(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6826105
(24)【登録日】2021年1月18日
(45)【発行日】2021年2月3日
(54)【発明の名称】5−アミノレブリン酸がコンジュゲートされた量子ドットナノ粒子
(51)【国際特許分類】
A61K 31/197 20060101AFI20210121BHJP
C09K 11/08 20060101ALI20210121BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20210121BHJP
A61K 47/18 20060101ALI20210121BHJP
A61K 47/62 20170101ALI20210121BHJP
A61K 41/00 20200101ALI20210121BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20210121BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20210121BHJP
A61K 31/221 20060101ALI20210121BHJP
A61K 31/341 20060101ALI20210121BHJP
A61K 49/00 20060101ALI20210121BHJP
【FI】
A61K31/197
C09K11/08 GZNM
A61K47/02
A61K47/18
A61K47/62
A61K41/00
A61P35/00
A61P43/00 123
A61K31/221
A61K31/341
A61K49/00
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-508735(P2018-508735)
(86)(22)【出願日】2016年8月17日
(65)【公表番号】特表2018-525401(P2018-525401A)
(43)【公表日】2018年9月6日
(86)【国際出願番号】GB2016052548
(87)【国際公開番号】WO2017029501
(87)【国際公開日】20170223
【審査請求日】2018年4月16日
(31)【優先権主張番号】62/205,998
(32)【優先日】2015年8月17日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509295262
【氏名又は名称】ナノコ テクノロジーズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001438
【氏名又は名称】特許業務法人 丸山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ナーサニ,イマド
【審査官】
飯濱 翔太郎
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2015/101779(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0070443(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2002/0127224(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0044791(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0230994(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0183504(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0220143(US,A1)
【文献】
NANOMEDICINE,2008年11月24日,Vol.3, No.6,抄録,DOI:10.2217/17435889.3.6.777
【文献】
RCS Adv.,2016年,Vol.6,pp.55568-55576
【文献】
The International Journal of Biochemistry & Cell Biology,2006年,Vol.38,pp.1530-1539
【文献】
Gastroenterology,2013年 5月,Vol.144, Issue5, Supplement 1,p.S-516,Su1948
【文献】
PROCEEDINGS OF SPIE,2014年 8月27日,Vol.9166,916612-1〜916612-18,DOI:10.1117/12.2060342
