特許第6825912号(P6825912)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6825912改良されたクロム拡散コーティングを形成するための改質されたスラリー組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6825912
(24)【登録日】2021年1月18日
(45)【発行日】2021年2月3日
(54)【発明の名称】改良されたクロム拡散コーティングを形成するための改質されたスラリー組成物
(51)【国際特許分類】
   C23C 10/32 20060101AFI20210121BHJP
   C23C 10/04 20060101ALI20210121BHJP
【FI】
   C23C10/32
   C23C10/04
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-563883(P2016-563883)
(86)(22)【出願日】2015年1月9日
(65)【公表番号】特表2017-507250(P2017-507250A)
(43)【公表日】2017年3月16日
(86)【国際出願番号】US2015010731
(87)【国際公開番号】WO2015108764
(87)【国際公開日】20150723
【審査請求日】2017年12月13日
(31)【優先権主張番号】61/927,180
(32)【優先日】2014年1月14日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】14/592,293
(32)【優先日】2015年1月8日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】500092413
【氏名又は名称】プラクスエア エス.ティ.テクノロジー、インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】タン、チーホン
(72)【発明者】
【氏名】ガリング、ケヴィン、イー.
(72)【発明者】
【氏名】フィンドレイ、トーマス、ディー.
(72)【発明者】
【氏名】ルイス、トーマス、エフ.
(72)【発明者】
【氏名】クナップ、ジェイムズ ケイ.
【審査官】 中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2005/0265851(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0272331(US,A1)
【文献】 特開昭55−062158(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第00984074(EP,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0149551(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 10/00−10/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
元素のクロム粉末を含むクロム供給源;
ハロゲン化アンモニウムの不存在によって特徴付けられる非窒素ハロゲン化物活性剤;
ニッケル、コバルト、ケイ素、アルミニウム、ケイ素、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、イットリウム、マンガン、及びそれらの任意の組合せからなる群から選択される緩衝材料;並びに
脱イオン水である溶媒中に溶解されたバインダー材料を含むバインダー溶液;
を含むスラリー組成物であって、
前記クロム供給源は、スラリー重量の10%から90%の範囲であり、
前記ハロゲン化物活性剤は、クロム供給源の重量の0.5%から50%の範囲であり、
前記バインダー溶液は、スラリー重量の5%から50%の範囲であり、及び
前記緩衝材料は、クロム供給源の重量の0.5%から100%の範囲であり、
前記クロム供給源、前記ハロゲン化物活性剤、前記バインダー溶液及び前記緩衝材料の凝集体は、スラリー重量の100%に等しい、上記スラリー組成物。
【請求項2】
請求項1のスラリー組成物であって、
前記クロム供給源は、スラリー重量の30%から70%の範囲であり、
前記ハロゲン化物活性剤は、クロム供給源の重量の2%から30%の範囲であり、
前記緩衝材料は、クロム供給源の重量の3%から50%の範囲であり;
前記バインダー溶液は、スラリー重量の15%から40%の範囲であり、
前記クロム供給源、前記ハロゲン化物活性剤、前記バインダー溶液及び前記緩衝材料の凝集体は、スラリー重量の100%に等しい、上記スラリー組成物。
【請求項3】
不活性充填剤材料を更に含む、請求項1のスラリー組成物。
【請求項4】
前記活性剤は三フッ化アルミニウムを含み、前記緩衝材料はニッケルを含む、請求項1のスラリー組成物。
【請求項5】
ハロゲン化物活性剤は、アルカリ金属ハロゲン化物及びアルカリ土類金属ハロゲン化物を含まない、請求項1のスラリー組成物。
【請求項6】
以下の工程を含むクロム拡散コーティングの調製方法:
基材を提供する工程;
請求項1〜5のいずれか一項に記載のスラリー組成物を提供し、混合する工程;
前記スラリー組成物を金属基材上に適用する工程;
前記スラリーを、24時間までの範囲の間、1600°Fから2100°Fまで加熱する工程;並びに
前記基材内に前記クロム拡散コーティングを形成する工程。
【請求項7】
前記スラリー組成物を適用する工程が、前記金属基材の任意の部分をマスキングすることなく、所定の選択領域に局所的に前記組成物を適用することを含む、請求項6の方法。
【請求項8】
