特許第6826430号(P6826430)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6826430
(24)【登録日】2021年1月19日
(45)【発行日】2021年2月3日
(54)【発明の名称】タイヤ加硫金型および空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B29C 33/02 20060101AFI20210121BHJP
   B29C 35/02 20060101ALI20210121BHJP
   B29L 30/00 20060101ALN20210121BHJP
【FI】
   B29C33/02
   B29C35/02
   B29L30:00
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-253016(P2016-253016)
(22)【出願日】2016年12月27日
(65)【公開番号】特開2018-103487(P2018-103487A)
(43)【公開日】2018年7月5日
【審査請求日】2019年10月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(72)【発明者】
【氏名】新山 陽介
【審査官】 ▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−046010(JP,A)
【文献】 特開2008−254513(JP,A)
【文献】 特開2012−061916(JP,A)
【文献】 実開昭58−056602(JP,U)
【文献】 特開2016−097778(JP,A)
【文献】 特開2004−203227(JP,A)
【文献】 特開2016−137855(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00−33/76
B29C 35/02
B29D 30/00−30/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリーンタイヤの周方向に沿って複数に分割され、前記グリーンタイヤのトレッド部を所定形状に加硫成形するためのセクターモールドと、
前記グリーンタイヤの軸方向において前記グリーンタイヤを挟んで両側に配置され、前記グリーンタイヤのサイド部を所定形状に加硫成形するための一対のサイドモールドと
を備え、
前記サイドモールドは、
前記グリーンタイヤの前記サイド部の外表面に所定の標章を形成するための凹形状を有する標章形成部と、
前記グリーンタイヤの径方向において前記標章形成部の内側に設けられ、前記グリーンタイヤの外表面の一部峰形状を有するリムプロテクタとしてのプロテクタ部を形成するためのプロテクタ形成部と、
前記グリーンタイヤの径方向において、前記標章形成部と前記プロテクタ形成部との間に設けられた凸部と
を有し、
前記凸部は、前記グリーンタイヤの中心軸方向から見て、前記標章形成部と同位相の範囲にのみ設けられている、タイヤ加硫金型。
【請求項2】
前記凸部は、前記グリーンタイヤの径方向において、前記標章形成部からの距離が前記標章形成部の前記凹形状の前記径方向の内端と前記プロテクタ形成部の前記峰形状の頂端との間の距離の20%以上かつ50%以下である位置に設けられている、請求項1に記載のタイヤ加硫金型。
【請求項3】
前記凸部は、前記グリーンタイヤの径方向において、多重に設けられている、請求項1または請求項のいずれか1項に記載のタイヤ加硫金型。
【請求項4】
トレッド面を有するトレッド部と、
前記トレッド部の両側部から内径側へ延びる一対のサイド部と
を備える空気入りタイヤであって、
前記サイド部は、
外表面に所定の標章を表示する標章表示部と、
前記標章表示部の内径側に位置し、外表面の一部に峰形状を有するリムプロテクタとしてのプロテクタ部と、
タイヤ径方向において、前記標章表示部と前記プロテクタ部との間に設けられた凹部と
を有し、
前記サイド部を構成するサイドゴムは、
黒色を呈する黒色ゴムと、
前記黒色ゴムに埋設され、前記標章表示部に対応して表面の一部が露出しており、黒色以外の色を呈する彩色ゴムと
を有し、
前記凹部は、前記空気入りタイヤの中心軸方向から見て、前記標章表示部と同位相の範囲にのみ設けられている、空気入りタイヤ。
【請求項5】
グリーンタイヤの周方向に沿って複数に分割され、前記グリーンタイヤのトレッド部を所定形状に加硫成形するためのセクターモールドと、
