(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6826310
(24)【登録日】2021年1月19日
(45)【発行日】2021年2月3日
(54)【発明の名称】放電ランプ用電極およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01J 61/073 20060101AFI20210121BHJP
H01J 9/02 20060101ALI20210121BHJP
【FI】
H01J61/073 B
H01J9/02 L
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-217085(P2016-217085)
(22)【出願日】2016年11月7日
(65)【公開番号】特開2018-77945(P2018-77945A)
(43)【公開日】2018年5月17日
【審査請求日】2019年9月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106862
【弁理士】
【氏名又は名称】五十畑 勉男
(72)【発明者】
【氏名】森 和之
(72)【発明者】
【氏名】富永 健二
【審査官】
小林 直暉
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−004397(JP,A)
【文献】
特開2000−306546(JP,A)
【文献】
特開平11−135011(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F1/00−8/00
C22C1/04−1/05
33/02
H01J9/00−9/18
61/00−61/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タングステンの焼結体からなる先端部と、該先端部に積層されたタングステンの粉末溶融積層体からなる本体部とからなり、
前記先端部を構成する焼結体が鍛造焼結体であって、該先端部のタングステンの結晶粒の長手方向が電極軸方向に伸びており、
前記本体部のタングステンの相対密度を、前記先端部のタングステンの相対密度より小さくしたことを特徴とする放電ランプ用電極。
【請求項2】
前記本体部の外周面に電極軸方向に延びる放熱溝が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の放電ランプ用電極。
【請求項3】
タングステンの焼結体からなる先端部と、該先端部に積層されたタングステンの粉末溶融積層体からなる本体部とからなり、前記本体部のタングステンの相対密度が、前記先端部のタングステンの相対密度より小さい放電ランプ用電極の製造方法であって、
タングステンの焼結体の後端部に、タングステンの粉末溶融積層体を積層造形したことを特徴とする放電ランプ用電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、放電ランプ用電極およびその製造方法に関するものであり、特に、ショートアーク型放電ランプに用いられる電極およびその製造方法に係わるものである。
【背景技術】
【0002】
従来、水銀を封入したショートアーク型放電ランプは、発光管内に対向配置された一対の電極の先端間距離が短く、点光源に近いことから、光学系と組み合わせることにより集光効率の高い露光装置の光源として利用されている。
また、キセノンを封入したショートアーク型放電ランプは、映写機などにおいて可視光光源として用いられており、近年ではデジタルシネマ用光源としても重用されている。
この種の放電ランプには、市場からは高照度化が求められていて、ショートアーク型放電ランプからの放射光量も増加することが要求されている。
ショートアーク型放電ランプの放射光量は、放電ランプへの電気入力に比例することが従来から知られている。つまり、放電ランプへの電気入力を増加させれば放射光量も増加できる。
しかしランプ電流を増加させると、電極が加熱され、タングステンなどの電極材料の蒸発が促進され、発光管の内壁が黒化する可能性がある。特に、ランプ電流が増加すると陽極先端部が電子流の増加により加熱され、陽極部の温度が上昇してしまい、外部へ放出が不十分である場合には、陽極の温度上昇に伴う陽極材料の蒸発が促進され、ランプ寿命が短くなる等の問題があった。
【0003】