【文献】
PROGRESS IN BIOMEDICAL OPTICS AND IMAGING,2015年 2月 9日,Vol.9338,p.933813-1〜933813-5,DOI:10.1117/12.2084821
【文献】
Chem.Commun.,2013年,Vol.49,pp.8934-8936
【文献】
Phys.Chem.Chem.Phys.,2015年 2月28日,Vol.17,pp.5973-5981
【文献】
Photodiagnosis and Photodynamic Therapy,2013年,Vol.10,pp.382-388
【文献】
Photodiagnosis and Photodynamic Therapy,2011年,Vol.8,pp.14-29
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−33/44
A61K 41/00−41/17
A61K 47/00−47/69
A61P 35/00−35/768
C09K 11/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の官能化量子ドットナノ粒子であって、
各々が、分子クラスター化合物と、半導体材料と、外側有機コロナ層と、を含む量子ドットナノ粒子と、
前記外側有機コロナ層に結合された標的リガンドと、
前記標的リガンドにコンジュゲートされた複数のアルキル連結基と、
アミド結合又はエステル結合を介して、前記複数のアルキル連結基に共有結合された、5−アミノレブリン酸(5−ALA)、5−ALA誘導体、又はこれらの塩類と、を含み、
前記5−ALA誘導体が、5−ALAメチルエステル(アミノレブリン酸メチル)、5−ALAエチルエステル、5−ALAプロピルエステル、5−ALAブチルエステル、5−ALAペンチルエステル、5−ALAヘキシルエステル(アミノレブリン酸ヘキシル)、5−ALAオクチルエステル、5−ALA(ヒドロキシメチル)テトラヒドロフラニルエステル、及び5−ALAポリエチレングリコールからなる群の1つ又は2つ以上から選択される、複数の官能化量子ドットナノ粒子。
【請求項2】
前記官能化量子ドットナノ粒子が、コア−シェルナノ粒子、合金化ナノ粒子又はそれらの組合せである、請求項1の複数の官能化量子ドットナノ粒子。
【請求項3】
前記標的リガンドは、癌細胞への結合に特異的な組織特異性リガンドである、請求項1の複数の官能化量子ドットナノ粒子。
【請求項4】
前記標的リガンドは、PLZ4である、請求項1の複数の官能化量子ドットナノ粒子。
【請求項5】
前記官能化量子ドットナノ粒子は、カドミウムを実質的に含まない、請求項1の複数の官能化量子ドットナノ粒子。
【請求項6】
官能化量子ドットを調製する方法であって、
量子ドットを準備するステップであって、各量子ドットが、分子クラスター化合物と、コア半導体材料と、1又は複数のカルボキシル基を含む外層とを含む量子ドットである、量子ドットを準備するステップと、
カップリング剤を準備するステップと、
5−アミノレブリン酸(5−ALA)、5−ALA誘導体又はこれらの塩類を準備し、前記準備した量子ドット及びカップリング剤と共にインキュベートして、アミド結合又はエステル結合を介して、前記5−ALA、前記5−ALA誘導体、又はこれらの塩類を前記量子ドットに外部的に共有結合することにより、粗製5−ALA−量子ドットコンジュゲートを生成するステップと、
前記粗製5−ALA−量子ドットコンジュゲートを精製するステップと、
精製された5−ALA−量子ドットコンジュゲートを分離するステップと、
癌細胞結合リガンドを前記精製された5−ALA−量子ドットコンジュゲートにさらに接合して、官能化量子ドットを調製するステップであって、前記官能化量子ドットが、外部的に結合された癌細胞結合リガンドと、5−ALA、5−ALA誘導体、又はこれらの塩類と、を有する量子ドットから本質的に構成される、官能化量子ドットを調製するステップと、を含み、
前記5−ALA誘導体が、5−ALAメチルエステル(アミノレブリン酸メチル)、5−ALAエチルエステル、5−ALAプロピルエステル、5−ALAブチルエステル、5−ALAペンチルエステル、5−ALAヘキシルエステル(アミノレブリン酸ヘキシル)、5−ALAオクチルエステル、5−ALA(ヒドロキシメチル)テトラヒドロフラニルエステル、及び5−ALAポリエチレングリコールからなる群の1つ又は2つ以上から選択される、方法。
【請求項7】
前記カップリング剤は、1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド塩酸塩である、請求項6の方法。
【請求項8】