前記グリーンタイヤの軸方向において前記グリーンタイヤを挟んで両側に配置され、前記グリーンタイヤのサイド部を所定形状に加硫成形するための一対のサイドモールドと
を備え、
前記サイドモールドは、
前記グリーンタイヤの前記サイド部の外表面に所定の標章を形成するための凹形状を有する標章形成部と、
前記グリーンタイヤの径方向において前記標章形成部の内側に設けられ、前記グリーンタイヤの外表面の一部に峰形状を有するリムプロテクタとしてのプロテクタ部を形成するためのプロテクタ形成部と、
前記グリーンタイヤの径方向において、前記標章形成部と前記プロテクタ形成部との間に設けられた凸部と
を有し、
前記グリーンタイヤの中心軸方向から見て、前記標章形成部と異位相の範囲に前記グリーンタイヤの径方向に延びる突条部を有する、タイヤ加硫金型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ加硫金型および空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤの加硫成形では、成形部位に応じた2種類の金型が一般に使用される。一つはタイヤのトレッド部を成形する金型であり、セクターモールドと呼ばれている。もう一つは、タイヤのサイド部を成形する金型であり、サイドモールドと呼ばれている。セクターモールドはタイヤの周方向に複数分割されて配置され、サイドモールドはタイヤを側部から挟み込むように配置される。これらの2種類の金型によって閉じられた状態でグリーンタイヤ(生タイヤ)は加硫成形され、製品である空気入りタイヤが製造される。
【0003】
一般的に、空気入りタイヤの表面には、社名などの文字またはロゴ等の標章が形成される。空気入りタイヤでは、通常、全体に黒色ゴムが使用され、上記標章には黒色ゴムとは異なる色を呈する彩色ゴムが使用される場合がある。
【0004】
例えば、特許文献1には、このようなセクターモールドとサイドモールドとによって成形され、外表面に文字を表示する空気入りタイヤが開示されている。特許文献1のタイヤ加硫金型では、成形後にタイヤの外表面に文字が明確に表示されるように、タイヤの外表面に文字を形成する部分であるゴム流入部の形状が工夫されている。具体的には、ゴム流入部の首部よりも頭部を拡大することで、標章を表示するための彩色ゴムをゴム流入部に流れ込み易くしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−46010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されたタイヤ加硫金型では、彩色ゴムのみが本来流れ込むはずの標章部分に黒色ゴムが流れ込むことがある。その場合、標章としてタイヤの外表面に表示される彩色ゴムの色が黒色で濁り、即ち黒残りが発生し、タイヤの美観が損なわれる。
【0007】
本発明は、標章表示部に対応して露出した彩色ゴムにおける黒残りを抑制できるタイヤ加硫金型と、標章表示部に対応して露出した彩色ゴムにおける黒残りが抑制された空気入りタイヤとを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のタイヤ加硫金型は、
グリーンタイヤの周方向に沿って複数に分割され、前記グリーンタイヤのトレッド部を所定形状に加硫成形するためのセクターモールドと、
前記グリーンタイヤの軸方向において前記グリーンタイヤを挟んで両側に配置され、前記グリーンタイヤのサイド部を所定形状に加硫成形するための一対のサイドモールドと
を備え、
前記サイドモールドは、
前記グリーンタイヤの前記サイド部の外表面に所定の標章を形成するための標章形成部と、
前記グリーンタイヤの径方向において前記標章形成部の内側に設けられ、前記グリーンタイヤにプロテクタ部を形成するためのプロテクタ形成部と、
前記グリーンタイヤの径方向において、前記標章形成部と前記プロテクタ形成部との間に設けられた凸部と
を有する。
【0009】
この構成によれば、標章形成部とプロテクタ形成部との間に凸部が設けられているため、標章表示部の彩色ゴムにプロテクタ部の黒色ゴムが混入することによる黒残りを抑制できる。即ち、凸部が、黒色ゴムと彩色ゴムとの間に配置されているため、黒色ゴムが彩色ゴムに向かって流れる際の障害となる。従って、黒残りを抑制でき、彩色ゴムの色合いが保たれるため、タイヤの標章部分の美観を維持できる。
【0010】