このような問題を解決するために、陽極からの熱放射の効率を向上して陽極の温度を下げることが提案されている。
例えば、特開2002−117806号公報(特許文献1)では、陽極が、先端部、コーン部、胴体部から構成され、胴体部の側面にV字状の溝部を形成したものが開示されている。
このような溝構造を設けることで、陽極表面からの熱放射率が向上し、ランプ点灯により発生した熱が効率的に放射され、陽極の温度が低下するとともに、陽極からのタングステンなどの飛散や蒸発も抑えることができるものである。
【0004】
ところで、放電ランプの電極は、先端付近は高温のアークからの輻射に曝され、2000℃以上の高温になるため、点灯経過中に変形しやすい。また、電極に流入した熱を放射・伝導するため、電極の材料としては、密度の高い材料が好ましく、このため、従来は、タングステンなどの高融点金属の粉末を焼結し、その後、鍛造やHIP処理(Hot Isostatic Pressing)等を行い、高密度化した焼結体(無垢材)が使用されてきた。
電極に使用する無垢材の形状は棒状(ロッド状)であり、タングステンは難削材であるため旋盤による切削加工以外は加工時間が長くなり現実的ではない。
従って、電極の形状としては円柱をベースとした、軸対称な形状に制約されることがほとんどである。
このため、電極の軽量化が困難であり、タングステンなどの電極材料の省資源化が難しいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−117806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明は、上記従来技術の問題点に鑑みて、タングステン材料からなる放電ランプ用電極において、電極の軽量化を図り、併せて電極材料の省資源化をもたらし、かつ、放熱機能に優れた放電ランプ用電極構造およびその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、この発明の放電ランプ用電極では、タングステンの焼結体からなる先端部に、タングステンの粉末溶融積層体からなる本体部を積層した構造とし、前記本体部のタングステンの相対密度を前記先端部のタングステンの相対密度より小さくしたことを特徴とする。
また、前記本体部の外周部のタングステンの相対密度を中心部の相対密度より小さくしたことを特徴とする。
また、前記先端部を構成する焼結体が鍛造焼結体であって、該先端部のタングステンの結晶粒の長手方向が電極軸方向に伸びていることを特徴とする。
また、前記本体部の外周面に電極軸方向に延びる放熱溝が形成されていることを特徴とする。
また、前記放電ランプ用電極の製造方法であって、タングステンの焼結体の後端部に、タングステンの粉末溶融積層体を積層造形したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、アークに曝されて高温となる電極先端部は、電極に流入した熱を放射・伝導するために高密度の焼結体とし、電極後方部となる本体部を低密度の粉末溶融積層体としたので、電極全体を焼結体から構成した従来のものと比較して電極全体の軽量化が図られるとともに、電極材料であるタングステンの省資源化が促進される。
また、粉末溶融積層体はポーラスなタングステン層からなるので、電極側面からの熱放射特性が向上して電極の温度を下げることができる。
更には、電極本体部が粉末溶融積層体からなることで、その形状に自由度があり、任意の形状の電極が作成できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の放電ランプ用電極の第1実施例(A)と第2実施例の断面図。
【
図4】本発明の電極を製造する積層造形装置の一例。
【
図12】本発明の電極の第3の実施例の正面図(A)と側面図(B)。
【
図13】本発明の電極を製造するレーザメタルデポジション装置の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1(A)(B)はこの発明の放電ランプ用電極1を示し、
図1(A)に示す電極1は、タングステンの焼結体(無垢体)からなる先端部11と、この先端部11に、タングステンの粉末溶融積層体からなる本体部12を積層させて構成されている。この本体部12の後端に芯線2が挿入固定されている。
なお、この例では、先端部11の焼結体は、タングステンの焼結後に鍛造されて高密度化された(以下、焼結鍛造体ともいう)ものである。