癌細胞を殺滅及び検出するための組成物であって、アミド結合又はエステル結合を介して、外部的に結合された癌細胞標的リガンドと5−アミノレブリン酸(5−ALA)又は5−ALA誘導体又はこれらの塩類とにコンジュゲートされた量子ドットから本質的に構成される官能化量子ドットコンジュゲートを含み、患者に投与後、前記癌細胞標的リガンドが、前記官能化量子ドットコンジュゲートの癌細胞への接合及び取込みを導き、前記取込みの後、前記5−ALA又は前記5−ALA誘導体又はこれらの塩類が前記官能化量子ドットから分離し、前記5−ALA又は前記5−ALA誘導体又はこれらの塩類がPpIXを内部的に生成し、前記PpIXは、前記官能化量子ドットが励起されると蛍光を発して、375〜475nmの青色光を生成し、これによって、癌細胞の殺滅と画像化の両方を達成することができ、前記5−ALA誘導体が、5−ALAメチルエステル(アミノレブリン酸メチル)、5−ALAエチルエステル、5−ALAプロピルエステル、5−ALAブチルエステル、5−ALAペンチルエステル、5−ALAヘキシルエステル(アミノレブリン酸ヘキシル)、5−ALAオクチルエステル、5−ALA(ヒドロキシメチル)テトラヒドロフラニルエステル、及び5−ALAポリエチレングリコールからなる群の1つ又は2つ以上から選択される、組成物。
【請求項9】
前記癌細胞標的リガンドは、癌細胞への結合に特異性であって、PLZ4及び癌細胞特異性の抗体から選択される、請求項8の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2015年8月17日に出願された米国仮特許出願第62/205,998号の利益を主張する。
【0002】
本発明は、量子ドットナノ粒子にコンジュゲートされた(conjugated)5−アミノレブリン酸及びその誘導体、並びに、量子ドットナノ粒子にコンジュゲートされた5−アミノレブリン酸及びその誘導体を製造する方法に関する。本発明はまた、光線力学療法において、蛍光標識と光増感剤の両方の前駆体として、量子ドットナノ粒子にコンジュゲートされた5−アミノレブリン酸及びその誘導体を投与することによって癌を治療する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
光線力学療法(PDT)は、癌細胞を消滅させるための光と共に、光増感剤(photosensitive)(PS)と呼ばれる光感受性薬剤を使用して行われる治療である。この薬剤は、光によって活性化された後にのみ作用する。適当な光を照射すると、光増感剤は新生物組織を破壊するための活性酸素種(reactive oxygen species)(ROS)を生成する。
【0004】
5−アミノレブリン酸(5−ALA)は、PDTに対して認可されたPSであり、広く用いられている。5−ALAの誘導体(derivatives)及び類似体(analogs)もまた、PDT用のPSとして提案されている。具体的には、WO2002/009690号に開示された5−ALAのエステル誘導体があり、この公報はその全体が参照により本明細書に組み込まれる。5−ALA及びその誘導体及び類似体はプロドラッグであり、一旦腫瘍細胞の中に取り込まれると、天然光増感剤プロトポルフィリン(protoporphyrin)IX(PpIX)に変換される。PHOTOFRIN(登録商標)(ポルフィマーナトリウム)[CONCORDIA LABORATORIES INC. ST. MICHAEL BARBADOS BB11005]などの外因性投与されるPSとは異なり、光線力学的に不活性で非選択的かつ非毒性の5−ALAは、細胞内で代謝されて、光線力学的に活性で蛍光性のPpIXになる。その後で、光、例えば青色光を腫瘍部位に照射すると、PpIXが活性化され、酸化的損傷を引き起こし、細胞傷害を誘発する。
【0005】
しかしながら、5−ALAは極性分子である。5−ALAの双性イオン特性及び親水性は、無傷の皮膚、結節性皮膚損傷などの組織や細胞膜へのその浸透を大きく制限するため、細胞の取込みを遅らせ、腫瘍細胞におけるPpIXの蓄積にばらつきを生じさせる。それゆえ、5−ALAが、細胞膜を貫通できるようにすること、及び標的の腫瘍細胞に送達できるようにすることが、PDTの有効性及び特異性(specificity)を改善する際の課題である。
【0006】
さらに、5−ALAは、神経膠腫及び黒色腫などの癌の蛍光ガイド下手術におけるマーカーでもあり得る。この用途に対しても、上記の制限は、5−ALAの標識剤としての能力を不十分なものにする。
【発明の概要】
【0007】
光線療法、ディスプレイ、照明、太陽エネルギー及びバイオイメージングにおいては、化合物半導体としての量子ドットとしばしば称される2〜100nmの範囲の粒子について、その調製及び特徴付けに大きな関心が寄せられている。
