(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6826413
(24)【登録日】2021年1月19日
(45)【発行日】2021年2月3日
(54)【発明の名称】スタッドピン及びスタッドピンを備えた空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/16 20060101AFI20210121BHJP
【FI】
B60C11/16 A
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-209206(P2016-209206)
(22)【出願日】2016年10月26日
(65)【公開番号】特開2018-69823(P2018-69823A)
(43)【公開日】2018年5月10日
【審査請求日】2019年3月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(72)【発明者】
【氏名】生野 裕亮
【審査官】
岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−180952(JP,A)
【文献】
米国意匠特許発明第550611(US,S)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気入りタイヤのピン穴に装着されるスタッドピンであって、
軸心方向に延びる平面視で真円である円柱状のボディと、
前記ボディの一端側に設けられ、平面視で、前記軸心に直交する縦軸を中心として対称であると共に、前記軸心及び前記縦軸に直交する横軸により第1領域と第2領域とに2分され、前記第1領域の外縁に、前記横軸と平行な直線部が形成されることにより、前記横軸を挟んで非対称に形成される台座部とを備え、
前記台座部は、縦軸が前記空気入りタイヤのタイヤ周方向に沿うように配置され、平面視で、前記縦軸方向の長さが、前記横軸方向の長さよりも長くなっており、
前記台座部は、前記横軸方向の両側から前記縦軸に向かって直線状に傾斜する傾斜部を有し、
前記傾斜部は、前記第2領域に形成され、
前記台座部は、前記第2領域に形成される前記傾斜部と前記第1領域の外縁に形成される前記直線部とを結ぶ円弧部を有し、
前記円弧部は、前記第1領域から前記第2領域に亘って形成されていることを特徴とするスタッドピン。
【請求項2】
前記台座部は、平面視で、前記ボディから全周ではみ出すように形成されていることを特徴とする請求項1に記載のスタッドピン。
【請求項3】
前記ボディは、上端外縁部にテーパ面を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のスタッドピン。
【請求項4】
前記請求項1から3のいずれか1項に記載のスタッドピンと、
トレッド部に形成され、前記スタッドピンが装着されるピン穴と、
を備えていることを特徴とする空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スタッドピン及びスタッドピンを備えた空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、スタッドピンとして、平面視台形状のボディと、その下端部に設けた同じく平面視台形状のベースとを備えた構成のものが公知である(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2014/122570号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来のスタッドピンでは、ベースの軸心から2辺までの距離がほぼ均等となっている。また、ボディも平面視台形状でありピン穴との密着度にばらつきが生じる。このため、ボディのエッジ部を介して路面から力が作用すると、ピン穴から脱落しやすい。このため、路面に対するボディの上端縁部による十分なエッジ効果が望めない。
【0005】
本発明は、ピン穴からの耐抜け性に優れ、路面に対してボディにより十分なエッジ効果を発揮させることができるスタッドピン及びこのスタッドピンを備えた空気入りタイヤを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記課題を解決するための手段として、
空気入りタイヤのピン穴に装着されるスタッドピンであって、
軸心方向に延びる
平面視で真円である円柱状のボディと、
前記ボディの一端側に設けられ、平面視で、前記軸心に直交する縦軸を中心として対称であると共に、前記軸心及び前記縦軸に直交する横軸により第1領域と第2領域とに2分され、前記第1領域の外縁に、前記横軸と平行な直線部が形成されることにより、前記横軸を挟んで非対称に形成される台座部とを備え、
