(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して本発明の実施例について説明する。添付図面は本発明の原理に則った具体的な実施例を示しているが、これらは本発明の理解のためのものであり、決して本発明を限定的に解釈するために用いられるものではない。
【0014】
以下の実施例は、軌道上を移動する車両の周辺環境において異常個所(例えば、異物、施設の破損など)を自動検出する技術に関する。ここで、軌道には、例えば、線路、ガイドレールなどが含まれる。また、車両には、営業車両、試験用車両、保守用車両などの軌道上を走行する各種車両が含まれる。
【0015】
[実施例1]
図1は、実施例1に係る鉄道設備巡視システムの構成を説明する図である。鉄道設備巡視システムは、車両100と地上局160とから構成される。
【0016】
車両100は、撮影装置110と、画像処理装置120と、車両位置特定装置130と、ストレージ(記憶装置)140と、通信装置150とを備える。なお、上述したように、車両100は、鉄道線路に沿って進むことができるものであればよく、営業車両だけでなく、試験用車両や軌陸車などでも構わない。
【0017】
撮影装置110は、車両100の周辺環境の距離画像200を取得し、距離画像200を画像処理装置120に出力する。撮影装置110は、ステレオカメラやTOF(Time-of-Flight)方式の三次元センサなど、距離画像を取得出来る方式の装置を備えていればよい。例えば、撮影装置110の検出距離は、0〜数十mであり、一例として、0〜30mである。
【0018】
以下では、撮影装置110が車両100の進行方向の前方範囲を撮影する例で説明する。なお、撮影装置110の撮影対象は、車両100の前方範囲に限定されず、撮影装置110の設置位置を適宜変更することによって、車両100の全方位のうち任意の範囲(例えば、進行方向に対して後方範囲、進行方向に対して直交する横方向の範囲など)を設定することができる。
【0019】
画像処理装置120は、撮影装置110から距離画像200を入力情報として受け取り、車両位置特定装置130から車両位置情報210を入力情報として受け取り、ストレージ140から参照三次元点群情報230を取得する。画像処理装置120は、これらの入力情報に基づいて変化領域検出処理を実行し、変化領域情報220を通信装置150に出力する。ここで、変化領域とは、過去の正常な三次元点群と現在の三次元点群とを比較して検出される領域であり、この変化領域を異常個所(異物や破損個所)とみなすことができる。
【0020】
車両位置特定装置130は、GPS(Global Positioning System)装置やIMU(Inertial Measurement Unit)装置などを用いて車両100の現在位置などを特定し、車両位置情報210として画像処理装置120に出力する。ストレージ140は、画像処理装置120が読み込む情報をデータベースとして保持している。本実施例では、車両の現在の位置を緯度・経度及び方位で特定するが、車両の位置情報は、これに限定されない。車両の位置情報として、線路の起点からの距離(キロ程)や、線別(上り、下り、本線、副本線等)の情報が用いられてもよい。
【0021】
通信装置150は、変化領域情報220を入力情報として受け取り、変化領域検出信号240として地上局160に送信する。通信装置150と地上局160との間の通信には携帯電話網などの一般回線が利用されてもよいし、他のネットワークが利用されてもよい。地上局160の処理装置(図示省略)は、車両100の通信装置150から発信された変化領域検出信号240を受け取り、表示装置(例えば、ディスプレイなど)を介して保守点検員への異常個所の提示を行ってもよい。また、地上局160は、書類生成装置(図示省略)を備えてもよく、当該書類生成装置を介して書面上に異常個所や発見日時・場所などの情報をレイアウトすることで設備点検報告書や補修作業指示書などの業務書類を自動的に生成してもよい。
【0022】
図2は、実施例1に係る画像処理装置の構成を示した図である。画像処理装置120は、点群変換部310と、位置合せ領域分離部320と、位置合せ部330と、近傍検索部340と、差分抽出部350とを備える。