前記凸部は、前記グリーンタイヤの径方向において、前記標章形成部からの距離が前記標章形成部と前記プロテクタ形成部との間の距離の20%以上かつ50%以下である位置に設けられてもよい。
【0011】
この構成によれば、凸部の位置を規定することで、タイヤの標章部分の美観を一層維持できる。即ち、凸部が上記のように規定された範囲(20〜50%)の位置にあることで、凸部が黒色ゴムの流れ込みに対する障害として有効に機能する。詳細には、凸部によって黒色ゴムの流れが遮断されるわけではなく、一部の黒色ゴムは凸部を乗り越えて彩色ゴムに向かって流れる。そのため、仮に、凸部が標章形成部の近傍(20%未満)に設けられていると、凸部を乗り越えた一部の黒色ゴムが彩色ゴムに流れ込み、黒残りが発生するおそれがある。また、凸部が標章形成部の遠方(50%超過)に設けられていると、凸部が彩色ゴムに向かう黒色ゴムの流れに対する障害として十分に機能しないおそれがある。従って、上記範囲(20〜50%)が適正な範囲となり得る。
【0012】
前記凸部は、前記グリーンタイヤの周方向に一周にわたって連続して設けられてもよい。
【0013】
この構成によれば、凸部が一周にわたって連続して設けられているため、黒色ゴムが彩色ゴムに流れ込むためには凸部を必ず乗り越える必要がある。従って、黒色ゴムが彩色ゴムに向かって流れる際の障害として凸部が有効に機能する。
【0014】
前記グリーンタイヤの中心軸方向から見て、前記標章形成部と異位相の範囲に前記グリーンタイヤの径方向に延びる突条部を有してもよい。
【0015】
この構成によれば、タイヤの径方向に延びる突条部が設けられているため、突条部によって径方向における黒色ゴムの流れが促進される。また、標章形成部と上記のように異位相に突条部が設けられているため、標章表示部以外の部分では良好な黒色ゴムの流れを確保でき、成形性を向上させることができる。即ち、標章表示部に向かう黒色ゴムの流れを促進させず、それ以外の部分に向かう黒色ゴムの流れを促進させることができる。
【0016】
前記凸部は、前記グリーンタイヤの中心軸方向から見て、前記標章形成部と同位相の範囲にのみ設けられてもよい。
【0017】
この構成によれば、凸部が標章形成部と同位相に設けられているため、黒色ゴムが彩色ゴムに直線的に流れ込むためには凸部を乗り越える必要がある。従って、黒色ゴムが彩色ゴムに向かって流れる際の障害として凸部が有効に機能する。また、凸部が標章形成部と同位相にのみ設けられているため、凸部が設けられていない部分のゴムの流れを阻害することがない。従って、成形性の低下を防止できる。
【0018】
前記凸部は、前記グリーンタイヤの径方向において、多重に設けられてもよい。
【0019】
この構成によれば、凸部が多重に設けられているため、黒色ゴムが彩色ゴムに向かって流れる際には複数個の凸部を乗り越える必要がある。従って彩色ゴムに向かう黒色ゴムの流れの障害として凸部が有効に機能する。
【0020】
本発明の空気入りタイヤは、
トレッド面を有するトレッド部と、
前記トレッド部の両側部から内径側へ延びる一対のサイド部と
を備える空気入りタイヤであって、
前記サイド部は、
外表面に所定の標章を表示する標章表示部と、
前記標章表示部の内径側に位置し、外表面の一部に峰形状を有するプロテクタ部と、
タイヤ径方向において、前記標章表示部と前記プロテクタ部との間に設けられた凹部と
を有し、
前記サイド部を構成するサイドゴムは、
黒色を呈する黒色ゴムと、
前記黒色ゴムに埋設され、前記標章表示部に対応して表面の一部が露出しており、黒色以外の色を呈する彩色ゴムと
を有する。
【0021】
この構成によれば、上記のようにして標章表示部の彩色ゴムにプロテクタ部の黒色ゴムが混入することによる黒残りを抑制できる。即ち、この構成によって、標章部分の美観が損なわれることが抑制され、標章部分の美観を維持できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、標章表示部に対応して露出した彩色ゴムにおける黒残りを抑制できるタイヤ加硫金型と、標章表示部に対応して露出した彩色ゴムにおける黒残りが抑制された空気入りタイヤとを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の第1実施形態に係るタイヤ加硫金型を装着した加硫成形機の部分断面図。
図2図1のタイヤ加硫金型の型締め動作を示す部分断面図。
図3図1のサイドモールドと空気入りタイヤの子午線半断面図。
図4図3のA矢視による、標章表示部の周辺を示す平面図。