実質的に全てのバインダー脱ガスをパージするのに十分な流量で、アルゴン、水素、又はそれらの混合物を流す工程によって更に調製される、請求項6の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属基材上に耐腐食性を提供する、新規かつ改良されたクロム拡散組成物及びコーティングに関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンエンジンの高温部のコンポーネントは、高温腐食による劣化を受けやすい。高温腐食により、予測できないほど急速にタービンエンジンのコンポーネントの構成材料が消費され、その結果、タービンエンジンの故障又は早期取り卸し(premature removal)につながる。高温腐食は、典型的には、約650−950℃の温度範囲で起こる。
【0003】
溶融堆積物、例えば、燃料の吸気又は燃焼からのアルカリ金属硫酸塩が、高温腐食の主な原因である。しかし、他の腐食性化学種、例えば、環境中の二酸化硫黄が、腐食を加速させ得る。
【0004】
硫酸塩が誘導される高温腐食、特にタイプIIが、エンジン運転の懸念として浮上している。今日の超合金の多くは、クロムのレベルがより低いので、タイプII腐食の影響をより受けやすい。以下に説明するように、クロムは、高温腐食に対する保護に有効な合金元素であることが知られている。また、タービンブレードのより冷たい領域、例えばプラットフォーム領域及び内部冷却通路の表面は、以前は高温腐食が開始する温度以下で運転されていても、エンジン温度が上昇するにつれて、タイプII高温腐食が発生しうる高温の状態に曝される。これらの領域の複雑な形状は、従来の既知のコーティングプロセス、例えば、溶射及び物理蒸着に新たな課題を作り出し得る。世界の多くの地域で、特にアジアの数か国を通じて大気品質が急速に劣化すると、更に問題が深刻になる。さらに、高温腐食は、多くの場合、運転中に、他の劣化モード(すなわち、疲労)と相互作用し、エンジンコンポーネントの故障を加速する。
【0005】
環境コーティング、例えば、ニッケルアルミナイド、白金アルミナイド、又はMCrAlYオーバーレイコーティングは、多くの場合、耐酸化性を向上させるために、ガスタービンのエアフォイル上に適用される。しかし、このようなコーティングは、タイプII高温腐食に対して、エンジンコンポーネントを十分に保護することができない。
【0006】
高温腐食を軽減するために利用される一つの方法は、「クロマイジング」として知られるプロセスによるコンポーネントの表面上へのクロムの取り込みである。クロマイジングコーティングを製造するための2つの一般的な工業的方法は、パックセメンテーションと気相法である。
【0007】
パックセメンテーションは、(a)クロムの金属供給源(すなわち、ドナー)、(b)気化性ハロゲン化物活性剤、及び(c)不活性充填剤材料、例えば、酸化アルミニウム、を含む粉末混合物を必要とする。コーティングされる部品は、パック材料に完全に包まれ、その後、密閉されたチャンバー又は蒸留器(retort)内に入れられる。次に、蒸留器を、保護雰囲気中で1400−2100°Fまでの温度で2−10時間加熱し、そのコンポーネントの表面内にクロムが拡散できるようにする。パッククロマイジング法は、1950年代から使用されてきたが、いくつかの主な制限がある。第一に、パック法(pack process)では、大量の有害廃棄物が生成し、他のプロセスよりもかなり多くの原料を必要とする。第二に、パック法では、内部冷却通路の表面などの、複雑な形状を有する部品の選択された領域を完全にコートするのが困難である。
【0008】
気相法(vapor phase process)では、一般に、コートされる部品を、クロム供給源及びハロゲン化物活性剤と非接触になるようにして、蒸留器内に配置することを含む。気相法では、部品の外部表面と内部表面の両方をコートすることができ、例えば、複雑な形状を有するタービンブレードをコートすることができる。しかし、得られるコーティング内のクロム含有量が一般に低すぎるため、タイプII高温腐食に対して十分な保護が提供されない。さらに、「クロマイジングコーティング」が必要とされない領域をマスクすることが困難である。その結果、気相法では、部品の表面全体に沿ってクロマイジングコーティングが生成される傾向がある。
【0009】
別のタイプのクロマイジングプロセスは、米国特許第4904501号及び米国特許第8262812号に記載されたスラリー法(slurry process)である。スラリー法では、クロム粉末及びハロゲン化物活性剤を含む水性スラリーの薄層が、基材表面に直接適用される。スラリー法では、前記のパック法よりも必要とする原料がはるかに少なく、且つパック法に特徴的なダスト粒子への曝露をなくす。現行のスラリー法の主な制限の一つは、コーティングの微細構造が、体積比で40%以上のアルファクロム(「α−クロム」)含むことであり、コーティングが乏しい疲労亀裂耐性を有する原因となり得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来のクロマイジングプロセスはすべて、主な欠点を抱えている。第一に、かなりの量の酸化物及び窒化物の含有物が、クロマイジングコーティング中に形成される。この含有物は、コーティングの腐食、疲労及び浸食の耐性を低下させる傾向がある。第二の欠点は、厚くて連続的なアルファ−クロム層が形成することである。α−クロム層は、タイプII高温腐食に対して優れた耐性を提供するが、α−クロムは脆く、運転中に熱疲労亀裂を受けやすい。亀裂は、基材中に伝播して、コーティングシステムの早期の故障(premature failure)につながることがある。
【0011】