【0023】
画像処理装置120は、例えば、汎用のコンピュータを用いて実現されてもよい。画像処理装置120の各処理部は、コンピュータ上で実行されるプログラムの機能として実現されてもよい。コンピュータは、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサと、メモリなどの記憶部とを少なくとも備える。画像処理装置120の処理は、各処理部に対応するプログラムコードがメモリに格納され、プロセッサが各プログラムコードを実行することによって実現されてもよい。
【0024】
点群DB(Database)300は、ストレージ140上に実装されたデータベースである。
図3は、点群DB300の一例である。点群DB300は、位置情報500と、参照三次元点群情報540とを構成項目として含む。点群DB300は、線路上の各位置(位置情報500)において正常状態であることが確認されている過去の点群情報を含む。他の言い方をすれば、点群DB300は、正常状態であることが確定している車両100の周辺環境に関連する基準情報を格納しているDBである。
【0025】
参照三次元点群情報540は、参照位置合せ点群510と、参照差分抽出点群520とを含む。参照位置合せ点群510は、位置合せ部330における位置合せ処理で使用される点群である。参照位置合せ点群510は、過去に線路上を走行した際に、線路上の各位置の撮影装置110の画像から取得された点群でもよい。例えば、参照位置合せ点群510は、過去に車両100が線路上を走行した際に、線路上の各位置において
図5の領域550内で取得した点群から構成される。参照差分抽出点群520は、変化領域を検出するための基準となる点群である。例えば、参照差分抽出点群520は、過去に車両100が線路上を走行した際に、線路上の各位置の撮影装置110の画像から取得された点群である。このように、点群DB300では、参照位置合せ点群510及び参照差分抽出点群520と、その撮影個所の位置情報500とが対応付けられて保持されている。
【0026】
位置情報500は、線路上の各位置を、緯度・経度及び方位の情報として保持している。参照位置合せ点群510と参照差分抽出点群520は、それぞれ、XYZ座標の集合を保持している。なお、上述したように、位置情報500として、線路の起点からの距離(キロ程)や、線別(上り、下り、本線、副本線等)の情報が用いられてもよい。
【0027】
上記では、車両100を実際に線路上で走行させて点群DB300を作成した例を説明したが、これに限定されない。点群DB300は、線路及びその周辺環境の設計情報(例えば、CADデータ)から作成されてもよい。この構成によれば、設計情報を基準として変化領域を検出できる。また、設計情報を基準として点群DB300を作成した場合、線路及びその周辺環境を建設した後に車両100を走行させて、周辺環境が設計通りに建築されたかを確認する用途にも適用することができる。これは、画像処理装置120によって検出される変化領域情報220が、設計情報との差分を表すためであり、これにより、設計通りに建築されていない個所を検出できる。
【0028】
点群変換部310は、撮影装置110から入力された距離画像200を三次元点群400に変換し、三次元点群400を位置合せ領域分離部320に出力する。
図4は、距離画像200から三次元点群400への座標計算変換方法を説明する図である。距離画像200の各画素は、対象までの距離Lと画像中心からのZY平面上の角度φとXZ平面上の角度θによって与えられる。点群変換部310は、数1に基づいて、距離画像200から三次元点群400の各点の座標への変換処理を行う。
【0030】
位置合せ領域分離部320は、点群変換部310から三次元点群400を入力情報として受け取り、三次元点群400内のうち位置合せ用領域に含まれる点群を位置合せ点群410として位置合せ部330に出力し、三次元点群400の全てを差分抽出点群420として差分抽出部350に出力する。なお、位置合せ用領域を定義するパラメータ360は、例えば、ストレージ140に保持されていてもよく、位置合せ領域分離部320は、位置合せ用領域を定義するパラメータ360をストレージ140から取得することができる。