【0008】
米国特許第7,588,828号(2007年9月10日出願、2009年9月15日発行)、米国特許第7,803,423号(2005年4月27日出願、2010年9月28日発行)、米国特許第7,867,556号、米国特許米国特許第7,985,446号(2010年8月11日出願、2011年7月26日発行)、米国特許第8,062,703号(2010年8月10日出願、2011年11月22日発行)、出願人の共同所有に係る米国特許出願第14/207,084号、出願人の共同所有に係る米国特許出願第14/212,702号、及び出願人の共同所有に係る米国特許出願第14/208,311号は、高品質の単分散QDを大量生産する方法を記載しており、それらの全内容は、参照によってその全体が本明細書に組み込まれる。QD前駆体は、分子クラスターの存在を条件として配備され、これによって、分子クラスターの完全性が維持され、予め作製されたシード又はテンプレートとして作用して、核生成の中心となって化学前駆体と反応し、工業的用途として十分大きな規模で高品質のナノ粒子を生成する。
【0009】
QD粒子は、さらなる化学的操作のために、有機末端基で官能化されることができる。
一例は不動態化層である。QDを調製するプロセスでは、どんなナノ粒子でも最終無機表面原子の周りの配位が不完全であり、粒子の表面に、配位が不完全な高度に反応性の原子「ダングリングボンド」が生じ、これが粒子の凝集をもたらすことがある。この問題を解消するために、有機不動態化層を用いて、露出面の原子を保護有機基で覆うことができるが、不動態化層は有機官能基を具えるため、該官能基を通じて、他の材料への化学的結合が起こり得る。
【0010】
本発明は、ナノ粒子コンジュゲートにコンジュゲートされた5−ALA、その誘導体及びその類似体を含むコンジュゲート(conjugate)を提供する。本発明の一態様では、5−アミノレブリン酸にコンジュゲートされた官能化量子ドットナノ粒子が提供される。一実施形態において、5−ALAはナノ粒子に結合される。量子ドットナノ粒子は、コア−シェルナノ粒子であってよい。5−ALAは、ナノ粒子と、共有結合、物理的結合、イオンペアリングにより、又はファンデルワールス相互作用によりコンジュゲートされる。結合は、アミド、エステル、チオエステル、又はチオールアンカー基により、量子ドットナノ粒子の無機表面上に直接形成されてもよいし、又はナノ粒子を水溶性及び生体適合性にするために使用される有機コロナ層上に形成されてもよい。
【0011】
一実施形態において、5−ALA−ナノ粒子コンジュゲートは、分子クラスター化合物、コア半導体材料、及び外層を含み、前記外層はRを含み、Rは次のとおりである。
【化1】
【0012】
別の実施形態では、ナノ粒子は合金化された量子ドットである。コア−シェル構造のナノ粒子とは異なり、合金化ナノ粒子は、コア−シェルの形態を有さず、段階的な(graded)バンドギャップを有する。
【0013】
官能化された量子ドットナノ粒子は、癌細胞を標的とすることができるリガンドを含むことができる。リガンドはPLZ4であってよい。ナノ粒子は、カドミウムを実質的に含まないものでよい。
【0014】
実施形態はまた、上記した5−ALA−ナノ粒子コンジュゲートを調製する方法であって、1)カルボキシル基を有する外層を含むナノ粒子を5−ALAと結合させて粗製(crude)5−ALA−ナノ粒子コンジュゲートを作製するステップと、2)粗製5−ALA−ナノ粒子コンジュゲートを精製するステップと、3)5−ALA−ナノ粒子コンジュゲートを分離するステップと、を含む。5−ALA−ナノ粒子コンジュゲートを調製する方法は、分子クラスター化合物、コア半導体材料及び外層を含むナノ粒子を準備すること、カップリング剤を準備すること、5−ALA、5−ALA誘導体又は5−ALA類似体を準備すること、混合物をインキュベートして粗製5−ALA−ナノ粒子コンジュゲートを生成すること、粗製ナノ粒子コンジュゲートを精製すること、及び5−ALA−ナノ粒子コンジュゲートを分離することを含む。カップリング剤は、1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド塩酸塩であってよい。この方法はまた、5−ALA−ナノ粒子コンジュゲート、癌細胞を標的にすることができるリガンドにコンジュゲートすることを含むことができる。
【0015】
実施形態は、5−ALA−ナノ粒子コンジュゲートを含む蛍光標識剤及び光増感剤のためのシステムを提供するもので、前記コンジュゲートは、外側層を有する量子ドットを含み、前記量子ドットは、Rを含み、前記Rは次の通りである。
【化2】