図5図3の空気入りタイヤの標章表示部および下モールドの標章形成部の拡大断面図。
図6図5の空気入りタイヤの標章表示部および下モールドの標章形成部の比較例を示す拡大断面図。
図7図4の下モールドの第1変形例を示す平面図。
図8図4の下モールドの第2変形例を示す平面図。
図9図4の下モールドの第3変形例を示す平面図。
図10】第2実施形態に係るタイヤ加硫金型の下モールドの部分拡大平面図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0025】
図1は、加硫成形機1に本実施形態に係るタイヤ加硫金型2を装着した状態を示す。加硫成形機1の上プレート3及び上プラテン4と、下プラテン5との間に、コンテナ6を介してタイヤ加硫金型2が取り付けられている。
【0026】
上プレート3は昇降シリンダ7の下端部に固定されている。昇降シリンダ7の中心には昇降ロッド8が配置されている。昇降ロッド8の下端部には上プラテン4が固定されている。昇降シリンダ7と昇降ロッド8は図示しない駆動装置によって昇降される。上プレート3と上プラテン4とは独立して昇降可能に構成されている。上プラテン4には流路4aが形成されている。流路4a内を熱交換媒体(例えば、オイル)が流動することにより温度調整できる。
【0027】
下プラテン5には、上プラテン4と同様に熱交換媒体が流動する流路5aが形成されている。そして、熱交換媒体の温度を調整することにより、上プラテン4及び下プラテン5を介してタイヤ加硫金型2を所望の加硫温度にすることができる。下プラテン5の中心にはブラダユニット9が配置されている。
【0028】
ブラダユニット9は、昇降可能な支軸10に固定した上クランプ11及び下クランプ12にブラダ13を取り付けたものである。上クランプ11、下クランプ12及びブラダ13によって囲まれた空間内には、図示しない給排気装置によって空気が供給及び排出される。ブラダ13は、空気が供給されて外周側に膨らみ、グリーンタイヤGTを内側から支持する。ここで、グリーンタイヤGTは、加硫成形前の生タイヤのことを示す。
【0029】
コンテナ6は、セグメント14、ジャケットリング15、上コンテナプレート16、及び下コンテナプレート17で構成されている。
【0030】
セグメント14は、後述するタイヤ加硫金型2の各セクターモールド20にそれぞれねじ止めされている。本実施形態では、セグメント14は、9個で構成されており、即ちセクターモールド20も9個で構成されている。各セグメント14の内面はセクターモールド20の外面に沿っており、外面は下方に向かうに従って徐々に外径側に膨らむ傾斜面(外周側円錐面)で構成されている。各セグメント14は上スライド18によって径方向に往復移動可能に支持されている。
【0031】
ジャケットリング15は中空円筒状である。ジャケットリング15の上端面は上プレート3に固定されており、ジャケットリング15は昇降シリンダ7の昇降動作に従って昇降する。ジャケットリング15の内面は、下端側に向かうに従って徐々に外径側に傾斜する内周側円錐面で構成されている。ジャケットリング15の内周側円錐面と各セグメント14の外周側円錐面とは、その円錐面に沿ってスライドし、(例えば、ほぞと蟻溝のような構成により)互いに離れないようになっている。これにより、ジャケットリング15が降下すれば、その内周側円錐面で各セグメント14の外周側円錐面を押圧し、外径側に広がった状態のセグメント14を、内径側で環状に連なった状態へと移動させることができる。
【0032】
上コンテナプレート16には、外周側下面に上スライド18が固定され、内周側下面に後述する上モールド21が固定されている。上コンテナプレート16自体は上プラテン4の下面に固定されている。これにより、昇降ロッド8が昇降すれば、上プラテン4及び上コンテナプレート16と共に、上モールド21及びセグメント14(セグメント14に固定されたセクターモールド20を含む)が昇降することになる。
【0033】
下コンテナプレート17には、外周側上面に下スライド19が固定され、内周側上面には後述する下モールド22が固定されている。下スライド19には、型締め時にセグメント14が載置され、径方向にスライド可能に支持する。下コンテナプレート17自体は下プラテン5の上面に固定されている。
【0034】
タイヤ加硫金型2は、セクターモールド20、上モールド(サイドモールド)21、及び下モールド(サイドモールド)22で構成されている。
【0035】