【0031】
図5は、位置合せ用領域に含まれる点群を位置合せ点群として抽出する例である。位置合せ用領域550は、複数のパラメータによって設定され、例えば、車両100の前方かつ上方の空間である。車両100の前方かつ上方の空間(車両100に対して斜め上方向の空間)は、架線及び架線を支持する構造物などが主に含まれる領域であり、移動物体が少ないと思われる領域である。例えば、車両100からPf分だけ前方の位置で、かつ、レール位置からPv分の高さの位置を基準として、位置合せ用領域550が設定される。位置合せ用領域550は、高さP
H、奥行きP
D、幅P
Wの三次元空間として表される。
【0032】
例えば、位置合せ用領域550として、駅舎内を移動する人や、隣接する線路を走行する別の列車、隣接する道路を走行する車両などの移動物体が少ないと思われる空間が設定されるのが好ましい。例えば、撮影装置110を運転席に設置した場合は、Pf=3〜6m、Pv=4〜8m、P
H=2〜6m、P
W=3〜20m、P
D=10〜70mの範囲で設定されるのが好ましい。
【0033】
例えば、Pf=3m、Pv=4m、P
H=3m、P
W=10m、P
D=70m等と設定することで、位置合せ用領域550として、移動物体の少ない領域を指定することができる。なお、これらのパラメータは、鉄道規格や車両の車高、車両に取り付けられたセンサの高さ等の運用環境に併せて外部から調整可能に構成されてもよい。
【0034】
図6は、位置合せ用領域550の一例である。位置合せ用領域550は、移動物体が存在せず、かつ、環境などによる状態の変化が少ない物体が含まれるように設定されるのが好ましい。一例として、位置合せ用領域550は、線路に沿って配置された電柱610の少なくとも一部及び電柱610間に渡された梁(ビーム)620の少なくとも一部が含まれるように設定される。具体的には、
図6に示すように、位置合せ用領域550を定義するパラメータ(P
W、P
Hなど)は、電柱610の上端部及び梁620が含まれるように設定されてもよい。
【0035】
図7は、位置合せ用領域550の別の例である。移動物体が存在せず、かつ、環境などによる状態の変化が少ない物体が含まれるという観点から、位置合せ用領域550は、車両100の側面側にある法面710が含まれるように設定されてもよい。法面とは、線路を敷くときに、地盤を切削又は盛り上げて設けた斜面部分である。
【0036】
なお、上述した位置合せ用領域550は一例であり、これらに限定されない。撮影装置110が、車両の屋根に配置されてもよく、車両に対して上方向の空間が位置合せ用領域550として使用されてもよい。また、別の例として、位置合せ用領域550は、鉄道線路に隣接するビルなどの建造物や、駅のホームの屋根などが入るように設定されてもよい。
【0037】
図8は、位置合せ領域分離部320の処理を説明するフローチャートの一例である。位置合せ領域分離部320は、点群変換部310から入力された三次元点群400の各点を対象点群として、まず、位置合せ領域判定を行う(ステップ800)。位置合せ領域分離部320は、対象点群の座標が位置合せ用領域550内に存在しているか否かを判定する。
【0038】
ステップ800において、対象となる点が位置合せ用領域550内に存在すると判定された場合、位置合せ領域分離部320は、その点を位置合せ点群410に追加し(ステップ810)、その後、ステップ820に進む。
【0039】
一方、ステップ800において、対象となる点が位置合せ用領域550内に存在しないと判定された場合、ステップ820に進む。
【0040】
位置合せ領域分離部320は、対象となる点を差分抽出点群420に追加する(ステップ820)。位置合せ領域分離部320は、三次元点群400の全点に対して
図8のフローが終了した後に、位置合せ点群410を位置合せ部330に出力し、差分抽出点群420を差分抽出部350に出力する。
【0041】
近傍検索部340は、車両位置特定装置130から車両位置情報210を入力情報として受け取る。近傍検索部340は、車両位置情報210を用いて点群DB300を検索し、車両位置情報210の最近傍となる位置情報500に紐づけられている参照三次元点群情報540を読み込む。例えば、車両位置情報210(Nlat、Nlon)とした時、近傍検索部340は、数2の評価値Vが最も小さくなる位置情報500(Rlat、Rlon)を最近傍の位置情報であると判定してもよい。