既存のクロマイジングプロセスの欠点に鑑みると、窒化物、酸化物及びα−クロム相のレベルを著しく低減し、クロム濃度を高めた層を生成できる新世代クロマイジングプロセスが、必要である。それにより、既存のパック法、気相法、及びスラリークロマイジング法の現在の限界を克服する。さらに、選択された領域にクロマイジングコーティングを生成できる単純な方法が、必要である。それにより、「コーティング不要」が要求される領域へのマスキング要件を最小限に抑える。極めてより少ない量の原料を利用し、且つ、作業場における有害物質の露出を最小限にする方法が、必要である。本発明の他の利点及び用途は、当業者には明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、以下の態様のいずれかを様々な組合せにおいて含んでもよく、また、本明細書において以下で説明される本発明のいかなる他の態様を含んでもよい。
【0013】
第1の態様では、以下を含むスラリー組成物が提供される:
元素のクロム粉末、合金化クロム粉末、クロム含有化合物、又はそれらの混合物を含むクロム供給源;
ハロゲン化アンモニウムの不存在によって特徴付けられる非窒素ハロゲン化物活性剤;
ニッケル、コバルト、ケイ素、アルミニウム、ケイ素、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、イットリウム、マンガン、及びそれらの任意の組合せからなる群から選択される緩衝材料(buffer material);並びに
バインダー溶液、前記バインダー溶液は溶媒中に溶解されたバインダー材料を含み、前記溶媒は非窒素ハロゲン化物活性剤及びバインダー材料のそれぞれに適合する(compatible with)。
【0014】
第2の態様では、クロム拡散コーティングが提供される。当該コーティングは、全コーティング厚さの約0%から約10%の厚さを有する外側α−Cr層;重量比で約15%と約50%の間のクロムを含む内側ニッケル−クロム層;を含む。前記コーティングは、従来のスラリークロマイジング法に由来するクロム拡散コーティングと比較して、酸化物及び窒化物の含有物の実質的な減少によって特徴付けられる。
【0015】
第3の態様では、以下の工程を含むプロセスによって調製されるクロム拡散コーティングが提供される:
基材を提供する工程;
スラリー成分を提供する工程であって、スラリー成分が以下を含む:元素のクロム粉末、合金化クロム粉末、クロム含有化合物、又はそれらの混合物を含むクロム供給源;ハロゲン化アンモニウムの不存在によって特徴付けられる非窒素ハロゲン化物活性剤;ニッケル、コバルト、ケイ素、アルミニウム、ケイ素、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、イットリウム、マンガン、及びそれらの任意の組合せからなる群から選択される緩衝材料;並びにバインダー溶液、前記バインダー溶液は溶媒中に溶解されたバインダー材料を含む;
前記成分を混合してスラリー組成物を形成する工程;
前記スラリー組成物を金属基材上に適用する工程;
前記スラリーを、約24時間までの範囲の間、約1600°Fから約2100°Fまで加熱する工程;並びに
前記基材内に前記クロム拡散コーティングを形成する工程。
【0016】
第4の態様では、請求項1のスラリー組成物によってコーティングされた物品が提供される。
【0017】
本発明の目的及び利点は、類似の番号が全体を通して同じ特徴を示している添付の図面と合わせて、好ましい実施形態についての以下の詳細な説明からよりよく理解される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】塩化アンモニウム活性剤を含むスラリー組成物(スラリーA)を用いたクロム拡散層の断面の微細構造を示す。それにより得られるコーティングは、かなりの量の有害な窒化物含有物と、脆性α−クロム相とを含有する。
【0019】
図2】フッ化アルミニウム活性剤を含む本発明によるスラリー組成物(スラリーB)を用いたクロム拡散層の断面の微細構造を示す。それにより得られるコーティングは、有害な窒化物含有物、及びコーティング中の脆性α−クロム相のレベルの減少を示した。
【0020】
図3】塩化アンモニウム活性剤、ニッケル粉末、及びアルミニウム粉末を含むスラリー組成物(スラリーC)を用いたクロム拡散層の断面の微細構造を示す。この点、ニッケル及びアルミニウム粉末をスラリーAの中に添加した場合は、有害な窒化物及び酸化物の含有物と、コーティング中の脆性α−クロム相とをわずかだけ減少させた。
【0021】
図4】フッ化アルミニウム活性剤、ニッケル粉末、及びアルミニウム粉末を含む本発明によるスラリー組成物(スラリーD)を用いたクロム拡散層の断面の微細構造を示す。この点、ニッケル及びアルミニウム粉末をスラリーBの中に添加した場合は、有害な窒化物及び酸化物の含有物と、コーティング中の脆性α−クロム相とを著しく減少させた。
【0022】
図5】フッ化アルミニウム活性剤及びニッケル粉末を含む本発明によるスラリー組成物(スラリーE)を用いたクロム拡散層の断面の微細構造を示す。この点、ニッケル粉末をスラリーBの中に添加した場合は、有害な窒化物及び酸化物の含有物と、コーティング中の脆性α−クロム相とを著しく減少させた。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の目的及び利点は、それと関連する以下の好ましい実施形態の詳細な説明からより良く理解される。本明細書の開示は、改良されたクロム拡散コーティングを生成する新規なスラリー配合物に関する。本開示は、様々な実施形態にて、並びに本発明の様々な態様及び特徴を参照して、本明細書に示される。
【0024】
本発明の様々な要素の関係及び機能は、以下の詳細な説明によってより良く理解される。この詳細な説明は、本開示の範囲内に含まれるような様々な置換形態及び組合せにおける特徴、態様、及び実施形態を想定している。したがって、本開示は、これらの具体的な特徴、態様、及び実施形態、或いはそれらの選択された1つ又は複数の、かかる組合せ及び置換形態のいずれかを備えるか、それらから構成されるか、又は本質的にそれらから構成されるものとして、特定され得る。
【0025】