【0016】
実施形態は、癌を治療する方法を提供するもので、光線力学療法において5−ALA−ナノ粒子コンジュゲートを蛍光標識及び光増感剤の両方の前駆体として投与するステップと、続いて光増感剤を照射するステップと、を含む。
【0017】
実施形態は、細胞アポトーシスを誘導する方法を提供するもので、光線力学療法において5−ALA−ナノ粒子コンジュゲートを蛍光標識及び光増感剤の両方の前駆体として投与するステップと、続いて光増感剤を照射するステップと、を含む。細胞のアポトーシスを誘導する方法は、複数の5−アミノレブリン酸にコンジュゲートされた官能化ナノ粒子を細胞に投与するステップと、5−アミノレブリン酸に代謝産物を生成させるステップと、生成された代謝産物を照射するステップと、を含むことができる。細胞は哺乳動物であってよい。複数の5−アミノレブリン酸にコンジュゲートされた官能化ナノ粒子は、それを必要とする哺乳動物に投与されることができる。代謝産物はプロトポルフィリンIXであってよい。照射するステップは、ナノ粒子によって行われることができる。ナノ粒子は、375〜475nmの範囲の光を発することができる。照射するステップは、活性酸素種を生成するのに十分であり得る。官能化されたナノ粒子は、癌細胞を標的にすることができるリガンドをさらに含むことができる。前記方法は、リガンドを癌細胞に結合するステップをさらに含むことができる。
【0018】
実施形態は、5−ALA−ナノ粒子コンジュゲートを、組織特異性リガンド、例えば5−ALA−ナノ粒子コンジュゲートを取り込むために特異組織を標的にすることができるペプチドなどとさらにコンジュゲートする。そのようなペプチドの例として、癌性細胞及び新生物組織(腫瘍を含む)を標的にすることができる抗体がある。標的にされる癌の例として、前立腺、乳房、結腸、皮膚、子宮頸部、膀胱、肺及び胃の癌が挙げられる。特異組織を標的にすることができるペプチドは、共有結合、物理的結合、イオンペアリングにより、又はファンデルワールス相互作用により、ナノ粒子とコンジュゲートされることができる。結合は、アミド、エステル、チオエステル、又はチオールアンカー基により、量子ドットナノ粒子の無機表面上に直接形成されることができるし、又はナノ粒子を水溶性及び生体適合性にするために使用される有機コロナ層上に形成されることもできる。
【0019】
実施形態は、5−ALA−ナノ粒子コンジュゲートを、皮下、静脈内、筋肉内、局所的、及び経口的に投与することを含む。実施例として、ボーラス注入又は静脈内注射が挙げられる。
【0020】
実施形態はまた、癌を診断する方法を含み、光線力学診断において5−ALA−ナノ粒子コンジュゲートを蛍光標識及び光増感剤の両方の前駆体として投与するステップと、5−ALAをナノ粒子から分離してPpIXを生成するステップと、分離されたナノ粒子を励起して375〜475nmの青色光を発するステップと、PpIXの蛍光特性を活性化するステップと、蛍光を画像化して癌を検出するステップと、を含む。
【0021】
実施形態はまた、腫瘍細胞の外科的切除する方法を含み、光線力学診断において5−ALA−ナノ粒子コンジュゲートを蛍光標識及び光増感剤の両方の前駆体として投与するステップと、5−ALAをナノ粒子から分離してPpIXを生成するステップと、分離されたナノ粒子を励起して375〜475nmの青色光を発するステップと、PpIXの蛍光特性を活性化するステップと、を含み、これらステップによって、腫瘍細胞の検出と除去を可能にする。
【0022】
実施形態はまた、癌細胞を検出する方法を含み、光線力学診断において5−ALA−ナノ粒子コンジュゲートを蛍光標識及び光増感剤の両方の前駆体として投与するステップと、5−ALAをナノ粒子から分離するステップと、5−ALAがPpIXを生成するステップと、分離されたナノ粒子を励起して375〜475nmの青色光を発するステップと、PpIXの蛍光特性を活性化するステップと、蛍光を画像化するステップと、を含む。投与するステップは、注射によって行なわれることができる。注射は、静脈内に行うことができる。ナノ粒子は、合金化された量子ドットであってよい。
【0023】
なお、添付の特許請求の範囲に規定される開示の範囲から逸脱することなく、本開示の上記実施形態に対して多くの変更を為し得ることは理解されるであろう。さらに、上記した好ましい実施形態の任意の1又は複数の実施形態は、特定の用途に適合させるために、1又は複数の他の好ましい実施形態と組み合わせることができる。
【0024】
任意選択的な特徴及び/又は好ましい特徴は、本明細書に記載されたものを超えて他の組合せに用いられることができるし、本開示の一態様に関連して記載された任意選択的な特徴及び/又は好ましい特徴は、必要に応じて、本開示の他の態様に存在してもよい。
