【実施例】
【0046】
以下の例により、従来のコーティングとの比較において、改質されたスラリー配合物を利用して本発明のクロム拡散コーティングを形成することについての予想外の改良を実証する。
【0047】
[比較例1]
「スラリーA」と称するスラリー組成物を、典型的には、従来のパック法、気相法、又はスラリークロマイジング法で用いられる従来の配合によって調製した。スラリーAは、元素のクロム粉末と塩化アンモニウム活性剤とから構成されている。スラリーAは、以下を混合することによって調製した:
クロム粉末 100g、−325メッシュ;
塩化アンモニウム(ハロゲン化物活性剤) 5g;
klucel(商標) ヒドロキシプロピルセルロース(バインダー) 4g;
脱イオン水(溶媒) 51g;及び
アルミナ粉末(不活性充填剤材料) 40g。
【0048】
スラリーAを、浸漬によりRene N5試験片の表面に適用した。Rene N5は、単結晶ニッケル系超合金であり、重量比で、約7.5%Co、7.0%Cr、6.5%Ta、6.2%Al、5.0%W、3.0%Re、1.5%Mo、0015%Hf、0.05%C、0.004%B、0.01%Y、残部のニッケル、の公称組成を有する。
【0049】
スラリーコーティングを、80℃のオーブン内で30分間乾燥し、続いて、135℃で30分間硬化させた。次に、コーティングされた試料を、2010°Fの流れるアルゴン雰囲気中で4時間拡散熱処理した。冷却後、スラリー残留物を、220メッシュのアルミナのグリットブラスティングによって、試料の表面から除去した。
【0050】
冶金分析のため、コーティングされた試料の断面を作成した。
図1に、得られたコーティングの微細構造を示す。その結果を表1にまとめる。
【0051】
図1において、2つの微細構造特性が観察された。これらは、従来のパック法、気相法、又はスラリークロマイジング法によって形成されたクロマイジングコーティングに非常によく似ている。第一に、コーティングは、連続的な外側α−クロム層を含む。α−クロム層の厚さは、全コーティング厚さの40%を占めた。その領域の外側領域に沿ったこのような厚さにより、コーティングされた試料の機械特性に有害な受け入れがたい脆性が生じる。第二に、コーティングは、かなりの量の内部の窒化物及び酸化物の含有物を含むことが観察され、それらは、コーティングの腐食及び浸食性能を低下させ得る。酸化アルミニウム含有物は、主に、コーティングの外側のα−クロム層中に散在していたが、窒化アルミニウム含有物は、ニッケル−クロム固溶体の内側の層中に位置していた。
図1中の白い矢印は、コーティングの内側層中に存在する角張った形態での窒化アルミニウム含有物を示す。窒化物層は、
図1で白い矢印でマークされている。
【0052】
窒化物及び酸化物の含有物の体積分率は、ASTM E1245で指定された方法で、自動画像解析によって測定した。その含有率は、14.5%であった。
【0053】
[比較例2]
スラリーA中の塩化アンモニウムを、フッ化アルミニウム活性剤に置き換える点においては本発明に従って、「スラリーB」と称する第2のスラリー組成物を調製した。スラリーBは、以下を含有していた:
クロム粉末 100g、−325メッシュ;
フッ化アルミニウム(ハロゲン化物活性剤) 20g;
klucel(商標) ヒドロキシプロピルセルロース(バインダー) 4g;
脱イオン水(溶媒) 51g;及び
アルミナ粉末(不活性充填剤材料) 25g。
【0054】
スラリーBを、Rene N5試験片に適用した。そして、比較例1に記載のとおり、2010°Fのアルゴン雰囲気中で4時間拡散処理した。冶金分析のため、コーティングされた試料の断面を作成した。結果を表1にまとめる。
【0055】
図2に、生成して得られたコーティングの微細構造を示す。有害なα−クロム相は、比較例1に比べて減少した。具体的には、スラリーBを用いた場合の外側α−クロム相の厚さは、比較例1でスラリーAを用いた場合の40%と比較して小さい、全コーティング厚さのわずか14%を占めた。
【0056】
スラリーA中の塩化アンモニウムを、スラリーB中のフッ化アルミニウムに置き換えることにより、コーティング中の内部窒化物含有物の量が減少し、それにより、コーティング中の窒化物形成のための窒素前駆体供給源を除去したことが、観察された。コーティング中の窒化物及び酸化物の含有物の体積は、スラリーAを使用した場合の14.5%(比較例1)から、スラリーBを使用した場合の11.6%に減少した。それにもかかわらず、含有物の量は許容できないほど高く、乏しい腐食、浸食及び疲労の耐性をもたらすことが確認された。
