特許第6826410号(P6826410)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6826410
(24)【登録日】2021年1月19日
(45)【発行日】2021年2月3日
(54)【発明の名称】鉄骨ブレース及び建物
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/58 20060101AFI20210121BHJP
【FI】
   E04B1/58 D
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-182222(P2016-182222)
(22)【出願日】2016年9月16日
(65)【公開番号】特開2018-44421(P2018-44421A)
(43)【公開日】2018年3月22日
【審査請求日】2019年6月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】390029089
【氏名又は名称】高周波熱錬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】村田 義行
(72)【発明者】
【氏名】西山 峰広
【審査官】 新井 夕起子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−191987(JP,A)
【文献】 特開平10−266340(JP,A)
【文献】 特開2000−045395(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/58
E04B 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺状の鋼材を備え、
前記鋼材は、前記鋼材の一部であって長手方向の全長にわたる部分に焼入れによって形成された高強度化領域と、前記高強度化領域と一体であって前記焼入れがされていない部分である非高強度化領域と、前記高強度化領域が形成されたフランジとを有することを特徴とする鉄骨ブレース。
【請求項2】
請求項1に記載の鉄骨ブレースにおいて、
前記高強度化領域は、前記鋼材の材軸に関して対称となる配置に形成されていることを特徴とする鉄骨ブレース。
【請求項3】
柱と、
前記柱に接合された梁と、
前記柱又は前記梁に連結された請求項1または請求項2に記載の鉄骨ブレースと、を備えることを特徴とする建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄骨ブレース、建物及び鉄骨ブレースの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建物の耐震性を高めるために、建物の柱又は梁にブレースという耐震構造部材や制振構造部材を設けることが知られている。特に制振を目的としたブレースには、地震に対する建物の耐力を高める効果のみならず、振動エネルギーを吸収して振動を減衰させる効果が期待されている。
【0003】
例えば、従来例として、長手方向の引張荷重又は圧縮荷重が作用したときに伸縮するように塑性変形可能なブレース芯材と、ブレース芯材の座屈を防止するようにブレース芯材を囲っている補鋼材とを備える座屈拘束ブレース(特許文献1)がある。
他の従来例として、低降伏点鋼からなる第1長尺体と高強度鋼からなる第2長尺体とが長手方向に沿って互いに連結され、第1長尺体と第2長尺体とが所定の軸に関して非対称に配置された座屈ブレース(特許文献2)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−75037号公報
【特許文献2】特開2015−129413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び特許文献2に開示されている従来例では、塑性変形することによって振動エネルギーを吸収する鋼材としてのブレース芯材及び第1長尺体と、これを補強する比較的強度の高い鋼材としての補鋼材及び第2長尺体とをそれぞれ準備し、これらを互いに組み付けている。このため、製造のための手間やコストがかかる。
また、特許文献2に開示されている座屈ブレースでは、低降伏点鋼が非常に高価であるため、製造コストが高いものとなる。
【0006】