一般的に言えば、スラリークロマイジング法(slurry chromizing proocess)は、化学気相堆積法であると考えられている。高温に加熱すると、スラリー混合物中のクロム供給源とハロゲン化物活性剤とが反応し、揮発性クロムハロゲン化物蒸気を形成する。スラリーから、コーティングされる合金の表面への、クロムハロゲン化物蒸気の輸送が、スラリーと合金表面との間の化学ポテンシャル勾配の影響下で、主にガス拡散によって行われる。合金表面に到達すると、これらのクロムハロゲン化物蒸気は、その表面で反応してクロムを堆積する。堆積したクロムは、合金中に拡散してコーティングを形成する。以下に説明するように、スラリー混合物中の成分の性質が、クロマイジングプロセスの熱力学的条件を定義し、最終的なコーティング組成物及び微細構造を決定する。
【0026】
α−クロム相と共に酸化物及び窒化物の含有物を、抑制し、最小化し、又は実質的になくした結果として、腐食、疲労及び浸食の耐性性能が著しく改良された新規なクロマイジング組成物が見出された。本発明の得られたクロム拡散コーティングは、従来のクロマイジングプロセスと比較して、金属基材の選択された領域に局所的に適用される能力を有し、そしてさらに、より少ない材料廃棄物を生成するような手法である。特に断りのない限り、全ての組成物は、重量パーセント(重量%)として表されることを理解されたい。
【0027】
本発明のクロマイジング組成物は、パック法、気相法、又はスラリー法から生成した従来のクロム拡散コーティングに比べて実質的に改良されている。そのような配合物の改良は、その少なくとも一部は、スラリー配合物中の、特定のハロゲン化物活性剤及び緩衝材料の選択された組合せに、基づいている。本発明の一実施形態は、改質されたスラリー組成物に関し、それにより、窒化物、酸化物及びアルファ−クロム相の実質的な含有レベルが低減されたクロム拡散コーティングを生成する。スラリー組成物は、クロム供給源、特定クラスのハロゲン化物活性剤、特定の緩衝材料、バインダー材料、及び溶媒を含む。本発明のスラリー組成物は、スラリー重量の約10%から約90%の範囲のクロム供給源;クロム供給源の重量の約0.5%から約50%の範囲のハロゲン化物活性剤、クロム供給源の重量の約0.5%から約100%の範囲の緩衝材料;スラリー重量の約5%から約50%の範囲のバインダー溶液、を含み、バインダー溶液は、バインダーと溶媒とを含む。任意の不活性充填剤材料は、スラリー重量の約0%から約50%の範囲で提供してもよい。好ましい実施形態では、クロム供給源は、約30%から約70%の範囲であり;ハロゲン化物活性剤は、クロム供給源の重量の約2%から約30%の範囲であり、緩衝材料は、クロム供給源の重量の約3%から約50%の範囲であり;バインダー溶液は、スラリー重量の約15%から約40%の範囲であり;及び任意の不活性充填剤材料は、スラリー重量の約5%から約30%の範囲内である。
【0028】
種々のクロム供給源を利用してもよく、元素のクロム粉末又は合金化クロム粉末又はそれらの混合物が含まれる。クロム粉末は、他の金属と合金化されてもよく、例えば、Fe−Cr、Ni−Cr、Co−Cr及びCr−Si合金粉末などでもよい。クロム供給源はまた、Crなどのクロム含有化合物から選択されてもよい。本発明によって、任意の粒子サイズが意図されている。好ましい実施形態では、スラリー組成物に用いられるクロム供給源粉末は、−200メッシュ(すなわち、74ミクロン)又はより細かい粒子サイズを有する。
【0029】
本発明によれば、活性剤は、クロム供給源と容易に反応してクロムハロゲン化物蒸気を生成する能力を有する。そして、従来のクロマイジングプロセスで典型的に遭遇する汚染物質含有物のレベルの上昇を生じることなく、クロム含有拡散コーティングを生成する。本発明のスラリー組成物は、特定クラスのハロゲン化物活性剤を含む。具体的には、本発明は、例を挙げると、フッ化アルミニウム、フッ化クロム、塩化アルミニウム、塩化クロム、及びそれらの任意の組合せなどの活性剤を利用するが、これらに限定されない。本発明の活性剤は、具体的には、ハロゲン化アンモニウムを含む金属ハロゲン化物を除外する。これらのカテゴリーの活性剤は、コーティングの腐食特性及び微細構造に悪影響を及ぼすからである。正確なメカニズムは不明だが、所定のハロゲン化物活性剤は、クロム供給源と相互作用する傾向があるように見えるものの、それでもなお、濃度の高いα−クロム相を生成しないレベルでクロム活性を維持する。
【0030】
前述したように、本発明のハロゲン化物活性剤は、スラリー組成物中に、クロム供給源の重量の、約0.5%から約50%、より好ましくは約2%から約30%の量で存在する。クロム供給源の0.5%未満の量で活性剤を取り込むと、低クロム含有量を有する薄いクロマイジングコーティングを生成することでき、それにより不十分な耐腐食性が付与されることが見出された。クロム供給源の50%超の活性剤が存在すると、追加の利点は与えられないように見え、いくつかの例では、コーティングが攻撃を受ける可能性がある。
【0031】
本発明のスラリー中のハロゲン化物活性剤は、高温でクロム供給源粉末と反応することにより、揮発性クロムハロゲン化物蒸気を生成する。クロムハロゲン化物蒸気は、その後、金属基材の表面に輸送され、固体拡散によって所望のコーティング組成物及び微細構造を生成することができる。実施例に示すように、スラリー混合物中において、活性剤として選択された特定の種類のハロゲン化物塩は、最終的なコーティングの微細構造及びコーティング組成物に影響を与えうる。特に、ハロゲン化アンモニウムを含む金属ハロゲン化物は、窒化物の含有物を有する乏しい特性のコーティング組成物を生成することが見出された。ハロゲン化アンモニウム、例えば、塩化アンモニウムは、一般に、従来のクロマイジングプロセスで使用される。それは、それらの活性化効果によるものである(すなわち、クロム供給源と容易に反応してクロムハロゲン化物蒸気を生成する能力)。しかし、特定の理論に縛られることなしに、ハロゲン化アンモニウム活性剤の使用は、コーティング内にかなりの量の窒化物の含有物の形成を促進し、コーティングの腐食、浸食及び疲労の耐性を著しく低下させる可能性がある。加熱すると、ハロゲン化アンモニウムは、急速に、窒素、水素及びハロゲンガスに分解する。ハロゲンガスが、クロム供給源と反応し、揮発性クロムハロゲン化物蒸気を形成して、金属基材上にコーティングを形成する一方で、ハロゲン化アンモニウムの分解に由来する窒素が、金属基材中のアルミニウム及びチタンなどの活性元素と反応し、コーティング内に内部の窒化物の含有物を形成しうる。