【0043】
なお、別の例として、位置情報500として、線路の起点からの距離(キロ程)を用いる場合には、近傍検索部340は、現在のキロ程と位置情報500のキロ程との差分が最も小さくなる位置情報500を最近傍の位置情報であると判定してもよい。
【0044】
近傍検索部340は、参照三次元点群情報540の参照位置合せ点群510を位置合せ部330に出力し、参照三次元点群情報540の参照差分抽出点群520を差分抽出部350に出力する。
【0045】
位置合せ部330は、位置合せ領域分離部320から位置合せ点群410を入力情報として受け取り、近傍検索部340から参照位置合せ点群510を入力情報として受け取る。位置合せ部330は、参照位置合せ点群510に対して位置合せ点群410を位置合せする。位置合せ部330は、点群の位置合せ方法として、一般的に知られているICP(Iterative Closest Point)法やNDT(Normal Distributions Transformation)法を用いてもよい。位置合せ部330は、位置合せ点群410を回転及び並進移動させて、参照位置合せ点群510との誤差評価値が最も小さくなる回転及び並進移動パラメータ(回転及び並進移動量)を求める。以降では、回転及び並進移動パラメータを「姿勢情報430」と称する。
【0046】
位置合せ部330は、求めた回転及び並進移動パラメータを、姿勢情報(位置合せ情報)430として差分抽出部350に出力する。なお、回転及び並進移動パラメータAと、参照位置合せ点群510の座標ベクトルRと、対応する位置合せ点群410の座標ベクトルPとは、数3のような関係になる。
【0048】
差分抽出部350は、位置合せ領域分離部320から差分抽出点群420を入力情報として受け取り、近傍検索部340から参照差分抽出点群520を入力情報として受け取り、位置合せ部330から姿勢情報430を入力情報として受け取る。
【0049】
差分抽出部350は、姿勢情報430に基づいて差分抽出点群420を変形する。詳細には、差分抽出部350は、姿勢情報430に基づいて差分抽出点群420を回転及び並進移動し、変形三次元点群を算出する。差分抽出部350は、変形三次元点群の各点(変形した各点の座標)に対して参照差分抽出点群520の最近傍点の距離を計算する。差分抽出部350は、距離が閾値TL以上離れている点を変化領域情報220として通信装置150に出力する。
【0050】
数4は、姿勢情報430をA、差分抽出点群420の各点の座標をP、Pの最近傍の参照差分抽出点群520の点の座標をR、閾値TLとした時に、差分抽出点群420の各点を変化領域情報220に含めるか否かの判定を表したものである。
【0052】
差分抽出部350は、差分抽出点群420の各点の座標Pを姿勢情報Aに従って変形し、Pの最近傍の参照差分抽出点群520の点の座標Rとの距離が閾値TLより大きければ、差分抽出点群420のその点を変化領域情報220として出力する。それ以外であれば、差分抽出部350は、差分抽出点群420のその点を変化領域情報220として扱わない。ここで説明した差分抽出処理は、一例であり、これに限定されない。
【0053】
本実施例によれば、車両100に搭載した撮影装置(例、三次元センサなど)110が、車両周辺の三次元点群データを取得する。位置合せ領域分離部320が、三次元点群400のうち、移動物体が少ない空間内にある点群を位置合せ点群410として分離する。これにより、移動物体が少ない空間での位置合せ処理が可能となる。位置合せ部330は、過去の三次元点群(参照位置合せ点群510)と現在の三次元点群(位置合せ点群410)とを安定して位置合せすることができる。結果として、差分抽出部350は、過去の正常な状態の三次元点群(参照差分抽出点群520)と現在の三次元点群(差分抽出点群420)の差分を求めることにより、運行車両領域外の異物や、鉄道関連施設の破損などの異常個所を検出する。
【0054】