本発明の目的は、容易かつ安価に製造できる制振用の鉄骨ブレース、当該鉄骨ブレースを用いた建物、及び、鉄骨ブレースの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の鉄骨ブレースは、長尺状の鋼材を備え、前記鋼材は、前記鋼材の一部であって長手方向の全長にわたる部分に焼入れによって形成された高強度化領域と、前記高強度化領域と一体であって前記焼入れがされていない部分である非高強度化領域とを有することを特徴とする。
ここで、本明細書における強度とは、材料の断面を切り出して引張試験を行ったときの平均的な降伏点又は0.2%耐力をいう。
【0008】
この構成によれば、高強度化領域は、鋼材の長手方向の全長にわたる部分に形成されている。この高強度化領域によれば、鉄骨ブレースの長手方向の荷重に対する強度を高め、建物の耐力を高めることができる。
また、鋼材は、高強度化領域と比べ、より小さな荷重によって塑性変形が生じる非高強度化領域を有している。この非高強度化領域によれば、鉄骨ブレースに加えられる振動が小さくともその振動エネルギーを効果的に吸収することができ、振動を減衰させることができる。
【0009】
このような高強度化領域及び非高強度化領域は、鋼材の一部を焼入れることによって一体に設けられている。このため、本発明の鉄骨ブレースを製造するために、煩雑な組み付け作業を必要とせず、また高価な低降伏点鋼を用いずともよい。
よって、本発明によれば、容易かつ安価に製造できる制振用の鉄骨ブレースが提供される。
【0010】
また、本発明の鉄骨ブレースにおいて、前記高強度化領域は、前記鋼材の材軸に関して対称となる位置に形成されていることが好ましい。
この構成によれば、鋼材の材軸に関して高強度化領域がバランスよく配置されるため、鉄骨ブレースの長手方向の引張荷重に対する強度を効果的に高めることができる。
【0011】
また、本発明の鉄骨ブレースにおいて、前記鋼材は、前記高強度化領域が形成されたフランジを有することが好ましい。
この構成によれば、鋼材として形鋼を用いているので、圧縮荷重に対して座屈を防止するとともに、形鋼のフランジに焼入れすることによって、本発明の鉄骨ブレースをより容易に製造できる。
【0012】
別の本発明の鉄骨ブレースは、長尺状の鋼管を備え、前記鋼管は、前記鋼管の一部であって長手方向の中央部分に焼入れによって形成された高強度化領域と、前記高強度化領域と一体であって前記焼入れがされていない部分である非高強度化領域とを有することを特徴とする。
この本発明の鉄骨ブレースに圧縮荷重が与えられたとき、最初に降伏する部位は、焼入れを行っていない非高強度化領域である。ただし、非高強度領域は、鋼管の全長と比較して有効座屈長さが小さいため、曲げ変形や面外座屈変形が起こりにくく、材軸方向に単純圧縮される。このため、鋼管は、座屈が防止され、圧縮耐力の低下が抑制される。これにより、本発明の鉄骨ブレースは、高いエネルギー吸収性能を発揮することができる。
また、高強度化領域及び非高強度化領域は、鋼管の一部を焼入れることによって一体に設けられている。
よって、本発明によれば、容易かつ安価に製造できる制振用の鉄骨ブレースが提供される。
【0013】
本発明の建物は、柱と、前記柱に接合された梁と、前記柱又は前記梁に連結された前述の鉄骨ブレースとを備えることを特徴とする。
本発明の建物によれば、前述と同様の効果を奏する他、建物の制振補強構造を容易かつ安価に実現できる。
【0014】
本発明の鉄骨ブレースの製造方法は、長尺状の鋼材を用いて鉄骨ブレースを製造する方法であって、前記鋼材の一部であって長手方向の全長にわたる部分に焼入れによって高強度化領域を形成し、前記高強度化領域と一体であって前記焼入れがされていない部分を非高強度化領域とすることを特徴とする。
別の本発明の鉄骨ブレースの製造方法は、長尺状の鋼管を用いて鉄骨ブレースを製造する方法であって、前記鋼管の一部であって長手方向の中央部分に焼入れによって高強度化領域を形成し、前記高強度化領域と一体であって前記焼入れがされていない部分を非高強度化領域とすることを特徴とする。
これら本発明の鉄骨ブレースの製造方法によれば、制振用の鉄骨ブレースを容易かつ安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第1実施形態に係る建物の一部分を示す概略図である。
図2】(A)は本発明の第1実施形態に係る鉄骨ブレースを示す正面図であり、(B)は(A)のB−B線断面図である。
図3図2に示す鉄骨ブレースの荷重−変形量の関係を示すグラフである。