前記粉末溶融積層体からなる本体部12は、ポーラスなタングステン層からなり、そのタングステンの相対密度は、焼結体からなる先端部11の相対密度より小さい。例えば、先端部11の相対密度は99.5%で、本体部12の相対密度は95%である。
なおここで、タングステンの相対密度とは、理論密度19.3g/cm
3に対する比率(%)をいう。
図1(B)に示す電極1は、本体部12が相対密度の異なる2つの第1本体部12aと第2本体部12bとからなり、第2本体部12bの相対密度が第1本体部12aよりも小さい。例えば、先端部11は99.5%、第1本体部12aは95%、第2本体部12bは90%である。
【0011】
図2に、
図1のA部、即ち、先端部11と本体部12の境界領域の拡大断面が示されていて、先端部11を構成する焼結体が焼結後に鍛造された焼結鍛造体であって、そのタングステン粒子11aの長手方向が電極軸方向に沿って存在している。このような粒子配列は、タングステンの鍛造方向と先端部11の切り出し方向を勘案することで得られる。即ち、鍛造方向に対して直交方向にタングステン粒子11aの長手方向が揃うことから、この長手方向が電極軸方向となるように先端部11を用意すればよい。これにより、本体部12との接合面に多くの粒界が存在することになる。
そのため、先端部11に粉末溶融積層体である本体部12を積層する際に、本体部12側のタングステン粒子が、先端部11側の多くのタングステン粒子11aの粒界に溶融して食い込むために、先端部(焼結鍛造体)11と、本体部(粉末溶融積層体)12との接合強度が強固なものとなる。
【0012】
また、
図3に、
図1のB部の断面拡大図が示されていて、その外周部のタングステンの相対密度を、中心部の相対密度より小さくしてある。これにより、本体部12の側表面における、例えば、数10μm〜数100μmの表面層に低密度のタングステンの空孔層12cが形成され、タングステン粒子間の隙間を疑似黒体として、電極表面の放射率を一層高め、電極の温度を低下させることができる。
【0013】
なお、上記の実施例では、先端部11を構成する焼結体は、焼結後に鍛造された焼結鍛造体の例を説明したが、段落0004で先述したように、焼結体を鍛造以外のHIP処理によって高密度化したのであってもよい。
【0014】
次いで、本発明の電極の製造方法について、その一例を以下に述べる。
図4に、本発明の放電ランプ用電極を製造するための積層造形装置5が示されていて、積層造形装置5は、タングステン粉末を積層して成形する積層ステージ51、タングステン粉末Yを供給する粉末供給ステージ52、タングステン粉末を紛末供給ステージ52から積層ステージ51に移送するスキージ53、タングステン粉末を固化させるレーザ光Lを発生するファイバレーザ54、レーザ光Lを反射し、タングステン紛末上を走査するガルバノミラー55を有する。
【0015】
積層ステージ51および粉末供給ステージ52は、上下に移動可能とされていて、スキージ53は、この粉末供給ステージ52から積層ステージ51まで移動することができる。
ガルバノミラー55は、ファイバレーザ54から出射されたレーザ光Lを積層ステージ51上のタングステン紛末に向けて反射する。ガルバノミラー55を駆動することにより、レーザ光Lは所定のパターンに走査される。
なお、タングステン粉末が固化するときに酸化することを防止するため、少なくとも積層ステージ51は不活性ガス中に配置することが好適である。
【0016】
上記積層造形装置5による電極の製造方法を
図5〜11に基づいて説明する。
図5において、積層ステージ51上には、電極先端部11を構成する所定の形状・厚さのタングステンの焼結体Xが載置されており、粉末供給ステージ52上には、タングステン粉末Yが積載されている。
この状態で、積層ステージ51が所定距離だけ下降し、粉末供給ステージ52が所定距離だけ上昇する。その結果、
図6に示すように、積層ステージ51の面は下がり、紛末供給ステージ52では、タングステン紛末Yが上方に繰り出された状態になる。
【0017】
次いで、
図7に示すように、スキージ53が粉末供給ステージ52から積層ステージ51に向けて移動し、粉末供給ステージ52上のタングステン粉末Yを掻き取って、積層ステージ51の方に移送し、焼結体X上を被覆するように積載される。
図8は、スキージ53の移動が完了した後の状態で、積載ステージ51上の焼結体Xをタングステン粉末Yが被覆して埋設する。