セクターモールド20は、グリーンタイヤGTのトレッド部を所定形状に加硫成形するための金型である。セクターモールド20はアルミ合金からなり、タイヤ周方向に複数に分割され(ここでは、9分割)、内径側に移動した状態で環状に連なる。
【0036】
上モールド21および下モールド22は、グリーンタイヤGTのサイド部を所定形状に加硫成形するための金型である。
【0037】
上モールド21は環状に形成されており、内周部には上ビードリング23が固定されている。上モールド21は上コンテナプレート16に固定されており、昇降ロッド8の昇降動作に伴って昇降する。降下する際、上ビードリング23でグリーンタイヤGTのビード部を押さえることができるようになっている。これにより、上モールド21の下内面と、上ビードリング23の下面とで、タイヤのサイド部とビード部とが形成される。
【0038】
下モールド22は、上モールド21と同様に環状に形成されており、内周部には下ビードリング24が固定されている。下モールド22の詳細な形状は、成形される空気入りタイヤATの構造を含めて後述する。
【0039】
図2(a)〜図2(f)は、本実施形態のタイヤ加硫金型2の型締め動作を示す部分断面図である。本実施形態では、前述の構成からなるタイヤ加硫金型2を装着された加硫成形機1にグリーンタイヤGTをセットし、金型を閉じた後、型締めしてグリーンタイヤGTの加硫成形を行う。なお、図2(a)〜図2(f)では、図示を明瞭にするためタイヤ加硫金型2の詳細形状については省略している場合がある。
【0040】
図2(a)に示す型開き状態では、グリーンタイヤGTをその軸心方向が上下に向かうようにして下モールド22上に載置する。このとき、下方側に位置するビード部を下ビードリング24に対して位置合わせする。
【0041】
図2(b)に示すように、続いて、ブラダ13内に空気を供給して膨張させ、その外面でグリーンタイヤGTの内側面を保持する。これにより、グリーンタイヤGTは、下ビードリング24とブラダ13によって支持され、下モールド22とは非接触状態となる。
【0042】
図2(c)に示すように、続いて、昇降ロッド8及び昇降シリンダ7によって上モールド21及びセクターモールド20を降下させる。そして、上ビードリング23がグリーンタイヤGTの上方側に位置するビード部に当接する。
【0043】
図2(d)および図2(e)に示すように、続いて、ビード部を介してグリーンタイヤGTが押圧されて変形した後、上モールド21がグリーンタイヤGTに当接する。上モールド21が型締め完了位置まで降下すると、グリーンタイヤGTは上モールド21と下モールド22とによって挟持された状態となる。
【0044】
図2(f)に示すように、上モールド21が型締め完了位置まで降下した後も昇降シリンダ7による降下を続行し、上プレート3と共にジャケットリング15を下方側へと移動させる。これにより、ジャケットリング15の内周側円錐面がセグメント14の外周側円錐面を押圧する。そして、セグメント14に固定されたセクターモールド20が内径側へと移動する。
【0045】
図2(a)から図2(f)に示すようにして、型締めが完了した後、加硫成形が実行され、成形完了後にこれらの逆の動きによってタイヤ加硫金型2が開かれると、グリーンタイヤGTが製品である空気入りタイヤAT(図3参照)となっている。
【0046】
図3は、図1のタイヤ加硫金型2によって成形された空気入りタイヤATおよび成形に使用された下モールド22のタイヤ子午線方向における半断面図であり、タイヤ赤道線CLに対して一方側のみを示している。
【0047】
空気入りタイヤATは、トレッド面102aを有するトレッド部102と、そのタイヤ幅方向外側の両外端部102bに連なってタイヤ径方向内側に延びる一対のサイド部103と、各サイド部103の内径端に位置する一対のビード部104とを備えている。トレッド部102及びサイド部103の内側には、一対のビード部104の間に架け渡されるようにカーカスプライ105が配設されている。
【0048】
トレッド部102のカーカスプライ105のタイヤ径方向外側には、ベルト層106とベルト補強層107とが順に配設されており、この更に外側にトレッドゴム110が配設されている。カーカスプライ105の内側には、空気圧を保持するためのインナープライ108が配設されている。
【0049】
ビード部104は、鋼線等の収束体をゴム被覆してなる環状のビードコア104aと、ビードコア104aに連設されてタイヤ径方向外側に延びる断面三角形状の環状のビードフィラー104bとを有する。
【0050】