図4】本発明の第2実施形態に係る鉄骨ブレースを示す正面図であり、(B)は(A)のB−B線断面図である。
図5】本発明の第3実施形態に係る鉄骨ブレースを示す正面図である。
図6】(A)比較例の鉄骨ブレース及び(B)前記第3実施形態の鉄骨ブレースについて履歴曲線を示すグラフである。
図7】(A)比較例の鉄骨ブレース及び(B)前記第3実施形態の鉄骨ブレースについて圧縮荷重が加わったときのひずみ分布図である。
図8】変形例に係る建物の一部分を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
〔第1実施形態〕
以下、本発明の第1実施形態を図1図3に基づいて説明する。
図1に示すように、本実施形態の建物1は、複数の柱11と、柱11に接合された複数の梁12と、柱11と梁12とを接合する柱梁接合部13とを備えている。本実施形態では、柱11と梁12から構成されるフレームの対角線上に固定部材15を介して鉄骨ブレース20を設けており、これによって建物1の制振及び耐震補強を行っている。つまり、柱梁接合部13のうち、フレームの対角線上に配置された柱梁接合部13の近傍には、固定部材15がそれぞれ設けられ、これらの固定部材15には鉄骨ブレース20の両端が接合されている。
【0017】
鉄骨ブレース20は、長尺状の鋼材21と、鋼材21の長手方向の両端にそれぞれ溶接された鋼板29とを有している。鋼材21の材軸Xは、図1では、柱11と梁12から構成されるフレームの対角線に一致している。鋼板29はボルト等によって固定部材15に接合されており、これによって、鉄骨ブレース20は柱11又は梁12に連結されている。
【0018】
鋼材21としては、長手方向の引張荷重及び圧縮荷重が作用したときに伸縮するように塑性変形可能な鋼材を用いることができる。例えば、鋼材21として形鋼を用いる場合、JISG3106で定められている溶接構造用圧延鋼材(記号SM)、JISG3136で定められている建築構造用圧延鋼材(記号SN)、JISG3101で定められている一般構造用圧延鋼材(記号SS)、JISG3350で定められている一般構造用軽量形鋼(記号SSC)、及び、JISG3353で定められている一般構造用溶接軽量H形鋼(記号SWH)などの構造用鋼を用いることができる。
【0019】
図2に示すように、本実施形態の鋼材21は、例えばH形鋼であり、2つのフランジ22と、これらのフランジ22に両端が接合されたウェブ23とを有する。
また、鋼材21は、その一部を焼入れすることによって形成された高強度化領域S1と、焼入れされていない部分である非高強度化領域N1とを有する。
【0020】
本実施形態では、高強度化領域S1は、鋼材21の長手方向の全長にわたる部分に形成されている。具体的には、高強度化領域S1は、一対のフランジ22と各フランジ22に連続しているウェブ23の一部とに形成されている。鋼材21に形成された2つの高強度化領域S1は、鋼材21の材軸Xに関して対称に配置されている。一方、非高強度化領域N1は、2つの高強度化領域S1に挟まれるように、ウェブ23の短手方向の中央部分に配置されている。
【0021】
ここで、材軸Xからウェブ23の短手方向の端部までの寸法をM0とし、材軸Xから高強度化領域S1と非高強度化領域N1との境界までの寸法をM1とすると、M1/M0は1/2以下であることが好ましい。
【0022】
鋼材21への焼入れは、高周波誘導加熱によって750℃以上1200℃以下の加熱温度で加熱し急冷することによって行われる。このような焼入れを行うことにより、高強度化領域S1の強度は、鋼材21の本来の強度よりも高められている。
なお、本明細書における強度とは、断面を切り出して引張試験をおこなったときの平均的な降伏点又は0.2%耐力である。
【0023】
高強度化領域S1の降伏点又は0.2%耐力は、非高強度化領域N1の降伏点又は0.2%耐力に比べて1.5倍以上であり、かつ、700N/mm以上であることが好ましい。なお、高強度化領域S1の平均的な値が、非高強度化領域N1に比べて1.5倍以上になればよく、断面全体を1.5倍以上にすることを要しない。
【0024】
本実施形態は、次の効果を奏することができる。
(1)鉄骨ブレース20において、高強度化領域S1は、鋼材21の長手方向の全長にわたる部分に形成されている。この高強度化領域S1によれば、鉄骨ブレース20の長手方向の圧縮荷重に対する強度を高め、建物1の耐力を高めることができる。