従来では、過去の正常な三次元点群の重心位置と現在の三次元点群の重心位置との位置合せにずれが生じ、結果として、本来ならば差異のないはずの正常な個所が異常個所として検知されるという課題があった。これに対して、本実施例によれば、移動物体が存在する領域をなるべく排除した位置合せ用領域550を設定し、当該位置合せ用領域550から位置合せ用の点群を抽出する。したがって、本実施例は、移動物体の有無による位置合せのずれに起因して正常な個所が異常個所として検知されるのを防ぐことができる。したがって、運行車両領域外の鉄道関連施設の異物や破損を安定して検出することができる。
【0055】
なお、上記の実施例は一例であり、様々な変更が可能である。例えば、差分抽出部350は、変化領域情報220を異常情報としてストレージ140に格納してもよい。また、車両100が表示装置を備える場合、差分抽出部350は、変化領域情報220を表示装置に出力し、表示装置を介して車両100の運転者などに異物や施設の破損を通知してもよい。
【0056】
例えば、撮影装置110は、カメラ画像(二次元画像)を出力するカメラセンサをさらに含んでもよく、地上局160は、変化領域情報220とともに、二次元画像を受け取ってもよい。地上局160の処理装置が、差分抽出部350によって抽出された変化領域(差分となる三次元点群)の各点と二次元画像の各画素の対応関係を求め、当該対応関係を用いて二次元画像上に異常個所を示す情報(例えば、枠などによるマーキング)を重ね合わせてもよい。そして、地上局160の処理装置が、当該二次元画像を表示装置を介して表示してもよい。
図9の上の図は、二次元画像に異常個所を示す情報を表示した一例である。異常個所の表示処理は、このようなマーキングに限定されず、異常個所が認識できる他の方法で行われてよい。この構成によれば、異常個所を三次元の情報で把握した上で、ユーザが見やすい二次元画像で異常個所を提示することができる。
【0057】
また、地上局160の書類生成装置は、上述の二次元画像、及び、異常個所の発見日時・場所などの情報を所定のフォーマットに従ってレイアウトして、設備点検報告書又は補修作業指示書などの業務書類を自動生成してもよい。
図9の下の図は、異常個所が示された二次元画像を所定のフォーマット内に配置して、業務書類を生成する一例である。二次元画像以外の領域には、異常を検知した時間(日付)及び位置、並びに、業務書類の作成者などの各種情報が入力されてもよい。なお、地上局160側の処理装置及び書類生成装置は、車両100に搭載されてもよい。
【0058】
[実施例2]
図10は、実施例2に係る画像処理装置120の構成を説明する図である。上述の実施例1で説明した構成要素については、同じ符号を付して説明を省略する。
【0059】
画像処理装置120は、点群変換部310と、位置合せ領域分離部910と、位置合せ部330と、近傍検索部340と、差分抽出部350と、領域検索部930とを備える。領域DB920は、ストレージ140上に実装されたデータベースである。
【0060】
図11は、領域DB920の一例である。領域DB920は、基準位置情報1010と、位置合せ領域候補情報1020とを構成項目として含む。領域DB920は、線路上の各基準位置(基準位置情報1010)において位置合せ領域の候補となる点群の情報を含む。実施例1の位置合せ領域分離部320は、予め決められた空間(位置合せ用領域550)内にある点群を位置合せ点群410として分離するが、実施例2の位置合せ領域分離部910は、領域DB920の位置合せ領域候補情報1020に応じて、位置合せ点群950を抽出する空間を変化させることができる。領域DB920は、軌道(鉄道線路)上の位置ごとに適切な位置合せ領域候補の情報を保持している。一例として、領域DB920は、ある走行位置では
図6の領域(電柱及び梁)を位置合せ領域候補の情報として保持し、別の走行位置では
図7の領域(法面)を位置合せ領域候補の情報として保持してもよい。したがって、位置合せ部330での位置合せ処理の精度が向上し、その結果、差分抽出部350での変化領域情報の抽出の精度も向上する。
【0061】