前記台座部は、縦軸が前記空気入りタイヤのタイヤ周方向に沿うように配置され、平面視で、前記縦軸方向の長さが、前記横軸方向の長さよりも長くなっており、
前記台座部は、前記横軸方向の両側から前記縦軸に向かって直線状に傾斜する傾斜部を有し、
前記傾斜部は、前記第2領域に形成され、
前記台座部は、前記第2領域に形成される前記傾斜部と前記第1領域の外縁に形成される前記直線部とを結ぶ円弧部を有し、
前記円弧部は、前記第1領域から前記第2領域に亘って形成されていることを特徴とするスタッドピンを提供する。
【0007】
この構成により、タイヤのピン穴に装着した状態では、ボディが円柱状であるので、ピン穴の内面に密着して保持状態を安定させる。また、台座部は非対称な形状であるので、装着方向を変更することにより種々の方向に対して適切な保持性を確保する。さらに、台座部は直線部を有しているので、回転方向に作用する力に対して位置ずれを防止する。このように、適切な保持性を有する構成としているので、ボディの上端外周縁部によるエッジ効果を十分に発揮させることができる。また、縦軸方向に作用する力に対して十分な保持性を維持できる。
また、傾斜部が合流する縦軸方向に向かう保持性をより一層高めることができる。また、第1領域と第2領域とで保持性を相違させることができ、ボディの形状や使用箇所等の違いに応じてピン穴への装着方向を自由に選択することが可能となる。
【0014】
前記台座部は、平面視で、前記ボディから全周ではみ出すように形成されているのが好ましい。
【0015】
この構成により、台座部による保持性を高めることが可能となる。
【0016】
前記ボディは、上端外縁部にテーパ面を有するのが好ましい。
【0017】
この構成により、ドライ路面を走行する際に、ボディの路面に衝突する部分はテーパ面であり、その際に路面に作用する衝撃力を緩和することができる。したがって、路面割れ等の発生を抑制することが可能となる。
【0018】
本発明は、前記課題を解決するための手段として、
前記請求項1から
3のいずれか1項に記載のスタッドピンと、
トレッド部に形成され、前記スタッドピンが装着されるピン穴と、
を備えていることを特徴とする空気入りタイヤを提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ボディを円柱状としたので、ピン穴の内面との密着度を高めて保持性を向上させることができる。また、台座部に直線部を形成し、非対称な形状としたので、ピン穴への装着方向の違いに応じて種々の方向に対する保持性を高めることができる。この結果、ボディの上端外周縁部によるエッジ効果を十分に発揮させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本実施形態に係るスタッドピンの斜視図である。
【
図4】
図1に示すスタッドピンを装着するタイヤのトレッド部の展開図である。
【
図6】他の実施形態に係るスタッドピンの平面図である。
【
図7】他の実施形態に係るスタッドピンの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る実施形態を添付図面に従って説明する。なお、以下の説明では、必要に応じて特定の方向や位置を示す用語(例えば、「上」、「下」、「側」、「端」を含む用語)を用いるが、それらの用語の使用は図面を参照した発明の理解を容易にするためであって、それらの用語の意味によって本発明の技術的範囲が限定されるものではない。また、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物、あるいは、その用途を制限することを意図するものではない。さらに、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは相違している。
【0022】
図1及び
図2は、第1実施形態に係るスタッドピン1を示す。スタッドピン1は、アルミニウム、アルミニウム合金等を成形加工等により形成したもので、ボディ2と、このボディ2の下方側に続くシャンク3と、さらにその下方側に続く台座部4と、ボディ2の上面中央部に設けられるシャフト5とで構成されている。
【0023】
ボディ2は、軸心に沿って延びる円柱状に形成されている。ここに、軸心とは、ボディ2が平面視で真円であると仮定した場合の中心を意味する。ボディ2を円柱状に形成することにより、後述するように空気入りタイヤのピン穴26に装着した際、ボディ2の外周面をピン穴の内周面に密着させることができ、取付状態を安定させて抜止性を向上させることが可能となる。但し、ボディ2は、円柱状に限らず、平面視で複数の線分で繋がった多角形状で構成してもよい。但し、線分の長さは、十分に短く、すなわちピン穴26の内周面にほぼ均一に密着するような円形に近いものとする必要がある。