また、鋼材21は、高強度化領域S1と比べ、より小さな荷重によって塑性変形が生じる非高強度化領域N1を有している。この非高強度化領域N1によれば、鉄骨ブレース20に加えられる振動が小さくともその振動エネルギーを好適に吸収することができ、振動を減衰させることができる。
【0025】
例えば、図3は、鉄骨ブレース20、高強度化領域S1、及び、非高強度化領域N1について、それぞれの荷重−変形量の関係を示すグラフである。図3に示すように、鉄骨ブレース20は、段階的に降伏する。特に、荷重F1から荷重F2(>F1)までの間、鉄骨ブレース20では、高強度化領域S1が弾性変形しつつ、降伏した非高強度化領域N1が塑性変形する。この間、鉄骨ブレース20は、非高強度化領域N1によって振動エネルギーを吸収しつつ、高強度化領域S1によって剛性が保持される。
【0026】
また、このような高強度化領域S1及び非高強度化領域N1は、鋼材21の一部を焼入れることによって一体に設けられている。このため、鉄骨ブレース20を製造するために、煩雑な組み付け作業を必要とせず、また高価な低降伏点鋼を用いずともよい。
よって、容易かつ安価に製造できる制振用の鉄骨ブレース20が提供される。
さらに、荷重と変形量の関係は、高強度化領域S1と非高強度化領域N1の比率の調整により、必要とする特性を容易に得ることが可能である。
【0027】
(2)本実施形態では、鋼材21の材軸Xに関して高強度化領域S1がバランスよく配置されているため、鉄骨ブレース20の長手方向の引張荷重に対する強度を効果的に高めることができる。
【0028】
(3)本実施形態によれば、鋼材21として形鋼を用いているので、圧縮荷重に対して座屈を防止するとともに、形鋼のフランジ22に焼入れすることによって、鉄骨ブレース20をより容易に製造可能である。
【0029】
〔第2実施形態〕
本発明の第2実施形態の鉄骨ブレース24について、図4を参照して説明する。なお、以下では、第1実施形態と異なる構成について説明し、同様の構成については説明を省略する。
【0030】
第2実施形態の鉄骨ブレース24では、鋼材21の一部を焼入れることによって、図4に示すような高強度化領域S2及び非高強度化領域N2が一体に設けられている。具体的には、非高強度化領域N2は、鋼材21の長手方向の全長のうちの一部に配置されている。また、高強度化領域S2は、一対のフランジ22に形成されるだけでなく、鋼材21の長手方向の両端側のウェブ23において一対のフランジ22間に連続して形成されている。
【0031】
鋼材21の長手方向において、非高強度化領域N2の寸法L2は、鋼材21の寸法L1の1/3以上であることが好ましい。また、鋼材21の短手方向において、非高強度化領域N1を挟んでいる高強度化領域S1の各部分の寸法についても適宜変更可能である。
【0032】
第2実施形態では、鋼材21の長手方向の中央付近に非高強度化領域N2を設けることで、材軸方向の変形(伸びや縮み)に対する特性の調整が可能となる。
また、第2実施形態によれば、第1実施形態と同様、容易かつ安価に製造できる制振用の鉄骨ブレースが提供される。
【0033】
〔第3実施形態〕
本発明の第3実施形態の鉄骨ブレース25について、図5図7を参照して説明する。なお、以下では、第1実施形態と異なる構成について説明し、同様の構成については説明を省略する。
【0034】
第3実施形態では、鉄骨ブレース25の鋼材として鋼管26を用いている。鋼管26としては、JISG3475で定められている建築構造用炭素鋼管(記号STKN)、及び、JISG3466で定められている一般構造用角形鋼管(記号STKR)等が挙げられる。
【0035】
図5に示すように、鉄骨ブレース25において、高強度化領域S3は、鋼管26の長手方向の中央部分の全周に焼入れすることで形成されている。非高強度化領域N3は、高強度化領域S3を挟むように、鋼管26の長手方向の両端部分に配置されている。鋼管26の長手方向において、非高強度化領域N3の各寸法は、高強度化領域S3よりも短いことが好ましい。
【0036】
第3実施形態の鉄骨ブレース25によれば、以下の効果を奏する。
第3実施形態の鉄骨ブレース25に圧縮荷重が与えられたとき、最初に降伏する部位は、焼入れを行っていない非高強度化領域N3である。ただし、非高強度化領域N3は、鋼管26の全長と比較して有効座屈長さが小さいため、曲げ変形や面外座屈変形が起こりにくく、材軸方向に単純圧縮される。このため、鋼管26は、座屈が防止され、圧縮耐力の低下が抑制される。これにより、鉄骨ブレース25は、高いエネルギー吸収性能を発揮することができる。