【0025】
説明され例示された態様は、その性質上、例示的なものであって限定的なものと考えるべきでなく、好ましい態様のみが示され、記載されていること、及び特許請求の範囲に記載された開示の範囲内の全ての変更及び変形は保護されることが望ましいことは理解される。この明細書において、「好ましい」、「好ましくは」、「望ましい」又は「より好ましい」などの用語の使用は、そのように記載された特徴が望ましいことを示唆するかもしれないが、必ずしも必要でないこともあり、そのような特徴を欠いていることは、添付の特許請求の範囲に規定される本開示の範囲内であることを意図するものである。特許請求の範囲に関しては、「a」、「an」又は「少なくとも1つ」のような単語は特徴を最初に記載するために用いられるもので、特許請求の範囲中に特に記載がない限り、そのような特徴の1つのみに限定することを意図するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は、5−ALA−ナノ粒子コンジュゲートを調製するプロセスの概略図である。
【0027】
【
図2】
図2は、表面結合されたリガンドが付着したナノ粒子(黒丸で示す)について5−ALAとの共役化を示す。この代表的な例では、X=表面結合リガンド(チオール、アミン、ホスフィン、ホスフィンオキシド、カルボン酸など)であり、Y=連結基(アルキル、アルケニル、アルキニルの1又は2以上を含む炭化水素鎖;PEG、PPO、PEO、シリコーンゴム、ポリエチレン、アクリル樹脂、ポリウレタン、ポリプロピレン、及びポリメチルメタクリレートなどのポリマー;コポリマー;ブロックコポリマーなど)であり、Z=カルボン酸、エステル、塩化アシル、酸無水物又はアルデヒドである。
【0028】
【
図3】
図3は、
図2の5−ALA−ナノ粒子コンジュゲートから光増感剤プロトポルフィリンIX(PpIX又はPROTO)への代謝経路を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1において、5−ALA−ナノ粒子コンジュゲートは、ナノ粒子を5−ALAと反応させることによって得られる。一実施例として、ナノ粒子は、分子クラスター化合物、コア半導体材料、及び外層を含む。外層は、カルボキシル基を含み、5−ALAがカルボキシル基と反応してリンケージを形成する。5−ALAの誘導体及び類似体は、単独又は組合せで使用されることは理解されるべきである。また、合金化されたナノ粒子を使用できることも理解されるべきである。さらに、コア−シェルナノ粒子と合金化ナノ粒子との組合せを使用されることもできる。
【0030】
5−ALAの誘導体には、以下のものを挙げられるが、これらに限定されない:
<5−ALA n−アルキルエステル>
5−ALAメチルエステル(メチルアミノレブリン酸、商品名METVIV(登録商標))
5−ALAエチルエステル
5−ALAプロピルエステル
5−ALAブチルエステル
5−ALAペンチルエステル
5−ALAヘキシルエステル(ヘキシルアミノレブリン酸、商品名HEXVIX)
5−ALAオクチルエステル
同様に、
5−ALA(ヒドロキシメチル)テトラヒドロフラニルエステル;及び
5−ALAポリエチレングリコール誘導体
さらに、5−ALA・HClなどの塩類
【0031】
コア−シェルナノ粒子の種類には、以下の種類を含むコア材料が含まれるが、これらに限定されない:
【0032】
周期律表の第2族の第1元素と周期律表の第16族の第2元素とからなり、三元材料、四元材料及びドープされた材料を含むIIA−VIB(2−16)材料。ナノ粒子材料は、MgS、MgSe、MgTe、CaS、CaSe、CaTe、SrS、SrSe、SrTe、BaS、BaSe、BaTeを含むが、これらに限定されない。
【0033】
周期律表の第12族の第1元素と周期律表の第16族の第2元素とからなり、三元材料、四元材料及びドープされた材料を含むIIB−VIB(12−16)材料。ナノ粒子材料は、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdS、CdSe、CdTe、HgS、HgSe、HgTeを含むが、これらに限定されない。
【0034】
周期律表の第12族の第1元素と周期律表の第15族の第2元素とからなり、三元材料、四元材料及びドープされた材料を含むII−V材料。ナノ粒子材料は、Zn
3P
2、Zn
3As
2、Cd
3P
2、Cd
3As
2、Cd
3N
2、Zn
3N
2を含むが、これらに限定されない。
【0035】
周期律表の第13族の第1元素と周期律表の第15族の第2元素とから成り、三元材料、四元材料及びドープされた材料を含むIII−V族材料。ナノ粒子材料は、BP、AlP、AlA、AlSb;GaN、GaP、GaAs、GaSb;InN、InP、InAs、InSb、AlN、BNを含むが、これらに限定されない。