【0018】
これに、
図9に示すように、ファイバレーザ54からレーザ光Lが出射され、ガルバノミラー55で反射されて、積載ステージ51上のタングステン紛末Yに照射される。レーザ光Lは、本体部12の所定の形状に則して走査され、その集光点において、タングステン粉末Yは溶融して固化し、
図10に示すように、先端部11を形成する焼結体X上にタングステンによる粉末溶融積層体の薄層が形成される。ただ、この場合、タングステン粉末Yの全てが溶融するわけではなく、一部は焼結状態にあるものも存在する。
【0019】
以下同様の手順を繰り返すことにより、
図11に示すように、焼結体からなる先端部11上に、粉末溶融積層体からなる本体部12が所定の形状で積層された電極1が形成される。
ここにおいて、本体部12を積層形成する際に、被覆した粉末材料の量(厚さ)、レーザ光のエネルギー、レーザ光の走査速度などにより、粉末溶融積層体のタングステン密度を制御することができる。
これにより、先端部11のタングステンの相対密度に対して、積層される本体部12の相対密度を任意の小さなものとすることができる。
【0020】
また、
図1(B)に示すような、相対密度の異なる2つの第1本体部12aおよび第2本体部12bによって本体部12を構成することもできる。
更には、
図3に示すような、本体部12の外周部のタングステンの相対密度を中心部の相対密度より小さくする構造とすることもできる。こうすることで、電極本体部12の表面の放射率を高め、電極の温度をより低下させることができる。
このような相対密度勾配は、前述したように、レーザ光のエネルギー、走査速度などの制御により達成することができる。
【0021】
上記のように、本体部12は粉末溶融積層体からなるので、その形状は任意のものが作成でき、
図12に示すように、本体部12の外周面に管軸方向に延びる放熱溝13を形成することもできる。電極全体が鍛造焼結体からなるものでは、このような放熱溝はレーザ加工により切削形成することが一般的であるが、本体部12が粉末溶融積層体からなる本発明においては、本体部成形時に放熱溝も同時に形成できて作業性が極めて向上する。
【0022】
ところで、本体部12を構成する粉末溶融積層体は、前記積層造形装置5による成形の外に、レーザメタルデポジション法によっても成形することもできる。
その成形法は、例えば、特開2015−038237号公報に開示されていて、その要部構成が、
図13に示されている。
レーザメタルデポジション装置6は、円筒形の多重ノズルを有し、中心部のレーザ光ノズル61からレーザ光LがワークWに出射され、その周囲の材料噴出ノズル62からタングステン粉末Yが供給される。供給された粉末材料Yは、レーザ光により焼結、あるいは溶融して所望の薄膜を形成するものである。また、材料噴出ノズル62の外側には、シールドガス供給ノズル63が形成されていて、酸化防止のために、例えば、アルゴンガスGが流されている。
このレーザメタルデポジション法によれば、レーザ光LをワークWに照射し、その照射領域にタングステン粉末Yを噴射することにより、レーザ光でタングステン粉末を肉盛りするので、積層スピードが速いという利点がある。
【0023】
以上のように、本発明の放電ランプ用電極においては、焼結体からなる先端部に、ポーラスな粉末溶融積層体からなる本体部を積層した構造であるので、先端部はアークによる高熱に対応することができ、比較的低温となる後方部である本体部は、相対密度を小さくしたタングステン層であるので、電極全体の軽量化が図られるとともに、電極材料であるタングステンの省資源化が促進される。
また、本体部はポーラスなタングステン層であるので、電極側面からの熱放射特性が向上して、電極全体の温度低下に寄与する。
更には、本体部の形状に自由度があり、放熱溝の形成など任意の形状の電極が作成できる。
【符号の説明】
【0024】
1 電極
11 先端部(焼結体)
11a タングステン粒子
12 本体部(粉末溶融積層体)
12a 第1本体部
12b 第2本体部
12c 空孔層
13 放熱溝
2 芯線
5 積層造形装置
51 積層ステージ
52 粉末供給ステージ
53 スキージ
54 ファイバレーザ
55 ガルバノミラー
6 レーザメタルデポジション装置
61 レーザ光ノズル
62 材料噴出ノズル
63 シールドガス供給ノズル
X 焼結体
Y タングステン粉末
L レーザ光
G シールドガス(アルゴンガス)