【0057】
[比較例3]
標準的なパック法でコーティングを形成する際に典型的に用いられるスラリー配合物から調製されたコーティングの微細構造及び組成物を評価するために、試験を行った。この点に関し、塩化アンモニウム、並びにニッケル及びアルミニウム粉末の混合物を含有する緩衝材料が、スラリー組成物中に取り込まれていた。「スラリーC」と称するスラリー組成物を、以下を混合することによって調製した:
クロム粉末 70g、−325メッシュ;
塩化アンモニウム(ハロゲン化物活性剤) 5g;
klucel(商標) ヒドロキシプロピルセルロース(バインダー) 4g;
脱イオン水(溶媒) 51g;
ニッケル粉末25g、及びアルミニウム粉末5g(金属緩衝粉末);並びに
アルミナ粉末(不活性充填剤材料) 40g。
【0058】
スラリーCを、Rene N5試験片に適用した。そして、比較例1に記載のとおり、2010°Fのアルゴン雰囲気中で4時間拡散処理した。冶金分析のため、コーティングされた試料の断面を作成した。その結果を表1にまとめる。
【0059】
図3に、得られたコーティングの微細構造を示す。スラリーCを用いてニッケル及びアルミニウム粉末を添加した場合は、比較例1のスラリーAから生成したコーティング(窒化物及び酸化物の含有物の体積分率は14.5%を示した)との比較において、コーティング中の窒化物及び酸化物の含有物の量が、13.2%に減少した。スラリーCを用いてニッケル及びアルミニウム粉末を添加した場合は、有害なα−クロム相の分率が、スラリーAを用いた場合の厚さ比40%から、厚さ比30%にわずかに減少した。これらの結果は、塩化アンモニウムが、コーティングにマイナスの影響を与えること、及び緩衝材料によって提供されるいかなる利点も相殺することを示した。この試験から、パック法で用いられる配合(pack formulation)は、好ましい微細構造を有するクリーンなコーティング(すなわち、窒化物及び酸化物の含有物の不存在、並びにアルファ−クロムの減少)を生成するために、スラリークロマイジング法において首尾よく利用することができないことが確認された。
【0060】
[実施例1]
スラリーC中の塩化アンモニウム活性剤を、フッ化アルミニウム活性剤に置き換えたスラリー配合物から調製されたコーティングの微細構造及び組成物を評価するために、試験を行った。この点に関し、「スラリーD」を、以下を混合することによって調製した:
クロム粉末 70g、−325メッシュ;
フッ化アルミニウム(ハロゲン化物活性剤) 20g;
klucel(商標) ヒドロキシプロピルセルロース(バインダー) 4g;
脱イオン水(溶媒) 51g;
ニッケル粉末25g、及びアルミニウム粉末5g(金属緩衝粉末);並びに
アルミナ粉末(不活性充填剤材料) 25g。
【0061】
スラリーDを、Rene N5試験片に適用した。そして、比較例1に記載のとおり、アルゴン雰囲気中で4時間拡散処理した。冶金分析のため、コーティングされた試料の断面を作成した。その結果を表1にまとめる。
【0062】
図4に、得られたコーティングの微細構造を示す。フッ化アルミニウム活性剤とニッケル及びアルミニウム粉末とを組み合わせることにより、コーティング中の窒化物及び酸化物の含有物、並びにα−クロム相の顕著な減少をもたらすことが観察された。得られたコーティングは、スラリーCを使用した場合の13.2%(比較例3)及びスラリーBを使用した場合の11.6%(比較例2)と比較して、きわめて微量の、体積比で2.6%の窒化物及び酸化物の含有物を含んでいた。さらに、また、外側α−クロム相の厚さは、スラリーCの30%、あるいはスラリーBの14%と比較して小さい、全コーティング厚さの4%未満を占めた。これらの結果は、拡散コーティングの形成中に、非窒素ハロゲン化物活性剤が、緩衝材料と好適に相互作用することを示し、結果として、改良されたコーティングを生成するためには、適切なハロゲン化物活性剤と緩衝材料の両方が必要とされることを示した。
【0063】
[実施例2]
非窒素ハロゲン化物活性剤とニッケルを含有する金属緩衝粉末とを含有するスラリーから調製されたコーティング組成物及び微細構造を評価するために、さらなる試験を行った。この点に関し、「スラリーE」と称するスラリー組成物を、スラリーDからアルミニウム粉末を除去し本発明に従って調製した。「スラリーE」を、以下を混合することによって調製した:
クロム粉末 75g、−325メッシュ;
フッ化アルミニウム(ハロゲン化物活性剤) 20g;
klucel(商標) ヒドロキシプロピルセルロース(バインダー) 4g;