【0036】
周期律表の第13族の第1元素と周期律表の第14族の第2元素とから成り、三元材料、四元材料及びドープされた材料を含むIII−IV材料。ナノ粒子材料は、B
4C、Al
4C
3、Ga
4Cを含むが、これらに限定されない。
【0037】
周期律表の第13族の第1元素と周期律表の第16族の第2元素とからなり、三元材料及び四元材料を含むIII−VI族材料。ナノ粒子材料は、Al
2S
3、Al
2Se
3、Al
2Te
3、Ga
2S
3、Ga
2Se
3、GeTe;In
2S
3、In
2Se
3、Ga
2Te
3、In
2Te
3、InTeを含むが、これらに限定されない。
【0038】
周期律表の第14族の第1元素と周期律表の第16族の第2元素とからなり、三元材料、四元材料及びドープされた材料を含むIV−VI材料。ナノ粒子材料は、PbS、PbSe、PbTe、Sb
2Te
3、SnS、SnSe、SnTeを含むが、これらに限定されない。
【0039】
周期律表の遷移金属のいずれかのグループの第1の元素と、周期律表のd−ブロック元素のいずれかのグループの第2の元素とからなり、三元材料、四元材料及びドープされた材料を含むナノ粒子材料。ナノ粒子材料は、NiS、CrS、CuInS
2を含むが、これらに限定されない。
【0040】
本明細書及び特許請求の範囲において、ドープされたナノ粒子」という用語は、上記のナノ粒子及び1又は2以上の主たる族又は希土類元素を含むドーパントのことを意味する。これについて、最も多いのは、遷移金属又は希土類元素であり、例えば、Mn
+でドープされたZnSナノ粒子などのマンガンを含む硫化亜鉛があるが、これに限定されない。
【0041】
一実施形態では、カドミウムを含まないナノ粒子が好ましい。
【0042】
一実施形態において、ナノ粒子は、ナノ粒子コア上に設けられた第1の半導体材料を含む第1の層を含む。前記第1の層には、第2の半導体材料を含む第2の層を設けられることができる。
【0043】
標準的なコンジュゲーション化学がコンジュゲーションに用いられることができる。例えば、5−ALA−ナノ粒子コンジュゲートを調製する方法は、ナノ粒子を準備するステップ、カップリング剤を準備するステップ、5−ALA、5−ALA誘導体(例えば、そのエステル誘導体など)、5−ALA類似体を準備するステップ、これらの混合物をインキュベートして、粗製5−ALA−ナノ粒子コンジュゲートを形成するステップを含む。粗製5−ALA−ナノ粒子コンジュゲートは、次に、精製され、分離されて、5−ALA−ナノ粒子コンジュゲートを得ることができる。
【0044】
インキュベーション条件は、アミド又はエステルのいずれかを形成できるように選択されることができる。他の結合(例えば、共有結合及び非共有結合の両方)が形成されてもよいことが理解されるべきである。一実施形態においては、5−ALAはナノ粒子に結合される。5−ALAは、共有結合、物理的、イオンペアリングか、又はファンデルワールス相互作用のいずれかによりナノ粒子とコンジュゲートされることができる。結合は、アミド、エステル、チオエステル、又はチオールアンカー基により、量子ドットナノ粒子の無機表面の上、又はナノ粒子を水溶性及び生体適合性にするために用いられる有機コロナ層の上に直接形成されることができる。
【0045】
カップリング(coupling)のための標準的なインキュベーション条件を用いられることができる。例えば、カップリング条件は、0.5〜4時間の範囲の溶液であってよい。カップリング条件の温度範囲は、100℃〜200℃の範囲であってよい。カップリング条件は、反応中に一定であっても変化してもよい。例えば、反応条件は130℃で1時間、次に140℃に昇温して3時間とすることができる。
【0046】
リンカー(linker)を使用して、ナノ粒子上のカルボキシル官能基と、5−ALA上のカルボキシル又はアミン末端基のいずれかとの間にアミド又はエステル基を形成することができる。リンカー又はカップリング剤として、ベンゾトリアゾリルオキシ−トリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート(BOP)並びにジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)及び1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC)などのカルボジイミドが挙げられる。EDCは、アミドカップリング剤として使用するのに好ましいカルボジイミドである。
【0047】