領域DB920では、基準位置情報1010及び位置合せ領域候補情報1020が対応付けられて保持されている。基準位置情報1010は、基準位置を表す緯度・経度及び、基準方向を表す方位の情報を保持している。なお、基準位置情報1010として、線路の起点からの距離(キロ程)や、線別(上り、下り、本線、副本線等)の情報が用いられてもよい。位置合せ領域候補情報1020は、鉄道線路の周辺環境において移動物体が少ない複数の領域を、位置合せの候補領域として保持している。位置合せ領域候補情報1020は、基準位置、基準方向を原点とした相対座標で四面体の頂点4点のXYZ座標の集合を保持している。この例では、位置合せ領域候補情報1020が、四面体の頂点4点の情報を保持するが、これに限定されず、他の任意の空間の情報を保持してよい。
【0062】
領域検索部930は、車両位置特定装置130から車両位置情報210を入力情報として受け取る。領域検索部930は、車両位置情報210を用いて領域DB920を検索し、車両位置情報210の最近傍となる基準位置情報1010に紐づけられている位置合せ領域候補情報1020を読み込む。
【0063】
領域検索部930は、位置合せ領域候補情報1020をそのまま位置合せ用領域940として位置合せ領域分離部910に出力してもよいが、位置合せ領域候補情報1020を所定の条件を用いて絞り込んでもよい。ここで使用される条件は、例えば、三次元センサの測定範囲の情報を含んでもよい。
【0064】
図12は、位置合せ領域候補情報の絞り込み処理の一例である。領域検索部930は、領域DB920から、位置合せ領域候補情報1020として3つの位置合せ領域候補1100、1110、1120の情報を取得したとする。領域検索部930は、ストレージ140に格納されている絞り込み用の条件を読み込む。ここで使用される条件は、三次元センサの測定範囲の情報であり、車両前方のセンサ近接限界Lfとセンサ限界Llの情報を含む。
【0065】
領域検索部930は、センサ近接限界Lfとセンサ限界Llの情報に基づいて、第1センサ限界面1130及び第2センサ限界面1140を設定する。領域検索部930は、位置合せ領域候補1100、1110、1120で定義される領域で、かつ、第1センサ限界面1130と第2センサ限界面1140との間の空間に含まれる領域を位置合せ用領域940として抽出する。領域検索部930は、抽出された位置合せ用領域940を位置合せ領域分離部910に出力する。この構成によれば、領域検索部930が、条件によって位置合せ領域候補を絞り込んで位置合せ領域分離部910に出力するため、その後に実施される処理の計算量が低減され、その結果、位置合せ領域分離部910での点群の分離処理の速度及び位置合せ部330での位置合せ処理の速度を向上させることができる。
【0066】
位置合せ領域候補(四面体)1100は、車両100の進行方向に対して第1センサ限界面1130よりも奥に存在するため、位置合せ用領域940に含まれない。一方、位置合せ領域候補(四面体)1110は、四面体の一部が第1センサ限界面1130よりも奥に存在するため、その部分は位置合せ用領域940に含まれず、残りの部分が位置合せ用領域940に含まれる。また、位置合せ領域候補(四面体)1120は、第1センサ限界面1130と第2センサ限界面1140との間の空間に存在するため、位置合せ領域候補1120の全ての部分が位置合せ用領域940に含まれる。
【0067】
位置合せ領域分離部910は、点群変換部310から三次元点群400を入力情報として受け取り、車両100の現在の位置に対応する位置合せ用領域940を入力情報として受け取る。位置合せ領域分離部910は、三次元点群400内のうち、位置合せ用領域940に含まれる点群を位置合せ点群950として位置合せ部330に出力し、三次元点群400の全てを差分抽出点群420として差分抽出部350に出力する。
【0068】
図13は、位置合せ領域分離部910の処理を説明するフローチャートの一例である。位置合せ領域分離部910は、点群変換部310から入力された三次元点群400の各点を対象点群として、まず、位置合せ領域判定を行う(ステップ1200)。位置合せ領域分離部910は、対象点群の座標が、領域検索部930から出力された位置合せ用領域940内に存在しているか否かを判定する。
【0069】
ステップ1200において、対象となる点が位置合せ用領域940内に存在すると判定された場合、位置合せ領域分離部910は、その点を位置合せ点群950に追加し(ステップ1210)、その後、ステップ1220に進む。