脱イオン水(溶媒) 51g;
ニッケル粉末 25g(緩衝粉末);及び
アルミナ粉末(不活性充填剤材料) 25g。
【0064】
スラリーEを、Rene N5試験片に適用した。そして、比較例1に記載のとおり、アルゴン雰囲気中で4時間拡散処理した。冶金分析のため、コーティングされた試料の断面を作成した。結果を表1にまとめる。
【0065】
図5に、得られたコーティングの微細構造を示す。結果は、実施例1の結果と同等であった。フッ化アルミニウム活性剤とニッケル粉末とを組み合わせることにより、コーティング中の窒化物及び酸化物の含有物、並びにα−クロム相の顕著な減少をもたらした。得られたコーティングは、スラリーCを使用した場合の13.2%(比較例3)、及びスラリーBを使用した場合の11.6%(比較例2)と比較して、きわめて微量の、体積比で2.5%の窒化物及び酸化物の含有物を含んでいた。また、外側α−クロム相の厚さは、スラリーCの30%、あるいはスラリーBの14%と比較して小さい、全コーティング厚さの約2%未満を占めた。
【表1】
【0066】
これまで示してきたとおり、本発明は、従来のクロマイジングスラリー法、パック法及び気相法から生成したクロム拡散コーティングに比べて、有利なクロム拡散コーティングを生成するユニークなスラリー配合物を提供する。特に、実施例で示したように、本発明は、従来のスラリークロマイジング法で生成したものとの比較において、優れたクロムコーティング組成物及び微細構造(すなわち、所定の含有物が低減され、且つα−クロムが低減された)を生成する。その結果、本発明のコーティングは、改良された特性(腐食、浸食及び疲労に対するより高い耐性を含む)を有する。
【0067】
さらに、本発明のスラリーは、基材の局所領域に、制御され且つ正確に、単純な適用方法(はけ塗り、噴霧、浸漬又は注入を含む)によって選択的に適用されることができる点で有利である。これに対して、従来のパック法及び気相法は、基材の選択された領域に沿って、クロムコーティングを局所的に生成することができない。その結果、これらの従来のコーティングは、困難なマスキング技術(典型的には、金属基材に沿って、コーティングが望まれない領域を隠す点において有効ではない)を必要とする。マスキングの課題を克服するため、クロマイジング気相法及びパック法では、コーティングが望まれない金属基材の表面から、余分なコーティングを除去するコーティング後加工工程を利用している。
【0068】
本発明は、局所的にスラリー配合物を適用してコーティングを形成することができることに加えて、材料廃棄物を著しく低減するという付加的な利点をも持ち合わせている。このように、本発明は、全体的なスラリー材料を節約し、且つ廃棄物を減らすことができ、それにより、スラリー成分のより高い利用率を実現する。マスキングは必要ではなく、それにより、コーティングに必要とされる原料を削減し、作業場における有害物質の露出を最小限にする。これに対して、パック法は、典型的には、著しくより多くの量の原料を必要とし、より多くの廃棄物が生じる。同様の欠点が、気相法にも存在する。
【0069】
さらに、本発明の改質されたスラリー配合物は、パック法及び気相法とは異なり、複雑な形状や入り組んだ内部構造を有する種々の部品の上に、改良されたクロムコーティングを形成するために使用することができる。パック法及び気相法は、特定のサイズで且つ単純化された形状を有する部品にしか適用することができず、汎用性が制限されている。
【0070】
本発明の原理は、クロマイジングコーティングの制御された適用を必要とする任意の適切な基材を利用することができる。この点で、本発明の方法は、他の用途に利用される異なる種々の基材を保護することができる。例えば、本明細書で用いられるクロマイジングコーティングは、十分なクロムを含有していないステンレス鋼基材上に、耐酸化性を付与するため、本発明の原理に従って局所的に適用してもよい。このような用途で、クロマイジングコーティングは、ステンレス鋼基材に沿って、酸化物保護スケール(protective oxide scale)を形成する。
【0071】
本発明のある種の実施形態とみなされるものを示し、説明したが、当然のことながら、形態又は詳細の様々な改変及び変更は、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく容易に作成することができることは理解されよう。したがって、本発明は、本明細書で示し説明された正確な形態及び詳細に限定されず、本明細書で開示され以後で特許請求される本発明の全体未満の何物にも限定されないことが意図されている。