サイド部103の外表面には、タイヤ最大幅位置Wよりもタイヤ径方向内径側よりの位置において、タイヤ幅方向外側へ凸となる標章表示部112が形成されており、更にこの内径側に環状のプロテクタ部114が形成されている。プロテクタ部114は、不図示のホイールに装着された状態でリムフランジを保護するように、タイヤ幅方向外側へ突出している。
【0051】
タイヤ径方向において、標章表示部112と、プロテクタ部114との間には、凹部123が設けられている。凹部123の断面形状は例えば半円状であり、タイヤ表面に対する深さは例えば1.0mmである。ただし、凹部123の断面形状は、任意の形状であってよく、半円状以外にも例えば三角形状または台形状などであり得る。また、凹部123の深さは0.1mm以上かつ2.0mm以下であることが好ましい。
【0052】
サイド部103のカーカスプライ105のタイヤ幅方向外側には、サイドゴム120が配設されている。なお、本実施形態に係る空気入りタイヤATは、サイドゴム120の外径端部120aの上側にトレッド部102の外端部102bが配設された、いわゆるトレッドオーバーサイドウォール(TOS)構造とされている。
【0053】
サイドゴム120は、環状の黒色ゴム121と、黒色ゴム121に埋設されており、標章表示部112に対応して表面の一部が露出している、環状の白色ゴム122(彩色ゴム)とを有している。なお、図3において、白色ゴム122は、ハッチングを付して示されている。黒色ゴム121は、補強性の高いカーボンブラックが充填材として使用されているので、強度が高く、黒色を呈している。一方、白色ゴム122は、白色を呈しており、カーボンブラックが使用されていないので、黒色ゴム121に比して強度が劣っている。
【0054】
黒色ゴム121は、外径端部120aに配設されたパッドゴム121aと、この内径側に配設されたサイドゴム121bと、ビード部104のタイヤ幅方向外側に配設されたリムストリップゴム121cと、白色ゴム122の表面を覆う薄肉のカバーゴム121dとを有している。
【0055】
パッドゴム121aは、トレッド部102とサイド部103との接合部における段差を緩和するように配設されている。サイドゴム122bは、パッドゴム121aとリムストリップゴム121cとの間をタイヤ径方向に延びており、より具体的には、白色ゴム122を挟んだタイヤ径方向の両側において一対に延びている。タイヤ径方向の内径側に位置するサイドゴム122bに、プロテクタ部114が形成されている。リムストリップゴム121cは、ホイールに装着された際にリムフランジに当接する部分である。
【0056】
白色ゴム122は、サイドゴム120において、少なくとも標章表示部112に対応して位置するように、タイヤ径方向の内径側よりに配設されており、上述したように外表面が、カバーゴム121dによって覆われている。
【0057】
カバーゴム121dは、標章表示部112の縁取り部分112aにおいて、例えば研削により除去されて、この結果、縁取り部分112aに対応して白色ゴム122が露出するようになっている。なお、縁取り部分112aによって囲まれた内側部分112bは、カバーゴム121dからなるため黒色である。
【0058】
図3に示すように、このような空気入りタイヤATの形状に対応して下モールド22(または上モールド21)が形成されている。具体的には、下モールド22は、空気入りタイヤATの標章表示部112を形成するための標章形成部22aと、標章形成部22aのタイヤ内径側に設けられ、プロテクタ部114を形成するためのプロテクタ形成部22bと、タイヤ径方向において標章形成部22aとプロテクタ形成部22bとの間に設けられた凸部22cとを有する。
【0059】
図4は、図3のA矢視であって下モールド22の平面図である。標章形成部22aは、所定の標章に対応した凹形状を有する部分である。本実施形態では、「T」、「O」、及び「Y」からなる文字(図4参照)を形成するように、標章表示部112の凸形状に対応した凹形状を有する。同様に、プロテクタ形成部22bは、プロテクタ部114の凸形状に対応した凹形状を有している。
【0060】
本実施形態の下モールド22の凸部22cは、タイヤの中心軸方向から見て、即ち図4の平面図において、標章形成部22aと同位相の範囲S1にのみ設けられている連続した山形である。換言すると、標章形成部22aと異位相の範囲S2には凸部22cは設けられていない。凸部22cは、空気入りタイヤATの外形と概ね同じ曲率で湾曲している。空気入りタイヤATの凹部123(図3参照)に対応して、凸部22cの高さは1.0mm程度であり、その断面は半円状である。ただし、凹部123と同様に凸部22cの断面形状は、任意の形状であってよく、半円状以外にも例えば三角形状または台形状などであり得る。また、凸部22cの高さは、0.1mm以上かつ2.0mm以下であることが好ましい。