【0070】
一方、ステップ1200において、対象となる点が位置合せ用領域940内に存在しないと判定された場合、ステップ1220に進む。
【0071】
位置合せ領域分離部910は、対象となる点を差分抽出点群420に追加する(ステップ1220)。位置合せ領域分離部910は、三次元点群400の全点に対して
図13のフローが終了した後に、位置合せ点群950を位置合せ部330に出力し、差分抽出点群420を差分抽出部350に出力する。
【0072】
なお、本実施例の点群DB300の参照位置合せ点群510は、位置合せ用領域940に対応する過去の点群を保持している。位置合せ部330は、参照位置合せ点群510に対して位置合せ点群950を位置合せする。なお、近傍検索部340の処理、及び、差分抽出部350の処理などは、実施例1と同様である。
【0073】
本実施例によれば、領域検索部930が、車両位置特定装置130の車両位置情報210に基づいて、領域DB920から既知の周辺の位置合せ領域候補情報1020を検索する。位置合せ領域分離部910は、位置合せ領域候補情報1020をもとに、三次元点群400から位置合せ点群950を抽出することができる。本実施例は、実施例1と比べて、車両の位置毎に柔軟に位置合せ領域を指定することができる。例えば、
図5の例では、位置合せ点群を抽出するための空間が、線路のどの位置でも車両100の前方かつ上方の限られた空間であったが、本実施例では、走行位置ごとに、鉄道線路に隣接するビルなどの建造物のように明らかに移動物体が含まれない領域も位置合せ領域として利用することができる。特に、車両100の位置ごとに鉄道線路の周辺環境が変化するため、各位置に適した位置合せ領域を指定することができ、安定した三次元点群の位置合せ処理及び差分抽出処理が可能となる。
【0074】
なお、上記の実施例は一例であり、様々な変更が可能である。例えば、設備巡視システムは、領域DB920を修正するためのインタフェース及び処理部(DB修正部)を備えてもよい。例えば、ユーザが差分抽出部350から出力された変化領域情報220を表示装置で確認し、変化領域情報220に誤りが多い場合、位置合せ領域の指定が適切でない場合が考えられる。ユーザは表示装置上の所定のインタフェースを介して修正情報を入力し、DB修正部が、入力された修正情報に基づいて領域DB920の位置合せ領域候補情報1020を修正してもよい。
【0075】
[実施例3]
図14は、実施例3に係る画像処理装置120の構成を説明する図である。上述の実施例1で説明した構成要素については、同じ符号を付して説明を省略する。
【0076】
画像処理装置120は、
図2の構成に対して、位置合せ領域選択部1310をさらに備える。位置合せ領域選択部1310は、点群変換部310から三次元点群400を入力情報として受け取り、ストレージ140に格納された候補領域情報1300を入力情報として取得する。候補領域情報1300は、複数の候補領域の情報と、各候補領域の優先順位の情報とを含む。位置合せ領域選択部1310は、優先順位に従って、撮影装置110を介して検出された三次元点群400の各候補領域内の三次元点の数を判定し、三次元点の数が所定の数以上ある領域を位置合せ領域として選択する。
【0077】
図15は、位置合せ領域選択部1310の処理を説明するフローチャートの一例である。ここでは、一例として、候補領域情報1300が、第1優先順位としての第1の領域の情報と、第2優先順位としての第2の領域の情報とを含む。例えば、第1の領域は、
図6に示した電柱610及び梁620が含まれる領域であり、第2の領域は、
図7に示した車両100の側面側の領域である。なお、候補領域情報1300は、3つ以上の領域の情報を保持してもよい。
【0078】
位置合せ領域選択部1310は、候補領域情報1300を取得する。そして、候補領域情報1300は、まず、撮影装置110を介して検出された三次元点群400の第1の領域内の三次元点の数がしきい値Th以上あるかを判定する(ステップ1400)。
【0079】