【0024】
また、ボディ2の上面外縁部はテーパ面7で構成されている。テーパ面7は、スタッドピン1を空気入りタイヤ(スタッドタイヤ)に装着し、路面を走行した際、路面に接触する最初の領域となる。ここでは、側面6の上端縁部に形成されるテーパ面7が最初に路面に衝突する領域となる。したがって、ボディ2の上端縁部が路面に衝突する際、面当たりとなる。但し、路面に対して尖った部分が衝突しないようにできるのであれば、ここで言うテーパ面7には多少の湾曲面形状を含むものと解する。
【0025】
図3に示すように、台座部4は、その軸心がボディ2の軸心と合致するように設けられている。また台座部4は、平面視で、縦軸方向の最大長さaと横軸方向の最大長さbがa>bを満足する縦長形状に形成されている。台座部4の縦軸方向の一端側すなわち第1領域には、平面視でボディ2の軸心に直交する横軸と平行な直線部9が形成されている。また、台座部4には、直線部9とは反対側すなわち第2領域には、2つの傾斜部10によって三角形状に突出する突出部11が形成されている。ここでは、突出部11は縦軸を挟んで左右対称である。そして、傾斜部10が縦方向の中心線となす角度が、90°未満となるように設定されている。特に、この角度は45°であるのが好ましい。直線部9と各傾斜部10とを結ぶ2箇所が円弧部12となる。また、各部位の間は全て円弧面で接続され、エッジが形成されないようにしている。なお、台座部4の外縁部下面にはテーパ面13が形成されている。
【0026】
台座部4の形状は、ここで記載した形状に限定されず、円形、多角形等、平面視でボディ2よりも全ての外縁から外側に広がっているのであれば、種々の形態とすることができる。
図6は、台座部4を平面視で円形とした例を示す。但し、前述のように、異形状に形成することにより、重量の増加を抑制しつつ、タイヤに装着した状態で、路面を走行した際のピン穴26からの脱落を効果的に防止することが可能となっている。
【0027】
シャフト5は、平面視奇数角形(ここでは、五角形)をした第1突部14を備えている。第1突部14の1つの辺(エッジ)を含む第1エッジ部15は、台座部4の直線部9と平行に形成されている。また、第1エッジ部15に隣接する両側の第2エッジ部16及び第3エッジ部17は、台座部4の円弧部分に対向している。さらに、第2エッジ部16に隣接する第4エッジ部18と、第3エッジ部17に隣接する第5エッジ部19は、台座部4の各傾斜部10に対向している。
【0028】
第1突部14の上面には第2突部20が形成されている。第2突部20は平面視矩形状で、その長辺の一方が第1突部14の第1エッジ部15と平行な第6エッジ部21となっている。但し、第2突部20の他のエッジ部(第7エッジ部22、第8エッジ部23及び第9エッジ部24)は第1突部14の他のエッジ部とは延びる方向が相違している。
【0029】
また、シャフト5は、その軸心がボディ2の軸心と合致するように設けられている。これにより、ボディ2の外縁からシャフト5までに全方位で十分な距離を確保することができる。また、第1突部14に比べて第2突部20のエッジ部の数を少なくしている。具体的に、第1突部14では5箇所、第2突部20では4箇所としている。さらにここでは、シャフト5の高さを0.5mm以上、2.5mm以下としている。0.5mm未満では、シャフト5としての機能を十分に発揮できないからであり、2.5mmを超えると、ボディ2よりも先にシャフト5が接地してしまい損傷しやすいからである。また、第1突部14に対する第2突部20の高さの比率を10%以上、80%以下としている。10%未満では、第2突部20のエッジ効果が不十分であり、80%を超えると、第1突部14のエッジ効果を十分に発揮できなくなる。
【0030】
このようにシャフト5を2段で形成することにより、エッジ長さの総計を大きくすることができ、十分なエッジ効果を発揮させることができる。しかも、路面には第1突部14と第2突部20の種々の方向に延びるエッジが衝突することになり、直進方向のみならず、コーナリング時等、種々の方向に対してエッジ効果を発揮させることができる。なお、シャフト5は3段以上で構成することも可能である。
【0031】
前記構成のスタッドピン1は、
図4に示すように、スタッドタイヤのトレッド部25に形成したピン穴26に装着して使用する。ピン穴26は、
図5に示すように、同一内径の小径部27と、その先端の拡径部28とで構成されている。ピン穴26へのスタッドピン1の装着作業は、ピン打ち込み装置(図示せず)によって自動的に行う。この場合、台座部4の形状を円形等の点対称な形状ではなく、前述のような縦長の異形状としているため、その方向を容易に把握してピン穴26へと正確に装着することができる。ここでは、シャフト5の第1