【0061】
図5は、図3の空気入りタイヤATの標章表示部112および下モールド22の標章形成部22aの付近の拡大断面図である。本実施形態では、下モールド22の凸部22cは、タイヤの径方向において、標章形成部22aからの距離が標章形成部22aとプロテクタ形成部22bとの間の距離の例えば30%である位置に設けられている。特に、この数値は20%以上かつ50%以下であることが好ましい。
【0062】
本実施形態によれば、標章形成部22aとプロテクタ形成部22bとの間に凸部22cが設けられているため、標章表示部112の白色ゴム122にプロテクタ部114の黒色ゴム121が混入することによる黒残りを抑制できる。即ち、凸部22cが、黒色ゴム121と白色ゴム122との間に配置されているため、黒色ゴム121が白色ゴム122に向かって流れる際の障害となる。従って、黒残りを抑制でき、白色ゴム122の色合いが保たれるため、タイヤの標章表示部112の美観を維持できる。
【0063】
これに対し、図6は、図5に対応する比較例を示す拡大断面図である。本比較例に示すように、下モールド22に凸部22cが設けられていない場合、プロテクタ部114の黒色ゴム121が標章表示部112の白色ゴム122に流れ込む。そのため、標章表示部112における黒残りが発生するため、標章表示部112の美観が損なわれる結果となる。本実施形態の凸部22cはこの黒残りを抑制するために設けられている。
【0064】
また、図5に示すように、凸部22cの位置を前述のように詳細に規定することで、空気入りタイヤATの標章表示部112の美観を一層維持できる。即ち、凸部22cが上記のように規定された範囲(20〜50%)の位置にあることで、凸部22cが黒色ゴム121の流れ込みに対する障害として有効に機能する。詳細には、凸部22cによって黒色ゴム121の流れが遮断されるわけではなく、一部の黒色ゴム121は凸部22cを乗り越えて白色ゴム122に向かって流れる。そのため、仮に、凸部22cが標章形成部22aの近傍(20%未満)に設けられていると、凸部22cを乗り越えた一部の黒色ゴム121が白色ゴム122に流れ込み、黒残りが発生するおそれがある。また、凸部22cが標章形成部22aの遠方(50%超過)に設けられていると、凸部22cが白色ゴム122に向かう黒色ゴム121の流れに対する障害として十分に機能しないおそれがある。従って、上記範囲(20〜50%)が適正な範囲となり得る。
【0065】
また、図4に示すように、凸部22cが標章形成部22aと同位相に設けられているため、黒色ゴムが彩色ゴムに直線的に流れ込むためには凸部22cを乗り越える必要がある。従って、黒色ゴム121が白色ゴム122に向かって流れる際の障害として凸部22cが有効に機能する。また、凸部22cが標章形成部22aと同位相の範囲S1にのみ設けられているため、凸部22cが設けられていない範囲S2のゴムの流れを阻害することがない。従って、成形性の低下を防止できる。
【0066】
以上のようにして、本実施形態のタイヤ加硫金型2によって、空気入りタイヤATの標章表示部112の白色ゴム122にプロテクタ部114の黒色ゴム121が混入することによる黒残りを抑制できる。即ち、この構成によって、空気入りタイヤATの標章表示部112の美観が損なわれることが抑制され、標章表示部112の美観を維持できる。
【0067】
本実施形態の変形例として、下モールド22の凸部22cの態様は様々に考えられる。
【0068】
本実施形態の第1変形例として、下モールド22の凸部22cは、タイヤの周方向に一周にわたって連続して設けられてもよい。即ち、図7に示す下モールド22の平面図において、標章形成部22aと同位相の範囲S1だけでなく異位相の範囲S2にも凸部22cが設けられてもよい。
【0069】
本変形例によれば、凸部22cが一周にわたって連続して設けられているため、黒色ゴム121が白色ゴム122に流れ込むためには凸部22cを必ず乗り越える必要がある。従って、黒色ゴム121が白色ゴム122に向かって流れる際の障害として凸部22cが有効に機能する。
【0070】
本実施形態の第2変形例として、下モールド22の凸部22cは、タイヤの径方向に多重に設けられていてもよい。即ち、図8に示す下モールド22の平面図において、凸部22cがタイヤ径方向に本変形例のように例えば2個設けられてもよい。