【0032】
コーティング中の窒化物の形成の他に、ハロゲン化アンモニウムの急激な分解は、コーティング蒸留器中に望ましくない高い圧力を発生させ、コーティング作業時の安全上のリスクをもたらしうる。容器を通過するガス流や活性剤の量などのプロセス変数を調整して、圧力を減らすことはできる。しかし、そのような調整をすると、コーティング中の窒化物相の量が減少するものの、得られるコーティングの厚さ、及び/又は組成が損なわれる。
【0033】
したがって、本発明は、コーティング中の内部窒化物含有物の量を、抑制し、実質的に減らし、又はなくすため、非窒素含有ハロゲン化物活性剤を利用する。非窒素含有ハロゲン化物活性剤はまた、コーティングの外側領域に沿って、有害なα−クロム相のレベルを著しく低減することをもたらす。
【0034】
本発明の別の実施形態では、ハロゲン化物活性剤は、窒素、塩化ナトリウム等のアルカリ金属ハロゲン化物、及び塩化マグネシウム等のアルカリ土類金属ハロゲン化物を除外する。アルカリ金属ハロゲン化物及びアルカリ土類金属ハロゲン化物は、ハロゲン化アンモニウムよりも高い安定性を示すけれども、アルカリ又はアルカリ土類金属元素は、いくつかの用途において、コーティングプロセス中に得られるクロマイジングコーティングに取り込まれる傾向があることを、本発明は認識している。いくつかの例において、アルカリ金属ハロゲン化物又はアルカリ土類金属ハロゲン化物の取り込みは、コーティングの腐食特性に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0035】
スラリー中に所定の最適範囲で存在する適切な活性剤の選択に加えて、本発明のスラリー組成物は、さらに1以上の追加の緩衝粉末(すなわち、表1に記載されている緩衝材料)を適切に選択することによって定義される。緩衝材料は、 ニッケル、コバルト、ケイ素、アルミニウム、ケイ素、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、イットリウム、マンガン及びそれらの任意の組合せを、クロム供給源の重量の約0.5%から約100%の範囲内、より好ましくは約5%から約80%の範囲内で含んでもよい。緩衝材料は、酸素及び窒素との親和性が高く、そのため、スラリー及び蒸留器雰囲気中の残留窒素及び酸素を効果的にゲッタリングすることができる。さらに、緩衝材料は、スラリー中のクロムの化学的活性を下げ、クロマイジングコーティングの外側層中の脆性α−クロム相のレベルを抑制又は減少させるが、十分なクロムの化学的活性を維持し、内層内に必要なクロムを形成する。このように、本発明の原理に従って、緩衝材料と適切なハロゲン化物活性剤とを相乗的に組み合わせることにより、窒化物及び酸化物の含有物のレベルを減少させ、その一方で、従来のパック法、気相法、又はスラリークロマイジング法から生成したコーティングでは達成できないようなレベルに、コーティング中のα−クロム相のレベルを低下させる。
【0036】
改良されたクロム拡散コーティングを生成するために、本発明の原理に従って、ハロゲン化物活性剤と組み合わせた緩衝材料を注意深く選択することが必要である。実施例に示すように、本発明の優れたコーティング特性は、単に緩衝材料に基づくだけでなく、緩衝材料と適合性のある適切なハロゲン化物活性剤の選択にも基づくものである。さらに、ハロゲン化物活性剤は、スラリーの配合物中に最適な量で含有される。このような条件下で、ハロゲン化物活性剤は、緩衝材料と相乗的に相互作用して、コーティング中の窒化物、酸化物及びα−クロム相のレベルを抑制し、最小化し、又は実質的になくす。この点に関し、以下各々詳細に論じる実施例1と比較例3の比較において、比較例3のスラリー配合物がニッケル及びアルミニウム金属粉末混合物を利用しているものの、適切な種類のハロゲン化物(すなわち、窒素含有ハロゲン化物活性剤の除外する)が取り込まれていなかったことが示されている。その結果、比較例3のコーティングは、ニッケル及びアルミニウム粉末混合物と共にフッ化アルミニウム活性剤を利用した実施例1よりも劣っていた。実施例1のスラリー配合物中のこれら成分と他の成分との相互作用により、得られるコーティング中の窒化物、酸化物及びα−クロム相を著しく低いレベルで発生させることを容易にした。
【0037】
本発明のスラリー組成物は、溶媒に溶解させたバインダー材料を含有するバインダー溶液を更に含有する。バインダー溶液は、スラリー成分又はコーティングされた基材に有害に干渉することなく、スラリー成分を一緒に保持する機能を有する。バインダーは、クロマイジング反応に干渉することなく、きれいに且つ完全に焼き切ることができなければならない。好ましいバインダーは、Ashland社から、商品名Klucel(商標)で市販されているヒドロキシプロピルセルロースである。他のバインダーもまた、本発明に適することがあり、一例として、APV Engineered coatings(オハイオ州アクロン)で商業的に製造され販売されているB−200バインダーが含まれる。選択されたバインダーは、スラリー組成物又は配合物中のハロゲン化物と適合性を示す。特に、ハロゲン化物活性剤は、バインダー材料及び溶媒と反応せず、バインダー溶液の物理的及び化学的特性に影響を及ぼさない。例えば、水系バインダー溶液が使用された場合、選択される特定のハロゲン化物活性剤は、好ましくは、水への溶解度が無視できるほど小さい。そうでなければ、水系バインダー溶液中に溶解したハロゲン化物活性剤が比較的高濃度の場合、水系バインダー溶液からバインダーが徐々に析出する傾向があり、スラリーの短い貯蔵寿命につながる。