一実施例において、カルボキシル末端基及び5−ALAを有する量子ドットナノ粒子を溶媒中で混合する。EDCなどのカップリング剤を混合物に添加する。反応混合物はインキュベートされることができる。粗製5−ALA−QDナノ粒子コンジュゲートを精製して、5−ALA−QDナノ粒子コンジュゲートが得られる。
【0048】
標準的な固相精製(solid state purification)方法を用いることができる。過剰の未反応5−ALA及びEDCを除去するには、適当な溶媒で数回の濾過及び洗浄が必要である。
【0049】
別の実施形態において、5−ALA−ナノ粒子コンジュゲートは、癌細胞を標的にすることができるリガンドをさらに含むことができる。例えば、化学的化合物又はペプチド、例えば抗体などが5−ALA−ナノ粒子コンジュゲートにコンジュゲートされて、光検出又は光線療法のいずれかのために、5−ALA−ナノ粒子コンジュゲートの細胞取込みをさらに行うことができる。ペプチドの例として、PLZ4(QDGRMGF)があり、これは、膀胱癌細胞に選択的に結合することができるペプチドである。ペプチドは、それらのアミン又はカルボン酸基によって官能化されたナノ粒子とアミド又はエステル結合を形成することができる。
【0050】
癌細胞に選択的に結合されると、5−ALA−ナノ粒子コンジュゲートは細胞に取り込まれる。内部に取り込まれると、5−ALAは、天然光増感剤プロトポルフィリンIX(PpIX)に変換される。次いで、例えば375〜475nmの範囲の青色光などの光により腫瘍部位を照射すると、PpIXを活性化し、活性酸素種(ROS)の放出により酸化的損傷を引き起こし、細胞毒性又はアポトーシスを誘導する。
【0051】
したがって、本明細書に開示される実施形態は、例えば哺乳動物細胞などの細胞のアポトーシスを誘導する方法に用いられることができ、該方法は、5−ALA−ナノ粒子コンジュゲートをそれを必要とする哺乳類に投与するステップ、5−ALAによりPpIXなどの代謝産物を生成させるステップ、及び代謝産物に照射するステップを含む。照射するステップは、解離されたナノ粒子などのナノ粒子の励起によって行うことができる。
【0052】
実施形態は、哺乳動物を画像化することによって癌細胞を検出する方法も含む。
【0053】
5−ALA−ナノ粒子コンジュゲートの投与は、経腸、すなわち非経口であってよい。例えば、5−ALA−ナノ粒子コンジュゲートは、皮下、静脈内、筋肉内、局所的、及び経口的に投与することができる。実施例として、ボーラス注入又はIV注入が含まれる。
【0054】
本発明の5−ALA−QDナノ粒子コンジュゲートは、遊離(free)5−ALAに対して以下の利点を有する。
【0055】
第1に、5−ALA−QDナノ粒子コンジュゲートは、高い細胞透過性を有し、癌細胞、特に非常に活性な癌幹細胞によってより効率的に取り込まれることができる。概して、ナノ粒子は、正常細胞よりも癌細胞に多く蓄積する。QDナノ粒子は、ベクトル化された輸送システム(delivery system)として作用する。
【0056】
第2に、QD放射は、PpIX吸収と重なるように調整されることができる。QD−5ALA粒子が癌細胞に取り込まれると、5−ALAが放出され、数時間以内にPpIXに形質転換される。QDは、次いで、光又はFRETドナーとして用いられ、生成されたPpIXの励起を高めることができる。QDナノ粒子は、PpIXのような小分子色素と比較して、10〜100倍高い分子減衰係数を有するため、より多くの光が吸収され、より強いシグナルが生成され、シグナル対ノイズ検出比が向上する。
【0057】
第3に、高い光吸収強度により、光線力学的治療(PDT)用薬剤として一重項酸素を生成する際に、PpIXの有効性を増加させることができる。
【0058】
第4に、QDナノ粒子の同調性及び多光子励起(2光子励起を含む)により、より深い組織検出及びより深いPDTが可能であり、これは、僅か数ミリメートル程度の組織深さにしかアクセスすることができない5−ALA単独とは異なる。
【0059】
第5に、二光子励起又は多光子励起は、700nmよりも大きな励起波長のための手段となり、PDTが高度に局在化された光量を有することができる。
【0060】
本発明のこれら及び他の利点は、当業者であれば、前述の明細書から明らかであろう。したがって、本発明の広範な発明の概念から逸脱することなく、上述の実施形態に変更又は修正を加えることができることを、当業者は認識されるべきである。本発明は、本明細書に記載の特定の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲及び精神内にあるすべての変更及び修正を含むことが意図されることを理解されるべきである。