【0037】
ここで、焼入れを行っていない通常の鋼管を用いた鉄骨ブレースを比較例として、第3実施形態の鉄骨ブレース25について、焼入れの効果を検証する。
図6(A)に示すように、比較例の鉄骨ブレースによる履歴曲線では、引張及び圧縮で描かれるループが非対称である。一方、図6(B)に示すように、第3実施形態の鉄骨ブレース25による履歴曲線では、層間変形角1.5%程度まで、引張及び圧縮で描かれるループが対称である。これは、鉄骨ブレース25に曲げ変形や座屈が起こらず、鉄骨ブレース25が振動エネルギーを効果的に吸収していることを示している。
【0038】
また、比較例の鉄骨ブレース及び第3実施形態の鉄骨ブレース25の各々に対し、圧縮側で層間変形角1.5%まで変位を与えるとする。このとき、図7(A)に示すように、比較例の鉄骨ブレースでは、鋼管の中央部分にひずみが集中する。一方、図7(B)に示すように、第3実施形態の鉄骨ブレース25では、鋼管26の中央部分が弾性にとどまる。これは、鋼管26の中央部分に高強度化領域S3が形成されているためである。これにより、鉄骨ブレース25は、高い圧縮耐力を維持することができる。
【0039】
これらの高強度化領域S3及び非高強度化領域N3は、鋼管26の一部を焼入れることによって一体に設けられている。
したがって、第3実施形態によれば、第1実施形態と同様、容易かつ安価に製造できる制振用の鉄骨ブレースが提供される。
【0040】
〔変形例〕
本発明は前述の各実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。以下、本実施形態の変形例について説明する。
【0041】
本発明における高強度化領域及び非高強度化領域の配置は、前述の各実施形態に限定されず、鉄骨ブレース20,24,25が必要とする性能に応じて設定可能である。
例えば、鉄骨ブレース20,24,25全体の強度を増したい場合には、鋼材21又は鋼管26のうち、高強度化領域S1〜S3が占める割合を増やしてもよい。また、振動エネルギーの吸収効果を高めたい場合には、鋼材21又は鋼管26のうち、非高強度化領域N1〜N3が占める割合を増やしてもよい。
【0042】
第1実施形態及び第2実施形態において、高強度化領域S1,S2は、鋼材21の材軸Xに関して対称でなく、偏在していてもよい。例えば、図2において、下方に位置する高強度化領域S1と非高強度化領域N1との境界を材軸Xと一致させ、上方に位置する高強度化領域S1をフランジ22に近接させる構成としてもよい。このように、高強度化領域S1を鋼材21の材軸Xに関して非対称、つまり、偏心させることで、ひずみの集中を防止し、小変形範囲での座屈をさせやすい構造となる。
仮に、前記実施形態のように、材軸Xに対して高強度化領域S1が対称とされている場合でも、柱梁接合部13の対角線上とオフセットすることで、同様の効果を奏することができる。また、偏心量は、鋼材断面の端部が材軸Xから離れた位置としてもよい。
さらに、H形鋼が有する一対のフランジのうち、片方のフランジに高強度化領域が形成されていてもよい。
【0043】
本発明の長尺状の鋼材は、H形鋼であることに限定されず、例えば、L形鋼及び十字形鋼などの形鋼であってもよいし、断面の外郭が矩形状の鋼管であってもよい。
例えば、第1実施形態及び第2実施形態においてL形鋼を用いる場合、「L」字の2辺の部分うち、一方の辺の部分に焼き入れして高強度化領域を形成し、他方の辺の部分を非高強度化領域としてもよい。また、十字形鋼を用いる場合、「十」字を成す4つの凸部分のうち、少なくとも1つの凸部分に焼き入れして高強度化領域を形成してもよい。
【0044】
また、第1実施形態及び第2実施形態において、形鋼の替わりに管鋼を用いてもよい。この場合、鋼管の周壁の一部に焼入れして高強度化領域S1,S2を形成してもよい。
【0045】
本発明の鉄骨ブレース20,24,25は、図1に示すような片筋交いとして用いられてもよいし、図8に示すようなK形ブレースとして用いられてもよい。また、その他の様々な取り付け構造によって建物1に設けられてもよい。
【符号の説明】
【0046】
1…建物、11…柱、12…梁、15…固定部材、20,24,25…鉄骨ブレース、21,26…鋼材、22…フランジ、23…ウェブ、29…鋼板、S1〜S3…高強度化領域、N1〜N3…非高強度化領域、X…材軸。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8