【0038】
本発明のスラリーコーティング組成物に用いられる溶媒は、溶媒の揮発性、可燃性、毒性、及びハロゲン化物活性剤とバインダーの両方との適合性を考慮して、選択される。好ましい実施形態では、溶媒は脱イオン水を含む。バインダー溶液の量は、スラリー重量の、約5から約50%、より好ましくは約15%から約40%を占める。
【0039】
スラリー組成物は、任意に、約0%から約50%の範囲とすることができる充填剤を含む。充填剤材料は、化学的に不活性である。不活性充填剤材料は、スラリー中の化学反応には関与しない。代わりに、充填剤材料は、スラリー混合物の希釈効果を付与するように設計されている。不活性充填剤材料はまた、スラリー混合物の粘度を調整することができる。好ましい実施形態では、アルミナ粉末が、不活性充填剤材料として利用される。例えば、シリカ及びカオリンなどの他の種類の充填剤材料を利用することができる。
【0040】
本発明のスラリーは、長い貯蔵寿命を実証している。その貯蔵寿命は、溶媒に残存するバインダー材料と、バインダー溶液中に反応せずに安定に残存する固形分とに関し、少なくとも3か月、より好ましくは少なくとも6か月の範囲である。
【0041】
本発明のスラリー組成物は、従来の方法、例えば、はけ塗り、噴霧、浸漬及び注入によって、金属基材に適用することができる。適用方法は、その少なくとも一部は、スラリー組成物の粘度、及び基材表面の形状に依存する。スラリーは、基材の全表面か、あるいは基材の選択された領域のみのいずれかに、特定のツールを必要とせずに適用することができる。有利なことに、金属基材の所望の領域にのみスラリーを局所的に適用できる機能によって、マスキング技術を利用する必要がなくなる。
【0042】
スラリー組成物は、金属基材上に適用され、対流式オーブン内の温風か、あるいは赤外線ランプなどの下のいずれかで乾燥させる。次いで、スラリーコーティングされた基材を、約24時間までの範囲の間、より好ましくは約2時間から12時間の間、1600°F〜2100°Fに加熱して、クロム拡散コーティングの形成を可能にする。その処理中に、アルゴン、水素、又はその混合物の適切な流れを維持し、蒸留器から、実質的に全てのバインダー脱ガスをパージする。
【0043】
処理後、スラリー残留物は、ワイヤブラシ、酸化物グリットバニシング、ガラスビーズ、高圧水ジェット、又は他の従来の方法を含む様々な方法によって、除去することができる。スラリー残留物は、典型的には、未反応のスラリー組成物材料を含む。任意のスラリー残留物の除去は、下にあるクロマイジング表面層の損傷を防止するような方法で行われる。
【0044】
好ましくは、本発明のスラリーコーティング組成物は、ニッケル系、コバルト系、又は鉄系合金上に適用するために、配合される。ニッケル系合金は、例えば、相対的に最大の元素成分(重量比で)としてニッケルを有するマトリックス相を有する合金である。物理的又は化学的特性の改良を付与するために、アルミニウムなどの他の元素をニッケル系合金に添加してもよい。
【0045】
クロマイジングコーティングは2層で構成されている:重量比で70%超のクロムを含有する外側α−Cr層、及び、ニッケルの固溶体中のクロムとして定義される内側Ni(Cr)層。本発明の原理によれば、ある一定のレベルでの特定の活性剤と特定の緩衝材料の組合せは、互いに相互作用して、窒化物、酸化物の含有物、及びα−クロム相の含有レベルが著しく低減されたクロマイジングコーティングの形成を促進する。内側Ni(Cr)層は、重量比で約15%から約50%、より好ましくは約25%から約40%のクロムを含むニッケル−クロム相を含有する。Ni(Cr)中のクロム含有量は、航空宇宙用途を含む種々の最終用途のための所望の耐腐食性を付与するのに十分である。外側α−クロム層のコーティングの厚さは、従来のクロム拡散コーティングに比べて減少しており、わずかに、全コーティング厚さの約0%から約40%、より好ましくは約0%から約10%のみを占める。それにより、外側層中に形成されるα−クロム層が大量の場合に典型的に遭遇する脆性を排除しながら、コーティングが十分な耐疲労性を維持することを可能にする。
【実施例】
【0046】
以下の例により、従来のコーティングとの比較において、改質されたスラリー配合物を利用して本発明のクロム拡散コーティングを形成することについての予想外の改良を実証する。
【0047】
[比較例1]
「スラリーA」と称するスラリー組成物を、典型的には、従来のパック法、気相法、又はスラリークロマイジング法で用いられる従来の配合によって調製した。スラリーAは、元素のクロム粉末と塩化アンモニウム活性剤とから構成されている。スラリーAは、以下を混合することによって調製した:
クロム粉末 100g、−325メッシュ;
塩化アンモニウム(ハロゲン化物活性剤) 5g;
klucel(商標) ヒドロキシプロピルセルロース(バインダー) 4g;
脱イオン水(溶媒) 51g;及び
アルミナ粉末(不活性充填剤材料) 40g。
【0048】
スラリーAを、浸漬によりRene N5試験片の表面に適用した。Rene N5は、単結晶ニッケル系超合金であり、重量比で、約7.5%Co、7.0%Cr、6.5%Ta、6.2%Al、5.0%W、3.0%Re、1.5%Mo、0015%Hf、0.05%C、0.004%B、0.01%Y、残部のニッケル、の公称組成を有する。
【0049】
スラリーコーティングを、80℃のオーブン内で30分間乾燥し、続いて、135℃で30分間硬化させた。次に、コーティングされた試料を、2010°Fの流れるアルゴン雰囲気中で4時間拡散熱処理した。冷却後、スラリー残留物を、220メッシュのアルミナのグリットブラスティングによって、試料の表面から除去した。
【0050】
冶金分析のため、コーティングされた試料の断面を作成した。図1に、得られたコーティングの微細構造を示す。その結果を表1にまとめる。
【0051】
