に示すように、EndoC-βH1細胞中単一の細胞が小さな島にぎっしり詰まる際に成熟マーカー発現が増加する(図14a〜d;図15a〜d)。
【0217】
一緒に、アップレギュレートされたFLTP発現と別のβ細胞成熟マーカーの相関のこれらの所見により、FLTPは、β細胞成熟のための新規の成熟マーカーであることが確認される。
【0218】
Wnt/PCPシグナル伝達がβ細胞成熟の誘導に重要であることをさらに確認するために、EndoC-βH1および新生の単離された島を、非古典的 WntリガンドWnt5aで刺激した。図14e〜lおよび図15e〜hに示されるように、Wnt5a刺激も、成熟マーカーの発現の増加を生じた。
本発明の態様として、以下のものが挙げられる。
[1]成熟β細胞と未成熟前駆β細胞を区別するためのバイオマーカーFlattop(Fltp)の使用。
[2]成熟β細胞と未成熟前駆β細胞を区別するための方法であって、該方法は、β細胞中のバイオマーカーFlattop(Fltp)の存在または非存在を決定する工程を含み、ここで該細胞中のFltpの存在は、該細胞が成熟β細胞であることを示し、該細胞中のFltpの非存在は、該細胞が未成熟前駆β細胞であることを示す、方法。
[3]Fltpの存在または非存在が、(i)核酸レベル、(ii)アミノ酸レベル、または(iii)それらの組合せで決定される、[2]記載の方法。
[4]Fltpの存在または非存在が、免疫組織化学、生細胞画像化、ウエスタンブロット、ノーザンブロット、PCR、RNAインサイチュハイブリダイゼーションまたはそれらの組合せにより決定される、[2]または[3]記載の方法。
[5]未成熟前駆β細胞を成熟β細胞に分化させるのに適した化合物を同定する方法であって、該方法が、
(a) 未成熟前駆β細胞を含む細胞集団と試験化合物を接触させる工程、および
(b) 続いて該細胞集団内に含まれるβ細胞中のバイオマーカーFlattop(Fltp)の存在または発現レベルを決定する工程
を含み、
ここで試験化合物との接触後の該細胞集団に含まれるβ細胞中のFltpの存在またはFltpの発現レベルの増加は、未成熟前駆β細胞を成熟β細胞に分化させるのに適した化合物を示す、方法。
[6]成熟β細胞の脱分化を防ぐのに適した化合物を同定する方法であって、該方法は、
(a) 試験化合物の存在下で、成熟β細胞を含む細胞集団を培養する工程、ここで該細胞は、前記成熟β細胞の脱分化を誘導する条件下で培養される、および
(b) 続いて、工程(a)で培養されたβ細胞中のバイオマーカーFlattop(Fltp)の発現レベルを決定する工程
を含み、
工程(b)で決定されたFltpの発現レベルが、工程(a)での培養前の成熟β細胞を含む細胞集団中のFltpの発現レベルと実質的に同じであることは、成熟β細胞の脱分化を防ぐのに適した化合物を示す、方法。
[7]該試験化合物が、平面内細胞極性(planar cell polarity)(PCP)を活性化する化合物である、[5]または[6]記載の方法。
[8]平面内細胞極性(PCP)を活性化する化合物が、非古典的(non-canonical)Wnt/PCP経路のアクチベーターである、[7]記載の方法。
[9]未成熟前駆β細胞を成熟β細胞に分化させる方法であって、該方法が、未成熟前駆β細胞を含む細胞集団中のFltpの発現を誘導する工程を含む、方法。
[10]細胞中のFltpの発現が、該細胞を、Wnt5a、Wnt11、Wnt3a;共受容体ROR1、2、RYK、MUSK、PTK7、シンデカン(Syndecan)および/またはグリピカン(Glypican)の少なくとも1つのアクチベーター;あるいは[5]、[7]もしくは[8]記載の方法により同定される化合物から選択される化合物の存在下で培養することにより誘導される、[9]記載の方法。
[11]成熟β細胞の脱分化を防ぐ方法であって、該方法が、成熟β細胞中のFltpの発現を誘導または維持する工程を含む、方法。
[12]細胞中のFltpの発現が、該細胞を、Wnt5a、Wnt11、Wnt3a;共受容体ROR1、2、RYK、MUSK、PTK7、シンデカンおよび/またはグリピカンの少なくとも1つのアクチベーター;あるい[6]〜[8]いずれか記載の方法により同定される化合物から選択される化合物の存在下で培養することにより誘導または維持される、[11]記載の方法。
[13]成熟β細胞と未成熟前駆β細胞を区別するためのキットであって、該キットが、
(a) バイオマーカーFlattop(Fltp)の存在または非存在を決定するための手段、および
(b) キットをどのように使用するかの指示書
を含む、キット。
[14]糖尿病の治療または予防における使用のための医薬組成物であって、Fltp発現のアクチベーター(1つまたは複数)を含む、医薬組成物。
[15]Fltp発現のアクチベーターが、Wnt5a、Wnt11、Wnt3a;共受容体ROR1、2、RYK、MUSK、PTK7、シンデカンおよび/またはグリピカンの少なくとも1つのアクチベーター;および/または[5]、[7]もしくは[8]に記載の方法により同定される化合物からなる群より選択される、[14]記載の医薬組成物。
【0219】
さらなる参考文献
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
図1-1】
図1-2】
図2-1】
図2-2】
図2-3】
図3-1】
図3-2】
図4
図5-1】
図5-2】
図6-1】
図6-2】
図6-3】
図7-1】
図7-2】
図8
図9-1】
図9-2】
図10-1】
図10-2】
図11
図12
図13
図14-1】
図14-2】
図15
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]