エッジ部15がタイヤ蹴出側で、タイヤ周方向に直交してタイヤ幅方向に延びるように位置決めする。この状態では、トレッド部25の表面からスタッドピン1のボディ2の上端部(テーパ面7)よりも上の部分が露出する。
【0032】
このようにタイヤに装着されたスタッドピン1によれば、走行する際、まずボディ2の上端縁部が路面に衝突する。ボディ2の上端縁部はテーパ面で構成されている。このため、ボディ2の上端縁部が路面に衝突しても、路面への単位面積当たりの衝撃力を抑制することができる。この結果、ドライ路面を走行する場合であっても、路面割れ等の不具合を回避することが可能となる。
【0033】
続いて、シャフト5が路面に衝突する。この場合、ボディ2とシャフト5との間には十分な距離が確保されている。このため、路面にボディ2が衝突する前にシャフト5が衝突することが回避される。これにより、路面衝突時のシャフト5の損傷を防止することができる。
【0034】
また、路面に衝突するシャフト5は、2段で構成され、周囲の尖った辺の方向が第1突部14と第2突部20とで1箇所を除いて相違している。したがって、そのエッジ効果を十分に発揮させることができる。すなわち、直進であれば、第1エッジ部15が路面(氷面)に作用する。また、カーブを走行するコーナリング時であれば、第2エッジ部16又は第3エッジ部17が路面に対する横ずれを防止する。さらに、ブレーキを踏んだ際には、第4エッジ部18及び第5エッジ部19が路面に対して制動力を作用させる。
【0035】
このとき、スタッドピン1には、ボディ2やシャフト5を介してピン穴26から脱落させるような力が作用する。スタッドピン1では、ボディ2が円柱状であり、ピン穴26の小径部27の内周面と全周に亘って均等に密着している。また、ボディ2よりも小径となったシャンク3と、これに続くボディ2よりも大径となった台座部4とを備えている。したがって、ピン穴26からのスタッドピン1の脱落が有効に防止される。
【0036】
ボディ2、台座部4及びシャフト5の平面視形状が全て円形の比較例、
図1から
図3に示す実施例のスタッドピンを使用してエッジ性能について試験を行った。テストタイヤとして、タイヤサイズ:195/65R15、空気圧Fr/Re:220/220(kPa)を使用した。試験では、テストタイヤをテスト車両(1500cc、4WDミドルセダン車)に装着してアイス路面を走行し、エッジ性能(駆動性能、制動性能及び旋回(コーナリング)性能)を評価した。エッジ性能の評価では、比較例1の場合を100として実施例1を指数評価した。駆動性能については、アイス路面において停止状態から走行距離が30mに到達するまでの経過時間により評価した。制動性能については、速度40km/hでABS(Antilock Brake System)により制動力を作用させたときの制動距離で評価した。旋回性能については、同じく速度40km/hで旋回した際の旋回半径で評価した。
【0037】
評価結果は、表1に示す通りである。
【表1】
【0038】
このように、実施例では、縦長の非対称形状をした台座部4により横方向以外の抜止性を向上させることができた。
【0039】
なお、本発明は、前記実施形態に記載された構成に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。
【0040】
前記実施形態では、タイヤの蹴出側に、シャフト5の第1凸部14の第1エッジ部15を、タイヤ周方向と直交してタイヤ幅方向に延びるように配置したが、タイヤの踏込側に配置するようにしてもよい。これによれば、第1エッジ部15により制動力を作用させやすくなる。
【0041】
また、前記実施形態では、シャフト5を平面視奇数角形としたが、1つの直線部と、それ以外の円弧部とで構成することも可能である。この場合、円弧部は、直線部よりも長さの短い複数の線分で繋がった略円弧状とするようにしてもよい。
【0042】
前記実施形態では、2段シャフト5の平行部と、台座部4の直線部9とを横軸を中心として縦軸方向に分割した領域の一方に設けるようにしたが、
図7に示すように、反対側に設けるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0043】
1…スタッドピン
2…ボディ
3…シャンク
4…台座部
5…シャフト
7…テーパ面
9…直線部
10…傾斜部
11…突出部
12…円弧部
13…テーパ面
14…第1突部
15…第1エッジ部
16…第2エッジ部
17…第3エッジ部
18…第4エッジ部
19…第5エッジ部
20…第2突部
21…第6エッジ部
22…第7エッジ部
23…第8エッジ部
24…第9エッジ部
25…トレッド部
26…ピン穴
27…小径部
28…拡径部