図1において、2つの微細構造特性が観察された。これらは、従来のパック法、気相法、又はスラリークロマイジング法によって形成されたクロマイジングコーティングに非常によく似ている。第一に、コーティングは、連続的な外側α−クロム層を含む。α−クロム層の厚さは、全コーティング厚さの40%を占めた。その領域の外側領域に沿ったこのような厚さにより、コーティングされた試料の機械特性に有害な受け入れがたい脆性が生じる。第二に、コーティングは、かなりの量の内部の窒化物及び酸化物の含有物を含むことが観察され、それらは、コーティングの腐食及び浸食性能を低下させ得る。酸化アルミニウム含有物は、主に、コーティングの外側のα−クロム層中に散在していたが、窒化アルミニウム含有物は、ニッケル−クロム固溶体の内側の層中に位置していた。図1中の白い矢印は、コーティングの内側層中に存在する角張った形態での窒化アルミニウム含有物を示す。窒化物層は、図1で白い矢印でマークされている。
【0052】
窒化物及び酸化物の含有物の体積分率は、ASTM E1245で指定された方法で、自動画像解析によって測定した。その含有率は、14.5%であった。
【0053】
[比較例2]
スラリーA中の塩化アンモニウムを、フッ化アルミニウム活性剤に置き換える点においては本発明に従って、「スラリーB」と称する第2のスラリー組成物を調製した。スラリーBは、以下を含有していた:
クロム粉末 100g、−325メッシュ;
フッ化アルミニウム(ハロゲン化物活性剤) 20g;
klucel(商標) ヒドロキシプロピルセルロース(バインダー) 4g;
脱イオン水(溶媒) 51g;及び
アルミナ粉末(不活性充填剤材料) 25g。
【0054】
スラリーBを、Rene N5試験片に適用した。そして、比較例1に記載のとおり、2010°Fのアルゴン雰囲気中で4時間拡散処理した。冶金分析のため、コーティングされた試料の断面を作成した。結果を表1にまとめる。
【0055】
図2に、生成して得られたコーティングの微細構造を示す。有害なα−クロム相は、比較例1に比べて減少した。具体的には、スラリーBを用いた場合の外側α−クロム相の厚さは、比較例1でスラリーAを用いた場合の40%と比較して小さい、全コーティング厚さのわずか14%を占めた。
【0056】
スラリーA中の塩化アンモニウムを、スラリーB中のフッ化アルミニウムに置き換えることにより、コーティング中の内部窒化物含有物の量が減少し、それにより、コーティング中の窒化物形成のための窒素前駆体供給源を除去したことが、観察された。コーティング中の窒化物及び酸化物の含有物の体積は、スラリーAを使用した場合の14.5%(比較例1)から、スラリーBを使用した場合の11.6%に減少した。それにもかかわらず、含有物の量は許容できないほど高く、乏しい腐食、浸食及び疲労の耐性をもたらすことが確認された。
【0057】
[比較例3]
標準的なパック法でコーティングを形成する際に典型的に用いられるスラリー配合物から調製されたコーティングの微細構造及び組成物を評価するために、試験を行った。この点に関し、塩化アンモニウム、並びにニッケル及びアルミニウム粉末の混合物を含有する緩衝材料が、スラリー組成物中に取り込まれていた。「スラリーC」と称するスラリー組成物を、以下を混合することによって調製した:
クロム粉末 70g、−325メッシュ;
塩化アンモニウム(ハロゲン化物活性剤) 5g;
klucel(商標) ヒドロキシプロピルセルロース(バインダー) 4g;
脱イオン水(溶媒) 51g;
ニッケル粉末25g、及びアルミニウム粉末5g(金属緩衝粉末);並びに
アルミナ粉末(不活性充填剤材料) 40g。
【0058】
スラリーCを、Rene N5試験片に適用した。そして、比較例1に記載のとおり、2010°Fのアルゴン雰囲気中で4時間拡散処理した。冶金分析のため、コーティングされた試料の断面を作成した。その結果を表1にまとめる。
【0059】
図3に、得られたコーティングの微細構造を示す。スラリーCを用いてニッケル及びアルミニウム粉末を添加した場合は、比較例1のスラリーAから生成したコーティング(窒化物及び酸化物の含有物の体積分率は14.5%を示した)との比較において、コーティング中の窒化物及び酸化物の含有物の量が、13.2%に減少した。スラリーCを用いてニッケル及びアルミニウム粉末を添加した場合は、有害なα−クロム相の分率が、スラリーAを用いた場合の厚さ比40%から、厚さ比30%にわずかに減少した。これらの結果は、塩化アンモニウムが、コーティングにマイナスの影響を与えること、及び緩衝材料によって提供されるいかなる利点も相殺することを示した。この試験から、パック法で用いられる配合(pack formulation)は、好ましい微細構造を有するクリーンなコーティング(すなわち、窒化物及び酸化物の含有物の不存在、並びにアルファ−クロムの減少)を生成するために、スラリークロマイジング法において首尾よく利用することができないことが確認された。
【0060】
[実施例1]
スラリーC中の塩化アンモニウム活性剤を、フッ化アルミニウム活性剤に置き換えたスラリー配合物から調製されたコーティングの微細構造及び組成物を評価するために、試験を行った。この点に関し、「スラリーD」を、以下を混合することによって調製した:
クロム粉末 70g、−325メッシュ;
フッ化アルミニウム(ハロゲン化物活性剤) 20g;
klucel(商標) ヒドロキシプロピルセルロース(バインダー) 4g;
脱イオン水(溶媒) 51g;
ニッケル粉末25g、及びアルミニウム粉末5g(金属緩衝粉末);並びに
アルミナ粉末(不活性充填剤材料) 25g。
【0061】
スラリーDを、Rene N5試験片に適用した。そして、比較例1に記載のとおり、アルゴン雰囲気中で4時間拡散処理した。冶金分析のため、コーティングされた試料の断面を作成した。その結果を表1にまとめる。
【0062】