ステップ1400において、第1の領域内の三次元点の数がしきい値Th以上ある場合、ステップ1420に進む。位置合せ領域選択部1310は、第1の領域を位置合せ領域として決定する(ステップ1420)。その後、位置合せ領域選択部1310は、位置合せ領域情報1320を位置合せ領域分離部320へ出力する。
【0080】
ステップ1400において、第1の領域内の三次元点の数がしきい値Th未満の場合、ステップ1410に進む。位置合せ領域選択部1310は、位置合せ領域を、第2優先順位である第2の領域に変更する(ステップ1410)。その後、ステップ1400へ戻り、ステップ1400の条件を満たせば、位置合せ領域選択部1310は、第2の領域を位置合せ領域として決定する(ステップ1420)。なお、候補領域が3つ以上あれば、その数だけステップ1400及び1410を繰り返し実行し、位置合せ領域を決定すればよい。
【0081】
本実施例によれば、位置合せ領域選択部1310が、その時に撮影装置110を介して検出された位置合せ候補領域内の三次元点の数に応じて、位置合せ領域を選択することができる。例えば、
図6に示した電柱610及び梁620は、線路に沿って、およそ30〜65m間隔で配置されている。したがって、車両100の走行中に、撮影装置110の測定範囲内に電柱610及び梁620が含まれない状況が生じる。この場合、第1の領域(車両100の前方かつ上方の領域)内に点群がないため、位置合せが上手く行えない。本実施例では、このような場合でも、位置合せ領域選択部1310が、第2の領域(車両100の側面側の領域)を位置合せ領域として選択し、第2の領域内に三次元点の数が所定の数以上あれば、第2の領域を位置合せ領域として決定する。このように、本実施例によれば、三次元点群が検出された領域を位置合せ領域として選択することができる。
【0082】
また、本実施例によれば、複数の候補領域には、優先順位が付けられている。位置合せ領域選択部1310は、優先順位が高く、かつ、三次元点の数が所定の数以上ある領域を位置合せ領域として決定することができる。
【0083】
なお、本実施例では、点群DB300の参照位置合せ点群510が、候補領域情報1300に含まれる領域に対応する情報を保持していればよい。他の処理は、実施例1と同様である。
【0084】
また、本実施例は、第2実施例にも適用可能である。位置合せ領域選択部1310が、領域検索部930から複数の位置合せ領域を入力情報として受け取り、その複数の位置合せ領域の中で三次元点の数が所定の数以上存在する領域を位置合せ領域として決定してもよい。位置合せ領域選択部1310は、決定した位置合せ領域の情報を位置合せ領域分離部910に出力すればよい。
【0085】
本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることもできる。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることもできる。また、各実施例の構成の一部について、他の構成を追加・削除・置換することもできる。
【0086】
上述の実施例では、近傍検索部340が現在の位置情報に基づいて点群DB300から参照三次元点群情報540を取得しているが、この構成に限定されない。例えば、参照三次元点群情報540を位置毎にナンバリングし、番号に紐付けて参照三次元点群情報540を取得する方法や、線路上にタグを設置し、同一タグの参照三次元点群情報540を取得する方法などが実施されてもよい。
【0087】
上記の画像処理装置120の各構成、機能などは、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、ファイルなどの情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)などの記録装置、または、ICカード、SDカード、DVDなどの記録媒体に置くことができる。また、上記の画像処理装置120の各構成などは、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計するなどによりハードウェアで実現してもよい。
【0088】
上述の実施例において、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。全ての構成が相互に接続されていてもよい。