【0071】
本変形例によれば、凸部22cが多重に設けられているため、黒色ゴム121が白色ゴム122に向かって流れる際には複数個の凸部22cを乗り越える必要がある。従って白色ゴム122に向かう黒色ゴム121の流れの障害として凸部22cが有効に機能する。
【0072】
また、本実施形態の第3変形例として、下モールド22の凸部22cは、ディンプル状であってもよい。即ち、図9に示す下モールド22の平面図において、標章形成部22aと同位相の範囲S1に複数の半球状の凸部22cがタイヤ周方向に列をなして形成されてもよい。ただし、ディンプル状の凸部22cの配置は、任意の態様であってよい。
【0073】
(第2実施形態)
図10に示す本実施形態のタイヤ加硫金型2の下モールド22は、タイヤ径方向に延びる突条部22dを有する。これに関する構成以外は、図4の第1実施形態の下モールド22の構成と同様である。従って、図4に示した構成と同様の部分については同様の符号を付して説明を省略する。
【0074】
本実施形態では、タイヤの中心軸方向から見て、即ち図10の平面図において、標章形成部22aと異位相の範囲S2にタイヤの径方向に延びる突条部22dを有する。突条部22dの一端は、プロテクタ形成部22bに接続されており、他端は例えば凸部22cの延長線上に位置している。ただし、突条部22dの他端の位置は特に限定されない。また、突条部22dは、凸部22cと同程度の形状寸法を有している。
【0075】
本実施形態によれば、タイヤの径方向に延びる突条部22dが設けられているため、突条部22dによって径方向における黒色ゴム121の流れが促進される。また、標章形成部22aと上記のように異位相の範囲S2に突条部22dが設けられているため、この範囲S2では良好な黒色ゴム121の流れを確保でき、成形性を向上させることができる。即ち、標章形成部22aと上記のように同位相の範囲S1において標章表示部112に向かう黒色ゴム121の流れを促進させず、異位相の範囲S2において標章表示部112以外の部分に向かう黒色ゴム121の流れを促進させることができる。
【0076】
上記各実施形態では、白色を呈する白色ゴム122を用いて標章表示部112を表示するように構成したが、これに限らない。すなわち、白色ゴム122に代えて、黒色以外の種々の色を呈する彩色ゴムを採用してもよい。
【0077】
また、上記各実施形態では、標章形成部22aが下モールド22に形成されているが、上モールド21に形成されていてもよいし、両方に形成されていてもよい。
【0078】
また、上記実施形態では、トレッド部102がサイドゴム120の上側に配設されるTOS構造に適用したが、これに限らない。すなわち、サイドゴムがトレッド部にタイヤ幅方向外側から配設されるサイドオントレッド(SWOT)構造においても、本発明を好適に実施できる。
【0079】
以上より、本発明の具体的な実施形態やその変形例について説明したが、本発明は上記形態に限定されるものではなく、この発明の範囲内で種々変更して実施することができる。例えば、個々の実施形態の内容を適宜組み合わせたものを、この発明の一実施形態としてもよい。
【符号の説明】
【0080】
1…加硫成形機
2…タイヤ加硫金型
3…上プレート
4…上プラテン
5…下プラテン
6…コンテナ
7…昇降シリンダ
8…昇降ロッド
9…ブラダユニット
10…支軸
11…上クランプ
12…下クランプ
13…ブラダ
14…セグメント
15…ジャケットリング
16…上コンテナプレート
17…下コンテナプレート
18…上スライド
19…下スライド
20…セクターモールド
21…上モールド(サイドモールド)
22…下モールド(サイドモールド)
22a…標章形成部
22b…プロテクタ形成部
22c…凸部
22d…突条部
23…上ビードリング
24…下ビードリング
102…トレッド部
103…サイド部
104…ビード部
105…カーカスプライ
106…ベルト層
107…ベルト補強層
108…インナープライ
110…トレッドゴム
112…標章表示部
114…プロテクタ部
120…サイドゴム
121…黒色ゴム
121a…パッドゴム
121b…サイドゴム
121c…リムストリップゴム
121d…カバーゴム
122…白色ゴム
123…凹部
GT…グリーンタイヤ
AT…空気入りタイヤ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10