図4に、得られたコーティングの微細構造を示す。フッ化アルミニウム活性剤とニッケル及びアルミニウム粉末とを組み合わせることにより、コーティング中の窒化物及び酸化物の含有物、並びにα−クロム相の顕著な減少をもたらすことが観察された。得られたコーティングは、スラリーCを使用した場合の13.2%(比較例3)及びスラリーBを使用した場合の11.6%(比較例2)と比較して、きわめて微量の、体積比で2.6%の窒化物及び酸化物の含有物を含んでいた。さらに、また、外側α−クロム相の厚さは、スラリーCの30%、あるいはスラリーBの14%と比較して小さい、全コーティング厚さの4%未満を占めた。これらの結果は、拡散コーティングの形成中に、非窒素ハロゲン化物活性剤が、緩衝材料と好適に相互作用することを示し、結果として、改良されたコーティングを生成するためには、適切なハロゲン化物活性剤と緩衝材料の両方が必要とされることを示した。
【0063】
[実施例2]
非窒素ハロゲン化物活性剤とニッケルを含有する金属緩衝粉末とを含有するスラリーから調製されたコーティング組成物及び微細構造を評価するために、さらなる試験を行った。この点に関し、「スラリーE」と称するスラリー組成物を、スラリーDからアルミニウム粉末を除去し本発明に従って調製した。「スラリーE」を、以下を混合することによって調製した:
クロム粉末 75g、−325メッシュ;
フッ化アルミニウム(ハロゲン化物活性剤) 20g;
klucel(商標) ヒドロキシプロピルセルロース(バインダー) 4g;
脱イオン水(溶媒) 51g;
ニッケル粉末 25g(緩衝粉末);及び
アルミナ粉末(不活性充填剤材料) 25g。
【0064】
スラリーEを、Rene N5試験片に適用した。そして、比較例1に記載のとおり、アルゴン雰囲気中で4時間拡散処理した。冶金分析のため、コーティングされた試料の断面を作成した。結果を表1にまとめる。
【0065】
図5に、得られたコーティングの微細構造を示す。結果は、実施例1の結果と同等であった。フッ化アルミニウム活性剤とニッケル粉末とを組み合わせることにより、コーティング中の窒化物及び酸化物の含有物、並びにα−クロム相の顕著な減少をもたらした。得られたコーティングは、スラリーCを使用した場合の13.2%(比較例3)、及びスラリーBを使用した場合の11.6%(比較例2)と比較して、きわめて微量の、体積比で2.5%の窒化物及び酸化物の含有物を含んでいた。また、外側α−クロム相の厚さは、スラリーCの30%、あるいはスラリーBの14%と比較して小さい、全コーティング厚さの約2%未満を占めた。
【表1】
【0066】
これまで示してきたとおり、本発明は、従来のクロマイジングスラリー法、パック法及び気相法から生成したクロム拡散コーティングに比べて、有利なクロム拡散コーティングを生成するユニークなスラリー配合物を提供する。特に、実施例で示したように、本発明は、従来のスラリークロマイジング法で生成したものとの比較において、優れたクロムコーティング組成物及び微細構造(すなわち、所定の含有物が低減され、且つα−クロムが低減された)を生成する。その結果、本発明のコーティングは、改良された特性(腐食、浸食及び疲労に対するより高い耐性を含む)を有する。
【0067】
さらに、本発明のスラリーは、基材の局所領域に、制御され且つ正確に、単純な適用方法(はけ塗り、噴霧、浸漬又は注入を含む)によって選択的に適用されることができる点で有利である。これに対して、従来のパック法及び気相法は、基材の選択された領域に沿って、クロムコーティングを局所的に生成することができない。その結果、これらの従来のコーティングは、困難なマスキング技術(典型的には、金属基材に沿って、コーティングが望まれない領域を隠す点において有効ではない)を必要とする。マスキングの課題を克服するため、クロマイジング気相法及びパック法では、コーティングが望まれない金属基材の表面から、余分なコーティングを除去するコーティング後加工工程を利用している。
【0068】
本発明は、局所的にスラリー配合物を適用してコーティングを形成することができることに加えて、材料廃棄物を著しく低減するという付加的な利点をも持ち合わせている。このように、本発明は、全体的なスラリー材料を節約し、且つ廃棄物を減らすことができ、それにより、スラリー成分のより高い利用率を実現する。マスキングは必要ではなく、それにより、コーティングに必要とされる原料を削減し、作業場における有害物質の露出を最小限にする。これに対して、パック法は、典型的には、著しくより多くの量の原料を必要とし、より多くの廃棄物が生じる。同様の欠点が、気相法にも存在する。
【0069】
さらに、本発明の改質されたスラリー配合物は、パック法及び気相法とは異なり、複雑な形状や入り組んだ内部構造を有する種々の部品の上に、改良されたクロムコーティングを形成するために使用することができる。パック法及び気相法は、特定のサイズで且つ単純化された形状を有する部品にしか適用することができず、汎用性が制限されている。
【0070】
本発明の原理は、クロマイジングコーティングの制御された適用を必要とする任意の適切な基材を利用することができる。この点で、本発明の方法は、他の用途に利用される異なる種々の基材を保護することができる。例えば、本明細書で用いられるクロマイジングコーティングは、十分なクロムを含有していないステンレス鋼基材上に、耐酸化性を付与するため、本発明の原理に従って局所的に適用してもよい。このような用途で、クロマイジングコーティングは、ステンレス鋼基材に沿って、酸化物保護スケール(protective oxide scale)を形成する。
【0071】
本発明のある種の実施形態とみなされるものを示し、説明したが、当然のことながら、形態又は詳細の様々な改変及び変更は、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく容易に作成することができることは理解されよう。したがって、本発明は、本明細書で示し説明された正確な形態及び詳細に限定されず、本明細書で開示され以後で特許請求される本発明の全体未満の何物にも限定されないことが意図されている。
図1
図2
図3
図4
図5